説明

粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法

【課題】特別な連結部材が不要であるうえ、粘着剤付き屋根材を容易に横葺きして施工でき、しかも、雨水等の浸入を確実に防止可能な粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法を提供する。
【解決手段】屋根材本体11の一側端には、上方に向けて張り出された被嵌合部2を形成すると共に、他側端には、他の粘着剤付き屋根材1’に形成された上記同様の被嵌合部2’に被せて弾性嵌合する嵌合部3を形成し、上記被嵌合部2’に嵌合部3を被せて弾性嵌合したときには、上記被嵌合部2’の表面と、上記嵌合部3の裏面との間に部分的に非接触となる水切り空間部4を形成すると共に、裏面に粘着剤8を設けた粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法Aであって、屋根下地S上に粘着させた他の粘着剤付き屋根材1’の被嵌合部2’に、粘着剤付き屋根材1の嵌合部3を被せて弾性嵌合すると共に、該粘着剤付き屋根材1を屋根下地S上に粘着して横葺きしてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特別な連結部材を用いることなく、裏面に粘着剤を設けた粘着剤付き屋根材を、屋根の下地上に粘着して横葺きしてなる粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、従来の粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法の一実施例を示す斜視図であり、図6は、図5で示した粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法の施工状態を示す断面図である。
【0003】
上、下端にハゼ部101、102を屈曲形成し、裏面に粘着剤103を設けた粘着剤付き屋根材100は既に公知である。
【0004】
この種の粘着剤付き屋根材100は、図5に示すように、トタン、ブリキ、薄鋼板などの金属製薄板100’の上、下端にハゼ部(上側を「水上」、下側を「水下」とも呼ぶ。)101、102を屈曲形成するとともに、裏面に粘着剤103を設けた構造になっている。
【0005】
このような粘着剤付き屋根材100を施工する際には、図5に示すように、屋根の下地201上に接着性を高めるべくプライマー202を塗布し、このプライマー202上から非加硫ブチルゴムなどの粘着層203を裏面に備えた防水シート204を被覆して粘着し、屋根下地200を形成する。
【0006】
このように形成した屋根下地200上の所定位置に、図5及び図6に示すように、略逆T状に形成した役物(「竪リブ」とも呼ぶ。)300を固着する。
【0007】
又、役物300には、裏面全体から表面に巻き返して前記同様の粘着剤301を設けており、屋根下地200上に墨出しした所定位置に役物300の位置を合わせながら粘着剤301を屋根下地200上に圧着して固着する。
【0008】
そして、この固着した役物300間に挟み込むようにして粘着剤付き屋根材100を軒側端から粘着剤103によって屋根下地200上に圧着し、以下、同様にして、次の粘着剤付き屋根材110を横方向に葺いて行く。
【0009】
更に、この横葺きした粘着剤付き屋根材100の棟方向には、前記同様、役物300を屋根下地200上に固着したうえで、粘着剤付き屋根材100の上端のハゼ部101に、裏面に粘着剤103を設けた他の粘着剤付き屋根材120の下端のハゼ部122を係止したうえで、該他の粘着剤付き屋根材120を屋根下地200上に圧着し、この係止したハゼ部101、122同士を拍子木等で叩いてハゼ潰し(「ハゼ締め」とも呼ぶ。)を行い、軒棟方向の粘着剤付き屋根材100、120同士を連結しながら、前記同様に横方向に葺いて行くのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、このような従来の粘着剤付き屋根材100の粘着屋根葺き工法Yには、以下の問題があった。
【0011】
すなわち、横葺き施工される粘着剤付き屋根材同士を連結するには、役物300等の特別な連結部材が必要であるため、部品点数が多くなり、施工も容易にできないという問題があった。
【0012】
又、図6に示すように、屋根下地200上に固着した役物300と、粘着剤付き屋根材100との接合部Pから雨水等が万一浸入すると、この雨水等が屋根下地200に浸水して雨漏り等を生じる恐れがあった。
【0013】
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするもので、特別な連結部材が不要であるうえ、粘着剤付き屋根材を容易に横葺きして施工でき、しかも、雨水等の浸入を確実に防止可能な粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、
請求項1に係る粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法は、屋根材本体の一側端には、上方に向けて張り出された被嵌合部を形成すると共に、他側端には、他の粘着剤付き屋根材に形成された上記同様の被嵌合部に被せて弾性嵌合する嵌合部を形成し、上記被嵌合部に嵌合部を被せて弾性嵌合したときには、上記被嵌合部の表面と、上記嵌合部の裏面との間に部分的に非接触となる水切り空間部を形成すると共に、裏面に粘着剤を設けた粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法であって、屋根下地上に粘着させた他の粘着剤付き屋根材の被嵌合部に、粘着剤付き屋根材の嵌合部を被せて弾性嵌合すると共に、該粘着剤付き屋根材を屋根下地上に粘着して横葺きしてなる。
【0015】
請求項2に係る粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法は、請求項1において、被嵌合部の内側基部に被係止凹所を形成し、嵌合部の外側基部に上記被係止凹所に係止する係止突条を形成してなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、次のような効果がある。
請求項1に係る粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法によれば、他の粘着剤付き屋根材の被嵌合部に、粘着剤付き屋根材の嵌合部に嵌合するだけで、隣接する粘着剤付き屋根材同士を容易に横葺き施工でき、役物等のような連結部材を不要にして、部品点数が減少できるうえ、施工も容易にできる。
【0017】
又、被嵌合部と嵌合部との嵌合部分から、仮に雨水等が毛細管現象によって吸い上げられても、水切り空間部によって、前記雨水の吸い上げを遮断し、雨水の浸入を防止できる。
【0018】
請求項2に係る粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法によれば、被嵌合部の被係止凹所に、嵌合部の係止突条が係止されるので、隣接する粘着剤付き屋根材同士を確実に連結して横葺き施工できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法Aを図面とともに説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明に用いる粘着剤付き屋根材1の一実施例を示す斜視図であり、図2は、図1を軒方向から見た状態の断面図である。図3は、本発明に係る粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法Aを示す施工図であり、図3(a)は、粘着剤付き屋根材1が連結される前の状態を示し、図3(b)は、粘着剤付き屋根材1が連結された後の状態を各々示している。
【0021】
先ず、本発明に用いる粘着剤付き屋根材1は、トタン、ブリキ、薄鋼板などの屋根材本体11の一側端には、上方に向けて張り出された被嵌合部2を形成すると共に、他側端には、他の粘着剤付き屋根材1’に形成された前記同様の被嵌合部2’に被せて弾性嵌合する嵌合部3を形成して成る。
【0022】
ここで、粘着剤付き屋根材1に形成される被嵌合部2及び嵌合部3と、他の粘着剤付き屋根材1’に形成される被嵌合部2’及び嵌合部3’とは、便宜上、符号を変えているに過ぎず、両者は実質的には同一である。
【0023】
被嵌合部2’は、図3(b)の点線枠内に拡大して示すように、粘着剤付き屋根材1’の一側端を上方向へ僅かに立上げた後、再び内側に折り返して、被嵌合部2’の内側基部に被係止凹所5を形成し、この被係止凹所5の上端から鉛直方向に脚片部21’を形成し、この脚片部21’上端から外側に向けて僅かに傾斜させて傾斜面22’を形成したうえで上端に達し、この上端を僅かな円弧状に形成したうえで、外側下方に向けて傾斜面22’よりも緩やかな勾配に傾斜させて膨出部23’を形成し、この膨出部23’の下端から再び内側に僅かに折り返したうえで、脚片部21’と平行に下方向へ延びる脚片部21’を形成し、その下端は、更に外方に向けて粘着剤付き屋根材1’と水平位置となる延設片7が延設されている。
【0024】
嵌合部3は、被嵌合部2’に被せて弾性嵌合するように形成して成る。
【0025】
具体的には、粘着剤付き屋根材1の他側端を上方向に向けて脚片部21’に密着するように一旦折り曲げ、更に膨出部23’の下側に密着して外嵌する程度に膨出させたうえで、そのまま略円形状に湾曲形成し、その下端を脚片部21’に密着するようにして下方向へと延ばされ、しかも、その遊端は、更に内側に向けて環状に折り返して、被嵌合部2’の内側基部に形成された被係止凹所5に係止する係止突条6を形成している。
【0026】
屋根材本体11の裏面全体には、非加硫ブチルゴムなどのシート状の粘着剤8を設けている。
【0027】
又、屋根材本体11の上端には、表面側に折り返したハゼ部12を形成すると共に、屋根材本体11の下端には、裏面側に折り返したハゼ部13を形成している。
【0028】
以上のように構成した粘着剤付き屋根材1は、以下の要領で施工する。
【0029】
先ず、屋根の下地S1上に接着性を高めるべくプライマーS2を塗布する。このプライマーS2は、10m当り1.5kg〜2.5kgの割合で、下地S1が完全に見えなくなるくらいに塗布する。そして、プライマーS2の塗布後、4〜5時間以内にプライマーS2が十分に乾燥し、指触乾燥したならば、このプライマーS2上から非加硫ブチルゴムなどの粘着層S3を裏面に備えた防水シートS4を被覆して粘着する。
【0030】
防水シートS4は、軒先から棟に向けて貼着して行き、防水シートS4の重ね代は100mm以上とし、シーリングを施すのが好ましい。
【0031】
なお、防水シートS4は、ゴムローラー等により十分に圧着し、防水シートS4の重ね目は、しわが生じないように圧着し、屋根下地Sを形成する。
【0032】
次に、この屋根下地S上に墨出しを行い、粘着剤付き屋根材1’、1、・・・の貼着位置を決定する。
【0033】
そして、前記墨出しに合わせて、軒側端の屋根下地S上に他の粘着剤付き屋根材1’を圧着する。
【0034】
次に、この粘着した他の粘着剤付き屋根材1’の一側端に形成された被嵌合部2’に向けて、粘着剤付き屋根材1の他側端に形成した嵌合部3を上方から被せて、被嵌合部2’に嵌合部3を弾性嵌合させると共に、粘着剤付き屋根材1を隣接させて、前記同様に屋根下地Sに圧着して横葺きする。この被嵌合部2’に嵌合部3を弾性嵌合させたとき、図3(b)の枠内拡大図に示すように、被嵌合部2’の表面と、嵌合部3の裏面との間には、部分的に非接触となる水切り空間部4が形成されることになる。そのため、嵌合部3と被嵌合部2’の嵌合部分、具体的には、嵌合部3の側端から、仮に雨水が毛細管現象によって吸い上げられても、水切り空間部4によって、上記雨水の吸い上げを遮断し、雨水が粘着剤付き屋根材1の裏面に浸入することを防止できるのである。以下、前記同様にして、複数の粘着剤付き屋根材1’、1、・・・を横葺きして行く。
【0035】
次に、この横葺きした粘着剤付き屋根材1’、1、・・・から棟方向に施工するには、前記墨出しに合わせて、屋根下地S上の軒側端に圧着した他の粘着剤付き屋根材1’の上端のハゼ部(不図示)に上段の粘着剤付き屋根材(不図示)の下端のハゼ部(不図示)を係止させて連結し、これらハゼ部同士を拍子木等でハゼ潰しすると共に、前記上段の粘着剤付き屋根材(不図示)を前記同様に屋根下地S上に圧着する。
【0036】
そして、この上段の粘着剤付き屋根材(不図示)の一側端に形成された被嵌合部(不図示)に向けて、前記同様、他の粘着剤付き屋根材(不図示)の嵌合部(不図示)を弾性嵌合させると共に、他の粘着剤付き屋根材(不図示)を隣接させて、前記同様に屋根下地Sに圧着して横葺きして行き、本発明に係る粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法Aを完了するのである。
【0037】
このように、本発明に係る粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法Aによれば、他の粘着剤付き屋根材1’の被嵌合部2’に、粘着剤付き屋根材1の嵌合部3を嵌合すると共に、粘着剤8で屋根下地S上に圧着するだけで、隣接する粘着剤付き屋根材1’、1同士を容易に横葺き施工でき、役物等のような連結部材を不要にして、部品点数が減少できるうえ、施工も容易にできる。
【0038】
又、被嵌合部2’と嵌合部3との嵌合部分から、仮に雨水等が毛細管現象によって吸い上げられても、水切り空間部4によって、前記雨水の吸い上げを遮断し、雨水の浸入を防止できる。
【0039】
しかも、被嵌合部2’の被係止凹所5に、嵌合部3の係止突条6が係止されるので、隣接する粘着剤付き屋根材1’、1同士を確実に連結して横葺き施工できる。
【実施例2】
【0040】
図4は、本発明に係る粘着剤付き屋根材1の他の実施例を示す斜視図である。
【0041】
なお、図1〜図3と共通する部位には、同一の符号を付して重複する説明は省略し、以下では、本実施例の特徴についてのみ説明する。
【0042】
この粘着剤付き屋根材1では、屋根材本体11の上、下端に前記ハゼ部を形成せずに、
屋根材本体11の裏面全体に貼着した粘着剤8を、屋根材本体11の上端の表面側にまで巻き返して形成した点に特徴がある。
【0043】
そのため、この粘着剤付き屋根材1を棟方向に施工するには、前記同様、屋根下地S上の軒側端に圧着した粘着剤付き屋根材1の上端に、上段に位置される他の粘着剤付き屋根材(不図示)の下端を重合すれば、屋根材本体11の上端表面に形成した粘着剤8及び他の粘着剤付き屋根材(不図示)裏面の粘着剤(不図示)によって、これら粘着剤付き屋根材1及び他の粘着剤付き屋根材(不図示)を粘着連結することができ、前記上段の粘着剤付き屋根材(不図示)を前記同様に屋根下地S上に圧着したうえで、前記同様、更に他の粘着剤付き屋根材(不図示)を隣接させて、前記同様に屋根下地Sに圧着して横葺きして行き、本発明に係る粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法Aを完了するのである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る粘着剤付き屋根材の一実施例を示す斜視図である。
【図2】図1を棟軒方向から見た状態の断面図である。
【図3】本発明に係る粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法Aを示す施工図であり、図3(a)は、粘着剤付き屋根材1が連結される前の状態を示し、図3(b)は、粘着剤付き屋根材1が連結された後の状態を各々示している。
【図4】本発明に係る粘着剤付き屋根材の他の実施例を示す斜視図である。
【図5】従来の粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法の一実施例を示す斜視図である。
【図6】図5で示した粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法の施工状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0045】
A 粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法
S 屋根下地
S1 下地
1 粘着剤付き屋根材
11 屋根材本体
2 被嵌合部
3 嵌合部
4 水切り空間部
5 被係止凹所
6 係止突条
8 粘着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根材本体の一側端には、上方に向けて張り出された被嵌合部を形成すると共に、他側端には、他の粘着剤付き屋根材に形成された上記同様の被嵌合部に被せて弾性嵌合する嵌合部を形成し、
上記被嵌合部に嵌合部を被せて弾性嵌合したときには、上記被嵌合部の表面と、上記嵌合部の裏面との間に部分的に非接触となる水切り空間部を形成すると共に、裏面に粘着剤を設けた粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法であって、
屋根下地上に粘着させた他の粘着剤付き屋根材の被嵌合部に、粘着剤付き屋根材の嵌合部を被せて弾性嵌合すると共に、該粘着剤付き屋根材を屋根下地上に粘着して横葺きしてなる粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法。
【請求項2】
請求項1において、
被嵌合部の内側基部に被係止凹所を形成し、嵌合部の外側基部に上記被係止凹所に係止する係止突条を形成してなる粘着剤付き屋根材の粘着屋根葺き工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−133116(P2009−133116A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−310335(P2007−310335)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(593178409)株式会社オーティス (224)
【Fターム(参考)】