説明

粘着物吸引回収システム及び粘着物吸引回収装置

【課題】海中や海上等に流出した原油等を、簡単な構造で連続して回収することができる粘着物吸引回収システム及び粘着物吸引回収装置を提供できるようにする。
【解決手段】粘着浮遊物が浮遊する層もしくはその近傍に開口させた吸引口と、当該吸引口に負圧を供給して回収部に流送するための吸引流送用ジェットポンプを、外気を混入した混気ジェット流を噴射口から負圧形成管部分に噴射して当該負圧形成管部分に負圧を形成する混気ジェットポンプに構成し、負圧形成部分の上流側に複数の噴射口を略均等に配設し、噴射口から噴射された複数の混気ジェット流が負圧形成管部分の管内一杯に広がる位置を噴射ノズル側に位置させることにより、混気ジェット流が吐出管内一杯に広がった位置から噴射ノズル側の吐出管の内周面に粘着浮遊物が付着するのを防止するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着物吸引回収システム及び粘着物吸引回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンカー等の油送船の座礁事故や船の沈没事故、油田事故等の不慮の事故により、海中や海上等に原油等が流出することがあり、こうした原油が海上等に流出すると、海面や海中が汚染され、周辺の生態系にも悪影響を及ぼしてしまう。
そこで、海上に流出した原油等を回収するために、例えば特開平10−258276号公報(特許文献1)、特開平11−93150号公報(特許文献2)、特開2007−229685号公報(特許文献3)等、種々の回収装置が提案されている。
【0003】
ところが、上記特許文献1及び特許文献2はいずれも水中ポンプで吸引するようにしたもので、こうした水中ポンプで粘着性を有する原油やオイルボールを吸引する場合、原油やオイルボールは粘着性を有することから、遠心ポンプにフィンやギアポンプのギア、ルーツポンプのロータ等に付着したり咬み込んだりして、ポンプ効率が短時間で低下してしまうという問題があった。
【0004】
また、特許文献3では、被処理液回収タンク内を真空ポンプで負圧にし、この負圧で原油やスライム状のオイルボールを被処理液回収タンク内に吸引した後、被処理液回収タンク内を加圧して吸引した原油やオイルボールを回収容器に搬出するようにしてあるために、バッチ式で間歇的にしか処理することができず、作業効率が低い上、吸引された被処理液回収容器の内周面に原油やオイルボール等が付着して堆積することから定期的に、且つ頻繁にメンテナンスを行わなくてはならないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−258276号公報
【特許文献2】特開平11−93150号公報
【特許文献3】特開2007−229685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題点に鑑み提案されたもので、主として、海中や海上等に流出した原油等を、簡単な構造で連続して回収することができる粘着物吸引回収システム及び粘着物吸引回収装置を提供できるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明にかかる粘着浮遊物吸引回収システムは、水面乃至水中に浮遊する粘着浮遊物を負圧により吸引口から吸引して回収部に流送するための粘着浮遊物吸引回収システムであって、粘着浮遊物が浮遊する層もしくはその近傍に開口させた吸引口と、当該吸引口に負圧を供給して回収部に流送するための吸引流送用ジェットポンプと、吸引流送用ジェットポンプから回収部に流送する流送路を備え、前記流送路は、ジェットポンプ側部分に負圧形成管部分と吐出管部分を形成し、吸引流送用ジェットポンプは、流体加圧手段と流体加圧手段で加圧された高圧の流体を噴射して形成された負圧で外気を吸引し、吸引された外気を混入した混気ジェット流を噴射口から負圧形成管部分に噴射して当該負圧形成管部分に負圧を形成する混気ジェットポンプに構成し、前記負圧形成管部分は1本の直管状に形成するとともに、当該負圧形成部分の上流側の開口面積に対して複数の噴射口を略均等に配設し、噴射口から噴射された複数の混気ジェット流が負圧形成管部分の管内一杯に広がる位置を噴射ノズル側に位置させることにより、前記混気ジェット流が吐出管内一杯に広がった位置から噴射ノズル側の吐出管の内周面に粘着浮遊物が付着するのを防止するように構成したことを主要な特徴とするものである。
【0008】
また、本発明にかかる粘着浮遊物吸引回収システムは、水面乃至水中に浮遊する粘着浮遊物を負圧により吸引口から吸引して回収部に流送するための粘着浮遊物吸引回収システムであって、粘着浮遊物が浮遊する層もしくはその近傍に開口させた吸引口と、当該吸引口に負圧を供給して回収部に流送するための吸引流送用ジェットポンプと、吸引流送用ジェットポンプから回収部に流送する流送路を備え、前記流送路は、ジェットポンプ側部分に負圧形成管部分と吐出管部分を形成し、吸引流送用ジェットポンプは、流体加圧手段と流体加圧手段で加圧された高圧の流体を噴射して形成された負圧で外気を吸引し、吸引された外気を混入した混気ジェット流を噴射口から負圧形成管部分に噴射して当該負圧形成管部分に負圧を形成する混気ジェットポンプに構成し、前記負圧形成管部分は複数の直管状の負圧形成用筒部材で形成するとともに、複数の直管状の負圧形成用筒部材のそれぞれに、前記吸引流送用ジェットポンプの噴射口を同心状に配設することにより、噴射口に対する前記負圧形成用筒部材の面積比率を少なくして噴射ノズルの各噴射口から噴射されたジェット流が各負圧形成用筒部材の管内いっぱいに広がる位置を噴射ノズル側に位置させることにより、当該混気ジェット流が負圧形成用筒部材の管内一杯に広がった位置から噴射ノズル側の負圧形成管部分の内周面に粘着浮遊物が付着するのを防止するように構成したことも主要な特徴とするものである。
【0009】
本発明にかかる粘着浮遊物回収装置は、上記粘着浮遊物吸引回収システムを海上若しくは海中に浮遊する原油等を回収する装置であって、粘着浮遊物吸引回収システムの回収部を除く部分が移動可能な台船に搭載され、回収部が前記台船に曳航される、若しくは単独で航行可能なバージ船に形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明にかかる粘着浮遊物回収装置では、回収部がバージ船内に形成された比重分離機構で形成されていることも特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる粘着浮遊物吸引回収システムによれば、粘着浮遊物が浮遊する層もしくはその近傍に開口させた吸引口と、当該吸引口に負圧を供給する吸引流送用ジェットポンプと、吸引流送用ジェットポンプに吸引された粘着浮遊物を回収部に流送する流送管を備え、吸引流送用ジェットポンプが流体加圧手段と流体加圧手段で加圧された高圧の流体を噴射する噴射口を有する噴射ノズルと、噴射ノズルの下流側に設けられ、下流側が流送管に連結された吐出管と、噴射口と吐出管との間に負圧を取り出す吸引口を形成し、吐出管は、前記噴射ノズル側部分を負圧形成部分とし、当該負圧形成部分を1本の吐出管で形成するとともに、負圧形成部分の吐出管の開口面積に対して複数の噴射口を略均等に配設することにより、噴射口から噴射された複数のジェット流が吐出管内一杯に広がる位置を噴射ノズル側に位置させ、前記ジェット流が吐出管内一杯に広がった位置から噴射ノズル側の吐出管の内周面に粘着浮遊物が付着するのを防止するように構成してある。
これにより、海中や海上等に流出した原油等の粘着浮遊物が負圧形成部分に付着堆積するのをでき、簡単な構造で連続して吸引流送することができる利点がある。
また、粘着浮遊物が負圧形成部分に付着堆積するのをできるので、大量の粘着浮遊物の吸引・回収を長期間にわたって維持することができる利点がある。
【0012】
次に、本発明にかかる粘着浮遊物吸引回収システムを、粘着浮遊物が浮遊する層もしくはその近傍に開口させた吸引口と、当該吸引口に負圧を供給して回収部に流送するための吸引流送用ジェットポンプと、吸引流送用ジェットポンプから回収部に流送する流送路を備え、前記流送路は、ジェットポンプ側部分に負圧形成管部分と吐出管部分を形成し、吸引流送用ジェットポンプは、流体加圧手段と流体加圧手段で加圧された高圧の流体を噴射して形成された負圧で外気を吸引し、吸引された外気を混入した混気ジェット流を噴射口から負圧形成管部分に噴射して当該負圧形成管部分に負圧を形成する混気ジェットポンプに構成し、前記負圧形成管部分は複数の直管状の負圧形成用筒部材で形成するとともに、複数の直管状の負圧形成用筒部材のそれぞれに、前記吸引流送用ジェットポンプの噴射口を同心状に配設することにより、噴射口に対する前記負圧形成用筒部材の面積比率を少なくして噴射ノズルの各噴射口から噴射された混気ジェット流が各負圧形成用筒部材の管内いっぱいに広がる位置を噴射ノズル側に位置させることにより、当該混気ジェット流が負圧形成用筒部材の管内一杯に広がった位置から噴射ノズル側の負圧形成管部分の内周面に粘着浮遊物が付着するのを防止するように構成した場合、噴射口に対する前記負圧形成用筒部材の面積比率を少なくして混気ジェット流が負圧形成用筒部材の管内一杯に広がる位置を噴射ノズル側に位置させることができるので、上記したのと同様、海中や海上等に流出した原油等の粘着浮遊物が負圧形成管に付着堆積するのを防止することができ、簡単な構造で連続して吸引流送することができる利点がある。
また、粘着浮遊物が負圧形成管に付着堆積するのをできるので、大量の粘着浮遊物の吸引・回収機能を長期間にわたって連続して高く維持することができる利点がある。
【0013】
本発明にかかる粘着浮遊物吸引回収装置は、上記の粘着浮遊物吸引回収システムにおける回収部を除く部分が移動可能な台船に搭載され、回収部が前記台船に曳航される、若しくは単独で航行可能なバージ船に形成するようにしてあるので、海上に設置された油田の事故により流出した原油等の粘着浮遊物を速やかに回収することができ、環境汚染を可及的に防止することができる利点がある。
【0014】
また、粘着浮遊物回収装置において、回収部がバージ船内に形成された比重分離機構で形成したものでは、例えば遠心分離機等の特別な分離装置を設けなくても済み、上記効果に加えて、製作コストやランニングコストを低減することができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】は本発明にかかる粘着物吸引回収システムを使用した粘着物吸引回収装置の概 略を示す側面図である。
【図2】は本発明にかかる粘着物吸引回収システムを使用した粘着物吸引回収装置の吸 引口部分の斜視図である。
【図3】は本発明にかかる粘着物吸引回収システムを使用した粘着物吸引回収装置の吸 引口部分の縦断側面図である。
【図4】は図3におけるA−A線断面図である。
【図5】は本発明にかかる粘着物吸引回収システムの吸引口部分の変形例を示す縦断側 面図である。
【図6】は本発明にかかる粘着物吸引回収システムの吸引口部分の別の変形例を示す縦 断側面図である。
【図7】は図6におけるB−B線断面図である。
【図8】は粘着物吸引回収システムを使用した粘着物吸引回収システムの別の実施形態 を示す概略側面図である。
【図9】は参考例としてあげた従来の吸引流送用ジェットポンプの概略を示す縦断側面 図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明にかかる粘着物吸引回収システム及び粘着物吸引回収装置の最も好ましい実施の形態を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は本発明にかかる粘着物吸引回収システムを使用した粘着物吸引回収装置の概略を示す側面図であって、図中符号1は粘着物吸引回収装置を全体的に示す。
本例に示す粘着物吸引回収装置1は、海面2上に層状になって浮遊する原油等の粘着物(粘着浮遊物)3を粘着浮遊物吸引回収システム4により回収するものであって、粘着物3が浮遊する層の部分を吸引して流送する吸引・流送部分5と、この吸引・流送部分5で吸引流送された粘着物3を回収する回収部6とからなる。
【0018】
上記吸引・流送部分5は、海面2上に層状になって浮遊する粘着物3を吸引するために、粘着物3の近傍に設けられた収集具7と、収集具7で集められた粘着物3を吸引口8から吸引する吸引管9と、この吸引管9に吸引用負圧を供給する吸引流送用ジェットポンプ10と、吸引流送用ジェットポンプ10に高圧水を供給する流体加圧手段11と、吸引流送用ジェットポンプ10で吸引された粘着物3を回収部6に流送する流送路12ならびに収集具7を海面2上に浮遊する粘着物3の近傍に保持する収集具保持手段13とを備えている。
【0019】
上記流送路12は、吸引流送用ジェットポンプ10側に位置する1本の直管状に形成された負圧形成管部分14と、負圧形成管部分14で吸引され、吐出管部分15に吐出される粘着物3を含んだジェット流を回収部6に導く流送管部分16とからなる。
海面2上に浮遊する粘着物3を収集する収集具7は、図1及び図2に示すように、流送路12の先端部分で吸引流送用ジェットポンプ10の直下に取り付けられており、側面視において略矩形で前方ならびに上面部分が開口する塵取りの形状に形成されている。
この収集具7の後部中央部には吸引流送用ジェットポンプ10の吸引管9が取り付けられており、この吸引管9の前側下端部分を傾斜状に開口させた吸引口8が収集具7の底部7aの近傍に設けてある。
【0020】
この吸引口8を備えた収集具7を海面2上に浮遊する粘着物3の近傍に保持する収集具保持手段13は、旋回ならびに移動可能な車輌17に基部が枢支されたブーム18の先端に昇降操作可能なフック19を吊下し、このフック19に索条20を介して収集具7を取り付けた負圧形成管部分14が吊持されており、図示は省略したが、収集具7の側面にレベリング用センサを取り付け、レベリング用センサからの信号により自動もしくは手動で収集具7を所定の高さ位置に保持するように構成されている。
上記回収部6は、粘着物3を含んだジェット流を貯留して図1に示すように流れを沈静化させる比重分離用溜り40で構成されており、この比重分離用溜り40に送られてきた原油のように水より比重の軽い粘着物3は比重分離され、粘着物3は吸引装置を備えたタンクローリー車21で図外の製油所等の処理施設に搬送されるとともに、水41は水中ポンプで水源に排出される。
【0021】
また、流体加圧手段11は、貯水池や川の水、若しくは原油等の粘着物の混入していない海水等の水源42の水23が水中ポンプ24で送給される貯水タンク44と、この貯水タンク44に貯留された水を吸引して加圧するエンジン駆動式のプランジャポンプ25と、このプランジャポンプ25で加圧された高圧の流体を吸引流送用ジェットポンプ10に供給する圧力水供給管26とを備えてなる。
【0022】
吸引流送用ジェットポンプ10は、図3に示すように流体加圧手段11の圧力水供給管26から供給される圧力水を噴射する複数の噴射ノズル27と、この噴射ノズル27に対面する下流側に流入空間28を形成する支持部材29を介して取り付けられた1本の筒状の負圧形成管部分14と、前記支持部材29の下面側に設けられた前記吸引管9とからなる。
上記複数の噴射ノズル27は、負圧形成管部分14の噴射ノズル27部分に対面する開口面積に対して略均等にジェット流が噴射されるように噴射口31が配置されている(図3及び図4参照)。
【0023】
各噴射ノズル27は、以下に述べるように、ジェット流が混気ジェット流30となるように形成されている。
すなわち、前記支持部材29の側壁部分に短寸の有底円筒状の噴射ノズル装着部材32を取りつけ、この底部に前記圧力水供給管26を連結するとともに、噴射ノズル装着部材32の内部の中間部分と支持部材29側の端面部分にそれぞれノズル支持板33・33を設け、この両ノズル支持板33・33にわたってノズル本体34を支持させてある。
【0024】
そして、圧力水供給管26を連結した噴射ノズル装着部材32の底部と噴射ノズル装着部材32の内部の中間部分に設けられたと支持部材29との間には圧力水供給管26に連通する圧力水供給室43が形成されている(図3参照)。
上記支持部材29に装着されるノズル本体34は、略筒状に形成され、その中心部分に形成される圧力水の流路35は、その上流側が圧力水供給室43に連通し、中間部分で小径に滑らかに絞られた後、拡開されるとともに、この小径部分から拡開された境界部分には吸気孔36が形成されている。
【0025】
吸気孔36が位置するノズル支持板33・33間に位置する部分の噴射ノズル装着部材32には、両ノズル支持板33・33間の空間39に連通する調量弁37付きの吸気管38が装着されており、小径に絞られた部分から拡開された部分に噴射された高圧流で拡開された部分に負圧が形成され、この負圧で空間39部分の外気が吸引されて、拡開された部分に噴射された部分のジェット流が気体を多量に含んだ混合気流(混気ジェット流30)となって、噴射口31から負圧形成管部分14に向けて噴射されるようになっている。
【0026】
上記のように構成された粘着物吸引回収システム4を使用した粘着物吸引回収装置1の作用を次に説明する。
先ず、図1に示すように、収集具保持手段13の移動可能な車輌17を海面2に浮遊する粘着物の近傍に移動させ、その車輌17の旋回操作とこの車輌17から突き出されたブーム18の起伏操作とで索条20を介して収集具7をその底面7aが粘着浮遊物3と海面2との境界面よりわずかに下方に位置するように設定する。
この時、収集具7の底面7aは、図1に示すように、吸引口8側が下方となるように傾斜させることが望ましい。
【0027】
次に、流体加圧手段11のエンジン駆動式のプランジャポンプ25を駆動し、水源42から供給して貯留されている貯水タンク44の水23をプランジャポンプ25で吸引して加圧し、高圧の流体を、圧力水供給管26を介して吸引流送用ジェットポンプ10の圧力水供給室43に供給する。
圧力水供給室43に高圧の流体が供給されると、圧力水供給室43から各噴射ノズル27に同圧の高圧流体として供給され、各噴射ノズル27の小径に絞られた部分から拡開された部分に噴射される。
【0028】
この小径に絞られた部分に噴射された高圧流で、上記したように拡開された部分に負圧が形成され、この負圧で空間39部分の外気が吸引されて、拡開された部分に噴射された部分のジェット流は気体を多量に含んだ混気ジェット流30となって、複数の噴射口31から1本の負圧形成管部分14に向けて噴射される。
負圧形成管部分14に向けて噴射された混気ジェット流30、複数の噴射口31が1本の大径の負圧形成管部分14に対して均等に配置されているので、各噴射口31から噴射されたそれぞれの混気ジェット流30は広がってゆき、図3に示すように、負圧形成管部分14に入ったところで渾然一体となって、例えば図3におけるC−C部分で管内いっぱいに広がり、この広がった部分で負圧形成管部分14の管内が閉塞される。
【0029】
かくして、負圧形成管部分14の管内がC−C部分で閉塞されると、この閉塞されたC−C部分から噴射ノズル側の部分に負圧が形成される。
この負圧形成管部分14での負圧の形成過程を詳述すると、複数の噴射口31から1本の負圧形成管部分14に向けて噴射された混気ジェット流30は、無数の水粒となって飛翔しており、混気ジェット流30は静止している周囲や正面からの空気との抵抗により、徐々に広がってゆく。
この時の混気ジェット流30形成する無数の水粒の状態で飛翔する各水粒の周囲の前半部分が正圧となり、後半部分が負圧となっている。
【0030】
この前半部分の正圧同士が合一した状態で負圧形成管部分14内一杯に広がると、このC−C部分で締め切られた状態となり、この締め切られた状態が保たれて流送管部分16側に、負圧形成管部分14内の空気を恰も押し出してゆくように流れるので、締め切られた状態のC−C部分から噴射ノズル27間に大径の負圧形成管部分14の開口面積(口径)に見合った大量で強力な負圧が形成される。
また、負圧形成管部分14及び後続の流送管部分16を流れる混気ジェット流30は、水粒の状態で流速が速いために、混気ジェット流30の周囲には空気層が形成され、この空気層が混気ジェット流30と負圧形成管部分14の内周面面との間のインシュレータとして作用し、混気ジェット流30の流速が早期に低下するのが防止される
【0031】
上記のようにして負圧形成管部分14の内の締め切られた状態のC−C部分から噴射ノズル27間に形成された負圧が吸引管9に供給されると、収集具7で集められた粘着物3を、この負圧で収集具7の底面7aに形成された吸引口8から支持部材29の流入空間28に吸引する。
支持部材29の流入空間28に吸引された粘着物3は、混気ジェット流30に吸引され、混気ジェット流に混入され、混気ジェット流に包摂された状態で吐出管部分15から流送路12で回収部6の比重分離用溜り40に送られる。
【0032】
この時、支持部材29の流入空間28に吸引された粘着物3が、負圧形成管部分14のC−C部分から噴射ノズル27側の負圧を形成する部分に付着しようとする。
ところが、当該部分は、常時高圧で、高速の混気ジェット流30にさらされているので吸引された粘着物3が支持部材29の内周面に付着して堆積しようとしても、この粘着物3は高速の混気ジェット流30で剥ぎ取られ、吹き飛ばされたりする。
これにより、粘着物3が支持部材29の内周面に付着して堆積することがなく、大径の負圧形成管部分14の開口面積に応じた大量の負圧で粘着物3を強力に吸引して流送することができる。
したがって、図9に示すように、吸引された粘着物103の付着堆積で通路面積の減少による吸引流送機能の低下等が本発明では発生しない。
【0033】
ここで、負圧を強力なものにするために、混気ジェット流30の勢いを強くすると、その分、負圧形成管部分14における管内いっぱいに広がるC−C部分は、混気ジェット流30の広がり角度(α)は小さくなり遠くに飛ぶことになる。
特に、図9に示すような一本の噴射ノズル127の噴射口131からジェット流を噴射する場合には、管内いっぱいに広がる部分までの飛翔距離が長くなる。
【0034】
ところが、本発明では、混気ジェット流30の勢いを強くすることにより、複数の噴射ノズル27の各噴射口31から噴射された混気ジェット流30の広がり角度(α)が小さくなっても、噴射ノズル27の噴射口31が負圧形成管部分14の開口面積に対して均等に配置され、噴射口31から噴射された各混気ジェット流30が、隣接しているので、負圧形成管部分14の管内いっぱいに広がるC−C部分は吐出管部分15側に大きく伸びることはない。
因みに、噴射ノズル27の各噴射口31からの噴射圧力が一定の場合、混気ジェット流30が負圧形成管部分14の管内いっぱいに広がるC−C部分の位置は、吸引管9からの 量や被吸引物(粘着物3)の比重や流動抵抗等による負荷変動に合わせて、負荷が高い場合は噴射ノズル27側に移動し、負荷が低い場合は吐出管部分15側に自動的に変化するのである。
【0035】
上記のようにして、混気ジェット流で流送路12から比重分離用溜り40に送られた粘着物3は、その粘着物3が比重の軽い揮発成分を含む原油のような場合には、この比重分離用溜り40で、図1に示すように上下に層状に比重分離される。
そして、上層に分離された原油等の粘着物3は、吸引装置を備えたタンクローリー車21で図外の製油所や焼却場、等の処理施設に搬送されて処理される。
一方、下層に分離された混気ジェット流の水41は、水中ポンプ22で水源42に戻される。
尚、前記比重分離用溜り40で下層に分離された水41は、貯水タンク44に還流させて再利用することもできる。
【0036】
図5は粘着浮遊物吸引回収システム4における噴射ノズル27の変形例を示すもので、上記実施例における噴射ノズル27のノズル本体34を、その流路35が小径に絞られた部分34aと流路35が拡開された噴射口31側部分34bとに分割したものであり、その他の構成及び作用は上記実施例と略同様であるので、詳細は省略する。
こうしたものでは、小径に絞られた部分34aの口径や素材と拡開された噴射口31側部分34bの口径やその長さ並びにその素材等を圧力水供給管26からの圧力等に合わせて自由に組み合わせたり、変更や修理や取換えを行えたりできる利点がある。
【0037】
図6および図7は噴射ノズル27のさらに別の変形例を示すもので、本例では一体に形成されたノズル本体34の噴射口の下流側に設けられる上記負圧形成管部分に該当する部分にホルダープレート45を、その間隔を開けた状態で固定し、両ホルダープレート45・45にわたって負圧形成用筒部材46を、各噴射口31と同心状に複数本支持させて負圧形成管部分14を構成するようにしたものである。
本例のように、負圧形成用筒部材46を、各噴射口31と同心状に複数本支持させて負圧形成管部分14を構成するようにした場合、噴射口31に対する負圧形成用筒部材46の面積比率を少なくでき、各噴射口31から負圧形成用筒部材46に噴射された混気ジェット流が各負圧形成用筒部材46の管内いっぱいに広がるC−C部分の位置を噴射ノズル側27に位置させることになる。
【実施例2】
【0038】
この実施例にかかる粘着物吸引回収システム4を使用した粘着物吸引回収装置1は、陸上から離れた海上に浮遊する原油等の粘着物3を吸引して回収する場合のものであり、図8に示すように、台船47とこれに曳航されるバージ船48とを備えてなる。
台船47には上記実施例1における粘着物吸引回収システム4の回収部6以外のものが艤装されており、台船47に艤装された貯水タンク44へは海水を水源42として送水用水中ポンプ24で送水するようになっている。
一方、バージ船48はその船倉49を比重分離用溜り40とし、ここで比重分離された下層の海水は水中ポンプ22で海上に放出され、当該船倉49の原油等の粘着物3が所定量になると、台船47から切り離され、タグボート等により曳航されて陸上の処理施設(図示せず)に運ばれて処理される。
【0039】
これからもわかるように、吸引回収効率を上げるには、1台の台船47に複数のバージ船48を曳航することにより、台船47側の粘着物回収システム4を連続して稼働させ、吸引回収効率を大幅に向上させることができる。
また、バージ船48は、タグボートに曳航されず、推進装置を備えて自力で航行できるものであってもよいことはもちろんのことである。
本実施例では、陸上から離れた海上の例えば油田事故や海難事故等が発生し、流出した原油等の粘着物を回収する場合に、短時間で対応することができる利点がある。
【0040】
尚、上記各実施例では水面に浮遊する原油等の粘着物3を回収する場合において、粘着物回収システム4の回収具7を、粘着物3の下方に位置させて収集するようにしてあるが、こうしたものに限られず、粘着物3をその上方から吸引するようにしてもよいことは言うまでもないことである。
また、上記各実施例では水面に浮遊する原油等の粘着物3を回収する場合を説明してあるが、海中にボール状になって存在する粘着物3を吸引して回収する場合にも実施することができる。
【0041】
つまり、海上に流出した原油は比重の軽い揮発成分を含んでおり、この揮発成分蒸発すると原油の比重が重くなり、海上に浮遊していた原油等の粘着物3はスライム状になり海中に浮遊するようになる。
したがって、こうした海中に浮遊する原油等の粘着物3を吸引して回収する場合、例えば、実施例2のように自由に移動することができるものでは、海中にスライム状になって浮遊している粘着物3を視認によりその位置を確認し、ソナー等の反射波で粘着物3の位置を検出し、確認乃至検出された位置に移動して、その粘着物3に吸引口8を臨ませた後、上記の作業手順により簡単に吸引し回収することができる。
【0042】
因みに、海中にスライム状や固形化して浮遊している粘着物3を視認によりその位置を確認する手段としては、ブラックライトでサーチする方法や、海上汚染監視システムにあるような、紫外域波長:355nm等の特定周波数のパルスレーザ波を照射して粘着物3を励起させて発光させ、この発光をCCDカメラで捕捉してその分布位置等を検出する方法もある。
【0043】
さらに、海中にスライム状や固形化して浮遊している粘着物3は、海水と比重が略同じとなっていることから、上記のような回収部6の比重分離ではその分離が難しくなるので、こうした場合には、固形化された粘着物3及びスライム状のものを固形剤で固形化すると、フィルタ装置(図示せず)で分離するようにできるので、上記回収部6をフィルタ装置で構成することができる。
【0044】
また、噴射ノズル27に供給する高圧水を海水より比重の軽い淡水にすると、粘着物3が相対的に重くなり、粘着物3は沈降して層状に沈殿するので上述の回収部6での比重による分離を行うことができる。
【符号の説明】
【0045】
1・・・粘着物吸引回収装置
2・・・海面
3・・・粘着物(粘着浮遊物)
4・・・粘着物吸引回収システム
5・・・吸引・流送部分
6・・・回収部
7・・・収集具
7a・・・回収具の底面
8・・・吸引口
9・・・吸引管
10・・・吸引流送用ジェットポンプ
11・・・流体加圧手段
12・・・流送路
13・・・収集具保持手段
14・・・負圧形成管部分
15・・・吐出管部分
16・・・流送管部分
17・・・車輌
18・・・ブーム
19・・・フック
20・・・索条
21・・・タンクローリー車
22・・・水中ポンプ
23・・・水源
24・・・送水用水中ポンプ
25・・・プランジャポンプ
26・・・圧力水供給管
27・・・噴射ノズル
28・・・流入空間
29・・・支持部材
30・・・混気ジェット流
31・・・噴射口
32・・・噴射ノズル装着部材
33・・・ノズル支持板
34・・・ノズル本体
34a・・・ノズル本体34の流路35が小径に絞られた部分
34b・・・ノズル本体34の噴射口31側部分
35・・・流路
36・・・吸気孔
37・・・調量弁
38・・・吸気管
39・・・空間
40・・・比重分離用溜り
41・・・水
42・・・水源
43・・・圧力水供給室
44・・・貯水タンク
45・・・ホルダープレート
46・・・負圧形成用筒部材
47・・・台船
48・・・バージ船
49・・・船倉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面乃至水中に浮遊する粘着浮遊物を負圧により吸引口から吸引して回収部に流送するための粘着浮遊物吸引回収システムであって、粘着浮遊物が浮遊する層もしくはその近傍に開口させた吸引口と、当該吸引口に負圧を供給して回収部に流送するための吸引流送用ジェットポンプと、吸引流送用ジェットポンプから回収部に流送する流送路を備え、前記流送路は、ジェットポンプ側部分に負圧形成管部分と吐出管部分を形成し、吸引流送用ジェットポンプは、流体加圧手段と流体加圧手段で加圧された高圧の流体を噴射して形成された負圧で外気を吸引し、吸引された外気を混入した混気ジェット流を噴射口から負圧形成管部分に噴射して当該負圧形成管部分に負圧を形成する混気ジェットポンプに構成し、前記負圧形成管部分は1本の直管状に形成するとともに、当該負圧形成部分の上流側の開口面積に対して複数の噴射口を略均等に配設し、噴射口から噴射された複数の混気ジェット流が負圧形成管部分の管内一杯に広がる位置を噴射ノズル側に位置させることにより、前記混気ジェット流が負圧形成管部分の管内一杯に広がった位置から噴射ノズル側の吐出管の内周面に粘着浮遊物が付着するのを防止するように構成したことを特徴とする粘着浮遊物吸引回収システム。
【請求項2】
水面乃至水中に浮遊する粘着浮遊物を負圧により吸引口から吸引して回収部に流送するための粘着浮遊物吸引回収システムであって、粘着浮遊物が浮遊する層もしくはその近傍に開口させた吸引口と、当該吸引口に負圧を供給して回収部に流送するための吸引流送用ジェットポンプと、吸引流送用ジェットポンプから回収部に流送する流送路を備え、前記流送路は、ジェットポンプ側部分に負圧形成管部分と吐出管部分を形成し、吸引流送用ジェットポンプは、流体加圧手段と流体加圧手段で加圧された高圧の流体を噴射して形成された負圧で外気を吸引し、吸引された外気を混入した混気ジェット流を噴射口から負圧形成管部分に噴射して当該負圧形成管部分に負圧を形成する混気ジェットポンプに構成し、前記負圧形成管部分は複数の直管状の負圧形成用筒部材で形成するとともに、複数の直管状の負圧形成用筒部材のそれぞれに、前記吸引流送用ジェットポンプの噴射口を同心状に配設することにより、噴射口に対する前記負圧形成用筒部材の面積比率を少なくして噴射ノズルの各噴射口から噴射されたジェット流が各負圧形成用筒部材の管内いっぱいに広がる位置を噴射ノズル側に位置させることにより、当該混気ジェット流が負圧形成用筒部材の管内一杯に広がった位置から噴射ノズル側の負圧形成管部分の内周面に粘着浮遊物が付着するのを防止するように構成したことを特徴とする粘着浮遊物吸引回収システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の粘着浮遊物吸引回収システムの回収部を除く部分が移動可能な台船に搭載され、回収部が前記台船に曳航される、若しくは単独で航行可能なバージ船に設けられていることを特徴とする粘着浮遊物回収装置。
【請求項4】
回収部がバージ船内に形成された比重分離機構で形成されていることを特徴とする請求項3に記載の粘着浮遊物回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−36853(P2012−36853A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178560(P2010−178560)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(310014001)
【Fターム(参考)】