説明

粘膜過粘稠の治療のためのオリゴウロン酸の使用

本発明は、呼吸器管における粘膜の過粘稠(hyperviscosity)に対処するためのヒト対象又は非ヒト対象の治療方法であって、生理学的に許容されるオリゴウロン酸塩を該対象の該呼吸器管粘膜表面へ有効量適用することを含む治療方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
オリゴウロン酸塩治療
本発明は、オリゴウロン酸塩を用いたヒト又はヒト以外の動物、特に哺乳類の治療方法であって、粘膜の上昇した粘性に対処するための治療方法、例えば、とりわけ嚢胞性線維症(CF)、COPD(慢性閉塞性肺疾患)及び副鼻腔炎の治療において、COPDの場合のような呼吸器管、特に鼻腔及び肺からの粘液クリアランスを促進するための治療方法関する。
【背景技術】
【0002】
嚢胞性線維症(cystic fibrosis)はヨーロッパ集団における最も一般的な致死性の遺伝性疾患である。この疾患は、身体における分泌細胞及び他の細胞に存在する塩素チャネルである嚢胞性線維性膜貫通調節因子(CFTR)をコードする遺伝子中の変異によって引き起こされる。この疾患は、肺疾患、消化疾患及び不妊をもたらし得る、身体における高粘度で扱いにくい粘液分泌物の存在によって特徴づけられる。肺の粘液繊毛クリアランス(mucociliary clearance)の正常パターンによっては、微生物コロニーが形成されるようになる過度に粘性の高い粘液を取り除くことができず、その次には粘液の粘性の増加並びに慢性な肺の炎症及び閉塞に結びつく。したがって肺疾患は、大多数のCF患者に対する最も大きな健康問題であり、主要な死因である。
【0003】
粘液は、肺を含む呼吸器管全体の正常な分泌物である。その主要な機能は、肺を清浄に保ち、感染に対して防御する粘液繊毛クリアランスシステムの一部としてのものである。粘液繊毛クリアランスシステムには、粘液;繊毛;及び気道表面液の3つの主要な構成要素がある。したがって上皮表面は、粘液を分泌する杯細胞(goblet cell)及び繊毛上皮細胞を含み、その上を気道表面液層が覆い、さらにその上に粘液層を備え、これらから繊毛の先端が突き出る。粘液は、主として水(約95%の重量)と、粘液の物理的特性に関わるゲル形成分子であるムチンとからなる粘性の高いゲル物質である。繊毛は、上皮細胞の表面からの小さな毛様の突出であり、粘液層中に埋没した先端で、水様非粘性の気道表面液中で規則的に繊毛打(beat)を行う。粘液層は、細菌、ウイルス、吸入した粒子、環境汚染物及び細胞残屑を捕らえる粘着性の毛布(blanket)を肺表面上に形成する。繊毛打(beating)は、この粘液の毛布(blanket)及びその中に捕らえられたものすべてを口に向かって及び肺から外へ推し進める役目をする。通常の条件の下では、粘液繊毛クリアランスシステムは効果的に機能し、肺は清浄かつ感染の無い状態に保たれる。このシステムが機能しなくなった場合の第2の防衛線が「咳」である。したがって粘液レベルが(例えば吸入した粒子又は感染に起因する)刺激又は炎症に反応して増加して分泌される場合、粘液は咳反射(cough reflex)によって肺から外へ放出される。
【0004】
CF患者の肺中の粘液は、正常人より高粘度でより粘性が高い。そして、このより高粘度な粘液は繊毛によってそれほど容易には輸送されない。その結果、粘液繊毛クリアランスシステムが損なわれ、肺は感染に対してより攻撃され易くなる。さらに、CF患者の肺は、持続的な低レベルの炎症と、正常であれば炎症を生じる薬剤に対する増加反応とをともなう過剰炎症性の状態であると思われる。炎症に対する反応の一部が粘液の増産であるので、これは問題である。粘液が濃すぎるために粘液繊毛クリアランスシステム又は咳によって取り除くことができないと、増加した粘液が蓄積し、肺活量は減少し、粘膜を介した酸素交換が減少する。このことが細菌のコロニー形成に理想的な環境と、CF患者に対して深刻な問題を提供する。なぜなら、それもまた炎症を引き起こし、免疫反応を活性化するからある。これが、粘液分泌の増加だけでなく、マクロファージやリゾチームのような免疫応答細胞及び物質の存在の増加にもつながる。細菌及びマクロファージが死ぬとき、それらの細胞内容物は粘液の中へ放出されるのであるが、その細胞内容物にはDNAのような粘性の高い分子が含まれる。さらに、細菌のなかには、例えばバークホルデリア属の種(Burkholderia sp.)及び緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)のように、粘性の高いポリサッカライド(後者の場合ではアルギン酸塩)を分泌するものもある。これらの分子が、粘液の粘性をさらに増加させるのであるが、この増加は、アルギン酸塩の場合には、粘液のムチンマトリックスとの相互作用によるようであり、DNAの場合には、ムチンマトリックス中のゾル相の粘性の増加によるようである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって粘液を繊毛によって輸送可能な形態に維持することが、CFの重要な治療目的である。単にゲル様の構造を分解する物質は、CF患者の過粘稠(hyperviscosity)粘液と同様に輸送可能でない液体を結果として生じるだろう。したがって、いかなる治療薬剤も糖タンパク質ムチンによって形成されたゲルマトリックスを分解しないことが重要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
我々はここで、オリゴウロン酸塩、すなわち、オリゴマーに担持される多価水酸基、とりわけ、2〜30のモノマー残基を含んでいるものを使用すれば、上記を達成できることを見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
呼吸器管のどの部分でも、特に鼻腔、とりわけ副鼻腔では、過度に粘性の高い粘液は問題となる。オリゴウロン酸塩はこれらの問題に取り組むためにも使用できる。
【0008】
したがって、一つの態様として、本発明は、呼吸器管の粘膜過粘稠に対処するための、例えば、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary diseases)、副鼻腔炎(sinusitis)又は嚢胞性線維症の患者を治療するための、ヒト対象又は非ヒト(例えば哺乳類)対象の治療方法であって、生理学的に許容されるオリゴウロン酸塩ポリオールを前記対象の前記呼吸器管粘膜表面へ有効量適用することを含む治療方法である。
【0009】
さらなる態様として、本発明は、呼吸器管の粘膜過粘稠の治療において使用される医薬品の製造のための生理学的に許容されるオリゴウロン酸塩の使用を提供する。
【0010】
オリゴウロン酸塩の適用は、粘液を分泌又は粘液を保有する患者の呼吸器管表面、例えば副鼻腔又はより好ましくは肺に対して送達する任意の手段によってもよい。導入は典型的には、例えば液滴(例えばエアロゾル)又は粉末の吸入によるだろう。
【0011】
オリゴウロン酸塩に対するカウンターイオンは、荷電した製剤原料に一般に使用される生理学的に許容されるイオン(例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、塩素、メシラート、メグルミンなど)のうちの任意のものであってもよい。しかしながら、アルギン酸塩ゲル化を促進するイオン(例えば第2群金属)は好ましくは使用されない。
【0012】
オリゴウロン酸塩は合成物質であってもよいが、天然に存在するポリサッカライドの100000Da未満の重量平均分子量を有する誘導体であることが好ましい。オリゴウロン酸塩は、3量体〜28量体が好ましく、4量体〜25量体がより好ましく、6量体〜22量体がさらに好ましく、8量体〜15量体がさらにより好ましく、10量体が特に好ましい。また、オリゴウロン酸塩の分子量は、例えば350Da〜6000Daであって、とりわけ750Da〜4500Daの範囲中の分子量を有することが好ましい。オリゴウロン酸塩は単一の化合物であってもよく、例えばある範囲の重合度のオリゴウロン酸塩化合物の混合物であってもよい。さらに、オリゴウロン酸塩中のモノマー残基、例えば単糖基は同じ又は異なってもよく、すべてが帯電した荷電基を保有する必要があるとは限らないが、大多数(例えば少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%)が保有することが好ましい。荷電基の実質的な大多数、例えば少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%は同じ極性を有していることが好ましい。オリゴウロン酸塩において、荷電基に対する水酸基の比率(水酸基:荷電基)は、好ましくは少なくとも2:1、さらに好ましくは少なくとも3:1である。
【0013】
多くの天然のポリサッカライドが荷電したウロン酸塩残基(例えばグルロン酸残基及びガラクツロン酸残基のような残基)を含んでいるので、オリゴウロン酸塩は天然ソースから容易に入手可能である。
【0014】
本発明に使用可能なオリゴスロン酸塩を産生するためのポリサッカライドからオリゴサッカライドへの切断は、酵素による消化及び酸水解のような通常のポリサッカライド溶解技術を使用して行うことができる。そして、オリゴウロン酸塩は、ポリサッカライド分解産物から、クロマトグラフィーによるイオン交換樹脂を使用して、或いは、沈殿又は可溶化の分画によって分離することができる。
【0015】
オリゴウロン酸塩は、また化学的に修飾されてもよい。例えば、これらに限られないが、荷電基(カルボキシル化多糖類又はカルボキシメチル化多糖類のような)を付加するように修飾してもよいし、オリゴウロン酸塩は、柔軟性を変更するように修飾されてもよい(例えば過ヨウ素酸酸化による)。
【0016】
適切なポリサッカライドは、例えば「ハイドロコロイドのハンドブック(Handbook of Hydrocolloids)」Phillips and Williams編、CRC、ボカラトン、アメリカ、フロリダ、2000年の中に論じられる。しかしながら、アルギン酸塩のソース材料から、マンヌロン酸(M)及びグルロン酸(G)並びにG−ブロックオリゴマーのブロック共重合体を容易に産生することができるので、天然のアルギン酸塩を用いることが特に好ましい。実際一般的には、オリゴウロン酸塩は、オリゴグルロン酸が好ましく、又は、それよりも好ましさが劣るものとしてオリゴガラクツロン酸がある。
【0017】
アルギン酸塩がオリゴウロン酸塩の調製に出発物質として使用される場合には、所望するならば、グルロン酸含有量はアゾトバクター・ビネランディ(A. vinelandii)由来のマンノウロンナン(mannouronan)C−5エピメラーゼによるエピマー化によって増加されてもよい。
【0018】
本発明に従う用途に適切なオリゴグルロン酸は、簡便には、ラミナリア・ヒペルボレア(Laminaria hyperborea)由来のアルギン酸の酸加水分解、中性pHでの溶解、オリゴグルロン酸を沈殿させるためにpH3.4に下げる鉱酸の追加、弱酸による洗浄、中性pHでの再懸濁及び凍結乾燥によってもたらされてもよい。
【0019】
さらなる態様として、本発明は、医薬組成物、とりわけ吸入可能な組成物、例えば生理学的に許容される担体又は賦形剤と共に生理学的に許容されるオリゴウロン酸塩を含む溶液、懸濁液、分散液又は粉末を提供する。本発明の医薬組成物は、さらに、例えば核酸切断酵素(例えばDNaseIのようなDNase)、ゲルゾリン、チオール還元剤、アセチルシステイン、塩化ナトリウム、非荷電低分子量ポリサッカライド(例えばデキストラン)、アルギニン(又は他の一酸化窒素前駆物質若しくは一酸化窒素合成刺激因子)、又は陰イオンポリアミノ酸(例えばポリASP若しくはポリGLU)などのような、生理学的に許容される粘膜粘性降下剤を含むことが好ましい。DNaseの使用はとりわけ好ましい。オリゴウロン酸塩は、成人ヒトに対して1〜10000mg、典型的にはとりわけ10〜1000mgの用量で投与されてもよい。最適の用量は、容易にはルーチンの投薬量測定実験によって、場合によっては動物モデル(例えば犬モデル)の予備検査の後に決定されてもよい。
【0020】
本発明の組成は、従来の薬学的担体及び賦形剤、例えば、溶媒(水など)、浸透圧調整剤、香料、pH調節剤などを使用して産生されてもよい。これらは付加的な活性成分、例えば粘液のムチンマトリックスに関与しない生体高分子を分解する薬剤(例えばDNase、特にrhDNase)、抗菌剤、抗炎症剤を含んでもよい。このようなさらなる薬剤とオリゴウロン酸塩とを使用し、これらを別々に又は一緒に投与する併用療法は、本発明の方法の特に好ましい態様である。そのようなさらなる薬剤は、通常の用量で、又はより低用量(例えば通常の用量の50%)ででさえ使用されてもよい。
【0021】
オリゴウロン酸塩は、スプレーとして、好ましくは水溶液から作製されたエアゾルスプレーとして、又は、粉末の形態で投与されることが望ましい。前記粉末としては、例えば、容積サイズでおよそナノメーターからマイクロメートル(例えば10〜50000nm)モードの粒子サイズの粉末が挙げられる。
【0022】
さらなる態様として、本発明は、リザーバ及び液滴ジェネレータを含むスプレーアプリケータを提供する。前記リザーバは生理学的に許容されるオリゴウロン酸塩の水溶液を含む。そのようなスプレーアプリケータ、実際にはオリゴウロン酸塩は、風邪又は他の理由に起因する鼻腔若しくは鼻の閉塞若しくは充血(sinus/nasal blockage/congestion)の治療において使用されてもよい。
【0023】
以下の非限定的実施例及び添付の図面を参照して、以下に本発明についてさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
ムチン−アルギン酸塩ゲルモデルに対する5つのオリゴマー材料;
a)低分子デキストラン(6000Da)
b)低分子量PEG(3350Da)
c)低分子量DNA
d)ガラクツロン酸ナトリウムオリゴマー
e)グルロン酸ナトリウムオリゴマー(Gブロック)
の効果を検査した。
【0025】
グルロン酸ナトリウムオリゴマーは上述のように調製され、以下の特性を有するものであった。
G 0.87、FM 0.13、FGG 0.83、FGM=FMG 0.05、FMM 0.08、FGGM=FMMG 0.04、FMGM 0.02、FGGG 0.79、DP19。
【0026】
材料
対照ゲルは、0.05M NaCl中、18mg/mlムチン+0.6mg/mlアルギン酸塩からなるものであった。
検査ゲルは、0.05M NaCl中、18mg/mlムチン+0.6mg/mlアルギン酸塩+4mg/ml試験材料からなるものであった。
【0027】
レオロジー検査
ゲル化: サンプルを混合直後に37℃でレオメーターへロードした。温度は10℃(0.5℃/分)まで冷却し、次に18時間10℃で保持した。サンプルの挙動及びゲル化の様子(gel development)を継続的に測定した。
周波数掃引(frequency sweep): ゲル化後にサンプルの温度を37℃まで上げ、レオロジーの挙動を周波数の関数としてモニターした。
応力掃引(stress sweep): 37℃におけるゲルの挙動を増加負荷応力の関数としてモニターした。
【0028】
ゲル化
この実験は、グルロン酸ナトリウムオリゴマー(Gブロック)が、ムチンアルギン酸塩相互作用におけるアルギン酸塩に取って代わることができることを、ゲル化開始後に経時的にゲルの複素弾性率(complex modulus)(G*)が減少すること示すことで、実証した。5つの検査ゲル及び対照ゲルについての結果を、図1a〜1fにそれぞれ示す。
【0029】
検査された他のオリゴマーの材料のうち、ガラクツロン酸ナトリウムオリゴマーのみが同様の効果があり、経時的な複素弾性率値の減少を示した。他の材料(DNA、PEG、デキストラン)は、ゲル化の遅れを引き起こしたが、ゲルは経時的な複素弾性率の増加によって示されるようにゲル化し続けた。
【0030】
ゲル化期間の終了時のゲルの複素弾性率及び位相角を、図2及び図3にプロットする。複素弾性率は、システムの反応又は強度の合計の測定値であり、位相角は液体様挙動と固形様挙動の間のバランスに関し、位相角が高いほど液体様挙動が大きい。グルロン酸ナトリウムオリゴマー(Gブロック)は、G*の最大の低下及び位相角の最大の増加を引き起こした。
【0031】
周波数掃引からのゲル挙動
ゲルはすべて、弱い粘弾性ゲルに典型的な周波数掃引挙動を示した。
【0032】
応力掃引からの流動応力
応力掃引は、このシステムにおいて流れ(flow)を誘導するために必要とされる応力を決定するために使用した。これは、対照ゲルに流れを誘導するために必要とされる応力の%として図4においてプロットする。これは、加えられた材料がどれほどゲルマトリックスを弱めたかの目安(indication)となる。Gブロック(グルロン酸ナトリウムオリゴマー)が、流動応力に対して最も顕著な効果があり、その次がガラクツロン酸ナトリウムオリゴマーであった。
【0033】
(実施例2)
喀痰(Sputum)に対する効果
喀痰サンプルは、緑膿菌感染について陽性診断された嚢胞性線維症患者から回収された。サンプルを穏やかに撹拌し、小分けにし、冷凍し、−40℃で保存した。
【0034】
検査前の手順:
喀痰サンプルを冷凍庫から取り出し、検査の前に冷蔵庫(4℃)中に1時間置き、約10分間磁気撹拌機上で撹拌し、0.5gの小分けにした。検査媒質を、1つのサンプル(純粋な喀痰サンプル)以外のすべてに加えた。生じるサンプルは次のとおりであった。
A:0.5g喀痰(純粋)、
B:0.5g喀痰+65μl 350mM NaCl溶液(加えられたグルロン酸塩オリゴマーのイオン強度)、
C:0.5g喀痰+75μl 150mg/mlグルロン酸ナトリウムオリゴマーDp19、
D:0.5g喀痰+75μl 150mg/mlグルロン酸ナトリウムオリゴマーDp10。
【0035】
グルロン酸ナトリウムオリゴマーDp10(重合度)には以下の特性があった。
G 0.79、FM 0.11、FGG 0.76、FGM=FMG 0.03、FMM 0.07、FMGG=FGGM 0.02、FMGM 0.01、FGGG 0.74、FG(red)0.10、FG(tot)0.89、NG>1 37、Dp10。
【0036】
次に混合試料を1分間穏やかに撹拌し、続いて検査のためにレオメーターに移す前に5分間冷蔵庫に置いた。
【0037】
レオロジー検査:
純粋な喀痰及び混合した喀痰のレオロジーの測定は、タンパク質分解酵素の影響を最小限にするために10℃で、レオロジカ社のストレステック(Rheologica Stress-Tech)多目的レオメーターを使用して、プレート/コーン(40mm/10)に対して実行された。
【0038】
純粋な喀痰及び検査媒質と混合された喀痰のレオロジーの特性解析は、以下の異なる4工程で行なわれた。
・定ひずみ0.03及び1Hzの周波数による2分間のひずみ制御の振動。
・0.03の定ひずみ及び1Hzの周波数による60分間の前剪断(20s-1の煎断速度で1分)後のひずみ制御の振動。
・定ひずみ0.03、0.01〜5Hzの範囲の周波数掃引。
・1Hz、0.02〜20Paの範囲の応力掃引。
【0039】
図5aは、60分後の検査終了時の喀痰サンプルに対する複素弾性率(G*)を示す棒グラフである。図5bは、図5a中のような同じ喀痰サンプル、しかし対照(純粋な喀痰)のパーセンテージとしてのものを示す棒グラフである。
【0040】
図5c〜5fは、喀痰サンプルA〜Dに対する経時的な複素弾性率のプロットである。
【0041】
図6aは、60分後の検査の終了時の喀痰サンプルに対する複素粘性率(complex viscosity)(η*)を示す棒グラフである。図6bは、図6aと同じ喀痰サンプルであるが、対照に対するパーセンテージを示す棒グラフである。
【0042】
図7aは、60分後の検査の終了時の喀痰サンプルに対する位相角(δ)を示す棒グラフである。図7bは、図3aと同じ喀痰サンプルであるが、対照に対するパーセンテージを示す棒グラフである。
【0043】
グルロン酸塩オリゴマーを加えることにより、CFの喀痰の機械的特性は生体外(ex vivo)において明らかに減少する。複素動粘性率及び複素動的弾性率はいずれも、かなり減少し、5分の1にまで減少する場合もある。Dp10は、平均Dpが19であるサンプルよりも効果があるようである。上記のような喀痰サンプルの調製から得られた結果は、他の成分の存在下よりも、Dp10Gブロックの存在下においてCFの喀痰が平衡状態様機械的特質をより速く得ることもまた示唆する(G*及びη*は時間に依存しない)。しかしながら、位相角の変化はG*及びη*のような程度には起こらない。ムチンネットワークの機械的特質が保存されており、従って浮遊汚染物質に対する防御の最前線としてまだ機能することができることを明らかに示すので、これは非常に重要である。
【0044】
(実施例3)
エアロゾル
噴霧器の補助により投与される無菌のエアゾルスプレーは、少なくとも75%のグルロン酸塩の純度及び5〜20の重合度を有するグルロン酸ブロックのナトリウム塩を3〜10%並びに必要に応じてエアロゾル液滴サイズを安定させる界面活性化合物を含む液体から作製される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1a〜図1fは、ムチン−アルギン酸塩ゲル、並びにデキストラン、ポリエチレングリコール、DNA、ガラクツロン酸ナトリウムオリゴマー及びグルロン酸ナトリウムオリゴマーがそれぞれ投与された同ゲルの複素弾性率(complex modulus)(G*)についての経時的プロットである。
【図2】図2は、図1のゲルについて、ゲル化の終了時での複素弾性率(G*)を対照に対するパーセンテージとして示す棒グラフである。
【図3】図3は、図1のゲルについて、ゲル化の終了時での位相角を対照に対するパーセンテージとして示す棒グラフである。
【図4】図4は、図1のゲルについて、ゲルの流動応力を対照に対するパーセンテージとして示す棒グラフである。
【図5】図5a及び図5bは、処理された及び未処理のCF患者喀痰サンプルの複素弾性率G*を示し、図5bは対照(非処理喀痰)に対するパーセンテージとしてのG*を示す。図5c〜図5fは、経時的なG*のプロットを示す。
【図6】図6a及び図6bは、処理された及び未処理の喀痰サンプルに対する複素粘性率(complex viscosity)(η*)を示す。図6bは対照に対するパーセンテージとしてのη*を示す。
【図7】図7a及び図7bは、処理された及び未処理の喀痰サンプルに対する位相角δを示す。図7bは対照に対するパーセンテージとしてのδを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸器管における粘膜の過粘稠(hyperviscosity)に対処するためのヒト対象又は非ヒト対象の治療方法であって、生理学的に許容されるオリゴウロン酸塩を前記対象の前記呼吸器管粘膜表面へ有効量適用することを含む、治療方法。
【請求項2】
嚢胞性線維症(cystic fibrosis)の治療のための、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
副鼻腔炎(sinusitis)の治療のための、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary diseases)の治療のための、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記オリゴウロン酸塩が患者の気道へ投与される、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記オリゴウロン酸塩がモノマーとしてグルロン酸を含む、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記オリゴウロン酸塩が4量体〜25量体である、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
呼吸器管の粘膜過粘稠の治療において使用される医薬品の製造のための、生理学的に許容されるオリゴウロン酸塩の使用。
【請求項9】
請求項6又は7に定義されるオリゴウロン酸塩の、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
嚢胞性線維症の治療において使用される吸入可能な医薬品の製造のための、請求項8又は9に記載の使用。
【請求項11】
副鼻腔炎の治療において使用される吸入可能な医薬品の製造のための、請求項8から10のいずれかに記載の使用。
【請求項12】
慢性閉塞性肺疾患の治療において使用される吸入可能な医薬品の製造のための、請求項8又は9に記載の使用。
【請求項13】
生理学的に許容される担体又は賦形剤と共に生理学的に許容されるオリゴウロン酸塩を含む、吸入可能な医薬組成物。
【請求項14】
さらに生理学的に許容される粘膜の粘性降下剤を含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
請求項6又は7に定義されるオリゴウロン酸塩を含む、請求項13又は14に記載の組成物。
【請求項16】
DNaseを含む、請求項13から15のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
リザーバ及び液滴ジェネレータを備えるスプレーアプリケータであって、前記リザーバが生理学的に許容されるオリゴウロン酸塩の水溶液を含む、スプレーアプリケータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−511455(P2009−511455A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−534075(P2008−534075)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【国際出願番号】PCT/GB2006/003720
【国際公開番号】WO2007/039754
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(506145050)エヌティーエヌユー テクノロジー トランスファー エーエス (8)
【氏名又は名称原語表記】NTNU TECHNOLOGY TRANSFER AS
【Fターム(参考)】