説明

精密位置決め可能な液圧転写方法並びにその装置並びに精密位置決め可能な液圧転写フィルム

【課題】 液圧転写手法において、特に転写フィルムに形成されている図形や文字などの転写パターンを、常に被転写体の所定位置に極めて正確に転写できるようにした新規な液圧転写手法を提供する。
【解決手段】 本発明は、被転写体Wを転写液中に没入するにあたり、被転写体搬送装置5による被転写体Wの実際の保持位置を、正規位置と比較して被転写体Wの位置ズレを検出する一方、転写液面上に浮遊支持された転写フィルムFの実際の位置を、正規位置と比較して転写フィルムFの位置ズレを検出するとともに、いずれか一方または双方の位置ズレを補正した後、被転写体Wを転写液中に没入させ、被転写体Wの所定位置に、転写フィルムF上の所望の転写パターンを極めて正確に転写できるようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め適宜の転写パターンが形成されて成る転写フィルムを、液面上で浮遊状態に支持し、ここに被転写体を押し当てて転写液中に没入させることにより、フィルム上の転写パターンを液圧によって被転写体に転写する液圧転写手法に関するものであって、特に転写フィルムに形成されている図形や文字などの転写パターンを、常に被転写体の所定位置に極めて正確に転写できるようにした新規な液圧転写手法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
三次元曲面を有した被転写体への印刷手法の一種として、液圧転写手法が知られている。この液圧転写手法は、予め適宜の転写パターンが形成されて成る転写フィルムを、液面上に浮遊状態に支持した後、ここに被転写体を押し当てて転写液中に没入させ、液圧によってフィルム上の転写パターンを被転写体表面に再現する転写手法である(例えば特許文献1、2、3参照)。そして、この液圧転写手法は、被転写体が比較的複雑な曲面であっても、転写フィルム上の転写パターンが綺麗に再現できることが大きな特徴である。
しかしながら、このような液圧転写手法においては、従来、転写フィルムに形成された図形や文字等の転写パターンを、被転写体の所定位置に精密位置決めした状態(いわゆるピンポイント)で転写することまでは行われていなかった。それは、フィルム上の転写パターンを、被転写体の所定位置に転写するには、被転写体と転写フィルムとにおいて位置が不安定となる要素が多く存在するためである。以下、被転写体と転写フィルムとにおいて位置ズレの要因となる事項について説明する。
【0003】
(1)被転写体の位置ズレ要因(ワーク側の誤差)
転写の際、被転写体は、被転写体搬送装置(例えばマニピュレータ)に保持されて、転写液中に没入されるが、このとき被転写体を直接、被転写体搬送装置に取り付けることは少なく、実際には治具を介在させて取り付けることが多い(図5(b)の拡大図参照)。このため、被転写体の保持位置のバラツキつまりワーク側の誤差としては、被転写体と治具との間で起こる誤差と、治具と被転写体搬送装置との間で起こる誤差の両方が生じ得るものであり、このため被転写体を常に同じ保持位置にセッティングすることが困難となっていた。因みに、治具を介在させて被転写体を被転写体搬送装置に取り付ける(保持させる)のは、形状が異なる被転写体であっても、治具によって同じ被転写体搬送装置に取り付けることができるためである。つまり、被転写体搬送装置を複数種の被転写体に対して共通的に用いるために治具を介在させているのである。
【0004】
(2)転写フィルムの位置ズレ要因(フィルム側の誤差)
一方、転写フィルムを常に同じ位置や状態にセッティングすることが困難であるのは以下のような状況に起因していた。すなわち、転写フィルムは、転写時、転写液面上に供給されるため、まず支持面が液面であるが故の不安定さが大きな要因として挙げられる。もちろん、転写時には極力、液面上の波立ちを抑えた状態で転写が行われるが、通常の印刷や塗装の場合には対象物(被転写体)が固定されているため、これと比較すると液圧転写では転写フィルムを定位置にセッティングすることは極めて困難であった。
【0005】
加えて、液圧転写では、転写槽の液面上に浮遊支持された転写フィルムを上流から下流へ送りながら転写を行うことが多く、更に転写フィルムは、一旦、転写液面上に供給されると転写液の吸収等によって膨潤軟化(周囲への延展)し続けるため、より一層、転写フィルムの挙動を制御することは困難であった。
また、転写フィルムを上流から下流に流しながら転写を行う場合、転写槽には、チェーンコンベヤや送風装置が設けられることが多く、これによって液面上に微妙な揺れ等が生じることもあり、これも転写フィルム(挙動)を制御することが難しい要因の一つであった。
【0006】
また、転写液面上に供給された転写フィルムを制御することが困難であるのは、他に以下のような要因も考えられる。
まず転写フィルムは、製造時の条件つまり生産ロットによって膨潤度に多少のバラツキがあることが挙げられる。
また、転写フィルムが保管される際には、通常、ロール巻きの状態で保管され、ロールの中心部分よりも周縁部分の方が外側に近いため湿気を吸収し易く、従って周縁部分と中心部分とでは膨潤度に差異を生じる点が挙げられる。
更に、転写フィルムは、製造段階で全長が約300mにも達し、このためにロール巻きされるが、一回の転写でこれを全て使い切ることはほとんどない。つまり同様の転写を行う場合であっても、ロットによって再セットが行われるのが一般的であり、この再セットの状況の違いによる誤差も生じ易いものである。
また、転写フィルムは、転写時の液温(水温)が高い場合に膨潤し易いため、季節や室温等によって膨潤度が変化するものである。また、転写を繰り返し行っていると、転写フィルムの成分(例えばPVA〔ポリビニルアルコール〕)が転写液中に溶出してくるため、転写液の酢酸度が徐々に高まり、この濃度によっても膨潤度に誤差が生じるものであった。
【0007】
また転写フィルムは、液面上で膨潤する際、水気を含んで徐々に面方向に延展(伸展)して行くため、着水直後の状態では、フィルムの外縁部(外側)と中心部(内側)とにおいて膨潤度(伸び)が異なる。すなわち、転写フィルムは、着水すると、まず外縁部から膨潤が先行し、後から内側が遅れて膨潤し(これを追従膨潤とする)、しばらく経過した後、全体的に伸びが均一化する。このような膨潤度の差異は、転写フィルムへのインク塗布量や厚み等によって種々変化するため、より厳格に転写フィルムの位置決めを行うには、この膨潤状況の差異(フィルム各部の伸展変位量)を的確に把握し、転写に反映させる必要がある。
もちろん、位置検出を行ってから実際の転写作動(転写フィルムへの接触)に移るまでには被転写体を移動させる(位置修正する)ための時間が掛かり、この間も転写フィルムは水分によって膨潤し続けるため、より一層正確な位置決め転写を行うには、膨潤度の差異(大小)に関わらず、このタイムラグを考慮することが好ましい。
【0008】
以上、述べたように液圧転写においては位置ズレが生じる要因が種々存在するため、従来は同一の被転写体や転写フィルムあるいは装置等を用いて、全く同様に転写を行っても、製品としては微妙に転写パターンにズレを生じることが多かった(図11参照)。
すなわち、上記図11は、転写フィルムFのどの部位が被転写体Wに転写されるかによって、製品としては(イ)、(ロ)のように、幾らか外観イメージの異なったものになってしまうことをいくらか誇張して示したものである。そして、従来このようなズレは、液圧転写手法における製法上の技術的限界として甘受されていたのである。
また、このようなズレを別の観点から観れば、液圧転写を施した製品において、量産品であることを感じさせない一点物としての雰囲気を演出する要因ともなっていた。つまり、微妙に転写パターンの位置が異なることは、ある種、液圧転写の積極的評価(いわゆる「売り」)となっていたのである。
【0009】
しかしながら、市場に多種多様の商品が流通し、また製品に対するユーザのデザイン要求度等が高度化する現状にあっては、液圧転写と言えども被転写体の特定の位置に所望の転写パターンを正確に転写できることが求められつつある。例えば、上記図11は携帯電話の本体に転写を施した例であるが、(イ)の方が(ロ)のものより売れ行きが好調である。つまり(ロ)のものでも液圧転写上の品質としては合格となるが、ユーザからは人気がなく、商品価値としては幾分劣るものとなっていた。
なお、特許文献3は、2点マーキングにより転写位置を決める思想であるが、このものは、専らフィルム側の全体的な位置ズレのみを修正する思想にとどまり、以下のような問題点があった。まず、転写において位置ズレが生じる要因は、上述したように種々考えられるが、特許文献3では、被転写体側の位置ズレを考慮していないため、高い精度で精密な位置決め転写を行うには、まだ不十分であった。また、位置検出を行ってから実際の転写作動に移るまでのタイムラグも考慮されていなかった。更に、特許文献3では、転写フィルムの全体的な位置を把握する思想はあるものの、フィルムの外縁部と内側とにおいて生じる伸展の差異(追従膨潤)を考慮していない点等も問題であった。このため、特許文献3は、位置決めといっても、従来通りの転写を踏襲した、言わば受動的な手法であった。
【0010】
このため本発明は、従来の液圧転写手法では到底想定されていなかった技術思想、すなわち所望の転写パターンを被転写体の所定位置に正確に行おうという発想を、更に鋭意研究開発し、実際に実現可能なレベルにまで具現化した技術思想である。
【特許文献1】特開平8−258498号公報
【特許文献2】特開平10−297194号公報
【特許文献3】特開2006−168056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような背景を認識してなされたものであって、予め転写フィルムに形成される図形や文字等の所望の転写パターンを、常に製品の所定位置に極めて正確に転写できるようにした新規な液圧転写手法の開発を試みたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち請求項1記載の精密位置決め可能な液圧転写方法は、担持シート上に適宜の転写パターンが塗着された転写フィルムを、転写槽内の液面上に浮遊支持し、その上方から被転写体搬送装置に保持させた被転写体を押し付け、これによって生じる液圧によって、被転写体に転写パターンを転写する方法において、前記被転写体を転写液中に没入するにあたっては、被転写体搬送装置による被転写体の実際の保持位置を、正規位置と比較して被転写体の位置ズレを検出する一方、転写液面上に浮遊支持された転写フィルムの実際の位置を、正規位置と比較して転写フィルムの位置ズレを検出するとともに、いずれか一方または双方の位置ズレを補正した後、被転写体を転写液中に没入させ、被転写体の所定位置に、転写フィルム上の所望の転写パターンをほぼ正確に転写するようにしたことを特徴として成るものである。
【0013】
また請求項2記載の精密位置決め可能な液圧転写方法は、前記請求項1記載の要件に加え、前記被転写体と転写フィルムとの位置ズレ補正は、いずれも被転写体搬送装置による被転写体の保持位置変更によって修正するものであることを特徴として成るものである。
【0014】
また請求項3記載の精密位置決め可能な液圧転写方法は、前記請求項1または2記載の要件に加え、前記位置ズレの補正は、被転写体及び転写フィルムともに複数回にわたって正規位置との比較、補正を繰り返し行い得るようにしたことを特徴として成るものである。
【0015】
また請求項4記載の精密位置決め可能な液圧転写方法は、前記請求項1、2または3記載の要件に加え、前記被転写体の実際の保持位置を検出するにあたっては、被転写体を正面、側面、平面の三方向から撮影し、保持位置を検出するようにしたことを特徴として成るものである。
【0016】
また請求項5記載の精密位置決め可能な液圧転写方法は、前記請求項1、2、3または4記載の要件に加え、前記フィルム側の位置ズレを補正するにあたっては、転写フィルムの位置ズレを検出してから被転写体を没入させるまでの間のフィルムの膨潤度も加味して補正を行うようにしたことを特徴として成るものである。
【0017】
また請求項6記載の精密位置決め可能な液圧転写方法は、前記請求項5記載の要件に加え、前記転写フィルムの膨潤度を加味して転写フィルムの位置ズレを補正するにあたっては、転写フィルムが着水によって外縁部から先に膨潤して行く一方、フィルムの内側は外縁部よりも遅れて追従膨潤して行くことを考慮し、少なくともフィルムの外縁部と内側とにおいて膨潤による伸展変位量を検出し、フィルムの膨潤度が全体的に均一化する時間を推測し、該時間経過後に被転写体を転写フィルムに接触させるようにしたことを特徴として成るものである。
【0018】
また請求項7記載の精密位置決め可能な液圧転写装置は、転写液を貯留する転写槽と、被転写体を転写槽に搬送する被転写体搬送装置とを具えて成り、転写液面上に浮遊支持された転写フィルムの上方から被転写体搬送装置により適宜の姿勢で被転写体を押し付け、これによって生じる液圧によって、被転写体に転写パターンを転写する装置において、この装置には、被転写体搬送装置に保持された被転写体の実際の保持位置を検出するワーク側検出装置と、転写液面上に浮遊支持された転写フィルムの実際の位置を検出するフィルム側検出装置と、これらワーク側及びフィルム側の実際の位置を、正規位置と比較してそれぞれの位置ズレを検出する処理装置と、検出した双方の位置ズレをどのように修正するかを決定する制御盤とが設けられ、また前記被転写体搬送装置には、被転写体の保持位置を補正する機能を別途付加して成り、この被転写体搬送装置によってワーク側またはフィルム側のうち、少なくとも一方の位置ズレを補正した後、被転写体を転写液中に没入させ、被転写体の所定位置に、転写フィルム上の所望の転写パターンをほぼ正確に転写するようにしたことを特徴として成るものである。
【0019】
また請求項8記載の精密位置決め可能な液圧転写装置は、前記請求項7記載の要件に加え、前記被転写体搬送装置には、転写液面上に支持される転写フィルムの幅方向に相当するX方向と、この転写フィルムの送り方向または長手方向に相当するY方向と、この転写フィルムからの高さに相当するZ方向と、転写液面上での転写フィルムの回転角に相当するθとの補正が行えるマニピュレータが適用されることを特徴として成るものである。
【0020】
また請求項9記載の精密位置決め可能な液圧転写装置は、前記請求項7または8記載の要件に加え、前記ワーク側検出装置には、画像認識ビデオカメラまたは高画質デジタルカメラが適用され、また検出の際には、被転写体を正面、側面、平面の三方向から撮影し、被転写体の実際の保持位置を検出するようにしたことを特徴として成るものである。
【0021】
また請求項10記載の精密位置決め可能な液圧転写フィルムは、担持シート上に適宜の転写パターンが乾燥状態に形成されて成り、転写にあたっては、転写パターンが形成されたインク面を上方に向けた状態で転写槽内の液面上に浮遊支持され、その上方から被転写体が押し付けられ、転写液による液圧によって、被転写体にインク面上の転写パターンを転写するようにした転写フィルムにおいて、前記インク面には、転写液面上に浮遊支持された転写フィルムの位置を検出するための目印となるターゲットが形成されていることを特徴として成るものである。
【0022】
また請求項11記載の精密位置決め可能な液圧転写フィルムは、前記請求項10記載の要件に加え、前記転写フィルム上のターゲットは、実質的に転写に関与しない部位に施されるマーキングであることを特徴として成るものである。
【0023】
また請求項12記載の精密位置決め可能な液圧転写フィルムは、前記請求項11記載の要件に加え、前記マーキングは、転写パターンを乾燥状態に形成するフィルム製作後に別途、スタンプにより付与されることを特徴として成るものである。
【0024】
また請求項13記載の精密位置決め可能な液圧転写フィルムは、前記請求項10記載の要件に加え、前記転写フィルム上のターゲットは、外観的に明確に判別できるマーキングだけでなく、磁気的もしくは光学的に認識できるマーキングを含むことを特徴として成るものである。
【0025】
また請求項14記載の精密位置決め可能な液圧転写フィルムは、前記請求項10記載の要件に加え、前記転写フィルムは、転写パターンが形成される転写インクが、転写が施される被転写体の化粧面のほぼ展開形状部分にのみ塗着され、この展開形状をターゲットにして、転写フィルムの位置検出が行われることを特徴として成るものである。
【発明の効果】
【0026】
これら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
すなわち請求項1または7記載の発明によれば、従来の液圧転写手法においては、全く存在しなかった技術思想を現実のものとする。すなわち従来の液圧転写手法では、不安定な液面上に転写フィルムを浮遊させる等、転写フィルムやワークにおいて位置ズレを生じる要因が多く、到底、転写フィルム上の所定柄を、ワークの所定位置に精密位置決めした状態(いわゆるピンポイント)で転写するという発想は存在しなかったが、本発明ではこれを現実のものとする。なお、このような技術思想は、従来の液圧転写手法の常識を根底から覆すものと言える。
【0027】
また、請求項2記載の発明によれば、フィルム側の位置ズレも被転写体の姿勢変更によって補正するため、精密位置決め可能な液圧転写方法の具体的実現性を更に高める。すなわち、転写液面上に供給された転写フィルムの位置ズレを、直接フィルム側で補正することは極めて困難であるため、これをワーク側で補正し、精密位置決め可能な液圧転写をより現実的なものとする。
【0028】
また、請求項3記載の発明によれば、位置検出、ズレ量検出、補正を繰り返し行い得るため、位置ズレ(誤差)を最小限に抑えることができ、精密位置決め可能な液圧転写の確実性や精度を、より向上させ得る。
【0029】
また請求項4または9記載の発明によれば、被転写体の検出にあたっては、被転写体を三方向から撮影するため、位置検出がより精緻に行え、位置ズレ量の把握、補正等も正確に行える。
【0030】
また請求項5記載の発明によれば、転写フィルムの位置検出を行ってからワークを没入させるまでの間の膨潤度(延展度)を加味して、フィルム側の位置ズレ補正を行うため、より一層、高い精度で液圧転写が行える。
【0031】
また請求項6記載の発明によれば、着水直後に転写フィルムの外縁部と内側とにおいて生じる膨潤度の相違(追従膨潤)を考慮して転写を行うため、より一層正確な位置決め転写が行える。
【0032】
また請求項8記載の発明によれば、被転写体搬送装置としてX、Y、Z、θの補正が行えるマニピュレータを適用するため、位置ズレ補正が瞬時に且つ比較的自由に行える。なお、現実には、位置検出からワーク没入までの時間を長くとることは難しく、この傾向は特に量産段階において転写を連続的に行う場合に顕著となる。これを考慮すると、被転写体搬送装置にマニピュレータを適用する本発明は、補正そのものの動作(姿勢変更)を極めて短時間で行うことができ、位置検出に追従してほぼリアルタイムで補正を行うことができる。
【0033】
また請求項10記載の発明によれば、転写フィルムに位置検出用のターゲットが形成されるため、不安定な転写液面上に供給されたフィルムの位置を的確に検出でき、その後の位置ズレ量の検出ひいてはその補正が精緻に行える。
【0034】
また請求項11記載の発明によれば、実質的に転写に関与しないフィルム部分にマーキングを施し、これをターゲットとするため、予めフィルム上に形成されている転写パターンが見えづらいときでも、マーキングによって転写フィルムの位置を正確に検出することができる。
【0035】
また請求項12記載の発明によれば、マーキングは、完成後の転写フィルムに別途スタンプにより形成するため、例えば転写直前に転写フィルムにマーキングを施す形態が採り得、また被転写体(化粧面)の形状等に応じて、スタンプの位置を適宜変更することもできる。従って、たとえ一種類の転写フィルムでも複数種の被転写体に応じてマーキング位置を適宜変更することができる。
【0036】
また請求項13記載の発明によれば、ターゲットは、人の目では判別できない磁気的なマーキング等も含むため、転写フィルムにおいて転写に大きく関与する部位、例えば化粧面にマーキングを付すことも可能となる。つまり極論すれば、被転写体に転写する転写パターンに重ねてマーキングを付与することもでき、所望の転写パターンの位置をダイレイクトに認識することができる。
【0037】
また請求項14記載の発明によれば、転写フィルムには、化粧面のほぼ展開形状部分にのみ転写インク(転写パターン)が形成され、この展開形状をターゲットにするため、転写フィルムに特にマーキングを施すこともなく、製作時の状態のままでターゲットを得ることができる。また、本発明では、化粧面の展開形状をターゲットにできるため、転写パターンがフィルム地に対し区別し難い場合であっても、例えば展開形状の輪郭によって明確に転写フィルムの位置を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明を実施するための最良の形態は、以下の実施例に述べるものをその一つとするとともに、更にその技術思想内において改良し得る種々の手法を含むものである。
本発明は、上述したように転写フィルムFに形成された文字や図形などの所望の転写パターンPを、被転写体(ワーク)Wの所定位置に常に正確に転写するという技術思想である(以下、これを本明細書では「精密位置決め可能な液圧転写」または「ピンポイント液圧転写」と称する)。このため、現実には被転写体搬送装置5に保持された被転写体Wの正規位置に対する位置ズレ量と、液面上に供給された転写フィルムFの正規位置に対する位置ズレ量とを各々検出し、被転写体Wを没入させるまでの間に、いずれか一方または双方の位置ズレを補正してから実際の転写(没入)を行うものであり、より好ましくは転写フィルムFの膨潤具合や転写タイミングをも考慮して転写を行うものである。以下、実施例について説明する。
【実施例】
【0039】
説明にあたっては、本発明装置である精密位置決め可能な液圧転写装置(以下、「ピンポイント液圧転写装置1」とする)の一例について説明した後、本発明方法である精密位置決め可能な液圧転写方法について説明し、その後、精密位置決め可能な液圧転写に好適な転写フィルムFについて説明する。
【0040】
まずピンポイント液圧転写装置1について説明する。ピンポイント液圧転写装置1は、一例として図1、2に示すように、転写液Lを貯留する転写槽2と、この転写槽2に転写フィルムFを送り込む転写フィルム供給装置3と、転写フィルムFを活性化し転写可能な状態とする活性剤塗布装置4と、転写槽2の転写液面上に浮遊支持された転写フィルムFの上方から適宜の姿勢で被転写体Wを押し付ける被転写体搬送装置5と、被転写体搬送装置5に保持された被転写体Wが正規位置に対してどの程度ずれているか、及び転写槽2上に供給された転写フィルムFが正規位置に対してどの程度ずれているかを検出する位置ズレ検出装置6と、検出した位置ズレを補正する位置ズレ補正装置7とを具えて成るものである。以下、各構成部について更に説明する。
【0041】
まず転写槽2について説明する。このものは、処理槽21とオーバーフロー槽22とを具えて成り、図2に示す実施例では、処理槽21内に水などの転写液Lが貯留されており、この処理槽21から溢れ出た転写液Lがオーバーフロー槽22を経た後、循環管路23を経由してポンプ24により液面の波立ちのない状態で処理槽21に緩やかに還流するように構成される。なお、転写液Lとしては、転写フィルムFの担持シートを膨潤ないし、または溶解し得るものであれば、水に代えてその他の液体を用いることが可能である。
【0042】
また処理槽21内には、左右の両側壁の近傍にスプロケットに巻装された一対のチェーンコンベヤ25が設けられており、このチェーンコンベヤ25は上方の液面循環側において転写フィルムFがオーバーフロー槽22側に向けて進行するのを補助するよう、同じ向きに駆動されるものである。なお、処理槽21の始端側上方には、送風装置26を設けることが可能であり、これにより転写フィルムFの周囲への均一な延展を図るとともに、転写フィルムFのオーバーフロー槽22側への進行を補うものである。
【0043】
次に、転写フィルム供給装置3について説明する。転写フィルム供給装置3は、ロール巻きされた転写フィルムFから成るフィルムロール31と、このフィルムロール31から引き出された転写フィルムFを加熱するヒートロール32と、転写フィルムFを引き出す引出ロール33とを具えて成るものである。なお、引出ロール33の上方側は、活性剤塗布面を擦ることのないよう転写フィルムFの両端のみに接触することが好ましい。
【0044】
ここで転写フィルムFの基本構造について説明する。転写フィルムFは、例えばゼラチン、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール樹脂等から成る水溶性フィルムを担持シートとするものであり、この担持シートの一方の面に、転写インクによって文字や図形、柄などの適宜の転写パターンPが乾燥状態に形成されている(この面をインク面とする)。なお、このインク面を形成する転写インクは、これが活性化された場合に、担持シートから転移し得るバインダー成分を含有して成るものである。
【0045】
次に、活性剤塗布装置4について説明する。活性剤塗布装置4は、一例として転写フィルム供給装置3のヒートロール32と引出ロール33との間に設けられ、転写フィルムFに所要の活性剤Kを塗布するローラコータ41を具えて成るものである。
なお、図2に示す実施例では、活性剤塗布装置4をヒートロール32と引出ロール33との間に設け、転写フィルムFの活性化を図ってから、これを転写槽2に供給するように図示したが、活性剤塗布装置4は引出ロール33の後段に設けることも可能である。すなわち、この場合には、例えば転写フィルムFが転写槽2に供給される直前に上方から活性剤Kを塗布する形態や、転写フィルムFが転写槽2に供給され、着水した後、上方から活性剤Kを塗布する形態が採り得る。
【0046】
なお、活性剤Kは、転写フィルムFのインク面に塗着された乾燥状態の転写インクに粘着性を付与して転写可能の状態とするものであり、例えばシンナー等の溶剤成分のみから成るものの適用が可能であるが、本実施例では、樹脂成分、溶剤成分、可塑剤成分、体質顔料等の混合物を適用する。これは、溶剤成分が転写インクを溶解し粘着性を回復する作用を担い、樹脂成分が初期密着性を確保するとともにインクの拡散を防止し、また可塑剤成分が樹脂成分に可塑性を付与する作用を担い、更に体質顔料がインク表面の見掛け乾燥化を計るとともにインクズレを規制しつつ伸展性を与える作用を担うなど、各成分がそれぞれ機能を分担ないし補完し得るためである。因みに、活性剤Kの成分は特に限定されるものではなく、紫外線硬化によるもの等も適宜適用し得る。
【0047】
次に、被転写体搬送装置5について説明する。被転写体搬送装置5は、上述したように被転写体Wを、転写フィルムFが浮遊支持された転写液L中に適宜の姿勢で没入(没液)させるものであるが、本発明では、この被転写体搬送装置5に被転写体Wの保持位置(保持姿勢)を修正する機能を持たせるものである。つまり、被転写体搬送装置5は、被転写体Wを保持しながらも、その姿勢を適宜変更でき、位置ズレを補正(修正)する機能を有するものである。
【0048】
このような被転写体搬送装置5としては、例えば図1に示すように、補正操作の自由度に優れたマニピュレータ(ロボットアーム)51が望ましい。マニピュレータ51は、一本以上のアーム52と、このアーム52の先端部において被転写体Wを保持するハンド(チャッキング53)とを具えて成る。また、このマニピュレータ51は、転写フィルムFの上流から下流への流れに沿って直線的に移動する機構を具えることが好ましい。
なお、被転写体Wは、直接、マニピュレータ51(被転写体搬送装置5)に取り付けられることもあるが、一般的には治具Jを介在させて取り付けられることが多い(図5拡大図参照)。これは、一基のマニピュレータ51に対し、できる限り多種多様の被転写体Wを取り付け得るためである。
【0049】
また、被転写体搬送装置5としては、例えば図2に示すように、側面から視て三角形状の搬送軌道を描くコンベヤ55を適用することも可能であり、このコンベヤ55には、被転写体Wを直接もしくは治具Jを介して間接的に把持するホルダ56が設けられる。この場合、被転写体Wは、このコンベヤ55によって適宜の姿勢で搬送されながら、搬送軌道の下部において一定時間、転写液L中に押し付けられ転写が成される。もちろん、この実施例においても、コンベヤ55は、被転写体Wを没入させるまでの間に、被転写体Wの保持位置を適宜、変更する補正機能を有する。
【0050】
コンベヤ55における補正機能を具体的に説明すると、例えば上記図2の拡大図に併せ示すように、被転写体Wの没入位置をフィルムの流れ方向に対して前後させたり、あるいは被転写体Wの取付面(搬送面)に沿って適宜回動(旋回)させたりする補正機能が求められる。因みに、このような三角形状の搬送軌道を形成するコンベヤ55では、一般に補正作動の自由度が低いため、本発明では被転写体搬送装置5として上記マニピュレータ51の適用が望ましいものである。しかしながら、被転写体Wの形状、特に転写が施される化粧面の形状がシンプルであれば、敢えて高価で大型のマニピュレータ51を使用する必要はなく(一般にマニピュレータは自由度を大きくするほど高価で大型化する)、従来の三角コンベヤに補正機能を付加したコンベヤ55を適用することができ、設備費を安価に抑えることができる。
【0051】
次に、位置ズレ検出装置6について説明する。位置ズレ検出装置6は、被転写体搬送装置5に保持された被転写体W及び転写液L面上(転写槽2上)に供給された転写フィルムFが、それぞれの正規位置に対してどの程度ずれているかを検出するものである。つまり位置ズレ検出装置6は、ワーク側とフィルム側とに分けることができる。ここで「正規位置」とは、被転写体Wの所定位置に、所望の転写パターンPを正確に転写することができる位置の意味であり、端的にはズレのない位置となる。そして、この正規位置そのものは、例えば被転写体Wの形状や没入位置あるいは精密位置決め転写を行いたい所望の転写パターンP等によって理論的に割り出すことが可能である。なお、ズレのない「正規位置」に対して、通常はズレを有する実際の位置を本明細書では「実際の保持位置(実際の位置)」あるいは「検出位置」等と称している。
【0052】
このような位置ズレ検出装置6は、一例として図1に示すように、被転写体搬送装置5に保持された被転写体Wの姿勢(実際の保持位置)を検出するワーク側検出装置61と、転写液L面上に浮遊支持された転写フィルムFの実際の位置を検出するフィルム側検出装置62と、被転写体Wと転写フィルムFとにおいて検出位置と正規位置とを画面等に取り込んで比較し、実際の位置が正規位置に対してどの程度ずれているかを検出する処理装置63とを具えて成る。そして、ワーク側検出装置61及びフィルム側検出装置62としては、画像認識ビデオカメラや高画質デジタルカメラが利用できる。また処理装置63は、画像処理によって検出位置と正規位置とを比較し、位置ズレを検出するものが現実的である。このように、本実施例では被転写体Wの位置検出(撮影)と転写フィルムFの位置検出(撮影)は、別々の装置(カメラ)で行うが、双方の位置ズレは、一基の処理装置63で割り出すものである。
【0053】
次に位置ズレ修正装置7について説明する。位置ズレ修正装置7は、上記位置ズレ検出装置6によって検出されたワーク側とフィルム側の位置ズレのうち、少なくとも一方を補正するものであるが、本実施例では、被転写体Wの保持位置を変更してワーク側とフィルム側の双方の位置ズレを補正する。なお、一旦、転写液L面上に供給された転写フィルムFについては、その位置を自在に操作することが極めて困難であるため、ここでは被転写体Wの位置ズレだけでなく、転写フィルムFの位置ズレの分も被転写体Wの姿勢変更で補正する。
因みに、位置ズレ修正装置7により、ワーク側またはフィルム側の位置ズレのうち、一方のみを補正する場合とは、いずれか一方の位置ズレがほとんど生じない場合を考慮したためである。すなわち、例えば被転写体搬送装置5としてコンベヤ55を適用した場合、あるいは治具Jを用いずにワークを被転写体搬送装置5に取り付ける場合等には、その分、ワーク側の位置ズレを抑えることができ、これがピンポイント液圧転写に影響しない程度であれば、フィルム側の位置ズレのみを考慮すればよいためである。
【0054】
そして、このような位置ズレ修正装置7は、一例として図1に示すように、検出した位置ズレデータ(ズレ量データ)に基づき、どのように補正を行うか(これを補正データとする)を決定する制御盤71と、この補正データに基づき現実に被転写体Wの保持位置を補正する上記被転写体搬送装置5(マニピュレータ51)とを具えて成るものである。つまり、本発明では、被転写体搬送装置5が、位置ズレ修正装置7の一構成要素となるものである。また、このため図1に示すように、ワーク側及びフィルム側のズレ量データが前記処理装置63から制御盤71に送られ、補正データが制御盤71から被転写体搬送装置5に送られる。
【0055】
なお、上述したように転写槽2に供給された転写フィルムFは、転写液L面上で次第に膨潤、延展して行くが、着水当初にあっては、外縁部と内側とにおいて、その延展度合いが異なり、全体的に膨潤度が均一化するまでに、ある程度の時間を要する。このため、上記位置ズレ検出装置6(フィルム側検出装置62)及び位置ズレ修正装置7は、着水した転写フィルムFの外縁部と内側との伸展量(膨潤量)を計測する作用や伸展量が均一化するまでの時間を推測する作用等も適宜担うものである。
具体的には、転写フィルムF上に形成された転写パターンPや後述するマーキングM等の位置を複数回にわたって繰り返し認識するものであり、変化のあった位置の差分から変位量を割り出し、これを基に外縁部と内側との伸展量(膨潤度)の差異を読み取り、更に膨潤度が全体的に安定化するまでの時間を推測するものである。そして、このような解析を行った上で、的確な転写位置と転写タイミングで被転写体Wを転写フィルムFに接触させるものであり、これにより膨潤度の差異やタイムラグを考慮した精密なピンポイント転写を行うことができる。
【0056】
本発明装置のピンポイント液圧転写装置(精密位置決め可能な液圧転写装置)1は、以上のような基本構造を有するものであるが、この装置には、種々の改変が可能である。例えば、上記説明の中でも多少触れたが、転写フィルムFを活性化するのは、このものを転写槽2に供給する以前の段階に限らず、転写槽2に供給した後、着水後に活性化しても構わない。
また上述したピンポイント液圧転写装置1では、ロール巻きしたフィルムロール31から順次、転写フィルムFを転写槽2に繰り出す、いわゆる連続式の転写について説明したが、例えば最初から矩形状にカットされた転写フィルムFを一枚ごと転写槽2に供給し、この上方から被転写体Wを押し付ける、いわゆるバッチ式の転写を行うことも可能である。
【0057】
以下、本発明装置のピンポイント液圧転写装置1を用いたピンポイント液圧転写方法(作動態様)について、図3の流れ図に基づき説明する。なお、説明にあたっては、ワーク側及びフィルム側の実際の位置の撮影や、どの程度の位置ズレかという検出(ズレ量の割り出し)、あるいは検出したズレ量をゼロにするための補正の仕方等を中心に説明する。また、ここでは図3の処理ステップaに記した各種設定、例えば被転写体W及び転写フィルムFの正規位置は予め処理装置63に取り込んだものとして説明する。なお、正規位置を決定するにあたっては、理論的に割り出すことも可能であるし、あるいはこのような理論に基づき、実際に何回かのトライを重ね、良好に転写が行えた実測データを反映させて決定することも可能である。
【0058】
〔1〕ワーク側
(ア)ワーク側の位置ズレ検出(誤差検出)〔流れ図の処理ステップb〜c〕
ワーク側の位置ズレ(誤差)を検出するには、一例として図1に示すように、被転写体搬送装置5に保持された被転写体Wを、定位置に固定した画像認識ビデオカメラ等のワーク側検出装置61により撮影する(処理ステップb)。そして、撮影した画像データを処理装置63に送り、ここで正規位置と比較することにより、ワーク側の位置ズレ量を割り出す(処理ステップc)。
【0059】
なお、被転写体Wの実際の保持位置を検出するにあたっては、例えば以下のような形態が可能である。
(i) 被転写体Wを正面の一方向から撮影する形態
(ii)被転写体Wを囲むように三方向から撮影する形態
(iii) 被転写体Wを正面の一方向から撮影しながら、被転写体Wの立体データを利用す
る形態
以下、これらについて個別に説明する。
【0060】
(i) は、例えば図4(a)に示すように、被転写体W(化粧面)を正面からのみ撮影し、被転写体Wの位置を認識する方法である。具体的には、例えば被転写体W上のある一点(ここでは輪郭線上の一点)の座標(X1 、Y1 )と、輪郭線の傾斜角θによって被転写体Wの位置を表している(認識している)。そして、これらを基準値(正規位置のデータ)と比較することによって、被転写体Wの位置ズレ(量)を検出する。もちろん被転写体Wの保持位置を認識するには、必ずしもこのような一点の座標(X1 、Y1 )と傾斜角θによって表す方法だけでなく、例えば図4(b)に示すように、被転写体W上の少なくとも三点以上の点の座標で表すことも可能である。因みに、上記図4(b)では、一例として輪郭線上の三点の座標(X1 、Y1 )、(X2 、Y2 )、(X3 、Y3 )によって被転写体Wの位置を表している。
【0061】
なお、位置ズレ量を割り出すにあたっては、点の座標で比較するだけでなく、被転写体Wの輪郭を撮影し、これを面として捉え、正規位置の面データ(輪郭データ)と比較することによってズレ量を割り出すことも可能である。
また、上記図4では、座標の表示例からも判るように、Z方向成分つまりカメラ等のワーク側検出装置61と被転写体Wとの距離を考慮していないが、これは例えばカメラと被転写体Wとの距離を一定に維持しながら位置検出と補正を行えば、このZ方向成分を考慮しなくて済むためである。
もちろん、このような位置検出後に行う実際の転写では、被転写体Wを転写フィルムFに徐々に接近させ、最終的に接触させるため、両者の距離が互いに縮まる段階で、被転写体Wと転写フィルムFとの距離(Z方向)を再度正確に検出(補正)することが好ましい。これは、特に、被転写体Wを転写液L(転写フィルムF)に対して斜めに没入させる場合に、Z方向の位置ズレがあると、これが没入位置の前後のズレとなって生じるためである。
【0062】
(ii)は、例えば図5に示すように、被転写体Wを正面、側面、平面の三方向から撮影し、被転写体Wの位置を認識する方法である。具体的には被転写体W上の一点の座標(X1 、Y1 )と、この正面画面上での傾斜角θ1 、側面画面上での傾斜角θ2 、平面画面上での傾斜角θ3 によって被転写体Wの位置を表している(認識している)。この場合も、これらを基準値と比較して、被転写体Wの位置ズレ(量)を検出するものである。
更に、この場合も上記図4の場合と同様に一点の座標はZ方向成分を考慮せずに表したが、ここでは被転写体Wを三方向から撮影するため、Z方向成分も含めた座標系として表すこともできる。また、このため被転写体Wの位置を認識するにあたっては、必ずしも上記方法に限定されるものではなく、少なくとも被転写体W上の異なる3点を直角座標系、つまり互いに直交するX、Y、Zの各方向成分によって表し、位置を認識することが可能である。
【0063】
(iii) は、例えば図6に示すように、被転写体Wを正面の一方向から撮影しながら、被転写体Wの立体形状を推測する例である。この場合、カメラ等による撮影は被転写体Wの正面画像のみであるため、この段階での撮影画像は、図にも示すように、あくまでも二次元データとなる。これに予め取り込んでおいた被転写体Wの立体データを融合させて、被転写体Wの全体の立体形状を推測するものであり、これにより上記(ii)とほぼ同様のデータを得ることができる。
【0064】
(イ)被転写体の位置ズレ補正〔流れ図の処理ステップd〜e〕
以上のようにして被転写体Wの位置ズレ量を割り出した後、今度は、このズレ量データに基づき、制御盤71においてどのように補正を行うか、つまり例えばマニピュレータ51のアーム52やチャッキング53をどのように動かせば被転写体Wを正規位置に戻せるかを検討、設定する(処理ステップd)。次いで、設定した補正データをマニピュレータ51等に送り、被転写体Wの保持位置を補正する(処理ステップe)。
なお、被転写体Wの位置ズレを補正するにあたっては、例えば検出(撮影)したワーク上の点(面)と基準点(面)とを画素数のセルで一致させることにより行い得るものである。因みに1000万画素カメラ(1:1)で10cm四角エリアを撮影した場合、理論上、1画素の精度は31.6μmとなる(従って理論上は、この31.6μmという寸法精度で一致させることができる)。
【0065】
なお、被転写体Wの位置ズレを補正する装置(被転写体搬送装置5)としてマニピュレータ51を適用した場合には、撮影のレベルに合わせてマニピュレータ51の自由度を設定することが好ましい。これは、一般にマニピュレータ51は自由度を大きくするほど高価で大型化するためである。すなわち被転写体Wを正面の一方向のみから撮影する場合には、マニピュレータ51は補正用3軸+移動用1軸以上であれば良く、比較的自由度の低いもので構わない。一方、被転写体Wを正面、側面、平面の三方向から撮影する場合には、補正用6軸+移動用1軸以上の比較的自由度の高いマニピュレータ51を適用することが好ましい。なお、上記「移動用1軸」とは転写液Lの流れ(上流から下流への流れ)に沿って直線移動できる機能を示している。
【0066】
また、補正を行うタイミングとしても、種々の形態が採り得、例えば被転写体Wを撮影し、実際の保持位置のズレを検出した時点で、その場で補正を行い、位置ズレを0にする補正形態が可能であるし、あるいは被転写体Wを撮影した後、没入させるまでの移動中に、各方向成分のズレを検出し、補正する形態も可能である。特に、後者の場合には、没入直前に徐々に縮まるZ方向距離(被転写体Wと転写フィルムFとの距離)の補正も含めた総合的な補正が行い得るものである。
【0067】
(ウ)再撮影、再比較〔流れ図の処理ステップf〕
処理ステップfは、上述した一連の補正処理により、被転写体Wの保持位置が本当に正規位置に戻ったかどうかを再チェックするための処理である。もちろん、再チェックの結果、まだ位置ズレが補正し切れていない場合には、再度、補正が行われる。
なお、この処理ステップは、ピンポイント液圧転写をより確実に行うための言わば保障機能ともいうべきステップであり、このため一回の補正作動によって位置ズレが、ほぼ確実に修正できる場合などには、必ずしも必須のステップとはならない。しかしながら、このような保障機能をプログラムに組み込んだ場合には、高性能な画像認識ビデオカメラにより連続的に被転写体Wを撮影し、迅速に正規位置とリアルタイム比較する形態が採り得、極めて現実的である。
【0068】
〔2〕フィルム側
(エ)フィルム側の位置ズレ検出(誤差検出)〔流れ図の処理ステップb′〜c′〕
転写フィルムFの位置ズレを検出、補正する処理も、ワーク側と同様に行う。具体的には、一例として図1、7に示すように、転写液L面上に供給された転写フィルムFを、一定の位置に設置した画像認識ビデオカメラ等のフィルム側検出装置62により撮影し、この画像を正規位置と比較することによって、転写フィルムFの位置ズレを割り出す。
転写フィルムFの位置検出は、極力波立ちがないほぼフラットな液面上で行うため、転写フィルムF上の点を、二次元の方向成分(X、Y座標)で示すとともに平面画像における傾斜角(回転角)θで転写フィルムFの位置を表す(認識する)ことが可能である。
【0069】
(オ)転写フィルムの位置ズレ補正〔流れ図の処理ステップd′〜e′〕
転写フィルムFの位置ズレ量を検出した後、このズレ量のデータに基づき、制御盤71によりどのように補正を行うか、つまり被転写体Wを保持しているマニピュレータ51等のアーム52やチャッキング53をどのように動かせば転写フィルムFの位置ズレが補正できるかを検討、設定する。
次いで、設定した補正データをマニピュレータ51等の被転写体搬送装置5に送り、被転写体Wの保持位置を補正する。
【0070】
(カ)再撮影、再比較〔流れ図の処理ステップf′〕
処理ステップf′は、上述した一連の補正処理により、転写フィルムFの位置ズレが正確に補正できたかどうかを再チェックするための処理である。もちろん、再チェックの結果、まだ位置ズレが補正し切れていない場合には、再度、補正が行われる。
なお、この処理ステップは、ピンポイント液圧転写をより確実に行うための言わば保障機能ともいうべきステップであり、このため一回の補正作動によって位置ズレが、ほぼ確実に修正できる場合などには、必ずしも必須のステップとはならない。しかしながら、このような保障機能をプログラムに組み込んだ場合には、高性能な画像認識ビデオカメラにより連続的に転写フィルムFを撮影し、迅速に正規位置とリアルタイム比較する形態が採り得、極めて現実的である。
因みに、上記図3中のb′〜f′までのフィルム側のステップにおいては、転写フィルムFの膨潤度をも加味した補正が統合して行い得るものであり、これについては後述する。
【0071】
なお、転写フィルムFの位置検出(補正)を行う際、上記Z方向(被転写体Wと転写フィルムFとの距離)を含め、どの方向の要素から検出するのが好ましいかについて以下説明する。因みに、以下の説明は、主に転写液Lが転写槽2内で循環している場合、つまり転写液Lが流れを有する場合において望ましい形態と考えられる。
・順番(1) −Z方向の検出
・順番(2) −転写液L面上での転写フィルムFの回転角に当たる角変位量θの検出
・順番(3) −転写フィルムFの幅方向に当たるX方向の検出
・順番(4) −転写フィルムFの送り方向(長手方向)に当たるY方向の検出
【0072】
〔順番(1) について〕
転写液Lが流れを有する場合、被転写体Wは転写フィルムFに対し斜めに投入されることが多く、このためZ方向の距離を検出することによって着液位置が正確に設定できる(正確なピンポイント転写が行える)。なお、Z方向を最初に検出するのは、Z方向のズレは、被転写体Wを保持セットする際のズレが主な要因であるため比較的生じにくく、また、このZ方向の補正にあたっては被転写体Wを上下に移動するだけで済み、補正が容易に行えるためである。
【0073】
〔順番(2) 、(3) について〕
例えば図7に示す転写装置は、転写槽2の左右にガイド(チェーンガイド)があり、転写フィルムFが水分を含んで膨潤しても、このガイドに接触した状態では、このガイドが転写フィルムFの以後の膨潤(X方向への膨潤)を止めるように作用する。このためガイドに接触した転写フィルムFは、以降のθ変位も少なくなり(ほぼなくなり)、このためここでは、転写フィルムFがガイドに接触した後のタイミングで上記Z方向を検出し、その後、θ変位、次いでX方向を検出するものである。
【0074】
〔順番(4) について〕
転写フィルムFは着液によって四方に膨潤するが、上述したようにX方向への膨潤はガイドとの接触により、ほとんど起こらなくなる。つまり、転写フィルムFは、規制がないY方向(長手方向)への変位(ズレ要因)が、最も大きいものであり、このためY方向での検出を一番最後に行うものである。
【0075】
なお、位置検出と補正を行うには、変位量の小さい要素から大きい要素の順に行っていけば良く(好ましく)、各々の要素を検出した後にそれぞれの要素を一つずつ補正していっても構わないし、各々の要素を全て検出した後に一挙に補正を行っても構わない。つまりZ検出・補正→θ検出・補正→…という形態でも良いし、Z、θ、X、Y検出→一挙補正でも構わない。
また、上記説明では、転写液Lに流れがある場合について説明したが、転写液Lの流れがないバッチ式の場合には、規制幅の距離が短い方から位置検出を行うのが好ましい。これは、規制幅に接触するとフィルムの変位がほぼなくなり、検出及び補正設定が容易に且つ正確に行えるためである。
なお、上述した順序は、必ずしも全ての液圧転写に当てはまるものではなく、適宜変更し得るものである。例えば転写の中には、製品によって転写パターンPの角度一致が最優先されるものがあり、特に転写液Lの流れがない場合には、転写フィルムFが周囲のガイドに当たるまで、あるいは当たらないまま回るように動くことが想定される。この場合、θの変位量が大きくなるため、θの検出は最後が好ましい。
【0076】
(キ)没入開始〔流れ図の処理ステップg〕
以上のようにして被転写体W及び転写フィルムFとの双方の位置ズレ補正が完了した段階で、被転写体Wが転写液L中に没入され、実質的な転写が行われる。逆に言えば、被転写体Wを没入させるまでの間に、被転写体Wと転写フィルムFとに生じる位置ズレを検出し、補正を行っておくものである。
【0077】
なお、上記図3に示したプログラムでは、ワーク側とフィルム側の位置ズレを別々に補正する制御フローを示したが、これらは補正作動を検討する段階(例えば図3の処理ステップd、d′)などで統合させ、補正作動としては一挙に行うようにすることも可能である。また、上記説明ではワーク側の位置ズレ補正を先に説明し、フィルム側の位置ズレ補正を後に説明したが、実際の転写時にはどちらの処理が先ということはなく、通常は並行して処理が進められ、被転写体Wが没入するまでの間に両者の位置ズレ補正を完了させるのが現実的である。
【0078】
また、転写液L面上に供給された転写フィルムFは、水気を含んで周囲に膨潤・延展して行くが、フィルムは通常、内側が外縁部に対し遅れて膨潤して行く(追従膨潤)。このため、より一層正確にピンポイント転写を行うには、フィルム外縁部と内側との膨潤度の差異を把握し、これが均一化した状態で転写を行うことが好ましい。特に本発明では、フィルム側検出装置62によって、着水後の転写フィルムFの外縁部と内側とにおける転写パターンPを何回も撮影することができ、これにより追従膨潤を考慮した精密な転写が行えるものである。
【0079】
なお、フィルムの外縁部と内側とを何回も撮影し、各部の膨潤度を把握することは、各部の膨潤度の差異が比較的小さい場合であっても極めて有効である。これは、転写フィルムFの位置検出を行ってから実際の転写(没入)に移るまでの間には、被転写体Wの移動や姿勢変更を行うためにタイムラグがあり、この間も転写フィルムFは徐々に膨潤軟化し続け、誤差を含んだ状態となるためである。つまり、フィルムの膨潤による変位率(フィルムの伸び率)を検出すれば、膨潤度が所望の値になった時点で、被転写体Wを没入させることができ、より精緻なピンポイント転写が可能となるのである。
【0080】
もちろん、転写フィルムFの位置検出後、常に一定時間後(例えば0.5秒後)に被転写体Wを没入させる設定であれば、この一定時間(0.5秒間)の膨潤度を経験的または理論的に割り出し、位置ズレ補正量に加味して総合的に補正を行うことでも上記タイムラグを考慮した補正が可能となる。
あるいは転写フィルムFの位置検出、ズレ量検出、補正までの一連の作動が、ほとんど時間差なくリアルタイムで行える場合には、没入直前に一回目もしくは最終的な位置検出を行って上記タイムラグを考慮することも可能である。因みに、これは転写フィルムFが、ほぼフラットな液面上に支持された状態で位置検出が行われるため、ほぼ二次元的な位置検出となり、位置検出〜補正までが比較的容易に行える場合に適した形態である。
なお、上記説明においては、補正と転写を分けて説明したが、被転写体Wは比較的ゆっくりと没入させる場合が多いため、転写時にも、その移動方向に沿った補正を行いながら転写を行うことも可能である。
【0081】
本発明方法のピンポイント液圧転写方法(精密位置決め可能な液圧転写方法)は以上述べたようにして行われるが、このようなピンポイント液圧転写手法では、転写フィルムFを位置検出し易いことが好ましい。つまり転写フィルムFには、位置を的確に捉えるための目印(ターゲット)が形成されていることが好ましく、このターゲットを、例えばビデオカメラ等によって認識することにより、転写フィルムFの位置認識や位置ズレ量の検出が行い易くなり、ひいては位置ズレ修正も精緻に行えるものである。以下、転写フィルムFにおける、このようなターゲットについて説明する。なお、本発明の名称中や特許請求の範囲に記載した「液圧転写フィルム」とは、特にこのようなターゲットを有した転写フィルムFを指すものである。
【0082】
転写フィルムFには、例えば図8(a)、(b)に示すように、予めフィルム上に所望の転写パターンPとしての図形や文字が形成されており、これが下地(転写インクによって担持シート上に塗着された部位のうち転写パターンP以外を示し、本明細書ではこれを「フィルム地」と称している)に比べ外観上、明確に識別できる場合には、これら図形や文字を位置検出用のターゲットにすることが可能である。この場合、図形や文字の一部(一点)をターゲットにすることも可能であるし、図形や文字の全体(輪郭)をターゲットにすることも可能である。なお図8(a)は図形(ここではハート型)をターゲットにした転写フィルムFの例であり、図8(b)は文字(ここでは「ABC」)をターゲットにした転写フィルムFの例である。
【0083】
もちろん転写フィルムFには、図形や文字などの所望の転写パターンPが、フィルム地と同系色であったり、図柄的に類似していて、フィルム地に対して転写パターンPが判別し難い場合が考えられる。この場合には、通常フィルム上に形成された転写パターンP(図形や文字)をターゲットにし難い。そのため、このような場合には、例えば図7や図8(c)に示すように、転写フィルムFにおいて、実質的に転写に関与しない部分すなわち所望の転写パターンP以外の部分にマーキングMを施し、これをターゲットとすることが可能である。もちろん、この場合のターゲット(マーキングM)は、フィルム地に対して明確に識別できるものとなる。なお、マーキングMとしては、図7では適宜の色で塗り潰した四角形(いわゆる「べた塗り」の四角)を採用しており、図8(c)では丸十字を施しているが、この他にも種々の種類のマーキングMが可能である。
【0084】
また、図7では、所望の転写パターンPをやや大きめに囲む範囲を、矩形状に捉え(転写に大きく関与するエリアであり「転写範囲」としている)、このエリアの対角線上両隅2ケ所にマーキングMを施したが、このマーキングMの位置は適宜変更可能である。例えば図8(c)では、所望の転写パターンP(ここでは「ABC」)のセンター両端(転写フィルムFの両端縁部)に、マーキングMを施している。
このようにマーキングMを施す位置は、転写範囲の境界線上やその外周など転写フィルムF上において実質的に転写に関与しない部位であればどこでも構わないが、例えば図9に示すように、被転写体Wの化粧面に開口部OPが形成されている場合には、転写範囲内であっても、この開口部OPに対応するフィルム部位にマーキングMを施すことが可能である。これは、開口部OPに対応するフィルム部位は、位置(エリア)としては転写範囲内にあっても、実質的には転写に関与しない部分となるためである。
【0085】
また通常の転写フィルムFは、上記図8(a)〜(c)に示すように、転写インクによってフィルム面全体に適宜のフィルム地が形成されており、ここに図形や文字等の転写パターンPがあたかも重ね合わせたように形成されている。本発明は、このような図形や文字等の転写パターンPを常に被転写体Wの決まった部位に転写しようという技術思想である。そして、この思想を更に発展させると、転写フィルムFのフィルム地ですら、被転写体Wの化粧面に相当する部位だけ、つまり転写に必要な分だけ形成しておけば充分という発想に至り、この思想に基づいて形成された転写フィルムFが図8(d)に示すフィルムである。
【0086】
すなわち、この場合には、転写フィルムFに形成されるフィルム地(転写パターンPを含む)は、転写に要する実質部位、つまり被転写体Wの化粧面のほぼ展開形状となり、この展開形状をターゲットとして利用できる。もちろん、図8(d)のような転写フィルムFは、被転写体W(化粧面)に対応した1対1の転写フィルムFとなる。なお、図8(d)では、幅広状の十字が被転写体W(化粧面)のほぼ展開形状として再現され、その形状内に所望の転写パターンPが形成されている。また、フィルム地(幅広状の十字)よりも外側のフィルム部分は、転写パターンPが識別し易いモノトーンあるいは無地とすることが現実的である。もちろん、このように転写パターンPを含めフィルム地までを、被転写体W(化粧面)のほぼ展開形状に形成した転写フィルムFは、今までに全くない技術思想であり、極めて新規な転写フィルムFである。因みに、図8(d)では、フラットなフィルム面上に形成された転写パターンPが、転写後の製品(被転写体W)上では、隅角部を頂点とする三角錐となるように図示されている。
【0087】
なお、上記図8(a)〜(d)に示した転写フィルムFは、いずれも連続して転写を行う場合に使用する、いわゆる連続式のものであるが、ピンポイント液圧転写装置1の説明でも述べたように、転写を一回毎に行う、いわゆるバッチ式の転写フィルムFも適用可能である。
また、マーキングMは、本来、上記図8(c)で示したように、図形や文字等の転写パターンPが判別し難く、ターゲットとして採用できにくい場合に好適であるが、例えば上記図8(a)、(b)、(d)のように転写パターンPが明確に判別できる場合であってもマーキングを施すことは何ら構わない。この場合、転写パターンPまたはマーキングMのうち、どちらか一方または両方をターゲットにすることができ、位置ズレ検出や補正がより確実に行えるものである。
【0088】
また、マーキングMを転写フィルムFに施すにあたっては、転写フィルムFの製造時に合わせて形成することも可能であるし、あるいは転写フィルムFを転写槽2に供給する直前に別途スタンプ押印等によって施すことも可能であり、この場合には、被転写体Wに応じてマーキング形成位置を適宜変更することができ、同一の転写フィルムFを多種多様の被転写体Wに適用することができる。もちろん、フィルム製造時とは別にマーキングMを転写フィルムFに付す場合には、従来の転写フィルムFを流用することも可能である。
【0089】
また、マーキングMは、必ずしも外観認識、つまり人の目(目視)によって明確に認識できるものに限らず、目に見えなくても磁気的あるいは光学的に明確に識別できるものであれば構わない。この場合、目視し難いというマーキングMの特性を逆に生かし、マーキングMを転写範囲内、例えば所望の転写パターンPの近傍に施すことが可能であるし、転写に悪影響が出なければ、転写パターンPの上から重ねて施すことも可能であり、ピンポイント液圧転写したい所望の転写パターンPの位置をダイレクトに検出することができる。因みに、これは特に転写フィルムFが大きい場合に、位置検出が高精度に行えるという点で効を奏すると考えられる。なお、磁気的あるいは光学的なマーキングMに対しては、磁力センサー、光電スイッチ等によって転写フィルムFの位置検出、ズレ量検出等を行うことができる。
また、外観的に明確に形成されたマーキングMを認識する場合であっても、ライン状のマーキングMを施した場合には、必ずしも画像認識装置ではなく、ラインセンサーによって位置検出等を行うことが可能である。
【0090】
以上述べたように本発明は、被転写体Wの所定位置に、所定の転写パターンPをピンポイントで転写するという技術思想であり、これを同一の被転写体Wに複数回行うことにより更に新たなバリエーションを派生させることができる。例えば1回目の転写で特定の柄のみを転写し、2回目の転写で特定の文字のみを転写する場合、2回目の文字転写を、1回目に転写した特定柄に対する所定位置に転写することができる。もちろん1回目で文字、2回目で柄の転写でも、このような転写は可能となる。なお、このようなピンポイント液圧転写を繰り返し行う手法を、ここでは特に「特定位置重ね合わせ液圧転写」と称する。
【0091】
この特定位置重ね合わせ液圧転写の他の例としては、例えば図10に示すように、一回目の転写において、ほぼ一定の幅に描かれた「A」という文字を転写し、二回目の転写で、ほぼ一定の幅に縁取りされた「A」という文字を、多少ずらして転写すれば、完成品としてはあたかも立体的な「A」という文字を出現させることができる。もちろん、二回目の転写のずらし方は上記図10に併せ示すように種々考えられ、かかる構成により、たとえ転写に供する転写フィルムFを二種に限定したとしても、本発明のピンポイント液圧転写手法により、実際の完成品において様々なバリエーションを展開することができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の精密位置決め可能な液圧転写手法を骨格的に示す説明図である。
【図2】精密位置決め可能な液圧転写装置の他の実施例であり、主に被転写体搬送装置としてコンベヤを適用した場合を示す説明図である。
【図3】精密位置決め可能な液圧転写方法の一例を示す流れ図である。
【図4】被転写体を正面の一方向から撮影した場合において被転写体の保持位置を認識する際の表し方を示す説明図である。
【図5】被転写体を正面、側面、平面の三方向から撮影した場合において被転写体の保持位置を認識する際の表し方を示す説明図である。
【図6】被転写体を正面の一方向から撮影しながら、予め取り込んでおいた被転写体表面の立体データを融合させて、被転写体の保持位置を立体的に認識する様子を概念的に示す説明図である。
【図7】転写液面上に浮遊支持された転写フィルムの位置を認識する際、その表し方を示す説明図である。
【図8】本発明の精密位置決め可能な液圧転写フィルムを、主に平面的に示す種々の実施例である。
【図9】被転写体が開口部を有する場合、この開口部に対応するフィルム部分に位置検出用のマーキング(ターゲット)を施した転写フィルムを示す説明図である。
【図10】精密位置決め可能な液圧転写を繰り返す特定位置重ね合わせ液圧転写の一例を示す説明図である。
【図11】従来の液圧転写手法において、全く同様の転写を行っても、製品として微妙に転写パターンがずれる様子を示す説明図である。
【符号の説明】
【0093】
1 ピンポイント液圧転写装置
2 転写槽
3 転写フィルム供給装置
4 活性剤塗布装置
5 被転写体搬送装置
6 位置ズレ検出装置
7 位置ズレ修正装置
21 処理槽
22 オーバーフロー槽
23 循環管路
24 ポンプ
25 チェーンコンベヤ
26 送風装置
31 フィルムロール
32 ヒートロール
33 引出ロール
41 ローラコータ
51 マニュピュレータ(ロボットアーム)
52 アーム
53 チャッキング(ハンド)
55 コンベヤ
56 ホルダ
61 ワーク側検出装置
62 フィルム側検出装置
63 処理装置
71 制御盤
F 転写フィルム
J 治具
K 活性剤
L 転写液
OP 開口部
P 転写パターン
W 被転写体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担持シート上に適宜の転写パターンが塗着された転写フィルムを、転写槽内の液面上に浮遊支持し、その上方から被転写体搬送装置に保持させた被転写体を押し付け、これによって生じる液圧によって、被転写体に転写パターンを転写する方法において、
前記被転写体を転写液中に没入するにあたっては、被転写体搬送装置による被転写体の実際の保持位置を、正規位置と比較して被転写体の位置ズレを検出する一方、転写液面上に浮遊支持された転写フィルムの実際の位置を、正規位置と比較して転写フィルムの位置ズレを検出するとともに、いずれか一方または双方の位置ズレを補正した後、被転写体を転写液中に没入させ、
被転写体の所定位置に、転写フィルム上の所望の転写パターンをほぼ正確に転写するようにしたことを特徴とする精密位置決め可能な液圧転写方法。
【請求項2】
前記被転写体と転写フィルムとの位置ズレ補正は、いずれも被転写体搬送装置による被転写体の保持位置変更によって修正するものであることを特徴とする請求項1記載の精密位置決め可能な液圧転写方法。
【請求項3】
前記位置ズレの補正は、被転写体及び転写フィルムともに複数回にわたって正規位置との比較、補正を繰り返し行い得るようにしたことを特徴とする請求項1または2記載の精密位置決め可能な液圧転写方法。
【請求項4】
前記被転写体の実際の保持位置を検出するにあたっては、被転写体を正面、側面、平面の三方向から撮影し、保持位置を検出するようにしたことを特徴とする請求項1、2または3記載の精密位置決め可能な液圧転写方法。
【請求項5】
前記フィルム側の位置ズレを補正するにあたっては、転写フィルムの位置ズレを検出してから被転写体を没入させるまでの間のフィルムの膨潤度も加味して補正を行うようにしたことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の精密位置決め可能な液圧転写方法。
【請求項6】
前記転写フィルムの膨潤度を加味して転写フィルムの位置ズレを補正するにあたっては、転写フィルムが着水によって外縁部から先に膨潤して行く一方、フィルムの内側は外縁部よりも遅れて追従膨潤して行くことを考慮し、少なくともフィルムの外縁部と内側とにおいて膨潤による伸展変位量を検出し、フィルムの膨潤度が全体的に均一化する時間を推測し、該時間経過後に被転写体を転写フィルムに接触させるようにしたことを特徴とする請求項5記載の精密位置決め可能な液圧転写方法。
【請求項7】
転写液を貯留する転写槽と、
被転写体を転写槽に搬送する被転写体搬送装置とを具えて成り、
転写液面上に浮遊支持された転写フィルムの上方から被転写体搬送装置により適宜の姿勢で被転写体を押し付け、これによって生じる液圧によって、被転写体に転写パターンを転写する装置において、
この装置には、被転写体搬送装置に保持された被転写体の実際の保持位置を検出するワーク側検出装置と、
転写液面上に浮遊支持された転写フィルムの実際の位置を検出するフィルム側検出装置と、
これらワーク側及びフィルム側の実際の位置を、正規位置と比較してそれぞれの位置ズレを検出する処理装置と、
検出した双方の位置ズレをどのように修正するかを決定する制御盤とが設けられ、
また前記被転写体搬送装置には、被転写体の保持位置を補正する機能を別途付加して成り、
この被転写体搬送装置によってワーク側またはフィルム側のうち、少なくとも一方の位置ズレを補正した後、被転写体を転写液中に没入させ、被転写体の所定位置に、転写フィルム上の所望の転写パターンをほぼ正確に転写するようにしたことを特徴とする精密位置決め可能な液圧転写装置。
【請求項8】
前記被転写体搬送装置には、転写液面上に支持される転写フィルムの幅方向に相当するX方向と、この転写フィルムの送り方向または長手方向に相当するY方向と、この転写フィルムからの高さに相当するZ方向と、転写液面上での転写フィルムの回転角に相当するθとの補正が行えるマニピュレータが適用されることを特徴とする請求項7記載の精密位置決め可能な液圧転写装置。
【請求項9】
前記ワーク側検出装置には、画像認識ビデオカメラまたは高画質デジタルカメラが適用され、また検出の際には、被転写体を正面、側面、平面の三方向から撮影し、被転写体の実際の保持位置を検出するようにしたことを特徴とする請求項7または8記載の精密位置決め可能な液圧転写装置。
【請求項10】
担持シート上に適宜の転写パターンが乾燥状態に形成されて成り、転写にあたっては、転写パターンが形成されたインク面を上方に向けた状態で転写槽内の液面上に浮遊支持され、その上方から被転写体が押し付けられ、転写液による液圧によって、被転写体にインク面上の転写パターンを転写するようにした転写フィルムにおいて、
前記インク面には、転写液面上に浮遊支持された転写フィルムの位置を検出するための目印となるターゲットが形成されていることを特徴とする精密位置決め可能な液圧転写フィルム。
【請求項11】
前記転写フィルム上のターゲットは、実質的に転写に関与しない部位に施されるマーキングであることを特徴とする請求項10記載の精密位置決め可能な液圧転写フィルム。
【請求項12】
前記マーキングは、転写パターンを乾燥状態に形成するフィルム製作後に別途、スタンプにより付与されることを特徴とする請求項11記載の精密位置決め可能な液圧転写フィルム。
【請求項13】
前記転写フィルム上のターゲットは、外観的に明確に判別できるマーキングだけでなく、磁気的もしくは光学的に認識できるマーキングを含むことを特徴とする請求項10記載の精密位置決め可能な液圧転写フィルム。
【請求項14】
前記転写フィルムは、転写パターンが形成される転写インクが、転写が施される被転写体の化粧面のほぼ展開形状部分にのみ塗着され、この展開形状をターゲットにして、転写フィルムの位置検出が行われることを特徴とする請求項10記載の精密位置決め可能な液圧転写フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−213428(P2008−213428A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57954(P2007−57954)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(306026980)株式会社タイカ (62)
【Fターム(参考)】