説明

精製油脂の製造方法

【課題】副生成物が少なく、風味及び色相の良好な油脂を製造する方法の提供。
【解決手段】油脂に吸着剤を接触させる処理を行った後に、下記から選ばれる少なくともひとつの条件で油脂に水蒸気を接触させる処理を行う、精製油脂の製造方法。
(条件1)175℃以上205℃以下の温度範囲で油脂と水蒸気とが接触する時間が5〜110分、
(条件2)205℃超215℃以下の温度範囲で油脂と水蒸気とが接触する時間が5〜50分、及び
(条件3)215℃超230℃以下の温度範囲で油脂と水蒸気とが接触する時間が5〜30分。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副生成物が少なく、風味及び色相の良好な精製油脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂は身体の栄養素やエネルギーの補給源(第1次機能)として欠かせないものであるが、加えて、味や香りなど嗜好性を満足させる、いわゆる感覚機能(第2次機能)を提供するものとして重要である。更に、ジアシルグリセロールを高濃度に含む油脂は体脂肪燃焼作用等の生理作用(第3次機能)を有していることが知られている。
【0003】
植物の種子、胚芽、果肉等から圧搾されたままの油脂には、脂肪酸、モノアシルグリセロール、有臭成分等が含まれている。また、油脂を加工する際にはエステル交換反応、エステル化反応、水素添加処理等加熱工程を経ることで、微量成分が副生し、風味が低下する。油脂を食用油として使用するためにはこれら副生成物を除去することによる風味改善が必要である。そのため、高温減圧下で水蒸気と接触させる、いわゆる脱臭処理が一般的に行われている(特許文献1)。
また、ジアシルグリセロール高含有油脂においては、良好な風味とするためジアシルグリセロールに富む油脂に有機酸を添加した後、多孔性吸着剤で脱色処理し、脱臭処理を行う方法(特許文献2)や、酵素分解法により原料油脂を加水分解して得られた脂肪酸とグリセリンとをエステル化反応させた後、脱臭時間と脱臭温度が一定範囲内となるよう脱臭処理を行う方法(特許文献3)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平3−7240号公報
【特許文献2】特開平4−261497号公報
【特許文献3】特開2009−40854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、消費者の食用油脂への品質向上への要望が大きく、また風味や見た目に敏感な消費者の増加も著しい。このため、従来よりも更に純度が高く、風味及び色相の良好な油脂が望まれている。
しかしながら、風味改善のために行われている従来の脱臭操作によって、却って副生成物が増加してしまう場合があることが判明した。すなわち、脱臭処理を低い温度で行った場合、臭気成分の留去効果が小さいため風味・色相が悪く、高温で行う必要があったが、高温では別異の副生成物、グリシドール脂肪酸エステルが副生することが見出された。一方、脱臭処理を低温で行えば、副生成物の生成をある程度抑制できるものの、風味・色相の改善が不十分となる。ことに、ジアシルグリセロール含有量の高い油脂においては、かかる傾向が顕著であった。
従って、本発明の課題は、副生成物が少なく、風味及び色相の良好な油脂を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、油脂の精製操作について種々検討したところ、予め油脂に吸着剤を接触させる処理を行った後、水蒸気を特定の温度及び特定の時間で接触させる処理をすることで、副生成物の生成が抑制されること、更に斯かる処理を経た油脂は風味及び色相が良好であることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、油脂に吸着剤を接触させる処理を行った後に、下記から選ばれる少なくともひとつの条件で油脂に水蒸気を接触させる処理を行う、精製油脂の製造方法を提供するものである。
(条件1)175℃以上205℃以下の温度範囲で油脂と水蒸気とが接触する時間が5〜110分、
(条件2)205℃超215℃以下の温度範囲で油脂と水蒸気とが接触する時間が5〜50分、及び
(条件3)215℃超230℃以下の温度範囲で油脂と水蒸気とが接触する時間が5〜30分。
また、本発明は、ドイツ脂質科学会(DGF)標準法C−III 18(09)にて測定されるグリシドール脂肪酸エステルが7ppm以下であり、ジアシルグリセロールを20質量%以上含有する精製油脂を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、副生成物が少なく、風味及び色相の良好な精製油脂が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の製造方法に供する油脂とは、トリアシルグリセロール及び/又はジアシルグリセロールを含むものをいう。油脂としては、植物性油脂、動物性油脂のいずれでもよい。具体的な原料としては、菜種油、ひまわり油、とうもろこし油、大豆油、米油、紅花油、綿実油、牛脂、あまに油、魚油等を挙げることができる。
【0010】
トリアシルグリセロールに比べ、ジアシルグリセロールは精製工程において副生成物を生成しやすい傾向がある。したがって、本発明の製造方法には、ジアシルグリセロールを含有する油脂に適用するのがより好ましい。ジアシルグリセロールの含有量は20質量%(以下、単に「%」とする)以上が好ましく、50%以上がより好ましく、70%以上が更に好ましい。上限は特に規定されないが、99%以下が好ましく、98%以下がより好ましく、97%以下が更に好ましい。
【0011】
ジアシルグリセロールを含有する油脂は、油脂由来の脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応、油脂とグリセリンとのグリセロリシス反応等により得ることができる。これらの反応は、アルカリ金属又はその合金、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物もしくは炭素数1〜3のアルコキシド等の化学触媒を用いる化学法とリパーゼ等の酵素を用いる酵素法に大別される。なかでも、触媒としてリパーゼ等を用いて酵素的に温和な条件で反応を行うのが風味等の点で優れており好ましい。
【0012】
本発明の製造方法では、先ず、油脂に吸着剤を接触させる処理を行う。吸着剤としては、多孔質吸着剤が好ましく、例えば、活性炭、二酸化ケイ素、及び固体酸吸着剤が挙げられる。固体酸吸着剤としては酸性白土、活性白土、活性アルミナ、シリカゲル、シリカ・アルミナ、アルミニウムシリケート等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を用いることができる。なかでも、副生成物の含有量を低減する点、風味及び色相を良好とする点から、固体酸吸着剤が好ましく、酸性白土、活性白土が特に好ましい。
【0013】
酸性白土と活性白土は、ともに一般的な化学成分として、SiO2、Al23、Fe23、CaO、MgOなどを含有するものであるが、SiO2/Al23比が3〜12、特に4〜10であるのが好ましい。またFe23を1〜5%、CaOを0〜1.5%、MgOを1〜7%含有する組成のものが好ましい。
【0014】
活性白土は天然に産出する酸性白土(モンモリロナイト系粘土)を硫酸などの鉱酸で処理したものであり、大きい比表面積と吸着能を有する多孔質構造をもった化合物である。酸性白土を更に、酸処理することにより比表面積が変化し、脱色能の改良及び物性が変化することが知られている。酸性白土又は活性白土の比表面積は、酸処理の程度などにより異なるが、50〜400m2/gであるのが好ましく、pH(5%サスペンジョン)は2.5〜9、特に3〜7のものが好ましい。
酸性白土としては、例えば、ミズカエース#20、ミズカエース#400(以上、水澤化学工業(株)製)等の市販品を用いることができ、活性白土としては、例えば、ガレオンアースV2R、ガレオンアースNV、ガレオンアースGSF(以上、水澤化学工業(株)製)等の市販品を用いることができる。
【0015】
吸着剤の使用量は、濾過速度が早く生産性が良好である点、歩留まりが高い点から、油脂に対して2.0%未満が好ましく、更に0.1%〜2.0%未満、特に0.2〜1.5%、とりわけ0.3〜1.3%が好ましい。
【0016】
油脂と吸着剤の接触温度は、副生成物の含有量低減及び工業的生産性の点から、20〜150℃が好ましく、更に40〜135℃、特に60〜120℃が好ましい。また、接触時間は、同様の点から、3〜180分が好ましく、更に5〜120分、特に7〜90分、とりわけ15〜90分が好ましい。圧力は、減圧下でも常圧でもよいが、酸化抑制及び脱色性の点から減圧下が好ましい。
【0017】
本発明においては、次に特定の条件で油脂に水蒸気を接触させる。
本発明の製造方法において、油脂に水蒸気を接触させる処理は、基本的に減圧水蒸気蒸留で行われ、バッチ式、半連続式、連続式等が挙げられる。少量の場合はバッチ式を用い、多量になると半連続式、連続式を用いることが好ましい。半連続式の場合の装置としては、数段のトレイを備えた脱臭塔からなるガードラー式脱臭装置等が挙げられる。本装置は、上部から脱臭すべき油脂が供給され、油が下段のトレイへ間欠的に次々と下降しながら移動することにより脱臭される。連続式の場合の装置としては、脱臭塔内に気液接触効率と低圧力損失を両立した構造物が充填され、水蒸気との接触効率を向上させた薄膜脱臭装置等がある。
油脂に水蒸気を接触させる処理は、以上の薄膜脱臭装置またはトレイ式脱臭装置の単独で行う方法の他、これら薄膜脱臭装置を用いた脱臭処理とトレイ式脱臭装置を用いた処理とを組み合わせて行う方法があるが、本発明の場合には、装置コスト、風味等の点から、薄膜式カラムまたはトレイ式脱臭装置の単独で行う方法が好ましい。
【0018】
用いる水蒸気量は油脂に対して0.3〜20%、特に0.5〜10%とすることが、油脂特有の「旨味」「コク味」等の風味を良好にする点から好ましい。また、圧力は0.01〜4.0kPa、特に0.06〜1.0kPaとすることが、同様の点から好ましい。
【0019】
油脂と水蒸気の接触は、下記から選ばれる少なくともひとつの条件で行う。
(条件1)175℃以上205℃以下の温度範囲で油脂と水蒸気とが接触する時間が5〜110分、
(条件2)205℃超215℃以下の温度範囲で油脂と水蒸気とが接触する時間が5〜50分、及び
(条件3)215℃超230℃以下の温度範囲で油脂と水蒸気とが接触する時間が5〜30分。
この条件とすることで、副生成物の生成を抑制することができると共に、風味及び色相を改善することができる。なお、各条件における油脂と水蒸気との接触時間とは、規定されている温度範囲に含まれる状態の時間の合計を意味し、温度が当該範囲に含まれている限り、温度が変化しても構わない。従って、昇温及び降温の時間も、当該温度範囲に含まれる限り接触時間に含むものとする。また、温度が変化した結果、断続的に当該温度範囲に含まれる場合は、当該温度範囲に含まれる時間の総計をもって当該時間とする。
【0020】
接触温度が175℃以上205℃以下の場合(条件1)、副生成物の生成を抑制する点、風味及び色相を良好とする点から、接触時間は10〜90分が好ましく、特に15〜70分が好ましい。
また、205℃超215℃以下で接触させる場合(条件2)、同様の点から8〜45分が好ましく、特に12〜40分が好ましい。
215℃超230℃以下で接触させる場合(条件3)、同様の点から、7〜27分が好ましく、特に10〜24分が好ましい。
上記条件1ないし条件3は、複数の条件を満たしてもよいが、副生成物の生成を抑制する点、風味及び色相を良好とする点からひとつの条件を用いることが好ましい。同様の点から、条件1又は条件2が好ましく、条件1がより好ましい。
【0021】
本発明の製造方法において、油脂は、吸着剤を接触させる処理の前に、或いは水蒸気を接触させる処理の前又は後に、通常油脂に対して用いられる精製工程を行ってもよい。具体的には、トップカット蒸留工程、酸処理工程、水洗工程等を挙げることができる。
トップカット蒸留工程は、油脂を蒸留することにより、油脂から脂肪酸等の軽質の副生物を除去する工程をいう。
酸処理工程は、油脂にクエン酸等のキレート剤を添加、混合する工程をいう。
水洗工程は、油脂に水を接触させ、油水分離を行う操作を行う工程をいう。水洗により水溶性の副生成物を除去することができる。水洗工程は複数回(例えば3回)繰り返すことが好ましい。
【0022】
本発明の処理の結果、精製工程における副生成物の生成、特にグリシドール脂肪酸エステルの生成を抑えることができ、副生成物が少なく、且つ風味及び色相が良好な精製油脂を得ることができる。
グリシドール脂肪酸エステルは、ドイツ脂質科学会標準法C−III 18(09)(DGF Standard Methods 2009 (14. Supplement),C−III 18(09),”Ester−bound 3−chloropropane−1,2−diol (3−MCPD esters) and glycidol(glycidyl esters)”)記載の方法にて測定することができる。本測定方法は、3−クロロプロパン−1,2−ジオールエステル(MCPDエステル)並びにグリシドール及びそのエステルの測定方法である。本発明においては、グリシドールのエステルを定量するため、当該標準法7.1記載のオプションA(”7.1 Option A:Determination of the sum of ester−bound 3−MCPD and glycidol”)の方法を用いる。測定方法の詳細は実施例に
記載した。
グリシドール脂肪酸エステルとMCPDエステルとは異なる物質ではあるが、本発明においては、上記測定方法にて得られた値をもってグリシドール脂肪酸エステル含有量とする。
【0023】
本発明の精製油脂におけるグリシドール脂肪酸エステルの含有量は、7ppm以下、更に6ppm以下、特に5ppm以下、殊更3ppm以下であることが好ましい。
【0024】
本発明の精製油脂の色相は、実施例記載の方法で測定される10R+Yの値が20以下、更に18以下、特に16以下、殊更15以下、とりわけ14以下であることが好ましい。
【0025】
また、本発明の精製油脂のジアシルグリセロールの含有量は20%以上であるが、30%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、70%以上が更に好ましい。上限は特に規定されないが、99%以下が好ましく、98%以下がより好ましく、97%以下が更に好ましい。
【0026】
本発明の精製油脂には、一般の食用油脂と同様に、保存性及び風味安定性の向上を目的として、抗酸化剤を添加することができる。抗酸化剤としては、天然抗酸化剤、トコフェロール、アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸ステアレート、BHT、BHA、リン脂質等が挙げられる。
【0027】
本発明の精製油脂は、一般の食用油脂とまったく同様に使用でき、油脂を用いた各種飲食物に広範に適用することができる。例えば、ドリンク、デザート、アイスクリーム、ドレッシング、トッピング、マヨネーズ、焼肉のたれ等の水中油型油脂加工食品;マーガリン、スプレッド等の油中水型油脂加工食品;ピーナッツバター、フライングショートニング、ベーキングショートニング等の加工油脂食品;ポテトチップ、スナック菓子、ケーキ、クッキー、パイ、パン、チョコレート等の加工食品;ベーカリーミックス;加工肉製品;冷凍アントレ;冷凍食品等に利用することができる。
【実施例】
【0028】
〔分析方法〕
(i)色相
色相は、日本油化学会編「基準油脂分析試験法2003年版」中の「色(2.2.1−1996)」に従って、ロビボンド比色計を用い5.25インチセルにより測定し、次の式(1)で求めた値をいう。
色相=10R+Y (1)
(式中、R=Red値、Y=Yellow値)
【0029】
(ii)グリシドール脂肪酸エステルの測定(ドイツ脂質科学会(DGF)標準法C−III 18(09) オプションA準拠)
フタ付試験管に油脂サンプル約100mgを計量し、内標(3−MCPD−d5/t−ブチルメチルエーテル)50μL、t−ブチルメチルエーテル/酢酸エチル混合溶液(体積比8:2)500μL、及び0.5Nナトリウムメトキシド1mLを添加して攪拌した後、10分間静置した。ヘキサン3mL、3.3%酢酸/20%塩化ナトリウム水溶液3mLを添加し攪拌した後、上層を除去した。更にヘキサン3mLを添加し攪拌した後、上層を除去した。フェニルボロン酸1g/95%アセトン4mL混合液を250μL添加して攪拌した後、密栓し、80℃で20分間加熱した。これにヘキサン3mLを加え攪拌した後、上層をガスクロマトグラフ−質量分析計(GC−MS)に供して、グリシドール脂肪酸エステルの定量を行った。なお、グリシドール脂肪酸エステル含有量が0.144ppm以下の場合をND(検出限界以下)とした。
【0030】
(iii)グリセリド組成
ガラス製サンプル瓶に、油脂サンプル約10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で15分間加熱した。これに水1.0mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して分析した。
【0031】
〔風味〕
風味の評価は、5人のパネルにより、各人1〜2gを生食し、下記に示す基準にて官能評価することにより行い、その平均値を四捨五入して示した。なお、4以上が消費者への受け入れ性がよいものと判断される。
〔風味の評価基準〕
5:非常に良好
4:良好
3:やや良好
2:不良
1:非常に不良
【0032】
〔原料油脂の調製1〕
未脱臭油脂を原料とした大豆油脂肪酸:菜種油脂肪酸=7:3(質量比)の混合脂肪酸100質量部とグリセリン15質量部とを混合し、酵素によりエステル化反応を行った。得られたエステル化物から、トップカット蒸留により脂肪酸とモノアシルグリセロールを除去し、DAG脱酸油(ジアシルグリセロール86%)を得た。色相は44、グリシドール脂肪酸エステルは1.8ppmであった。
【0033】
〔吸着剤接触処理〕
表1に示す条件(1)で、DAG脱酸油を吸着剤と攪拌しながら減圧下で接触処理後、吸着剤を濾別し、油脂サンプルa〜fを得た。
【0034】
〔水蒸気接触処理〕
得られた油脂サンプルa〜fを、80℃にて酸処理(50%クエン酸水溶液を0.5%添加)、油脂に対して10%の蒸留水を用いた水洗を3回処理した後、表1に示す条件(2)でバッチ式の脱臭処理を行った。500MLガラス製クライゼンフラスコに、水洗油200gを投入した後、水蒸気(3%/h-対油)と接触処理して、精製油脂を得た(実施例1〜15及び比較例1〜5)。結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
〔吸着剤との接触処理を省略したDAG水洗油の水蒸気接触処理〕
DAG脱酸油を、酸処理(50%クエン酸水溶液を0.5%添加)、水洗(蒸留水3回)処理後、表2に示す条件でバッチ式の脱臭処理を行った。500MLガラス製クライゼンフラスコに、水洗油200gを投入した後、水蒸気(3%/h-対油)と接触処理して、脱臭サンプルを得た(比較例6〜8)。結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
表1より明らかなように、吸着剤との接触処理を追加したDAG水洗油を特定の条件下で水蒸気接触処理することで、グリシドール脂肪酸エステルの生成を抑制でき、且つ良好な風味及び色相とすることができた。これに対し、表2に示すように、吸着剤との接触処理を省略したDAG水洗油を水蒸気接触処理した場合、温度が高いとグリシドール脂肪酸エステルが生成され、反対に温度を低くするとグリシドール脂肪酸エステルはある程度低くなるが、風味が不十分で外観も悪かった。
【0039】
〔原料油脂の調製2〕
脱臭菜種油97.5質量部とグリセリン2.5質量部とを混合し、脱水後、ナトリウムメチラート0.26%添加して、105℃、2時間、700Paの条件でグリセロリシス反応を行った。得られたグリセロリシス反応物を、80℃にて酸処理(50%クエン酸水溶液を0.8%添加)、グリセロリシス反応物に対して10%の蒸留水を用いた水洗を3回処理し、DAG水洗油(ジアシルグリセロール34%)を得た。色相は45、グリシドール脂肪酸エステルは108ppmであった。
【0040】
〔吸着剤接触処理〕
表3に示す条件(1)で、DAG水洗油を吸着剤と攪拌しながら減圧下で接触処理後、吸着剤を濾別し、油脂サンプルgを得た。
【0041】
〔水蒸気接触処理〕
得られた油脂サンプルgを、表3に示す条件(2)でバッチ式の脱臭処理を行った。500MLガラス製クライゼンフラスコに、脱色油200gを投入した後、水蒸気(3%/h-対油)と接触処理して、精製油脂を得た(実施例16、17)。結果を表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
〔吸着剤との接触処理を省略したDAG水洗油の水蒸気接触処理〕
グリセロリシス反応により得られた上記DAG水洗油を、表4に示す条件でバッチ式の脱臭処理を行った。500MLガラス製クライゼンフラスコに、水洗油200gを投入した後、水蒸気(3%/h-対油)と接触処理して、脱臭サンプルを得た(比較例9)。結果を表4に示す。
【0044】
【表4】

【0045】
表3より明らかなように、吸着剤との接触処理を追加したDAG水洗油を特定の条件下で水蒸気接触処理することで、グリシドール脂肪酸エステルの含有量が少なく、且つ風味及び色相が良好な精製油脂を得ることができた。これに対し、表4に示すように、吸着剤との接触処理を省略した場合は、グリシドール脂肪酸エステルの含有量は高く、風味及び色相も不十分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂に吸着剤を接触させる処理を行った後に、下記から選ばれる少なくともひとつの条件で油脂に水蒸気を接触させる処理を行う、精製油脂の製造方法。
(条件1)175℃以上205℃以下の温度範囲で油脂と水蒸気とが接触する時間が5〜110分、
(条件2)205℃超215℃以下の温度範囲で油脂と水蒸気とが接触する時間が5〜50分、及び
(条件3)215℃超230℃以下の温度範囲で油脂と水蒸気とが接触する時間が5〜30分。
【請求項2】
吸着剤が、活性炭、二酸化ケイ素、及び固体酸から選ばれる少なくとも1種である、請求項1記載の精製油脂の製造方法。
【請求項3】
固体酸が、酸性白土、活性白土、活性アルミナ、シリカゲル、シリカ・アルミナ、及びアルミニウムシリケートから選ばれる少なくとも1種である、請求項2記載の精製油脂の製造方法。
【請求項4】
固体酸が、酸性白土及び活性白土から選ばれる少なくとも1種である、請求項2記載の精製油脂の製造方法。
【請求項5】
吸着剤の使用量が、油脂に対して2.0質量%未満である請求項1〜4いずれか1項に記載の精製油脂の製造方法。
【請求項6】
油脂がジアシルグリセロールを20質量%以上含有するものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の精製油脂の製造方法。
【請求項7】
ドイツ脂質科学会(DGF)標準法C−III 18(09)にて測定されるグリシドール脂肪酸エステルが7ppm以下であり、ジアシルグリセロールを20質量%以上含有する精製油脂。

【公開番号】特開2011−144343(P2011−144343A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83199(P2010−83199)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】