説明

糖化タンパク質濃度測定方法及びバイオセンサ

【目的】 簡単な操作かつ短時間で試料中の糖化タンパク質濃度を定量できるようにする。
【構成】毛細管現象によって試料開口部31から吸い上げ、前処理部32に不織布34に担持させて設けたプロテアーゼによって試料を処理する。その後、試料を流路33に設けた電極系22に導き、ポリマーで作用極22aに固定化した酵素と、プロテアーゼ処理による分解生成物とを反応させる。そして、電極系22からの電気信号として検出される、酵素の反応量に基づき、試料中の糖蛋白質濃度を求める。なお、酵素を固定化するポリマーとしては、水溶性光硬化性樹脂又は固体高分子電解質を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液体試料中の糖化タンパク質濃度を測定する糖化タンパク質濃度測定方法及び、このような測定を行うためのバイオセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特許文献1に記載のように、糖化タンパク質の血中濃度が過去の一定期間の平均血糖値を反映しており、その血中濃度の測定値が、糖尿病の症状の診断及び管理の重要な指標となり得ることが知られている。
また、特許文献1には、この糖化タンパク質の血中濃度を、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(FAOD)を利用して測定する方法が開示されている。また、その測定を行う際、FAODと試料とを反応させる前に、プロテアーゼにより試料を前処理して糖化タンパク質を糖化ペプチド及び糖化アミノ酸に分解しておくことにより、FAODの反応速度を高め、糖化タンパク質の検出感度を高めることができることも開示されている。
【特許文献1】国際公開第98/48043号パンフレット
【0003】
一方、0.3〜10μL(マイクロリットル)程度の液体試料をセンサユニット内に吸い上げ、センサユニット内部で種々の試薬により試料を処理してその反応を計測することにより、試料の分析を行う手法が種々提案されている。また特に、試薬として酵素を用い、酵素の基質特異性を利用して試料中の特定の物質の濃度を測定可能なバイオセンサは、種々の物質を含む生体試料の分析に適するため、医療用の検査機器を始め、様々な分野で用いられるようになっている。
【0004】
このようなバイオセンサとしては、例えば特許文献2に記載のものが知られている。
特許文献2には、ヒトの全血のサンプルからグルコース濃度を測定する電気化学のバイオセンサが簡易血糖値計として開示されている。バイオセンサには試料の吸引口があり、検査試料である全血をこの吸引口に加えると、全血は毛細管現象により毛細管状充填室に引き込まれる。そして、毛細管状充填室の奥に空気口が形成されているために、空気を逃がしながら毛細管状充填室を全血で満たすことができる。また、この毛細管状充填室には作用電極と対電極が配置されていて、血球成分を含んだ全血の状態でグルコース濃度に相関した電流測定値を得て、簡易的に血糖値を測定できる構造になっている。
【特許文献2】特開2002−310973号公報(第6−8頁)
【0005】
また、微量の血液試料を分析する装置としては、特許文献3に記載のものも知られている。
特許文献3には、遠心操作により血漿分離が可能な血液分析装置において、血液試料の流路に、遠心分離時の遠心方向に血球成分が溜まる部分を配置し、そこに遠心分離により血球成分を集積させ、血漿成分が上清みとなるように遠心分離することが開示されている。この血液分析装置では、試料となるヒト全血の導入のために、排出口に外部ポンプを取り付けて、血液吸引口から吸引負圧によって全血を引き込んでいる。また、遠心分離後の血漿成分の移動も同様に、外部ポンプによる吸引負圧によって分析位置に導かれる構造になっている。
【特許文献3】特開2004−109082号公報(第6−9頁)
【0006】
また、バイオセンサとしては、特許文献4に記載のものも知られている。
特許文献4には、酵素反応層における電気化学的な反応検出を妨害する物質を除去するための妨害物質除去部を試料の供給部に設けることにより、反応検出について安定的な応答が得られるようにすることが開示されている。なお、妨害物質とは、具体的には還元性物質を指し、妨害物質除去部は、これを酸化する物質を配置することにより形成されるものである。
【特許文献4】特公平8−20400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1にも記載されているが、従来知られている分析法では、試料をプロテアーゼにより前処理する場合、前処理後の試料をFAODと反応させる前にプロテアーゼを不活性化させておかないと、FAOD自身がプロテアーゼにより分解されてしまい、結果として糖化タンパク質の検出感度が低下してしまう。
そしてこのため、従来知られている方法では、高感度の検出結果を得るためには、試料をプロテアーゼにて処理した後にそのプロテアーゼを不活性化あるいは除去するといった面倒な手順が必要となり、分析を簡単な操作かつ短時間で行うことが難しかった。
特許文献2乃至4においても、プロテアーゼに対する対策については、特に記載されていない。
【0008】
この発明は、このような問題を解決し、簡単な操作かつ短時間で試料中の糖化タンパク質濃度を定量できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、試料をプロテアーゼで処理して得た分解生成物質を特定の酵素と反応させることにより上記試料中の糖化タンパク質濃度を定量する場合において、上記試料をプロテアーゼにより前処理した後、その試料を適当なポリマーにより固定化した上記特定の酵素と反応させ、その反応の状態を検出するようにすれば、プロテアーゼ処理後にプロテアーゼの不活性化や除去を行わなくても、上記試料中の糖化タンパク質濃度を定量可能であることを見出した。
本発明は、このような手法により試料中の糖化タンパク質濃度を定量する糖化タンパク質濃度測定方法を提供する。
【0010】
なお、上記のポリマーとしては、水溶性光硬化性樹脂や固体高分子電解質、特に、感光基としてアジド基あるいはスリチルピリジニウム基を有する光硬化性ポリビニルアルコール樹脂及び、フッ素樹脂とパーフルオロスルホン酸樹脂との共重合物質である固体高分子電解質が有用であった。
また、上記の定量に用いる特定の酵素の具体例としては、濃度を測定しようとする糖化タンパク質のプロテアーゼ分解物質を基質とするフルクトシルアミノ酸酸化酵素(FAOD)が考えられる。
【0011】
また、上記試料と上記特定の酵素との反応の状態の検出は、電気化学方式又は分光方式で行うことができる。
このうち、検出を電気化学方式で行う場合、上記試料を、上記水溶性光硬化性樹脂により人工電子メディエータと共に電極上に固定した前記特定の酵素と反応させ、反応の状態を、上記特定の酵素を固定した電極と、所定の検出用電極との間の電流値により検出することができる。この場合、人工電子メディエータとしては、例えばm−PMS(1-methoxy-5-methylphenazinium methyl sulfate)やルテニウム(Ru)錯体を用いることができる。
【0012】
また、上記試料を、上記固体高分子電解質により白金電極上に固定した前記特定の酵素と反応させ、反応の状態を、上記特定の酵素を固定した白金電極と、所定の検出用電極との間の電流値により検出することもできる。
また、上記の前処理において、上記プロテアーゼにより前記試料に含まれる糖化タンパク質を分解する分解工程に加え、上記試料に含まれる、上記特定の酵素との反応の検出を妨害する妨害物質を除去する処理を行うとよい。この妨害物質としては、例えばアスコルビン酸、ビリルビン、尿酸等が考えられ、それぞれ試料にアスコルビン酸オキシダーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、ウリカーゼを添加することにより除去することができる。
【0013】
また、上記前処理において、上記試料のpH及び塩濃度を上記特定の酵素の反応に適した値に調整する処理を実行するようにしてもよい。この処理は、例えばpH及び塩濃度調整用の塩を試料に添加して行うことができる。
また、試料が血液である場合、上記前処理において、上記試料に抗血液凝固剤を添加する処理を実行するようにしてもよい。抗血液凝固剤としては、例えばクエン酸ナトリウム、ヘパリン、あるいはEDTA(ethylenediaminetetraacetic acid)・2Kを用いることが考えられるが、反応検出への影響を考慮すると、ヘパリンが特に好適であった。
【0014】
これらの妨害物質除去、pH及び塩濃度調整、および抗血液凝固剤添加は、複数組み合わせて行ってもよい。また、これらの処理に使用する酵素又は試薬を、それぞれ不織布の異なる断片に担持させておき、試料をその各断片に浸透させることにより行ってもよい。
【0015】
また、この発明は、毛細管現象によって試料を吸い上げる吸引空洞と、その吸引空洞と連続する分析空洞とを備えたバイオセンサであって、上記吸引空洞にプロテアーゼを備え、上記分析空洞に、上記試料のプロテアーゼ処理による分解生成物と反応させる特定の酵素を、ポリマーにより固定化した状態で備え、上記分析空洞に、上記特定の酵素による反応の状態を外部から検出可能とするための電極又は透明部をさらに備え、上記特定の酵素を固定化しているポリマーが水溶性光硬化性樹脂又は固体高分子電解質としたバイオセンサも提供する。
このようなバイオセンサは、上述の糖化タンパク質濃度測定方法による糖化タンパク質濃度測定に有用である。
【発明の効果】
【0016】
以上のようなこの発明による糖化タンパク質濃度測定方法によれば、簡単な操作かつ短時間で試料中の糖化タンパク質濃度を定量することができる。
また、この発明のバイオセンサによれば、このような糖化タンパク質濃度測定方法による糖化タンパク質濃度測定を簡単な操作かつ短時間で行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明を実施するための最良の形態につき説明する。
ここでは、血清試料中の糖化タンパク質濃度を、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(FAOD)を利用して測定する方法について説明するが、測定対象の試料や用いる酵素等がこれに限られないことは、もちろんである。
【0018】
1.プロテアーゼの選定
まず、糖化タンパク質濃度を測定する試料の前処理に好適なプロテアーゼについて検討を行った。国際公開第98/48043号パンフレットに記載の通り、FAODを利用して糖化タンパク質濃度の検出を行う場合、FAODと試料とを反応させる前に、プロテアーゼにより試料を前処理して糖化タンパク質を糖化ペプチド及び糖化アミノ酸に分解しておくことにより、FAODの反応速度を高め、糖化タンパク質の検出感度を高めることができる。
【0019】
そこで、糖化タンパク質を含む血清試料を種々のプロテアーゼで処理し、FAODの反応基質である糖化アミノ酸(フルクトシルアミノ酸:FA)を効率よく生成するプロテアーゼを選定した。
各プロテアーゼの反応性評価は、以下の通り行った。
【0020】
試薬の調整
<プロテアーゼ溶液>
10mM pH8 リン酸緩衝液
2500U/mL 評価対象のプロテアーゼ
<管理血清>
糖化タンパク質を含む管理血清
<コントロール溶液>
10mM pH8 リン酸緩衝液
<酵素溶液>
72mM 4-AA(4-アミノアンチピリン) 20μL
72mM TODB(N,N-Bis(4-sulfobutyl)-3-methylaniline, disodium salt) 20μL
40U/mL POD(ペルオキシダーゼ) 20μL
100U/mL FAOD(フルクトシルアミノ酸酸化酵素)20μL
計80μL
【0021】
なお、「U」は「ユニット」の意味である。
また、FAODとしては、特開2004−275168号公報に記載の、Pichia sp.N1−1株(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター 寄託番号FERM P−17326)由来のフルクトシルアミン酸化酵素(フルクトシルアミノ酸酸化酵素としての活性を有する)を用いた。以下の実験でも特に断らない限り同様である。
【0022】
操作
A:評価対象のプロテアーゼを含むプロテアーゼ溶液225μLに管理血清15μLを加え、37℃にて種々の時間インキュベートした。
B:インキュベート後、4℃−5,000×gの遠心条件でスピンカラム(10,000NMWL)にてプロテアーゼを除去した(「NMWL」は分画分子量を示す)。
C:Bで得られた濾液140μLに酵素溶液80μLを加え反応溶液とし、546nmの吸光度を測定した。
D:反応溶液を37℃で5minインキュベート後、再度546nmの吸光度を測定した。
E:コントロール試料として管理血清の代わりにコントロール溶液を用いて上記A〜Dを行った。
【0023】
この操作によるプロテアーゼ反応性の測定原理は以下の通りである。
すなわち、操作Aにより、血清中の糖化タンパク質をプロテアーゼにより糖化アミノ酸に分解する。その後、プロテアーゼを除去した後、操作Cにより、糖化アミノ酸とFAODを作用させ、グルコソン、アミノ酸、過酸化水素を生成させる。そして、その過酸化水素はPOD存在下、4−アミノアンチピリンとTODBとを酸化縮合させ、色素を生成させる。そして、546nmの吸光度を測定することにより、色素生成量からFAODが触媒した酸化反応の量を求めることができる。
そして、糖化タンパク質の初期濃度が一定であれば、反応量が大きいものほど、プロテアーゼによるFAODの反応速度向上及び糖化タンパク質の検出感度向上の効果が大きいことがわかる。
【0024】
発明者は、種々のプロテアーゼについて上記の評価を行った。しかし、Protease Type I、Achromopeptidase、Kallikrein、Protease Type X (全てsigma社製)については、ほとんど反応性が見られなかった(FAODの反応基質となる糖化アミノ酸(FA)は生成されなかった)。また、α-Chymotrypsin、Protease Type 24は、多少の反応性が見られたものの、十分とは言えなかった。
一方、Subtilisin A (Sigma社製)については、効率よく糖化タンパク質を分解し、FAODの反応基質となる糖化アミノ酸を生成することが見出された。
【0025】
図1に、評価対象のプロテアーゼとしてSubtilisin Aを用いた場合の測定結果を示す。図1において、グラフの横軸は、上記操作Aでのインキュベート時間、縦軸は上記操作Dで得られた吸光度と操作Cで得られた吸光度との差である。
また、この結果を踏まえ、以後の実験ではプロテアーゼとしてSubtilisin A (Sigma社製)を用いることとした。
【0026】
2.プロテアーゼ反応に対するpHの影響
次に、プロテアーゼ反応の至適pHについて、以下の通り検討した。
【0027】
試薬の調整
<プロテアーゼ溶液>
10mM pH12 POPSO緩衝液
50,000U/mL Subtilisin A (評価対象のプロテアーゼ)
pHコントロール試薬:NaOH
POPSO: Piperazine-1,4-bis(2-hydroxy-3-propanesulfonic acid)
<管理血清>
糖化タンパク質を含む管理血清
<酵素溶液>
72mM 4-AA(4-アミノアンチピリン) 20μL
72mM TODB(N,N-Bis(4-sulfobutyl)-3-methylaniline, disodium salt) 20μL
40U/mL POD(ペルオキシダーゼ) 20μL
100U/mL FAOD(フルクトシルアミノ酸酸化酵素)20μL
計80μL
【0028】
操作
A:NaOHにて反応場のpHを変化させた各プロテアーゼ溶液225μLに管理血清15μLを加え、25℃で20minインキュベートした。
B:インキュベート後、4℃−5,000×gの遠心条件でスピンカラム(10,000NMWL)にてプロテアーゼを除去した。
C:Bで得られた濾液140μLに酵素溶液80μLを加え1分間あたりの546nmの吸光度変化を測定し、その値をXとした。
D:コントロール試料として各pHのプロテアーゼ溶液と管理血清の混合溶液をインキュベートせず遠心し、濾液に糖化アミノ酸を終濃度500μMとなるように添加し、酵素溶液80μLを加え1分間あたりの546nmの吸光度変化を測定し、その値をYとした。
【0029】
この操作によるプロテアーゼ反応性の測定原理は、上述の1.の場合と同様である。また、各pHでの反応速度は、試料中の糖化アミノ酸濃度に比例する。
そこで、上記の操作で得られた結果を基に、下記の糖化アミノ酸換算式(式1)より各pHでプロテアーゼを作用させた際の反応効率を見積もり、これらを比較した。

生成した糖化アミノ酸(μM)=[X(ΔAbs./min)/Y(ΔAbs./min)]×500
・・・(式1)
【0030】
この結果を図2に示す。図2において、横軸はプロテアーゼ溶液のpH、縦軸は(式1)に従って求めた糖化アミノ酸量である。
この結果から、プロテアーゼ反応場のpHが高いほど、Subtilisin Aにより効率よく糖化タンパク質が分解され、FAODの反応基質である糖化アミノ酸(FA)が生成されることがわかる。
【0031】
3.アスコルビン酸酸化酵素(ASOD)及びビリルビン酸化酵素(BOD)による
反応妨害物質除去反応に対するpHの影響
一般に、血中に含まれるアスコルビン酸やビリルビンといった還元性物質が、酸化酵素と基質との反応を電気化学的に測定する際に、その測定値に影響を与え、ノイズを生じさせる反応妨害物質となることが知られている。
【0032】
例えば、軽部征夫監修、「CMCテクニカルライブライブラリー113 バイオセンサー」、シーエムシー出版、2002年5月、p.157−163に記載されているように、電気化学的に検出する電極活物質として過酸化水素を用いて反応を検出する場合、アスコルビン酸やビリルビンの酸化電位が過酸化水素のそれに近いため、酵素電極での測定電流が、(反応で生成した過酸化水素量+存在する還元性物質量)に応じた値となり、見かけの電流値が上昇してしまう。
【0033】
また、このような電流値の上昇を抑制する目的で、過酸化水素より酸化電位の低いメディエータを用いたとしても、還元性物質によりメディエータが還元されてしまい、測定電流が、(反応で生成した還元型メディエータ量+還元性物質により還元された還元型メディエータ量)に応じた値となり、やはり見かけの電流値が上昇してしまう。
【0034】
従って、血液試料について、FAODを用いて糖化タンパク質量を電気化学的に測定しようとする場合、試料にアスコルビン酸酸化酵素やビリルビン酸化酵素を添加し、予め血液試料中のアスコルビン酸及びビリルビンを酸化して、これらの物質が測定に影響を与えないようにすることが好ましい。
そこで、アスコルビン酸酸化酵素(ASOD)及びビリルビン酸化酵素(BOD)による反応妨害物質除去反応の至適pHについて、以下の通り検討した。なお、ASODもBODも共にアスコルビン酸を酸化することが知られているため、評価には、反応妨害物質としてアスコルビン酸を用いることとした。
【0035】
試薬の調整
<アスコルビン酸溶液>
0, 25, 50, 100μM アスコルビン酸
10mM POPSO緩衝液
pHコントロール試薬:NaOH
<DCIP(2,6-ジクロロフェノールインドフェノール)溶液>
3mM DCIP水溶液
<酵素>
ASOD(オリエンタル酵母工業株式会社製)
BOD(天野エンザイム株式会社製)
【0036】
操作
A:NaOHにてpHを変化させた各濃度のアスコルビン酸溶液95μLにDCIP溶液5μLを加え、1分間あたりの600nmの吸光度変化を測定し、各pHでのアスコルビン酸の検量線を作成した。
B:各pHの100mMアスコルビン酸溶液に酵素を2U/mLとなるように添加後、25℃で5minインキュベートした。
C:インキュベート後、4℃−5,000×gの遠心条件でスピンカラム(10,000NMWL)にて酵素を除去した。
D:Cで得られた濾液95μLにDCIP溶液5μLを加え、1分間あたりの600nmの吸光度変化を測定し、Aで作成した検量線よりアスコルビン酸消費量を評価した。
DCIP水溶液は、アスコルビン酸の存在下では還元されて脱色されるため、吸光度の変化量から、溶液中に存在(残存)するアスコルビン酸の濃度を定量することができる。
【0037】
以上の結果を図3に示す。図3において、横軸は、アスコルビン酸溶液のpHを、縦軸は、操作Dで測定した濾液において、酵素添加前のアスコルビン酸溶液に含まれていたアスコルビン酸がどの程度減少していたかを示す。
この結果から、ASOD,BOD共に、アスコルビン酸酸化の反応性はpH依存性があることが判る。また、高pH条件では、BODが高い反応性を示した。従って、前処理にて共存するプロテアーゼの反応の至適pHが高いことから、反応妨害物質であるアスコルビン酸除去には酵素としてBODが好ましいことが判る。
【0038】
4.抗血液凝固剤の酵素活性に対する影響
血液試料について分析を行う場合、その凝固を防止することが好ましい。そして、凝固を防止するための抗血液凝固剤としては、例えばクエン酸ナトリウム、ヘパリン、EDTA−2K等が知られている。
そこで、これらの抗血液凝固剤につき、FAODを用いた糖化タンパク質検出への影響を調べるため、抗血液凝固剤のFAOD活性及びプロテアーゼ活性に対する影響について以下の通り検討した。
【0039】
操作(FAOD活性に対する影響について)
A:10mM−リン酸緩衝液(pH8)を用いた各濃度レベル(後述)の抗血液凝固剤溶液にFAODを終濃度0.5U/mLとなるように混合し、25℃で3minインキュベートしFAOD溶液とした。
B:30mM-4-AA, 30mM-TODB, 40U/mL-POD, 200μM-糖化アミノ酸溶液をそれぞれ10μLずつ混合し、40μLのFAOD活性測定用試薬とした。
C:160μLのFAOD溶液に対し、40μLのFAOD活性測定用試薬を添加し、1分間あたりの546nmの吸光度変化を測定して、FAODの残存活性を求めた。
ここでは、糖化アミノ酸濃度は一定であるから、FAODによる反応速度は、FAODの残存活性に比例する。
【0040】
操作(プロテアーゼ活性に対する影響について)
A:10mM−リン酸緩衝液(pH8)を用いた各濃度レベル(後述)の抗血液凝固剤溶液にプロテアーゼを終濃度0.5mg/mLとなるように混合し、30℃で5minインキュベートしプロテアーゼ溶液とした。
B:プロテアーゼ溶液にアゾカゼインを終濃度0.1wt%となるように混合し、30℃で5minインキュベートし反応液とした。
C:200μLの反応液に100μLの15%-トリクロロ酢酸水溶液を加えて反応を停止させた反応液を遠心し未反応のアゾカゼインを沈降させた。
D:100μLの上澄み液に100μLの500mM-NaOH水溶液を添加し、440nmの吸光度を測定してプロテアーゼ活性測定を行った。
【0041】
なお、実験は、以下の表1に示す各抗血液凝固剤の、各濃度レベルについて行った。濃度レベルは、一般的に用いられる各抗血液凝固剤濃度を濃度レベル1、濃度レベル1の2.5倍濃度を濃度レベル2、濃度レベル1の10倍濃度を濃度レベル3、未添加は濃度レベル0として定めた。表中の数字は、手順Aでのインキュベート時における濃度である。
【表1】

【0042】
図4に、FAOD活性に対する影響についての結果を、図5に、プロテアーゼ活性に対する影響についての結果を示す。これらの図において、縦軸は、抗血液凝固剤の濃度レベル0の場合のFAOD活性を100%とした場合の、各濃度レベルにおける比活性を示す。
これらの図に示す結果から、ヘパリンは、他の抗血液凝固剤とは異なり、広い濃度範囲でFAODとプロテアーゼの活性に影響を与えないことが判る。
【0043】
なお、以下の手順により、ヘパリンのBOD活性に対する影響も調べた。
操作(ヘパリンのBOD活性に対する影響について)
A:10mM−リン酸緩衝液(pH8)を用いヘパリン濃度0, 0.01, 0.1mg/mLの各溶液にBODを終濃度2U/mLとなるように混合し、30℃で5minインキュベートしてBOD溶液とした。
B:100μLのBOD溶液に100μLの100μM−アスコルビン酸溶液を添加し30℃で5minインキュベートした。
C:インキュベート後、4℃−5,000×gの遠心条件でスピンカラム(10,000NMWL)にて酵素を除去した。
D:Cで得られた濾液95μLに5μLの3mM−DCIP水溶液を加え、1分間あたりの600nmの吸光度変化によりBODの残存活性を測定した。
【0044】
その結果を図6に示す。図6において、縦軸は、ヘパリンの濃度レベル0の場合のBOD活性を100%とした場合の、各濃度レベルにおける比活性を示す。
この結果から、ヘパリンはBOD活性にも影響を与えないことがわかった。
【0045】
5.FAOD固定化ポリマーのプロテアーゼ耐性(酵素電極を用いた電気化学測定)
次に、酵素電極式センサチップを作成して、プロテアーゼ存在下でFAODの活性を損なうことなく糖化アミノ酸の酸化反応を行わせることができる条件について検討した。
図7に、作成したセンサチップの構成を示す。(a)は平面図を、(b)は(a)のA−A線における端面図を示す。
【0046】
図7に示すように、センサチップ1には、絶縁基板11上に銀箔にて各電極2〜10の配線下地12が形成されている。
また、作用極2、対極3、これらの電極からの電気信号を検出するための接続電極5,6、および、作用極2及び対極3と接続電極5,6とをそれぞれ接続する配線電極8,9が、配線下地12上に、カーボンペーストを用いてスクリーン印刷により形成されている。
【0047】
さらに、参照極4、参照極4からの電気信号を検出するための接続電極7、および参照極4と接続電極7とを接続する配線電極10が、配線下地12上に銀塩化銀(Ag/AgCl)ペーストを用いてスクリーン印刷により形成されている。
そして、各配線電極8〜10は絶縁材13にて被覆されると共に、絶縁材13には作用極2,対極3及び参照極4の露出する試料導入用の開口部14を設けている。
また、作用極2上には、FAODを後述の方法で人工メディエータと共に固定化する。対極3及び参照極4は、酵素反応に応じた電気信号の取り出しに用いる検出用電極である。
【0048】
以上の構成を有するセンサチップ1の各接続電極5〜7を、電極間の電圧印加及び電流検出の可能な分析装置に接続し、開口部14より、作用極2,対極3及び参照極4を覆うように試料を滴下することにより、FAODによる酸化反応量に応じた電流信号が得られる。なお、図7(a)では、開口部14に露出している作用極2、対極3及び参照極4の部分にハッチングを付した。
【0049】
次に、FAODの作用極2上への固定化方法及びその効果について説明する。
まず、1つの実施例として、水溶性光硬化性樹脂を用いた例について説明する。
この例では、感光基としてアジド基を有する光硬化性ポリビニルアルコール樹脂である東洋合成工業株式会社製のAWP(Azide-unit pendant Water-soluble Photopolymer)の2wt%水溶液に、1U/mLのFAODと、FAODの安定化剤としてトレハロース20mM(終濃度)と、人工メディエーターであるm-PMS(1-methoxy-5-methylphenazinium methyl sulfate)2mM(終濃度)とを溶解した酵素溶液3μLを作用極2上に滴下し、室温にて送風乾燥後、100mJ/cmの紫外光にてAWPを硬化することにより、FAODを作用極2上に固定化した。
【0050】
そして、この作用極2を有するセンサチップ1を用いて、以下の電気化学測定を行い、プロテアーゼ存在下での糖化タンパク質濃度検出性能を評価した。
手順
A:以下の表2に示す濃度で糖化アミノ酸及びプロテアーゼを含む試料を調製した。溶媒としては、標準管理血清(日水製薬製の生化学検査用凍結乾燥血清「コンセーラ」を添付処方に従い復水した血清)を用いた。
【表2】

B:Aで調製した試料10μLを、センサチップ1の作用極2、対極3及び参照極4の全体を覆うように滴下し、25℃で3分間インキュベートした。
C:インキュベート後、作用極2と参照極4の間に+25mVの電圧を印加し、100秒後に、作用極2と対極3との間の電流値を測定した。
【0051】
図8に、その結果を示す。縦軸の単位はナノアンペアである。
この図からわかるように、試料中の糖化アミノ酸濃度に関わらず、プロテアーゼなしの場合(試料1,2)と、プロテアーゼありの場合(試料3,4)とで、ほぼ変わらない測定値が得られた。
このことから、FAODを電極に固定化するためのポリマーとして水溶性光硬化性樹脂AWPを用いることで、反応系内にプロテアーゼが共存してもFAOD活性を損なうことなく糖化アミノ酸濃度が測定可能であることが判る。
【0052】
次に、比較例として、CMC(カルボキシメチルセルロース)を用いた例について説明する。
この例では、2wt%−AWP水溶液の代わりに1wt%−CMC水溶液を用い、光硬化工程を除いては上述のAWPを用いる例の場合と同様な操作を行ってセンサチップを作製した。そして、表2に示した各試料につき、上述の例と同様に電流値を測定した。
【0053】
図9に、その結果を示す。
この図からわかるように、プロテアーゼ存在下(試料3,4)では、FAODの基質となる糖化アミノ酸が存在しても、糖化アミノ酸が存在しない場合に比べて電流値が上昇しなかった。
このことから、FAODを電極に固定化するためのポリマーとしてCMCを用いた場合、プロテアーゼ共存下でFAODは失活してしまい、CMCはFAOD固定化ポリマーとして適さない事が判る。
【0054】
6.FAOD固定化ポリマーのプロテアーゼ耐性(酵素電極を用いた電気化学測定の別の例)
FAODを電極に固定化するポリマーにつき、他のポリマーについての検討も行った。ここで述べる実験では、図7に示したようなセンサチップ上ではなく、チューブ内でFAOD活性の測定を行った。
【0055】
ここではまず、BAS社製の電気化学測定用白金電極(白金電極径:3mm、外周径:6mm)上に50U/mLのFAODのPBS(phosphate-buffered saline)溶液(pH7.4)を5μL滴下し室温にて送風乾燥した。その後、FAOD固定化ポリマー溶液としてフッ素樹脂とパーフルオロスルホン酸樹脂との共重合物質で固体高分子電解質であるナフィオン(登録商標)をイソブチルアルコールと純水の混合溶媒中に20wt%溶解した溶液20μLを、上記の送風乾燥後の電気化学測定用白金電極のうち白金電極部とその外周を覆うように滴下し、室温にて送風乾燥することでFAODを固定化した作用極を作製した。なお、この例では、酵素反応に応じて生成する過酸化水素濃度を測定するため、人工電子メディエータは用いていない。また、上記のナフィオン溶液としては、Aldrich社のNafion perfluorinated resin solution(型番527122)を用いた。
【0056】
以上の作用極に対し、対極に白金ワイヤーを、参照極にAg/AgCl電極を用い、5mLの緩衝液中で作用極と参照極間に+600mVを印加し、緩衝液中に糖化アミノ酸を添加しない場合と、糖化アミノ酸1mM、2mMで添加した場合とについて、応答電流値を測定した。緩衝液は10mM−Trisバッファー(Tris−HCl,pH8)で、バッファー中に50mg/mLのプロテアーゼを添加した系と添加しない系での応答電流値の差異を調べた。
【0057】
結果を図10に示す。縦軸は、プロテアーゼ添加有り/無しのそれぞれについて、糖化アミノ酸を添加しない場合の応答電流値を0とした、各糖化アミノ酸濃度における応答電流値の相対値を示している。
この図からわかるように、プロテアーゼなしの場合と、プロテアーゼありの場合とで、糖化アミノ酸濃度に応じてほぼ変わらない増加電流値が得られた。
このことから、FAOD固定化ポリマーとして固体高分子電解質であるナフィオンを用いた場合も、反応系内にプロテアーゼが共存してもFAOD活性を損なうことなく糖化アミノ酸濃度が測定可能であることが判る。
【0058】
以上の図8乃至図10に示した結果から、全てのポリマーがFAOD固定化ポリマーとして有効であるわけではなく、一部のポリマーのみが有効であることが判る。
AWPは光硬化性樹脂であり、硬化に伴い3次元結合が生成し編み目構造となる。またナフィオン膜はミクロポーラス構造を有することが知られている。これらのポリマーをFAOD固定化膜として用いた際にプロテアーゼ耐性を有する原因は明確ではないが、これらのポリマー膜の孔径が約2万7千程度の分子量であるプロテアーゼの有効断面積よりも小さいことに起因するものと考えられる。一方、比較例として示したCMC等の水溶性高分子は、水溶液中で大きく膨潤するため、膜中にプロテアーゼが進入し、FAODが失活するものと考えられる。
【0059】
更に、ナフィオン膜はカチオン輸送性を有することが知られており、アニオンのバリア膜としての機能を有することから、本発明の糖化タンパク質濃度測定方法において、試料中に含まれるアスコルビン酸、尿酸、ビリルビン等のアニオン性の検出妨害物質の影響を除去することが可能であり、後述する本発明のバイオセンサに於いて前処理工程での検出妨害物質除去工程を除く事が可能となる。
【0060】
なお、発明者は、FAOD固定化用ポリマーとして、感光基としてスリチルピリジニウム基を有する光硬化性ポリビニルアルコール樹脂であるSPP樹脂を用いた実験も行った。
具体的には、SPP樹脂として東洋合成工業株式会社製のSPP−H;樹脂固形分11.5wt%水溶液を用い、230mgのSPP樹脂水溶液と80U/mLのFAOD溶液100μLを混合した溶液を、上記6.の実験例で用いた白金電極上に5μL滴下し室温にて送風乾燥した。その後100mJ/cmの紫外光にてSPPを硬化し、FAODを固定化した作用極を作製した。この作用極を用いて上記6.の実験例と同様の実験を行った結果、FAOD固定化用ポリマーとしてナフィオン(登録商標)を用いた場合と同様の結果を得た。
【0061】
7.前処理部を備えた酵素電極式センサチップを用いた電気化学測定
次に、この発明のバイオセンサの一実施形態である前処理部を備えた酵素電極式センサチップと、そのセンサチップを用いた糖化タンパク質濃度測定方法について説明する。
まず、図11に、前処理部を備えた酵素電極式センサチップの構成を示す。(a)はセンサチップの平面図、(b)は(a)の状態から天板を取り外した状態を示す平面図、(c)は(a)のA−A線における断面図である。
【0062】
このセンサチップ20は、絶縁性基板21上に電極系22,接続電極23,配線電極24及び絶縁膜25を形成し、さらにその上にスペーサ26を形成して、スペーサ26により絶縁性基板21と天板27とを貼り合わせた構成である。
また、電極系22は、作用極22a,対極22b及び参照極22cを有し、これらの電極22a〜22cは、それぞれ配線電極24により、対応する接続電極23と接続されている。そして、3つの接続電極23を適当な測定装置に接続することにより、外部から電極系22を構成する電極間に電圧を印加したり、電極間の電流を検出したりすることができる。
【0063】
また、天板27の下面(図に表れている面と反対側の面)は空気孔28の部分を除いて平面であるが、スペーサ26には窪みを設けてある。そして、天板27と絶縁性基板21とを貼り合わせた状態では、スペーサ26の窪みと天板27の下面で、試料を吸引し、また電極系22に導くための空洞を形成している。
【0064】
この空洞は、開口部31と、前処理部32と、流路33とを有する。そして、開口部31を液体試料に触れさせることにより、表面張力により試料を開口部31より前処理部32に吸引することができる。この前処理部32が吸引空洞である。また、空気孔28が前処理部32と流路33の間に設けてあり、流路33には空気孔がないため、センサチップ20に特に力を加えない状態では、試料は前処理部32より奥までは吸引されない。しかし、遠心機等により、前処理部32の試料に対して図で右側に力を加えることにより、試料を流路33に導くことができる。この流路33が分析空洞である。
【0065】
また、前処理部32(開口部31から前処理部32に向かう流路上も含む)には、前処理部32での処理に使用する酵素や試薬を担持させた不織布34を配置している。そして、開口部31から吸引した試料が前処理部32の不織布34に接触すると、不織布34に担持されていた酵素や試薬が試料に溶解し、試料に対し、前処理が行われる。この前処理としては、ここまで説明してきたプロテアーゼ処理、検出妨害物質除去処理、抗血液凝固剤添加処理が考えられる。
なお、開口部31まで不織布が存在することと、空気孔28が前処理部32のうち開口部31と反対側にある事により、前処理部32への定量的な試料の吸引(不織布34の領域のみ)が可能となっている。
【0066】
そして、前処理の反応後、試料を流路33の電極系22に導き、作用極22aに固定化したFAODと反応させ、その反応の状態を、電気化学的方式で検出する。より具体的には、作用極22aと参照極22cとの間に電圧を印加して、作用極22aと対極22bとの間に流れる電流値を検出する。そして、この電流値を検量線に当てはめることにより、試料中の糖化タンパク質濃度を測定することができる。
【0067】
以上のようなセンサチップ20は、例えば以下の手順で作製することができる。
まず、絶縁性基材21上に電極系22、接続電極23及び配線電極24のパターン全体をAgペーストを用いてスクリーン印刷等により形成する。その後、そのAgパターンを覆う形でカーボンペーストを用いてスクリーン印刷等により作用極22a、対極22bと接続電極23を形成する。同様に、Ag/AgClペーストを用いて参照極22cを形成する。Agペースト、カーボンペースト、Ag/AgClペースト等の導電性インクは印刷後、120℃から150℃で加熱し溶媒を揮発させることで安定な電極膜となる。
そして、以上の電極を形成後、電極系22及び接続電極23上を除く部分に(これらの電極の部分を開口部として)、絶縁膜25を熱硬化性ポリエステル系樹脂や光硬化性アクリル系樹脂等を用いてスクリーン印刷等により形成する。熱硬化性ポリエステル系樹脂は加熱により、光硬化性アクリル系樹脂は光照射により樹脂が硬化し安定な絶縁膜となる。
【0068】
その後、作用極22aに対し、FAODの固定化処理を行う。
具体的には、作用極22a上に3.3mU/μLのFAOD,6.7nmol/μLのm−PMS,166.7nmol/μLのトレハロースを2wt%のAWP水溶液に溶解した酵素溶液2.8μLを滴下する。その後、室温にて送風乾燥し、100mJ/cmの紫外光にてAWPを硬化し、作用極22a上にFAODを固定化する。
なお、トレハロースは、FAODの安定化剤として添加するものである。発明者によるFAODの高温保存試験(70℃、10日)において、トレハロースの添加によるFAOD活性の保持が確認されている。同条件でトレハロース無添加の場合、FAODは失活した。
【0069】
次に、適当な形状に成型したPET基材の上下に接着層を設けたスペーサ26を絶縁性基板21上に配置し、前処理部32と流路33を形成する。
その後、前処理部32に、必要な酵素や試薬を担持させた不織布34を配置する。
【0070】
この不織布34は、それぞれ前処理用の以下の酵素/試薬溶液を滴下し、凍結乾燥して、必要な酵素や試薬を担持させた3枚の不織布34a〜cを、図12に示すように重ね合わせ、打ち抜き等により前処理部32のサイズに切断して作製することができる。
なお、前処理部32に導入された試料が遠心工程を経て効率よく電極系22に移動できるようにするために、不織布としては、繊維自体は吸水性を持たないポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン繊維からなるもので、表面に親水処理を施したものを用いると良い。ここでは、不織布34a〜34cとして、シンワ化学株式会社製の親水処理済みポリエステル不織布を用いた。
【0071】
担持させる酵素及び試薬(センサチップ1枚当たりの担持量)
不織布34a:プロテアーゼ(Subtilisin A)175U
不織布34b:ヘパリン0.035μg及びBOD17.5mU
不織布34c:POPSO35nmol及びNaOH0.84μmol
【0072】
不織布34aに担持させるプロテアーゼは、図1に示した実験結果に従って選択した。
不織布34bに担持させる抗血液凝固剤(ヘパリン)及び妨害物質除去酵素(BOD)は、図3乃至図5に示した実験結果に従って選択した。
不織布34cに担持させる試薬は、試料のpHを前処理部32における反応に好適なpH及び塩濃度に調整するための試薬である。
【0073】
このような不織布34を配置し、前処理部32に吸引した試料をこの不織布34の各断片34a〜34cに浸透させる(ここでは同時に浸透させるようにした)ことにより、各断片34a〜34cに担持された試薬や酵素を試料に溶解させ、試料に対し、その試薬や酵素を用いた処理を行うことができる。
なお、酵素を複数前処理部32に配置する必要がある場合、それら個々の酵素の保存に適したpHが異なる場合がある。その場合は、至適pHの異なる酵素はそれぞれ異なる不織布に担持させるとよい。
【0074】
また、保存に適したpHが同じであっても、プロテアーゼ(本実施形態では必須)と他の酵素を同時に不織布に担持することは難しい(他の酵素が分解されてしまうため)。従って、プロテアーゼと他の酵素は異なる不織布に担持する。
さらに、保存に適したpHと反応に適したpHが異なる酵素もある。その場合は、保存に適したpHにて酵素を担持し、異なる不織布に、試料が浸透した際に、その酵素の反応に適したpHとなるようなpH調整用試薬を担持させるとよい。
このように、不織布を複数枚用いるこにより、前処理部32で行わせる反応の設計に高い自由度を得ることができる。
【0075】
また、前処理部32から電極系22に至るまでの流路33に、20mM−Tris−HCl(pH8)にクエン酸80nmol/μLを溶解したpH調整液1.75μLを滴下して乾燥させ、pH調整部を形成する。試料がこのpH調整部を通過する際、乾燥状態の試薬が溶け込むため、電極系22に達する試料のpHを、FAODの反応に好適なpH8程度に調整することができる。
以上の後、天板27をスペーサ26上に貼り合わせることにより、センサチップ20が完成する。
【0076】
なお、サイズの一例として、ここでは、試料溶液を前処理部32に3.5μL吸引する構成とするため、絶縁性基材21として250μm厚のPET(Polyethylene terephthalate)基材を用い、開口部31を幅2mm、流路33は開口部31から流路端部まで長さ20mmとした。また、作用極22aは面積2.8mm、対極22bは面積8.6mm、参照極22cは面積2.8mm、空気孔28は0.5mmφとした。
また、スペーサ26はPET基材と上下の接着層を合わせて180μm厚、前処理部32は空隙率80%の不織布34を配置することを考慮して、総厚180μm、面積24.25mmとした。上述の試薬量は、このサイズに合わせて定めたものである。
【0077】
次に、このようにして作製したセンサチップ20を用いた糖化タンパク質(フルクトサミン)濃度の測定例を示す。
測定は、以下の手順で行った。なお、管理血清中の糖化タンパク質濃度は、和光純薬工業社(Wako Pure Chemical Industries, Ltd)の「オートワコー フルクトサミン」を用いたFOD−TOOS法により予め別途測定した。
A:糖化タンパク質濃度が既知の管理血清試料3.5μLを吸引口31より自発吸引させ、25℃で3分間インキュベートし前処理を行った。
B:その後600Gで30秒間遠心力を加えて前処理後の試料を流路33を介して電極系22の方向へ移動させた。
C:25℃で3分間インキュベート後、作用極22aと参照極22cの間に+25mVの電圧を印加し、100秒後の作用極22aと対極22bの間の電流値を測定した。
【0078】
図13に、以上の測定の結果得られた糖化タンパク質濃度と電流値との関係を示す。
この図からわかるように、センサチップ20による測定結果は、糖化タンパク質濃度と電流値とが高い直線性を示す。このため、センサチップ20によれば、検出電流値に基づいて高い精度で糖化タンパク質濃度を検出できると言える。
この場合において、前処理で用いたプロテアーゼを不活性化したり除去したりする操作が必要ないため、簡単な操作かつ短時間で、精度のよい測定結果を得ることができる。
【0079】
また、全血の試料を用いて同じ手順で測定を行った場合でも、FOD−TOOS法による測定結果と、センサチップ20を用いた測定結果との対応関係は、管理血清試料を用いた場合と同様なものであった。従って、試料に血球が含まれた状態で前処理を行っても、糖化タンパク質濃度の測定結果に影響はないと考えられる。
【0080】
以上で実施形態及び実施例の説明を終了するが、この発明は、これに限られることはない。具体的なバイオセンサの構成、使用する試薬、測定する試料、測定方法等が、これに限られないことはもちろんである。
例えば、酵素と共に作用極に固定するメディエーターとしてm−PMS以外の物質を用いることが可能である。発明者は、実験により、図11に示したセンサチップ20においてm−PMSの代わりに塩化ヘキサアンミンルテニウム(II)を用いた場合でも、糖化アミノ酸濃度に応じた電流値の検出を確認している。
【0081】
また、センサチップ20において作用極22aを白金電極とし、上記6.で説明したように固体高分子電解質を用いてここのFAODを固定化すれば、メディエータを用いなくても糖化タンパク質濃度の測定が可能である。その際は、作用極22aはカーボン電極より白金電極にする方が好ましい。過酸化水素が酸化される際の電子の授受が、カーボンよりも白金の方が行われやすいため、高い電流値が得らるからである。
また、上述の実施形態における電気化学測定は、作用極、参照極及び対極を用いる3電極法で行っている。しかし、作用極と対極を用いる2電極法でも測定は可能である。その際は、作用極と対極間に電位を印加し、それらの電極間に流れる電流値を測定すればよい。
【0082】
また、検査妨害物質の除去剤として、センサチップ20にはBODのみを配置したが、これに代えてASODを配置したり、これらに加えて、アスコルビン酸やビリルビンと同様なアニオン性の検出妨害物質である尿酸を除去するためにウリカーゼを配置したりすることも考えられる。
【0083】
また、センサチップ20において、分光方式でFAODの反応量を測定することも可能である。この場合、流路33中に透明の窓部を設けると共に、pH調整部の如く、上述の1.や2.で説明した酵素溶液で用いた4−AA,TODB,POD,FAODを窓部付近に乾燥状態で配置しておくとよい。そして、試料にこれらの試薬が溶解し、反応することによって生成される色素を、546nmの吸光度を測定することにより定量し、色素生成量からFAODが触媒した酸化反応の量を求めることができる。そして、この酸化反応の量に基づき、試料中の糖化タンパク質濃度を求めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上説明してきたように、この発明による糖化タンパク質濃度測定方法又はバイオセンサによれば、簡単な操作かつ短時間で試料中の糖化タンパク質濃度を定量することができる。
従って、この発明を適用することにより、例えば、臨床診断分野の血液検査で使用できる、簡便な分析器具を提供することができる。糖化タンパク質の血中濃度は、糖尿病の症状の診断及び管理の重要な指標となり得ることから、このような分析器具は、糖尿病の症状の診断及び管理に関する有用なツールとなることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】プロテアーゼSubtilisin Aについて糖化アルブミンとの反応性を評価した実験の結果を示す図である。
【図2】プロテアーゼSubtilisin Aについて活性のpH依存性を評価した実験の結果を示す図である。
【図3】ASOD及びBODについて活性のpH依存性を評価した実験の結果を示す図である。
【図4】抗血液凝固剤のFAOD活性に対する影響を評価した実験の結果を示す図である。
【図5】抗血液凝固剤のプロテアーゼ活性に対する影響を評価した実験の結果を示す図である。
【0086】
【図6】ヘパリンのBOD活性に対する影響を評価した実験の結果を示す図である。
【図7】ポリマーのプロテアーゼ耐性の評価に用いたセンサチップの構造を示す図である。
【図8】図7に示したセンサチップを用いたAWPのプロテアーゼ耐性を評価する実験の結果を示す図である。
【図9】同じく、CMCのプロテアーゼ耐性を評価する実験の結果を示す図である。
【図10】チューブ内でナフィオンのプロテアーゼ耐性を評価した実験の結果を示す図である。
【0087】
【図11】この発明のバイオセンサの実施形態であるセンサチップの構造を示す図である。
【図12】図11に示したバイオセンサに設ける不織布の構成をより詳細に示す図である。
【図13】図11に示したバイオセンサを用いた糖化タンパク質濃度の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0088】
1,20:センサチップ、2,22a:作用極、3,22b:対極、
4,22c:参照極、5〜7,23:接続電極、8〜10,24:配線電極、
11:絶縁基板、12:配線下地、13:絶縁材、14:開口部、21:絶縁性基板、
22:電極系、25:絶縁膜、26:スペーサ、27:天板、28:空気孔、
31:開口部、32:前処理部、33:流路、34:不織布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料をプロテアーゼで処理して得た分解生成物質を特定の酵素と反応させることにより前記試料中の糖化タンパク質濃度を定量する糖化タンパク質濃度測定方法であって、
前記試料をプロテアーゼ処理する前処理工程と、
前記前処理工程による処理後の、該前処理工程で使用したプロテアーゼを含む試料を、ポリマーにより固定化した前記特定の酵素と反応させる酵素反応工程と、
前記酵素反応工程における反応の状態を検出する検出工程とを含み、
前記特定の酵素を固定化しているポリマーが水溶性光硬化性樹脂又は固体高分子電解質であることを特徴とする糖化タンパク質濃度測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の糖化タンパク質濃度測定方法であって、
前記特定の酵素を固定化しているポリマーが、感光基としてアジド基あるいはスリチルピリジニウム基を有する光硬化性ポリビニルアルコール樹脂であることを特徴とする糖化タンパク質濃度測定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の糖化タンパク質濃度測定方法であって、
前記特定の酵素を固定化しているポリマーが、フッ素樹脂とパーフルオロスルホン酸樹脂との共重合物質である固体高分子電解質であることを特徴とする糖化タンパク質濃度測定方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の糖化タンパク質濃度測定方法であって、
前記検出工程における検出を電気化学方式で行うことを特徴とする糖化タンパク質濃度測定方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の糖化タンパク質濃度測定方法であって、
前記検出工程における検出を分光方式で行うことを特徴とする糖化タンパク質濃度測定方法。
【請求項6】
請求項4に記載の糖化タンパク質濃度測定方法であって、
前記酵素反応工程において、前記試料を、前記水溶性光硬化性樹脂により人工電子メディエータと共に電極上に固定した前記特定の酵素と反応させ、
前記検出工程において、前記特定の酵素を固定した電極と、所定の検出用電極との間の電流値を検出することを特徴とする糖化タンパク質濃度測定方法。
【請求項7】
請求項4に記載の糖化タンパク質濃度測定方法であって、
前記酵素反応工程において、前記試料を、前記固体高分子電解質により白金電極上に固定した前記特定の酵素と反応させ、
前記検出工程において、前記特定の酵素を固定した白金電極と、所定の検出用電極との間の電流値を検出することを特徴とする糖化タンパク質濃度測定方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の糖化タンパク質濃度測定方法であって、
前記特定の酵素が、前記糖化タンパク質のプロテアーゼ分解物質を基質とするフルクトシルアミノ酸酸化酵素であることを特徴とする糖化タンパク質濃度測定方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の糖化タンパク質濃度測定方法であって、
前記前処理工程が、
前記プロテアーゼにより前記試料に含まれる糖化タンパク質を分解する分解工程に加え、
前記試料に含まれる、前記検出工程における検出を妨害する物質を除去する検出妨害物質除去工程、前記試料のpH及び塩濃度を前記特定の酵素の反応に適した値に調整する調整工程、前記試料に抗血液凝固剤を添加する添加工程のうち1つ又は複数を含むことを特徴とする糖化タンパク質濃度測定方法。
【請求項10】
請求項9に記載の糖化タンパク質濃度測定方法であって、
前記検出妨害物質除去工程が、
アスコルビン酸オキシダーゼによるアスコルビン酸除去処理、ビリルビンオキシダーゼによるビリルビン除去処理、およびウリカーゼによる尿酸除去処理のうち1つ又は複数を行う工程であることを特徴とする糖化タンパク質濃度測定方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の糖化タンパク質濃度測定方法であって、
前記前処理工程は、該前処理工程に含まれる前記各工程の処理に使用する酵素又は試薬を、それぞれ不織布の異なる断片に担持させておき、前記試料をその各断片に浸透させることにより行うことを特徴とする前記糖化タンパク質濃度測定方法。
【請求項12】
毛細管現象によって試料を吸い上げる吸引空洞と、該吸引空洞と連続する分析空洞とを備えたバイオセンサであって、
前記吸引空洞にプロテアーゼを備え、
前記分析空洞に、前記試料のプロテアーゼ処理による分解生成物と反応させる特定の酵素を、ポリマーにより固定化した状態で備え、
前記分析空洞に、前記特定の酵素による反応の状態を外部から検出可能とするための電極又は透明部をさらに備え、
前記特定の酵素を固定化しているポリマーが水溶性光硬化性樹脂又は固体高分子電解質であることを特徴とするバイオセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−171874(P2009−171874A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12188(P2008−12188)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【出願人】(503195850)有限会社アルティザイム・インターナショナル (31)
【Fターム(参考)】