説明

糖尿病に関連する対立遺伝子多型

【課題】本発明は、糖尿病関連遺伝子、特にホスホフルクトキナーゼをコードする遺伝子(PFK)における対立遺伝子多型の同定、ならびに糖尿病素因および状態を診断するため、および治療剤に対する応答を予測するための、その使用に関する。
【解決手段】1つの態様によれば、本発明は、被検者における糖尿病、糖尿病に対する素質、または糖尿病もしくはそれに関連する状態の予後を診断するための方法であって、(a)被検者からの遺伝物質を含む生物学的試料を準備し、(b)前記遺伝物質中の、ホスホフルクトキナーゼ(PFK)をコードする少なくとも1つの遺伝子の核酸配列の存在を判定し、および(c)糖尿病または糖尿病に対する素因を指し示す対立遺伝子多型に対する核酸配列を分析することを含む方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、真性糖尿病の診断および予後診断の分野に関し、特に、糖尿病関連遺伝子における対立遺伝子多型の同定、ならびに糖尿病、糖尿病状態および糖尿病に対する素因を診断するため、さらには治療剤に対する糖尿病被検者の応答を予測するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、産業の発達した世界での死亡および病的状態の主原因となっている。今日、3つの型の糖尿病すなわち、1型糖尿病(T1D、またはT1DM−1型真性糖尿病)、2型糖尿病(T2DまたはT2DM)、および妊娠糖尿病(妊娠期間に発症)が知られている。3つの型の糖尿病はすべて、徴候、症状、および結果が類似しているが、原因および人口分布は異なっている。インスリン依存性(IDDM)として従来知られているT1Dでは、膵ベータ細胞の自己免疫破壊が原因で、生存に必須であるインスリンを膵臓が産生できない。この型は小児および青年に最も多く発症するが、後年に診断される場合が増加している。従来より非インスリン依存性(NIDDM)と呼ばれているT2Dは、膵臓により産生されるインスリンの作用に対して身体が適切に応答できないことに起因し、「インスリン抵抗性」または「低インスリン感受性」として知られている。T2Dは成人で最も多く発症するが、青年で認められることも増えている。妊娠糖尿病はインスリン抵抗性が関わるという点で2型糖尿病と類似しており、妊娠のホルモンが、この状態を発症する素因のある女性にインスリン抵抗性を引き起こす。糖尿病のさらなる型は若年発症成人型糖尿病(MODY)であり、これは重篤な状態の2型糖尿病と類似しており、インスリン欠乏型につながる。しかし、代表的な2型糖尿病被検者は40歳以上および過体重である一方、MODY患者は典型的に、10代または20代であって痩身である。
【0003】
1型および2型糖尿病は不治の慢性状態であるが、1921年にインスリンが医療上利用可能になって以降は処置可能であり、現在では通常、食事療法、錠剤(T2Dで)と、多くの場合インスリン補充との組み合わせで対処される。妊娠糖尿病は典型的に、出産と共に回復する。
【0004】
2型糖尿病は米国の一般住民の約5%を襲うグルコース恒常性障害の主要な健康問題である。この型の糖尿病に関連する空腹時高血糖および/またはグルコース不耐性の原因は、よくわかっていない。
【0005】
臨床的に、T2DMは慢性高血糖により特徴付けられる異性障害である。少なくともある程度、症状の発症時期に基づいてT2DMのサブタイプを同定できる。T2DMの主なタイプは通常、中年またはそれ以降に発症する。
【0006】
糖尿病は、多くの合併症を起こす可能性があり、それらのうち急性合併症には、低血糖、ケトアシドーシスまたは非ケトン性高浸透圧性状態および昏睡疾病など、適切に制御されなければ起こりうるものが含まれる。重篤な長期合併症として、アテローム性動脈硬化症および心血管疾患(T2DMの患者では卒中のリスクが顕著に高まることが知られている)、慢性腎不全(先進国で透析を受けている成人で、その主原因は糖尿病性腎症である)、網膜障害(失明をもたらす可能性があり、先進国における非高齢者での成人失明の最も重大な原因である)、ニューロパシーまたは神経障害(様々な種類のもの)、ならびに微小血管障害で、勃起機能障害(不能症)および治癒不良を起こす場合のあるものが挙げられる。糖尿病性感染は、マクロファージ導入の遅延および白血球遊走の低減で、創傷治癒カスケードにおける炎症相の長期化を引き起こすものが原因となって、治癒に時間がかかる。創傷(特に足の創傷)の治癒不良は、壊疽をもたらす可能性があり、これで切断が必要になる可能性が生じてしまい、先進国における成人での非外傷性切断の主要原因となっている。これらの理由により、この疾病は早期の病的状態および死亡に関連しうる。
【0007】
糖尿病の適切な処置、さらには血圧制御および生活様式因子(喫煙、および健常体重の維持など)をより重要視することで、前記合併症のほとんどのリスクプロフィールを向上しうる。
【0008】
ケトアシドーシスのエピソードがなければ、T2DMでは明白な症状が通常穏やかであるかまたは存在せず、また散発性である可能性もあるため、診断前の患者で数年間気付かれずに過ぎることがある。しかし、前記の重症な合併症は、未診断のT2DMに起因する可能性がある。
【0009】
T2DMの病理は、インスリン分泌欠損とインスリン抵抗性との組み合わせ、またはインスリン感受性低下に帰する。初期には、主な異常はインスリン感受性の低下であり、これは血液中のインスリンレベルの上昇によって特徴付けられる。この段階では、インスリン感受性を向上、または肝臓によるグルコース産生を低減する種々の手段および投薬によって高血糖を逆転させることができるが、疾病が進行するにつれてインスリン分泌の機能障害が悪化し、インスリンの治療的補充が必要になることが多い。この抵抗性に対する正確な原因および機構に関して多くの理論があるが、中心性肥満(腹部器官に関連して腰周りに集まる脂肪であって、皮下脂肪ではないと思われる)が、おそらくは耐糖能を損なうアディポカインの分泌が原因となって、個体をインスリン抵抗性に対して素因化することが知られている。腹部脂肪は特に、ホルモン的に活性である。
【0010】
肥満は、2型糖尿病と診断された患者のおよそ55%に見られる。他の因子として、加齢(北アメリカでは高齢患者の約20%が糖尿病である)および家族歴(2型は、それに罹ったことがある近親者間で随分共通性が高い)が挙げられるが、この10年間では、おそらくは小児肥満の率が大幅に増大するに伴い、小児および青年で発症し始める例が増加している。
【0011】
2型糖尿病の有病率の急激な増加は、食物の利用能の増大や、身体運動の機会および動機の低減などの、遺伝的に感受性の個体に対して作用している環境因子が原因となっていると考えられる。T2DMの遺伝力は、一般的な病気の中で最も確立されたものの1つであり、このためT2DMに対する遺伝的リスクは熱心な研究の対象となっている。多くの一遺伝子型の糖尿病(若年での成人発症型糖尿病、新生児ミトコンドリアおよび真性糖尿病の他の症候性型)の遺伝的原因が解明されているが、一般的なT2DMにつながる変異で明らかに同定されているものは小数であり、個々に与えるT2DM罹患のリスクはわずか(オッズ比<1.1〜1.25)である(非特許文献1)。連係研究で多くのT2DM結合染色体領域が報告されており、例えば、CAPN10(非特許文献2)、ENPP1(非特許文献3)、HNF4A(非特許文献4;非特許文献5)およびACDC(ADIPOQとも称される、非特許文献6を参照のこと)を含め、数種の遺伝子にて、起因が推定される遺伝的変異が同定されている。平行して、候補遺伝子の研究で、多くのT2DM会合座位が報告されており、核受容体PPARG中のコード変異(P12A、非特許文献7参照)およびカリウムチャンネルKCNJ11(E23K、非特許文献8参照)が、確証的に複製されているごくわずかなものとして挙げられる。最も強い既知のT2DM会合(オッズ比<1.7)が、最近、転写因子TCF7L2にマッピングされたが、これは複数個体群で一貫して複製されている(Grantら、2006、Nature Genet.38、320−323)。
【0012】
T2DMは、疾病の根底にある多岐にわたる代謝的欠陥を伴う複合障害である。T2DMの病原に対するグルコース代謝経路の寄与は、未だ不明のままである。
【0013】
グルコースの細胞内運命は、グルコース輸送およびリン酸化で開始される。それに続くグルコース利用の経路には、好気性および嫌気性解糖、グリコーゲン形成、ならびにヘキソースリン酸またはヘキソサミン生合成経路内の他の中間体への変換が含まれる。各経路における異常が糖尿病被検者で起こりうるが、これらの経路での摂動が糖尿病につながる場合があり、またはこの疾病で認められる多重代謝異常の結果であるかどうかは明らかでない。
【0014】
膵臓β細胞解糖は、グルコース濃度依存的にインスリン分泌を増加させ、糖代謝障害とインスリン分泌障害との間の連係がもたらされる可能性がある(非特許文献9)。実際に、解糖の低減が2型糖尿病の特定の例で直接的に関与している。ヘテロ接合性遺伝子突然変異に起因するホスホフルクトキナーゼ活性の欠損が、1つのAshkenazi−Jewish2型糖尿病性ファミリーにて報告されている(Ristowら、1997、J Clin Invest 100、2833−2841)。
【0015】
ホスホフルクトキナーゼ−1(PFK−1)は、解糖の最も重要な調節酵素である。これは4つのサブユニットで成り立つアロステリック酵素であり、いくつかの活性化因子および阻害因子によって制御される。PFK−1はフルクトース6−リン酸およびATPから、フルクトース1,6−二リン酸およびADPへの変換を触媒する。この工程は、それが非可逆的であるからだけでなく、この工程後に元の基質が解糖系へ進まざるを得ないことも原因となって広範な調節を受ける。これがグルコースの正確な制御を導き、そして他の単糖ガラクトースおよびフルクトースは解糖系に降りる。この酵素の反応の前に、グルコース−6−リン酸はペントースリン酸経路に至る潜在的可能性があり、またはグルコース−1−リン酸に変換されて保存型のグリコーゲンへと重合される可能性もある。
【0016】
ヒトで、PFKはM(筋肉型)、L(肝臓型)、およびP(血小板型)の3つの異なるサブユニット(各々が別々の遺伝的制御下にある)の無作為4量体化により、多分子形にて存在する。筋肉細胞は、4つの同じサブユニット(M4)からなり、肝臓はL4からなり、赤血球はM3L、M2L2、またはML3として認めることができる。血小板型サブユニットの比率が高いサブユニット組成は、血小板、脳および線維芽細胞で認められる。血小板PFK(PFKP)は、P4アイソザイムからなる一方で、肝臓および筋肉の主な種は、それぞれL4およびM4アイソザイムからなる。
【0017】
公に利用可能なAffymetrix HU133ミクロアレイデータを考慮することによって求められるように、PFKPの発現パターンは、この型が多くの組織での解糖に関わることを示唆している。
【0018】
肥満および糖尿病のような複合的病理症候群の根底にある遺伝要素を同定することは、近代医療の重要な目標である。遺伝的複雑性も、単一の疾病表現型を示す患者個体群を、その障害の遺伝要素が相違しているか、または特定の治療に対する応答が異なっているサブクラスへと層別化する際の根底にある。
【0019】
ほとんどの場合、T2Dは、遺伝、環境、および人口統計因子の複雑な相互作用が原因で引き起こされる。遺伝的解析、特に候補遺伝子関連研究およびゲノムワイド連係解析(ゲノムワイドスキャン、GWS)の技術の改善によって、個体群内のT2Dの罹患に寄与する遺伝子の検索が可能になっている。
【0020】
T2Dの罹患を説明する主要な単一遺伝子として、同定されているものはない。しかし、2型糖尿病の罹患の根底にある様々な代謝的欠陥と、いくつかの感受性遺伝子(例えば、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)およびPPARγ−活性化補助因子−1(PGC−1))での多型との間の関連が、研究によって立証されている。100を超える候補遺伝子がT2Dについて評価されているが、広く複製されているのはわずか数種に過ぎない。
【0021】
遺伝子と環境との相互関係が、成人インスリン感受性に影響を及ぼす出生時体重とPPARγとの間、および成人BMIに影響する食事脂肪の摂取とPPARγとの間で見出されている。遺伝子と遺伝子との相互作用は、PPARγと成人インスリン感受性および体脂肪レベルに影響を及ぼす脂肪細胞(FABP4)、脂肪酸結合タンパク質4との間でも見出されている。
【0022】
今日までに、T2Dに対する座位を同定すべく、30を超えるGWSが報告されている。少なくとも示唆的なLOD(オッズの対数)スコアと連係した座位が、あらゆる染色体上で観察されている。おそらく、最も著しいのは、一貫して連係した座位の欠如である。非特許文献10は、コーカサス人個体群からのT2Dの4種の公開ゲノムワイドスキャン(GIFTコンソーシアム、フィンランド、スウェーデン、英国およびフランス)にゲノム検索メタ解析法(GSMA)を適用し、個々の研究の各々にて若干または非有意の連係があった染色体1p13.1−q22、2p22.1−p13.2、6q21−q24.1、12q21.1−q24.12、16p12.3−q11.2および17p11.2−q22上に、T2Dに対する感受性領域の証拠を見出した。これは、ヒトT2Dの不均一性や、異なる方法論を用いた研究を比較しようとすることの潜在的な欠点を例証するのに役立ちうる。
【0023】
特許文献1は、T2Dに対する感受性または素因の遺伝子、SNPマーカーおよびハプロタイプ、ならびにT2Dの予備診断を開示している。T2Dリスク遺伝子における多型を用いた、T2Dの診断、臨床経過及び処置の効率の予測のための方法およびキットも開示されている。
【0024】
ヒト個体群におけるヘテロ接合体は、所定の遺伝子配列の通常の変異に起因しうるものであり、当業者が、通常の遺伝的変動の総括的な同定、およびこのような変動の医学的状態への関連付けにつき探求している(例えば、非特許文献11を参照のこと)。これらの型の通常の遺伝的変動で単一遺伝子病の起因突然変異が同定されているが、それらは複雑な多遺伝子形質に対する遺伝要素の同定におけるほどは成功していない。
【0025】
より近年になって、一塩基多型(SNP)が、代替マーカーセットとして示唆されている。これらの単一ヌクレオチド置換または欠失は、典型的には2対立遺伝子変異であり、非近交個体群における全ゲノム関連研究を可能にするのに充分な密度で生じる。しかし、SNP研究では、数千個体の試料サイズの所要量が、疾病と多型との関連を検出するための適切な力を得るために必要とされるはずであることが示されている。
【0026】
ハプロタイプまたは二倍体ハプロタイプ対は、関連試験用のマーカーの代替セットを構成し、臨床研究での使用にハプロタイプによる試験が提案されている。それでも、ハプロタイプによる試験はSNPによる試験に比して、直接配列決定またはハプロタイプを同定するための計算による推定を含む余分な作業を必要とし、そして今のところ、プールしたDNAの低価格試験は不可能になっている。
【0027】
よって、糖尿病診断用だけでなく診断的治療にも有用な、ヒトゲノムにおける中規模および大規模な変動に基づくマーカーに対する未解決の要求が未だ存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0059772号明細書
【非特許文献】
【0029】
【非特許文献1】Permuttら、2005、J.Clin.Invest.115、1431−1439
【非特許文献2】Horikawaら、2000、Nature Genet.26、163−175
【非特許文献3】Meyreら、2005、Nature Genet.37、863−867
【非特許文献4】Love−Gregoryら、2004、Diabetes 53、1134−1140
【非特許文献5】Silanderら、2004、Diabetes 53、1141−1149
【非特許文献6】Vasseurら、2002、Hum.Mol.Genet.11、2607−2614
【非特許文献7】Altshulerら、2000、Nature Genet.26、76−80
【非特許文献8】Gloynら、2003、Diabetes 52、568−572
【非特許文献9】Henquin 2000、Diabetes 49、1751−1760
【非特許文献10】Demenais Fら、2003、Hum.Mol.Genet.12、1865−1873
【非特許文献11】Collinsら、Science 278:1580、1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
本発明は、糖尿病に対する素因または感受性について、および疾病状態について被検者を診断するため、さらには治療診断(theranostic)研究、処置の選択および評価ならびに処置の至適化のための手段を提供する。特に、本発明は、糖尿病関連対立遺伝子多型およびその使用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明は、糖尿病または糖尿病に罹る素因に関連する、ホスホフルクトキナーゼ(特に血小板ホスホフルクトキナーゼ(PFKP))をコードする少なくとも1つの遺伝子の対立遺伝子における多型に関する。
【0032】
本明細書で用いる、糖尿病に罹るリスクの「予測」または「査定」とは、そのリスクが増加または減少することを含意する。
【0033】
本発明はまた、少なくとも1つのPFK遺伝子における多型を用いて、糖尿病に対する個体の感受性または素因を推定する方法、糖尿病の分子サブタイプを判定する方法、さらには糖尿病の臨床経過および処置の効力を予測するための方法にも関するものである。
【0034】
本願明細書の、「糖尿病」という用語は、T1D、T2D、妊娠糖尿病およびMODYを含む、あらゆる型の糖尿病をいう。
【0035】
本発明は一部、DNAレポジトリを分析すること、糖尿病とわかっている近親者のいない糖尿病でないコーカサスアメリカ人(コントロール個体群)のDNA試料を、第1度の糖尿病とわかっている少なくとも1名の近親者のいるコーカサスアメリカ人である糖尿病患者(疾病個体群)からのDNA試料と比較することに基づく。引き出したデータに基づき、本発明は以下、ホスホフルクトキナーゼ(PFK、特にPFKP)をコードする遺伝子の多型対立遺伝子の、糖尿病と、または糖尿病および関連障害に対する素因との関連を開示する。本発明はさらに、これらの多型と疾病の関連に基づく診断マーカーの設計、ならびに糖尿病素因および/または感受性、および糖尿病予後の診断のためのそれらの使用を開示する。本発明のマーカーはまた、処置の選択、臨床経過および処置の効力の予測を含む治療診断研究のために、また特定の薬物に対する個体および/または個体群の応答性を差別化するためにも有用でありうる。
【0036】
1つの態様によれば、本発明は、被検者における糖尿病、糖尿病に対する素質、または糖尿病もしくはそれに関連する状態の予後を診断するための方法であって、(a)被検者からの遺伝物質を含む生物学的試料を準備し、(b)前記遺伝物質中の、ホスホフルクトキナーゼ(PFK)をコードする少なくとも1つの遺伝子の核酸配列の存在を判定し、および(c)糖尿病または糖尿病に対する素因を指し示す対立遺伝子多型に対する核酸配列を分析することを含む方法を提供する。
【0037】
特定の実施形態によれば、PFKは、筋肉PFK(PFKM)、肝臓PFK(PFKL)および血小板PFK(PFKP)からなる群より選択されるイソ酵素である。特定の現在好ましい実施形態によれば、前記イソ酵素はPFKPである。
【0038】
特定の実施形態によれば、糖尿病または糖尿病に対する素因を指し示す前記対立遺伝子は、非糖尿病個体群でのその出現頻度に比べて糖尿病個体群で高出現頻度を有する対立遺伝子である。
【0039】
1つの実施形態によれば、糖尿病または糖尿病に対する素因を指し示す前記対立遺伝子多型は、配列番号1および配列番号2のいずれか1つに示す核酸配列を有する少なくとも1つの対立遺伝子を含む。
【0040】
一塩基多型や、1つまたは2つのヌクレオチドの挿入または欠失を、ゲノム全体で見出すことができる(例えば、NCBI SNPデータベースを参照のこと)。本発明の対立遺伝子をコードする様々なPFKP内の、またはPFKP対立遺伝子と糖尿病との間の相関性を保持する、表1に挙げるポリヌクレオチド配列内の任意のこのような多型が、本発明の範囲に含まれるべきである。
【0041】
特定の実施形態によれば、前記対立遺伝子は、配列番号1に示す核酸配列を有するGVAR237_refまたはその相同体であり、このGVAR237対立遺伝子は、糖尿病に対するリスクの低減と相関している。他の実施形態によれば、GVAE237−ref対立遺伝子は、少なくとも1つのSNPおよび/または1つもしくは2つのヌクレオチドの少なくとも1つの挿入もしくは欠失をさらに含み、前記対立遺伝子は、糖尿病に対するリスクの低減との相関性を保持している。さらに他の実施形態によれば、前記対立遺伝子は配列番号2に示す核酸配列を有するGVAR237_insまたはその相同体であり、前記対立遺伝子は、糖尿病に対するリスクの増加と相関している。さらなる実施形態によれば、GVAR237_insは、少なくとも1つのSNPおよび/または1つもしくは2つのヌクレオチドの少なくとも1つの挿入もしくは欠失を含み、前記対立遺伝子は、GVAR237_ins対立遺伝子と、糖尿病に対するリスク、糖尿病に対する感受性または素因の増大との相関性を保持している。
【0042】
特定の実施形態によれば、本発明の方法は、前記疾病のサブタイプを診断するためのものである。1つの実施形態によれば、糖尿病サブタイプは、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病および若年発症成人型糖尿病(MODY)からなる群より選択される。
【0043】
本発明の方法によって、糖尿病の疾病発症時または発症前に正確な診断ができるようになり、その結果、衰弱をもたらす糖尿病の効果を低減または最低限にすることができる。前記方法は、この疾病の臨床的症状および徴候がない人で、この疾病の家族歴のある人、または糖尿病に罹る付加的リスク因子のレベル(1つ以上)が高くなっている人に適用できる。
【0044】
糖尿病に寄与している遺伝因子を限定することにより糖尿病のリスクを同定する診断検査は、既知の臨床的リスク因子に関する情報と共に、または独立して、一般的な個体群に対する一個体のリスクを限定するのに使用できる。糖尿病に対するリスクがある個体を同定するためのよりよい手段は、煙草の喫煙、高コレステロール血症、LDLコレステロール上昇、低HDLコレステロール、血圧(BP)上昇、肥満、身体運動の欠如、およびC−反応性タンパク質レベルの増加または他の炎症マーカーにより反映される炎症性要素を含む、糖尿病(特に糖尿病2型)に対するリスク因子のより積極的な管理を含めた、より良好な予防および処置計画を導くはずである。
【0045】
このような追加の情報は、臨床検査および調査から得ることができる。血液検査には、血漿または血清コレステロールおよび高密度リポタンパク質コレステロールの定量が含まれるが、これらに限定されない。調査によって集めるべき情報には、性、年齢、家族、ならびに肥満および糖尿病の家族歴などの既往歴に関する情報が含まれる。検査によって集められる臨床情報としては、例えば、身長、体重、腰囲および胴囲、ならびに脂肪症および肥満の他の測定値に関する情報が挙げられる。一般的なリスクについての情報は、特定の患者に生活様式(例えば、喫煙の停止、カロリー摂取の低減、運動の増加)を整えることを納得させるのを助けるために、医師が用いてもよい。最後に、体重、塩およびアルコールの摂取の低減などの、血圧の低下を目指した予防処置は、糖尿病のリスクが高い患者により良好に動機付けをし、かつ本発明の教示に従う糖尿病の分子診断に基づいて選択をすることの双方を可能とする。
【0046】
よって、特定の実施形態によれば、本発明の方法は、糖尿病および関連障害に罹るリスクが変化している被検者を同定するためのものである。
【0047】
他の実施形態によれば、前記糖尿病関連障害または状態は、病的肥満を含む肥満;Prader−Willi症候群;過食症および満腹感減損;食欲不振症;代謝障害;内分泌異常;胃腸管系疾患;摂食障害;Wolfram症候群;Alstrom症候群;糖尿病を伴うミトコンドリア性筋障害;MED−IDDM症候群;Ipex連鎖症候群;先天性全身性リポジストロフィー(2型)(Cgl2)、またはBerardinelli−Seip症候群;およびSchmidt症候群からなる群より選択される。
【0048】
さらなる実施形態によれば、前記方法は、効率的かつ安全な治療を選択するため、または疾病に対する治療の効果をモニターするのためのものである。
【0049】
またさらなる実施形態によれば、本発明の方法は、薬物作用、被検者による薬物応答性および薬物の副作用を含む、薬物有効性を査定するのにも有用である。
【0050】
本発明はさらに、1個体群において糖尿病に対する感受性を診断する方法を提供する。この方法は、前記疾病に対して感受性の個体群で存在頻度が高い糖尿病関連PFK変異対立遺伝子をスクリーニングし、一般的な個体群でのその存在の頻度と比較することを含み、ここで少なくとも1つの糖尿病関連PFK変異対立遺伝子の存在が、糖尿病に対する感受性を指し示している。「疾病関連変異対立遺伝子」はまた、糖尿病になるリスクを増加するのでなく低減することに関連していてもよい。「疾病関連対立遺伝子」は、糖尿病と高い相関性を示す、本明細書に記載の対立遺伝子多型の1つまたは組み合わせを含むことを意図する。
【0051】
個体の遺伝物質を含有する試料中の、少なくとも1つの多型対立遺伝子の存在の判定は、限定しないが、PCR、制限酵素断片長多型(RFLP)、ハイブリダイゼーション、直接配列決定およびそれらの任意の組み合わせを含む、当業者に既知の任意の方法または技術によって行えることを、当業者は容易に認識するであろう。当該技術分野で明らかなように、特異的対立遺伝子の存在は、いずれかの核酸鎖から、または両二本鎖から判定できる。
【0052】
よって、さらなる態様によれば、本発明は、配列番号1〜2に示す核酸配列を有するPFK遺伝子の多型対立遺伝子のいずれか1つを増幅できる単離されたオリゴヌクレオチドを含むプライマー対を提供する。
【0053】
1つの実施形態によれば、単離されたオリゴヌクレオチドの対は、核酸配列AGGAAGGTGCCTCTGTGTGTCC(配列番号6)を有する順方向プライマー、および核酸配列ATCACATTCCGGCACAGTGG(配列番号7)を有する逆方向プライマーを含む。別の実施形態によれば、単離されたオリゴヌクレオチドの対は、核酸配列GGCCAGAATGTTTGCTCCAG(配列番号8)を有する順方向プライマー、および核酸配列ACCCAGGTGGGCCTTAAATG(配列番号9)を有する逆方向プライマーを含む。
【0054】
以上に記載のとおり、本発明の目的の1つは、糖尿病に罹るリスクが高いヒトの予測である。この疾病に対するリスクのある個体を同定するためのより良好な手段によって、糖尿病に対するリスク因子のより積極的な管理や、さらには糖尿病に関連する長期合併症を予防することを含めた、より良好な予防および処置計画が導かれるはずである。
【0055】
糖尿病に関連する長期合併症として、アテローム性動脈硬化症;末梢血管疾患、うっ血性心不全、冠動脈疾患、心筋梗塞、および突然死を含む心血管疾患;糖尿病性腎症に起因する慢性腎不全;糖尿病性網膜症に起因する網膜障害;非増殖性糖尿病性網膜症;ポリニューロパシー、モノニューロパシー、および/または自律性ニューロパシーを含む増殖性糖尿病性網膜症ニューロパシー;胃排出遅延(胃不全麻痺)ならびに小腸および大腸運動性の変化(便秘または下痢)を含む胃腸管系機能障害;勃起機能障害、膀胱症および雌性性的機能障害を含む尿生殖器機能障害;創傷の治癒不良および糖尿病性皮膚症を含む皮膚科学徴候;ならびに足の潰瘍および壊疽のような下肢合併症が挙げられる。
【0056】
本発明のさらなる目的は、疾病の分子診断のための方法を提供することである。個体における疾病の遺伝的病因によって、この疾病の分子的病因の情報が提供されるであろう。分子的病因がわかれば、この病因に基づいて治療を選択できる。例えば、効果的であるらしい薬物を、多大な試行錯誤および臨床治験の必要なしに、より直接的に選択できる。本発明の教示は、その開発の臨床治験の間の新しい薬物の効果の検査や、既知の使用中の薬物の効果の試験を含めた疾病に対する薬物の効果の試験の研究に対するヒト被検者の選択も可能とする。
【0057】
よって、さらなる態様によれば、本発明は、糖尿病の予防または処置に有用な治療剤の効果をモニターするための方法であって、(a)配列番号1〜2のいずれか1つに記載の核酸配列を有する、少なくとも1つの糖尿病関連多型対立遺伝子をそのゲノム内に有する被検者に、治療上有効な量のその薬剤を提供し、(b)糖尿病の少なくとも1つの表現型上の特徴に対する、前記治療剤の効果を判定することを含み、ここで少なくとも1つの表現型上の特徴を変化させる薬剤は、糖尿病を予防または処置するのに有用であると考えられるものである方法を提供する。
【0058】
本願明細書の、「糖尿病の表現型上の特徴」という用語には、ケトアシドーシスおよび非ケトン性高浸透圧性昏睡などの急性合併症ならびに長期合併症を含む、高血糖およびそれに関連する障害が含まれるが、これらに限定されない。糖尿病に関連する長期合併症として、アテローム性動脈硬化症;末梢血管疾患、うっ血性心不全、冠動脈疾患、心筋梗塞、および突然死を含む心血管疾患;糖尿病性腎症に起因する慢性腎不全;糖尿病性網膜症に起因する網膜障害;非増殖性糖尿病性網膜症;ポリニューロパシー、モノニューロパシー、および/または自律性ニューロパシーを含む増殖性糖尿病性網膜症ニューロパシー;胃排出遅延(胃不全麻痺)ならびに小腸および大腸運動性の変化(便秘または下痢)を含む胃腸管系機能障害;勃起機能障害、膀胱症および雌性性的機能障害を含む尿生殖器機能障害;創傷の治癒不良および糖尿病性皮膚症を含む皮膚科学徴候;ならびに足の潰瘍および壊疽のような下肢合併症が挙げられる。
【0059】
特定の実施形態によれば、前記薬剤は、異なる変異対立遺伝子をそのゲノム内に各々含んでいる複数の被検者に提供される。これらの実施形態で、前記方法は、特異的対立遺伝子の組み合わせと前記治療剤(特に薬物)の効果との間の連係の予測につき、前記複数の被検者の対立遺伝子の組み合わせに関して、治療剤の効果を分析することをさらに含む。
【0060】
またさらなる態様によれば、本発明は、糖尿病を処置するための候補治療剤に対する被検者の応答性をモニターするための方法であって、(a)被検者からの遺伝物質を含む生物学的試料を準備し、(b)PFKをコードする遺伝子内に存在する少なくとも1つの多型対立遺伝子の、前記遺伝物質中での存在を判定し、前記対立遺伝子は、配列番号1および配列番号2のいずれか1つに示す核酸配列を有し;(c)前記被検者に、治療上有効な量の候補薬剤を投与し;および(d)前記被検者に対する前記候補薬剤の効果を判定することを含み、検出可能な効果を有することが、前記被検者は前記候補薬剤に対して応答性であることを示す方法を提供する。
【0061】
特定の実施形態によれば、候補薬剤の効果の判定は、糖尿病の少なくとも1つの特徴的な表現型に対するその効果を判定することを含む。
【0062】
他の実施形態によれば、前記候補薬剤の前記効果の判定は、タンパク質、mRNAもしくはゲノムDNAの発現もしくは活性またはそれに関連する生物学的反応もしくは経路の、前記候補薬剤を投与する前の前記被検者から提供された試料中のレベルと、前記候補薬剤の投与後の前記被検者から得た試料中のレベルとを比較することを含み、発現または活性の前記レベルを変化させる薬剤が、糖尿病を予防または処置するのに有用であると考えられる。
【0063】
特定の実施形態によれば、前記薬剤は複数の被検者に投与され、かつ前記方法は、特異的対立遺伝子の組み合わせと前記治療剤の効果との間の連係の予測につき、前記複数の被検者の対立遺伝子の組み合わせに関して、治療剤の効果を分析することをさらに含む。
【0064】
また別の実施形態によれば、前記効果の判定は、被検者の応答性の程度を判定することを含む。さらなる実施形態によれば、候補薬剤の効果は有害作用を含む副作用であり、効果の判定は前記副作用の程度を判定することを含む。
【0065】
本発明の方法にかかる使用に有用なキットも提供される。
【0066】
さらなる別の態様によれば、本発明は、糖尿病または関連状態のリスク査定、診断または予後診断のためのキットであって、本明細書に記載の糖尿病関連多型対立遺伝子を同定できる試薬、材料およびプロトコルを含むキットを提供する。
【0067】
1つの実施形態によれば、前記キットは、本発明のPFKP遺伝子の多型対立遺伝子の少なくとも1つを検出できる試薬および材料を含む。
【0068】
特定の実施形態によれば、前記材料は、配列番号1〜2のいずれか1つに示す核酸配列を有するPFK遺伝子の多型対立遺伝子を増幅できるプライマー対を含む。現在好ましい特定の実施形態によれば、単離されたオリゴヌクレオチドの対は、核酸配列AGGAAGGTGCCTCTGTGTGTCC(配列番号6)を有する順方向プライマー、および核酸配列ATCACATTCCGGCACAGTGG(配列番号7)を有する逆方向プライマーを含む。別の実施形態によれば、単離されたオリゴヌクレオチドの対は、核酸配列GGCCAGAATGTTTGCTCCAG(配列番号8)を有する順方向プライマー、および核酸配列ACCCAGGTGGGCCTTAAATG(配列番号9)を有する逆方向プライマーを含む。
【0069】
さらなる実施形態および本発明の利用可能性の範囲全体は、以下に示す詳細な説明から明らかになるであろう。しかし、詳細な説明および具体的な実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すものであるが、本発明の精神および範囲に含まれる様々な変更および修正がこの詳細な説明から当業者に明らかになるはずであるから、これらは例示として挙げるに過ぎないことは理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、GVAR237_ins対立遺伝子の配列を示し、太字のイタリアンフォントで15ヌクレオチドの挿入を表している。
【図2】図2は、混合配列(「mix」と表記)の例と、分離された参照および挿入対立遺伝子(応じるように「ref」および「ins」と表記)を示す。配列は、表1の対立遺伝子の逆相補鎖であって、可変領域のみを示しており、挿入分は太字かつイタリアンフォントにて示す。
【図3】図3は、GVAR237_refおよびGVAR237_ins対立遺伝子についての、ホモ接合性またはヘテロ接合性の患者からの20の試料での結果を表すゲル電気泳動を示す。
【発明を実施するための形態】
【0071】
本発明は、糖尿病に関連する遺伝的変動の同定、特に疾病関連遺伝子における対立遺伝子多型の同定に関する。本発明は、疾病素因および疾病状態を診断するための方法、さらには治療剤に対する応答を予測するための方法を提供する。本発明はさらに、本発明を実施するのに有用なキットを提供する。
【0072】
(本発明の配列を明らかにするために採用される方法論)
GeneVa(商標)プラットフォームを用いて、糖尿病に結びつくゲノム変動を検索した。前記プラットフォームは、(a)ヒトゲノムにおける挿入および欠失の大きなデータベース;(b)構造上のゲノム変動、遺伝子、疾病および薬物を結びつけるシステム;ならびに(c)挿入および欠失に対する、配列決定による遺伝子型タイピング法の3つの主要成分を含む。
【0073】
データベースプラットフォームは、15〜500塩基対の範囲にあるサイズの、200000を超える微小規模の変動からなる。微小規模の変動の40%を超えるものは既知の遺伝子内に位置しており、そして数千は薬物標的遺伝子内および薬物標的相互作用遺伝子内に位置している。データベースは、すべてのヒトゲノム配列決定断片(2億3000万を超える配列)および公的かつ登録されたEST(発現配列タグ)データベースを分析することによって作成した。ヒトゲノム断片は、NCBI Traceアーカイブからダウンロードし、および公的なESTは、NCBI GenBankからダウンロードした。
【0074】
生命情報科学解析システムは、遺伝子を疾病に結びつけるために、公表論文、遺伝子発現ミクロアレイ実験、経路データベース、および医薬関連データベースなどの不同性のデータ情報源を統合して開発される。このシステムを、糖尿病に関連する遺伝子、およびこれらの遺伝子内の予測される変動を見出すために使用した。それら変動は、次いでコーディングエクソン、調節領域、保存領域等にあるかどうかなどの、遺伝子産物に対するそれらの潜在的な効果に従ってフィルタ処理する。配列決定による、挿入および欠失の遺伝子型タイピングには、ヘテロ接合体状態でのクロマトグラムを分析する正確な方法があることが重要である。ヘテロ接合体状態でのみ現れる対立遺伝子、予測されない対立遺伝子の組み合わせおよび複数対立遺伝子部位を表す複合クロマトグラムを含む複雑なケースを扱うのに、混合クロマトグラム分解アルゴリズムを用いた。この方法を用いて、微小規模の変動を遺伝子型タイピングした。
【0075】
(遺伝的変動)
本発明は、以下に詳細に説明するように、糖尿病および関連障害と、ホスホフルクトキナーゼ(PFK)遺伝子内(特にPFKP遺伝子内)の対立遺伝子多型との関連を開示する。
【0076】
本願明細書で用いる「遺伝子」という用語は、ある遺伝子のあるポリペプチドをコードする配列の上流および下流の両方や、その中に位置する全調節エレメント、ならびにある遺伝子のmRNAの5’および3’非翻訳領域およびすべてのエクソンおよびイントロン配列(オルターナティブスプライシングによるエクソンおよびイントロンも)を含む全ポリペプチドエンコーディング配列を含むある遺伝子の全転写領域を包含する、全体を意味する。
【0077】
本願明細書で用いる「多型」という用語は、ある遺伝子またはその部分の1以上の型(例えば、対立遺伝子変異)が、ある個体群に共存することを意味する。少なくとも2つの異なる型、すなわち2つの異なるヌクレオチド配列がある遺伝子の部分が、多型部位と称される。多型部位の特異的遺伝子配列が、対立遺伝子である。多型部位は、単一ヌクレオチドであることができ、その同一性は異なる対立遺伝子で相違している。多型部位は、数ヌクレオチドの長さであることもできる。かくして多型は、その多型が存在するせいで、ある個体群の数名のメンバーが1つの配列の遺伝子を担持し、他のメンバーは第2のわずかに異なる配列を担持するということで、「対立遺伝子」と称されることになる。最も簡単な場合、配列の唯一の変異が存在しえ、その多型が二対立遺伝子と称される。オルターナティブ突然変異の発生は、三対立遺伝子多型等を生じさせる可能性がある。対立遺伝子は、配列の相違を含むヌクレオチド(1つ以上)によって参照されてもよい。
【0078】
(疾病関連多型対立遺伝子)
特定の実施形態によれば、本発明は、以下の表に示す血小板ホスホフルクトキナーゼ(PFKP)をコードする遺伝子内の多型対立遺伝子を開示する。
【0079】
【表1】

【0080】
対立遺伝子GVAR237_refの配列に対応する配列は、PFKP遺伝子のイントロン内のNCBI参照ゲノム(NCBI受入番号:ref|NT_077567.3|Hs10_77616、3110627から3111053まで)に出現している。対立遺伝子GVAR237_insの配列に対応する本発明の配列は、GVAR237_refに対する15ヌクレオチドの挿入を含み、これは図1で太字のイタリアンフォントとして表している。
【0081】
(多型対立遺伝子の使用)
特定の実施形態によれば、本発明の多型対立遺伝子は、特定の疾病のリスク査定、診断および予後診断のためのマーカーとして有用である。他の実施形態によれば、それらマーカーは治療診断研究のため、処置の選択ならびにその処置に対する被検者の応答性や、糖尿病の予防および治療のための処置の効力をモニターするため、臨床経過および処置の効力を予測するため、また代理マーカーとして有用である。
【0082】
本願明細書で用いる「素因」および「感受性」という用語は、互換的に、すべての糖尿病サブタイプを含む、糖尿病の表現的特徴が被検者に現れる蓋然性の増加を意味する。
【0083】
これらマーカーは、糖尿病に関連する遺伝子の対立遺伝子である。本発明の教示によれば、前記遺伝子はPFK、特にPFKPである。本願明細書で用いる「疾病関連遺伝子」「糖尿病関連遺伝子」「糖尿病に関連する遺伝子」、または「糖尿病遺伝子の恐れがある」の用語は、互換的に用いられ、公的に入手できるだけでなく登録もされたデータベースを用いて、少なくとも1つの疾病または障害に関連することが見出されたタンパク質をコードする遺伝子との間の関連を意味する。
【0084】
ある個体群内で1以上の配列が可能なゲノム内でのヌクレオチドの位置が、本明細書で「多型部位」と称される。多型部位が単一ヌクレオチドの長さである場合、その部位は一塩基多型(SNP)と称される。例えば、特定の染色体位置で、ある個体群の1つのメンバーがアデニンを有し、かつその個体群の別のメンバーが同じ位置でチミンを有するのであれば、この位置は多型部位であり、さらに詳細には、この多型部位はSNPである。多型部位は、挿入、欠失、変換または転座に起因する、数ヌクレオチドの長さのものであってもよい。多型部位に関して、その配列の各バージョンは、本明細書で多型部位の「対立遺伝子」と称する。よって、前記の例では、SNPはアデニン対立遺伝子およびチミン対立遺伝子の双方を許容する。
【0085】
一般的に、特定の遺伝子は、例えばNCBI参照ゲノム(www.ncbi.nlm.nih.gov)由来の参照ヌクレオチド配列を有する。この参照と異なる対立遺伝子を、「変異対立遺伝子」と称する。参照ヌクレオチド配列によりコードされるポリペプチドが、特定の参照アミノ酸配列を有する「参照」ポリペプチドであり、変異対立遺伝子がコードするポリペプチドは、変異アミノ酸配列を有する「変異」ポリペプチドと称される。
【0086】
参照対立遺伝子と変異対立遺伝子との相違は、参照および変異ポリペプチドに必ずしも反映されない。ヌクレオチド配列変異は、ポリペプチドの特性に影響する変化を起こす可能性がある。これらの配列の相違は、参照ヌクレオチド配列と比較した場合の、挿入、欠失、変換および置換を含み、例えば、挿入、欠失または変換の結果、改変ポリペプチドを生じさせるフレームシフトを引き起こしうる;少なくとも1つのヌクレオチドの置換の結果、中途終止コドン、アミノ酸変化または異常なmRNAスプライシングを引き起こしうる;いくつかのヌクレオチドの欠失の結果、そのヌクレオチドでコードされる1以上のアミノ酸の欠失を引き起こす;不等組換えまたは遺伝子変換によるものなど、いくつかのヌクレオチドの挿入は、読み枠のコーディング配列の中断を引き起こす;配列のすべてまたは一部の重複;転位;またはヌクレオチド配列の再配列など、詳細に前記したとおりである。このような配列の変化は、疾病に関連することが見出された遺伝子によってコードされるポリペプチドを改変する。例えば、ポリペプチド配列の変化を引き起こすヌクレオチドの変化は、生理学的特性を劇的に改変でき、結果的にそのポリペプチドの活性、分布および安定性の改変をもたらし、またはそれ以外のポリペプチドの特性に影響を及ぼすことができる。
【0087】
あるいは、ヌクレオチド配列変異の結果、遺伝子の転写またはそのmRNAの翻訳に影響を及ぼす変化を引き起こすことができる。ある遺伝子の調節領域に位置する多型部位は、例えば、組織特異性の改変、転写速度の改変または転写因子に対する応答の改変に起因して、遺伝子の転写の改変を引き起こしうる。ある遺伝子のmRNAに対応する領域に位置する多型部位は、例えば、mRNAに安定な二次構造を導入し、またそのmRNAの安定性に影響を及ぼすことによって、そのmRNAの翻訳の改変を引き起こしうる。このような配列の変化は、疾病関連遺伝子の発現を改変しうる。
【0088】
本明細書でいう「ハプロタイプ」とは、遺伝マーカーの任意の組み合わせ(「対立遺伝子」)を意味する。ハプロタイプは、2以上の対立遺伝子を含むことができ、かつハプロタイプを含むゲノム領域の長さは数100ベースから何100キロベースもにまで変動しうる。当業者により認識されるとおり、異なる核酸鎖から対立遺伝子を限定するハプロタイプを判定することによって、同じハプロタイプを弁別的に記載できる。本発明に即した場合、ハプロタイプは好ましくは、所定の個体に見出され、かつある表現型に関連しうる対立遺伝子の組み合わせを意味する。
【0089】
本明細書に記載の糖尿病関連対立遺伝子は、糖尿病に関連するさらなる遺伝子に位置する他の「多型部位」に関連してもよいことは理解されるべきである。これら他の疾病関連多型部位は、遺伝マーカーとして同等に有用であるか、または糖尿病と本発明の危険状態(at−risk)対立遺伝子との観察された関連を説明する起因変動として、さらにずっと有用であってもよい。
【0090】
本発明の特定の実施形態によれば、糖尿病に対するリスクのある個体は、糖尿病関連遺伝子の対立遺伝子が同定される個体である。特定の実施形態によれば、リスクの意義は、百分率によって測定される。1つの実施形態で、リスクの有意な増加または低減は少なくとも約20%で、限定しないが約25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%および98%が含まれる。別の実施形態で、リスクの有意な増大は少なくとも約50%である。しかし、あるリスクが医学的に有意であるかどうかの同定は、特定の糖尿病型、その対立遺伝子またはそのハプロタイプ、および多くの場合で環境因子を含む、種々の因子に依存しうることは理解される。
【0091】
(NATアッセイ)
本発明の1つの態様は、糖尿病関連対立遺伝子多型の同定および検出を含む。
【0092】
生物学的試料中の、目的とする核酸の検出は、例えばPCR(または、例えばリアルタイムPCRなどの、その変形形態)などの核酸増幅技術を含むNATでのアッセイにより任意に実施しうる。
【0093】
本願明細書の、「プライマー」という用語は、標的配列にアニーリング(ハイブリダイズ)でき、これにより安定な条件下でDNA合成のための開始点として働くことのできる二本鎖領域が作出されるオリゴヌクレオチドを明示する。
【0094】
選択された、または標的となる核酸配列の増幅は、数多くの好適な方法によって行われうる(概して、Kwohら、1990、Am.Biotechnol.Lab、8:14参照)。多くの増幅技術が報告されており、当業者の特定の要求に合うよう、容易に適応させることができる。増幅技術の非限定例として、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、鎖置換増幅(SDA)、転写による増幅、q3レプリカーゼ系およびNASBA(Kwohら、1989、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86、1173−1177;Lizardiら、1988、BioTechnology6:1197−1202;Malekら、1994、Methods Mol.Biol.、28:253−260;およびSambrookら、1989、Current Protocols in Molecular Biology第I〜III巻)が挙げられる。
【0095】
「プライマー対」または「増幅対」の用語は、本明細書で、本発明のオリゴヌクレオチド(オリゴ)の一対で、選択された核酸配列を増幅プロセスの数多くの型の1つ(好ましくはポリメラーゼ連鎖反応)によって増幅する際に一緒に用いるように選択されるものを意味する。増幅プロセスの他の型として、リガーゼ連鎖反応、鎖置換増幅、または核酸配列に基づく増幅(以下にさらに詳細に説明するとおり)が挙げられる。当該技術分野で一般的に知られているように、オリゴは選択条件下に相補的配列と結合するように設計される。
【0096】
本発明を実施するための核酸(すなわち、DNAまたはRNA)は、当該技術分野でよく知られた方法に従って得ることができる。
【0097】
本発明のオリゴヌクレオチドプライマーは、特定のアッセイ方式ならびに特定の要求および用いられる標的ゲノムに応じ、任意の好適な長さであってよい。任意に、オリゴヌクレオチドプライマーは、少なくとも12ヌクレオチドの長さ、好ましくは15から24ヌクレオチドの間であり、それらは採用された核酸増幅システムに特に適するように適応させることができる。当該技術分野で一般的に知られているように、オリゴヌクレオチドプライマーは、そのハイブリダイゼーションの、その標的配列との融解点を考慮することによって設計できる(Sambrookら、1989、Molecular Cloning−A Laboratory Manual、第2版、CSH Laboratories;Ausubelら、1989、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley&Sons Inc.、N.Y。)。
【0098】
ポリメラーゼ連鎖反応および他の核酸増幅反応は、当該技術分野でよく知られている(これらの反応の様々な非限定例を以下にさらに詳細に説明する)。本発明のこの態様にかかるオリゴヌクレオチドの対は、適合可能な融解点(Tm)、例えば、7℃未満、あるいは5℃未満、または4℃未満、典型的には3℃未満、より典型的には3℃から0℃まで異なる融解点を有するように選択されるのが好ましい。
【0099】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR):ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、MullisおよびMullisらの米国特許第4683195号および同第4683202号に記載されるように、クローニングまたは精製をせずにゲノムDNAの混合物中の標的配列のセグメントの濃度を増やす方法である。この技術は、低標的配列濃度の問題に対する1つの手法を提供する。PCRは、標的の濃度を容易に検出可能なレベルの直接的に高めるのに使用できる。標的配列を増幅するためのこのプロセスは、二本鎖標的配列のそれらのそれぞれの鎖に相補的な、モル過剰量の2つのオリゴヌクレオチドプライマーを、所望の標的配列を含むDNA混合物に導入することを含む。この混合物は変性させ、その後ハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーション後に、プライマーは相補鎖を形成するようにポリメラーゼを用いて伸長させる。比較的高濃度の、所望の標的配列のセグメントを得るために、変性、ハイブリダイゼーション(アニーリング)、およびポリメラーゼ伸長(延長)の工程は、必要に応じた回数だけ繰り返すことができる。
【0100】
所望の標的配列のセグメントの長さは、プライマーの互いの相対位置によって判定し、従って、この長さは制御可能なパラメータである。標的配列の所望のセグメントは、その混合物中で主要な(濃度の面から)配列になるので、それらは「PCRで増幅された」と言われる。
【0101】
リガーゼ連鎖反応(LCRまたはLAR):リガーゼ連鎖反応[LCR;時によって、「リガーゼ増幅反応」(LAR)と称される)は、核酸を増幅する、充分認識された代替法に開発されている。LCRでは、4つのオリゴヌクレオチド、標的DNAの一方の鎖に独自にハイブリダイズする2つの隣接オリゴヌクレオチド、および隣接オリゴヌクレオチドの相補的セットで、反対鎖にハイブリダイズするものを混合して、DNAリガーゼをその混合物に添加する。接合部で完全な相補性があるならば、リガーゼは、ハイブリダイズした分子の各々のセットに共有結合するであろう。重要なことだが、LCRで2つのプローブは、ギャップまたはミスマッチなしに標的試料中の配列と塩基対合する場合のみに、共に連結する。変性およびライゲーションの反復サイクルはDNAの短いセグメントを増幅する。LCRは、単一塩基の変化の検出を増強すべく、PCRと組み合わせて用いられてもいる。例えば、Segev、PCT公開第W09001069A1号(1990)を参照のこと。
【0102】
自家持続合成反応(3SR/NASBA):自家持続配列複製反応(3SR)は、均一な温度でRNA配列を指数関数的に増幅できる、転写によるインビトロ増幅システムである。増幅されたRNAはその後、突然変異検出のために利用できる。この方法において、オリゴヌクレオチドプライマーを用いて、目的の配列の5’端部にファージRNAポリメラーゼプロモーターを付加する。第2プライマー、逆転写酵素、RNaseH、RNAポリメラーゼおよびリボ−およびデオキシリボヌクレオシド三リン酸を含む、酵素および基質のカクテルにおいて、標的配列は転写、cDNA合成および第2の鎖合成を繰り返して行い、目的の範囲を増幅する。突然変異を検出するための3SRの使用は、小さなセグメントのDNA(例えば、200〜300塩基対)のスクリーニングに動力学的に限定される。
【0103】
Q−ベータ(Qβ)レプリカーゼ:この方法では、目的の配列を認識するプローブは、Qβレプリカーゼに対するRNA鋳型に付けられる。ハイブリダイズしていないプローブの複製に起因する擬陽性にかかる、これまで認められていた大きな問題は、配列に特異的なライゲーション工程を用いることで対処されてきている。しかし、利用可能な熱安定性のDNAリガーゼは、このRNA基質に対して効果的でなく、そのためライゲーションは低温(37℃)でT4DNAリガーゼによって実施しなければならない。これにより、LCRでの場合のように特異性を成し遂げる手段として高温を使用することが妨げられ、ライゲーションの事象は他の場所でなく接合部位での突然変異を検出するために使用できる。
【0104】
うまくいく診断法は、非常に特異的でなければならい。核酸ハイブリダイゼーションの特異性を制御するための単純な方法は、反応の温度を制御することによるものである。3SR/NASBA、およびQβシステムはすべて大量の信号を発生させることができるが、それらの方法の各々に関わる酵素の1つ以上が高温(すなわち、55℃より高い温度)で使用できない。従って、プローブの非特異的ハイブリダイゼーションを防ぐために反応温度を上げることはできない。プローブを低温でより簡単に融解させるように短くすると、複合ゲノムにおいて1以上が完全にマッチする可能性が増大する。これらの理由により、PCRおよびLCRは現在のところ検出技術の研究分野で広く用いられている。
【0105】
さらなるNAT試験は、蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)および比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)である。蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)−試験には、検査中のDNA配列(遺伝子または染色体)に相補的な、蛍光一本鎖DNAプローブを使用する。これらのプローブは、相補的DNAにハイブリダイズし、DNAのゲノム配列の染色体位置の同定を可能にする。
【0106】
比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)は、ゲノム全体でのDNAの多重の損益の総合的分析を可能とする。検査すべき組織からのゲノムDNA、および参照DNAを差次的に標識し、そして正常な分裂中期染色体に、同時にインサイツでハイブリダイズさせる。信号強度の変動は、検討中の組織のゲノム含有量の差を指し示すものである。
【0107】
対立遺伝子変動の研究におけるものなど、核酸検出技術の多くの適用には、複雑なバックグラウンドでの特異的配列の検出のみならず、少しの、または単一の、ヌクレオチドに差がある配列間の弁別も関わる。PCRによる対立遺伝子特異的変異の検出の1つの方法は、テンプレート鎖とプライマーの3’端との間にミスマッチがある場合に、TaqポリメラーゼがDNA鎖を合成するのは困難であるという事実に基づいている。対立遺伝子に特異的な変異は、可能な対立遺伝子の1つだけと完全にマッチするプライマーの使用によって検出されえ、他の対立遺伝子とのミスマッチは、プライマーの伸長を阻止するように作用し、これによりその配列の増幅は妨げられる。同様の3’−ミスマッチストラテジーを用いることで、LCRにおけるライゲーションを妨げる効果が大きくなり、任意のミスマッチが、熱安定性リガーゼの作用を効果的に阻止する。
【0108】
本発明の様々な実施形態にかかる直接検出方法は、例えばサイクリングプローブ反応(cycling probe reaction:CPR)または分枝状DNA解析であってもよい。
【0109】
検出すべき核酸が充分な量入手できる場合、(例えば、PCRおよびLCRの場合のように)その標的のコピーを多数作らずに、その配列を直接検出する利点がある。最も注目すべきは、信号を指数関数的に増幅しない方法が定量的解析にはより適している。単一のオリゴヌクレオチドに複数の染料を付けることによって信号を増強するとしても、最終的な信号強度と標的の量との間の相関性は直接的なものである。このようなシステムには、反応の産物がそれら自体でさらなる反応を促進することがないため、それら産物による実験面(lab surfaces)の汚染があまり懸念されないという、さらなる利点がある。最近考案された技術は、放射能の使用の排除および/または自動化できる方式の感度の向上を探求している。2つの例は、「サイクリングプローブ反応」(CPR)、および「分枝状DNA」(bDNA)である。
【0110】
サイクリングプローブ反応(CPR):サイクリングプローブ反応(CPR)は、長いキメラオリゴヌクレオチド(中心部分はRNAで作られ、両末端はDNAで作られるもの)を用いる。そのプローブの標的DNAへのハイブリダイゼーション、および熱安定性RNaseHへの曝露で、RNA部分の消化が起こる。これにより、二重鎖の残余のDNA部分が不安定化し、標的DNAからプローブの残部を遊離させ、かつ別のプローブ分子にはプロセスを繰り返させる。その信号は、切断されたプローブ分子の形態で、直線的な比率で蓄積する。
【0111】
分枝状DNA:分枝状DNA(bDNA)には、個々のオリゴヌクレオチドが各々、35〜40の標識(例えば、アルカリ性ホスファターゼ酵素)を担持すること可能とする分枝状構造を有するオリゴヌクレオチドが包含される。これで、ハイブリダイゼーション事象からの信号を増強されるが、非特異的結合からの信号もまた増大しうる。
【0112】
本発明の様々な好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの配列変化の検出は、例えば制限酵素断片長多型(RFLP解析)、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)解析、変性/温度ゲル電気泳動(DGGE/TGGE)、一本鎖高次構造多型(SSCP)解析またはジデオキシフィンガープリント法(ddF)によって成し遂げられうる。
【0113】
特異的核酸配列および配列変化の検出を可能とする試験に対する要求が、臨床的診断において迅速に高まってきている。ヒトおよび病原生物由来の遺伝子に対する核酸配列のデータが蓄積し、高速で、対費用効果が高く、かつ使用の簡単な、特異的配列内にある未解明の(as yet)突然変異の試験に対する要求が迅速に増加している。
【0114】
少数の方法は、突然変異について核酸セグメントをスキャンするように考案されている。1つの選択肢は、各試験試料(例えば、細菌分離株)の全遺伝子配列を判定することである。およそ600ヌクレオチドよりも少ない配列の場合、これは増幅した材料を用いて成し遂げうる(例えば、PCR反応産物)。これで、目的のセグメントのクローニングに関連する時間と費用がかからなくなる。配列決定に関連する困難に鑑み、核酸の所定セグメントはいくつかの他のレベルで特徴付けをしてもよい。電気泳動により同じゲルで流した既知標準との比較によって、最低の分解能にて分子のサイズを判定できる。分子のさらに詳細な像は、電気泳動の前に制限酵素の組み合わせを用いて切断し、序列化したマップの構築を可能とすることで得ることができる。その断片内の特異的配列の存在は、標識したプローブのハイブリダイゼーションによって検出でき、またはその正確なヌクレオチド配列は、部分的な化学的分解によって、もしくは連鎖終結ヌクレオチド類似体の存在下にプライマー伸長によって判定できる。
【0115】
制限酵素断片長多型(RFLP):類似配列間の小さな差の検出の場合、解析の要件は最高レベルの分解能であることが多い。問題の変動の位置が予めわかっているような場合のために、直接配列決定をせずに小さな変化を調べるための方法がいくつか開発されている。例えば、目的の突然変異が偶然、制限認識配列の近傍またはその中にあれば、消化のパターンの変化を、診断ツールとして使用できる(例えば、制限酵素断片長多型[RFLP]解析)。
【0116】
RFLP解析は、感受性が低いという欠点があり、かつ大量の試料を必要とする。RFLP解析が小さな突然変異の検出に使用される場合、その本質から、既知の制限エンドヌクレアーゼの制限配列の近傍またはその中にあるそれら変化の検出に限定されてしまう。さらに、利用できる酵素のほとんどが4〜6塩基対の認識配列を有し、かつ多くの大規模DNA操作に対して切断頻度が高すぎる。よって、ほとんどの突然変異はこのような部位に該当しないので、RFLPはほんの一部の場合にしか適用できない。
【0117】
8塩基対の特異性を有する少数の希少切断制限酵素が単離されており、これらは遺伝子マッピングで広く使用されているが、これらの酵素は数が少なく、G+Cリッチ配列の認識に限定され、かつ高度にクラスタ形成される傾向にある部位で切断される。近年、グループIイントロンによりコードされる、12よりも多い塩基対特異性を有する可能性があるエンドヌクレアーゼが発見されている。
【0118】
対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO):もしも変化が認識配列内にない場合であれば、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)は、プライマー伸長またはライゲーション事象をマッチまたはミスマッチの指標として使用できるように、突然変異配列に近接してハイブリダイズさせるべく設計することができる。放射活性で標識した対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)とのハイブリダイゼーションもまた、特定の突然変異の検出に適用されている。この方法は、単一ヌクレオチドだけ異なる場合であっても、短いDNA断片の融解点の差に基づいている。ストリンジェントなハイブリダイゼーションおよび洗浄条件で、突然変異型と野生型の対立遺伝子を差別化できる。PCR産物に適用するASOのアプローチも、ras遺伝子およびgsp/gip癌遺伝子での点突然変異を検出および特徴付けするのに、様々な研究者が広く利用している。
【0119】
前記の技術(すなわち、RFLPおよびASO)のいずれかを用いて、突然変異が疑われる正確な位置を試験に先駆けて知る必要がある。すなわち、それらは目的の配列または遺伝子内の突然変異の存在を検出する必要がある場合には適用不可能である。
【0120】
変性/温度勾配ゲル電気泳動(DGGE/TGGE):他の2種の方法は、軽微な配列変化に応じた電気泳動度の変化の検出によるものである。「変性勾配ゲル電気泳動」(DGGE)と命名されている、これらの方法のうちの1つは、わずかに異なる配列は、勾配ゲルにて電気泳動により分解すると、局所融解の異なるパターンを呈することになるという観察に基づいている。ある単一ヌクレオチドで異なっているホモ二重鎖対ヘテロ二重鎖の融解特性の相違によって、それらの電気泳動の易動度対応する変化からその標的配列における突然変異の存在を検出できるので、このようにして変異を識別することができる。通常はPCR産物である分析すべき断片は、G−C塩基対(30〜80)の長いストレッチにより一端で「クランプされ」、鎖の完全な解離をしなくても目的の配列の完全な変性が可能になる。DNA断片へのGC「クランプ」の付着で、DGGEによって認識できる突然変異の画分が増大する。GCクランプを1つのプライマーに付けることは、増幅した配列の解離温度が低いことを確実にするために重要である。温度勾配を用いて前記技術の変法が開発されており、その方法は、RNA:RNA二重鎖にも適用できる。
【0121】
DGGEの有用性に対する限界として、試験すべきDNAの各タイプに対し、変性条件を至適化しなければならないという要件が挙げられる。さらに、前記方法は、ゲルを調製し、電気泳動の間に必要な高温を維持するのに。特殊機器を必要とする。試験すべき各配列に対する1つのオリゴヌクレオチドにクランプ尾部を合成することに関わる費用も、大きな懸念材料である。さらに、長い実行時間が、DGGEに必要とされる。DGGEの長い実行時間は、定変性ゲル電気泳動(CDGE)と称されるDGGEの変法にて短縮された。突然変異の検出に対して高い効率に達することを目的として、CDGEは、ゲルの変性条件が異なる下で実施されることが必要である。
【0122】
温度勾配ゲル電気泳動(TGGE)と命名されている、DGGEに類似の技術では、化学的変性勾配ではなく、温度勾配が用いられる。TGGEは、電場に対して垂直に配向した温度勾配を生じさせることができる特殊機器を用いる必要がある。TGGEは、DNAの比較的小さな断片の突然変異を検出でき、従って、大きな遺伝子セグメントのスキャンでは、ゲルに流す前に複数のPCR産物を使用する必要がある。
【0123】
一本鎖高次構造多型(SSCP):「一本鎖高次構造多型」(SSCP)と称される別の一般的な方法は、Hayashi、Sekyaおよび共同研究者らによって開発され、核酸の一本鎖は、非変性条件で特徴的な高次構造をとることができ、かつこれらの高次構造は電気泳動度に影響を及ぼすという観察に基づくものである。相補鎖は、一方の鎖が他方の鎖から分割されうる、充分に異なる構造と想定する。断片内の配列の変化は高次構造も変化させることになり、その結果易動度が変動し、そしてこれが配列の変動についてのアッセイに使用できるようになる。
【0124】
ジデオキシフィンガープリント法(ddF):ジデオキシフィンガープリント法(ddF)は、突然変異の存在について遺伝子をスキャンするのに開発された別の技術であるこのddF技術では、サンガージデオキシ配列決定の要素がSSCPと組み合わせられている。ジデオキシ配列決定反応は、1つのジデオキシターミネーターを用いて実施し、次いでその反応産物を非変性ポリアクリルアミドゲルにて電気泳動して、SSCP解析において終止セグメントの易動度の変動を検出する。ddFは感受性増大という面でSSCPよりも改良されてはいるが、ddFでは高価なジデオキシヌクレオチドを使用する必要があり、またこの技術もやはり、SSCPに好適なサイズの断片(すなわち、突然変異の至適な検出には200〜300塩基の断片)の解析に限られてしまう。
【0125】
本発明の現在好ましい実施形態によれば、DNA試料中の本明細書に記載の核酸配列のいずれかを検索する工程は、核酸配列決定、ポリメラーゼ連鎖反応、リガーゼ連鎖反応、自家持続合成反応、Qβ−レプリカーゼ、サイクリングプローブ反応、分枝状DNA、制限酵素断片長多型解析、ミスマッチ化学的切断、ヘテロ二重鎖解析、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド、変性勾配ゲル電気泳動、定変性ゲル電気泳動、温度勾配ゲル電気泳動およびジデオキシフィンガープリント法を含むがこれらに限定されない任意の好適な技術によって行われる。
【0126】
検出も、チップまたはこのような他の装置を用いて任意に実施してもよい。分析すべき候補領域を含む核酸試料は、好ましくは分離、増幅、およびレポーター基で標識される。このレポーター基は、フィコエリトリンなどの蛍光基であることができる。標識した核酸は次いで、流体ステーション(fluidics station)を用いてチップ上に固定化したプローブとインキュベートする。
【0127】
反応が完結したところで、チップをスキャナに挿入し、ハイブリダイゼーションのパターンを検出する。既に核酸に取り込まれたレポーター基から出る信号としてハイブリダイゼーションのデータを集め、その核酸は今やチップに付着したプローブに結合している。チップに固定化した各プローブの配列および位置はわかっているので、特定のプローブにハイブリダイズする核酸の同一性を判定することができる。
【0128】
自動化装置と共に利用した場合、前記の検出方法は、糖尿病および/または病理学的状態について迅速かつ簡単に複数の試料をスクリーニングするのに使用できることは理解されるであろう。
【0129】
(ハイブリダイゼーションアッセイ)
生物学的試料中の目的の核酸の検出は、オリゴヌクレオチドプローブを用い、ハイブリダイゼーションによるアッセイで任意に行なってもよい。本願明細書で用いる「プローブ」とは、核酸分子の相補鎖に、塩基特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドである。「塩基特異的に」とは、2つの配列がプライマーまたはプローブとハイブリダイズするのに充分な程度のヌクレオチド相補性を有しなければならないことを意味する。従って、そのプローブ配列は鋳型の配列に完全に相補的である必要はない。非相補的塩基または修飾された塩基を、塩基の置換がハイブリダイゼーションを阻害しない限りにおいて、プローブ内に散在させることができる。核酸の鋳型は、それに対してプローブが様々な程度の相補性を有する「非特異的配列」も含んでいてよい。
【0130】
古典的なハイブリダイゼーションアッセイとして、PCR、RT−PCR、リアルタイムPCR、RNase保護、インサイツハイブリダイゼーション、プライマー伸長、サザンブロット(DNA検出)、ドットまたはスロットブロット(DNA、RNA)、およびノーザンブロット(RNA検出)(NATタイプアッセイは、以下にさらに詳説する)が挙げられる。さらに近年、PNAが報告されている(Nielsenら、1999、Current Opin.Biotechnol、10:71−75)。他の検出方法として、ディップスティックセットアップ上のプローブを含むキット等が挙げられる。
【0131】
生物学的試料中の目的の対立遺伝子(すなわち、DNAまたはRNA)の検出を可能にするハイブリダイゼーションによるアッセイは、10、15、20、または30〜100ヌクレオチドの長さ、好ましくは10から50まで、より好ましくは40から50ヌクレオチドまでの長さであることができるオリゴヌクレオチドの使用に基づく。
【0132】
よって、本発明の単離されたポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)は、中等度からストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下に、本明細書に記載の対立遺伝子核酸配列の任意のものとハイブリダイズ可能であることが好ましい。
【0133】
中等度からストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、10%硫酸デキストラン、1M NaCl、1%SDSおよび5×106cpm32P標識プローブを含有などのハイブリダイゼーション溶液で65℃にて、0.2×SSCおよび0.1%SDSの最終洗浄溶液を使用して65℃にて最終洗浄することによって特徴付けられ、またこれに対し中等度のハイブリダイゼーションは、10%硫酸デキストラン、1M NaCl、1%SDSおよび5×106cpm32P標識プローブを含有するハイブリダイゼーション溶液を用いて65℃にて、1×SSCおよび0.1%SDSの最終洗浄溶液を使用して50℃にて最終洗浄することで行う。
【0134】
さらに一般的には、短い核酸のハイブリダイゼーション(200塩基対の長さより短い、例えば、17〜40塩基対の長さ)を、所望のストリンジェンシーに従って改変できる以下の代表的なハイブリダイゼーションプロトコルを用いて行うことができる;(i)6×SSCおよび1%SDSまたは3M TMACI、0.01Mリン酸ナトリウム(pH6.8)、1mM EDTA(pH7.6)、0.5%SDS、100μg/ml変性サケ精子DNAおよび0.1%脱脂粉乳のハイブリダイゼーション溶液、Tmを1〜1.5℃下回るハイブリダイゼーション温度、そして3M TMACI、0.01Mリン酸ナトリウム(pH6.8)、1mM EDTA(pH7.6)、0.5%SDSの最終洗浄溶液、Tmを1〜1.5℃下回る温度で;(ii)6×SSCおよび0.%SDSまたは3M TMACI、0.01Mリン酸ナトリウム(pH6.8)、1mM EDTA(pH7.6)、0.5%SDS、100μg/ml変性サケ精子DNAおよび0.1%脱脂粉乳のハイブリダイゼーション溶液、Tmを2〜2.5℃下回るハイブリダイゼーション温度、そして3M TMACI、0.01Mリン酸ナトリウム(pH6.8)、1mM EDTA(pH7.6)、0.5%SDSの最終洗浄溶液、Tmを1〜1.5℃下回る温度で、6×SSCの最終洗浄溶液、かつ22℃での最終洗浄;(iii)6×SSCおよび1%SDSまたは3M TMACI、0.01Mリン酸ナトリウム(pH6.8)、1mM EDTA(pH7.6)、0.5%SDS、100μg/ml変性サケ精子DNAおよび0.1%脱脂粉乳のハイブリダイゼーション溶液、ハイブリダイゼーション温度。
【0135】
ハイブリッド二重鎖の検出は、数多くの方法によって行うことができる。典型的には、ハイブリダイゼーション二重鎖はハイブリダイズしていない核酸から分離し、次いでその二重鎖に結合した標識を検出する。このような標識として、放射活性、蛍光、生物学的もしくは酵素のタグまたは当該技術分野で標準的に使用されている標識が挙げられる。標識は、生物学的試料由来の核酸、またはオリゴヌクレオチドプローブのいずれかに接合させることができる。
【0136】
プローブは、多くの周知の方法に従って標識できる。放射活性標識の非限定例として、3H、14C、32P、および35Sが挙げられる。検出可能マーカーの非限定例として、リガンド、フルオロフォア、化学発光剤、酵素、および抗体が挙げられる。プローブで使用するための他の検出可能なマーカーで、本発明の方法の感度を高めることを可能にできるものとして、ビオチンおよび放射性ヌクレオチドが挙げられる。特定の標識の選択が、それがプローブに結合する様式を決定付けることは当業者に明らかなはずである。
【0137】
例えば、本発明のオリゴヌクレオチドは、合成に続き、ビオチン化dNTPもしくはrNTP、または何らかの類似の手段(例えば、ビオチンのソラレン誘導体をRNAに光架橋)を組み入れ、その後、標識ストレプトアビジン(例えば、フィコエリトリン接合ストレプトアビジン)または等価物を付加することによって標識できる。あるいは、蛍光で標識したオリゴヌクレオチドプローブを使用する場合、フルオレセイン、リサミン、フィコエリトリン、ローダミン(Perkin Elmer Cetus)、Cy2、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、FluorX(アマシャム)その他(例えば、Krickaら、(1992)、Academic Press San Diego、CA)を、オリゴヌクレオチドに付着させることができる。
【0138】
当業者であれば、洗浄工程を、過剰の標的DNAまたはプローブや、さらには結合していない接合体を洗浄除去するために採用しうることを理解するであろう。さらに、標準不均一アッセイ方式は、前記オリゴヌクレオチドプライマーおよびプローブに存在する標識を用いてハイブリッドを検出するのに好適である。
【0139】
ハイブリダイゼーションアッセイの精度を高めるために、種々のコントロールを有効に用いてもよいことが理解されるであろう。例えば、試料は無関係のプローブとハイブリダイズさせて、ハイブリダイゼーションの前にRNaseAで処理して、偽ハイブリダイゼーションを査定してもよい。
【0140】
本発明は特定の核酸配列の検出用の標識の使用に特異的に依存するものではないが、このような標識が検出の感度を高めることにより有益であるかもしれない。さらに、自動化が可能になる。プローブは、数多くの周知の方法に従って標識することができる。
【0141】
一般的に知られているように、放射活性ヌクレオチドは、いくつかの方法によって本発明のプローブに取り込ませることができる。放射活性標識の非限定例として、H、14C、32P、および35Sが挙げられる。
【0142】
当業者であれば、洗浄工程を、過剰の標的DNAまたはプローブや、さらには結合していない接合体を洗浄除去するために採用しうることを理解するであろう。さらに、標準不均一アッセイ方式は、前記オリゴヌクレオチドプライマーおよびプローブに存在する標識を用いてハイブリッドを検出するのに好適である。
【0143】
ハイブリダイゼーションアッセイの精度を高めるために、種々のコントロールを有効に用いてもよいことが理解されるであろう。
【0144】
本発明のプローブは、天然由来の糖−リン酸骨格や、さらにはホスホロチオエート、ジチオン酸塩、ホスホン酸アルキルおよび非ヌクレオチド等を含む修飾された骨格と共に利用できる。本発明のプローブは、リボ核酸(RNA)またはデオキシリボ核酸(DNA)のいずれかで、好ましくはDNAで構築することができる。
【0145】
(診断アッセイ)
本明細書に記載のマーカー、プローブおよびプライマーは、被検者における糖尿病または糖尿病に関連する状態のリスク査定、診断または予後診断のための方法およびキットにて使用できる。
【0146】
1つの実施形態によれば、糖尿病もしくはそれに関連する状態に対するリスクまたは感受性の診断を、被検者の核酸中で、本発明に記載の多型対立遺伝子の1つまたはいくつかを検出することによって行う。診断上、最も有用な多型対立遺伝子は、フレームシフトに起因して;中途終止コドンに起因して;アミノ酸変化に起因して;または異常なmRNAスプライシングに起因した、糖尿病関連遺伝子によりコードされるポリペプチドの改変に関連するものである。ポリペプチド配列を引き起こすヌクレオチドの変化は多くの場合、活性、分布および安定性の改変を起こすことによりポリペプチドの生理学的特性を改変し、あるいはそうでない場合、ポリペプチドの特性に影響を及ぼすものである。他の診断上有用な多型対立遺伝子は、組織特異性の改変に起因して、転写速度の改変に起因して、生理学的状態への応答の改変に起因して、mRNAの翻訳効率の改変に起因して、またmRNAの安定性の改変に起因して、糖尿病関連遺伝子の転写またはそのmRNAの翻訳に影響を及ぼすものである。
【0147】
診断アッセイにおいて、ある個体の核酸中の、本発明の1つまたはいくつかの糖尿病関連多型対立遺伝子に存在するヌクレオチドの判定は、多型部位のヌクレオチドを正確に判定できる任意の方法または技術によって、当業者に既知のとおりに、また前記のとおりに行うことができる。
【0148】
本発明の他の実施形態によれば、糖尿病に対する感受性の診断は、1つまたはいくつかの糖尿病関連対立遺伝子の転写を調べることによって査定できる。転写の改変は、例えば、ハイブリダイゼーション方法、酵素切断アッセイ、RT−PCRアッセイおよびミクロアレイを含め、当該技術分野で報告された種々の方法によって査定できる。ある個体からの試験試料を集めて、糖尿病関連対立遺伝子に転写の改変を、その試料中に存在するRNAから査定する。改変された転写は、糖尿病に対する感受性が診断に用いられる。
【0149】
本発明のさらなる実施形態によれば、糖尿病に対する感受性の診断は、本発明の対立遺伝子によりコードされるポリペプチドの発現および/または構造および/または機能を調べることによっても行うことができる。ある個体からの試験試料は、糖尿病リスク遺伝子によりコードされるポリペプチドの発現の改変ならびに/または構造および/もしくは機能の改変の存在について、または糖尿病リスク遺伝子によりコードされる特定のポリペプチド変異(例えば、アイソフォーム)の存在について査定する。糖尿病リスク遺伝子によりコードされるポリペプチドの発現の改変は、例えば、定量的(発現されるポリペプチドの量、すなわち、生産されるポリペプチドの量の改変)または定性的(そのポリペプチドの構造および/または機能、すなわち突然変異ポリペプチドの発現または異なるスプライシング変異もしくはアイソフォームの発現の改変)であることができる。
【0150】
糖尿病感受性ポリペプチドの発現ならびに/または構造および/もしくは機能の改変は、当該技術分野で既知の様々な方法、例えば、クロマトグラフィー、分光測定、比色、電気泳動、等電点電気泳動、特異的切断、免疫学的技術および生物学的活性の測定に基づくアッセイや、さらには異なるアッセイの組み合わせによって判定できる。本願明細書で用いるポリペプチド発現または組成の「改変」は、コントロール試料における発現または組成に比較した、試験試料における発現または組成の改変を意味し、そして改変は、糖尿病感受性ポリペプチドもしくはその断片から直接、または当該ポリペプチドの基質および反応産物から、のいずれかで査定できる。コントロール試料は、試験試料に対応し(例えば、同じタイプの細胞由来である)、またこの疾病を発症していない個体からのものである試料とされる。コントロール試料に比較して、試験試料における本発明の糖尿病感受性遺伝子によるコードされるポリペプチドの発現または組成の改変は、糖尿病に対する感受性を指し示す。
【0151】
本発明の対立遺伝子によりコードされるポリペプチドに特異的に結合する抗体、または参照遺伝子によりコードされるポリペプチドに特異的に結合する抗体を用いるウエスタンブロッティング解析を使用して、本発明の多型対立遺伝子によりコードされる特定のポリペプチドの、試験試料中での有無を同定できる。多型対立遺伝子によりコードされるポリペプチドが存在すること、または参照遺伝子によりコードされるポリペプチドが存在しないことに基づき、糖尿病に対する感受性についての診断がなされる。
【0152】
本発明はまた、1つの個体群における糖尿病に対するリスクまたは感受性を診断する方法に関し、この方法は、健常個体群(コントロール)での存在の頻度に比較して糖尿病発症個体群でより高頻度に存在する糖尿病関連対立遺伝子をスクリーニングすることを含み、ここで対立遺伝子の存在は、糖尿病に対するリスクまたは感受性を指し示す。
【0153】
また別の実施形態で、糖尿病に対する感受性は、本発明の糖尿病関連対立遺伝子によりコードされる1つまたはいくつかのポリペプチドに関連する、生体ネットワークおよび/もしくは代謝経路の状態ならびに/または機能を査定することによって診断できる。生体ネットワークおよび/もしくは代謝経路の状態ならびに/または機能は、例えば、被検者から採取した生物学的試料からの、前記生体ネットワークおよび/または前記代謝経路に属する1つもしくはいくつかのポリペプチドまたは代謝物の、量または組成を測定することによって査定できる。糖尿病に罹るリスクは、ある被検者の生体ネットワークおよび/もしくは代謝経路の観察された状態ならびに/または機能を、健常コントロールの生体ネットワークおよび/もしくは代謝経路の状態ならびに/または機能と比較することによって評価される。
【0154】
診断の方法で有用なキット(例えば試薬キット)は、例えば、PCRプライマー、ハイブリダイゼーションプローブまたは本明細書に記載のようなプライマー(例えば、標識プローブまたはプライマー)、標識分子、制限酵素の検出用の試薬(例えば、RFLP解析用)、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、マーカー酵素、糖尿病関連対立遺伝子によりコードされる改変ポリペプチドに、または未改変(未変性)ポリペプチドに結合する抗体、1つもしくはいくつかの糖尿病関連対立遺伝子を含む核酸の増幅のための手段、または1つもしくはいくつかの糖尿病関連対立遺伝子の核酸配列を分析するためかまたは糖尿病関連対立遺伝子によりコードされる1つもしくはいくつかのポリペプチドのアミノ酸配列を分析するための手段等を含め、本明細書に記載の方法のいずれかで有用な成分を含む。1つの実施形態で、糖尿病に対する感受性を診断するためのキットは、糖尿病関連対立遺伝子由来の断片の核酸増幅のためのプライマーを含むことができる。
【0155】
(処置の経過のモニタリング)
本発明はまた、1つ以上の糖尿病関連対立遺伝子の発現(例えば、相対的または絶対的発現)に基づき、本明細書に記載の糖尿病の処置の有効性をモニタリングする方法にも関する。mRNA、もしくはそれがコードしているポリペプチドまたはそのコードされるポリペプチドの生物学的活性は、組織試料(例えば、末梢血試料または脂肪組織生検)において測定できる。前記ポリペプチドの発現または生物学的活性のレベルの査定は、有用であることが知られている治療剤での、またはそれらの治療活性について検査される薬剤での処置前とその途中に行うことができる。
【0156】
あるいは、糖尿病の処置の有効性は、本発明の糖尿病関連対立遺伝子によりコードされる1つまたはいくつかのポリペプチドに関連する、生体ネットワークおよび/もしくは代謝経路の状態ならびに/または機能を査定することによってフォローできる。生体ネットワークおよび/もしくは代謝経路の状態ならびに/または機能は、例えば、被検者から採取した生物学的試料からの、前記生体ネットワークおよび/または前記代謝経路に属する1つまたはいくつかのポリペプチドの、量または組成を処置前とその途中に測定することによって査定できる。あるいは、生体ネットワークおよび/もしくは代謝経路の状態ならびに/または機能は、生物学的試料からの、前記生体ネットワークおよび/または前記代謝経路に属する1つまたはいくつかの代謝物を処置前とその途中に測定することによって査定できる。ある処置の有効性は、発症している被検者を治療剤で処置した後に観察される、生体ネットワークおよび/もしくは代謝経路の状態ならびに/または機能の変化を、健常被検者から入手できるデータと比較することによって評価される。
【0157】
例えば、本発明の1つの実施形態で、標的個体群の一員である個体を、通常は末梢血中または特定の細胞画分中もしくは細胞画分の組み合わせ中の、糖尿病関連対立遺伝子がコードするポリペプチドまたはmRNAの絶対および/もしくは相対レベル、または糖尿病関連対立遺伝子によりコードされるポリペプチドの生物学的活性を検査することによって、疾病抑制剤での処置に対する応答につき査定することができる。
【0158】
試験する処置について関連性があり臨床治験の効力および感度を高める関与経路を有する患者を集めるために、糖尿病関連対立遺伝子および他の変動の存在を用いて、その疾病を引き起こす別の経路に関与しているらしい患者を臨床治験で排除または分画してもよい。個体用の医薬製剤の選択を導く遺伝薬理学的試験として、このような変動を用いてもよい。
【0159】
(プライマー、プローブおよび核酸分子)
プローブまたはプライマーは、少なくとも約15、例えば約20〜25、そして特定の実施形態では約40、50または75の、近接核酸配列を含む核酸などの本発明の核酸の連続したヌクレオチドにハイブリダイズする核酸の領域を含む。
【0160】
好ましい実施形態で、プローブまたはプライマーは、100以下のヌクレオチド、特定の実施形態では、6から50までのヌクレオチド、例えば、12から30までのヌクレオチドを含む。他の実施形態で、そのプローブまたはプライマーは、近接核酸配列または近接ヌクレオチド配列の相補体に少なくとも70%同一、例えば、少なくとも80%同一であり、特定の実施形態では、少なくとも90%同一であり、そして他の実施形態では少なくとも95%同一であって、または近接核酸配列または近接ヌクレオチド配列の相補体に正に選択的にハイブリダイズできる。多くの場合、このプローブまたはプライマーは、さらに標識、例えば、放射性同位体、蛍光化合物、酵素、または酵素補因子を含む。
【0161】
本発明に記載の多型対立遺伝子の核酸配列は、患者の内在性DNA配列と比較して遺伝的障害(例えば、本明細書に記載のような、疾病または障害に対する素因または感受性)を同定するのにも、またハイブリダイズさせて関連DNA配列を発見するためのプローブまたは試料から既知配列を差し引くためのプローブなどとしても使用できる。前記核酸配列はさらに、遺伝子フィンガープリント法用のプライマーを導き出すのに、DNA免疫化技術を用いて抗ポリペプチド抗体を生じさせるのに、また抗DNA抗体を生じさせるためまたは免疫応答を誘発するための抗原として使用することができる。本発明により同定されるヌクレオチド配列の部分または断片(および対応する完全遺伝子配列)は、数多くの方法でポリヌクレオチド試薬として使用できる。例えば、これらの配列は、(i)ある染色体のそれらのそれぞれの遺伝子をマッピングし;このようにして遺伝病、特に糖尿病および関連障害に関連する遺伝子領域を位置付けするのに;(ii)微量の生物学的試料から個体を同定する(組織適合試験)のに使用できる。さらに、本発明のヌクレオチド配列は、分析、特徴付けもしくは治療用の組換えポリペプチドを発現および同定するのに、または構成的に、組織分化の間、もしくは疾患状態で、対応するポリペプチドが発現されている組織に対するマーカーとして使用できる。核酸配列はさらに、本明細書に記載のスクリーニングおよび/または診断アッセイにて試薬として使用でき、また本明細書に記載のスクリーニングおよび/または診断アッセイで使用するためのキット(例えば、試薬キット)の要素として含めることもできる。
【0162】
(素因または感受性の診断および処置の選択の方法)
本明細書に記載のアッセイおよびキットを(単独で、または別の遺伝的欠陥もしくは環境因子についての情報で、前記多型対立遺伝子に関連する疾病もしくは状態に寄与する情報と組み合わせて)用いて得られる情報は、糖尿病または糖尿病の特定の型に罹っているかまたは罹りやすい無症候性の被検者であるかどうかを判定するのに有用である。さらに、この情報で、糖尿病の発症または進行の予防に対する、よりカスタマイズされたアプローチができるようになる可能性がある。例えば、この情報で、糖尿病の分子基盤に取り組むことになる治療を、臨床医がより効果的に処方できるようになる可能性がある。
【0163】
またさらなる態様で、本発明は、被検者に適切な治療剤を投与することにより、被検者における多型対立遺伝子に関連する糖尿病の罹患を処置または予防するための方法を特徴とする。さらに別の態様で、本発明は、多型対立遺伝子に関連する糖尿病の予防または処置用の治療剤を同定するための試験化合物のスクリーニング用のインビトロまたはインビボアッセイを提供する。
【0164】
また別の実施形態で、本発明は、多型対立遺伝子と形質との関連を同定するための方法を提供する。好ましい実施形態で、前記形質は、糖尿病に対する感受性、疾病の重症度、糖尿病または薬物に対する応答の時期決定である。このような方法には、糖尿病に対する診断検査および治療的処置を開発する上での適用性がある。他の好ましい実施形態で、前記薬物は、アゴニストまたはアンタゴニストであるホスホフルクトキナーゼ、特に血小板ホスホフルクトキナーゼである。前記多型対立遺伝子は、糖尿病の罹患、進行、および処置応答に関連する。従って、例えば、単独で、または別の手段と組み合わせて、被検者で多型対立遺伝子が検出されることは、被検者が糖尿病に罹患しているか、糖尿病の罹患に対する素因があることを示唆する可能性がある。
【0165】
(処置と多型対立遺伝子との相関性)
本発明はさらに、特定の多型対立遺伝子を有する個体の、特定の医薬製剤に対する応答を予測する方法に関する。前記のとおり、糖尿病は、特に先進国でますます多くの小児および成人を襲う主要な健康問題をもたらしている。インスリン補充、インスリン感受性の増強剤、アルファ−グルコシダーゼ阻害剤その他を含む、糖尿病に対する様々な医療が利用可能である。しかし、現在使用されている糖尿病の治療の不都合に起因し、糖尿病の処置のための新しい薬剤および薬物に対して継続的で集中的な研究がなされている。従って、正しい個体群の選択および応答性の正確なモニタリングという点で、臨床治験の至適化のための手段および方法に対して継続的な要求がある。
【0166】
よって、本発明は、特定の治療剤に対する個体の応答を予測および評価するために、本明細書に記載の対立遺伝子多型を利用する方法を提供し、この方法は、(a)前掲の表1に示す多型部位の任意の1つ以上(特にGVAR237対立遺伝子)で、ある個体にどの多型対立遺伝子が存在するかを判定し、(b)医薬製剤または最も有利な治療効果を有すると予測される他の治療剤を投与し、そして(c)その薬剤の効果をモニタリングする工程を含む。
【0167】
処置に対する臨床的応答と多型対立遺伝子との相関性を推定するために、処置を受けた個体の個体群(以下「臨床的または発症個体群」と称する)が呈する臨床的応答についてのデータを得ることが必要である。この臨床データは、既に実行されている臨床治験の結果を分析することによって得てもよく、ならびに/またはこの臨床データは、1つ以上の新しい臨床治験を設計および実施することによって得てもよい。本願明細書で用いる「臨床治験」という用語は、特定の処置に対する応答の臨床データを集めるように設計される任意の研究を意味し、第I相、第II相および第III相臨床試験を含むがこれらに限定されない。標準的な方法は、患者個体群を定義して、被検者を参入させるのに使用される。
【0168】
臨床個体群についての個体の選択は、このような候補の個体を目的の医学的状態の存在について類別して、その後この査定の結果に基づき個体を含めるかまたは除外する工程を含むことが好ましい。これは、その患者により示されている症状(1種以上)が、根底にある状態によって引き起こされる可能性があり、それら根底にある状態の処置が同じでない場合に重要である。目的の治療的処置、またはコントロール処置(活性薬剤またはコントロール試験では偽薬)は、治験個体群の各個体に与えられて、その処置に対する各個体の応答を、1つ以上の所定の基準を用いて測定する。多くの場合、治験対象個体群は多岐にわたる応答を呈し、そして治験担当者はその様々な応答によって導く応答者グループの数(例えば、低、中、高)を選択することになると考えられる。さらに、治験個体群の各個体に対する多型対立遺伝子の遺伝子型を特定するが、これは処置を与える前後いずれかに行ってもよい。臨床的および多型データの双方を得た後、個体の応答と多型対立遺伝子含有量との相関性を求める。
【0169】
相関性は、いくつかの方法にて生じさせてもよい。1つの方法で、個体をその多型対立遺伝子によってグループ分けし、次いで各多型グループのメンバーが呈する持続的な臨床的応答の平均および標準偏差を算定する。これらの結果はその後、多型グループ間の臨床的応答において観察された何らかの変動が統計的に有意であるかどうかを判定するために分析する。使用してもよい統計的解析方法は、L.D.FisherおよびG.van Belle、「Biostatistics:A Methodology for the Health Sciences」、Wiley−Interscience(New York)1993に記載されている。
【0170】
候補となりうる多くの至適化アルゴリズムの1つは遺伝アルゴリズム(K.B.LipkowitzおよびD.B.Boyd編、Reviews in Computational Chemistry、10巻、1−73頁のR.Judson、「Genetic Algorithms and Their Uses in Chemistry」(VCH Publishers、New York、1997)である。シミュレーテッドアニーリング(Pressら、「Numerical Recipes in C:The Art of Scientific Computing」、Cambridge University Press(Cambridge)1992、第10章)、ニューラルネットワーク(E.RichおよびK.Knight、「Artificial Intelligence」、第2版McGraw−Hill、New York、1991、第18章)、標準勾配降下法(Pressら、前出)、または他の全体的もしくは局所的な至適化アプローチ(前出の考察を参照のこと)も使用しうる。
【0171】
相関性は、変量分析(ANOVA)技術を用いて解析して、臨床データの変動のいくつが、多型対立遺伝子の多型部位の異なるサブセットにより説明されるかを判定してもよい。ANOVAは、測定可能な1つ以上の形質または変数(この場合、多型グループ)によって、応答変数が生じるかまたは相関するかの仮定を試験するのに用いられる(Fisherおよびvan Belle、前出、第10章)。これらの形質または変数は、独立変数と称される。ANOVAを実行するために、独立変数(1つ以上)を測定して、個体をこれらの変数に対するその数値に基づきグループに分ける。この場合、独立変数(1つ以上)とは、多型部位のサブセットに存在する多型の組み合わせをいい、よって各グループは特定の遺伝子型タイプまたはハプロタイプを有するそれら個体を含む。その後、グループ内の応答の変動、およびグループ間での変動も測定する。グループ内の応答変動が大きく(グループの人々が広範囲に応答する)、かつグループ間の応答変動が小さい(全グループに対する平均応答がほぼ同じ)場合には、そのグループ分けに用いる独立変数は応答変数を導かないか、または応答変数に相関しないと結論付けることができる。例えば、生まれ月(薬物に対するそれらの応答と無関係のはずである)でグループ分けすると、ANOVA算定は、低レベルの有意性しか示さないはずである。しかし、応答変動がグループ内よりもグループ間で大きい場合、F比(=「グループ間」を「グループ内」で割って得られる値)は1よりも大きい。F比が大きい数値であることは、独立変数は応答を導くか、または応答に相関することを示唆する。
【0172】
計算したF比は、どのようなレベルでも有意性が認められる臨界的F分布値と比較するのが好ましい。F比が臨界的F分布値よりも大きい場合には、その個体の遺伝子型タイプまたはその多型対立遺伝子の特定のサブセットに対するハプロタイプは、少なくとも部分的に臨床的応答の原因となっているか、または臨床的応答に少なくとも強く相関していると確信してもよい。前記の分析から、多型対立遺伝子含有量の関数として臨床的応答を予測する数理モデルが、当業者によって容易に構築されうる。好ましくは、そのモデルを試験するように設計した1つ以上の経過観察臨床治験にて、そのモデルが検証される。
【0173】
臨床的応答と多型対立遺伝子との関連の同定は、個体が処置に応答するか応答しないか、あるいは、応答が低レベルで、そのためさらに処置する必要がありうるか、すなわち薬物の用量が大量になるかについて個体を判定する診断法の設計の基礎となりうる。その診断法は、いくつかの形態のうちの1つ、例えば、直接DNA試験(すなわち、遺伝子型タイピングまたは多型対立遺伝子の1つ以上のハプロタイピング)、血清検査、または理学的検査による測定を採用するとよい。唯一の要件は、診断検査の結果と、根底にある多型対立遺伝子との間に良好な相関性があり、転じて臨床的応答と相関していることである。好ましい実施形態で、この診断法には前記の予測的ハプロタイピング法を用いる。
【0174】
(薬理ゲノミクス)
特定の対立遺伝子が、特定の疾病または状態に罹る感受性に関連するという知見は、単独、または特定の疾病もしくは状態に寄与する他の遺伝的欠陥に関する情報と合わせて、個体の遺伝的プロファイルに従って、予防または処置をカスタマイズすること(「薬理ゲノミクス」の目標)を可能にする。よって、個体の多型対立遺伝子プロファイルを、表1に記載の糖尿病に対する個体群プロファイルと比較することで、特定の患者または患者個体群(すなわち、同じ遺伝的改変を有する患者のグループ)にとって安全で有効であると期待される、他の治療計画または薬物の選択または設計が許容される。
【0175】
さらに、遺伝的プロファイルに基づいて、最高の臨床的利点を示すことが期待される個体群を標的化する能力で、1)既に販売されている薬物のリポジショニング;2)患者のサブグループに特異的な、安全性または効力の限界を理由に臨床的開発が中断されている薬物候補の救済;ならびに3)候補治療剤および一層至適な薬物標識の開発の促進とコスト低減(例えば、薬剤遺伝子型タイプまたはハプロタイプの関数として様々な用量の薬剤の効果を測定することが有効量を至適化するのに有用であるため)の実現が可能になる。特定の治療法での個体の処置は、タンパク質、mRNAおよび/または転写レベルを判定することによってモニターできる。その後、検出されたレベルに応じて、治療計画を維持または調整(用量を増減)できる。好ましい実施形態で、薬剤での被検者の処置の有効性は以下の工程を含む:(i)その薬剤の投与前の被検者からの投与前試料を得る;(ii)投与前試料中のタンパク質、mRNAまたはゲノムDNAの発現または活性のレベルを検出する;(iii)その被検者から1以上の投与後試料を得る;(iv)投与後試料中のタンパク質、mRNAまたはゲノムDNAの発現または活性のレベルを検出する;(v)投与前試料中のタンパク質、mRNAまたはゲノムDNAの発現または活性のレベルを、投与後試料中の対応するタンパク質、mRNAまたはゲノムDNAとそれぞれ比較する;および(vi)その被検者へのその薬剤の投与を相応に改変する。
【0176】
(治療診断)
治療診断という用語は、疾病を診断する、診断検査の結果に従って正しい処置計画を選択する、および/または患者診断検査の結果に従って、治療に対する患者の応答をモニターするための、診断検査の使用をいう。治療診断試験は、特に患者に利点をもたらしやすく、かつ副作用を生じにくい処置に対し、患者を選択するのに使用できる。それらは、遅延は最小限で(必要ならば)その処置が改変できるように、個々の患者での処置効力の早期かつ客観的指標を提供できる。例えば、DAKOおよびGenentechは共に、乳癌の処置用のHercepTestおよびHerceptin(トラスツズマブ)を作製し、第1治療診断試験で新治療薬が同時に承認された。HercepTest(免疫組織学的試験である)に加えて、伝統的な臨床化学、イムノアッセイ、細胞による技術および核酸試験を用いる他の治療診断(theranostic)試験が開発中である。PPGxは最近、白血病の処置に用いる薬剤である6−メルカプトプリンに対する致死的な可能性がある有害反応にリスクのある患者を医師が同定できるようにする、TPMT(チオプリンS−メチルトランスフェラーゼ)試験に着手した。また、Nova Molecularは、コリン様作用療法に対するアルツハイマー病患者の応答を予測するためにアポリポプロテインE遺伝子のSNP遺伝子型タイピングの先鞭をつけ、それは今や本指標に対する新しい薬物の臨床治験に広く使用されている。よって、治療診断の分野は、処置に対する患者の応答を予測する診断検査情報と、その特定の患者にとって適切な処置の選択との交点を表す。
【0177】
(代理マーカー)
代理マーカーとは、実験室で検出可能な、かつ/または患者の身体的徴候または症状に従うものであり、また臨床的に有意義なエンドポイントのための代替として試験的治療に用いられるマーカーである。この代理マーカーは、治療の効果を予測することが期待される患者がどのように感じ、働き、または生存するかの直接的な基準である。代理マーカーは、臨床的エンドポイントと称される、患者に対する処置の効果という意味での目的とするエンドポイントよりもこのようなマーカーがより早期に、より簡便にまたはより頻繁に測定できる場合に主にその必要性が生じる。概念的には、代理マーカーは、生物学的に信憑性があり、疾病の進行を予測でき、かつ標準化されたアッセイ(古典的な臨床化学、イムノアッセイ、細胞による技術、核酸試験および画像診断法を含むがこれらに限定されない)によって測定可能であるべきである。代理エンドポイントは先ず、主に心血管領域で使用された。例えば、降圧薬は、血圧の低下におけるそれらの有効性に基づいて承認されている。同様に、これまで、コレステロール−低下剤が、アテローム硬化性心疾患によりそれらが死亡率を低下させる直接的な証拠に基づいてではなく、それらの血清コレステロールを低下させる能力に基づいて承認されている。コレステロールレベルの測定は今や、アテローム性動脈硬化症の認められた代理マーカーである。加えて、HIV研究で現在一般的に使用される2つの代理マーカーは、CD4+T細胞計数および定量血漿HIV RNA(ウイルス負荷)である。本発明のいくつかの実施形態で、ポリペプチド/ポリヌクレオチド発現パターンが、当業者により理解されるであろうとおり、糖尿病および糖尿病関連障害ならびに合併症に対する代理マーカーとして働きうる。
【実施例】
【0178】
(実験計画)
Coriell DNAレポジトリからのDNA試料を使用した。コントロール試料は、NINDSコントロールDNAレポジトリから選択した。DNAセットは、以下のように選択した。(a)患者は、コーカサスアメリカ人である。(b)年齢は55歳以上である。(c)BMIは28.1以上である。(d)患者には糖尿病の近親者がいない。疾病試料は、ADA(アメリカ糖尿病関連)DNAレポジトリから選択した。DNAセットは、以下のように選択した。(a)患者は糖尿病である。(b)患者はコーカサスアメリカ人である。(c)発症年齢は56歳以上である。(d)患者には、少なくとも1名の第1度糖尿病近親者がいる。279のコントロール、および271の疾病DNA試料があった。核酸配列AGGAAGGTGCCTCTGTGTGTCC(配列番号6)を有する順方向プライマー、および核酸配列ATCACATTCCGGCACAGTGG(配列番号7)を有する逆方向プライマーでのPCR産物を用いて、各試料を遺伝子型タイピングした。次いでPCR産物を配列決定し、得られたクロマトグラムを分析した。遺伝子型タイピングは、手動検査およびキュレーションで予測された対立遺伝子にその配列を整列させることによって行った。図2は、混合配列(「mix」と表記)ならびに分離された参照(「ref」と表記)および挿入(「ins」と表記)対立遺伝子の例を示す。配列は、表1の対立遺伝子の逆相補鎖であり、その可変領域のみを太字かつイタリアンフォントで示す挿入分にて示す。
【0179】
さらなる確認として、核酸配列GGCCAGAATGTTTGCTCCAG(配列番号8)を有する順方向プライマー、および核酸配列ACCCAGGTGGGCCTTAAATG(配列番号9)を有する逆方向プライマーを用いて第2PCRを行った。第2反応のPCR産物は、第1反応の産物のサイズの約半分であり、その後ゲル電気泳動を用いて分離した。図3は、ホモ接合体およびヘテロ接合体の場合での20の試料の例を示す。
【0180】
以下の表2に、両グループ:疾病およびコントロール(健常被検者から得た試料)の結果を要約する。「ref」と命名した行および列は、参照対立遺伝子、GVAR237_ref(配列番号1)を示し、「ins」と命名した行および列挿入対立遺伝子、GVAR237_ins(配列番号2)を示すものである。健常グループで、対立遺伝子の以下の分布が認められた。参照対立遺伝子に238のホモ接合体、挿入対立遺伝子に3のホモ接合体、および38のヘテロ接合体。疾病グループでは、参照対立遺伝子に206のホモ接合体、挿入対立遺伝子に2のホモ接合体、および63のヘテロ接合体があった。実際の対立遺伝子数の次の行に、各グループのそれぞれの対立遺伝子の百分率を示す。健常グループでは、参照対立遺伝子に85.3%のホモ接合体があったが、疾病グループでは参照対立遺伝子にわずか76.0%のホモ接合体しかなかった。フィッシャー正確統計検定(直接確率)によれば、対立遺伝子頻度を比較するとp−値は0.015であり、また挿入対立遺伝子キャリア(優性モデル)を比較すると0.007である。これにより、これらの結果の統計的優位性が立証される。
【0181】
【表2】

【0182】
特定の実施形態の以上の記載で、過度の実験をせずに、かつ一般的な概念から逸脱することなく、このような特定の実施形態の様々な適用のために、現在の知識を適用することによって他者が容易に改変および/または適応させることのできる本発明の一般的な性質が完全に明らかになるであろう。従って、このような適応および改変は、開示された実施形態の均等物の範囲及び意味に包含されると理解されることを意図すべきであってこれを意図するものである。本明細書で用いる表現または用語は、限定でなく説明を目的とすることは理解されるべきである。開示した様々な機能を実施するための手段、材料、および工程としては、本発明を逸脱することなく種々の代替方式を採用してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者における糖尿病、糖尿病に対する素質または糖尿病もしくは糖尿病に関連する状態の予後を診断するための方法であって、(a)前記被検者からの遺伝物質を含む生物学的試料を準備し;(b)前記遺伝物質中の、ホスホフルクトキナーゼ(PFK)をコードする少なくとも1つの遺伝子の核酸配列の存在を判定し、および(c)糖尿病または糖尿病に対する素因を指し示す対立遺伝子多型に対する核酸配列を分析することを含む方法。
【請求項2】
PFKは、筋肉PFK(PFKM)、肝臓PFK(PFKL)および血小板PFK(PFKP)からなる群より選択されるイソ酵素である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記PFKイソ酵素はPFKPである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
糖尿病または糖尿病に対する素因を指し示す前記対立遺伝子は、非糖尿病個体群でのその出現頻度に比べて糖尿病個体群で高出現頻度を有する対立遺伝子である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
糖尿病または糖尿病に対する素因を指し示す前記対立遺伝子多型は、配列番号1および配列番号2のいずれか1つに示す核酸配列を有する少なくとも1つの対立遺伝子を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記対立遺伝子は、配列番号1に示す核酸配列を有するGVAR237_refまたはその相同体であり、該GVAR237_ref対立遺伝子は、糖尿病に対するリスクの低減と相関している、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記対立遺伝子は配列番号2に示す核酸配列を有するGVAR237_insまたはその相同体であり、該GVAR237_ins対立遺伝子は、糖尿病に対するリスクの増加と相関している、請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記被検者は、糖尿病またはそれに関連する障害の臨床的症状または徴候がない被検者、および糖尿病またはそれに関連する障害の症状または徴候がある被検者からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つの前記対立遺伝子の存在は、糖尿病のサブタイプまたは糖尿病のサブタイプに対する素因を指し示す、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記糖尿病のサブタイプは、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病および若年発症成人型糖尿病(MODY)からなる群より選択される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記糖尿病に関連する状態は、肥満;Prader−Willi症候群;過食症および満腹感減損;食欲不振症;代謝障害;内分泌異常;胃腸管系疾病;摂食障害;Wolfram症候群;Alstrom症候群;糖尿病を伴うミトコンドリア性筋障害;MED−IDDM症候群;Ipex連鎖症候群;先天性全身性リポジストロフィー(2型)(Cgl2);Berardinelli−Seip症候群;およびSchmidt症候群からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
配列番号1〜5のいずれか1つに示す核酸配列を有するPFK遺伝子の多型対立遺伝子のいずれか1つを増幅できる一対の単離されたオリゴヌクレオチドを含むプライマー対。
【請求項13】
配列番号6に示す核酸配列からなる順方向プライマー、および配列番号7に示す核酸配列からなる逆方向プライマーを含む、請求項12記載のプライマー対。
【請求項14】
配列番号8に示す核酸配列からなる順方向プライマー、および配列番号9に示す核酸配列からなる逆方向プライマーを含む、請求項12記載のプライマー対。
【請求項15】
糖尿病の予防または処置に有用な治療剤の効果をモニターするための方法であって、(a)配列番号1および配列番号2のいずれか1つに記載の核酸配列を有する、少なくとも1つの糖尿病関連多型対立遺伝子をそのゲノム内に有する被検者に、治療上有効な量の前記治療剤を提供し、および(b)糖尿病の少なくとも1つの表現型上の特徴に対する、前記治療剤の効果を判定することを含み、前記少なくとも1つの表現型上の特徴を変化させる薬剤は、糖尿病を予防または処置するのに有用であると考えられるものである方法。
【請求項16】
前記表現型上の特徴は、高血糖;ケトアシドーシスおよび非ケトン性高浸透圧性昏睡;アテローム性動脈硬化症;心血管疾患:末梢血管疾患、うっ血性心不全、冠動脈疾患、心筋梗塞、および突然死;糖尿病性腎症に起因する慢性腎不全;糖尿病性網膜症に起因する網膜障害;非増殖性糖尿病性網膜症;増殖性糖尿病性網膜症;ニューロパシー:ポリニューロパシー、モノニューロパシー、および/または自律性ニューロパシー;胃腸管系機能障害:胃排出遅延(胃不全麻痺)ならびに小腸および大腸運動性の変化(便秘または下痢);尿生殖器機能障害:勃起機能障害、膀胱症および雌性性的機能障害;皮膚科学徴候:創傷の治癒不良および糖尿病性皮膚症;ならびに足の潰瘍および壊疽からなる群より選択される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
糖尿病を処置するための候補治療剤に対する被検者の応答性をモニターするための方法であって、(a)前記被検者からの遺伝物質を含む生物学的試料を準備し、(b)PFKをコードする遺伝子内に存在する少なくとも1つの多型対立遺伝子の、前記遺伝物質中での存在を判定し、前記対立遺伝子は、配列番号1および配列番号2のいずれか1つに示す核酸配列を有し;(c)前記被検者に、治療上有効な量の前記候補薬剤を投与し;および(d)前記被検者に対する前記候補薬剤の効果を判定することを含み、検出可能な効果を有することが、前記被検者は前記候補薬剤に対して応答性であることを示す、方法。
【請求項18】
前記候補薬剤の効果の判定は、糖尿病の少なくとも1つの特徴的な表現型に対するその効果を判定することを含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記表現型上の特徴は、高血糖;ケトアシドーシスおよび非ケトン性高浸透圧性昏睡;アテローム性動脈硬化症;心血管疾患:末梢血管疾患、うっ血性心不全、冠動脈疾患、心筋梗塞、および突然死;糖尿病性腎症に起因する慢性腎不全;糖尿病性網膜症に起因する網膜障害;非増殖性糖尿病性網膜症;増殖性糖尿病性網膜症;ニューロパシー:ポリニューロパシー、モノニューロパシー、および/または自律性ニューロパシー;胃腸管系機能障害:胃排出遅延(胃不全麻痺)ならびに小腸および大腸運動性の変化(便秘または下痢);尿生殖器機能障害:勃起機能障害、膀胱症および雌性性的機能障害;皮膚科学徴候:創傷の治癒不良および糖尿病性皮膚症;ならびに足の潰瘍および壊疽からなる群より選択される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記候補薬剤の前記効果の判定は、タンパク質、mRNAもしくはゲノムDNAの発現もしくは活性またはそれに関連する生物学的反応もしくは経路の、前記候補薬剤を投与する前の前記被検者から提供された試料中のレベルと、前記候補薬剤の投与後の前記被検者から得た試料中のレベルとを比較することを含み、発現または活性の前記レベルを変化させる薬剤が、糖尿病を予防または処置するのに有用であると考えられる、請求項17記載の方法。
【請求項21】
前記薬剤の前記効果と、前記少なくとも1つの多型対立遺伝子との相関性を判定するための、請求項17記載の方法。
【請求項22】
前記薬剤は、複数の被検者に投与される、請求項21記載の方法。
【請求項23】
特異的対立遺伝子の組み合わせと前記治療剤の効果との間の連係の予測につき、前記複数の被検者の対立遺伝子の組み合わせに関して、前記治療剤の効果を分析することをさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項24】
前記治療剤の副作用を判定することをさらに含む、請求項17記載の方法。
【請求項25】
前記治療剤の安全性を判定することをさらに含む、請求項17記載の方法。
【請求項26】
前記治療剤は、PFKのアゴニストまたはアンタゴニストである、請求項17記載の方法。
【請求項27】
前記PFKは血小板PFK(PFKP)である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
糖尿病、糖尿病に対する素因、または糖尿病もしくは関連状態の予後を診断するためのキットであって配列番号1〜5のいずれか1つに示す核酸配列を有する多型対立遺伝子のいずれか1つを同定できる試薬、材料およびプロトコルを含むキット。
【請求項29】
前記キットは、配列番号1〜2のいずれか1つに示す核酸配列を有するPFK遺伝子の多型対立遺伝子のいずれか1つを増幅できるプライマー対を含む、請求項28記載のキット。
【請求項30】
前記プライマー対は、配列番号6に示す核酸配列からなる順方向プライマー、および配列番号7に示す核酸配列からなる逆方向プライマーを含む、請求項29記載のキット。
【請求項31】
前記プライマー対は、配列番号8に示す核酸配列を有する順方向プライマー、および配列番号9に示す核酸配列を有する逆方向プライマーを含む、請求項29記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−525807(P2010−525807A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−505008(P2010−505008)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【国際出願番号】PCT/IL2008/000578
【国際公開番号】WO2008/132744
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(500238767)コンピューゲン リミテッド (1)
【Fターム(参考)】