説明

糖尿病の治療のためのヒト熱ショックタンパク質60由来の新規ペプチド、組成物、方法およびキット

【課題】インスリン依存性糖尿病(IDDM)の診断および治療に使用すること。
【解決手段】ヒト60kDa熱ショックタンパク質(hsp60)のエピトープである新規なペプチドを、IDDMの診断および治療に使用することができる。また、このペプチドを含有する医薬組成物およびIDDMの診断に使用するためのキットも開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト60kDa熱ショックタンパク質(hsp60)のエピトープである新規なペプチド、ならびに、インスリン依存性糖尿病(IDDM)の診断および治療のための該ペプチドを含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
I型糖尿病またはIDDMは、膵臓の島に位置するインスリン産生β細胞を攻撃および破壊するT細胞によって引き起こされる自己免疫疾患である[カスタノ(Castano)およびアイゼンバース(Eisenbarth)、1990]。IDDMで終わる自己免疫過程は無症状で始まり、進行する。この疾患は、β細胞の累積損失が、残存β細胞のインスリン供給能力を越えたときにのみ臨床的に表面化する。実際のところ、臨床的IDDMおよびグルコース定常性の崩壊は、80〜90%のβ細胞が免疫系によって不活性化された後にのみ起こると考えられている。即ち、IDDMに罹患していると識別しうる患者は、β細胞の自己免疫破壊の進行段階にある。さらに、β細胞自己免疫の免疫学的マーカーの検出による初期の臨床前の糖尿病の診断は、自己免疫過程の開始後に行うことができるにすぎない。従って、治療学的な探索は、既に十分に進行している自己免疫過程の流れを変える安全な特異的かつ効果的な方法を見い出すことである。
【0003】
本発明者らは、以前に、ヒトIDDMの信頼性の高いモデルであると考えられるNOD株マウス[カスタノおよびアイゼンバース、1990]において現れる自発糖尿病を研究することによって、この問題を調べた。NODマウスは約4週齢でインスリン炎を現すが、これは穏やかな島周囲の浸潤として始まり、重篤な島内部の炎症に進行する。インスリン不全の証拠となる高血糖症は、我々のコロニーの雌では約14〜17週齢で始まる。35〜40週齢までに、ほとんど全ての雌NODマウスは重篤な糖尿病を現し、インスリン治療がないと大部分が死亡する。雄NODマウスは比較的低い疾患発生率を有するが、この理由は明らかではない。このNODマウスの糖尿病は、自己免疫T細胞によって引き起こされることが示されている[ベンデラック(Bendelac)ら、1987]。
【0004】
種々の抗原に対する自己抗体およびT細胞反応性が、ヒトIDDM患者ならびにNODマウスにおいて検出されているが[エリアス(Elias)、1994]、いずれかの単一の可能な標的抗原に対する免疫がこの疾患の一次的な原因であるか否かは明らかではない。原因の問題以上に治療の問題がある。
【0005】
糖尿病の開始前に、NODマウスを種々の操作、例えば食餌制限、ウイルス感染または免疫系の非特異的刺激にかけることによって、NODマウスにおける自己免疫過程の開始を妨げうることが示された[ボウマン(Bowman)ら、1994]。また、糖尿病前のマウスにおいて抗原グルタミン酸デカルボキシラーゼに対する免疫寛容を誘導することによってNOD糖尿病を妨げることができる[カウフマン(Kaufman)ら、1993;ティッシュ(Tisch)ら、1993]。
【0006】
NOD雌マウスにおいて自然発生するインスリン依存性糖尿病(IDDM)は、種々の自己抗原に対する免疫反応性に関連している[バッハ(Bach)、1994]。これら抗原の中で注目されるのは、哺乳動物60kDa熱ショックタンパク質(hsp60)分子の配列に由来するp277ペプチドである。これは、ヒトhsp60分子中の残基437〜460に対応する[エリアスら、1991、イスラエル特許出願No.94241、PCT公開 WO90/10449]。このヒトp277ペプチドは、以下の配列を有する:
Val-Leu-Gly-Gly-Gly-Cys-Ala-Leu-Leu-Arg-Cys-Ile-
Pro-Ala-Leu-Asp-Ser-Leu-Thr-Pro-Ala-Asn-Glu-Asp
(配列番号1のアミノ酸437〜460)。
【0007】
糖尿病前のNODマウスは、hsp60およびp277ペプチドのヒト(2)またはマウス(3)変異体に対して、自発的な糖尿病誘発性T細胞応答を示す。マウスおよびヒトのペプチドは1個のアミノ酸が異なり、免疫学的に交差反応性である(3)。マウスのある種の非糖尿病傾向の株(例えば、C57BL/6)は、外来の免疫原性キャリアー分子に共有結合によりコンジュゲート化したp277に対して免疫したときに、一時的な過血糖症およびインスリン炎を現す。また、C57BL/KsJ株のマウスは、極めて低用量のβ細胞毒素ストレプトゾトシン(STZ)(自己免疫糖尿病を誘導する)で処理した後に、hsp60およびp277に対して自発的なT細胞応答を現す(5)。
【0008】
この疾患の発現に関与していることに加えて、ペプチドp277は自己免疫過程の治癒においても機能的であるようである:不完全フロイントアジュバント(IFA;鉱油)中のp277の皮下投与は、若いNODマウス(2)または12〜17週齢の進行インスリン炎を有するNODマウス(6、7)において疾患進行の停止を導いた。p277のヒト(6、7)およびマウス(3)変異体の両方が有効であった。MHC II型プロモーター上のマウスhsp60遺伝子についてトランスジェニックしたNODマウスは、p277に対する自発的なT細胞増殖応答の下方調節を示し、有意の割合のマウスが糖尿病を発症しなかった(8)。さらに、C57BL/KsJマウスへのp277の投与は、予め極めて低用量のSTZを投与しておいたマウスにおいて自己免疫糖尿病の発生を止めた(GAD65分子のペプチドによるこれらマウスの処置は有効ではなかった)(9)。
【0009】
6位および11位のシステイン残基の一方または両方をバリン残基により置換したp277ペプチドの変異体[それぞれ、p277(Val)、p277(Val11)およびp277(Val−Val11)と命名]が、対応するイスラエル特許出願No.112094に記載されており、糖尿病の治療においてp277と同程度に活性であることが示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、IDDMの診断および治療に有用な別のヒトhsp60ペプチドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ヒトhsp60分子のフラグメントおよびペプチドの研究において、予想外に、IDDM患者およびNODマウスが他のhsp60 T細胞エピトープに応答性であり、これをIDDMの診断および治療に使用しうることを見い出した。これらのエピトープは、それ自体が、あるいはp277またはp277変異体[p277(Val)、p277(Val11)およびp277(Val−Val11)から選択される]と組合せて、治療効果を改善することができる。
【0012】
これら新規なペプチドを以下の表1に示す。
【0013】
【表1】

【0014】
p278(ヒトhsp60配列中の458〜474位に対応)、p19(ヒトhsp60配列中の271〜290位に対応)、ならびに、p21(ヒトhsp60配列中の301〜320位に対応)と命名したペプチドを含むhsp60の他のペプチドは、有効ではないことが示された。p278のアミノ末端は3残基(NED)が有効なp277ペプチドと重なっており、p278のカルボキシ末端は9残基(EIIKRTLKI)が有効なp32ペプチドと重なっていることに注意すべきである。即ち、p32の残りの11残基(PAMTIAKNAGV)が重要である。
【0015】
即ち、本発明は、表1に示すペプチド、ならびにその塩および機能的誘導体に関する。
【0016】
本発明の別の目的は、本発明のペプチドを用いてIDDMを早期診断するための方法およびキットを提供することである。IDDMを発症する過程において、動物はhsp60分子またはそれと交差反応する分子を発現し、これらは動物の血液および尿中に到達する。また、これら動物は、このような分子に特異的に指向するT細胞および抗体を発現する。従って、血液または尿中のhsp60(または、それと交差反応性である分子)またはそれに特異的なT細胞もしくは抗体の存在は、β細胞の破壊が完了し、個体が生涯にわたる糖尿病を持つようになる前に、IDDM過程を検出するためのアッセイに利用することができる。
【0017】
患者におけるIDDMの初期または存在は、本発明のペプチドp12またはp32を抗原として用いて、ヒトhsp60と免疫学的に反応するT細胞または抗体の存在を、患者の血液または尿において試験することによって診断することができる。
【0018】
即ち、本発明は患者のIDDMの初期または存在を診断するための方法であって、本発明のペプチドを抗原として用いて、hsp60と免疫反応するT細胞または抗hsp60抗体の存在について患者を試験することからなり、hsp60と免疫反応するT細胞または抗hsp60抗体の陽性の存在を示す結果がIDDMの初期または存在の高い蓋然性を示すものである方法を提供する。
【0019】
IDDMを診断するための方法においては、抗hsp60抗体の存在について患者を試験するが、ここでは、その試験方法はラジオイムノアッセイまたはELISA試験からなっていてよい。
【0020】
また、hsp60と免疫反応するT細胞の存在について患者を試験することもできる。この態様の1つにおいては、この試験方法は、以下の工程:
(i)患者から得た血液試料から、T細胞を含む単核細胞分画を調製し;
(ii)該単核細胞分画に、本発明のペプチドから選択される抗原を添加し;
(iii)該細胞分画を、該抗原の存在下に、適当な時間、適当な培養条件下でインキュベートし;
(iv)該インキュベート期間の終了前の適当な時間に、工程(iii)のインキュベート細胞培養物にラベル化ヌクレオチドを添加して、該ラベル化ヌクレオチドを増殖T細胞のDNA中に導入し;そして
(v)該T細胞中に導入されたラベル化ヌクレオチドの量を分析することによって、増殖T細胞の量を測定する;
を含むT細胞増殖試験からなる。
【0021】
上記の工程(iv)において、ラベル化ヌクレオチドは3H−チミジンであるのが好ましい。増殖T細胞の量の測定は、常法により、T細胞の刺激指数を算出することによって行う。
【0022】
本発明のこの態様の別の例においては、この試験方法は、工程(i)〜(iii)が上記のT細胞増殖試験の場合と同じであり、第4工程(iv)において応答リンパ球によって培地中に分泌されるIFN−γ、IL−2、IL−4、IL−6、IL−10、TNFαまたはTGFβなどのサイトカインの存在を、市販のキットを用いて常法により検出するT細胞サイトカイン応答試験からなる。
【0023】
別の態様においては、本発明は、本発明のペプチドから選択される抗原を患者に皮下注射し、検出可能な皮膚反応(遅延型過敏症;DTH)の出現を観察するインビボ法を提供する。
【0024】
また本発明は、このようなアッセイ(検定)を行うための方法ならびにこのようなアッセイを行うためのキットに関する。これらキットを、本発明の実施に使用する種々のアッセイのいずれかを行うために調製することができる。このようなキットのそれぞれは、単一のアッセイまたは一定の多数のアッセイを行うのに必要な材料の全てを含む。例えば、抗hsp60抗体の存在を測定するためのキットは、固相に固定化した本発明のペプチド、ならびに、検出しようとする抗hsp60抗体の非可変領域を認識しうるタグを付けた抗体、例えばタグを付けた抗ヒトFabを含んでいてよい。またこのキットは、キットを使用するための指示およびキット材料を保持するための容器を含んでいてよい。あらゆる通常のタグまたはラベル、例えば放射性同位体、酵素、発色団または蛍光団を用いることができる。代表的な放射性同位体は、ヨウ素−125またはイオウ−35である。この目的のための代表的な酵素には、西洋ワサビペルオキシダーゼ、西洋ワサビガラクトシダーゼおよびアルカリホスファターゼが含まれる。
【0025】
抗hsp60抗体の存在を試験することによってIDDMの存在を診断するためのキットは、
(i)本発明のペプチドから選択される抗原;および
(ii)検出しようとする抗hsp60抗体の非可変領域を認識することができるタグを付けた抗体;
を含有する。
【0026】
hsp60と免疫反応するT細胞の存在を試験することによってIDDMの存在を診断するためのキットは、
(i)本発明のペプチドから選択される抗原;
(ii)リンパ球(T細胞)の培養のための適当な培地;および
(iii)T細胞増殖試験のためのラベル化ヌクレオチド、または、サイトカイン試験のためのサイトカイン(例えば、インターフェロン−γアッセイキット);
を含有する。
【0027】
インビボ試験のためには、このキットは注射用の適当な形態にある本発明のペプチドのみを含有する。
【0028】
さらに本発明は、IDDMを予防または治療するための方法に関する。本発明の抗原ペプチドのワクチン接種は、抗原に対する自己免疫の特異的な下方調節を与えることができ、IDDMの自己免疫過程に対する耐性を効果的に創製する。同じことが、このような抗原に特異的なT細胞(弱毒化または無毒形態にあるか、またはその抗原性を改善するように処理した後のもの)またはそのフラグメントもしくは活性分画のワクチン接種についても言える。患者が既にIDDMの臨床前の初期段階にあることが示されているときには、このような抗原またはT細胞(または分画)の注射はこの抗原に対する自己免疫の下方調節を創製することができ、こうして重大な永続的な損傷を受ける前に自己免疫過程を止めることができる。また、ペプチドp277によるNODマウスの処理に関連して本発明者らの実験室により最近示されているように[エリアス(Elias)およびコーエン(Cohen)、1994]、このペプチドを治療剤として用いて、相当に進行した後であっても自己免疫過程を止めることができる。
【0029】
従って、本発明はインスリン依存性糖尿病(IDDM)を予防または治療するための調製物であって、以下の成分を含む調製物を提供する:
(a)本発明のペプチドと免疫学的に交差反応性であるペプチドまたはタンパク質に対して特異性を示すT細胞であって、該ペプチドの存在下にインキュベートすることによって活性化したT細胞;
(b)照射したか、または他の方法で弱毒化した該T細胞;
(c)静水圧による圧力処理、化学的架橋剤による処理、および/または細胞骨格架橋剤による処理にかけた該T細胞;
(d)上記(a)、(b)または(c)の断片、またはこれらから放散された表面タンパク質;または
(e)該タンパク質に特異的な(a)の受容体の可変領域からなるペプチド、またはその塩、機能的誘導体、前駆体もしくは活性分画。
【0030】
本発明の好ましい態様においては、この調製物は、本発明のペプチドとのインビトロ接触によって特異性を示すヒトT細胞を含有する。
【0031】
また本発明は、薬学的に許容しうる担体、および活性成分として有効量の本発明のペプチド、その塩または機能的誘導体を含有する、IDDMの予防または治療のための医薬組成物を提供する。
【0032】
さらに本発明は、IDDMを予防または治療する方法であって、それを必要としている患者に、本発明のペプチドに対して特異性を示すT細胞を含む調製物、または本発明のペプチド、その塩もしくは機能的誘導体を含む医薬組成物を投与することからなる方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本明細書および請求の範囲において「本発明のペプチド」またはいずれかの個々の名称、例えば「ペプチドp12」または「ペプチドp32」と言及するときには、糖尿病に関するペプチドの生物学的活性が保持されている限り、その塩および機能的誘導体も意図されている。
【0034】
本発明により意図されている本発明のペプチドの「塩」とは、生理学的に許容しうる有機および無機の塩である。
【0035】
本発明において使用する本発明のペプチドの「機能的誘導体」とは、当分野で既知の方法により、NもしくはC末端基または残基の側鎖として存在する官能基から調製しうる誘導体を包含し、これらが薬学的に許容しうるままである限り、即ち、これらがペプチドの活性を破壊せず、それを含む組成物に毒性を付与せず、かつその抗原性に悪影響を及ぼさない限り、本発明に含まれる。
【0036】
これらの誘導体には、例えば、カルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニアまたは第一もしくは第二アミンとの反応によって製造されるカルボキシル基のアミド、アシル部分(例えば、アルカノイルまたは炭素環式アロイル基)との反応によって生成するアミノ酸残基の遊離アミノ基のN−アシル誘導体、またはアシル部分との反応によって生成する遊離ヒドロキシル基(例えば、セリルまたはトレオニル残基のヒドロキシル基)のO−アシル誘導体が含まれるであろう。
【0037】
本発明のペプチドを、医薬組成物における免疫原、特にIDDMの軽減および治療のためのワクチンとして、ならびに、IDDMの診断のための診断組成物における抗原として用いることができる。当分野で既知の方法によって製造することができるこれらの医薬および診断組成物も、本発明の一部を構成する。
【0038】
本発明に従う治療組成物は、経口または非経口により、例えば皮下、筋肉内、静脈内、鼻内または直腸内によって投与することができる。
【0039】
以下の実施例および添付の図面により、本発明をさらに説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0040】
(原材料および方法)
(i)マウス
NOD/Lt株のInbred雌マウスは、Weizmann Institute of ScienceのAnimal Breeding Center[レホボ(Rehovot)、イスラエル]により、またはJackson Laboratory [バー・ハーバー(Bar Harbor)、メーン州]により供給されている。これらのマウスは、14〜17週齢のときに、ヒトのIDDMに似た自己免疫糖尿病を自然発症する。
【0041】
(ii)抗原
ペプチドは、Weizmann Institute of ScienceのDepartment of Organic Chemistryにおいて、自動多ペプチド合成機[AbimedモデルAMS422;ランゲンフェルト(Langenfeld)、ドイツ]を用い、この会社のN−α−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)合成のためのプロトコールに従って合成した。粗生成物を、半プレパレティブC8−カラム[リクロソーブ(Lichrosorb)RP−8、7mm、250×10mm、メルク(Merck)、ダルムシュタット(Darmstadt)、ドイツ]の逆相HPLCによって精製した。ペプチドの溶離は、水中の0.1%トリフルオロ酢酸と水中75%アセトニトリル中の0.1%トリフルオロ酢酸(v/v)の間の直線勾配によって行った。単一のペプチド生成物の純度は、分析用逆相HPLCおよびアミノ酸分析によって確認した。ペプチドMT−p278は、ミコバクテリアhsp60の配列に由来する(431〜447)。ペプチドp277は、6位および11位のところに、天然配列中のシステイン(C)の代わりにバリン(V)を置換する。2個のC残基をVによって置換すると、免疫学的活性に影響することなくペプチドの安定性が大きく増加するが、V置換されたペプチドは、T細胞および抗体アッセイによって天然ペプチドと完全に交差反応性である。指定がないときには、ヒト配列が意図されている。マウスp12およびマウスp38ペプチドは、マウスhsp60分子から導いたが、これらはそれぞれ168〜188、437〜460および556〜573配列に対応している。ペプチドGAD−p35は、GAD65分子に由来する(524〜543)。本発明において使用した全てのペプチドのアミノ酸配列を以下の表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
(iii)ペプチドに対するT細胞増殖
9週齢のNODマウスまたは他の株のマウスを、完全フロイントアジュバント[CFA;ディフコ(Difco)、デトロイト、ミシガン州]と等容量のリン酸緩衝食塩水(PBS)の混合物中にペプチド(25μg)を含有するエマルジョン(0.1ml)を用いて後足肉趾に免疫した。排出膝窩リンパ節を10日後に取り、3つの重複培養物中のリンパ球の懸濁液について、文献[エリアスら、1991]の記載のように[H]−チミジンの導入を用いて、種々のペプチド(5μg/ml)の存在下に増殖を試験した。これらの結果を刺激指数(SI)(試験ペプチドの存在下での平均cpmと、ペプチドの非存在下の対照培養物の平均cpmの比)として示す。標準誤差は、常に平均の10%未満であった。
【0044】
(iv)処理および後処理
PBS中のペプチド(100mg)を等容量のIFAで乳化させ、文献[エリアスおよびコーエン、1995]の記載のように10週齢のNOD雌マウスに皮下注射した。対照マウスには、等容量のIFAで乳化させたPBSを投与した。このマウスについて、血液グルコースセンサー[メディセンス社(MediSense.Inc.)、ワルザム(Waltham)、マサチューセッツ州]を用いて、10amに非絶食時の血液グルコースを毎月モニターした。11.1mモル/Lを越える血液グルコースを有するマウスを糖尿病であるとみなした。このグルコース濃度は、非糖尿病マウスにおいて測定した平均血液グルコース濃度より上の3標準偏差よりも大きかった[エリアスおよびコーエン、1995]。膵臓の島の組織学的検査を、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した切片で行った。群の内容を知らない2人の観察者により独立して、これら切片を採点した。χ検定を用いて種々の処理間の統計学的な差異を確かめた。
【0045】
(v)血清の抗体
マウスから毎月採血して抗体の応答を検査した。文献[エリアスら、1991]に記載のようにELASAアッセイを行った。簡単に説明すると、平底マキシソーブ(Maxisorb)プレート[ヌンク(Nunc)、ロスキルデ(Roskilde)、デンマーク]を、抗ペプチド抗体の検出のために、100ml/ウエルのPBS中のペプチド(10mg/mlの濃度)を用いて、室温で2時間、次いで4℃で一晩インキュベートして被覆した。ペプチドとのインキュベートの後に、プレートを洗浄し、PBS中の7%BSA[シグマ(Sigma)]を用いて37℃で2時間ブロックした。血清を1:50希釈して添加し、37℃で2時間インキュベートした。次いで100ml/ウエルのアルカリホスファターゼにコンジュゲート化したヤギ抗マウスIgG(γ鎖Fc特異的)[ジャクソン(Jackson)、フィラデルフィア、ペンシルバニア州]とともに2時間インキュベートした。洗浄した後、基質ジエタノールアミン(シグマ)とともにプレートをインキュベートし、ELASAリーダーを用いて405nmで読み取った。
【0046】
(実施例1)NODマウスにおけるhsp60エピトープのマッピング
NODマウスにおいてhsp60ペプチドp12、p32、p277(Val−Val11)およびp278の免疫原性を、上記iii(a)の記載のように、CFA中に乳化させたペプチドを用いて後足肉趾においてマウスを免疫し、10日後に採取リンパ節細胞の増殖応答をアッセイすることにより試験した。図2に示すように、ペプチドp277(Val−Val11)、p12およびp32は免疫原性が強く、一方、p278は免疫原性ではなかった。
【0047】
(実施例2)p277(Val−Val11)、p12またはp32によるNODマウスの処理
p12およびp32ペプチドがp277(Val−Val11)のように糖尿病の進行をブロックすることができるか否かを試験するために、p277(Val−Val11)、p12またはp32ペプチド(IFAの乳化液0.1cc中に100μg)をジャクソン・ラボラトリー(Jackson Laboratory)[バー・ハーバー、メーン州]の9週齢のNOD/Lt雌マウス10〜12匹の群に皮下投与した。11.1mモル/Lを越える持続的な血中グルコース濃度として決めた糖尿病を、25週齢のときに試験した。対照マウスは、未処理またはp278により処理した。
【0048】
表1に示すように、p277(Val−Val11)、p12およびp32ペプチドは糖尿病の処置において有効であった。即ち、未処理マウスまたはp278処理マウスにおける糖尿病の発生率は90%であり、一方、p277(Val−Val11)、p12およびp32で処理したマウスは、それぞれ10%、20%および30%の発生率を示す。他方、対照p278ペプチドは治療効果を持たなかった。
【0049】
【表3】

【0050】
2つまたは3つのhsp60エピトープペプチドを組み合わせると、より多くのT細胞集団がこの治療によって影響を受けるので、1つのペプチドのみよりもさらに効果的になりうる。
【0051】
(実施例3)hsp60、p277(Val−Val11+)、p12およびp32に対してT細胞増殖応答を示す新たに診断されたIDDM患者
種々のhsp60ペプチドに対するT細胞応答を測定するために、新たに診断された(2週間〜4カ月)IDDM患者の末梢血液からのリンパ球を、増殖アッセイで試験した。血液10〜20mlを、抗凝血薬としてヘパリンを含む滅菌試験管中に取り、PBSで1:2に希釈した。末梢単核細胞(PBMC)を、リンパ調製層上の血液の遠心によって単離した。PBMCの増殖を、増殖の尺度として[H]−チミジンの取り込みを用いて、6日間、種々の抗原(10μg/ml)の存在下、3重に試験した。試験した抗原は、ヒトhsp60またはhsp60ペプチドp277(Val−Val11)、p12、p32および対照ペプチドp278であった。T細胞増殖応答は、刺激指数(SI)として示した。即ち、T細胞による、ペプチド刺激されたチミジン取り込みと、バックグラウンド(抗原無添加)のチミジン取り込みの間の比として示した。
結果を、以下の表4にまとめる。
【0052】
【表4】

【0053】
患者の大部分がhsp60に応答したこと(6/8)、およびhsp60に応答した6人の全てが3種のhsp60ペプチド[p12、p32またはp277(Val−Val11)]の少なくとも1つに応答したことを見ることができる。従って、これらペプチド群への応答は、全hsp60分子に応答する個体を特徴づけるのに役立ちうる。
【0054】
(実施例4)T細胞増殖応答
前糖尿病NODマウスにおける自発的なT細胞応答を、マウスp277ペプチド[エリアス(Elias)ら、1991;ビルク(Birk)ら、1996]、およびマウスp277配列を含むマウスhsp60分子の比較的大きな断片[ビルク(Birk)ら、1996]に対して検出した。マウスhsp60分子上の他のT細胞エピトープを検出するために、NODマウスをhsp60配列と重なるペプチドのプールに浸し、全マウスがマウスp277およびマウスp12の両方に強い応答を示すことがわかった(図3)。NODマウスに免疫原性の他のペプチドは、MT−p278ペプチド[マイコバクテリアの(Mycobacterial)hsp60分子中の残基458〜474]およびGAD−p35(GAD65分子中の残基524〜543)である。図3は、MT−p278がマウスp277およびマウスp12と同程度に強い免疫原性であることを示す。また、GAD−p35も免疫原性であるが比較的弱い。
【0055】
3〜16週齢における雌NODマウスの長期的研究は、それらの脾臓においてマウスp12に対する自発応答がないことを示した(示していない)が、マウスp277および全マウスhsp60に対する応答が観察された。即ち、4種の免疫原性ペプチド[マウスhsp60分子由来のp12およびp277、糖尿病関連のGAD65分子由来のGAD−p35、ならびに外来免疫原であるMT−p278]のうち、マウスp277およびMT−p278に対してのみ、自発応答が検出された。
【0056】
(ペプチド処理)
マウスp277を用いて有効であることが示されたプロトコール(エリアスら、1991;エリアスおよびコーエン、1994;エリアスおよびコーエン、1995)に従って、10週齢の雌NODマウスの群を、IFA中で乳化した各ペプチド(100mg)の1回の皮下注射により処理した。8ヵ月齢まで糖尿病の発生について、マウスを観察した。図4は、マウスp277およびマウスp12の両ペプチドが、糖尿病の発生抑制に効果的であったことを示す(P<0.05)。対照的に、ペプチドMT−p278またはGAD−p35による処理は、IFAのみによる処理と比較して差がなかった。合計3回の実験は、実質的に同じ結果を示した。
【0057】
(抗体)
マウスペプチドp277を用いるSTZ誘導された糖尿病の成功裏の処理は、多くがIgG1およびIgG2bアイソタイプである抗ペプチド抗体の出現に関連していた(エリアスおよびコーエン、1996)。従って、ペプチド処理したNODマウスの血清抗体を調べた。図5は、糖尿病を止めるのに効果的な2種類のペプチド、マウスp12およびマウスp277が、強い抗体力価のIgG1およびIgG2bアイソタイプを誘導するのにも効果的であったことを示す(P<0.001)。また、IgG1およびIgG2b抗体の力価は、これらの群においてIgG2a抗体の力価よりも有意に大きかった(P<0.001)。ペプチドMT−p278またはGAD−p35で処理したマウスは、強く応答しなかった。即ち、GAD−p35処理したマウスはいずれも特異的なIgG1抗体を生成せず、MT−p278処理したマウスの2匹のみがIgG1アイソタイプの抗体を生成した。MT−p278またはGAD−p35で処理したマウスは、有意に低い力価のIgG2b抗体を生成した(P<0.001)。このように、糖尿病を抑制する効果は、主にIgG1およびIgG2bアイソタイプの抗体応答の誘導に関連していた。
【0058】
効果的な治療学的応答と抗体力価との関係を、7ヵ月齢のときに個々のマウスにおいて、血中グルコース濃度を抗体濃度と比較することによって確認した。図6は、比較的高い力価の抗マウスp12抗体を有するマウスが比較的低い血中グルコース濃度を有する傾向にあること、逆に言うと、マウスp12処理したマウス(マウスp12に対する抗体をわずかしか生成しなかった)が高い血中グルコース濃度を有する傾向にあることを示す(P<0.002)。
【0059】
(考察)
この実施例で得られた結果は、マウスhsp60分子のペプチドp12が、ペプチドp277と同様、明瞭な過血糖症の発生に近いマウスの処置に有効でありうることを示す。p277とは対照的に、糖尿病前のNODマウスの脾臓におけるp12に対する自発的なT細胞増殖応答は観察されなかった。即ち、末梢において検出しうる自発的な抗ペプチド増殖応答は、ペプチドが糖尿病性の自己免疫過程のブロックに有効であるための要件ではない。
【0060】
ペプチドp277が、NOD糖尿病を調節しうる唯一のhsp60ペプチドではないという知見は重要である。NOD糖尿病におけるhsp60の関与は、hsp60のp277ペプチドと、β細胞にさらに特異的なある種の未知分子[コーエン、1991]の間の類似によって生じたものであろうと考えられた。しかし、hsp60の2つの異なるセグメントであるp277およびp12の両方が、提案されてはいるが未知であるβ細胞分子のセグメントに類似しているというのは非常に可能性が低い。ペプチド処置におけるp12の有効性は、糖尿病において機能的なhsp60様の分子がhsp60それ自体であるという結論[ビルク(Birk)ら、1996]を支持する。
【0061】
ペプチドMT−p278およびGAD−p35が糖尿病の発生を止めることができないということは、あらゆる自己抗原またはあらゆる自発的T細胞増殖抗原を用いて自己免疫過程を止めることができる訳ではないことを示す。ペプチドがT細胞に対する強力な免疫原性を持つという事実(未公表の観察)にもかかわらず、MT−p278が高力価の抗体または保護を誘導することができないということは興味あることである。しかし、いずれかの特異性を有する抗体の誘導は、必ずしもNOD糖尿病に影響を与えない。即ち、高力価の抗体ならびに強力なT細胞応答を誘導するBSAによるNODマウスの処理(示していない)は、糖尿病の発生に影響を与えない[エリアスおよびコーエン、1994]。我々は、GAD−p35が他のペプチドと同程度にT細胞に対して強力な免疫原性であるということを観察しなかったが(図3)、NODマウスは、これらのペプチドに対して自発的なT細胞応答を示すことが報告されている[カウフマン(Kaufman)ら、1989]。
【0062】
最後に、ペプチドに特異的な抗体の誘導による有効な処置の関連では、p12およびp277の治療効果が、IL−4の産生によって調節される抗体である特異的なIgG1抗体[モスマン(Mossman)およびコフマン(Coffman)、1993]の誘導を助けるのに寄与するTh2型T細胞の活性化に関係していることが示唆される。このようなT細胞は、β細胞に損傷を与える原因となると考えられているTh1型T細胞を抑制することができる[カッツ(Katz)ら、1995;リブラウ(Liblau)ら、1995]。実際に、NOD糖尿病のp277ペプチド治療は、脾臓におけるIL−4およびIL−10産生T細胞の破裂ならびに脾臓および島の両方におけるT細胞産生INF−γの低下に関係していることが見い出された(未公表の観察)。ペプチド治療に応答したTh2アイソタイプを有するペプチド特異的抗体の出現は、有益な応答の指標となるようである。
【0063】
(実施例5)IDDM患者がT細胞応答を示しうる別のペプチド
26人の新たに診断されたIDDM患者(IDDM診断の1〜16週後)を登録した。患者の年齢は5〜60才の範囲であった。これら患者を、ヒトhsp60、ならびにヒトhsp60タンパク質配列の一部である表1および表5に示すヒトhsp60合成ペプチドに対する末梢血液T細胞増殖応答についてスクリーニングした。
【0064】
また、患者のT細胞について、破傷風トキソイド、カンジダ・アルビカンス(Candida albecans)およびインフルエンザなどの通常のリコール抗原に対するその増殖応答を分析し、刺激指数(SI)が2またはそれを越えるときにその応答が陽性であると採点した(後記を参照)。
【0065】
以下のプロトコールを用いて増殖を分析した。
【0066】
(細胞調製および細胞増殖プロトコール)
IDDM患者または健康な対照から、末梢血液(10IU/mlのヘパリンを追加した)(50ml)を採取した。2倍容量のPBS(カルシウムおよびマグネシウムを含まない)を加えた。この血液−PBS調製物を、10mlピペットを用いて混合した。フィコール(Ficoll)(10ml)を血液混合物の下に敷き、次いで、室温(20〜24℃)で30分間、2,000rpmで遠心した(ブレーキをかけて止めた)。淡黄褐色の被覆中の末梢血液T細胞を10mlピペットを用いて集め、新たな50ml試験管に移した。30〜40mlのPBS(カルシウムおよびマグネシウムを含まない)を、集めたT細胞に加えた。次いで、これを混合し、室温で20分間、1,000rpmで遠心した(ブレーキをかけて止めた)。
【0067】
上清を吸引し、細胞ペレットを、AIM−V血清不含培養培地[ギブコ(GIBCO)、米国]中に再懸濁した。この培養培地は、1%ピルビン酸ナトリウム、1%L−グルタミン(各200mM)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(10,000U/ml/10,000mg/ml)および2%ヘペス(Hepes)(1M、pH7.3)を追加したAIM−Vを含有する。また、血液銀行からの10%AB血清を追加したRPMIを使用した。次いで、細胞混合物を、室温で10分間、2,000rpmで遠心した(ブレーキをかけて止めた)。上清を再び吸引し、細胞ペレットを比較的少量の新鮮なAIM−V(10〜20ml)に再懸濁した。細胞を再懸濁し、計数した。トリパンブルーを用いて、細胞計数および生存性アッセイを行った。この工程のために、血球計および光学顕微鏡を用いた。
【0068】
次いで、細胞濃度をAIM−V培地中の2×10細胞/mlに調節した。ウエルあたり100μlの細胞を、96ウエル微量滴定プレートの各ウエルに移した。次いで、2倍の推奨抗原濃度(以下の抗原と濃度のリストを参照)を含む培地(100μl)を加えた。アッセイは4重に行った。4つのウエルについては、対照として抗原を含まない培地および細胞を用いてアッセイを行った。5%COの加湿インキュベーター中、37℃で7日間、プレートを培養した。培養期間の6日目に、1μCi/ウエルのH−チミジンを加えた。培養を18時間続け、収穫した。DNAへのH−チミジンの導入を、シンチレーション液とβ計数管リーダーを用いて測定することによって細胞増殖のアッセイを行った。
【0069】
【表5】

【0070】
増殖応答は、T細胞DNAによって取り込まれたH−チミジンにより測定した[エリアスら、1991]。1分間あたりの放射活性計測数(CPM)を、試験抗原を含んで、または対照として抗原を含まず(培地のみ)に培養した細胞間で比較した。増殖値は刺激指数値(SI)として表示した(抗原を含むときの平均CPMを、抗原を含まないときの平均CPMで割る)。2に等しいか、またはそれより大きいSI値を陽性とみなした。
【0071】
これらの結果は、ヒトhsp60またはhsp60ペプチド反応性の個体の発生率が、健康人(30%)の間よりもIDDM患者(84%)の間で高いことを示した。この差異のフィッシャー・イグザクト(Fisher Exact)検定のp値は0.0044であり、有意性が高かった。
【0072】
ヒトhsp60タンパク質、hsp60合成ペプチドおよび種々のリコール抗原に対する、2人の代表的なIDDM患者および1人の健康な個体の増殖応答を、図7、図8および図9に示す。表5は、IDDM患者が応答しなかったhsp60合成ペプチドの2つの個々の例(p19、p21)を示すものである(図10Aおよび図10Bをも参照)。
【0073】
患者のそれぞれが、リコール抗原(カンジダ、破傷風またはインフルエンザ)およびヒトhsp60タンパク質および種々のヒトhsp60ペプチドに応答したことを見ることができる。対照の人は、対照のリコール抗原にのみ応答した。
【0074】
IDDM患者の少なくとも1人が応答したhsp60合成ペプチドの配列を表1に示す。これらペプチドのそれぞれは、IDDM治療のための治療学的可能性を有する。
【0075】
【表6】

【0076】
上記の特定の態様についての説明は、本発明の全体の性質を完全に明らかにしているので、当業者の知識(本明細書中に挙げた参考文献の内容を含む)を適用することによって、本発明の全体のコンセプトから逸脱することなく、また、多くの実験を行うことなく、これら特定の態様を容易に修飾し、そして/または種々の応用に適合させることができる。即ち、このような適合化および修飾は、本明細書中に示した教示および指針に基づき、開示した態様の等価物の意味および範囲内であることが意図されている。本明細書中の表現または用語は説明のためのものであって限定のためのものではなく、本明細書の表現または用語は、当業者の知識と組合せて、本明細書中に示した教示および指針に照らして、当業者により解釈されるべきものであることを理解すべきである。
【0077】
(参考文献)
バッハ(Bach JF)(1994)、「自己免疫疾患としてのインスリン依存性糖尿病」[Endocrine Reviews 15: 516−542]。
ベンデラック(Bendelac A)、カーナウド(Carnaud C)、ボイタード(Boitard C)、バッハ(Bach JF)(1987)、「糖尿病NODマウスから健康な新生児への自己免疫糖尿病の同系転移:両L3T4+およびLy+−2+T細胞の必要性」[J Exp Med. 166: 823−32]。
ビルク(Birk OS)、エリアス(Elias D)、バイス(Weiss AS)、ローゼン(Rosen A)、ファン・デア・ゼー(van−der Zee R)、ウォルカー(Walker MD)、コーエン(Cohen IR)(1996)、「NODマウス糖尿病:遍在性マウスhsp60は、自己免疫T細胞のβ細胞標的抗原である」[J.Autoimmun.9: 159−166]。
ボウマン(Bowman MA)、レイター(Leiter EH)およびアトキンソン(Atokinson MA)(1994)、「NODマウスにおける糖尿病の予防:ヒト疾患における治療的介入の示唆」[Immunology Today. 15:115−20]。
カスタノ(Castano L)、アイゼンバース(Eisenbarth GS)(1990)、「I型糖尿病:ヒト、マウスおよびラットの慢性自己免疫疾患」[Annu Rev Immunol. 8:647−79]。
コーエン(Cohen IR)(1991)、「関節炎および糖尿病の病因におけるシャペロニン(Chaperonin)に対する自己免疫」[Annu Rev Immunol 9:567−589]。
エリアス(Elias)、ダナ(Dana)(1994)、「NODマウス:自己免疫インスリン依存性糖尿病に対するモデル」[Autoimmune Disease Models, A Guidebook, ppl47−61]。
エリアス(Elias D)、コーエン(Cohen IR)(1995)、「熱ショックタンパク質60のペプチドp277による、NODマウスにおける自己免疫糖尿病およびインスリン炎の処置」[Diabetes 44:1132−1138]。
エリアス(Elias D)、レシェフ(Reshef T)、ビルク(Birk OS)、ファン・デア・ゼー(van der Zee R)、ウォルカー(Walker MD)、コーエン(Cohen IR)(1991)、「ヒト65kDa熱ショックタンパク質のT細胞エピトープによる、自己免疫マウス糖尿病に対するワクチン化」[Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:3088−91]。
エリアス(Elias D)およびコーエン(Cohen IR)(1994)、「NODマウスにおける糖尿病に対するペプチド治療」[The Lancet. 343:704−706]。
エリアス(Elias D)、コーエン(Cohen IR)(1996)、「hsp60ペプチドp277は、毒素ストレプトゾシンにより誘導される自己免疫糖尿病を抑制する」[Diabetes (印刷中)]。
カッツ(Katz JD)、ベノス(Benoist C)、マティス(Mathis D)(1995)、「インスリン依存性糖尿病におけるTヘルパー細胞サブセット」[Science 268:1185−1188]。
カウフマン(Kaufman DL)、クラーレ−ザルツラー(Clare−Salzler M)、チアン(Tian J)、ホルストフーバー(Forsthuber T)、ティン(Ting GSP)、ロビンソン(Robinson P)、アトキンソン(Atkinson MA)、セルカーズ(Sercarz EE)、トビン(Tobin AJ)、レーマン(Lehmann PV)(1993)、「ネズミインスリン依存性糖尿病におけるグルタミン酸デカルボキシラーゼに対するT細胞寛容の自然損失」[Nature 366:69−72]。
リブラウ(Liblau RS)、シンガー(Singer SM)、マクデビット(McDevitt Ho)(1995)、「器官特異的な自己免疫疾患の病因におけるTh1およびTh2 CD4+T細胞」[Immunol Today 16:34−38]。
モスマン(Mossman TRR)、コフマン(Coffman RL)(1989)、「TH1およびTH2細胞:異なるパターンのリンホカイン分泌が異なる機能特性を導く」[Annu Rev Immunol 9:145−173]。
ティシュ(Tisch R)、ヤング(Yang XD)、シンガー(Singer SM)、リブラブ(Liblav RS)、フガール(Fuggar L)、マクデビット(McDevitt HO)(1993)、「グルタミン酸デカルボキシラーゼへの免疫反応が、非肥満糖尿病マウスにおけるインスリン炎に関連する」[Nature 366:72−75]。
【0078】
(配列表)
(1) 一般的情報
(i) 特許出願人: イェダ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・
カンパニー・リミテッド
(ii) 発明の名称: 糖尿病の治療のためのヒト熱ショックタンパク質60
由来の新規ペプチド、組成物、方法およびキット
(iii) 配列の数: 6
(2) 配列番号1の情報
(i) 配列の特徴:
(A) 長さ:573アミノ酸
(B) 型:アミノ酸
(C) 鎖の数:一本鎖
(D) トポロジー:直鎖状
(ii) 配列の種類:タンパク質
(xi) 配列:配列番号1:
【化1−1】


【化1−2】


(2) 配列番号2の情報
(i) 配列の特徴:
(A) 長さ:24アミノ酸
(B) 型:アミノ酸
(C) 鎖の数:一本鎖
(D) トポロジー:直鎖状
(ii) 配列の種類:ペプチド
(xi) 配列:配列番号2:
【化2】


(2) 配列番号3の情報
(i) 配列の特徴:
(A) 長さ:20アミノ酸
(B) 型:アミノ酸
(C) 鎖の数:一本鎖
(D) トポロジー:直鎖状
(ii) 配列の種類:ペプチド
(xi) 配列:配列番号3:
【化3】


(2) 配列番号4の情報
(i) 配列の特徴:
(A) 長さ:17アミノ酸
(B) 型:アミノ酸
(C) 鎖の数:一本鎖
(D) トポロジー:直鎖状
(ii) 配列の種類:ペプチド
(xi) 配列:配列番号4:
【化4】


(2) 配列番号5の情報
(i) 配列の特徴:
(A) 長さ:20アミノ酸
(B) 型:アミノ酸
(C) 鎖の数:一本鎖
(D) トポロジー:直鎖状
(ii) 配列の種類:ペプチド
(xi) 配列:配列番号5:
【化5】


(2) 配列番号6の情報
(i) 配列の特徴:
(A) 長さ:18アミノ酸
(B) 型:アミノ酸
(C) 鎖の数:一本鎖
(D) トポロジー:直鎖状
(ii) 配列の種類:ペプチド
(xi) 配列:配列番号6:
【化6】

【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、ヒトhsp60分子の全配列上の、本明細書中で言及したペプチドの位置を示すものである。
【図2】図2は、ヒトhsp60ペプチドp12、p32、p277(Val−Val11)およびp278に対するNODマウスT細胞増殖を示すものである。
【図3】図3は、ペプチドに対するNODマウスのT細胞増殖応答を示すグラフである。3匹のNODマウスの群に、IFA中のマウスp12、マウスp277、GAD−p35およびMT−p278ペプチドを、それぞれIFA中25μgの用量で与えた。10日後に排出リンパ節を取り、5、10、20および50μg/mlの濃度の対応ペプチドに対する増殖応答を調べた。20μg/mlの最適濃度での刺激が示される。以下のcpm範囲が培地対照において得られた;マウスp12、881;マウスp277、1243;MT−p278、698;およびGAD−p35、1430。マウスp38ペプチドはマウスhsp60から得たペプチド(556〜573)であり、これは、試験したペプチドとの配列相同性を持たず、特異性の陰性対照として働く。これらの結果は、実施した3回の実験の代表例である。それぞれのアッセイは3回行い、棒でSD値を示す。ペプチド間には交差反応性は存在しなかった(示していない)。
【図4】図4は、糖尿病に対するペプチド投与の効果を示すグラフである。10〜20匹のNODマウスの群を、10週齢のときに、100μgのIFA中のマウスp12、p277、p35−GADもしくはMT−p278、またはIFA単独で処理した。これらのマウスから毎月採血し、過血糖症の開始を追跡した。IFA処理した対照群と比較したときに、p12およびp277で処理したマウスは有意に保護された(P<0.05)。
【図5】図5は、ペプチド処理に応答するIgG1、IgG2aおよびIgG2b抗体アイソタイプを示すものである。図4の説明に記載したようにマウスを処理した。個々の試料について、マウスp12(A)、p277(B)、GAD−p35(C)およびMT−p278(D)に対する抗体のIgG1、IgG2aおよびIgG2bアイソタイプを分析した。同様の効果が2つの実験において得られた。結果は、各群の10匹の個々のマウスの405nmでの吸光度(OD)で示す。群CおよびDと比較したときの群AおよびBにおけるIgG1およびIgG2b抗体の優勢度の有意レベルは、P<0.001である。群AおよびBにおけるIgG2a抗体と比較したときのIgG1およびIgG2b抗体のレベルの間の差異は有意であった(P<0.001)。抗体の間には交差反応性は存在しなかった(示していない)。
【図6】図6は、抗体と血液グルコースの間の陰性の関係を示すものである。図4の説明に記載したように、NOD雌マウスの群をp12(10匹のマウス)またはIFA単独(9匹のマウス)で処理した。抗p12特異的抗体の量(1:50希釈した血清中のELISA OD単位;7カ月齢のときに測定)を、血液グルコース濃度(7カ月齢のときに測定)と共にプロットする。高抗体と血液グルコースの間の関係の程度は、P<0.002である。
【図7】図7は、リコール抗原、hsp60タンパク質およびhsp60合成ペプチドに対する、1人のIDDM患者ドナーのT細胞増殖応答(SI)を示すグラフである。
【図8】図8は、リコール抗原、hsp60およびhsp60合成ペプチドに対する、健康なドナーのT細胞増殖応答(SI)を示すグラフである。
【図9】図9は、リコール抗原、hsp60およびhsp60合成ペプチドに対する、別のIDDM患者ドナーのT細胞増殖応答(SI)を示すグラフである。
【図10】図10Aおよび10Bは、hsp60合成ペプチドに対する、2人のIDDM患者ドナーのT細胞増殖応答(SI)を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表1に示すペプチドから選択されるペプチド、ならびにその塩および機能的誘導体。
【請求項2】
p12と命名した請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
p32と命名した請求項1に記載のペプチド。
【請求項4】
インスリン依存性糖尿病(IDDM)の診断のための請求項1に記載のペプチドの使用。
【請求項5】
患者のIDDMの初期または存在を診断するための方法であって、抗原として請求項1に記載のペプチドを用いて、ヒトhsp60と免疫学的に反応するT細胞または抗体の存在について、該患者の血液または尿を試験することからなる方法。
【請求項6】
hsp60と免疫反応するT細胞または抗hsp60抗体の存在について患者を試験することからなり、hsp60と免疫反応するT細胞または抗hsp60抗体の陽性の存在を示す結果がIDDMの初期または存在の高い蓋然性を示すものである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
抗hsp60抗体の存在について患者を試験する請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
試験方法がラジオイムノアッセイからなる請求項7に記載の方法。
【請求項9】
試験方法がELISA試験からなる請求項7に記載の方法。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれかに記載の方法に従って抗hsp60抗体の存在を試験することによってIDDMの存在を診断するためのキットであって、
(i)請求項1に記載のペプチドである抗原;および
(ii)検出しようとする抗hsp60抗体の非可変領域を認識することができるタグを付けた抗体;
を含むキット。
【請求項11】
抗原が請求項2に記載のペプチドである請求項10に記載のキット。
【請求項12】
抗原が請求項3に記載のペプチドである請求項10に記載のキット。
【請求項13】
抗原が固相に固定されている請求項10〜12のいずれかに記載のキット。
【請求項14】
IDDMの診断においてキットを使用するための指示をさらに含む請求項10〜13のいずれかに記載のキット。
【請求項15】
タグが、放射性同位体、酵素、発色団および蛍光団からなる群から選択される請求項10〜14のいずれかに記載のキット。
【請求項16】
hsp60と免疫反応するT細胞の存在について患者を試験する請求項5または6に記載の方法。
【請求項17】
試験方法が、以下の工程:
(i)患者から得た血液試料から、T細胞を含む単核細胞分画を調製し;
(ii)該単核細胞分画に、請求項1に記載のペプチドから選択される抗原を添加し;
(iii)該細胞分画を、該抗原の存在下に、適当な時間、適当な培養条件下でインキュベートし;
(iv)該インキュベート期間の終了前の適当な時間に、工程(iii)のインキュベート細胞培養物にラベル化ヌクレオチドを添加して、該ラベル化ヌクレオチドを増殖T細胞のDNA中に導入し;そして
(v)該T細胞中に導入されたラベル化ヌクレオチドの量を分析することによって、増殖T細胞の量を測定する;
を含むT細胞増殖試験からなる請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項5、6および17のいずれかに記載の方法に従ってhsp60と免疫反応するT細胞の存在を試験することによってIDDMの存在を診断するためのキットであって、
(i)請求項1に記載のペプチドから選択される抗原;
(ii)ラベル化ヌクレオチド;および
(iii)リンパ球の培養のための適当な培地;
を含むキット。
【請求項19】
IDDMの診断においてキットを使用するための指示をさらに含む請求項18に記載のキット。
【請求項20】
試験方法が、以下の工程:
(i)患者から得た血液試料から、T細胞を含む単核細胞分画を調製し;
(ii)該単核細胞分画に、請求項1に記載のペプチドから選択される抗原を添加し;
(iii)該細胞分画を、該抗原の存在下に、適当な時間、適当な培養条件下でインキュベートし;そして
(iv)応答リンパ球により培地中に分泌されるサイトカインの存在を測定する;
を含むT細胞サイトカイン応答試験からなる請求項16に記載の方法。
【請求項21】
サイトカインが、IFN−γ、IL−2、IL−4、IL−6、IL−10、TNFαまたはTGFβである請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項5、6、20および21のいずれかに記載の方法に従ってhsp60と免疫反応するT細胞の存在を試験することによってIDDMの存在を診断するためのキットであって、
(i)請求項1に記載のペプチドから選択される抗原;
(ii)リンパ球の培養のための適当な培地;および
(iii)応答リンパ球により培地中に分泌されるサイトカインの存在を測定するためのアッセイキット;
を含むキット。
【請求項23】
IDDMの診断においてキットを使用するための指示をさらに含む請求項22に記載のキット。
【請求項24】
請求項1に記載のペプチドから選択される抗原を患者に皮下注射し、検出可能な皮膚反応の出現を観察する請求項16に記載の方法。
【請求項25】
IDDMを予防または治療するための調製物であって、以下の成分を含む調製物:
(a)請求項1に記載のペプチドと免疫学的に交差反応性であるペプチドまたはタンパク質に対して特異性を示すT細胞であって、該ペプチドの存在下にインキュベートすることによって活性化したT細胞;
(b)照射したか、または他の方法で弱毒化した該T細胞;
(c)静水圧による圧力処理、化学的架橋剤による処理、および/または細胞骨格架橋剤による処理にかけた該T細胞;
(d)上記(a)、(b)または(c)の断片、またはこれらから放散された表面タンパク質;または
(e)該タンパク質に特異的な(a)の受容体の可変領域からなるペプチド、またはその塩、機能的誘導体、前駆体もしくは活性分画。
【請求項26】
(a)のT細胞がヒトT細胞であり、該T細胞の特異性が該ペプチドとのインビトロ接触によって生じたものである請求項25に記載の調製物。
【請求項27】
T細胞が、請求項1に記載のペプチドに対してインビトロ特異性を示す請求項25または26に記載の調製物。
【請求項28】
請求項1に記載のペプチドおよび薬学的に許容しうる担体を含有する医薬組成物。
【請求項29】
IDDMの予防または治療のための請求項28に記載の医薬組成物。
【請求項30】
ペプチドが請求項2に記載のペプチドである請求項28または29に記載の医薬組成物。
【請求項31】
ペプチドが請求項3に記載のペプチドである請求項28または29に記載の医薬組成物。
【請求項32】
IDDM治療用の医薬組成物を製造するための、請求項1〜3のいずれかに記載のペプチドの使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−119482(P2007−119482A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329321(P2006−329321)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【分割の表示】特願平9−505319の分割
【原出願日】平成8年7月1日(1996.7.1)
【出願人】(506405596)イェダ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・カンパニー・リミテッド (1)
【Fターム(参考)】