説明

糖尿病の治療のための医薬組成物

【課題】
優れた効果を発揮し、かつ副作用の抑制が可能な安全性の高い糖尿病の治療方法を提供すること。
【解決手段】
FBPase阻害剤を含有する薬剤を特定の投与タイミングで用いること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FBPase阻害剤を含有する、高い治療効果を有し、かつ副作用の軽減が可能な、糖尿病、高血糖症、耐糖能不全、肥満症、糖尿病合併症(好適には、糖尿病)の治療剤並びにその治療剤の投与方法に関する。
【0002】
さらに本発明は、FBPase阻害剤及びその他の糖尿病治療剤を含有する、高い治療効果を有し、かつ副作用の軽減が可能な、糖尿病、高血糖症、耐糖能不全、肥満症、糖尿病合併症(好適には、糖尿病)の治療剤並びにその治療剤の投与方法に関する。
【背景技術】
【0003】
FBPase阻害剤は、肝臓における糖新生を阻害することにより、血糖を降下させる働きをすることが知られており、糖尿病、高血糖症、耐糖能不全、肥満症、糖尿病合併症(例えば、網膜症、白内障、腎症、末梢神経の障害等)等の治療薬として有効であると考えられている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
一方、ビグアナイド剤は、体重を増加することなく血糖を降下する作用を有するため、糖尿病治療薬として欧米で汎用されている。現在市販されているビグアナイド剤としては、メトホルミンなどが挙げられ、1日2回糖尿病の患者に対し投与されている。しかし、メトホルミン等のビグアナイド剤は、臨床で用いられた際に、胃腸障害(例えば、悪心、消化不良等)や、まれではあるが乳酸の蓄積による乳酸アシドーシス等の有害事象を発現する場合があることが知られており、使用する際には十分な注意が必要とされている。
【0005】
また、糖尿病治療薬は、複数を組み合わせて使われる機会が多いことが知られている。しかしながら、従来の併用方法としては、当初から使用されている薬剤に、そのまま他剤を追加して使用するものであり、相加程度の効果しか期待できない。そのため、現在では、その薬剤の組合せにとって最適な投与法、つまり、それぞれ異なる作用機作を有する薬剤を用いることにより、それぞれの長所を最大限に生かしつつ、短所(副作用等)を抑えるような効果的な投与法が求められている。
【0006】
FBPase阻害剤とその他の糖尿病治療剤の組合せによる血糖降下作用について開示している文献がある(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、本発明の特定の投与方法については、まったく記載も示唆もされていない。
【特許文献1】国際公開第00/14095号パンフレット
【特許文献2】国際公開第01/47935号パンフレット
【特許文献3】国際公開第01/66553号パンフレット
【特許文献4】国際公開第02/03978号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、優れた効果を発揮し、かつ副作用(例えば、胃腸障害等)の抑制が可能な安全性の高い糖尿病の治療方法の開発を目的として鋭意研究を行った結果、FBPase阻害剤を特定の投与タイミングで用いることにより、高い治療効果が得られ、かつ副作用が顕著に抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
さらに、FBPase阻害剤と他の糖尿病治療剤(好適には、ビグアナイド剤)を併用する際にも、それぞれ特定のタイミングで投与することにより、高い治療効果を得ることができ、かつ副作用を顕著に抑制することができることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
(1)FBPase阻害剤を含む医薬組成物であって、食事間隔が最長となる時間帯の初期に投与することにより、糖尿病の予防又は治療効果が増強されたことを特徴とする、糖尿病を予防又は治療するための医薬組成物、
(2)FBPase阻害剤を含む医薬組成物であって、食事間隔が最長となる時間帯の初期に1日1回経口投与することにより、糖尿病の予防又は治療効果が増強されたことを特徴とする、糖尿病を予防又は治療するための医薬組成物、
(3)投与時間帯が、夕食後から就寝前である上記(1)又は(2)に記載の医薬組成物、
(4)投与時間帯が、夕食後である上記(1)乃至(3)に記載の医薬組成物、
(5)FBPase阻害剤を1〜400mg含む上記(1)乃至(4)に記載の医薬組成物、
(6)FBPase阻害剤を10〜200mg含む上記(1)乃至(4)に記載の医薬組成物、
(7)糖尿病を予防又は治療するためのキットであって、夕食後から就寝前の時間帯の初期に1日1回経口投与により使用すべき旨の指示を含み、単位用量としてFBPase阻害剤を1〜400mg含み、かかる単位用量を少なくとも1回分収容するキット、
(8)糖尿病を治療する方法であって、FBPase阻害剤を有効成分として含有する医薬組成物を、その後の食事間隔が最長となる時間帯に1日1回経口投与することを特徴とする、治療方法、
(9)糖尿病の治療において、異なる2種の有効成分を時間を置いて別々に投与するためのキットであって、(a)第一成分がビグアナイド剤を有効成分として含有する医薬組成物、(b)第二成分がFBPase阻害剤を有効成分として含有する医薬組成物であるキット、
(10)糖尿病の治療において、異なる2種の有効成分を時間を置いて別々に投与することにより副作用を防止するためのキットであって、(a)第一成分がビグアナイド剤を有効成分として含有する医薬組成物、(b)第二成分がFBPase阻害剤を有効成分として含有する医薬組成物であるキット、
(11)糖尿病の治療において、異なる2種の有効成分を時間を置いて別々に投与することにより、ビグアナイド剤の投与量を減量し副作用を防止するためのキットであって、(a)第一成分がビグアナイド剤を有効成分として含有する医薬組成物、(b)第二成分がFBPase阻害剤を有効成分として含有する医薬組成物であるキット、
(12)(a)第一成分を治療対象の組織への糖の取り込みが亢進している時に投与し、(b)第二成分を治療対象の糖新生が亢進している時に投与することが明記された、上記(8)乃至(11)に記載のキット。
(13)第二成分を夕食後から就寝前に投与することが明記された、上記(8)乃至(11)に記載のキット、
(14)(a)第一成分を4:00〜12:00の間に投与し、(b)第二成分を17:00〜1:00の間に治療対象に投与することが明記された、上記(8)乃至(11)に記載のキット、
(15)副作用が、胃腸障害である上記(10)乃至(14)に記載のキット、
(16)副作用が、乳酸値の上昇である上記(10)乃至(15)に記載のキット、
(17)経口投与用に包装された、上記(8)乃至16に記載のキット、
(18)ビグアナイド剤が、メトホルミン、フェンホルミン又はブホルミンである上記(8)乃至(17)に記載のキット、
(19)ビグアナイド剤がメトホルミンである上記(8)乃至(17)に記載のキット、
(20)FBPase阻害剤が、人間のFBPaseを阻害する薬剤である上記(8)乃至(19)に記載のキット、
(21)FBPase阻害剤が、2-アミノ-5-イソブチル-4-{2-[5-(N,N'-ビス((S)-1-エトキシカルボニル)エチル)ホスホンアミド]フラニル}チアゾール又はその薬理上許容される塩である上記(8)乃至(19)に記載のキット、
(22)糖尿病の治療において、2種の有効成分を時間を置いて別々に投与するためのキットであって、(a)第一成分がビグアナイド剤を有効成分として含有する医薬組成物、(b)第二成分がFBPase阻害剤を有効成分として含有する医薬組成物であるキットを製造するための、ビグアナイド剤及びFBPase阻害剤の使用、
(23)ビグアナイド剤を有効成分として含有する薬剤とFBPase阻害剤を有効成分として含有する薬剤を、時間を置いて別々に投与することを特徴とする、糖尿病治療剤、
(24)糖尿病の治療において、互いに関連して使用するための組合せであって、(a)ビグアナイド剤を有効成分として含有する医薬組成物と、(b) FBPase阻害剤を有効成分として含有する医薬組成物を、時間を置いて別々に投与することを特徴とする、糖尿病治療用の組合せ、
(25)糖尿病を治療する方法であって、(a)ビグアナイド剤を有効成分として含有する医薬組成物と(b)FBPase阻害剤を有効成分として含有する医薬組成物を、時間を置いて別々に投与することを特徴とする、治療方法、
(26)糖尿病を治療する方法であって、(a)ビグアナイド剤を有効成分として含有する医薬組成物と(b)FBPase阻害剤を有効成分として含有する医薬組成物を、時間を置いて別々に投与することにより、ビグアナイド剤に起因する副作用が軽減されることを特徴とする治療方法である。

本発明において、「FBPase阻害剤」とは、FBPaseの作用を阻害する薬剤であれば特に限定はないが、例えば、国際公開第01/47935号パンフレットに記載のリン酸エステルアミド骨格をプロドラッグ部分として有するリン酸エステルアミド化合物、国際公開第00/14095号パンフレット、ジャーナル オブ メディシナル ケミストリー(Journal of Medicinal Chemistry) 45巻3865-3877頁2002年、バイオオーガニック アンド メディシナル ケミストリー レターズ(Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters) 11巻17-21頁2001年に記載の化合物などが挙げられ、好適にはリン酸エステルアミド化合物であり、特に好適には、2-アミノ-5-イソブチル-4-{2-[5-(N,N'-ビス((S)-1-エトキシカルボニル)エチル)ホスホンアミド]フラニル}チアゾール及びその塩である。
【0010】
本発明において、「糖尿病治療薬」とは、一般に糖尿病患者に処方される薬剤であれば特に限定はないが、例えば、インスリン製剤、ビグアナイド剤、インスリン分泌促進剤(SU剤等)、消化酵素阻害剤(α−グルコシダーゼ阻害剤等)、インスリン抵抗性改善剤等を挙げることができる。
【0011】
本発明において、「ビグアナイド剤」とは、嫌気性解糖促進作用、末梢でのインスリン作用増強、腸管からのグルコース吸収抑制、肝糖新生の抑制などの作用を有する薬剤であれば特に限定はないが、例えば1,1- dimethylbiguanide monohydrochloride(一般名:メトホルミン)、フェンホルミン、ブホルミンなどが挙げられ、特に好適にはメトホルミンである。
【0012】
本発明において使用される糖尿病治療薬の投与ルートは、一般的に、経口ルートである。単位投与形態は、通常の製剤技術により調製されるものであれば特に限定はないが、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤をあげることができる。
【0013】
これらの各種製剤は、常法に従って、賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤、溶解剤、矯味矯臭、コーティング剤等の、医薬製剤分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。
【0014】
例えば、錠剤の形態に成形するに際しては、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用でき、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ぶどう糖、尿素、澱粉、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ぶどう糖液、澱粉液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤、乾燥澱粉、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、澱粉、乳糖等の崩壊剤、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤、第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤、グリセリン、澱粉等の保湿剤、澱粉、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤、精製タルク、ステアリン酸塩、硼酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等が例示できる。更に錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多層錠とすることができる。
【0015】
丸剤の形態に成形するに際しては、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用でき、例えばぶどう糖、乳糖、澱粉、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤、ラミナランカンテン等の崩壊剤等が例示できる。更に必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や他の医薬品を含有せしめてもよい。
【0016】
上記医薬製剤中に含まれるFBPase阻害剤の量は、特に限定されず広範囲に適宜選択されるが、通常全組成物中1〜70重量%、好ましくは1〜30重量%含まれる量とするのが適当である。
【0017】
その投与量は、症状、年令、体重、剤型等によって異なるが、通常は成人に対して1日、下限として0.001mg(好ましくは1mg、更に好ましくは10mg)であり、上限として2000mg(好ましくは400mg、更に好ましくは200mg)を投与することができる。
【0018】
上記医薬製剤中に含まれるビグアナイド剤の量は、特に限定されず広範囲に適宜選択されるが、通常全組成物中1〜70重量%、好ましくは1〜30重量%含まれる量とするのが適当である。
【0019】
その投与量は、症状、年令、体重、剤型等によって異なるが、通常は成人に対して1日、下限として0.001mg(好ましくは0.01mg、更に好ましくは0.1mg)であり、上限として2550mg(好ましくは850mg、更に好ましくは500mg)を1回投与することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、FBPase阻害剤を、特定のタイミングで投与することにより、高い治療効果を得ることができ、かつ副作用を顕著に軽減することができるため、本発明の糖尿病治療薬及びその投与法は、糖尿病の治療に極めて有用である。
【0021】
さらに、FBPase阻害剤と異なる作用機作の糖尿病治療剤を併用する際にも、それぞれ特定のタイミングで投与することにより、高い治療効果を得ることができ、かつ副作用を顕著に軽減することができるため、本発明の糖尿病治療薬及びその投与法は、糖尿病の治療に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に実施例をあげて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
実施例中で用いた化合物Aは、国際公開第01/47935号パンフレットに記載された化合物であり、該公報の方法に従って製造することができる。
(実施例1)
2-アミノ-5-イソブチル-4-{2-[5-(N,N'-ビス((S)-1-エトキシカルボニル)エチル)ホスホンアミド]フラニル}チアゾール(化合物A)及びメトホルミンを特定のタイミングで投与することによる、糖尿病の改善に与える効果
糖尿病を発症している11週齢のZucker糖尿病肥満(ZDF)ラットを3群に分け(7匹/群)、給餌時間を17:00〜9:00に制限し、化合物Aとメトホルミン(シグマ(株)より購入)を6週間反復投与した。化合物Aおよびメトホルミンの投与量はいずれも1日1回100〜150 mg/kgとし、午前9時(9:00)又は午後4時(16:00)に投与した。午前9時に化合物Aを投与した群には、午後4時にメトホルミンを投与し(午前-化合物A・午後-メトホルミン投与群;A群)、午前9時にメトホルミンを投与した群には、午後4時に化合物Aを投与して(午前-メトホルミン・午後-化合物A投与群;B群)、両群の1日の化合物投与量を等しくし、残りの群(対照群)には投与溶媒のみを1日2回投与した。
【0024】
反復投与6週間後に尾静脈より血液を採取し、赤血球中の糖化ヘモグロビン率を、バイエルメディカル社製DCA2000を使用して測定した。糖化ヘモグロビンは、血中のグルコースとヘモグロビンが非酵素的に結びついて生成し、高血糖の持続によりその割合が高くなることから、糖尿病患者の長期間の治療(血糖コントロール)の指標として広く用いられている。測定された糖化ヘモグロビン率を、各群ごとに平均値、及び、標準誤差を算出し、表1に示した。
(表1)

表1より、A群の血中糖化ヘモグロビン率は、対照群と比較して低いものの有意差は得られなかった(P=0.0749, Tukey test)。これに対し、B群の血中糖化ヘモグロビン率は、対照群に比して有意に低く(P=0.0002, Tukey test)、A群に比しても有意に低かった(P=0.0330, Tukey test)。以上のことから、ラットにおいては、「午前-メトホルミン・午後-化合物A」の投与法が「午前-化合物A・午後-メトホルミン」の投与法に比べて、顕著に糖尿病を改善することが示された。
【0025】
つまり、上記2剤の併用にあたっては、1日の投与量が同じであるにもかかわらず、特定のタイミングで投与することにより、顕著な作用効果の増強が生じることがわかった。

血糖は、主に肝臓に由来する糖の産生と、各組織への糖の取り込みとのバランスによって、恒常性が維持されている。肝臓における糖産生は糖新生が関わっており、一般に、肝臓における糖新生は絶食時に亢進し、摂食時は、組織への糖の取り込みが相対的に優位に働いていると考えられる。
【0026】
FBPase阻害剤は、肝臓の糖新生における律速酵素であるFBPaseを阻害して糖新生を抑制する。また、メトホルミンの作用機序は必ずしも明らかとなっていないが、その一つとして、筋肉における糖の取り込みの促進が推察されている。
【0027】
以上のことから考えると、本実施例の結果は、糖新生が亢進している絶食時にFBPase阻害剤の投与によって糖新生を阻害し、また、組織への糖の取り込みが盛んな摂食時に、ビグアナイド剤の投与によって糖の取り込みを促進することで、それぞれの薬剤が効果的に働き、顕著に糖尿病が改善したと考えられる。
【0028】
実施例においては、ラットでは、昼間が絶食時にあたるため午前中のFBPase阻害剤の投与、そして夜間が摂食時にあたるため午後のビグアナイド剤の投与により、優れた血糖コントロールが示されている。一方、ヒトの場合は、ラットと摂食タイミングの昼夜が通常逆であるため、午前中(好適には、朝食前又は朝食後)にビグアナイド剤を投与、午後(好適には、夕食後〜就寝前)にFBPase阻害剤を投与することにより、顕著な糖尿病改善効果が得られることが期待できる。
【0029】
以上より、FBPase阻害剤及びビグアナイド剤を組み合わせて、かつ最適なタイミングで使用することは、血糖値を良好にコントロールしつつ副作用を軽減することができるため、糖尿病の患者に対する極めて優れた投与法になり得ると考えられる。

(実施例2)
2-アミノ-5-イソブチル-4-{2-[5-(N,N'-ビス((S)-1-エトキシカルボニル)エチル)ホスホンアミド]フラニル}チアゾール(化合物A)の糖尿病改善効果に対する摂食の影響
糖尿病を呈する36週齢の雄性Goto-Kakizaki(GK)ラット(日本チャールスリバー(株)販売)を非絶食対照群、非絶食化合物A投与群、絶食対照群、絶食化合物A投与群の4群に分けた(6匹/群)。
【0030】
化合物Aを投与する群には化合物A(30 mg/kg)を経口投与し、対照の2群には投与溶媒のみを経口投与した。なお、絶食の2群は化合物A経口投与前日より、非絶食の2群は化合物A経口投与直後より絶食を行った(絶食開始前までは、固形飼料(FR2、船橋農場製)を自由摂取させた)。化合物Aの経口投与直前及び投与4時間後に尾静脈から血液を採取し、血糖値をグルコースオキシダーゼ固定化電極を用いた電位測定法(グルコローダーGXT (A&T社製))にて測定した。各個体ごとに化合物投与4時間後の血糖値の化合物投与前値に対する変化率を以下の計算式で血糖変化率として算出し、各群ごとの血糖変化率の平均値、標準誤差を表2に示した。
[血糖変化率(%)]=100×([化合物投与4時間後の血糖値]-[化合物投与前の血糖値])/[化合物投与前の血糖値]
(表2)

【0031】
表2より、対照群における血糖変化率は、非絶食時と絶食時で有意な差を認めず(P=0.6439、t検定)、絶食・非絶食いずれの場合でも同程度に血糖値が低下した。化合物A投与4時間後の血糖変化率は、非絶食、絶食に関わらず、対照群に比し有意に低値を示し(非絶食:P=0.0196、絶食:P=0.0236、t検定)、化合物Aはいずれの条件でも血糖値を低下させた。
【0032】
一方、非絶食化合物A投与群と絶食化合物A投与群の投与4時間後の血糖変化率を比較すると、絶食時において有意に低値を示した(P=0.0158、t検定)。
【0033】
以上の結果から、化合物Aは摂食状況に関わらず血糖低下作用を有するものの、絶食時間が長時間である時間帯における投与の方がより顕著な血糖低下作用を発揮する事が明らかとなった。
【0034】
この結果をヒトにあてはめてみると、通常の生活において絶食時間(食事間隔)が最長となるのは、夕食から朝食にかけてとなる。従って、夕食後〜就寝前にFBPase阻害剤を投与することにより、糖尿病治療効果が増強されると考えられる。
【0035】
さらに、実施例1及び実施例2より、上記投与タイミングが糖尿病の治療効果の増強に有効であるのは、化合物Aの単剤による治療の際だけでなく、他の糖尿病治療剤と併用する際にも同様の効果を得ることができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FBPase阻害剤を含む医薬組成物であって、食事間隔が最長となる時間帯の初期に投与することにより、糖尿病の予防又は治療効果が増強されたことを特徴とする、糖尿病を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項2】
FBPase阻害剤を含む医薬組成物であって、食事間隔が最長となる時間帯の初期に1日1回経口投与することにより、糖尿病の予防又は治療効果が増強されたことを特徴とする、糖尿病を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項3】
投与時間帯が、夕食後から就寝前である請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
投与時間帯が、夕食後である請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
FBPase阻害剤を1〜400mg含む請求項1乃至4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
FBPase阻害剤を10〜200mg含む請求項1乃至4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
糖尿病を治療する方法であって、FBPase阻害剤を有効成分として含有する医薬組成物を、その後の食事間隔が最長となる時間帯に1日1回経口投与することを特徴とする、治療方法。
【請求項8】
糖尿病を予防又は治療するためのキットであって、夕食後から就寝前の時間帯の初期に1日1回経口投与により使用すべき旨の指示を含み、単位用量としてFBPase阻害剤を1〜400mg含み、かかる単位用量を少なくとも1回分収容するキット。
【請求項9】
糖尿病の治療において、異なる2種の有効成分を時間を置いて別々に投与するためのキットであって、(a)第一成分がビグアナイド剤を有効成分として含有する医薬組成物、(b)第二成分がFBPase阻害剤を有効成分として含有する医薬組成物であるキット。
【請求項10】
糖尿病の治療において、異なる2種の有効成分を時間を置いて別々に投与することにより副作用を防止するためのキットであって、(a)第一成分がビグアナイド剤を有効成分として含有する医薬組成物、(b)第二成分がFBPase阻害剤を有効成分として含有する医薬組成物であるキット。
【請求項11】
糖尿病の治療において、異なる2種の有効成分を時間を置いて別々に投与することにより、ビグアナイド剤の投与量を減量し副作用を防止するためのキットであって、(a)第一成分がビグアナイド剤を有効成分として含有する医薬組成物、(b)第二成分がFBPase阻害剤を有効成分として含有する医薬組成物であるキット。
【請求項12】
(a)第一成分を治療対象の組織への糖の取り込みが亢進している時に投与し、(b)第二成分を治療対象の糖新生が亢進している時に投与することが明記された、請求項8乃至11に記載のキット。
【請求項13】
第二成分を夕食後から就寝前に投与することが明記された、請求項8乃至11に記載のキット。
【請求項14】
(a)第一成分を4:00〜12:00の間に投与し、(b)第二成分を17:00〜1:00の間に治療対象に投与することが明記された、請求項8乃至11に記載のキット。
【請求項15】
副作用が、胃腸障害である請求項10乃至14に記載のキット。
【請求項16】
副作用が、乳酸値の上昇である請求項10乃至15に記載のキット。
【請求項17】
経口投与用に包装された、請求項8乃至16に記載のキット。
【請求項18】
ビグアナイド剤が、メトホルミン、フェンホルミン又はブホルミンである請求項8乃至17に記載のキット。
【請求項19】
ビグアナイド剤がメトホルミンである請求項8乃至17に記載のキット。
【請求項20】
FBPase阻害剤が、人間のFBPaseを阻害する薬剤である請求項8乃至19に記載のキット。
【請求項21】
FBPase阻害剤が、2-アミノ-5-イソブチル-4-{2-[5-(N,N'-ビス((S)-1-エトキシカルボニル)エチル)ホスホンアミド]フラニル}チアゾール又はその薬理上許容される塩である請求項8乃至19に記載のキット。
【請求項22】
糖尿病の治療において、2種の有効成分を時間を置いて別々に投与するためのキットであって、(a)第一成分がビグアナイド剤を有効成分として含有する医薬組成物、(b)第二成分がFBPase阻害剤を有効成分として含有する医薬組成物であるキットを製造するための、ビグアナイド剤及びFBPase阻害剤の使用。
【請求項23】
ビグアナイド剤を有効成分として含有する薬剤とFBPase阻害剤を有効成分として含有する薬剤を、時間を置いて別々に投与することを特徴とする、糖尿病治療剤。
【請求項24】
糖尿病の治療において、互いに関連して使用するための組合せであって、(a)ビグアナイド剤を有効成分として含有する医薬組成物と、(b) FBPase阻害剤を有効成分として含有する医薬組成物を、時間を置いて別々に投与することを特徴とする、糖尿病治療用の組合せ。
【請求項25】
糖尿病を治療する方法であって、(a)ビグアナイド剤を有効成分として含有する医薬組成物と(b)FBPase阻害剤を有効成分として含有する医薬組成物を、時間を置いて別々に投与することを特徴とする、治療方法。
【請求項26】
糖尿病を治療する方法であって、(a)ビグアナイド剤を有効成分として含有する医薬組成物と(b)FBPase阻害剤を有効成分として含有する医薬組成物を、時間を置いて別々に投与することにより、ビグアナイド剤に起因する副作用が軽減されることを特徴とする、治療方法。

【公開番号】特開2006−193511(P2006−193511A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−357073(P2005−357073)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【出願人】(000001856)三共株式会社 (98)
【Fターム(参考)】