説明

糖尿病の診断のためのヒト膵臓β細胞株

本発明は、商業的規模の量のヒト機能性β細胞を製造する方法、および細胞株の樹立に関する。また、β細胞腫瘍またはそれ由来の細胞を用いる、診断方法にも関する。本発明方法は、移植物を増殖性β細胞に富ませ、ヒトβ細胞株を作製することを可能にする継代移植操作を含む。このような株はインスリンの発現は少なく、成人β細胞に似た遺伝子発現プロフィールを有する。さらに、ヒトβ細胞株は、移植された場合に糖尿病マウスの血糖を正常化でき、このことは、この株のインスリン分泌能を実証する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は商業規模の量のヒトβ細胞の製造方法、および細胞株 (cell line)の樹立に関する。またβ細胞腫瘍またはそれ由来の細胞を用いた糖尿病の診断方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は世界中で2億人もの人が苦しんでいる慢性疾患である。1型糖尿病はβ細胞の自己免疫破壊を原因とし、2型糖尿病はインスリン抵抗性および不適切なインスリン分泌の組み合わせにより生じる。このように、1型および2型糖尿病とも、機能性β細胞の量が血糖 (glycemia) を調節するのに十分ではない。成熟膵臓は2種類の組織を含む:膵管を経て腸へ分泌される酵素(例、カルボキシペプチダーゼ−A)を産生する腺房細胞からなる外分泌組織、およびインスリン(β細胞)、グルカゴン(α細胞)、ソマトスタチン(δ細胞)および膵ポリペプチド(PP細胞)などのホルモンを産生する細胞からなる内分泌膵島。過去数十年間にわたり、β細胞分野での研究は、次のようなインスリン分泌性細胞株の樹立から得るところがあった:x線誘発ラットインスリノーマ由来のRINおよびINS1細胞(Asfari et al., 1992; Gazdar et al., 1980) 、SV40でのハムスターの膵島細胞の形質転換により製造されたHIT 細胞 (Santerre et al., 1981)、およびインスリンプロモーターの制御下でSV40 T抗原を発現するトランスジェニックマウス由来のBetaTCおよびMin6細胞 (Efrat et al., 1995; Efrat et al., 1993; Efrat et al, 1998; Hanahan, 1985; Knaack et al., 1994; Miyazaki et al., 1990) 。かかる細胞株はβ細胞の生物学をよりよく理解するのに有用であり、薬剤スクリーニングに使用できた。
【0003】
膵臓β細胞を大量に製造することは少なくとも次の2つの理由で重要な目的となる:第1にかかるβ細胞はβ細胞機能を調節しうる新規薬剤をスクリーニングするのに有用であろう; 第2に、かかる膵臓β細胞は糖尿病の細胞療法に使用できるであろう。このために、膵臓β細胞を大量に製造するために種々の取り組みがなされてきた。
【0004】
第1の取り組みは、マウスまたはヒトβ細胞を製造するために未分化の幹細胞 (ES細胞) を出発材料として使用することにある。主要な利点はES細胞は培養で無限に自己再生し、そして多数の細胞種、従って膵臓β細胞に分化しうる能力を有することである。この数年の間、ES細胞からのβ細胞の製造については極めて多くの刊行物が出された (Assady et al., 2001; Blyszczuk et al., 2003; Brolen et al., 2005; Hori et al., 2002; Lumelsky et al., 2001; Soria et al., 2000) が、一方、その他の刊行物はかかる研究における落とし穴を報告し、解釈を疑い、そしてES細胞からβ細胞を製造するのに再現可能なプロトコルが利用できなかったことを実証した (Hansson et al., 2004; Rajagopal et al., 2003) 。
【0005】
従って、その点で、機能性β細胞はES細胞から大量にはまだ製造されていない。ただし、β細胞がhES 細胞から生じたという最近の1文献 (D'Amour et al., 2006) を除く。しかし、この細胞はグルコース刺激によりインスリンを分泌しなかった。
【0006】
第2の取り組みは、出発材料として膵臓を用いて膵臓β細胞株を作製することに基づいていた。2つの主なアプローチが行われた。第1の場合では、成人β細胞を形質転換した。これはX線誘発ラットインスリノーマによる(Asfari et al., 1992; Gazdar et al., 1980)か、あるいはSV40によるハムスターの膵島細胞の形質転換により (Santerre et al., 1981)行われ、より最近ではSV40ラージT抗原およびヒトテロメラーゼ逆転写酵素を用いた成人ヒトβ細胞の不死化により行われた。いくつかの細胞株が成人β細胞から得られたが、この方法の効率は極めて低かった。例えば、成人の膵島からヒトβ細胞株を作製するために大きな努力が払われた (de la Tour et al.,2001; Demeterco et al., 2002; Gueli et al., 1987; Ju et al., 1998; Levine et al., 1995; Soldevila et al., 1991) が、1つのヒトβ細胞株が得られただけである (Narushima et al., 2005) 。Narushima et al.において報告された機能性ヒトβ細胞株NAKT-15 は移植による糖尿病の可能な治療への一歩を示した (Narushima et al., 2005) 。しかし、この論文に記載されているように、分析した253 クローンの中で1つだけがβ細胞を特徴づけるインスリンおよび転写因子を発現した。このように、この方法は診断または治療のために大規模な成熟β細胞を得るには適当でない。
【0007】
別のアプローチは、インスリンプロモーターの制御下でSV40 T抗原を発現するトランスジェニックマウス由来のβ細胞腫瘍からβ細胞株を誘導することである (Efrat et al., 1995; Efrat et al., 1993; Efrat et al., 1988; Hanahan, 1985; Knaack et al., 1994; Miyazaki et al., 1990)。しかし、このβ細胞株は受精卵における遺伝子導入により得られたので、その適用は、動物モデルに限られ、ヒトへの何らかの導入の可能性はない。
【0008】
最近、我々は、組換えレンチウイルスに感染した未熟 (未分化,immature)な膵臓が、内分泌細胞分化、およびウイルス構築物において使用されるプロモーターの特異性による導入遺伝子の限定された細胞種発現を生じることを実証した。具体的には、eGFPをインスリンプロモーターの制御下に置いた場合、発生したβ細胞の大多数がeGFPを発現した (Castaing et al.,2005b)。このように、組換えレンチウイルスベクターは膵前駆細胞 (pancreatic progenitor cell) に効率的に感染し、それにより成熟ラット膵臓β細胞を安定的に改変しうる。さらに我々は、β細胞に分化するであろう膵前駆細胞に感染させることによりβ細胞株が作製されるかどうかを求めた。この目的のために、インスリンプロモーターの制御下でSV40ラージT 抗原及び/又はhTERT を発現する組換えレンチウイルスを、未熟ラットまたはヒト膵臓組織に感染させた。我々のデータから、組換えレンチウイルスはラットおよびヒトの両方の膵臓幹/前駆細胞に感染することができることが実証され、これは導入遺伝子を発現するβ細胞に分化し、β細胞株が誘導されうるインスリノーマを形成するであろう。この目的のために、ラットの未熟膵臓上皮に、インスリンプロモーターの制御下でSV40ラージT 抗原を発現する組換えレンチウイルスを形質導入した。次いで、この感染させた組織を免疫不適格マウスの腎臓被膜下に移植した。かかる環境は、卵巣皮質、甲状腺、皮膚および気道などの多数の器官の発生を許容することがこれまでに示されている (Delplanque et al., 2000; Levy et al., 1998; Martin et al., 1993; Weissman et al., 1999) 。また我々は、膵臓β細胞がこのような環境の下でラットまたはヒト未熟膵臓から適切に生じることも実証した (Castaing et al., 2005a; Cataing et al., 2005b; Castaing et al., 2001) 。
【0009】
本発明に関連し、我々の目的は細胞治療を提供するのに十分な量で機能性β細胞株を作製するための新規なアプローチを明らかにすることであった。
我々は、成熟ラット膵臓β細胞のマスター細胞バッチの増幅を最大にするために検討を続け、ヒト膵臓β細胞のマスター細胞バッチを製造するために上記方法を適用することを試みた。残念ながら、現在、ヒト細胞を用いたインスリノーマの形成は、ラット未熟膵臓に同じウイルスを感染させた場合に観察されるものと異なり、移植後に何ら観察されていない。さらに、感染させた細胞を解離させ培養した場合、ヒト細胞株を作製することができなかった。
【0010】
また我々は、細胞に、インスリンプロモーターの制御下でSV40ラージT 抗原を発現する組換えレンチウイルスと共に、インスリンプロモーターの制御下でhTert を発現するウイルスを直接感染させ、再び、ラットβ細胞株を作製するのに用いたのと同じ条件を用いたが、ヒトβ細胞株を製造することはできなかった。
【0011】
従って、我々はヒトβ細胞株を作製するために、β細胞腫瘍に遺伝子導入するための新たな方策を明確にしなければならなかった。この研究の過程で、我々は、継代移植 (sub-graft)プロトコルを用いれば、ヒトの機能性β細胞にインスリノーマ構造を形成することができること、および継代移植工程はβ細胞における特異的富化をもたらし、最終的に、臨床的および商業的規模にさらに増幅されうる均質なヒトβ細胞株を得られることを見出した。
【0012】
従って、我々はここに、ヒトβ細胞 (他の細胞種ではなく) を特異的に樹立し増幅する方法を有する。富化および増幅の工程を繰り返すことにより、我々は試験、診断または治療用途のために増幅しうる細胞株を繰り返し得ることができた。
【0013】
β細胞の増殖において移植物を富化するために、上記継代移植 (sub-transplantation)操作を用いると、11個の独立したヒトβ細胞株を作製することができた。これらの株はインスリンを発現し、成人β細胞に似た遺伝子発現プロフィールを有する。さらに、糖尿病マウスの腎臓被膜下に移植すると、それらは血液中グルコースを正常化することができた。このヒトβ細胞株は糖尿病マウスの血糖を正常化することができる。腹腔内にブドウ糖負荷をかけることにより、これらの動物はブドウ糖負荷を正常に利用することができ、これは動物のインスリン分泌能力を実証するものである。さらに、移植を受けた糖尿病マウスにおいてin vivo でのブドウ糖負荷試験を行うことにより、我々の細胞株がグルコース刺激に応答しうること、従って十分に機能性であることを実証できた。
【0014】
最後に、我々のヒトβ細胞株は糖尿病患者の血清に見られる自己抗体の存在を検出するのに有効に使用でき、それによってI型糖尿病の診断に大きな可能性を有する。
これらのβ細胞は、診断のためのマスター細胞バッチを形成するヒトβ細胞株を作製し、無限に増幅させるのに使用されている。これはまた、糖尿病の治療におけるβ細胞の臨床的使用への展望を開くものでもある。
【発明の概要】
【0015】
従って、第1の態様において、本発明は下記を含む、ヒト膵臓β細胞またはヒトβ細胞腫瘍を調製する方法に関する:
a)未熟(未分化、immature) なヒト膵臓に、i)インスリンプロモーターの制御下でSV40ラージT 抗原を発現するレンチウイルスベクターとii) インスリンプロモーターの制御下でhTert を発現するレンチウイルスベクターとを、またはiii)インスリンプロモーターの制御下でSV40ラージT 抗原とhTert の両方を発現するレンチウイルスベクターを形質導入または同時形質導入し、
b) a) で得られる形質導入した未熟膵臓を、ヒトを除く重症複合免疫不全 (scid) の動物の腎臓被膜 (kidney capsule) 中に導入し、
c)形質導入した未熟膵臓細胞にインスリノーマ様の構造を発生させ、ここでインスリノーマ様の構造の未熟ヒト膵臓細胞はインスリン産生β細胞に分化しており、
d)工程c)で得られるインスリノーマ様構造体を微細切断 (micro-dissection) し、その細胞を解離させ (そして場合によりインスリンプロモーターの制御下で抗生物質耐性遺伝子を発現するレンチウイルスベクターを形質導入し) 、
e)工程d)で得られる細胞を、ヒトを除く新たなscid動物の腎臓被膜中に継代移植し、
f)工程e)で継代移植した細胞にインスリノーマ様構造を発生および再生させ、ここで、新たに発生したインスリノーマ様構造物はインスリン産生膵臓β細胞に豊み、
g)工程f)で得られるインスリノーマ様構造を微細切断し、それらの細胞を解離させ、そして集め、
h)場合により、工程g)で得られる細胞を新たなscid動物の腎臓被膜に継代移植し、インスリン産生膵臓β細胞をさらに富化し増幅させ、場合により工程f)、g)およびh)を、適切な量のインスリン産生膵臓β細胞が得られるまで繰り返す。
【0016】
「膵臓細胞」なる用語は、膵臓から得られる細胞をいう。好ましい態様においては、本発明における膵臓機能は、血糖の調節、およびβ細胞の破壊による何らかの代謝性異常の修復である。「未熟 (未分化、immature) 膵臓細胞」なる用語は、胎児膵臓、または内皮細胞において最初の分化を行った幹細胞から得ることができる細胞を意味する。
【0017】
ここでいうscid非ヒト動物は、非肥満性糖尿病/重症複合免疫不全 (NOD/scid) の動物であり得、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ヒトを除く霊長類、マウス、ラット、ハムスターなどの齧歯類から選択される。好ましい一態様において、NOD/scidの動物はマウスである。好ましくは、本発明のNOD/scidマウスは、任意の発育年齢であり、腎臓被膜に移植を行うのに十分な年齢であるのが好ましい。好ましくは、NOD/scidマウスは約2〜15週の発育年齢であり、より好ましくは6〜8週の発育年齢である。NOD/scidの動物はTおよびBリンパ球が欠け、体液性または細胞性免疫を産生できない動物である。
【0018】
抗生物質耐性遺伝子は、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、フレオマイシン耐性遺伝子、ブレオマイシン耐性遺伝子、ゲネチシン耐性遺伝子、カルベニシリン耐性遺伝子、クロランフェニコール耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ブラスチシジン-S- デアミナーゼ遺伝子からなる群において選択される。好ましい一態様では、この抗生物質耐性遺伝子はネオマイシン耐性遺伝子である。この場合、選択試薬はG418である。
【0019】
上記方法は、均質な細胞集団を形成する、工程h)で得られるヒト機能性膵臓β細胞を集めることを含む。この細胞集団は、ヒト機能性β細胞株を樹立するためにin vitroでさらに培養することができる。この段階で、連続的継代移植から誘導される細胞はSV40ラージT、hTERT および抗生物質耐性導入遺伝子を含んでいた。このように、上記方法で得られ得る細胞株は不死化されており、最終目的に応じて逆転してもしなくてもよい (脱不死化) 。
【0020】
ヒト機能性膵臓β細胞を調製するための上記方法は、マウスまたはラットなどの非ヒト動物への移植後にin vivo で、またはin vitroで、糖尿病を治療するための候補薬剤を試験し、スクリーニングするのに特に有用である。
【0021】
これに関し、1つの具体的態様において、上記方法は試験およびスクリーニング目的、および患者を1型および2型糖尿病に分類することを可能にするin vitro診断の目的で、大量のヒト機能性膵臓β細胞を調製するために実施することができる。ここで、細胞は脱不死化されていてもよい。一方、上記方法を用いて、必要に応じて工程f)、g)およびh)を繰り返して、大量のインスリノーマまたはその解離されたヒトβ細胞を提供することもでき、これらの細胞はさらにin vitroでの培養により無限に増殖させてもよい。β細胞腫瘍の切片、それ由来の細胞またはこれらの細胞からのタンパク質抽出物を、固体支持体 (例えば、ポリリシン被覆プレート) に結合または吸着させ、個人の血清と反応させることができる。
【0022】
インキュベーション後、血清を洗浄し、糖尿病と関連する自己免疫に特異的な種々の表面抗原に対する自己抗体の存在または不在が明らかにされる (例えば、標識抗ヒトIgにより) 。
【0023】
従って、本発明は、上記方法で得ることができる、ヒトβ細胞腫瘍、即ちインスリノーマ、またはヒト膵臓β細胞を目的とする。ヒトβ細胞腫瘍またはヒト膵臓β細胞は以下の特徴の少なくとも1つを示す:
−カルボキシペプチダーゼ-A陰性、
−転写因子Pdx1陽性
−転写因子MafA陽性
−プロコンバーターゼ Pcsk1陽性
−グルコース輸送体Glut2 の発現
−カリウムチャンネルのサブユニットをコードするKcnj11およびAbcc8 の発現
−亜鉛輸送体Znt8 (Slc30a8)の発現
−インスリンの発現。
【0024】
上で定義したヒトβ細胞腫瘍またはヒト膵臓β細胞はまた、抗インスリン、抗-GAD及び/又は抗-IA2抗体との反応にも陽性であり、そして無血清培地中、マトリゲル (Matrigel) とフィブロネクチンで被覆したウエルにおいて維持でき、培養での増殖が可能である。従って、本発明は、マトリゲルおよびフィブロネクチンを含む無血清培地中で培養した上記ヒト膵臓β細胞を含む細胞培養物も意図する。この細胞培養物は増殖し、不死化ヒト膵臓β細胞株を樹立しうる。
【0025】
さらに、本発明は、上記方法により得ることができるβ細胞腫瘍の切片、それ由来の細胞、またはこれらの細胞のタンパク質抽出物を個人の血清と反応させ、1型または2型糖尿病に特異的な各種表面抗原に対する自己抗体、例えば、膵島細胞抗体 (ICA)、またはインスリン自己抗体 (IAA)に対する抗体、グルタミン酸デカルボキシラーゼ抗体 (GADA) またはIA-2抗体 (IA2A) のような最近同定されたより特異的な抗体、または未知の特異的抗体、の存在または不在を検出することを含む、糖尿病のin vitro診断方法にも関する。既知または新規抗体の同定は、例えばイムノブロットまたはドットブロットにより行うことができる。
【0026】
本発明のこの面は、糖尿病の分類のために商業規模で製造できるキットを初めて提供する。より詳しくは、特異的自己抗体は、インスリン自己抗体 (IAA)およびグルタミン酸デカルボキシラーゼ抗体 (GADA) から選ばれる膵島細胞抗体 (ICA)である。事実、これらの抗原は本発明方法で得られるβ細胞腫瘍やそれ由来の細胞の表面に発現する。このように、上記方法で得られるβ細胞腫瘍またはヒト機能性膵臓β細胞、またはそれからの蛋白質抽出物を、場合により固体支持体に固定または吸着させて含む糖尿病用診断キットも本発明に包含される。
【0027】
別の態様では、上記細胞をin vitroで培養し、インスリン分泌を調節しうる化合物をスクリーニングするために膵臓β細胞株を樹立する。
さらに別の態様では、上記方法は糖尿病の細胞治療のためのマスター細胞バンクの確立に関する。ここで、この方法は、細胞の脱不死化のための工程をさらに含む。言い換えると、上記レンチウイルスベクターを可逆的または条件的不死化を可能にするように作製する。これに関し、インスリンプロモーターの制御下でSV40ラージT 、hTERT および抗生物質耐性導入遺伝子を発現するレンチウイルスベクターにおいて、少なくとも1つのLox P 部位を導入する。好ましくは、本発明のベクターはSV40ラージT およびhTERT 導入遺伝子が2つのLox P 部位の間にあるように作製する。これらの導入遺伝子は、β細胞中でCre リコンビナーゼを発現させることにより除去される。例えば、上記方法で得られる細胞を、Cre リコンビナーゼを発現するベクターまたはプラスミドで形質導入して、逆転を生じさせる。当業者はこれらの導入遺伝子を除去するためにFRT/FLP 系を選択してもよいことは当然である。不死化した細胞を逆転するための方法はWO 01/38548 に記載されている。
【0028】
ある具体的態様において、SV40ラージT を発現するレンチウイルスベクター、およびhTERT を発現するレンチウイルスベクターは、部位特異的組換えの部位が両ベクターで異なる場合、Lox P またはFRT 部位をさらに含む。
【0029】
ネガティブ選択工程をCre またはFLP リコンビナーゼの作用の後に行うこともできる。この追加工程は、不死化遺伝子SV40ラージT およびhTERT 、並びに抗生物質耐性遺伝子が除去された細胞のみを選択することを可能にする。これらの細胞は、糖尿病患者に移植するまで、凍結、貯蔵および場合によりカプセル化することができる。
【0030】
従って、レンチウイルスベクターは、少なくとも1つのネガティブ選択マーカー遺伝子を含んでもよい。例えば、かかるタンパク質をコードする遺伝子がHSV-TK遺伝子であり;その場合選択試薬はアシクロビル−ガンシクロビルである。例えば、かかるタンパク質をコードする遺伝子がヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ (HPRT) 遺伝子またはグアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ (Gpt)遺伝子であり;これらの場合、選択試薬は6-チオグアニンである。例えば、かかるタンパク質をコードする遺伝子がシトシンデアミナーゼであり;その場合選択試薬は5-フルオロシトシンである。ネガティブ選択マーカータンパク質のその他の例には、ジフテリアトキシンA (DTA)などのウイルス性および細菌性毒素がある。
【0031】
さらに別の態様では、本発明は上記方法で得ることができるβ細胞腫瘍およびその解離細胞に関する。説明したように、不死化および脱不死化の両方が本発明に含まれる。
本発明はまた、糖尿病治療のための候補医薬を試験またはスクリーニングするための、上で説明したin vitro診断のための、および糖尿病の細胞治療のための、前記細胞の使用にも関する。
【0032】
本発明は、糖尿病に罹患した個体において膵臓機能を再生する方法も提供し、この方法は、上記ヒト機能性膵臓細胞の有効量を該個体に移植することを含み、該細胞は初期のβ細胞表現型に戻っている。
【0033】
本発明はまた、上記ヒト機能性膵臓細胞の有効量を含む薬剤組成物にも関し、この細胞は場合によりカプセル化されていてもよい。
「有効量」とは、有利なまたは望ましい臨床結果を発揮するのに十分な量である。有効量、例えば105 〜109 の細胞を1または2回以上の適用で投与できるが、1回の投与で十分であるのが好ましい。本発明の目的にとって、膵臓β細胞の幹細胞前躯体の有効量は、膵臓の機能の1または2以上を回復しうる分化した膵臓細胞を産生するのに十分な量である。比較的多数の膵臓細胞、例えば109 超の細胞の導入により迅速に回復が生じることを意図する。さらに、より少ない膵臓細胞を導入した場合でも、膵臓細胞がin vivo で増殖可能であれば機能が回復するであろうことも意図する。このように膵臓細胞の「有効量」は、1個と少ない膵臓細胞でも十分な時間、膵臓の全部または一部を再生することを可能にすることによって得られる。好ましくは、個体に投与する有効量は、約101 膵臓細胞より多く、約102 〜約1015膵臓細胞が好ましく、約103 〜1012膵臓細胞がより好ましい。治療の観点からは、膵臓細胞の「有効量」は糖尿病のような膵臓の疾患を改善し、軽減し、安定化し、逆転させ、進行を遅らせ、または延ばすことができる量である。
【0034】
個体に細胞を導入する方法は、当業者には周知であり、注射、静脈内または非経口投与があるが、これらに限定されない。
単一、複数回、連続または間欠投与を行うことができる。膵臓細胞は、膵臓、腹腔、腎臓、肝臓、腹腔動脈、門脈または脾臓を含む複数の異なる部位のいずれにもに導入できるが、これらに限定されない。好ましくは、膵臓細胞を個体の膵臓に入れる。
【0035】
本発明の別の態様は、本発明の膵臓細胞を医薬として提供することである。より具体的には、本発明は、糖尿病、低血糖症または消化酵素の機能不全に関連する病状の治療用、特にインスリン依存性糖尿病 (TID)に罹患した個体の治療用の医薬を製造するための、本発明の膵臓細胞の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】移植後の感染細胞の発育 膵臓上皮に、pTrip ΔU3.RIP405-eGFP (A)またはpTRIP ΔU3.RIP405-SV40ラージT(B, C)を感染させ、移植し、1ヶ月後 (A, B) または3ヶ月後 (C)に分析した。発育した移植組織を破断線で囲った。移植1ヶ月後に採取した移植物の1μm 切片でのin situ ハイブリダイゼーションによるインスリン検出 (青色) 。移植物に、pTrip ΔU3.RIP405-eGFP (D, E) またはpTRIP ΔU3.RIP405-SV40ラージT(F, G)を感染させた。インスリン (青色) およびBrdU (茶色) に対する二重染色。スケールバー:A-C 2mm; D,F 1mm; E,G 25μm 。
【図2】Scidマウスで発育した移植物の免疫組織化学的分析 A-1 は移植物の切片を表し、J-L は腎臓の切片を表す。 A-C :インスリン (赤色) およびSV40ラージT (緑色) に対する二重染色; D-F:インスリン (赤色) およびPdx1 (緑色) に対する二重染色; G-I:インスリン (赤色) およびBrdU (緑色) に対する二重染色;スケールバー:25μm 。
【図3】インスリン、SV40LTおよびPdx1を共発現し増殖するRYAS 41 細胞株の樹立 A:RYAS41細胞株を誘導するのに用いる培養操作の概略図を示す。Pは継代数を示す。培養ウェルの表面を時間の軸の下に示す。 B:パネル上段:インスリン (赤色) およびSV40ラージT (緑色) の共発現;パネル中段:インスリン (赤色) およびPdx1 (緑色) の共発現;パネル下段:パルス2時間後にインスリン陽性細胞 (赤色) がBrdU (緑色) を取り込む。スケールバー:25μm 。
【図4】SV40LTによるヒト胎児膵臓感染後に増殖性β細胞が観察される 移植およびpTrip ΔU3.RIP SV40 LTレンチウイルスベクターによる感染6ヶ月後の移植物の切片。SV40 LT およびインスリンを発現する大きい膵島様の構造が移植物 (A-C)で観察され、Ki67を発現する増殖性β細胞を含んでいた (D)。移植物中のより小さい膵島様の構造 (E-H)はインスリンを発現し (E, G) 、SV40 LT (G) およびKi67 (H)についての染色は陰性であった。
【図5】移植10〜12ヶ月後にインスリノーマ様領域が移植物に見られる SV40 LT 発現レンチウイルスベクターを感染させた3つの独立した移植物の写真。移植10カ月後 (HYAS 170, HYAS 171) または12カ月後 (HYAS 172) に移植物を取り出した。点線は移植物の高度に血管化した領域に合わせている。この領域を切断し、インスリン (赤色) およびKi67 (緑色) の二重の免疫蛍光検出により分析した。
【図6】hTERT 発現レンチウイルスベクターに再感染させた継代移植組織は増殖する均質なインスリン発現細胞からなる hTERT を発現するレンチウイルスベクターに再感染させた2種類の継代移植組織の例。cHYAS 189 およびcHYAS 211 を継代移植6カ月後で取り出した。これらの移植物の切片は均質なインスリン発現 (赤色) およびKi67発現 (緑色) で観察されるように活発な増殖を示す。
【図7】β細胞株は増殖し、培養中にインスリンおよびpdx1を発現する インスリン (赤色) と、Ki67増殖マーカー (パネル上段緑色) またはpdx1 (パネル下段緑色) のいずれかについての培養ウェル中の同時免疫染色。スケールバー:50μm 。
【図8】誘導されたヒトβ細胞株すべての系譜 3つの異なるヒト胎児膵臓A=H226; B=H224; C=H261から11の独立したヒトβ細胞株を誘導した (赤のボックス) 。連続継代移植物全部の系譜をまとめている。
【図9】6つの独立したヒトβ細胞株におけるインスリン、IAPPおよびpdx1の比較発現 細胞株を誘導するのに用いた3つの初期ヒト胎児膵臓を代表する6つの独立したヒトβ細胞株におけるインスリン (A)、IAPP (B)およびpdx1 (C)の発現を比較するために定量的RT-PCRを行った。値はヒト成人膵島に比べた倍率で示す。
【図10】移植されたRYAS41細胞は糖尿病マウスにおいて正常血糖を回復しうる scidマウスにストレプトゾトシンを注射した。注射の2日後マウスは血糖が上昇し、インスリンカプセルを皮下に埋め込んだ。STZ 注射16日後、106 のRYAS41細胞を腎臓被膜下に移植した。インスリンの埋め込みがもはや影響がなくなると、移植したマウスの血糖は安定なままであり、一方、移植していないマウスは明瞭な高血糖を示すことが観察された。移植物を66日目での腎摘出により除去すると、血糖は急激に上昇した。 値は平均値 (n=14または7)+/-S.E.M.
【図11】移植されたH357ヒトβ細胞株細胞は糖尿病マウスにおいて正常血糖を回復しうる scidマウスにストレプトゾトシンを注射した。注射の2日後マウスは血糖が上昇し、インスリンカプセルを皮下に埋め込んだ。STZ 注射22日後、106 のH357ヒトβ細胞株を腎臓被膜下に移植した。インスリンの埋め込みがもはや影響がなくなると、移植したマウスの血糖は安定なままであり、一方移植していないマウスは明瞭な高血糖を示すことが観察された。B:移植したマウスの1匹において移植物を49日目での腎摘出により除去すると、血糖は急激に上昇した。 値は平均値 (移植マウスについてはn=10、対照についてはn=4)+/-S.E.M.
【図12】ブドウ糖負荷試験 16時間絶食させた糖尿病の移植マウスにグルコースを注射し (2mg/体重g) 、2時間にわたり血糖を監視した。値は平均値 (n=3)+/-S.E.M.
【図13】糖尿病患者の血清中に存在する自己抗体の検出のためにscidマウスで発生させた腫瘍組織が使用できる A:H212ヒト移植物の凍結非固定切片は、間接免疫蛍光により、糖尿病患者 (左のパネル) の血清中に存在する自己抗体を対照血清 (右パネル) と比較して検出できる。 B:糖尿病患者の血清ではH301タンパク質抽出物のウエスタンブロット上で特異的タンパク質が可視化でき、一方対照血清では特異的タンパク質は何ら検出されない。 GAD (65kDa) およびIA2 (37kDa) に相当する分子量をもつ特異的バンドを矢で示す。 C:移植物H301からのタンパク質抽出物で調製したELISA 試験は糖尿病患者からの26の血清のうち25の血清での効率的検出を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0037】
全般的材料および方法
(DNA 作製物および組換えレンチウイルス産物)
レンチウイルス作製物のバックボーン、pTRIP は既に報告されている (Zennou et al.,2000) 。レンチウイルスベクターpTRIP ΔU3.RIP405-eGFPはラットインスリンII遺伝子プロモーター (RIP)の制御下でeGFPを発現する (Castaing et al.,2005b)。インスリンプロモーターの制御下でSV40ラージT抗原またはネオマイシン耐性遺伝子をそれぞれ発現させるために、新規なレンチウイルスベクターpTRIP ΔU3.RIP405-ラージTおよびpTRIP ΔU3.RIP405-NEO を作製した。まず、pTRIP ΔU3.RIP405-eGFPからeGFPカセットを、BamHI およびKpnI切断により除去した。BamHI およびKpnI付着末端を有するリンカー、GATCGCCCCGGGCGGGATCCGGTAC を、線状化したプラスミドに連結して、インスリンプロモーターの下流に5'から3'の方向にSmaI、BamHI およびKpnIユニーククローニング部位を有するpTRIP ΔU3.RIP405-リンカーを生じさせた。SV40ラージT抗原の全コード領域を含むBamHI 挿入物 (B.Thorens より供与) をBamHI 線状化pTRIP ΔU3.RIP405-リンカーに連結した。ネオマイシン耐性遺伝子の完全なコード領域を、以下のプライマーを用いてPCRによりpcDNA 3 プラスミド (Invitrogen) から増幅した:BamHI-Neo センス:5'gaggaggatccCGCATGATTGAACAAGATGG 3'およびKpnI-Neoアンチセンス:5'cccaaggtaccCGCTCAGAAGAACTCGTCAAG 3' 。得られたPCR産物をBamHI およびKpnIの両者で消化し、BamHI,KpnI線状化pTRIP ΔU3.RIP405-リンカーに連結した。PCR誘発突然変異を排除するために、ネオマイシン耐性コード領域の全体を配列決定した。ラットインスリンプロモーター (RIP)の制御下にヒトテロメラーゼ逆転写酵素 (hTERT)を発現する新規なレンチウイルスベクターpTRIP ΔU3.RIP405 hTERT を作製した。まず、RIP 405 bp断片を、pTRIP ΔU3.RIP405-eGFPのMluI BamHI消化により精製し、MluI、 BamHIおよびXbaIポリリンカーを含むからのpTrip ベクターに挿入した。得られたベクターをXbaIで線状化し、先にSIN-PGK hTERT ベクター (B.Thorens より供与) の消化により精製しておいた完全hTERT コード配列を含む3497 bp XbaI断片をクローニングするのに用いた。VSV 糖蛋白質-Ga をコードするp8.7 encapsidation (キャプシドに包まれた) プラスミド (ΔVpr ΔVif ΔVpu ΔNef)(Zufferey et al., 1997) 、pHCMV-G および既報のpTRIP ΔU3組換えベクター (Zennou et al., 2000)での293T細胞の一過性トランスフェクションによりレンチウイルスベクターのストックを製造した。上清を、超遠心分離の前にDNAae I (Roche Diagnostic)で処理し、得られたペレットをPBS に再懸濁し、等分し、使用まで-80 ℃で凍結した。p24 キャプシド蛋白質の量をHIV-1 p24 ELISA 抗原アッセイ (Bechman Coulter)により測定した。全感染をp24 キャプシド蛋白質定量に対して正規化した。
【0038】
(ラット膵臓原基の調製)
妊娠したWistarラットをJanvier (CERJ, Le Genest, フランス) から得た。動物の取り扱いはすべてFrench Animal Care Committeeの指針に従って行った。交尾後の翌朝を胎児日数 (embryonic day) 0.5 (E0.5) とした。妊娠期間E13.5 日における妊娠雌ラットを頸部脱臼により致死させた。
【0039】
E13.5 において胚を採取し、切開した。背側膵芽を既報 (Duvillie et al., 2003; Miralles et al., 1998) のようにして切開した。簡単に述べると、胃、膵臓および小腸を一緒に切開し;次いで以下のようにして間葉を膵臓上皮から分離した:消化領域を0.5 mg/mLのコラゲナーゼA (Roche 、フランス) と共に37℃で30分間インキュベーションし、次いでハンクス液 (HBSS, Invitrogen、フランス) で4℃において数回洗浄し、上皮をシャーレ中の0.25%寒天、25%HBSS、75%RPMI (Gibco)ゲル上で針を用いて周囲の間葉から機械的に分離した。
【0040】
(ヒト膵臓原基の調製)
ヒト膵臓を、フランスの法律および我々の機関の指針に従って、発生8〜10週での吸引による妊娠の選択的中絶後直ちに得た胎児組織断片から抽出した。温虚血は30分未満続いた。妊娠期間は、最終月経時からの期間、超音波検査により測定した頭殿長および手と足の形態をもとに決定した。
【0041】
ヒト胎児膵臓をRPMI (Gibco)中0.5 mg/mLのコラゲナーゼA (Roche)で37℃において処理した。処理時間は胎児の年齢による:8週齢の膵臓では15分、12週齢の膵臓では25分。次いで組織を氷冷1×HBSS (Gibco)中で数回洗浄し、次いでRPMI中に調製した0.4 %寒天を含むシャーレ上に移した。膵臓の頂部および尾部を30ゲージの針で分離し、間葉細胞を部分的に除去して、周囲の間葉から部分的に除去された (depleted) ヒト膵臓上皮を生じさせた。
【0042】
(ラット未熟膵臓の感染)
組換えレンチウイルスをラット未熟膵臓上皮に感染させるために使用した。pTrip ΔU3.RIP405-eGFPまたはpTRIP ΔU3.RIP405-ラージTのいずれかのp24 1μgを、10%熱不活性化ウシ胎仔血清含有HEPES (10mM)、L-グルタミン (2mM) 、非必須アミノ酸 (Invitrogen) およびペニシリン (100 ユニット/mL) −ストレプトマイシン (100 μg/mL) を加えた最終量45μL のRPMI 1640 培地中でプレインキュベーションを行った。ウイルス感染効率を上げるために、培地にDEAE- デキストランを最終濃度20μg/mLとなるように加えた。37℃で15分間プレインキュベーションした後、ウイルス溶液を10の膵臓上皮を含むヘペス緩衝化食塩水 (HBSS, Invitrogen) に加えた。感染2時間後、組織を培地中で2回洗浄し、既報 (Miralles et al., 1998)のようにして3次元コラーゲンゲル中で一晩増殖させた。次の日に上皮をコラーゲンマトリックスから除き、既報 (Castaing et al., 2005b) のようにして重症複合免疫不全 (scid) マウスに移植するのに用いた。
【0043】
(ヒト未熟膵臓の感染)
部分的に除去された(depleted)ヒト膵臓に、37℃において1時間、最小容積200 μL で、p24 蛋白質2μgに対応する量のウイルスを感染させた。感染培地の組成は次の通りである:10%熱不活性化ウシ胎仔血清 (FCS)、非必須アミノ酸 (Gibco)、1%P/S (Gibco) 、および10μg/mLのDEAEデキストランを加えたRPMI 1640 培地 (Gibco)。感染培地を、膵臓外植体に加える前にウイルスと共に37℃で15分間プレインキュベーションする。感染の最後に、無ウイルス培地 800μL を外植体に加え、一晩37℃で静置する。次の日、外植体をscidマウスの腎臓被膜下に移植する (Castaing et al., 2005b; Castaing et al., 2001)。
【0044】
(感染組織の移植)
雄のscidマウス (Charles River Laboratories, L'arbresle, フランス) をアイソレーターに入れた。
【0045】
解剖顕微鏡を用いて、10の感染ラット膵臓上皮または部分的除去ヒト膵臓を、以下の変更を加えて既報 (Castaing et al., 2005b; Castaing et al., 2001)のようにして腎臓被膜下に移植した。左の腎臓を外に出した;腎下極近くの腎臓の腹側の表面上で被膜を通して小さく横に切開した。小さいシリコンの筒を被膜下に押し込み、移植細胞および組織を閉じ込めるための密封空間をつくった (Thomas et al., 1997)。次いで、ピンセット及び/又はハミルトン注射器を用いて筒中に組織を導入した。移植後の種々の時点でマウスを致死させ、腎臓を取り出し、移植物を切断した。組織は各種の目的に使用された:(i) 固定して、免疫組織化学的分析のため、またはin situ ハイブリダイゼーションのために使用;(ii)解離させ、β細胞株の樹立または新しいscidマウスへの継代移植のために用いる。数匹のマウスを細胞増殖分析のために、致死させる2時間前にBrdU (Sigma-Aldrich)でパルスした。
【0046】
(ラットに移植された組織の移植物解離)
移植3カ月後にscidマウスを頸部脱臼により致死させ、移植物を滅菌室に入れ、秤量した。次いで移植物を50mgの切片に切断した。マイクロシザーを用いて、組織の各切片を独立に可能な限り細かく切断し、37℃で20分間、HBSS 500μL 中の200 ユニットのIV型コラゲナーゼ (Worthington)で処理した。次いで消化した組織を集め、2000rpm で10分間遠心分離した。得られたペレットを、DMEM (Invitrogen) 、15%熱不活性化ウシ胎仔血清、0.5 % 2- メルカプトエタノール (Merck)およびペニシリン (100 ユニット/mL) −ストレプトマイシン (100 μg/mL) を含む培地に再懸濁した。21、22、25、27および30ゲージの針を連続的に通過させることにより1mL注射器中で機械的に解離させた。解離した細胞を2000rpm で10分間遠心分離した。次いで細胞ペレットを最初の組織50mgにつき300 μL 量の培地中に再懸濁した。
【0047】
(ラットβ細胞株の樹立)
次に、解離させた細胞懸濁液300 μL を、細胞播種の前日に調製したポリ-L- リシン/ラミニン被覆した1.5cm2培養ウェルに播種した。簡単に述べると、培養皿を滅菌水中で調製した100 μg/mLポリ-L- リシン (Sigma)溶液で被覆し、3時間静置した。次いで、この溶液を、RPMI (Invitrogen) 培地中に調製した10μg/mLラミニン (Sigma)溶液で置換し、一晩静置した。次いでラミニンを細胞播種の直前に除去した。細胞破砕物のほとんどを捨てるために、懸濁液を37℃で15分間ウェル中に静置した。非沈降細胞および細胞破砕物を含む培地を次いで除去し、新たな被覆ウェルに播種し、新鮮培地を最初のウェルに加えた。
【0048】
細胞選択およびβ細胞株の樹立のために、培養24時間後、DEAEデキストラン10μg/mLを加えた培地200 μL 中のpTRIP ΔU3.RIP405-NEO のp24 ギャプシド蛋白質60ngを1.5cm2ウェル中で細胞に感染させる。37℃での1時間感染の後、培地を1mLの新鮮培地で置換した。感染2週間後に、G418 (Sigma)を最終濃度1mg/mLとなるように培地中に添加した。処理の最初の2週間は、G418含有培地を毎日取り替えた。次の週の間は、繊維芽細胞型の形態をもつ細胞の消失まで、培地を週に1回取り替えた。細胞継代のために、培地を除去し、付着した細胞を1×PBS (Invitrogen)で2回洗浄した。適宜量のTrypsin EDTA溶液 (Eurobio)を培養平板の表面に添加し、37℃で5分間静置した。新鮮培地を添加し、細胞を機械的に再懸濁した。最初の10回の継代については、2倍希釈を行うために等しいかまたは2倍の表面の被覆ウェル中に細胞を播種した。細胞コンフルンスが観察された時に継代を行った。継代11代目からは、細胞株を増殖させるために毎週2/5 希釈を行った。
【0049】
(ヒトβ細胞株の樹立)
培養での増殖が可能で、SV40ラージT、hTERT およびネオマイシン耐性遺伝子がゲノムに組み込まれたβ細胞を得るために、4つの異なる方法を用いた (図8) 。
【0050】
(ヒト移植組織の移植物解離)
増殖性β細胞集団に対応する移植物の高度血管化領域を微細切断した。この集団を2段階方法においてさらに解離させた:まず、化学的についで機械的に。化学的解離の前に各集団を20〜30mgの切片に分割し、各切片を、37℃で30分間HBSS (Gibco)500 μL 中のコラゲナーゼIV型 (Worthington)200 ユニットで処理する前にメスを用いて切断した。次いで消化物を4000rpm で15分間遠心分離し、細胞を100 %熱不活性化FCS 中に再懸濁した。機械的解離は、小さい集団または個々の細胞のみが得られるまで0.8 〜0.4mm 直径の針に数回、細胞懸濁液を通すことからなった。次いで細胞を4000rpm で15分間遠心分離し、熱不活性化FCS 中に再懸濁し計測した。
【0051】
(培養または継代移植前の細胞感染)
外植体に感染させるために、既報の操作を用いて細胞を懸濁液中で感染させた。感染後、細胞を4000rpm で15分間遠心分離し、次いで適宜培地で洗浄し、被覆シャーレ中に播種した。継代移植のために、遠心分離工程の後、細胞をマトリゲル10μL に再懸濁し、重合のために37℃で15分間小さいシリコンの筒中に入れて、上記のように (Castaing et al., 2005b) してscidマウスに移植した。
【0052】
(ヒト細胞の培養条件)
ヒトβ細胞株を樹立し、次の培地を用いて増殖させた:5.5 mM D- グルコース (Invitrogen) 、2%BSA フラクションV 無脂肪酸 (Roche)、10mMニコチンアミド (Sigma)、50μM 2-メルカプトエタノール (Sigma)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン (P/S) (Invitrogen) 、5.5 μg/mLヒトトランスフェリン (Sigma)および6.7 ng/mL亜セレン酸ナトリウムを含むDMEM。細胞を次のようにして被覆した培養平板上で増殖させた。Engelbreth-Holm-Swarm マウス肉腫からのマトリゲルをDMEN中で1/100 に希釈し、2.5 μg/mLのフィブロネクチン (Sigma)および1%P/S を加えた。この被覆用溶液を培養平板の上に加え、5%CO2 飽和雰囲気中37℃で1時間インキュベーションする。次いで、被覆用培地を除去し、細胞を直接播種する。細胞を37℃で5分間トリプシンEDTA (Sigma)に通す。
【0053】
マトリゲルはEngelbreth-Holm-Swarm (EHS) 肉腫から抽出された可溶化基底膜調製物であり、室温でゲル化し、純粋な再構成された基底膜を形成する。マトリゲルは4℃より低い温度では液体である熱感受性ゲルである。この3-D 環境はin vivo での細胞の天然の周囲環境および微環境を擬する。
【0054】
(ヒトβ細胞株の樹立)
移植物を上記のようにして解離させる。250000細胞/cm2 を被覆平板に播種し、3日後細胞を1/2 希釈で継代培養する。継代2〜9代目の間では細胞を2/3 希釈で、次の6回の継代では3/4 希釈で継代し、最後に細胞を週に1回1/2 希釈で増殖させる。細胞は90%熱不活性化ウシ胎仔血清および10%DMSO中に凍結しうる。
【0055】
(組織学的分析のための組織調製物)
致死の2時間前、移植されたマウスに、0.9 % apyrogen NaCl溶液中に新たに調製した2mg/mL BrdU 溶液0.5mL を腹腔内注射した。リン酸緩衝生理食塩水 (PBS)中に新たに調製した4%パラホルムアルデヒド (PFA)の心臓内灌流により組織固定を行った。次いで、種々の後固定操作を適用した。パラフィン切片上での免疫検定に対しては、灌流組織を水中に調製した3.7 %ホルムアルデヒド中で6〜7時間、後固定し、次いで脱水しパラフィンに包埋した。4μm の切断を行い、インスリン/Pdx1およびインスリン/BrdUの両者について免疫蛍光共検出に用いた。凍結切片については、灌流組織を4%PFA 中で2時間、後固定し、PBS 中に調製した15%ショ糖中で48時間凍結保護した。ついで組織をPBS 中に調製した7%ゼラチン、15%ショ糖に包埋し、イソペンタン中-50 ℃で凍結し、10μm 切断を行った。この組織をインスリン/SV40ラージT抗原の免疫蛍光共検出に用いた。in situ ハイブリダイゼーションについては、24時間の後固定の後、上記のようにして凍結切断を行った。
【0056】
(組織切片での免疫組織化学的操作)
免疫蛍光染色を以下の抗体を用いて既報 (Duvillie et al., Diabetes 2003) のようにして行った:ウサギ抗Pdx1ポリクローナル抗体 (1/1000, (Duvillie et al.,2003)) ;モルモット抗インスリン抗体 (1/400, DakoCytomation, Trapped, フランス) ;ウサギ抗インスリン抗体 (1/200, Diasorin);マウス抗BrdU (1/2, Amersham);マウス抗SV40ラージT (1/50, Calbiochem) およびマウス抗Ki67 (1/400)。蛍光二次抗体は、フルオレセイン抗ウサギ抗体 (1/200, Jackson Immunoresearch Laboratories) ;フルオレセイン抗マウス抗体 (1/200,Immunotech, マルセイユ) およびテキサスレッド抗モルモット抗体 (1/200, Jackson Immunoresearch Laboratories) であった。
【0057】
(RYAS41細胞株での免疫蛍光検出)
12mmのカバーガラス片を1.5cm2培養ウェル中でポリ-L- リシン/ラミニンにより被覆した。1.2 ×105 のRYAS41細胞を播種し、5日間培養した。固定の2時間前に、0.9 %NaCl中に調製した10μM BrdU溶液を培地に添加した。次いで、培地を除去し、細胞を、インスリン/SV40ラージT抗原二重検出に対して10分間、またはインスリン/pdx1およびインスリン/BrdU二重検出に対しては1時間、リン酸緩衝生理食塩水 (PBS)中に新たに調製した4%パラホルムアルデヒド (PFA)中で固定した。免疫蛍光染色は製造者の指示に従って行った。最初の抗血清は、マウス抗SV40ラージT抗原モノクローナル抗体 (1/50, Calbiochem, Merck Biosciences,サンディエゴ、CA) 、モルモット抗インスリンポリクローナル抗体 (1/400, DakoCytomation, Trappes, フランス) 、ウサギ抗Pdx1ポリクローナル抗体。(1/1000, (Duvillie et al.,2003))およびマウス抗BrdU (1/2, Amersham Biosciences, Uppsala, スウェーデン) を含む。蛍光二次抗体は、フルオレセイン抗ウサギ抗体 (1/200, Jackson Immunoresearch Laboratories) ;フルオレセイン抗マウス抗体 (1/200,Immunotech, マルセイユ) およびテキサスレッド抗モルモット抗体 (1/200, Jackson Immunoresearch Laboratories) であった。
【0058】
(BrdU免疫組織化学的検出と組み合わせた低温in situ ハイブリダイゼーション(ISH))
低温in situ ハイブリダイゼーションを既報 (Castaing et al., 2001)のようにして行った。プロインスリン・プローブを既報 (Basmaciogullari et al.,2000)のようにして作製した。プラスミドを線状化し、ジゴキシゲニン-UTP (digoxygenin-UTP)(Roche diagnostic)の存在下で、T3 RNAポリメラーゼ (Promega)によるアンチセンス・リボプローブの合成のための鋳型として用いた。比色による表示を、ジゴキシゲニン-UTPに対して5-ブロモ-4- クロロ-3- インドリルホスフェート (Promega)およびニトロブルーテトラゾリン (Promega)を用いて行った。in situ ハイブリダイゼーション後、BrdUの導入を免疫組織化学的分析により可視化した。切片を室温において45分間、0.25%ゼラチン (PGT)および0.1 %Triton X-100を加えたPBS 中の2N HCl で処理し、次いで1%Triton X-100を加えたPGT 中に希釈した抗BrdU抗体 (1:500; Becton Dickinson)と共にインキュベーションした。二次抗体 (ビオチニル化抗マウス免疫グロブリンG; 1:200; Vector) を切片に適用し、ストレプトアビジン−ビオチン−HRP 複合体 (vector) での増幅の後に、過酸化水素 (DAB revelation kit; Vector) の存在下でジアミノベンジジンを用いることによって検出した。
【0059】
(デジタル写真)
写真を、蛍光顕微鏡 (Leica; Leitz, Rockleigh, NJ)を用い、冷却したthree-chip charge coupled-device camera (Hmamatsu C5810; Hamamatsu, Middlesx, NJ) を用いてデジタル化するか、あるいはAxioskop顕微鏡 (Zeiss)およびcolor vision degital camera (Donpisha)を用いて撮影した。
【0060】
(RNA 分離、逆転写およびリアルタイム PCR)
全 RNAを、Quiagen RNeasy microkit (Quiagen) を用いてE17 ラットの膵臓、肺およびRyas 41 から分離した。cDNAをSuperscript (Invitrogen)を用いて調製し、assay-on demand kit およびABI Prism 7300 sequence detector (両者ともApplied Biosystems, フォスター市、Ca) を用いて、製造者の指示に従って定量的リアルタイムRT-PCRを行った。
【0061】
(糖尿病マウスへのRYAS41およびH537の移植)
RYAS41ラット細胞株およびH537ヒト細胞株の糖尿病マウスの血糖を調節する能力を測定するために、scidマウスにクエン酸塩緩衝液中に新たに調製したストレプトゾトシン (STZ; 250 mg/体重kg; Sigma-Aldrich)を注射した。ストレプトゾトシンはβ細胞を破壊することが知られている。グルコース濃度を、携帯用グルコースメーター (GlucoMen,A. Menarini diagnostics, フィレンツェ, イタリア) を用いて、尾静脈から採取した血液において測定した。STZ 注射の2日後、4g/l より高い血中グルコース濃度を有するマウスに、RYAS41移植の前に血糖を正常化するために、3週間持続するインスリンカプセル (Sustained Release Insulin Implants; LinShin, Scarborough, カナダ) を皮下に埋め込んだ。STZ 処置の16日後か、あるいはSTZ 処置の22日後に、以下の操作を用いて106 個のRYAS41細胞および106 個のH537細胞をそれぞれ処置マウスに移植した。簡単に述べると、細胞を採取し、4℃で10分間遠心分離した。次に、細胞ペレットを12μL の氷冷マトリゲル(BD Bioscience) 中に再懸濁し、滴量 (drop) をシリコンの筒に入れ、37℃で静置して重合させた。次いで、細胞を含む筒をSTZ 処置マウスの腎臓被膜下に入れた。宿主マウスにおける血糖値の正常化に対するRYAS41およびH537移植物の寄与を確認するために、実験の最後に片側腎摘出により移植物を除去した。
【0062】
(ブドウ糖負荷試験)
16時間の絶食の後、基準血糖値(g/L) をOne Touch Ultra glucose meter およびOne Touch test strips (Life Scan Johnson and Johnson) を用いてマウスからの尾静脈血において測定した。滅菌NaCl 0.9%中のグルコース (2mgデキストロース/体重g) を腹腔内に注射し、血糖値を注射の15、30、60および120 分後に測定した。
【0063】
(間接免疫蛍光による自己抗体の検出)
H212移植物を液体窒素中で凍結し、4μm 切断を行い、10個のウェルテフロンスライド (Menzel GmbH)上に置いた。糖尿病患者および対照からの系列希釈 (1/2 〜1/100)を0.5 % BSA を含有するPBS 1X中の組織切片上で室温において25分間インキュベーションした。次いでスライドを0.5 % BSA を含有するPBS 1X中で10分間3回洗浄し、次にFITC結合ウサギ抗ヒトIgG (1/100, DAKO) と共にインキュベーションした。3回洗浄後、スライドをfluoromount (DAKO)に載せ、蛍光顕微鏡 (Leica)で観察する。
【0064】
このように、1具体的態様では、本発明は、患者および対照からの血清を請求項8〜10のいずれかに記載のβ細胞腫瘍の組織切片に加え、そして蛍光標識結合抗ヒトIgG などの標識抗ヒトIgG と共にインキュベーションして、該患者の血清中に糖尿病に関連する自己抗体が存在するか否かを明らかにすることを含む、糖尿病のin vitro診断法に関し、ここで自己抗体の存在は糖尿病の指標となる。
【0065】
(ウエスタンブロットによる自己抗体の検出)
H301移植物から蛋白質抽出物を調製した。簡単に述べると、H410移植物を、氷冷Tris 20mM pH8.0, NaCl 20mM, triton X-100 0.1%中でfast prep bio 101 ホモジナイザー (Biorad) を用いて40秒サイクル2回で均質化した。懸濁液を15000 g、30分間の遠心分離により清澄化した。蛋白質の量をBradford法 (Bioead) で測定した。蛋白質抽出物20μgを10%ポリアクリルアミド SDS PAGE 上で分離し、次いでニトロセルロース膜 (Amsersham)に移した。得られたブロットを、0.1 %Tween 20および5%低脂肪乳を含むPBS 1X中で1時間飽和させた。次いで、対照および糖尿病患者からの血清の1/50希釈を飽和溶液中のブロットと共に4℃で一晩インキュベーションし、PBS-Tween 中で2回洗浄した。ブロットをHRP 結合抗ヒトIgG (1/10000) と共に2時間インキュベーションし、ECL 染色を製造者の指示に従って行った。
【0066】
従って、この態様では、本発明は、請求項8〜10のいずれかに記載のヒト膵臓β細胞の蛋白質抽出物のウェスタンブロットを患者の血清と共にインキュベーションすることを含む糖尿病のin vitro診断法に関し、ここで該患者の血清中に糖尿病に関連する自己抗体が存在するか否かが、HRP 結合抗ヒトIgG などの標識抗ヒトIgG によって明らかにされ、ここで自己抗体の存在は糖尿病の指標となる。
【0067】
(ELISA による自己抗体の検出)
PBS 1X中1.5 μg/mLに希釈されたヒトH301蛋白質抽出物 (上記のようにして調製) で、96ウエルプレート (平底) を4℃において一晩被覆する。ウエルを5%低脂肪乳を含むPBS 1Xで2時間飽和させた。対照および糖尿病患者からの血清の系列希釈をウエルにおいて4℃で一晩、飽和溶液中でインキュベーションする。ウエルをPBS 1X中で3回洗浄し、次いでHRP 結合抗ヒトIgG の希釈物 (1/5000) と共に室温で1.5 時間インキュベーションする。PBS 1X中でさらに2回洗浄した後、室温において1.5 時間の間TMB 緩衝液 (Sigma)中で比色反応を開始させ、次いで色の濃さを450nm においてマイクロプレート分光光度計で測定する。
【0068】
従って、この態様では、本発明は、ウエルプレートを請求項8〜10のいずれかに記載のヒト膵臓β細胞の蛋白質抽出物で被覆し、患者および対照の血清と共にインキュベーションするELISA 試験を含む糖尿病のin vitro診断法に関し、ここで該患者の血清中に糖尿病に関連する自己抗体が存在するか否かが、HRP 結合抗ヒトIgG などの標識抗ヒトIgG によって明らかにされ、ここで自己抗体の存在は糖尿病の指標となる。
【実施例1】
【0069】
インスリンプロモーターの制御下でSV40ラージT抗原を発現する組換えレンチウイルスを形質導入したラット未熟膵臓からの腫瘍形成
我々は先に、インスリンプロモーターの制御下でeGFPを発現する組換えレンチウイルスによる膵前駆細胞(pancreatic progenitor) の形質導入によって、成熟インスリン産生細胞を安定に改変させることができることを実証した(Castaing et al., 2005b)。本研究において、我々は、かかる手法が、インスリンプロモーターの制御下でSV40ラージT抗原を発現する組換えレンチウイルスによる膵前駆細胞の形質導入によってラットまたはヒトβ細胞株を作製するのに使用できるか否かを問うた。まず、β細胞におけるSV40ラージT抗原発現を制限するように設計されたレンチウイルスベクターを構築した。インスリンプロモーターの405 bp断片の制御下にSV40ラージT抗原(pTRIPΔU3.RIP405-SV40ラージT) またはeGFP(pTRIPΔU3.RIP405-eGFP) のいずれかを発現する水疱性口内炎ウイルス(VSV)G- 糖タンパク質によりシュードタイプ化した組換えレンチウイルスベクター(pTRIPΔU3) を作製した。
【0070】
これらのウイルスを用いて未熟E13 ラット未熟膵臓を感染させ、この膵臓を次いで免疫不全Scidマウスの腎嚢(kidney capsule)下に移植した。移植から1カ月後、移植された組織を取り出し、それらの発達を分析した。移植1カ月後に、移植組織のサイズは、eGFPを発現するウイルスによる感染に比べて、SV40ラージT抗原を発現するウイルスで組織を感染させた場合の方が大きくなっていた (図1 、パネルA とB を比較) 。SV40ラージT抗原を発現するウイルスを感染させた膵臓を移植から3カ月後に取り出すと、組織のサイズはより一層大きかった (図1C) 。SV40ラージT抗原またはeGFPのいずれかを発現するウイルスを感染させた膵臓を次いで薄く切断し、インスリン発現についてin situ ハイブリダイゼーションにより分析した。インスリンを発現する細胞は、eGFPを発現するウイルスを感染させた膵臓ではいくつかが検出されたが、その数は、SV40ラージT抗原を発現するウイルスを感染させた膵臓では非常に増えた (図1 、パネルD とF を比較) 。次にインスリン発現性細胞の増殖について分析した。eGFPを発現するウイルスを感染させた膵臓から発生させたインスリン発現性細胞は、BrdU取り込みにより測定して、ほとんど増殖しなかったのに対し、SV40ラージT抗原を発現するウイルスを感染させた膵臓から発生させたインスリン発現性細胞では多数の細胞がBrdUを取り込んでいた (図1 、パネルE とG を比較) 。次に、SV40ラージT抗原を発現するウイルスを感染させた膵臓から得られたインスリン発現について、タンパク質レベルで分析した。予想通り、インスリン陽性細胞はSV40ラージT抗原を発現した (図2 、パネルA 〜C)。それらの細胞はまた、β細胞発生および機能にとって非常に重要な転写因子であるPdx1(Edlund, 1998)を発現し (図2 、パネルD 〜F)、BrdUを取り込む (図2 、パネルG 〜I)。結論として、SV40ラージT抗原を発現するウイルスを感染させたラット未熟膵臓の感染により、増殖性β細胞を発生させることができる。
【実施例2】
【0071】
ラット膵β細胞株の樹立
膵β細胞株を樹立するために、移植片を取り出し、解離させ、インスリンプロモーターの制御下でネオマイシン耐性遺伝子を発現するウイルスでさらに感染させた。これによって、G418の存在下での培養によりインスリン転写細胞のさらなる選択が可能となった。このプロトコルは図3Aに詳述されている。この手法を用いて、異なる種々の細胞株を樹立させ、その中の1つRYAS41をさらに分析した。図3Bに示すように、RYAS41細胞は、インスリンおよびSV40ラージT抗原を発現した。それらはまた、核転写因子Pdx1も発現し、BrdUを取り込むそれらの能力に基づいて増殖する。我々は次いでRYAS41細胞の分化の段階を分析した。この目的で、RYAS41細胞とE17 の膵臓もしくは肺との比較を行った。まず、Ngn3およびPax4の2種類の転写因子の発現を分析したが、それらは膵前駆細胞では発現されたが(Apelqvist et al., 1999; Sosa-Pineda et al., 1997)、成熟β細胞では不存在であるか(Apelqvist et al., 1999)または非常に低濃度で発現された(Brun et al., 2004) 。表1 に示すように、RYAS41細胞はNgn3を発現せず、Pax4を極めて低濃度で発現した。
表1:E17 膵臓および肺と比較したRYAS41における遺伝子発現
CT(閾値サイクル) 値はシクロフィリンに対して正規化し、試験した遺伝子の全てを発現するE17 ラット膵臓と比べた増加倍率で示す。
【0072】
【表1】

【0073】
我々はまた、成熟膵β細胞では発現される3種類の他の転写因子、Pdx1, NeuroD1 およびNkx6.1の発現を分析した。これらの転写因子は、E17 膵臓に比べると、RYAS41では高レベルで発現された。次に、それぞれ腺房細胞およびα細胞のマーカーであるアミラーゼおよびグルカゴンの発現を分析した。RYAS41からのアミラーゼ発現は不存在であったが、グルカゴンは低レベルでの発現が検出された。最後に、β細胞機能にとって重要な次の6種類の遺伝子の発現を分析した:プロインスリンからインスリンおよびCペプチドへのプロセシングに関与するPcsk1 およびPcsk2;スルホニル尿素受容体をコードするAbcc8;シナプトソーム結合タンパク質25 kDaであるSnap25; Rab ファミリーの一員であるRab3A スモールG タンパク質; およびグルコキナーゼ(GK)。E17 ラット膵臓と比べて、全ての遺伝子が極めて高レベルで発現された。最後に、インスリンもE17 膵臓に比べてRYAS41細胞では高濃度化されていた。
【実施例3】
【0074】
インスリンプロモーターの制御下で種々の導入遺伝子を発現する組換えレンチウイルスが形質導入されたヒト膵臓からの腫瘍形成
我々は、インスリンプロモーターの制御下でSV40ラージT抗原を発現する組換えレンチウイルスをヒト胎児膵臓に感染させた。この組織を次いで免疫不全Scidマウスの腎嚢下に移植した。移植から4〜6カ月後に移植組織を取り出し、それらの発達を分析した。この目的で、組織を薄く切断し、免疫組織化学により分析した。非感染膵臓について既に示されているように(Castaing et al., 2001) 、感染膵臓からインスリン陽性細胞が発生し、膵島様(islet-like)構造物を形成していた (図4A, E)。これらの組織では、2種類の膵島様構造物を見ることができた。一部の膵島はSV40ラージT抗原を発現する細胞を含んでおり、別の膵島はこのマーカーに対して陰性の染色結果を与えた (図4B, F)。興味深いことに、SV40ラージT抗原の発現は感染ヒト膵臓のインスリン陽性細胞だけにもっぱら認められ、SV40ラージT抗原の発現を制御するのに用いられたラット・インスリンプロモーターの特異性がさらに実証された (図4B, C)。最後に、感染組織から発生したSV40ラージT抗原を発現する膵島様構造物のサイズは、非感染組織から発生したものより大きいことも我々は認めた。これは、SV40ラージT抗原を発現するβ細胞と、しない細胞の増殖状態に相関していた。具体的には、SV40ラージT抗原陰性β細胞はKi67に対して陰性染色であったが、SV40ラージT抗原陽性β細胞はKi67に対して陽性染色であった (図4D, H)。
【0075】
総合すると、これらの結果は、インスリンプロモーターの制御下でSV40ラージT抗原を発現するレンチウイルスをヒト胎児膵臓に感染させることにより、増殖性ヒトβ細胞を発生させることができることを示している。
【0076】
前記時点( 移植から4〜6カ月後) では、ラット未熟膵臓に同じウイルスを感染させた場合は移植3カ月後に見られたような、インスリノーマの形成は全く認められなかった。また、この感染細胞を解離して培養したが、細胞株を発生させることはできなかった。
【0077】
しかし、移植から10〜12カ月の間に、マウスの血糖が急速に低下し始めた。移植片を取り出したところ、主に増殖性β細胞からなる高度に血管化された領域が認められた (図5)。これらの構造物は、感染ラット組織をScidマウスに移植した場合に見られたインスリノーマ様領域に似ていた。次いで、これらのインスリノーマ様構造物を切り出し、解離させ、インスリンプロモーターの制御下でネオマイシン耐性遺伝子を発現するウイルスによりさらに感染させ、ラットβ細胞株を発生させるのに用いたのと同一の条件で培養した。このような条件下では、ヒトβ細胞株を発生させることはできなかった。別に、この細胞に、やはりラットβ細胞株の発生に用いたのと同一の条件を使用して、インスリンプロモーターの制御下でhTert を発現するウイルスを直接感染させたが、ヒトβ細胞株を発生させることはできなかった。細胞のin vitro感染に用いたプロトコルが細胞生存にとって有害であったという作業仮説になった。従って、我々はβ細胞腫瘍への遺伝子導入に対する新たな戦略を作成した。
【実施例4】
【0078】
β細胞腫瘍を発生させるためのヒト胎児膵臓の継代移植
我々はまず、インスリンプロモーターの制御下でSV40ラージT抗原を発現するレンチウイルスをヒト胎児膵臓に感染させた。10〜12カ月後、インスリノーマ様構造物を発生した膵臓にミクロ切片を切り取り、解離し、インスリンプロモーターの制御下でhTert を発現するレンチウイルスを感染させ、これを新たなscidマウスに継代移植(sub-transplant)した。このような条件下で、さらに6カ月後に、インスリノーマ様構造物が発生したことを我々は見出した。興味深いことに、このような条件下では、移植片全体が増殖性のインスリン陽性細胞を含んでいた( 図5)。カルボキシペプチダーゼA に対して陽性に染まる腺房細胞はこのような継代移植片(sub-grafts)では検出されなかった。総合すると、このことは、この継代移植片手法を用いて継代的に膵組織を感染させることができることを示す。さらに、この手法は、組織をβ細胞で富化し、β細胞の均質集団を作製するのに極めて有用である。最後に、この手法はScidマウス中にヒトを維持する方法となる。
【0079】
さらに、ヒト胎児膵臓にSV40ラージT抗原およびhTERT の両方のレンチウイルスベクターを同時に感染させると、単独感染に比べて、インスリノーマ様構造物はより速く5〜6カ月で発生した。従って、共感染およびインスリノーマ様構造物の形成後に、移植片にインスリンプロモーターの制御下でネオマイシン耐性遺伝子を発現するレンチウイルスベクターを再感染させ、次にこれを新たなscidマウスに継代移植した。このような条件下で、移植された組織は2〜4カ月以内にβ細胞腫瘍を形成した。これらの移植片由来の細胞はSV40ラージT、hTERT およびネオマイシン耐性導入遺伝子を含んでいた。
【実施例5】
【0080】
ヒト膵β細胞株の樹立
ヒト膵β細胞株を樹立するために、3種類の導入遺伝子SV40ラージT抗原およびhTERT のいずれかを含有する継代移植片を取り出し、解離させた。RYAS41ラット細胞株を誘導するのに用いたプロトコルとは異なり、均質インスリン発現性細胞集団を増幅させるにはG418選択が必要ないことを我々は見出した。均質細胞を増殖させるには継代移植法による増幅で十分であると思われ、混入が稀な(rare contaminating)非β細胞は培養時に生存しなかったようである。
【0081】
ラットβ細胞の増幅に用いた培養条件はヒトβ細胞の培養と生存を許すことができないことを我々は見出した。細胞株の誘導は、マトリゲルとフィブロネクチンとを塗布したプレート上で、5.5 mMグルコース、BSA 、ニコチンアミド、2-メルカプトエタノール、ヒトトランスフェリンおよびナトリウムセレニウム(sodium selenium) を含有する無血清培地中で行った。図7 に示すように、最初に得られた細胞株(H357)は、Ki67増殖マーカーを共発現する大集団の細胞によるインスリンおよびpdx1免疫染色に対して陽性である。この発現の特徴は40継代の間、安定である。
【0082】
我々は、3つの出発ヒト未熟膵臓の継代移植により発生させた独立腫瘍から11の類似の細胞株を発生させることができた。図8A〜C に、これら3つの腫瘍の完全系統図を示す。重要なことに、継続した継代移植の回数は細胞株を発生させるのに重要ではないらしい。実際、H458細胞株は一回の継代移植後に得られた (図8C) のに対し、H492細胞株は6 回の継代移植を続けた後に得られた (図8A) 。
【実施例6】
【0083】
ヒトβ細胞株の特性決定:定量的RT-PCRによる遺伝子プロファイリング
遺伝子プロファイリング (輪郭決定) のために、誘導された全ての細胞株の代表であるヒトβ細胞株H522を使用した。H523から調製されたcDNAを成人ヒト膵島からのそれと定量的RT-PCRにより比較した (表2)。
【0084】
表2:ヒト成熟膵島と比較したH522ヒト細胞株における遺伝子発現
CT(閾値サイクル) 値はシクロフィリンに対して正規化し、試験した遺伝子の全てを発現するヒト成熟膵島と比べた増加倍率で示す。
【0085】
【表2】

【0086】
我々はまず、β細胞では普通は不存在の腺房細胞のマーカーであるカルボキシペプチダーゼA mRNAをH523が発現しないことを見出した。我々は次に、成熟β細胞中で発現することが知られている遺伝子の発現についてH523細胞株において調査した。興味深いことに、我々が調べた全ての遺伝子が、誘導された全ての細胞株を代表する我々のヒトβ細胞株H523において種々の異なるレベルで発現されることが認められた。我々はまず転写因子に焦点を当てた。転写因子Pdx1は、H523中では、ヒト膵島調製物中で認められたものより5倍高いレベルで高度に発現された。転写因子MafAは、H523中では、ヒト膵島調製物中で認められたものの1/24倍のレベルで発現された。我々は次に、インスリンプロセシングおよび分泌に関係するタンパク質をコードする遺伝子の発現を分析した。成人膵臓中のβ細胞に唯一見出されているプロコンベルターゼ(proconvertase) Pcsk1 は、H523中では、ヒト膵島調製物中で認められたものの1/4 倍のレベルで発現された。グルコーストランスポーターGlut2 は、H523中では、ヒト膵島調製物中で認められたものの1/400 倍のレベルで発現された。スルホニル尿素類のような薬剤の標的を代表するカリウムチャンネルのサブユニットをコードするKcnj1 およびAbcc8 は、H523中では、ヒト膵島調製物中で認められたもののそれぞれ1/2.4 倍および1/8 倍のレベルで発現された。その多形が2型糖尿病に最近関連づけられ(Sladek et al., 2007) 、ヒト1型糖尿病における新たな主要自己抗原を代表する(Wenzlau et al., 2007)亜鉛トランスポーターZnt8 (Slc30a8)は、H523中では、ヒト膵島調製物中で認められたものの1/3 倍のレベルで発現された。我々は次に成熟β細胞により発現されることが知られているペプチドを調べた。IAPPおよびインスリンはどちらも、ヒトβ細胞株により、ヒト膵島調製物中で認められたもののそれぞれ1/8 倍および1/3000倍のレベルで発現された。
【0087】
また、我々は、我々が誘導したヒトβ細胞株のうちの7つにおけるインスリン、IAPPおよびpdx1の発現レベルを、成熟ヒト膵島のそれと比較した (図9)。Pdx1発現レベルは全ての細胞株でほぼ同一であり、成熟ヒト膵島のそれとも似ていることを見出した。これらの細胞株は、IAPPの発現レベルはヒト膵島にくらべて低かった(1/5から1/20) 。また、H357細胞株が最も高レベルのインスリンを発現したが、それは成熟ヒト膵島における発現の1/800 に相当する。
【実施例7】
【0088】
移植RYAS41細胞は糖尿病マウスにおいて正常血糖を回復する
RYAS41細胞が機能的であるか否かを明らかにするため、β細胞に対して毒性であることが既知の薬剤ストレプトゾトシン(STZ) をscidマウスに注射した。2日後、マウスは高血糖になり、正常血糖を維持するためインスリンカプセルを皮下埋め込みした。STZ 感染から16日後、半数のマウス(n=7) に106 のRYAS41を移植し、残り7 匹は対照として使用した。38日目に、埋め込まれたカプセルによるインスリン分泌が尽き、移植を受けなかったマウスの血糖値が上昇し、実験の最後 (72日) まで高いままであった。他方、移植を受けたマウスの血糖値は正常範囲のままであった (図7 ) 。ストレプトゾトシンを注射し、組織移植を受けたマウスにおける血糖の調節が実際に移植細胞によるものであることを実証するために、片方の腎摘出を行って移植片を除去し、血糖濃度を監視した。図7 に示すように、66日目での片腎摘出による移植片の除去後は、ストレプトゾトシン処置したマウスでは、血糖が移植された細胞によりコントロールされていたことを表している。
【実施例8】
【0089】
移植されたH357ヒトβ細胞株は糖尿病マウスにおいて正常血糖を回復できる
ラットRYAS41細胞株について上述したのと同様の実験を行った。要約すると、scidマウスにストレプトゾトシンを注射し、注射から2日後にマウスは高血糖となり、正常血糖を維持するためにインスリンカプセルを皮下埋め込みした。22日後、10匹のマウスに106 のH357細胞を移植し、4匹のマウスは対照として残した。図11A に示すように、移植から2週間後に対照マウスの血糖値は増大し高いままであったのに対し、移植したマウスの血糖値は正常であった。片腎摘出による移植片の除去後に認められた急激な血糖値上昇は、移植したヒト細胞により血糖値がコントロールされていたことを実証している (図11B)。
【0090】
我々は、グルコース負荷試験を行うことにより移植細胞のin vivo 機能をさらに分析した。16時間絶食させたマウスにグルコース(2 mg/g マウス体重) を注射し、血糖値を2時間にわたって監視した。図12に示した血糖値の時間経過は、移植細胞株がグルコース刺激に対して反応でき、従って十分なin vivo 機能を有することを実証している。
【実施例9】
【0091】
ヒトβ細胞腫瘍組織:自己抗体測定用の抗原供給源
いくつかの主張が1型糖尿病の原因が自己免疫であることに賛成している。他の具体的な特徴として、自己抗体の存在が何十年も強力な主張であった(Bottazzo et al., 1974) 。このため、臨床医は1型糖尿病の証拠としてこれらの自己抗体の存在を使用してきた。いくつかの方法が使用されてきた。1つのやり方では、β細胞全体に対する抗体を検出する(Palmer 1993) 。この方法は特異的抗原の供給源としてヒト膵臓を使用し、間接免疫蛍光により、膵島細胞自己抗体( 即ち、ICA)の存在を証明することができる。これらの自己抗体は抗原特異的ではないが、β細胞の特定の成分だけを認識した。この方法は抗体測定の標準となり、例えば、1型糖尿病患者の親族の集団における糖尿病の危険度を予測するために高い値のICA を実証するような使われ方をしてきた。高力価のICA の存在は、この者の糖尿病の危険性が高いことを予測する。この方法は基準法であるが、その利用はこのICA 測定を日常的に実施するのに十分なヒト膵臓を得ることの困難性により制限されてきた。
【0092】
他の方法が抗原特異的自己抗体測定を用いて誘導されている。これらの自己抗体は、抗インスリン、抗GAD 、または抗IA2 であり、特異的にインスリン、グルタミン酸デカルボキシラーゼおよびチロシンホスファターゼ (どちらもβ細胞中に存在する酵素) に特異的に結合する。患者の血清中の抗体測定用の標識抗原 (インスリン、GAD またはIA2)を用いたいくつかの商業的な方法が利用可能である。これらの方法は高価であり、放射性物質を使用する(Falorni et al., 1995)。
【0093】
結論
我々が発生させたヒト腫瘍組織は、ヒトβ細胞に非常に類似した性質を示すβ細胞を含んでいる。他の特性として、それらはヒトβ細胞に特有のいくつかの遺伝子およびタンパク質を含んでいる。これに関して、この組織は抗膵島細胞自己抗体測定の方法を実施するためのβ細胞およびβ細胞含有組織の新たな供給源となる。従って、上に規定された細胞は、例えば、下記の方法を用いた糖尿病の診断に有用である。
【0094】
・免疫蛍光による自己抗体測定
図13A に見られるように、1型糖尿病患者の血清を腫瘍H212から得られた組織切片上でインキュベーションすると、明るい蛍光が観察される。この蛍光は、該切片を正常血清と共にインキュベーションした場合には得られなかった。
【0095】
・特異的抗原に対する抗体
タンパク質抽出物をH301腫瘍から作製した。これらのタンパク質をSDS PAGE上で分離し、ニトロセルロース膜上に移した。図13B に見られるように、正常血清で観察されるのとは異なり、最近気づかれた1型糖尿病の患者の血清をインキュベーションすると、いくつかのバンドが観察された:2つのバンドはGAD およびIA2 の分子量( それぞれ65および37) に相当する。
【0096】
さらに、対照からの血清を使用した場合には観察されなかったいくつかの他のバンドを見ることができた( 図13B)。これらのバンドは糖尿病患者の血清と反応すると推測される自己抗原である。この物質は、従って、自己抗原性のヒトβ細胞由来の新たな未報告の抗原を発見するためのタンパク質供給源を提供する。
【0097】
・ELISA による自己抗体検出
腫瘍H301からのタンパク質抽出物を使用して、ELISA プレートを作製した。対照被験者および最近気づかれた糖尿病患者である26名の患者からの血清によりELISA 試験を実施した。これらの患者は、従来のヒト全膵臓による間接免疫蛍光法を使用すると全員がICA 陽性であった。この26名の患者の一団の中で、25名がELISA 法で陽性であり、この方法の感度を実証した (図13C)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0098】
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【非特許文献27】Hansson, M., Tonning, A., Frandsen, U., Petri, A., Rajagopal, J., Englund, M. C, Heller, R. S., Hakansson, J., Fleckner, J., Skold, H. N., et al. (2004). Artifactual insulin release from differentiated embryonic stem cells. Diabetes 55, 2603-2609.
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【非特許文献40】Sladek R, Rocheleau G, Rung J, Dina C, Shen L, Serre D, Boutin P, Vincent D, Belisle A, Hadjadj S, Balkau B, Heude B, Charpentier G, Hudson TJ, Montpetit A, Pshezhetsky AV, Prentki M, Posner BI, Balding DJ, Meyre D, Polychronakos C, Froguel P. A genome-wide association study identifies novel risk loci for type 2 diabetes. Nature. 2007 Feb 22;445(7130):881-5.
【非特許文献41】Soldevila, G., Buscema, M., Marini, V., Sutton, R., James, R. F., Bloom, S. R., Robertson, R. P., Mirakian, R., Pujol-Borrell, R., and Bottazzo, G. F. (1991). Transfection with SV40 gene of human pancreatic endocrine cells. J Autoimmun 4, 381-396.
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【非特許文献45】Weissman, A., Gotlieb, L., Colgan, T., Jurisicova, A., Greenblatt, E. M., and Casper, R. F. (1999). Preliminary experience with subcutaneous human ovarian cortex transplantation in the NOD-SCID mouse. Biol Reprod 60, 1462-1467.
【非特許文献46】Wenzlau JM, Juhl K, Yu L, Moua O, Sarkar SA, Gottlieb P, Rewers M, Eisenbarth GS, Jensen J, Davidson HW, Hutton JC. The cation efflux transporter ZnT8 (Slc30A8) is a major autoantigen in human type 1 diabetes. Proc Natl Acad Sci U S A. 2007 Oct 23;104(43):17040-5
【非特許文献47】Zennou, V., Petit, C, Guetard, D., Nerhbass, U., Montagnier, L., and Charneau, P. (2000). HIV-I genome nuclear import is mediated by a central DNA flap. Cell 101, 173-185.
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を含む、ヒト膵臓β細胞またはヒトβ細胞腫瘍を調製する方法:
a)未熟(immature) ヒト膵臓に、i)インスリンプロモーターの制御下でSV40ラージT 抗原を発現するレンチウイルスベクターとii) インスリンプロモーターの制御下でhTert を発現するレンチウイルスベクターとを、またはiii)インスリンプロモーターの制御下でSV40ラージT 抗原とhTert の両方を発現するレンチウイルスベクターを形質導入または同時形質導入し、
b) a) で得られる形質導入した未熟膵臓を、ヒトを除く重症複合免疫不全 (scid) の動物の腎臓被膜中に導入し、
c)形質導入した未熟膵臓細胞にインスリノーマ様の構造を発生させ、ここでインスリノーマ様の構造の未熟ヒト膵臓細胞はインスリン産生膵臓β細胞に分化しており、
d)工程c)で得られるインスリノーマ様構造体を微細切断し、その細胞を解離させ、そして場合によりインスリンプロモーターの制御下で抗生物質耐性遺伝子を発現するレンチウイルスベクターを形質導入し、
e)工程d)で得られる細胞を、ヒトを除く新たなscid動物の腎臓被膜中に継代移植し、
f)工程e)で継代移植した細胞にインスリノーマ様構造を発生および再生させ、ここで、新たに発生したインスリノーマ様構造物はインスリン産生膵臓β細胞に豊み、
g)工程f)で得られるインスリノーマ様構造物を微細切断し、それらの細胞を解離させ、そして集め、
h)場合により、工程g)で得られる細胞を新たなscid動物の腎臓被膜に継代移植し、インスリン産生膵臓β細胞をさらに富化し増幅させ、場合により工程f)、g)およびh)を、適切な量のインスリン産生膵臓β細胞が得られるまで繰り返す。
【請求項2】
膵臓細胞をscidマウスに移植および継代移植する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
抗生物質耐性遺伝子がネオマイシン耐性遺伝子である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
工程h)で得られるヒト膵臓β細胞を集めて、均質な細胞集団を形成させ、場合により該集団を、ヒト機能性β細胞株を樹立するためにin vitro培養することをさらに含む、請求項1〜3のいずれかの項記載の方法。
【請求項5】
SV40ラージT、hTERT および抗生物質耐性導入遺伝子を除去することを含む脱不死化工程をさらに含む、請求項1〜4のいずれかの項記載の方法。
【請求項6】
マウスまたはラットなどの非ヒト動物への移植後にin vivo で、またはin vitroで、糖尿病治療用の候補薬剤を試験し、そしてスクリーニングするために、ヒト機能性膵臓β細胞を調製するための請求項1〜5のいずれかの項記載の方法。
【請求項7】
患者を1型または2型糖尿病に分類することを可能にするin vitro診断のために、大量のヒト機能性膵臓β細胞または大量のβ細胞腫瘍を調製するための請求項1〜5のいずれかの項記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかの項記載の記載の方法により得ることができるヒトβ細胞腫瘍またはヒト膵臓β細胞。
【請求項9】
下記特徴の少なくとも1つを示すヒトβ細胞腫瘍またはヒト膵臓β細胞:
−カルボキシペプチダーゼ-A陰性、
−転写因子Pdx1陽性
−転写因子MafA陽性
−プロコンバーターゼ Pcsk1陽性
−グルコース輸送体Glut2 の発現
−カリウムチャンネルのサブユニットをコードするKcnj11およびAbcc8 の発現
−亜鉛輸送体Znt8 (Slc30a8)の発現
−インスリンの発現。
【請求項10】
抗インスリン、抗-GAD及び/又は抗-IA2抗体との反応に対して陽性である、請求項8または9記載のβ細胞腫瘍またはヒト膵臓β細胞。
【請求項11】
無血清培地中でマトリゲルおよびフィブロネクチン被覆ウェルにおいて維持し、培養で増殖させた、請求項8〜10のいずれかの項記載のヒト膵臓β細胞。
【請求項12】
マトリゲルおよびフィブロネクチンを含む無血清培地で培養した、請求項8〜10のいずれかの項記載のヒト膵臓β細胞を含む細胞培養物。
【請求項13】
請求項8〜10のいずれかの項記載のβ細胞腫瘍もしくは膵臓β細胞、または該細胞からの蛋白質抽出物を、固体支持体に結合または吸着させ、そして個体の血清と反応させ、1型または2型糖尿病に特異的な各種表面抗原に対する自己抗体、例えば、インスリン自己抗体 (IAA)およびグルタミン酸デカルボキシラーゼ抗体 (GADA) から選ばれる膵島細胞抗体 (ICA)などの自己抗体の存在または不在を検出することを含む、糖尿病のin vitro診断方法。
【請求項14】
請求項8〜10のいずれかの項記載のヒト膵臓β細胞の蛋白質抽出物を、個体の血清と反応させ、糖尿病に関連する各種の表面抗原に対する自己抗体、即ち、インスリン自己抗体 (IAA)およびグルタミン酸デカルボキシラーゼ抗体 (GADA) などの膵島細胞抗体 (ICA)または糖尿病に関連するその他の特異的抗体を、イムノブロットまたはドットブロットにより検出することを含む、糖尿病に関連する自己抗体を同定する方法。
【請求項15】
患者および対照からの血清を、請求項8〜10のいずれかの項記載のβ細胞腫瘍の組織切片に添加し、そして蛍光標識結合抗ヒトIgG などの標識抗ヒトIgG と共にインキュベーションして、該患者の血清中に糖尿病に関連する自己抗体が存在するか否かを明らかにすることを含み、ここで自己抗体の存在は糖尿病の指標となる、請求項13記載の糖尿病のin vitro診断方法。
【請求項16】
請求項8〜10のいずれかに記載のヒト膵臓β細胞の蛋白質抽出物のウェスタンブロットを患者の血清と共にインキュベーションすることを含み、ここで該患者の血清中に糖尿病に関連する自己抗体が存在するか否かが、HRP 結合抗ヒトIgG などの標識抗ヒトIgG によって明らかにされ、ここで自己抗体の存在は糖尿病の指標となる、糖尿病のin vitro診断法。
【請求項17】
ウエルプレートを請求項8〜10のいずれかに記載のヒト膵臓β細胞の蛋白質抽出物で被覆し、患者および対照の血清と共にインキュベーションするELISA 試験を含む糖尿病のin vitro診断法であり、ここで該患者の血清中に糖尿病に関連する自己抗体が存在するか否かが、HRP 結合抗ヒトIgG などの標識抗ヒトIgG によって明らかにされ、ここで自己抗体の存在は糖尿病の指標となる、前記診断法。
【請求項18】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法で得られるβ細胞腫瘍またはヒト機能性膵臓β細胞、またはそれからの蛋白質抽出物を、場合により固体支持体に固定または吸着させて含む糖尿病用診断キット。
【請求項19】
請求項15〜17のいずれかの項記載の記載の方法を行うための反応物質をさらに含む、請求項18記載の診断キット。
【請求項20】
ヒト機能性膵臓β細胞をin vitroで培養し、インスリン分泌を調節しうる化合物をスクリーニングするために細胞株を樹立する、請求項1〜5のいずれかの項記載の方法。
【請求項21】
細胞の脱不死化のための工程をさらに含む、糖尿病の細胞治療のためのマスター細胞バンクの確立のための、請求項1〜5のいずれかの項記載の方法。
【請求項22】
前記レンチウイルスベクターを可逆的または条件的不死化を可能にするように作製する、糖尿病の細胞治療用のマスター細胞バンクの確立のための、請求項1〜5のいずれかの項記載の方法。
【請求項23】
レンチウイルスベクターが少なくとも1つのLox P 部位を含み、前記導入遺伝子がCre リコンビナーゼと反応させることより除去される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
レンチウイルスベクターが少なくとも1つのFRT 部位を含み、前記導入遺伝子がFLP リコンビナーゼと反応させることより除去される、請求項22記載の方法。
【請求項25】
SV40ラージT を発現するレンチウイルスベクター、およびhTERT を発現するレンチウイルスベクターが、部位特異的組換えの部位が両ベクターで異なる場合、Lox P またはFLP 部位をさらに含む、請求項22記載の方法。
【請求項26】
ネガティブ選択工程をCre またはFLP リコンビナーゼの作用の後に行い、不死化遺伝子SV40ラージT およびhTERT 、並びに抗生物質耐性遺伝子が除去された細胞のみを選択する、請求項23〜25のいずれかの項記載の方法。
【請求項27】
レンチウイルスベクターが、少なくとも1つのネガティブ選択マーカー遺伝子を含む、請求項23〜25のいずれかの項記載の方法。
【請求項28】
細胞が初期β細胞表現型に戻されている、請求項22〜27のいずれかの項記載の方法により得られるヒト機能性膵臓β細胞。
【請求項29】
請求項28記載のヒト機能性膵臓β細胞の有効量を含み、該細胞が場合によりカプセル化されている、薬剤組成物。
【請求項30】
糖尿病、低血糖または消化酵素の機能不全に関連する病状を治療するための医薬を製造するための、請求項28記載の膵臓細胞の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2010−518840(P2010−518840A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550718(P2009−550718)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際出願番号】PCT/EP2008/052153
【国際公開番号】WO2008/102000
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(509235420)
【氏名又は名称原語表記】SARL ENDOCELLS
【出願人】(508092967)アンスティテュ・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル(イ・エヌ・エス・エ・エール・エム) (5)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE(INSERM)
【出願人】(505179971)サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィーク(セーエヌエールエス) (18)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE(CNRS)
【Fターム(参考)】