糖尿病及び肥満の治療のためのキナーゼ阻害剤
本発明は、糖尿病及び/又は肥満のヒト又は動物を治療する方法を開示するものである。上記方法はヒト又は動物に治療上有効な量の蛋白チロシンキナーゼ阻害剤を投与することを含む。好ましくは、本発明の予防及び治療方法は、治療上有効な量の、c-Srcファミリーの蛋白チロシンキナーゼの阻害剤を、それを必要とする哺乳動物に投与することを含む。本発明は、c-Srcファミリーの蛋白チロシンキナーゼの阻害剤又はそのアナログ若しくは代謝物、又は他の蛋白チロシンキナーゼの阻害剤、及び医薬上許容しうる担体を含む医薬用組成物に関係する。プリン及びピリミジン、並びに糖尿病及び肥満の治療に有用な他の分子、特に、ピラゾロピリミジン、シアノキノシン、フェニルアミノピリミジン、アニリノキナゾリン及び関連する化合物がここに提供される。本発明はさらにこれらの疾患を治療するための別の新しい治療薬を同定するために有用な細胞ターゲット及びアッセイ組成物を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2004年10月29日出願の米国仮出願No.60/622,801、発明の名称「糖尿病及び肥満の治療のためのキナーゼ阻害剤」に基づいて35 U.S.C. セクション119による優先権を主張するものであり、その開示の全てを参照により本明細書に含める。
【背景技術】
【0002】
メタボリック・シンドロームは米国の成人人口の約4分の1、つまり約5000万人に影響していると推測されることから大きな健康問題となっている。インシュリン抵抗症候群と呼ばれることもあるメタボリック・シンドロームは、中心性肥満;高トリグリセリド及び低HDLレベル;血圧上昇;インシュリン耐性又はブドウ糖非耐性;前血栓状態;並びに前炎症状態を含めた症状の集合によって特徴づけられる。これらの危険因子のうちのいくつか又は全てが存在することにより、2型糖尿病と同様に、冠動脈性心疾患、末梢血管疾患及び脳卒中のような心疾患のリスクが個人において増加する。推定では、全ての2型糖尿病患者の半分以上がメタボリック・シンドロームの特徴を持つことが示唆されている。
【0003】
2型糖尿病用の現在販売されている治療薬は、より一般的にはグリタゾンと呼ばれるチアゾリジンジオン(TZD)類化合物の経口薬剤である。それらは、アバンディア及びアクトスの名称でそれぞれスミスクライン・ビーチャム社及びイーライ・リリー社によって販売されている。TZDは、ヒト及び動物の2型糖尿病モデルにおいてインシュリン反応性を増加させる。TZDの代謝作用は全てではないにしてもほとんどがペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体(PPAR)の特異的結合及び活性化を通じて発揮される。PPARはリガンド活性化転写因子の核受容体スーパーファミリーに属する。PPARファミリーは近縁関係にあるPPAR-[アルファ]、-[ガンマ]、及び-[ベータ]を含む。PPARは、それらのリガンドの作用を転写応答に変換し、それにより脂質及びグルコースの代謝、脂肪細胞分化、炎症反応並びにエネルギー・ホメオスタシスにおける重要な調整体として働く。
【0004】
同族のリガンドによって活性化された場合、PPARはもう一つのステロイド受容体であるレチノイド受容体X(RXR)とヘテロダイマーを形成する。その後、この蛋白複合体は特定のDNA応答要素において直接相互作用することにより、又は他の転写因子に結合することにより代謝関連遺伝子の発現を誘導する。これらの相互作用を通じて、PPAR蛋白は食事因子の過多及び不足の両方に対する細胞応答という、ホメオスタシスの維持に必要不可欠な過程を調節する。
【0005】
PPARのアイソフォームはそれぞれ、全身の代謝の中で別々の役割を果たす。それぞれの組織分布が機能のこの多様性を説明している:PPARαは、肝臓、心臓、腎臓、及び代謝が亢進している他の組織で見られる。PPAR-[アルファ]は、高トリグリセリド・レベルを下げるために広く処方される薬物であるフィブラートの分子ターゲットである。分子レベルでは、フィブラートはリポ蛋白及び脂肪酸代謝に影響する多くの遺伝子の転写を調節する。一方、PPARγは脂肪組織及び免疫系に関係する組織中に主に存在する。PPAR-[ガンマ]は、もともと2型糖尿病の治療用に開発されたレズリン(トログリタゾン)、アバンディア(ロシグリタゾン)及びアクトス(ピオグリタゾン)を含むTZDの分子ターゲットである。PPARβは、αとγの両者よりもより広く発現される。その機能は多くは未知である。PPARαとγは重要な生物学的過程の中心的なレギュレータであることが認められている。PPARの機能の中断、例えばPPARα中のL162V突然変異やPPARγ中のP12A突然変異のような突然変異による中断は、心疾患、糖尿病及び癌のような重篤なヒト病態の進行に関係している。糖尿病患者は、高血糖作用だけでなく、関係する代謝経路の平衡失調と、その結果、高トリグリセリド血症と高コレステロール血症も患うことになる。一般に、メタボリック・シンドロームを完全に管理するためにはいくつかの薬物を同時に摂取しなければならない。現在利用可能な治療計画は、グリタゾンを用いてグルコースを低下させるか、又はスタチン(リピトール、クレストール又はゾコール)を用いる等によりコレステロールを低下させることを主に目指している。新しい小分子PLX204(プレキシコン社)のような、より新しいpan-PPAR-作用物質は3つの関連するターゲット、すなわち、PPAR-[アルファ]、-[デルタ]及び[ガンマ]の機能を調整して、ブドウ糖、トリグリセリド及び遊離脂肪酸を低下させ、高密度リポ蛋白(HDL)を増加させることを目的としている。
【0006】
PPAR-[ガンマ]作用物質は2型糖尿病患者の血糖値を下げることについて有効性が証明されているが、それらはすべての患者にとって安全というわけではない。米国食品医薬品局によって最初に承認された化合物であるトログリタゾンは、数十の死亡例又は肝移植を必要とする重症肝不全の症例が報告されて市場から撤退した。肝毒性がこの薬物群の作用なのか、あるいはトログリタゾン特有の性質に関係するものなのかどうかは明らかになっていない。TZD類は全て体液貯留に関連付けられており、それはうっ血性心不全を悪化させたり、又はその一因となりうる。過去の臨床試験は、インシュリンとアバンディア又はアクトスを投与した患者は、インシュリン単独の患者と比較して、心不全及び他の心臓血管の有害作用の発生率が高くなることを示している。
【0007】
これらの受容体は十分に確立された治療ターゲットではあるが、それらはその天然のリガンドが未だわかっていないという意味において「オーファン」受容体である。もっとも、小分子リガンドによるそれらの活性化メカニズムは広い範囲で特徴づけられている。PPARのカルボキシ末端部分は、リガンド結合により活性形態に変わると、コアクティベーター蛋白を補充しターゲット遺伝子の転写を活性化する分子スイッチとして機能するリガンド結合ドメインを含んでいる。同定され特性決定されるコアクティベーター及びコリプレッサーの数が増えるにつれて、受容体機能の正確な組み合わせによる調節が示唆されている。ステロイド受容体コアクティベーター(SRC)ファミリーと呼ばれる160-kDa蛋白ファミリーのメンバーはリガンド依存的な様式でPPARと相互作用する。SRCファミリーには蛋白SRC1/NCOA1、TIF2/GRIP1及びpCIP/A1B1/ACTR/RAC/TRAM-1が含まれる。その他に、プロテアーゼ活性を有する蛋白やコアクティベーターとして機能すると思われるRNAを含む30を超える補助因子と推定されるものが同定されているため、種々の蛋白複合体が、特にDNA-受容体相互作用の迅速なターンオーバーという証拠を見ると、連続的、組み合わせ、又は並行のいずれかの様式で作用できると考えられる。
【0008】
内在性PPARの活性化を制御するシグナル伝達経路も大部分は特性決定がなされていない。わずかな手掛かりが表皮増殖因子(EGF)依存性経路に関する研究から得られている。EGF受容体(EGFR)キナーゼは、多くの刺激(G蛋白受容体活性化、紫外線、過酸化物及び他の細胞シグナル)によって「トランスアクティベート(転写促進)」される。これをEGF自身のシグナルのような典型的なシグナルから区別するのは、それがリガンド−非依存性であるか、あるいは細胞表面からのEGF様リガンドの蛋白分解的解離を伴うことである。最近の研究で、グリタゾンがラット肝臓上皮細胞中のEGFRトランスアクチベーションを誘導することが証明された。さらに、これらの化合物はEGFR依存性及び非依存性の両方のメカニズムによりERK及びp38 MAPKの急速な活性化をもたらした。これらの研究から、PPAR作用物質がこれらの化合物に対する細胞の反応に影響を及ぼすと考えられる「非ゲノム性」事象を誘発することが示唆された。
【0009】
PPAR類の詳細な作用機序、ヒト細胞におけるそれらの調節、及びそれらの活性を制御する経路を解明することにより、治療的な介入におけるターゲットとなることができる全く新しい生化学メカニズムが明らかになるであろう。重要なことには、新しいターゲットが確認されることにより、ヒトにおいて安全性と有効性が改善された新しいクラスの治療薬の発見が可能になるに違いない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段】
【0010】
発明の要約
本発明は、Src阻害剤又はSrcファミリー阻害剤を用いて病気を治療又は予防する方法であって、そのような処置を必要とする患者に治療上有効な量の化合物又はその医薬用組成物を投与することを含む方法に関する。従って、本発明は、糖尿病又は肥満、或いはそれらに関連した症状又は合併症や他の新生物の患者を、インシュリン感受性を改善させるか又は血糖値を低下させるために或いは減量を助けるために十分な量の蛋白チロシンキナーゼ阻害剤を投与することにより治療するための方法を特徴とし、上記阻害剤は単独又は他の医薬品と組み合わせて、或いは食餌療法や運動と組み合わせて投与されることもある。ここに提供される医薬組成物は、インシュリンと共に、並びに脂質低下剤、コレステロール低下剤及び/又は血圧降下剤と共に投与してもよい。以下に述べる本発明の方法のいずれかにより改善が期待される症状としては、糖尿病;肥満;高トリグリセリド血症;高血圧;インシュリン耐性又はブドウ糖非耐性;糖尿病性網膜症;糖尿病性神経障害;前血栓状態;及び前炎症状態が挙げられる。さらに、処置の方法としてはこれらの症状の素因がある個体におけるこれらの症状の予防、又は発症の遅延が挙げられる。本発明はさらに、これらの症状の治療薬の開発に併せて使用することができる既知の蛋白チロシンキナーゼ阻害剤や特にc-Src阻害剤である多数の化合物、並びにそれらに関連したコア構造及び骨格を提供するものである。本発明はまた、糖尿病及び肥満、並びに関連する合併症の治療及び予防のための小サイズの干渉用RNA、アンチセンス及びRNAi組成物を提供するものである。
【0011】
本発明はまた、糖尿病及び肥満に対する創薬のターゲットを特色とし、さらに、糖尿病及び肥満の治療用の新たな治療薬を同定する方法、とりわけ、そのもの自身がPPARのリガンドであるか又は細胞経路中のPPARの上流のターゲットに作用することにより代用薬として作用する化合物を同定するためのハイスループット及びハイコンテント・スクリーニング中に使用することができる細胞ベースのアッセイを特色とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
発明の詳細な説明
転写因子のPPARファミリーを制御する経路中に新たなターゲットが同定されれば、ヒトにおける安全性及び有効性が改善された新しいクラスの治療薬の発見が可能になると考えられる。RNA干渉(RNAi)による遺伝子サイレンシングは、新しい治療用ターゲットを同定し確認する上で直ちに役立つものとなる。遺伝子サイレンシングはまた、治療用の戦略として長期的な可能性を有するものである。RNAi戦略は二本鎖RNA(dsRNA)の特性に依存して非常に特異的なRNA分解の内在性細胞プロセスを活性化させる。サイレンシングが有効な場合、ターゲットのRNAiによってコードされている蛋白はノックダウン(停止)されるであろう;そして、ノックダウンの生化学的又は表現型としての結果を評価することができる。RNAiはこのように、特定の遺伝子を細胞シグナル伝達ネットワーク中のそれらの機能的な役割に関連付け、かつ細胞プロセスに直接関係する可能性を持つ蛋白を同定するために使用することができる。遺伝子が経路上でプラスの作用又は活性化作用を持つならば、その遺伝子のサイレンシングはその経路のプラスの調節を遮断することが予想されるであろう。それに対して、遺伝子が経路の下流の要素にマイナスの作用又は抑制的作用を持つならば、その遺伝子のサイレンシングはその経路上の遮断を除去することが予想されるであろう。
【実施例】
【0013】
PPAR活性化を測定するアッセイの構築
我々はまず、生細胞中におけるPPAR-[ガンマ]に対するアッセイを構築した。我々はPPAR-[ガンマ]とそのコアクティベーターであるSRC-1の間で形成される複合体についてレポートするように設計された蛋白フラグメント相補性アッセイ(PCA)を使用した。
【0014】
PCAは2つの蛋白の相互作用が、再構成されたレポーターの再折りたたみ及び活性化を容易にするように、全長細胞蛋白を、合理的切断レポーターフラグメントに融合させることを含む。ここで使用するPCAレポーターは、動的な相互作用と細胞内移動のリアルタイムな追跡とともに低レベルに発現される蛋白の検出も可能にするYFPの強力な蛍光性変異体に基づいている。このPCAはPPAR-[ガンマ]がSRC-1と相互作用する際に蛍光シグナルが発生するように設計された。
【0015】
PCA用のレポーターフラグメントはオリゴヌクレオチド合成により作成した(ブルー・ヘロン・バイオテクノロジー社、ボセル、WA)。最初に、ポリペプチドフラグメントYFP[1]及びYFP[2] (YFPのアミノ酸1-158及び159-239に対応する)をコードするオリゴヌクレオチドを合成した。次に、PCR突然変異誘発を変異体フラグメントIFP[1]及びIFP[2]を産生させるために使用した。IFP[1]フラグメントはYFP[1]-(F46L、F64L、M153T)に対応し、IFP[2]フラグメントはYFP[2]-(V163A、S175G)に対応する。これらの突然変異は完全なYFP蛋白の蛍光強度を増加させることが示されている(Nagai et al., 2002)。以下に述べるような、問題の遺伝子を各レポーターフラグメントの5'-末端又は3'-末端のいずれかに融合させることができる配置をとる制限部位及びリンカー配列を組込むように、YFP[1]、YFP[2]、IFP[1]及びIFP[2]フラグメントをPCRにより増幅した。レポーター・リンカー・フラグメントカセットは、エプスタイン・バー・ウイルス(EBV)の複製起点(oriP)を組込むように修飾された哺乳動物発現ベクター(pcDNA3.1Z、インビトロジェン社)中にサブクローニングされた。oriPは、HEK293E細胞(293-EBNA、インビトロジェン社)のようなEBNA1遺伝子を発現させる細胞株中でのこれらの修飾ベクターのエピゾーム複製を可能にする。さらに、これらのベクターはSV40起点も保持しており、SV40ラージT抗原(例えば、HEK293T、Jurkat又はCOS)を発現させる細胞株中でのエピゾーム発現が可能である。変異したレポーターフラグメントの完全性及び新しい複製起点は配列決定によって確認された。
【0016】
PCA融合構築体を、転写複合体の成分として相互作用することが知られているPPAR-[ガンマ]とSRC-1について調製した(表1)。各遺伝子の完全長をコードする配列を、配列が確認されている完全長cDNAからのPCRによって増幅した。得られたPCR生成物をカラム精製し(セントリコン社)、指向性のクローニングが可能になるように適当な制限酵素で切断し、フレキシブルな10アミノ酸ペプチド(Gly.Gly.Gly.Gly.Ser)2をコード化するリンカーによりYFP[1]、YFP[2]、IFP[1]又はIFP[2]の5'末端又は3'-末端のいずれかにインフレーム融合させた。このフレキシブルリンカーにより確実に、融合体の配向性/配置がレポーターフラグメントを隣接部に運ぶのに最適なものとなる(Pelletier et al., 1998)。宿主株であるDH5-alpha(インビトロジェン社、カールスバード、CA)又はXL1 Blue MR (ストラタジーン社、ラ・ホーヤ、CA)中の組換え体を、コロニーPCRによってスクリーニングし、正確なサイズのインサートを含んでいるクローンを、問題の遺伝子の存在と適当なレポーターフラグメントのインフレーム融合を確認するために最終配列決定にかけた。融合構築体のサブセットをプライマーウォーキングによる完全インサート配列決定用に選択した。DNAはQiagen MaxiPrepキット(キアゲン社、チャッツワース、CA)を使用して単離した。PCRは適当な遺伝子特異的プライマーとレポーター特異的プライマーを組み合わせることにより、適正な遺伝子融合体が適正なサイズで内部欠失のない状態で存在することを確認して、各融合構築体の完全性を評価するために使用した。
【0017】
【表1】
【0018】
HEK293細胞を、10%FBS(ジェミニ・バイオ-プロダクツ社)、1%ペニシリン及び1%ストレプトマイシンを追加したMEMアルファ培地(インビトロジェン社)中で継代し、5%CO2で平衡化した37℃インキュベータ中で生育させた。トランスフェクションの約24時間前に、細胞を96ウェルのploy-D-Lysineコーテッドプレート(グライナー社)中にマルチドロップ384ペリスタル型ポンプシステム(サーモ・エレクトロン社、ウォルサム、Mass)を用いて7,500細胞/ウェルの密度で接種した。最大で100ngの相補性フラグメント融合ベクターをFugene 6(ロッシュ社)を用いて製造元のプロトコールに従って共トランスフェクトした。48時間の発現の後に、細胞を蛍光シグナルの存在について試験した。
【0019】
図1に示すように、無処理(模擬トランスフェクション又は刺激せず)の場合、限られた数の細胞に低レベルの蛍光が見られたのみであった。15μMロシグリタゾンで90分刺激すると、アッセイの蛍光強度は6倍に増加し、これは予想されたようにPPAR-[ガンマ]とそのコアクティベーターであるSRC-1の間の複合体形成が増加したことを示すものであった。これらの結果は、選択されたアッセイが既知のリガンドに対する生細胞中のPPARの反応活性を正確にレポートしていることを証明するものである。
【0020】
PPAR活性化に関連したターゲットの同定
次に我々は、サイレンシングされると、PPAR-[ガンマ]に対するロシグリタゾンに似た作用を示す遺伝子の同定を目指した。そのような遺伝子はすなわちPPAR-[ガンマ]に対するマイナスの調節因子であり、創薬における代替ターゲットとして役立てることができる。そのようなターゲットが薬として利用可能であれば、PPAR-[ガンマ]:SRC-1複合体(今後、簡潔のためにPPAR:SRCと称する)の増加によって評価されるようにPPAR-[ガンマ]を間接的に活性化する小分子阻害剤を見つけることができるであろう。従ってそのような分子は、ロシグリタゾンや他のPPARのTZD及び非TZD活性化剤に代わる薬物となるであろう。
【0021】
我々は、細胞シグナル伝達ネットワーク中の治療に関連性を持つターゲットの多種多様なセットを系統的にサイレンシング処理し、無傷のヒト(HEK293)細胞におけるPPAR:SRC複合体に対する効果を評価した。107個のターゲットとなるsiRNAプールを含むパネルを、細胞中の重要なシグナル伝達経路及びプロセスの成分をターゲットとするように設計し(表2を参照)、それには特定のPI3K/Akt-、RAS/MAPK-及びNF[カッパ]B-介在経路;並びに、DNA損傷応答、細胞周期、アポトーシス調整因子及び核ホルモン受容体シグナル伝達の基礎となる経路が含まれている。サイレンシング処理された遺伝子は個々に、受容体、アダプター、蛋白キナーゼ及びホスファターゼ、ヒートショックプロテイン、ヒストン・デアセチラーゼ、ユビキチン・リガーゼ、細胞周期及び細胞骨格蛋白をコードしている。
【0022】
【表2】
【0023】
上記の遺伝子及び2個の「GC-マッチ」非特異的siRNAs (ダーマコン社、ボールダー、CO)をターゲットとするように設計された107個の siRNA SMARTプールを製造元の説明書に従って再懸濁した。PCA融合レポーター構築体を上記のように製造した。トランスフェクションは、リポフェクタミン2000(インビトロジェン社)及びウェル1個当り100 ngの核酸(各融合構築体は最大50 ng、及び40 nM最終濃度の適切なsiRNA SMARTプール)を加えてHEK293細胞中で行った。各スクリーニングについて、上記PPAR:SRC PCAを含むアッセイが4枚の96ウェルプレートとなるようにトリプリケートに分注してトランスフェクションを行った。各96ウェルプレートには5個の内部対照、すなわち、模擬(PCAせず)、siRNAせず、非特異的siRNA対照IX及びXI(それぞれ47%及び36%のGC含有量)、並びにPCA特異的対照(作用物質で処理したアッセイについて刺激の程度を確認するため)を含めた。最適なsiRNA濃度を4つの異なるPCAにおけるsiGFP(ダーマコン社)及び非特異的siRNA対照の作用評価により決定した。
【0024】
トランスフェクションの48時間後、ディスカバリー-1自動蛍光画像処理機(モレキュラー・ディバイシーズ社)で画像取得する前に細胞を固定しヘキストで染色した。1ウェル当たり4個のオーバーラップしない細胞集団(スキャン)の画像を得るために以下のフィルターセットを使用した:励起フィルター 480/40nm、発光フィルター 535/50nm(YFP);励起フィルター 360/40nm、発光フィルター 465/30nm(ヘキスト)。所定のアッセイにおける全ての画像を得るために各波長について一定の露光時間を使用した。ImageJ API/ライブラリー(http://rsb.info.nih.gov/ij/、NIH、MD)からのモジュールを使用して16ビットのグレイスケールTIFFフォーマットでの未加工画像を分析した。各アッセイにおける画像のトレーニングセットに基づいて、3つのアルゴリズムを評価して特定のアッセイに最も適したものを同定した。ヘキスト及びYFPチャンネルからの画像をローリングボールアルゴリズム[45]を使用して標準化した後、各チャンネルで閾値処理してバックグラウンドからフォアグラウンドを分離した。パーティクル・アナライザー(ImageJ)に基づく反復性アルゴリズムを、閾値処理したヘキスト画像(THI)に適用して核マスクを作成した。THIは核マスク(NM)を定義するために使用し、NM中にありユーザ定義の閾値を上回るYIからの陽性ピクセルをすべてサンプリングした。陽性ピクセルの合計を閾値に対して補正し、THIのエリアに標準化して、「Nuc合計」を得た。各サンプルのNuc合計は、人為的蛍光を伴うスキャンを除外するために2SDフィルターを適用した後の最低12個のスキャンからの平均値を表わす。各siRNAの作用の統計的有意差は、各サンプルにつき最低3個のウェル上で単一因子ANOVAを行なうことにより決定され、≦0.05のp値を有意差ありとした。最初のスクリーニングで検出された有意の作用(対照よりも>40%の変化、かつp≦0.05)は、さらに2回のトランスフェクションについてトリプリケートで反復した。
【0025】
系統的遺伝子サイレンシングの結果
図2はPPAR-[ガンマ]:SRC-1に対する個々の遺伝子のサイレンシングによる効果を示しており、結果は遺伝子サイレンシングがPPAR:SRC複合体の数を増加させたか減少させたかによって左から右にランク付けられている。PPAR自身のサイレンシングは、予想されたように、PPAR:SRC PCAからのシグナルを除去した対照を表した。図2に示されるように、非受容体チロシンキナーゼであるc-srcのサイレンシングによって、PPAR:SRCシグナル伝達複合体の最も劇的な誘導を我々は観察した。(用語に関して言えば、頭字語が同じでも、癌原遺伝子c-srcは核受容体コアクティベーターSRC-1とは全く異なるものである。)ロシグリタゾンの存在下で、siRNAが媒介するc-srcのノックダウンにより、対照siRNAと比較してPPAR:SRCは8倍以上に増加した。同様の効果はPPAR-[ガンマ]:RXR-[アルファ]複合体についても得られ(表示なし)、それはその効果にPPAR-[ガンマ]が介在していることを示している。
【0026】
c-SrcのPPAR-[ガンマ]との関連性には新しい経路が含まれる
我々の結果は、PPARの活性の調整においてc-Srcが重要な役割を果たし、この作用の調整はEGFR/MAPキナーゼ経路によって起きるのではなく、またその調整に核受容体作用物質によるc-Src又はEGFR/ERKの活性化も関与しないことを示唆している。これらのデータは、PPARのc-Srcが介在する調節を含む新しい経路を始めて直接的に立証するものである。
【0027】
c-Src及びSrcファミリーキナーゼの公知の役割
代謝疾患及び増殖性疾患の治療における戦略としてPPARを活性化させることに強い関心が向けられているため、c-SrcとPPARの間の全く新しい関連性を同定することで、治療的に介入するための新しい薬として利用可能なターゲットが提供される。Srcキナーゼ、及び他の非受容体チロシンキナーゼ、はこれまでにPPAR活性化、或いは糖尿病、肥満、又は他のメタボリック・シンドロームに関係した症状に関連付けられたことがなく、また、他のいずれの非受容体蛋白チロシンキナーゼも同様である。c-Srcについての簡単な説明を行う。
【0028】
c-Srcは蛋白チロシンキナーゼである。チロシンキナーゼとは、蛋白基質中のチロシン残基へのアデノシン三リン酸の末端リン酸の移動を触媒する酵素である。チロシンキナーゼは基質のリン酸化により数多くの細胞機能についてシグナル伝達における重要な役割を果たすと考えられている。シグナル伝達の正確なメカニズムは未だ明らかではないが、チロシンキナーゼは、細胞増殖、発癌及び細胞分化において重要な要因であることが示されている。
【0029】
チロシンキナーゼは受容体型又は非受容体型に分類することができる。受容体型のチロシンキナーゼは、細胞外部分、経膜部分、及び細胞内部分を有し、非受容体型チロシンキナーゼは完全に細胞内にある。受容体型チロシンキナーゼには種々の生物活性を有する多くの経膜受容体が含まれる。実際に、約20個の異なるサブファミリーの受容体型チロシンキナーゼが同定されている。HERサブファミリーと呼ばれるチロシンキナーゼサブファミリーは、EGFR、HER2、HER3及びHER4を含む。このサブファミリーの受容体のリガンドとしては、上皮成長因子、TGF-.アルファ.、アムフィレグリン、HB-EGF、ベータセルリン及びヘレグリンが挙げられる。これらの受容体型チロシンキナーゼの別のサブファミリーとしてはインシュリンサブファミリーがあり、それはINS-R、IGF-IR及びIR-Rを含む。PDGFサブファミリーはPDGF-.アルファ.、及び.beta.受容体、CSFIR、c-kit及びFLK-IIを含む。また、キナーゼ挿入ドメイン受容体(KDR)、胎児肝臓キナーゼ-1(FLK-1)、胎児肝臓キナーゼ-4(FLK-4)及びfms-様チロシンキナーゼ-1(flt-1)を含むFLKファミリーがある。PDGF及びFLKファミリーは、2つのグループの類似性により通常一緒に考慮される。受容体型チロシンキナーゼの詳細な考察については、Plowman et al., DN & P 7(6):334-339, 1994を参照のこと。この文献を参照により本明細書に含める。
【0030】
非受容体型チロシンキナーゼは、Src、Frk、Btk、Csk、Abl、Zap70、Fes/Fps、Fak、Jak、Ack及びLIMKを含む多数のサブファミリーで構成される。これらのサブファミリーはそれぞれ、さらに多様な受容体に細分割される。Srcサブファミリーは最大のものの1つであり、Src、Yes、Fyn、Lyn、Lck、Blk、Hck、Fgr、及びYrkを含む。FakファミリーはPyk2を含む。チロシンキナーゼ依存の疾患及び症状としては、血管形成、癌、腫瘍成長、アテローム性動脈硬化症、加齢黄斑変性、炎症性疾患などが挙げられると一般に考えられている。非受容体型チロシンキナーゼのより詳細な考察については、Bolen Oncogene, 8:2025-2031 (1993)を参照のこと。この文献を参照により本明細書に含める。糖尿病及び肥満がチロシンキナーゼに関連付けられたことはこれまでに無かった。
【0031】
Srcサブファミリーの酵素は腫瘍形成に関連付けられてきた。Srcが媒介する他の症状としては、高カルシウム血症、骨粗鬆症、変形性関節症、癌、骨転移の対症療法、及びパジェット病が挙げられる。Src蛋白キナーゼ及びその様々な疾患との関連は下記の文献に記述されている:Soriano, Cell, 69, 551 (1992); Soriano et al., Cell, 64, 693 (1991); Takayanagi, J. Clin. Invest., 104, 137 (1999); Boschelli, Drugs of the Future 2000, 25(7), 717, (2000); Talamonti, J. Clin. Invest., 91, 53 (1993); Lutz, Biochem. Biophys. Res. 243, 503 (1998); Rosen, J. Biol. Chem., 261, 13754 (1986); Bolen, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 2251 (1987); Masaki, Hepatology, 27, 1257 (1998); Biscardi, Adv. Cancer Res., 76, 61 (1999); Lynch, Leukemia, 7, 1416 (1993); Wiener, Clin. Cancer Res., 5, 2164 (1999); Staley, Cell Growth Diff., 8, 269 (1997).
【0032】
Srcファミリーのキナーゼはすべて、N末端ミリストイル化サイトと、それに続くそれぞれの個別のキナーゼに特徴的な固有のドメイン、プロリンリッチな配列に結合するSH3ドメイン、フォスフォチロシン含有配列に結合するSH2ドメイン、リンカー領域、触媒ドメイン、及び抑制性チロシンを含有するC末端テールを含んでいる。Srcファミリーのキナーゼの活性はリン酸化によって厳密に調節されている。2個のキナーゼ、Csk及びCtkは抑制性チロシンのリン酸化によってSrcファミリーキナーゼの活性を下方調整することができる。このC末端フォスフォチロシンは次いで分子内相互作用を通してSH2ドメインに結合することができる。この閉じた状態で、SH3ドメインがリンカー領域に結合し、それによりキナーゼドメインに影響を与えるコンフォメーションとなって触媒活性を遮断する。CD45及びSHP-1のような細胞内ホスファターゼによるC末端フォスフォチロシンの脱リン酸化は、Srcファミリーのキナーゼを部分的に活性化することができる。この開いた状態では、Srcファミリーのキナーゼは活性化ループ内に保存されたチロシンにおける分子間自動リン酸化によって完全に活性化することができる。
【0033】
c-Srcの小分子阻害剤は遺伝子サイレンシング作用を模倣する
c-SrcとPPAR-[ガンマ]の間の新規の関連性のために、c-Srcサイレンシング作用がc-Srcキナーゼの小分子阻害剤を用いて模倣することができるかどうかを我々は評価した。もしそうであれば、そのような阻害剤はヒト細胞中でのPPARの活性化の別のアプローチを構成し、従って同様の疾患の治療におけるチアゾリジンジオンに代わるものとなるであろう。
【0034】
我々はこれらの研究のモデル化合物としてPP2を使用した。PP2(4-アミノ-5-(4-クロロフェニル)-7-(t-ブチル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン)は強力なSrcファミリー選択性のチロシンキナーゼ阻害剤である (Hanke, J. H. et al. 1996: J Biol Chem 271, 695-701)。それはp56lck(IC50=4 nM)、p59fynT(IC50=5 nM)、及びHck(IC50=5 nM)を阻害する。PP2は、EGFRキナーゼ(IC50=480 nM)、JAK2(IC50>50 mM)、又はZAP-70(IC50>100 mM)の活性に有意の影響を与えることはない。PP2はさらに、焦点接着キナーゼの活性化及びTyr577におけるそのリン酸化を阻害し、またヒトT細胞の抗-CD3-刺激チロシン・リン酸化を強く阻害する(IC50=600 nM)(Karni, R., et al. 2003. FEBS Lett. 537, 47. Salazar, E.P., and Rozengurt, E. 1999. J. Biol. Chem. 274, 28371)。化合物 4-アミノ-7-フェニルピラゾール[3,4-d]ピリミジンであるPP3は、Srcファミリーの蛋白チロシンキナーゼ阻害剤PP2に対するマイナスの調節因子である。PP3はSrcファミリーのキナーゼに対して不活性であるが、EGFRキナーゼの活性を阻害する(IC50=2.7 mM)(Traxler, P., et al. 1997. J. Med. Chem. 40, 3601)。
【0035】
PD153035 (AG 1517)は化合物4-[(3-ブロモフェニル)アミノ]-6,7-ジメトキシキナゾリンであり、表皮成長因子受容体(EGFR)のチロシンキナーゼ活性の非常に強力で特異的な阻害剤である(IC50=25 pM; Ki=6 pM)。PD153O35は、繊維芽細胞又はヒトの類表皮癌細胞中において低ナノモル濃度でEGFRの自動リン酸化を迅速に抑制する。それはさらに、有糸分裂誘発、初期遺伝子発現、及び腫瘍化形質転換を含む、EGFが介在する細胞プロセスを選択的に遮断する (Bridges, A.J., et al. 1996. J. Med. Chem. 39, 267; Fry, D.W., et al. 1994, Science 265, 1093)。
【0036】
PPAR-[ガンマ]:SRC-1 PCAにより一時的にトランスフェクトしたHEK293細胞を16時間、マイナス血清状態に置いた後、ロシグリタゾンで1.5時間刺激する前に、10μM PP2、10μM PP3、1μM PD 153035又はビヒクルで6.5時間処理した。各薬物の代表的な画像を図4に示す。PP2はPPAR:SRC複合体を7倍増加させた (p<.0001)。c-Srcに対して不活性な、PP2の構造的類似アナログ(PP3)はPPAR-[ガンマ]に効果がなく、そのことはPP2及びc-Src siRNAの作用がc-Src阻害の直接的な結果であることを示していた。PD153035もPPAR:SRCに対して効果を示さず、それは作用機序にEGFが介在していないことを示唆している。
【0037】
糖尿病及び肥満、並びに関連する症状の治療のための候補化合物
疾患治療の候補化合物は、疾患プロセスの既知の調節因子の作用を模倣する化合物である。この点で我々は、ヒト生細胞中でのPPAR-[ガンマ]に対するチアゾリジンジオンの作用を模倣するc-Srcの阻害剤を同定している。TZDはメタボリック・シンドロームの治療に有効であることが証明されているので、c-Src阻害はこのシンドロームの治療に別の手段を提示するものである。特に我々は、Srcファミリーに選択的であって、適切な薬物動態・薬力学的特性を有するリード化合物をここに提供する。
【0038】
図7(A-G)にいくつかの候補化合物を示しており、これら並びに、適当な選択性及び適切なPK及びPD特性を有するそれらの誘導体及びアナログは、本発明による、糖尿病及び肥満の治療のための新規の薬物候補を構成するものである。その他の適当な化合物も参考文献中に見出すことができ、それらの参考文献はその内容全てを本明細書に含める。
【0039】
c-Srcはメタボリックシンドローム疾患に対する創薬においては全く新しいターゲットである。c-Src及びそのファミリーメンバーの選択的阻害剤について新たなスクリーニングを構築することが可能となり、同定されたヒットはこれらの疾患の新しい治療薬の開発に使用することができる。本発明は、c-Src阻害剤のスクリーニングに基づく、糖尿病及び肥満の治療法の同定を規定するものである。上記のスクリーニングを構築するにはキナーゼ活性に対する多くの市販のアッセイを使用することができ、そのようなアッセイ技術は当業者に周知である。上記のスクリーニングからのヒット化合物をその後、他の多様なキナーゼに対してプロファイリングを行い、選択的なc-Src阻害剤を同定することができる。さらに、そのヒット化合物を、ここに提示するような生細胞アッセイで試験し、ヒト細胞中でPPARを活性化する能力を確認することができる。その後、これらの化合物を2型糖尿病と肥満の動物モデルで試験して有効性を確認することができる。
【0040】
Srcキナーゼの活性を直接調節するか、或いはそれ自身がSrcキナーゼによって調節される蛋白チロシンキナーゼは、本発明による糖尿病及び肥満の治療のための新しい代替ターゲットとなる。例えば、Srcをリン酸化して活性化させるキナーゼ、又は別の蛋白をリン酸化してその後その蛋白がSrcを活性化させるキナーゼは本発明による代替ターゲットとなるが、それはそのキナーゼを阻害することによってSrcの活性に変化がもたらされ、我々がここで同定した関連性を通じて、PPARの活性にも変化がもたらされるためである。さらに、Srcによってリン酸化される任意の蛋白、及びSrc及びPPARの間の経路中にある任意の蛋白も本発明下の代替ターゲットである。従って、PPARの活性化に関する代替チロシンキナーゼターゲットとしては、焦点接着キナーゼ(FAK)と関係するPyk-2(RAFTK、CAK-b又はFAK-2としても知られている)が挙げられ、これらの2つのキナーゼはそのアミノ酸配列の約48%が同一であり、それらは、特有のN末端、中心に位置する触媒ドメイン、及びC末端の2つのプロリンリッチ領域を含む類似のドメイン構造を有する。焦点接着キナーゼ(FAK)は、Srcの基質として、及びインテグリンシグナル伝達の重要な要素として発見された非受容体蛋白チロシンキナーゼである。FAKは、細胞拡散、分化、移動、細胞死及び細胞周期のG1からS相への遷移の加速において中心的な役割を果たす。リン酸化部位pTyr397はFAKの自動リン酸化部位である。この部位はSrcファミリーSH2及びフォスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)のp85サブユニットに結合する。FAKはほとんどすべての組織で発現されるが、Pyk-2は主として中枢神経系及び造血系を起源とする細胞及び組織中で発現される。Pyk-2は、Srcファミリー蛋白チロシンキナーゼ、アダプター蛋白Grb2及びp130Cas、パキシリン及びRho-グアニンヌクレオチド交換因子Grafのようないくつかのシグナル伝達分子及び細胞骨格蛋白と相互作用する。一定の刺激に応答して、Pyk-2はさらにマイトジェン活性化プロテイン(MAP)キナーゼファミリーの上流の活性化剤としても機能する。
【0041】
c-SrcとPPAR-[ガンマ]の間の関連性を発見したことで、ここに提供する方法を使用して他の細胞キナーゼのサイレンシングによるPPARへの効果を判定することが比較的簡単な作業となっている。PPAR活性化に関連性が見つかっている他のキナーゼも、チアゾリジンジオンの作用を模倣する作用のような望ましい作用を有する化合物を探す創薬において使用することができる。
【0042】
本発明を用いて、特に、ここで化合物ライブラリーのハイスループットスクリーニングで実証したアッセイを使用して、PPAR-[ガンマ]を活性化する新たな化合物を同定することにより他の新しい化学物質を発見することもできる。同様のアプローチは、PPARとそれらのコアクティベーターの間の複合体を形成するための細胞ベースのPCAを構築することにより、PPARファミリーの他のメンバーに関する新しい経路、ターゲット及びリードを同定するために用いることができる。PCAはまた、生細胞中の蛋白−蛋白複合体を測定するためのただ一つの代用アッセイというわけではない。酵素フラグメント相補性アッセイも同様に使用することができ、これはディスカバーX社(フリーモント、CA)によって提供されるβ-ガラクトシダーゼ相補性技術に基づいている。この目的のための他の一般的なアッセイ法としては、共鳴エネルギー転移アッセイ (FRET及びBRET)が挙げられる。PPARとコアクティベーターを、FRET又はBRETを受ける蛍光蛋白に融合させれば、複合体形成誘導を測定することができる。
【0043】
【表3】
【0044】
以下の特許(その明細書中に記載されている全てを含む)及び公開された特許出願は、それらの対応する外国出願及びそこに引用されている全ての参考文献と共に、それらの参照が当明細書の本文中に示されているのと同等の意味合いで、参照としてそれら全てを本明細書に含める:
【0045】
US 20040161787ハイスループット及びハイコンテントスクリーニングのための蛋白フラグメント相補性アッセイ
US 20040137528蛋白フラグメント相補性アッセイのための蛍光蛋白のフラグメント
US 20040038298生物学的相互作用又は薬物相互作用を検出するための蛋白フラグメント相補性アッセイ
US 20030108869大腸菌TEM-1ベータ‐ラクタマーゼに基づく、蛋白−蛋白、蛋白−小分子、及び蛋白−核酸相互作用を検出するための蛋白フラグメント相補性アッセイ(PCA)
US 20030049688生物学的相互作用又は薬物相互作用を検出するための蛋白フラグメント相補性アッセイ
【0046】
US 20020064769生細胞中に発現した遺伝子ネットワークの動的な映像化
US 20010047526蛋白フラグメント相補性アッセイによる植物中の分子相互作用のマッピング
US 6,428,951生物学的相互作用又は薬物相互作用を検出するための蛋白フラグメント相補性アッセイ
US 6,294,330生物学的相互作用又は薬物相互作用を検出するための蛋白フラグメント相補性アッセイ
US 6,270,964生物学的相互作用又は薬物相互作用を検出するための蛋白フラグメント相補性アッセイ
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、PPAR-[ガンマ]活性化を検出するためのアッセイの構築を示す。ロシグリタゾンは、ヒト細胞における蛍光蛋白フラグメント相補性アッセイ(PCA)によって評価されるように、ヒト細胞中でPPARガンマ:SRC1複合体を増加させる。
【図2】図2は、15μMロシグリタゾンの存在下において既知の遺伝子を個別にサイレンシングすることによるPPAR-[ガンマ]:SRC-1複合体に対する効果を示す。100個以上の個々の遺伝子を、PPAR-[ガンマ]及びSRC-1フラグメントの融合体をコード化するPCA DNAと共に各siRNAプールを共トランスフェクトすることにより、siRNA Smart Pools(ダーマコン社)でサイレンシングした。細胞は画像分析に先立ち、90分間15μM ロシグリタゾンで刺激した。画像は自動顕微鏡によって取得し、細胞中の蛋白−蛋白複合体の数を示す各画像の蛍光強度を画像分析によって定量した。結果は各アッセイについて、対照siRNAに対する%で示す。サイレンシングによる最も大きなプラスの効果は、非受容体チロシンキナーゼであるc-SrcをターゲットとするsiRNAについて観察された。PPAR-[ガンマ]自身のサイレンシングによりPPAR-[ガンマ]はうまくノックダウンされ、複合体が除去された。
【図3】図3は、ロシグリタゾンの非存在下及び存在下での遺伝子サイレンシングの効果を示す顕微鏡写真である。対照siRNAの存在下で、ロシグリタゾンは細胞中のPPAR-[ガンマ]:SRC-1複合体を増加させる(上パネル)。PPAR-[ガンマ]をターゲットとするsiRNAはロシグリタゾンの非存在下及び存在下でPPAR-[ガンマ]:SRC-1複合体を消滅させる(中パネル)。蛋白チロシンキナーゼc-SrcをターゲットとするsiRNAはロシグリタゾンの非存在下でもPPAR-[ガンマ]:SRC-1複合体を増加させ、ロシグリタゾンの存在下ではPPAR-[ガンマ]:SRC-1複合体を大量に誘導する(下パネル)。同様の結果が、3つの別々の実験から得られた。
【図4】図4は、c-Srcファミリーキナーゼの選択的で強力な阻害化合物(PP2)が、PPAR-[ガンマ]に対するc-Src siRNAの効果を模倣することを示す。c-Srcに対して不活性なキナーゼ阻害剤 (PP3及びPD153O35)はPPAR-[ガンマ]に対して効果を示さない。
【図5】図5は、ヒト細胞中におけるPPAR-[ガンマ]:SRC-1に対するキナーゼ阻害剤の効果の定量化を示す。方法は図4で記述した通りである。各薬物処理についてプロットされたデータは、最低3回の独立した実験における4個ずつのウェルから得られた平均(PPM)及び標準誤差を表す。PP2の効果だけがDMSO対照に対して統計的に有意差を示した (p<.0001)。
【図6】図6は、ERKのリン酸化状態に対するキナーゼ阻害剤及びグリタゾンの作用を示す図である。左側パネル:PP2、PP3、PD 153035又はPD 98059と組み合わせて、EGF(レーン1)又はロシグリタゾン(レーン2-6)で刺激したHEK293細胞におけるp44/42 MAPK/ERKのリン酸化状態のウェスタンブロット。HEK293細胞を一晩、マイナス血清状態に置いた後、ロシグリタゾンで5分刺激する前に、DMSO、10μM PP2若しくはPP3、1μM PD 153035又は20μM PD 98059で1時間処理した。EGF(100 ng/ml、5分)で刺激した細胞を、陽性対照として使用した。右側パネル:Hep3B細胞を一晩、マイナス血清状態に置いた後、PPAR-[ガンマ]作用物質であるロシグリタゾン、トログリタゾン、及びシグリタゾン(各50μM)で表示された時間、処理した。p44/42 MAPK/ERKのリン酸化状態を、非刺激状態の(基礎)、又はビヒクル処理した (DMSO)細胞抽出液のそれと比較した。
【図7】図7(A−G)は、糖尿病、肥満、及びメタボリックシンドロームに伴うその他の症状を治療するための候補化合物を示す。本発明によるメタボリックシンドローム疾患の治療用の候補化合物であるc-Srcキナーゼ阻害剤の代表的な化合物名、構造及び作用機序を(公知の場合)示している。PP2 (AG1879) の構造は、図7Cに示す。本発明で有用なその他の化合物は表3及び参考文献中に示され、それらの全てを参照により本明細書に含める。
【技術分野】
【0001】
本出願は、2004年10月29日出願の米国仮出願No.60/622,801、発明の名称「糖尿病及び肥満の治療のためのキナーゼ阻害剤」に基づいて35 U.S.C. セクション119による優先権を主張するものであり、その開示の全てを参照により本明細書に含める。
【背景技術】
【0002】
メタボリック・シンドロームは米国の成人人口の約4分の1、つまり約5000万人に影響していると推測されることから大きな健康問題となっている。インシュリン抵抗症候群と呼ばれることもあるメタボリック・シンドロームは、中心性肥満;高トリグリセリド及び低HDLレベル;血圧上昇;インシュリン耐性又はブドウ糖非耐性;前血栓状態;並びに前炎症状態を含めた症状の集合によって特徴づけられる。これらの危険因子のうちのいくつか又は全てが存在することにより、2型糖尿病と同様に、冠動脈性心疾患、末梢血管疾患及び脳卒中のような心疾患のリスクが個人において増加する。推定では、全ての2型糖尿病患者の半分以上がメタボリック・シンドロームの特徴を持つことが示唆されている。
【0003】
2型糖尿病用の現在販売されている治療薬は、より一般的にはグリタゾンと呼ばれるチアゾリジンジオン(TZD)類化合物の経口薬剤である。それらは、アバンディア及びアクトスの名称でそれぞれスミスクライン・ビーチャム社及びイーライ・リリー社によって販売されている。TZDは、ヒト及び動物の2型糖尿病モデルにおいてインシュリン反応性を増加させる。TZDの代謝作用は全てではないにしてもほとんどがペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体(PPAR)の特異的結合及び活性化を通じて発揮される。PPARはリガンド活性化転写因子の核受容体スーパーファミリーに属する。PPARファミリーは近縁関係にあるPPAR-[アルファ]、-[ガンマ]、及び-[ベータ]を含む。PPARは、それらのリガンドの作用を転写応答に変換し、それにより脂質及びグルコースの代謝、脂肪細胞分化、炎症反応並びにエネルギー・ホメオスタシスにおける重要な調整体として働く。
【0004】
同族のリガンドによって活性化された場合、PPARはもう一つのステロイド受容体であるレチノイド受容体X(RXR)とヘテロダイマーを形成する。その後、この蛋白複合体は特定のDNA応答要素において直接相互作用することにより、又は他の転写因子に結合することにより代謝関連遺伝子の発現を誘導する。これらの相互作用を通じて、PPAR蛋白は食事因子の過多及び不足の両方に対する細胞応答という、ホメオスタシスの維持に必要不可欠な過程を調節する。
【0005】
PPARのアイソフォームはそれぞれ、全身の代謝の中で別々の役割を果たす。それぞれの組織分布が機能のこの多様性を説明している:PPARαは、肝臓、心臓、腎臓、及び代謝が亢進している他の組織で見られる。PPAR-[アルファ]は、高トリグリセリド・レベルを下げるために広く処方される薬物であるフィブラートの分子ターゲットである。分子レベルでは、フィブラートはリポ蛋白及び脂肪酸代謝に影響する多くの遺伝子の転写を調節する。一方、PPARγは脂肪組織及び免疫系に関係する組織中に主に存在する。PPAR-[ガンマ]は、もともと2型糖尿病の治療用に開発されたレズリン(トログリタゾン)、アバンディア(ロシグリタゾン)及びアクトス(ピオグリタゾン)を含むTZDの分子ターゲットである。PPARβは、αとγの両者よりもより広く発現される。その機能は多くは未知である。PPARαとγは重要な生物学的過程の中心的なレギュレータであることが認められている。PPARの機能の中断、例えばPPARα中のL162V突然変異やPPARγ中のP12A突然変異のような突然変異による中断は、心疾患、糖尿病及び癌のような重篤なヒト病態の進行に関係している。糖尿病患者は、高血糖作用だけでなく、関係する代謝経路の平衡失調と、その結果、高トリグリセリド血症と高コレステロール血症も患うことになる。一般に、メタボリック・シンドロームを完全に管理するためにはいくつかの薬物を同時に摂取しなければならない。現在利用可能な治療計画は、グリタゾンを用いてグルコースを低下させるか、又はスタチン(リピトール、クレストール又はゾコール)を用いる等によりコレステロールを低下させることを主に目指している。新しい小分子PLX204(プレキシコン社)のような、より新しいpan-PPAR-作用物質は3つの関連するターゲット、すなわち、PPAR-[アルファ]、-[デルタ]及び[ガンマ]の機能を調整して、ブドウ糖、トリグリセリド及び遊離脂肪酸を低下させ、高密度リポ蛋白(HDL)を増加させることを目的としている。
【0006】
PPAR-[ガンマ]作用物質は2型糖尿病患者の血糖値を下げることについて有効性が証明されているが、それらはすべての患者にとって安全というわけではない。米国食品医薬品局によって最初に承認された化合物であるトログリタゾンは、数十の死亡例又は肝移植を必要とする重症肝不全の症例が報告されて市場から撤退した。肝毒性がこの薬物群の作用なのか、あるいはトログリタゾン特有の性質に関係するものなのかどうかは明らかになっていない。TZD類は全て体液貯留に関連付けられており、それはうっ血性心不全を悪化させたり、又はその一因となりうる。過去の臨床試験は、インシュリンとアバンディア又はアクトスを投与した患者は、インシュリン単独の患者と比較して、心不全及び他の心臓血管の有害作用の発生率が高くなることを示している。
【0007】
これらの受容体は十分に確立された治療ターゲットではあるが、それらはその天然のリガンドが未だわかっていないという意味において「オーファン」受容体である。もっとも、小分子リガンドによるそれらの活性化メカニズムは広い範囲で特徴づけられている。PPARのカルボキシ末端部分は、リガンド結合により活性形態に変わると、コアクティベーター蛋白を補充しターゲット遺伝子の転写を活性化する分子スイッチとして機能するリガンド結合ドメインを含んでいる。同定され特性決定されるコアクティベーター及びコリプレッサーの数が増えるにつれて、受容体機能の正確な組み合わせによる調節が示唆されている。ステロイド受容体コアクティベーター(SRC)ファミリーと呼ばれる160-kDa蛋白ファミリーのメンバーはリガンド依存的な様式でPPARと相互作用する。SRCファミリーには蛋白SRC1/NCOA1、TIF2/GRIP1及びpCIP/A1B1/ACTR/RAC/TRAM-1が含まれる。その他に、プロテアーゼ活性を有する蛋白やコアクティベーターとして機能すると思われるRNAを含む30を超える補助因子と推定されるものが同定されているため、種々の蛋白複合体が、特にDNA-受容体相互作用の迅速なターンオーバーという証拠を見ると、連続的、組み合わせ、又は並行のいずれかの様式で作用できると考えられる。
【0008】
内在性PPARの活性化を制御するシグナル伝達経路も大部分は特性決定がなされていない。わずかな手掛かりが表皮増殖因子(EGF)依存性経路に関する研究から得られている。EGF受容体(EGFR)キナーゼは、多くの刺激(G蛋白受容体活性化、紫外線、過酸化物及び他の細胞シグナル)によって「トランスアクティベート(転写促進)」される。これをEGF自身のシグナルのような典型的なシグナルから区別するのは、それがリガンド−非依存性であるか、あるいは細胞表面からのEGF様リガンドの蛋白分解的解離を伴うことである。最近の研究で、グリタゾンがラット肝臓上皮細胞中のEGFRトランスアクチベーションを誘導することが証明された。さらに、これらの化合物はEGFR依存性及び非依存性の両方のメカニズムによりERK及びp38 MAPKの急速な活性化をもたらした。これらの研究から、PPAR作用物質がこれらの化合物に対する細胞の反応に影響を及ぼすと考えられる「非ゲノム性」事象を誘発することが示唆された。
【0009】
PPAR類の詳細な作用機序、ヒト細胞におけるそれらの調節、及びそれらの活性を制御する経路を解明することにより、治療的な介入におけるターゲットとなることができる全く新しい生化学メカニズムが明らかになるであろう。重要なことには、新しいターゲットが確認されることにより、ヒトにおいて安全性と有効性が改善された新しいクラスの治療薬の発見が可能になるに違いない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段】
【0010】
発明の要約
本発明は、Src阻害剤又はSrcファミリー阻害剤を用いて病気を治療又は予防する方法であって、そのような処置を必要とする患者に治療上有効な量の化合物又はその医薬用組成物を投与することを含む方法に関する。従って、本発明は、糖尿病又は肥満、或いはそれらに関連した症状又は合併症や他の新生物の患者を、インシュリン感受性を改善させるか又は血糖値を低下させるために或いは減量を助けるために十分な量の蛋白チロシンキナーゼ阻害剤を投与することにより治療するための方法を特徴とし、上記阻害剤は単独又は他の医薬品と組み合わせて、或いは食餌療法や運動と組み合わせて投与されることもある。ここに提供される医薬組成物は、インシュリンと共に、並びに脂質低下剤、コレステロール低下剤及び/又は血圧降下剤と共に投与してもよい。以下に述べる本発明の方法のいずれかにより改善が期待される症状としては、糖尿病;肥満;高トリグリセリド血症;高血圧;インシュリン耐性又はブドウ糖非耐性;糖尿病性網膜症;糖尿病性神経障害;前血栓状態;及び前炎症状態が挙げられる。さらに、処置の方法としてはこれらの症状の素因がある個体におけるこれらの症状の予防、又は発症の遅延が挙げられる。本発明はさらに、これらの症状の治療薬の開発に併せて使用することができる既知の蛋白チロシンキナーゼ阻害剤や特にc-Src阻害剤である多数の化合物、並びにそれらに関連したコア構造及び骨格を提供するものである。本発明はまた、糖尿病及び肥満、並びに関連する合併症の治療及び予防のための小サイズの干渉用RNA、アンチセンス及びRNAi組成物を提供するものである。
【0011】
本発明はまた、糖尿病及び肥満に対する創薬のターゲットを特色とし、さらに、糖尿病及び肥満の治療用の新たな治療薬を同定する方法、とりわけ、そのもの自身がPPARのリガンドであるか又は細胞経路中のPPARの上流のターゲットに作用することにより代用薬として作用する化合物を同定するためのハイスループット及びハイコンテント・スクリーニング中に使用することができる細胞ベースのアッセイを特色とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
発明の詳細な説明
転写因子のPPARファミリーを制御する経路中に新たなターゲットが同定されれば、ヒトにおける安全性及び有効性が改善された新しいクラスの治療薬の発見が可能になると考えられる。RNA干渉(RNAi)による遺伝子サイレンシングは、新しい治療用ターゲットを同定し確認する上で直ちに役立つものとなる。遺伝子サイレンシングはまた、治療用の戦略として長期的な可能性を有するものである。RNAi戦略は二本鎖RNA(dsRNA)の特性に依存して非常に特異的なRNA分解の内在性細胞プロセスを活性化させる。サイレンシングが有効な場合、ターゲットのRNAiによってコードされている蛋白はノックダウン(停止)されるであろう;そして、ノックダウンの生化学的又は表現型としての結果を評価することができる。RNAiはこのように、特定の遺伝子を細胞シグナル伝達ネットワーク中のそれらの機能的な役割に関連付け、かつ細胞プロセスに直接関係する可能性を持つ蛋白を同定するために使用することができる。遺伝子が経路上でプラスの作用又は活性化作用を持つならば、その遺伝子のサイレンシングはその経路のプラスの調節を遮断することが予想されるであろう。それに対して、遺伝子が経路の下流の要素にマイナスの作用又は抑制的作用を持つならば、その遺伝子のサイレンシングはその経路上の遮断を除去することが予想されるであろう。
【実施例】
【0013】
PPAR活性化を測定するアッセイの構築
我々はまず、生細胞中におけるPPAR-[ガンマ]に対するアッセイを構築した。我々はPPAR-[ガンマ]とそのコアクティベーターであるSRC-1の間で形成される複合体についてレポートするように設計された蛋白フラグメント相補性アッセイ(PCA)を使用した。
【0014】
PCAは2つの蛋白の相互作用が、再構成されたレポーターの再折りたたみ及び活性化を容易にするように、全長細胞蛋白を、合理的切断レポーターフラグメントに融合させることを含む。ここで使用するPCAレポーターは、動的な相互作用と細胞内移動のリアルタイムな追跡とともに低レベルに発現される蛋白の検出も可能にするYFPの強力な蛍光性変異体に基づいている。このPCAはPPAR-[ガンマ]がSRC-1と相互作用する際に蛍光シグナルが発生するように設計された。
【0015】
PCA用のレポーターフラグメントはオリゴヌクレオチド合成により作成した(ブルー・ヘロン・バイオテクノロジー社、ボセル、WA)。最初に、ポリペプチドフラグメントYFP[1]及びYFP[2] (YFPのアミノ酸1-158及び159-239に対応する)をコードするオリゴヌクレオチドを合成した。次に、PCR突然変異誘発を変異体フラグメントIFP[1]及びIFP[2]を産生させるために使用した。IFP[1]フラグメントはYFP[1]-(F46L、F64L、M153T)に対応し、IFP[2]フラグメントはYFP[2]-(V163A、S175G)に対応する。これらの突然変異は完全なYFP蛋白の蛍光強度を増加させることが示されている(Nagai et al., 2002)。以下に述べるような、問題の遺伝子を各レポーターフラグメントの5'-末端又は3'-末端のいずれかに融合させることができる配置をとる制限部位及びリンカー配列を組込むように、YFP[1]、YFP[2]、IFP[1]及びIFP[2]フラグメントをPCRにより増幅した。レポーター・リンカー・フラグメントカセットは、エプスタイン・バー・ウイルス(EBV)の複製起点(oriP)を組込むように修飾された哺乳動物発現ベクター(pcDNA3.1Z、インビトロジェン社)中にサブクローニングされた。oriPは、HEK293E細胞(293-EBNA、インビトロジェン社)のようなEBNA1遺伝子を発現させる細胞株中でのこれらの修飾ベクターのエピゾーム複製を可能にする。さらに、これらのベクターはSV40起点も保持しており、SV40ラージT抗原(例えば、HEK293T、Jurkat又はCOS)を発現させる細胞株中でのエピゾーム発現が可能である。変異したレポーターフラグメントの完全性及び新しい複製起点は配列決定によって確認された。
【0016】
PCA融合構築体を、転写複合体の成分として相互作用することが知られているPPAR-[ガンマ]とSRC-1について調製した(表1)。各遺伝子の完全長をコードする配列を、配列が確認されている完全長cDNAからのPCRによって増幅した。得られたPCR生成物をカラム精製し(セントリコン社)、指向性のクローニングが可能になるように適当な制限酵素で切断し、フレキシブルな10アミノ酸ペプチド(Gly.Gly.Gly.Gly.Ser)2をコード化するリンカーによりYFP[1]、YFP[2]、IFP[1]又はIFP[2]の5'末端又は3'-末端のいずれかにインフレーム融合させた。このフレキシブルリンカーにより確実に、融合体の配向性/配置がレポーターフラグメントを隣接部に運ぶのに最適なものとなる(Pelletier et al., 1998)。宿主株であるDH5-alpha(インビトロジェン社、カールスバード、CA)又はXL1 Blue MR (ストラタジーン社、ラ・ホーヤ、CA)中の組換え体を、コロニーPCRによってスクリーニングし、正確なサイズのインサートを含んでいるクローンを、問題の遺伝子の存在と適当なレポーターフラグメントのインフレーム融合を確認するために最終配列決定にかけた。融合構築体のサブセットをプライマーウォーキングによる完全インサート配列決定用に選択した。DNAはQiagen MaxiPrepキット(キアゲン社、チャッツワース、CA)を使用して単離した。PCRは適当な遺伝子特異的プライマーとレポーター特異的プライマーを組み合わせることにより、適正な遺伝子融合体が適正なサイズで内部欠失のない状態で存在することを確認して、各融合構築体の完全性を評価するために使用した。
【0017】
【表1】
【0018】
HEK293細胞を、10%FBS(ジェミニ・バイオ-プロダクツ社)、1%ペニシリン及び1%ストレプトマイシンを追加したMEMアルファ培地(インビトロジェン社)中で継代し、5%CO2で平衡化した37℃インキュベータ中で生育させた。トランスフェクションの約24時間前に、細胞を96ウェルのploy-D-Lysineコーテッドプレート(グライナー社)中にマルチドロップ384ペリスタル型ポンプシステム(サーモ・エレクトロン社、ウォルサム、Mass)を用いて7,500細胞/ウェルの密度で接種した。最大で100ngの相補性フラグメント融合ベクターをFugene 6(ロッシュ社)を用いて製造元のプロトコールに従って共トランスフェクトした。48時間の発現の後に、細胞を蛍光シグナルの存在について試験した。
【0019】
図1に示すように、無処理(模擬トランスフェクション又は刺激せず)の場合、限られた数の細胞に低レベルの蛍光が見られたのみであった。15μMロシグリタゾンで90分刺激すると、アッセイの蛍光強度は6倍に増加し、これは予想されたようにPPAR-[ガンマ]とそのコアクティベーターであるSRC-1の間の複合体形成が増加したことを示すものであった。これらの結果は、選択されたアッセイが既知のリガンドに対する生細胞中のPPARの反応活性を正確にレポートしていることを証明するものである。
【0020】
PPAR活性化に関連したターゲットの同定
次に我々は、サイレンシングされると、PPAR-[ガンマ]に対するロシグリタゾンに似た作用を示す遺伝子の同定を目指した。そのような遺伝子はすなわちPPAR-[ガンマ]に対するマイナスの調節因子であり、創薬における代替ターゲットとして役立てることができる。そのようなターゲットが薬として利用可能であれば、PPAR-[ガンマ]:SRC-1複合体(今後、簡潔のためにPPAR:SRCと称する)の増加によって評価されるようにPPAR-[ガンマ]を間接的に活性化する小分子阻害剤を見つけることができるであろう。従ってそのような分子は、ロシグリタゾンや他のPPARのTZD及び非TZD活性化剤に代わる薬物となるであろう。
【0021】
我々は、細胞シグナル伝達ネットワーク中の治療に関連性を持つターゲットの多種多様なセットを系統的にサイレンシング処理し、無傷のヒト(HEK293)細胞におけるPPAR:SRC複合体に対する効果を評価した。107個のターゲットとなるsiRNAプールを含むパネルを、細胞中の重要なシグナル伝達経路及びプロセスの成分をターゲットとするように設計し(表2を参照)、それには特定のPI3K/Akt-、RAS/MAPK-及びNF[カッパ]B-介在経路;並びに、DNA損傷応答、細胞周期、アポトーシス調整因子及び核ホルモン受容体シグナル伝達の基礎となる経路が含まれている。サイレンシング処理された遺伝子は個々に、受容体、アダプター、蛋白キナーゼ及びホスファターゼ、ヒートショックプロテイン、ヒストン・デアセチラーゼ、ユビキチン・リガーゼ、細胞周期及び細胞骨格蛋白をコードしている。
【0022】
【表2】
【0023】
上記の遺伝子及び2個の「GC-マッチ」非特異的siRNAs (ダーマコン社、ボールダー、CO)をターゲットとするように設計された107個の siRNA SMARTプールを製造元の説明書に従って再懸濁した。PCA融合レポーター構築体を上記のように製造した。トランスフェクションは、リポフェクタミン2000(インビトロジェン社)及びウェル1個当り100 ngの核酸(各融合構築体は最大50 ng、及び40 nM最終濃度の適切なsiRNA SMARTプール)を加えてHEK293細胞中で行った。各スクリーニングについて、上記PPAR:SRC PCAを含むアッセイが4枚の96ウェルプレートとなるようにトリプリケートに分注してトランスフェクションを行った。各96ウェルプレートには5個の内部対照、すなわち、模擬(PCAせず)、siRNAせず、非特異的siRNA対照IX及びXI(それぞれ47%及び36%のGC含有量)、並びにPCA特異的対照(作用物質で処理したアッセイについて刺激の程度を確認するため)を含めた。最適なsiRNA濃度を4つの異なるPCAにおけるsiGFP(ダーマコン社)及び非特異的siRNA対照の作用評価により決定した。
【0024】
トランスフェクションの48時間後、ディスカバリー-1自動蛍光画像処理機(モレキュラー・ディバイシーズ社)で画像取得する前に細胞を固定しヘキストで染色した。1ウェル当たり4個のオーバーラップしない細胞集団(スキャン)の画像を得るために以下のフィルターセットを使用した:励起フィルター 480/40nm、発光フィルター 535/50nm(YFP);励起フィルター 360/40nm、発光フィルター 465/30nm(ヘキスト)。所定のアッセイにおける全ての画像を得るために各波長について一定の露光時間を使用した。ImageJ API/ライブラリー(http://rsb.info.nih.gov/ij/、NIH、MD)からのモジュールを使用して16ビットのグレイスケールTIFFフォーマットでの未加工画像を分析した。各アッセイにおける画像のトレーニングセットに基づいて、3つのアルゴリズムを評価して特定のアッセイに最も適したものを同定した。ヘキスト及びYFPチャンネルからの画像をローリングボールアルゴリズム[45]を使用して標準化した後、各チャンネルで閾値処理してバックグラウンドからフォアグラウンドを分離した。パーティクル・アナライザー(ImageJ)に基づく反復性アルゴリズムを、閾値処理したヘキスト画像(THI)に適用して核マスクを作成した。THIは核マスク(NM)を定義するために使用し、NM中にありユーザ定義の閾値を上回るYIからの陽性ピクセルをすべてサンプリングした。陽性ピクセルの合計を閾値に対して補正し、THIのエリアに標準化して、「Nuc合計」を得た。各サンプルのNuc合計は、人為的蛍光を伴うスキャンを除外するために2SDフィルターを適用した後の最低12個のスキャンからの平均値を表わす。各siRNAの作用の統計的有意差は、各サンプルにつき最低3個のウェル上で単一因子ANOVAを行なうことにより決定され、≦0.05のp値を有意差ありとした。最初のスクリーニングで検出された有意の作用(対照よりも>40%の変化、かつp≦0.05)は、さらに2回のトランスフェクションについてトリプリケートで反復した。
【0025】
系統的遺伝子サイレンシングの結果
図2はPPAR-[ガンマ]:SRC-1に対する個々の遺伝子のサイレンシングによる効果を示しており、結果は遺伝子サイレンシングがPPAR:SRC複合体の数を増加させたか減少させたかによって左から右にランク付けられている。PPAR自身のサイレンシングは、予想されたように、PPAR:SRC PCAからのシグナルを除去した対照を表した。図2に示されるように、非受容体チロシンキナーゼであるc-srcのサイレンシングによって、PPAR:SRCシグナル伝達複合体の最も劇的な誘導を我々は観察した。(用語に関して言えば、頭字語が同じでも、癌原遺伝子c-srcは核受容体コアクティベーターSRC-1とは全く異なるものである。)ロシグリタゾンの存在下で、siRNAが媒介するc-srcのノックダウンにより、対照siRNAと比較してPPAR:SRCは8倍以上に増加した。同様の効果はPPAR-[ガンマ]:RXR-[アルファ]複合体についても得られ(表示なし)、それはその効果にPPAR-[ガンマ]が介在していることを示している。
【0026】
c-SrcのPPAR-[ガンマ]との関連性には新しい経路が含まれる
我々の結果は、PPARの活性の調整においてc-Srcが重要な役割を果たし、この作用の調整はEGFR/MAPキナーゼ経路によって起きるのではなく、またその調整に核受容体作用物質によるc-Src又はEGFR/ERKの活性化も関与しないことを示唆している。これらのデータは、PPARのc-Srcが介在する調節を含む新しい経路を始めて直接的に立証するものである。
【0027】
c-Src及びSrcファミリーキナーゼの公知の役割
代謝疾患及び増殖性疾患の治療における戦略としてPPARを活性化させることに強い関心が向けられているため、c-SrcとPPARの間の全く新しい関連性を同定することで、治療的に介入するための新しい薬として利用可能なターゲットが提供される。Srcキナーゼ、及び他の非受容体チロシンキナーゼ、はこれまでにPPAR活性化、或いは糖尿病、肥満、又は他のメタボリック・シンドロームに関係した症状に関連付けられたことがなく、また、他のいずれの非受容体蛋白チロシンキナーゼも同様である。c-Srcについての簡単な説明を行う。
【0028】
c-Srcは蛋白チロシンキナーゼである。チロシンキナーゼとは、蛋白基質中のチロシン残基へのアデノシン三リン酸の末端リン酸の移動を触媒する酵素である。チロシンキナーゼは基質のリン酸化により数多くの細胞機能についてシグナル伝達における重要な役割を果たすと考えられている。シグナル伝達の正確なメカニズムは未だ明らかではないが、チロシンキナーゼは、細胞増殖、発癌及び細胞分化において重要な要因であることが示されている。
【0029】
チロシンキナーゼは受容体型又は非受容体型に分類することができる。受容体型のチロシンキナーゼは、細胞外部分、経膜部分、及び細胞内部分を有し、非受容体型チロシンキナーゼは完全に細胞内にある。受容体型チロシンキナーゼには種々の生物活性を有する多くの経膜受容体が含まれる。実際に、約20個の異なるサブファミリーの受容体型チロシンキナーゼが同定されている。HERサブファミリーと呼ばれるチロシンキナーゼサブファミリーは、EGFR、HER2、HER3及びHER4を含む。このサブファミリーの受容体のリガンドとしては、上皮成長因子、TGF-.アルファ.、アムフィレグリン、HB-EGF、ベータセルリン及びヘレグリンが挙げられる。これらの受容体型チロシンキナーゼの別のサブファミリーとしてはインシュリンサブファミリーがあり、それはINS-R、IGF-IR及びIR-Rを含む。PDGFサブファミリーはPDGF-.アルファ.、及び.beta.受容体、CSFIR、c-kit及びFLK-IIを含む。また、キナーゼ挿入ドメイン受容体(KDR)、胎児肝臓キナーゼ-1(FLK-1)、胎児肝臓キナーゼ-4(FLK-4)及びfms-様チロシンキナーゼ-1(flt-1)を含むFLKファミリーがある。PDGF及びFLKファミリーは、2つのグループの類似性により通常一緒に考慮される。受容体型チロシンキナーゼの詳細な考察については、Plowman et al., DN & P 7(6):334-339, 1994を参照のこと。この文献を参照により本明細書に含める。
【0030】
非受容体型チロシンキナーゼは、Src、Frk、Btk、Csk、Abl、Zap70、Fes/Fps、Fak、Jak、Ack及びLIMKを含む多数のサブファミリーで構成される。これらのサブファミリーはそれぞれ、さらに多様な受容体に細分割される。Srcサブファミリーは最大のものの1つであり、Src、Yes、Fyn、Lyn、Lck、Blk、Hck、Fgr、及びYrkを含む。FakファミリーはPyk2を含む。チロシンキナーゼ依存の疾患及び症状としては、血管形成、癌、腫瘍成長、アテローム性動脈硬化症、加齢黄斑変性、炎症性疾患などが挙げられると一般に考えられている。非受容体型チロシンキナーゼのより詳細な考察については、Bolen Oncogene, 8:2025-2031 (1993)を参照のこと。この文献を参照により本明細書に含める。糖尿病及び肥満がチロシンキナーゼに関連付けられたことはこれまでに無かった。
【0031】
Srcサブファミリーの酵素は腫瘍形成に関連付けられてきた。Srcが媒介する他の症状としては、高カルシウム血症、骨粗鬆症、変形性関節症、癌、骨転移の対症療法、及びパジェット病が挙げられる。Src蛋白キナーゼ及びその様々な疾患との関連は下記の文献に記述されている:Soriano, Cell, 69, 551 (1992); Soriano et al., Cell, 64, 693 (1991); Takayanagi, J. Clin. Invest., 104, 137 (1999); Boschelli, Drugs of the Future 2000, 25(7), 717, (2000); Talamonti, J. Clin. Invest., 91, 53 (1993); Lutz, Biochem. Biophys. Res. 243, 503 (1998); Rosen, J. Biol. Chem., 261, 13754 (1986); Bolen, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 2251 (1987); Masaki, Hepatology, 27, 1257 (1998); Biscardi, Adv. Cancer Res., 76, 61 (1999); Lynch, Leukemia, 7, 1416 (1993); Wiener, Clin. Cancer Res., 5, 2164 (1999); Staley, Cell Growth Diff., 8, 269 (1997).
【0032】
Srcファミリーのキナーゼはすべて、N末端ミリストイル化サイトと、それに続くそれぞれの個別のキナーゼに特徴的な固有のドメイン、プロリンリッチな配列に結合するSH3ドメイン、フォスフォチロシン含有配列に結合するSH2ドメイン、リンカー領域、触媒ドメイン、及び抑制性チロシンを含有するC末端テールを含んでいる。Srcファミリーのキナーゼの活性はリン酸化によって厳密に調節されている。2個のキナーゼ、Csk及びCtkは抑制性チロシンのリン酸化によってSrcファミリーキナーゼの活性を下方調整することができる。このC末端フォスフォチロシンは次いで分子内相互作用を通してSH2ドメインに結合することができる。この閉じた状態で、SH3ドメインがリンカー領域に結合し、それによりキナーゼドメインに影響を与えるコンフォメーションとなって触媒活性を遮断する。CD45及びSHP-1のような細胞内ホスファターゼによるC末端フォスフォチロシンの脱リン酸化は、Srcファミリーのキナーゼを部分的に活性化することができる。この開いた状態では、Srcファミリーのキナーゼは活性化ループ内に保存されたチロシンにおける分子間自動リン酸化によって完全に活性化することができる。
【0033】
c-Srcの小分子阻害剤は遺伝子サイレンシング作用を模倣する
c-SrcとPPAR-[ガンマ]の間の新規の関連性のために、c-Srcサイレンシング作用がc-Srcキナーゼの小分子阻害剤を用いて模倣することができるかどうかを我々は評価した。もしそうであれば、そのような阻害剤はヒト細胞中でのPPARの活性化の別のアプローチを構成し、従って同様の疾患の治療におけるチアゾリジンジオンに代わるものとなるであろう。
【0034】
我々はこれらの研究のモデル化合物としてPP2を使用した。PP2(4-アミノ-5-(4-クロロフェニル)-7-(t-ブチル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン)は強力なSrcファミリー選択性のチロシンキナーゼ阻害剤である (Hanke, J. H. et al. 1996: J Biol Chem 271, 695-701)。それはp56lck(IC50=4 nM)、p59fynT(IC50=5 nM)、及びHck(IC50=5 nM)を阻害する。PP2は、EGFRキナーゼ(IC50=480 nM)、JAK2(IC50>50 mM)、又はZAP-70(IC50>100 mM)の活性に有意の影響を与えることはない。PP2はさらに、焦点接着キナーゼの活性化及びTyr577におけるそのリン酸化を阻害し、またヒトT細胞の抗-CD3-刺激チロシン・リン酸化を強く阻害する(IC50=600 nM)(Karni, R., et al. 2003. FEBS Lett. 537, 47. Salazar, E.P., and Rozengurt, E. 1999. J. Biol. Chem. 274, 28371)。化合物 4-アミノ-7-フェニルピラゾール[3,4-d]ピリミジンであるPP3は、Srcファミリーの蛋白チロシンキナーゼ阻害剤PP2に対するマイナスの調節因子である。PP3はSrcファミリーのキナーゼに対して不活性であるが、EGFRキナーゼの活性を阻害する(IC50=2.7 mM)(Traxler, P., et al. 1997. J. Med. Chem. 40, 3601)。
【0035】
PD153035 (AG 1517)は化合物4-[(3-ブロモフェニル)アミノ]-6,7-ジメトキシキナゾリンであり、表皮成長因子受容体(EGFR)のチロシンキナーゼ活性の非常に強力で特異的な阻害剤である(IC50=25 pM; Ki=6 pM)。PD153O35は、繊維芽細胞又はヒトの類表皮癌細胞中において低ナノモル濃度でEGFRの自動リン酸化を迅速に抑制する。それはさらに、有糸分裂誘発、初期遺伝子発現、及び腫瘍化形質転換を含む、EGFが介在する細胞プロセスを選択的に遮断する (Bridges, A.J., et al. 1996. J. Med. Chem. 39, 267; Fry, D.W., et al. 1994, Science 265, 1093)。
【0036】
PPAR-[ガンマ]:SRC-1 PCAにより一時的にトランスフェクトしたHEK293細胞を16時間、マイナス血清状態に置いた後、ロシグリタゾンで1.5時間刺激する前に、10μM PP2、10μM PP3、1μM PD 153035又はビヒクルで6.5時間処理した。各薬物の代表的な画像を図4に示す。PP2はPPAR:SRC複合体を7倍増加させた (p<.0001)。c-Srcに対して不活性な、PP2の構造的類似アナログ(PP3)はPPAR-[ガンマ]に効果がなく、そのことはPP2及びc-Src siRNAの作用がc-Src阻害の直接的な結果であることを示していた。PD153035もPPAR:SRCに対して効果を示さず、それは作用機序にEGFが介在していないことを示唆している。
【0037】
糖尿病及び肥満、並びに関連する症状の治療のための候補化合物
疾患治療の候補化合物は、疾患プロセスの既知の調節因子の作用を模倣する化合物である。この点で我々は、ヒト生細胞中でのPPAR-[ガンマ]に対するチアゾリジンジオンの作用を模倣するc-Srcの阻害剤を同定している。TZDはメタボリック・シンドロームの治療に有効であることが証明されているので、c-Src阻害はこのシンドロームの治療に別の手段を提示するものである。特に我々は、Srcファミリーに選択的であって、適切な薬物動態・薬力学的特性を有するリード化合物をここに提供する。
【0038】
図7(A-G)にいくつかの候補化合物を示しており、これら並びに、適当な選択性及び適切なPK及びPD特性を有するそれらの誘導体及びアナログは、本発明による、糖尿病及び肥満の治療のための新規の薬物候補を構成するものである。その他の適当な化合物も参考文献中に見出すことができ、それらの参考文献はその内容全てを本明細書に含める。
【0039】
c-Srcはメタボリックシンドローム疾患に対する創薬においては全く新しいターゲットである。c-Src及びそのファミリーメンバーの選択的阻害剤について新たなスクリーニングを構築することが可能となり、同定されたヒットはこれらの疾患の新しい治療薬の開発に使用することができる。本発明は、c-Src阻害剤のスクリーニングに基づく、糖尿病及び肥満の治療法の同定を規定するものである。上記のスクリーニングを構築するにはキナーゼ活性に対する多くの市販のアッセイを使用することができ、そのようなアッセイ技術は当業者に周知である。上記のスクリーニングからのヒット化合物をその後、他の多様なキナーゼに対してプロファイリングを行い、選択的なc-Src阻害剤を同定することができる。さらに、そのヒット化合物を、ここに提示するような生細胞アッセイで試験し、ヒト細胞中でPPARを活性化する能力を確認することができる。その後、これらの化合物を2型糖尿病と肥満の動物モデルで試験して有効性を確認することができる。
【0040】
Srcキナーゼの活性を直接調節するか、或いはそれ自身がSrcキナーゼによって調節される蛋白チロシンキナーゼは、本発明による糖尿病及び肥満の治療のための新しい代替ターゲットとなる。例えば、Srcをリン酸化して活性化させるキナーゼ、又は別の蛋白をリン酸化してその後その蛋白がSrcを活性化させるキナーゼは本発明による代替ターゲットとなるが、それはそのキナーゼを阻害することによってSrcの活性に変化がもたらされ、我々がここで同定した関連性を通じて、PPARの活性にも変化がもたらされるためである。さらに、Srcによってリン酸化される任意の蛋白、及びSrc及びPPARの間の経路中にある任意の蛋白も本発明下の代替ターゲットである。従って、PPARの活性化に関する代替チロシンキナーゼターゲットとしては、焦点接着キナーゼ(FAK)と関係するPyk-2(RAFTK、CAK-b又はFAK-2としても知られている)が挙げられ、これらの2つのキナーゼはそのアミノ酸配列の約48%が同一であり、それらは、特有のN末端、中心に位置する触媒ドメイン、及びC末端の2つのプロリンリッチ領域を含む類似のドメイン構造を有する。焦点接着キナーゼ(FAK)は、Srcの基質として、及びインテグリンシグナル伝達の重要な要素として発見された非受容体蛋白チロシンキナーゼである。FAKは、細胞拡散、分化、移動、細胞死及び細胞周期のG1からS相への遷移の加速において中心的な役割を果たす。リン酸化部位pTyr397はFAKの自動リン酸化部位である。この部位はSrcファミリーSH2及びフォスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)のp85サブユニットに結合する。FAKはほとんどすべての組織で発現されるが、Pyk-2は主として中枢神経系及び造血系を起源とする細胞及び組織中で発現される。Pyk-2は、Srcファミリー蛋白チロシンキナーゼ、アダプター蛋白Grb2及びp130Cas、パキシリン及びRho-グアニンヌクレオチド交換因子Grafのようないくつかのシグナル伝達分子及び細胞骨格蛋白と相互作用する。一定の刺激に応答して、Pyk-2はさらにマイトジェン活性化プロテイン(MAP)キナーゼファミリーの上流の活性化剤としても機能する。
【0041】
c-SrcとPPAR-[ガンマ]の間の関連性を発見したことで、ここに提供する方法を使用して他の細胞キナーゼのサイレンシングによるPPARへの効果を判定することが比較的簡単な作業となっている。PPAR活性化に関連性が見つかっている他のキナーゼも、チアゾリジンジオンの作用を模倣する作用のような望ましい作用を有する化合物を探す創薬において使用することができる。
【0042】
本発明を用いて、特に、ここで化合物ライブラリーのハイスループットスクリーニングで実証したアッセイを使用して、PPAR-[ガンマ]を活性化する新たな化合物を同定することにより他の新しい化学物質を発見することもできる。同様のアプローチは、PPARとそれらのコアクティベーターの間の複合体を形成するための細胞ベースのPCAを構築することにより、PPARファミリーの他のメンバーに関する新しい経路、ターゲット及びリードを同定するために用いることができる。PCAはまた、生細胞中の蛋白−蛋白複合体を測定するためのただ一つの代用アッセイというわけではない。酵素フラグメント相補性アッセイも同様に使用することができ、これはディスカバーX社(フリーモント、CA)によって提供されるβ-ガラクトシダーゼ相補性技術に基づいている。この目的のための他の一般的なアッセイ法としては、共鳴エネルギー転移アッセイ (FRET及びBRET)が挙げられる。PPARとコアクティベーターを、FRET又はBRETを受ける蛍光蛋白に融合させれば、複合体形成誘導を測定することができる。
【0043】
【表3】
【0044】
以下の特許(その明細書中に記載されている全てを含む)及び公開された特許出願は、それらの対応する外国出願及びそこに引用されている全ての参考文献と共に、それらの参照が当明細書の本文中に示されているのと同等の意味合いで、参照としてそれら全てを本明細書に含める:
【0045】
US 20040161787ハイスループット及びハイコンテントスクリーニングのための蛋白フラグメント相補性アッセイ
US 20040137528蛋白フラグメント相補性アッセイのための蛍光蛋白のフラグメント
US 20040038298生物学的相互作用又は薬物相互作用を検出するための蛋白フラグメント相補性アッセイ
US 20030108869大腸菌TEM-1ベータ‐ラクタマーゼに基づく、蛋白−蛋白、蛋白−小分子、及び蛋白−核酸相互作用を検出するための蛋白フラグメント相補性アッセイ(PCA)
US 20030049688生物学的相互作用又は薬物相互作用を検出するための蛋白フラグメント相補性アッセイ
【0046】
US 20020064769生細胞中に発現した遺伝子ネットワークの動的な映像化
US 20010047526蛋白フラグメント相補性アッセイによる植物中の分子相互作用のマッピング
US 6,428,951生物学的相互作用又は薬物相互作用を検出するための蛋白フラグメント相補性アッセイ
US 6,294,330生物学的相互作用又は薬物相互作用を検出するための蛋白フラグメント相補性アッセイ
US 6,270,964生物学的相互作用又は薬物相互作用を検出するための蛋白フラグメント相補性アッセイ
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、PPAR-[ガンマ]活性化を検出するためのアッセイの構築を示す。ロシグリタゾンは、ヒト細胞における蛍光蛋白フラグメント相補性アッセイ(PCA)によって評価されるように、ヒト細胞中でPPARガンマ:SRC1複合体を増加させる。
【図2】図2は、15μMロシグリタゾンの存在下において既知の遺伝子を個別にサイレンシングすることによるPPAR-[ガンマ]:SRC-1複合体に対する効果を示す。100個以上の個々の遺伝子を、PPAR-[ガンマ]及びSRC-1フラグメントの融合体をコード化するPCA DNAと共に各siRNAプールを共トランスフェクトすることにより、siRNA Smart Pools(ダーマコン社)でサイレンシングした。細胞は画像分析に先立ち、90分間15μM ロシグリタゾンで刺激した。画像は自動顕微鏡によって取得し、細胞中の蛋白−蛋白複合体の数を示す各画像の蛍光強度を画像分析によって定量した。結果は各アッセイについて、対照siRNAに対する%で示す。サイレンシングによる最も大きなプラスの効果は、非受容体チロシンキナーゼであるc-SrcをターゲットとするsiRNAについて観察された。PPAR-[ガンマ]自身のサイレンシングによりPPAR-[ガンマ]はうまくノックダウンされ、複合体が除去された。
【図3】図3は、ロシグリタゾンの非存在下及び存在下での遺伝子サイレンシングの効果を示す顕微鏡写真である。対照siRNAの存在下で、ロシグリタゾンは細胞中のPPAR-[ガンマ]:SRC-1複合体を増加させる(上パネル)。PPAR-[ガンマ]をターゲットとするsiRNAはロシグリタゾンの非存在下及び存在下でPPAR-[ガンマ]:SRC-1複合体を消滅させる(中パネル)。蛋白チロシンキナーゼc-SrcをターゲットとするsiRNAはロシグリタゾンの非存在下でもPPAR-[ガンマ]:SRC-1複合体を増加させ、ロシグリタゾンの存在下ではPPAR-[ガンマ]:SRC-1複合体を大量に誘導する(下パネル)。同様の結果が、3つの別々の実験から得られた。
【図4】図4は、c-Srcファミリーキナーゼの選択的で強力な阻害化合物(PP2)が、PPAR-[ガンマ]に対するc-Src siRNAの効果を模倣することを示す。c-Srcに対して不活性なキナーゼ阻害剤 (PP3及びPD153O35)はPPAR-[ガンマ]に対して効果を示さない。
【図5】図5は、ヒト細胞中におけるPPAR-[ガンマ]:SRC-1に対するキナーゼ阻害剤の効果の定量化を示す。方法は図4で記述した通りである。各薬物処理についてプロットされたデータは、最低3回の独立した実験における4個ずつのウェルから得られた平均(PPM)及び標準誤差を表す。PP2の効果だけがDMSO対照に対して統計的に有意差を示した (p<.0001)。
【図6】図6は、ERKのリン酸化状態に対するキナーゼ阻害剤及びグリタゾンの作用を示す図である。左側パネル:PP2、PP3、PD 153035又はPD 98059と組み合わせて、EGF(レーン1)又はロシグリタゾン(レーン2-6)で刺激したHEK293細胞におけるp44/42 MAPK/ERKのリン酸化状態のウェスタンブロット。HEK293細胞を一晩、マイナス血清状態に置いた後、ロシグリタゾンで5分刺激する前に、DMSO、10μM PP2若しくはPP3、1μM PD 153035又は20μM PD 98059で1時間処理した。EGF(100 ng/ml、5分)で刺激した細胞を、陽性対照として使用した。右側パネル:Hep3B細胞を一晩、マイナス血清状態に置いた後、PPAR-[ガンマ]作用物質であるロシグリタゾン、トログリタゾン、及びシグリタゾン(各50μM)で表示された時間、処理した。p44/42 MAPK/ERKのリン酸化状態を、非刺激状態の(基礎)、又はビヒクル処理した (DMSO)細胞抽出液のそれと比較した。
【図7】図7(A−G)は、糖尿病、肥満、及びメタボリックシンドロームに伴うその他の症状を治療するための候補化合物を示す。本発明によるメタボリックシンドローム疾患の治療用の候補化合物であるc-Srcキナーゼ阻害剤の代表的な化合物名、構造及び作用機序を(公知の場合)示している。PP2 (AG1879) の構造は、図7Cに示す。本発明で有用なその他の化合物は表3及び参考文献中に示され、それらの全てを参照により本明細書に含める。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病、肥満、又はメタボリック・シンドロームのヒト又は動物を治療する方法であって、上記方法が上記のヒト又は動物に治療上有効な量の蛋白チロシンキナーゼ阻害剤である化合物を投与することを含む方法。
【請求項2】
患者の内在性の蛋白チロシンキナーゼ活性を減少させることにより、患者の糖尿病、肥満、又はメタボリック・シンドローム症状を治療する方法。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載の方法であって、上記蛋白チロシンキナーゼが、src、abl、fps、yes、fyn、lyn、lck、blk、hck、fgr及びyrk、pyk2並びにFAKを含む群から選ばれることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法であって、上記治療が少なくとも1つのSrcキナーゼ阻害剤を患者に投与することを含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1から4に記載の方法であって、上記阻害剤が、PP2、KX1-136b、KX-305、CGP76030、CGP77675、NVP-AAK980、PD-089828、PD-161570、PD-173995、PD-180970、SU6656、SKI-606及び、それらの誘導体、アナログ又は代謝物からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項3に記載の方法であって、阻害剤がアンチセンスオリゴヌクレオチド、小型干渉RNA分子、化合物、ポリペプチド、及び機能遮断抗体又はそのフラグメントからなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項3に記載の方法であって、上記治療が少なくとも1つのSrc阻害剤をコード化するポリヌクレオチドを患者に投与することを含み、上記ポリヌクレオチドが患者内に発現されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1から3に記載の方法であって、上記患者がヒトであることを特徴とする方法。
【請求項9】
ヒトの疾患の治療に有用な化合物をスクリーニングする方法であって、上記方法が、(a) 核ホルモン受容体の活性化を測定するためにアッセイを構築すること;(b) 細胞を問題の細胞遺伝子をターゲットとするsiRNAと接触させること;(c) 上記アッセイにおいて上記siRNAの作用を検出すること;(d) 上記のsiRNAが上記の核ホルモン受容体に効果をもたらし、その効果が上記核ホルモン受容体の既知のリガンドの効果と実質的に同等である場合に、上記の問題の細胞遺伝子が薬物ターゲットとなる可能性があると判定すること、を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
糖尿病及び肥満の治療に有用な化合物をスクリーニングする方法であって、上記方法が、(a) c-Src又はc-Srcのファミリーメンバーについてのアッセイを構築すること;(b) 上記アッセイを1つ以上の化合物と接触させること;(c) c-Src又はc-Srcのファミリーメンバーを阻害する化合物を同定すること、を含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法であって、上記アッセイが蛋白−蛋白相互作用又は蛋白−蛋白複合体の測定であることを特徴とする方法。
【請求項12】
ペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体(PPAR)の活性を調整する化合物を同定するためのアッセイであって、上記アッセイが、(a) PPARポリペプチド及びPPAR関連ポリペプチドを含んでいる細胞又は細胞ライセートを試験薬物と接触させること、及び (b) 次の特性:(i) 上記PPARポリペプチドのレベル;(ii) 上記PPARポリペプチド及び上記PPAR関連ポリペプチドの間の複合体の量;(iii) 細胞の場合、上記PPARポリペプチドの細胞内位置;(iv) 細胞の場合、上記PPARポリペプチド及び上記PPAR関連ポリペプチドの間の複合体の細胞内位置;(v) 上記PPARのDNA結合活性のレベル;のうちの1つ以上を検知することを含み、試験薬物の非存在下に比較して試験薬物の存在下における1つ以上の上記特性の変化が、その試験薬物がPPARの活性を調整する化合物であることを示していることを特徴とするアッセイ。
【請求項13】
真核細胞において、PPARによって転写が調節される遺伝子の発現を阻害するための方法であって、上記細胞において上記遺伝子の発現が阻害されるように蛋白チロシンキナーゼの活性を減少させることを含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、上記蛋白チロシンキナーゼがSrcキナーゼ若しくはSrcキナーゼ・ファミリーのメンバー、又はPyk2キナーゼ若しくはFAKファミリーキナーゼのメンバーであることを特徴とする方法。
【請求項1】
糖尿病、肥満、又はメタボリック・シンドロームのヒト又は動物を治療する方法であって、上記方法が上記のヒト又は動物に治療上有効な量の蛋白チロシンキナーゼ阻害剤である化合物を投与することを含む方法。
【請求項2】
患者の内在性の蛋白チロシンキナーゼ活性を減少させることにより、患者の糖尿病、肥満、又はメタボリック・シンドローム症状を治療する方法。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載の方法であって、上記蛋白チロシンキナーゼが、src、abl、fps、yes、fyn、lyn、lck、blk、hck、fgr及びyrk、pyk2並びにFAKを含む群から選ばれることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法であって、上記治療が少なくとも1つのSrcキナーゼ阻害剤を患者に投与することを含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1から4に記載の方法であって、上記阻害剤が、PP2、KX1-136b、KX-305、CGP76030、CGP77675、NVP-AAK980、PD-089828、PD-161570、PD-173995、PD-180970、SU6656、SKI-606及び、それらの誘導体、アナログ又は代謝物からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項3に記載の方法であって、阻害剤がアンチセンスオリゴヌクレオチド、小型干渉RNA分子、化合物、ポリペプチド、及び機能遮断抗体又はそのフラグメントからなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項3に記載の方法であって、上記治療が少なくとも1つのSrc阻害剤をコード化するポリヌクレオチドを患者に投与することを含み、上記ポリヌクレオチドが患者内に発現されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1から3に記載の方法であって、上記患者がヒトであることを特徴とする方法。
【請求項9】
ヒトの疾患の治療に有用な化合物をスクリーニングする方法であって、上記方法が、(a) 核ホルモン受容体の活性化を測定するためにアッセイを構築すること;(b) 細胞を問題の細胞遺伝子をターゲットとするsiRNAと接触させること;(c) 上記アッセイにおいて上記siRNAの作用を検出すること;(d) 上記のsiRNAが上記の核ホルモン受容体に効果をもたらし、その効果が上記核ホルモン受容体の既知のリガンドの効果と実質的に同等である場合に、上記の問題の細胞遺伝子が薬物ターゲットとなる可能性があると判定すること、を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
糖尿病及び肥満の治療に有用な化合物をスクリーニングする方法であって、上記方法が、(a) c-Src又はc-Srcのファミリーメンバーについてのアッセイを構築すること;(b) 上記アッセイを1つ以上の化合物と接触させること;(c) c-Src又はc-Srcのファミリーメンバーを阻害する化合物を同定すること、を含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法であって、上記アッセイが蛋白−蛋白相互作用又は蛋白−蛋白複合体の測定であることを特徴とする方法。
【請求項12】
ペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体(PPAR)の活性を調整する化合物を同定するためのアッセイであって、上記アッセイが、(a) PPARポリペプチド及びPPAR関連ポリペプチドを含んでいる細胞又は細胞ライセートを試験薬物と接触させること、及び (b) 次の特性:(i) 上記PPARポリペプチドのレベル;(ii) 上記PPARポリペプチド及び上記PPAR関連ポリペプチドの間の複合体の量;(iii) 細胞の場合、上記PPARポリペプチドの細胞内位置;(iv) 細胞の場合、上記PPARポリペプチド及び上記PPAR関連ポリペプチドの間の複合体の細胞内位置;(v) 上記PPARのDNA結合活性のレベル;のうちの1つ以上を検知することを含み、試験薬物の非存在下に比較して試験薬物の存在下における1つ以上の上記特性の変化が、その試験薬物がPPARの活性を調整する化合物であることを示していることを特徴とするアッセイ。
【請求項13】
真核細胞において、PPARによって転写が調節される遺伝子の発現を阻害するための方法であって、上記細胞において上記遺伝子の発現が阻害されるように蛋白チロシンキナーゼの活性を減少させることを含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、上記蛋白チロシンキナーゼがSrcキナーゼ若しくはSrcキナーゼ・ファミリーのメンバー、又はPyk2キナーゼ若しくはFAKファミリーキナーゼのメンバーであることを特徴とする方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図7F】
【図7G】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図7F】
【図7G】
【公表番号】特表2008−518932(P2008−518932A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−539192(P2007−539192)
【出願日】平成17年10月29日(2005.10.29)
【国際出願番号】PCT/US2005/039029
【国際公開番号】WO2006/047759
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(506099775)オデュッセイ セラ インコーポレイテッド (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月29日(2005.10.29)
【国際出願番号】PCT/US2005/039029
【国際公開番号】WO2006/047759
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(506099775)オデュッセイ セラ インコーポレイテッド (7)
【Fターム(参考)】
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