説明

糖尿病性網膜症予防のためのフェノフィブラート又はその誘導体の使用

【課題】糖尿病性網膜症予防のためのフェノフィブラート又はその誘導体の使用。
【解決手段】本発明は、糖尿病性網膜症の予防用及び/又は治療用薬剤を製造するためのフェノフィブラート又はその誘導体の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網膜症の予防用及び/又は治療用薬剤を製造するためのフェノフィブラート又はその誘導体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、体内において、炭水化物(例えば、食品用でんぷん、糖質、セルロース)を正常に代謝できない疾患である。この疾病は、血液中の過剰な糖(高血糖)及び尿中の過剰な糖、インスリンの生産及び/又は作用不全、並びに、口渇、空腹、及び体重減少によって特徴付けられる。人口の約2%が糖尿病に罹患している。このうち、10〜15%がインスリン依存型(1型)糖尿病患者であり、残りがインスリン非依存型(2型)糖尿病患者である。
【0003】
糖尿病性網膜症は、糖尿病による微小血管合併症の中で最も重度の症状の一つである。糖尿病性網膜症は、1型及び2型糖尿病に共通して見られる特殊な微小血管合併症である。糖尿病の発症から20年後には、ほぼ全ての1型糖尿病患者、及び、60%を超える2型糖尿病患者がいくらかの網膜症を発症している。さらに、収縮期血圧値が高い糖尿病患者では、網膜症がより早く進行し、より重度である。平均して、糖尿病の発症から約7年たてば、目を詳細に検査することにより網膜の軽度な異常を見つけられるが、通常、視力に影響が出る損傷が生じるのは、さらに後になってからである。糖尿病性網膜症はその最終段階において失明につながり得るものである。先進国では、糖尿病性網膜症が、高齢者の黄斑変性症に続いて、後天性失明の第2番目の原因である。糖尿病患者が失明するリスクは、一般集団の25倍であると概算されている。現在のところ、この合併症を予防、又は、治療する薬理療法はない。レーザー網膜光凝固術、又は、最も重度な症例においては硝子体切除術が唯一の治療法である。
【0004】
糖尿病性網膜症は、進行性の糖尿病合併症である。糖尿病性網膜症は、「単純性」と称される段階、すなわち初期段階(背景網膜症)から始まり、「増殖網膜症」と称される最終段階へと進行する。最終段階では、脆弱な網膜新生血管が形成され、時には網膜剥離を伴う重度の出血、及び、失明をもたらす。単純性網膜症における微小血管の損傷は、微細動脈瘤、点状出血、滲出斑、及び、静脈拡張を特徴とする。上記単純性網膜症の症状は、長期間にわたって臨床的に無症状であり得る。糖尿病患者の死後、網膜を検査すると、同年齢の健常者の網膜と比較して、単純性網膜症段階で網膜毛細血管の細胞及び構造が脆弱化していることが観察される。増殖網膜症を治療せずに放置すると、5年以内に、発症者の約半数が失明することとなる。これに対し、治療を受けると、失明する発症者は、わずか5%となる。
【0005】
糖尿病性網膜症は、早期に発見されれば、レーザー光凝固術で治療可能である。
【0006】
レーザー治療は、通常、以下の手順で、クリニックの暗室で行われる。麻酔点眼薬を患者の目に投与し、コンタクトレンズを患者の目に装着し、次いで、患者をレーザー装置で治療する。目の状態によって、治療が微妙に異なる。レーザーは、非常に正確に網膜の一点に狙いを定めることができる。1回の閃光は0.1秒以下である。最も一般的なレーザーは波長530nmのアルゴングリーンであるが、同様の効果の得られる他の波長を用いてもよい。
【0007】
黄斑症のレーザー治療では、平均して100回、焼灼する必要があるが、たった数回から250回までと変動的である。複数回の施術が必要となることがある。
【0008】
前増殖網膜症、重度の前増殖網膜症、又は、増殖網膜症の治療では、各レーザー治療で1000回以上焼灼することも多い。網膜の中心部ではなく側方、すなわち、網膜の「周縁」にレーザーを照射するが、これは増殖網膜症のレーザー照射における、黄斑症との主要な相違点である。多数の新生血管が形成された30歳の患者には、新生血管の成長を防止するために、片目に6000回、又は、それ以上のレーザー焼灼が必要となることがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
糖尿病性網膜症の発生や進行を防止することにより、失明した場合にかかる費用と比べて、比較的低費用で視力を守る可能性を有する。従って、本発明は、糖尿病性網膜症の発生や進行の防止に寄与する更に進んだ手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、フェノフィブラート又はその誘導体を摂取している患者では、プラセボを投与された患者よりも、網膜のレーザー療法による治療がより少なくて済むという発見に基づいている。大規模臨床試験により得られた結果において、網膜症の予防におけるフェノフィブラートの好ましい効果が確認された。
【0011】
第一の態様によれば、本発明は、網膜症、特に糖尿病性網膜症の予防用及び/又は治療用薬剤を製造するためのフェノフィブラート又はその誘導体の使用に関する。
【0012】
本発明によれば、「予防」とは、糖尿病性網膜症の発生や進行を防止することであると定義される。
【0013】
本発明によれば、「糖尿病性網膜症」とは、糖尿病性網膜症の重度の非増殖性段階、糖尿病性網膜症の増殖性段階、黄斑浮腫、及び、硬性白斑と定義される。
【0014】
本発明によれば、フェノフィブラート又はその誘導体は、網膜症の予防に用いることができる。フェノフィブラートとは、フェノフィブリン酸の1−メチルエチルエステル(イソプロピルエステル)、すなわち、フェノフィブラート(INN)である。本願において、「フェノフィブリン酸」という用語は、2−[4−(クロロベンゾイル)フェノキシ]−2−メチル−プロパン酸を指す。
【0015】
フェノフィブラートの誘導体は、フェノフィブリン酸、さらに、フェノフィブリン酸の生理学的に許容される塩であってもよい。本発明の生理学的に許容される塩は、塩基付加塩であることが好ましい。塩基付加塩としては、無機塩基(以下に限定するものではないが、金属水酸化物、又は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、若しくは遷移金属の炭酸塩等)、又は、有機塩基〔以下に限定するものではないが、アンモニア;塩基性アミノ酸(アルギニン及びリシン等);アミン(メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、1−アミノ−2−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、又は、ヘキサメチレンテトラアミン等);4〜6個の環炭素原子を有する飽和環式アミン(以下に限定するものではないが、ピペリジン、ピペラジン、ピロリジン及びモルフォリン等);並びに、他の有機塩基(N−メチルグルカミン、クレアチン及びトロメタミン等)等〕との塩、及び、第四級アンモニウム化合物(以下に限定するものではないが、テトラメチルアンモニウム等)が挙げられる。有機塩基との塩は、アミノ酸、アミン、又は、飽和環式アミンで形成されるのが好ましい。無機塩基との塩は、Na、K、Mg、及び、Caのカチオンで形成されるのが好ましい。
【0016】
本発明の一実施形態において、フェノフィブリン酸の塩は、コリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン、カルシウム、及び、トロメタミンからなる群から選択される。上記塩は、米国特許出願公開第2005/0148594号明細書の教示に従って得ることができる。
【0017】
本発明の薬剤は、国際公開第00/72825号パンフレット、並びに、そこで引用されている米国特許第4800079号明細書、米国特許第4895726号明細書、米国特許第4961890号明細書、欧州特許出願公開第0793958号明細書、及び、国際公開第82/01649号パンフレット等に記載された製剤等、フェノフィブラートに適した任意の種類の医薬品製剤であってよい。さらに、国際公開第02/067901号パンフレット、並びに、そこに引用されている米国特許第6074670号明細書、及び、米国特許第6042847号明細書等に、フェノフィブラートの製剤が記載されている。
【0018】
上記製剤は、フェノフィブラート又はその誘導体の他に、1種以上の他の活性物質、特に、フェノフィブラートと同様の作用を有する活性物質を含んでいてもよい。上記フェノフィブラートと同様の作用を有する活性物質は、例えば、他の脂質調整剤類〔以下に限定するものではないが、他のフィブラート類(例えば、ベザフィブラート、シプロフィブラート、及び、ゲムフィブロジル)、又は、スタチン類(例えば、ロバスタチン、メビノリン、プラバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、イタバスタチン、メバスタチン、ロスバスタチン、ベロスタチン、シンビノリン、シンバスタチン、セリバスタチン、並びに、例えば国際公開第02/67901号パンフレット及びパンフレット中の該当引用文献に他のタイプの好適な活性物質と同様に記載されている多数の他のスタチン類)等〕からなる群から選択される。
【0019】
フェノフィブラート又はその誘導体は、通常、製剤中約5〜約60重量%含まれるが、好ましくは約7〜約40重量%であり、約10〜約30重量%が特に好ましい。データは、特にことわりのない限り、製剤の総重量に基づいた重量%で表す。
【0020】
本発明の製剤は、生理学的に許容される賦形剤を含む。生理学的に許容される賦形剤とは、製剤技術分野、及び、隣接分野で利用可能なことが公知である賦形剤であり、具体的には、関連の薬局方(例えば、ドイツ薬局方、ヨーロッパ薬局方、英国薬局方、国民医薬品集、米国薬局方)に収載されている賦形剤、さらに、生理的な使用を害することのない性質を持つ他の賦形剤である。
【0021】
賦形剤は、通常、従来の医薬品賦形剤であり、例としては、充填剤〔以下に限定するものではないが、糖アルコール類(ラクトース、微結晶性セルロース、マンニトール、ソルビトール、及び、キシリトール等)、イソマルト、でんぷん糖化製品、タルク、スクロース、穀粒、又は、ジャガイモでんぷん等が例として挙げられ、混合物の総重量に基づいて、約0.02〜約50重量%、好ましくは約0.20〜約20重量%の濃度で含まれる〕;潤滑剤、滑走剤及び離型剤〔以下に限定するものではないが、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、タルク及びシリコーン、並びに、動物性若しくは植物性油脂(特に、水添され、室温では固体である油脂)等〕;流量調整剤〔コロイダルシリカ(高分散二酸化ケイ素)等〕;染料〔以下に限定するものではないが、アゾ染料、天然由来の、有機若しくは無機色素若しくは染料(無機色素としては、例えば、酸化鉄が好ましい)が例として挙げられ、混合物の総重量に基づいて、約0.001〜約10重量%、好ましくは約0.1〜約3重量%の濃度で含まれる〕;安定剤(以下に限定するものではないが、抗酸化剤、光安定剤、ヒドロペルオキシド破壊剤、遊離基捕捉剤、及び、細菌による侵食を防ぐ安定剤等);及び、可塑剤(特に後述のもの)が挙げられる。以下を添加することも可能である:湿潤剤、保存剤、錠剤分解物質、吸着剤及び界面活性剤〔特にアニオン性及び非イオン性であって、例えば、石鹸及び石鹸様界面活性剤、アルキル硫酸塩及びアルキルスルホン酸塩、胆汁酸塩、アルコキシル化脂肪アルコール、アルコキシル化アルキルフェノール、アルコキシル化脂肪酸、及び、脂肪酸グリセロールエステル(アルコキシル化されていてもよい)〕、並びに、可溶化剤〔Cremophor(登録商標)(ポリエトキシル化ヒマシ油)、Gelucire(登録商標)、Labrafil(登録商標)、ビタミンE TPGS、及び、Tween(登録商標)(エトキシル化ソルビタン脂肪酸エステル)等〕。本発明の目的において、賦形剤も、活性物質を含む固溶体を形成するための物質である。上記賦形剤の例としては、ペンタエリスリトール及びペンタエリスリトールテトラアセテート、尿素、リン脂質(レシチン等)、重合体〔例えば、ポリエチレンオキシド及びポリプロピレンオキシド、並びに、これらのブロック共重合体(ポロキサマー)〕、クエン酸、コハク酸、胆汁酸、ステアリン、並びに、他の物質(例えばJ.L.Ford. Pharm.Acta Hely.61,(1986),pp.69−88に示されている物質)が挙げられる。
【0022】
一実施形態では、本発明において使用可能な医薬品製剤は、腸溶性のバインダーを含む。上記腸溶性バインダーは、腸溶性重合体(フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、及び、カルボキシメチルセルロースナトリウムからなる群から選択される物質等)であってもよい。さらに、腸溶性重合体は、共重合体〔(メタ)アクリル酸と少なくとも一種の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体等〕であってもよい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、メタクリル酸メチルであってもよい。共重合体におけるエステル化カルボキシル基に対する遊離カルボキシル基の割合は、約2:1〜1:3、好ましくは約1:1であってもよい。
【0023】
本発明の医薬品製剤は、主に生理学的応用において、特にヒトの内科部門において用いられる。この意味で、上記製剤は投与形態として、又は、投与形態中で用いられる。すなわち、本発明の製剤は、生理学的応用に適した、便宜的な形態であり、必要であれば他の賦形剤を含む。なお、上記「投与形態」という用語は、ヒトに対する活性物質の投与に適した任意の投与形態を指す。
【0024】
従来の投与形態としては、カプセル、顆粒、ペレット、粉末、懸濁液、坐薬、及び、錠剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。顆粒は、本発明の製剤の固体粒状物を含み、各粒状物は、粉末粒子が凝集したものである。顆粒は約0.12〜約2mmの範囲の平均的な穀粒大の大きさであって、好ましくは約0.2〜約0.7mmである。顆粒の投与形態としては、経口投与を目的としたものが好ましい。服用者には、例えば顆粒を小袋(サシェ)、紙袋、若しくは、小瓶につめるなど、単回投与用に調剤されたもの、又は、適切な計量が必要となる反復投与用に調剤されたものが提供されてもよい。しかしながら、多くの場合、このような顆粒は、実際の投与形態そのものではなく、特定の投与形態の形成における中間物(例えば、圧縮して錠剤として投与される錠剤用顆粒、硬ゼラチンカプセルに詰められて投与されるカプセル用顆粒、又は、服用前に水に加えて投与されるインスタント顆粒若しくは経口懸濁液用顆粒)である。
【0025】
カプセルの場合、本発明の製剤は、通常、互いに適合する2ピースから成る硬シェル、又は、密封された1ピース軟シェルに詰められる。上記シェルの形状や大きさは問わない。本発明の製剤を、適当な重合体のマトリックスに包含、封入、又は、包埋することができる。すなわち、本発明の製剤を、マイクロカプセル、及び、マイクロ球体にすることができる。硬及び軟カプセルは、主にゼラチンから成るが、後者はグリセロール又はソルビトール等の可塑化物質を適量含んでいてもよい。硬ゼラチンカプセルは、本発明において固体の稠度を有する製剤(例えば、顆粒、粉末、又は、ペレット等)を収容するのに使用される。軟ゼラチンカプセルは、半固体の稠度を有する製剤に、及び、また必要であれば粘性の液体の稠度を有する製剤に適している。
【0026】
本発明の製剤が半固体状に調合されている場合、適当なビヒクルに保持される。適切な基剤は、当業者にとって公知である。
【0027】
坐薬は直腸内、膣内、又は、尿道内投与用に固体状に調剤される。上記投薬形態をとる本発明の製剤は、上記投与経路に適したものとするために、適当なビヒクルに保持する必要がある。上記ビヒクルの例としては、体温で溶ける油脂(固い脂肪等)、マクロゴール(すなわち、多様な割合の分子量約1000〜約3000のポリエチレングリコール)、グリセロール、及び、ゼラチン等が挙げられる。
【0028】
錠剤は、経口(oral)投与用に固体状に調剤される。本発明の構成において、「oral」とは、具体的に、「経口(peroral)」を意味し、すなわち、活性物質が消化管で吸収される、又は、作用する錠剤を指す。具体的な実施形態としては、以下に限定するものではないが、コーティング錠、多層錠、積層錠、活性物質の放出を調製した錠剤、マトリックス錠、発泡錠、又は、チュアブル錠が挙げられる。本発明の製剤は、概して、バインダー、充填剤、流動促進剤及び潤滑剤、並びに、錠剤分解物質等の必要な錠剤賦形剤類の少なくとも一部を含む。また、本発明の製剤の錠剤は、必要であれば、他の適当な賦形剤を含んでもよい。本発明の製剤の錠剤には、例えば、潤滑剤、流動促進剤等の、錠剤にしやすくする役割を果たす賦形剤も、含まれていてもよく、例としては上述のものであり、特に圧縮を容易にするために、シリカ等の流量調節剤、及び/又は、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤が好ましい。さらに、コーティング錠は、コーティング補助剤(特に以下に示すコーティング補助剤)とともに、例えば、フィルムコーティング剤等の適当なコーティング材を含む。コーティング錠としては、以下に限定するものではないが、糖衣錠及びフィルムコート錠が挙げられる。
【0029】
本発明の製剤は、有効量の活性物質を含む投与形態で、治療対象者に投与される。このような処置が指示されるかどうか、及び、どの形態が適用されるかについては、個々の症例によって異なり、以下の医学的所見(診断)に従うこととしてもよい:認められる徴候、症状及び/又は機能障害;特定の徴候、症状及び/又は機能障害が発生するリスク;並びに、他の要因等。
【0030】
治療対象者が経口投与で日用量約50mg〜約250mgのフェノフィブラートを摂取するように、通常、上記製剤を他の製品とともに、又は、他の製品と交互に投与する。本発明の一実施形態において、日用量は200mg、160mg、145mg又は130mgである。
【0031】
第二の態様によれば、本発明は、哺乳類に対し、フェノフィブラート又はその誘導体を含む医薬品製剤を治療上有効量で投与することを含む、糖尿病性網膜症の予防方法に関する。
【0032】
患者に有効量のフェノフィブラート又はその誘導体を供給する任意の送達経路が用いられる。好ましい送達経路は、以下に限定するものではないが、経口送達、又は、非経口送達(例えば、直腸内、膣内、尿道内及び局所送達等)が挙げられ、経口送達経路が好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に本発明を実施例により例証するが、本発明はこれに限定されない。
【0034】
薬理的現状
2型真性糖尿病は、益々増加している一般的な疾患であり、心血管系の高リスクを伴う。今日まで、脂質低下治療に関する試験のほとんどが、この疾患に焦点を当てておらず、特に、糖尿病のフィブラート治療に関する非常に大規模な試験は行われていなかった。実施されたフィブラート治療に関する試験は、以下の2例のみである。すなわち、the Veterans Low−HDL Cholesterol Intervention Trial(VA−HIT)Rubins HB,Robins SJ,Collins D,Fye CL,Anderson JW,Elam MB,Faas FH,Linares E,Schaefer EJ,Schectman G,Wilt TJ,Wittes J:Gemfibrozil for secondary prevention of coronary heart disease in men with low levels of high−density lipoprotein cholesterol. Veterans Affairs High−density liporotein cholesterol Intervention Trial study group.N.Engl J Med 1999,341:410−418)、及び、the Bezafibrate Infarct Prevention(BIP)trial(The BIP Study Group:Secondary Prevention by raising HDL cholesterol and reducing triglycerides in patients with coronary artery disease. The Bezafibrate Infarct Prevention(BIP)Study. Circulation 2000,102:21−27)である。どちらの調査も、心筋梗塞(MI)の既往のある人に限定して行われ、ベースライン時には低HDL、且つ、高トリグリセリド(TG)であった被験者において、異常脂質血症でない被験者に同じフィブラートを使用した場合に比較すると高いものの、主要な心血管系イベントが減少することが報告されている。また、VA−HIT試験では、非致死的MIの割合に有意な変化は見られなかったものの、ゲムフィブロジルを摂取した糖尿病被験者において冠動脈性心疾患(CHD)による死亡率が低下したこと、及び、心血管系イベントの割合が低下したことが報告されている。第3の試験、the Diabetes Atherosclerosis Intervention Study(DAIS)では、対応するプラセボ群との3年にわたる比較により、無作為抽出したフェノフィブラート群において、発症した冠動脈硬化症の進行が抑えられることが示されている(Diabetes Atherosclerosis Intervention Study investigators:Effect of fenofibrate on progression of coronary artery disease in type 2 diabetes:the Diabetes Atherosclerosis intervention Study,a randomised study. Lancet 2001,357:905−910)。
【0035】
フィブラートは、糖尿病における典型的な異常脂質血症を治療することが知られており、糖尿病において心血管系リスクを低下させるフィブラートの役割は、特に重要であると言えよう。Fenofibrate Intervention and Event Lowering in Diabetes(FIELD)と呼ばれる調査が実施された。この調査は、フェノフィブラートによる長期治療の冠動脈疾患発生率及び死亡率への影響を評価した、多施設二重盲検プラセボ対照試験であり、試験開始時に血中総コレステロールが3〜6.5mmol/L(115〜250mg/dL)の2型糖尿病患者において、高比重リポタンパク(HDL)コレステロール値が上昇し、トリグリセリド(TG)値が低下した。2型糖尿病においては、冠動脈性心疾患(CDH)の割合が、血中コレステロール値及び年齢が任意の非糖尿病患者よりも3〜4倍高い。また、糖尿病の女性では、性別による恩恵であるCDHに対する生来の抵抗力が失われ得るというエビデンスも示されている。さらに、2型糖尿病患者では、心筋梗塞(MI)後の院内死亡率が高く、且つ、後の転帰も不良で、平均すると、平均余命が5〜10年短くなる。すなわち、2型糖尿病は、社会全体の有病率が過度に高く、早発性CHD罹病率及び死亡率に非常に大きく影響している。
【0036】
血中総コレステロール値については、2型糖尿病患者と、年齢及び性別が同じ非糖尿病群との間に実質的な差はないが、他のリポタンパク画分の評価において、糖尿病患者では、高頻度で、血中のHDLコレステロール値が平均を下回り、TG値の上昇が見られる。これらが相まって、独立した付加的なCHDのリスクをもたらす。さらに、低比重リポタンパク(LDL)コレステロール値が実質的には上昇しないものの、HDL粒子は、類似した非糖尿病群に比べて大きさが小さく、且つ、比重が高いことが多く、このことから、アテロームがより発生していると考えられる。糖尿病で見られるような、LDL粒子の数の増加は、血漿アポリポタンパクB値の上昇に反映され、上記血漿アポリポタンパクBは、総コレステロール及びLDLコレステロールのいずれよりも、心血管系イベントの有効なリスク予測指標である。
【0037】
CHDの背景率は高いものの、コレステロールとCHDとの関係性の強さは、2型糖尿病患者と非糖尿病群とではほぼ同程度である。冠動脈疾患の既往がない高コレステロール血症の男女にフィブラート(ゲムフィブロジル)を長期に使用した試験であるHelsinki Heart Studyのエビデンスにおいて、冠動脈イベントに有意な減少が認められた。ただし、少集団の糖尿病患者では、わずかに減少が大きいようであるものの、有意差は見られなかった。LDLコレステロールの低下のみに基づいた予想よりも、観察されたイベントは大きく減少した。HDLコレステロール低値の実質的上昇、及び、トリグリセリド高値の低下が、個々に心血管系イベント及び死亡率を減少させるのか、並びに、治療における特有のターゲットとできるのかについては、まだ十分には同意に至っていない。
【0038】
2型糖尿病であり、且つ、典型的な異常脂質血症である患者に対する投薬治療において、フィブラートが論理的な第一選択肢であると信じている医師は多い。フィブラートは長期にわたって臨床に用いられており、十分に受容されていて、短期的な副作用がほとんどない。フェノフィブラートは20年以上も、広く用いられ、市場に出回っている。フェノフィブラートは、血漿トリグリセリドの低下、及び、HDLコレステロールの上昇に有効な薬剤である。長期間使用すると、脂肪画分への効果は調査集団によって異なるものの、LDLコレステロールの低下によって総コレステロールに15%以上の減少が認められることが多い。同時に、血漿トリグリセリドが30〜40%と大幅に減少するとともに、HDLコレステロールが10〜15%上昇することが多い。また、血漿フィブリノゲンに、約15%の減少が見られた。
【0039】
フェノフィブラートの実質的な影響が、2型糖尿病患者の臨床における心血管イベントに対して恩恵をもたらすかどうかについて、適当に無作為化した初のエビデンスを提供するように調査を設計した。
【0040】
CHDのリスクが高いと考えられる中高年の2型真性糖尿病患者において、無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間試験で調査を行った。スクリーニングの際の血中コレステロール値が3.0〜6.5mmol/L(約115〜250mg/dL)であり、且つ、HDLコレステロールに対する総コレステロールの比が4.0より大きいか、若しくは、血中TG値が1.0mmol/L(88.6mg/dL)より大きければ、先行する血管疾患、又は、他の脂質異常(低HDLコレステロール及び高TG等)の有無に関わらず適格者とした。オーストラリア(39)、フィンランド(9)、及び、ニュージーランド(15)の63の医療施設で調査を実施した。
【0041】
患者を試験に採用するかどうかの基本原則は、臨床上の不確実性に基づくものとした。すなわち、患者を治療する医師が、その患者の脂質改善治療の価値を実質的に知らず、脂質改善治療に対して適応がないと感じた場合のみ、その患者を考慮対象とした。従って、調査開始時には、どの被験者も脂質低下治療を受けていなかった。
【0042】
適格者の臨床的及び試験的スクリーニング、インフォームドコンセント、及び、導入期の終了に続いて、患者を無作為化し、フェノフィブラート(200mgの共微粉化(comicronized)製剤)又は対応するプラセボのいずれかを毎朝食に1カプセル服用させた。導入期中のコンプライアンスに関する無作為化に際しては、形式的な制約を設けなかった。年齢、性別、MI既往、脂質値、及び、尿中アルブミン排泄等の重要な予後因子を層化し、動的割付法により、無作為化を行った。全ての患者の追跡調査を、通院している糖尿病専門クリニック、又は、本調査のために適所に設置したクリニックへの定期的な通院によって行った。
【0043】
無作為化の前の本試験の導入期は、4週の規定食だけの期間、続いて、6週の単純盲検プラセボ期間、その後、すべての患者に対して1日1回、共微粉化フェノフィブラート200mgを処方する6週の単純盲検活性物質導入期からなる(図1)。これにより、患者は、家族及び主治医と長期間にわたる参加について話し合う時間を持つことができ、また、推奨される食事のアドバイスを背景にしたフェノフィブラート治療の有用性を評価することができる。さらに、活性物質導入期は、長期間にわたる治療の臨床的有用性が、薬剤の短期間の効果とどの程度相関を持って種々の脂質画分を改善するかを判定するためのものである。
【0044】
本試験において、5年以上にわたる追跡調査を行った。
【0045】
本試験の第一のアウトカムは、初発時には非致死的であったMI又はCHDによる、無作為化された全ての患者における、予定治療期間中の死亡の合算発生率である。第二のアウトカムは、以下に対するフェノフィブラートの効果を含む:主要心血管系イベント(CHDイベント、総脳卒中、及び、他の心血管疾患による死亡をあわせたもの)、総心血管系イベント(主要心血管系イベント、並びに、冠動脈及び頚動脈の血管再生)、CHDによる死亡、総心血管系疾患による死亡、出血性脳卒中及び非出血性脳卒中、冠動脈及び末梢血管の血管再生術、死因別非CHD死亡率(癌及び自殺等)、並びに、総死亡率。全ての死亡、並びに、潜在的MI及び潜在的脳卒中は、アウトカム評価委員会(Outcome Assessment Committee)が盲検形式で判断した。第三のアウトカムは以下に対する治療の効果を含む:血管障害及び神経障害による切断、非致死的癌、腎臓病の進行、糖尿病性網膜症のレーザー治療、狭心症による入院、並びに、全ての入院回数及び入院期間。
【0046】
サンプルサイズ:試験クリニックでスクリーニングされた患者13900人中、75.9%(10553人)がプラセボ導入期に進み、73.4%(10202人)が活性物質導入期に進み、最終的に9795人(70.5%)の患者を無作為化した。無作為化した患者、及び、無作為化していない患者についての人口学的特性を表1に示す。試験集団において、女性よりも男性が多く含まれ、平均年齢は60代半ばであり、且つ、無作為化された患者のうち2100人を超える患者には心血管系疾患の既往があった。
【0047】
無作為化された被験者は、オーストラリアでは6051人、ニュージーランドでは2351人、フィンランドでは1393人であった。患者の平均年齢、又は、診断時の年齢(オーストラリア、フィンランド、及び、ニュージーランドについて、それぞれ55.8才及び56.2才)について、3カ国間に違いは認められなかった。糖尿病と診断されてから無作為化までの期間の中央値は、それぞれ5、7、5年であった。採用した患者は病院及び社会全体から抽出した混合体であるので、絶対的なリスクは多様であった。
【0048】
【表1−1】

【0049】
【表1−2】

【0050】
糖尿病性網膜症のレーザー治療に関する第3のアウトカムの結果
【0051】
【表2】

【0052】
結果より、フェノフィブラートを投与された患者(178(3.6%))に比べて、プラセボを投与された患者(253(5.2%))の方が、網膜症に対する1回以上のレーザー治療を必要とした。
【0053】
【表3】

【0054】
発生の事例は、無作為化後の網膜症に対する最初のレーザー治療に相当する。
【0055】
有病の事例は、報告された全ての無作為化後のレーザー治療に相当する。
【0056】
このように、ベースライン時に網膜症を発症していない患者間では、極めて類似したフェノフィブラートの効果が見られた(p=0.001)。
【0057】
図2A及び2Bに、ベースライン時に糖尿病性網膜症を発症していた患者を含む場合及び含まない場合のレーザー治療に関する累積発生率を表すKaplan−Meier曲線を示す。
【0058】
結果より、網膜のレーザー療法が必要な場合における、フェノフィブラートの好ましい効果について、初のエビデンスが得られた。プラセボを投与された患者に比べて、フェノフィブラートを服用している患者では、網膜のレーザー療法による治療回数が少ないので、フェノフィブラートによる網膜症の予防及び治療は明確な効果が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】フェノフィブラートの実質的な影響が、2型糖尿病患者の臨床における心血管イベントに対して恩恵をもたらすかどうかについて、適当に無作為化した初のエビデンスを提供するように設計した調査の概要を示す。
【図2A】ベースライン時に糖尿病性網膜症を発症していた患者を含む場合のレーザー治療に関する累積発生率を表すKaplan−Meier曲線を示す。
【図2B】ベースライン時に糖尿病性網膜症を発症していた患者を含まない場合のレーザー治療に関する累積発生率を表すKaplan−Meier曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
網膜症、特に糖尿病性網膜症の予防用及び/又は治療用薬剤を製造するためのフェノフィブラート又はその誘導体の使用。
【請求項2】
前記フェノフィブラートの誘導体は、フェノフィブリン酸、又は、フェノフィブリン酸の生理学的に許容される塩である、
請求項1に記載の使用。
【請求項3】
フェノフィブリン酸の前記生理学的に許容される塩は、コリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン、カルシウム、及び、トロメタミンからなる群から選択される、
請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記薬剤は、さらにスタチンを含む、
請求項1から3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記薬剤は、200mg、160mg、145mg、又は130mgのフェノフィブラート又はその誘導体を含む、
請求項1から4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記薬剤は、フェノフィブラート又はその誘導体の経口製剤である、
請求項1から5のいずれか1項に記載の使用。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【公表番号】特表2009−515856(P2009−515856A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−539447(P2008−539447)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【国際出願番号】PCT/EP2006/068352
【国際公開番号】WO2007/054566
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(596160894)ラボラトワール フルニエ エス・アー (16)
【Fターム(参考)】