説明

糖尿病性血管合併症の治療方法

本発明は、治療有効量のヤマノイモ属種の抽出産物を、それを必要とする被験体に投与するステップを含む、糖尿病性血管合併症の治療方法を提供する。抽出産物は、(a)ヤマノイモ属種の塊茎を、酢酸溶液の存在下でアルコールベースの溶媒を用いて抽出して抽出組成物を形成するステップと、(b)ステップ(a)において得られた産物を供して可溶性画分を得るステップと、(c)ステップ(b)において得られた可溶性画分から溶媒を除去して抽出産物を得るステップとを含むプロセスによって調製されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年6月14日に出願した米国仮特許出願第60/804,656号および2006年10月18日に出願した米国非仮特許出願第11/582,894号の利益を主張し、それらの開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、糖尿病性血管合併症の医療、詳細には、ヤマノイモ属種の抽出産物を用いて糖尿病性血管合併症を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
非酵素的な糖化(メイラード反応)は、糖尿病性血管合併症の発病の原因とされている。最近の免疫組織化学的研究によって、糖尿病の被験体では最終糖化反応物(AGE)の形成が亢進されていることが示された(Liuら、Diabetes.48:2074〜2082頁、1999年)。AGE形成は、それ自体が、組織タンパク質の構造および機能特性を変化させることがわかっている。さらに、AGE修飾タンパク質と種々の種類の細胞の間の相互作用は、糖尿病の被験体において観察される異常において病的役割を果たすと考えられている。したがって、身体におけるAGEの過剰な蓄積は、アテローム性動脈硬化病変、腎症、血管損傷、神経障害および網膜症などの糖尿病性血管合併症を誘発する主要因と示唆されている(Vlassaraら、Journal of Internal Medicine 251:87〜101頁、2002年)。
【0004】
慢性高血糖症は、本質的に、糖尿病性血管合併症の発生および進行に関与している。肝臓では、AGE修飾タンパク質のエンドサイトーシスが、スカベンジャー受容体の喪失および肝類洞内皮細胞における細胞内輸送の遅延をもたらす(Hansenら、Diabetologia 45:1379〜1388頁、2002年)。腎臓では、AGE修飾IV型コラーゲンおよびラミニンは、負に帯電したプロテオグリカンと相互作用するその能力を低下させ、アルブミンに対する血管透過性を増大させる(Silbigerら、Kidney Int 43:853〜64頁、1993年)。
【0005】
今日まで、AGE形成を防ぎ、細胞に対するAGE作用を低減し、既存のAGE架橋を分解しようとするいくつかのアプローチがあった。重要な薬理学的戦略は、小さな求核ヒドラジン化合物アミノグアニジン、AGE媒介性架橋の強力な阻害剤を利用してきた。ラットにおいて糖尿病性糸球体硬化症の進行を防ぐことがわかっているチアゾリジン誘導体OPB−9195をはじめとする別のAGE阻害性薬剤は、依然として開発下にある。アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI)、例えば、ランプリル(rampril)も、ストレプトゾトシン(STZ)で治療された糖尿病マウスにおいて腎症を軽減することがわかっている。
【0006】
これまでに開発された化合物または薬物は、AGEおよびAGE架橋の形成を阻害することを対象としていたが、既存のAGEは、特定の化合物または薬物によっては除去されず、依然として糖尿病の被験体では細胞および組織を損傷する。糖尿病の被験体に投与された化合物または薬物と関連している毒性および副作用を明らかにすることもまた困難である。
【0007】
ヤマノイモ属は、漢方に用いられる極めて重要な薬用植物の1種であり、その薬効は長年研究されてきた。1936年に、Tsukamotoらが、ヤマノイモ科の植物からジオスゲニン、ヤマノイモ属のステロイドサポニンを単離し、単離されたジオスゲニンを薬用ステロイドの迅速合成のための原材料として用いた。しかし、糖尿病性血管合併症の治療においてヤマノイモ属の抽出産物を用いる研究はいまだ実施されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国仮特許出願第60/804,656号
【特許文献2】米国非仮特許出願第11/582,894号
【特許文献3】米国特許出願番号11/274,775号
【特許文献4】米国特許出願公開第20060068036 A1号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Liuら、Diabetes.48:2074〜2082頁、1999年
【非特許文献2】Vlassaraら、Journal of Internal Medicine 251:87〜101頁、2002年
【非特許文献3】Hansenら、Diabetologia 45:1379〜1388頁、2002年
【非特許文献4】Silbigerら、Kidney Int 43:853〜64頁、1993年
【非特許文献5】Nei,M.およびW.H.Li.1979年、Mathematical Model for studying genetic variation in terms of restriction endonucleases、Proc.Natl.Acad.Soc.U.S.A.76;5269〜5273頁
【非特許文献6】Miyataら、The Journal of Biological Chemistry 272(7):4037〜4042頁、1997年
【非特許文献7】Lalaniら、International Journal of Molecular Medicine 15:811〜817頁、2005年
【非特許文献8】Shoreら、Nucleic Acid Reasearch、30(8):1767〜1773頁、2002年
【非特許文献9】Ikariら、Developmental Dynamics 228:173〜184頁、2003年
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、治療有効量のヤマノイモ属種(Dioscorea species)の抽出産物を、それを必要とする被験体に投与することを含む、糖尿病性血管合併症の治療方法に関する。
【0011】
別の言い方をすれば、本発明は、糖尿病性血管合併症を治療するための医薬品の調製のための、ヤマノイモ属種の抽出産物の使用であって、医薬品を、それを必要とする被験体に治療有効量で投与する使用に関する。
【0012】
前記の概要ならびに以下の発明の詳細な説明は、添付の図面と併せて読まれた場合により良好に理解される。図面には、本発明を例示する目的上、目下のところ好ましいものである実施形態が示されている。しかし、本発明は、図面と関連している厳密な実験条件およびパラメータに制限されないということを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】それぞれ、ヤマノイモ属種のメタノール抽出物およびエタノール抽出物のHPLC分析によって生じたピークを示すクロマトグラムである。
【図1B】それぞれ、ヤマノイモ属種のメタノール抽出物およびエタノール抽出物のHPLC分析によって生じたピークを示すクロマトグラムである。
【図2】配列番号1の単一のランダム増幅多型DNA(RAPD)プライマーを用いて増幅された、14種のヤマノイモ属種の試験パネルの増幅産物の電気泳動マーカープロフィールを示す合成像である。
【図3】クッパー細胞における一連の遺伝子発現を示す合成像である。
【図4】(図4A〜4D)STZ誘発糖尿病マウスの種々の肝臓組織像を示す顕微鏡画像であり、各画像は400×の倍率を有し、バースケールは50μmを表す。
【図5】(図5A〜5D)STZ誘発糖尿病マウスの種々の腎臓組織像を示す顕微鏡画像であり、各画像は400×の倍率を有し、バースケールは50μmを表す。
【図6】(図6A〜6E)AGE注射マウスの種々の肝臓組織像を示す顕微鏡画像であり、各画像は640×の倍率を有し、バースケールは20μmを表す。
【図7】(図7A〜7E)AGE注射マウスの種々の腎臓組織像を示す顕微鏡画像であり、各画像は640×の倍率を有し、バースケールは20μmを表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のより良好な理解のために、本明細書において用いられる用語のうちいくつかをより詳細に説明する。
【0015】
冠詞「a」および「an」は、1または1を超える(すなわち、少なくとも1の)、その冠詞の文法上の対象を指すよう本明細書において用いられる。例として、「要素(an element)」とは、1つの要素または1を超える要素を意味する。
【0016】
本明細書において用いられる用語「糖尿病性血管合併症」は、心血管疾患、神経障害、網膜症および腎症をはじめとする、真性糖尿病の経過の間に生じ、糖尿病患者における身体障害および高死亡率の主な原因となり得る血管障害を指す。
【0017】
本明細書において使用される場合、「パーセント」または「%」とは、成分が一部である組成物の重量に基づいて用いられる成分の重量パーセントを意味する。
【0018】
本明細書において使用される場合、「被験体」とは、哺乳動物など、具体的にはヒトを含めた、糖尿病性血管合併症でありまたはそれに罹患し得る任意の動物である。
【0019】
本発明は、治療有効量のヤマノイモ属種の抽出産物を、それを必要とする被験体に投与することを含む、糖尿病性血管合併症の治療方法を提供する。本発明の一例では、ヤマノイモ属種の抽出産物は、
(a)ヤマノイモ属種の塊茎を、酢酸の存在下でアルコールベースの溶媒と混合して、抽出組成物を得るステップと、
(b)ステップ(a)において得られた抽出組成物を分離処理に供して、可溶性画分を得るステップと、
(c)ステップ(b)において得られた可溶性画分から溶媒を除去してヤマノイモ属種の抽出産物を得るステップと
を含むプロセスによって調製される。
【0020】
アルコールベースの溶媒は、溶媒として作用できる任意の適したアルコールを含む。例えば、制限するものではないが、アルコールベースの溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノールまたはブタノールまたはそれらの混合物を含む。一実施形態によれば、ヤマノイモ属種の塊茎を、約1%の酢酸溶液の存在下、エタノールで抽出する。好ましくは、ヤマノイモ属種の塊茎を、約1%の酢酸溶液の存在下で約50〜約90%のエタノールで抽出する。本発明の一実施形態では、ヤマノイモ属種の塊茎を、約1%の酢酸溶液の存在下で約85%のエタノールで抽出する。別の実施形態によれば、ヤマノイモ属種の塊茎を粉砕し、約1%の酢酸溶液の存在下で約30%〜約90%のメタノール(例えば、約40%のメタノール)と混合する。抽出された混合物を、一晩静置させ、真空濾過などの濾過ステップによって分離して濾液を得る。次いで、濾液を凍結乾燥してヤマノイモ属の粗抽出物を得てもよい。
【0021】
本発明の一例では、本方法は、調製プロセスのステップ(a)の前に、以下のステップを含むヤマノイモ属種の塊茎の予備処理を、必要に応じて含む:
(i)ヤマノイモ属種の塊茎を、約1%の酢酸溶液に浸漬するステップと、
(ii)ヤマノイモ属種の塊茎を粉砕するステップと、
(iii)粉砕され、酢酸処理されたヤマノイモ属種の塊茎を凍結乾燥して、粉砕され、凍結乾燥され、酢酸処理されたヤマノイモ属種の塊茎を生成するステップ。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、ヤマノイモ属種の塊茎を約1%の酢酸溶液に浸漬し、その後、酢酸処理された塊茎を粉砕し、次いで凍結乾燥するステップと、凍結乾燥された塊茎を、アルコールベースの溶媒を用いて浸漬することによって抽出するステップと、粉砕され、凍結乾燥された塊茎を、アルコールベースの溶媒と混合して、混合物を形成するステップと、混合物を一晩静置させて、抽出産物を得るステップとによって、ヤマノイモ属種の抽出産物を調製してもよい。
【0023】
本発明はまた、糖尿病性血管合併症の治療方法を提供する。本方法は、治療有効量のヤマノイモ属種の抽出産物を、このような治療を必要とする被験体に投与することを含み、抽出産物は、
(a)ヤマノイモ属種の塊茎を、約1%の酢酸溶液に浸漬するステップと、
(b)酢酸処理されたヤマノイモ属種の塊茎を粉砕するステップと、
(c)粉砕され、酢酸処理されたヤマノイモ属種の塊茎を凍結乾燥して、粉砕され、凍結乾燥され、酢酸処理されたヤマノイモ属種の塊茎を生成するステップと、
(d)ステップ(c)の粉砕され、凍結乾燥され、酢酸処理されたヤマノイモ属種の塊茎の少なくとも一部を、約1%の酢酸溶液の存在下でアルコールベースの溶媒と混合して抽出組成物を得るステップと、
(e)ステップ(d)において得られた抽出組成物を分離処理に供して、可溶性画分を得るステップと、
(f)ステップ(e)において得られた可溶性画分から溶媒を除去して、ヤマノイモ属種の抽出産物を得るステップと
を含むプロセスによって調製される。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、本発明の調製プロセスおよび治療方法において用いられるヤマノイモ属種は、ヤマノイモ属種のゲノムDNAが配列番号9のプライマーを用いて増幅された場合に、以下の14種のDNAバンド:ヤマノイモ属種のゲノムDNAが配列番号9のプライマーを用いて増幅された場合に、428bp、452bp、537bp、602bp、723bp、817bp、934bp、1140bp、1242bp、1478bp、1641bp、1904bp、2151bpおよび2918bpを含むランダム増幅多型DNA(RAPD)フィンガープリントによって特徴付けられる、ディオスコレア・アラータ L.cv.ファイト(Dioscorea alata L.cv.Phyto)である。ランダム増幅多型DNA(RAPD)解析は、実施例4に記載されている。
【0025】
一実施形態によれば、治療有効量のヤマノイモ属種の抽出産物は、糖尿病性血管合併症の治療を必要とする被験体に経口経路によって投与される。しかし、抽出産物は、同様の治療効果を達成するために任意のその他の適当な投与経路、例えば、静脈内、腹腔内、経皮経路、特に、鼻腔経路を含む経粘膜経路において、それを必要とする被験体に投与してもよい。
【0026】
当業者にとっては、治療有効量ならびに投与量および投与頻度は、その知識および本開示に基づく単なる日常的な実験の標準法に従って容易に決定できる。投与量は、約1〜約100mg/体重1kg/日、好ましくは、約5〜約40mg/体重1kg/日、最も好ましくは、約10〜約30mg/体重1kg/日であり得る。
【0027】
以下の実施例は、本発明をさらに例示するために提供する。これらの実施例は、本発明の範囲を制限することを意図するものではなく、そのように制限しないものと解釈すべきである。
本発明の実施例
【実施例1】
【0028】
ヤマノイモ属種の粗抽出物(PH)の調製
皮をむいたヤマノイモ属種の塊茎を、1%酢酸の存在下でアルコールベースの溶液に浸漬した。撹拌した後、混合溶液を一晩静置させた。このプロセスから得られた可溶性部分を凍結乾燥して、ヤマノイモ属種の粗抽出物(PH)を得た。
【0029】
具体的には、1.4kgの皮をむいたヤマノイモ属種の塊茎を、角切りにし、1%酢酸溶液に浸漬した。これらの角切りを一晩酢酸溶液に浸漬し、上清を除去した。これらの角切りを凍結乾燥し、その後、抽出した。
【0030】
凍結乾燥した角切りを粉砕し、約1%の酢酸溶液の存在下で、約1.5〜約2.5Lの溶媒として、約30%〜約90%のメタノール(例えば、約40%のメタノール)と混合した。混合物を一晩静置し、真空濾過によって濾過して濾液を得た。次いで、濾液を凍結乾燥して、ヤマノイモ属種の粗抽出物(PH)を得た。
【0031】
あるいは、凍結乾燥した角切りを粉砕し、約1%の酢酸溶液の存在下で、約1.5〜約2.5Lの溶媒として、約50〜約90%のエタノール(例えば、約85%のエタノール)と混合した。同様に、混合物を一晩静置し、真空濾過によって濾過して濾液を得た。次いで、濾液を凍結乾燥して、ヤマノイモ属種の粗抽出物(PH)を得た。
【実施例2】
【0032】
ヤマノイモ属種の粗抽出物(PH)の分析
実施例1から得られた粗抽出物(メタノールおよびエタノール抽出物を含む)を、2つのポンプ(LC−10AT)、SPD−10A可変波長プログラム可能UV/Visフォトダイオードアレイ検出器、SCL−10Aシステムコントローラーおよびガードカラム(35mm×4.6mmおよび5μmパッキング;Supelco)を取り付けたC−18カラム(Supelcosil、250mm×4.6mmおよび5μmパッキング;Supelco、Bellefonte,USA)を備えるShimadzu HPLCシステム(Class VP 6.12バージョンソフトウェアを用いるClass VPシリーズ;Shimadzu、京都、日本)を用いてHPLCによって分析した。
【0033】
PH(10mg/mL)のHPLCサンプルは、88%の水(移動相A)と12%のメチルアルコール(移動相B)とを含有する移動相を用いて20μLのアリコートに調製し、0.9mL/分の流速で移動相を用いて平衡化したカラムに添加した。すべての有機溶媒は、HPLC等級であり、0.22μmのフィルターで濾過し、使用前に脱気した。HPLC法の合計実行時間は20分に設定した。溶出プロフィールは、Shimadzu SPD−10A UV−Visフォトダイオードアレイ検出器で260nmでモニターした。結果は、下記表1に列挙される以下のパラメータに基づいて定量化した。得られたクロマトグラムを、Class VP 6.12バージョンソフトウェア(Shimadzu、京都、日本)を用いて処理し、記録した。
【0034】
【表1】

【0035】
図1Aおよび1Bの両方を参照すると、プロフィール中のピークは十分に分離されていた。プロフィール中にいくつかのピークが観察され、ピーク4はPH中の有効成分を示す。図1Aおよび1Bに示されるように、ピーク4の保持時間は、メタノール抽出物については約7.045分であり、エタノール抽出物については約7.474であった。したがって、ヤマノイモ属種のメタノール抽出物のHPLCプロフィールは、エタノール抽出物のものと同様である。ヤマノイモ属種のメタノール抽出物は、化学成分においてヤマノイモ属種のエタノール抽出物とほとんど同様であり、それらは治療において同様の活性および有効性を提供するはずである。
【実施例3】
【0036】
粗抽出物(PH)を含有するマウス飼料の調製
Purina Chow5001という市販のマウス飼料を粉砕して粉末にした。粉砕された飼料に、凍結乾燥した粗抽出物PHを、同量の粉砕された飼料を置き換える量で加えて、飼料混合物を形成した。飼料混合物を蒸留水と均一に混合し、押し出し成形によって再形成し、電子レンジで適当な出力で2分間焼成し、室温に冷却した後−70℃で冷凍した。凍結乾燥後、飼料混合物を、元のPurina Chow飼料のものと極めて類似したペレットに形成した。このペレットを−20℃の冷凍庫で保存した。このペレットを、給餌の当日に室温に加温し、滅菌作業台上でUVランプ照射によって滅菌した。種々の濃度の粗抽出物を含有する飼料混合物を調製した。
【実施例4】
【0037】
ランダム増幅多型DNA(RAPD)解析におけるヤマノイモ属種の特徴付け
DNA抽出
未知のヤマノイモ属種の1種(サンプル番号100または102として2連で示されている)を、すべて台湾において栽培された、ディオスコレア・アラータ L.cv.(栽培品種)タイナン(Tainung)番号1(サンプル番号1)、ディオスコレア・エスクレンタ(Dioscorea esculenta)(サンプル番号3)、ディオスコレア・ブルビフェラ(Dioscorea bulbifera)(サンプル番号4)、ディオスコレア・アラータ L.cv.(Dioscorea alata L.cv.)8702(サンプル番号5)、ディオスコレア・アラータ L.cv.サンジA(Dioscorea alata L.cv.Sanzhi A)(サンプル番号6)、ディオスコレア・アラータ L.cv.サンジB(Dioscorea alata L.cv.Sanzhi B)(サンプル番号7)、ディオスコレア・アラータ L.cv.ダイエショウフェング(Dioscorea alata L.cv.Dayeshoufeng)(サンプル番号9)、ディオスコレア・アラータ L.cv.タイナン(Dioscorea alata L.cv.Tainung)番号2(サンプル番号10)、ディオスコレア・アラータ L.cv.ジーファ(Dioscorea alata L.cv.Jifa)(サンプル番号67)、ディオスコレア・アラータ L.cv.チャンアール(Dioscorea alata L.cv.Zhanger)番号2(サンプル番号64)、ディオスコレア・アラータ L.cv.ダーシャン(Dioscorea alata L.cv.Dashan)番号3(サンプル番号13)、ディオスコレア・アラータ L.cv.ダーシャン番号2(サンプル番号12)およびディオスコレア・アラータ L.cv.タイドン(Dioscorea alata L.cv.Taidong)(サンプル番号11)を含む13種の既知のヤマノイモ属種の試験パネルとともに特徴付けた。
【0038】
配列決定することによってヤマノイモ属種を特徴付けるために、各ヤマノイモ属の0.2gの新鮮な葉のサンプルを集め、液体窒素と混合し、乳鉢中で粉砕した。1.5mlの遠心管中で、粉砕された組織を、900μlの2%CTAB抽出バッファー(1.4M NaCl、pH8.0の100mM Tris−HCl、20mM EDTAおよび0.2%(β−メルカプトエタノールを含有)と混合し、続いて、65℃の水浴中で30分間インキュベートした。次いで、このサンプルを遠心分離し、上清を、600μLのクロロホルム/イソアミルアルコール(24:1)を含む清浄な管に移し、サンプルが乳化状態となるまでボルテックス処理をした。このサンプルをさらに遠心分離し、上清を清浄な管に移し、40μLの10%CTAB(0.7M NaCl含有)および400μLのクロロホルム/イソアミルアルコール(24:1)と混合した。このサンプルを再度遠心分離し、上清(400μL)を清浄な管に移し、400μLのCTAB沈殿バッファーと混合し、氷上に約15〜20分間静置してDNAを沈殿させた。DNAサンプルを、400μLの高塩TE(10mM Tris−HCl、pH8.0;1mM EDTAおよび1M NaCl)および800μLの95%エタノールですすいだ。DNAサンプルを遠心分離し、ペレットを、400μLの75%エタノールでさらにすすぎ、その後、DNAペレットを蒸留脱イオン(dd)HOに再懸濁し、−20℃で保存した。
RAPD反応
RAPD解析では、配列番号1のランダムRAPDプライマー、この場合にはOPA−18(AGGTGACCGT)(Operon Technologies,USA)を用いてヤマノイモ属種のゲノムDNAを増幅した。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、10×バッファー、2.5mMの各dNTP(dATP、dCTP、dGTPおよびdTTP)、2.0μMのプライマー(Operon)、5単位のTaq DNAポリメラーゼ(TaKaRa Biomedicals)および5ngの鋳型DNAを含有する25μL容積で実施した。サンプルを、94℃で1分間の変性、36℃で1分間のアニーリング、72℃で2分間の伸長からなる41サイクルおよび1回の72℃で10分間の最終伸長サイクルにかけた。PCRを完了した後、10μLの反応混合物を、電気泳動のために、0.5μg/mL臭化エチジウムを含有する2%アガロースゲルに添加した。
データ解析
ゲル電気泳動では、500bp、1000bp、1500bp、2000bp、2500bp、3000bp、3500bpおよび4000bpなど、種々の大きさの参照バンドを提供するために、ゲルの最初のレーン(左端にある)および最後のレーン(右端にある)の両方に、φX174DNA/HaeIIIマーカー(Promega Co.,USA)などのDNA分子量マーカー(M)を添加し、続いて、各レーンに各ヤマノイモ属種のPCRサンプルを添加した。各サンプルから得られた増幅されたDNA産物のプロフィールを、蛍光現像剤によって可視化し、画像取得ソフトウェア、AlphaImager 1220を用いて写真画像を獲得した。試験パネルに由来する各ヤマノイモ属種は、RAPDフィンガープリントにおいて独自のDNAバンドを生じたので、本発明のヤマノイモ属種のRAPDフィンガープラントを、その他のヤマノイモ属種と鑑別するよう調べた。具体的なヤマノイモ属種のフィンガープリントは、ヤマノイモ属種のゲノムDNAを配列番号9のプライマーを用いて増幅した場合に、以下の14種のDNAバンド:ヤマノイモ属種のゲノムDNAを、未知のヤマノイモ属種を特徴付けるために用いられる配列番号1のOPA−18プライマーを用いて増幅した場合に、428bp、452bp、537bp、602bp、723bp、817bp、934bp、1140bp、1242bp、1478bp、1641bp、1904bp、2151bpおよび2918bpを含む(図2においてサンプル番号100または102として、2連で示されている)。
【0039】
2種のヤマノイモ属種の間の類似度指数を算出するために、クラスター分析または対分析もGel−Comparソフトウェアを用いて実施した。分析に付されたパラメータは、RAPDフィンガープリントから得たものとした。次いで、以下の方程式を用いるクラスター分析において、非加重結合法(unweighted pair−grouping mean arithmetical analysis)(UPGMA)を用いて、類似度指数(F)を算出した:
F=2nxy/n+n
式中、nxyは、ヤマノイモ属種xおよびyにおいて共通するDNAバンドの数であり、nおよびnは、ヤマノイモ属種xおよびyそれぞれにおける総DNAバンドである(Nei,M.およびW.H.Li.1979年、Mathematical Model for studying genetic variation in terms of restriction endonucleases、Proc.Natl.Acad.Soc.U.S.A.76;5269〜5273頁)。
【0040】
未知のヤマノイモ属種は、ディオスコレア・アラータ L.cv.サンジAまたはディオスコレア・アラータ L.cv.チャンアール番号2と、約88.9%の類似度指数を有する。さらに、このヤマノイモ属種は、ディオスコレア・ブルビフェラまたはディオスコレア・エスクレンタと約37.5%の類似度指数を有する。さらに、未知のヤマノイモ属種は、ディオスコレア・ディオスコレア・アラータ L.cv.タイナン(Dioscorea Dioscorea alata L.cv.Tainung)番号1、ディオスコレア・アラータ L.cv.8702、ディオスコレア・アラータ L.cv.サンジB、ディオスコレア・アラータ L.cv.ダイエショウフェング、ディオスコレア・アラータ L.cv.タイナン番号2、ディオスコレア・アラータ L.cv.ダーシャン番号3またはディオスコレア・アラータ L.cv.ダーシャン番号2と、75.5%を超える類似度指数を有する。クラスター分析または対分析結果に基づいて、未知のヤマノイモ属種は、既知の種とは異なるが、ディオスコレア・アラータ亜種とより類似しているということが理解された。したがって、未知のヤマノイモ属種を、参照によりその開示が本明細書に組み込まれる、2005年11月15日に出願した米国特許出願番号11/274,775号、2006年3月30日に公開した米国特許出願公開第20060068036 A1号に記載されるディオスコレア・アラータ L.cv.ファイトと名付けた。
【実施例5】
【0041】
in vitro食作用アッセイに対する粗抽出物の効果
クッパー細胞の単離および培養
C57BL6/jマウスに、1:3の割合で混合したRompun(登録商標)キシラジン麻酔およびケタミン(S−(+)−ケタミン)麻酔の混合物を用いて腹膜内(ip)注射した。各マウスの中心静脈にポリエチレンカテーテルを用いてカニューレを挿入し、10mlのCa2+不含HBSSバッファーを用い、1ml/分の灌流速度で10分間、0.05%のIV型コラゲナーゼを含有するHBSSバッファーを用い、1ml/分の灌流速度で10分間肝臓組織を灌流して肝臓組織を軟化させた。軟化させた肝臓組織を摘出し、すすぎ、1対の鉗子によって切り開いて、肝臓組織から細胞懸濁液を放出した。結合組織を剥離した後、細胞懸濁液を、53番のナイロンメッシュを用いて濾過し、30gで3分間遠心分離した。次いで、細胞懸濁液を、600gで5分間遠心分離した。上清を廃棄し、細胞ペレットを、15mLのRBC溶解バッファーに再懸濁し、2分間反応を行わせた。細胞懸濁液に、15mLのRPMI 1640培地を加え、遠心分離し、細胞ペレットを、5mLのRPMI 1640培地に再懸濁し、25%(v/v)Percoll(商標)密度勾配培地からなるPercoll(商標)溶液の頂部の上に重層した。この細胞溶液を遠心分離し、濃縮されたクッパー細胞を含有する細胞ペレットを回収した。濃縮されたクッパー細胞を、RPMI 1640培地を用いて洗浄し、血清不含RPMI 1640培地に再懸濁した。
クッパー細胞の食作用アッセイ
クッパー細胞を、96ウェル培養プレートに播種し(4×10個細胞/ウェル)、以下10%FCS RPMI培地としても知られる、10%FCSを補充したRPMI培地において、少なくとも24時間培養した。培地を、種々の濃度(1000μg/mL、100μg/mL、10μg/mLおよび1μg/mL)のPHを加えた2%FCS RPMI培地に変更した。2時間培養した後、各ウェルに50μlのPBSに懸濁した1μmの大きさのFITCビーズを加え(5×10個/ウェル)、37℃で1.5時間さらに培養した。次いで、PBSで4回洗浄することによって結合していない1μmの大きさのFITCビーズを除去した。FluoroQuench(商標)色素(0.5μL/ウェル)を加えて、取り込まれた1μmの大きさのFITCビーズからの蛍光をクエンチした。取り込まれた1μmの大きさのFITCビーズの蛍光は、1時間後にサイトフルオロメーターを用いて測定し、対照群の蛍光を用いて標準化して、表2に示されるように相対食作用指数を求めた。
【0042】
【表2】

【0043】
種々の濃度の粗抽出物PH(1000μg/mL、100μg/mL、10μg/mLおよび1μg/mL)で処理したマウスクッパー細胞はすべて、いずれの処理も施していないマウスクッパー細胞の対照群と比較して取り込み食作用の亢進を示した。種々の濃度の、クッパー細胞食作用を促進し得るタフトシンは、このアッセイにおける陽性対照である。したがって、結果は、ヤマノイモ属の粗抽出物は、マウスクッパー細胞の細胞食作用を有意に促進したということを示唆するものである。
【実施例6】
【0044】
関連遺伝子の発現に対するPHの効果
PHで処理した細胞からの全RNAの単離
クッパー細胞を、6ウェルプレートにおいて培養した。培養培地を、血清不含培地と置換し、4時間維持した。細胞は、それぞれ100μg/mL、10μg/mLおよび1μg/mLの濃度のPHを用いて48時間処理した。PHを用いて処理した後、細胞を回収し、1mLのUltraspec(商標)RNA単離キット(Biotex Laboratories Inc.(USA))に懸濁した。全RNAは、キットの標準プロトコールに従うことによって得た。得られた全RNAは、定量的に測定した。
逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)分析
逆転写は、以下の手順に従って実施した。まず、mRNAを、26.5μLの、0.1μgのオリゴ−dT、5μgの全RNAを含有するDEPC処理滅菌反応混合物中、70℃で10分間の熱処理によって変性した。逆転写は、総容積40μLとなるよう反応混合物に加えた、4μLの10mM dNTP、0.5μlのrRNasin、1μLのAMV(トリ骨髄芽球症ウイルス)逆転写酵素(RT)(10単位)および8μlの5×RTバッファーを用いて実施し、42℃で60分間インキュベートし、その後、90℃で5分間熱不活化し、それによってcDNA産物が得られた。続いて、2.5μLのcDNA産物に、0.5μLの10mM dNTP、0.5μLのProzyme(商標)DNAポリメラーゼ(Protech Enterprise,Taipei,Taiwan)(2単位)、2μLの10×Prozyme(商標)バッファー、プライマー(1μLの1μg/μLのセンスDNAおよび1μLの1μg/μLのアンチセンスDNA)および滅菌水を加えて総容積20μLとし、DNAサーマルサイクラー(Perkin−Elmer−Cetus)中でインキュベートした。次いで、変性温度下94℃、アニーリング温度50℃および伸長温度72℃下、30サイクルのPCR反応を実施した。標的遺伝子(マウスCD36、マウスカテプシンおよびマウス肝細胞増殖因子(HGF))のセンスおよびアンチセンスプライマーを含むプライマー配列を、下記表3に列挙する。
【0045】
【表3】

【0046】
CD36は、既知AGEと結合するB型スカベンジャー受容体である(Vlassaraら、Journal of Internal Medicine 251:87〜101頁、2002年)。カテプシンDは、AGEを分解する酸性リソソームプロテアーゼである(Miyataら、The Journal of Biological Chemistry 272(7):4037〜4042頁、1997年)。HGFは、肝臓において、クッパー細胞によって産生され、肝細胞の機能を促進する増殖因子である(Lalaniら、International Journal of Molecular Medicine 15:811〜817頁、2005年)。粗抽出物PHの効果の測定では、CD36遺伝子(345bp)(遺伝子ハツカネズミ属筋肉CD36抗原(Cd36)、mRNAとして規定され、Shoreら、Nucleic Acid Reasearch,30(8):1767〜1773頁、2002年における開示に従って設計された、Gene Bank番号(受託):NM_007643参照)、カテプシンD遺伝子(867bp)(ハツカネズミ属筋肉カテプシンD、mRNA、完全コード配列として規定される、Gene Bank番号(受託):BC54758参照)およびHGF遺伝子(250bp)(ハツカネズミ属筋肉肝細胞増殖因子(HGF)、mRNAとして規定され、Ikariら、Developmental Dynamics 228:173〜184頁、2003年における開示に従って設計された、Gene Bank番号(受託):NM_010427.2参照)の発現パターンを、クッパー細胞において評価し、他方で、β−アクチン遺伝子(510bp)(ハツカネズミ属筋肉アクチン、β、細胞質(cytiplasmic)(Actb)、mRNAとして規定される、Gene Bank番号(受託):NM_007393参照)の発現は内部対照として提供された。図3に示されるように、粗抽出物は、細胞において、カテプシンDならびにCD36およびHGFの発現を増大させた。また、発現パターンは、クッパー細胞の食作用と線形相関を示した。したがって、カテプシンD、CD36およびHGF遺伝子の発現の増大を考慮すると、粗抽出物PHが、AGEの肝クリアランスを亢進することは明らかである。
【実施例7】
【0047】
ストレプトゾトシン(STZ)動物モデルに対するPHの効果
STZマウスモデル
この実験では、8週齢のC57BL/6jマウスを選択した。マウスを、正常群(STZ誘発DM(真性糖尿病)をもたない正常マウス)、対照STZ群(STZ誘発DMマウス)、200mg/kg/日のPH群(200mg/kg/日のPHを与えられたSTZ誘発DMマウス)および1000mg/kg/日のPH群(1000mg/kg/日のPHを与えられたSTZ誘発DMマウス)に無作為にグループ化した。各群に5匹のマウスとした。マウスにおいてDMを誘発するために、STZ(0.3mLの0.1Mクエン酸バッファー、pH4.5に溶解した)を、1日目に120mg/kgの用量で腹膜内(ip)注射し、次の3日間80mg/kgの用量でip注射した。STZの最後の注射の後、血漿グルコースを毎週モニターし、高い血漿グルコースレベル(>400mg/dL)を有するマウスを、以後の実験においてSTZ誘発マウスとして選択した。PH群マウスには、PHを2カ月間給餌したのに対し、対照および正常群のマウスには正常マウス飼料を与えた。2カ月後、肝臓および腎臓組織病理を評価して薬物有効性を調べた。
尿アルブミン濃度分析
尿を、タンパク質定量化のために100×希釈した。ウシ血清アルブミン(BSA)標準を、BCA分析のために段階希釈した(2mg/mL、1mg/mL、500μg/mL、250μg/mL、125μg/mL、61.5μg/mL、31.25μg/mLおよび0μg/mL)。37℃で30分間インキュベートした後、O.D.570nm吸光度測定値をとり、標準曲線をプロットした。線形回帰分析を実施して、定量的標準曲線およびR値を得た。総タンパク質濃度は、標準曲線から算出した。
尿アルブミンのELISA試験
96ウェルプレートの各ウェルを、固定総タンパク質含量(100μLのPBS中、100μgの総タンパク質)を有する希釈した尿サンプルを用いてコーティングし、4℃で一晩保存した。次いで、尿サンプルを洗浄バッファー(PBS中、0.05% v/v、Tween(商標)20)を用いて4回洗浄し、その後、5%ミルクを用いて室温で2時間ブロッキングした。洗浄バッファーを用いて、さらに4回洗浄した後、各ウェルに50μLの抗MSAポリクローナル抗体希釈溶液(3%ミルクで1:1000)を加え、室温で2時間インキュベートした。洗浄バッファーを用いて6回洗浄した後、各ウェルにペルオキシダーゼとコンジュゲートしているヤギ抗ニワトリIgG希釈溶液(PBS−BSAで1:1000)を加え、室温で2時間インキュベートした。100μLの1mg/mLのO−フェニレンジアミン(0.1Mクエン酸、pH5.5中)および5μLのHととものインキュベーションによって結合しているペルオキシダーゼを調べた。反応は、2NのNHSO(20μL/ウェル)を加えることによって、10分後に停止し、吸光度は、ELISAリーダーによって490nmの波長で測定し、正常マウスの平均吸光度を用いて標準化して、表4に示されるような相関指数を調べた。
【0048】
【表4】

【0049】
表4に示される結果から、200mg/kg/日のPHまたは1000mg/kg/日のPHを与えられたマウスにおける尿アルブミンレベルは、対照群のSTZ誘発マウスよりも有意に低かった。したがって、上記の結果は、200mg/kg/日または1000mg/kg/日の粗抽出物PHが投与された場合に、STZ誘発マウスの腎臓機能が回復したことを示す。
組織病理
肝臓および腎臓組織を、犠牲にされた後にマウスから採取し、末梢筋肉組織およびその結合組織を摘出した。次いで、組織を4%パラホルムアデヒド(paraformadehyde)中で固定し、パラフィン包埋し、その後組織を、各々5μm厚を有する切片に切断した。これらの組織切片を、キシレン中で脱パラフィンし、勾配エタノール(100%エタノール、95%エタノール、80%エタノール)ですすぎ、その後、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した。
【0050】
次いで、上記のように調製した肝臓組織切片を、光学顕微鏡下で観察した。図4Aは、正常なマウスに由来する肝細胞を含む健常な肝臓組織切片を示す。図4Bを参照すると、STZ誘発マウスの肝臓組織切片において、いくつかの小胞が見られ、このことは、肝細胞における脂肪変性の発生を示した。図4Cおよび4Dに示されるように、種々の投与量のPHを与えられたSTZ誘発マウスでは、肝臓組織が、用量依存的に修復され、損傷が防がれていたが、これらの肝臓組織切片では、わずかなグリコーゲン蓄積は依然として観察される場合がある。
【0051】
図5Aは、正常マウスに由来する糸球体を含む健常な腎臓組織切片を示す。図5Bでは、STZ誘発マウスの腎臓組織切片は、正常マウスの健常な腎臓切片と対照的に、損傷を受けた糸球体を示す。図5Cおよび5Dに示されるように、STZ誘発マウスは、種々の投与量のPHを与えられ場合、腎臓組織が、用量依存的に修復され、損傷が防がれていたが、これらの腎臓組織切片では、いくつかの損傷を受けた糸球体が依然として観察される場合がある。
【実施例8】
【0052】
AGE−BSAマウスモデルに対するPHの効果
マウス血清調製
全血サンプルを、眼窩出血によって2週間毎にマウスから採取した。血液を室温で少なくとも2時間凝固させ、次いで、遠心分離して血清を得た。血清はアッセイされるまで−20℃で保存した。
血清アルブミン精製
マウス血清は0〜4℃で維持した。沈殿物を、同温度、9,000gで15分間の遠心分離によって除去した。上清を、等容積の50%エタノール(pH6.7)を用いてpH6.9に調整し、10分間静置し、その後さらに、9,000gで15分間遠心分離して上清の画分I、IIおよびIIIを得た。
【0053】
上清の画分I、IIおよびIIIを、半分の容積の70%エタノール(pH5.8)を用いて再度滴定して、pH5.8に調整し、10分間静置し、その後、9,000gで15分間遠心分離して画分IV沈殿物を得た。画分IV上清はpH4.8に調整し、続いて、−5℃で60分間氷上で静置し、9,000gで10分間遠心分離して画分Vを得た。画分Vは重量分析のために、凍結し、乾燥させた。
AGE−MSA調製
0.1g/ml MSA(マウス血清アルブミン)および180mg/mlグルコースを、リン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)に別個に溶解した。この溶液を、0.22μmの滅菌フィルターを用いて濾過した。15mL試験管に5mLの溶液を加え、これをパラフィルムで密閉し、37℃、暗所でインキュベートした。8週間保存した後、溶液を、4℃の蒸留水(1/100、v/v)で3または4回透析してグルコースを完全に除去した。得られたAGE−MSAを、0.22μmの滅菌フィルターを用いて濾過し、凍結乾燥して粉末にし、定量し、その後、再溶解し、−20℃で保存した。
AGEマウスモデル
10週齢のC57BL/6Jマウスを、正常群(いずれの注射も施していない正常マウス)、MSA対照群(MSAで注射されたマウス)、200mg/kg/日のPH群(200mg/kg/日のPHを与えられたAGE注射マウス)、1000mg/kg/日のPH群(1000mg/kg/日のPHを与えられたAGE注射マウス)およびAGE−MSA対照群(糖尿病性血管合併症を誘発するためにAGE−MSAを注射されたマウス)に無作為にグループ化した。各群に5匹のマウスとした。200μLの容積のAGEs−MSAを用いて、マウスに静脈内注射した。マウスに、8回の静脈内注射で投与し、各注射は4mg/1回/マウス対照MSAまたはAGE−MSA(2回/週で4週間)を含有していた。マウスには、15日目から種々の用量のPHを含有するマウス飼料を与えた。2カ月後、マウスを犠牲にし、それらの肝臓および腎臓を組織病理検査用に摘出した。
【0054】
図6Eを参照すると、肝細胞の形が不規則であり、AGE−MSA対照群におけるマウスの肝臓組織切片において細胞外マトリックス(ECM)の蓄積があり、このことは、大規模な肝細胞が損傷を受けたことを示した。対照的に、粗抽出物PHを与えられたマウスから得た肝臓組織切片では、このような損傷は観察されなかった(図6Cおよび6D)。したがって、粗抽出物PHは、AGE−MSAによって引き起こされる肝臓損傷を最小にすることができるということが実証された。正常またはMSA対照マウスの腎臓組織切片では、糸球体は無傷であり、細胞外マトリックス(ECM)の増大はない(図7Aおよび7B)。対照的に、AGE−MSAを注射したマウスから得た腎臓組織切片において観察されるように、糸球体は明らかに損傷を受けており、肥大していた(図7E)。AGE注射されたマウスが、種々の投与量のPH(200mg/kg/日のPHおよび1000mg/kg/日のPH)を与えられた場合には、腎臓組織は、それ自体、正常マウスの腎臓に似るよう修復され、回復された。
【0055】
当業者には当然であろうが、その広範な発明概念から逸脱することなく上記の実施形態に変更を行うことができる。したがって、本発明は、開示された特定の実施形態に制限されないが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨および範囲内の改変を包含するものであるということが理解される。
【配列表フリーテキスト】
【0056】
配列番号1〜9 プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病性血管合併症を治療するための医薬品の調製のための、ヤマノイモ属種の抽出産物の使用であって、医薬品を、それを必要とする被験体に治療有効量で投与する使用。
【請求項2】
ヤマノイモ属種の抽出産物を経口投与する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
ヤマノイモ属種が、ヤマノイモ属種のゲノムDNAが配列番号9のプライマーを用いて増幅された場合に、以下の14種のDNAバンド:ヤマノイモ属種のゲノムDNAが配列番号9のプライマーを用いて増幅された場合に、428bp、452bp、537bp、602bp、723bp、817bp、934bp、1140bp、1242bp、1478bp、1641bp、1904bp、2151bpおよび2918bpを含むランダム増幅多型DNA(RAPD)フィンガープリントにより特徴付けられる、ディオスコレア・アラータ L.cv.ファイト(Dioscorea alata L.cv.Phyto)である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
ヤマノイモ属種の抽出産物が、
(a)ヤマノイモ属種の塊茎を、酢酸の存在下でアルコールベースの溶媒と混合して抽出組成物を得るステップと、
(b)ステップ(a)において得られた抽出組成物を分離処理に供して、可溶性画分を得るステップと、
(c)ステップ(b)において得られた可溶性画分から溶媒を除去してヤマノイモ属種の抽出産物を得るステップと
を含むプロセスによって調製される、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
アルコールベースの溶媒が、メタノールベースの溶媒、エタノールベースの溶媒、またはそれらの混合物である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
ヤマノイモ属種の抽出産物が、
(a)ヤマノイモ属種の塊茎を、1%酢酸溶液に浸漬するステップと、
(b)酢酸処理されたヤマノイモ属種の塊茎を粉砕するステップと、
(c)粉砕され、酢酸処理されたヤマノイモ属種の塊茎を凍結乾燥して、粉砕され、凍結乾燥され、酢酸処理されたヤマノイモ属種の塊茎を生成するステップと、
(d)ステップ(c)の粉砕され、凍結乾燥され、酢酸処理されたヤマノイモ属種の塊茎の少なくとも一部を、約1%の酢酸溶液の存在下でアルコールベースの溶媒と混合して抽出組成物を得るステップと、
(e)ステップ(d)において得られた抽出組成物を分離処理に供して、可溶性画分を得るステップと、
(f)ステップ(e)において得られた可溶性画分から溶媒を除去して、ヤマノイモ属種の抽出産物を得るステップと
を含むプロセスによって調製される、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
アルコールベースの溶媒が、メタノールベースの溶媒、エタノールベースの溶媒、またはそれらの混合物である、請求項6に記載の使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−540002(P2009−540002A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515518(P2009−515518)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際出願番号】PCT/US2007/014089
【国際公開番号】WO2007/146427
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(504004463)國立陽明大學 (4)
【Fターム(参考)】