糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子の分離分析方法
【課題】液体クロマトグラフィにより、より簡便に異性体分子や糖ペプチド異性体分子を分離し、分析する方法を提供すること。
【解決手段】糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子から成る群から選ばれる少なくとも2種の分子を含む試料を、陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムに供給し、前記試料に含まれる前記糖鎖異性体分子および/または糖ペプチド異性体分子をカラムから溶出させて分離し、分離した分子を分析することを含む、糖鎖異性体分子および/または糖ペプチド異性体分子の分離分析方法。
【解決手段】糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子から成る群から選ばれる少なくとも2種の分子を含む試料を、陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムに供給し、前記試料に含まれる前記糖鎖異性体分子および/または糖ペプチド異性体分子をカラムから溶出させて分離し、分離した分子を分析することを含む、糖鎖異性体分子および/または糖ペプチド異性体分子の分離分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子の分離、分析方法に関する。特に、本発明は、陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムによる液体クロマトグラフィにより、糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子を分離し、分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の成分を含む溶液試料の分離分析に、液体クロマトグラフィが使用されている。一般的には、疎水性分子(イオン)の分離分析には逆相型カラム、親水性分子(イオン)の分離分析には順相型カラムを用いる。しかし、生体試料では、一般に、疎水性分子(イオン)と親水性分子(イオン)が混在する。例えば、血清中には、疎水的なタンパク質や親水的な糖複合化合物が混在している。また、糖たんぱく質のトリプシン消化物でも、疎水的なペプチドと親水的な糖ペプチドが混在する。従って、このような生体試料を分離分析するには、通常、逆相型カラムを装着した装置と順相型カラムを装着した装置2台でそれぞれの分子(イオン)を分離分析する必要がある(図9参照)。または、逆相型(順相型)トラップカラムで疎水性(親水性)分子(イオン)のみを精製してから逆相型(順相型)カラムを装着した装置で、再度分離分析を行う必要がある(非特許文献1〜3参照)。
【0003】
さらに、糖鎖を含む分子においては、糖鎖のみを選択的に捕捉するアフィニティカラムや化学結合カラムを用いて、糖タンパクや糖ペプチドのみを捕捉精製する方法もある(非特許文献4〜5参照)。しかし、鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子の場合、エンドグリコキシダーゼで消化して分解した後に、分解生成物である糖または糖とペプチドとを別々に分析する必要があった(非特許文献6参照)。
【0004】
また、試料Aに含まれる成分(例えば、糖ペプチド)量と試料Bに含まれる成分の違いを、安定同位体標識法と質量分析計を組み合わせて測定する、いわゆる発現定量プロテオミックスでは、逆相カラム分離が一般に用いられている。しかし、この場合、安定同位体標識法として簡便で、安価な重水素(2D)化合物を用いると、ペプチドごとにピークが“2重”になるという問題がおこる(非特許文献7参照)。そこで、この問題を回避するためには、高価な13Cや18Oを使用する必要があった。定量グライコプロテオミックスでの糖ペプチドの分析においても、逆相カラムで分離を行う限り同様の問題が起こる(非特許文献7,8参照)。
【非特許文献1】An, H. et. al . Anal. Chem. 2003, 75, 5628-5637.
【非特許文献2】Wada, Y. et. al. Anal. Chem. 2004, 76, 6560-6565.
【非特許文献3】Hagglund, P.et. al. J. Proteome Res. 2004, 3, 556-566.
【非特許文献4】Kaji, H, et al. Nature Biotec. 2003, 21, 667-672.
【非特許文献5】Zang, H, et al. Nature Biotec. 2003, 21, 660-666.
【非特許文献6】Mechref, Y. and Novotny, M, V. Chem. Rev. 2002, 102, 321-369.
【非特許文献7】Zang, R. and Regnier F. E. J. Proteome Res. 2002, 1, 139-147.
【非特許文献8】Qiu, R. and Regnier F. E. Anal. Chem. 2005, 77, 2802-2809.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
糖鎖化学が進歩し、種々の糖鎖化合物、特に、糖異性体分子や糖ペプチド異性体分子を分離し、分析する機会が増えているが、疎水性分子(イオン)と親水性分子(イオン)が混在する糖異性体分子や糖ペプチド異性体分子の場合、逆相型カラムと順相型カラムの併用が必要であり、分析に時間と労力が必要である。
さらに、上述のように、特に糖ペプチド異性体分子の場合は、そのままの分子を分析することはできず、また、発現定量プロテオミックスにおいても、糖ペプチド異性体分子をそのまま測定することはできなかった。
【0006】
そこで本発明の目的は、液体クロマトグラフィにより、より簡便に異性体分子や糖ペプチド異性体分子を分離し、分析する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のとおりである。
[1]糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子から成る群から選ばれる少なくとも2種の分子を含む試料を、陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムに供給し、前記試料に含まれる前記糖鎖異性体分子および/または糖ペプチド異性体分子をカラムから溶出させて分離し、分離した分子を分析することを含む、糖鎖異性体分子および/または糖ペプチド異性体分子の分離分析方法。
[2]糖鎖異性体分子および/または糖ペプチド異性体分子の分離を、前記カラムに有機溶媒または有機溶媒と水または水溶液の混合物を供給することで行う[1]に記載の方法。
[3]有機溶媒がアセトニトリル、テトラヒドロフラン、アセトン、ジオキサン、ピリジン、メタノール、エタノール、1−プロパノールおよび2−プロパノールから成る群から選ばれる少なくとも1種である[2]に記載の方法。
[4]水溶液が塩を含む[2]に記載の方法。
[5]塩が酢酸アンモニウムである[4]に記載の方法。
[6]糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子が、500から10000の分子量を有する[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7]陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムが、ZIC(Zwitterionic Ion Chromatography)カラムである[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]カラムから溶出した分子または分析した分子を少なくとも1回同じカラムにリサイクルする[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[9]カラムから溶出した分子または分析した分子を、さらに分取する[1]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10]分離した分子の分析を、質量分析(MS)または核磁気共鳴(NMR)で行う[1]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[11]糖ペプチド異性体分子が、ペプチド鎖のN−末端及び/またはC−末端に水素/重水素同位体化合物を標識した分子であり、分離した分子の分析を質量分析により行う[1]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[12]糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子が、それぞれシアル酸糖鎖異性体分子およびシアル酸糖ペプチド異性体分子である[1]〜[11]のいずれかに記載の方法。
[13]糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子が、それぞれ硫酸化糖鎖異性体分子および硫酸化糖ペプチド異性体分子である[1]〜[11]のいずれかに記載の方法。
[14]糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子は、糖タンパク質をプロテアーゼで消化して得られたものである[1]〜[13]のいずれかに記載の方法。
[15]プロテアーゼが、トリプシン、キモトリプシン、パパインまたはペプシンカルボキシペプチダーゼである[14]に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来は、逆相型カラムと順相型カラムの併用が必要であり、また糖とペプチドとを分解した後に、糖とペプチドとを別々に分析する必要があった糖ペプチド異性体分子を、分解することなしに分析でき、必要により、分取することもできる。さらに本発明では、簡便で、安価な重水素標識法が発現定量グライコプロテオミックスで利用可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子から成る群から選ばれる少なくとも2種の分子を含む試料から、糖鎖異性体分子および/または糖ペプチド異性体分子を分離し、分離した分子を分析する方法に関する。本発明においては、陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムを用い、このカラムに上記試料を供給し、試料に含まれる前記糖鎖異性体分子および/または糖ペプチド異性体分子をカラムから溶出させて分離し、分離した分子を分析する。
【0010】
[陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相]
陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相は、例えば、有機樹脂で構成されるコアの表面に共有結合した多数の非芳香族両性イオン基を有するものであることができる。このような固定相は、例えば、特表2002−529714号公報に記載されている。より具体的には以下に説明する。
【0011】
上記固定相における「有機樹脂」とは、合成あるいは天然由来の有機重合体あるいは共重合体を示し、モノあるいはオリゴビニールモノマーユニットの、例えば、スチレンとその付加誘導体、アクリル酸あるいはメタクリル酸、アルキル アクリレートとメタクリレート、ハイドロキシアルキル アクリレートとメタクリレート、アクリルアミドとメタクリルアミド、ビニルピリジンとその付加誘導体、ジビニルベンゼン、ジビニルピリジン、アルキレン ジアクリレート、アルキレン ジメタクリレート、オリゴエチレン グリコール ジアクリレートとオリゴエチレン グリコール ジメタクリレートで5ケのエチレン グリコール 繰り返しユニットを持つものまで、アルキレン ビス(アクリルアミド)、ピペリジン ビス(アクリルアミド)、トリメチロールプロパン トリアクリレート、トリメチロールプロパン トリメタクリレート、ペンタエリスリオール トリアクリレートとテトラアクリレート、そして、これらの混合物からなる。また、それは、炭水化物の重合体である、アガロース、セルロース、デキストラン、キトサン、それらの交差結合誘導体であることもできる。このような有機樹脂は固定相のコア(核)となる。
【0012】
「非芳香族両性イオン基(zwitterionic non-aromatic group)」とは、同じペンダント状基に正と負の電価を同時に持つ、付加されたイオン性の非芳香族官能基に関し、結果としてその使用中の主な条件下で総電荷がないものを言う。この様な基は、バックボーンとなる重合体に直接的に結合されるモノマー単位として存在するか、あるいは、少なくとも部分的に非芳香族両性イオンモノマーユニットからなる直鎖あるいは交差結合した重合体あるいは共重合層で、結果としてバックボーン重合体に結合したペンダント状基のおのおのには多価の非芳香族両性イオン基があるものを言う。
【0013】
非芳香族両性イオン基は、非芳香族イオン基が生体高分子の分離に適用され得る水のpH領域において、解離或いは水素イオン付加平衡を行う事が出来るかによって"強"あるいは"弱"と分類される。非芳香族強イオン基の例としては、スルホン酸や4級アンモニウム基があり、一方弱イオン基の例としてはカルボキシル基やアルキル- あるいはハイドロキシアルキル-アミンがある。強/強 非芳香族両性イオン基の例としてスルホアルキルアンモニオベタイン類、スルホアルキルアルセノベタイン類、ホスホノアルキルアンモニオベタイン類、そしてホスホノアルキルアルセノベタイン類がある。弱/強 非芳香続両性イオンは、一つの強電荷と一つの弱電荷からなり、これは、基が両性イオン性であれば総電荷はゼロであり、或いは、弱イオン基が水素イオン付加しているか、陰イオン基として解離しているか或いは中間の形かで、正か負となる。弱/弱両性イオン基は、例として、a)中性側鎖をアルキルカップリングでα−アミノ基と結合したα−アミノ酸、或いはb)α位保護したアミノ酸で側鎖にある反応基で結合させ、電荷を持たない共有結合を形成し、その後、α−アミノ基を脱保護するものがあり、どちらの場合も、周囲のpHに依存して、正や負あるいは総電荷ゼロの電荷を持つことの出来る両性のペンダント状基を形成する。総電荷ゼロの状態においては、解離性であるか水素イオン付加され得るこれらの基は、反対電荷を一つずつ持つ両性イオンと中性/中性、非両性イオン型の間の平衡状態にある。
【0014】
ビニール系モノマーで強-強非芳香族両性イオン基を共有結合したものの例としては、3-(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンジメチルアンモニオ)-1-ブタンサルホネート,4-(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンジメチルアンモニオ)-1-ブタンサルホネート,2-メタクリルオキシエチルホスホリルクロリン,4-[(2-アクリルアミド-2-メチルプロピル)ジメチルアンモニオ]ブタノエート,および3-[N-デシル,N-(2-メタクリルオキシエチル) N-メチル]アンモニオプロパンサルホネートがある。
【0015】
この様な非芳香族両性イオン基を形成する重合体化モノマーを以下では"両性イオンモノマー(zwitterionic monomer)"と呼ぶ。同様に、非芳香族両性イオン基を形成する多孔性選択吸着体を以下"多孔性両性イオン選択吸着体(porous zwitterionic sorbent)"と呼ぶ。
【0016】
重合体/共重合体の選択は重要ではなく、従って多くの異なった種類の有機樹脂を使ことができる。表面の密な両性イオン官能基によリ提供される静電的なバリアーは、その下にある分離担体が生体高分子と相互作用することを遮蔽する。従って有機樹脂の役目は主に非芳香族両性イオン基の為の安定な分離担体となることである。従って選ばれた有機樹脂が化学的手法を使って結合することが可能な反応基を表面に持っている限り、重合体/共重合体の選択は重要ではない。よって、多くの異なった種類の有機樹脂に対し、非芳香族両性イオン性ペンダント性基を結合することができる。
【0017】
具体的には、非芳香族両性イオンモノマーが、有機樹脂の選択吸着分離担体を構成するモノマーの中の一部として含まれることができ、多孔性の両性イオン吸着体を提供できる。
【0018】
選択吸着分離担体は多孔性である。より特定すれば、その孔の直径は、溶出溶液の全体の流路を与えるために、5〜50nmの範囲であることができ、好ましくは7〜40nmの範囲である。
【0019】
非芳香族両性イオン基は、例えば、グラフト重合法で、非芳香族両性イオン基を持つモノマーが、分離担体の表面に結合される。具体的には、非芳香族両性イオン基が、非芳香族両性イオン基をもつモノマーが架橋モノマーと一緒に重合させられることで、選択吸着分離担体の構造全部を構成することもできる。より具体的には、非芳香族両性イオン基が分離担体にアルキル基の活性化で結合され、そして、それは続いてω−ジアルキルアミノアルキルスルホン酸と反応させ、分離担体上に非芳香族両性イオン基を形成する。表面に結合された非芳香族両性イオンペンダント基が、この分野で知られた反応手法を使い、適切に活性化された選択吸着分離担体上にジアルキルアミン(オプションとしていずれかあるいは両方のアルキル置換基に水酸基を含む)を取り込み、次にアルキルスルホンを反応させることで得られる。ある特定の具体例では、選択吸着分離担体は一体型の多孔性ポリマーである。"非芳香族両性イオン基(zwitterionic non-aromatic group)"とは、一つの同定できるペンダント性基として有機樹脂分離担体に結合された官能基に関し、当該官能基は陰と陽のイオン電荷の両方を持つものとして特徴づけられ、有機樹脂分離担体上に、直接的に、或いは活性化をした後に有機樹脂分離担体上に存在する官能基を覆う反応によるか、或いはそれらの性質を持った官能機を持つモノマーを重合することにより有機樹脂分離担体に結合されたものである。
【0020】
選択吸着分離担体は、その有機樹脂の表面が適切な反応可能な官能基を持つことで活性化されたものであってもよい。そのような官能基としては、エポキシ基、塩化アルキル基あるいは臭化アルキル基のようなハロゲン化アルキル基、および、アミノアルキルスルホン酸のアミノ基をアルキル化できるもので、その反応で選択吸着分離担体上に共有結合した非芳香族両性イオン基を形成する事ができるものを言う。
【0021】
具体例としては、上記の反応の結果できる両性イオン基が、ω−スルホアルキル-トリアルキルアンモニウム(スルホベタイン)基であることで、ここでは、少なくともアンモニア基の一つのアルキル誘導基が選択吸着分離担体に共有結合で結合され、いずれかあるいは両方のアルキル基が水酸基を持つことができることである。
【0022】
陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムは、上述のZIC(Ziwitterionic Ion Chromatography)カラムであることができ、このカラムは市販品として入手可能である。ZICカラムは、従来は、無機の陰イオンおよび陽イオンや小さな有機分子イオンの分離に使用されていたが、本発明者らの検討の結果、驚くべきことに、分子量が大きい、具体的には、例えば、500から10000の分子量を有する糖鎖異性体分子や糖ペプチド異性体分子を容易に分離することができることを見いだした。
【0023】
本発明の方法では、上記カラムに糖鎖異性体分子および/または糖ペプチド異性体分子を含む試料を供給した後、このカラムに有機溶媒または有機溶媒と水または水溶液の混合物を供給することで、目的分子の分離を行う。
【0024】
有機溶媒としては、例えば、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、アセトン、ジオキサン、ピリジン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等を用いることができ、特に、アセトニトリル、メタノールが好ましい。またはこれら有機溶媒は、単独で使用することができるが、2種以上を併用することもできる。
【0025】
有機溶媒と水または水溶液を併用する。水溶液の場合、水溶液の塩濃度やpHを調整することができる。水溶液が塩を含む場合、塩としては、例えば、酢酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等を用いることができる。特に、質量分析計を検出器として用いる場合には、揮発性の酢酸アンモニウムや炭酸アンモニウム好ましい。また、これら塩は、単独で使用することができるが、2種以上を併用することもできる。
【0026】
有機溶媒と水または水溶液の混合物において、有機溶媒の濃度は例えば、40%以上であることができ、有機溶媒100%を用いることもできる。有機溶媒と水または水溶液の混合物または有機溶媒をカラムに送液し、目的分子を分離する。有機溶媒の濃度を分離分析時間中に、連続的にまたは断続的に変化させることもでき(一般に液体クロマトグラフィで使用されているグラジエント法)、それにより分離分析の効率を高めることもできる。
【0027】
また、溶液の塩濃度やpH(また、必要に応じて温度も)最適化し、分離の効率(分離時間や分離能)を高めることができる。また、塩濃度やpHを分離分析時間中に連続的にまたは断続的に変化させること(グラジエント法)、分離分析の効率を高めることもできる。
【0028】
図1は、ZICカラムによる分離を最適化するために、カラムに送られる溶液の組成とその時間変化を示している。通常、グラジエント溶出と言われているものである。ZICカラムでの分離では、有機溶媒(例えば、アセトニトリル)2の濃度は分離分析時間とともに減少(逆に、水の組成比は増加)させる、いわゆる順相型分離モードを用いる。同時に、陰イオンおよび陽イオン交換基を有するZICカラムの分離効率を高めるために、有機溶媒溶液および水溶液中の塩の濃度も分離分析時間とともに変化させる。図1では、有機溶媒の濃度は直線的に、塩濃度は階段状に変化する様子を示しているが、逆、また、両方の組み合わせでもよい。
【0029】
本発明において分離分析の対象である糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子は、糖タンパク質をプロテアーゼで消化して得られたものであることができる。糖タンパク質には特に制限はないが、例えば、リボヌクレアーゼ、フェチュイン、トランスフェリン、カゼイン、免疫グロブリン(IgG, IgA, IgM)などである。細胞膜上に存在するほとんどのタンパク質には糖鎖が付いているとも言われており、糖タンパク質は生体内にあまねく存在している。さらに、糖タンパク質の消化に用いるプロテアーゼにも特に制限はないが、例えば、トリプシン、キモトリプシン、パパイン及びペプシンカルボキシペプチダーゼを挙げることができる。
【0030】
目的分子である糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子には特に制限はないが、例えば、500から10000の分子量を有するものであることができる。糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子の分子量は、上記プロテアーゼによる消化の条件や糖タンパク質の種類により適宜選択できる。
【0031】
本発明において、糖鎖分子とは、構成単糖(例えば、グルコース、ガラクトースとマンノース、ガラクトサミンとグルコサミン)が、それぞれが有する(1−6)位の水酸基を縮合されながら、直線状に、または、枝分かれしながら結合した分子である。また、糖鎖異生体分子とは、構成単糖の組成は同じであるが、アノメリック結合タイプ(α、β)、結合位置、枝分かれ構造等の違いから、分子量は同じであるが、構造が異なる異性体をいう。例えば、表1の210.2と210.3、また、211.2と211.3は糖鎖異性体分子である。さらに、糖鎖分子は、シアル酸化された糖鎖分子や硫酸化された糖鎖分子であることができる。即ち、糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子は、例えば、それぞれシアル酸糖鎖異性体分子およびシアル酸糖ペプチド異性体分子であることができ、あるいは、それぞれ硫酸化糖鎖異性体分子および硫酸化糖ペプチド異性体分子であることができる。また、糖鎖分子は、シアル酸や硫酸のような修飾を有さない糖鎖分子であることもできる。
【0032】
本発明において、糖ペプチド分子とは、ペプチドに上記糖鎖が結合した分子をいう。また、糖ペプチド異性体分子とは、ペプチドのアミノ酸シーケンスは同じであるが、ペプチドに結合している糖鎖が、上記の構造異性体であるものをいう。表1では、人免疫グロブリン(IgG-1,IgG-2)に210.2と210.3が結合したb-1/c-1, b-2/c-2がそれに該当する。
【0033】
【表1】
【0034】
図2は、糖たんぱく質をトリプシン酵素消化したときに生成する典型的な糖ペプチド分子の構造を示している。ペプチド鎖は、一般的に疎水性を示し、糖鎖は親水性を示す。また、中性付近の水溶液中ではペプチドのN-末端及びC-末端はイオン化しており、また、ペプチドを構成する酸性アミノ酸や塩基性アミノ酸はそれぞれ更に陰イオン化や陽イオン化している。更に、ペプチドに結合した糖鎖においても、シアリル糖や硫酸化糖が含まれる場合は、陰イオン化している。このように、一つの糖たんぱく質のトリプシン酵素消化物においても、多数の疎水的分子(イオン)(ペプチド)、親水的分子(イオン)(糖ペプチド)が混在している。多数のタンパク質、糖たんぱく質が混在する生体試料のトリプシン酵素消化物の分離分析は、一層複雑になることは容易に想像できる。
【0035】
分離した分子の分析は、目的分子の種類に応じて適宜の方法を使用することができるが、例えば、質量分析(MS)及び/または核磁気共鳴(NMR)を用いることができる。質量分析(MS)及び/または核磁気共鳴(NMR)以外にも、紫外吸光光度計(UV)、エバポレイテイブ光散乱検出器(ELS)、電気化学検出器(特に、糖鎖および糖ペプチドに対し)等を用いることができる。
【0036】
図3は、本発明の方法使用されるZICカラムを装着した液体クロマトグラフィ装置(以下、ZIC液体クロマトグラフィ装置と呼ぶ)の一例の概略構成を示す。各構成ユニットの機能と動作原理を以下に記述する。
【0037】
ポンプ1は、有機溶媒溶液2および水溶液3を、ソレノイドバルブ4の開閉を介して溶液組成比を変化させながら一定流量で、試料注入装置5に送液を行う。試料注入装置5は、ポンプ1からの溶液の流路中に試料を注入する。注入された試料中の分子(イオン)はZIC分離カラム6に送られ、分離カラムとの相互作用の小さい順に溶出される。分離カラム6により溶出された各分子(イオン)は検出器7で検出され、クロマトグラムとして記録される。
【0038】
さらに本発明においては、試料中の糖ペプチド異性体分子を、ペプチド鎖のN−末端及び/またはC−末端に水素/重水素同位体化合物で標識し、その後、上記カラムにかけることもできる。水素/重水素同位体化合物での標識は、例えば、N-アセトキシスクシンアミド(acetoxysuccinamide)と重水素化(Deuterated) N-アセトキシスクシンアミドよりペプチドのN-末端をアセチル化させる方法が知られている(非特許文献8参照)。
【0039】
水素/重水素同位体化合物で標識した分子の分析は質量分析(MS)により行う。本発明の方法では、重水素を用いた同位体標識法と質量分析とを組み合わせて糖ペプチド異性体分子の分析を行うことができる。
【0040】
さらに本発明においては、試料中の糖ペプチド異性体分子をピリジルアミノ化(PAラベル化)した後に上記カラムにかけることもできる。ピリジルアミノ化(PAラベル化)は常法により行うことができる。糖鎖のピリジルアミノ化(PAラベル化)法は、液体クロマトグラフィにおける高感度・高分離解析を実現するために広く用いられている糖鎖蛍光ラベル化法であり、本発明の方法においても有効なラベル化法である。
【0041】
本発明の方法においては、カラムから溶出した分子または分析した分子を少なくとも1回同じカラムにリサイクルすることができる。1回のカラム通過では分離が充分でない場合には、少なくとも1回、同じカラムに溶出液をリサイクルすることができる。リサイクルすることで、分離が不十分な2以上の成分の分離を促進することができる。
【0042】
図4は、リサイクルバルブ付ZIC液体クロマトグラフィ装置の一例の概略構成図である。一般に、分離能力を上げるためには、カラムを長くするが、カラム圧力も上がる。そこで、短いカラムで繰り返し分離するリサイクル方法が有効である。すなわち、リサイクルバルブ8を介してZIC-HILIC分離カラムから溶出した液をポンプ1に戻すようにする(図4の流路)。分離が終了したら、リサイクルバルブ8の流路を最初の状態に切り替える。
【0043】
本発明の方法においては、カラムから溶出した分子または分析した分子を、さらに分取することができる。目的分子を分取することで、分取した分子をさらに利用することができる。分取法としては、例えば、フラクションコレクター等を用いることができる。
【0044】
図5は、フラクションコレクター付ZIC分取液体クロマトグラフィ装置の一例の概略構成図である。ZIC分離カラムから溶出した分子(イオン)をフラクションコレクター9に分取するものである。この場合、一般に、検出器からのモニター信号に基づいて、必要な溶出部分(分子(イオン)のみを分取する方法が取られている。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
実施例1
【0046】
図6は、IgGタンパク質のトリプシン酵素消化物のZICカラム(ZIC-HILIC (2×150mm))での分離分析例である。ZICカラムの固相は、表面にN,N-ジメチル-N-メタクリロイルオキシエチル-N-(3-スルホプロピル)アンモニウムベタイン(N,N-dimethyl-N-methacryloyloxyethyl-N-(3-sulfopropyl)ammonium betaine)を共有結合させたものである。溶離液A(20mM酢酸アンモニウムを含む50%アセトニトリル)と溶離液B(20mM酢酸アンモニウムを含む90%アセトニトリル)の直線グラジエント溶出法(33%B(0.0分)→67%B(120分)を用いた。流量は0.2mL/minで一定である。カラムオーブン(恒温槽)により、カラム温度は40℃に保った。
【0047】
IgGタンパク質のトリプシン酵素消化は以下のように行った。IgGタンパク質1mgにトリプシン20μg、50mM炭酸アンモニウム(pH=7.8)0.1mLを添加し、37℃で一晩放置した。その後、0.01M塩酸(pH=2)を添加して、90℃で1時間でトリプシン消化を止め、また、シアリル糖の脱離も同時に行った。その後、1M炭酸アンモニウムで中和した。
【0048】
分離条件(有機溶媒および塩濃度グラジエント、pH)を最適化することにより、疎水的なペプチドを前半部分、親水的な糖ペプチドを後半部分に溶出させることが可能である。図6に示す結果は、溶離液Aとして50%アセトニトリル水溶液(20mM酢酸アンモニウム)溶離液Bとして90%アセトニトリル水溶液(20mM酢酸アンモニウム)を用い、33−67%A(0−120分)のグラジェントで行ったものである。また、質量分析計を検出器として用いることにより、溶出分子(イオン)の確認(同定)ができている。
【0049】
図7は、図6の結果の内、溶出時間70−125分部分を拡大表示したもので、2種のIgG1,IgG2由来の8種の糖ペプチドの2価イオン質量クロマトグラム(MC)を表示している。m/z1401, m/z1385の質量クロマトグラム(MC)には2つの分離されたピークがある。これらは質量が同じの異性体である。すなわち、ペプチド部分が同じで、糖鎖部分が構造異性体である。このように、分子量が大きな糖ペプチド異性体分離が出来るのが、本発明の特徴である。
【0050】
実施例2
図8は、安定同位体(重水素)標識法と質量分析計を用いた発現定量グライコプロテオミックスにおけるクロマトグラムである。
人由来のIgGから酵素によって切り出された糖鎖を2分割し、それぞれを2−アミノピリジン(H)と重水素置換された2−アミノピリジン(D)で標識化した後、両サンプルを混合し、逆相カラムとZICカラムで分離分析し比較した。
【0051】
図8Aは、逆相型カラム(比較例)では、水素/重水素標識されたIgG糖鎖の各成分ピークが分離し、“2重”ピークになる様子を示している。この場合、質量分析条件が異なることになり、試料間の各成分の正確な違いを定量するが困難である。しかし、図8Bで示すように、ZICカラムを用いた場合(本発明)には、この“2重”ピークは完全に重なる(しかし、質量分析では、D置換された成分は4ダルトン(Da)シフトするので、識別可能)。したがって、簡便で、安価な重水素標識法が、発現定量グライコプロテオミックスで利用可能となる。ZICカラムを用いた場合の分離分析条件は、直線グラジエント溶出法の時間を60分に短縮した以外は、図6と同じである。
【0052】
実施例3
図10Aは、Alpha-1-Acid糖タンパク質(AGP)のトリプシン酵素消化物のZICカラム(ZIC-HILIC (2×150mm)での分離分析例である。ZICカラムは実施例1と同様のものを使用した。溶離液A(50%アセトニトリル)、溶離液B(アセトニトリル)、溶離液C(100mM酢酸アンモニウム(pH=6.8))の直線グラジエント溶出法(A/B/C=36/64/10(0.0分)→ 54/36/10(120分)を用いた。流量は0.2mL/minで一定である。カラムオーブン(恒温槽)により、カラム温度は40℃に保った。
【0053】
AGPタンパク質のトリプシン酵素消化は以下のように行った。還元アルキル化したAGPタンパク質0.5mgにトリプシン20μg、50mM炭酸アンモニウム(pH=7.8)0.1mLを添加し、37℃で一晩放置した。その後、0.01M塩酸(pH=2)を添加して、90℃、10分間でトリプシン消化を止めた。その後、10mMM炭酸アンモニューム(pH=7.8)で、ゲルろ過精製を行い、AGPタンパク質のトリプシン酵素消化物を得た。
【0054】
図10BおよびCは、図10Aの結果の内、溶出時間(5−60分)、(60−110分)部分を、それぞれ拡大表示したものである。前半では、糖鎖が付いていないペプチドのみ、また後半では、シアリル糖鎖ペプチド(表2に記載)のみが、多価(z)イオンとして検出されている。更に、図11Aは、検出されたシアリル糖鎖ペプチド(表2に記載)の質量クロマトグラム(MC)を表示している。各質量クロマトグラム(MC)には1または複数の分離されたピークがある。これらは質量が同じである異性体である。すなわち、ペプチド部分が同じで、糖鎖部分が構造異性体である。このように、分子量が大きく多数の異性体が存在しうるシアリル糖ペプチド異性体分離が出来るのが、本発明の特徴である。図11Bはシアリル糖鎖をペプチドから酵素で切り出しピリジルアミノ化(PAラベル化)した糖鎖の質量クロマトグラムである。この場合も、PA糖鎖異性体がよく分離されている。
【0055】
【表2】
表中、{で表されるシアル酸及びフコースの結合位置は特定できない。
【0056】
AGPタンパク質のトリプシン酵素消化物では、表2に示すように、ほとんどの糖鎖にシアル酸が付加しており、また、シアル酸の結合タイプ(α2−3/2−6)の違いによる異性体が多く存在する。また、フコースの有無や結合位置による異性体が存在する。
【0057】
実施例4
ZICカラムは実施例1と同様のものを使用し、ピリジルアミノ化(PAラベル化)したヒト由来のシアリル糖鎖異性体混合物(標準試料)を分離した。溶離液A(50%アセトニトリル)、溶離液B(90%アセトニトリル)、溶離液C(250mM酢酸アンモニウム(pH=6.8))の直線グラジエント溶出法(A)20mM酢酸アンモニウム:A/B/C=30/62/8(0.0分)→ 58/34/8(120分)(B)5mM酢酸アンモニウム:A/B/C=42/56/2(0.0分)→ 70/28/2(120分)を用いた。グラジエント溶出法中の酢酸アンモニウム濃度は一定に保たれている。流量は0.2mL/minで一定である。カラムオーブン(恒温槽)により、カラム温度は40℃に保った。結果を図12に示す。図12は中性およびシアリル糖鎖の保持時間に対する塩濃度の影響を示している。この図から、中性糖鎖の保持はほとんど変化しないが、シアリル糖鎖の保持時間は大きく変化し、塩濃度が高いほどカラムへの保持が強いことが分かる。
【0058】
実施例5
ピリジルアミノ化(PAラベル化)したヒト由来の糖鎖異性体混合物(標準試料)を分離した。分離条件は酢酸アンモニウム濃度が10mMに保たれている以外は、図12と同じである。結果を図13に示す。(A)は中性糖鎖の異性体の分離、(B)はトリシアリル糖鎖異性体の分離を示している。(B)に示すトリシアリル糖鎖異性体は、保持時間が小さいにもかかわらず分離度が良い。言い換えると、ZICカラムは、シアリル糖鎖の構造(α2−3およびα2−6結合様式)認識能が高いといえる。
【0059】
シアリル糖鎖異性体がZICカラムでよく分離するメカニズムについて、簡単に記述する。図12及び13の結果から、ZICカラムとシアリル糖鎖の相互作用考察したのが、図14である。ZICカラム表面には、水の組成が移動相より大きい“擬似固定相”が形成されており、また、負電荷を帯びたスルフォン酸基はカウンターイオン(この場合は、アンモニウムイオン)に囲まれている。したがって、塩濃度が高くなるにつれ、シアル酸との静電的な反発相互作用はシールドされ、弱まることになる(図12参照)。図13はα2−6結合の数が多いほど保持も強まることを示している。α2−6結合はα2−3結合に比べて、回転の自由度が大きいのが特徴である。静電的な反発相互作用を回避しようとする場合、回転の自由度が大きいα2−6結合のシアル酸が有利であることは容易に想像できる。結論として、シールドされた静電反発相互作用が、糖鎖全体に対する親水性相互作用を微調節する結果、シアリル糖鎖異性体の構造認識がなされているといえる。正電荷を帯びた4級アミン基は、シアル酸とシールドされた静電引力相互作用を行う。固定相近くに存在するために上記反発力に比べて小さいと思われるが、異性体認識に作用している。また、正負両イオン基をもつZICカラムは、1種(正または負)のイオン基をもつカラムに比べて、“擬似固定相”が厚く親水性相互作用も大きいといわれている。したがって、4級アミンおよびスルフォン酸基共に、親水性相互作用および静電的相互作用に関わっており、その結果として、糖鎖異性体の保持と構造認識が行われているといえる。このように、スルフォン酸基及び4級アミンという陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いることで、糖鎖異性体の保持と構造認識が行われる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、糖鎖化学、糖ペプチド等の分野で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】ZICカラムによる分離を最適化するためのグラジエント溶出曲線。
【図2】糖たんぱく質をトリプシン酵素消化したときに生成する典型的な糖ペプチド分子の構造。
【図3】本発明の第1の実施形態におけるZIC液体クロマトグラフィ装置の概略構成図。
【図4】本発明の第2の実施形態であるリサイクルバルブ付ZIC液体クロマトグラフィ装置の概略構成図。
【図5】本発明の第3の実施形態であるフラクションコレクター付ZIC分取液体クロマトグラフィ装置の概略構成図。
【図6】IgGタンパク質のトリプシン酵素消化物のZICカラムでの分離分析例。
【図7】図6の溶出時間70−125分部分を拡大表示したもので、2種のIgG1,IgG2由来の8種の糖ペプチドの2価イオン質量クロマトグラムを表示している。
【図8】安定同位体標識法と質量分析計を用いた発現定量グライコプロテオミックスにおけるクロマトグラム。
【図9】従来技術である2台の液体クロマトグラフィ装置の概略構成図。
【図10】(A)Alpha-1-Acidタンパク質のトリプシン酵素消化物のZICカラムでの分離分析例(UV検出器でモニターされたクロマトグラム)。(B)溶出時間(5−60分)部分を拡大表示(質量(MS)スペクトル)。(C)溶出時間(60−110分)部分を拡大表示(質量(MS)スペクトル)。
【図11】(A)検出されたシアリル糖ペプチドの多価イオン(表2に記載)の質量クロマトグラムを表示する。(B)PAラベル化されたシアリル糖鎖の質量クロマトグラムである。
【図12】シアリル糖鎖の保持時間に対する塩濃度の影響を示すクロマトグラムである。
【図13】トリシアリル糖鎖異性体の保持時間の違いを示すクロマトグラムである。
【図14】ZICカラムとシアリル糖鎖の相互作用モデルを示す。
【符号の説明】
【0062】
1 ポンプ
2、3 分離用溶液
4 ソレノイドバルブ
5 試料注入装置
6 分離カラム
7 検出器
8 リサイクルバルブ
9 マニホールド
10 フラクションコレクター
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子の分離、分析方法に関する。特に、本発明は、陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムによる液体クロマトグラフィにより、糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子を分離し、分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の成分を含む溶液試料の分離分析に、液体クロマトグラフィが使用されている。一般的には、疎水性分子(イオン)の分離分析には逆相型カラム、親水性分子(イオン)の分離分析には順相型カラムを用いる。しかし、生体試料では、一般に、疎水性分子(イオン)と親水性分子(イオン)が混在する。例えば、血清中には、疎水的なタンパク質や親水的な糖複合化合物が混在している。また、糖たんぱく質のトリプシン消化物でも、疎水的なペプチドと親水的な糖ペプチドが混在する。従って、このような生体試料を分離分析するには、通常、逆相型カラムを装着した装置と順相型カラムを装着した装置2台でそれぞれの分子(イオン)を分離分析する必要がある(図9参照)。または、逆相型(順相型)トラップカラムで疎水性(親水性)分子(イオン)のみを精製してから逆相型(順相型)カラムを装着した装置で、再度分離分析を行う必要がある(非特許文献1〜3参照)。
【0003】
さらに、糖鎖を含む分子においては、糖鎖のみを選択的に捕捉するアフィニティカラムや化学結合カラムを用いて、糖タンパクや糖ペプチドのみを捕捉精製する方法もある(非特許文献4〜5参照)。しかし、鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子の場合、エンドグリコキシダーゼで消化して分解した後に、分解生成物である糖または糖とペプチドとを別々に分析する必要があった(非特許文献6参照)。
【0004】
また、試料Aに含まれる成分(例えば、糖ペプチド)量と試料Bに含まれる成分の違いを、安定同位体標識法と質量分析計を組み合わせて測定する、いわゆる発現定量プロテオミックスでは、逆相カラム分離が一般に用いられている。しかし、この場合、安定同位体標識法として簡便で、安価な重水素(2D)化合物を用いると、ペプチドごとにピークが“2重”になるという問題がおこる(非特許文献7参照)。そこで、この問題を回避するためには、高価な13Cや18Oを使用する必要があった。定量グライコプロテオミックスでの糖ペプチドの分析においても、逆相カラムで分離を行う限り同様の問題が起こる(非特許文献7,8参照)。
【非特許文献1】An, H. et. al . Anal. Chem. 2003, 75, 5628-5637.
【非特許文献2】Wada, Y. et. al. Anal. Chem. 2004, 76, 6560-6565.
【非特許文献3】Hagglund, P.et. al. J. Proteome Res. 2004, 3, 556-566.
【非特許文献4】Kaji, H, et al. Nature Biotec. 2003, 21, 667-672.
【非特許文献5】Zang, H, et al. Nature Biotec. 2003, 21, 660-666.
【非特許文献6】Mechref, Y. and Novotny, M, V. Chem. Rev. 2002, 102, 321-369.
【非特許文献7】Zang, R. and Regnier F. E. J. Proteome Res. 2002, 1, 139-147.
【非特許文献8】Qiu, R. and Regnier F. E. Anal. Chem. 2005, 77, 2802-2809.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
糖鎖化学が進歩し、種々の糖鎖化合物、特に、糖異性体分子や糖ペプチド異性体分子を分離し、分析する機会が増えているが、疎水性分子(イオン)と親水性分子(イオン)が混在する糖異性体分子や糖ペプチド異性体分子の場合、逆相型カラムと順相型カラムの併用が必要であり、分析に時間と労力が必要である。
さらに、上述のように、特に糖ペプチド異性体分子の場合は、そのままの分子を分析することはできず、また、発現定量プロテオミックスにおいても、糖ペプチド異性体分子をそのまま測定することはできなかった。
【0006】
そこで本発明の目的は、液体クロマトグラフィにより、より簡便に異性体分子や糖ペプチド異性体分子を分離し、分析する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のとおりである。
[1]糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子から成る群から選ばれる少なくとも2種の分子を含む試料を、陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムに供給し、前記試料に含まれる前記糖鎖異性体分子および/または糖ペプチド異性体分子をカラムから溶出させて分離し、分離した分子を分析することを含む、糖鎖異性体分子および/または糖ペプチド異性体分子の分離分析方法。
[2]糖鎖異性体分子および/または糖ペプチド異性体分子の分離を、前記カラムに有機溶媒または有機溶媒と水または水溶液の混合物を供給することで行う[1]に記載の方法。
[3]有機溶媒がアセトニトリル、テトラヒドロフラン、アセトン、ジオキサン、ピリジン、メタノール、エタノール、1−プロパノールおよび2−プロパノールから成る群から選ばれる少なくとも1種である[2]に記載の方法。
[4]水溶液が塩を含む[2]に記載の方法。
[5]塩が酢酸アンモニウムである[4]に記載の方法。
[6]糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子が、500から10000の分子量を有する[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7]陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムが、ZIC(Zwitterionic Ion Chromatography)カラムである[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]カラムから溶出した分子または分析した分子を少なくとも1回同じカラムにリサイクルする[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[9]カラムから溶出した分子または分析した分子を、さらに分取する[1]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10]分離した分子の分析を、質量分析(MS)または核磁気共鳴(NMR)で行う[1]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[11]糖ペプチド異性体分子が、ペプチド鎖のN−末端及び/またはC−末端に水素/重水素同位体化合物を標識した分子であり、分離した分子の分析を質量分析により行う[1]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[12]糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子が、それぞれシアル酸糖鎖異性体分子およびシアル酸糖ペプチド異性体分子である[1]〜[11]のいずれかに記載の方法。
[13]糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子が、それぞれ硫酸化糖鎖異性体分子および硫酸化糖ペプチド異性体分子である[1]〜[11]のいずれかに記載の方法。
[14]糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子は、糖タンパク質をプロテアーゼで消化して得られたものである[1]〜[13]のいずれかに記載の方法。
[15]プロテアーゼが、トリプシン、キモトリプシン、パパインまたはペプシンカルボキシペプチダーゼである[14]に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来は、逆相型カラムと順相型カラムの併用が必要であり、また糖とペプチドとを分解した後に、糖とペプチドとを別々に分析する必要があった糖ペプチド異性体分子を、分解することなしに分析でき、必要により、分取することもできる。さらに本発明では、簡便で、安価な重水素標識法が発現定量グライコプロテオミックスで利用可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子から成る群から選ばれる少なくとも2種の分子を含む試料から、糖鎖異性体分子および/または糖ペプチド異性体分子を分離し、分離した分子を分析する方法に関する。本発明においては、陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムを用い、このカラムに上記試料を供給し、試料に含まれる前記糖鎖異性体分子および/または糖ペプチド異性体分子をカラムから溶出させて分離し、分離した分子を分析する。
【0010】
[陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相]
陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相は、例えば、有機樹脂で構成されるコアの表面に共有結合した多数の非芳香族両性イオン基を有するものであることができる。このような固定相は、例えば、特表2002−529714号公報に記載されている。より具体的には以下に説明する。
【0011】
上記固定相における「有機樹脂」とは、合成あるいは天然由来の有機重合体あるいは共重合体を示し、モノあるいはオリゴビニールモノマーユニットの、例えば、スチレンとその付加誘導体、アクリル酸あるいはメタクリル酸、アルキル アクリレートとメタクリレート、ハイドロキシアルキル アクリレートとメタクリレート、アクリルアミドとメタクリルアミド、ビニルピリジンとその付加誘導体、ジビニルベンゼン、ジビニルピリジン、アルキレン ジアクリレート、アルキレン ジメタクリレート、オリゴエチレン グリコール ジアクリレートとオリゴエチレン グリコール ジメタクリレートで5ケのエチレン グリコール 繰り返しユニットを持つものまで、アルキレン ビス(アクリルアミド)、ピペリジン ビス(アクリルアミド)、トリメチロールプロパン トリアクリレート、トリメチロールプロパン トリメタクリレート、ペンタエリスリオール トリアクリレートとテトラアクリレート、そして、これらの混合物からなる。また、それは、炭水化物の重合体である、アガロース、セルロース、デキストラン、キトサン、それらの交差結合誘導体であることもできる。このような有機樹脂は固定相のコア(核)となる。
【0012】
「非芳香族両性イオン基(zwitterionic non-aromatic group)」とは、同じペンダント状基に正と負の電価を同時に持つ、付加されたイオン性の非芳香族官能基に関し、結果としてその使用中の主な条件下で総電荷がないものを言う。この様な基は、バックボーンとなる重合体に直接的に結合されるモノマー単位として存在するか、あるいは、少なくとも部分的に非芳香族両性イオンモノマーユニットからなる直鎖あるいは交差結合した重合体あるいは共重合層で、結果としてバックボーン重合体に結合したペンダント状基のおのおのには多価の非芳香族両性イオン基があるものを言う。
【0013】
非芳香族両性イオン基は、非芳香族イオン基が生体高分子の分離に適用され得る水のpH領域において、解離或いは水素イオン付加平衡を行う事が出来るかによって"強"あるいは"弱"と分類される。非芳香族強イオン基の例としては、スルホン酸や4級アンモニウム基があり、一方弱イオン基の例としてはカルボキシル基やアルキル- あるいはハイドロキシアルキル-アミンがある。強/強 非芳香族両性イオン基の例としてスルホアルキルアンモニオベタイン類、スルホアルキルアルセノベタイン類、ホスホノアルキルアンモニオベタイン類、そしてホスホノアルキルアルセノベタイン類がある。弱/強 非芳香続両性イオンは、一つの強電荷と一つの弱電荷からなり、これは、基が両性イオン性であれば総電荷はゼロであり、或いは、弱イオン基が水素イオン付加しているか、陰イオン基として解離しているか或いは中間の形かで、正か負となる。弱/弱両性イオン基は、例として、a)中性側鎖をアルキルカップリングでα−アミノ基と結合したα−アミノ酸、或いはb)α位保護したアミノ酸で側鎖にある反応基で結合させ、電荷を持たない共有結合を形成し、その後、α−アミノ基を脱保護するものがあり、どちらの場合も、周囲のpHに依存して、正や負あるいは総電荷ゼロの電荷を持つことの出来る両性のペンダント状基を形成する。総電荷ゼロの状態においては、解離性であるか水素イオン付加され得るこれらの基は、反対電荷を一つずつ持つ両性イオンと中性/中性、非両性イオン型の間の平衡状態にある。
【0014】
ビニール系モノマーで強-強非芳香族両性イオン基を共有結合したものの例としては、3-(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンジメチルアンモニオ)-1-ブタンサルホネート,4-(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンジメチルアンモニオ)-1-ブタンサルホネート,2-メタクリルオキシエチルホスホリルクロリン,4-[(2-アクリルアミド-2-メチルプロピル)ジメチルアンモニオ]ブタノエート,および3-[N-デシル,N-(2-メタクリルオキシエチル) N-メチル]アンモニオプロパンサルホネートがある。
【0015】
この様な非芳香族両性イオン基を形成する重合体化モノマーを以下では"両性イオンモノマー(zwitterionic monomer)"と呼ぶ。同様に、非芳香族両性イオン基を形成する多孔性選択吸着体を以下"多孔性両性イオン選択吸着体(porous zwitterionic sorbent)"と呼ぶ。
【0016】
重合体/共重合体の選択は重要ではなく、従って多くの異なった種類の有機樹脂を使ことができる。表面の密な両性イオン官能基によリ提供される静電的なバリアーは、その下にある分離担体が生体高分子と相互作用することを遮蔽する。従って有機樹脂の役目は主に非芳香族両性イオン基の為の安定な分離担体となることである。従って選ばれた有機樹脂が化学的手法を使って結合することが可能な反応基を表面に持っている限り、重合体/共重合体の選択は重要ではない。よって、多くの異なった種類の有機樹脂に対し、非芳香族両性イオン性ペンダント性基を結合することができる。
【0017】
具体的には、非芳香族両性イオンモノマーが、有機樹脂の選択吸着分離担体を構成するモノマーの中の一部として含まれることができ、多孔性の両性イオン吸着体を提供できる。
【0018】
選択吸着分離担体は多孔性である。より特定すれば、その孔の直径は、溶出溶液の全体の流路を与えるために、5〜50nmの範囲であることができ、好ましくは7〜40nmの範囲である。
【0019】
非芳香族両性イオン基は、例えば、グラフト重合法で、非芳香族両性イオン基を持つモノマーが、分離担体の表面に結合される。具体的には、非芳香族両性イオン基が、非芳香族両性イオン基をもつモノマーが架橋モノマーと一緒に重合させられることで、選択吸着分離担体の構造全部を構成することもできる。より具体的には、非芳香族両性イオン基が分離担体にアルキル基の活性化で結合され、そして、それは続いてω−ジアルキルアミノアルキルスルホン酸と反応させ、分離担体上に非芳香族両性イオン基を形成する。表面に結合された非芳香族両性イオンペンダント基が、この分野で知られた反応手法を使い、適切に活性化された選択吸着分離担体上にジアルキルアミン(オプションとしていずれかあるいは両方のアルキル置換基に水酸基を含む)を取り込み、次にアルキルスルホンを反応させることで得られる。ある特定の具体例では、選択吸着分離担体は一体型の多孔性ポリマーである。"非芳香族両性イオン基(zwitterionic non-aromatic group)"とは、一つの同定できるペンダント性基として有機樹脂分離担体に結合された官能基に関し、当該官能基は陰と陽のイオン電荷の両方を持つものとして特徴づけられ、有機樹脂分離担体上に、直接的に、或いは活性化をした後に有機樹脂分離担体上に存在する官能基を覆う反応によるか、或いはそれらの性質を持った官能機を持つモノマーを重合することにより有機樹脂分離担体に結合されたものである。
【0020】
選択吸着分離担体は、その有機樹脂の表面が適切な反応可能な官能基を持つことで活性化されたものであってもよい。そのような官能基としては、エポキシ基、塩化アルキル基あるいは臭化アルキル基のようなハロゲン化アルキル基、および、アミノアルキルスルホン酸のアミノ基をアルキル化できるもので、その反応で選択吸着分離担体上に共有結合した非芳香族両性イオン基を形成する事ができるものを言う。
【0021】
具体例としては、上記の反応の結果できる両性イオン基が、ω−スルホアルキル-トリアルキルアンモニウム(スルホベタイン)基であることで、ここでは、少なくともアンモニア基の一つのアルキル誘導基が選択吸着分離担体に共有結合で結合され、いずれかあるいは両方のアルキル基が水酸基を持つことができることである。
【0022】
陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムは、上述のZIC(Ziwitterionic Ion Chromatography)カラムであることができ、このカラムは市販品として入手可能である。ZICカラムは、従来は、無機の陰イオンおよび陽イオンや小さな有機分子イオンの分離に使用されていたが、本発明者らの検討の結果、驚くべきことに、分子量が大きい、具体的には、例えば、500から10000の分子量を有する糖鎖異性体分子や糖ペプチド異性体分子を容易に分離することができることを見いだした。
【0023】
本発明の方法では、上記カラムに糖鎖異性体分子および/または糖ペプチド異性体分子を含む試料を供給した後、このカラムに有機溶媒または有機溶媒と水または水溶液の混合物を供給することで、目的分子の分離を行う。
【0024】
有機溶媒としては、例えば、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、アセトン、ジオキサン、ピリジン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等を用いることができ、特に、アセトニトリル、メタノールが好ましい。またはこれら有機溶媒は、単独で使用することができるが、2種以上を併用することもできる。
【0025】
有機溶媒と水または水溶液を併用する。水溶液の場合、水溶液の塩濃度やpHを調整することができる。水溶液が塩を含む場合、塩としては、例えば、酢酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等を用いることができる。特に、質量分析計を検出器として用いる場合には、揮発性の酢酸アンモニウムや炭酸アンモニウム好ましい。また、これら塩は、単独で使用することができるが、2種以上を併用することもできる。
【0026】
有機溶媒と水または水溶液の混合物において、有機溶媒の濃度は例えば、40%以上であることができ、有機溶媒100%を用いることもできる。有機溶媒と水または水溶液の混合物または有機溶媒をカラムに送液し、目的分子を分離する。有機溶媒の濃度を分離分析時間中に、連続的にまたは断続的に変化させることもでき(一般に液体クロマトグラフィで使用されているグラジエント法)、それにより分離分析の効率を高めることもできる。
【0027】
また、溶液の塩濃度やpH(また、必要に応じて温度も)最適化し、分離の効率(分離時間や分離能)を高めることができる。また、塩濃度やpHを分離分析時間中に連続的にまたは断続的に変化させること(グラジエント法)、分離分析の効率を高めることもできる。
【0028】
図1は、ZICカラムによる分離を最適化するために、カラムに送られる溶液の組成とその時間変化を示している。通常、グラジエント溶出と言われているものである。ZICカラムでの分離では、有機溶媒(例えば、アセトニトリル)2の濃度は分離分析時間とともに減少(逆に、水の組成比は増加)させる、いわゆる順相型分離モードを用いる。同時に、陰イオンおよび陽イオン交換基を有するZICカラムの分離効率を高めるために、有機溶媒溶液および水溶液中の塩の濃度も分離分析時間とともに変化させる。図1では、有機溶媒の濃度は直線的に、塩濃度は階段状に変化する様子を示しているが、逆、また、両方の組み合わせでもよい。
【0029】
本発明において分離分析の対象である糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子は、糖タンパク質をプロテアーゼで消化して得られたものであることができる。糖タンパク質には特に制限はないが、例えば、リボヌクレアーゼ、フェチュイン、トランスフェリン、カゼイン、免疫グロブリン(IgG, IgA, IgM)などである。細胞膜上に存在するほとんどのタンパク質には糖鎖が付いているとも言われており、糖タンパク質は生体内にあまねく存在している。さらに、糖タンパク質の消化に用いるプロテアーゼにも特に制限はないが、例えば、トリプシン、キモトリプシン、パパイン及びペプシンカルボキシペプチダーゼを挙げることができる。
【0030】
目的分子である糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子には特に制限はないが、例えば、500から10000の分子量を有するものであることができる。糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子の分子量は、上記プロテアーゼによる消化の条件や糖タンパク質の種類により適宜選択できる。
【0031】
本発明において、糖鎖分子とは、構成単糖(例えば、グルコース、ガラクトースとマンノース、ガラクトサミンとグルコサミン)が、それぞれが有する(1−6)位の水酸基を縮合されながら、直線状に、または、枝分かれしながら結合した分子である。また、糖鎖異生体分子とは、構成単糖の組成は同じであるが、アノメリック結合タイプ(α、β)、結合位置、枝分かれ構造等の違いから、分子量は同じであるが、構造が異なる異性体をいう。例えば、表1の210.2と210.3、また、211.2と211.3は糖鎖異性体分子である。さらに、糖鎖分子は、シアル酸化された糖鎖分子や硫酸化された糖鎖分子であることができる。即ち、糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子は、例えば、それぞれシアル酸糖鎖異性体分子およびシアル酸糖ペプチド異性体分子であることができ、あるいは、それぞれ硫酸化糖鎖異性体分子および硫酸化糖ペプチド異性体分子であることができる。また、糖鎖分子は、シアル酸や硫酸のような修飾を有さない糖鎖分子であることもできる。
【0032】
本発明において、糖ペプチド分子とは、ペプチドに上記糖鎖が結合した分子をいう。また、糖ペプチド異性体分子とは、ペプチドのアミノ酸シーケンスは同じであるが、ペプチドに結合している糖鎖が、上記の構造異性体であるものをいう。表1では、人免疫グロブリン(IgG-1,IgG-2)に210.2と210.3が結合したb-1/c-1, b-2/c-2がそれに該当する。
【0033】
【表1】
【0034】
図2は、糖たんぱく質をトリプシン酵素消化したときに生成する典型的な糖ペプチド分子の構造を示している。ペプチド鎖は、一般的に疎水性を示し、糖鎖は親水性を示す。また、中性付近の水溶液中ではペプチドのN-末端及びC-末端はイオン化しており、また、ペプチドを構成する酸性アミノ酸や塩基性アミノ酸はそれぞれ更に陰イオン化や陽イオン化している。更に、ペプチドに結合した糖鎖においても、シアリル糖や硫酸化糖が含まれる場合は、陰イオン化している。このように、一つの糖たんぱく質のトリプシン酵素消化物においても、多数の疎水的分子(イオン)(ペプチド)、親水的分子(イオン)(糖ペプチド)が混在している。多数のタンパク質、糖たんぱく質が混在する生体試料のトリプシン酵素消化物の分離分析は、一層複雑になることは容易に想像できる。
【0035】
分離した分子の分析は、目的分子の種類に応じて適宜の方法を使用することができるが、例えば、質量分析(MS)及び/または核磁気共鳴(NMR)を用いることができる。質量分析(MS)及び/または核磁気共鳴(NMR)以外にも、紫外吸光光度計(UV)、エバポレイテイブ光散乱検出器(ELS)、電気化学検出器(特に、糖鎖および糖ペプチドに対し)等を用いることができる。
【0036】
図3は、本発明の方法使用されるZICカラムを装着した液体クロマトグラフィ装置(以下、ZIC液体クロマトグラフィ装置と呼ぶ)の一例の概略構成を示す。各構成ユニットの機能と動作原理を以下に記述する。
【0037】
ポンプ1は、有機溶媒溶液2および水溶液3を、ソレノイドバルブ4の開閉を介して溶液組成比を変化させながら一定流量で、試料注入装置5に送液を行う。試料注入装置5は、ポンプ1からの溶液の流路中に試料を注入する。注入された試料中の分子(イオン)はZIC分離カラム6に送られ、分離カラムとの相互作用の小さい順に溶出される。分離カラム6により溶出された各分子(イオン)は検出器7で検出され、クロマトグラムとして記録される。
【0038】
さらに本発明においては、試料中の糖ペプチド異性体分子を、ペプチド鎖のN−末端及び/またはC−末端に水素/重水素同位体化合物で標識し、その後、上記カラムにかけることもできる。水素/重水素同位体化合物での標識は、例えば、N-アセトキシスクシンアミド(acetoxysuccinamide)と重水素化(Deuterated) N-アセトキシスクシンアミドよりペプチドのN-末端をアセチル化させる方法が知られている(非特許文献8参照)。
【0039】
水素/重水素同位体化合物で標識した分子の分析は質量分析(MS)により行う。本発明の方法では、重水素を用いた同位体標識法と質量分析とを組み合わせて糖ペプチド異性体分子の分析を行うことができる。
【0040】
さらに本発明においては、試料中の糖ペプチド異性体分子をピリジルアミノ化(PAラベル化)した後に上記カラムにかけることもできる。ピリジルアミノ化(PAラベル化)は常法により行うことができる。糖鎖のピリジルアミノ化(PAラベル化)法は、液体クロマトグラフィにおける高感度・高分離解析を実現するために広く用いられている糖鎖蛍光ラベル化法であり、本発明の方法においても有効なラベル化法である。
【0041】
本発明の方法においては、カラムから溶出した分子または分析した分子を少なくとも1回同じカラムにリサイクルすることができる。1回のカラム通過では分離が充分でない場合には、少なくとも1回、同じカラムに溶出液をリサイクルすることができる。リサイクルすることで、分離が不十分な2以上の成分の分離を促進することができる。
【0042】
図4は、リサイクルバルブ付ZIC液体クロマトグラフィ装置の一例の概略構成図である。一般に、分離能力を上げるためには、カラムを長くするが、カラム圧力も上がる。そこで、短いカラムで繰り返し分離するリサイクル方法が有効である。すなわち、リサイクルバルブ8を介してZIC-HILIC分離カラムから溶出した液をポンプ1に戻すようにする(図4の流路)。分離が終了したら、リサイクルバルブ8の流路を最初の状態に切り替える。
【0043】
本発明の方法においては、カラムから溶出した分子または分析した分子を、さらに分取することができる。目的分子を分取することで、分取した分子をさらに利用することができる。分取法としては、例えば、フラクションコレクター等を用いることができる。
【0044】
図5は、フラクションコレクター付ZIC分取液体クロマトグラフィ装置の一例の概略構成図である。ZIC分離カラムから溶出した分子(イオン)をフラクションコレクター9に分取するものである。この場合、一般に、検出器からのモニター信号に基づいて、必要な溶出部分(分子(イオン)のみを分取する方法が取られている。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
実施例1
【0046】
図6は、IgGタンパク質のトリプシン酵素消化物のZICカラム(ZIC-HILIC (2×150mm))での分離分析例である。ZICカラムの固相は、表面にN,N-ジメチル-N-メタクリロイルオキシエチル-N-(3-スルホプロピル)アンモニウムベタイン(N,N-dimethyl-N-methacryloyloxyethyl-N-(3-sulfopropyl)ammonium betaine)を共有結合させたものである。溶離液A(20mM酢酸アンモニウムを含む50%アセトニトリル)と溶離液B(20mM酢酸アンモニウムを含む90%アセトニトリル)の直線グラジエント溶出法(33%B(0.0分)→67%B(120分)を用いた。流量は0.2mL/minで一定である。カラムオーブン(恒温槽)により、カラム温度は40℃に保った。
【0047】
IgGタンパク質のトリプシン酵素消化は以下のように行った。IgGタンパク質1mgにトリプシン20μg、50mM炭酸アンモニウム(pH=7.8)0.1mLを添加し、37℃で一晩放置した。その後、0.01M塩酸(pH=2)を添加して、90℃で1時間でトリプシン消化を止め、また、シアリル糖の脱離も同時に行った。その後、1M炭酸アンモニウムで中和した。
【0048】
分離条件(有機溶媒および塩濃度グラジエント、pH)を最適化することにより、疎水的なペプチドを前半部分、親水的な糖ペプチドを後半部分に溶出させることが可能である。図6に示す結果は、溶離液Aとして50%アセトニトリル水溶液(20mM酢酸アンモニウム)溶離液Bとして90%アセトニトリル水溶液(20mM酢酸アンモニウム)を用い、33−67%A(0−120分)のグラジェントで行ったものである。また、質量分析計を検出器として用いることにより、溶出分子(イオン)の確認(同定)ができている。
【0049】
図7は、図6の結果の内、溶出時間70−125分部分を拡大表示したもので、2種のIgG1,IgG2由来の8種の糖ペプチドの2価イオン質量クロマトグラム(MC)を表示している。m/z1401, m/z1385の質量クロマトグラム(MC)には2つの分離されたピークがある。これらは質量が同じの異性体である。すなわち、ペプチド部分が同じで、糖鎖部分が構造異性体である。このように、分子量が大きな糖ペプチド異性体分離が出来るのが、本発明の特徴である。
【0050】
実施例2
図8は、安定同位体(重水素)標識法と質量分析計を用いた発現定量グライコプロテオミックスにおけるクロマトグラムである。
人由来のIgGから酵素によって切り出された糖鎖を2分割し、それぞれを2−アミノピリジン(H)と重水素置換された2−アミノピリジン(D)で標識化した後、両サンプルを混合し、逆相カラムとZICカラムで分離分析し比較した。
【0051】
図8Aは、逆相型カラム(比較例)では、水素/重水素標識されたIgG糖鎖の各成分ピークが分離し、“2重”ピークになる様子を示している。この場合、質量分析条件が異なることになり、試料間の各成分の正確な違いを定量するが困難である。しかし、図8Bで示すように、ZICカラムを用いた場合(本発明)には、この“2重”ピークは完全に重なる(しかし、質量分析では、D置換された成分は4ダルトン(Da)シフトするので、識別可能)。したがって、簡便で、安価な重水素標識法が、発現定量グライコプロテオミックスで利用可能となる。ZICカラムを用いた場合の分離分析条件は、直線グラジエント溶出法の時間を60分に短縮した以外は、図6と同じである。
【0052】
実施例3
図10Aは、Alpha-1-Acid糖タンパク質(AGP)のトリプシン酵素消化物のZICカラム(ZIC-HILIC (2×150mm)での分離分析例である。ZICカラムは実施例1と同様のものを使用した。溶離液A(50%アセトニトリル)、溶離液B(アセトニトリル)、溶離液C(100mM酢酸アンモニウム(pH=6.8))の直線グラジエント溶出法(A/B/C=36/64/10(0.0分)→ 54/36/10(120分)を用いた。流量は0.2mL/minで一定である。カラムオーブン(恒温槽)により、カラム温度は40℃に保った。
【0053】
AGPタンパク質のトリプシン酵素消化は以下のように行った。還元アルキル化したAGPタンパク質0.5mgにトリプシン20μg、50mM炭酸アンモニウム(pH=7.8)0.1mLを添加し、37℃で一晩放置した。その後、0.01M塩酸(pH=2)を添加して、90℃、10分間でトリプシン消化を止めた。その後、10mMM炭酸アンモニューム(pH=7.8)で、ゲルろ過精製を行い、AGPタンパク質のトリプシン酵素消化物を得た。
【0054】
図10BおよびCは、図10Aの結果の内、溶出時間(5−60分)、(60−110分)部分を、それぞれ拡大表示したものである。前半では、糖鎖が付いていないペプチドのみ、また後半では、シアリル糖鎖ペプチド(表2に記載)のみが、多価(z)イオンとして検出されている。更に、図11Aは、検出されたシアリル糖鎖ペプチド(表2に記載)の質量クロマトグラム(MC)を表示している。各質量クロマトグラム(MC)には1または複数の分離されたピークがある。これらは質量が同じである異性体である。すなわち、ペプチド部分が同じで、糖鎖部分が構造異性体である。このように、分子量が大きく多数の異性体が存在しうるシアリル糖ペプチド異性体分離が出来るのが、本発明の特徴である。図11Bはシアリル糖鎖をペプチドから酵素で切り出しピリジルアミノ化(PAラベル化)した糖鎖の質量クロマトグラムである。この場合も、PA糖鎖異性体がよく分離されている。
【0055】
【表2】
表中、{で表されるシアル酸及びフコースの結合位置は特定できない。
【0056】
AGPタンパク質のトリプシン酵素消化物では、表2に示すように、ほとんどの糖鎖にシアル酸が付加しており、また、シアル酸の結合タイプ(α2−3/2−6)の違いによる異性体が多く存在する。また、フコースの有無や結合位置による異性体が存在する。
【0057】
実施例4
ZICカラムは実施例1と同様のものを使用し、ピリジルアミノ化(PAラベル化)したヒト由来のシアリル糖鎖異性体混合物(標準試料)を分離した。溶離液A(50%アセトニトリル)、溶離液B(90%アセトニトリル)、溶離液C(250mM酢酸アンモニウム(pH=6.8))の直線グラジエント溶出法(A)20mM酢酸アンモニウム:A/B/C=30/62/8(0.0分)→ 58/34/8(120分)(B)5mM酢酸アンモニウム:A/B/C=42/56/2(0.0分)→ 70/28/2(120分)を用いた。グラジエント溶出法中の酢酸アンモニウム濃度は一定に保たれている。流量は0.2mL/minで一定である。カラムオーブン(恒温槽)により、カラム温度は40℃に保った。結果を図12に示す。図12は中性およびシアリル糖鎖の保持時間に対する塩濃度の影響を示している。この図から、中性糖鎖の保持はほとんど変化しないが、シアリル糖鎖の保持時間は大きく変化し、塩濃度が高いほどカラムへの保持が強いことが分かる。
【0058】
実施例5
ピリジルアミノ化(PAラベル化)したヒト由来の糖鎖異性体混合物(標準試料)を分離した。分離条件は酢酸アンモニウム濃度が10mMに保たれている以外は、図12と同じである。結果を図13に示す。(A)は中性糖鎖の異性体の分離、(B)はトリシアリル糖鎖異性体の分離を示している。(B)に示すトリシアリル糖鎖異性体は、保持時間が小さいにもかかわらず分離度が良い。言い換えると、ZICカラムは、シアリル糖鎖の構造(α2−3およびα2−6結合様式)認識能が高いといえる。
【0059】
シアリル糖鎖異性体がZICカラムでよく分離するメカニズムについて、簡単に記述する。図12及び13の結果から、ZICカラムとシアリル糖鎖の相互作用考察したのが、図14である。ZICカラム表面には、水の組成が移動相より大きい“擬似固定相”が形成されており、また、負電荷を帯びたスルフォン酸基はカウンターイオン(この場合は、アンモニウムイオン)に囲まれている。したがって、塩濃度が高くなるにつれ、シアル酸との静電的な反発相互作用はシールドされ、弱まることになる(図12参照)。図13はα2−6結合の数が多いほど保持も強まることを示している。α2−6結合はα2−3結合に比べて、回転の自由度が大きいのが特徴である。静電的な反発相互作用を回避しようとする場合、回転の自由度が大きいα2−6結合のシアル酸が有利であることは容易に想像できる。結論として、シールドされた静電反発相互作用が、糖鎖全体に対する親水性相互作用を微調節する結果、シアリル糖鎖異性体の構造認識がなされているといえる。正電荷を帯びた4級アミン基は、シアル酸とシールドされた静電引力相互作用を行う。固定相近くに存在するために上記反発力に比べて小さいと思われるが、異性体認識に作用している。また、正負両イオン基をもつZICカラムは、1種(正または負)のイオン基をもつカラムに比べて、“擬似固定相”が厚く親水性相互作用も大きいといわれている。したがって、4級アミンおよびスルフォン酸基共に、親水性相互作用および静電的相互作用に関わっており、その結果として、糖鎖異性体の保持と構造認識が行われているといえる。このように、スルフォン酸基及び4級アミンという陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いることで、糖鎖異性体の保持と構造認識が行われる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、糖鎖化学、糖ペプチド等の分野で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】ZICカラムによる分離を最適化するためのグラジエント溶出曲線。
【図2】糖たんぱく質をトリプシン酵素消化したときに生成する典型的な糖ペプチド分子の構造。
【図3】本発明の第1の実施形態におけるZIC液体クロマトグラフィ装置の概略構成図。
【図4】本発明の第2の実施形態であるリサイクルバルブ付ZIC液体クロマトグラフィ装置の概略構成図。
【図5】本発明の第3の実施形態であるフラクションコレクター付ZIC分取液体クロマトグラフィ装置の概略構成図。
【図6】IgGタンパク質のトリプシン酵素消化物のZICカラムでの分離分析例。
【図7】図6の溶出時間70−125分部分を拡大表示したもので、2種のIgG1,IgG2由来の8種の糖ペプチドの2価イオン質量クロマトグラムを表示している。
【図8】安定同位体標識法と質量分析計を用いた発現定量グライコプロテオミックスにおけるクロマトグラム。
【図9】従来技術である2台の液体クロマトグラフィ装置の概略構成図。
【図10】(A)Alpha-1-Acidタンパク質のトリプシン酵素消化物のZICカラムでの分離分析例(UV検出器でモニターされたクロマトグラム)。(B)溶出時間(5−60分)部分を拡大表示(質量(MS)スペクトル)。(C)溶出時間(60−110分)部分を拡大表示(質量(MS)スペクトル)。
【図11】(A)検出されたシアリル糖ペプチドの多価イオン(表2に記載)の質量クロマトグラムを表示する。(B)PAラベル化されたシアリル糖鎖の質量クロマトグラムである。
【図12】シアリル糖鎖の保持時間に対する塩濃度の影響を示すクロマトグラムである。
【図13】トリシアリル糖鎖異性体の保持時間の違いを示すクロマトグラムである。
【図14】ZICカラムとシアリル糖鎖の相互作用モデルを示す。
【符号の説明】
【0062】
1 ポンプ
2、3 分離用溶液
4 ソレノイドバルブ
5 試料注入装置
6 分離カラム
7 検出器
8 リサイクルバルブ
9 マニホールド
10 フラクションコレクター
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子から成る群から選ばれる少なくとも2種の分子を含む試料を、陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムに供給し、前記試料に含まれる前記糖鎖異性体分子および/または糖ペプチド異性体分子をカラムから溶出させて分離し、分離した分子を分析することを含む、糖鎖異性体分子および/または糖ペプチド異性体分子の分離分析方法。
【請求項2】
糖鎖異性体分子および/または糖ペプチド異性体分子の分離を、前記カラムに有機溶媒または有機溶媒と水または水溶液の混合物を供給することで行う請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機溶媒がアセトニトリル、テトラヒドロフラン、アセトン、ジオキサン、ピリジン、メタノール、エタノール、1−プロパノールおよび2−プロパノールから成る群から選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
水溶液が塩を含む請求項2に記載の方法。
【請求項5】
塩が酢酸アンモニウムである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子が、500から10000の分子量を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムが、ZIC(Zwitterionic Ion Chromatography)カラムである請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
カラムから溶出した分子または分析した分子を少なくとも1回同じカラムにリサイクルする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
カラムから溶出した分子または分析した分子を、さらに分取する請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
分離した分子の分析を、質量分析(MS)または核磁気共鳴(NMR)で行う請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
糖ペプチド異性体分子が、ペプチド鎖のN−末端及び/またはC−末端に水素/重水素同位体化合物を標識した分子であり、分離した分子の分析を質量分析により行う請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子が、それぞれシアル酸糖鎖異性体分子およびシアル酸糖ペプチド異性体分子である請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子が、それぞれ硫酸化糖鎖異性体分子および硫酸化糖ペプチド異性体分子である請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子は、糖タンパク質をプロテアーゼで消化して得られたものである請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
プロテアーゼが、トリプシン、キモトリプシン、パパインまたはペプシンカルボキシペプチダーゼである請求項14に記載の方法。
【請求項1】
糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子から成る群から選ばれる少なくとも2種の分子を含む試料を、陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムに供給し、前記試料に含まれる前記糖鎖異性体分子および/または糖ペプチド異性体分子をカラムから溶出させて分離し、分離した分子を分析することを含む、糖鎖異性体分子および/または糖ペプチド異性体分子の分離分析方法。
【請求項2】
糖鎖異性体分子および/または糖ペプチド異性体分子の分離を、前記カラムに有機溶媒または有機溶媒と水または水溶液の混合物を供給することで行う請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機溶媒がアセトニトリル、テトラヒドロフラン、アセトン、ジオキサン、ピリジン、メタノール、エタノール、1−プロパノールおよび2−プロパノールから成る群から選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
水溶液が塩を含む請求項2に記載の方法。
【請求項5】
塩が酢酸アンモニウムである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子が、500から10000の分子量を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムが、ZIC(Zwitterionic Ion Chromatography)カラムである請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
カラムから溶出した分子または分析した分子を少なくとも1回同じカラムにリサイクルする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
カラムから溶出した分子または分析した分子を、さらに分取する請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
分離した分子の分析を、質量分析(MS)または核磁気共鳴(NMR)で行う請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
糖ペプチド異性体分子が、ペプチド鎖のN−末端及び/またはC−末端に水素/重水素同位体化合物を標識した分子であり、分離した分子の分析を質量分析により行う請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子が、それぞれシアル酸糖鎖異性体分子およびシアル酸糖ペプチド異性体分子である請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子が、それぞれ硫酸化糖鎖異性体分子および硫酸化糖ペプチド異性体分子である請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
糖鎖異性体分子および糖ペプチド異性体分子は、糖タンパク質をプロテアーゼで消化して得られたものである請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
プロテアーゼが、トリプシン、キモトリプシン、パパインまたはペプシンカルボキシペプチダーゼである請求項14に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
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【図8】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−93585(P2007−93585A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204935(P2006−204935)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
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