説明

糸巻取装置

【課題】糸巻取装置においてパッケージ7の品質低下を防止する。
【解決手段】巻取ボビン6,7を支持可能とするクレードル8と、巻取ボビン6,7に連結されるパッケージ駆動モータ41と、巻取ボビン6,7の周面に接触して従動回転可能な接触ローラ9と、を備える。クレードル駆動機構24は、巻取ボビン6,7の周面を接触ローラ9に接触させるリフトダウン位置と、接触ローラ9から離間させるリフトアップ位置と、にクレードル8を移動可能である。リフトアップ時において、接触ローラ9はブレーキ機構27により制動される。ブレーキ機構27に異常が生じて接触ローラ9の停止が不完全な場合、アラーム出力手段52は、リフトダウン時にパッケージ回転センサ43が接触ローラ9の慣性回転を間接的に検知し、アラーム信号を出力して警告ランプ61を点灯させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動ワインダ等の糸巻取装置に関し、具体的には、クレードルに支持した巻取ボビンに巻取ボビン回転駆動装置の出力軸を連結するとともに、その巻取ボビンの周面に従動ローラを接触させる構成の糸巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の糸巻取装置としては、例えば特許文献1に開示されるものがある。この特許文献1の糸巻取装置は、クレードル(ボビンクリール)のアームに巻取り駆動装置を組み込み、巻取ボビン(綾巻きボビン)を巻取り駆動装置に連結可能な構成となっている。また、この巻取ボビンには従動ローラ(支持・クランプローラ)が摩擦接続的に結合され、この従動ローラにはブレーキ装置が配設されている。
【0003】
この構成の糸巻取装置において、糸欠陥の検出による糸切断や、糸解舒時の糸切れが検出されると、巻取ボビンは持ち上げられて従動ローラから離間し、更に、巻取ボビンの回転は巻取り駆動装置を介して制動される。更に、従動ローラに対して前記ブレーキ装置のブレーキエレメントが当接し、従動ローラの慣性回転が短時間で制動される構成になっている。
【特許文献1】特開2002−87699号公報(0021等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような構成において、長期間の使用に伴う前記ブレーキエレメントの摩耗等により、従動ローラの制動に時間が掛かり、従動ローラが完全に停止していない状態で巻取ボビンの持上げが解除されてしまう場合がある。この場合、停止している巻取ボビンの周面に慣性回転中の従動ローラが接触することで糸層が損傷し、パッケージの品質を著しく低下させてしまう。
【0005】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、従動ローラのブレーキ装置の不具合を検知して素早いメンテナンスを促し、パッケージの品質向上に貢献できる糸巻取装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本発明の観点によれば、以下の構成の糸巻取装置が提供される。即ち、糸巻取のための巻取ボビンを支持可能なクレードルと、このクレードルに備えられるとともに、その出力軸が前記巻取ボビンに連結される巻取ボビン回転駆動装置と、前記巻取ボビンの周面に接触して従動回転可能な従動ローラと、この従動ローラを制動するブレーキ機構と、前記巻取ボビンの周面を前記従動ローラに接触させる第1の位置と、前記巻取ボビンの周面を前記従動ローラから離間させる第2の位置と、の間で前記クレードルを移動させるクレードル駆動機構と、前記従動ローラの回転を検知可能な回転検知手段と、前記クレードル駆動機構により前記クレードルを前記第2の位置から前記第1の位置に移動させる接触動作を行ったときに前記回転検知手段が前記従動ローラの回転を検知すると、アラーム信号を出力するアラーム出力手段と、を備える。
【0008】
即ち、クレードルを第2の位置として従動ローラをブレーキ機構で制動する際に、ブレーキ機構の異常により従動ローラの制動が不完全だった場合、第2の位置から第1の位置へクレードルを移動させたときに慣性回転中の従動ローラと巻取ボビンとが擦れて擦れ玉となり、パッケージの品質低下の原因となる。この点、上記の構成によれば、従動ローラの慣性回転を検出してアラーム信号が出力されるので、ブレーキ機構の素早いメンテナンスを促し、その後の擦れ玉の発生を防止できる。
【0009】
前記の糸巻取装置においては、前記回転検知手段が、前記従動ローラの回転を直接検知するセンサとして構成されていることが好ましい。
【0010】
この構成により、従動ローラの回転を直接的に検知し、ブレーキ機構の異常を確実に検知できる。
【0011】
前記の糸巻取装置においては、前記回転検知手段が、前記巻取ボビンの回転を検知することで間接的に前記従動ローラの回転を検知するセンサとして構成されていることが好ましい。
【0012】
この構成により、巻取ボビンの回転を介して間接的に従動ローラの回転を検知できるので、従動ローラの慣性回転の検知のための構成を簡素化できる。
【0013】
また、前記の糸巻取装置においては、以下のように構成することもできる。即ち、前記巻取ボビン回転駆動装置は電動モータとして構成されている。前記回転検知手段は、前記巻取ボビンの回転に伴って前記出力軸が回転することによる前記電動モータの逆起電力を検出することで、間接的に前記従動ローラの回転を検知するように構成されている。
【0014】
この構成により、従動ローラの慣性回転の検知のための構成を一層簡素化できる。
【0015】
前記の糸巻取装置においては、以下のように構成することが好ましい。即ち、糸切断又は糸切れを検知する糸切れ検知手段と、制御手段と、を更に備える。前記制御手段は、前記クレードルを前記第1の位置に位置させて前記巻取ボビン回転駆動装置により前記巻取ボビンを回転駆動させて糸を巻き取っているときに、前記糸切れ検知手段が糸切断又は糸切れを検知したときは、前記クレードル駆動機構により前記クレードルを前記第2の位置へ移動させる離間動作を行い、更に前記巻取ボビン回転駆動装置を停止させるとともに前記ブレーキ機構により前記従動ローラを制動し、その後、前記クレードル駆動機構の前記接触動作を行う。
【0016】
この構成により、巻取ボビン及び従動ローラの双方の停止状態を確実にしつつ両者を接触させるので、上記の擦れ玉を確実に防止できる。
【0017】
前記の糸巻取装置においては、以下のように構成することが好ましい。即ち、糸切断時又は糸切れ時において、糸の巻取再開のために巻取ボビン側の糸と給糸側の糸とを糸継ぎする糸継装置を更に備える。前記制御手段は、前記接触動作時に前記回転検知手段が前記従動ローラの回転を検知すると、その後の糸継動作及び糸の巻取再開を中止する。
【0018】
この構成により、ブレーキ装置の異常により従動ローラと擦れて擦れ玉となったパッケージがそのまま玉揚げされて出荷されてしまうのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態に係る自動ワインダの糸巻取ユニットを示す正面模式図及びブロック図である。図2は、糸巻取ユニットの巻取部において、リフトダウン位置で糸を巻き取っている様子を示す要部側面図である。図3は、糸切断又は糸切れ時にクレードルをリフトアップ位置として巻取ボビン及び接触ローラを制動する様子を示す要部側面図である。図4は、図3の状態からクレードルをリフトダウン位置とし、巻取ボビンの周面が接触ローラに接触する様子を示す要部側面図である。図5は、糸継動作のために巻取ボビン側及び給糸ボビン側の口出しを行っている様子を示す正面模式図である。
【0020】
最初に図1に基づいて、自動ワインダ1の糸巻取ユニット(糸巻取装置)2を説明する。この糸巻取ユニット2は、給糸ボビン3の糸4をトラバース装置5でトラバースさせながら巻取チューブ6に巻き取って糸層を形成し、所定長で所定形状のパッケージ7を形成するものである。図1では糸巻取ユニット2を1台しか図示していないが、このような糸巻取ユニット2が図略の機台上に多数並べて設けられることで、自動ワインダ1が構成されている。
【0021】
なお本明細書では、巻取チューブ6及びパッケージ7を総称して巻取ボビンと呼ぶ。即ち、糸層が形成されていない巻取ボビンが巻取チューブ6であり、糸層が形成された巻取ボビンがパッケージ7である。
【0022】
糸巻取ユニット2は、前記巻取チューブ6を着脱可能に支持するクレードル(巻取ボビン支持部材)8と、前記巻取チューブ6の周面に又はパッケージ7の糸層の周面に接触して従動回転可能な接触ローラ(従動ローラ)9と、を備えている。
【0023】
前記クレードル8は、前記巻取チューブ6の両端を挟持して回転自在に支持できるように構成されている。このクレードル8の巻取チューブ6を挟持する部分には電動モータとしてのパッケージ駆動モータ(巻取ボビン回転駆動装置)41が取り付けられており、このパッケージ駆動モータ41により巻取チューブ6を積極的に回転駆動して糸4を巻き取るように構成されている。パッケージ駆動モータ41の図示しない出力軸(モータ軸)は、巻取チューブ6をクレードル8に把持させたときに、当該巻取チューブ6と相対回転不能に連結されるようになっている(いわゆるダイレクトドライブ方式)。
【0024】
また、クレードル8にはパッケージブレーキ機構48が設けられている。このパッケージブレーキ機構48は、後述するクレードル駆動機構24のリフトアップシリンダ25が伸張駆動して巻取ボビン(巻取チューブ6、パッケージ7)が接触ローラ9から離間した直後に、当該巻取ボビン6,7の回転を制動して停止できるようになっている。このパッケージブレーキ機構48としては、例えば電磁ブレーキを採用することができる。
【0025】
前記パッケージ駆動モータ41の作動はマイクロコンピュータ式のパッケージ駆動制御部42により制御される。また、このパッケージ駆動制御部42は、後述のユニット制御部50からの信号を受けて前記パッケージ駆動モータ41の運転/停止を制御するように構成している。またパッケージ駆動制御部42は、前記パッケージブレーキ機構48の制動/制動解除を切り換える制御もできるようになっている。
【0026】
更に、前記クレードル8にはパッケージ回転センサ(巻取ボビン回転角度センサ、回転検知手段)43が取り付けられており、このパッケージ回転センサ43は、クレードル8に取り付けられた巻取ボビン6,7の回転角度(巻取ボビンが何回転したか)を検出するように構成している。この巻取ボビン6,7の回転角度検出信号は、パッケージ回転センサ43から前記パッケージ駆動制御部42にフィードバックされるとともに、前記ユニット制御部50や後述のトラバース制御部46へ送信される。
【0027】
前記クレードル8は支軸10を中心に傾動自在に構成されており、巻取ボビン6,7への糸4の巻取りに伴う巻太り(糸層の径の増大)を、クレードル8が揺動することによって吸収できるように構成されている。
【0028】
また、クレードル8には、当該クレードル8を接触ローラ9に近づく方向へ付勢するための適宜の付勢手段(図略)が備えられている。この付勢手段の付勢力により、又は巻取ボビン6,7の自重により、巻取ボビン6,7は接触ローラ9に対し適宜の圧接力をもって接触する(図2を併せて参照)。これにより、上流側のトラバース装置5でトラバースされた糸4を、接触ローラ9と巻取ボビン6,7の周面との間でニップしながら安定的に巻き取ることができる。
【0029】
更にクレードル8には、図1等に示すようにクレードル駆動機構24が配設されている。このクレードル駆動機構24は、空気圧又は油圧により駆動されるリフトアップシリンダ25を備えており、リフトアップシリンダ25のシリンダロッドがクレードル8に連結されている。この構成で、後述のヤーンクリアラ15が糸欠陥を検出して行う糸切断時、又は給糸ボビン3からの糸解舒中の糸切れ時には、リフトアップシリンダ25が伸長駆動することでクレードル8を前記付勢手段の付勢力に抗する向きに回動させ(リフトアップ動作)、図3に示すように接触ローラ9から巻取ボビン6,7を離間できるようになっている。
【0030】
接触ローラ9には、当該接触ローラ9を制動するためのブレーキ機構27が付設されている。このブレーキ機構27は、接触ローラ9の周面に接触して摩擦制動可能なブレーキシュー(ブレーキエレメント)28と、このブレーキシュー28を接触ローラ9に対して接離させる図略の接離機構と、を備えている。この接離機構としては、例えば、圧縮空気等で駆動されるシリンダや、カム機構等の公知の構成を採用できる。
【0031】
前記接触ローラ9の近傍には前記トラバース装置5が設けられており、このトラバース装置5によって、糸4が綾振りされながらパッケージ7に巻き取られるようになっている。このトラバース装置5は、トラバース方向に往復移動自在に設けられたトラバースガイド(糸ガイド)11と、このトラバースガイド11を往復駆動するトラバース駆動モータ45と、を備えている。
【0032】
前記トラバース装置5は、基軸まわりに旋回可能に構成した細長いアーム部材13の先端に前記トラバースガイド11をフック状に設けるとともに、このアーム部材13を前記トラバース駆動モータ45により図1の矢印のように往復旋回駆動させる構成になっている。
【0033】
このトラバース駆動モータ45は、マイクロコンピュータ式のトラバース制御部46によって制御される。このトラバース制御部46は、前記パッケージ回転センサ43から入力される回転角度検出信号等に基づいてトラバース駆動モータ45を駆動する。これにより、巻取ボビン6,7の回転に同期させながら、所望のトラバース速度及びトラバース幅で糸4を綾振りできるように構成されている。また、トラバース装置5はロータリエンコーダ等からなるトラバースガイド位置センサ47を備えており、アーム部材13の旋回位置(ひいては、トラバースガイド11の位置)を検出して、位置信号を前記トラバース制御部46へ送信できるように構成されている。
【0034】
前記糸巻取ユニット2は、給糸ボビン3と接触ローラ9との間の糸走行経路中に、給糸ボビン3側から順に、糸継装置14とヤーンクリアラ(糸監視器、糸切れ検知手段)15を配設した構成となっている。
【0035】
糸継装置14は、前記の糸切断時又は糸切れ時に、給糸ボビン3側の下糸と、パッケージ7側の上糸とを糸継ぎするように構成されている。
【0036】
また、ヤーンクリアラ15は糸4の太さ欠陥を検出するためのものであって、ヤーンクリアラ15の部分を通過する糸4の太さを適宜のセンサで検出し、このセンサからの信号をアナライザ23で分析することで、スラブ等の糸欠陥を検出するように構成されている。このヤーンクリアラ15には、糸欠陥を検出した時に直ちに糸4を切断するためのカッタ16が付設されている。なお、ヤーンクリアラ15の前記センサ及びアナライザ23は、給糸ボビン3からの糸解舒中の糸切れを検知する機能も兼ねている。
【0037】
糸継装置14の下側と上側には、給糸ボビン3側の下糸を吸引捕捉して案内する下糸捕捉案内手段17と、パッケージ7側の上糸を吸引捕捉して案内する上糸捕捉案内手段20が設けられている。上糸捕捉案内手段20はパイプ状に構成されており、軸21を中心に上下回動可能に設けられるとともに、その先端側にマウス22を設けている。同様に下糸捕捉案内手段17もパイプ状に構成されており、軸18を中心に上下回動可能に設けられるとともに、その先端側には吸引口19を設けている。上糸捕捉案内手段20及び下糸捕捉案内手段17には適宜の負圧源が接続されており、先端のマウス22及び吸引口19に吸引作用を生じさせるようになっている。
【0038】
次に、糸巻取ユニット2の電気的構成を説明する。図1に示すように、パッケージ駆動モータ41やパッケージブレーキ機構48を制御するパッケージ駆動制御部42、クレードル駆動機構24のリフトアップシリンダ25への作動流体の供給/停止を切り換える電磁弁26、トラバース駆動モータ45を制御するトラバース制御部46、及び、カッタ16を駆動するアナライザ23等は、制御装置としてのユニット制御部50により制御される。
【0039】
このユニット制御部50は、図示しないが、演算手段としてのCPUや、記憶手段としてのROM及びRAMや、タイマ回路や、入出力インターフェース装置等のハードウェアを備えるマイクロコンピュータ式に構成されている。また、前記ROMには、前記ユニット制御部50のハードウェアを制御手段51として動作させるための制御ソフトウェアが記憶されている。この制御手段51は、上記に列挙した制御対象としての各装置や各部に対し、所定の信号を送って制御し、糸4の巻取りのための制御や、糸切断時又は糸切れ時の糸継作業等の制御を行わせる。
【0040】
また、前記ROMには、前記ユニット制御部50のハードウェアをアラーム出力手段52として動作させるためのソフトウェアが記憶されている。このアラーム出力手段52は、所定の条件が満たされたときに所定のアラーム信号(前記ブレーキ機構27が異常であることを警告する信号)を出力するように構成されている。このアラーム出力手段52による制御の詳細は後述する。
【0041】
このユニット制御部50には報知手段としての警告ランプ61が電気的に接続されており、ユニット制御部50のアラーム出力手段52が上記アラーム信号を発生すると警告ランプ61が点灯し、作業員に知らせてブレーキ機構27のメンテナンスを促すように構成されている。またユニット制御部50は、自動ワインダ1において複数の糸巻取ユニット2を統括して制御する上位装置62に対しても上記アラーム信号を出力し、上位装置62側でも当該糸巻取ユニット2のブレーキ機構27の異常を認識できるようになっている。
【0042】
次に、ユニット制御部50による糸切れ時の制御について説明する。図1や図2には給糸ボビン3から供給される糸4を巻取チューブ6に巻き取っている状態が示される。このとき、リフトアップシリンダ25は縮退されており、クレードル8に支持されている巻取ボビン6,7の周面は接触ローラ9に接触している(リフトダウン位置、第1の位置)。接触ローラ9は、パッケージ駆動モータ41による巻取ボビン6,7の回転駆動に伴って従動回転している。
【0043】
この糸巻取中に、ヤーンクリアラ15のアナライザ23が糸欠陥を検出し、カッタ16により糸を強制的に切断したとする。又は、給糸ボビン3からの糸解舒時の糸切れが生じ、ヤーンクリアラ15のアナライザ23が当該糸切れを検出したとする。
【0044】
するとアナライザ23は、糸切断信号又は糸切れ検出信号をユニット制御部50に対して送信する。当該信号を受信したユニット制御部50は、直ちに電磁弁26を切り換えてクレードル駆動機構24のリフトアップシリンダ25に圧力流体を供給し、クレードル8を回動させる(リフトアップ動作、離間動作)。これにより、図3に示すように巻取ボビン6,7の周面が接触ローラ9から離間するリフトアップ位置(第2の位置)が実現される。これと同時にユニット制御部50は、パッケージ駆動制御部42を介してパッケージ駆動モータ41を停止制御するとともに、パッケージブレーキ機構48によって制動力を付与して巻取ボビン6,7の回転を停止させる。更に、前記ブレーキシュー28を接触ローラ9に圧接させるようにブレーキ機構27を制御し、接触ローラ9の慣性回転を制動して停止させる。
【0045】
そして、所定の時間(巻取ボビン6,7及び接触ローラ9の回転が完全に停止するのに十分な時間として予め設定される)が経過した後、ユニット制御部50はブレーキ機構27の制動を解除し、更に電磁弁26を再び切り換え、リフトアップシリンダ25を縮退させてクレードル8を回動させる(リフトダウン動作、接触動作)。これにより、巻取ボビン6,7が接触ローラ9に接触する前記リフトダウン位置(図4)が実現される。このリフトダウン動作において、巻取ボビン6,7及び接触ローラ9は何れも回転が停止しているので、両者が接触してもパッケージ7の周面が擦られて糸層が損傷することはない。
【0046】
上記の接触と同時に、又は多少前後したタイミングで、ユニット制御部50は糸継装置14に糸継信号を送る。糸継信号を受信した糸継装置14は、上糸捕捉案内手段20を図1に図示の位置から軸21を中心にして上方へ旋回させ、図5に示すように、先端のマウス22を巻取ボビン6,7の周面に近接させる。
【0047】
そして、ユニット制御部50はパッケージ駆動制御部42へ信号を送り、パッケージ駆動モータ41を低速で逆転駆動して、巻取ボビン6,7を巻取時とは反対方向に若干回転させる(図5)。すると、巻取ボビン6,7から上糸の糸端が解舒されて口出しが行われ、その糸端が上糸捕捉案内手段20のマウス22によって吸引捕捉されることになる。その後、糸継装置14は、上糸捕捉案内手段20を軸21を中心にして下方へ旋回させ、当該糸継装置14へ上記糸端を案内させる。
【0048】
更に糸継装置14は、下糸捕捉案内手段17の吸引口19に図5の位置で給糸ボビン3側の下糸を吸引捕捉させ、軸18を中心に上方へ旋回して、糸継装置14へ下糸を案内する。こうして、糸継装置14で引き揃えられた下糸と上糸とは、旋回空気流を用いて糸継ぎされる。以上で糸継動作は完了し、巻取ボビン6,7がパッケージ駆動モータ41によって通常の方向に回転され、糸4の巻取りが再開される。
【0049】
制御手段51による糸切断時及び糸切れ時の制御は以上のとおりであるが、糸巻取ユニット2の長期間の使用に伴ってブレーキ機構27のブレーキシュー28の摩耗が進行する等して、前記ブレーキ機構27を作動させても接触ローラ9を十分に制動できなくなることが考えられる。また、巻取りを素早く再開して糸巻取ユニット2の稼動効率を確保する観点から、図3に示すリフトアップ状態でブレーキ機構27の制動時間を長く確保することは難しい。従って、クレードル8が図4のリフトダウン位置に移動するまでに、接触ローラ9の慣性回転を完全に停止できない可能性も考えられる。
【0050】
接触ローラ9の停止が不完全な状態でクレードル8が図4のリフトダウン位置に移動すると、停止している巻取ボビン6,7の周面が慣性回転している接触ローラ9に接触するので、パッケージ7の糸層の周面が擦られて損傷し(擦れ玉)、品質の著しい低下を招いてしまう。
【0051】
この点、本実施形態では、糸切断時及び糸切れ時においてリフトダウン動作(図3→図4)が行われたときに、ユニット制御部50のアラーム出力手段52はパッケージ回転センサ43の回転角度検出信号を監視している。仮に接触ローラ9が慣性回転していた場合、リフトダウン動作で巻取ボビン6,7が接触ローラ9に接触すると、巻取ボビン6,7が接触ローラ9によって摩擦駆動される形になって、若干の角度だけ回転する。この回転は前記パッケージ回転センサ43によって検知され、前記回転角度検出信号としてユニット制御部50へ送信する。言い換えれば、接触ローラ9の従動回転が、巻取ボビン6,7の回転の形で間接的にパッケージ回転センサ43によって検知されることになる。
【0052】
この回転角度検出信号がユニット制御部50に入力されると、アラーム出力手段52はアラーム信号を警告ランプ61及び上位装置62に送信するとともに、制御手段51はその後の動作(糸継動作及び巻取再開動作)を中止させるように制御する。これにより、警告ランプ61によってブレーキ機構27の異常を作業員に知らせ、メンテナンス作業を促すことができる。また、糸継動作及び巻取再開動作が中止されるので、接触ローラ9との擦れによって品質が低下したパッケージ7がそのまま出荷されてしまうことも防止できる。
【0053】
以上に示すように、本実施形態の糸巻取ユニット2は、糸巻取のための巻取チューブ6を支持可能なクレードル8と、このクレードル8に備えられるとともに、そのモータ軸が前記巻取ボビンに連結されるパッケージ駆動モータ41と、前記巻取ボビン6,7の周面に接触して従動回転可能な接触ローラ9と、この接触ローラ9を制動するブレーキ機構27と、前記巻取ボビン6,7の周面を前記接触ローラ9に接触させるリフトダウン位置と、前記巻取ボビン6,7の周面を前記接触ローラ9から離間させるリフトアップ位置と、の間で前記クレードル8を移動させるクレードル駆動機構24と、前記接触ローラ9の回転を検知可能なパッケージ回転センサ43と、前記クレードル駆動機構24により前記クレードル8を前記リフトアップ位置から前記リフトダウン位置に移動させる接触動作を行ったときに前記パッケージ回転センサ43が前記接触ローラ9の慣性回転を検知すると、アラーム信号を出力するアラーム出力手段52と、を備える。
【0054】
これにより、ブレーキ機構27に異常が発生し、接触ローラ9の慣性回転を完全に停止できなかった状態でリフトダウン位置にクレードル8が移動しても、接触ローラ9の慣性回転を検知してアラーム信号を出力し、ブレーキ機構27のメンテナンスを促すことができる。これにより、パッケージ7の品質の安定性を向上させることができる。
【0055】
また、前記糸巻取ユニット2においては、前記パッケージ回転センサ43は、前記巻取ボビン6,7の回転を検知することで間接的に前記接触ローラ9の回転を検知するセンサとして構成されている。これにより、接触ローラ9側の構成を簡素にすることができる。
【0056】
あるいは、接触ローラ9側に適宜のセンサを設けて、接触ローラ9の慣性回転を直接検出する構成とすることもできる。この場合、接触ローラ9の慣性回転をより確実に検出することができる。
【0057】
また、パッケージ回転センサ43を省略し、更に接触ローラ9側に回転検出センサを設けなくても、接触ローラ9の慣性回転を検出することは可能である。即ち、接触ローラ9の慣性回転中に巻取ボビン6,7が接触すると、前述のとおり巻取ボビン6,7が摩擦駆動されてパッケージ駆動モータ41のモータ軸が回転し、パッケージ駆動モータ41に逆起電力が発生する。従って、例えばパッケージ駆動制御部42でこの逆起電力を検出すれば、間接的に前記接触ローラ9の回転を検知することができる。この場合、パッケージ駆動制御部42が前記回転検知手段に相当することになる。この構成では、回転検知手段を一層簡素に構成することができる。
【0058】
また、本実施形態の糸巻取ユニット2は、糸切断又は糸切れを検知するヤーンクリアラ15と、制御手段51と、を更に備える。そして制御手段51は、前記クレードル8をリフトダウン位置に位置させて前記パッケージ駆動モータ41により前記巻取ボビン6,7を回転駆動させて糸4を巻き取っているときに、ヤーンクリアラ15が糸切断又は糸切れを検知したときは、クレードル駆動機構24によりクレードル8をリフトアップ位置へ移動させるリフトアップ動作を行い、更に前記パッケージ駆動モータ41を停止させるとともに前記ブレーキ機構27により前記接触ローラ9を制動する。その後、制御手段51は、前記クレードル駆動機構24の前記リフトダウン動作を行うように制御する。これにより、巻取ボビン6,7及び接触ローラ9の双方の停止状態を確実にした状態で両者を接触させるので、パッケージ7の擦れによる品質低下を防止できる。
【0059】
更に、本実施形態の糸巻取ユニット2では、前記制御手段51は、前記接触動作時に前記パッケージ回転センサ43が前記接触ローラ9の回転を検知すると、その後の糸継動作及び糸の巻取再開を中止するように構成されている。これにより、接触ローラ9との擦れによって品質が低下したパッケージ7がそのまま玉揚げされて出荷されてしまうのを防止できる。
【0060】
以上に本発明の好適な実施形態と変形例を説明したが、上記の構成は一例であって、例えば以下のように変更することができる。
【0061】
上記実施形態ではクレードル駆動機構24はリフトアップシリンダ25を利用したものに構成しているが、例えば電動モータでクレードル8を直接揺動させる構成に変更することができる。また、クレードル8を支軸10まわりに回動させて巻取ボビン6,7を接触ローラ9から離間させる場合に限らず、例えばクレードル8を平行移動させる構成に変更することができる。
【0062】
上記の実施形態のトラバース装置5に代えて、例えば、トラバースカムと、その周面に螺旋状に設けた綾振り溝に係合しつつスライド移動自在に設けられたトラバースガイドと、前記トラバースカムを回転させるトラバースモータを備えるものに変更することができる。また、正逆回転可能なトラバースモータをベルト等を介してトラバースガイドに接続する構成のものに変更することもできる。
【0063】
前記実施形態において、パッケージブレーキ機構48はパッケージ駆動モータ41と別体に構成していたが、このパッケージブレーキ機構48をパッケージ駆動モータ41に内蔵する構成に変更することができる。
【0064】
ブレーキ機構27は、ブレーキシュー28が接触ローラ9の軸方向端部に接触して制動する構成であるが(図1を参照)、ブレーキシュー28が接触ローラ9に対し軸方向のほぼ全域にわたって接触するよう、細長いブレーキシュー28を備えるように変更することができる。
【0065】
ブレーキ機構27の異常を報知する報知手段としては、警告ランプ61に代えて、例えばブザーに変更することができる。また、ユニット制御部50が備えるディスプレイ装置にブレーキ機構27の異常を表示するように変更することもできる。
【0066】
更には、個々の糸巻取ユニット2に警告ランプ61を備えずに、上位装置62側で、ブレーキ機構27の異常の旨と、その異常が発生した糸巻取ユニット2の番号等を表示させるように変更することもできる。
【0067】
糸巻取装置としては自動ワインダの糸巻取ユニットに限定されず、供給される糸を巻き取ってパッケージを形成する機能を備える糸巻取装置に広く適用することができる。例えば、供給側に紡績部材を備える紡績機に上記の構成を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動ワインダの糸巻取ユニットを示す正面模式図及びブロック図。
【図2】糸巻取ユニットの巻取部において、リフトダウン状態で糸を巻き取っている様子を示す要部側面図。
【図3】糸切断又は糸切れ時にクレードルをリフトアップ位置として巻取ボビン及び接触ローラを制動する様子を示す要部側面図。
【図4】図3の状態からクレードルをリフトダウン位置とし、巻取ボビンの周面が接触ローラに接触する様子を示す要部側面図。
【図5】糸継動作のために巻取ボビン側及び給糸ボビン側の口出しを行っている様子を示す正面模式図。
【符号の説明】
【0069】
1 自動ワインダ
2 糸巻取ユニット(糸巻取装置)
3 給糸ボビン
4 糸
5 トラバース装置
6 巻取チューブ(空の巻取ボビン)
7 パッケージ(糸層付の巻取ボビン)
9 接触ローラ(従動ローラ)
14 糸継装置
15 ヤーンクリアラ(糸切れ検知手段)
24 クレードル駆動機構
41 パッケージ駆動モータ(電動モータ、巻取ボビン回転駆動装置)
43 パッケージ回転センサ(回転検出手段)
50 ユニット制御部(制御装置)
51 アラーム出力手段
61 警告ランプ(報知手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸巻取のための巻取ボビンを支持可能なクレードルと、
このクレードルに備えられるとともに、その出力軸が前記巻取ボビンに連結される巻取ボビン回転駆動装置と、
前記巻取ボビンの周面に接触して従動回転可能な従動ローラと、
この従動ローラを制動するブレーキ機構と、
前記巻取ボビンの周面を前記従動ローラに接触させる第1の位置と、前記巻取ボビンの周面を前記従動ローラから離間させる第2の位置と、の間で前記クレードルを移動させるクレードル駆動機構と、
前記従動ローラの回転を検知可能な回転検知手段と、
前記クレードル駆動機構により前記クレードルを前記第2の位置から前記第1の位置に移動させる接触動作を行ったときに前記回転検知手段が前記従動ローラの回転を検知すると、アラーム信号を出力するアラーム出力手段と、
を備えることを特徴とする糸巻取装置。
【請求項2】
請求項1に記載の糸巻取装置であって、
前記回転検知手段が、前記従動ローラの回転を直接検知するセンサとして構成されていることを特徴とする糸巻取装置。
【請求項3】
請求項1に記載の糸巻取装置であって、
前記回転検知手段が、前記巻取ボビンの回転を検知することで間接的に前記従動ローラの回転を検知するセンサとして構成されていることを特徴とする糸巻取装置。
【請求項4】
請求項3に記載の糸巻取装置であって、
前記巻取ボビン回転駆動装置は電動モータとして構成されており、
前記回転検知手段は、前記巻取ボビンの回転に伴って前記出力軸が回転することによる前記電動モータの逆起電力を検出することで、間接的に前記従動ローラの回転を検知するように構成されていることを特徴とする糸巻取装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の糸巻取装置であって、
糸切断又は糸切れを検知する糸切れ検知手段と、
制御手段と、
を更に備え、
前記制御手段は、
前記クレードルを前記第1の位置に位置させて前記巻取ボビン回転駆動装置により前記巻取ボビンを回転駆動させて糸を巻き取っているときに、前記糸切れ検知手段が糸切断又は糸切れを検知したときは、前記クレードル駆動機構により前記クレードルを前記第2の位置へ移動させる離間動作を行い、更に前記巻取ボビン回転駆動装置を停止させるとともに前記ブレーキ機構により前記従動ローラを制動し、その後、前記クレードル駆動機構の前記接触動作を行うことを特徴とする、糸巻取装置。
【請求項6】
請求項5に記載の糸巻取装置であって、
糸切断時又は糸切れ時において、糸の巻取再開のために巻取ボビン側の糸と給糸側の糸とを糸継ぎする糸継装置を更に備え、
前記制御手段は、前記接触動作時に前記回転検知手段が前記従動ローラの回転を検知すると、その後の糸継動作及び糸の巻取再開を中止することを特徴とする糸巻取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−238244(P2007−238244A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61609(P2006−61609)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】