説明

糸弛み取り装置及びこれを備える繊維機械

【課題】糸の急激な速度変化が生じた場合でも、糸掛け部材から糸に衝撃的な力が加わることを防止できる糸弛み取り装置を提供する。
【解決手段】糸弛み取り装置が備える糸掛け部材は、糸掛け体38と、フライヤー軸と、アーム部84と、を備える。糸掛け体38は、糸を掛けるためのものである。フライヤー軸は、ローラ部に対して相対回転可能に構成される。アーム部84は、糸掛け体38が固定されるとともに、フライヤー軸に固定される。そして、アーム部84は、衝撃を吸収するための弾性部材83を有する。この弾性部材83は、フライヤー軸とアーム部84との接続部分近傍に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要には、糸弛み取り装置の糸掛け部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、繊維機械(例えば、紡績した糸を巻き取ってパッケージを形成する空気式紡績機等)において、糸を一時的に貯留可能な糸弛み取り装置を備える構成が知られている。
【0003】
特許文献1では、弛み取りローラと、弛み取りローラに対して相対回転可能なフライヤー(糸掛け部材)と、を備え、当該フライヤーには弛み取りローラに対する回転抵抗が付与される構成の糸弛み取り装置が開示されている。
【0004】
特許文献1の糸弛み取り装置において、フライヤーに対する負荷が一定値以下のときは、当該フライヤーは弛み取りローラと一体回転する。一方で、フライヤーに対する負荷が一定値を越えると、当該フライヤーは弛み取りローラとは独立に回転し、弛み取りローラに貯留している糸が巻き出される。このフライヤーは、糸と接触することにより適度の抵抗を与えて糸張力を適正化し、パッケージの巻取状態を均一化する機能を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−277945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されるような紡績機において、糸弛み取り装置より下流側での糸の巻取速度は、巻径の変化やトラバース位置の変動、パッケージの駆動制御等の様々な要因によって変化する。従って、状況によっては巻取速度が急激に増大し、結果として、糸弛み取り装置より下流側の糸張力が瞬間的に上昇することがある。
【0007】
この点、特許文献1の糸弛み取り装置では、糸張力の増大によってフライヤーに加わる負荷が増大し、当該負荷が一定値を越えると、フライヤーが独立回転し、上述の糸の巻出しにより糸張力を減少させることができる。しかしながら、上述のように糸張力が極めて短い時間で急激に増大しようとしたときに、その瞬間において張力変動を十分に減殺し得るようにフライヤーを動作させることは大変困難であった。
【0008】
従って、糸張力が急激に増加する瞬間に限っていえば、フライヤーは事実上ロックされているも同然であった。この結果、糸張力の急激な増大に対する反力としてフライヤー側から糸に衝撃的な力が作用し、糸に過大なテンションが生じて糸切れの原因となったり、糸の品質を低下させることがあった。
【0009】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、糸の急激な速度変化が生じた場合でも、糸掛け部材から糸に衝撃的な力が加わることを防止できる糸弛み取り装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0011】
本発明の第1の観点によれば、ローラに対して相対回転可能な糸掛け部材と、前記糸掛け部材の回転に抵抗を付与する抵抗付与手段と、を備える糸弛み取り装置において、以下の構成が提供される。即ち、前記糸掛け部材は、糸接触部と、軸部材と、弾性部材と、を備える。前記糸接触部は、糸を掛けるためのものである。前記軸部材は、前記ローラに対して相対回転可能に構成されるとともに、当該相対回転に対して前記抵抗付与手段によって抵抗が付与される。前記弾性部材は、前記糸接触部の前記軸部材に対する周方向の変位の大きさに応じて弾性変形する。
【0012】
これにより、走行する糸に急激な速度変化が生じて張力が瞬間的に増大した場合でも、弾性部材が素早く変形して糸接触部が軸部材に対して回転することで、糸から糸接触部に加わる瞬間的な力を逃がすことができる。従って、上記の力の反力として糸掛け部材から糸に衝撃的な力が加わることを防止できるので、過大なテンションによる糸切れを回避することができる。
【0013】
前記の糸弛み取り装置においては、前記弾性部材は、前記糸掛け部材の回転軸線の近傍に配置されることが好ましい。
【0014】
これにより、弾性部材が回転中心の近くに配置されるので、糸接触部に接触している糸の張力の変動に応じて弾性部材が容易に変形することができる。従って、弾性部材が糸の急激な張力変動に対して一層良好に追従して変形し、糸掛け部材に瞬間的に加わる力を逃がすことができる。この結果、糸に過大なテンションが発生するのを確実に防止できる。
【0015】
前記の糸弛み取り装置においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、この糸弛み取り装置は、第1回転部と、第2回転部と、を備える。前記第1回転部は、前記軸部材と糸接触部のうち一方と一体的に回転する。前記第2回転部は、前記軸部材と糸接触部のうち他方と一体的に回転する。前記弾性部材は、前記第1回転部と前記第2回転部の間に配置される。前記第1回転部と前記第2回転部とは、前記軸部材の軸線と一致する軸線を有するように形成された凸部と凹部が嵌まることで相対回転可能に接続される。
【0016】
これにより、簡素な構成で軸部材と糸接触部との軸線を一致させることができ、糸掛け部材の回転軸線のブレを防止できる。
【0017】
前記の糸弛み取り装置においては、前記弾性部材には貫通孔が形成されており、前記凸部がこの貫通孔に挿入された状態で前記凹部に嵌まるように構成されていることが好ましい。
【0018】
これにより、軸部材と糸接触部とを心合わせするための構成と干渉することなく、コンパクトな空間に弾性部材を配置することができる。また、凸部が弾性部材の位置決めを兼ねるので、当該弾性部材の衝撃吸収性能を安定的に発揮させるための構成を簡素に実現できる。
【0019】
前記の糸弛み取り装置においては、前記弾性部材はゲル部材により構成されることが好ましい。
【0020】
これにより、衝撃を吸収するための弾性部材を簡素に構成できる。また、圧縮永久歪みが一般的に少ないゲル部材を衝撃吸収のために用いることにより、長期間の使用によっても当該弾性部材の衝撃吸収性能を安定して発揮させることができる。
【0021】
本発明の第2の観点によれば、前記の糸弛み取り装置を備える繊維機械が提供される。
【0022】
これにより、糸掛け部材から糸に掛かる負荷を低減できるので、糸切れの発生頻度を抑制し、生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る紡績機の様子を示した正面図。
【図2】本実施形態の紡績機の側面断面図。
【図3】糸弛み取り装置及び巻取装置の様子を示した模式断面図。
【図4】フライヤーを支持するアーム部とフライヤー軸との接続部分の様子を示した拡大断面図。
【図5】アーム部の分解斜視図。
【図6】アーム部の内部の様子を示した断面斜視図。
【図7】変形例のアーム部の様子を示した模式正面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る紡績機(繊維機械)の様子を示した正面図である。図2は、本実施形態の紡績機の側面断面図である。なお、以下の説明において「上流」及び「下流」とは、紡績時の糸の走行方向における上流及び下流を意味するものとする。
【0025】
図1に示すように、本実施形態の紡績機1は、複数の紡績ユニット2と、糸継台車3と、玉揚台車4と、ブロアボックス80と、原動機ボックス5と、フレーム6と、を備える。紡績ユニット2は直線状に並べてフレーム6に配置されており、所定長の紡績糸10を巻いたパッケージ45をそれぞれの紡績ユニット2が形成できるように構成されている。フレーム6には、紡績ユニット2が並べられる方向に沿って配置されるレール41及び走行路86が設けられており、前記糸継台車3は前記レール41に沿って走行可能に構成され、前記玉揚台車4は前記走行路86に沿って走行可能に構成されている。
【0026】
次に紡績ユニット2について説明する。図1に示すように、各紡績ユニット2は、上流から下流へ向かって順に、ドラフト装置7と、紡績装置9と、糸送り装置11と、糸弛み取り装置12と、巻取装置13と、を主要な構成として備えている。ドラフト装置7は紡績機1のフレーム6の上端近傍に設けられており、スライバ15を延伸して繊維束8とするためのものである。紡績装置9は、前記ドラフト装置7によって送られてきた繊維束8に撚りを与えて紡績するように構成している。紡績装置9から送出された紡績糸10は糸送り装置11で送られて、後述のヤーンクリアラ52を通過した後、糸弛み取り装置12を更に通過して巻取装置13によって巻き取られ、これによりパッケージ45が形成される。
【0027】
ドラフト装置7は、図2に示すように、バックローラ16、サードローラ17、エプロンベルト18を装着したミドルローラ19、及びフロントローラ20の4つのローラを備えている。ドラフト装置7は、これらのドラフトローラによってスライバ15を延伸するとともに下流側の紡績装置9に送るように構成されている。
【0028】
紡績装置9は、旋回気流を利用して繊維束8から紡績糸10を生成する空気式のものを採用している。なお、紡績装置9は、繊維束8を紡績するものであれば任意の方式を採用することができ、空気式に限定されるものではない。
【0029】
糸送り装置11は、紡績機1のフレーム6に支持されたデリベリローラ39と、デリベリローラ39に接触して設けられたニップローラ40と、を備える。紡績装置9から送出された紡績糸10は、デリベリローラ39とニップローラ40との間に挟まれた状態で、前記デリベリローラ39が図示しない電動モータで回転駆動されることにより、巻取装置13側へ送り出される。
【0030】
ヤーンクリアラ52は、紡績機1のフレーム6の前面側であって前記糸送り装置11よりも若干下流側に配置される。そして、紡績装置9で紡出された紡績糸10は、巻取装置13で巻き取られる前に前記ヤーンクリアラ52を通過するようになっている。ヤーンクリアラ52は走行する紡績糸10の太さを監視し、紡績糸10の糸欠点を検出した場合に、糸欠点検出信号を制御部(図面において省略)へ送信するように構成されている。
【0031】
前記制御部は、前記糸欠点検出信号を受信すると、直ちにカッタ57を作動させて紡績糸10を切断し、更にドラフト装置7や紡績装置9等を停止させる。また、制御部は糸継台車3に制御信号を送り、当該紡績ユニット2の前まで走行させる。その後、紡績装置9等を再び駆動し、前記糸継台車3に糸継ぎを行わせて紡績及び巻取りを再開させるようになっている。ヤーンクリアラ52の更に下流には、糸弛み取り装置12が設けられており、ヤーンクリアラ52を通過した紡績糸10は、糸弛み取り装置12に送られる。
【0032】
糸弛み取り装置12は、ヤーンクリアラ52を通過してきた紡績糸10の弛み及び滞留を解消するとともに巻取張力を調整するためのものである。なお、この糸弛み取り装置12の詳細については後述する。糸弛み取り装置12によって張力が調整された紡績糸10は、下流側の巻取装置13に送られる。
【0033】
巻取装置13は、クレードルアーム71と、巻取ドラム72と、トラバース装置75と、を備える。このクレードルアーム71は、一端が支軸70まわりに揺動可能に支持されており、他端には、紡績糸10を巻き付けるためのボビン48を回転可能に支持できるように構成されている。巻取ドラム72は、前記ボビン48やそれに紡績糸10を巻き取って形成されるパッケージ45の外周面に接触して駆動できるように構成されている。トラバース装置75は、紡績糸10に係合可能なトラバースガイド76を備えている。この構成で、トラバースガイド76を図略の駆動手段によって往復動させながら巻取ドラム72を図略の電動モータによって駆動することで、巻取ドラム72に接触するパッケージ45を回転させ、紡績糸10を綾振りしつつ巻き取るようになっている。
【0034】
糸継台車3は、図1及び図2に示すように、スプライサ(糸継装置)43と、糸継用サクションパイプ44と、サクションマウス46と、を備えている。糸継台車3は、紡績ユニット2で糸切れや糸切断が発生すると、前記レール41上を当該紡績ユニット2まで走行し、停止するように構成されている。前記糸継用サクションパイプ44は、軸を中心に上下方向に回動しながら、紡績装置9から紡出される糸端を吸い込みつつ捕捉してスプライサ43へ案内するように構成されている。一方、サクションマウス46は、軸を中心に上下方向に回動しながら、前記巻取装置13に支持されたパッケージ45から糸端を吸引しつつ捕捉してスプライサ43へ案内するように構成されている。スプライサ43は、糸継用サクションパイプ44及びサクションマウス46によって案内された糸端同士の糸継ぎを行うためのものである。
【0035】
玉揚台車4は、図1及び図2に示すように、玉揚装置92と、クレードル操作アーム90と、玉揚用サクションパイプ88と、バンチ巻アーム91と、を備えている。玉揚台車4は、紡績ユニット2でパッケージ45が満巻になると、前記走行路86上を当該紡績ユニット2まで走行し、停止するように構成されている。クレードル操作アーム90は、巻取装置13のクレードルアーム71を操作可能に構成されている。玉揚用サクションパイプ88は伸縮可能に構成されており、紡績装置9から送出される糸端を吸い込みながら補捉して、巻取装置13に装着されたボビン48へ案内できるように構成されている。バンチ巻アーム91は、ボビン48に糸を棒巻きすることによって、紡績糸10をボビン48に固定するためのものである。
【0036】
次に、図3から図6までを参照して糸弛み取り装置12の詳細について説明する。図3は、糸弛み取り装置12及び巻取装置13の様子を示した模式断面図である。図4は、糸掛け体38を支持するアーム部84とフライヤー軸33との接続部分の様子を示した拡大断面図である。図5は、アーム部84の分解斜視図である。図6は、アーム部84の内部の様子を示した断面斜視図である。
【0037】
図3に示すように、糸弛み取り装置12は、弛み取りローラ21と、糸掛け部材22と、電動モータ25と、を主要な構成として備えている。電動モータ25は弛み取りローラ21を回転駆動するためのものであり、弛み取りローラ21に接続されている。また、前記電動モータ25は図略の制御部に電気的に接続されており、前記制御部によって弛み取りローラ21の回転が適宜制御されている。
【0038】
また、糸弛み取り装置12の近傍には、2つの糸ガイド23,26が設けられている。具体的には、弛み取りローラ21の上流側には上流側ガイド23が配置され、弛み取りローラ21の下流側には下流側ガイド26が配置される。これらの糸ガイド23,26によって、紡績糸10が適宜の糸道に案内される。
【0039】
図3に示すように、上流側ガイド23は、シリンダ等で構成される図略の駆動手段によって、進出位置及び退避位置との間で移動可能に構成されている。この上流側ガイド23の移動によって、紡績糸10の糸道を変更し、必要なときに糸掛け部材22を紡績糸10に係合させることができる。具体的には、前記シリンダ等の駆動手段によって上流側ガイド23を進出位置に移動させることで、紡績糸10と糸掛け部材22とを係合させないでおくことができる。また、上流側ガイド23を退避位置に移動させることで、糸掛け部材22を紡績糸10に係合させることができる。
【0040】
弛み取りローラ21は、電動モータ25のモータ軸27に固定されるローラ部42を備えている。このローラ部42の外周面には巻付領域60が形成されており、紡績装置9側から送られてきた紡績糸10は、この巻付領域60に巻き付けられて貯留される。
【0041】
ローラ部42は、基端側(上流側)から先端側(下流側)に向かって順に、基端側フランジ部61と、巻付領域60と、先端側フランジ部64と、を備えている。これらの基端側フランジ部61、巻付領域60及び先端側フランジ部64は、適宜の金属で一体的に形成されている。巻付領域60は、上流側から下流側に進むに従って、糸を巻き付ける部分の径が小さくなるテーパ状に形成されている。
【0042】
基端側フランジ部61は、端面側を大径側とし、巻付領域60と接続する側を小径側とするテーパ状に構成されており、巻付領域60と段差が生じることなく接続されている。この構成で、前記上流側ガイド23を通過して弛み取りローラ21へ供給される紡績糸10は、上記のようにテーパ状に形成される基端側フランジ部61の案内作用によって、常に、基端側フランジ部61と巻付領域60との接続部分近傍の位置から当該弛み取りローラ21に巻き付き始める。なお、以下の説明では、紡績糸10が弛み取りローラ21に巻き付き始める位置を単に「巻付開始位置」と称することがある。
【0043】
巻付領域60は、上流側から下流側に向かって所定の角度で狭まる直線テーパ状に形成されており、下流側で先端側フランジ部64に段差が生じることなく接続されている。
【0044】
先端側フランジ部64は、端面側を大径側とし、巻付領域60と接続する側を小径側とするテーパ状に形成されている。この先端側フランジ部64によって、紡績糸10を解舒する際に、巻き付いている紡績糸10が一度に抜けてしまう輪抜け現象を防止することができる。
【0045】
なお、前記巻取装置13において、クレードルアーム71には図略のアクチュエータが連結されている。この構成で、例えば弛み取りローラ21における糸貯留量を増加させるためにパッケージ45の回転を減速させる必要があるときは、前記アクチュエータの駆動によりクレードルアーム71を適宜移動させてパッケージ45を巻取ドラム72から離間させ(図3の鎖線)、当該パッケージ45の駆動を中断できるように構成されている。
【0046】
図3及び図4に示すように、糸掛け部材22は、弛み取りローラ21の軸方向一端側(紡績機1の正面側)に配置されている。この糸掛け部材22は、フライヤー軸(軸部材)33と、フライヤー37と、を主要な構成として備えている。以下に各部の構成について説明する。
【0047】
フライヤー軸33は、弛み取りローラ21に対し相対回転可能に支持されており、円筒状に構成されている。このフライヤー軸33は状況に応じて、当該弛み取りローラ21と一体的に回転したり、弛み取りローラ21に対して相対回転したりできるようになっている。フライヤー軸33又はローラ部42の何れか一方には永久磁石が取り付けられ、他方には磁気ヒステリシス材が取り付けられている。これらの磁気的手段(抵抗付与手段)99により、糸掛け部材22が弛み取りローラ21に対し相対回転するのに抗するトルクが発生するように構成されている。
【0048】
フライヤー37は、アーム部(支持部材)84と、糸掛け体(糸接触部)38と、を備えている。アーム部84は前記フライヤー軸33の先端部に取り付けられ、フライヤー軸33とともに回転可能に構成されている。図4に示すように、このアーム部84はボス部84aを備えており、このボス部84aにフライヤー軸33を取り付けることができる。また、アーム部84は前記ボス部84aから径方向に延びるように細長く形成され、その先端部に糸掛け体38が固定されている。
【0049】
前記アーム部84は、ハウジング(第1回転部)81と、カバー部材(第2回転部)82と、弾性部材83と、を備えている。
【0050】
図5に示すように、ハウジング81は円板状のフランジ部81aを有している。このフランジ部81aの軸方向一側の面においては、その中心に突出軸(凸部)94が形成されている。また、フランジ部81aの外周部分に接続するようにして、円筒部81bが前記突出軸94と同じ方向に突出するように形成されている。円筒部81bの内部には、弾性部材83を収容するための空間が形成されている。前記円筒部81bは、ハウジング81に弾性部材83を収容したときに、その外周面を覆って保護できるように構成されている。
【0051】
図4に示すように、ハウジング81が有する前記フランジ部81aにおいて、突出軸94が配置される側と反対側の面には、スナップフィット式の係合部からなるフライヤー接続部93が備えられている。なお、本実施形態においては、フランジ部81a、突出軸94、円筒部81b及びフライヤー接続部93が適宜の樹脂により一体的に成形されることで、ハウジング81が1つの部品として構成されている。
【0052】
フライヤー軸33の長手方向一端部には、前記フライヤー接続部93に係合可能な軸側係合部が形成されている。この軸側係合部にフライヤー接続部93を係合させることで、ハウジング81をフライヤー軸33に対して相対回転不能に固定することができる。図4に示すように、アーム部84がフライヤー軸33に取り付けられている状態では、突出軸94の軸線がフライヤー軸33の軸線と一致している。
【0053】
カバー部材82は、アーム部84のボス部84aの周囲に配置された円形フランジ部として構成されている。また、カバー部材82は、前記ハウジング81と軸方向で対面するように配置されている。図5に示すように、カバー部材82において前記ハウジング81と対向する面の中央部には、凹部96が形成されている。この凹部96は、前記突出軸94に対応するように円柱状に構成されるとともに、その軸線をフライヤー軸33の軸線と一致させている。
【0054】
弾性部材83は、適宜のゲル材料により、中央に貫通孔95が形成されたリング状部材として構成されている。このゲル材料としては、例えば、市販品である株式会社タイカの商品名「αGEL」(アルファゲル)等を用いることができる。図6に示すように、この弾性部材83は、貫通孔95に突出軸94が挿入された状態でアーム部84(前記ハウジング81)に内蔵されている。
【0055】
弾性部材83は、軸方向に所定の厚みを有する板状部材として構成されている。そして、弾性部材83は、厚み方向一側の面をハウジング81のフランジ部81aに、他側の面をカバー部材82に、それぞれ接着剤により固定される。これによって、カバー部材82とハウジング81が弾性部材83を介して結合されることになる。なお、本実施形態では、弾性部材83はその厚み方向両側の面が他の部材に接着されるだけであり、その内周面及び外周面には接着剤が塗布されていない。
【0056】
糸掛け体38は、図6に示すように、アーム部84の先端部に形成される凹状の差込み部84bに差し込まれた状態でアーム部84に固定されている。本実施形態の糸掛け体38は、適宜の線材を折り曲げることにより、前記ローラ部42の外周面(巻付領域60)に向かって適宜湾曲する形状に形成されている。これにより、糸掛け体38は、紡績糸10と係合して(紡績糸10を引っ掛けて)、当該紡績糸10をローラ部42の巻付領域60へ案内することができる。
【0057】
この構成で、上流側から送られてきた紡績糸10は、所定の回転速度で回転しているローラ部42に糸掛け部材22を介して巻き付けられていく。ローラ部42に巻き取られた紡績糸10は、巻付領域60の所定位置(前述した巻付開始位置)に案内される。巻付領域60に巻き付けられた紡績糸10は、上流側から順次巻き付けられていく紡績糸10によって、下流側(ローラ部42の先端側)に押される。なお、紡績糸10は上記のように基端側(基端側フランジ部61と巻付領域60との接続部分)から巻き付けられる一方、紡績糸10の解舒時においては、ローラ部42の先端側から解舒されていく。
【0058】
前述したようにフライヤー軸33は弛み取りローラ21に対して相対回転することが可能であるが、前記磁気的手段99は、当該相対回転に抗する向きの抵抗トルクを加える。糸掛け部材22に係合する紡績糸10の張力によって、フライヤー軸33を回転させようとする力が前記抵抗トルクに打ち勝つほどに強ければ、前記糸掛け部材22は弛み取りローラ21と独立に回転して、糸を前記弛み取りローラ21から解舒する。反対に、糸に掛かるテンションが弱い場合には、糸掛け部材22は弛み取りローラ21と一体的に回転し、糸を前記弛み取りローラ21に巻き付ける。このように、糸弛み取り装置12は、糸のテンションが下がる(糸が弛みそうになる)と糸を巻き付け、糸のテンションが上がると糸を解舒するように動作することで、糸の弛みを解消して適切な張力を付与する。
【0059】
この構成で、糸掛け部材22に紡績糸10を係合させた状態で、糸弛み取り装置12の下流側の巻取装置13で当該紡績糸10が巻き取られる場合を考える。糸弛み取り装置12より下流側の紡績糸10は、その張力に応じた力を糸掛け部材22に作用させ、当該糸掛け部材22を回転させようとする。糸弛み取り装置12は上記のとおり、糸掛け部材22が紡績糸10から受ける力が前記抵抗トルクに打ち勝つ程の強さであれば、糸掛け部材22を弛み取りローラ21に対して相対回転させ、そうでなければ糸掛け部材22を弛み取りローラ21と一体的に回転させる。
【0060】
そして、上記のような巻取りの過程において、糸の走行速度が急激に上昇することがある。例えば、図1に示すようなコーン形状のパッケージ45を巻き取る場合は、トラバースガイド76がパッケージ45の小径側から大径側に移動した際にテンション変動が生じて糸の走行速度が急激に変動することがある。また、図3に示すように、巻取速度の調整のためにいったん巻取ドラム72から離間させていたパッケージ45を、再び巻取ドラム72に接触させる場合等にも糸の走行速度が変動する。このような糸の走行速度が急激に変動する場合は、紡績糸10の張力が鋭く上昇するので、紡績糸10が糸掛け部材22に作用させる力も瞬間的に増大する。
【0061】
一方、糸弛み取り装置12の磁気的手段99は、糸掛け部材22が弛み取りローラ21と一体的に回転している場合であって、当該糸掛け部材22に加わっている糸の張力が瞬間的に増大したときに、その急激な変動に間に合うようにフライヤー軸33を弛み取りローラ21に対して相対回転させることは困難である。
【0062】
しかしながら本実施形態の構成では、糸掛け部材22の糸掛け体38に加わる力が瞬間的に増加した場合でも、それに応じて弾性部材83が素早く変形することで、フライヤー軸33に対して糸掛け体38を若干相対回転させて力を逃がすことができる。従って、紡績糸10の張力の急激な上昇に対する反力として糸掛け部材22から紡績糸10に衝撃的な力が加わることを防止できるので、紡績糸10に過大なテンションが掛かることを抑制できる。
【0063】
以上に示したように、本実施形態の糸弛み取り装置12が備える糸掛け部材22は、糸掛け体38と、フライヤー軸33と、弾性部材83と、を備える。糸掛け体38は、紡績糸10を掛けるためのものである。フライヤー軸33は、ローラ部42に対して相対回転可能に構成されるとともに、当該相対回転に対して磁気的手段99によって抵抗が付与される。弾性部材83は、糸掛け体38のフライヤー軸33に対する回転変位(周方向の変位)の大きさに応じて弾性変形する。
【0064】
これにより、走行する紡績糸10に急激な速度変化が生じて張力が瞬間的に増大した場合でも、弾性部材83が素早く変形して糸掛け体38がフライヤー軸33に対して回転することで、紡績糸10から糸掛け体38に加わる瞬間的な力を逃がすことができる。従って、上記の力の反力として糸掛け部材22から紡績糸10に衝撃的な力が加わることを防止できるので、過大なテンションによる糸切れを回避することができる。
【0065】
また、本実施形態の糸弛み取り装置12においては、弾性部材83は、糸掛け部材22の回転軸線の近傍に配置される。
【0066】
これにより、弾性部材83が回転中心の近くに配置されるので、糸掛け体38に接触している紡績糸10の張力の変動に応じて弾性部材83が容易に変形することができる。従って、弾性部材が糸の急激な張力変動に対して一層良好に追従して変形し、糸掛け部材に瞬間的に加わる力を逃がすことができる。この結果、糸に過大なテンションが発生するのを確実に防止できる。
【0067】
また、本実施形態の糸弛み取り装置12は、ハウジング81と、カバー部材82と、を備える。ハウジング81は、フライヤー軸33と一体的に回転する。カバー部材82は、糸掛け体38と一体的に回転する。弾性部材83は、ハウジング81とカバー部材82の間に配置される。ハウジング81とカバー部材82とは、フライヤー軸33の軸線と一致する軸線を有するように形成された突出軸94と凹部96が嵌まることで相対回転可能に接続される。
【0068】
これにより、簡素な構成でフライヤー軸33と糸掛け体38との軸線を一致させることができ、糸掛け部材22の回転軸線のブレを防止できる。
【0069】
また、本実施形態の糸弛み取り装置12においては、弾性部材83には貫通孔95が形成されている。突出軸94は、この貫通孔95に挿入された状態で凹部96に嵌まるように構成されている。
【0070】
これにより、フライヤー軸33と糸掛け体38とを心合わせするための構成と干渉することなく、コンパクトな空間に弾性部材83を配置することができる。また、突出軸94が弾性部材83の位置決めを兼ねるので、当該弾性部材83の衝撃吸収性能を安定的に発揮させるための構成を簡素に実現できる。
【0071】
また、本実施形態の糸弛み取り装置12においては、弾性部材83がゲル部材により構成されている。
【0072】
これにより、衝撃を吸収するための弾性部材83を簡素に構成できる。また、圧縮永久歪みが一般的に少ないゲル部材を衝撃吸収のために用いることにより、長期間の使用によっても当該弾性部材83の衝撃吸収性能を安定して発揮させることができる。
【0073】
また、本実施形態の紡績機1は、以上に説明した構成の糸弛み取り装置12を備える。
【0074】
これにより、糸掛け体38から糸に掛かる負荷を低減できるので、糸切れの発生頻度を抑制し、パッケージ45の生産効率を向上させることができる。
【0075】
なお、上記実施形態において弾性部材83はリング状に構成されているが、この構成に限定されるわけではなく、弾性部材83の形状や数は適宜変更することができる。次に図7を参照して、糸掛け部材の変形例について説明する。図7は、変形例のアーム部184の様子を模式的に示した模式正面図である。なお、以下に説明する変形例において、アーム部184以外の構成については上記実施形態と同様であるので、図面に同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0076】
図7に示すように、変形例の糸掛け部材は、図略のフライヤー軸に固定されたフライヤー137を備える。このフライヤー137が備えるアーム部184は、第1フランジ(第1回転部)181と、第2フランジ(第2回転部)182と、4つの弾性部材183と、を有している。第1フランジ181は前記フライヤー軸に適宜の手段で固定され、第2フランジ182はアーム部184の基部と一体的に形成されている。
【0077】
第1フランジ181は円板状の板状部材として構成されており、その中心部には四角柱状の押圧体197が突出状に形成されている。第2フランジ182はある程度の厚みを有する円板状の板状部材として構成されており、その中心部には、四角柱状の収容凹部198が形成されている。
【0078】
図7に示すように、押圧体197及び収容凹部198は断面輪郭が正方形となるように形成されており、押圧体197は収容凹部198に対して45°傾いた状態で、当該収容凹部198の内部に配置されている。
【0079】
また、突出状に形成された押圧体197の先端面には、円柱状の支軸(凸部)194が更に突出状に形成されている。また、収容凹部198の内部には、前記支軸194を挿入可能な支軸収容凹部(凹部)196が円柱状に形成されている。支軸194及び支軸収容凹部196の軸線は、前記フライヤー軸の軸線と一致するように構成されている。この構成で、支軸194が支軸収容凹部196に嵌まることによって、第1フランジ181と第2フランジ182とが相対回転可能に接続される。
【0080】
そして、前記押圧体197を取り囲むようにして、4つの弾性部材183が収容凹部198の内部に配置されている。それぞれの弾性部材183は、前記収容凹部198の隅部に形成された略三角形状の空間に配置されている。
【0081】
弾性部材183はそれぞれ円柱状に形成されており、その外周面が、押圧体197の外側の面及び収容凹部198の内壁に接触するように配置される。従って、第2フランジ182が第1フランジ181に対して回転した場合、弾性部材183は押圧体197と収容凹部198との間で押し潰されるように弾性変形する。
【0082】
この構成において、糸掛け体38に接触している紡績糸の張力が急激に上昇して、糸掛け体38に作用する力が瞬間的に上昇した場合を考える。この場合、フライヤー137の糸掛け体38は、前記弾性部材183を弾性変形させながらフライヤー軸に対して素早く相対回転し、瞬間的に発生する力を逃がすことができる。これにより、糸掛け体38に接触している紡績糸に衝撃的な負荷が加わることを抑制できる。
【0083】
以上に本発明の実施形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0084】
上記実施形態では、弾性部材としてゲル状物質を採用しているが、弾性を有するものであれば適宜のものを適用することができる。例えば、弾性部材にバネを用いることもできる。
【0085】
また、一定以上の負荷が掛かった場合に、フライヤー軸に対してフライヤー(アーム部)が回転しないように構成することもでき、これによれば、過大な変形による弾性部材の損傷を防止することができる。上記の具体的な構成としては、例えばダンパやトルクリミッタ等を採用することができる。
【0086】
また、上記実施形態の弾性部材83は、アーム部84とフライヤー軸33の接続部分近傍に配置されているが、弾性部材の配置場所は適宜変更することができる。例えば、アーム部84の中途部に弾性部材を配置する構成に変更することができる。
【0087】
糸掛け部材22と弛み取りローラ21との間の相対回転に抗する抵抗トルクを発生させる抵抗付与手段は、磁気的手段99に代えて、例えば、電磁石による電磁的手段、摩擦力による機械的手段などに変更することができる。
【0088】
上記実施形態の紡績機1は、ドラフト装置7と、紡績装置9と、糸送り装置11と、糸弛み取り装置12と、巻取装置13と、を主要な構成として備える構成であるが、上記実施形態は適宜変更することができる。例えば、上記実施形態の構成の一部を省略した構成や、他の部材を追加した構成に変更することができる。また、紡績機に限らず自動ワインダ等の他の繊維機械にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 紡績機(繊維機械)
12 糸弛み取り装置
22 糸掛け部材
33 フライヤー軸(軸部材)
38 糸掛け体(糸接触部)
81 ハウジング(第1回転部)
82 カバー部材(第2回転部)
83 弾性部材
84 アーム部(支持部材)
94 突出軸(凸部)
96 凹部
95 貫通孔
99 磁気的手段(抵抗付与手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローラに対して相対回転可能な糸掛け部材と、前記糸掛け部材の相対回転に抵抗を付与する抵抗付与手段と、を備える糸弛み取り装置において、
前記糸掛け部材は、
糸を掛けるための糸接触部と、
前記ローラに対して相対回転可能に構成されるとともに、当該相対回転に対して前記抵抗付与手段によって抵抗が付与される軸部材と、
前記糸接触部の前記軸部材に対する周方向の変位の大きさに応じて弾性変形する弾性部材と、
を備えることを特徴とする糸弛み取り装置。
【請求項2】
請求項1に記載の糸弛み取り装置であって、
前記弾性部材は、前記軸部材と前記糸接触部の接続部分の近傍に配置されることを特徴とする糸弛み取り装置。
【請求項3】
請求項2に記載の糸弛み取り装置であって、
前記軸部材と糸接触部のうち一方と一体的に回転する第1回転部と、
前記軸部材と糸接触部のうち他方と一体的に回転する第2回転部と、
を備え、
前記弾性部材は前記第1回転部と前記第2回転部の間に配置され、
前記第1回転部と前記第2回転部とは、前記軸部材の軸線と一致する軸線を有するように形成された凸部と凹部が嵌まることで相対回転可能に接続されることを特徴とする糸弛み取り装置。
【請求項4】
請求項3に記載の糸弛み取り装置であって、
前記弾性部材には貫通孔が形成されており、前記凸部がこの貫通孔に挿入された状態で前記凹部に嵌まるように構成されていることを特徴とする糸弛み取り装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の糸弛み取り装置であって、
前記弾性部材はゲル部材により構成されることを特徴とする糸弛み取り装置。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載の糸弛み取り装置を備えることを特徴とする繊維機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−180023(P2010−180023A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25333(P2009−25333)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】