説明

糸弛み取り装置及びこれを備える繊維機械

【課題】ローラ部で生じるテンション変動を抑制するとともに、糸貯留量を十分に確保できる糸弛み取り装置を提供する。
【解決手段】糸弛み取り装置12はローラ部42を備え、このローラ部42は、紡績糸10を巻き付けるための巻付領域60と、巻付領域60の上流側端部に接続されるとともに、巻付領域60よりも大きい径で形成される基端側フランジ部61と、を有する。基端側フランジ部61は、巻付領域60との接続部分に近づくに従ってテーパ状にすぼまるように形成される。基端側フランジ部61は、巻付領域60との接続部分において、巻付領域60の表面を基端側フランジ部61側に延長した仮想面63に対するテーパ状部分の傾き角度αが45度以上となるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は糸弛み取り装置に関するものであり、詳細には、糸弛み取り装置が糸を貯留するために備えるローラ部の形状に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、紡績した糸を巻き取ってパッケージを形成する空気式紡績機等の高速紡績機にあっては、紡出された紡績糸をパッケージ側の糸と糸継ぎする糸継作業を行う場合等に、パッケージ側の巻取りを停止させるように制御している。しかしながら巻取停止中においても紡績装置側からは糸が次々に送られてくるため、糸の弛み及び滞留を防止する必要がある。そこで、電動モータにより回転駆動される弛み取りローラと、この弛み取りローラに対して相対回転自在な糸掛け部材と、を備える糸弛み取り装置によって、前述した糸の弛み及び滞留を防止する構成の紡績機が従来から知られている。この種の糸弛み取り装置を開示するものとして特許文献1がある。
【0003】
特許文献1は、以下のように構成される紡績機(繊維機械)の糸弛み取り装置を開示する。即ち、糸弛み取り装置は、紡績装置で紡績された糸条に係合可能に配置され、糸を外周面に巻き付ける弛み取りローラと、弛み取りローラを回転駆動する駆動手段と、弛み取りローラより下流側に配置され、弛み取りローラの回転中心線上で糸をガイドする下流側ガイドと、を備える。この構成で、糸弛み取り装置は、弛み取りローラの外周面の基端側へ糸を供給して巻き付けさせ、巻き付けた糸をローラ先端側から下流側ガイドへ向かって解舒する。そして、前記上流側ガイドは、弛み取りローラより上流側に、弛み取りローラの外周面の基端側へ接近させて配置されている。特許文献1は、この構成により、弛み取りローラへの糸の供給位置が安定し、糸を弛み取りローラに規則正しく巻き付かせることができるとしている。前記糸継作業によって巻取作業が停止している間は、弛み取りローラに紡績装置側から次々に送られてくる糸を貯留させることで、糸の弛み及び滞留を防止している。
【特許文献1】特開2004−124333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示すような糸弛み取り装置が備える弛み取りローラ(ローラ部)は、糸を巻き付ける巻付領域と、前記巻付領域の上流側端部に接続されるとともに、巻付領域の接続部分に近づくとともに、テーパ状にすぼまるフランジ部と、有している。糸弛み取り装置まで送られてきた糸は、前記フランジ部によって巻付領域の巻付開始位置に案内される。
【0005】
糸継作業では、大量の糸が巻付領域に巻き付けられるため、糸が多重に巻かれた状態の二重巻きや三重巻きが発生する。この状態では、前記フランジ部と巻付領域との接続部分にある糸がフランジ部側に巻き付き易くなってしまう。巻付領域よりも大きい径で形成されているフランジ部に糸が巻き付いた場合、巻き付けられる糸のテンションが強まり、糸弛み取り装置の上流側でテンション変動が生じる。このテンション変動は、紡績される糸の品質や糸欠陥の検出精度等に好ましくない影響を与えるため、従来の構成のローラ部では、紡績される糸の品質に弊害を与える要因になっていた。
【0006】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ローラ部で生じるテンション変動を抑制するとともに、糸貯留量を十分に確保できる糸弛み取り装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の第1の観点によれば、糸を巻き付けるためのローラ部を備え、繊維機械に用いられる糸弛み取り装置において、以下の構成が提供される。即ち、前記ローラ部は、糸を巻き付けるための巻付領域と、前記巻付領域の上流側端部に接続されるとともに、前記巻付領域よりも大きい径で形成されるフランジ部と、を有する。前記フランジ部は、前記巻付領域との接続部分に近づくに従ってテーパ状にすぼまるとともに、前記巻付領域との接続部分において、前記巻付領域の表面を前記フランジ部側に延長した仮想面に対するテーパ状部分の傾き角度が45度以上である。
【0009】
これにより、45度以上の急な傾きを有するフランジ部のテーパ面によって糸を巻付領域に導入することができるので、糸のローラ部に対する巻付開始位置が安定する。また、テーパ面が急な傾きで形成されているので、糸がフランジ部を登ろうとしてもその動きを強力に規制することができる。従って、巻付領域に対する糸の巻付けを整然かつ適切に行うことができるので、テンション変動を抑制できる。また、フランジ部のテーパ状部分の傾きが大きくなることにより、フランジ部の構成をローラ部の軸方向でコンパクトにまとめることができる。従って、ローラ部が限られたスペースに配置される場合であっても、巻付領域に巻き付けることができる糸量の上限を容易に増加させることができる。
【0010】
前記の糸弛み取り装置においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、この糸弛み取り装置は、前記ローラ部に向けて糸を案内する案内部を備える。前記傾き角度は、前記ローラ部の回転軸線及び前記案内部を含む仮想平面に前記ローラ部と前記案内部との間の糸道を投影したときに、投影された糸道と前記回転軸線がなす角度である投影進入角度よりも小さい。
【0011】
これにより、糸弛み取り装置の上流側から送られてくるローラ部への糸の導入を、前記フランジ部によるガイド作用を有効に利用してスムーズに行うことができる。また、糸の進入する角度が一定範囲に収まるので、巻付開始位置をより安定させることができる。
【0012】
前記の糸弛み取り装置においては、前記投影進入角度は86度未満であることが好ましい。
【0013】
これにより、糸が巻付領域とフランジ部との接続部分に留まろうとすることによって巻付開始位置近傍で糸の動きが滞ることを防止して、下流側に糸をスムーズに移動させることができる。従って、二重巻きの発生を抑制して巻付領域の糸の巻き状態を良好なものとすることができる。
【0014】
本発明の第2の観点によれば、前記の糸弛み取り装置を備える繊維機械が提供される。
【0015】
これにより、巻付領域に巻き付ける糸量に応じてテンションが変動する影響を抑えることができ、安定して各種の作業を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る紡績機(繊維機械)の様子を示した正面図である。図2は、本実施形態の紡績機の側面断面図である。なお、以下の説明において「上流」及び「下流」とは、紡績時の糸の走行方向における上流及び下流を意味するものとする。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の紡績機1は、複数の紡績ユニット2と、糸継台車3と、玉揚台車4と、ブロアボックス80と、原動機ボックス5と、フレーム6と、を備える。紡績ユニット2は、並列するようにフレーム6に配置されており、それぞれの紡績ユニット2において所定長のパッケージ45が形成される。フレーム6には、紡績ユニット2が並べられる方向に沿って配置されるレール41及び走行路86が設けられており、前記糸継台車3は前記レール41に沿って走行可能に構成され、前記玉揚台車4は前記走行路86に沿って走行可能に構成されている。
【0018】
次に紡績ユニット2について説明する。図1に示すように、各紡績ユニット2は、上流から下流へ向かって順に、ドラフト装置7と、紡績装置9と、糸送り装置11と、糸弛み取り装置12と、巻取装置13と、を主要な構成として備えている。ドラフト装置7は紡績機1のフレーム6の上端近傍に設けられており、スライバ15を延伸して繊維束8とするためのものである。紡績装置9は、前記ドラフト装置7によって送られてきた繊維束8に撚りを与えて紡績するように構成している。紡績装置9から送出された紡績糸10は糸送り装置11で送られて、後述のヤーンクリアラ52を通過した後、糸弛み取り装置12を介して巻取装置13によって巻き取られ、これによりパッケージ45が形成される。
【0019】
ドラフト装置7は、図2に示すように、バックローラ16、サードローラ17、エプロンベルト18を装架したミドルローラ19、及びフロントローラ20の4つのローラを備えている。ドラフト装置7は、これらのドラフトローラによってスライバ15を延伸するとともに下流側の紡績装置9に送るように構成されている。
【0020】
紡績装置9は、旋回気流を利用して繊維束8から紡績糸10を生成する空気式のものを採用している。なお、紡績装置9は、繊維束8を紡績するものであれば任意の方式を採用することができ、空気式のものに限定されるわけではない。
【0021】
糸送り装置11は、紡績機1のフレーム6に支持されたデリベリローラ39と、デリベリローラ39に接触して設けられたニップローラ40と、を備える。紡績装置9から送出された紡績糸10は、デリベリローラ39とニップローラ40との間に挟まれた状態で、前記デリベリローラ39が図略の電動モータで回転駆動されることにより、巻取装置13側へ送り出される。
【0022】
ヤーンクリアラ52は、紡績機1のフレーム6の前面側であって前記糸送り装置11よりも若干下流側に配置される。そして、紡績装置9で紡出された紡績糸10は、巻取装置13で巻き取られる前に前記ヤーンクリアラ52を通過するようになっている。ヤーンクリアラ52は走行する紡績糸10の太さを監視し、紡績糸10の糸欠点を検出した場合に、糸欠点検出信号を図略の制御部へ送信するように構成されている。前記制御部は、前記糸欠点検出信号を受信すると、直ちにカッタ57で紡績糸10を切断し、更にドラフト装置7や紡績装置9等を停止させる。また、制御部は糸継台車3に制御信号を送り、当該紡績ユニット2の前まで走行させる。その後、紡績装置9等を再び駆動し、前記糸継台車3に糸継ぎを行わせて紡績及び巻取りを再開させるようになっている。ヤーンクリアラ52の更に下流には、糸弛み取り装置12が設けられており、ヤーンクリアラ52を通過した紡績糸10は、糸弛み取り装置12に送られる。
【0023】
糸弛み取り装置12は、ヤーンクリアラ52を通過してきた紡績糸10の弛み及び滞留を解消するとともに巻取張力を調整するためのものである。なお、この糸弛み取り装置12の詳細については、後述する。糸弛み取り装置12によって張力が調整された紡績糸10は、下流側の巻取装置13に送られる。
【0024】
巻取装置13は、クレードルアーム71と、巻取ドラム72と、トラバース装置75と、を備える。このクレードルアーム71は、一端が支軸70まわりに揺動可能に支持されており、他端には、紡績糸10を巻回するためのボビン48を回転可能に支持できるように構成されている。巻取ドラム72は、前記ボビン48やそれに紡績糸10を巻回して形成されるパッケージ45の外周面に接触して駆動できるように構成されている。トラバース装置75は、紡績糸10に係合可能なトラバースガイド76を備えている。この構成で、トラバースガイド76を図略の駆動手段によって往復動させながら巻取ドラム72を図略の電動モータによって駆動することで、巻取ドラム72に接触するパッケージ45を回転させ、紡績糸10を綾振りしつつ巻き取るようになっている。
【0025】
糸継台車3は、図1及び図2に示すように、スプライサ(糸継装置)43と、糸継用サクションパイプ44と、サクションマウス46と、を備えている。糸継台車3は、紡績ユニット2で糸切れや糸切断が発生すると、前記レール41上を当該紡績ユニット2まで走行し、停止するように構成されている。前記糸継用サクションパイプ44は、軸を中心に上下方向に回動しながら、紡績装置9から送出される糸端を吸い込みつつ捕捉してスプライサ43へ案内するように構成されている。一方、サクションマウス46は、軸を中心に上下方向に回動しながら、前記巻取装置13に支持されたパッケージ45から糸端を吸引しつつ捕捉してスプライサ43へ案内するように構成されている。スプライサ43は、糸継用サクションパイプ44及びサクションマウス46によって案内された糸端同士の糸継ぎを行うためのものである。
【0026】
玉揚台車4は、図1及び図2に示すように、玉揚装置92と、クレードル操作アーム90と、玉揚用サクションパイプ88と、バンチ巻アーム91と、を備えている。玉揚台車4は、紡績ユニット2でパッケージ45が満巻になると、前記走行路86上を当該紡績ユニット2まで走行し、停止するように構成されている。クレードル操作アーム90は、巻取装置13のクレードルアーム71を操作可能に構成されている。玉揚用サクションパイプ88は伸縮可能に構成されており、紡績装置9から送出される糸端を吸い込みながら補捉して、巻取装置13に装着されたボビン48へ案内できるように構成されている。バンチ巻アーム91は、ボビン48に糸を棒巻きすることによって、紡績糸10をボビン48に固定するためのものである。
【0027】
次に、図3及び図4を参照して糸弛み取り装置12及びローラ部42の詳細について説明する。図3は、ローラ部42の回転軸線62を含む仮想平面で糸弛み取り装置12を切断した模式断面図である。図4は、ローラ部42の様子を示した側面図である。
【0028】
図3に示すように、糸弛み取り装置12は、弛み取りローラ21と、糸掛け部材22と、貯留センサ74と、電動モータ25と、上流側ガイド23と、下流側ガイド26と、を主要な構成として備えている。電動モータ25は弛み取りローラ21を回転駆動するためのものであり、弛み取りローラ21に接続されている。また、前記電動モータ25は、前記制御部に電気的に接続されており、この制御部によって弛み取りローラ21の回転が適宜制御されている。
【0029】
また、弛み取りローラ21の上流側には板状の上流側ガイド23が配置され、弛み取りローラ21の下流側には板状の下流側ガイド26(図3において省略)が配置される。これらのガイドによって紡績糸10は適宜の糸道に案内される。また、上流側ガイド23は図略のシリンダ等で構成される駆動手段に接続されており、このシリンダの伸縮によって、進出位置及び退避位置との間で上流側ガイド23を移動させることができる。
【0030】
この上流側ガイド23の移動により、紡績糸10の糸道を変更し、必要なときに糸掛け部材22を紡績糸10に係合させることができる。具体的には、シリンダによって上流側ガイド23を進出位置に移動させることで紡績糸10と糸掛け部材22とを係合させないでおくことができ、上流側ガイド23を退避位置に移動させることで糸掛け部材22を紡績糸10に係合させることができる。
【0031】
上流側ガイド23にはガイド溝(案内部)23aが形成されており、紡績糸10は当該ガイド溝23aを通過することにより糸道を案内(規制)されながら、弛み取りローラ21に導入されてローラ部42に巻き付くように構成されている。
【0032】
弛み取りローラ21は、電動モータ25のモータ軸27に固定されるローラ部42を備えている。このローラ部42の外周面には巻付領域60が形成されており、紡績装置9側から送られてきた紡績糸10は、この巻付領域60に巻き付けられる(貯留される)ことになる。
【0033】
糸掛け部材22は、弛み取りローラ21の紡績機1の正面側端部に配置される。この糸掛け部材22は、弛み取りローラ21に対し相対回転可能に支持されるフライヤー軸33と、その先端に固着されるフライヤー38と、を備える。前記フライヤー軸33は、条件に応じて当該弛み取りローラ21と一体的に又は独立して回転するように構成されている。フライヤー軸33又はローラ部42の何れか一方には永久磁石が取り付けられ、他方には磁気ヒステリシス材が取り付けられている。これらの磁気的手段により、糸掛け部材22が弛み取りローラ21に対し相対回転するのに抗するトルクが発生するように構成されている。
【0034】
フライヤー38は前記フライヤー軸33と一体的に回転するよう構成されている。また、前記フライヤー38は、前記ローラ部42の外周面(巻付領域60)に向かって適宜湾曲する形状に構成されている。これにより、フライヤー38は、紡績糸10と係合して(紡績糸10を引っ掛けて)、当該紡績糸10をローラ部42の巻付領域60へ案内することができる。
【0035】
貯留センサ74は、非接触型の光学式センサであり、前記制御部に電気的に接続されている。貯留センサ74は、ローラ部42の巻付領域60に一定以上の糸量が巻き付けられているか否かを検出し、その検出信号を制御部に送信する。この貯留センサ74は、その投光部及び受光部(検出部)が巻付領域60の上流側部分に対面するように配置されている。
【0036】
ローラ部42の形状について説明する。なお、以下の説明において、「基端側」とは電動モータ25に接続される側を、「先端側」とはフライヤー38が配置されている装置正面側をそれぞれ意味するものとする。また、詳細は後述するが、糸弛み取り装置12において糸は先ずローラ部42の基端側に巻き付けられた後、徐々に先端側に移動してから解舒される。従って、ローラ部42の基端側が糸走行方向の上流側に、先端側が下流側に、それぞれ対応することになる。
【0037】
ローラ部42は、基端側(上流側)から先端側(下流側)に向かって順に、基端側フランジ部61と、巻付領域60と、先端側フランジ部64と、を備えている。これらの基端側フランジ部61、巻付領域60及び先端側フランジ部64は、適宜の金属で一体的に形成されている。以下、ローラ部42の各部について上流側から説明する。
【0038】
基端側フランジ部(フランジ部)61は、端面側を大径側とし、巻付領域60との接続部分側を小径側とするテーパ状に構成されている。基端側フランジ部61の有するテーパ状部分は、巻付領域60の表面に対して折れ曲がり状に接続している。基端側フランジ部61は、上流側から案内されてきた紡績糸10を、基端側フランジ部61と巻付領域60との接続部分近傍の位置(巻付開始位置)に、前記テーパ状部分によって案内するように機能する。
【0039】
巻付領域60は、上流側から下流側に向かって所定の僅かな角度で狭まる直線テーパ状に形成されており、下流側では先端側フランジ部64に滑らかに接続されている。
【0040】
また、本実施形態のローラ部42は、図3及び図4に示すように、巻付領域60の表面を基端側フランジ部61側に延長した仮想面63と、基端側フランジ部61の周面と、がなす角度(基端側フランジ部61のテーパ状部分が仮想面63に対して傾斜する角度)αが45度以上となるように構成されている。なお、本実施形態においては、前記傾き角度αは60度に設定されている。
【0041】
先端側フランジ部64は、端面側を大径側とし、巻付領域60との接続部分側を小径側とするテーパ状に形成されている。この先端側フランジ部64によって、紡績糸10を解舒する際に、巻き付いている紡績糸10が一度に抜けてしまう輪抜け現象を防止できる。また、先端側フランジ部64は、紡績糸10を小径部分から端面側の大径部分へ順送りに巻き戻して、紡績糸10の円滑な引出しを確保するようにも機能する。
【0042】
図3は、ローラ部42の回転軸線62及び前記ガイド溝23aを含む仮想的な鉛直平面(仮想平面)で当該ローラ部42を切断した様子を示すものである。この図3では、ガイド溝23aを通過してからローラ部42(巻付領域60)に巻き付くまでの間の糸道が、前記仮想平面に投影された形で描かれている。
【0043】
ガイド溝23aからローラ部42の外周面までの実際の糸道はローラ部42の回転軸線62とねじれの位置関係にあるが、図3に示すように前記仮想平面への投影で考えた場合、当該糸道とローラ部42の回転軸線62とは、所定の角度(投影進入角度)βを形成する。この投影進入角度βは、86度未満であることが好ましく、75度以上80度以下であることが更に好ましい。なお、投影進入角度βが86度以上であると、巻付開始位置に巻き付けられた紡績糸10が下流側にスムーズに移動しないために局所的な多重巻きが発生し、テンションの変動が却って大きくなってしまう。
【0044】
本実施形態では、投影進入角度βが75度以上80度以下(具体的には、80度付近)となるように上流側ガイド23及び糸弛み取り装置12の位置関係等が設定されている。また、前記傾き角度αは、この投影進入角度βに対して小さくなるように構成されている(α<β)。
【0045】
この構成で、上流側から送られてきた紡績糸10は、上流側ガイド23のガイド溝23aを通過した後、所定の回転速度で回転しているローラ部42に糸掛け部材22を介して巻き付けられていく。具体的には、上流側から送られてきた紡績糸10は、糸掛け部材22によって基端側フランジ部61の周面に案内される。基端側フランジ部61の周面は、巻付領域60に対して傾き角度α(60度)だけ傾く急な傾きのテーパ面として形成されているので、前記巻付開始位置に紡績糸10を確実かつ速やかに案内することができる。
【0046】
また、前記仮想平面への投影で考えた場合、紡績糸10は前述するように、ローラ部42の回転軸線62に対して約80度の傾き(前記投影進入角度β)でローラ部42に導入される。従って、紡績糸10を巻き始める位置を一定範囲に収めることができ、巻付開始位置での紡績糸10の巻付けを安定した状態で行うことができる。更に、投影進入角度βが傾き角度αより大きく構成されているので、導入される紡績糸10が、基端側フランジ部61の周面で引っ掛かったりすることなくスムーズに巻付開始位置に案内される。このように、巻付開始位置近傍への紡績糸10の導入を安定して行うことができるので、紡績糸10の巻付位置が定まらないことによって生じる二重巻き等の不具合の発生を抑制できる。
【0047】
巻付領域60には小さな角度のテーパが形成されているので、巻付開始位置に案内された紡績糸10は、上流側から順次巻き付けられていく紡績糸10によって下流側(ローラ部42の先端側)に押される形となる。前述したように、紡績糸10が安定して巻付開始位置に順次供給されるので、紡績糸10は、巻付開始位置近傍で滞ることなく巻付領域60に螺旋状に整列した状態で巻き付けられていく。
【0048】
また、糸掛け部材22は弛み取りローラ21に対して独立に回転可能であり、この回転に抗する向きの抵抗トルクが磁気的手段によって加えられている。従って、フライヤー38に係合する紡績糸10に掛かるテンションが前記抵抗トルクに打ち勝つほどに強ければ、前記糸掛け部材22は弛み取りローラ21と独立に回転して、糸を前記弛み取りローラ21から解舒する。反対に、糸に掛かるテンションが弱ければ、糸掛け部材22は弛み取りローラ21と一体的に回転し、糸を前記弛み取りローラ21に巻き付ける。このように、糸弛み取り装置12は、糸のテンションが下がる(糸が弛みそうになる)と糸を巻き付け、糸のテンションが上がると糸を解舒するように動作することで、糸の弛みを解消して適切な張力を付与することができる。なお、紡績糸10は基端側(基端側フランジ部61と巻付領域60との接続部分)から巻き付けられる一方、紡績糸10の解舒時においては、ローラ部42の先端側から解舒されていく。
【0049】
また、前記紡績糸10に掛かるテンションは、基本的には、糸送り装置11の糸送り速度及び巻取装置13の巻取速度によって決定される。即ち、糸送り速度よりも巻取速度の方が速ければ糸に掛かるテンションは大きくなり、逆に糸送り速度よりも巻取速度の方が遅ければ糸に掛かるテンションは小さくなる。糸送り装置11の糸送り速度(紡出速度)は通常一定であるので、紡績糸10に掛かるテンションは主に巻取装置13の巻取速度によって変化する。
【0050】
通常の巻取時には、紡績糸10に適切な巻取張力を付与するため、糸送り装置11の糸送り速度よりも巻取速度が若干速くなるように、巻取ドラム72の回転速度が設定されている。従って、弛み取りローラ21に巻き取られていた紡績糸10は徐々に解舒され、糸の貯留量が減少する。
【0051】
次に、糸弛み取り装置12の貯留量の検出及び巻取速度の制御について説明する。前述したように、ローラ部42に一定以上の糸量が貯留されているか否かは、貯留センサ74によって検出される。本実施形態においては、紡績糸10がローラ部42でスリップすることを防止する観点から、巻付領域60に巻き付けられる巻数が少なくとも15周を常時超えるように糸の貯留量を監視する。具体的には、貯留センサ74は、ローラ部42に巻き付けられる糸がほぼ15周目となる箇所を検出するように構成されている。そして、貯留センサ74が、当該検出箇所に糸がないことを検知すると、巻付領域60に貯留されている糸量が所定以下となったことを示す信号を制御部に送信する。
【0052】
制御部は、貯留センサ74によって糸量が所定以下となった信号を受信すると、図略のリフトシリンダを駆動してクレードルアーム71を図2の左側に回動させるように制御し、パッケージ45を巻取ドラム72から離間させる。これにより、巻取ドラム72によるパッケージ45への駆動力の伝達が遮断される。駆動力を失ったパッケージ45は、慣性回転を継続するものの、その巻取速度は徐々に減少する。
【0053】
巻取速度が低下することによって、巻付領域60から巻取装置13側に単位時間当たりに引き出される糸量が少なくなり、やがて、上流側から巻付領域60に新たに巻き付けられる単位時間当たりの糸量を下回る。この結果、糸の貯留量が回復する。ローラ部42の巻付領域60に一定以上の糸量が巻き付けられたか否かは、クレードルアーム71によってパッケージ45を巻取ドラム72から離間した時間によって判断される。なお、巻取ドラム72からパッケージ45を離間させる時間は、パッケージ45の巻径やその他の条件等によって適宜設定される。例えば、パッケージ45の径が大きい場合は慣性が大きいために巻取速度の低下が緩やかになるので、巻取ドラム72から離間する時間を長く設定する等の制御を行う。
【0054】
パッケージ45を巻取ドラム72から離間させて所定時間が経過し、ローラ部42の巻付領域60に一定以上の糸量が巻き付けられると、制御部は、クレードルアーム71を図2の右側へ回動させ、パッケージ45を巻取ドラム72に接触させる。
【0055】
以上に示したように、糸弛み取り装置12は、貯留センサ74によって巻付領域60に貯留される紡績糸10を監視し、クレードルアーム71をフィードバック制御することによって、巻取速度を調節してローラ部42の巻付領域60に貯留される糸量を調節する。これによって、一定量以上の紡績糸10が弛み取りローラ21に貯留されている状態を常に維持しつつ、巻取テンションを一定化することができる。
【0056】
また、本実施形態の紡績機1は、糸継台車3による糸継作業時及び玉揚台車4による玉揚作業時は、巻取装置13による巻取作業が停止されるため、糸弛み取り装置12に紡績糸10を貯留させることで、紡績糸10の滞留を防止している。例えば、糸継作業においては、巻取作業が停止され、糸継台車3のスプライサ43で糸継作業が行われる。この間、糸弛み取り装置12では、紡績装置9側から供給されてくる紡績糸10を巻付領域60に貯留させておく。これにより、糸の滞留を防止し、スムーズな巻取作業への復帰を可能としている。また、玉揚作業においては、巻取作業が停止され、バンチ巻アーム91によりバンチ巻が行われ、糸端が空のボビン48に固定される玉揚作業が行われる。糸弛み取り装置12では、糸継作業と同様に玉揚作業においても紡績装置9側からの紡績糸10を巻付領域60に貯留させておくことで、糸の滞留を防止して巻取作業へスムーズに移行することができる。このような糸継作業及び玉揚作業では、通常の巻取時に比べて大量の糸が巻付領域60に貯留されることになる。
【0057】
糸継作業や玉揚作業等のように、紡績糸10を巻付領域60に大量に巻き付ける場合、巻付領域60に巻き付けられた紡績糸10の上に更に紡績糸10が巻き付けられる状態(二重巻き又は三重巻き)が発生する。従来の構成では、二重巻きや三重巻きが発生した場合、紡績糸10が基端側のフランジ部を登ってしまい、フランジ部と巻付領域との径の違いによってテンション変動が発生するおそれがあった。しかしながら、本実施形態のローラ部42においては、巻付開始位置の紡績糸10が基端側フランジ部61に登ろうとしても、角度が急な基端側フランジ部61のテーパ面によって基端側への移動が阻止される形となる。従って、紡績糸10が基端側フランジ部61側に移動し易い状況になったとしても、本実施形態のローラ部42は、紡績糸10が基端側フランジ部61に乗り上げようとする動きを効果的に規制することができる。
【0058】
また、ローラ部42は、基端側フランジ部61のテーパ状部分と、巻付領域60の表面を基端側に延長した仮想面63と、が45度以上の急な角度をなすように形成されている。従って、糸道を適切にガイドするために必要な基端側フランジ部61の外側への突出量を確保しつつ、その軸方向の長さを短く構成することができる。これによって、巻付領域60のローラ部42に占める割合を相対的に大きくすることができるので、配置スペースが限られていても、貯留可能な糸量の上限を大きくすることができる。従って、前記糸継作業又は前記玉揚作業のように、巻付領域60に大量の紡績糸10が貯留されるような場合であっても、本発明の糸弛み取り装置12は、紡績糸10を良好に巻き付けるための十分な巻付量を巻付領域60に確保できる。
【0059】
次に、図5を参照して本実施形態のローラ部42を使用した場合の効果を説明する。図5は、ローラ部42の巻付領域60に貯留される糸の貯留長さに応じたテンションの値の変動を本実施形態のローラ部42と、従来の構成のローラ部と、で比較したグラフである。
【0060】
図5に示すように、本実施形態のローラ部42を使用した場合、従来の構成のローラ部を使用した場合に比べて、貯留長さの増大に応じて上昇するテンションの値の上昇幅が小さい。ローラ部42に貯留される貯留長さが長くなればなるほど、テンションの値の差が大きくなっており、例えば、貯留長さが18mに達している場合のテンション値を比較すると、その差は歴然である。このように、本実施形態のローラ部42は、従来の構成のローラ部に比べて、貯留される糸の貯留長さが長くなることによるテンションの増加を効果的に抑制できることが判る。
【0061】
以上に示したように、本実施形態の糸弛み取り装置12が備えるローラ部42は、紡績糸10を巻き付けるための巻付領域60と、巻付領域60の上流側端部に接続されるとともに、巻付領域60よりも大きい径で形成される基端側フランジ部61と、を有する。基端側フランジ部61は、巻付領域60との接続部分に近づくに従ってテーパ状にすぼまるように形成されている。また、基端側フランジ部61は、巻付領域60との接続部分において、巻付領域60の表面を基端側フランジ部61側に延長した仮想面63に対するテーパ状部分の傾き角度αが45度以上である。
【0062】
これにより、45度以上の急な傾きを有する基端側フランジ部61のテーパ面によって巻付領域60に紡績糸10を案内することができるので、紡績糸10のローラ部42に対する巻付開始位置を安定させることができる。また、テーパ面が急な傾きで形成されているので、紡績糸10が基端側フランジ部61を登ろうとしてもその動きを強力に規制することができる。従って、巻付領域60の糸の巻付けを良好に行うことができ、紡績糸10が巻付領域60に適切に巻き付けられないことによって生じるテンション変動を抑制できる。また、基端側フランジ部61のテーパ状部分の傾きが大きくなることにより、基端側フランジ部61の構成をローラ部42の軸方向でコンパクトとすることができる。従って、ローラ部42が限られたスペースに配置される場合であっても、巻付領域60に巻き付けることができる糸量の上限を容易に増加させることができる。
【0063】
また、本実施形態の糸弛み取り装置12は、ローラ部42に向けて糸を案内するガイド溝23aを備える。また、前記傾き角度αは、ローラ部42の回転軸線62及びガイド溝23aを含む仮想平面にローラ部42とガイド溝23aとの間の糸道を投影したときに、投影された糸道と回転軸線62がなす角度(投影進入角度β)よりも小さくなっている。
【0064】
これにより、糸弛み取り装置12の上流側から送られてくるローラ部42への紡績糸10の導入を、基端側フランジ部61によるガイド作用を有効に利用してスムーズに行うことができる。また、紡績糸10の進入する角度が一定範囲に収まるので、巻付開始位置をより安定させることができる。
【0065】
また、本実施形態の糸弛み取り装置12は、前記投影進入角度βが86度未満となるように構成されている。
【0066】
これにより、紡績糸10が巻付領域60と基端側フランジ部61との接続部分に留まろうとするのを防止でき、これにより、巻付開始位置近傍で紡績糸10の動きが滞ることを回避して、下流側に紡績糸10をスムーズに移動させることができる。従って、二重巻きの発生を抑制して巻付領域60の紡績糸10の巻き状態を良好なものとすることができる。
【0067】
また、紡績機1は、前記糸弛み取り装置12を備える。
【0068】
これにより、巻付領域60に巻き付ける糸量に応じたテンションの変動を防止できるので、紡績工程への影響を抑えることができる。また、糸弛み取り装置12の上流側にはヤーンクリアラ52が配置されているが、巻付領域60に巻き付けられる糸長さが増加しても糸のテンション変動を抑制できるので、前記ヤーンクリアラ52を通過する糸速度を安定させ、糸欠陥の検出精度を向上させることができる。このように、本発明の糸弛み取り装置12を紡績機1が備えることによって、紡績される糸の品質を効果的に向上させることができる。
【0069】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0070】
上記実施形態の糸弛み取り装置12の構成において、前記傾き角度αは45度以上であればよく、ローラ部42や周辺の部材との位置関係等を考慮して適宜変更することができる。同様に、図3に示した巻付領域60への紡績糸10の投影進入角度βについても、ローラ部42や上流側ガイド23の配置関係等を考慮して適宜変更することができる。
【0071】
糸掛け部材22と弛み取りローラ21との間の相対回転に抗する抵抗トルクを発生させる手段は、磁気的手段に代えて、例えば、電磁石による電磁的手段、摩擦力による機械的手段などに変更することができる。
【0072】
上記実施形態の紡績機1は、ドラフト装置7と、紡績装置9と、糸送り装置11と、糸弛み取り装置12と、巻取装置13と、を主要な構成として備えているが、上記実施形態は適宜変更することができる。例えば、上記実施形態の構成の一部を省略したり、他の部材を追加したりすることができる。また、紡績機に限らず自動ワインダ等の他の繊維機械にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の一実施形態に係る紡績機の様子を示した正面図。
【図2】本実施形態の紡績機の側面断面図。
【図3】糸弛み取り装置の様子を示した模式断面図。
【図4】ローラ部の様子を示した側面図。
【図5】ローラ部に貯留される糸長さとテンションの関係をローラ部の形状ごとに示したグラフ。
【符号の説明】
【0074】
1 紡績機(繊維機械)
12 糸弛み取り装置
23a ガイド溝(案内部)
42 ローラ部
60 巻付領域
61 基端側フランジ部(フランジ部)
62 回転軸線
63 仮想面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を巻き付けるためのローラ部を備え、繊維機械に用いられる糸弛み取り装置において、
前記ローラ部は、
糸を巻き付けるための巻付領域と、
前記巻付領域の上流側端部に接続されるとともに、前記巻付領域よりも大きい径で形成されるフランジ部と、
を有し、
前記フランジ部は、前記巻付領域との接続部分に近づくに従ってテーパ状にすぼまるとともに、前記巻付領域との接続部分において、前記巻付領域の表面を前記フランジ部側に延長した仮想面に対するテーパ状部分の傾き角度が45度以上であることを特徴とする糸弛み取り装置。
【請求項2】
請求項1に記載の糸弛み取り装置であって、
前記ローラ部に向けて糸を案内する案内部を備え、
前記傾き角度は、前記ローラ部の回転軸線及び前記案内部を含む仮想平面に前記ローラ部と前記案内部との間の糸道を投影したときに、投影された糸道と前記回転軸線がなす角度である投影進入角度よりも小さいことを特徴とする糸弛み取り装置。
【請求項3】
請求項2に記載の糸弛み取り装置であって、
前記投影進入角度は86度未満であることを特徴とする糸弛み取り装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の糸弛み取り装置を備えることを特徴とする繊維機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−76889(P2010−76889A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246623(P2008−246623)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】