説明

糸状菌およびこれを用いた樹脂の分解方法

【課題】ポリブチレンサクシネート系樹脂を、自然環境への悪影響が少なく、低エネルギーで循環型回収が可能な方法で分解する、新規な生物学的手段を提供する。また、この新規な生物学的手段を用いた樹脂の分解方法を提供する。
【解決手段】新規な生物学的手段として、フザリウム(Fusarium)属に属する糸状菌を用いる。例えば、フザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P7株(FERM P-20610)やフザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P2株(FERM P-20804)を用いることが好ましい。また、この新規な生物学的手段を用いた分解方法として、当該糸状菌と、ポリブチレンサクシネート系樹脂とを接触させることにより、当該樹脂を分解する。この接触は土壌中で行うこともできる。また、米澱粉を含む樹脂であっても分解することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な糸状菌、および当該糸状菌を使用してポリブチレンサクシネート系樹脂を分解する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物による環境汚染問題に対する意識の高まりから、プラスチック廃棄物の処理問題が注目されている。プラスチック廃棄物は現在、焼却、埋め立て、海洋投棄などの方法によって処理されているが、焼却処分には、エネルギーコスト高、地球温暖化の促進、ダイオキシンなどの有害物質が発生する、などの問題がある。他方、埋め立て処理には、処理地不足、地下水の汚染などの問題があり、また、海洋投棄は制限される方向にある。
【0003】
そこで、これらに代わる方法として、自然環境への悪影響が少なく、低エネルギーで循環型回収が可能な、微生物を利用した生物学的分解処理法が注目されている。
【0004】
生物学的分解処理法によってプラスチック廃棄物の処理問題に対応するため、次世代のプラスチックとして、生分解性樹脂の開発が進められている。なかでも、ポリブチレンサクシネート系樹脂は、耐熱性や機械的特性に優れるとともに、安価な1,4−ブタンジオールとコハク酸のモノマーから合成することができるため、微生物による分解が困難な汎用プラスチックに代わる、生分解性樹脂素材として特に注目されている。また、このポリブチレンサクシネート系樹脂は、フィルム状、繊維状、発泡体状などに成形加工することが比較的容易であるため、例えば、農作物栽培時の固定補助具、生ゴミ袋、釣り糸、植生ネット、不織布、文房具、梱包剤などの種々の成型品への適用が期待されている。特に農業分野においては、プラスチック廃棄物処理にかかる諸問題を解決するとともに、農作物の収穫時に固定補助具を回収する作業を不要化して、農作業の効率化を実現しうる樹脂素材として注目されている。
【0005】
上記ポリブチレンサクシネート系樹脂を分解し得る微生物としては、これまでに、アミコラトプシス(Amycolatopsis)属、アクティノマドゥラ(Actinomadura)属、ミクロビスポラ(Microbisoira)属、ペニバチルス(Paenibacillus)属に属する特定の微生物などが報告されている(例えば、特許文献1または2参照)。これらはいずれも、放線菌や嫌気性細菌などの原核生物である。
【0006】
【特許文献1】特開2001−226518号公報
【特許文献2】特開2004−166542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
微生物は、膨大な種類が現存しているものの、本発明者らが知る限り、ポリブチレンサクシネート系樹脂の分解作用を有する微生物については、上記特許文献1または2で示されるように、数種類の原核生物に限定されている。
【0008】
そこで本発明は、ポリブチレンサクシネート系樹脂の分解作用を有する新規な微生物を提供することを目的とする。また、この新規な微生物を用いたポリブチレンサクシネート系樹脂の分解方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、別の側面から、この新規な微生物を用いた米澱粉を含む樹脂の分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、土壌中の微生物について鋭意検討した結果、通称赤カビとよばれるフザリウム(Fusarium)属に属する糸状菌が、ポリブチレンサクシネート系樹脂の分解能を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
微生物によるポリブチレンサクシネート系樹脂の分解作用は、放線菌などの原核生物においては、上述のようにいくつかの知見があるものの、本発明者らが知る限り、糸状菌、すなわちカビ類が、このようなポリブチレンサクシネート系樹脂の分解能を有することはこれまで知られておらず、本発明者らによって初めて見出された知見である。
【0012】
すなわち本発明は、ポリブチレンサクシネート系樹脂の分解能を有する、フザリウム(Fusarium)属に属する糸状菌を提供するものである。
【0013】
また、本発明は別の側面から、ポリブチレンサクシネート系樹脂に、フザリウム(Fusarium)属に属する糸状菌を接触させ、当該樹脂を分解する、樹脂の分解方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、米澱粉を含む樹脂に、フザリウム(Fusarium)属に属する糸状菌を接触させ、当該樹脂を分解する、樹脂の分解方法を提供するものである。
【0015】
なお、上記ポリブチレンサクシネート系樹脂とは、その主鎖中に1,4−ブタンジオールとコハク酸とで形成されるエステル結合(ブチレンサクシネート結合)を含む樹脂を意味し、そのブチレンサクシネート結合の主鎖中の割合は、85モル%以上、好ましくは95モル%以上である。このようなポリブチレンサクシネート系樹脂としては、1,4−ブタンジオールとコハク酸とからなるポリエステル以外にも、例えば、1,4−ブタンジオールとコハク酸とに加えて、他のモノマー成分、例えば、アジピン酸などの脂肪族二塩基酸やエチレングリコールなどのジオールを含む、モノマー混合物から形成された脂肪族共重合ポリエステルや、ポリブチレンサクシネートに他の脂肪族ポリエステルや芳香族ポリエステルをブロック共重合させたポリエステル、ポリブチレンサクシネート系樹脂のブレンド体およびポリブチレンサクシネート系樹脂と他のポリマーとのブレンド体などが挙げられる。
【0016】
さらに、上記ポリブチレンサクシネート系樹脂の形状は特に限定されず、例えば、粉体状、液体状、分散液状、成型品状(例えば、固定補助具、容器、フィルム、繊維など)などであってよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ポリブチレンサクシネート系樹脂の分解作用を有する新規な糸状菌を提供することができる。また、この新規な糸状菌を用いたポリブチレンサクシネート系樹脂の分解方法を提供することができる。
【0018】
また、この新規な微生物を用いた米澱粉を含む樹脂の分解方法を提供することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の糸状菌としては、少なくともポリブチレンサクシネート系樹脂の分解能を有する、好ましくはさらに米澱粉の分解能をも有するフザリウム(Fusarium)属に属する糸状菌であれば、野生株、変異株のいずれであってもよいが、特に好適な例としては、本発明者らが土壌中から見出した、フザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P7株(FERM P-20610)、フザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P2株(FERM P-20804)などが挙げられる。
【0020】
上記変異株は、例えば、公知の変異剤(例えば、エチルメタンスルホン酸、ニトロソグアニジン、メチルメタンスルホン酸など)を用いた化学物質処理、あるいは紫外線照射などの公知の変異株誘導処理によって得てもよいし、継代による自然突然変異の誘導によって得てもよい。
【0021】
本発明の糸状菌は、土壌から真菌類を分離する既知の方法を用いて分離(スクリーニング)することができる。分離に用いる培地組成や方法としては、例えば「微生物の分類と同定 改訂版(上巻)」、学会出版センター(1984年)などに記載の公知の培地組成や方法を用いることができる。特に、本発明の糸状菌は、少なくともポリブチレンサクシネート系樹脂の分解能を有するため、例えば真菌用培地(麦芽エキス培地)にポリブチレンサクシネート系樹脂の成型品および土壌懸濁液を加えて所定の期間培養した後、当該成型品表面への糸状菌の結着性を判定することによって、比較的容易にスクリーニングすることができる。
【0022】
本発明の糸状菌の一例であるフザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P7株およびフザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P2株は、以下のような菌学的性質を有する。
【0023】
1)顕微鏡による形態観察
まず、ぺトリ皿上で0.5mmの厚さに調製したPDA培地(DIFCO社製)から、滅菌したカッターナイフを用いて約10mm四方の培地片を切り出し、滅菌したスライドガラス上に置く。続いて、麦芽エキス斜面培地で30℃、4日間培養したフザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P7株およびフザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P2株の菌糸をそれぞれ1白金耳接種し、カバーグラスをかけ、その三方をワセリンで固定する。その後、30℃で培養しながら12時間ごとに検鏡する。
【0024】
培養開始7日後に顕微鏡観察すると、いずれの菌株においても、栄養菌糸から分生子柄(分生子形成細胞:フィアライド)が直立し、その先端から1〜2細胞の分生子(小分生子)の塊が形成される様子、さらには、三日月形で多細胞性の大分生子の形成を観察することができ、フザリウム(Fusarium)属に特有の形態的特徴を認めることができる。なお、フザリウム属は無性生殖すると言われている。
【0025】
2)菌体の生育及び形態
麦芽エキス寒天培地、ツァペック寒天培地およびサブロー寒天培地の3種の培地(なお、各培地ともpH7.0に調整しておく)上にP7株およびP2株を植菌して、各培地上の生育性、コロニーの表面の形状・色調、コロニー裏面の色調を観察すると、このP7株は、すべての培地で生育するとともに、以下A〜Cで示すようなコロニー形態を観察することができる。また、P2株についても、すべての培地で生育するとともに、以下D〜Fで示すようなコロニー形態を観察することができる。
A)麦芽エキス寒天培地 表面:白色の菌糸を有し、群集状態となる。
裏面:白色に近い淡黄色の菌糸を有し、ビロード状となる。
B)ツァペック寒天培地 表面:透明に近い淡白色の菌糸を有し、群集状態となる。
裏面:透明に近い淡白色の菌糸を有し、群集状態となる。
C)サブロー寒天培地 表面:白色の菌糸を有し、群集状態となる。
裏面:淡白色の菌糸を有し、ビロード状となる。
D)麦芽エキス寒天培地 表面:白色の菌糸を有し、群集状態となる。
裏面:濃黄色の菌糸を有し、ビロード状となる。
E)ツァペック寒天培地 表面:透明に近い淡白色の菌糸を有し、表面に薄く広がる。
裏面:透明に近い淡白色の菌糸を有し、表面に薄く広がる。
F)サブロー寒天培地 表面:透明に近い白色の菌糸を有し、群集状態となる。
裏面:茶色に近い橙色の菌糸を有し、ビロード状となる。
【0026】
3)最適生育条件・生育の範囲(麦芽エキス寒天培地)
麦芽エキス培地を用いてP7株およびP2株を液体培養すると、温度を30℃に、振とう速度を200spmに固定した場合には、pH5以上10以下の範囲、特にpH6以上9以下の範囲において良好な生育を示し、pH11では生育しないことが観察される。P7株の生育に最適なpHは8であり、P2株の生育に最適なpHは7である。また、pHを7.0に、振とう速度を200spmに固定した場合には、P7株は、15〜40℃の範囲、特に25〜35℃の範囲において良好な生育を示し、4℃以下および45℃以上では生育しないことが観察される。また、この場合、P2株は、10〜45℃の範囲、さらには25〜45℃の範囲、特に30〜40℃の範囲において良好な生育を示し、4℃以下および50℃以上では生育しないことが観察される。
【0027】
4)28S rDNA D1/D2領域の塩基配列解析
まず、P7株の培養平板から、公知の方法を用いてゲノムDNAを抽出する。例えば、DNeasy Plant Mini Kit(キアゲン社製)を用いることができる。次に、このゲノムDNAをテンプレートとし、所定のプライマーを用いて、18S rDNA 3’末端〜28S rDNA−D1/D2領域DNAフラグメントのPCR増幅を行う。その後、公知のシークエンサー等を用いて、P7株における28S rDNA D1/D2領域の塩基配列を得る。例えば、ABI PRISM 3100 DNA Sequencer(アプライド・バイオシステムズ社製)とAuto Assembler(アプライド・バイオシステムズ社製)とを組み合わせて用いることができる。続いて、配列検索ツール(BLAST)を用い、国際DNAデータベース(GenBank/EMBL/DDBJ)から、P7株における上記塩基配列に対する相同性検索を行う。
【0028】
上記相同性検索を行うと、本発明の完成時以前では、P7株における上記塩基配列に一致する登録菌株が存在しないことが確認される。なお、当該塩基配列と特に高い相同性を示す登録菌株を以下に示す。
Fusarium lichenicola CBS115.40 (AY097325) ・・・ 99.7%
Fusarium phaseoli NUSV-1002 (AB075377) ・・・ 99.5%
Fusarium solani CBS490.63 (AY097316) ・・・ 99.5%
Fusarium falciforme CBS101427 (AY097326) ・・・ 99.8%
Fusarium falciforme CBS475.67 (AY097319) ・・・ 99.8%
Fusarium solani f. radicicola (AY097316) ・・・ 99.7%
【0029】
上記相同性検索によって検出される上位20エントリーの塩基配列と、P7株の上記塩基配列とから、図4で示す系統樹を得ることができ、Fusarium solani f. radicicolaと同一の系統枝を形成することが確認できる。なお、系統樹の作成には公知の系統樹作成ソフト(例えば、MEGA ver2.0 (Kumar et al., 2001))を用いることができ、また、系統樹の推定には近隣結合法(Saitou and Nei, 1987)を用い、各系統枝の信頼度はブーツストラップ法(Felsenstein, 1985)で評価することができる。
【0030】
同様にして、P2株の培養平板から、公知の方法を用いてゲノムDNAを抽出し、P2株における28S rDNA D1/D2領域の塩基配列を得た後、当該塩基配列に対する相同性検索を行う。
【0031】
上記相同性検索を行うと、本発明の完成時以前において、以下の登録菌株が、P2株における上記塩基配列と特に高い相同性を示すことが確認される。
Fusarium falciforme CBS101427 (AY097326) ・・・ 100.0%
Fusarium falciforme CBS475.67 (AY097319) ・・・ 100.0%
Fusarium phaseoli NUSV-1002 (AB075377) ・・・ 99.7%
Fusarium lichenicola CBS115.40 (AY097325) ・・・ 99.5%
Fusarium solani f. radicicola (AY097316) ・・・ 99.5%
Fusarium sp.FSU2883 FSU2883 (AY633560) ・・・ 99.5%
Fusarium solani CBS490.63 (AY097316) ・・・ 99.3%
【0032】
上記相同性検索によって検出される上位20エントリーの塩基配列と、P2株の上記塩基配列とから、図5で示す系統樹を得ることができ、Fusarium phaseoli、Fusarium falciformeと同一の系統枝を形成することが確認できる。なお、系統樹の作成、系統樹の推定および各系統枝の信頼度の評価は、P7株の場合と同様にして実施できる。
【0033】
5)RAPD解析
RAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)法に基づき、下記表1で示す10種類のPCRプライマー(RAPD-01〜10)を用いて、P2株と、Fusarium falciforme CBS101427およびFusarium falciforme CBS475.67との間のゲノムDNAの多型を比較すると、全てのプライマーにおいて、各検体間で異なるバンドパターンを示すPCR増幅産物が検出され、これら3種の検体は相同でないことが確認される。
【0034】
【表1】

【0035】
本発明の糸状菌の一例であるフザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P7株は、以上のような菌学的性質を有しており、フザリウム(Fusarium)属に属する糸状菌に分類される、Fusarium solani f. radicicola に近縁の新規な菌株である。また、本発明の糸状菌の別例であるフザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P2株は、以上のような菌学的性質を有し、フザリウム(Fusarium)属に属する糸状菌に分類される、Fusarium falciformeおよびFusarium phaseoliに近縁の新規な菌株である。
【0036】
これまでに、フザリウム属に属する糸状菌がポリブチレンサクシネート系樹脂の分解能を有することに関しては全く報告がないのに対し、上記フザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P7株およびフザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P2株は、高い分解能を有する。さらに、このP7株およびP2株は、米澱粉の分解能をも有する。なお、澱粉といえども、これを分解できる微生物種は限られており、フザリウム属に属する糸状菌が、ポリブチレンサクシネート系樹脂の分解能と、米澱粉の分解能との双方を有することは、本発明者らが知る限り初めて見出された知見である。
【0037】
このフザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P7株およびフザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P2株は、本発明者らによって、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている。その受託番号はそれぞれFERM P-20610およびFERM P-20804である。
【0038】
本発明の糸状菌を用いた、ポリブチレンサクシネート系樹脂、または、米澱粉とポリブチレンサクシネート系樹脂とを含む樹脂の分解方法は、当該樹脂に本発明の糸状菌を接触させて行う。なお、当該接触は、公知の培地(例えば、麦芽エキス寒天培地、ポテト・グルコース寒天培地など)中で行ってもよいし、土壌中で行ってもよい。
【0039】
また、接触に際しては、樹脂の分解を促進するため、接触環境の温度やpHを、本発明の糸状菌の活性が至適となる範囲に調整することが好ましい。例えば、フザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P7株を用いる場合は、温度を15℃以上40℃以下の範囲に、好ましくは25℃以上35℃以下の範囲に、pHを5以上10以下の範囲に、好ましくは6以上9以下の範囲に、より好ましくは8に調整すればよい。フザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P2株を用いる場合は、温度を10℃以上45℃以下の範囲に、好ましくは25℃以上45℃以下の範囲に、より好ましくは30℃以上40℃以下の範囲に、pHを5以上10以下の範囲に、好ましくは6以上9以下の範囲に、より好ましくは7に調整すればよい。また、糸状菌の接種量、栄養源の種類や添加量、接触環境の湿度などの条件を適宜調整することが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
まず、ポリブチレンサクシネートを主成分とする試験用樹脂(昭和高分子株式会社製 ビオノーレ#1020)の成型品(図2参照、表面積:557mm2)を、イオン交換水を満たしたビーカーに入れ、超音波洗浄機(ヤマト科学株式会社製 BRANSONIC5200)を用いて1時間洗浄した。次に、当該成型品を70体積%のエタノール水溶液で洗浄し、50℃の恒温器中で2日間乾燥させた後に質量を測定し、試験用樹脂成型品の初期質量とした。
【0042】
続いて、試験用樹脂成型品の全体に、70体積%のエタノール水溶液を噴露し、クリーンベンチ(ヤマト科学株式会社製 CLEAN BENCH ADS-130)内で紫外光をそれぞれの側面に10分間ずつ照射し、試験用樹脂成型品を滅菌処理した。
【0043】
〈分解試験〉
図3で示すように、培養プレート3内に配置した、下記表2で示す組成のLB+グルコース寒天培地2上に、滅菌後の試験用樹脂成型品1を置くとともに、フザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P7株4を、当該成型品1を取り囲むようにして、培地2上の三箇所に白金耳5で植菌し、30℃の恒温環境下で静置培養を行った。なお、新しい寒天培地への植え継ぎは1週間毎に行い、合計して28日間の培養を行った。菌体の植え継ぎに際しては、図3で示すように、寒天培地2上に新たな植菌を行わず、成型品1とともに、当該成型品に付着した菌体6を移し替えることにより行った。
【0044】
【表2】

【0045】
培養終了(分解試験)後、試験用樹脂成型品を培地から取り出し、上述のようにして、超音波洗浄作業と乾燥作業とを行い、分解試験後の試験用樹脂成型品の質量を測定した。
【0046】
[実施例2]
実施例2は、試験用樹脂成型品として、ポリブチレンサクシネート・アジペートと米澱粉とを主成分とする試験用樹脂(信和株式会社製 ライスプラ フローラ タイプA)の成型品を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして分解試験を行った実験例である。なお、当該成型品の外形やサイズは実施例1で用いた成型品に等しい。
【0047】
[実施例3]
実施例3は、フザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P7株に代えて、フザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P2株を植菌したこと以外は、上記実施例1と同様にして分解試験を行った実験例である。
【0048】
[実施例4]
実施例4は、フザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P7株に代えて、フザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P2株を植菌したこと以外は、上記実施例2と同様にして分解試験を行った実験例である。
【0049】
[比較例1]
比較例1は、固体培地に代えて液体培地(100ml)を用い、当該液体培地中にフザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P7株およびP2株を植菌せず、未植菌状態として、30℃の恒温環境下で28日間、200spm(毎分ストローク数)で、坂口フラスコ内にて振とう培養したこと以外は、上記実施例1と同様にして分解試験を行った実験例である。なお、液体培地としては、上記表2に記載の培地組成から寒天成分を取り除いたLB+グルコース培地、または下記表3で示すLB培地を用いた。
【0050】
【表3】

【0051】
[比較例2]
比較例2は、試験用樹脂成型品として、ポリブチレンサクシネート・アジペートと米澱粉とを主成分とする試験用樹脂(信和株式会社製 ライスプラ フローラ タイプA)の成型品を用いたこと以外は、上記比較例1と同様にして分解試験を行った実験例である。
【0052】
上記実施例1〜4、および比較例1〜2における、分解試験による試験用樹脂成型品の質量減少率およびその標準偏差について、表4および図1に示す。なお、それぞれのサンプル数は2個である。また、質量減少率は下記式(1)に基づいて算出した。
【0053】
【数1】

【0054】
【表4】

【0055】
表4および図1で示すように、本発明の糸状菌の一例および別例である、フザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P7株およびフザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P2株は、実施例1および実施例3で示されるように、ポリブチレンサクシネート(PBS)系樹脂の分解能を有することが判った。さらに、実施例2および実施例4で示されるように、PBS系樹脂の分解能に加えて、米澱粉の分解能をも有していることが判った。
【0056】
なお、比較例1および2で示されるように、未植菌状態で28日間の培養をした場合には、試験用樹脂成型品の質量減少はほとんど無く、測定誤差程度の質量変化が観察されたのみであった。
【0057】
また、実体顕微鏡(ケニス株式会社製 Stereo−Microscope Model DAW)と液晶デジタルカメラ(カシオ計算機株式会社製 QV−2400UX)とを用いて、分解試験後の試験用樹脂成型品の形状を観察したところ、比較例1および2においては特段の形状変化は確認されなかったのに対し、実施例1〜4においては、成型品における表面色の変化や断裂の発生が確認され、その形状変化からも成型品の分解が進行していることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、ポリブチレンサクシネート系樹脂を、自然環境への悪影響が少なく、低エネルギーで循環型回収が可能な方法で分解する、新規な生物学的手段を提供することに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の糸状菌による成型品の分解度を示すグラフである。
【図2】試験用樹脂成型品の外観を示す図である。
【図3】分解試験時の植え継ぎ作業について説明するための図である。
【図4】P7株における28S rDNA D1/D2領域の塩基配列の相同性解析によって得られる系統樹を示す図である。
【図5】P2株における28S rDNA D1/D2領域の塩基配列の相同性解析によって得られる系統樹を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 試験用樹脂成型品
2 培地
3 培養プレート
4 フザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P7株
5 白金耳
6 成型品に付着した菌体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンサクシネート系樹脂の分解能を有する、フザリウム(Fusarium)属に属する糸状菌。
【請求項2】
フザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P7株(FERM P-20610)またはフザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P2株(FERM P-20804)である、請求項1に記載の糸状菌。
【請求項3】
さらに米澱粉の分解能を有する、請求項1に記載の糸状菌。
【請求項4】
ポリブチレンサクシネート系樹脂に、フザリウム(Fusarium)属に属する糸状菌を接触させ、当該樹脂を分解する、樹脂の分解方法。
【請求項5】
前記糸状菌が、フザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P7株(FERM P-20610)またはフザリウム・エスピー(Fusarium sp.)P2株(FERM P-20804)である、請求項4に記載の分解方法。
【請求項6】
前記ポリブチレンサクシネート系樹脂に代えて、米澱粉とポリブチレンサクシネート系樹脂とを含む樹脂に、前記糸状菌を接触させる、請求項4に記載の分解方法。
【請求項7】
前記糸状菌と前記ポリブチレンサクシネート系樹脂とを、土壌中にて接触させる、請求項4に記載の分解方法。
【請求項8】
前記糸状菌と前記ポリブチレンサクシネート系樹脂とを、25℃以上35℃以下の範囲にある温度環境下で接触させる、請求項4に記載の分解方法。
【請求項9】
前記糸状菌と前記ポリブチレンサクシネート系樹脂とを、30℃以上40℃以下の範囲にある温度環境下で接触させる、請求項4に記載の分解方法。
【請求項10】
前記糸状菌と前記ポリブチレンサクシネート系樹脂とを、pHが6以上9以下の範囲にあるpH環境下で接触させる、請求項4に記載の分解方法。
【請求項11】
米澱粉を含む樹脂に、フザリウム(Fusarium)属に属する糸状菌を接触させ、当該樹脂を分解する、樹脂の分解方法。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−97578(P2007−97578A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−151944(P2006−151944)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【出願人】(000108524)ヘラマンタイトン株式会社 (57)
【Fターム(参考)】