説明

紅花種子抽出物の乾燥方法

【課題】紅花種子からの抽出物を乾燥する際に、発泡を抑制し、流動性の良い乾燥品粉末を提供すること。
【解決手段】セロトニン誘導体を含む紅花種子の抽出液を、−20℃以上、44℃未満の温度で1日〜30日静置し、該静置後の沈殿物を真空乾燥する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紅花種子の有機溶剤抽出物を粉末化するための製造方法およびそれによって得られる粉末物に関する。
【背景技術】
【0002】
紅花種子の有機溶剤抽出物中には強い抗酸化作用を示すセロトニン誘導体を多く含み、これらの化合物が動物における抗動脈硬化作用、血行動態改善作用の活性本体であることが知られている(特許文献1、特許文献2)
【0003】
一方、自然素材からの抽出物を摂取するための加工方法として、一般的に有機溶剤などによる抽出の後、精製や濃縮を経て、乾燥粉末化することや、この後さらに、カプセル、錠剤、顆粒など摂取しやすい形態に加工することが行われている。また自然素材からの抽出物ではないが、ローヤルゼリー製造の際に、不純物(残渣)を除くためにエタノール沈殿が行われていること、エタノール沈殿後の抽出残渣の活用も知られている(特許文献3)。
【0004】
抽出物などの液体の乾燥方法としては温風乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥等が考えられる。また、自然素材からの抽出液の濃縮率を高め、効率的に乾燥を行う方法として、高圧、高温で高圧縮CO2を溶剤として用い、得られた抽出物をアルカリ溶液中で懸濁後に分離した後、中和及び凝結を行い、分離した濃縮物を乾燥することを特徴とする、キサントフモール含有パウダーの製造方法が知られている(特許文献4)。しかし当該方法はキサントフモール含有パウダーを得るための方法であり、さらに高圧、高温、高圧縮CO2、pH調整など様々な工程が必要であるという課題があった。
【0005】
また、乾燥粉末をハードカプセルに充填もしくは打錠して錠剤にする際には、乾燥粉末の流動性が悪いと、重量にばらつきが出る、仕上がりが悪くなるなど加工性が悪いため流動性の良い乾燥粉末が求められている。
【0006】
しかしながら、温風乾燥では乾燥時間が長くなりすぎるという課題があり、噴霧乾燥品は流動性が悪いという課題があり、真空凍結乾燥はコストが高いという課題があった。また紅花種子などの紅花種子抽出物を真空乾燥すると、植物種子抽出液は非常に発泡しやすく、爆発的な発泡が起きやすいという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開番号WO2003/086437号公報
【特許文献2】国際公開番号WO2007/032551号公報
【特許文献3】特開2004−73002号公報
【特許文献4】特開2007−289185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、紅花種子からの抽出物を乾燥する際に、発泡を抑制し、流動性の良い乾燥品粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成した。具体的には、セロトニン誘導体を含む紅花種子の抽出液を、−20℃以上、44℃未満で1日〜30日静置し、該静置後の沈殿物を真空乾燥することにより発泡を防げることを見出した。さらに、こうして得られた粉末は他の乾燥方法によって得られるものよりも流動性が良いことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、紅花種子抽出液の乾燥の際に発泡が少なく、流動性の良い紅花種子抽出物粉末を得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の紅花種子抽出物の乾燥粉末の製造方法の実施形態の一例を以下に示す。紅花種子に有機溶媒として例えばエタノールを添加し、加熱しながら充分に攪拌し、紅花種子抽出液を得る。紅花種子抽出液を固液分離後、精製や濃縮を行う。
【0012】
本発明の紅花種子抽出物の乾燥粉末の製造方法は、紅花種子抽出液を乾燥粉末に加工する方法である。
【0013】
本発明において紅花種子とは、紅花の種子を構成する全体、あるいはその一部、例えば、種皮、胚乳、胚芽等を取り出したものでもよく、また、それらの混合物であってもよい。
【0014】
本発明において有機溶媒抽出で用いる溶媒として、例えば、低級アルコール(含水低級アルコールも含む)、アセトン(含水アセトンも含む)、アセトニトリル(含水アセトニトリルも含む)、及びそれらの混合溶媒等が挙げられるが、それらに限定されない。好ましくは、低級アルコールである。低級アルコールとして、例えば炭素数1〜4のアルコールが挙げられ、具体的には例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等が挙げられるが、これらに限定されない。低級アルコールは、食品製造の観点からは、エタノールが好ましい。紅花種子から本発明で用いる抽出液を高濃度で取得する点からは、エタノールは、エタノール分を30重量%以上含む含水エタノールあるいは無水エタノールが好ましい。
抽出後、濾過等により固形分を分離して得られた抽出液は、その状態でも本発明の組成物の原料として有用であるが、更に純度を上げても(精製しても)、濃度を上げても(濃縮しても)良い。
本発明で用いる抽出液(抽出後、精製もしくは濃縮した液も含む)は、有機溶媒中にセロトニン誘導体を含んだ固形分が溶解、懸濁もしくは沈殿している状態である。
【0015】
本発明においてセロトニン誘導体とは、植物種子のヒドロキシ桂皮酸のセロトニンアミドが好適なものとして例示され、例えば下記の式で表される化合物(I)が例示される。
【0016】
【化1】

(式中、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立に水素原子、または炭素数1〜3のアルキル基を表し、n、m、および1は0または1を表す)本明細書において、アルキル基は、炭素数1〜3のものを意味し、メチル、エチル、n−プロピル、i―プロピルが挙げられる。
ヒドロキシ桂皮酸としては、p−クマル酸、フェルラ酸、カフェ酸が好適なものとして挙げられ、そのセロトニンアミドとしては、p−クマロイルセロトニン(あるいはp−クマリルセロトニン)、フェルロイルセロトニン(あるいはフェルリルセロトニン)、カフェオイルセロトニンが例示される。
【0017】
本発明において固形分を沈殿させ、分離を行うには、分離前に低温にて一定期間以上静置することが好ましい。
静置温度は−20℃以上、44℃未満、好ましくは−5〜34℃で静置するのがよい。特に、−5〜5℃の冷蔵静置温度が好ましい。温度が高すぎると上澄へのセロトニン誘導体の溶解度が高い、また沈殿が軟らかいため固液分離が行いにくいなどの課題が生じる。またエタノール濃度によって凝固点は変化するが、液温が低すぎると凝固するため、固液分離が行えないなどの課題が生じる。
静置時間は長いほど固形分がはっきりし、沈殿が固くなることが判明した。本発明では、実施例により1日以上の静置で良いことが判明したが、好ましくは2日以上、さらに好ましくは4日以上、さらに好ましくは7日以上が適していることが判明した。また静置日数の上限はセロトニン誘導体の回収率という点では上限はないが、微生物制御の点から30日以内が望ましい。静置とは攪拌工程などが無いことをいい、激しい振動が無ければ通常の輸送なども含まれる。
【0018】
本発明において沈殿後の分離手段は特に限定はないが、抽出液の入った容器を傾けて上澄を取り除くことが操作上簡便である。
【0019】
本発明において乾燥方法は真空乾燥であることが重要である。一般にコストが安いために用いられる温風乾燥では乾燥時間が長くなり適切でなく、一般に粒系が均一となるため用いられる噴霧乾燥では乾燥粉末の流動性が悪く適切でないことが判明した。また凍結乾燥では一般にコストが高くなり、さらに真空乾燥と比べ乾燥粉末の流動性が悪いため適切でないことが判明した。本願発明は乾燥方法を真空乾燥とすることにより流動性の良い粉末を安く得ることができる点に特徴がある。
【0020】
以下、本発明について実施例でさらに説明するが、本発明の技術範囲はこれら実施例によって制限されるものではない。
【実施例】
【0021】
(実施例1:乾燥方法による乾燥粉末物性の違い)
紅花種子1320kgと50容量%のエタノール7800リットルから紅花種子抽出液を得た。抽出液を固液分離後、エタノール濃度が30容量%になるまで加熱濃縮後、精製し、100kg以下の重量となるまで減圧濃縮し、エタノール濃度約20%の紅花種子抽出液を得た。
上記、紅花種子抽出液を用い、以下の3方法で乾燥粉末品を比較した。
噴霧乾燥品の作成方法:
紅花種子抽出液10kgに99%エタノール3.3kgを添加し、エタノール濃度40重量%、固形分濃度10%に調整し、噴霧乾燥機((株)パウダリングジャパン製)を用い、ノズルNo.1.5、圧力3MPaの条件にて噴霧乾燥し、乾燥粉末を得た。
凍結乾燥品の作成方法:
紅花種子抽出液69kgを−30℃以下で凍結後、共和真空技術株式会社製の凍結乾燥機を用いて凍結乾燥した。乾燥品をパワーミル(ダルトン製)にて目開きφ3mmのスクリーンにて粉砕後、目開きφ1mmのスクリーンにて再度粉砕を行い、乾燥粉末を得た。
真空乾燥品の作成方法:
紅花種子抽出液163.9kgを、−5〜0℃で7日間静置後に上澄を取り除き、沈殿物を共和真空技術株式会社製の凍結乾燥機を用いて真空乾燥した。真空乾燥品をパワーミル(ダルトン製)にて目開きφ3mmのスクリーンにて粉砕後、目開きφ1mmのスクリーンにて再度粉砕を行い、乾燥粉末を得た。結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
嵩比重は粉体を自然落下させた状態の充填密度である。密比重は嵩比重を測定した状態から容器の底を卓上などに軽く打ちつける動作を反復することにより、脱気され、粒子が再配列し、より密に充填された、見掛密度である。圧縮率は嵩比重と密比重の比であり、以下の式で計算され、小さいほど粉体としての流動性は良好である。
(圧縮率)=(1−(嵩比重)÷(密比重))×100
安息角は、試料を自然落下させた状態で形成される粉体の山の角度で、小さいほど粉体としての流動性は良好である。圧縮率、安息角ともに小さい順に真空乾燥品、凍結乾燥品、噴霧乾燥品であることから、流動性は良好な順に真空乾燥品、凍結乾燥品、噴霧乾燥品であり同順に流動性が×:非常に悪い、△:悪い、○:良い、と評価した。
表1の結果から、真空乾燥品が最も良好な流動性をもっていることが判明した。
【0024】
(実施例2:沈殿形成時のエタノール濃度の検討)
紅花種子に含まれているセロトニン誘導体は水に難溶、一定のエタノール濃度には溶解性を示すため、沈殿側にセロトニン誘導体を得るために適切なエタノール濃度を検討した。
紅花種子1320kgと50容量%のエタノール7800リットルから紅花種子抽出液を得た。抽出液を固液分離後、エタノール濃度が30容量%になるまで加熱濃縮後、精製後し、100kg以下の重量となるまで減圧濃縮し、紅花種子抽出液を得た。この紅花種子抽出品を凍結乾燥し、紅花種子粉末を得た。
この紅花種子粉末とエタノールと水を混合し、エタノール濃度10、20、30、40、50重量%で重量112gの液に調整した。この液を0℃で7日静置後、容器を傾けて上澄を流しだし、上澄中のセロトニン誘導体濃度を求めた。
ここでセロトニン誘導体の量は、下記の化合物(II)で表されるセロトニン誘導体(p−クマコイルセロトニン(CS)およびフェルロイルセロトニン(FS))の総和をいう。
【0025】
【化2】

【0026】
【表2】

【0027】
表2の結果から、エタノール濃度が高くなるほど上澄中にセロトニン誘導体が溶けやすくなるため、沈殿側にセロトニン誘導体を多く得るという点では、上澄と沈殿を分離する前の液中のエタノール濃度が30%以下、さらに望ましくは20%以下であることが判明した。
【0028】
(実施例3:必要静置日数の検討)
溶液中に析出・懸濁しているセロトニン誘導体を充分に沈殿させ、上澄のみを容易に取り除けるような固さをもった沈殿を形成するには、一定期間以上の静置日数が必要である。静置日数を変更し、上澄中のセロトニン誘導体濃度を調べた。
紅花種子1320kgと50容量%のエタノール7800リットルから紅花種子抽出液を得た。抽出液を固液分離後、エタノール濃度が30容量%になるまで加熱濃縮後、精製し、100kg以下の重量となるまで減圧濃縮し、紅花種子抽出液を得た。
この紅花種子抽出液(エタノール濃度20重量%)10kgを−5〜5℃で2、4もしくは7日間静置後、上澄と沈殿を分離し、上澄中のセロトニン誘導体濃度を測定した。結果を表3に示す。
セロトニン誘導体の量は、下記の化合物(II)で表されるセロトニン誘導体(p−クマコイルセロトニン(CS)およびフェルロイルセロトニン(FS))の総和をいう。
【0029】
【化3】

【0030】
【表3】

【0031】
表3の結果から、静置日数を延ばすほど、上澄中のセロトニン誘導体濃度が下がり、沈殿側への回収率が高くなるため好ましいことが判明した。静置日数は2日でも上澄みに2.6mg/液gであり、沈殿物中に73%も含まれるため、1日以上の静置で良いことが判明したが、好ましくは2日以上、さらに好ましくは4日以上、さらに好ましくは7日以上が適していることが判明した。また静置日数の上限はセロトニン誘導体の回収率という点では上限はないが、微生物制御の点から30日以内が望ましい。
【0032】
(実施例4:静置温度の検討)
溶液中に析出・懸濁しているセロトニン誘導体を充分に沈殿させ、上澄のみを容易に取り除けるような固さをもった沈殿を形成するには、適切な温度での静置が必要である。静置温度を変更したテストを行い、上澄中のセロトニン誘導体濃度を調べた。
紅花種子1320kgと50容量%のエタノール7800リットルから紅花種子抽出液を得た。抽出液を固液分離後、エタノール濃度が30容量%になるまで加熱濃縮後、精製し、100kg以下の重量となるまで減圧濃縮し、紅花種子抽出液を得た。この紅花種子抽出品を凍結乾燥し、紅花種子粉末を得た。
この紅花種子粉末とエタノールと水を混合し、エタノール濃度17重量%の紅花種子抽出液模擬液112gを調整した。この模擬液を−20、−5、0、5、24、34、44℃で7日間静置後、上澄と沈殿を分離し、その際の上澄・沈殿の状態による分離のしやすさを観察したところ、下表のようであった。
【0033】
【表4】

【0034】
表4の結果から、いずれの温度でも、上澄・沈殿の分離は行えるが、好ましくは44℃未満、さらに好ましくは34℃以下が適していることが判明した。またー20℃以上、好ましくは−5℃以上が適していることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セロトニン誘導体を含む紅花種子の抽出液を、−20℃以上、44℃未満の温度で1日〜30日静置し、該静置後の沈殿物を真空乾燥することを特徴とする、紅花種子抽出物の乾燥品の製造方法
【請求項2】
有機溶媒とセロトニン誘導体を含む紅花種子の抽出液を混合した後、該混合液を−20℃以上、44℃未満の温度で1日〜30日静置し、該静置後の沈殿物を真空乾燥することを特徴とする、紅花種子抽出物の乾燥品の製造方法
【請求項3】
有機溶媒とセロトニン誘導体を含む紅花種子の抽出液のエタノール濃度が30%以下であることを特徴とする、請求項2記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−6342(P2011−6342A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150081(P2009−150081)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】