説明

紙及び板紙の製造

【課題】製紙方法に関して、水抜き、保持及び成形を更に改善し、高度に充填された紙の製造方法を提供すること。
【解決手段】セルロース懸濁液を形成することと、懸濁液を凝集させることと、懸濁液をスクリーン上で水抜きしてシートを形成することと、シートを乾燥させることとを含む、紙又は板紙を製造する方法であって、ケイ酸系物質及び750nm未満の非膨潤粒径を有する有機微粒子を含む凝集系を使用して懸濁液を凝集させることを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な凝集系を使用してセルロース紙料から紙及び板紙を製造する方法に関する。
【0002】
紙及び板紙の製造中、薄いセルロース紙料を移動するスクリーン(マシンワイヤと呼ぶことが多い)上で水抜きしてシートを形成したのち、このシートを乾燥させる。セルロース固形分の凝集を起こさせ、移動するスクリーン上での水抜きを高めるために水溶性ポリマーをセルロース懸濁液に加えることが周知である。
【0003】
紙の生産量を増すため、現代の製紙機は比較的高速で作動する。機械速度の増大の結果として、水抜きを増大させる水抜き・保持系に多大な重点が置かれるようになった。しかし、水抜きの直前に加えられるポリマー保持助剤の分子量を増すことは、水抜き速度を高めるが、成形を損なう傾向にあることが知られている。1種類のポリマー保持助剤を加えることによって保持、水抜き、乾燥及び成形の最適なバランスを得ることは困難であり、したがって、2種の別個の物質を順に加えることが一般的なやり方である。
【0004】
EP−A−235893は、せん断段階の前に水溶性の実質的に直鎖状のカチオン性ポリマーを紙料に加え、そのせん断段階の後でベントナイトを導入することによって再凝集させる方法を提供する。この方法は、高められた水抜きならびに良好な成形及び保持を提供する。Ciba Specialty ChemicalsによってHydrocol(登録商標)の下で市販化されているこの方法は、10年を超える間、成功を収めた。
【0005】
より最近には、1種以上の成分に小さな変更を加えることによってこのテーマに変更を加えようとする種々の試みがある。
【0006】
US−A−5393381号は、水溶性分岐鎖状カチオン性ポリアクリルアミド及びベントナイトをパルプの繊維懸濁液に加えることによって紙又は板紙を製造する方法を記載している。分岐鎖状カチオン性ポリアクリルアミドは、アクリルアミド、カチオン性モノマー、分岐剤及び連鎖移動剤の混合物を溶液重合によって重合させることによって調製される。
【0007】
US−A−5882525は、水を放出するため、約30%を超える溶解度を有するカチオン性分岐鎖状水溶性ポリマーを、固形分が懸濁した分散系、たとえば紙製造原料に加える方法を記載している。カチオン性分岐鎖状水溶性ポリマーは、すなわちアクリルアミド、カチオン性モノマー、分岐剤及び連鎖移動剤の混合物を重合させることにより、US−A−5393381と同様な成分から調製される。
【0008】
WO−A−9829604には、カチオン性ポリマー保持剤をセルロース懸濁液に加えて凝集塊を形成して、凝集塊を機械的に分解したのち、第二のアニオン性ポリマー保持剤の溶液を加えることによって懸濁液を再凝集させる製紙方法が記載されている。アニオン性ポリマー保持助剤は、0.005Hzで0.7を超える流動学的振動値を有するか、分岐剤を存在させずに製造された対応するポリマーの塩添加SLV粘度数の少なくとも3倍である脱イオンSLV粘度数を有することを特徴とする分岐鎖状ポリマーである。この方法は、従来技術の方法との比較によると、保持と成形との組み合わせで有意な改善を提供した。
【0009】
EP−A−308752は、低分子量カチオン性有機ポリマーを完成紙料に加えたのち、コロイドシリカ及び分子量が少なくとも500,000の高分子量帯電アクリルアミドコポリマーを加える製紙方法を記載している。高分子量ポリマーの記載は、それらが直鎖状ポリマーであることを示す。
【0010】
EP−A−462365は、架橋している場合には750nm未満、非架橋で、水不溶性の場合には60nm未満の非膨潤粒径を有し、少なくとも1%の、ただし架橋した、アニオン性の、唯一の保持添加物として使用される場合には少なくとも5%のアニオン性度を有するイオン性有機微粒子を水性紙完成紙料に加える製紙方法を記載している。この方法は、繊維保持の有意な増大ならびに水抜き及び成形の改善をもたらすといわれている。
【0011】
EP−484617は、架橋したアニオン性又は両性の有機ポリマー微粒子を含む組成物であって、前記微粒子が、0.75ミクロン未満の非膨潤数平均粒径、少なくとも1.1mPa・sの溶液粘度及びモノマー単位に基づいて4モルppmを超える架橋剤含量及び少なくとも5.0%のイオン度を有する組成物を記載している。ポリマーは、広い範囲の固液分離処理に有用であると記載され、具体的には、製紙の水抜き率を増すといわれている。
【0012】
しかし、水抜き、保持及び成形をさらに改善することによって製紙法をさらに強化する必要性がある。さらには、高度に充填された紙を製造するためのより効果的な凝集系を提供する必要性が存在する。
【0013】
本発明にしたがって、セルロース懸濁液を形成することと、懸濁液を凝集させることと、懸濁液をスクリーン上で水抜きしてシートを形成することと、シートを乾燥させることとを含む、紙又は板紙を製造する方法であって、ケイ酸系物質及び750nm未満の非膨潤粒径を有する有機微粒子を含む凝集系を使用して懸濁液を凝集させることを特徴とする方法が提供される。
【0014】
微粒子は、文献に記録されている適切な技術にしたがって調製することができる。微粒子は、水溶性エチレン性不飽和モノマーを含むモノマーブレンドから調製し、750nm未満の非膨潤粒径を有する微粒子を提供する適切な重合技術によって重合させることができる。モノマーブレンドはまた、架橋剤を含むことができる。一般に、架橋剤の量は、いかなる適切な量、たとえばモルベースで50,000ppmまでの量であってもよい。通常、架橋剤の量は1〜5,000ppmの範囲である。
【0015】
微粒子は、EP−A−484617の教示にしたがって調製することができる。望ましくは、微粒子は、少なくとも1.1mPa・sの溶液粘度及びモノマー単位に基づいて4モルppmを超える架橋剤含量を示す。好ましくは、微粒子は、少なくとも5.0%のイオン度を有する。より好ましくは、微粒子はアニオン性である。
【0016】
本発明の一つの形態で、微粒子は、EP−462365にしたがって調製されるマイクロビーズである。マイクロビーズは、架橋している場合には750nm未満の粒度を有し、非架橋で水不溶性の場合には60nm未満の粒度を有する。
【0017】
好ましくは、微粒子は、1.5重量%の水中ポリマー濃度に基づいて0.005Hzで0.7未満のtanデルタの流動学的振動値を示す。より好ましくは、tanデルタ値は0.5未満であり、通常は0.1〜0.3の範囲である。
【0018】
驚くことに、ケイ酸系物質及び有機ポリマー微粒子を含む凝集系を使用するセルロース懸濁液の凝集が、ポリマー微粒子を存在させずにポリマー微粒子のみ又はケイ酸系物質を使用する系との比較によると、保持、水抜き及び成形において改善を提供するということがわかった。
【0019】
ケイ酸系物質は、シリカベースの粒子、シリカミクロゲル、コロイドシリカ、シリカゾル、シリカゲル、ポリケイ酸塩、アルミノケイ酸塩、ポリアルミノケイ酸塩、ホウケイ酸塩、ポリホウケイ酸塩、ゼオライト又は膨潤性粘土からなる群より選択される物質のいずれであってもよい。
【0020】
ケイ酸系物質は、アニオン性粒子状物質の形態であってもよい。あるいはまた、ケイ酸系物質は、カチオン性シリカであってもよい。望ましくは、ケイ酸系物質は、シリカ及びポリケイ酸塩から選択することができる。シリカは、たとえば、たとえばWO−A−8600100に記載されているコロイドシリカであってもよい。ポリケイ酸塩は、US−A−4,388,150に記載のコロイドケイ酸であってもよい。
【0021】
本発明のポリケイ酸塩は、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液を酸性化することによって調製することができる。たとえば、活性シリカとしても知られるポリケイ酸ミクロゲルは、鉱酸又は酸性交換樹脂、酸性塩及び酸性ガスの使用によってアルカリ金属ケイ酸塩を約pH8〜9まで部分的に酸性化することによって調製することができる。充分な三次元ネットワーク構造を形成させるためには、形成したばかりのポリケイ酸を熟成させることが望ましいかもしれない。一般に、熟成の期間は、ポリケイ酸塩がゲル化するのには不十分である。特に好ましいケイ酸系物質は、ポリアルミノケイ酸塩を含む。ポリアルミノケイ酸塩は、たとえば、たとえばUS−A−5,176,891に記載されているように、まずポリケイ酸微粒子を形成し、次にアルミニウム塩で後処理することによって製造されるアルミネート化されたポリケイ酸であることができる。このようなポリアルミノケイ酸塩は、アルミニウムが優先的に表面に位置するケイ酸質の微粒子からなる。
【0022】
あるいはまた、ポリアルミノケイ酸塩は、たとえばUS−A−5,482,693に記載されているように、アルカリ金属ケイ酸塩を酸及び水溶性アルミニウム塩と反応させることによって形成される、表面積が1000m2/gを超える多粒子状ポリケイ酸ミクロゲルであってもよい。通常、ポリアルミノケイ酸塩は、1:10〜1:1500のアルミナ:シリカのモル比を有することができる。
【0023】
ポリアルミノケイ酸塩は、水溶性アルミニウム塩、たとえば硫酸アルミニウム1.5〜2.0重量%を含有する濃硫酸を使用してアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液をpH9又は10に酸性化することによって形成することができる。水溶液は、三次元ミクロゲルが形成するのに充分なほど熟成させることができる。通常、ポリアルミノケイ酸塩を約2.5時間まで熟成させたのち、水性ポリケイ酸塩をシリカ0.5重量%まで希釈する。
【0024】
ケイ酸系物質は、たとえばWO−A−9916708に記載されているコロイドホウケイ酸塩であってもよい。コロイドホウケイ酸塩は、アルカリ金属ケイ酸塩の希釈水溶液をカチオン性交換樹脂と接触させてケイ酸を生成したのち、アルカリ金属ホウ酸塩の希釈水溶液とアルカリ金属水酸化物とを混合してB23 0.01〜30%を含有するpH7〜10.5の水溶液を形成することによってヒールを形成することによって調製することができる。
【0025】
膨潤性粘土は、たとえば、典型的にはベントナイト型粘土であることができる。好ましい粘土は水中で膨潤性であり、天然の水膨潤性である粘土又はたとえばイオン交換によって改質して水膨潤性にすることができる粘土を含む。適切な水膨潤性粘土は、ヘクトライト、スメクトタイト、モンモリロナイト、ノントロナイト、サポナイト、ソーコナイト、ホルマイト、アタパルジャイト及びセピオライトと呼ばれることが多い粘土を含むが、これらに限定されない。典型的なアニオン膨潤粘土は、EP−A−235893及びEP−A−335575に記載されている。
【0026】
もっとも好ましくは、粘土はベントナイト型粘土である。ベントナイトは、アルカリ金属ベントナイトとして提供することができる。ベントナイトは、アルカリ性ベントナイト、たとえばナトリウムベントナイト又はアルカリ土類金属塩、通常はカルシウム塩もしくはマグネシウム塩として天然に産出する。一般に、アルカリ土類金属ベントナイトは、炭酸ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムによる処理によって活性化させる。活性化膨潤性ベントナイト粘土は、多くの場合、乾燥粉末として製紙工場に供給される。あるいはまた、たとえばEP−A−485124、WO−A−9733040及びWO−A−9733041に記載されているように、ベントナイトは、高固形分、たとえば少なくとも15又は20%固形分の流動性スラリーとして提供することもできる。
【0027】
微粒子は、カチオン性又はアニオン性モノマー及び架橋剤を含む水溶液、飽和炭化水素を含む油ならびに非膨潤数平均粒径が約0.75ミクロン未満の粒子を製造するのに充分な有効量の界面活性剤を使用する方法により、マイクロエマルションとして製造することができる。マイクロビーズはまた、Ying Huang et al., Makromol. Chem. 186, 273-281 (1985)によって記載されている手法によってミクロゲルとして製造することもできるし、ミクロラテックスとして購入することもできる。本明細書で使用する「微粒子」とは、これらの構造のすべて、すなわちビーズそのもの、ミクロゲル及びミクロラテックスを含むことを意図する。
【0028】
微粒子を得るためのエマルションの重合は、重合開始剤を加えることによって実施することもできるし、エマルションを紫外線に付すことによって実施することもできる。重合を制御するためには、有効量の連鎖移動剤をエマルションの水溶液に加えることができる。驚くことに、架橋した有機ポリマー微粒子は、その粒度が直径約750nm未満、好ましくは直径約300nm未満であるとき、保持及び水抜き助剤と同じほど高い効率を有し、非架橋有機水不溶性ポリマー微粒子は、その粒度が約60nm未満であるとき、高い効率を有するということがわかった。非架橋微粒子よりも大きな粒度の架橋微粒子の効率は、主架橋ポリマーから突き出る小さなストランド又はテールのせいであるかもしれない。
【0029】
本明細書で使用するカチオン性微粒子は、モノマー、たとえばジアリルジアルキルアンモニウムハライド;アクリルオキシアルキルトリメチルアンモニウムクロリド;ジアルキルアミノアルキル化合物の(メタ)アクリレート、それらの塩及び第四級体ならびにN,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、それらの塩及び第四級体のモノマー、たとえばN,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド;(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド及びN,N−ジメチルアミノエチルアクリレートの酸又は第四級塩などを重合させることによって製造されるものを含む。本明細書で使用することができるカチオン性モノマーは、以下の一般式
【0030】
【化1】

【0031】
(式中、R1は、水素又はメチルであり、R2は、水素又はC1〜C4の低級アルキルであり、R3及び/又はR4は、水素、C1〜C12のアルキル、アリール又はヒドロキシエチルであり、R2とR3又はR2とR4とが合わさって、一以上のヘテロ原子を含む環を形成することができ、Zは、酸の共役塩であり、Xは、酸素又は−NR1(R1は上記のとおりである)であり、Aは、C1〜C12のアルキレン基である);或いは
【0032】
【化2】

【0033】
(式中、R5及びR6は、水素又はメチルであり、R7は、水素又はC1〜C12のアルキルであり、R8は、水素、C1〜C12のアルキル、ベンジル又はヒドロキシエチルであり、Zは、上記のとおりである)
のモノマーである。
【0034】
本明細書で有用であるアニオン性微粒子は、アクリルアミドポリマー微粒子などを加水分解することによって製造されるものであり、たとえば(メチル)アクリル酸及びその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホネート、スルホエチル−(メタ)アクリレート、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、マレイン酸もしくは他の二塩基酸又はそれらの塩もしくは混合物のようなモノマーを重合させることによって製造されるものである。
【0035】
上記アニオン性及びカチオン性モノマー又はそれらの混合物とのコポリマーとして微粒子を製造するのに適した非イオン性モノマーは、(メタ)アクリルアミド;N−アルキルアクリルアミド、たとえばN−メチルアクリルアミド;N,N−ジアルキルアクリルアミド、たとえばN,N−ジメチルアクリルアミド;メチルアクリレート;メチルメタクリレート;アクリロニトリル、N−ビニルメチルアセトアミド;N−ビニルメチルホルムアミド;酢酸ビニル;N−ビニルピロリドン、前記いずれかの混合物などを含む。
【0036】
これらのエチレン性不飽和非イオン性モノマーを上述したように共重合させると、カチオン性、アニオン性又は両性コポリマーを製造することができる。好ましくは、アクリルアミドは、イオン性及び/又はカチオン性モノマーとで共重合させる。微粒子を製造するのに有用なカチオン性又はアニオン性コポリマーは、アニオン性又はカチオン性及び非イオン性モノマーの全重量に基づいて、非イオンモノマー約0〜約99重量部及びカチオン性又はアニオン性モノマー約100〜約1重量部、好ましくは、同じ基準で、非イオン性モノマー約10〜約90重量部、及びカチオン性又はアニオン性モノマー約10〜約90重量部を含む。すなわち、微粒子中の全イオン電荷は約1%よりも大きくなければならない。混合物の全イオン電荷が約1%を超えるならば、ポリマー微粒子の混合物を使用することもできる。もっとも好ましくは、微粒子は、非イオン性モノマー約20〜約80重量部、及び同じ基準でカチオン性又はアニオン性モノマー又はそれらの混合物約80〜約20重量部を含む。多官能性架橋剤の存在でモノマーの重合が起こり架橋微粒子を形成する。有用な多官能性架橋剤は、少なくとも2個の二重結合、二重結合と反応性基又は2個の反応性基のいずれかを有する化合物を含む。少なくとも2個の二重結合を含む化合物の代表的なものは、N,N−メチレンビスアクリルアミド;N,N−メチレンビスメタクリルアミド;ポリエチレングリコールジアクリレート;ポリエチレングリコールジメタクリレート;N−ビニルアクリルアミド;ジビニルベンゼン;トリアリルアンモニウム塩、N−メチルアリルアクリルアミドなどである。少なくとも1個の二重結合及び少なくとも1個の反応性基を含む多官能性分岐剤は、グリシジルアクリレート;グリシジルメタクリレート;アクロイン;メチロールアクリルアミドなどを含む。少なくとも2個の反応性基を含む多官能性分岐剤は、ジアルデヒド、たとえばグリオキサール;ジエポキシ化合物;エピクロロヒドリンなどを含む。
【0037】
架橋剤は、架橋した組成物を保証するのに充分な量で使用しなければならない。好ましくは、充分な架橋を誘発するためには、ポリマー中に存在するモノマー単位に基づいて少なくとも約4モルppmの架橋剤が使用され、特に好ましいものは、約4〜約6000モルppm、好ましくは約20〜4000の架橋剤含量である。より好ましくは、使用される架橋剤の量は、60又は70モルppmを超える。特に好ましい量は、100または150ppmを超え、特に200〜1000ppmの範囲である。もっとも好ましくは、架橋剤の量は、350〜750ppmの範囲である。
【0038】
本発明のポリマー微粒子は、好ましくは、出願EP−484617に開示されてるように、エマルション中でのモノマーの重合によって調製される。当業者には公知であるように、ミクロエマルション及び逆エマルション中での重合を使用することもできる。P. Speiserは、1976及び1977年に、(1)モノマー、たとえばアクリルアミド及びメチレンビスアクリルアミドをミセル中に可溶化し、(2)モノマーを重合させることにより、直径800オングストローム未満の球形「ナノ粒子」を製造する方法を報告した。J. Pharm. Sa., 65 (12), 1763 (1976)及び米国特許第4,021,364号を参照。逆油中水滴型及び水中油滴型ナノ粒子がこの方法によって調製されている。著者によって特にミクロエマルション重合とは呼ばれていないが、この方法は、ミクロエマルション重合を定義するために現在使用されているすべての特徴を含む。これらの報告はまた、ミクロエマルション中でのアクリルアミドの重合の最初の例を構成する。それ以来、ミクロエマルションの油相中の疎水性モノマーの重合を報告する多数の出版物が出ている。たとえば、米国特許第4,521,317号及び第4,681,912号、Stoffer and Bone, J. Dispersion Sci. and Tech., 1 (1), 37, 1980及びAtik and Thomas, J. Am. Chem. Soc., 103 (14), 4279 (1981)及びGB2161492Aを参照すること。
【0039】
カチオン性及び/又はアニオン性エマルション重合法は、(i)適切な界面活性剤又は界面活性剤混合物を含有する炭化水素液にモノマーの水溶液を添加して、重合すると、連続油相中に分散した粒度0.75ミクロン未満のポリマー粒子を生じさせる小さな水滴からなる逆モノマーエマルションを形成することによってモノマーエマルションを調製し、(ii)そのモノマーマイクロエマルションをラジカル重合に付すことによって実施される。
【0040】
水相は、上記で論じたように、カチオン性及び/又はアニオン性モノマーならびに場合によっては非イオンモノマー及び架橋剤の水性混合物を含む。水性モノマー混合物はまた、所望の従来の添加物を含むことができる。たとえば、混合物は、重合防止剤、pH調節剤、開始剤及び他の従来の添加物を除去するためのキレート化剤を含むことができる。
【0041】
互いに不溶性である2種の液体及び界面活性剤を含む、ミセルが直径0.75ミクロン未満である、膨潤した透明で熱力学的に安定なエマルションと定義することができるエマルションの形成に不可欠であるのは、適切な有機相及び界面活性剤の選択である。
【0042】
有機相の選択は、逆エマルションを得るために必要な最低限の界面活性剤濃度に対して実質的な影響を及ぼす。有機相は、炭化水素又は炭化水素混合物を含むことができる。廉価な製剤を得るためには、飽和炭化水素又はその混合物がもっとも適当である。通常、有機相は、ベンゼン、トルエン、燃料油、灯油、無臭ミネラルスピリッツ又は前記いずれかの混合物を含む。
【0043】
水相の量と炭化水素相の量との重量比は、重合後に高ポリマー含量のエマルションを得るため、できるだけ高く選択される。実際には、この比は、たとえば約0.5〜約3:1の範囲であることができ、普通は約1:1に近い。
【0044】
約8〜約11の範囲のHLB(親水親油バランス)値を得るため、一以上の界面活性剤を選択することができる。適切なHLB値に加えて、界面活性剤の濃度も最適化されるべきであり、すなわち、逆エマルションを形成するのに十分でなければならない。界面活性剤の低すぎる濃度は従来技術の逆エマルションに通じ、高すぎる濃度は不相応な費用をこうむらせる。上記で具体的に論じたものに加えて有用である典型的な界面活性剤は、アニオン性、カチオン性又は非イオン性であり、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレエート、ソルビタントリオレエート、ナトリウムジ−2−エチルヘキシルスルホスクシネート、オレアミドプロピルジメチルアミン、ナトリウムイソステアリル−2−ラクテートなどから選択することができる。エマルションの重合は、当業者に公知のいかなる方法で実施してもよい。開始は、アゾ化合物、たとえばアゾビスイソブチロニトリル;過酸化物、たとえばtert−ブチルペルオキシド;無機化合物、たとえば過硫酸カリウム、及び酸化還元カップル、たとえばアンモニウム硫酸第一鉄/過硫酸アンモニウムを含む多様な熱及び酸化還元ラジカル開始剤によって起こすことができる。重合はまた、光化学的照射法、照射又はCo60源でのイオン化放射線によって実施することができる。エマルションからの水性生成物の調製は、ブレーカ界面活性剤を含有することができる水にそれを加えることによる逆転により、実施することができる。場合によっては、ポリマーは、ストリッピングによって又はポリマーを沈殿させる溶媒、たとえばイソプロパノールにエマルションを加え、得られる固形分をろ別し、乾燥させ、水に再分散させることによって、エマルションから回収することができる。
【0045】
本発明に使用される高分子量イオン合成ポリマーは、好ましくは、100,000を超える分子量、好ましくは約250,000〜25,000,000の分子量を有する。そのアニオン性度及び/又はカチオン性度は、1モル%〜100モル%までの範囲であることができる。イオン性ポリマーはまた、イオン性ビーズに関して上記で論じたイオン性モノマーのいずれかのホモポリマー又はコポリマーを含むことができ、アクリルアミドコポリマーが好ましい。
【0046】
0.005Hzでのtanデルタ値は、2時間タンブルした後のポリマーの1.5重量%脱イオン水溶液に対して応力制御式レオメータを振動モードで使用して得られる。この作業の過程で、6cmのアクリル樹脂円錐体を装着したCarrimed CSR 100を1゜58′円錐角及び58μmの打切り値で使用する(製品参照番号5664)。約2〜3ccのサンプル量を使用する。温度は、ペルチェプレートを使用して20.0℃±0.1℃に制御される。5×10-4ラジアンの角変位を0.005Hz〜1Hzにわたる対数ベースでの12段の周波数掃引の範囲で使用する。G′及びG″計測値を記録し、tanデルタ(G″/G′)値を計算するのに使用する。tanデルタ値とは、系内での貯蔵(弾性)弾性率G′に対する損失(粘性)弾性率G″の比である。
【0047】
低い周波数(0.005Hz)では、サンプル変形の速度は、直鎖状又は分岐鎖状の絡み合った鎖を絡みを解かせるのには充分に遅いと考えられる。ネットワーク又は架橋した系は、永久的な鎖の絡みを有し、広い範囲の周波数にかけて低いtanデルタ値を示す。したがって、低い周波数(たとえば0.005Hz)計測値は、水性環境でのポリマーの性質を特徴づけるために使用される。
【0048】
本発明によると、凝集系の成分は、混合物と組み合わせ、一つの組成物としてセルロース懸濁液に導入することもできる。あるいはまた、ポリマー微粒子とケイ酸系物質とを別々に、ただし同時に、導入してもよい。しかし、好ましくは、ケイ酸系物質とポリマー微粒子とは順に導入され、より好ましくは、ケイ酸系物質を懸濁液に導入したのちポリマー微粒子を導入する。
【0049】
本発明の好ましい形態で、方法は、ポリマー微粒子及びケイ酸系物質を加える前にさらなる凝集剤をセルロース懸濁液に含めることを含む。さらなる凝集剤は、アニオン性、非イオン性又はカチオン性であることができる。たとえば、合成又は天然のポリマーであってもよく、水溶性の実質的に直鎖状又は分岐鎖状のポリマーであってもよい。あるいはまた、第一の凝集剤は、架橋ポリマー又は架橋ポリマーと水溶性ポリマーとのブレンドである。本発明の好ましい形態では、ポリマー微粒子及びケイ酸系物質を、カチオン性物質で前処理してあるセルロース懸濁液に加える。カチオン性前処理は、ポリマー微粒子及びケイ酸系物質の添加前のいずれかの点でカチオン性物質を懸濁液に組み込むことによる前処理であってもよい。
【0050】
したがって、カチオン性処理は、ポリマー微粒子及びケイ酸系物質を加える直前であってもよいが、好ましくは、カチオン性物質は、セルロース懸濁液中に分散するよう、ポリマー微粒子又はケイ酸系物質の添加よりも十分に早いうちに懸濁液に導入する。混合段階、スクリーニング段階又は清浄段階のいずれかの前及び場合によっては原料懸濁液を希釈する前にカチオン性物質を加えることが望ましいかもしれない。カチオン性物質を混合容器もしくはブレンド容器又はセルロース懸濁液、たとえばコーティングされた損紙又はフィラー懸濁液の成分の一以上、たとえば沈降炭酸カルシウムスラリーに加えることが有利でさえあるかもしれない。
【0051】
カチオン性物質は、いかなる数のカチオン性種、たとえば水溶性のカチオン性有機ポリマー又は無機物質、たとえばみょうばん、ポリアルミニウム塩化物、塩化アルミニウム三水和物及びアルミノクロロ水和物であってもよい。水溶性のカチオン性有機ポリマーは、天然ポリマー、たとえばカチオン性デンプンであってもよいし、合成カチオン性ポリマーであってもよい。特に好ましいものは、セルロース懸濁液中のセルロース繊維及び他の成分を凝固又は凝集させるカチオン性物質である。さらなる凝集剤は水溶性のカチオン性有機ポリマー又は無機物質、たとえばみょうばん、ポリアルミニウム塩化物、塩化アルミニウム三水和物及びアルミノクロロ水和物であってもよい。
【0052】
本発明のもう一つの好ましい態様によると、凝集系は、少なくとも3種の凝集剤成分を含む。たとえば、この好ましい系は、ポリマー微粒子、ケイ酸系物質及び少なくとも1種のさらなる凝集/凝固剤を使用する。
【0053】
さらなる凝集/凝固剤成分は、好ましくは、ケイ酸系物質又はポリマー微粒子のいずれかの前に加える。通常、さらなる凝集剤は、天然もしくは合成のポリマー又はセルロース懸濁液の繊維及び他の成分の凝集/凝固を起こすことができる他の物質である。さらなる凝集/凝固剤は、カチオン性、非イオン性、アニオン性又は両性の天然又は合成ポリマーであることができる。天然ポリマー、たとえば天然デンプン、カチオン性デンプン、アニオン性デンプン又は両性デンプンであることができる。あるいはまた、イオン特性を示すことが好ましい水溶性合成ポリマーであってもよい。好ましいイオン性の水溶性ポリマーは、カチオン性又は潜在的にカチオン性の官能基を有する。たとえば、カチオン性ポリマーは、遊離アミン基をプロトン化するのに充分な低さのpHのセルロース懸濁液にひとたび導入されるとカチオン性になる遊離アミン基を含むことができる。しかし、好ましくは、カチオン性ポリマーは、永久的なカチオン性電荷、たとえば第四級アンモニウム基を有する。
【0054】
上記カチオン性前処理工程に加えてさらなる凝集/凝固剤を使用してもよい。特に好ましい系では、カチオン性前処理はまた、さらなる凝集/凝固剤である。したがって、この好ましい方法は、セルロース懸濁液をカチオン性的に前処理するため、カチオン性凝集/凝固剤をセルロース懸濁液又はその懸濁成分の一以上に加えることを含む。その後、懸濁液を、ポリマー微粒子及びケイ酸系物質の添加を含むさらなる凝集段階に付す。
【0055】
カチオン性凝集/凝固剤は、望ましくは、たとえば比較的高いカチオン性度をもつ比較的低分子量のポリマーであることができる水溶性ポリマーである。たとえば、ポリマーは、重合させると3dl/gまでの固有粘度を有するポリマーを提供する適切なエチレン性不飽和カチオン性モノマーのホモポリマーであってもよい。ジアリルジメチルアンモニウムクロリドのホモポリマーが好ましい。低分子量の高カチオン性度ポリマーは、アミンと他の適切な二又は三官能性種との縮合によって形成される付加ポリマーであってもよい。たとえば、ポリマーは、ジメチルアミン、トリメチルアミン及びエチレンジアミンなどから選択される一以上のアミンとエピハロヒドリン、好ましくはエピクロロヒドリンとを反応させることによって形成することができる。好ましくは、カチオン性凝集/凝固剤は、水溶性のエチレン性不飽和なカチオン性モノマー又はモノマーの少なくとも1種がカチオン性又は潜在的にカチオン性であるモノマーのブレンドから形成されたポリマーである。「水溶性」とは、モノマーが少なくとも5g/100ccの溶解度を有することをいう。カチオン性モノマーは、好ましくは、ジアリルジアルキルアンモニウムクロリド、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート又はジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの酸付加塩又は第四級アンモニウム塩から選択される。カチオン性モノマーは、単独で重合させることもできるし、水溶性の非イオン性、カチオン性又はアニオン性モノマーとで共重合させることもできる。より好ましくは、このようなポリマーは、少なくとも3dl/g、たとえば16又は18dl/g、ただし通常は7又は8〜14又は15dl/gの範囲の固有粘度を有する。
【0056】
特に好ましいカチオン性ポリマーは、ジメチルアミノエチルアクリレート又はメタクリレートの塩化メチル第四級アンモニウム塩のコポリマーを含む。水溶性カチオン性ポリマーは、たとえば、従来の米国特許出願第60/164,231号に基づく同時係属出願(参照番号PP/W−21916/P1/AC526)で規定されているように、0.005Hzで1.1を超えるtanデルタの流動学的振動値(以下に示す方法によって決定する)を有するポリマーであってもよい。
【0057】
水溶性カチオン性ポリマーはまた、たとえば少量の分岐剤をたとえば20重量ppmまで配合することにより、わずかに分岐した構造を有することもできる。このような分岐鎖状ポリマーはまた、連鎖移動剤をモノマーミックスに含めることによって調製することができる。連鎖移動剤は、少なくとも2重量ppmの量で含めることができ、200重量ppmまでの量で含めてもよい。通常、連鎖移動剤の量は、10〜50重量ppmの範囲である。連鎖移動剤は、適切な化学物質、たとえば次亜リン酸ナトリウム、2−メルカプトエタノール、リンゴ酸又はチオグリコール酸であることができる。
【0058】
凝集系がカチオン性ポリマーを含むとき、それは一般に、凝集を起こさせるのに充分な量で加えられる。通常、カチオン性ポリマーの用量は、懸濁液の乾燥重量に基づいて20重量ppmを超えるであろう。好ましくは、カチオン性ポリマーは、少なくとも50重量ppm、たとえば100〜2000重量ppmの量で加えられる。通常、ポリマー用量は、150〜600重量ppm、特に200〜400ppmであることができる。
【0059】
通常、ポリマー微粒子の量は、乾燥懸濁液の重量に基づいて少なくとも20重量ppmであることができるが、好ましくは、少なくとも50重量ppm、特に100〜2000重量ppmである。150〜600重量ppmの用量、特に200〜400重量ppmがより好ましい。ケイ酸系物質は、懸濁液の乾燥重量に基づいて少なくとも100重量ppmの用量で加えることができる。望ましくは、ケイ酸系物質の用量は、500又は700重量ppm〜10,000重量ppmの範囲であることができる。ケイ酸系物質1000〜2000重量ppmの用量が非常に効果的であることがわかった。
【0060】
本発明の一つの好ましい形態で、凝集系の成分の少なくとも一つの添加ののち、セルロース懸濁液を機械的せん断に付す。したがって、この好ましい形態では、凝集系の少なくとも一つの成分をセルロース懸濁液に混入して凝集を生じさせたのち、凝集した懸濁液を機械的にせん断する。せん断工程は、凝集した懸濁液を、ポンピング段階、清浄段階又は混合段階から選択される一以上のせん断段階に通すことによって達成することができる。たとえば、このようなせん断段階は、ファンポンプ及びセントリスクリーンを含むが、プロセス中の、懸濁液のせん断が起こる他いずれかの段階であってもよい。
【0061】
機械的せん断工程は、望ましくは、凝集した懸濁液に対し、凝集塊を分解するような方法で作用する。せん断段階の前に凝集系の成分すべてを加えてもよいが、好ましくは、凝集系の少なくとも最後の成分を、水抜きの前の実質的にせん断がないプロセス中のポイントでセルロース懸濁液に加えてシートを形成する。したがって、凝集系の少なくとも一つの成分をセルロース懸濁液に加えたのち、凝集した懸濁液を、凝集塊が機械的に分解される機械的せん断に付し、次いで、水抜きの前に凝集系の少なくとも一つの成分を加えて懸濁液を再凝集させることが好ましい。
【0062】
本発明のより好ましい形態によると、水溶性のカチオン性ポリマーをセルロース懸濁液に加えたのち、その懸濁液を機械的にせん断する。その後、ケイ酸系物質及びポリマー微粒子を懸濁液に加える。ポリマー微粒子及びケイ酸系物質は、プレミックス組成物として加えることもできるし、別々に、ただし同時に加えることもできるが、好ましくは順に加える。したがって、懸濁液は、ポリマー微粒子、次いでケイ酸系物質の添加によって再凝集させることができるが、好ましくは、ケイ酸系物質を加えたのちポリマー微粒子を加えることによって再凝集させる。
【0063】
凝集系の第一の成分は、セルロース懸濁液に加えることができ、次いで、凝集した懸濁液を一以上のせん断段階に通すことができる。凝集系の第二の成分は、懸濁液を再凝集させるために加えることができ、次いで、再凝集させた懸濁液をさらなる機械的せん断に付すことができる。凝集系の第三の成分の添加により、せん断した再凝集懸濁液をさらに凝集させてもよい。凝集系の成分の添加をせん断段階によって分ける場合、ポリマー微粒子成分が最後に加えられる成分であることが好ましい。
【0064】
本発明のもう一つの形態では、懸濁液は、凝集系の成分のいずれかをセルロース懸濁液に加えたのち、いかなる実質的なせん断に付さなくてもよい。ケイ酸系物質、ポリマー微粒子及び含まれる場合には水溶性のカチオン性ポリマーは、水抜きの前の最後のせん断段階ののち、すべてセルロース懸濁液に導入することができる。発明のこの形態では、ポリマー微粒子が最初の成分であり、次いでカチオン性ポリマー(含まれるならば)、そしてケイ酸系物質であることができる。しかし、他の添加順序を使用することもできる。
【0065】
本発明のさらなる好ましい形態で、カチオン性物質を完成紙料又はその成分に導入し、処理した完成紙料を、混合段階、清浄段階及びスクリーニング段階から選択される少なくとも一つのせん断段階に通したのち、アニオン性ポリマー微粒子及びケイ酸系物質を含む凝集系によって凝集させる、紙又は板紙を製造する方法を提供する。先に記したように、アニオン性ポリマー微粒子及びケイ酸系物質は、同時に加えることもできるし、順に加えることもできる。順に加える場合、添加する時点間にせん断段階を設けてもよい。
【0066】
特に好ましい方法は、ケイ酸系物質及び有機微粒子を含む全凝集系の主成分として有機微粒子を使用する。したがって、有機微粒子は、この場合、全凝集系の50%を超える、好ましくは55%を超えるべきである。本発明のこの形態では、有機微粒子とケイ酸系物質との比が、物質の重量に基づいて55:45〜99:1の範囲であることが非常に望ましい。好ましくは、有機微粒子とケイ酸系物質との比は、60:40〜90:10、より好ましくは65:35〜80:20の範囲であり、特に約75:25である。
【0067】
本発明の一つの好ましい形態で、フィラーを含むセルロース紙料懸濁液から紙を調製する方法を提供する。フィラーは、従来から使用されているフィラーのいずれであってもよい。たとえば、フィラーは、粘土、たとえばカオリンであってもよいし、微粉化炭酸カルシウム又は特に沈降炭酸カルシウムであることができる炭酸カルシウムであってもよく、あるいは、二酸化チタンをフィラーとして使用することが好ましいかもしれない。また、他のフィラーの例は合成ポリマーフィラーを含む。一般に、実質的な量のフィラーを含むセルロース紙料は、比較的凝集させにくい。これは、非常に細かい粒度のフィラー、たとえば沈降炭酸カルシウムの場合に特に当てはまる。
【0068】
したがって、本発明の好ましい態様にしたがって、充填された紙を製造する方法を提供する。製紙紙料は、いかなる適量のフィラーをも含むことができる。一般に、セルロース懸濁液は、少なくとも5重量%のフィラーを含む。通常、フィラーの量は、40%までであり、好ましくは10%〜40%である。したがって、本発明のこの好ましい態様にしたがって、まず、フィラーを含むセルロース懸濁液を提供し、本明細書で定義するケイ酸系物質及びポリマー微粒子を含む凝集系を懸濁液に導入することによって懸濁固形分を凝集させる、充填された紙又は厚紙を製造する方法を提供する。
【0069】
本発明の代替形態では、実質的にフィラーを含まないセルロース紙料懸濁液から紙又は板紙を調製する方法を提供する。
【0070】
本発明の例示として、沈降炭酸カルシウム40重量%(全固形分に対して)を含有する50/50漂白カバノキ/漂白マツ懸濁液を含有するセルロース紙料を調製する。紙料懸濁液を55゜のろ水度まで叩解(Schopper Riegler法)したのち、フィラーを添加する。1トンあたり5kg(全固形分に対して)のカチオン性デンプン(0.45DS)を懸濁液に加える。
【0071】
1トンあたり500gの、アクリルアミドとジメチルアミノエチルアクリレートの塩化メチル第四級アンモニウム塩と(75/25重量/重量)の、固有粘度が11.0dl/gを超えるコポリマーを紙料と混合し、攪拌機を使用して紙料をせん断したのち、1トンあたり250gの、本明細書で記したようにマイクロエマルション重合によって調製される、アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムと(65/35重量/重量)の、メチレンビスアクリルアミド700重量ppmを含むアニオン性コポリマーを含むポリマー微粒子を紙料に混入する。せん断後、ただしポリマー微粒子の添加の直前に、1トンあたり2000gの水性コロイドシリカを加える。
【0072】
同等な水抜き及び/又は保持を提供する用量に関して、微粒子とシリカとを組み合わせると、微粒子又はシリカを別々に使用する場合よりも改善された成形が得られるということを我々は見出した。
【0073】
以下の例が、本発明をいかなるふうにも限定することを意図せずに本発明をさらに説明する。
【0074】
例1
漂白カバノキ及び漂白マツの同量ミックスを含む繊維含量を含み、沈降炭酸カルシウム(Albacar HO、Specialty Minerals社)40重量%(乾燥繊維に基づくPPC)を含有するモデル粉体紙料を調製した。この紙料を1%紙料濃度で使用した。
【0075】
以下の添加物を評価に使用した。
【0076】
カチオン性ポリマー=0.1%溶液として構成された、アクリルアミドとジメチルアミンエチルアクリレート・塩化メチル第四級アンモニウム塩と(60/40重量/重量)の高分子量コポリマー
【0077】
有機微粒子=本明細書で記したようにマイクロエマルション重合によって調製されたのち、水中で0.1%ポリマー濃度に構成された、アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムと(65/35)(重量/重量)の、メチレンビスアクリルアミド300重量ppmを含むアニオン性コポリマー
【0078】
ベントナイト=市販のベントナイト粘土−脱イオン水を使用して固形分0.1重量%の水性懸濁液として構成
【0079】
500mlのメスシリンダ中、紙料懸濁液500mlに添加物を規定用量で加えることによって単一成分系を評価し、手で5回転倒させることによって混合したのち、攪拌機を1000rpmにセットした状態でDDJに移した。5秒後に注ぎ口を開け、さらに15秒後に閉じた。試験ごとにろ液250mlを収集した。
【0080】
メスシリンダ中、カチオン性ポリマーを1トンあたり250gの用量で紙料に加え、手で5回転倒させることによって混合することによって二成分系を評価した。次に、凝集した紙料をせん断ポットに移し、Heidolph攪拌機を1500rpmの速度で使用して30秒間混合した。そして、せん断した紙料をメスシリンダに戻したのち、所要量のカチオン性成分を計量供給した。再凝集した懸濁液を、攪拌機を1000rpmにセットした状態でDDJに移し、上記した同じ方法でろ液を収集した。
【0081】
ベントナイト添加の直後に有機微粒子を加えたのち、手で転倒させることによって混合したことを除いて、二成分系と同じ方法で三成分系を評価した。
【0082】
また、ブランク(薬品添加なし)保持値を測定した。ブランク保持の場合、攪拌機を1000rpmにセットした状態で紙料をDDJに加え、上記のようにろ液を収集した。
【0083】
保持調査の方法で記載したものと同じ凝集系を使用して、Schopper-Riegler自由水抜き調査を実施した。
【0084】
第一パス保持
示すすべての保持値は%値である。
【0085】
ブランク保持は65.1%であった。
【0086】
単一添加試験
【0087】
【表1】

【0088】
二成分
250g/tで使用したカチオン性ポリマー
【0089】
【表2】

【0090】
三成分系
250g/tで使用したカチオン性ポリマー
500g/tで使用したベントナイト
【0091】
【表3】

【0092】
表3の結果は、ケイ酸系物質及び有機微粒子の両方を使用する利点を示す。
【0093】
フィラー保持
示すすべての保持値は%値である。
【0094】
ブランクフィラー保持は31.3%であった。
【0095】
単一添加試験
【0096】
【表4】

【0097】
二成分
250g/tで使用したカチオン性ポリマー
【0098】
【表5】

【0099】
三成分系
250g/tで使用したカチオン性ポリマー
500g/tで使用したベントナイト
【0100】
【表6】

【0101】
表6の結果は、ケイ酸系物質及び有機微粒子の両方を使用するフィラー保持に関する利点を示す。
【0102】
自由水抜き
ろ液600mlを収集する場合の自由水抜き結果を秒単位で計測した。ブランク自由水抜きは104秒であった。
【0103】
単一添加試験
【0104】
【表7】

【0105】
二成分
250g/tで使用したカチオン性ポリマー
【0106】
【表8】

【0107】
三成分系
250g/tで使用したカチオン性ポリマー
500g/tで使用したベントナイト
【0108】
【表9】

【0109】
表9の結果は、ケイ酸系物質及び有機微粒子の両方を使用する利点を示す。
【0110】
例2
メチレン−ビス−アクリルアミド1000重量ppmを使用して調製した有機微粒子を使用したことを除き、例1の第一パス保持試験を繰り返した。
【0111】
第一パス保持
示すすべての保持値は%値である。
【0112】
ブランク保持は82.6%であった。
【0113】
単一添加試験
【0114】
【表10】

【0115】
二成分
500g/tで使用したカチオン性ポリマー
【0116】
【表11】

【0117】
三成分系
500g/tで使用したカチオン性ポリマー
500g/tで使用したベントナイト
【0118】
【表12】

【0119】
表12の結果は、ケイ酸系物質及び有機微粒子の両方を使用する利点を示す。
【0120】
例3
硬木繊維50%及び軟木繊維50%で、乾燥繊維に基づいて沈降炭酸カルシウム(PCC)30%を含有する実験室ヘッドボックス紙料を稠度0.64%まで調製した。
【0121】
使用した添加物は、ベントナイトの代わりに市販のポリアルミノケイ酸塩ミクロゲル(Particol BX(登録商標))を使用したことを除き、例1に示すとおりであった。
【0122】
単一成分
保持試験ごとに紙料の500mlアリコートを処理した。自由水抜き試験の場合には1000mlを処理した。単一成分試験の場合、80Mスクリーンで固定したBrittジャーの中で紙料を1500rpmで20秒間混合した。カチオン性ポリマーを加え、1000rpmでさらに5秒間せん断したのち、第一パス保持試験のためにジャー弁に通して白水100mlを収集した。
【0123】
二成分系
二成分系の場合、微粒子添加の前にカチオン性ポリマーを10秒間加えた。20秒の全せん断ののち、Particol BX又は有機微粒子を計量供給した。単一成分試験の場合と同様、白水を収集した。
【0124】
三成分系
三成分系の場合、第二の成分の直後に第三の成分を添加した。
【0125】
乾燥したフィルタパッドを525℃で4時間燃焼させることにより、第一パス灰保持を測定した。Schopper-Riegler自由水抜き試験装置を使用して自由水抜き試験を実施した。試験ごとに紙料を1000rpmで合計30秒間混合した。保持試験と同じ時間間隔で保持助剤を添加した。
【0126】
系成分及び用量
単一成分カチオン性凝集剤を活性分1トンあたり0.25、0.5、0.75、1及び1.25ポンドで計量供給した。次に、これらの結果から、二成分系及び三成分系で使用するための一定の凝集剤用量を決定した。各追加成分は、活性分1トンあたり0.25、0.5、0.75、1及び1.25ポンドで計量供給した。三成分系の場合、第二の成分を活性分1トンあたり0.75ポンドで固定した。
【0127】
結果を図1〜3に示す。
【0128】
第一パス保持
図1は、種々の系の第一パス保持性能を示す。系ごとに使用した成分を、x軸として使用される最終成分用量とともに凡例に掲記した。図1は、三成分系の最終成分として有機微粒子をミクロゲルParticol BXとともに加えることによって第一パス保持における最高に有利な点を達成しうることを示す。
【0129】
第一パス灰保持
Particol BXとともに使用される同じ系に関して第一パス灰保持性能における同様な傾向が図2に示されている。灰保持における利点は、Particol系への有機微粒子の添加によって実証された。
【0130】
自由水抜き
図3は、試験した微粒子系の自由水抜き性能を示す。
【0131】
例3は、カチオン性ポリマー及び有機微粒子又はポリケイ酸塩ミクロゲルを使用する二成分系に対する、カチオン性ポリマーポリケイ酸塩ミクロゲル及び有機微粒子を使用する二成分系に対する改善を実証する。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】図1は、種々の系の第一パス保持性能を示す図である。
【図2】図2は、Particol BXを用いた図1と同じ系に関する第一パス灰保持性能を示す図である。
【図3】図3は、微粒子系の自由水抜き性能を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース懸濁液を形成することと、懸濁液を凝集させることと、懸濁液をスクリーン上で水抜きしてシートを形成することと、シートを乾燥させることとを含む、紙又は板紙を製造する方法であって、
ケイ酸系物質及び750nm未満の非膨潤粒径を有する有機ポリマー微粒子を含む凝集系を使用して懸濁液を凝集させるが、ここで、
ケイ酸系物質及び有機ポリマー微粒子を加える前にカチオン性物質、凝集/凝固剤、又はその両方をセルロース懸濁液に含めること、
ケイ酸系物質及び有機ポリマー微粒子を、別々に、ただし同時又は順に加えること、
乾燥懸濁液の重量に基づいて、ケイ酸系物質の量が100〜10,000重量ppmであり、有機ポリマー微粒子の量が20〜2,000重量ppmであること、
そのカチオン性物質及び凝集/凝固剤が、カチオン性であって、かつ合成又は天然のポリマーであること、
を特徴とする方法。
【請求項2】
微粒子が、少なくとも1.1mPa・sの溶液粘度及びモノマー単位に基づいて4モルppmを超える架橋剤含量を示す、請求項1記載の方法。
【請求項3】
微粒子が少なくとも5.0%のイオン度を有し、より好ましくは、微粒子がアニオン性である、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
微粒子が、架橋している場合には750nm未満の粒度を有し、非架橋で、水不溶性の場合には60nm未満の粒度を有するマイクロビーズである、請求項1〜3のいずれか記載の方法。
【請求項5】
微粒子が、1.5重量%の水中ポリマー濃度に基づいて0.005Hzで0.1〜0.7未満のtanデルタの流動学的振動値を示す、請求項1〜4記載の方法。
【請求項6】
tanデルタ値が0.1〜0.5未満、好ましくは0.1〜0.3の範囲である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
ケイ酸系物質を含む物質が、シリカベースの粒子、シリカミクロゲル、コロイドシリカ、シリカゾル、シリカゲル、ポリケイ酸塩、カチオン性シリカ、アルミノケイ酸塩、ポリアルミノケイ酸塩、ホウケイ酸塩、ポリホウケイ酸塩、ゼオライト及び膨潤性粘土からなる群より選択される、請求項1〜6のいずれか記載の方法。
【請求項8】
ケイ酸系物質がアニオン性微粒子状物質である、請求項1〜7のいずれか記載の方法。
【請求項9】
ケイ酸系物質がベントナイト型粘土である、請求項1〜8のいずれか記載の方法。
【請求項10】
ケイ酸系物質が、ヘクトライト、スメクトタイト、モンモリロナイト、ノントロナイト、サポナイト、ソーコナイト、ホルマイト、アタパルジャイト及びセピオライトからなる群より選択される、請求項1〜9のいずれか記載の方法。
【請求項11】
凝集系の成分をセルロース懸濁液に順に導入する、請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
ケイ酸系物質を懸濁液に導入したのち、ポリマー微粒子を懸濁液に含める、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
ポリマー微粒子を懸濁液に導入したのち、ケイ酸系物質を懸濁液に含める、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
カチオン性物質が、水溶性カチオン性有機ポリマーである、請求項1〜13記載の方法。
【請求項15】
凝集/凝固剤が、水溶性カチオン性ポリマーである、請求項1〜14記載の方法。
【請求項16】
カチオン性ポリマーが、水溶性のエチレン性不飽和モノマー又は少なくとも一つのカチオン性モノマーを含むエチレン性不飽和モノマーの水溶性ブレンドから形成される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
カチオン性ポリマーが、3〜18dl/gの固有粘度を有する分岐鎖状カチオン性ポリマーである、請求項15又は請求項16記載の方法。
【請求項18】
カチオン性ポリマーが、3〜18dl/gの固有粘度を有する、請求項15又は請求項16記載の方法。
【請求項19】
凝集系の成分の少なくとも一つの添加の後、懸濁液を機械的せん断に付す、請求項1〜18のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
カチオン性物質、凝集/凝固剤、又はその両方を導入することによって懸濁液をはじめに凝集させ、場合によっては懸濁液を機械的せん断に付し、次いでポリマー微粒子及びケイ酸系物質を導入することによって懸濁液を再凝集させる、請求項1〜19のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
ケイ酸系物質を導入し、次にポリマー微粒子を導入することによってセルロース懸濁液を再凝集させる、請求項20記載の方法。
【請求項22】
ポリマー微粒子を導入し、次にケイ酸系物質を導入することによってセルロース懸濁液を再凝集させる、請求項20記載の方法。
【請求項23】
セルロース懸濁液がフィラーを含む、請求項1〜22のいずれか1項記載の方法。
【請求項24】
セルロース懸濁液が、懸濁液の乾燥重量に基づいて40重量%までの量のフィラーを含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
フィラー材料が、沈降炭酸カルシウム、微粉化炭酸カルシウム、粘土及び二酸化チタンから選択される、請求項23又は請求項24記載の方法。
【請求項26】
フィラー材料がカオリンである、請求項23又は請求項24記載の方法。
【請求項27】
セルロース懸濁液がフィラーを実質的に含まない、請求項1〜22のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−9239(P2006−9239A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−208790(P2005−208790)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【分割の表示】特願2002−536137(P2002−536137)の分割
【原出願日】平成13年10月4日(2001.10.4)
【出願人】(592006855)チバ スペシャルティ ケミカルズ ウォーター トリートメント リミテッド (19)
【氏名又は名称原語表記】Ciba Specialty Chemicals Water Treatments Limited
【Fターム(参考)】