説明

紙容器とその製造方法

【課題】視覚的に立体感を与えることを目的として、絵柄と同調したグロスニスやマットニスの塗工によって出来る、表面の艶の差を利用する方法において、絵柄との見当合わせが安定して実現出来てさらに通常の加熱乾燥タイプのニスが使用可能な方法の実現と、マットニスやグロスニスを施す版の作成における複雑な作業を必要としない方法の提供。
【解決手段】印刷絵柄と同調した表面の艶の差により絵柄に視覚的な立体感を与える紙容器の製造において絵柄と同調してマットニスを施したことを特徴とする紙容器の製造方法である。さらに全面にグロスニスが施された上から絵柄と同調してマットニスを施す、マットニスを施すための版と絵柄の印刷版の一つが同じ絵柄の版である、印刷絵柄が木目柄でマットニスが絵柄の導管部分の上に施されている、それぞれの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は飲料用紙容器や菓子用紙容器等の食品用一次容器あるいは液体洗剤用容器や粉体洗剤用容器その他の紙容器に関し、特に紙容器の表面の意匠効果を向上させて木目柄等の材質感をよりリアルに表現した紙容器に関する。
【背景技術】
【0002】
紙容器は食品を中心に広く使われている容器でありポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック容器と対比される存在である。主に角形の形状であるので容積占有率が高いこと、紙の場合はリサイクルシステムが従来から確立していることもあってプラスチック容器に対して優位な面がある。反面、容器が不透明なので内容物が外から見えないことが不満の一つであった。そのために紙容器表面の印刷は内容表示という基本的な役割の中でも消費者に与える内容物の印象を規定するという、商品として重要な役割を果たしている。
【0003】
従来から紙容器の印刷は他の多くの分野と同じく、黄・赤・藍・墨の4色の重ね刷りですべての色を表現する方式を基本にしている。それに対して、自然物例えば木や石のような対象のリアルな質感を出すために実際の色に合わせて作成した「特色」を用いて表現することが、例えば建装材の分野等では行われている。
【0004】
4色の重ね刷りという方法は少ない種類のインキでいろいろの絵柄が印刷出来、従って印刷後に残る使用済みインキ(残肉)の量が少なくて済むという利点がある。しかし、実際に表現できる色の範囲が限定されることと、別々の色を重ねて刷る時の各色の相対位置の一致(見当)の程度がばらつくことから原稿の正確な再現は困難である。
【0005】
これに対して「特色」を用いて印刷する方法では全色の階調表現は出来ないが、メリハリのある表現が得られ、さらに見当の許容範囲が広いので重ねた各色の位置が多少ずれていても見かけ上再現性のある印刷を行うことが可能である。
【0006】
従来から紙容器の印刷に使われてきた4色の重ね刷りは実際にはさらに特色の重ね刷りと組み合わせて使われる場合も多く、特に4色の重ねでは出しにくい色のロゴや文字の場合は特色の併用が一般的であった。しかしながら、通常の階調を有する絵柄の場合には特色の使用は上記のように残肉の量の増加につながるだけでなく原稿の色分解の時点から特色の重ねを想定した版分けが必要であることもあって一般的ではなかった。
【0007】
一方、消費者への訴求という紙容器の上記の役割から見て、紙容器外面の絵柄にいろいろな特徴を持たせるという試みが従来から行われてきた。絵柄に立体感を与える試みとしては、実際に表面のエンボス(凹凸形状の賦型)を行ってそれに対する絵柄の着色で実際の表面形状に対応した立体感を強調する方法がまず挙げられる。
【0008】
<特許文献1>等では化粧板で合板表面にエンボスを施した後に、導管部分を表現した凹部に透明着色インキを施して安価な合板の表面を高級樹種のごとく化粧する方法が提案されている。またシートの表面に木目のエンボスを施した後、木目柄の印刷を行い実際に凹凸のある表面に木目の表現を効果的に行う建材用化粧シートの製法が提案されている。同様に木目エンボスの凸部に着色を施して特殊な効果をねらうという方法が提案されている。
【0009】
これらの方法は、実際の表面凹凸を基準にしているために視覚的な効果と実際の形状の
関連が合致して効果としては優れた方法である。しかしながら、紙容器のような紙に応用する場合は紙容器基材の厚紙に対するエンボスがむつかしいことと機械的に無理にエンボスを行うと、内容物保護という本来の機能を損なうおそれがあることから実際にはこれらの方法を適用することは困難であった。
【0010】
絵柄に立体感を与える試みのうちで実際のエンボスによらず表面の艶の差を利用して視覚的に立体感を与える方法が提案されている。表面の艶の差を利用して平面的な印刷絵柄に立体的な視覚効果を与える方法は多くの用途で用いられている。
<特許文献2>等には成形体の表面に艶あり(グロス)と艶消し(マット)の両方の混在した表面状態を賦型フィルムからの転写によって形成する方法について開示されている。
【0011】
表面の隣接する光沢の異なる区域のうちでマットの部分が沈んで見え、グロスの部分が浮いて見えるという視覚的な効果を利用する方法は、実際の表面が凹凸になっていなくても適用できることから、エンボスによる方法が適用できない色々な分野で試みられている。
【0012】
<特許文献3>等では床材の表面にマットインキで埋め込むように印刷を行った後にマットインキ以外の表面にグロスニスで被膜を形成するという方法が提案されている。また、表面マットコート上にビーズ入りインキで導管柄以外の部分に印刷を施すことによって立体感を強調するという化粧板の製法も提案されている。導管部分以外の木目印刷の上から全面にグロスニスを施し、その上から導管部をマットインキで印刷する化粧材の製法も示されている。導管部分以外の木目印刷の上から全面にマットニスを施し、その上から導管部分の印刷を行った後に導管部分以外の領域にグロスニスを施す方法も提案されている。さらに印刷絵柄の全面にグロスニスを施した後導管部をマットインキで印刷するという化粧シートの製造方法も提示されている。
【0013】
上述の方法では、ほとんどの場合製造時の見当を合わせることは可能であるが、製品の表面に、トップコートで被覆されていないインキが露出することにより、元来、表面保護層としてのトップコートが必要な用途においては耐性その他の物性的な面で不安が残る。
【0014】
<特許文献4>等では表面にグロスニス及びマットニスを塗工した壁紙、光沢の異なる表面層を設けた化粧シート、紙基材の表面をマット及びグロスに塗り分けた化粧シート、全面をグロスにした上から模様状にマットニスを施した紙器印刷物がそれぞれ提示されている。これらの方法で表面の光沢差による装飾効果を期待できることは確かだが、光沢差領域が印刷絵柄と同調することによって単なる装飾効果より大きな効果が期待できる。
【0015】
また、透明なフィルムやシートを基材として用いて、絵柄の反対面を製品表面として使用する場合、絵柄の反対面に絵柄と同調させてマット及びグロス面を形成する手法が<特許文献5>等には提示されている。これらの方法は主として他の基材と貼り合わせて使用する用途に用いられ、透明基材の占める空間を効果的に利用すれば立体的表現としては他の方法よりも大きな効果が期待できる。しかし、透明基材の印刷反対面から透明なグロスニスもしくはマットニスを絵柄に見当を合わせて施すのは特に軟質の基材では相当困難である。さらにこの手法は基材の透明性を生かす目的もあるので当然のことながら紙容器には適用が困難である。
【0016】
<特許文献6>等では印刷絵柄上の全面にマットニスを施した後に絵柄に同調させてグロスニスを印刷するという方法が提案されている。これらの方法は絵柄に同調させてマットニス及びグロスニスを印刷する方法に比べれば、透明ニスと透明ニスの見当合わせという困難な課題を回避出来ることによって実際の生産における安定性の確保に役立つ。
【0017】
透明ニスと透明ニスの見当合わせという困難な課題を回避する他の方法としては、片方のニス被膜の他方の塗工液に対する撥液性を利用する方法も提案されている。この方法では透明ニス間の見当ズレの問題は機構的に回避されるが、撥液による2回目塗工液の1回目塗工層からの排除効果が安定して実現するためには塗工液の性質の制限があり、通常は100%固形分の樹脂例えばUV硬化性のニスが適用される。
【0018】
絵柄に立体感を与える試みのうちで実際のエンボスによらず表面の艶の差を利用して視覚的に立体感を与える以上のような方法のうちで、紙容器に実際に適用出来る有力な方法としては、絵柄と同調したグロスニスまたはマットニスの塗工による表面の艶の差を利用する方法があるが、この方法においては従来から絵柄との見当合わせの精度及びニスの乾燥固化方式の汎用性が問題になっていた。
【0019】
グロスニスまたはマットニスと絵柄との見当合わせの精度に関しては、通常の黄・赤・藍・墨の4色の重ね刷りのみによる方法では次のような問題がある。すなわち、一つには、マットニスが施される対象となる絵柄部分が単色ではなく4色の重ね刷りで表現されている場合には対象となる絵柄部分を構成する各色の版から対象部分を選定してその重なり部分を元にマットニスを施す版の絵柄を作成しなければならないという複雑な作業を必要とすることが挙げられる。
【0020】
二つ目には、絵柄印刷の見当の精度、特にマットニスが施される対象となる絵柄部分の4色の重なりのばらつきが大きいと絵柄印刷に続いて施されるマットニスの版上の対応する絵柄部分からはみ出してしまい、視覚的効果を著しく損なうことがある。
【0021】
また、グロスニス塗工部分とマットニス塗工部分の間の見当精度の問題を回避する方法としてグロスニスまたはマットニスのいずれかに後から塗工するニスに対する撥液性を持たせる方法は高固形分のニス、例えば実質固形分100%の紫外線硬化型ニス等では有効であるが通常の溶剤分が多くを占める加熱乾燥型のニスでは乾燥するまでの下地に対するぬれ性の変化と体積収縮等によって効果が減少するという問題があった。
【特許文献1】特開昭48−79250号公報
【特許文献2】特開平5−16228号公報
【特許文献3】特許第2757943号公報
【特許文献4】特開平5−278189号公報
【特許文献5】特開2000−62081号公報
【特許文献6】特開平8−132578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
紙容器の表面の印刷絵柄に視覚的な立体感を与えることを目的として、絵柄と同調した表面の艶の差を利用する方法においてインパクトの強い、絵柄との見当合わせが安定して実現出来る紙容器の製造方法を提供することを課題とする。さらに表面に艶の差をつけるための材料として、一般的な加熱乾燥タイプのニスが使用可能な方法、加えて、表面に艶の差をつけるための版として、マットニスを施す版の作成手順のなかでの複雑な作業を必要としない方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであって請求項1に記載の発明は、印刷絵柄と同調した表面の艶の差により絵柄に視覚的な立体感を与える紙容器の製造において絵柄と同調してマットニスを施したことを特徴とする紙容器の製造方法である。
請求項2に記載の発明は、印刷絵柄の全面にグロスニスが施された上から絵柄と同調してマットニスを施したことを特徴とする請求項1に記載の紙容器の製造方法である。請求項
3に記載の発明は、マットニスを施すための版と絵柄の印刷版の一つが同じ絵柄の版であることを特徴とする請求項1または2に記載の紙容器の製造方法である。
請求項4に記載の発明は、印刷絵柄が木目柄でありマットニスが絵柄の導管部分の上に施されていることを特徴とする請求項3に記載の紙容器の製造方法である。
請求項5に記載の発明は、印刷絵柄と同調した表面の艶の差により絵柄に視覚的な立体感を与える紙容器の製造において請求項1〜4のいずれか1項の製造方法を用いて製造したことを特徴とする紙容器である。
【発明の効果】
【0024】
請求項1の発明によれば、マットニスの施された絵柄部分表面はその他の部分と比べて艶の差が生じて立体的な視覚的効果を生じる。通常はマットニスの施された部分が沈んで見え、その他の部分が浮き出して見える。このような視覚的な効果によって、直接内容物の見えない紙容器において、容器外側の絵柄によって商品の消費者に与える印象をよりインパクトの強いものとすることが出来る。
【0025】
請求項2の発明によれば、印刷絵柄の全面にグロスニスが施された上から絵柄と同調してマットニスを施したことによって、全面にグロスニスが施されていない場合に比べて次のような効果が生じる。
【0026】
効果の1つ目は、マットニスの施されていない部分の艶がグロスニスによる安定した高い艶であることによって、艶の差による視覚的効果を安定して表現することが確保出来る。
【0027】
2つ目は、印刷絵柄の全面にグロスニスを施すことによって、その後に対象絵柄に同調して施すマットニスの見当合わせの対象が、グロスニス等を含まない対象絵柄だけになるので見当安定性が確保出来る。
【0028】
3つ目は、印刷絵柄の全面にグロスニスが施されていることによって、視覚的効果以外の物性面での内容物保護性や表面耐性等の確保が可能である。
【0029】
請求項3の発明によれば、マットニスを施すための版と絵柄の印刷版の一つが同じ絵柄の版であるによってマットニスを施すための版を絵柄版とは別のパターンで作成する必要がなくなる。さらに、マットニスを施す対象絵柄の版による印刷絵柄のみに見当合わせを行えることによってマットニスの絵柄に対する見当安定性を確保出来るという効果を有する。
【0030】
請求項4の発明によれば、マットニスを施すための版と絵柄の印刷版の一つが同じ絵柄の版の場合で特に、印刷絵柄が木目柄の場合はマットニスが絵柄の導管部分の上に施される場合が一般的であり、導管部分の絵柄と同じ絵柄の版を使うことによって木質感が強調されるという効果を有する。この効果については<発明を実施するための最良の形態>のなかで一例を挙げて詳細に説明する。
【0031】
以上のように、本発明の方法によれば、紙容器の表面の印刷絵柄に視覚的な立体感を与えることを目的として、絵柄と同調した表面の艶の差を利用する方法において、絵柄との見当合わせが安定して実現出来る方法のを提供することが出来た。さらに本発明の方法によれば、表面に艶の差をつけるための材料としてUV硬化型等のニスを使用しないで済むため、安価で一般的な加熱乾燥タイプのニスが使用可能であり、加えて、表面に艶の差をつけるための版として絵柄版と同じ版を使えるので、マットニスを施す版の作成に複雑な作業を必要としないで簡単に出来るようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の紙容器を一実施形態の図1に基づいて以下に詳細に説明する。表面の艶の差を利用して視覚的に立体感を与えることを目的として、絵柄と同調したグロスニスやマットニスの塗工によって出来る、表面の艶の差を利用する方法がある。この方法の実施においては、絵柄との見当合わせが安定して実現出来て、さらに通常の加熱乾燥タイプのニスが使用可能な方法の実現と、マットニスやグロスニスを施す版の作成における複雑な作業を必要としない方法の開発により、不透明な紙容器の外観に商品訴求力のあるものとして作り上げることが出来た。
【0033】
紙容器の製造工程の全体は印刷工程とその後のスリッター・打ち抜き・スリーブ成形・充填というのが代表的であるが本発明は印刷工程のみに関連するものであり、その後の工程は従来の内容を前提にしているのでとくに説明はしない。
【0034】
以下本発明の紙容器の製造方法の絵柄が木目柄の場合の一例を示して説明する。
【0035】
図1(a)は本発明の包装用容器の一例の部分断面説明図であり、図1(b)は部分平面説明図である。図2(a)は本発明の紙容器の液体容器の場合の製品概念図であり、図2(b)は部分断面説明図である。以下、本発明については図1及び図2を参照して詳細に説明する。対比の参考として図3(a)に従来の方法による、包装用容器の部分断面説明図を、図3(b)に部分平面説明図を示したのでこれを援用する。
【0036】
図1(a)の基材1は不透明な厚紙であり包装用容器としての機械的強度と容器に成形する時の加工適正を備えていることが必要であり、200〜500g/m2の坪量の紙が使用される。さらに、例えば液体容器の場合は内容物保護のための種種の積層構成がとられる場合があり、図2(b)に示すような、紙11の両側をポリエチレン(PE)12で挟んだ上に蒸着ポリエチレンテレフタレート(PET)13をラミネートしてさらにPE12を表面にラミネートする構成もあり、基材1は必ずしも紙だけの構成には限定されない。
【0037】
基材1の上から下地色としてベタ印刷2を行う。目的は例えば木目の表現のなかで共通の下地色として明るい材質部分の表現のために行われる場合があり、紙の着色で代替できる場合もある。抄造の時に着色した着色紙を使うとこの下地ベタ印刷は不要になるが、製紙の抄造ロットは通常は印刷のロットよりも非常に大きいので、小ロットの生産も考慮するとベタ印刷での表現が効果的である。
【0038】
次に、ベタ印刷2の上から主に木目の繊維の濃淡表現のために下地色よりやや暗い色を用いて柄印刷3を行い、最後にもっとも暗い色で導管の溝部分を表現する導管部印刷4を行う。この場合少なくとも導管部印刷4を行う版は単独の版でかつ導管部のみの絵柄に対応する版であることが必要である。導管部印刷4を行うインキは下地色2及び柄印刷3に用いたインキと同じタイプのものであれば望ましいが、とくに併用した場合の害がなければ一般的な紙用インキが使用できる。基材1の表面材質が紙以外の場合にはその材質に適用できるインキであればよい。
【0039】
次に、導管部印刷4の上から全面にグロスニス印刷層5を設ける。その後導管部印刷4で使用したのと同じパターンの柄版を用いて導管部柄に見当を合わせてマットニスの印刷を行い導管部印刷柄の直上にマットニスの層を形成する。これによって、基材最表面に導管柄に合わせて艶の異なる透明層が形成され、導管部分の絵柄と同じ絵柄の版を使うことによって木質感が強調されるという効果が得られる。
【0040】
本発明に使用出来るニスとしてはセルロース系・ポリアミド系・アクリル系・ウレタン
系・アクリルポリオール等の基材表面の材質に対応して通常使用される樹脂系を用いたグロスニスとこれらに酸化珪素・炭酸カルシウム・タルク等の一般的な艶消剤を添加したマットニスが典型的である。本発明に使用出来るインキとしてはニスと同様の樹脂系を用いてそれに顔料・分散剤・溶剤等を添加分散させたものが多用される。
【0041】
本発明は導管部分の絵柄と同じ絵柄の版を使うことがポイントであるので版についてさらに説明する。
木目等の天然物も通常のプロセスカラー4色(黄赤藍墨)の重ね刷りで表現することが出来、実際にも多く行われている。原稿からプロセスカラー4色に分解して各色の版を作るという分解方法は定型的な方法ですべての絵柄が表現できること、さらにプロセスカラー以外の色(特色)を印刷に使わないで済む場合には印刷後の残肉が少なくて済むこと、等々の利点がある。
【0042】
しかしながら、プロセスカラー4色の見当精度の確保と刷り重ねの色(2次色・3次色)の再現が困難で安定して鮮明な絵柄を再現する上では困難があった。<図3>は木目柄印刷にプロセスカラー4色の重ね刷りを使用した場合の断面説明図(a)及び平面説明図(b)を示している。この場合は導管部の印刷は4つの版を用いて4色が刷り重ねられた1色目の層7、2色目の層8、3色目の層9、4色目の層10からなり、各層の見当のずれによって上から見た導管部は平面説明図(b)のようにぼやけている。さらにこれらの印刷の上から全面に施されたグロスニス印刷層5を介して導管部絵柄に対応した版を用いてマットニスの印刷を行うと、マットニスの見当を合わせる対象となる導管部が各色の見当のずれによって明確ではなく、結果としてマットニスを含めた5色が正確に同調しない形で印刷されている。
【0043】
本発明の方法によれば<図1>に示すように対象となる導管部は単一の版を用いて印刷されており、印刷に使った導管部と同じパターンの版を用いてマットニスを印刷しているために導管部絵柄が明確で、見当が合わせやすく、凹凸感のある表面の紙容器が得られる。
【0044】
原稿から各版に分解する方法はプロセスカラーへの4色分解ではなく、導管部と単独版として分解する手法は一般的な手法が利用出来る。また、導管部の印刷版と同じパターンの版を作成することも容易である。マットニスの膜厚を変更したい場合には、例えばグラビア印刷の場合は同一の絵柄データを用いて、機械彫刻であれば彫刻セルピッチ(線数)の変更によって、腐食を用いた製版であれば版深度を変えることによって容易に制御出来る。
【実施例】
【0045】
以下に本発明の具体的実施例について説明する。
【0046】
<実施例1>
<図2>に示すように、液体用紙容器の原紙として、層構成がPE(20μm)/紙(400g/m2)/PE(40μm)/蒸着PET(12μm)/PE(60μm)の基材1を用いて表面(PE20μmの側)にグラビア印刷機で下地色のベタ印刷2と木目柄印刷3と導管部印刷4とを行った。
【0047】
その後連続して、グロスニスのベタ印刷5を行い熱風乾燥して4μmの膜厚の光沢のある表面層を形成して、その上から、導管部印刷に使用した版と同じ絵柄の版を用いて導管部印刷4に見当を合わせたマットニスの柄印刷6を行い、熱風乾燥して膜厚3μmの艶消し層を部分的に形成した。
その後、印刷物を打ち抜き、貼り工程でスリーブを作成し、内容物を充填して液体用紙容
器として使用できることを確認した。
【0048】
<実施例2>
<図1>に示すように、菓子用二次容器の原紙として、坪量300g/m2のコートボール紙1を用いてグラビア印刷機で下地色のベタ印刷2と木目柄印刷3と導管部印刷4を行った。続けて、グロスニスのベタ印刷5を行い、熱風乾燥して5μmの膜厚の光沢のある表面層を形成した。さらに導管部印刷に使用した版と同じ絵柄の版を用いて導管部印刷4に見当を合わせたマットニスの柄印刷6を行い、膜厚3μmの艶消し層を部分的に形成した。
その後、印刷物を打ち抜き、貼り工程でスリーブを作成し、製函後、内容物を充填して菓子用容器の外箱として使用できることを確認した。
【0049】
<比較例>
<図3>に示すように、菓子用二次容器の原紙として、坪量300g/m2のコートボール紙1を用いてグラビア印刷機で木目柄の印刷を行った。黄版で黄色の導管部印刷層7、赤版で導管部印刷層8、藍版で導管部印刷層9、墨版で導管部印刷層10の4色をこの順序で重ね刷りを行った。続けて、グロスニスのベタ印刷5を行い、熱風乾燥して5μmの膜厚の光沢のある表面層を形成した。さらに、導管部印刷層になるべく見当を合わせたマットニスの柄印刷6を行って膜厚3μmの艶消し層を部分的に形成した。
その後、印刷物を打ち抜き、貼り工程でスリーブを作成し、製函後、内容物を充填して菓子用容器の外箱として使用できることを確認した。
【0050】
以下に実施例と比較例の比較結果について説明する。
【0051】
<比較結果>
上記実施例1の本発明の方法による紙容器は、上記比較例の比較品と比べて導管部印刷層が一つの版で印刷されているために見当ずれがなくくっきりと印刷されている。さらに、マットニス印刷層の印刷位置が導管部印刷層と一致しているため、導管部が沈んで見える視覚的な立体感を呈することによって、木の材料が持つ質感を感じることが出来る表現の紙容器を実現出来た。これに対して比較例による比較品は、導管部印刷層が4色の重ね刷りであるため各色の見当のずれが起こり境界部分のぼやけた柄になっている。その上から見当を合わせて印刷されたマットニス印刷層の印刷位置のずれも伴って、目的とする視覚的な立体感は実現出来なかったため、木の材料が持つ質感を感じることが出来る表現の紙容器とはとうてい言えないものであった。
【0052】
上記実施例2の本発明品も、上記比較例による比較品と比べて導管部印刷層が一つの版で印刷されているために見当ずれがなくくっきりと印刷されている。さらに、マットニス印刷層の印刷位置が導管部印刷層と一致しているため、導管部が沈んで見える視覚的な立体感を呈することによって、木の材料が持つ質感を感じることが出来る表現の紙容器を実現出来た。これに対して比較例による比較品は、上記と同様の理由で、木の材料が持つ質感を感じることが出来る表現の紙容器にはならなかった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の紙容器の断面説明図(a)及び上から見た平面説明図(b)である。
【図2】本発明の紙容器の実施例の製品概念図(a)及び断面説明図(b)である。
【図3】比較例の4色重ね導管柄印刷の場合の断面説明図(a)及び平面説明図(b)である。
【符号の説明】
【0054】
1…基材
2…下地色印刷層(ベタ)
3…柄印刷層
4…導管部印刷層
5…グロスニス印刷層(ベタ)
6…マットニス印刷層(柄)
7…導管部印刷層1色目
8…導管部印刷層2色目
9…導管部印刷層3色目
10…導管部印刷層4色目
11…紙
12…PE層
13…蒸着PET層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷絵柄と同調した表面の艶の差により絵柄に視覚的な立体感を与える紙容器の製造において絵柄と同調してマットニスを施したことを特徴とする紙容器の製造方法
【請求項2】
印刷絵柄の全面にグロスニスが施された上から絵柄と同調してマットニスを施したことを特徴とする請求項1に記載の紙容器の製造方法
【請求項3】
マットニスを施すための版と絵柄の印刷版の一つが同じ絵柄の版であることを特徴とする請求項1または2に記載の紙容器の製造方法
【請求項4】
印刷絵柄が木目柄でありマットニスが絵柄の導管部分の上に施されていることを特徴とする請求項3に記載の紙容器の製造方法
【請求項5】
印刷絵柄と同調した表面の艶の差により絵柄に視覚的な立体感を与える紙容器の製造において請求項1〜4のいずれか1項の製造方法を用いて製造したことを特徴とする紙容器

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−262336(P2009−262336A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111155(P2008−111155)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】