説明

素電池、それを備えたパック電池、及びこれらの製造方法

【課題】絶縁性を確保できると共に、薄肉小型化の向上に寄与するパック電池を提供する。
【解決手段】アルミニウム含有材料からなる有底の外装缶11の開口部が封口板12によって封口されてなる素電池10であって、前記外装缶11の外表面における底面11cを含み、且つ前記外表面の側壁11d、11eにおける前記底面11c側の端部から前記開口部側の端部に至る領域が陽極酸化処理されている構成とする。そして、前記素電池において前記封口板が配されている頂面には、当該頂面に突き合わせられ、且つ、前記封口板を被覆するカバー体が配されているパック電池の構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム含有材料からなる外装缶を備えた素電池を有するパック電池とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パック電池は携帯電話などの電子機器における駆動電源として利用され、構成要素として素電池と保護回路基板とを含む。なお、保護回路基板とは素電池と外部機器との間に介挿される電子部品である。
図6はパック電池の構成を示す展開斜視図である。素電池910は金属材料からなり、素電池の絶縁性を確保するために、その頂部には保護回路基板や外部取り出し電極等が樹脂でモールドされ、底部には樹脂体960が配され、外装缶910の外周面は絶縁シート950等で被覆されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
素電池910は、有底筒型の外装缶と、外装缶の開口部を封口する封口板とからなる。上記外装缶は、軽量で展性を有するアルミニウム(Al)やAl合金等の金属材料が用いられることが多く、これにより、パック電池の軽薄小型化を図ることができる。
【特許文献1】特開2003−282036号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、底部に配される上記樹脂体960は、本体部960aと係合部960bとからなり、係合部960bが絶縁シート950によって外装缶910と一体的に被覆される。これにより、パック電池900は、底部において係合部960bの厚みWの分だけ厚肉となる。また、パック電池900の高さ(X方向の長さ)は、上記本体部960aの厚みDの分だけ大きくなる。これらの点から、パック電池900には薄肉小型化に関して未だ改善の余地があると思われる。
【0005】
本発明は以上の課題に鑑みてなされており、絶縁性を確保できると共に、薄肉小型化の向上に寄与する素電池とそれを備えたパック電池及びそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明では上記課題の解消のために以下の構成を採る。
アルミニウム含有材料からなる有底筒状の外装缶を有し、前記外装缶の開口部が封口板によって封口されている素電池であって、前記外装缶の外表面における底面を含み、且つ前記外表面の側壁における前記底面側の端部から前記開口部側の端部に至る領域が陽極酸化処理されている構成とする。なお、上記陽極酸化処理とは、アルミニウム又はアルミニウム合金に対して行われる酸化処理、所謂、アルマイト処理を意味している。
【0007】
また、前記封口板は、前記外装缶の内周面に接した状態で接合されており、前記接合は、前記封口板と前記外装缶との接触部分が溶着されてなる構成とすることが好ましい。さらに、前記陽極酸化処理がされている外装缶部分に対し、所定のパターン又は文字が食刻または印字により付されている構成としても構わない。
上記の構成を有する素電池において前記封口板が配されている頂面には、当該頂面に突き合わせられ、且つ、前記封口板を被覆するカバー体が配されているパック電池を構成する。
【0008】
特に、前記素電池を過充電又は過放電から電気的に保護し、且つ、前記素電池の正極端子及び負極端子の各々に対して電気的に接続される接続リードを有する保護回路基板が備えられ、前記カバー体は、前記正極端子及び負極端子と前記保護回路基板とが覆われる状態で前記封口板に対して螺合接合されており、前記螺合接合の締付け力により、前記正極端子及び負極端子の各々と、前記保護回路基板における各接続リードとの接続がなされている構成とすることが望ましい。
【0009】
一方、素電池の製造方法に関しては、アルミニウム含有材料で作製された有底筒型の外装缶素体の外表面に対して、底面を含み、且つ当該底面側の端部から開口部側端部にかけて陽極酸化処理を行う酸化ステップと、前記酸化ステップの後に、前記外装缶素体の開口部側端縁部を除去して外装缶を作製する外装缶作製ステップと、前記外装缶作製ステップの後に、前記外装缶の開口部を封口板で封口する封口ステップを行う。
【0010】
また、前記封口ステップにおいて、前記封口板を前記外装缶の内周面に接するように配し、前記封口板と前記外装缶との接触部のうち、外方空間に臨む部分を溶着することが望ましい。
そして、前記酸化ステップの後に、陽極酸化処理を行った外装缶部分に対し、所定のパターン又は文字を食刻または印字によって付す方法を用いても構わない。
【0011】
また、上記の素電池の製造方法によって素電池を製造する素電池製造ステップと、前記封口板が配されている前記素電池の頂面を覆うようにカバー体を配設するカバー体配設ステップとを有し、前記カバー体配設ステップにおいて、前記素電池を過充電又は過放電から電気的に保護する保護回路基板を、前記素電池の正極端子及び負極端子の各々に対して電気的に接続するようにして前記封口板に対して螺合接合し、前記螺合接合の締め付け力により、前記正極端子及び前記負極端子の各々と、前記保護回路基板との接続を行ってパック電池を製造する。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、上記陽極酸化処理によって、外装缶の底面を含み、且つ外装缶の底面側端部から開口部側端部に至る領域にアルマイト被膜が形成されるので、素電池の底部に樹脂体を配したり、外周面を樹脂シートで被覆する等の手段を採ることなく絶縁性を確保できる。従って、本発明に係る素電池の頂面にカバー体を配してなるパック電池は、底部に樹脂体が配設された従来形態と比較すると、パック電池の高さ方向において上記樹脂体の厚み分だけ小型化でき、底部の厚肉化も防止できる。また、底部が局所的に厚肉にならないためパック電池の外観形状の点からも好ましい。
【0013】
以上のように、本発明に係るパック電池は絶縁性を確保しつつ薄肉小型化を実現でき、一方でパック電池の外観寸法を従来形態と同サイズにする場合には、電池容量の増加が可能となり、エネルギー密度の向上にも繋がる。
また、本発明に係る素電池は、封口板が外装缶開口部の内周面に接するように配されて、その接触部分のうち外方空間に臨む部分が溶着されて形成されている。つまり、外装缶の側壁に対して溶着工程が施されていないので、外装缶の開口部端部に非アルマイト処理部を設けておく必要がなく、封口板によって外装缶の開口部を封口する前に、開口部端部もアルマイト処理がされた状態とすることができる。これにより、封口された時点で素電池は、その頂面(封口板が配されている面)を除く領域にアルマイト処理がされた状態にでき、製造コストの抑制に繋げることができる。
【0014】
また、本発明に係る外装缶は、開口部側端部に至る領域まで陽極酸化処理がされているので、素電池作製後に外装缶の側壁部をカバー体等で覆う必要がない。つまり、カバー体が、素電池の頂面のみを被覆できる大きさ、つまり素電池の頂面と突き合わされてなる形状であればパック電池の絶縁性を確保できる。従って、カバー体が外装缶の側壁部を覆う構成にならないので、外装缶の頂面においても、パック電池が外装缶よりも厚肉化になることを防止できる。
【0015】
さらに、陽極酸化処理が行われた外装缶部分に食刻または印字を直接行うことができるので、外装缶に別部材を付着等させる必要もなく、電池の定格や仕様といった必要事項を表示できるので薄膜化及び製造コストの面でも大きな優位性を備える。
また、上記カバー体を素電池に対して螺合接合し、その際にカバー体と保護回路基板とを一体的に接合することで、その製造工程を大きく簡易化し、製造コストを低減できる。上記接合の場合、カバー体の取付け後にパック電池の一部に不良箇所を発見したとき、螺合接合部を緩めることで、カバー体の取り外しを容易に実行でき、不良箇所だけを部分的に交換もしくは修理することも可能となる。これにより、パック電池の製造工程における歩留の向上にも繋がる。
【0016】
また、本発明に係る製造方法では、外表面において底面、且つ底面側端部から開口部側端部に至る領域に対して陽極酸化処理が行われた外装缶素体の開口部側の端縁部を除去して外装缶を作製している。これにより、作製された外装缶には陽極酸化処理による被膜が全く存在しない開口部端面を容易に形成できる。従って、当該開口部端面において、封口板と外装缶との溶着を行うことができ、その溶着強度の劣化を招くことがない。
【0017】
特に、封口板を外装缶の内周面に接する状態で配し、その接触部分のうち外方空間に臨む部分を溶着することで、外装缶の開口部の端部にまでアルマイト処理がされていても溶着強度が劣化することがない。仮に、外装缶の側壁に対して略垂直方向から溶着工程を実施して封口板と外装缶との溶着を行う場合、溶着強度を劣化させないために外装缶の開口部端部を非アルマイト処理部にしておく必要がある。そのため、溶着された外装缶における非アルマイト処理部に対して絶縁性を確保するための処置を別途行わなければならないが、本発明では当該処置を行う必要がなく、製造コストの面で有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係るパック電池の最良の形態について、図を用いて説明する。
1.パック電池の全体構成
本実施形態に係るパック電池について、図1を用いて説明する。図1はパック電池1の展開斜視図である。
パック電池1は、リチウムイオン電池(以下、「素電池」と記す。)10と、この素電池10の一端面を覆うように設けられたカバー体20と、保護回路基板30とを有する。
(1−1)素電池10
素電池10は、薄型直方体形状であり、開口部を有する外装缶11と、その内方に収納されて発電要素となる電極体(不図示)と、外装缶11の開口部を封口する封口板12とを備えている。なお、外装缶11と封口板12とはレーザ溶着されている。
【0019】
外装缶11は、X方向を長手方向とする薄い立体形状であり、高さH(X方向の長さ)を有する。外装缶11は、要部切欠き拡大図に示すように、アルミニウム(Al)合金からなるAl部11bと、その外表面にAl合金が酸化されてなるアルマイト被膜11aが形成されてなる。また、図1のとおり、アルマイト被膜11aは、外装缶11の底面11cの全面、さらに主面11d及び側面11eの底面11c側端部から封口板12側端部に至るまでの領域に渡って形成されている。なお、底面11c側端部とは、主面11c及び側面11eの端辺L11とその近傍部を意味し、封口板12側端部とは、主面11c及び側面11eの端辺L12とその近傍部を意味している。
【0020】
アルマイト被膜11aは、Al部11bの表面部だけに化学変化(酸化反応)を生じさせて形成される。アルマイト被膜11aの厚みに関しては、腐食防止、絶縁性を確保するために、例えば25〜30μm程度、最大でも50μmが必要となるが、従来形態のように外装缶の底面に樹脂板を配設する(図6参照)形態と比較すると、その樹脂板には少なくとも100〜200μm程度の厚みを要することが多く、アルマイト被膜11aを形成することでパック電池1の絶縁性を維持しつつ、小型化の実現に貢献することが明らかである。一方、電子機器の仕様により、パック電池1の形状及びサイズが既に規定されている場合には、上記の小型化を実現できる厚みの低減分だけ、素電池10内の電池容量の増加等に繋げることもできる。これにより、パック電池1のエネルギー密度が向上し、高出力化を成し得る。なお、Al部11b表面部以外では化学変化を生じさせずにAl合金の組成状態(Al部11b)が維持されている。
【0021】
また、本実施形態ではアルマイト被膜11aは、図示のとおり、外装缶11の主面11d及び側面11eのそれぞれにおいて、底面側(X方向正方向側)から封口板側(X方向負方向側)に至るまで全面領域に形成されている。これにより、外装缶11の耐圧強度も向上するので充放電を繰り返すことで素電池10の経時的な膨化、特に中央領域における膨化を抑制できる。
【0022】
また、アルマイト処理の条件によってアルマイト被膜11aの着色を多様化できるので、カバー体20等の色調に対応できる。
さらに、アルマイト被膜11aには、レーザマーキングを用いてリサイクルマークの印字13が形成されている。当該印字13にはパック電池1の定格や仕様などが示されていても構わない。上記印字はアルマイト被膜11aに直接行われているので、印字部を表示するために別部材を設ける必要もなく、薄膜化を妨げる要素にならない。なお、上記印字はレーザマーキングだけでなく、ホットスタンプを用いた印刷、シルク印刷やパッド印刷などで形成されていても構わない。
【0023】
次に、封口板12は、外装缶11の底面側とは反対となる頂面側に配されている。封口板12の外側主面には、Y軸方向の端部に正極及び負極端子が突設され(不図示)、各々の突設頂面にはナット部が形成されている。当該ナット部を介して後述するカバー体20及び保護回路基板30との接合がなされる。なお、封口板12にはアルマイト処理は施されておらず、素電池10はその頂面に該当する領域のみにアルマイト被膜11aが形成されていない状態である。
【0024】
封口板12は外装缶11の内周面に接する状態で接合されており、その接触部分が溶着されている。当該溶着部分に関しては後述する。
(1−2)カバー体20
カバー体20は、絶縁性材料(例えば、ポリアミド系樹脂材料など)からなり、図1のように封口板12の主面(YZ平面上)と略同形の端面を有している。
【0025】
カバー体20の素電池10に対する接合に関しては、ネジ43、44を用いて螺合接合される。カバー体20の端面には、窓部(不図示)が設けられており、上記接合された状態でそれぞれの窓部から保護回路基板30における外部接続用接点(不図示)が外方に露出するように構成されている。上記窓部が形成された端面には、Y軸方向における外縁部でネジキャップ41、42が固着される。このネジキャップ41、42はカバー体20と同じ絶縁性材料で形成され、カバー体20における端面に対して略段差無く設けられる。なお、当該固着には、接着剤、熱溶着や超音波溶着などを用いることができる。
(1−3)保護回路基板30
保護回路基板30は、カバー体20の内部に収納され、過放電や過充電などから素電池10を電気的に保護する役割を有する。図示のとおり、保護回路基板30は薄い略平板形状であり、基板本体部30aのY軸方向両端部から負極及び正極の接続リード34、35がそれぞれ延出されている。接続リード34、35には、ネジ43、44が挿通可能な孔がそれぞれ設けられている。
【0026】
保護回路基板30における基板本体部30aの一方の主面(X方向負方向側)には、上述した外部接続用接点がAu、CuやNiなどの金属材料が箔状に積層されてなる。保護回路基板30の基板本体部30aにおける他方の主面(X方向正方向側)には、感熱素子(例えば、PTC素子やNTC素子など)を含む複数の電子部品36、37、38が実装されている。なお、実装される電子素子はこれに限定されるものではない。
2.カバー体20の接合
(2−1)カバー体20の接合状態
上記のとおり、カバー体20は保護回路基板30とともに素電池10に対して接合され、当接合状態について図2を用いて説明する。図2は、カバー体20が素電池10の頂面を覆うように配された状態の部分断面図である。
【0027】
カバー体20は、保護回路基板30を覆って素電池10に螺合接合されている。この接合は、封口板12の主面から突設された正極端子121に対して封口板12が直接螺合され、同じく突設された負極端子122には、封口板12との間に絶縁体123が介挿された状態で螺合されてなる。なお、突設された各々の端子の高さは同じであり、その頂面は平坦である。また、各端子の突設頂面にはナット部121a、122aがX軸方向における電池内方に向けて形成されている。本実施形態における螺合接合は、2本のネジ43、44を孔24、25及び孔34a、35aに挿通させて、素電池10の正負両極端子121、122のナット部121a、122aに螺合させてなる。この場合、正負両極端子121、122と接続リード34、35とは2本のネジ43、44とナット部121a、122aとの螺合による締付け力をもって機械的にも電気的にも確実な接合が図られる。
【0028】
一方で、上記ネジ43、44の螺合による接続方法であるので、例えばレーザ溶着や超音波溶着などのように専用の設備を必要とはしない。従って、製造工程において、設備コストの面で本実施形態は大きな優位性を備える。また、インサート成形などの場合では樹脂材料の成形温度を考慮して保護回路基板に実装する電子素子が制限されるが、上記螺合接合ではそのようなこともない。従って、使用する電子素子の自由度も向上する。さらに、パック電池の製造工程において、その最終段階で電池性能などの検査を行い、不良品などを検出するが、本実施形態の場合、仮に不良品が検出されても、ネジ43、44の締付けを緩めてカバー体20を取り外すことで保護回路基板30の交換や修理などの部分的な修理が可能となる。
(2−2)カバー体20の被覆領域
カバー体20は、封口板12が配されている素電池10の一端面を覆い(図1参照)、その幅(Y方向の長さ)は外装缶11の幅(Y方向の長さ)とほぼ同等の長さである。本実施形態では、Al部11bの外表面における底面、主面及び側面全体(底面から開口部に至る領域)にアルマイト被膜11aが形成されているため、図2のように封口板が配されてなる頂面のみを覆うだけ、つまり外装缶11の頂面とカバー体20とが突き合わされた状態とするだけで外装缶11においてAl合金材料の露出部分が無くなりパック電池1の絶縁性が確保される。
【0029】
カバー体20の配設によって、封口板12における絶縁性が確保される。電極体を外装缶11内に収納後に外装缶11開口部に封口板12を接合する必要があるため、予め接合部(レーザ溶着部)にはアルマイト被膜11aを形成せずにAl合金材料を露出させる必要がある。これはアルマイト被膜11aが形成されていると、溶着強度を十分に確保できないからである。そのため、図2拡大図に示すように、溶着に必要な領域A、つまり外装缶11の開口部端面11fにはアルマイト被膜11aが形成されていないことが必要となる。そこで、本実施形態では、外装缶11に関しては上記のとおり、底面、主面及び側面には全面に渡りアルマイト被膜11aを形成させているが、開口部端面11fには全くアルマイト被膜11aが形成しない状態としている。
【0030】
本実施形態に係るカバー体20は、素電池10において絶縁性が確保されていない頂面を被覆する大きさに設定されている。つまり、図2拡大図に示すように、カバー体20における外面(Y方向側端面)位置が、外装缶11の外表面(Y方向側端面)位置に略一致するように設定されている。また、当図では外装缶11の幅方向(Y方向)に沿った大きさのみを示しているが、外装缶11の厚み方向(図1におけるZ方向)に沿った大きさに関しても、同様にカバー体20と外装缶11とは略同じ大きさに設定されている。ただし、上記幅方向及び厚み方向における長さはいずれも、カバー体20の長さは、外装缶11の長さより大きくなることはないものとする。よって、カバー体20を素電池10の頂面に配しても、パック電池1の幅及び厚みは大きくならない。
(2−3)本実施形態に係る溶着に関して
本実施形態では、外装缶11の外表面のうち、開口部側端部にまでアルマイト被膜11aが形成されている点に特徴を有し、パック電池1の薄肉小型化の観点で有用性を備えている。この点について具体的に説明すると、本実施形態では、図2拡大図のとおり、外装缶11の開口部において、その内周面に封口板12を接触させた状態で、当該接触部のうち外方空間に臨む部分A部で溶着が行われるが、仮に、封口板12を外装缶11の開口部端面11fに接触させた状態で溶着する場合には、溶着部分はB部となる。このとき、B部における溶着強度を劣化させないために、外装缶11の外表面において開口部側の端部20aにはアルマイト被膜が形成されない。つまり、上記端部20aでは、Al合金材料が外方に露出した状態となる。このように、外装缶11の外表面にアルマイト被膜が形成されていない領域(例えば、上記端部20a)が設けられる場合、カバー体20には、一点鎖線L1で示すように上記端部20aを覆う形状が必要となるが、この場合、カバー体20はY方向にd2の長さだけ外装缶11よりも大きくなる。
【0031】
一方、本実施形態に係る溶着を行うことでA部分が溶着部となり、開口部端面11fだけが非アルマイト処理部であれば良く、カバー体20が上記端部20aに覆いかぶさるようにして形成されている必要もない。従って、カバー体20が配されてなるパック電池1は上記端部20aを覆うようなカバー体が配されてなるパック電池よりも小型化が実現されている。
3.アルマイト被膜11aの形成方法
そこで、上記アルマイト被膜11aを備える外装缶11の形成方法について図3を用いて説明する。図3は、外装缶がアルマイト処理されるまでの手順を示す斜視図である。本形成方法は、アルマイト処理の前に行う予備ステップと、アルマイト処理を行うアルマイト処理ステップと、アルマイト処理の後に行うカットステップとからなる。
(3−1)予備ステップ
先ず、予備ステップについて図3を用いて説明する。なお、後述しているが、本ステップで用いられる外装缶と、素電池10の構成要素として利用される外装缶11とは大きさが異なるため、便宜上、本ステップにおける外装缶を第1外装缶110と記す。
【0032】
第1外装缶110は、Al合金材料からなり、高さH1、幅W1を有し、図3(a)のとおり、高さH1は上記素電池の高さHよりも大きい。
複数の第1外装缶110を、図3(b)のように、平板210と、平板210の主面方向と垂直な面方向に沿って延出する一対の延出部を有する支持部材220とが組み合わされた冶具200に設置する。第1外装缶110はその内表面が支持部材220に接することで固定され、平板210の主面方向と垂直方向に立設される。支持部材220は立設状態の第1外装缶110の幅方向(Y方向)に沿って長さW2を開けて延出している。当該W2の大きさは第1外装缶110の幅の大きさW1よりも若干大きいが、ほぼ同等の大きさである。第1外装缶110が立設状態のとき、支持部材220は僅かながらY方向に閉じる状態となり、第1外装缶110は支持部材220のY方向へ拡がる弾性力を受けて支持される。なお、第1外装缶110の内方空間は平板210によって密閉されている。
【0033】
次に、上記のように冶具200に固定された複数の第1外装缶110を、図3(c)のようにアルマイト処理液310が注入されたアルマイト処理槽300内に収納する。アルマイト処理液310には、電解液として希硫酸を用いる。このとき、各々の第1外装缶110における外表面の全面がアルマイト処理液310中に浸っている状態とする。
(3−2)アルマイト処理ステップ
予備ステップの後、アルマイト処理液310に浸っている第1外装缶110に対してアルマイト処理を行う。アルマイト処理とは、電解液中においてAlまたはAl合金を陽極としてその表面を酸化させて、そのAlまたはAl合金表面に酸化被膜を形成させる陽極酸化処理である。なお、本実施形態に係るアルマイト処理の概略模式図を図4に示す。
【0034】
予め、支持部材220を陽極として電気接続された状態とし、負極にはカーボン320を用いて直流電流を流す。これにより、支持部材220に接触する第1外装缶110も陽極として機能し、電解液中で電解が進行する。陽極として機能する第1外装缶110の外表面には酸化アルミニウムの被膜(アルマイト被膜)11aが形成され、負極からは水素が発生する。なお、負極に用いる材料はカーボンに限定されず、鉛などを用いて第1外装缶110の表面に、酸化アルミニウム被膜の形成に寄与するものであれば適用可能である。また、上記工程の前に、バフ研磨やヘアーラインなどの予備処理、脱脂やエッチングなどの清浄工程を行うことで、品質性能の高いアルマイト被膜11aを形成できる。
【0035】
上記方法によって形成されるアルマイト被膜11aは、Al合金、電解液の種類、電流波形の組み合わせ次第で色調も変更でき、さらに、Ni、Sn、Cu、Agなどの水溶液を用いて電解工程を実施することで、上記アルマイト被膜11aの上に別の皮膜も形成でき、さらなる着色も可能となる。従って、パック電池1形成の際に利用されるカバー体20やパック電池1が装着される電子機器の色調に合わせて、第1外装缶110の色調も適宜変更でき、パック電池1の外観品質の向上に繋がる。
【0036】
アルマイト処理に関してはその他にも、通常温度よりも低温下でアルマイト処理を行い、電流密度を上げる等のアルマイト処理で硬質アルマイト被膜を形成できる。硬質アルマイト被膜は、通常のアルマイト被膜よりも耐久性が大きいため有効である。
(3−3)カットステップ
アルマイト処理ステップの後に、アルマイト被膜11aが形成され、高さH1を有する第1外装缶111の端縁部を切断して所定の高さHにする。なお、説明の便宜上、アルマイト処理後の第1外装缶を第2外装缶111と記し、切断後の第2外装缶を第3外装缶11と記す。本ステップに関しては図5を用いて説明する。図5は、第3外装缶11の形成手順を示す斜視図である。
【0037】
図5(a)に示すように、アルマイト処理ステップ後の第2外装缶111は、主面、側面、底面の全てにアルマイト被膜11aが形成されている。一方、第2外装缶111の開口部端面11g及び内表面は、上記アルマイト処理ステップにおいて、第1外装缶110と平板210との接触によって第1外装缶110の内方空間は密閉されており、アルマイト被膜は形成されない。ただし、上述のとおり、簡易な冶具のみでアルマイト処理を行うため、平板210と上記開口部端面との間にもアルマイト処理液が侵入する恐れはある。特に、素電池の製造工程において、それぞれの第2外装缶111の開口部端面11gに対してアルマイト被膜の有無を検査し、さらに個別的にアルマイト被膜の除去を行うことは製造コストの面で好ましくはない。
【0038】
そこで、それぞれの第2外装缶111に対して一律に、図5(b)のように、第2外装缶111の開口部端縁部111aを切断除去し、残存部分となる第3外装缶11を素電池10の構成要素として用いる。この第3外装缶11の開口部端面11fにはアルマイト被膜は形成されておらず、上記溶着強度の劣化を招くことはない。なお、上記切断は、第3外装缶11が所定の高さHを有し、開口部端面が第3外装缶111の底面と同一の面方向(YZ平面)になるように行う。
【0039】
本ステップのようにすることで、外装缶11の開口部の端面およびその近傍領域がアルマイト処理されないように予めマスキング工程等を行う必要もなく、開口部端面に形成されたアルマイト被膜を除去する工程を行う必要もない。本実施形態の方法とは異なり、例えば、所定の高さHを有する外装缶素体を予め準備し、当該外装缶素体の開口部端面も含むようにアルマイト被膜を形成し、その後、開口部端面に形成されたアルマイト被膜のみを研磨等によって除去したとしても、完全に除去することは難しい。このような場合、開口部端面は残留するアルマイト被膜によって粗状態となり、封口板の溶着強度の劣化を招く。特に、多くの素電池11を製造する状況下では、作製された素電池11ごとに上記研磨除去の精度が異なり、素電池、もしくはパック電池の製造工程における歩留の向上を妨げる恐れもある。仮に研磨等の物理的手段ではなく化学的手段を用いて剥離させたとしても、開口部の端面部分のみに対して化学的手段を実行することは容易ではない。また、磨除去等の場合、形成された開口部端面の面方向が外装缶11の高さ方向に垂直な面方向と一致しないことも考えられる。
【0040】
これに対して本実施形態では、切断除去を行っているため、開口部端面には完全にアルマイト被膜が存在しない状態にすることが容易であり、作製される外装缶11の高さ調整も容易となる。特に、本実施形態の製造方法による素電池10であれば、上記のように簡易な方法で封口板との強固な溶着強度を確保し得る外装缶11を作製できる。また、アルマイト処理ステップ後の外装缶11に対して個別に研磨等の除去工程を実行することと比較して、単に切断工程を含めるだけで上記の外装缶11を得ることができるため製造コストの面で大きな優位性を備える。
【0041】
また、アルマイト被膜11aが形成されている部分に直接に印字加工を行い、電池の仕様や定格などを表示させる。印字加工としては、アルマイト被膜11aに直接印字加工を施すことができれば、ホットスタンプを用いた印刷、パッド印刷やレーザーマーキングなども適用可能である。なお、印字加工は、第3外装缶11に対して実施するだけでなく、切断される開口部端縁部111aを除いた部分に印字を実行する場合であれば、カットステップ前の第2外装缶に対して行っても構わない。
4.パック電池1の製造
上記ステップを経て作製された第3外装缶11の内方に電極体を収納し、第3外装缶11の開口部を封口板12によって封口して素電池10を形成する。その後、上記カバー体20に上記封口部を覆うステップを経てパック電池1を製造する。
【0042】
素電池10を形成する際には、既に第3外装缶11の外表面にはアルマイト被膜11aが形成されて絶縁性が確保されている。そのため、絶縁シートなどの被覆材を外装缶11とは別に付着させる必要がなく、パック電池1の薄肉小型化に貢献する。特に、パック電池1の製造過程において、外装缶を形成した後に別部材を付着させることは、簡易とは言えない。つまり、外観品質を良好に保つためには、煩雑な製造工程を経る場合もあり、本実施形態のように簡易な方法を用い、さらに絶縁シート等の貼着工程を削除できることはパック電池1の製造コストの面からも好ましい。
【0043】
素電池1の形成後には、上記カバー体20を素電池10に螺合接合する。当該接合は、螺合による締付け力によって、素電池10の正負極端子と、保護制御回路30と、カバー体20を一体的に接合でき、比較的容易に実施可能であり、特別な設備機器を必要とするものでもない。従って、パック電池1の製造工程上、時間的及びコスト的にも好ましい。また、パック電池1の製造後においてパック電池1の性能検査が行われるが、その検査によりカバー体20に覆われている部分、例えば保護回路基板30に不良箇所などが発見された場合には、その締付け力を弱めることで容易にカバー体20を素電池10から取り外すことができる。従って、上記カバー体20が樹脂がモールドされて成型されるようなものであれば、部分的な故障のためにパック電池1全体の使用が不可能となるが、本実施形態のパック電池1であれば、保護回路基板30等を修理又は取り替えるだけで上記故障を解消することも可能となる。
(その他の事項)
本実施形態に係る外装缶は全て主面及び側面が底面から垂直に交差する面形状となっているが、仮に主面及び側面と底面とで形成されるコーナー部が、R加工されたコーナー部であっても構わない。このとき、外装缶においてアルマイト処理がされている側壁の端部とは、R加工された部分を含み、且つその近傍領域とする。また、外装缶開口部側がR加工されている場合であっても同様である。
【0044】
本実施形態に係る第3外装缶11には、その外表面にのみアルマイト処理が施されているが、内表面にもアルマイト処理が施されていても構わない。ただし、その場合、封口板12と接触する第3外装缶11の内表面にはアルマイト被膜が形成されていないことが必要となる。また、溶着などによる封口が確実な強度をもって成される場合には上記封口板12にもアルマイト処理を施しても構わない。上記電極体などに影響を与える恐れがない場合であれば、さらに封口板12によって外装缶11が封止された後においてもアルマイト処理を施しても構わない。
【0045】
また、本実施形態では第2外装缶の開口部端縁部を切断除去しているが、例えば、当該端縁部を削り取るような方法、もしくは化学的手段を用いて剥離させるような方法を用いても同様の効果を得ることができるため適用可能である。
本実施形態ではリチウムイオン電池を用いているが、他の密閉二次電池でも構わない。また、外装缶は底面、主面及び側面の全面に渡ってアルマイト被膜が形成されているが、例えば、パック電池の中央部近傍の電流検査等を実施するための検査部分として、アルマイト被膜が形成されていない微小領域が形成されていても、実質的に外装缶の外表面の全体にアルマイト被膜が形成されていれば構わない。また、外装缶11の材質に関しても、Alを含む材料からなるものであれば適用可能である。また、封口板との接触部分を除く場合であれば外装缶の内表面に上記アルマイト被膜が形成されていて構わない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、特に、薄型化や軽量化などを図ると共に長期的に安定して電力流通を行うことのできるパック電池の作製に関して有用である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施形態に係るパック電池の展開斜視図である。
【図2】実施形態に係るパック電池の頂部領域の断面図である。
【図3】実施形態に係る外装缶のアルマイト処理前の工程斜視図である。
【図4】実施形態に係るアルマイト処理の概略模式図である。
【図5】実施形態に係るパック電池に用いられるアルマイト被膜を備えた外装缶を作製するための工程斜視図である。
【図6】従来の形態に係るパック電池の展開斜視図である。
【符号の説明】
【0048】
1 パック電池
10 素電池
11 外装缶
11a アルマイト被膜
11b 外装缶素体
12 封口板
13 印字加工部
20 カバー体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム含有材料からなる有底筒状の外装缶を有し、前記外装缶の開口部が封口板によって封口されている素電池であって、
前記外装缶の外表面における底面を含み、且つ前記外表面の側壁における前記底面側の端部から前記開口部側の端部に至る領域が陽極酸化処理されている
ことを特徴とする素電池。
【請求項2】
前記封口板は、前記外装缶の内周面に接した状態で接合されており、
前記接合は、前記封口板と前記外装缶との接触部分が溶着されてなる
ことを特徴とする請求項1に記載の素電池。
【請求項3】
前記陽極酸化処理がされている外装缶部分に対し、所定のパターン又は文字が食刻または印字により付されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の素電池。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の前記素電池において前記封口板が配されている頂面には、当該頂面に突き合わせられ、且つ、前記封口板を被覆するカバー体が配されている
ことを特徴とするパック電池。
【請求項5】
前記素電池を過充電又は過放電から電気的に保護し、且つ、前記素電池の正極端子及び負極端子の各々に対して電気的に接続される接続リードを有する保護回路基板が備えられ、
前記カバー体は、前記正極端子及び負極端子と前記保護回路基板とが覆われる状態で前記封口板に対して螺合接合されており、
前記螺合接合の締付け力により、前記正極端子及び負極端子の各々と、前記保護回路基板における各接続リードとの接続がなされている
ことを特徴とする請求項4に記載のパック電池。
【請求項6】
アルミニウム含有材料で作製された有底筒型の外装缶素体の外表面に対して、底面を含み、且つ当該底面側の端部から開口部側端部にかけて陽極酸化処理を行う酸化ステップと、
前記酸化ステップの後に、前記外装缶素体の開口部側端縁部を除去して外装缶を作製する外装缶作製ステップと、
前記外装缶作製ステップの後に、前記外装缶の開口部を封口板で封口する封口ステップを行う
ことを特徴とする素電池の製造方法。
【請求項7】
前記封口ステップにおいて、
前記封口板を前記外装缶の内周面に接するように配し、前記封口板と前記外装缶との接触部のうち、外方空間に臨む部分を溶着する
ことを特徴とする請求項6に記載の素電池の製造方法。
【請求項8】
前記酸化ステップの後に、陽極酸化処理を行った外装缶部分に対し、所定のパターン又は文字を食刻または印字によって付す
ことを特徴とする請求項7に記載の素電池の製造方法。
【請求項9】
請求項6から8のいずれかに記載の素電池の製造方法によって素電池を製造する素電池製造ステップと、前記封口板が配されている前記素電池の頂面を覆うようにカバー体を配設するカバー体配設ステップとを有し、
前記カバー体配設ステップにおいて、
前記素電池を過充電又は過放電から電気的に保護する保護回路基板を、前記素電池の正極端子及び負極端子の各々に対して電気的に接続するようにして前記封口板に対して螺合接合し、
前記螺合接合の締め付け力により、前記正極端子及び前記負極端子の各々と、前記保護回路基板との接続を行う
ことを特徴とするパック電池の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−287514(P2007−287514A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−114524(P2006−114524)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】