説明

紫外線センサおよびその製造方法

【課題】紫外線センサにおいて、より高い感度を得られるとともに、より高い波長選択性を得られるようにする。
【解決手段】(Ni,Zn)O層2と、(Ni,Zn)O層2の一方主面の一部を覆うように、スパッタリング法により形成されるたとえばZnOを含む酸化物半導体からなる薄膜材料層4とを含む積層体5を備え、さらに、(Ni,Zn)O層2と薄膜材料層4との接合部6の少なくとも一部を露出させた状態で積層体5の外表面上に形成され、かつ(Ni,Zn)O層2に電気的に接続される、第1の端子電極7と、上記接合部6の少なくとも一部を露出させた状態で積層体5の外表面上に形成され、かつ(Ni,Zn)O層2および薄膜材料層4の双方に電気的に接続される、第2の端子電極8と、第1の端子電極7に電気的に接続されながら、(Ni,Zn)O層2内に形成される、内部電極9とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、紫外線センサおよびその製造方法に関するもので、特に、ヘテロ接合を形成する積層構造を有するダイオード型の紫外線センサおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この発明にとって興味ある背景技術として、たとえば特許第3952076号公報(特許文献1)に記載されるものがある。特許文献1には、n型半導体のZnO層とp型半導体の(Ni,Zn)O層とを積層した構造を有する紫外線センサが記載されている。特許文献1に記載される紫外線センサは、より詳細には、ZnO層と、これに接するように設けられる(Ni,Zn)O層と、ZnO層に電気的に接続される第1の端子電極と、(Ni,Zn)O層に電気的に接続される第2の端子電極とを備える。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の紫外線センサには、次のような解決されるべき課題がある。
【0004】
第1に、特許文献1に記載の紫外線センサは、ZnO層が紫外線の受光側に位置されるように用いられる。このとき、ZnO層は比較的高い透光性を有しているものの、紫外線が、ZnO層中を透過して、ZnO層と(Ni,Zn)O層との界面に達する必要があるため、ZnO層を透過する際に紫外線が減衰して、感度が低下してしまう。
【0005】
第2に、特許文献1に記載の紫外線センサの感知する紫外線の波長幅は、約200〜400nm(たとえば、特許文献1中の表2の試料2では、198〜365nm)であり、広い範囲において感度を有している。一方、紫外線には、中波長紫外線UVB(290〜320nm)および長波長紫外線UVA(320〜400nm)があるが、有害な中波長紫外線UVBのみを感知するなどの用途には不向きである。
【0006】
第3に、特許文献1には、表面実装型の紫外線センサとして、その図5や図6に示された構造のものが提案されているが、ZnO層および(Ni,Zn)O層の各々と端子電極との間に、高抵抗部分(絶縁部)を介在させる必要があり、製造方法が煩雑となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3952076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明の目的は、上述のような課題を解決し得る、紫外線センサおよびその製造方法を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る紫外線センサは、上述した技術的課題を解決するため、ZnOがNiOに固溶してなる酸化物半導体からなる、(Ni,Zn)O層と、(Ni,Zn)O層の一方主面の一部を覆うように、スパッタリング法により形成される、薄膜材料層とを含む積層体を備え、さらに、(Ni,Zn)O層と薄膜材料層との接合部の少なくとも一部を露出させた状態で積層体の外表面上に形成され、かつ(Ni,Zn)O層に電気的に接続される、第1の端子電極と、(Ni,Zn)O層と薄膜材料層との接合部の少なくとも一部を露出させた状態で積層体の外表面上に形成され、かつ(Ni,Zn)O層および薄膜材料層の双方に電気的に接続される、第2の端子電極と、第1の端子電極に電気的に接続されながら、(Ni,Zn)O層内に形成される、内部電極とを備えることを特徴としている。
【0010】
この発明に係る紫外線センサにおいて、薄膜材料層は、ZnOを含む酸化物半導体からなることが好ましい。
【0011】
上述のZnOを含む酸化物半導体からなる薄膜材料層(以下、「ZnO系薄膜材料層」と言う。)は、In、GaおよびAlの各酸化物から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0012】
また、ZnO系薄膜材料層は、Mgの酸化物を含んでいてもよい。
【0013】
この発明に係る紫外線センサは、ZnO系薄膜材料層を備える場合、好ましくは、光受光感度の半値幅が60nm以下である。
【0014】
この発明の他の実施態様では、薄膜材料層は、Auを含む金属から構成されたり、ITO(錫ドープ酸化インジウム)から構成されたりする。
【0015】
この発明は、また、上述した紫外線センサを製造する方法にも向けられる。
【0016】
この発明に係る紫外線センサの製造方法は、内部電極を内蔵した(Ni,Zn)O層となるべきグリーン成形体を作製する工程と、グリーン成形体を焼成し、それによって、内部電極を内蔵した(Ni,Zn)O層を得る工程と、(Ni,Zn)O層の一方主面の一部を覆うように、薄膜材料層をスパッタリング法により形成する工程とを備えることを特徴としている。
【0017】
この発明に係る紫外線センサの製造方法において、グリーン成形体を焼成する工程は、ZnOを含むセッターまたはシート上にグリーン成形体を配置した状態で実施されることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
この発明に係る紫外線センサによれば、(Ni,Zn)O層と薄膜材料層との接合部の少なくとも一部が露出した構造を有しているので、検出されるべき紫外線は、薄膜材料層を透過して上記接合部にまで到達する必要がなく、接合部が、直接、紫外光に照射される。したがって、薄膜材料層を透過する際の紫外線の減衰によって、紫外線センサの感度が低下してしまうという問題を回避することができる。
【0019】
また、この発明において、ZnO系薄膜材料層を適用した場合、光受光感度の半値幅がたとえば60nm以下というように、波長選択性の比較的高い紫外線センサを実現することができる。本件発明者による研究の結果、ZnO系薄膜材料層を形成するために採用される方法によって、高い検出感度を示す波長領域が大きく左右されることがわかった。すなわち、前述の特許文献1に記載の紫外線センサでは、ZnO層は焼成によって形成された焼結体であり、そのため、紫外線センサの感知する紫外線の波長幅は、前述したように、約200〜400nmと広い。他方、ZnO系薄膜材料層をスパッタリング法により形成すると、上述のように、一定の波長のみに強い感度特性を持つことがわかった。
【0020】
また、薄膜材料層がITOから構成されると、300〜400nmに波長選択性を持たせることができ、Auを含む金属から構成されると、300nm以下の波長範囲にも感度を持つ紫外線センサを実現することができる。
【0021】
したがって、この発明に係る紫外線センサによれば、たとえばフィルタを用いることなく、波長選択を行なうことができる。そのため、波長選択が必要な場合であっても、紫外線センサの大型化や高コスト化を招かないようにすることができる。
【0022】
また、この発明に係る紫外線センサによれば、薄膜材料層がZnO焼結体からなる場合に比べて、応答速度を格段に高くすることができる。これは、薄膜材料層の抵抗が低く、かつ、薄いためであると推測される。これに関して、薄膜材料層が、ZnO系薄膜材料層であり、In、GaおよびAlの各酸化物から選ばれる少なくとも1種を含んでいると、キャリアの増加がもたらされることから、薄膜材料層の抵抗をより下げるように作用し、応答速度をより高くすることができる。
【0023】
また、この発明に係る紫外線センサによれば、薄膜材料層が(Ni,Zn)O層の一部を覆う構造とされているので、高抵抗部部分(絶縁部)を必要としない。よって、表面実装型の紫外線センサを得るにあたって、その製造方法を簡素化することができる。
【0024】
この発明に係る紫外線センサにおいて、薄膜材料層がZnO系薄膜材料層であり、かつMgの酸化物を含んでいると、その含有量の増加に伴って、紫外線感度のピーク波長を短波長側へシフトさせることができる。したがって、紫外線センサの用途に応じて、最大感度を示す最適の波長を容易に得ることができる。
【0025】
この発明に係る紫外線センサの製造方法によれば、(Ni,Zn)O層は(Ni,Zn)O焼結体から構成されるが、このような焼結体である(Ni,Zn)O層の表面については、焼成時においてZnOが昇華して組成ずれを起こしやすく、材料組成が不所望にも変わってしまうことがあるが、(Ni,Zn)O層となるべきグリーン成形体を焼成する工程を、ZnOを含むセッターまたはシート上にグリーン成形体を配置した状態で実施するようにすれば、(Ni,Zn)O層の表面のZnO濃度を適宜コントロールすることができる。そのため、(Ni,Zn)O層の表面の材料組成が不所望にも変わることが防止され、その結果、感度特性が損なわれることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の一実施形態による紫外線センサ1を示す断面図である。
【図2】実験例1において作製した試料2に係る紫外線センサと比較例に係る紫外線センサとについての分光感度を示す図である。
【図3】実験例1において作製した試料1〜6に係る紫外線センサについての分光感度を示す図である。
【図4】実験例2において作製した試料11および12に係る紫外線センサについての分光感度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、この発明の一実施形態による紫外線センサ1を示す断面図である。
【0028】
紫外線センサ1は、ZnOがNiOに固溶してなる酸化物半導体からなる、(Ni,Zn)O層2と、(Ni,Zn)O層2の一方主面3の一部を覆うように形成される、薄膜材料層4とを含む積層体5を備えている。
【0029】
さらに、紫外線センサ1は、上記(Ni,Zn)O層2と薄膜材料層4との接合部6の少なくとも一部を露出させた状態で積層体5の外表面上に形成され、かつ(Ni,Zn)O層2に電気的に接続される、第1の端子電極7と、(Ni,Zn)O層2と薄膜材料層4との接合部6の少なくとも一部を露出させた状態で積層体5の外表面上に形成され、かつ(Ni,Zn)O層2および薄膜材料層4の双方に電気的に接続される、第2の端子電極8と、第1の端子電極7に電気的に接続されながら、(Ni,Zn)O層2内に形成される、内部電極9とを備えている。
【0030】
このような紫外線センサ1において、薄膜材料層4はスパッタリング法によって形成されることを特徴としている。なお、図1では、薄膜材料層4は、第2の端子電極8上に一部乗り上げた状態で形成されているが、これは、製造工程順序に起因するもので、端子電極7および8を形成した後、薄膜材料層4を形成したためである。端子電極7および8の形成には、焼付け法が適用されるが、スパッタリング法によって形成された薄膜材料層4が、焼付け時に劣化してしまうことを避けるため、上記のような製造工程順序が採用されることが好ましい。
【0031】
上述した薄膜材料層4は、ZnOを含む酸化物半導体から構成されることが好ましい。
【0032】
薄膜材料層4がZnOを含む酸化物半導体から構成される場合、すなわち、薄膜材料層4がZnO系薄膜材料層である場合、この紫外線センサ1における特性発現は、ZnOのバンドギャップによる紫外線吸収特性が主となるものであって、p型半導体であるZnO系薄膜材料層4とn型半導体である(Ni,Zn)O層2との接合部6にできる障壁に対し、量子効果が付与され、増幅されて感度特性が発生する。そして、この紫外線センサ1では、p型の(Ni,Zn)O層2とn型のZnO系薄膜材料層4との接合部6が露出しており、この接合部6に形成される空乏層に紫外線10が当たったとき、ここにキャリアが励起され、光電流が生じ、この光電流を第1および第2の端子電極7および8間で検知することによって、紫外線10を検知することができる。
【0033】
上述の光電流は、たとえば、次のように検知される。図1に示すように、内部電極9側の第1の端子電極7がマイナスとなり、ZnO系薄膜材料層4側の第2の端子電極8がプラスとなるように、直流電源11によって所定のバイアス電圧が印加される。このときのバイアス電圧が電圧計12によってモニタリングされる。そして、この状態で、紫外線センサ1の、ZnO系薄膜材料層4が形成された側の外表面に紫外線10が照射され、このとき、紫外線センサ1に流れる光電流が電流計13によって計測される。
【0034】
(Ni,Zn)O層2は、(Ni1−xZn)Oで表される組成を有するものであるが、xは0.2≦x≦0.4の範囲とされることが好ましい。これによって、良好な感度を安定して得ることができるからである。xが0.2未満では、(Ni,Zn)O層2の抵抗が上昇して、紫外線センサ1の出力が低下することがある。他方、xが0.4を超えると、(Ni,Zn)O層2が焼成により得られる場合、(Ni,Zn)O層2中にZnO粒子が発生し、ZnO系薄膜材料層4との間で良好な接合界面が得られず、紫外線センサ1の出力が低下することがある。
【0035】
薄膜材料層4は、ZnOを含む酸化物半導体に代えて、Auを含む金属から構成されたり、ITOから構成されたりしてもよい。
【0036】
この紫外線センサ1は、たとえば、次のようにして製造される。
【0037】
まず、内部電極9を内蔵した(Ni,Zn)O層2となるべきグリーン成形体が作製される。より詳細には、(Ni,Zn)O層2となるべき複数のグリーンシートが用意され、所定のグリーンシート上に内部電極9のための導電性ペースト膜が印刷により形成され、この導電性ペースト膜が形成されたグリーンシートを含む複数のグリーンシートが、所定の順序で積層されかつ圧着されることによって、グリーン成形体が得られる。上記内部電極9のための導電性ペースト膜は、導電成分として、たとえばPdを含む。
【0038】
次いで、グリーン成形体が焼成される。この焼成工程は、ZnOを含むセッターまたはシート上にグリーン成形体を配置した状態で実施することが好ましい。これによって、ZnO雰囲気をコントロールし、(Ni,Zn)Oの焼成時に生じやすいZnOの昇華による組成ずれを抑制することができる。このようにして、内部電極9を内蔵した(Ni,Zn)O層2が得られる。
【0039】
次に、上記(Ni,Zn)O層2の各端部に第1および第2の端子電極7および8が形成される。端子電極7および8は、たとえば、Agを含む導電性ペーストを塗布し、焼き付けることにより、下地層を形成し、その上に、NiめっきおよびSnめっきを順に施すことによって形成される。
【0040】
次に、(Ni,Zn)O層2の一方主面3の一部を覆うように、所定のパターンをもって、薄膜材料層4がスパッタリング法により形成され、それによって、紫外線センサ1が完成される。
【0041】
以上説明した紫外線センサ1によれば、(Ni,Zn)O層2と薄膜材料層4との接合部6の少なくとも一部が露出した構造を有しているので、検出されるべき紫外線10は、直接、接合部6に達する。したがって、高い感度を得ることができる。
【0042】
また、薄膜材料層4がスパッタリング法によって形成されるため、光受光感度の半値幅がたとえば60nm以下というように、波長選択性の比較的高い紫外線センサ1を実現することができる。
【0043】
また、紫外線センサ1は、高い応答速度を有している。これは、薄膜材料層4の抵抗が低く、かつ、薄いためであると推測される。これに関して、薄膜材料層4が、ZnOを含む酸化物半導体からなる場合であって、In、GaおよびAlの各酸化物から選ばれる少なくとも1種を含んでいると、キャリアの増加がもたらされることから、薄膜材料層4の抵抗をより下げるように作用し、応答速度をより高くすることができる。
【0044】
また、最大感度を示す波長を調整するため、薄膜材料層4がZnOを含む酸化物半導体からなる場合、薄膜材料層4にMgの酸化物を含ませることが有効である。すなわち、薄膜材料層4におけるMgの酸化物の含有量を増加させると、紫外線感度のピーク波長を短波長側へシフトさせることができる。
【0045】
次に、この発明による効果を確認するために実施した実験例について説明する。この実験例では、図1に示す実施形態に基づき、試料となる紫外線センサを作製した。
【0046】
[実験例1]
まず、ZnO系薄膜材料層をスパッタリング法によって形成するにあたって用いられるスパッタリング用ターゲットを作製するため、ZnO、ならびにIn、Ga、AlおよびMgOの各原料無機粉末を、それぞれ、表1に示した組成となるように秤量し、これに純水を加え、PSZ(部分安定化ジルコニア)ビーズをメディアとしてボールミルにて平均粒径0.5μm以下となるように混合粉砕処理した。
【0047】
次いで、混合粉砕処理後のスラリーを脱水乾燥し、50μmの程度の粒径となるように造粒した後、1200℃の温度で2時間仮焼した。次に、このようにして得られた仮焼粉末に、再び、純水を加え、PSZビーズをメディアとしてボールミルにて平均粒径0.5μmになるまで混合粉砕処理した。
【0048】
次に、この混合粉砕処理後のスラリーを脱水乾燥した後、有機溶剤および分散剤を加えて混合し、さらにバインダおよび可塑剤を加えて成形用のスラリーとし、このスラリーにドクターブレード法を適用して、厚み20μmのグリーンシートを得た。
【0049】
これらグリーンシートを、厚み20mmになるように積層し、250MPaの圧力で5分間圧着した。そして、得られた圧着体をゆっくり脱脂した後、1200℃で20時間焼成して、スパッタリング用ターゲットを得た。
【0050】
【表1】

【0051】
他方、(Ni,Zn)O層となるべきグリーンシートを作製するため、NiO粉末およびZnO粉末を、NiO:ZnOモル比で70:30の割合となるように配合し、これに純水を加え、PSZビーズをメディアとしてボールミルにて混合粉砕処理した。
【0052】
次いで、混合粉砕処理後のスラリーを脱水乾燥し、50μmの程度の粒径となるように造粒した後、1200℃の温度で2時間仮焼した。次に、このようにして得られた仮焼粉末に、再び、純水を加え、PSZビーズをメディアとしてボールミルにて平均粒径0.5μmになるまで混合粉砕処理した。
【0053】
次に、この混合粉砕処理後のスラリーを脱水乾燥した後、有機溶剤および分散剤を加えて混合し、さらにバインダおよび可塑剤を加えて成形用のスラリーとし、このスラリーにドクターブレード法を適用して、(Ni,Zn)O層となるべき厚み10μmのグリーンシートを得た。
【0054】
次に、内部電極となる導電性ペースト膜を形成するため、上記(Ni,Zn)O層となるべき特定のグリーンシート上に、Pdおよびビヒクルを含むペーストを印刷し、60℃で1時間乾燥させた。
【0055】
次に、上述した(Ni,Zn)O層用グリーンシートを20枚、その上に内部電極となる導電性ペースト膜を印刷した(Ni,Zn)O層用グリーンシートを1枚、順次積層し、これらを20MPaの圧力で圧着した後、3.2mm×1.6mmの寸法にカットした。
【0056】
次に、上述のようにしてカットされたグリーン成形体を、300℃の温度でゆっくりとかつ十分に脱脂した後、前述のスパッタリング用ターゲット作製時に作製されたZnO含有グリーンシート上に置いた状態で、1250℃の温度で5時間焼成し、内部電極を内蔵する、焼結した(Ni,Zn)O層を得た。
【0057】
次に、粒径3mmのアルミナビーズとともに、上記(Ni,Zn)O層をポットに入れ、遊星ミルを用いてバレリングを施した。
【0058】
次に、上記(Ni,Zn)O層の各端部に、Agを含有する導電性ペーストを塗布し、800℃の温度で焼き付け、さらに、Ni、Snの順に電解めっきを施し、第1および第2の端子電極を形成した。
【0059】
次に、前述のようにして用意されたスパッタリング用ターゲットを用いて、上記(Ni,Zn)O層の一方主面の一部を覆うように、ZnO系薄膜材料層をスパッタリング法によって、約0.5μmの厚みをもってパターン形成して、試料となる紫外線センサを得た。
【0060】
他方、比較例として、前述の特許文献1の図6に示した構造の紫外線センサを作製した。
【0061】
以上のようにして得られた各試料に係る紫外線センサについて、薄膜材料層側の端子電極がプラスとなり、内部電極に接続する端子電極がマイナスとなるように、1Vのバイアス電圧をかけ、暗室において、分光器を装着した紫外線光源から特定波長の紫外線光を薄膜材料層側の外表面に照射し、試料としての紫外線センサに流れる光電流を計測した。ここで、上記光の照射強度は、1μW〜10mW/cmとし、測定温度は、25℃±1℃となるようにコントロールした。
【0062】
この結果が図2および図3に示されている。図2では、試料2に係る紫外線センサと比較例に係る紫外線センサとについての分光感度が示され、図3では、試料1〜6に係る紫外線センサについての分光感度が示されている。
【0063】
まず、図2からわかるように、この発明の範囲内にある試料2によれば、この発明の範囲外の比較例と比較して、光を感知する波長領域がかなり狭くなっている。この理由はZnOの結晶状態によるものと考えられる。
【0064】
また、図3から、ZnO系薄膜材料層にMgOを加えることにより、感度ピークが短波長側へシフトしていることがわかる。これは、必要な感度領域を選択することが可能であることを示している。
【0065】
なお、光のオン・オフ時の電流変化をトランジェントスコープで観察した結果、立上がり後、飽和値の60%にまで達する時間は、比較例で約5ミリ秒、この発明の範囲内にある試料1〜6では0.5マイクロ秒であり、この発明によれば、応答時間が比較例の約1/10000というように、応答スピードが格段に向上していることが確認された。これは、スパッタリング法によって形成されたZnO系薄膜材料層の方が、結晶方向が揃い、粒界抵抗などのキャリア移動阻害効果がなく、かつ、厚みが薄いため、素子抵抗が低く、キャリアが円滑に流れることによるものと推測される。
【0066】
また、焼成工程において、前述したZnO含有グリーンシートに代えて、ZnO含有グリーンシートを積層して得られたブロックを1250℃の温度で5時間焼成して得られたセッターを用いた場合であっても、同様の結果が得られた。
【0067】
なお、ZnO含有グリーンシートやZnO含有セッターを用いず、たとえば市販のZrOセッターを用いた場合には、(Ni,Zn)O層の表面が絶縁体化し、評価が不可能となる場合があった。原因は、(Ni,Zn)O層の特に表面のZnOが昇華し、絶縁体化したためであると推測される。
【0068】
[実験例2]
実験例1において得られた(Ni,Zn)O層の一方主面の一部を覆うように、スパッタリング法によって、厚みが約0.5μmのITOからなる薄膜材料層を形成したことを除いて、実験例1の場合と同様の工程を経て、試料11に係る紫外線センサを得た。
【0069】
同様に、実験例1において得られた(Ni,Zn)O層の一方主面の一部を覆うように、スパッタリング法によって、厚みが約0.5nmのTiを数モル%含んだAuからなる薄膜材料層を形成したことを除いて、実験例1の場合と同様の工程を経て、試料12に係る紫外線センサを得た。
【0070】
以上のようにして得られた試料11および12に係る紫外線センサについて、実験例1の場合と同様の条件にて、分光感度を求めた。その結果が図4に示されている。
【0071】
図4からわかるように、ITO系薄膜材料層を用いた試料11によれば、実験例1において作製したZnO系薄膜材料層を用いた紫外線センサと同様、300〜400nmに波長選択性を持つ紫外線センサを得ることができる。
【0072】
また、Au系薄膜材料層を用いた試料12によれば、300nm以下の波長範囲にも感度を持つ紫外線センサを得ることができる。
【0073】
これらのことから、薄膜材料層の材料を適宜選択することにより、所望の波長に感度を有する紫外線センサを実現し得ることがわかる。
【符号の説明】
【0074】
1 紫外線センサ
2 (Ni,Zn)O層
4 薄膜材料層
5 積層体
6 接合部
7 第1の端子電極
8 第2の端子電極
9 内部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnOがNiOに固溶してなる酸化物半導体からなる、(Ni,Zn)O層と、
前記(Ni,Zn)O層の一方主面の一部を覆うように、スパッタリング法により形成される、薄膜材料層と
を含む、積層体を備え、さらに、
前記(Ni,Zn)O層と前記薄膜材料層との接合部の少なくとも一部を露出させた状態で前記積層体の外表面上に形成され、かつ前記(Ni,Zn)O層に電気的に接続される、第1の端子電極と、
前記(Ni,Zn)O層と前記薄膜材料層との接合部の少なくとも一部を露出させた状態で前記積層体の外表面上に形成され、かつ前記(Ni,Zn)O層および前記薄膜材料層の双方に電気的に接続される、第2の端子電極と、
前記第1の端子電極に電気的に接続されながら、前記(Ni,Zn)O層内に形成される内部電極と
を備える、紫外線センサ。
【請求項2】
前記薄膜材料層が、ZnOを含む酸化物半導体からなる、請求項1に記載の紫外線センサ。
【請求項3】
前記薄膜材料層が、In、GaおよびAlの各酸化物から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項2に記載の紫外線センサ。
【請求項4】
前記薄膜材料層が、Mgの酸化物を含む、請求項2または3に記載の紫外線センサ。
【請求項5】
光受光感度の半値幅が60nm以下である、請求項2ないし4のいずれかに記載の紫外線センサ。
【請求項6】
前記薄膜材料層が、Auを含む金属からなる、請求項1に記載の紫外線センサ。
【請求項7】
前記薄膜材料層が、ITOからなる、請求項1に記載の紫外線センサ。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の紫外線センサを製造する方法であって、
前記内部電極を内蔵した前記(Ni,Zn)O層となるべきグリーン成形体を作製する工程と、
前記グリーン成形体を焼成し、それによって、前記内部電極を内蔵した前記(Ni,Zn)O層を得る工程と、
前記(Ni,Zn)O層の一方主面の一部を覆うように、前記薄膜材料層をスパッタリング法により形成する工程と
を備える、紫外線センサの製造方法。
【請求項9】
前記グリーン成形体を焼成する工程は、ZnOを含むセッターまたはシート上に前記グリーン成形体を配置した状態で実施される、請求項8に記載の紫外線センサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−87482(P2010−87482A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191996(P2009−191996)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】