説明

紫外線照射装置

【課題】 不要でありカットしたい光の波長域と所望な光の波長域とが接近している場合でも、光学フィルター等の付帯的部材を用いることなく、所望の波長域の光を効率よく照射することができる紫外線照射装置を提供する。
【解決手段】 主に紫外線を照射するための紫外線ランプと、該ランプの外周に水を流通させて該ランプを冷却する水冷ジャケットを備える紫外線照射装置において、ランプ発光管は普通石英ガラスから構成し、前記水冷ジャケットは、チタン、セリウム、スズ、バナジウムの酸化物が少なくとも1種以上添加した石英ガラス管から構成し、その表面温度をランプ動作中においても80℃以下に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定波長領域の紫外線照射が抑制された紫外線ランプが搭載された紫外線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線照射装置は、インクの乾燥、接着剤の硬化、フィルムの表面改質など、様々な用途に使用されている。これらの用途に対応するため、この装置に搭載される光源として、紫外用高圧水銀ランプやメタルハライドランプが使用されている。
【0003】
従来、これらランプにおいて、例えば有害なオゾンが生成される波長200nm以下の光をカットするため、所謂オゾンレス石英ガラスをランプ発光管に用いて出力波長を制御することが行われている。(特許文献1参照)
【0004】
しかし、このオゾンレス石英を使ったランプでは、所望の200nm以下の光をカットするだけでなく、250nm付近の波長域の光までカットしてしまうことから、波長250nm付近の光が必要な場合は、ランプ電力を過剰に入力せねばならず、非効率的となっていた。
【0005】
波長200nm以下の光をカットするオゾンレス石英ガラスをランプ発光管に用いると、250nm付近の波長域の光までカットしてしまうのは、オゾンレス石英ガラスの常温での光透過率と高温下での光透過率が異なるからである。
【0006】
一般に、石英ガラスに、紫外線吸収性のあるチタンなどの金属の酸化物を所定割合で微量添加し、特定波長域の光を吸収させる場合、高温下での吸収端は常温下に比べて数十nm長波長側へシフトする性質があることが知られている。このため、オゾンレス石英ガラスを使用して、動作時の表面温度が700℃以上となる高圧水銀ランプやメタルハライドランプの発光管を作成した場合には、水銀輝線スペクトルがある波長254nmなど、必要な波長域までも光透過率が低下してしまうことになる。
【0007】
一方、石英ガラスに添加する金属酸化物の量の大小は、添加された石英ガラスの当該波長域における光透過率の高低として反映され、添加量を多くすると透過率が下がり、少なくすると透過率が上がるという関係がある。そこで、この添加量を上記より減らすと、高温時でも250nm付近の波長域の光透過率は比較的高い状態にすることができるが、逆に、不要な200nm以下の光透過率の抑制が十分でなくなるという問題が生じる。
【0008】
ここではオゾンレス石英ガラスを例示したが、微量添加物を含有させ、その他の特定波長域の光透過を抑制した石英ガラスについても同様の傾向があり、常温での光透過率と高温状態での光透過率とが異なるため、これら石英ガラスを使用してランプ発光管を構成した場合、所望の波長域の光を所要強度で照射することが必ずしも保証されないという問題があった。
【0009】
不要でありカットしたい光の波長域の長波長側境界が200nmであり、所望な光の波長域が250nm付近である、というように、その両者の波長域が比較的接近している場合であって、高圧放電ランプにおける発光部とその発光管の位置関係のように、高温となり得る発光部の前面に温度依存性のある透過波長制限部材(フィルター)が近接して配置されている状況下では、特に顕著にこうしたジレンマが起こりやすく、金属酸化物の光吸収特性だけに依存した手法には限界があった。
【0010】
別の手法として、紫外線ランプ(装置)と被照射物との間に、紫外線ランプとある程度距離を隔てて光学フィルターを配置し、透過波長域を制限する手法も古くから知られている。この手法では、不要波長域と必要波長域とが比較的接近していても細かく透過波長域が制御できるため、金属酸化物(誘電体)で構成された多層膜からなる光学フィルターが用いられることが多い。この場合、フィルターは、高温となるランプから離れているため、仮に温度依存性があったとしてもあまり問題にならない。しかしながら、この場合は、フィルター面に斜入射した光の透過波長は垂直入射の場合に対して短波長側にシフトするという、分光透過特性の光入射角度依存性の問題を抱えている。この場合のフィルターは、光が斜入射する部位が必ず存在し、多くの場合、波長シフトの程度も光色の違い(むら)として目で確認できる程度に顕著である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭63−80457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであって、ランプ動作時でも不要な波長域の光をカットし、所望な波長域の光を効率的に照射することが可能であり、不要でありカットしたい光の波長域の境界と所望な光の波長域とが接近している場合でも有効に機能する紫外線照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の紫外線照射装置は、主に紫外線を照射するための紫外線ランプと、該ランプの外周に水を流通させて該ランプを冷却する水冷ジャケットを備える紫外線照射装置において、ランプ発光管は普通石英ガラスから構成され、前記水冷ジャケットは、これを構成する石英ガラス管にチタン、セリウム、スズ、バナジウムの酸化物が少なくとも1種以上添加され、その表面温度がランプ動作中においても80℃以下に維持されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の紫外線照射装置においては、ランプ発光管は金属酸化物等の添加物を含まない普通石英ガラス製であるため、ランプ自体からは発光管内封入物本来の発光スペクトルがそのまま放射される。
【0015】
しかし、ランプ外周に配置した水冷ジャケットは、これを構成する石英管に金属酸化物を所定量添加することによって所望の分光透過特性を実現させ、水冷により表面温度を80℃以下に維持することによってその分光透過特性の温度による変動を極力抑止してあり、ランプ動作時でも所望な波長域の光を効率的に照射することができるフィルターとして機能している。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、不要でありカットしたい光の波長域と所望な光の波長域とが接近している場合でも、光学フィルター等の付帯的部材を用いることなく、所望の波長域の光を効率よく照射することができる紫外線照射装置を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の紫外線照射装置に搭載される紫外線ランプの外観図。
【図2】図1に示すランプの外周に配置される水冷ジャケットの外観図。
【図3】実施例の装置の構成部材として使用されるオゾンレス石英ガラス材の分光透過特性を示すグラフ。
【図4】図3に示すオゾンレス石英ガラス材の分光透過特性の温度依存性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
[実施例]
本発明の実施の形態の紫外線照射装置に搭載される紫外線ランプであるメタルハライドランプと水冷ジャケットの外観図をそれぞれ図1、図2に示す。
【0020】
図中、11は発光部を形成する発光管、12は電極、13はベース、14は電力導入線であり、1対の電極12、12の先端間の距離で規定されるランプの発光長は1100mm、ランプ電力は22kWであり、発光管12内部にはアルゴンガス1.3kPa、水銀1.4mg/cmのほか、0.1mg/cmのヨウ化鉄及び0.02mg/cmのヨウ化スズが封入されている。
【0021】
水冷ジャケット20は石英ガラス製で、外管21と内管22から成る二重管構造であり、導入口23から導入した冷却水を外管21と内管22で挟まれた空間に流通させ、排出口24から排出し、外管21、内管22いずれも冷却する構成となっている。メタルハライドランプ10は、内管22の内側に、内面に接触しないように内管22と同軸上に配置されている。
【0022】
上記の位置関係にあるランプ発光管11、ジャケット外管21、ジャケット内管22を、それぞれ、普通石英ガラス、または常温において図3に示すような分光透過特性を有するように酸化チタン(TiO)が約1wt%添加されて成るオゾンレス石英ガラスから構成して、ランプ発光管と水冷ジャケットが種々の材質の組合せからなる紫外線照射装置を試作し、各波長域の紫外線強度比を比較した。図3中のTは光透過率を表わす。
【0023】
その結果を表1に示す。表1では、ランプ発光管11、ジャケット外管21、ジャケット内管22いずれもが普通石英ガラス製の場合の発光強度を100%として相対発光強度で示している。


















【0024】
【表1】

【0025】
表1に示すように、仕様CとDの場合は、波長254nm付近の光出力は基準仕様(仕様A)の80%以上確保されたが、仕様Bの場合はその光出力が大きく低下した。このことから、水冷ジャケットの外管、内管のいずれか一方をオゾンレス石英ガラスで構成すれば、波長254nm付近の光出力をあまり低下させずに済み、紫外線硬化等で必要とされる波長254nm付近の紫外線を効率よく照射できる紫外線照射装置を提供できることが分かる。
【0026】
図4は、上記実験で使用したオゾンレス石英ガラス材の分光透過特性の温度依存性を示すグラフである。図中のTは光透過率を表わす。光透過率の測定には、市販品で適したものがないため、試料室内を700℃程度の高温状態にして透過率が計測できる光透過率計を自作して使用した。温度はオゾンレス石英ガラス材表面の推定温度である。
【0027】
図4から、オゾンレス石英ガラス材の温度が200℃を超えると、分光透過率曲線の長波長側へのシフトが顕著になることが分かる。このことから、前記金属酸化物を微量含有させたオゾンレス石英ガラスを透過波長域制限部材(フィルター)として使用する場合は、その表面温度を200℃以下に維持する必要があることが分かる。
【0028】
こうした条件に加えて、水冷ジャケット内に流通させる水の沸騰を避ける目的で、本発明では、冷却水流量(流速)を適宜調整して水冷ジャケット表面温度が80℃以下となるようにする。なお、この表面温度の下限値は、ここでは特に示していないが、水冷に通常使用される水の温度程度であることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、紫外域の限られた狭い波長範囲、特に波長320−350nmの領域の紫外線照射が求められるプロセスに提供する紫外線照射装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0030】
10…メタルハライドランプ
11…発光管
12…電極
13…ベース
14…電力導入線
21…ジャケット外管
22…ジャケット内管
23…導入口
24…排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主に紫外線を照射するための紫外線ランプと、該ランプの外周に水を流通させて該ランプを冷却する水冷ジャケットを備える紫外線照射装置において、前記ランプを構成する発光管は普通石英ガラスから構成され、前記水冷ジャケットは、これを構成する石英ガラス管にチタン、セリウム、スズ、バナジウムの酸化物が少なくとも1種以上添加され、その表面温度がランプ動作中においても80℃以下に維持されていることを特徴とする紫外線照射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−206644(P2011−206644A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75154(P2010−75154)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】