説明

細径光ファイバ

【課題】細径であっても視認性に優れ、コネクタ取り付け作業時や基板への配線時などにおける取り扱い性を向上できる細径光ファイバの提供。
【解決手段】光ファイバ裸線上に2層以上の被覆層が設けられ、最外被覆層の外径が125μmである細径光ファイバであって、光ファイバ裸線上に透明樹脂からなる厚さ5μm以上の内側被覆層が設けられ、該内側被覆層上に、着色樹脂からなる厚さ5μm以上の外側被覆層が設けられたことを特徴とする細径光ファイバ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光バックプレーンに適用可能な光インターコネクションモジュール用に好適な細径光ファイバに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、光インターコネクションモジュールの小型化・高密度実装化の要求が高まっており、光ファイバ素線の細径化の検討がなされてきた。光ファイバの細径化としては、石英ガラスからなる光ファイバ裸線部分、および保護被覆層の両面から検討が行われており、現在では、光ファイバ裸線径80μm/被覆外径125μmの細径光ファイバが提案されている。この被覆外径125μmファイバに関しては、細径化のメリットの他に、被覆除去の工程を省く(現行の孔径125μmのフェルールを有するコネクタへの実装)ことが可能であり、作業コストを削減できるメリットもある。
【特許文献1】特開2005−173594号公報
【非特許文献1】2005年電子情報通信学会エレクトロニクスソサイエティ大会C−3−123
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来提案されてきた細径光ファイバの被覆構造としては、光ファイバ裸線上に透明樹脂を1層以上被覆するものであった。しかしながら、この従来の細径光ファイバは、被覆層が透明樹脂で構成され、また光ファイバが細径であるため、当然のことながら、光ファイバの視認性が悪く、コネクタ取り付け作業時や基板への配線時などにおいて、取り扱い性が悪かった。
【0004】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、細径であっても視認性に優れ、コネクタ取り付け作業時や基板への配線時などにおける取り扱い性を向上できる細径光ファイバの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明は、光ファイバ裸線上に2層以上の被覆層が設けられ、最外被覆層の外径が125μmである細径光ファイバであって、光ファイバ裸線上に透明樹脂からなる厚さ5μm以上の内側被覆層が設けられ、該内側被覆層上に、着色樹脂からなる厚さ5μm以上の外側被覆層が設けられたことを特徴とする細径光ファイバを提供する。
【発明の効果】
【0006】
以上説明したように、本発明の細径光ファイバは、光ファイバ裸線上に透明樹脂からなる厚さ5μm以上の内側被覆層が設けられ、該内側被覆層上に、着色樹脂からなる厚さ5μm以上の外側被覆層が設けられたものなので、細径であっても視認性に優れ、コネクタ取り付け作業時や基板への配線時などにおける取り扱い性を向上できる。
また、本発明の細径光ファイバは、着色した外側被覆層の内側に顔料を含まない内側被覆層を設けたことによって、光ファイバ裸線に顔料を含む着色被覆層が直接接触していない構造なので、顔料によって石英ガラスからなる光ファイバ裸線部分が傷付くことがなく、ファイバ強度が劣化するのを防止できる。また、前記構造としたことで、耐水性、耐温水性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は細径光ファイバの従来例を示す断面図、図2は着色被覆層を設けた細径光ファイバの参考例を示す断面図、図3は本発明に係る細径光ファイバの一実施形態を示す断面図である。これらの図中、符号1A〜1Cは細径光ファイバ、2は光ファイバ裸線、3は透明樹脂からなる保護被膜層、4は着色樹脂からなる保護被覆層、5は内側被覆層、6は外側被覆層である。
【0008】
図1に示す従来の細径光ファイバ1Aは、石英ガラスからなる細径の光ファイバ裸線2上に、透明樹脂からなる保護被覆層3を設けてなり、その保護被覆層外径は125μmになっている。前述したように、この従来の細径光ファイバ1Aは、視認性が悪く、コネクタ取り付け作業時や基板への配線時などにおいて、取り扱い性が悪かった。
【0009】
また、図2に示す参考例の細径光ファイバ1Bは、石英ガラスからなる細径の光ファイバ裸線2上に、樹脂に顔料を添加した着色樹脂からなる保護被覆層4を設けてなり、その保護被覆層外径は125μmになっている。この細径光ファイバ1Bは、着色樹脂からなる保護被覆層4を設けることにより、光ファイバの視認性は向上した。しかしながら、ガラスに直接、着色した保護被覆層4を被せると、保護被覆層中に存在する数μmオーダー以下の着色顔料の影響が無視できなくなる。この着色顔料がガラス界面に存在すると、着色顔料がガラスを傷つけ、強度の低下が起こることや、所々でガラスとの密着を低下させ、結果的、被覆剥離によるマイクロベンドロス増が起こることが分かった。
【0010】
この着色顔料のガラスへの影響を考慮したものが、図3に示す本発明の細径光ファイバ1Cである。この細径光ファイバ1Cでは、石英ガラスからなる細径の光ファイバ裸線2上に2層の被覆層を設け、内側に顔料を含まない透明樹脂からなる内側被覆層5、外側に着色樹脂からなる外側被覆層6を設けており、着色顔料の影響を回避し、視認性を向上させた構造になっている。
【0011】
この図3の細径光ファイバ1Cについて説明する。
最近のインターコネクション用ファイバとしては、光ファイバ裸線2の外径は80μmが一般的であるが、さらに細径化された光ファイバ裸線を用いた場合でも、本実施形態の細径光ファイバ1Cと同様に視認性向上の効果が得られる。なお、本発明において用いる光ファイバ裸線2としては、コアとクラッドとを有する石英ガラス製のシングルモードファイバ、マルチモードファイバ、或いはホーリーファイバなどが挙げられる。
【0012】
また、外側被覆層6の外径としては、一般的な孔径125μmのフェルールに合わせて、125μmとしている場合が多いが、孔径が異なるフェルールがあれば、特に、外側被覆層6の外径も規定する必要はない。
【0013】
本実施形態の細径光ファイバ1Cにおいて、内側被覆層5の材料としては、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレートなどの紫外線硬化型樹脂、エポキシ系、ポリイミド系の熱硬化型樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリアミド、ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0014】
また、外側被覆層6の材料としては、顔料を添加したウレタンアクリレート、エポキシアクリレートなどの紫外線硬化型樹脂、エポキシ系、ポリイミド系の熱硬化型樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリアミド、ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂などが挙げられる。これらの材料の内、生産性を考慮すると、高速硬化が可能な紫外線硬化型樹脂であることが望ましい。外側被覆層6に添加する顔料は、従来よりプラスチックの着色剤として用いられている各種の顔料を使用でき、例えば、チタンホワイト、クロムイエロー、カーボンブラックなど、日本工業規格で規定されている無機顔料、または、アゾ系、キノン系などの有機顔料等が挙げられる。また、外側被覆層6の顔料含有量は、外側被覆層6の樹脂100質量部に対して5〜20質量部の範囲とすることが望ましい。
【0015】
内側被覆層5の膜厚としては5μm以上であることが望ましい。5μm以下であると、外側被覆層6中の顔料のガラスへの影響が大きくなるためである。
また、外側被覆層6の膜厚としては5μm以上であることが望ましい。5μm以下であると、色によっては十分な視認性が得られない可能性がある。
【0016】
本実施形態の細径光ファイバ1Cは、光ファイバ裸線2上に透明樹脂からなる厚さ5μm以上の内側被覆層5が設けられ、該内側被覆層5上に、着色樹脂からなる厚さ5μm以上の外側被覆層6が設けられたものなので、細径であっても視認性に優れ、コネクタ取り付け作業時や基板への配線時などにおける取り扱い性を向上できる。
また、本実施形態の細径光ファイバ1Cは、着色した外側被覆層6の内側に顔料を含まない内側被覆層5を設けたことによって、光ファイバ裸線2に顔料を含む着色被覆層が直接接触していない構造なので、顔料によって光ファイバ裸線部分2が傷付くことがなく、ファイバ強度が劣化するのを防止できる。また、前記構造としたことで、耐水性、耐温水性を向上できる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例によって本発明の効果を実証する。はじめに、評価方法、判定基準を説明する。
(識別性)
黄色と白色に施した細径光ファイバを準備し、サンプルより30cmの距離から目視し、識別可否を確認した。識別可能である場合を○、不可能である場合を×とした。
【0018】
(引張強度)
IEC60793−1−31に準拠し、試験を行った。Telcordia規格(F50値が3.8GPa以上、F15値が3.14GPa以上)を満たす場合を○、満たさない場合を×として、判定を行った。
【0019】
(温水剥離試験)
サンプルを60℃温水に2週間浸漬させ、取出した後、光学顕微鏡にて、ガラス−被覆界面の剥離有無を確認した。剥離が無い場合を○、有る場合を×とした。
【0020】
次に、実施例の詳細を説明する。実施例では、ガラス径が80μmの細径光ファイバを検討し、被覆に使用した内側被覆層及び外側被覆層の樹脂は、いずれもエポキシアクリレート紫外線硬化型樹脂である。また、外側被覆層には顔料として無機顔料を、樹脂100質量部に対して20質量部加えた着色樹脂を用いた。なお、以下の実施例1〜4、比較例1〜4において、被覆層2層の場合の内側被覆層又は被覆層1層の場合の該被覆層のことを「1層目被覆材」と記し、被覆層2層の場合の外側被覆層のことを「2層目被覆材」と記す。
【0021】
[実施例1]
1層目被覆材である透明樹脂の膜厚を15μmとし、2層目被覆材である着色樹脂の膜厚を7.5μmとし、最終外径を125μmとした。
【0022】
[実施例2]
1層目被覆材である透明樹脂の膜厚を10μmとし、2層目被覆材である着色樹脂の膜厚を12.5μmとし、最終外径を125μmとした。
【0023】
[実施例3]
1層目被覆材である透明樹脂の膜厚を5μmとし、2層目被覆材である着色樹脂の膜厚を17.5μmとし、最終外径を125μmとした。
【0024】
[実施例4]
1層目被覆材である透明樹脂の膜厚を17.5μmとし、2層目被覆材である着色樹脂の膜厚を5μmとし、最終外径を125μmとした。
【0025】
[比較例1]
1層目被覆材である透明樹脂の膜厚を3μmとし、2層目被覆材である着色樹脂の膜厚を19.5μmとし、最終外径を125μmとした。
【0026】
[比較例2]
1層目被覆材である透明樹脂の膜厚を19.5μmとし、2層目被覆材である着色樹脂の膜厚を3μmとし、最終外径を125μmとした。
【0027】
[比較例3]
図1に示すように従来から知られている構造であり、保護被覆層が透明樹脂の単層被覆で、その被覆材の膜厚を22.5μmとし、最終外径を125μmとした。
【0028】
[比較例4]
図2に示すように保護被覆層が着色樹脂の単層被覆で、その被覆材の膜厚を22.5μmとし、最終外径を125μmとした。
【0029】
実施例1〜4、および、比較例1〜4の構造と評価判定結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
実施例1〜4の構造では、1層目被覆材の膜厚が5μm以上であり、2層目被覆材中の顔料の影響が少なく、ファイバの引張強度、温水剥離試験はすべて○であった。また、2層目被覆材の膜厚が5μm以上であり、識別性においてもすべて○であった。
【0032】
一方、比較例1の構造では、2層目被覆材の膜厚が5μm以上であり、識別性は○であったが、1層目被覆材の膜厚が5μm以下であり、2層目被覆材中の顔料の影響が大きく、ファイバの引張強度、温水剥離試験は×であった。
【0033】
比較例2の構造では、1層目被覆材の膜厚が5μm以上であり、ファイバの引張強度、温水剥離試験は○であったが、2層目被覆材が5μm以下であり、識別性は×であった。
【0034】
比較例3は、透明樹脂の単層被覆構造であり、従来の構造である。これについては、識別がまったく出来ない構造であった。
【0035】
比較例4は、着色樹脂の単層被覆構造であり、被覆材中の顔料の影響が大きく、ファイバの引張強度、温水剥離試験は×であった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】従来の細径光ファイバの構造を例示する断面図である。
【図2】光ファイバ裸線上に直接着色樹脂からなる保護被覆層を設けた参考例の細径光ファイバの構造を示す断面図である。
【図3】本発明の細径光ファイバの一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1A,1B,1C…細径光ファイバ、2…光ファイバ裸線、3,4…保護被膜層、5…内側被覆層、6…外側被覆層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ裸線上に2層以上の被覆層が設けられ、最外被覆層の外径が125μmである細径光ファイバであって、
光ファイバ裸線上に透明樹脂からなる厚さ5μm以上の内側被覆層が設けられ、該内側被覆層上に、着色樹脂からなる厚さ5μm以上の外側被覆層が設けられたことを特徴とする細径光ファイバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−83514(P2008−83514A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264676(P2006−264676)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】