説明

細穴放電加工方法および装置

【課題】 加工電極が安価でかつ一個の製品を製作する間における加工電極の交換が不要であり総加工時間を短縮できるパイプ電極を用いた形状加工部の細穴放電加工方法および装置の提供。
【解決手段】 水中でパイプ電極を使用し、制御装置の制御の下に前記電極と被加工物のXYZ軸方向の3次元位置を相対的に位置制御して前記被加工物の形状の異なる断面形状部の形状穴加工を行う放電加工方法において、前記電極がプログラムされた形状加工経路に沿っての放電加工中に、前記電極と被加工物との間が無放電状態にあるか放電状態にあるかを判別し、放電状態である場合には前記プログラムされた放電加工経路に対して電極消耗量を考慮したZ軸方向の切込みの自動補正を行い、無放電状態にある場合には前記プログラムされた放電加工経路に対して電極消耗量を考慮したZ軸方向の切込みの自動補正を行わないことを特徴とする細穴放電加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細穴放電加工方法および装置に関し、より詳細には、水中でパイプ電極を使用し、制御装置の制御の下に前記加工電極と被加工物のXYZ軸方向の3次元位置を相対的に位置制御して前記被加工物の形状穴の放電加工を行う細穴放電加工方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、被加工物に複雑な形状穴加工を行う放電加工方法として、加工面積が小さい細穴部の加工を棒状電極で加工した後で、加工面積が大きい部分を総型型彫り加工電極で加工する方法(例えば特許文献1)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−018499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上述の文献に記載の方法は、細穴部の加工面積に対して加工面積が大きく変化する部分を有する形状穴を有する放電加工方法であって、加工面積が小さい細穴部の加工を棒状電極で加工した後、加工面積が大きい部分を総型型彫り加工電極で加工することを特徴とするものであり、高価な総型型彫り加工電極が必要であり、かつまた1個の総型型彫り電極で加工できる穴数は1〜3個程度が限界である。
【0005】
そのため、多数の形状加工部を有する被加工物の加工を行う場合には、一個の製品を製作するのに、総型型彫り用の加工電極が多量に必要となり加工コストが増大する。また、一個の製品を製作する間の電極の交換頻度が大くなるため総加工時間が長くなることは避けられない。かつまた、総型型彫り用の電極は加工中に生じる加工屑の排出が悪いため加工速度が上げられないという特性があり、これも総加工時間が長くなり加工コストを増大させる要因となっている。
【0006】
本発明は上述の如き問題を解決するためになされたものであり、本発明の課題は、加工電極が安価でかつ一個の製品を製作する間における加工電極の交換が不要であり総加工時間を短縮できるパイプ電極を用いた形状加工部の細穴放電加工方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決する手段として請求項1に記載の放電加工方法は、水中でパイプ電極を使用し、制御装置の制御の下に前記電極と被加工物のXYZ軸方向の3次元位置を相対的に位置制御して前記被加工物の形状の異なる断面形状部の形状穴加工を行う放電加工方法において、前記電極がプログラムされた形状加工経路に沿っての放電加工中に、前記電極と被加工物との間が無放電状態にあるか放電状態にあるかを判別し、放電状態である場合には前記プログラムされた放電加工経路に対して電極消耗量を考慮したZ軸方向の切込みの自動補正を行い、無放電状態にある場合には前記プログラムされた放電加工経路に対して電極消耗量を考慮したZ軸方向の切込みの自動補正を行わないことを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に記載の細穴放電加工方法は、請求項1に記載の細穴放電加工方法において、前記形状穴のXY平面による断面形状において、前記形状加工経路のY軸方向の形状加工経路の長さが前記電極径の1/2未満の場合は、X軸方向の直線形状加工経路とZ軸方向の切込み加工を行い、前記Y軸方向の形状加工経路の長さが前記電極径の1/2以上電極径未満の場合には、X軸方向とY軸方向からなるコの字状形状加工経路とZ軸方向の切込み加工を行い、前記Y軸方向の形状加工経路の長さが前記電極径以上の場合には、ロの字状形状加工経路とZ軸方向の切込み加工を行うことを特徴とするものである。
【0009】
請求項3に記載の細穴放電加工装置は、水中でパイプ電極を使用し、制御装置の制御の下に前記電極と被加工物のXYZ軸方向の3次元位置を相対的に位置制御して前記被加工物の形状の異なる断面形状部の形状穴加工を行う放電加工装置にして、前記電極がプログラムされた形状加工経路に沿っての放電加工中に、前記電極と被加工物との間が無放電状態にあるか放電状態にあるかを判別し、放電状態である場合には前記プログラムされた放電加工経路に対して電極消耗量を考慮したZ軸方向の切込みの自動補正を行い、無放電状態にある場合には前記プログラムされた放電加工経路に対して電極消耗量を考慮したZ軸方向の切込みの自動補正を行わないことを特徴とするものである。
【0010】
請求項4に記載の細穴放電加工装置は、請求項3に記載の細穴放電加工装置において、前記形状穴のXY平面による断面形状において、前記形状加工経路のY軸方向の形状加工経路の長さが前記電極径の1/2未満の場合は、X軸方向の直線形状加工経路とZ軸方向の切込み加工を行い、前記Y軸方向の形状加工経路の長さが前記電極径の1/2以上電極径未満の場合には、X軸方向とY軸方向からなるコの字状形状加工経路とZ軸方向の切込み加工を行い、前記Y軸方向の形状加工経路の長さが電極径以上の場合には、ロの字状形状加工経路とZ軸方向の切込み加工を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本願発明の細穴放電加工方法および装置によれば、形状穴部の加工と貫通穴部の加工とを同一の電極で行うので電極コストが安価であり、かつ加工電極の交換を行なわずに多数の形状穴加工を行うことができるので加工コストを低減することができる。また、横断面形状が開放した形状穴部の形状加工を、X軸方向の直線形状加工経路と、コの字状形状加工経路とロの字状形状加工経路とからなる形状加工プログラムを用いることにより加工効率を向上させることができる。また、同一の形状加工プログラムを使用して、タービンブレードなどの形状の異なる断面形状部の形状穴加工を行うことができるので加工のプログラムの作成が容易となった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本願発明に係る細穴放電加工装置の説明図(正面図)。
【図2】パイプ電極による形状穴加工時の説明図。
【図3】電極ホルダ39の説明図。
【図4】電極ホルダ39を装着するチャックの説明図。
【図5】平坦な表面に対して斜めに貫通する細穴上部に角錐状の形状穴有するワークの一例。
【図6】図5の上面図。
【図7】図5の左側面図。
【図8】角錐状の形状穴に形状加工を行う場合の形状加工経路の説明図。
【図9】図8の加工領域A部のX軸方向の形状加工経路における放電加工時のプログラム経路と放電加工時の電極消耗量Eとの関係を示す図。
【図10】本願発明の放電加工方法による形状加工を行う場合の形状加工経路の説明図。
【図11】細穴上部に漏斗状部分を有する多数の穴を備えたタービンブレードTの説明図。
【図12】図11のC−C断面図。
【図13】図11のD−D断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面によって説明する。
【0014】
図1は本発明に係る6軸制御(X,Y,W,Z,A,B)の細穴放電加工装置の一実施の形態を示したものである。さて、図1を参照するに、総括的に示す細穴放電加工装置1の基台3上には、図示省略の駆動手段及びY軸駆動モータMによりY軸方向に移動位置決め可能なY軸テーブル5が設けてある。
【0015】
前記Y軸テーブル5には受け皿7を一体的に固定して設け、この受け皿7上に絶縁体である石定盤9を設けると共に、この石定盤9上にL字形のブラケット部材11が一体的に設けてある。
【0016】
上述のブラケット部材11上には、電気伝導度の小さい純水などの加工液13を入れるための加工槽15が取り付てあり、この加工槽15内にワークWを固定するためのチルト可能な公知のターンテーブル装置17が設けてある(例えば、特開2002−307248号公報)。
【0017】
上述のターンテーブル装置17は、Z軸(図1の上下方向)に平行な軸心を回転中心とするA軸と、A軸に直交(Y軸に平行)する軸心を回転中心とするB軸(チルト軸)とを備えている。
【0018】
上述のB軸駆動部としてのB軸回転軸19は、前記L字形ブラケット部材11の水平底部11aから前記加工槽15の後側(図1において右側)の壁面に沿って上方に延伸するB軸取付部11bに回転自在に軸支してある。このB軸回転軸19は前記加工槽15の後側壁面を貫通して加工槽15内部のほぼ中央部まで延伸させて設けてある。
【0019】
前記B軸回転軸19の左端の上部には、減速機(図示省略)を介してターンテーブル21が回転可能に取付けてある。B軸回転軸19の回転駆動は前記加工槽15の外部に設けたB軸駆動モータ(図示省略)で行われ、またターンテーブル21の回転駆動は、B軸回転軸19の軸心に沿って設けた外部に開口した「めくら穴」(図示省略)を介してA軸駆動モータ(図示省略)により回転駆動ができるように設けてある。
【0020】
前記ターンテーブル21の裏面には、環状の通電リング(図示省略)が設けてあり、ターンテーブル21はこの通電リングを介して放電電源(図示省略)に接続してある。
【0021】
上記構成において、制御装置(図示省略)の制御の下にA軸駆動モータ(図示省略)を適宜に回転駆動させれば、ターンテーブル21をA軸中心に適宜な角度回転させることができる。
【0022】
また、同様にB軸駆動モータ(図示省略)を適宜に正転または逆転駆動させれば、ターンテーブル21をB軸を中心に時計方向または反時計方向へチルト(Tilt;傾斜)させることができる。さらに、前記Y軸駆動モータMを適宜に回転駆動することにより、ターンテーブル21をY軸方向の任意の位置に位置決めすることができる。
【0023】
前記加工槽15の後方(図1において右方)の前記基台3上には、図1を前側(図1において左側)から見て左右に立設した一対の支柱25(a,b)と、この一対の支柱25(a,b)の上部に水平に懸架した梁部材27からなる門型フレームが設けてある。
【0024】
門型フレームの梁部材27には、蛇腹31に保護されたX軸ガイドレール(図示省略)が設けてあり、このX軸ガイドレールにX軸駆動モータM(図示省略)に駆動されるX軸キャリッジ33が前記Y軸に直交するX軸方向に移動位置決め自在に設けてある。
【0025】
また、前記X軸キャリッジ33には、上下に延伸した円筒状のW軸スライド35に一体的に設けた係合部35eが前記Z軸に平行なW軸に沿って昇降自在に係合してある。そして、このW軸スライド35は、このW軸スライド35の上端部に設けたW軸駆動モータMにより回転駆動されるW軸送りねじ36に螺合するナット部材38を介してW軸の任意の位置に位置決め可能に設けてある。
【0026】
上述のW軸スライド35には、パイプ電極37を装着した電極ホルダ39を備えたZ軸スピンドルユニット41がガイド部材43を介してZ軸方向に昇降自在に係合してある(図2参照)。
【0027】
図1、図2を参照するに、前記Z軸スピンドルユニット41は、前記W軸スライド35の上端部に設けたZ軸駆動モータMにより回転駆動されるZ軸送りねじ44に螺合するナット部材46を介して、前記W軸スライド35に対して相対的にZ軸方向の任意の位置へ移動位置決め可能に設けてある。
【0028】
また、Z軸スピンドルユニット41の上部に設けたスピンドルモータMにより、Z軸スピンドルユニット41のスピンドル111(図4参照)が回転駆動自在に設けてある。
【0029】
前記W軸スライド35の下端部には、電極ガイドユニット73の端部が着脱可能に設けてあり、その他端部には前記パイプ電極37が摺動自在に挿通係合する下方向(Z軸方向)へ延伸した電極ガイド81が設けてある。
【0030】
さらに、前記電極ガイド81の直上位置において、前記パイプ電極37をガイドすると共にパイプ電極37を挿入するためのテーパを有する漏斗部材83が設けてある。
【0031】
再度図1を参照するに、加工槽15の前方位置に立設したポスト85の上端部に電極交換装置87が設けてある。電極交換装置87には、前記電極ホルダ39に装着された複数のパイプ電極37が電極マガジンに86に保持されている。
【0032】
なお、上述の電極交換装置87には、本願出願人の出願である特開平8−290332号公報に記載の如き電極交換装置を使用することができるのでその構成については詳細の説明は省略する。
【0033】
上記構成において、前記制御装置(図示省略)の制御の下に前記W軸駆動モータMを適宜に回転駆動すれば、前記W軸スライド35をZ軸上の適宜な位置へ位置決めすることができる。すなわち、パイプ電極37をZ軸方向にガイドする電極ガイド81をZ軸上の適宜な位置へ位置決めすることができる。
【0034】
また、Z軸駆動モータMにより電極ホルダ39に保持されたパイプ電極37をZ軸の任意の位置へ移動位置決めできる。
【0035】
また、前記X軸キャリッジ33はX軸駆動モータM(図示省略)によりX軸の任意の位置へ位置決めできるので、パイプ電極37をワークWのX、Y座標上の任意の位置へ移動位置決めすることが可能であり、また、ワークWをA、B軸に回転できるので、ワークWの上面の他に底面以外の任意の位置へも位置決めすることが可能である。
【0036】
図3、図4は、前記電極ホルダ39とチャック113の構成を示した図であり、図3に示す電極ホルダ39は、筒状の外筒89を有し、この外筒89の軸心には、純水などの加工液13が流通可能な貫通穴89hが設けてあると共に、貫通穴89より大径のコレット嵌入穴89cが貫通穴89hの下側に設けてある。
【0037】
前記外筒89の外周には、ボール係合用の周溝89gが形成してある。さらに周溝89gの下には、位置決め用のフランジ89fが形成してあり下端部にはコレット91を締め付け固定するための袋ナット93が着脱可能に螺着してある。
【0038】
コレット91の軸心には、前記パイプ電極37が挿通可能な挿通穴91hを備えており、コレット91の体部には複数のスリット(図示省略)が軸方向に設けてあると共に、下端外周面には、前記の袋ナット93の貫通穴91tのテーパ部に係合するテーパ面93tが形成してある。
【0039】
上記構成の電極ホルダ39において、パイプ電極37を外筒89の貫通穴89hよりコレット91の挿通穴91hに挿通し、袋ナット93を締めることにより、パイプ電極37を電極ホルダ39に装着固定することができる。
【0040】
図4に示すように、前記Z軸スピンドルユニット41のスピンドル111の下端部にはチャック113が設けてある。スピンドル111はパイプ状であって、このスピンドル111内には環状のピストン部材115が上下動可能に嵌入してある。
【0041】
そして、このピストン部材は115はスピンドル111に内装した圧縮コイルばね117により常に下方向へ付勢されており、ピストン部材115の外周面にはシールリング119が設けてある。さらに前記ピストン部材115の下面には、前記電極ホルダ39の上端面に当接可能なシールリング121が設けてある。
【0042】
前記スピンドル111の下端部外周には、円筒形のボール保持体123が螺着固定してあり、このボール保持体123の下部付近には、軸中心から放射状に配置した複数のボール保持穴125が設けてある。そして、このボール保持穴125内には、前記電極ホルダ39のボール係合用の周溝89gに係脱自在のボール127が径方向に若干量だけ移動可能に保持されている。
【0043】
前記ボール保持体123の外周には、前記ボール127を軸中心方向へ押圧した状態と、押圧を解除した状態とに切り換え自在のスライドリング129が上下動可能に嵌合してある。またボール保持体123の下部外周には、スライドリング129がボール保持体123から落下するのを阻止するためのストッパー部材131aと、スライドリング129が上方向へ移動したときの上限位置を規制するためのストッパー部材131bが設けてある。
【0044】
また、前記スライドリング129の下部には、スライドリング129が上限位置に移動したときに、前記ボール127がボール保持体123から外周方向へ移動可能にすると共に、ボール保持体123から離脱しないようにボールに係合するボール係合穴133が設けてある。
【0045】
なお、ストッパー部材131(a、b)には、金属製のスナップリングまたはゴム製のシールリング等を使用することができる。
【0046】
上記構成のチャック113に前記電極ホルダ39を装着する場合には、図示しないスライドリング昇降手段により、スライドリング129を上限位置へ移動させた状態において、電極ホルダ39の頭部をボール保持体123内部に挿入すれば、電極ホルダ39の頭部に係合したボール127は、ボール係合穴133の方へ移動するので、電極ホルダ39の頭部が前記ピストン部材115に当接する位置まで挿入することができる。
【0047】
ピストン部材115に当接した後、さらに電極ホルダ39のボール係合用の周溝89gがボール127に係合する位置まで押し上げた状態において、電極ホルダ39の頭部がスピンドル111の下端部に当接して停止する。
【0048】
この状態において、前記スライドリング129を前記スライドリング昇降手段により下限位置に下げることにより、ボール127がボール係合用の周溝89gに押圧付勢されて、ボール係合用の周溝89gとボール127との係合がロック状態となる。
【0049】
前記電極ホルダ39を外す場合には、前記スライドリング129を上限位置へ移動させれば、ボール係合用の周溝89gとボール127との係合が解除され、電極ホルダ39を下方へ引き抜くことができる。
【0050】
なお、前記パイプ電極37に対しては、加工液(純水)を供給する加工液供給手段(図示省略)が設けてある。
【0051】
上記構成の細穴放電加工装置1により、細穴の上部に上方向に開放する漏斗状部分を有し、該漏斗状部分の加工面積が前記細穴部の加工面積に対して極端に大きく変化する形状の放電加工方法について説明する。
【0052】
図5〜図7は、平坦な表面に対して斜めに貫通する細穴201の上部に上方に開いた角錐状の形状穴203を有するワーク205の一例を示したものである。
【0053】
図8〜図10は、前記ワーク205の形状穴203に本願発明の放電加工方法による形状加工を行う場合の形状加工経路を説明する図である。
【0054】
図9は、図8のA部をXZ平面で切った図で、図8の加工領域A部のX軸方向の形状加工経路における放電加工時のプログラム経路207と放電加工時の電極消耗量Eとの関係を示すものである。なお、プログラム経路207は形状穴203の内側を通る電極の中心座標を基準にしたものである。
【0055】
すなわち、放電加工時に放電した場合の電極消耗量補正プログラム経路207は、点P、P間は、点P、Pを通り、勾配がE/|P−P|の右下がりの直線である。P、P間は、次の加工を行うためにZ軸方向に切込み量ΔZだけ降下し、そして、P、P間は、勾配がE/|P−P|の左下がりの直線となっている。以下、図9に示すような同様な経路をとるものである。
【0056】
上述のEは放電時の電極消耗量であり、一般に、電極消耗率(質量比)=「電極消耗量/ワーク加工量」、または、電極消耗率(長さの比)=「電極消耗長さ/ワーク加工深さ」等で示されるものである。
【0057】
図10は、前記図8に示した形状加工経路のA部とB部を立体的な模式図的に示した図である。
【0058】
図8に示すワーク205の形状穴203を加工する場合、最初に加工される部分はワーク205上部のA部であり、次いでB、C、D部の順に加工がなされる。
【0059】
上述のA部とは、ワーク205の形状穴203の場合、この形状穴203をZ軸に直交するXY平面で切断したときの横断面が「コの字」形になる部分で、かつY軸方向の加工面の長さが、加工時に使用するパイプ電極37の直径の1/2未満となるZ軸方向の範囲である。また、B部とは、前記横断面が「コの字」形の部分で、かつY軸方向の加工面の長さが、加工時に使用するパイプ電極37の直径の1/2以上電極径未満となるZ軸方向の範囲である。
【0060】
C部は前記形状穴203の横断面が「ロの字」形なる部分で、かつY軸方向の加工面の長さが、加工時に使用するパイプ電極37の直径以上となるZ軸方向の範囲である。また、D部は前記形状穴203を貫通してワークの裏面に達するパイプ電極37で加工される細穴部分である。
【0061】
図10に示すように、上述の形状穴203を加工する時のプログラム経路(破線で示してある)と実加工経路(実線で示してある)の関係について説明する。
【0062】
前記横断面のX軸方向の一辺を加工するプログラム経路において、前記電極がA部の直上にあるときは放電時の電極消耗量を見込んでP、P点を通る直線からなるプログラム経路207となるが、放電開始前なので電極消耗量の補正が行われず、実加工経路211はX軸に平行なP、P’点を結んだ水平な経路となる。すなわち、無放電状態なのでZ軸は下降しない。
【0063】
前述のプログラム経路207がP点にに達したとき、その前の実加工経路211では無放電状態でZ軸の下降がなかったので、プログラム経路のP点を次の加工開始点とはせずに、P点をZ軸の上方向のP’点に補正する。すなわち、P’点からZ軸下方に切込み量ΔZ’分だけ下降した位置がP’点が次の加工開始点になるようにプログラム経路207を補正する。
【0064】
’からP点までの間に放電がなくP点に達して放電が開始されたとする。このとき、P’からP点までの間は無放電状態なので、電極消耗量分のZ軸補正は行われれず、実加工経路213はX軸に平行に移動することになる。
【0065】
次いで、P点からの実加工経路215は、P’、P点を通る電極消耗量分を補正したプログラム経路217に平行に移動する。すなわち、放電開始位置であるP点からは、電極消耗量分を補正する実加工経路215を移動する。
【0066】
実加工経路のP点、すなわち、前記形状穴203のX軸方向の左端に到達した位置において、次の実加工経路219の開始点P点まで、Z軸方向に切込み量ΔZ分だけ降下する。
【0067】
前記P点から放電状態に移行したので、P点−P点間の実加工経路219、P点−P点間の実加工経路221は、電極消耗量分を補正するプログラム経路と同一の経路を移動する。なお、次の加工開始点に移行するP、P点間およびP、P点間においてはZ軸方向の切込みΔZが行われる。
【0068】
次いで、図8に示す形状穴203の横断面が「コの字」となるB部の加工を行う場合の実加工経路を説明する。
【0069】
点とP10点の間は、ワーク205のY軸方向の加工面を加工する実加工経路223であって、この実加工経路223は加工面に沿ってY軸方向に移動する。
【0070】
10点からZ軸方向へ切込み量ΔZ’分を下降して次の加工開始位置であるP11点へ移動し、P11点から前記Y軸方向の加工面に沿ってY軸方向にP12点まで電極消耗量分の補正を考慮したプログラム経路227を移動する様にプログラム経路が用意されている。
【0071】
しかしながら、例えばP11点で無放電状態となった場合には、Z軸方向の電極消耗量分の補正が行われず、P11点からP12点の移動中にはZ軸方向の補正が行われない。
【0072】
その結果、実加工経路はP11とP12’を通るY軸方向に平行な実加工経路225を移動する。すなわち、次の実加工経路229のの加工開始点は予定されていたP12点からP12’点に変更されることになる。
【0073】
12’以後において、無放電状態となることがなく放電加工が実行される場合には、以後のプログラム経路と実加工経路(231、233、235)とは同一となる。
【0074】
C部の放電加工時においても、前記B部と同様なプログラム経路に従って放電加工が実行される。すなわち、制御装置(図示省略)が放電加工中の放電状態を常時監視していて、無放電状態にあると判別した場合にはプログラム経路における電極消耗量分の補正を行わず、放電状態にあると判別した場合にはプログラム経路における電極消耗量分の補正を行う加工が行われるものである。
【0075】
D部の放電加工は、従来の細穴放電加工と同様な穴加工が行われるものであり、前述の形状穴203の加工が終了した後に実施される。
【0076】
なお、上述の切込み量ΔZは、放電時におけるZ軸方向の送り込み時に発生する電極消耗量と、次の加工を行うための切り込み量とを合わせたものである。また、無放電状態のときは前記切込み量ΔZから電極消耗量分を差し引いた、切込み量のΔZ’のみとなる(ΔZ’<ΔZ)。
【0077】
図11〜13は、断面形状が異なる多数の冷却空気流出用の細穴H1、H2を備えた空冷タービンブレードTBの説明図であり、このような空冷タービンブレードTBの断面形状が異なる細穴H1、H2の加工に、本願発明の細穴放電加工方法および装置を使用することにより効率的で精度の高い加工を行うことができる。
【0078】
冷却空気流出用の細穴H1、H2は、タービンブレードTBの上面側に漏斗状の形状穴F1、F2を有し、冷却空気CGをタービンブレード内部から外部表面に沿って噴出させることにより冷却を行うものである。なおタービンブレードTBの表面には高温のガスGが流れている。
【符号の説明】
【0079】
1 細穴放電加工装置
3 基台
5 Y軸テーブル
7 受け皿
9 石定盤
11 ブラケット部材
11a 水平底部
11b B軸取付部
13 加工液
15 加工槽
17 ターンテーブル装置
19 B軸回転軸
21 ターンテーブル
25(a,b) 支柱
27 梁部材
31 蛇腹
33 X軸キャリッジ
35 W軸スライド
35e 係合部
36 W軸送りねじ
37 パイプ電極
39 電極ホルダ
41 Z軸スピンドルユニット
43 ガイド部材
44 Z軸送りねじ
46 ナット部材
111 スピンドル
73 電極ガイドユニット
81 電極ガイド
83 漏斗部材
85 ポスト
86 電極マガジンに
87 電極交換装置
89 外筒
89c コレット嵌入穴
89h 貫通穴
89g 周溝
89f フランジ
91 コレット
91h 挿通穴
91t 貫通穴
93 袋ナット
93t テーパ面
111 スピンドル
113 チャック
115 ピストン部材
117 圧縮コイルばね
119、121 シールリング
123 ボール保持体
125 ボール保持穴
127 ボール
129 スライドリング
131(a、b) ストッパー部材
133 ボール係合穴
201 細穴
203 形状穴
205 ワーク
207、209、217、227 プログラム経路
211、213、215、219、221、223、225、229 実加工経路
TB 空冷タービンブレード
CG 冷却空気
E 電極消耗量
F1、F2 形状穴
G 高温ガス
H1、H2 細穴
スピンドルモータ
Y軸駆動モータ
W軸駆動モータ
Z軸駆動モータ
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中でパイプ電極を使用し、制御装置の制御の下に前記電極と被加工物のXYZ軸方向の3次元位置を相対的に位置制御して前記被加工物の形状の異なる断面形状部の形状穴加工を行う放電加工方法において、前記電極がプログラムされた形状加工経路に沿っての放電加工中に、前記電極と被加工物との間が無放電状態にあるか放電状態にあるかを判別し、放電状態である場合には前記プログラムされた放電加工経路に対して電極消耗量を考慮したZ軸方向の切込みの自動補正を行い、無放電状態にある場合には前記プログラムされた放電加工経路に対して電極消耗量を考慮したZ軸方向の切込みの自動補正を行わないことを特徴とする細穴放電加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の細穴放電加工方法において、前記形状穴のXY平面による断面形状において、前記形状加工経路のY軸方向の形状加工経路の長さが前記電極径の1/2未満の場合は、X軸方向の直線形状加工経路とZ軸方向の切込み加工を行い、前記Y軸方向の形状加工経路の長さが前記電極径の1/2以上電極径未満の場合には、X軸方向とY軸方向からなるコの字状形状加工経路とZ軸方向の切込み加工を行い、前記Y軸方向の形状加工経路の長さが前記電極径以上の場合には、ロの字状形状加工経路とZ軸方向の切込み加工を行うことを特徴とする細穴放電加工方法。
【請求項3】
水中でパイプ電極を使用し、制御装置の制御の下に前記電極と被加工物のXYZ軸方向の3次元位置を相対的に位置制御して前記被加工物の形状の異なる断面形状部の形状穴加工を行う放電加工装置にして、前記電極がプログラムされた形状加工経路に沿っての放電加工中に、前記電極と被加工物との間が無放電状態にあるか放電状態にあるかを判別し、放電状態である場合には前記プログラムされた放電加工経路に対して電極消耗量を考慮したZ軸方向の切込みの自動補正を行い、無放電状態にある場合には前記プログラムされた放電加工経路に対して電極消耗量を考慮したZ軸方向の切込みの自動補正を行わないことを特徴とする細穴放電加工装置。
【請求項4】
請求項3に記載の細穴放電加工装置において、前記形状穴のXY平面による断面形状において、前記形状加工経路のY軸方向の形状加工経路の長さが前記電極径の1/2未満の場合は、X軸方向の直線形状加工経路とZ軸方向の切込み加工を行い、前記Y軸方向の形状加工経路の長さが前記電極径の1/2以上電極径未満の場合には、X軸方向とY軸方向からなるコの字状形状加工経路とZ軸方向の切込み加工を行い、前記Y軸方向の形状加工経路の長さが電極径以上の場合には、ロの字状形状加工経路とZ軸方向の切込み加工を行うことを特徴とする細穴放電加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−25345(P2011−25345A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172964(P2009−172964)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000128429)株式会社エレニックス (9)
【Fターム(参考)】