細胞および/または核酸分子単離のための方法およびシステム
本発明は、組織細胞および/または核酸分子の単離用の方法およびシステムに関する。特に、i)組織試料を組織解離用の少なくとも1つの酵素で処理し、ii)溶解溶液を添加し、次いで、iii)核酸分子を単離することを含む、組織試料から核酸分子を単離する方法に関する。前記方法は、さらに、流体力学剪断力をステップ(i)の生成物に適用するステップを含む。本発明による方法および/またはシステムは、ミクロ機械および/または自動化プロセスで用いるのに適合することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞および/または核酸分子単離のための方法およびシステムに関する。特に、本発明による方法および/またはシステムは、ミクロ機械および/または自動プロセスで用いるのに適合する。
【背景技術】
【0002】
組織における核酸の分析は、法科学、病気の研究、医学科学、薬理学的薬物の発見および開発、および臨床診断を含めた多くの目的で行われる。核酸のこの研究は、典型的には、核酸を組織から抽出することを必要とする。核酸抽出におけるステップは組織のホモジナイゼーションである。
【0003】
組織は、通常、機械的強度を組織に提供する生物学的マトリックスによって一緒に接合される多くの細胞を含有する。組織のホモジナイゼーションステップは生物学的マトリックスを破壊する。生物学的マトリックスは、典型的には、コラーゲンが豊富であり、しばしば、90%ものコラーゲンがある。
【0004】
ホモジナイゼーションステップの後、細胞は、それらが含有する核酸を分析することができるように、細胞破壊ステップで破壊されなければならない。ホモジナイゼーションおよび細胞破壊ステップは、典型的には、同時に、またはまず細胞のいくらかを破壊するホモジナイゼーションステップ、続いての、細胞破壊プロセスを完了させる細胞破壊ステップによって達成される。図1は、核酸の抽出および分析のフローチャートを提供する。Huang et al.,2002,Anal.Bioanal.Chem.,372,49−65も参照。
【0005】
組織ホモジナイゼーションステップは、通常、組織を破壊するための機械力を用いることを含み、細胞破壊ステップは、通常、化学物質または酵素を用いることを含む。新鮮なおよび凍結された哺乳動物組織、または培養細胞のような生物学的試料を破壊するためには、従来の機械的方法を用いる。これらの方法は、1)ブレンダーのような構成要素を使用して、剪断力を発生させて、固体組織を物理的に破壊し、全ての細胞内構成要素を周囲の培地に放出させる自動化された機械的ホモジナイザーの使用、2)オリフィス中で高液体剪断力の衝突を使用して、細胞を破裂させる高圧ホモジナイザーの使用、3)粉砕およびビーズ間の衝突により発生した剪断力によって細胞を破壊するビードミルの使用、および4)細胞膜を破壊するのに十分なエネルギーを有する強い圧力波を生じさせるために超音波を使用するソニケーターの使用を含む。
【0006】
機械的組織ホモジナイゼーションは、化学物質または酵素が試料および組織中の細胞に浸透できるように組織を破壊する。組織ホモジナイゼーション無しでは、細胞破壊ステップにおける化学物質または酵素は組織試料中の一部の細胞にしか影響を及ぼさない。組織ホモジナイゼーションは細胞の一部を破壊するが、化学的および酵素的処理は、全ての細胞を破壊し、核酸を細胞の残りから分離するのを助けるのに必要である。核酸の増幅および検出を含む、分析を完成するための他の複雑な仕事は、核酸が抽出された後に行われる。
【0007】
分析のために核酸を調製する仕事は、普通、時間を消費し、労働が強いプロセスであった。これらの方法はいくつかの欠点を有する。これらの欠点の1つは、細胞は依然として一緒にクラスターを形成できるので、機械的ホモジナイゼーションプロセスでは組織の十分な解離を可能としないことである。さらなる問題は、機械的組織ホモジナイゼーションステップの間に、RNAaseが細胞から放出されるように、組織試料の一部の細胞を破壊する可能性があることである。RNAaseは、核酸分析が非効果的となるようにRNAポリ核酸を破壊するリボヌクレアーゼである。もう1つのさらなる問題は、組織からの細胞溶解物の調製のためのホモジナイゼーションプロセスが、電気ホモジナイザーで一度に1つの試料というように手動で行われ、その結果、クロスコンタミネーションを防ぐためにホモジナイザー先端を頻繁に洗浄する必要が生じる。他のさらなる問題は、i)これらのデバイスの大きな作動容量のため大きな組織サイズが必要であり、ii)これらのデバイスは構造が複雑であり、サイズが大きく、従って、それらは内部ミクロ流動デバイスを実行するのが容易でなく、iii)それらは自動化が非常に困難であり、iv)それらは操作誤差およびクロスコンタミネーションの影響を容易に受けやすく、v)これらの方法のいくつかは、かなりの量の熱を発生し、これは注目する細胞内構成要素の質を劣化させ、およびvi)それらのほとんどは、新鮮なまたは凍結された固体組織を破壊するのに十分には強力ではないことである。
【0008】
μ−フルイディックスおよびミクロ電気機械システム(MEMS)、ミクロトータル分析システム(μTAS)、およびバイオチップ技術における最近の進歩は、多くのミクロスケール分析機器の小型化に導いた。流体処理における小型化の利点には、試料サイズ、応答時間、コスト、分析性能、プロセス制御、統合、スループットおよび自動化に関する改良された効率が挙げられる(de Mello,Anal.Bioanal.Chem.372:12−13,2002)。
【0009】
しかしながら、前記プロセスのホモジナイゼーションおよび細胞破壊ステップは、時間がかかり手間のかかる方法で継続して実行される。事実、自動化し、ロボットを作成し、またはMEMSおよびμTASのようなシステムの小型化された性質のため、ホモジナイゼーションおよび細胞破壊を実行するミクロ機械デバイスを作成するのは困難であった。
【発明の開示】
【0010】
本発明は、前記問題に取組み、細胞単離のための、および/または核酸分子単離のための新しい方法および/またはシステムを提供する。特に、本発明による方法およびシステムは、ミクロ機械および/または自動化プロセスで用いるのに適合される。本発明の方法および/またはシステムは機械的ホモジナイゼーションステップを必要とせず、従って、組織解離に対する自動化された、ロボット的、またはミクロ機械的アプローチを達成することができる。
【0011】
1つの態様によると、本発明は、
i)組織解離用の少なくとも1つの酵素で組織試料を処理し、
ii)溶解溶液を添加し、
iii)核酸分子および/またはタンパク質を単離する、
ことを含む、組織試料から核酸分子を単離する方法を提供する。
【0012】
本発明の方法およびシステムは、組織解離用の少なくとも1つの酵素を用いる組織試料解離に関する。従って、本発明の方法およびシステムは機械的ホモジナイゼーションステップを必要としない。
【0013】
特に、本発明の方法は、さらに、ステップ(i)の生成物に流体力学剪断力を適用するステップを含む。
【0014】
従って、本発明の方法およびシステムは、組織が効率よく破壊され、細胞が組織試料から放出できるように、流体力学剪断力を利用して、組織試料を破壊する。さらに、それが、小型化および/またはミクロ流動デバイスのようなデバイスを通すのに十分小さくなるように、適用された流体力学剪断力は組織試料を破壊する。
【0015】
組織解離用の酵素は、解離すべき所望の組織試料に従って都合よく選択することができる。組織試料は動物、ヒト、または農業由来の組織であり得る。特に、組織解離用の酵素はプロテアーゼ、セルラーゼ、リパーゼなどであってもよい。例えば、以下のプロテアーゼのいずれかまたはその混合物を用いることができる。コラゲナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、キモパパイン、ヒアルロニダーゼ、プロナーゼ、ジスパーゼ、テルモリシン、ブロメライン、カテスパイン、またはペプシン、またはその混合物。
【0016】
放出された細胞を溶解溶液で処理する。細胞膜を破壊して、細胞内構成要素、特に、核酸および/またはタンパク質を放出させる。核酸分子は、当分野で公知のいずれかの標準的技術に従って単離し、回収することができる。例えば、核酸分子は、少なくとも1つのリンカーで被覆されたビーズを添加し、ひいては、リンカーに結合した核酸分子を回収することによって単離することができる。
【0017】
単離された核酸分子はmRNA、RNAおよび/またはDNAである。
【0018】
さらなる態様によると、本発明は、
(a)組織解離用の少なくとも1つの酵素で組織試料を処理し、
(b)ステップ(a)の生成物に流体力学剪断力を適用し、
(c)単離された細胞を回収する、
ことを含む、組織試料から細胞を単離する方法も提供する。
【0019】
回収された単離細胞は将来の使用のために保存するか、または貯蔵することができるか、あるいはそれを用いて、前記したように核酸分子を抽出することができる。
【0020】
もう1つの態様によると、本発明は、酵素分解組織解離チャンバーおよび組織破壊チャネルを含む、組織試料から細胞を単離するためのシステム(デバイス)を提供する。
【0021】
さらなる態様によると、本発明は、酵素分解組織解離チャンバーおよび組織破壊チャネルを含む、組織試料から核酸分子を単離するためのシステム(デバイス)を提供する。
【0022】
組織破壊チャネルは、それが、組織試料がチャネルを通るのに十分に小さくなるように、流体力学剪断力が組織試料を破壊することを可能にする点で有利である。
【0023】
特に、前記システムにおける組織破壊チャネルは、
流入口ポート、
少なくとも1つの収縮の領域、および
流出口ポート、
を含む。
【0024】
収縮の領域における組織破壊チャネルは、破壊チャネルの全断面積と比較してより小さな断面積を有する。収縮の領域は、組織試料が効率よくに破壊されるまで、組織試料のサイズを徐々に小さくするのに役立つ。
【0025】
酵素分解組織解離チャンバーは小さなサイズのものであってもよい。小さなサイズのチャンバーは、ミクロ機械的および/または自動化プロセスで用いるのに適合できる。例えば、前記チャンバーは100μl未満、50μl未満、10μl未満、または5μl未満の容量を有することができる。
【0026】
タンパク質分解組織解離チャンバーは、システムの少なくとも1つの他のチャンバーに操作可能に連結することができる。例えば、他のチャンバーは、少なくとも1つのプロテアーゼを保持し、緩衝液を保持し、プロテアーゼ阻害剤を保持し、染色または可視化剤を保持し、または廃棄物または核酸分子のための容器として役立つように用いる。
【0027】
特に、本発明のシステムは、生物学的ミクロ電気機械システム(bioMEMS)および/または十分に自動化された完全なミクロトータル分析システム(μTAS)であってもよい。それは、さらに自動化核酸および/またはタンパク質抽出器であってもよい。
【0028】
特に、本発明のシステムは、
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物のインキュベーション用の第一のチャンバー、
流体力学剪断力を発生させるための組織破壊チャネルである第二のチャンバー、
必要に応じて細胞回収用のチャンバー、および
廃棄物回収用のチャンバー、
を含み、必要に応じて、前記チャンバーは相互に連結されている、組織試料から細胞を単離するためのシステムである。
【0029】
本発明のシステムは、さらに、
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物のインキュベーション用の第一のチャンバー、
流体力学剪断力を発生させるための組織破壊チャネルである第二のチャンバー、
溶解溶液を含む第三のチャンバー、
核酸分子および/またはタンパク質の回収および単離用の第四のチャンバー、および
廃棄物回収用の第五のチャンバー、
を含み、必要に応じて、前記チャンバーは相互に連結されていることを含む、組織試料から核酸分子を単離するためのシステムを提供する。
【0030】
本発明のシステム(デバイス)のいずれか1つは、必要に応じて、投入組織試料用のポート、および、各々、流体およびポンプを連結させるための組織破壊チャネルの流入口および流出口を含む。
【0031】
組織破壊チャネルは、前記した破壊構成要素を含む。
【0032】
前記システムは、核酸分子の単離用のビーズ、マトリックス、および/または担体を含有するチャンバーを含んでもよい。特に、核酸分子の単離用の少なくとも1つのリンカーで被覆されたビーズを用いることができる。ビーズは磁性ビーズであってもよい。
【0033】
さらに、前記システムは、法医学テスト、臨床診断、動物、農業診断などに適した診断統合システムの一部であり得る。
【0034】
もう1つの態様によると、本発明は、
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物を第一のチャンバー中でインキュベートし、
流体力学剪断力を発生させるための組織破壊チャネルである第二のチャンバー中で組織試料を破壊し、
必要に応じて、第三のチャンバーにおいて細胞を回収し、次いで、
必要に応じて、第四のチャンバー中で廃棄物を回収する、
ことを含む、組織試料から細胞を単離する方法を提供する。
【0035】
さらなる態様によると、本発明は、
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物を第一のチャンバー中でインキュベートし、
流体力学剪断力を発生させるための組織破壊チャネルである第二のチャンバー中で組織試料を破壊し、
第三のチャンバー中で組織破壊チャネルから単離された細胞を溶解させ、次いで、
第四のチャンバー中で所望の核酸分子を回収し、単離する、
ことを含む、組織試料から核酸分子を単離する方法を提供する。
【0036】
第一のチャンバーにおけるインキュベーションは、一定温度で行うことができる。
【0037】
前記方法は、組織破壊チャネル内に流体力学剪断力を適用して、組織試料が十分に破壊され、細胞が放出されるまで、組織試料サイズを徐々に小さくさせることを含む。
【0038】
核酸分子の回収は、当分野で公知のいずれかの標準的な方法に従って回収し、および/または単離することができる。例えば、少なくとも1つのリンカーで被覆されたビーズを添加することによって、核酸分子を溶液から回収することができ、従って、リンカーに結合した核酸分子が回収される。
【0039】
特別な態様によると、本発明による方法は、約10mm3未満、または約3mm3未満の組織試料を供し、前記組織試料を解離用の少なくとも1つの酵素に暴露し、必要に応じて、組織が効果的に破壊されるまで流体力学剪断力を適用することを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明は、ミクロ機械デバイスおよび/または自動化プロセスで用いるのに適合させることができる核酸分子の抽出および単離のために組織試料を処理する方法およびシステムを提供する。本発明の実施形態は、組織の機械的ホモジナイゼーションのステップ無しで組織解離を行う方法である。組織は、解離用の少なくとも1つの酵素を用いて解離させる。例えば、少なくとも1つのプロテアーゼ(例えば、トリプシンまたはコラゲナーゼ)、セルラーゼまたはリパーゼ、またはその混合物を、組織に接触させ、それを解離させる溶液として適用することができる。
【0041】
解離のために少なくとも1つの酵素を組織試料に添加するプロセスは迅速に行うことができ、複雑な機器を必要としない。組織解離プロセスは、それにより、自動化することができ、ミクロ機械デバイスに一体化させることができるために、これは有利である。ミクロ機械デバイスは生物学的ミクロ電気機械システム(bioMEMS)および十分に自動化された完全なミクロトータル分析システム(μTAS)を含む。
【0042】
従来の機械的組織ホモジナイゼーション方法の例を表1に記載する。
【0043】
【表1】
【0044】
さらに、組織試料中の細胞は、細胞破壊(溶解)ステップまでは実質的に破壊されないように、解離プロセスを行うことができる。組織の解離の後、所望の細胞の一部の内容物を、組織中の全ての細胞の代わりにプローブすることができるように、注目する細胞を組織の残りから分離することができる。対象とする細胞のスクリーニングおよび/または分離は、標準的な方法に従って行うことができる。
【0045】
さらに、細胞は組織解離ステップを通じて無傷のまま維持することができるので、細胞中のRNAaseは細胞中のリソソーム内に実質的に保持され、それにより、細胞内に隔離されている。RNAaseは、核酸分析が非効率的となるように、RNAポリ核酸を破壊するリボヌクレアーゼである。RNAaseは、通常は、RNAase阻害剤を用いて阻害される。RNAaseは本発明のいずれかの実施形態を用いて細胞で実質的に隔離できるので、RNAase阻害剤に対する必要性、およびその投与における用心に対する必要性は排除することができる。無傷の細胞は必ずしも生きている必要はない。無傷とは、細胞壁およびリソソームを含めた細胞の膜の状態をいう。生存性とは、生きたままでいる能力をいう。従って、細胞は無傷であって、生きていなくてもよい。
【0046】
RNAaseの作用を回避するのは重要である。RNAは不安定であり、組織試料に存在するRNAseならびに指の先に存在するものを含めたヒトの汗からの汚染によって迅速に分解し得る。全ての機器、容器、および動作領域がRNAaseフリーであることを保証する以外に、技術者は、新たに採取された試料を室温においたまま保存しなかったり、凍結試料が解凍されたり、または機械的組織破壊がヌクレアーゼ阻害剤の存在無しで起こることのないように注意しなければならない。本発明のある実施形態は、全てのこれらの介入技術を除く。例えば、bioMEMのチャンバーは生検または組織取得直後に試料を受け取ることができ、場合によっては、保存手法の必要性が取り除かれる。さらに、十分に自動化された試料調製は、ヒトの干渉を必要とせず、ヒトの汗の中に見出される汚染ヌクレアーゼを大いに抑えることができる。
【0047】
細胞を単離するための従来の方法には、プロテアーゼを用いて組織を処理する方法がある。プロテアーゼは、ペプチド化学結合を切断し、またはその切断を触媒する酵素である。ペプチド化学結合は、2以上のアミノ酸を連結する化学結合、例えば、タンパク質の2つのアミノ酸の間で形成される結合である。例えば、米国特許第5,952,215号においてDwulet et al.,および米国特許第6,238,922号においてUchidaはプロテアーゼコラーゲンに組織を暴露することを記載し、Freshneyは組織のトリプシンへの暴露を記載する。Rl Freshney,Freshney’S Culture of Animal Cells,Chapter 11:Primary Culture(1999)を参照されたい。しかしながら、そのような方法は核酸の単離を対象としていない。その代わりに、それらは、組織の構造を分解して、細胞が単離され、培養されるのを可能にすることを対象としており、これは、核酸の単離とは別の非常に異なる目的である。結果的に、そのような方法では、本発明の実施形態を達成することができない。なぜならば、それらの方法は細胞生存率を最適化することを対象としており、組織中の結合を徹底的に破壊せず、組織をホモジナイズせず、通常、タンパク質の分解暴露において、異なる温度、濃度、および/または持続時間を用いるからである。
【0048】
MEMSは、通常、細胞試料、例えば、血液細胞および微生物のみで有用である。しかしながら、本発明のある実施形態のさらなる利点は、今や、ミクロ機械デバイスが、本発明を用いて固体組織と共に使用するのに適合させることができることである。表1は、従来の機械的ホモジナイゼーション方法に言及する。これらの方法のレビューは、自動化するかもしくは、あるいはミクロ機械デバイスに適合させることが困難なプロセスを用いることを示す。例えば、組織の音波処理は、、加熱および発泡を引き起こす傾向がある一方でグラインダーおよびガラスビーズはサイズを減少させるのが難しい。多くのμ−フルイディックモジュールは、過去10年間で基本的核酸抽出および精製プロセスを行うことが示されているが、試料調製ステップは慣用的にはチップを省く。その理由は、核酸単離ステップとは異なり、試料調製プロセスは変更され、生物学的試料材料に合わせる必要があることである(Huang et al.,2002,Anal Bioanal.Chem.372:49−65,2002)。
【0049】
事実、異なるタイプの組織試料は、核酸分子を抽出できる前に、異なる処理を必要とする。種々の処理に対する必要性は、異なる組織における細胞外マトリックス組成物および細胞間結合の固有の差の結果である。例えば、筋肉組織および多くの癌組織は、脳または腎臓組織と比べて、性質がより繊維状であって、堅い。これらの差が、手動式の電気デバイス、典型的には、DounceまたはPotter−Elvehjem「ホモジナイザー」を手動によって用いて、固体組織を機械的に破壊し、ホモジナイズする慣用的方法へと導いた。
【0050】
MEMにおける試料調製用の自動化に対する研究が増えているにもかかわらず、研究の多くは、主として、単純な細胞溶解プロセスを統合することにだけ集中している。多くの従来の公報(例えば、米国特許第6,344,326号)は、細胞からDNA分離のための総合的なアプローチを公開しているが、固形組織からの核酸単離のための総合的な微少流体、および/またはMEMシステムは2つの理由のため分かりにくいままであり、証明されていない状態である。第一に、細胞試料は、細胞間接着による組織試料と比較すると、溶解させて、ホモジナイズするのがかなり容易である。第二に、組織ホモジナイゼーションのための多くの標準的な方法は、機械的破砕および剪断力を含み、これは、MEMには好都合ではなく、小型化に対してかなりの障害をもたらす。
【0051】
核酸抽出に対するそのような従来の手動および機械的アプローチは、長年の間、標準的なベンチトッププロセスであった。多くの核酸単離キットが商業的に入手可能である。多くは自動化されておらず(例えば、Ambion,Amersham,Qiagen,TRizolキットなど)、核酸単離プロセスに必要な化学的試薬と材料のみを提供する。Dynalビーズのプロトコルのようなプロトコルの一部は、自動化をその単離システムに組み込んでいる。しかしながら、これらはよくても半自動化されたものであり、依然として、多くの手動プロセスを行い、そのプロセスを監視するための技術者を必要とする。例えば、多くの「自動化された核酸単離キット」においては、組織からの細胞溶解物の調製のためのホモジナイゼーションプロセスは、依然として、電気ホモジナイザーで一度に1つの試料にて手動で行われており、その結果、クロスコンタミネーションを防ぐためにホモジナイザーの先端を頻繁に洗浄する必要がある。
【0052】
第一の実施形態によると、本発明は、
i)組織解離用の少なくとも1つの酵素で組織試料を処理し、
ii)溶解溶液を添加し、
iii)核酸分子および/またはタンパク質を単離する、
ことを含む、組織試料から核酸分子を単離する方法を提供する。
【0053】
酵素分解組織解離は、クラスター化された細胞が少ないほど、従来の機械的ホモジナイゼーション方法よりもより効果的に組織の解離を可能とする。さらに、酵素分解組織解離は、RNAaseおよびプロテアーゼが細胞から放出されないように、細胞を実質的に無傷に維持する。よって、核酸分子は破壊されることなく、核酸分子単離は効率的に行うことができる。さらに、組織試料の解離が手動で行われず、かつ電気ホモジナイザーを用いないので、ホモジナイザー先端の頻繁な洗浄に対する必要性は回避される。これにより、クロスコンタミネーションも防止する。さらに、ホモジナイゼーションステップが回避されるので、本発明の方法は、機械的ホモジナイゼーション方法よりも速く、かつ余り労力を必要としない。
【0054】
組織解離用の酵素および組織試料は、好ましくは、組織がほぼ完全に柔らかくなり、組織解離が視覚的にも完了したように見えるまで、制御された温度、好ましくは37℃にて溶液中でインキュベートされる。
【0055】
もう1つの態様によると、本発明の方法は、さらに、ステップ(i)の生成物に流体力学剪断力を適用するステップを含む。
【0056】
酵素分解組織解離の後、次いで、柔軟化された組織試料を特別に設計された破壊チャネルに通して、さらに、細胞を破砕し、ポンプによって生じた、または吸引方法(真空)によって作り出された流動力によって放出する。組織試料を破壊するために化学的酵素分解を使用するのに加え、本発明の方法およびシステムは、組織試料を破壊するために流体力学剪断力も使用する。このようにして、得られた細胞は、破壊された組織試料から効率よく放出される。細胞が組織試料から実質的に十分に放出されるので、組織破壊プロセスの細胞収率は高い。
【0057】
さらなる実施形態によると、本発明は、組織試料から細胞を単離する方法に関する。単離された細胞は、貯蔵し、保存することができ、その後の用途に使うことができる。あるいは、それは、核酸分子の溶解および単離のさらなるステップに供することができる。核酸分子を単離するために、溶解および単離のさらなるステップを以下に記載するように行う。単離された細胞はタンパク質の調製に用いることもできる。当業者は当分野で公知の方法を用いて、解離および/または破壊ステップの間にタンパク質を単離することもできる。
【0058】
従って、本発明は、
(a)組織解離用の少なくとも1つの酵素で組織試料を処理し、
(b)ステップ(a)の生成物に流体力学剪断力を適用し、
(c)単離された細胞を回収する、
ことを含む組織試料から細胞を単離する方法を提供する。
【0059】
前記方法は、さらに、溶解溶液を単離された細胞に添加し、核酸分子を回収することを含む。
【0060】
本発明の目的では、用語「組織解離」とは、解離用の少なくとも1つの酵素、例えば、少なくともプロテアーゼ、セルラーゼ、またはリパーゼ、またはその混合物で処理された組織試料を意味する。組織解離の結果として、組織試料は柔軟化され、細胞の一部のみが放出される。用語「組織破壊」とは、少なくとも解離用の酵素を用いて解離され、さらに、流体力学剪断力に供された組織をいう。組織破壊ステップの後、細胞は組織試料から実質的に完全に放出される。
【0061】
本発明で用いるのに適した組織は、新鮮な組織、ならびに保存剤で処理された凍結組織を含めた保存組織である。組織は動物由来組織、ヒト由来組織、または農業由来組織であり得る。組織試料は、例えば、いずれの種類の動物またはヒト生物学的組織試料、植物組織または脂肪組織も含む。これらの源は、限定されるものではないが、法医学、医学、農業、および研究試料、すなわち、異なる器官から採取された組織、直ちに処理された、または分析まで液体窒素または保存剤試薬で貯蔵された組織を含むことができる。直ちに処理された、または分析まで貯蔵された組織、凍結された、凍結されていない、解凍された、および凍結されたことのない組織。本明細書中で用いる用語、組織は、組織解離酵素によって、または酵素的プロセスによって分解することができる物である。組織は、好ましくは、少なくとも2つの細胞およびバイオマトリックスを含む。細胞外マトリックス、多糖マトリックス、およびコラーゲンがバイオマトリックスの例である。組織の重量は1mg〜10mgの範囲とすることができる。
【0062】
組織試料のサイズは、好ましくは、1〜10mm3の間である。組織解離酵素による試料の浸透が促進されるように、より小さなサイズが好ましい。組織試料は、例えば、適当なサイズの生検ツールで生検組織を採取することによって調製することができるか、あるいは組織を組織試料に切断して、所望の容量を得ることができる。本発明の実施形態は、凍結された組織、および保存剤、例えば、製品RNAlater(登録商標)(Ambion,Qiagen)で処理された組織を含む保存された組織で用いるのに適している。
【0063】
本発明のさらなる態様は、血液および/または体液を記載した方法で用いることもできることである。例えば、細胞を血液および/または体液から単離すべき場合である。体液は、涙、汗、尿、胃液および腸液、ならびに唾液、種々の粘膜放出物および滑液のような体液を言及する一般的用語である。血液および体液は、核酸分子の抽出用に本発明の方法およびシステムで用いることができる。
【0064】
組織解離用の酵素は、用いる組織試料に従って選択することができる。
【0065】
特に、組織解離用の酵素はプロテアーゼまたはその混合物である。前記プロテアーゼはコラゲナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、キモパパイン、ヒアルロニダーゼ、プロナーゼ、ジスパーゼ、テルモリシン、ブロメライン、カテスパイン、またはペプシン、またはその混合物であってよい。最も好ましいプロテアーゼはコラゲナーゼである。というのは、それは、ほとんどの組織の主成分であるコラーゲンを分解するからである。
【0066】
プロテアーゼの組合せを用いることもできる。いくつかのプロテアーゼは作用が非常に特異的であり、限定された切断作用を生じ、他方、他のプロテアーゼはタンパク質を個々のアミノ酸まで完全に分解する。従って、もし特定の組織があるタンパク質または生体分子に富んでいることがわかっていれば、いくつかのプロテアーゼを選択することができる。
【0067】
組織試料が植物または植物由来の組織である場合、組織解離用の酵素はセルラーゼであってもよい。組織試料が脂肪または脂肪由来、または関連組織試料である場合、組織解離用の酵素はリパーゼであってよい。
【0068】
上記組織試料の1つ以上の組合せを用いる場合、組織解離用の上記酵素の少なくとも2つの混合物を用いることができる。
【0069】
また、当分野で知られた本発明のいずれかの実施形態の目的に適した組織破壊用の他の酵素を用いることもできる。
【0070】
組織破壊は、好ましくは、組織中の細胞が無傷の状態でいるように行う。必要に応じて、例えば、機械的濾過ステップによって細胞を組織デブリスから分離することができる。また、単離された細胞はタンパク質の調製で用いることもできる。当業者は、当分野で公知の方法を用いて、解離および/または破壊ステップの間にタンパク質を単離することもできる。
【0071】
細胞は、必要に応じて、例えば、細胞表面のマーカーを認識する細胞ソーターを用いることによって、溶解前に分類することができる。ホモジナイズした組織生成物を必要に応じて洗浄してプロテアーゼを除去し、好ましくは、生成物を溶解溶液に導入することによって行われる細胞破壊ステップに供する。
【0072】
従来の細胞溶解技術を用いて、無傷細胞を破壊することができる。表2は、これらの方法のいくつかを記載する。これらの方法のいくつかを用いて、1つの特定の細胞内画分を優先的に回収することができる。例えば、細胞質画分のみが放出され、あるいは無傷ミトコンドリアまたは他のオルガネラが異なる遠心によって回収されるように条件を選択することができる。時々、これらの技術が組み合わされる(例えば、洗剤の存在下での酵素処理、凍結−解凍に続いての浸透圧溶解)。細胞破壊が好ましくは低温で行われるように細胞を溶解すると、プロテアーゼを遊離させることができる。試料は必要に応じてタンパク質分解から保護することができ、破壊と細胞タンパク質の変性の間の時間が有意であれば好ましい。
【0073】
【表2】
【0074】
当分野で公知のいずれかの標準的な技術に従って、核酸分子および/またはタンパク質を溶解ステップの生成物から単離することができる。
【0075】
マトリックス、担体、膜フィルターなどを都合よく用いて、核酸分子および/またはタンパク質を吸着し、結合し、保持し、または捕獲することができる。次いで、核酸分子および/またはタンパク質をマトリックス、担体、膜フィルターなどから回収し、単離する。担体、マトリックスおよび膜フィルターの例はガラス、シリカゲル、アニオン交換樹脂、ヒドロキシアパタイト、ケイソウ土のようなセライトを含む。マトリックス、担体、および膜フィルターの形状は特に限定されない。それらはビーズ、メッシュフィルターまたは粉末の形態とすることができる。例えば、それらはガラスフィルター、ガラスビーズ、またはガラス粉末の形態であってよい。
【0076】
1つの特定の態様によると、mRNA、RNAおよび/またはDNAを含む核酸分子は、少なくとも1つのリンカーで被覆されたビーズを添加し、リンカーに結合した核酸分子を回収することによって単離することができる。
【0077】
例えば、mRNAは、オリゴd(T)を含む少なくとも1つのリンカーで被覆されたビーズを用いることによって単離することができる。オリゴd(T)はmRNAのポリd(A)を認識し、それに結合する。
【0078】
もう1つの例によると、mRNA、RNAおよび/またはDNAは、少なくとも1つのリンカーを用いることによって単離することができ、前記リンカーの遊離末端は少なくとも1つのヌクレオチドNを含み、NはA、G、C、TまたはUである。例えば、NNNN、NNNNN、NNNNNNを含むリンカーを便利上用いることができる。この技術は「ユニバーサルリンカー」技術として知られている。その例は(ここに参照して組み込む)EP1325118Aに記載されている。特に、「ユニバーサルリンカー」は無作為に作られる。
【0079】
当分野で公知のいずれの方法も、それに核酸分子および/またはタンパク質が結合したビーズ、メッシュフィルターまたは粉末を回収するのに便利上用いることができる。ビーズは機械的バリアーを用いることによって捉えることができる。例えば、(ここに参照して組み込む)Helene Andersson,2001,「Micofluidic devices for biotechnology and organic chemical applications」,Royal Institute of Technology(KTH),Stockholm,Sweden(http://www.lib.kth.se/Sammanfattningar/andersson011116.pdf)に記載されているようなビーズトラッピング用の流動フィルター−チャンバーを用いることによる。もう1つの別の方法は、物理的バリアーを用いることなく、微少流体デバイス(システム)において単層の非磁性ビーズを選択的にトラップすることからなる。この方法は、ケイ素、石英またはプラスチック基材に適用することができるミクロ接触プリンティングおよび自己集合を含む。最初のステップにおいて、デバイスのチャネルを基材においてエッチングする。次いで、ミクロ接触プリンティングによって、チャネルの内部壁の表面化学を修飾する。デバイスは、表面化学に基づいてビーズ溶液およびビーズ自己集合に沈め、チャネルの内部壁に固定化する(前記Helene Andersson)。
【0080】
ビーズは、少なくとも1つのリンカーで被覆された磁性ビーズであってよい。核酸分子は、外部磁場(外部磁石)またはデバイス(システム)に一体化された磁石を用いることによって回収することができる。
【0081】
また、本発明は組織試料から核酸分子を単離するためのシステムを提供し、前記システムは酵素分解組織解離チャンバーおよび組織破壊チャネルを含む(図10参照)。
【0082】
特に、組織試料から核酸分子を単離するためのシステムは少なくとも、
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物をインキュベートするための第一のチャンバー、
組織破壊チャネルとして作用する第二のチャンバー、
溶解溶液を含む第三のチャンバー、
核酸分子および/またはタンパク質を回収し、単離するための第四のチャンバー、および
廃棄物回収のための第五のチャンバー、
を含み、前記チャンバーは相互に連結されていることを含む。
【0083】
組織破壊チャネルは、
流入口ポート、
少なくとも1つの収縮の領域、および
流出口ポートを含む。
収縮の領域において、破壊チャネルの全断面積と比較して断面積はより小さい(図9および10参照)。
【0084】
酵素分解組織解離チャンバーは、少なくとも1つの組織試料および組織解離用の少なくとも1つの酵素を受け取る。組織および酵素のタイプは前記した通りである。
【0085】
酵素分解組織解離チャンバーはミクロ機械デバイスとして用いることができ、従って、小さな組織試料および小さな容量の酵素での使用に都合よく適合させることができる。従って、チャンバーは好ましくは容量が100μl未満であって、試料は好ましくは容量が10mm3未満である。より小さな容量がより好ましい。
【0086】
本発明で用いるのに適した組織は新鮮な組織、ならびに保存剤で処理した凍結組織を含めた保存組織である。組織は動物由来組織および/またはヒト由来組織であり得る。組織源は、限定されるものではないが、法医学、医学、農業、および研究試料、すなわち異なる器官から採取した組織、直ちに処理されるかもしくは、分析まで液体窒素または保存試薬で貯蔵された組織を含むことができる。直ちに処理された、または分析まで貯蔵された組織、すなわち凍結された、凍結されていない、解凍された、および凍結されたことがない組織。本明細書中で用いられる用語、組織は、プロテアーゼまたは酵素プロセスによって分解することができる物である。組織は、好ましくは、少なくとも2つの細胞およびバイオマトリックスを含む。細胞外マトリックス、多糖マトリックスおよびコラーゲンはバイオマトリックスの例である。組織の重量は1mg〜10mgの範囲とすることができる。
【0087】
プロテアーゼによる試料の浸透が促進されるようなより小さなサイズの組織が好ましい。組織試料は、例えば、適当なサイズの生検ツールで組織の生検を採取することによって調製することができるか、あるいは組織を組織試料に切断して、所望の容量を得ることができる。前記したように、植物組織または脂肪組織を本発明のいずれの実施形態において用いることができる。本発明の実施形態は、凍結された組織および保存剤、例えば、製品RNAlater(登録商標)(Ambion,Qiagen)で処理された組織を含めた保存組織で用いるのに適する。
【0088】
本発明のさらなる態様は、血液および/または体液を本発明の方法およびシステムで用いることもできることである。例えば、本発明のいずれかの実施形態に従って、血液および/または体液をシステム(デバイス)に入れることができ、流体力学剪断力を用い、血液および/または体液から細胞を単離することができる。さらに、核酸分子は、血液および/または体液から単離された細胞から抽出することができる。
【0089】
組織解離用の酵素は用いる組織試料に従って選択することができる。
【0090】
特に、組織解離用の酵素はプロテアーゼまたはその混合物である。
【0091】
プロテアーゼはコラゲナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、キモパパイン、ヒアルロニダーゼ、プロナーゼ、ジスパーゼ、テルモリシン、ブロメライン、カテスパイン、またはペプシン、またはその混合物であってよい。最も好ましいプロテアーゼはコラゲナーゼである。というのは、それは、ほとんどの組織の主成分であるコラーゲンを分解するからである。
【0092】
プロテアーゼの組合せを用いてもよい。いくつかのプロテアーゼは作用が非常に特異的であり、限定された切断作用を生じ、他方、他のプロテアーゼはタンパク質を個々のアミノ酸まで完全に分解する。従って、もし特定の組織があるタンパク質または生体分子に富んでいることがわかっているならば、いくつかのプロテアーゼを選択することができる。
【0093】
組織試料が植物または植物由来組織である場合、組織解離用の酵素はセルラーゼであってもよい。組織試料が脂肪、または脂肪由来または関連組織試料である場合、組織解離用の酵素はリパーゼであってよい。
【0094】
前記組織試料の1つ以上の組合せを用いる場合、組織解離用の前記酵素の少なくとも2つの混合物を用いることができる。
【0095】
当分野で知られた本発明のいずれかの実施形態の目的に適した組織破壊用の他の酵素を用いることもできる。
【0096】
本発明によるシステムは、好ましくは、生物学的ミクロ電気機械システム(bioMEMS)および/または十分に自動化された完全なミクロトータル分析システム(μTAS)である。
【0097】
本発明のシステムは、さらに、便宜には、核酸分子を吸着し、結合し、保持し、またはトラップするために、マトリックス、担体、膜フィルターなどを含むチャンバーを含む。次いで、核酸分子をマトリックス、担体、膜フィルターなどから回収し、単離する。担体、マトリックスおよび膜フィルターの例はガラス、シリカゲル、アニオン交換樹脂、ヒドロキシアパタイト、およびケイソウ土のようなセライトを含む。マトリックス、担体、および膜フィルターの形状は特に限定されるものではない。それらはビーズ、メッシュフィルターまたは粉末の形態とすることができる。
【0098】
チャンバーは、それに結合した核酸分子を有するビーズを回収するための機械的バリアーを含むことができる。例えば、チャンバーは前記したHelene Andersson,2001に記載されたビードトラッピング用の流動フィルター−チャンバーを含むことができる。
【0099】
特に、核酸分子の単離用の少なくとも1つのリンカーで被覆されたビーズを用いることができる。例えば、ビーズは磁性ビーズであり、外部磁場を用いて回収される。あるいは、磁石をシステムに一体化させることができる。
【0100】
本発明のさらなる実施形態は、システムが自動化された核酸抽出器であり得ることである。例えば、ヒト介入は最小限必要であり、従って、汚染、誤差の余地を少なくし、そして場合によっては全プロセス時間の削減するように、異なるチャンバーのシステムをリンクさせることができる。システムは、組織試料調製用のディスポーザブル自動システムとすることもできる。例えば、ゲノムまたはプロテオミック分析の目的のための核酸抽出器。
【0101】
さらに、本発明は、前記したシステムを用いて核酸分子を単離する方法を提供する。
【0102】
また、本発明は、組織試料から細胞を単離する方法を提供し、前記方法は少なくとも、
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物を第一のチャンバー中でインキュベートし、
組織破壊チャネルとして作用する第二のチャンバー中で組織試料を破壊し、
必要に応じて、細胞回収用のチャンバー、および
必要に応じて廃棄物回収用のチャンバー、
を含み、チャンバーは必要に応じて相互に連結していることを含む。
【0103】
特に、本発明は組織試料から核酸分子を単離する方法を提供し、前記方法は少なくとも、
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物を第一のチャンバー中でインキュベートし、
組織破壊チャネルとして作用する第二のチャンバー中で組織試料を破壊し、
第三のチャンバー中で組織破壊チャネルから単離された細胞を溶解し、次いで、
第四のチャンバー中で所望の核酸分子を回収し、単離する、
ことを含み、チャンバーは必要に応じて相互に連結していることを含む。
【0104】
本発明のシステム(デバイス)のいずれの1つも、必要に応じて、入力組織試料のためのポート、および、各々、流体およびポンプを連結するための組織破壊チャネルの流入口および流出口を含む。
【0105】
第1のチャンバー中でのインキュベーションは、適当な温度で行うことができる。例えば、インキュベーションは一定温度、好ましくは37℃で行うことができる。インキュベーション時間は組織試料のサイズと相互依存している。当業者に明らかな適当なインキュベーションの持続時間が選択される。より短い時間ではRNAの収率が少なく、一方、より長いインキュベーション時間ではRNAの分解が生じる。
【0106】
組織破壊チャネル内で適用される流体力学剪断力は、それが十分に破壊され、細胞が放出されるまで組織試料のサイズを徐々に小さくする。
【0107】
mRNA、RNAおよび/またはDNAを含む核酸分子は、当分野で知られたいずれかの標準的な方法に従って溶液から回収される。例えば、少なくとも1つのリンカーで被覆されたビーズを付加し、リンカーに結合した核酸分子を回収することによる。ビーズは磁性ビーズであってよく、外部磁場によって、またはシステムに一体化された磁石によって回収することができる。
【0108】
例えば、mRNAはオリゴd(T)を含む少なくとも1つのリンカーで被覆されたビーズを用いることによって単離することができる。オリゴd(T)はmRNAのポリd(A)を認識し、それに結合する。
【0109】
もう1つの例によると、mRNA、RNAおよび/またはDNAは少なくとも1つのリンカーを用いて単離することができ、リンカーの遊離末端は少なくとも1つのヌクレオチドNを含み、NはA、G、C、TまたはUである。例えば、NNNN、NNNNN、NNNNNNを含むリンカーを便宜には用いることができる。この技術は「ユニバーサルリンカー」技術として知られている。その例は(ここに参照して組み込む)EP1325118Aに記載されている。特に、「ユニバーサルリンカー」はランダムに作られる。
【0110】
本発明のある実施形態は、組織解離および破壊プロセスを大いに単純化し、改良することができる。それらは、試料調製のプロセスでのbioMEMSにおける多くの障害を克服するのに役立ち、完全に自動化された様式で、組織試料から、例えば、固体組織試料からの核酸分子および/またはタンパク質の分離を行うことができる完全なμ−TASの加速度的発展を可能とする。本発明の実施形態は、臨床医学者が容器に臨床試料を入れ、すべての核酸分子および/またはタンパク質単離プロセスがさらなるヒト介入無しで行われる方法である。精製された核酸分子はチップ中に回収され、さらなる使用に必要となるまで適切に貯蔵される。
【0111】
本発明のある実施形態は製品、デバイスまたはシステム、好ましくは、酵素分解組織解離チャンバーを含むMEMS、bioMEMSおよび/またはμTASを含む。酵素分解組織解離チャンバーとは、少なくとも1つの組織試料および少なくとも1つの酵素試料を受け入れるが、組織を機械的にホモジナイズするためのデバイスを受け入れないか、または使用しないチャンバーをいう。従って、酵素分解組織解離チャンバーは、組織をホモジナイズする機械的に作用するデバイス、例えば、グラインダーでは機能しない。また、酵素分解組織解離チャンバーは、少なくとも1つの組織試料および少なくとも1つの酵素、好ましくは、本明細書中に開示されたプロテアーゼ、それに相当する物、またはその混合物を受け入れることによって組織を解離させる。酵素分解組織解離チャンバーは、好ましくは、MEMS、bioMEMSおよび/またはμTASデバイスとして適合させることができ、従って、好ましくは、小さな組織試料および少ない容量の酵素と共に使用することに適合される。チャンバーは、好ましくは、容量が100μl未満であって、試料は好ましくは容量が100μl未満である。より小さな容量がより好ましく、容量が50μl未満がより好ましく、10μl未満の容量はなお一層好ましく、5μl未満の容量が最も好ましい。
【0112】
酵素分解組織解離チャンバーは、好ましくは、他のチャンバーと共に操作可能に連結される。他のチャンバーは、組織解離および/または破壊、細胞破壊、または核酸分子処理、単離および/または分析に関与する他の機能を有する。他のチャンバーは、限定されるものではないが、組織解離用のプロテアーゼまたは他の酵素、プロテアーゼ阻害剤、緩衝液、洗浄液、洗剤、化学物質、溶液、塩または試薬のためのチャンバー、廃棄物回収ポイント、流入口ポート、流出口ポート、生成物回収チャンバー、および分析チャンバーを含むことができる。例えば、組織破壊チャンバーの流入口および流出口は、各々、流体入力およびポンプを連結するためのものである。
【0113】
また、分離プロセスは本明細書中に記載されたチャンバーと操作可能に連結させることができる。例えば、フィルターを用いて、サイズにより解離および/または破壊生成物を分離することができる。他の分離プロセスを行うこともできる。
【0114】
本発明のある実施形態は、酵素的方法を用いる組織解離、および本発明のいずれかの実施形態による組織破壊を含めた、オンチップ試料調製を一体化させるMEMS、bioMEMSおよび/またはμTASデバイスである。MEMSは、相互に連結される、または一体化される単一モノリシックデバイスまたはいくつかの微少流体モジュールであり得る。bioMEMSデバイスはPCR増幅、電気泳動、発現プロフィールマイクロアレイ分析、遺伝子型分けなどのプロセスを含むことができる。あるいは、MEMSは統合されたミクロ−分析システムに取り込んで、診断、薬物発見または生物医薬研究に適用することができる核酸単離の後に、下流増幅および検出機能を行うことができる。これらの機能のいくつかを行うMEMSまたはbioMEMSの例は、ここに参照して組み込む米国特許第6,675,817号、第6,468,800号、、第6,468,761号、第6,447,661号、第6,440,725号、第6,387,710号、第6,375,817号、第6,238,922号、第6,221,677号、第6,179,595号、第5,952,215号、第5,786,207号、第5,667,985号、第5,443,791号、第5,374,395号に見出される。
【0115】
本発明のもう1つの実施形態は、自動生物試料調製用の微少流体デバイスまたはシステムに基づいてMEMS、bioMEMSおよび/またはμTASにおけるこの方法の使用である。この実施形態においては、新鮮な組織および凍結された組織の解離のために化学的酵素および流体力学剪断力双方を使用する方法が提供される。
【0116】
生物試料調製方法は、必要に応じて、組織の解離用の少なくとも1つの酵素、例えば、プロテアーゼ(例えば、トリプシン、コラゲナーゼなど)、セルラーゼ、またはリパーゼ、またはその混合物を含む緩衝液と共に、インキュベーションチャンバー中で少なくとも1つの組織試料をインキュベートすることを含む。組織試料が柔軟化されるまで、温度および時間を制御する。細胞は、このステップにおいて、組織試料から部分的に放出される。消化手法は制御可能であるので、消化反応は、1つ1つの細胞が組織試料から放出される時間までに終了させることができる。この段階において、生物分子のいずれかの種、特に、RNAは無傷細胞区画によってよく保護される。無傷かつ生きた細胞において、生物分子を破壊するための主なプロテアーゼであるRNAaseはリソソーム内に実質的によく保持される。
【0117】
次いで、柔軟化された組織試料を特別に設計された破壊ミクロチャネルに通して、ポンプによって生じた、または(真空下で)吸引下で作り出された流動力によって細胞をさらに破砕化し、放出する。組織試料を解離するための化学的酵素分解の使用以外に、本発明のデバイスは、それが破壊チャネルを通過するのに十分小さくなるように、組織試料を破壊するために流体力学剪断力を利用する。
【0118】
組織破壊チャネルは、組織破壊構成要素からなる。各組織−破壊構成要素は、流入口ポート(オリフィス)、収縮の領域、および流出口ポート(オリフィス)からなる。収縮の領域は、流入口/流出口ポートと比較してより小さな断面積を有する。破壊チャネルを通っての一定液体流速をもった流動速度は、流入口または流出口ポートにおける速度よりも収縮の領域における速度の方がかなり大きい。柔軟化された組織は流動の方向に沿って延ばされ、破壊区画を通って絞られる。従って、この柔軟化された組織は、迅速な速度プロフィール(リップル)によって生じた剪断力によって小さな断片に砕かれる(破砕される)。組織断片化は、組織が組織破壊構成要素を通過するにつれて起こる。
【0119】
次いで、組織試料からの単離された細胞は細胞溶解ステップに供される。細胞溶解ステップは、混合物をチャネルに導入し、それを溶解緩衝液と混合することによって行われる。溶解物は核酸分子に供される。例えば、MEMS、bioMEMSおよび/またはμTASにやはり適合する磁性ビーズを通ってのポリ(A)+RNA単離。全メッセンジャーRNAは精製された形態で得られ、特異的な遺伝子発現の検出に適している。
【0120】
本発明の利点はMEMS、bioMEMSおよび/またはμTASおよび微少流体適合性、高効率、クロスコンタミネーションが見られないこと、必要な試料サイズの減少、自動化、高出力の可能性を含む。
【0121】
本発明の微少流体組織破壊デバイスは少なくとも試料インキュベーションチャンバー、一連の組織破壊チャネル、流入口および流出口を含む。ミクロポンプまたはシリンジポンプは、外部で連結することができるか、あるいはデバイス内部に一体化することができる。あるいは、流体の動きは吸引方法を適用することによって作り出すことができる。本発明によるシステムの1つの例を図8に示す。
【0122】
本発明のシステムの重要な特徴は、組織破壊チャネルである。それは、一連の組織破壊構成要素によって構築される。各組織−破壊構成要素は、図9および10に示された少なくとも流入口ポート、収縮の領域および流出口ポートを含む。収縮の領域は鋭いエッジを有する。収縮の領域に対する流入口/流出口ポートの比率は、チャネルに沿って2から5まで変化する。また、オリフィスのサイズもチャネルに沿って変化して、組織が破壊構成要素に突き刺さるのを回避する。また、この設計は破壊効率を増加させる。破壊構成要素のいくつかの可能な設計を図10に示す。
【0123】
サンドイッチ構造を有するこのデバイスの例を図11Aおよび11Bに示す。デバイスの下方層および上方層はCNC粉砕マシーンを用いてポリカルボネートで作成される。中央層は、破壊デバイスのほぼ全ての特徴からなる。この層は、レーザー切断マシーンを用いて200〜1000umの厚みで薄いステンレス鋼プレートに製造される。上方層、下方層および中央層は結合層によって一緒に結合される(VSTアクリルフォームテープ)。
【0124】
この特別な例の設計は、本発明の作動原理を示すものである。しかしながら、これは他の設計の用法および寸法を制限しない。
【0125】
そのようなデバイスのための製造方法は、ミクロ機械加工、成型および熱エンボス加工におけるエッチングのような他の方法の使用も利用することができる。図12は、破壊組織試料のための本発明の技術を用いる例であり、引き続いて、生体分子の抽出および精製が必要である。
【0126】
本発明のシステムはいずれかの適当な材料で作成することができる。例えば、ガラス、ケイ素またはプラスチックを用いることができる。ポリスチレン、ポリカルボネートおよびポリメチルメタクリレートのようなプラスチックおよびポリマーはより安価でかつ使い捨てのシステムを提供する。
【0127】
本発明のさらなる実施形態は、法医学テスト、臨床診断、動物および/または農業診断に適した診断統合システムの一部として前記システムを用いることができることである。
【0128】
さて、本発明を一般的に記載してきたが、それは、説明として掲げ、本発明を制限する意図のものではない以下の実施例を参照してより容易に理解されるであろう。
【実施例1】
【0129】
トリプシンおよびコラゲナーゼを、本発明のある実施形態の例示的モデルとして用いた。しかしながら、本明細書中に記載されたプロセスは、ヒト組織、植物組織、脂肪組織などを含めた他のタイプの組織に適用することができる。
【0130】
ラット肝臓のトリプシン−EDTA消化を以下のように行った。新たに採取された組織を2mm3試料サイズに切断し、続いて、500μlの氷冷リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中で2回洗浄した。トリプシン−EDTA溶液を組織試料に添加し、これを、振盪水浴中で37℃にて30分間インキュベートし、さらに組織破壊が観察されなくなるまで時々粉砕した。1)インキュベーション時間を90分まで伸ばし、振盪は必要なく、および2)試料の温和な軽打を、インキュベーション後のトリチュレーションの代わりに適用したことを除いては、コラゲナーゼを使用して同様の手法を続けた。これらの手法を用いて得られた細胞懸濁液は、細胞をペレット化または洗浄することなく、直接的にTRIzolによる下流RNA単離で用いることができる均一な溶液を生じた。
【0131】
試料処理、酵素選択、酵素濃度および容量、消化持続および物理的撹拌の適用を含めた一連の実験パラメーターを調べた。細胞生存率の計測は、消化性能の直接的モニタリングとして行った。TRIzolによる細胞懸濁液からのRNA単離を行って、RNA保存における酵素消化の影響を調べた。RNAの収率および純度は、UV−可視分光測定によってチェックした。RNAの完全性は、アガロースゲル電気泳動によってチェックした。
【0132】
試料処理では、消化前の4℃における一晩のトリプシン−EDTA中で試料をインキュベーションすることは、組織解離で慣用的に用いられる他の方法と匹敵することが判明した。また、生検試料のおおよそのサイズである2mm3サイズの組織は効果的に消化されることが判明した。さらなる解剖は、消化能力の有意な差を生じなかった。酵素選択に関しては、トリプシン−EDTA、コラゲナーゼのタイプI、IVおよびVIIIは、全て、細胞の単離において効果的なことが判明した。
【0133】
酵素の濃度および容量に関しては、0.01%〜0.25%のトリプシン−EDTAは効果的であり、他方、0.01%〜0.15%が好ましいことが判明した。しかしながら、プロテアーゼへの暴露の時間を調整することによって、他の濃度を利用することも可能である。一般に、20μl〜500μlの範囲で酵素容量をより高くすると、細胞収率がより高くなった。20μlのトリプシン酵素を使用したときの細胞収率は、500μl酵素の使用したときの収率の約40%であった。コラゲナーゼでは、組織消化のために、500μlの200U/ml酵素溶液を用いた。消化時間に関しては、トリプシン−EDTA消化では、30分が効果的であることが判明した。コラゲナーゼ消化では、1〜2時間が効果的であった。表3はさらなる実験条件を示す。
【0134】
【表3】
【0135】
10mg(2mm3)ラット肝臓組織から単離された細胞の数は、組織mg当たり約106細胞である。トリパンブルーによって見積もられた細胞生存率は97%〜100%の間であることが判明した。
【0136】
酵素消化アプローチから単離されたRNAを、従来のホモジナイゼーションアプローチからのものと比較した。全RNAのゲル電気泳動像を図2に示す。TBEにおける全RNAランのアガロースゲル。左から右へのレーン:レーン1:高い範囲のRNAマーカー6kb、4kb、3kb、2kb、1.5kb、1kb、0.5kb、レーン2:低い範囲のRNAマーカー1kb、0.8kb、0.6kb、0.3kb、レーン3:コラゲナーゼタイプIによって単離された全RNA、レーン4:コラゲナーゼタイプIVによって単離された全RNA、レーン5:コラゲナーゼタイプVIIIによって単離された全RNA、レーン6:トリプシン−EDTAによって単離された全RNA、レーン7:ホモジナイゼーションによって単離された全RNA。28Sおよび18Sにおける2つの区別されるrRNAバンドの存在は、全RNA種がよく保存されていることを示す。
【0137】
一般に、前記アプローチは、ホモジナイゼーション(60〜100mg、Invitrogen Protocol)を用いて報告されたもの(Chomczynski,P.,1993、Biotechniques 15,532)のような慣用的プロセスに対して同様の結果を提供した。A260〜A280のOD比率はPH7.4PBS緩衝液中で測定して2.08〜2.12であることが判明し、これは、RNAが高い純度のものであったことを示す。
【0138】
bioMEMシステムにおいて酵素的組織消化を実行するための1つの可能なスキームは、(1)緩衝液およびプロテアーゼ溶液のためのチャンバー、(2)固体組織試料のための流入口および反応ポート、(3)消化された溶液のための回収ポート、および(4)廃棄物チャンバーからなるμ−フルイディックカートリッジの設計を示す図3に示される。加えて、示されたμ−フルイディックカートリッジは、細胞溶解、核酸分離および検出のような他の下流bioMEMプロセスと統合させることもできる。もう1つの例は図8で見られ、これは(1)緩衝液およびプロテアーゼ溶液のためのチャンバー(図面には示さず)、(2)固体組織試料のための流入口およびインキュベーションチャンバー1、(3)柔軟化された組織の破壊のためのチャネル2、(4)緩衝液およびプロテアーゼ溶液を連結させるための流入口3、(5)ミクロ−ポンプまたはシリンジポンプ連結ポート4からなる。
【0139】
別の実施形態によると、本発明のデバイスは、典型的には、ミクロ製造システムで用いられる広い範囲の材料で作成することができる。これらは、限定されるものではないが、シリコンウエハー、シリカウエハー、ポリジメチロールシロキサン(PDMS)、ポリカルボネートおよびポリメチルメタクリレート(PMMA)のような材料を含む。
【実施例2】
【0140】
トリプシンおよびコラゲナーゼを、この実施形態の例示的モデルとして用いた。例として、ラット肝臓のトリプシン−EDTA消化を以下のように行った。新たに取得された組織を8mm3(重量は10mg)の試料サイズに切断し、続いて、500μlの氷冷リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中で2回洗浄した。トリプシン−EDTA溶液を組織試料に加え、これを振盪浴槽中で37℃にて30分間インキュベートし、さらに組織破壊が観察されなくなるまで溶液をピペッティングした。1)インキュベーション時間を90分まで増やし、振盪力は必要ではなく、および2)インキュベーション後、粉砕の代わりに温和な軽打を適用した以外はコラゲナーゼを用いて同様な手法を追跡した。
【0141】
我々の実験では、0.01%〜0.15%のトリプシン濃度は、細胞収率の点で好ましいことが判明した。しかしながら、プロテアーゼへの暴露時間を調整することによって、他の濃度を用いることも可能である。表4は、新鮮な組織および凍結された組織についての最適化された実験用トリプシン濃度である。新鮮なラット肝臓組織では、細胞収率は約1×105細胞/mgであった。
【0142】
【表4】
【0143】
これらの手法を用いて得られた細胞懸濁液は、TRIzolまたは磁性ビーズによる下流RNA単離で用いることができる均一な溶液を生じた。RNAの収率は10mgラット肝臓組織から50〜100μgであり、ホモジナイゼーション(60〜100μg,Invitrogenプロトコル)を用いて報告されたもの(Chomczynski,P.,1993,Biotechniques 15,532)に匹敵した。A280に対するA260のOD比率はpH7.4のPBS緩衝液中で測定して2.08〜2.12であることが判明し、これは、RNAが高い純度のものであったことを示す。本発明の解離方法を用いた新鮮なおよび凍結された組織からの全RNAは、各々、図4および5に示されたリボソームRNAの完全性の点で分解しなかった。表5は全RNA収率の比較を示す。データは、全RNA収率の変動が小さいことを示す。13アクチン、3−ミクログロブリン、シクロフィリン、TP53およびc−mycのようないくつかの選択された全長遺伝子を、高い品質にてラット肝臓組織から増幅することができる(図6)。ラット肝臓組織からのmRNA単離の代わりに、線維肉腫患者からのヒト胸組織を、乳癌に対するいくつかの特異的マーカーを用いて調べた。CD59、ケラチン19、TP53、ヒストンH4マスピンならびにα−抗キモトリプシンのような特異的乳房腫瘍マーカーは、図7に示したように検出することができる。それは、我々の方法が動物組織ならびに培養された細胞系から効果的にRNAを単離することを示す。本発明はMEMSデバイスの自動化に適合され、分子診断において正常、良性または悪性である種々の組織の中で遺伝子発現をスクリーニング/分化するのにかなり有用である。
【0144】
【表5】
【実施例3】
【0145】
以下のステップを含む組織破壊デバイスのプロセス:
100μlのプロテアーゼ[トリプシンでは0.05〜0.15%(wt/vol)およびコラゲナーゼについて100〜300単位/ml]溶液を、まず、インキュベーションチャンバーに注入し、37℃まで予備加熱する。次いで、新鮮なまたは凍結された哺乳動物組織(10mgまで)をチャンバーに入れ、密閉する。プロテアーゼ溶液の酵素分解によってそれが柔軟化されるまで、組織試料をチャンバー内部で約15分間インキュベートする。
【0146】
一旦インキュベーション時間が終了すれば、柔軟化された組織および溶液を、デバイスの流入口および流出口に連結されたミクロポンプの助けを借りて、組織破壊用の破壊チャネルを通す(図12、構成要素18および19参照)。破壊構成要素で生じた剪断力は柔軟化された組織をより小さなサイズまで破壊する。次いで、組織のこれらのより小さな断片をプロテアーゼ試薬の酵素分解で柔軟化する。破壊構成要素の寸法がより小さくなるにつれ、組織のサイズは、それが十分に破壊され、細胞が放出されるまで徐々に小さくなる。全組織解離時間(インキュベーション時間およびミクロチャネル時間における破壊)は約25分である。
【0147】
新鮮なラット肝臓では、平均細胞収率は組織試料mg当たり9.85×104細胞である。細胞収率は、組織破壊のために自動化機械的ホモジナイザーおよびプロテアーゼを用いる標準的な実験室の方法よりもわずかに高い。標準的な実験室の方法での平均細胞収率は9.35×104である。図13は、前記した2つの方法の間の比較を示す。
【0148】
次いで、破壊された組織試料から得られた細胞を要件に応じて、DNA、RNAおよびmRMAの抽出用の溶解ステップを通す。
【0149】
この特別な例において、mRNAが抽出される。図12に示すように、破壊された細胞を、溶解/結合緩衝液を用いてミクロ破壊/混合チャネルに通して、細胞を破壊する。15分後に、細胞膜は十分に破壊される。DNA、RNA、mRNA、タンパク質および他の細胞内構成要素は溶液中で溶解する。ポリd(T)オリゴと共に(DynalbeadsまたはBionobile磁性ビーズからの)磁性ビーズを混合チャネルに通して、溶液中のmRNAを取得し、次いで、外部磁場によってこれらのビーズを回収する。混合チャネル内の4回洗浄ステップを用い、デブリスを除去する。洗浄ステップの後に、mRNAを精製する。最後に、溶出試薬を混合チャネルに通して、mRNAを磁性ビーズから分離する。
【0150】
微少流体デバイスから抽出されたmRNAは、デバイスの外側でRT−PCRステップによって増幅する。図14は、3mgの新鮮なラット肝臓組織から抽出されたBata‐アクチンmRNAの合成用のゲル電気泳動を示す。図13は、前記した試料からのTP53およびシクロフィリンmRNAの合成用のゲル電気泳動を示す。我々は、遺伝子が無傷であると結論付けるができる。
【0151】
TP53の合成では、微少流体デバイスの使用、および自動化ホモジナイザーの使用からの収率は、各々、2730ngおよび2920ngであった。シクロフィリンの合成では、微少流体デバイスの使用および自動化ホモジナイザーの使用からの収率は、各々、2270ngおよび2280ngであった。
【0152】
我々は、微少流体デバイスの使用からの収率は、最高収率を示す従来の方法と同程度に高いと結論することができる。微少流体デバイスによるmRNAの抽出および精製についての全プロセス時間は45分未満を必要とするであろう。
【0153】
(出願の添付処理を含めた)本出願に記載された特許、特許出願、および刊行物はここに参照して組み込む。本明細書中に記載された本発明の実施形態は単に例示的なものであって、本発明の範囲を限定する意図のものではない。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】核酸分析用の従来のスキームのフローチャートである。
【図2】本発明のいくつかの実施形態(レーン3〜6)が慣用的方法(レーン7)と同程度に効率的であることを示すアガロースゲルを示す。
【図3A】タンパク質分解組織解離チャンバーを一体化する微少流体組織ダイジェスターの平面図である。
【図3B】図3Aのデバイスの斜視図である。
【図4】本発明の解離方法を用いることにより新鮮な組織からの全RNAのアガロースゲルを示す。それは、単離されたRNAが分解しないことを示す。表5は、全RNA収率の比較を示す。データは、全RNA収率の変動が小さいことを示す。本発明の解離方法は信頼できる。レーンM:マーカー、レーン1〜4:トリプシン消化によって単離されたRNA、レーン5〜6:ホモジナイザーによって単離されたRNA。
【図5】凍結された組織からの全RNAのアガロースゲル(レーン1〜4)である。
【図6】本発明の組織解離方法から抽出されたmRNAのアガロースゲルを示す。我々が合成した遺伝子を、図面に示す。mRNAは、本発明の解離方法を用いることによって無傷である。全長cDNAはSuperScript(Invitrogen)によって合成される。M.マーカー、レーン1:β−アクチン、レーン2:β−ミクログロブリン、レーン3:シクロフィリンン、レーン4:TP53、およびレーン5:c−myc。
【図7】本発明の方法によって解離されたヒト胸組織から抽出されたmRNAのアガロースゲルを示す。我々が合成した遺伝子を図面に示す。全長遺伝子はSuperScript(Invitrogen)による凍結されたヒト胸組織からのものである。レーン1:100bpのDNAラダー、レーン2:GAPDH、レーン3:β−アクチン、レーン4:CD59、レーン5:ケラチン19、レーン6:TP53、レーン7:ヒストンH4、レーン8:マスピン、レーン9:α−1−抗キモトリプシン。
【図8】微少流体組織破壊デバイス、1:組織入力/インキュベーションチャンバー、2:破壊チャネル、3:流体用の流入口、4:流体用の流出口。
【図9】組織破壊構成要素の詳細な図面、5:流入口ポート、6:収縮の領域、7:流出口ポート。
【図10】破壊構成要素のいくつかの可能な設計。
【図11】図11(A)は、:ポリカルボネート上方および下方層:およびアクリルテープ結合層、およびステンレス鋼層を含むステンレス鋼で作成された微少流体デバイスのサンドイッチ構造の断面を示す。この構造において、ステンレス鋼の特徴層を上方および下方層と結合して、破壊チャネルを形成する。図11(B)は、熱エンボシングまたはCNCを用いてポリカルボネートで作成され、熱拡散によって結合された微少流体デバイスの構造の断面図を示す。
【図12】生体分子の抽出および精製デバイス、8:水貯蔵器、9:溶解緩衝液、10:磁性ビーズ、11:洗浄緩衝液A、12:洗浄緩衝液B、13:溶出緩衝液、14:生成物貯蔵器、15:バルブユニット、16:試薬チャネル、17:破壊/混合チャネル、18および19:ポンプに連結、20:組織流入口/インキュベーションチャンバー。
【図13】ベンチ−トップ慣用的方法およびMEMS−ベースのデバイスの間の細胞収率の比較。
【図14】β−アクチンRT PCR合成のアガロースゲル。Mからのレーン:マーカー、レーン1:微少流体デバイス試料からのβ−アクチン、レーン2:自動化ホモジナイザー試料からのβ−アクチン。
【図15】TP53およびシクロフィリンRT−PCR合成のアガロースゲル、M:マーカー、レーン1:微少流体デバイス試料からのTP53、レーン2:自動化ホモジナイザー試料からのTP53、レーン3:微少流体デバイス試料からのシクロフィリン、およびレーン4:自動化ホモジナイザー試料からのシクロフィリン。
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞および/または核酸分子単離のための方法およびシステムに関する。特に、本発明による方法および/またはシステムは、ミクロ機械および/または自動プロセスで用いるのに適合する。
【背景技術】
【0002】
組織における核酸の分析は、法科学、病気の研究、医学科学、薬理学的薬物の発見および開発、および臨床診断を含めた多くの目的で行われる。核酸のこの研究は、典型的には、核酸を組織から抽出することを必要とする。核酸抽出におけるステップは組織のホモジナイゼーションである。
【0003】
組織は、通常、機械的強度を組織に提供する生物学的マトリックスによって一緒に接合される多くの細胞を含有する。組織のホモジナイゼーションステップは生物学的マトリックスを破壊する。生物学的マトリックスは、典型的には、コラーゲンが豊富であり、しばしば、90%ものコラーゲンがある。
【0004】
ホモジナイゼーションステップの後、細胞は、それらが含有する核酸を分析することができるように、細胞破壊ステップで破壊されなければならない。ホモジナイゼーションおよび細胞破壊ステップは、典型的には、同時に、またはまず細胞のいくらかを破壊するホモジナイゼーションステップ、続いての、細胞破壊プロセスを完了させる細胞破壊ステップによって達成される。図1は、核酸の抽出および分析のフローチャートを提供する。Huang et al.,2002,Anal.Bioanal.Chem.,372,49−65も参照。
【0005】
組織ホモジナイゼーションステップは、通常、組織を破壊するための機械力を用いることを含み、細胞破壊ステップは、通常、化学物質または酵素を用いることを含む。新鮮なおよび凍結された哺乳動物組織、または培養細胞のような生物学的試料を破壊するためには、従来の機械的方法を用いる。これらの方法は、1)ブレンダーのような構成要素を使用して、剪断力を発生させて、固体組織を物理的に破壊し、全ての細胞内構成要素を周囲の培地に放出させる自動化された機械的ホモジナイザーの使用、2)オリフィス中で高液体剪断力の衝突を使用して、細胞を破裂させる高圧ホモジナイザーの使用、3)粉砕およびビーズ間の衝突により発生した剪断力によって細胞を破壊するビードミルの使用、および4)細胞膜を破壊するのに十分なエネルギーを有する強い圧力波を生じさせるために超音波を使用するソニケーターの使用を含む。
【0006】
機械的組織ホモジナイゼーションは、化学物質または酵素が試料および組織中の細胞に浸透できるように組織を破壊する。組織ホモジナイゼーション無しでは、細胞破壊ステップにおける化学物質または酵素は組織試料中の一部の細胞にしか影響を及ぼさない。組織ホモジナイゼーションは細胞の一部を破壊するが、化学的および酵素的処理は、全ての細胞を破壊し、核酸を細胞の残りから分離するのを助けるのに必要である。核酸の増幅および検出を含む、分析を完成するための他の複雑な仕事は、核酸が抽出された後に行われる。
【0007】
分析のために核酸を調製する仕事は、普通、時間を消費し、労働が強いプロセスであった。これらの方法はいくつかの欠点を有する。これらの欠点の1つは、細胞は依然として一緒にクラスターを形成できるので、機械的ホモジナイゼーションプロセスでは組織の十分な解離を可能としないことである。さらなる問題は、機械的組織ホモジナイゼーションステップの間に、RNAaseが細胞から放出されるように、組織試料の一部の細胞を破壊する可能性があることである。RNAaseは、核酸分析が非効果的となるようにRNAポリ核酸を破壊するリボヌクレアーゼである。もう1つのさらなる問題は、組織からの細胞溶解物の調製のためのホモジナイゼーションプロセスが、電気ホモジナイザーで一度に1つの試料というように手動で行われ、その結果、クロスコンタミネーションを防ぐためにホモジナイザー先端を頻繁に洗浄する必要が生じる。他のさらなる問題は、i)これらのデバイスの大きな作動容量のため大きな組織サイズが必要であり、ii)これらのデバイスは構造が複雑であり、サイズが大きく、従って、それらは内部ミクロ流動デバイスを実行するのが容易でなく、iii)それらは自動化が非常に困難であり、iv)それらは操作誤差およびクロスコンタミネーションの影響を容易に受けやすく、v)これらの方法のいくつかは、かなりの量の熱を発生し、これは注目する細胞内構成要素の質を劣化させ、およびvi)それらのほとんどは、新鮮なまたは凍結された固体組織を破壊するのに十分には強力ではないことである。
【0008】
μ−フルイディックスおよびミクロ電気機械システム(MEMS)、ミクロトータル分析システム(μTAS)、およびバイオチップ技術における最近の進歩は、多くのミクロスケール分析機器の小型化に導いた。流体処理における小型化の利点には、試料サイズ、応答時間、コスト、分析性能、プロセス制御、統合、スループットおよび自動化に関する改良された効率が挙げられる(de Mello,Anal.Bioanal.Chem.372:12−13,2002)。
【0009】
しかしながら、前記プロセスのホモジナイゼーションおよび細胞破壊ステップは、時間がかかり手間のかかる方法で継続して実行される。事実、自動化し、ロボットを作成し、またはMEMSおよびμTASのようなシステムの小型化された性質のため、ホモジナイゼーションおよび細胞破壊を実行するミクロ機械デバイスを作成するのは困難であった。
【発明の開示】
【0010】
本発明は、前記問題に取組み、細胞単離のための、および/または核酸分子単離のための新しい方法および/またはシステムを提供する。特に、本発明による方法およびシステムは、ミクロ機械および/または自動化プロセスで用いるのに適合される。本発明の方法および/またはシステムは機械的ホモジナイゼーションステップを必要とせず、従って、組織解離に対する自動化された、ロボット的、またはミクロ機械的アプローチを達成することができる。
【0011】
1つの態様によると、本発明は、
i)組織解離用の少なくとも1つの酵素で組織試料を処理し、
ii)溶解溶液を添加し、
iii)核酸分子および/またはタンパク質を単離する、
ことを含む、組織試料から核酸分子を単離する方法を提供する。
【0012】
本発明の方法およびシステムは、組織解離用の少なくとも1つの酵素を用いる組織試料解離に関する。従って、本発明の方法およびシステムは機械的ホモジナイゼーションステップを必要としない。
【0013】
特に、本発明の方法は、さらに、ステップ(i)の生成物に流体力学剪断力を適用するステップを含む。
【0014】
従って、本発明の方法およびシステムは、組織が効率よく破壊され、細胞が組織試料から放出できるように、流体力学剪断力を利用して、組織試料を破壊する。さらに、それが、小型化および/またはミクロ流動デバイスのようなデバイスを通すのに十分小さくなるように、適用された流体力学剪断力は組織試料を破壊する。
【0015】
組織解離用の酵素は、解離すべき所望の組織試料に従って都合よく選択することができる。組織試料は動物、ヒト、または農業由来の組織であり得る。特に、組織解離用の酵素はプロテアーゼ、セルラーゼ、リパーゼなどであってもよい。例えば、以下のプロテアーゼのいずれかまたはその混合物を用いることができる。コラゲナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、キモパパイン、ヒアルロニダーゼ、プロナーゼ、ジスパーゼ、テルモリシン、ブロメライン、カテスパイン、またはペプシン、またはその混合物。
【0016】
放出された細胞を溶解溶液で処理する。細胞膜を破壊して、細胞内構成要素、特に、核酸および/またはタンパク質を放出させる。核酸分子は、当分野で公知のいずれかの標準的技術に従って単離し、回収することができる。例えば、核酸分子は、少なくとも1つのリンカーで被覆されたビーズを添加し、ひいては、リンカーに結合した核酸分子を回収することによって単離することができる。
【0017】
単離された核酸分子はmRNA、RNAおよび/またはDNAである。
【0018】
さらなる態様によると、本発明は、
(a)組織解離用の少なくとも1つの酵素で組織試料を処理し、
(b)ステップ(a)の生成物に流体力学剪断力を適用し、
(c)単離された細胞を回収する、
ことを含む、組織試料から細胞を単離する方法も提供する。
【0019】
回収された単離細胞は将来の使用のために保存するか、または貯蔵することができるか、あるいはそれを用いて、前記したように核酸分子を抽出することができる。
【0020】
もう1つの態様によると、本発明は、酵素分解組織解離チャンバーおよび組織破壊チャネルを含む、組織試料から細胞を単離するためのシステム(デバイス)を提供する。
【0021】
さらなる態様によると、本発明は、酵素分解組織解離チャンバーおよび組織破壊チャネルを含む、組織試料から核酸分子を単離するためのシステム(デバイス)を提供する。
【0022】
組織破壊チャネルは、それが、組織試料がチャネルを通るのに十分に小さくなるように、流体力学剪断力が組織試料を破壊することを可能にする点で有利である。
【0023】
特に、前記システムにおける組織破壊チャネルは、
流入口ポート、
少なくとも1つの収縮の領域、および
流出口ポート、
を含む。
【0024】
収縮の領域における組織破壊チャネルは、破壊チャネルの全断面積と比較してより小さな断面積を有する。収縮の領域は、組織試料が効率よくに破壊されるまで、組織試料のサイズを徐々に小さくするのに役立つ。
【0025】
酵素分解組織解離チャンバーは小さなサイズのものであってもよい。小さなサイズのチャンバーは、ミクロ機械的および/または自動化プロセスで用いるのに適合できる。例えば、前記チャンバーは100μl未満、50μl未満、10μl未満、または5μl未満の容量を有することができる。
【0026】
タンパク質分解組織解離チャンバーは、システムの少なくとも1つの他のチャンバーに操作可能に連結することができる。例えば、他のチャンバーは、少なくとも1つのプロテアーゼを保持し、緩衝液を保持し、プロテアーゼ阻害剤を保持し、染色または可視化剤を保持し、または廃棄物または核酸分子のための容器として役立つように用いる。
【0027】
特に、本発明のシステムは、生物学的ミクロ電気機械システム(bioMEMS)および/または十分に自動化された完全なミクロトータル分析システム(μTAS)であってもよい。それは、さらに自動化核酸および/またはタンパク質抽出器であってもよい。
【0028】
特に、本発明のシステムは、
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物のインキュベーション用の第一のチャンバー、
流体力学剪断力を発生させるための組織破壊チャネルである第二のチャンバー、
必要に応じて細胞回収用のチャンバー、および
廃棄物回収用のチャンバー、
を含み、必要に応じて、前記チャンバーは相互に連結されている、組織試料から細胞を単離するためのシステムである。
【0029】
本発明のシステムは、さらに、
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物のインキュベーション用の第一のチャンバー、
流体力学剪断力を発生させるための組織破壊チャネルである第二のチャンバー、
溶解溶液を含む第三のチャンバー、
核酸分子および/またはタンパク質の回収および単離用の第四のチャンバー、および
廃棄物回収用の第五のチャンバー、
を含み、必要に応じて、前記チャンバーは相互に連結されていることを含む、組織試料から核酸分子を単離するためのシステムを提供する。
【0030】
本発明のシステム(デバイス)のいずれか1つは、必要に応じて、投入組織試料用のポート、および、各々、流体およびポンプを連結させるための組織破壊チャネルの流入口および流出口を含む。
【0031】
組織破壊チャネルは、前記した破壊構成要素を含む。
【0032】
前記システムは、核酸分子の単離用のビーズ、マトリックス、および/または担体を含有するチャンバーを含んでもよい。特に、核酸分子の単離用の少なくとも1つのリンカーで被覆されたビーズを用いることができる。ビーズは磁性ビーズであってもよい。
【0033】
さらに、前記システムは、法医学テスト、臨床診断、動物、農業診断などに適した診断統合システムの一部であり得る。
【0034】
もう1つの態様によると、本発明は、
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物を第一のチャンバー中でインキュベートし、
流体力学剪断力を発生させるための組織破壊チャネルである第二のチャンバー中で組織試料を破壊し、
必要に応じて、第三のチャンバーにおいて細胞を回収し、次いで、
必要に応じて、第四のチャンバー中で廃棄物を回収する、
ことを含む、組織試料から細胞を単離する方法を提供する。
【0035】
さらなる態様によると、本発明は、
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物を第一のチャンバー中でインキュベートし、
流体力学剪断力を発生させるための組織破壊チャネルである第二のチャンバー中で組織試料を破壊し、
第三のチャンバー中で組織破壊チャネルから単離された細胞を溶解させ、次いで、
第四のチャンバー中で所望の核酸分子を回収し、単離する、
ことを含む、組織試料から核酸分子を単離する方法を提供する。
【0036】
第一のチャンバーにおけるインキュベーションは、一定温度で行うことができる。
【0037】
前記方法は、組織破壊チャネル内に流体力学剪断力を適用して、組織試料が十分に破壊され、細胞が放出されるまで、組織試料サイズを徐々に小さくさせることを含む。
【0038】
核酸分子の回収は、当分野で公知のいずれかの標準的な方法に従って回収し、および/または単離することができる。例えば、少なくとも1つのリンカーで被覆されたビーズを添加することによって、核酸分子を溶液から回収することができ、従って、リンカーに結合した核酸分子が回収される。
【0039】
特別な態様によると、本発明による方法は、約10mm3未満、または約3mm3未満の組織試料を供し、前記組織試料を解離用の少なくとも1つの酵素に暴露し、必要に応じて、組織が効果的に破壊されるまで流体力学剪断力を適用することを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明は、ミクロ機械デバイスおよび/または自動化プロセスで用いるのに適合させることができる核酸分子の抽出および単離のために組織試料を処理する方法およびシステムを提供する。本発明の実施形態は、組織の機械的ホモジナイゼーションのステップ無しで組織解離を行う方法である。組織は、解離用の少なくとも1つの酵素を用いて解離させる。例えば、少なくとも1つのプロテアーゼ(例えば、トリプシンまたはコラゲナーゼ)、セルラーゼまたはリパーゼ、またはその混合物を、組織に接触させ、それを解離させる溶液として適用することができる。
【0041】
解離のために少なくとも1つの酵素を組織試料に添加するプロセスは迅速に行うことができ、複雑な機器を必要としない。組織解離プロセスは、それにより、自動化することができ、ミクロ機械デバイスに一体化させることができるために、これは有利である。ミクロ機械デバイスは生物学的ミクロ電気機械システム(bioMEMS)および十分に自動化された完全なミクロトータル分析システム(μTAS)を含む。
【0042】
従来の機械的組織ホモジナイゼーション方法の例を表1に記載する。
【0043】
【表1】
【0044】
さらに、組織試料中の細胞は、細胞破壊(溶解)ステップまでは実質的に破壊されないように、解離プロセスを行うことができる。組織の解離の後、所望の細胞の一部の内容物を、組織中の全ての細胞の代わりにプローブすることができるように、注目する細胞を組織の残りから分離することができる。対象とする細胞のスクリーニングおよび/または分離は、標準的な方法に従って行うことができる。
【0045】
さらに、細胞は組織解離ステップを通じて無傷のまま維持することができるので、細胞中のRNAaseは細胞中のリソソーム内に実質的に保持され、それにより、細胞内に隔離されている。RNAaseは、核酸分析が非効率的となるように、RNAポリ核酸を破壊するリボヌクレアーゼである。RNAaseは、通常は、RNAase阻害剤を用いて阻害される。RNAaseは本発明のいずれかの実施形態を用いて細胞で実質的に隔離できるので、RNAase阻害剤に対する必要性、およびその投与における用心に対する必要性は排除することができる。無傷の細胞は必ずしも生きている必要はない。無傷とは、細胞壁およびリソソームを含めた細胞の膜の状態をいう。生存性とは、生きたままでいる能力をいう。従って、細胞は無傷であって、生きていなくてもよい。
【0046】
RNAaseの作用を回避するのは重要である。RNAは不安定であり、組織試料に存在するRNAseならびに指の先に存在するものを含めたヒトの汗からの汚染によって迅速に分解し得る。全ての機器、容器、および動作領域がRNAaseフリーであることを保証する以外に、技術者は、新たに採取された試料を室温においたまま保存しなかったり、凍結試料が解凍されたり、または機械的組織破壊がヌクレアーゼ阻害剤の存在無しで起こることのないように注意しなければならない。本発明のある実施形態は、全てのこれらの介入技術を除く。例えば、bioMEMのチャンバーは生検または組織取得直後に試料を受け取ることができ、場合によっては、保存手法の必要性が取り除かれる。さらに、十分に自動化された試料調製は、ヒトの干渉を必要とせず、ヒトの汗の中に見出される汚染ヌクレアーゼを大いに抑えることができる。
【0047】
細胞を単離するための従来の方法には、プロテアーゼを用いて組織を処理する方法がある。プロテアーゼは、ペプチド化学結合を切断し、またはその切断を触媒する酵素である。ペプチド化学結合は、2以上のアミノ酸を連結する化学結合、例えば、タンパク質の2つのアミノ酸の間で形成される結合である。例えば、米国特許第5,952,215号においてDwulet et al.,および米国特許第6,238,922号においてUchidaはプロテアーゼコラーゲンに組織を暴露することを記載し、Freshneyは組織のトリプシンへの暴露を記載する。Rl Freshney,Freshney’S Culture of Animal Cells,Chapter 11:Primary Culture(1999)を参照されたい。しかしながら、そのような方法は核酸の単離を対象としていない。その代わりに、それらは、組織の構造を分解して、細胞が単離され、培養されるのを可能にすることを対象としており、これは、核酸の単離とは別の非常に異なる目的である。結果的に、そのような方法では、本発明の実施形態を達成することができない。なぜならば、それらの方法は細胞生存率を最適化することを対象としており、組織中の結合を徹底的に破壊せず、組織をホモジナイズせず、通常、タンパク質の分解暴露において、異なる温度、濃度、および/または持続時間を用いるからである。
【0048】
MEMSは、通常、細胞試料、例えば、血液細胞および微生物のみで有用である。しかしながら、本発明のある実施形態のさらなる利点は、今や、ミクロ機械デバイスが、本発明を用いて固体組織と共に使用するのに適合させることができることである。表1は、従来の機械的ホモジナイゼーション方法に言及する。これらの方法のレビューは、自動化するかもしくは、あるいはミクロ機械デバイスに適合させることが困難なプロセスを用いることを示す。例えば、組織の音波処理は、、加熱および発泡を引き起こす傾向がある一方でグラインダーおよびガラスビーズはサイズを減少させるのが難しい。多くのμ−フルイディックモジュールは、過去10年間で基本的核酸抽出および精製プロセスを行うことが示されているが、試料調製ステップは慣用的にはチップを省く。その理由は、核酸単離ステップとは異なり、試料調製プロセスは変更され、生物学的試料材料に合わせる必要があることである(Huang et al.,2002,Anal Bioanal.Chem.372:49−65,2002)。
【0049】
事実、異なるタイプの組織試料は、核酸分子を抽出できる前に、異なる処理を必要とする。種々の処理に対する必要性は、異なる組織における細胞外マトリックス組成物および細胞間結合の固有の差の結果である。例えば、筋肉組織および多くの癌組織は、脳または腎臓組織と比べて、性質がより繊維状であって、堅い。これらの差が、手動式の電気デバイス、典型的には、DounceまたはPotter−Elvehjem「ホモジナイザー」を手動によって用いて、固体組織を機械的に破壊し、ホモジナイズする慣用的方法へと導いた。
【0050】
MEMにおける試料調製用の自動化に対する研究が増えているにもかかわらず、研究の多くは、主として、単純な細胞溶解プロセスを統合することにだけ集中している。多くの従来の公報(例えば、米国特許第6,344,326号)は、細胞からDNA分離のための総合的なアプローチを公開しているが、固形組織からの核酸単離のための総合的な微少流体、および/またはMEMシステムは2つの理由のため分かりにくいままであり、証明されていない状態である。第一に、細胞試料は、細胞間接着による組織試料と比較すると、溶解させて、ホモジナイズするのがかなり容易である。第二に、組織ホモジナイゼーションのための多くの標準的な方法は、機械的破砕および剪断力を含み、これは、MEMには好都合ではなく、小型化に対してかなりの障害をもたらす。
【0051】
核酸抽出に対するそのような従来の手動および機械的アプローチは、長年の間、標準的なベンチトッププロセスであった。多くの核酸単離キットが商業的に入手可能である。多くは自動化されておらず(例えば、Ambion,Amersham,Qiagen,TRizolキットなど)、核酸単離プロセスに必要な化学的試薬と材料のみを提供する。Dynalビーズのプロトコルのようなプロトコルの一部は、自動化をその単離システムに組み込んでいる。しかしながら、これらはよくても半自動化されたものであり、依然として、多くの手動プロセスを行い、そのプロセスを監視するための技術者を必要とする。例えば、多くの「自動化された核酸単離キット」においては、組織からの細胞溶解物の調製のためのホモジナイゼーションプロセスは、依然として、電気ホモジナイザーで一度に1つの試料にて手動で行われており、その結果、クロスコンタミネーションを防ぐためにホモジナイザーの先端を頻繁に洗浄する必要がある。
【0052】
第一の実施形態によると、本発明は、
i)組織解離用の少なくとも1つの酵素で組織試料を処理し、
ii)溶解溶液を添加し、
iii)核酸分子および/またはタンパク質を単離する、
ことを含む、組織試料から核酸分子を単離する方法を提供する。
【0053】
酵素分解組織解離は、クラスター化された細胞が少ないほど、従来の機械的ホモジナイゼーション方法よりもより効果的に組織の解離を可能とする。さらに、酵素分解組織解離は、RNAaseおよびプロテアーゼが細胞から放出されないように、細胞を実質的に無傷に維持する。よって、核酸分子は破壊されることなく、核酸分子単離は効率的に行うことができる。さらに、組織試料の解離が手動で行われず、かつ電気ホモジナイザーを用いないので、ホモジナイザー先端の頻繁な洗浄に対する必要性は回避される。これにより、クロスコンタミネーションも防止する。さらに、ホモジナイゼーションステップが回避されるので、本発明の方法は、機械的ホモジナイゼーション方法よりも速く、かつ余り労力を必要としない。
【0054】
組織解離用の酵素および組織試料は、好ましくは、組織がほぼ完全に柔らかくなり、組織解離が視覚的にも完了したように見えるまで、制御された温度、好ましくは37℃にて溶液中でインキュベートされる。
【0055】
もう1つの態様によると、本発明の方法は、さらに、ステップ(i)の生成物に流体力学剪断力を適用するステップを含む。
【0056】
酵素分解組織解離の後、次いで、柔軟化された組織試料を特別に設計された破壊チャネルに通して、さらに、細胞を破砕し、ポンプによって生じた、または吸引方法(真空)によって作り出された流動力によって放出する。組織試料を破壊するために化学的酵素分解を使用するのに加え、本発明の方法およびシステムは、組織試料を破壊するために流体力学剪断力も使用する。このようにして、得られた細胞は、破壊された組織試料から効率よく放出される。細胞が組織試料から実質的に十分に放出されるので、組織破壊プロセスの細胞収率は高い。
【0057】
さらなる実施形態によると、本発明は、組織試料から細胞を単離する方法に関する。単離された細胞は、貯蔵し、保存することができ、その後の用途に使うことができる。あるいは、それは、核酸分子の溶解および単離のさらなるステップに供することができる。核酸分子を単離するために、溶解および単離のさらなるステップを以下に記載するように行う。単離された細胞はタンパク質の調製に用いることもできる。当業者は当分野で公知の方法を用いて、解離および/または破壊ステップの間にタンパク質を単離することもできる。
【0058】
従って、本発明は、
(a)組織解離用の少なくとも1つの酵素で組織試料を処理し、
(b)ステップ(a)の生成物に流体力学剪断力を適用し、
(c)単離された細胞を回収する、
ことを含む組織試料から細胞を単離する方法を提供する。
【0059】
前記方法は、さらに、溶解溶液を単離された細胞に添加し、核酸分子を回収することを含む。
【0060】
本発明の目的では、用語「組織解離」とは、解離用の少なくとも1つの酵素、例えば、少なくともプロテアーゼ、セルラーゼ、またはリパーゼ、またはその混合物で処理された組織試料を意味する。組織解離の結果として、組織試料は柔軟化され、細胞の一部のみが放出される。用語「組織破壊」とは、少なくとも解離用の酵素を用いて解離され、さらに、流体力学剪断力に供された組織をいう。組織破壊ステップの後、細胞は組織試料から実質的に完全に放出される。
【0061】
本発明で用いるのに適した組織は、新鮮な組織、ならびに保存剤で処理された凍結組織を含めた保存組織である。組織は動物由来組織、ヒト由来組織、または農業由来組織であり得る。組織試料は、例えば、いずれの種類の動物またはヒト生物学的組織試料、植物組織または脂肪組織も含む。これらの源は、限定されるものではないが、法医学、医学、農業、および研究試料、すなわち、異なる器官から採取された組織、直ちに処理された、または分析まで液体窒素または保存剤試薬で貯蔵された組織を含むことができる。直ちに処理された、または分析まで貯蔵された組織、凍結された、凍結されていない、解凍された、および凍結されたことのない組織。本明細書中で用いる用語、組織は、組織解離酵素によって、または酵素的プロセスによって分解することができる物である。組織は、好ましくは、少なくとも2つの細胞およびバイオマトリックスを含む。細胞外マトリックス、多糖マトリックス、およびコラーゲンがバイオマトリックスの例である。組織の重量は1mg〜10mgの範囲とすることができる。
【0062】
組織試料のサイズは、好ましくは、1〜10mm3の間である。組織解離酵素による試料の浸透が促進されるように、より小さなサイズが好ましい。組織試料は、例えば、適当なサイズの生検ツールで生検組織を採取することによって調製することができるか、あるいは組織を組織試料に切断して、所望の容量を得ることができる。本発明の実施形態は、凍結された組織、および保存剤、例えば、製品RNAlater(登録商標)(Ambion,Qiagen)で処理された組織を含む保存された組織で用いるのに適している。
【0063】
本発明のさらなる態様は、血液および/または体液を記載した方法で用いることもできることである。例えば、細胞を血液および/または体液から単離すべき場合である。体液は、涙、汗、尿、胃液および腸液、ならびに唾液、種々の粘膜放出物および滑液のような体液を言及する一般的用語である。血液および体液は、核酸分子の抽出用に本発明の方法およびシステムで用いることができる。
【0064】
組織解離用の酵素は、用いる組織試料に従って選択することができる。
【0065】
特に、組織解離用の酵素はプロテアーゼまたはその混合物である。前記プロテアーゼはコラゲナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、キモパパイン、ヒアルロニダーゼ、プロナーゼ、ジスパーゼ、テルモリシン、ブロメライン、カテスパイン、またはペプシン、またはその混合物であってよい。最も好ましいプロテアーゼはコラゲナーゼである。というのは、それは、ほとんどの組織の主成分であるコラーゲンを分解するからである。
【0066】
プロテアーゼの組合せを用いることもできる。いくつかのプロテアーゼは作用が非常に特異的であり、限定された切断作用を生じ、他方、他のプロテアーゼはタンパク質を個々のアミノ酸まで完全に分解する。従って、もし特定の組織があるタンパク質または生体分子に富んでいることがわかっていれば、いくつかのプロテアーゼを選択することができる。
【0067】
組織試料が植物または植物由来の組織である場合、組織解離用の酵素はセルラーゼであってもよい。組織試料が脂肪または脂肪由来、または関連組織試料である場合、組織解離用の酵素はリパーゼであってよい。
【0068】
上記組織試料の1つ以上の組合せを用いる場合、組織解離用の上記酵素の少なくとも2つの混合物を用いることができる。
【0069】
また、当分野で知られた本発明のいずれかの実施形態の目的に適した組織破壊用の他の酵素を用いることもできる。
【0070】
組織破壊は、好ましくは、組織中の細胞が無傷の状態でいるように行う。必要に応じて、例えば、機械的濾過ステップによって細胞を組織デブリスから分離することができる。また、単離された細胞はタンパク質の調製で用いることもできる。当業者は、当分野で公知の方法を用いて、解離および/または破壊ステップの間にタンパク質を単離することもできる。
【0071】
細胞は、必要に応じて、例えば、細胞表面のマーカーを認識する細胞ソーターを用いることによって、溶解前に分類することができる。ホモジナイズした組織生成物を必要に応じて洗浄してプロテアーゼを除去し、好ましくは、生成物を溶解溶液に導入することによって行われる細胞破壊ステップに供する。
【0072】
従来の細胞溶解技術を用いて、無傷細胞を破壊することができる。表2は、これらの方法のいくつかを記載する。これらの方法のいくつかを用いて、1つの特定の細胞内画分を優先的に回収することができる。例えば、細胞質画分のみが放出され、あるいは無傷ミトコンドリアまたは他のオルガネラが異なる遠心によって回収されるように条件を選択することができる。時々、これらの技術が組み合わされる(例えば、洗剤の存在下での酵素処理、凍結−解凍に続いての浸透圧溶解)。細胞破壊が好ましくは低温で行われるように細胞を溶解すると、プロテアーゼを遊離させることができる。試料は必要に応じてタンパク質分解から保護することができ、破壊と細胞タンパク質の変性の間の時間が有意であれば好ましい。
【0073】
【表2】
【0074】
当分野で公知のいずれかの標準的な技術に従って、核酸分子および/またはタンパク質を溶解ステップの生成物から単離することができる。
【0075】
マトリックス、担体、膜フィルターなどを都合よく用いて、核酸分子および/またはタンパク質を吸着し、結合し、保持し、または捕獲することができる。次いで、核酸分子および/またはタンパク質をマトリックス、担体、膜フィルターなどから回収し、単離する。担体、マトリックスおよび膜フィルターの例はガラス、シリカゲル、アニオン交換樹脂、ヒドロキシアパタイト、ケイソウ土のようなセライトを含む。マトリックス、担体、および膜フィルターの形状は特に限定されない。それらはビーズ、メッシュフィルターまたは粉末の形態とすることができる。例えば、それらはガラスフィルター、ガラスビーズ、またはガラス粉末の形態であってよい。
【0076】
1つの特定の態様によると、mRNA、RNAおよび/またはDNAを含む核酸分子は、少なくとも1つのリンカーで被覆されたビーズを添加し、リンカーに結合した核酸分子を回収することによって単離することができる。
【0077】
例えば、mRNAは、オリゴd(T)を含む少なくとも1つのリンカーで被覆されたビーズを用いることによって単離することができる。オリゴd(T)はmRNAのポリd(A)を認識し、それに結合する。
【0078】
もう1つの例によると、mRNA、RNAおよび/またはDNAは、少なくとも1つのリンカーを用いることによって単離することができ、前記リンカーの遊離末端は少なくとも1つのヌクレオチドNを含み、NはA、G、C、TまたはUである。例えば、NNNN、NNNNN、NNNNNNを含むリンカーを便利上用いることができる。この技術は「ユニバーサルリンカー」技術として知られている。その例は(ここに参照して組み込む)EP1325118Aに記載されている。特に、「ユニバーサルリンカー」は無作為に作られる。
【0079】
当分野で公知のいずれの方法も、それに核酸分子および/またはタンパク質が結合したビーズ、メッシュフィルターまたは粉末を回収するのに便利上用いることができる。ビーズは機械的バリアーを用いることによって捉えることができる。例えば、(ここに参照して組み込む)Helene Andersson,2001,「Micofluidic devices for biotechnology and organic chemical applications」,Royal Institute of Technology(KTH),Stockholm,Sweden(http://www.lib.kth.se/Sammanfattningar/andersson011116.pdf)に記載されているようなビーズトラッピング用の流動フィルター−チャンバーを用いることによる。もう1つの別の方法は、物理的バリアーを用いることなく、微少流体デバイス(システム)において単層の非磁性ビーズを選択的にトラップすることからなる。この方法は、ケイ素、石英またはプラスチック基材に適用することができるミクロ接触プリンティングおよび自己集合を含む。最初のステップにおいて、デバイスのチャネルを基材においてエッチングする。次いで、ミクロ接触プリンティングによって、チャネルの内部壁の表面化学を修飾する。デバイスは、表面化学に基づいてビーズ溶液およびビーズ自己集合に沈め、チャネルの内部壁に固定化する(前記Helene Andersson)。
【0080】
ビーズは、少なくとも1つのリンカーで被覆された磁性ビーズであってよい。核酸分子は、外部磁場(外部磁石)またはデバイス(システム)に一体化された磁石を用いることによって回収することができる。
【0081】
また、本発明は組織試料から核酸分子を単離するためのシステムを提供し、前記システムは酵素分解組織解離チャンバーおよび組織破壊チャネルを含む(図10参照)。
【0082】
特に、組織試料から核酸分子を単離するためのシステムは少なくとも、
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物をインキュベートするための第一のチャンバー、
組織破壊チャネルとして作用する第二のチャンバー、
溶解溶液を含む第三のチャンバー、
核酸分子および/またはタンパク質を回収し、単離するための第四のチャンバー、および
廃棄物回収のための第五のチャンバー、
を含み、前記チャンバーは相互に連結されていることを含む。
【0083】
組織破壊チャネルは、
流入口ポート、
少なくとも1つの収縮の領域、および
流出口ポートを含む。
収縮の領域において、破壊チャネルの全断面積と比較して断面積はより小さい(図9および10参照)。
【0084】
酵素分解組織解離チャンバーは、少なくとも1つの組織試料および組織解離用の少なくとも1つの酵素を受け取る。組織および酵素のタイプは前記した通りである。
【0085】
酵素分解組織解離チャンバーはミクロ機械デバイスとして用いることができ、従って、小さな組織試料および小さな容量の酵素での使用に都合よく適合させることができる。従って、チャンバーは好ましくは容量が100μl未満であって、試料は好ましくは容量が10mm3未満である。より小さな容量がより好ましい。
【0086】
本発明で用いるのに適した組織は新鮮な組織、ならびに保存剤で処理した凍結組織を含めた保存組織である。組織は動物由来組織および/またはヒト由来組織であり得る。組織源は、限定されるものではないが、法医学、医学、農業、および研究試料、すなわち異なる器官から採取した組織、直ちに処理されるかもしくは、分析まで液体窒素または保存試薬で貯蔵された組織を含むことができる。直ちに処理された、または分析まで貯蔵された組織、すなわち凍結された、凍結されていない、解凍された、および凍結されたことがない組織。本明細書中で用いられる用語、組織は、プロテアーゼまたは酵素プロセスによって分解することができる物である。組織は、好ましくは、少なくとも2つの細胞およびバイオマトリックスを含む。細胞外マトリックス、多糖マトリックスおよびコラーゲンはバイオマトリックスの例である。組織の重量は1mg〜10mgの範囲とすることができる。
【0087】
プロテアーゼによる試料の浸透が促進されるようなより小さなサイズの組織が好ましい。組織試料は、例えば、適当なサイズの生検ツールで組織の生検を採取することによって調製することができるか、あるいは組織を組織試料に切断して、所望の容量を得ることができる。前記したように、植物組織または脂肪組織を本発明のいずれの実施形態において用いることができる。本発明の実施形態は、凍結された組織および保存剤、例えば、製品RNAlater(登録商標)(Ambion,Qiagen)で処理された組織を含めた保存組織で用いるのに適する。
【0088】
本発明のさらなる態様は、血液および/または体液を本発明の方法およびシステムで用いることもできることである。例えば、本発明のいずれかの実施形態に従って、血液および/または体液をシステム(デバイス)に入れることができ、流体力学剪断力を用い、血液および/または体液から細胞を単離することができる。さらに、核酸分子は、血液および/または体液から単離された細胞から抽出することができる。
【0089】
組織解離用の酵素は用いる組織試料に従って選択することができる。
【0090】
特に、組織解離用の酵素はプロテアーゼまたはその混合物である。
【0091】
プロテアーゼはコラゲナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、キモパパイン、ヒアルロニダーゼ、プロナーゼ、ジスパーゼ、テルモリシン、ブロメライン、カテスパイン、またはペプシン、またはその混合物であってよい。最も好ましいプロテアーゼはコラゲナーゼである。というのは、それは、ほとんどの組織の主成分であるコラーゲンを分解するからである。
【0092】
プロテアーゼの組合せを用いてもよい。いくつかのプロテアーゼは作用が非常に特異的であり、限定された切断作用を生じ、他方、他のプロテアーゼはタンパク質を個々のアミノ酸まで完全に分解する。従って、もし特定の組織があるタンパク質または生体分子に富んでいることがわかっているならば、いくつかのプロテアーゼを選択することができる。
【0093】
組織試料が植物または植物由来組織である場合、組織解離用の酵素はセルラーゼであってもよい。組織試料が脂肪、または脂肪由来または関連組織試料である場合、組織解離用の酵素はリパーゼであってよい。
【0094】
前記組織試料の1つ以上の組合せを用いる場合、組織解離用の前記酵素の少なくとも2つの混合物を用いることができる。
【0095】
当分野で知られた本発明のいずれかの実施形態の目的に適した組織破壊用の他の酵素を用いることもできる。
【0096】
本発明によるシステムは、好ましくは、生物学的ミクロ電気機械システム(bioMEMS)および/または十分に自動化された完全なミクロトータル分析システム(μTAS)である。
【0097】
本発明のシステムは、さらに、便宜には、核酸分子を吸着し、結合し、保持し、またはトラップするために、マトリックス、担体、膜フィルターなどを含むチャンバーを含む。次いで、核酸分子をマトリックス、担体、膜フィルターなどから回収し、単離する。担体、マトリックスおよび膜フィルターの例はガラス、シリカゲル、アニオン交換樹脂、ヒドロキシアパタイト、およびケイソウ土のようなセライトを含む。マトリックス、担体、および膜フィルターの形状は特に限定されるものではない。それらはビーズ、メッシュフィルターまたは粉末の形態とすることができる。
【0098】
チャンバーは、それに結合した核酸分子を有するビーズを回収するための機械的バリアーを含むことができる。例えば、チャンバーは前記したHelene Andersson,2001に記載されたビードトラッピング用の流動フィルター−チャンバーを含むことができる。
【0099】
特に、核酸分子の単離用の少なくとも1つのリンカーで被覆されたビーズを用いることができる。例えば、ビーズは磁性ビーズであり、外部磁場を用いて回収される。あるいは、磁石をシステムに一体化させることができる。
【0100】
本発明のさらなる実施形態は、システムが自動化された核酸抽出器であり得ることである。例えば、ヒト介入は最小限必要であり、従って、汚染、誤差の余地を少なくし、そして場合によっては全プロセス時間の削減するように、異なるチャンバーのシステムをリンクさせることができる。システムは、組織試料調製用のディスポーザブル自動システムとすることもできる。例えば、ゲノムまたはプロテオミック分析の目的のための核酸抽出器。
【0101】
さらに、本発明は、前記したシステムを用いて核酸分子を単離する方法を提供する。
【0102】
また、本発明は、組織試料から細胞を単離する方法を提供し、前記方法は少なくとも、
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物を第一のチャンバー中でインキュベートし、
組織破壊チャネルとして作用する第二のチャンバー中で組織試料を破壊し、
必要に応じて、細胞回収用のチャンバー、および
必要に応じて廃棄物回収用のチャンバー、
を含み、チャンバーは必要に応じて相互に連結していることを含む。
【0103】
特に、本発明は組織試料から核酸分子を単離する方法を提供し、前記方法は少なくとも、
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物を第一のチャンバー中でインキュベートし、
組織破壊チャネルとして作用する第二のチャンバー中で組織試料を破壊し、
第三のチャンバー中で組織破壊チャネルから単離された細胞を溶解し、次いで、
第四のチャンバー中で所望の核酸分子を回収し、単離する、
ことを含み、チャンバーは必要に応じて相互に連結していることを含む。
【0104】
本発明のシステム(デバイス)のいずれの1つも、必要に応じて、入力組織試料のためのポート、および、各々、流体およびポンプを連結するための組織破壊チャネルの流入口および流出口を含む。
【0105】
第1のチャンバー中でのインキュベーションは、適当な温度で行うことができる。例えば、インキュベーションは一定温度、好ましくは37℃で行うことができる。インキュベーション時間は組織試料のサイズと相互依存している。当業者に明らかな適当なインキュベーションの持続時間が選択される。より短い時間ではRNAの収率が少なく、一方、より長いインキュベーション時間ではRNAの分解が生じる。
【0106】
組織破壊チャネル内で適用される流体力学剪断力は、それが十分に破壊され、細胞が放出されるまで組織試料のサイズを徐々に小さくする。
【0107】
mRNA、RNAおよび/またはDNAを含む核酸分子は、当分野で知られたいずれかの標準的な方法に従って溶液から回収される。例えば、少なくとも1つのリンカーで被覆されたビーズを付加し、リンカーに結合した核酸分子を回収することによる。ビーズは磁性ビーズであってよく、外部磁場によって、またはシステムに一体化された磁石によって回収することができる。
【0108】
例えば、mRNAはオリゴd(T)を含む少なくとも1つのリンカーで被覆されたビーズを用いることによって単離することができる。オリゴd(T)はmRNAのポリd(A)を認識し、それに結合する。
【0109】
もう1つの例によると、mRNA、RNAおよび/またはDNAは少なくとも1つのリンカーを用いて単離することができ、リンカーの遊離末端は少なくとも1つのヌクレオチドNを含み、NはA、G、C、TまたはUである。例えば、NNNN、NNNNN、NNNNNNを含むリンカーを便宜には用いることができる。この技術は「ユニバーサルリンカー」技術として知られている。その例は(ここに参照して組み込む)EP1325118Aに記載されている。特に、「ユニバーサルリンカー」はランダムに作られる。
【0110】
本発明のある実施形態は、組織解離および破壊プロセスを大いに単純化し、改良することができる。それらは、試料調製のプロセスでのbioMEMSにおける多くの障害を克服するのに役立ち、完全に自動化された様式で、組織試料から、例えば、固体組織試料からの核酸分子および/またはタンパク質の分離を行うことができる完全なμ−TASの加速度的発展を可能とする。本発明の実施形態は、臨床医学者が容器に臨床試料を入れ、すべての核酸分子および/またはタンパク質単離プロセスがさらなるヒト介入無しで行われる方法である。精製された核酸分子はチップ中に回収され、さらなる使用に必要となるまで適切に貯蔵される。
【0111】
本発明のある実施形態は製品、デバイスまたはシステム、好ましくは、酵素分解組織解離チャンバーを含むMEMS、bioMEMSおよび/またはμTASを含む。酵素分解組織解離チャンバーとは、少なくとも1つの組織試料および少なくとも1つの酵素試料を受け入れるが、組織を機械的にホモジナイズするためのデバイスを受け入れないか、または使用しないチャンバーをいう。従って、酵素分解組織解離チャンバーは、組織をホモジナイズする機械的に作用するデバイス、例えば、グラインダーでは機能しない。また、酵素分解組織解離チャンバーは、少なくとも1つの組織試料および少なくとも1つの酵素、好ましくは、本明細書中に開示されたプロテアーゼ、それに相当する物、またはその混合物を受け入れることによって組織を解離させる。酵素分解組織解離チャンバーは、好ましくは、MEMS、bioMEMSおよび/またはμTASデバイスとして適合させることができ、従って、好ましくは、小さな組織試料および少ない容量の酵素と共に使用することに適合される。チャンバーは、好ましくは、容量が100μl未満であって、試料は好ましくは容量が100μl未満である。より小さな容量がより好ましく、容量が50μl未満がより好ましく、10μl未満の容量はなお一層好ましく、5μl未満の容量が最も好ましい。
【0112】
酵素分解組織解離チャンバーは、好ましくは、他のチャンバーと共に操作可能に連結される。他のチャンバーは、組織解離および/または破壊、細胞破壊、または核酸分子処理、単離および/または分析に関与する他の機能を有する。他のチャンバーは、限定されるものではないが、組織解離用のプロテアーゼまたは他の酵素、プロテアーゼ阻害剤、緩衝液、洗浄液、洗剤、化学物質、溶液、塩または試薬のためのチャンバー、廃棄物回収ポイント、流入口ポート、流出口ポート、生成物回収チャンバー、および分析チャンバーを含むことができる。例えば、組織破壊チャンバーの流入口および流出口は、各々、流体入力およびポンプを連結するためのものである。
【0113】
また、分離プロセスは本明細書中に記載されたチャンバーと操作可能に連結させることができる。例えば、フィルターを用いて、サイズにより解離および/または破壊生成物を分離することができる。他の分離プロセスを行うこともできる。
【0114】
本発明のある実施形態は、酵素的方法を用いる組織解離、および本発明のいずれかの実施形態による組織破壊を含めた、オンチップ試料調製を一体化させるMEMS、bioMEMSおよび/またはμTASデバイスである。MEMSは、相互に連結される、または一体化される単一モノリシックデバイスまたはいくつかの微少流体モジュールであり得る。bioMEMSデバイスはPCR増幅、電気泳動、発現プロフィールマイクロアレイ分析、遺伝子型分けなどのプロセスを含むことができる。あるいは、MEMSは統合されたミクロ−分析システムに取り込んで、診断、薬物発見または生物医薬研究に適用することができる核酸単離の後に、下流増幅および検出機能を行うことができる。これらの機能のいくつかを行うMEMSまたはbioMEMSの例は、ここに参照して組み込む米国特許第6,675,817号、第6,468,800号、、第6,468,761号、第6,447,661号、第6,440,725号、第6,387,710号、第6,375,817号、第6,238,922号、第6,221,677号、第6,179,595号、第5,952,215号、第5,786,207号、第5,667,985号、第5,443,791号、第5,374,395号に見出される。
【0115】
本発明のもう1つの実施形態は、自動生物試料調製用の微少流体デバイスまたはシステムに基づいてMEMS、bioMEMSおよび/またはμTASにおけるこの方法の使用である。この実施形態においては、新鮮な組織および凍結された組織の解離のために化学的酵素および流体力学剪断力双方を使用する方法が提供される。
【0116】
生物試料調製方法は、必要に応じて、組織の解離用の少なくとも1つの酵素、例えば、プロテアーゼ(例えば、トリプシン、コラゲナーゼなど)、セルラーゼ、またはリパーゼ、またはその混合物を含む緩衝液と共に、インキュベーションチャンバー中で少なくとも1つの組織試料をインキュベートすることを含む。組織試料が柔軟化されるまで、温度および時間を制御する。細胞は、このステップにおいて、組織試料から部分的に放出される。消化手法は制御可能であるので、消化反応は、1つ1つの細胞が組織試料から放出される時間までに終了させることができる。この段階において、生物分子のいずれかの種、特に、RNAは無傷細胞区画によってよく保護される。無傷かつ生きた細胞において、生物分子を破壊するための主なプロテアーゼであるRNAaseはリソソーム内に実質的によく保持される。
【0117】
次いで、柔軟化された組織試料を特別に設計された破壊ミクロチャネルに通して、ポンプによって生じた、または(真空下で)吸引下で作り出された流動力によって細胞をさらに破砕化し、放出する。組織試料を解離するための化学的酵素分解の使用以外に、本発明のデバイスは、それが破壊チャネルを通過するのに十分小さくなるように、組織試料を破壊するために流体力学剪断力を利用する。
【0118】
組織破壊チャネルは、組織破壊構成要素からなる。各組織−破壊構成要素は、流入口ポート(オリフィス)、収縮の領域、および流出口ポート(オリフィス)からなる。収縮の領域は、流入口/流出口ポートと比較してより小さな断面積を有する。破壊チャネルを通っての一定液体流速をもった流動速度は、流入口または流出口ポートにおける速度よりも収縮の領域における速度の方がかなり大きい。柔軟化された組織は流動の方向に沿って延ばされ、破壊区画を通って絞られる。従って、この柔軟化された組織は、迅速な速度プロフィール(リップル)によって生じた剪断力によって小さな断片に砕かれる(破砕される)。組織断片化は、組織が組織破壊構成要素を通過するにつれて起こる。
【0119】
次いで、組織試料からの単離された細胞は細胞溶解ステップに供される。細胞溶解ステップは、混合物をチャネルに導入し、それを溶解緩衝液と混合することによって行われる。溶解物は核酸分子に供される。例えば、MEMS、bioMEMSおよび/またはμTASにやはり適合する磁性ビーズを通ってのポリ(A)+RNA単離。全メッセンジャーRNAは精製された形態で得られ、特異的な遺伝子発現の検出に適している。
【0120】
本発明の利点はMEMS、bioMEMSおよび/またはμTASおよび微少流体適合性、高効率、クロスコンタミネーションが見られないこと、必要な試料サイズの減少、自動化、高出力の可能性を含む。
【0121】
本発明の微少流体組織破壊デバイスは少なくとも試料インキュベーションチャンバー、一連の組織破壊チャネル、流入口および流出口を含む。ミクロポンプまたはシリンジポンプは、外部で連結することができるか、あるいはデバイス内部に一体化することができる。あるいは、流体の動きは吸引方法を適用することによって作り出すことができる。本発明によるシステムの1つの例を図8に示す。
【0122】
本発明のシステムの重要な特徴は、組織破壊チャネルである。それは、一連の組織破壊構成要素によって構築される。各組織−破壊構成要素は、図9および10に示された少なくとも流入口ポート、収縮の領域および流出口ポートを含む。収縮の領域は鋭いエッジを有する。収縮の領域に対する流入口/流出口ポートの比率は、チャネルに沿って2から5まで変化する。また、オリフィスのサイズもチャネルに沿って変化して、組織が破壊構成要素に突き刺さるのを回避する。また、この設計は破壊効率を増加させる。破壊構成要素のいくつかの可能な設計を図10に示す。
【0123】
サンドイッチ構造を有するこのデバイスの例を図11Aおよび11Bに示す。デバイスの下方層および上方層はCNC粉砕マシーンを用いてポリカルボネートで作成される。中央層は、破壊デバイスのほぼ全ての特徴からなる。この層は、レーザー切断マシーンを用いて200〜1000umの厚みで薄いステンレス鋼プレートに製造される。上方層、下方層および中央層は結合層によって一緒に結合される(VSTアクリルフォームテープ)。
【0124】
この特別な例の設計は、本発明の作動原理を示すものである。しかしながら、これは他の設計の用法および寸法を制限しない。
【0125】
そのようなデバイスのための製造方法は、ミクロ機械加工、成型および熱エンボス加工におけるエッチングのような他の方法の使用も利用することができる。図12は、破壊組織試料のための本発明の技術を用いる例であり、引き続いて、生体分子の抽出および精製が必要である。
【0126】
本発明のシステムはいずれかの適当な材料で作成することができる。例えば、ガラス、ケイ素またはプラスチックを用いることができる。ポリスチレン、ポリカルボネートおよびポリメチルメタクリレートのようなプラスチックおよびポリマーはより安価でかつ使い捨てのシステムを提供する。
【0127】
本発明のさらなる実施形態は、法医学テスト、臨床診断、動物および/または農業診断に適した診断統合システムの一部として前記システムを用いることができることである。
【0128】
さて、本発明を一般的に記載してきたが、それは、説明として掲げ、本発明を制限する意図のものではない以下の実施例を参照してより容易に理解されるであろう。
【実施例1】
【0129】
トリプシンおよびコラゲナーゼを、本発明のある実施形態の例示的モデルとして用いた。しかしながら、本明細書中に記載されたプロセスは、ヒト組織、植物組織、脂肪組織などを含めた他のタイプの組織に適用することができる。
【0130】
ラット肝臓のトリプシン−EDTA消化を以下のように行った。新たに採取された組織を2mm3試料サイズに切断し、続いて、500μlの氷冷リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中で2回洗浄した。トリプシン−EDTA溶液を組織試料に添加し、これを、振盪水浴中で37℃にて30分間インキュベートし、さらに組織破壊が観察されなくなるまで時々粉砕した。1)インキュベーション時間を90分まで伸ばし、振盪は必要なく、および2)試料の温和な軽打を、インキュベーション後のトリチュレーションの代わりに適用したことを除いては、コラゲナーゼを使用して同様の手法を続けた。これらの手法を用いて得られた細胞懸濁液は、細胞をペレット化または洗浄することなく、直接的にTRIzolによる下流RNA単離で用いることができる均一な溶液を生じた。
【0131】
試料処理、酵素選択、酵素濃度および容量、消化持続および物理的撹拌の適用を含めた一連の実験パラメーターを調べた。細胞生存率の計測は、消化性能の直接的モニタリングとして行った。TRIzolによる細胞懸濁液からのRNA単離を行って、RNA保存における酵素消化の影響を調べた。RNAの収率および純度は、UV−可視分光測定によってチェックした。RNAの完全性は、アガロースゲル電気泳動によってチェックした。
【0132】
試料処理では、消化前の4℃における一晩のトリプシン−EDTA中で試料をインキュベーションすることは、組織解離で慣用的に用いられる他の方法と匹敵することが判明した。また、生検試料のおおよそのサイズである2mm3サイズの組織は効果的に消化されることが判明した。さらなる解剖は、消化能力の有意な差を生じなかった。酵素選択に関しては、トリプシン−EDTA、コラゲナーゼのタイプI、IVおよびVIIIは、全て、細胞の単離において効果的なことが判明した。
【0133】
酵素の濃度および容量に関しては、0.01%〜0.25%のトリプシン−EDTAは効果的であり、他方、0.01%〜0.15%が好ましいことが判明した。しかしながら、プロテアーゼへの暴露の時間を調整することによって、他の濃度を利用することも可能である。一般に、20μl〜500μlの範囲で酵素容量をより高くすると、細胞収率がより高くなった。20μlのトリプシン酵素を使用したときの細胞収率は、500μl酵素の使用したときの収率の約40%であった。コラゲナーゼでは、組織消化のために、500μlの200U/ml酵素溶液を用いた。消化時間に関しては、トリプシン−EDTA消化では、30分が効果的であることが判明した。コラゲナーゼ消化では、1〜2時間が効果的であった。表3はさらなる実験条件を示す。
【0134】
【表3】
【0135】
10mg(2mm3)ラット肝臓組織から単離された細胞の数は、組織mg当たり約106細胞である。トリパンブルーによって見積もられた細胞生存率は97%〜100%の間であることが判明した。
【0136】
酵素消化アプローチから単離されたRNAを、従来のホモジナイゼーションアプローチからのものと比較した。全RNAのゲル電気泳動像を図2に示す。TBEにおける全RNAランのアガロースゲル。左から右へのレーン:レーン1:高い範囲のRNAマーカー6kb、4kb、3kb、2kb、1.5kb、1kb、0.5kb、レーン2:低い範囲のRNAマーカー1kb、0.8kb、0.6kb、0.3kb、レーン3:コラゲナーゼタイプIによって単離された全RNA、レーン4:コラゲナーゼタイプIVによって単離された全RNA、レーン5:コラゲナーゼタイプVIIIによって単離された全RNA、レーン6:トリプシン−EDTAによって単離された全RNA、レーン7:ホモジナイゼーションによって単離された全RNA。28Sおよび18Sにおける2つの区別されるrRNAバンドの存在は、全RNA種がよく保存されていることを示す。
【0137】
一般に、前記アプローチは、ホモジナイゼーション(60〜100mg、Invitrogen Protocol)を用いて報告されたもの(Chomczynski,P.,1993、Biotechniques 15,532)のような慣用的プロセスに対して同様の結果を提供した。A260〜A280のOD比率はPH7.4PBS緩衝液中で測定して2.08〜2.12であることが判明し、これは、RNAが高い純度のものであったことを示す。
【0138】
bioMEMシステムにおいて酵素的組織消化を実行するための1つの可能なスキームは、(1)緩衝液およびプロテアーゼ溶液のためのチャンバー、(2)固体組織試料のための流入口および反応ポート、(3)消化された溶液のための回収ポート、および(4)廃棄物チャンバーからなるμ−フルイディックカートリッジの設計を示す図3に示される。加えて、示されたμ−フルイディックカートリッジは、細胞溶解、核酸分離および検出のような他の下流bioMEMプロセスと統合させることもできる。もう1つの例は図8で見られ、これは(1)緩衝液およびプロテアーゼ溶液のためのチャンバー(図面には示さず)、(2)固体組織試料のための流入口およびインキュベーションチャンバー1、(3)柔軟化された組織の破壊のためのチャネル2、(4)緩衝液およびプロテアーゼ溶液を連結させるための流入口3、(5)ミクロ−ポンプまたはシリンジポンプ連結ポート4からなる。
【0139】
別の実施形態によると、本発明のデバイスは、典型的には、ミクロ製造システムで用いられる広い範囲の材料で作成することができる。これらは、限定されるものではないが、シリコンウエハー、シリカウエハー、ポリジメチロールシロキサン(PDMS)、ポリカルボネートおよびポリメチルメタクリレート(PMMA)のような材料を含む。
【実施例2】
【0140】
トリプシンおよびコラゲナーゼを、この実施形態の例示的モデルとして用いた。例として、ラット肝臓のトリプシン−EDTA消化を以下のように行った。新たに取得された組織を8mm3(重量は10mg)の試料サイズに切断し、続いて、500μlの氷冷リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中で2回洗浄した。トリプシン−EDTA溶液を組織試料に加え、これを振盪浴槽中で37℃にて30分間インキュベートし、さらに組織破壊が観察されなくなるまで溶液をピペッティングした。1)インキュベーション時間を90分まで増やし、振盪力は必要ではなく、および2)インキュベーション後、粉砕の代わりに温和な軽打を適用した以外はコラゲナーゼを用いて同様な手法を追跡した。
【0141】
我々の実験では、0.01%〜0.15%のトリプシン濃度は、細胞収率の点で好ましいことが判明した。しかしながら、プロテアーゼへの暴露時間を調整することによって、他の濃度を用いることも可能である。表4は、新鮮な組織および凍結された組織についての最適化された実験用トリプシン濃度である。新鮮なラット肝臓組織では、細胞収率は約1×105細胞/mgであった。
【0142】
【表4】
【0143】
これらの手法を用いて得られた細胞懸濁液は、TRIzolまたは磁性ビーズによる下流RNA単離で用いることができる均一な溶液を生じた。RNAの収率は10mgラット肝臓組織から50〜100μgであり、ホモジナイゼーション(60〜100μg,Invitrogenプロトコル)を用いて報告されたもの(Chomczynski,P.,1993,Biotechniques 15,532)に匹敵した。A280に対するA260のOD比率はpH7.4のPBS緩衝液中で測定して2.08〜2.12であることが判明し、これは、RNAが高い純度のものであったことを示す。本発明の解離方法を用いた新鮮なおよび凍結された組織からの全RNAは、各々、図4および5に示されたリボソームRNAの完全性の点で分解しなかった。表5は全RNA収率の比較を示す。データは、全RNA収率の変動が小さいことを示す。13アクチン、3−ミクログロブリン、シクロフィリン、TP53およびc−mycのようないくつかの選択された全長遺伝子を、高い品質にてラット肝臓組織から増幅することができる(図6)。ラット肝臓組織からのmRNA単離の代わりに、線維肉腫患者からのヒト胸組織を、乳癌に対するいくつかの特異的マーカーを用いて調べた。CD59、ケラチン19、TP53、ヒストンH4マスピンならびにα−抗キモトリプシンのような特異的乳房腫瘍マーカーは、図7に示したように検出することができる。それは、我々の方法が動物組織ならびに培養された細胞系から効果的にRNAを単離することを示す。本発明はMEMSデバイスの自動化に適合され、分子診断において正常、良性または悪性である種々の組織の中で遺伝子発現をスクリーニング/分化するのにかなり有用である。
【0144】
【表5】
【実施例3】
【0145】
以下のステップを含む組織破壊デバイスのプロセス:
100μlのプロテアーゼ[トリプシンでは0.05〜0.15%(wt/vol)およびコラゲナーゼについて100〜300単位/ml]溶液を、まず、インキュベーションチャンバーに注入し、37℃まで予備加熱する。次いで、新鮮なまたは凍結された哺乳動物組織(10mgまで)をチャンバーに入れ、密閉する。プロテアーゼ溶液の酵素分解によってそれが柔軟化されるまで、組織試料をチャンバー内部で約15分間インキュベートする。
【0146】
一旦インキュベーション時間が終了すれば、柔軟化された組織および溶液を、デバイスの流入口および流出口に連結されたミクロポンプの助けを借りて、組織破壊用の破壊チャネルを通す(図12、構成要素18および19参照)。破壊構成要素で生じた剪断力は柔軟化された組織をより小さなサイズまで破壊する。次いで、組織のこれらのより小さな断片をプロテアーゼ試薬の酵素分解で柔軟化する。破壊構成要素の寸法がより小さくなるにつれ、組織のサイズは、それが十分に破壊され、細胞が放出されるまで徐々に小さくなる。全組織解離時間(インキュベーション時間およびミクロチャネル時間における破壊)は約25分である。
【0147】
新鮮なラット肝臓では、平均細胞収率は組織試料mg当たり9.85×104細胞である。細胞収率は、組織破壊のために自動化機械的ホモジナイザーおよびプロテアーゼを用いる標準的な実験室の方法よりもわずかに高い。標準的な実験室の方法での平均細胞収率は9.35×104である。図13は、前記した2つの方法の間の比較を示す。
【0148】
次いで、破壊された組織試料から得られた細胞を要件に応じて、DNA、RNAおよびmRMAの抽出用の溶解ステップを通す。
【0149】
この特別な例において、mRNAが抽出される。図12に示すように、破壊された細胞を、溶解/結合緩衝液を用いてミクロ破壊/混合チャネルに通して、細胞を破壊する。15分後に、細胞膜は十分に破壊される。DNA、RNA、mRNA、タンパク質および他の細胞内構成要素は溶液中で溶解する。ポリd(T)オリゴと共に(DynalbeadsまたはBionobile磁性ビーズからの)磁性ビーズを混合チャネルに通して、溶液中のmRNAを取得し、次いで、外部磁場によってこれらのビーズを回収する。混合チャネル内の4回洗浄ステップを用い、デブリスを除去する。洗浄ステップの後に、mRNAを精製する。最後に、溶出試薬を混合チャネルに通して、mRNAを磁性ビーズから分離する。
【0150】
微少流体デバイスから抽出されたmRNAは、デバイスの外側でRT−PCRステップによって増幅する。図14は、3mgの新鮮なラット肝臓組織から抽出されたBata‐アクチンmRNAの合成用のゲル電気泳動を示す。図13は、前記した試料からのTP53およびシクロフィリンmRNAの合成用のゲル電気泳動を示す。我々は、遺伝子が無傷であると結論付けるができる。
【0151】
TP53の合成では、微少流体デバイスの使用、および自動化ホモジナイザーの使用からの収率は、各々、2730ngおよび2920ngであった。シクロフィリンの合成では、微少流体デバイスの使用および自動化ホモジナイザーの使用からの収率は、各々、2270ngおよび2280ngであった。
【0152】
我々は、微少流体デバイスの使用からの収率は、最高収率を示す従来の方法と同程度に高いと結論することができる。微少流体デバイスによるmRNAの抽出および精製についての全プロセス時間は45分未満を必要とするであろう。
【0153】
(出願の添付処理を含めた)本出願に記載された特許、特許出願、および刊行物はここに参照して組み込む。本明細書中に記載された本発明の実施形態は単に例示的なものであって、本発明の範囲を限定する意図のものではない。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】核酸分析用の従来のスキームのフローチャートである。
【図2】本発明のいくつかの実施形態(レーン3〜6)が慣用的方法(レーン7)と同程度に効率的であることを示すアガロースゲルを示す。
【図3A】タンパク質分解組織解離チャンバーを一体化する微少流体組織ダイジェスターの平面図である。
【図3B】図3Aのデバイスの斜視図である。
【図4】本発明の解離方法を用いることにより新鮮な組織からの全RNAのアガロースゲルを示す。それは、単離されたRNAが分解しないことを示す。表5は、全RNA収率の比較を示す。データは、全RNA収率の変動が小さいことを示す。本発明の解離方法は信頼できる。レーンM:マーカー、レーン1〜4:トリプシン消化によって単離されたRNA、レーン5〜6:ホモジナイザーによって単離されたRNA。
【図5】凍結された組織からの全RNAのアガロースゲル(レーン1〜4)である。
【図6】本発明の組織解離方法から抽出されたmRNAのアガロースゲルを示す。我々が合成した遺伝子を、図面に示す。mRNAは、本発明の解離方法を用いることによって無傷である。全長cDNAはSuperScript(Invitrogen)によって合成される。M.マーカー、レーン1:β−アクチン、レーン2:β−ミクログロブリン、レーン3:シクロフィリンン、レーン4:TP53、およびレーン5:c−myc。
【図7】本発明の方法によって解離されたヒト胸組織から抽出されたmRNAのアガロースゲルを示す。我々が合成した遺伝子を図面に示す。全長遺伝子はSuperScript(Invitrogen)による凍結されたヒト胸組織からのものである。レーン1:100bpのDNAラダー、レーン2:GAPDH、レーン3:β−アクチン、レーン4:CD59、レーン5:ケラチン19、レーン6:TP53、レーン7:ヒストンH4、レーン8:マスピン、レーン9:α−1−抗キモトリプシン。
【図8】微少流体組織破壊デバイス、1:組織入力/インキュベーションチャンバー、2:破壊チャネル、3:流体用の流入口、4:流体用の流出口。
【図9】組織破壊構成要素の詳細な図面、5:流入口ポート、6:収縮の領域、7:流出口ポート。
【図10】破壊構成要素のいくつかの可能な設計。
【図11】図11(A)は、:ポリカルボネート上方および下方層:およびアクリルテープ結合層、およびステンレス鋼層を含むステンレス鋼で作成された微少流体デバイスのサンドイッチ構造の断面を示す。この構造において、ステンレス鋼の特徴層を上方および下方層と結合して、破壊チャネルを形成する。図11(B)は、熱エンボシングまたはCNCを用いてポリカルボネートで作成され、熱拡散によって結合された微少流体デバイスの構造の断面図を示す。
【図12】生体分子の抽出および精製デバイス、8:水貯蔵器、9:溶解緩衝液、10:磁性ビーズ、11:洗浄緩衝液A、12:洗浄緩衝液B、13:溶出緩衝液、14:生成物貯蔵器、15:バルブユニット、16:試薬チャネル、17:破壊/混合チャネル、18および19:ポンプに連結、20:組織流入口/インキュベーションチャンバー。
【図13】ベンチ−トップ慣用的方法およびMEMS−ベースのデバイスの間の細胞収率の比較。
【図14】β−アクチンRT PCR合成のアガロースゲル。Mからのレーン:マーカー、レーン1:微少流体デバイス試料からのβ−アクチン、レーン2:自動化ホモジナイザー試料からのβ−アクチン。
【図15】TP53およびシクロフィリンRT−PCR合成のアガロースゲル、M:マーカー、レーン1:微少流体デバイス試料からのTP53、レーン2:自動化ホモジナイザー試料からのTP53、レーン3:微少流体デバイス試料からのシクロフィリン、およびレーン4:自動化ホモジナイザー試料からのシクロフィリン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)組織試料を組織解離用の少なくとも1つの酵素で処理し、
ii)溶解溶液を添加し、
iii)核酸分子を単離する、
ことを含む、組織試料から核酸分子を単離する方法。
【請求項2】
さらに、ステップ(i)の生成物に流体力学剪断力を加えるステップを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物を第一のチャンバー中でインキュベートし、前記組織試料を、組織破壊チャネルとして作用する第二のチャンバー中で破壊し、第三のチャンバー中で前記組織破壊チャネルから単離された細胞を溶解させ、次いで、第四のチャンバー中で所望の核酸分子および/またはタンパク質を回収し、単離する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第一のチャンバー中でのインキュベーションが一定温度で行われる請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記組織破壊チャネル内で適用された流体力学剪断力が、それが十分に破壊され、細胞が放出されるまで、組織試料のサイズを徐々に小さくする請求項3〜4に記載の方法。
【請求項6】
組織解離用の酵素が前記組織試料に従って選択される請求項1〜5に記載の方法。
【請求項7】
組織解離用の酵素がプロテアーゼ、セルラーゼおよび/またはリパーゼである請求項1〜6に記載の方法。
【請求項8】
前記プロテアーゼがコラゲナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、キモパパイン、ヒアルロニダーゼ、プロナーゼ、ジスパーゼ、テルモリシン、ブロメライン、カテスパイン、またはペプシン、またはその混合物である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つのリンカーで被覆されたビーズを添加し、リンカーに結合した核酸分子を回収することによって、前記核酸分子が溶液から回収され、単離される請求項1〜8に記載の方法。
【請求項10】
前記ビーズが磁性ビーズであって、外部または内部磁場によって回収される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記単離された核酸分子がmRNA、RNAおよび/またはDNAである請求項1〜10に記載の方法。
【請求項12】
前記リンカーがオリゴd(T)を含む請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記リンカーの遊離末端が少なくとも1つのヌクレオチドNを含み、NはA、G、C、TまたはUである請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記組織試料が動物由来組織、ヒト由来組織、植物由来組織、または脂肪由来組織である請求項1〜13に記載の方法。
【請求項15】
酵素分解組織解離チャンバーおよび組織破壊チャネルを含む組織試料から細胞を単離するためのシステム。
【請求項16】
さらに、核酸分子を単離することを含む請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物のインキュベーション用の第一の酵素分解組織解離チャンバー、および
組織破壊チャネルとして作用する第二のチャンバー、
を含む請求項15に記載のシステム。
【請求項18】
さらに、単離された細胞の回収用のチャンバーを含む請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物をインキュベートするための第一の酵素分解組織解離チャンバー、
組織破壊チャネルとして作用する第二のチャンバー、
溶解溶液を含む第三のチャンバー、
核酸分子および/またはタンパク質の回収および単離のための第四のチャンバー、および
廃棄物回収のための第五のチャンバー、
を含み、前記チャンバーは相互に連結されている請求項15〜18に記載のシステム。
【請求項20】
前記組織破壊チャネルが、
流入口ポート、
少なくとも1つの収縮の領域、および
流出口ポートを含む請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
収縮の領域における前記組織破壊チャネルが、破壊チャネルの全断面積と比較してより小さな断面積を有する請求項15〜20に記載のシステム。
【請求項22】
前記酵素分解組織解離チャンバーが少なくとも1つの組織試料および組織解離用の少なくとも1つの酵素を受け入れる請求項15〜21に記載のシステム。
【請求項23】
前記酵素分解組織解離チャンバーが容量が100μl未満である請求項15〜22に記載のシステム。
【請求項24】
前記酵素分解組織解離チャンバーが容量が50μl未満である請求項15〜22に記載のシステム。
【請求項25】
前記酵素分解組織解離チャンバーが容量が10μl未満である請求項15〜22に記載のシステム。
【請求項26】
前記酵素分解組織解離チャンバーが容量が5μl未満である請求項15〜22に記載のシステム。
【請求項27】
前記組織解離用の酵素がプロテアーゼ、セルラーゼまたはリパーゼである請求項22に記載のシステム。
【請求項28】
前記プロテアーゼがコラゲナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、キモパパイン、ヒアルロニダーゼ、プロナーゼ、ジスパーゼ、テルモリシン、ブロメライン、カテスパイン、またはペプシン、またはその混合物である請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
前記組織解離用の酵素が組織試料に従って選択される請求項22に記載のシステム。
【請求項30】
前記組織試料が動物由来組織、ヒト由来組織、植物由来組織、または脂肪由来組織である請求項15〜29に記載のシステム。
【請求項31】
前記システムが生物学的ミクロ電気機械システム(bioMEMS)および/または十分に自動化された完全なミクロトータル分析システム(μTAS)である請求項15〜30に記載のシステム。
【請求項32】
前記システムがディスポーザブルである請求項15〜31に記載のシステム。
【請求項33】
前記システムが法医学テスト、臨床診断、動物および/または農業診断に適した診断統合システムの一部である請求項15〜32に記載のシステム。
【請求項34】
前記システムが自動核酸抽出器である請求項15〜33に記載のシステム。
【請求項35】
(a)組織解離用の少なくとも1つの酵素で組織試料を処理し、
(b)ステップ(a)の生成物に流体力学剪断力を適用し、
(c)単離された細胞を回収する、
ことを含む、組織試料から細胞を単離する方法。
【請求項36】
さらに、溶解溶液を単離された細胞に添加することを含む請求項35に記載の方法。
【請求項37】
さらに、核酸分子を回収することを含む請求項35〜36に記載の方法。
【請求項38】
前記組織解離用の酵素が組織に従って選択される請求項35〜37に記載の方法。
【請求項39】
組織解離用の酵素がプロテアーゼ、セルラーゼまたはリパーゼである請求項35〜38に記載の方法。
【請求項40】
前記プロテアーゼがコラゲナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、キモパパイン、ヒアルロニダーゼ、プロナーゼ、ジスパーゼ、テルモリシン、ブロメライン、カテスパイン、またはペプシン、またはその混合物である請求項39に記載の方法。
【請求項41】
少なくとも1つのリンカーで被覆されたビーズを添加し、リンカーに結合した核酸分子を回収することによって核酸を単離する請求項35〜40に記載の方法。
【請求項42】
前記ビーズが磁性ビーズであって、外部または内部磁場によって回収される請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記単離された核酸分子がmRNA、RNAおよび/またはDNAである請求項35〜42に記載の方法。
【請求項44】
前記リンカーがオリゴd(T)を含む請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記リンカーの遊離末端が少なくとも1つのヌクレオチドNを含み、NはA、G、C、TまたはUである請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記システムが法医学テスト、臨床診断、動物および/または農業診断における診断統合システムの一部である請求項15〜45に記載のシステムの使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)組織試料を組織解離用の少なくとも1つの酵素で処理し、
ii)溶解溶液を添加し、
iii)核酸分子を単離する、
ことを含む、組織試料から核酸分子を単離する方法。
【請求項2】
さらに、ステップ(i)の生成物に流体力学剪断力を加えるステップを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物を第一のチャンバー中でインキュベートし、前記組織試料を、組織破壊チャネルとして作用する第二のチャンバー中で破壊し、第三のチャンバー中で前記組織破壊チャネルから単離された細胞を溶解させ、次いで、第四のチャンバー中で所望の核酸分子および/またはタンパク質を回収し、単離する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第一のチャンバー中でのインキュベーションが一定温度で行われる請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記組織破壊チャネル内で適用された流体力学剪断力が、それが十分に破壊され、細胞が放出されるまで、組織試料のサイズを徐々に小さくする請求項3〜4に記載の方法。
【請求項6】
組織解離用の酵素が前記組織試料に従って選択される請求項1〜5に記載の方法。
【請求項7】
組織解離用の酵素がプロテアーゼ、セルラーゼおよび/またはリパーゼである請求項1〜6に記載の方法。
【請求項8】
前記プロテアーゼがコラゲナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、キモパパイン、ヒアルロニダーゼ、プロナーゼ、ジスパーゼ、テルモリシン、ブロメライン、カテスパイン、またはペプシン、またはその混合物である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記組織試料が動物由来組織、ヒト由来組織、植物由来組織、または脂肪由来組織である請求項1〜8に記載の方法。
【請求項10】
酵素分解組織解離チャンバーおよび組織破壊チャネルを含む組織試料から細胞および/または核酸分子を単離するための装置。
【請求項11】
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物のインキュベーション用の第一の酵素分解組織解離チャンバー、および
組織破壊チャネルとして作用する第二のチャンバー、
を含む請求項10に記載の装置。
【請求項12】
さらに、単離された細胞の回収用のチャンバーを含む請求項10〜11に記載の装置。
【請求項13】
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物をインキュベートするための第一の酵素分解組織解離チャンバー、
組織破壊チャネルとして作用する第二のチャンバー、
溶解溶液を含む第三のチャンバー、
核酸分子および/またはタンパク質の回収および単離のための第四のチャンバー、および
廃棄物回収のための第五のチャンバー、
を含み、前記チャンバーは相互に連結されている請求項10〜12に記載の装置。
【請求項14】
前記組織破壊チャネルが、
流入口ポート、
少なくとも1つの収縮の領域、および
流出口ポートを含む請求項10〜13に記載の装置。
【請求項15】
収縮の領域における前記組織破壊チャネルが、破壊チャネルの全断面積と比較してより小さな断面積を有する請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記酵素分解組織解離チャンバーが少なくとも1つの組織試料および組織解離用の少なくとも1つの酵素を受け入れる請求項10〜15に記載の装置。
【請求項17】
前記酵素分解組織解離チャンバーが容量が100μl未満である請求項10〜16に記載の装置。
【請求項18】
前記酵素分解組織解離チャンバーが容量が5μl未満である請求項10〜17に記載の装置。
【請求項19】
前記組織解離用の酵素がプロテアーゼ、セルラーゼおよび/またはリパーゼである請求項11〜18に記載の装置。
【請求項20】
前記プロテアーゼがコラゲナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、キモパパイン、ヒアルロニダーゼ、プロナーゼ、ジスパーゼ、テルモリシン、ブロメライン、カテスパイン、またはペプシン、またはその混合物である請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記組織解離用の酵素が組織試料に従って選択される請求項11〜20に記載の装置。
【請求項22】
前記組織試料が動物由来組織、ヒト由来組織、植物由来組織、または脂肪由来組織である請求項10〜21に記載の装置。
【請求項23】
前記装置が生物学的ミクロ電気機械システム(bioMEMS)および/または十分に自動化された完全なミクロトータル分析システム(μTAS)である請求項10〜22に記載の装置。
【請求項24】
前記装置がディスポーザブルである請求項10〜23に記載の装置。
【請求項25】
前記装置が法医学テスト、臨床診断、動物および/または農業診断に適した診断統合システムの一部である請求項10〜24に記載の装置。
【請求項26】
(a)組織解離用の少なくとも1つの酵素で組織試料を処理し、
(b)ステップ(a)の生成物に流体力学剪断力を適用し、
(c)単離された細胞を回収する、
ことを含む、組織試料から細胞を単離する方法。
【請求項27】
さらに、溶解溶液を単離された細胞に添加することを含む請求項26に記載の方法。
【請求項28】
さらに、核酸分子を回収することを含む請求項26〜27に記載の方法。
【請求項29】
前記組織解離用の酵素が組織に従って選択される請求項26〜28に記載の方法。
【請求項30】
組織解離用の酵素がプロテアーゼ、セルラーゼおよび/またはリパーゼである請求項26〜29に記載の方法。
【請求項31】
前記プロテアーゼがコラゲナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、キモパパイン、ヒアルロニダーゼ、プロナーゼ、ジスパーゼ、テルモリシン、ブロメライン、カテスパイン、またはペプシン、またはその混合物である請求項30に記載の方法。
【請求項1】
i)組織試料を組織解離用の少なくとも1つの酵素で処理し、
ii)溶解溶液を添加し、
iii)核酸分子を単離する、
ことを含む、組織試料から核酸分子を単離する方法。
【請求項2】
さらに、ステップ(i)の生成物に流体力学剪断力を加えるステップを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物を第一のチャンバー中でインキュベートし、前記組織試料を、組織破壊チャネルとして作用する第二のチャンバー中で破壊し、第三のチャンバー中で前記組織破壊チャネルから単離された細胞を溶解させ、次いで、第四のチャンバー中で所望の核酸分子および/またはタンパク質を回収し、単離する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第一のチャンバー中でのインキュベーションが一定温度で行われる請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記組織破壊チャネル内で適用された流体力学剪断力が、それが十分に破壊され、細胞が放出されるまで、組織試料のサイズを徐々に小さくする請求項3〜4に記載の方法。
【請求項6】
組織解離用の酵素が前記組織試料に従って選択される請求項1〜5に記載の方法。
【請求項7】
組織解離用の酵素がプロテアーゼ、セルラーゼおよび/またはリパーゼである請求項1〜6に記載の方法。
【請求項8】
前記プロテアーゼがコラゲナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、キモパパイン、ヒアルロニダーゼ、プロナーゼ、ジスパーゼ、テルモリシン、ブロメライン、カテスパイン、またはペプシン、またはその混合物である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つのリンカーで被覆されたビーズを添加し、リンカーに結合した核酸分子を回収することによって、前記核酸分子が溶液から回収され、単離される請求項1〜8に記載の方法。
【請求項10】
前記ビーズが磁性ビーズであって、外部または内部磁場によって回収される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記単離された核酸分子がmRNA、RNAおよび/またはDNAである請求項1〜10に記載の方法。
【請求項12】
前記リンカーがオリゴd(T)を含む請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記リンカーの遊離末端が少なくとも1つのヌクレオチドNを含み、NはA、G、C、TまたはUである請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記組織試料が動物由来組織、ヒト由来組織、植物由来組織、または脂肪由来組織である請求項1〜13に記載の方法。
【請求項15】
酵素分解組織解離チャンバーおよび組織破壊チャネルを含む組織試料から細胞を単離するためのシステム。
【請求項16】
さらに、核酸分子を単離することを含む請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物のインキュベーション用の第一の酵素分解組織解離チャンバー、および
組織破壊チャネルとして作用する第二のチャンバー、
を含む請求項15に記載のシステム。
【請求項18】
さらに、単離された細胞の回収用のチャンバーを含む請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物をインキュベートするための第一の酵素分解組織解離チャンバー、
組織破壊チャネルとして作用する第二のチャンバー、
溶解溶液を含む第三のチャンバー、
核酸分子および/またはタンパク質の回収および単離のための第四のチャンバー、および
廃棄物回収のための第五のチャンバー、
を含み、前記チャンバーは相互に連結されている請求項15〜18に記載のシステム。
【請求項20】
前記組織破壊チャネルが、
流入口ポート、
少なくとも1つの収縮の領域、および
流出口ポートを含む請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
収縮の領域における前記組織破壊チャネルが、破壊チャネルの全断面積と比較してより小さな断面積を有する請求項15〜20に記載のシステム。
【請求項22】
前記酵素分解組織解離チャンバーが少なくとも1つの組織試料および組織解離用の少なくとも1つの酵素を受け入れる請求項15〜21に記載のシステム。
【請求項23】
前記酵素分解組織解離チャンバーが容量が100μl未満である請求項15〜22に記載のシステム。
【請求項24】
前記酵素分解組織解離チャンバーが容量が50μl未満である請求項15〜22に記載のシステム。
【請求項25】
前記酵素分解組織解離チャンバーが容量が10μl未満である請求項15〜22に記載のシステム。
【請求項26】
前記酵素分解組織解離チャンバーが容量が5μl未満である請求項15〜22に記載のシステム。
【請求項27】
前記組織解離用の酵素がプロテアーゼ、セルラーゼまたはリパーゼである請求項22に記載のシステム。
【請求項28】
前記プロテアーゼがコラゲナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、キモパパイン、ヒアルロニダーゼ、プロナーゼ、ジスパーゼ、テルモリシン、ブロメライン、カテスパイン、またはペプシン、またはその混合物である請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
前記組織解離用の酵素が組織試料に従って選択される請求項22に記載のシステム。
【請求項30】
前記組織試料が動物由来組織、ヒト由来組織、植物由来組織、または脂肪由来組織である請求項15〜29に記載のシステム。
【請求項31】
前記システムが生物学的ミクロ電気機械システム(bioMEMS)および/または十分に自動化された完全なミクロトータル分析システム(μTAS)である請求項15〜30に記載のシステム。
【請求項32】
前記システムがディスポーザブルである請求項15〜31に記載のシステム。
【請求項33】
前記システムが法医学テスト、臨床診断、動物および/または農業診断に適した診断統合システムの一部である請求項15〜32に記載のシステム。
【請求項34】
前記システムが自動核酸抽出器である請求項15〜33に記載のシステム。
【請求項35】
(a)組織解離用の少なくとも1つの酵素で組織試料を処理し、
(b)ステップ(a)の生成物に流体力学剪断力を適用し、
(c)単離された細胞を回収する、
ことを含む、組織試料から細胞を単離する方法。
【請求項36】
さらに、溶解溶液を単離された細胞に添加することを含む請求項35に記載の方法。
【請求項37】
さらに、核酸分子を回収することを含む請求項35〜36に記載の方法。
【請求項38】
前記組織解離用の酵素が組織に従って選択される請求項35〜37に記載の方法。
【請求項39】
組織解離用の酵素がプロテアーゼ、セルラーゼまたはリパーゼである請求項35〜38に記載の方法。
【請求項40】
前記プロテアーゼがコラゲナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、キモパパイン、ヒアルロニダーゼ、プロナーゼ、ジスパーゼ、テルモリシン、ブロメライン、カテスパイン、またはペプシン、またはその混合物である請求項39に記載の方法。
【請求項41】
少なくとも1つのリンカーで被覆されたビーズを添加し、リンカーに結合した核酸分子を回収することによって核酸を単離する請求項35〜40に記載の方法。
【請求項42】
前記ビーズが磁性ビーズであって、外部または内部磁場によって回収される請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記単離された核酸分子がmRNA、RNAおよび/またはDNAである請求項35〜42に記載の方法。
【請求項44】
前記リンカーがオリゴd(T)を含む請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記リンカーの遊離末端が少なくとも1つのヌクレオチドNを含み、NはA、G、C、TまたはUである請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記システムが法医学テスト、臨床診断、動物および/または農業診断における診断統合システムの一部である請求項15〜45に記載のシステムの使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)組織試料を組織解離用の少なくとも1つの酵素で処理し、
ii)溶解溶液を添加し、
iii)核酸分子を単離する、
ことを含む、組織試料から核酸分子を単離する方法。
【請求項2】
さらに、ステップ(i)の生成物に流体力学剪断力を加えるステップを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物を第一のチャンバー中でインキュベートし、前記組織試料を、組織破壊チャネルとして作用する第二のチャンバー中で破壊し、第三のチャンバー中で前記組織破壊チャネルから単離された細胞を溶解させ、次いで、第四のチャンバー中で所望の核酸分子および/またはタンパク質を回収し、単離する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第一のチャンバー中でのインキュベーションが一定温度で行われる請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記組織破壊チャネル内で適用された流体力学剪断力が、それが十分に破壊され、細胞が放出されるまで、組織試料のサイズを徐々に小さくする請求項3〜4に記載の方法。
【請求項6】
組織解離用の酵素が前記組織試料に従って選択される請求項1〜5に記載の方法。
【請求項7】
組織解離用の酵素がプロテアーゼ、セルラーゼおよび/またはリパーゼである請求項1〜6に記載の方法。
【請求項8】
前記プロテアーゼがコラゲナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、キモパパイン、ヒアルロニダーゼ、プロナーゼ、ジスパーゼ、テルモリシン、ブロメライン、カテスパイン、またはペプシン、またはその混合物である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記組織試料が動物由来組織、ヒト由来組織、植物由来組織、または脂肪由来組織である請求項1〜8に記載の方法。
【請求項10】
酵素分解組織解離チャンバーおよび組織破壊チャネルを含む組織試料から細胞および/または核酸分子を単離するための装置。
【請求項11】
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物のインキュベーション用の第一の酵素分解組織解離チャンバー、および
組織破壊チャネルとして作用する第二のチャンバー、
を含む請求項10に記載の装置。
【請求項12】
さらに、単離された細胞の回収用のチャンバーを含む請求項10〜11に記載の装置。
【請求項13】
少なくとも1つの組織試料、前記組織試料の解離用の少なくとも1つの酵素、および緩衝溶液の混合物をインキュベートするための第一の酵素分解組織解離チャンバー、
組織破壊チャネルとして作用する第二のチャンバー、
溶解溶液を含む第三のチャンバー、
核酸分子および/またはタンパク質の回収および単離のための第四のチャンバー、および
廃棄物回収のための第五のチャンバー、
を含み、前記チャンバーは相互に連結されている請求項10〜12に記載の装置。
【請求項14】
前記組織破壊チャネルが、
流入口ポート、
少なくとも1つの収縮の領域、および
流出口ポートを含む請求項10〜13に記載の装置。
【請求項15】
収縮の領域における前記組織破壊チャネルが、破壊チャネルの全断面積と比較してより小さな断面積を有する請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記酵素分解組織解離チャンバーが少なくとも1つの組織試料および組織解離用の少なくとも1つの酵素を受け入れる請求項10〜15に記載の装置。
【請求項17】
前記酵素分解組織解離チャンバーが容量が100μl未満である請求項10〜16に記載の装置。
【請求項18】
前記酵素分解組織解離チャンバーが容量が5μl未満である請求項10〜17に記載の装置。
【請求項19】
前記組織解離用の酵素がプロテアーゼ、セルラーゼおよび/またはリパーゼである請求項11〜18に記載の装置。
【請求項20】
前記プロテアーゼがコラゲナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、キモパパイン、ヒアルロニダーゼ、プロナーゼ、ジスパーゼ、テルモリシン、ブロメライン、カテスパイン、またはペプシン、またはその混合物である請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記組織解離用の酵素が組織試料に従って選択される請求項11〜20に記載の装置。
【請求項22】
前記組織試料が動物由来組織、ヒト由来組織、植物由来組織、または脂肪由来組織である請求項10〜21に記載の装置。
【請求項23】
前記装置が生物学的ミクロ電気機械システム(bioMEMS)および/または十分に自動化された完全なミクロトータル分析システム(μTAS)である請求項10〜22に記載の装置。
【請求項24】
前記装置がディスポーザブルである請求項10〜23に記載の装置。
【請求項25】
前記装置が法医学テスト、臨床診断、動物および/または農業診断に適した診断統合システムの一部である請求項10〜24に記載の装置。
【請求項26】
(a)組織解離用の少なくとも1つの酵素で組織試料を処理し、
(b)ステップ(a)の生成物に流体力学剪断力を適用し、
(c)単離された細胞を回収する、
ことを含む、組織試料から細胞を単離する方法。
【請求項27】
さらに、溶解溶液を単離された細胞に添加することを含む請求項26に記載の方法。
【請求項28】
さらに、核酸分子を回収することを含む請求項26〜27に記載の方法。
【請求項29】
前記組織解離用の酵素が組織に従って選択される請求項26〜28に記載の方法。
【請求項30】
組織解離用の酵素がプロテアーゼ、セルラーゼおよび/またはリパーゼである請求項26〜29に記載の方法。
【請求項31】
前記プロテアーゼがコラゲナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、キモパパイン、ヒアルロニダーゼ、プロナーゼ、ジスパーゼ、テルモリシン、ブロメライン、カテスパイン、またはペプシン、またはその混合物である請求項30に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2006−506089(P2006−506089A)
【公表日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−553367(P2004−553367)
【出願日】平成15年11月10日(2003.11.10)
【国際出願番号】PCT/SG2003/000261
【国際公開番号】WO2004/046305
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【出願人】(504354117)エイジェンシー・フォー・サイエンス,テクノロジー・アンド・リサーチ (17)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年11月10日(2003.11.10)
【国際出願番号】PCT/SG2003/000261
【国際公開番号】WO2004/046305
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【出願人】(504354117)エイジェンシー・フォー・サイエンス,テクノロジー・アンド・リサーチ (17)
【Fターム(参考)】
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