説明

細胞保護剤としての、PARP及びSIR調節活性を有するムスカリンアンタゴニスト

本発明は、一般に、混合したムスカリン阻害/PARP調節の細胞保護活性に関し、特に、神経保護剤としての、特に神経系疾患の予防及び/又は治療用薬剤としての、M1ムスカリンレセプターとポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP)との二重阻害剤の使用に関する。特に好ましい化合物は、縮合ジアゼピノンであり、例えば、ピレンゼピンなどの縮合ベンゾジアゼピノン、又は縮合ベンゾジアセピノンに代謝される化合物、例えばオランザピンなどである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、混合したムスカリン阻害/PARP調節及び/又はSIR2調節の細胞保護活性に関し、特に、神経保護剤としての、特に神経系疾患の予防及び/又は治療用薬剤としての、M1ムスカリンレセプターとポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP)との二重阻害剤及び/又はSIR2のモジュレーターの使用に関する。特に好ましい化合物は、縮合ジアゼピノンであり、例えば、ピレンゼピンなどの縮合ベンゾジアゼピノン、又は縮合ベンゾジアセピノンに代謝される化合物、例えばオランザピンなどである。
【背景技術】
【0002】
ピレンゼピン、(5,11−ジヒドロ−11[(4−メチル−1−ピペラジニル)−アセチル]−6H−ピリド−[2,3−b]−[1,4]ベンゾジアゼピン−6−オン)は、局所的抗潰瘍性のM1ムスカリンアンタゴニストであり、胃腸運動、唾液、中枢神経系、心臓血管、眼球、及び泌尿器の機能に影響を及ぼすのに必要とされる用量よりも低い用量で胃液分泌を阻害する。ピレンゼピンは十二指腸潰瘍の治癒を促進し、その細胞保護作用により、十二指腸潰瘍の再発を予防するのに有益である。ピレンゼピンはまた、シメチジン及びラニチジンなどの他の抗潰瘍剤の効果も増強する。ピレンゼピンは、通常、患者がよく耐えられるものである。ピレンゼピンのM1ムスカリン効果は、この効果及び以下に列記した他の適応症における様々なさらなる効果を説明すると考えられている。
【0003】
ピレンゼピンの調製、薬理、薬物動態、及びメカニズムについては、以下の参考文献に記載されている:
調製:仏国特許第1505795号(1967年、Thomae)、CA. 70, 4154w (1969);
薬理:W. Ebenem et al. Arzneimittel−Forsch. 27, 356 (1977);
薬物動態:R. Hammes et al., ibid. 928;
作用メカニズム:G. Heller et al., Verh. Deut. Ges. Inn. Med. 84, 991 (1978), C.A. 90, 132984s (1979);
人体薬理:H. Brunnen et al., Arzneimittel−Forsch. 27, 684 (1977);
多施設比較臨床試験:Scand. J. Gastroenterol. 17, Suppl. 81, 1−42 (1982);
薬理及び治療効果のレビュー:A. A. Carmine, R. N. Brogden, Drugs 30, 85−126 (1985);
包括的既述:H. A. El−Obeid et al., in Analytical Profiles of Drug Substances, Vol 16, K. Florey, Ed.(Academic Press, New York, 1987)pp 445−506.
【0004】
ピレンゼピンのM1ムスカリン効果は、慢性心不全患者及び心筋梗塞から回復したか又は通常は高血圧である患者の治療に潜在的に有用である、迷走神経作用の神経体液性調節に関与すると考えられている[Jakubetz J Human cardiac betal− or beta2−adrenergic receptor stimulation and the negative chronotropic effect of low−dose pirenzepine. Clin Pharmacol Ther−2000 May;67 (5):549−57. Hayano T, Shimizu A, Ikeda Y, Yamamoto T, Yamagata T, Ueyama T, Furutani Y, Matsuzaki M Paradoxical effects of pirenzepine on parasympathetic activity in chronic heart failure and control. Int. J. Cardiol. 1999 Jan;68 (1):47−56. Pedretti RF, Colombo E, Braga SS, Ballardini L, Caru B Effects of oral pirenzepine on heart rate variability and baroreceptor reflex sensitivity after acute myocardial infarction. J. Am. Coll. Cardiol. 1995 Mar 15;25 (4):915−21. Wilhelmy R, Pitschner H, Neuzner J, Dursch M, Konig S Selective and unselective blockade of sympathicus and parasympathicus and vagal enhancement by pirenzepine: effects on heart rate and heart rate variability in healthy subjects. Clin Sci (Colch) 1996;91 Suppl: 124]。
【0005】
ピレンゼピンはまた、そのM1ムスカリン阻害作用に基づくある種のCNS−関連疾患に関与しており、例えば、共薬物として抗精神病薬に用いられる(Hedges D, Jeppson K, Whitehead P Antipsychotic medication and seizures:a review. Drugs Today (Barc). 2003 Jul;39 (7):551−7;Schneider B, Weigmann H, Hiemke C, Weber B, Fritze J. Reduction of clozapine−induced hypersalivation by pirenzepine is safe. Pharmacopsychiatry. 2004 Mar;37 (2):43−5)。統合失調症におけるムスカリンレセプターの潜在的役割が、その根本的な理由であると推測される(Katerina Z, Andrew K, Filomena M, Xu−Feng H. Investigation of m1/m4 muscarinic receptors in the anterior cingulate cortex in schizophrenia, bipolar disorder, and major depression disorder. Neuropsychopharmacology. 2004 Mar;29 (3):619−25)。さらに、選択的ムスカリンM1アゴニストは、アルツハイマー病に潜在的に関連するアミロイド前駆体タンパク質の放出及びプロセッシングに関与している(Qiu Y, Wu XJ, Chen HZ. Simultaneous changes in secretory amyloid precursor protein and beta−amyloid peptide release from rat hippocampus by activation of muscarinic receptors. Neurosci Lett. 2003 Nov 27;352 (1):41−4;Qiu Y, Chen HZ, Wu XJ, Jin ZJ. 6beta−acetoxy nortropane regulated processing of amyloid precursor protein in CHOM1 cells and rat brain. Eur J Pharmacol. 2003 May 2;468 (1):1−8)。
【0006】
ピレンゼピンは、ガン又は統合失調症の治療において、副作用(例えば、嘔吐又は過流涎など)を抑制するために、オランザピン又はクロザピンなどの薬剤とともに用いられる(Bai YM, Lin CC, Chen JY, Liu WC. Therapeutic effect of pirenzepine for clozapine−induced hypersalivation:a randomized, double−blind, placebo−controlled, cross−over study. J Clin Psychopharmacol. 2001 Dec;21 (6):608−11)。
【0007】
ピレンゼピンはまた、近視の進行を低減させるのに有効であることが発見されており、特に子供において、有効な結果及び許容可能な安全性プロフィールを保証している(Gilmartin B. Myopia:precedents for research in the twenty−first century. Clin Experiment Ophthalmol. 2004 Jun;32 (3):305−24;Bartlett JD, Niemann K, Houde B, Allred T, Edmondson MJ, Crockett RS. A tolerability study of pirenzepine ophthalmic gel in myopic children. J Ocul Pharmacol Ther. 2003 Jun;19 (3):271−9)。
【0008】
さらに、ピレンゼピンは、糖尿病治療において試験されている(Issa BG, Davies N, Hood K, Premawardhana LD, Peters JR, Scanlon MF. Effect of 2−week treatment with pirenzepine on fasting and postprandial glucose concentrations in individuals with type 2 diabetes. Diabetes Care. 2003 May;26 (5):1636−7)。総合すれば、これらの研究により、ピレンゼピンが比較的安全な化合物であることが示される。
【特許文献1】仏国特許第1505795号明細書
【非特許文献1】W. Ebenem et al. Arzneimittel−Forsch. 27, 356 (1977)
【非特許文献2】H. A. El−Obeid et al., in Analytical Profiles of Drug Substances, Vol 16, K.Florey, Ed.(Academic Press, New York, 1987)pp 445−506
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ムスカリンレセプターの神経保護的又は細胞保護的役割についての証拠は全く存在しない。興奮毒性グルタメート放出を潜在的に調節するという役割のみが議論されている(例えば、Sholl−Franco A, Marques PM, Ferreira CM, de Araujo EG. IL−4 increases GABAergic phenotype in rat retinal cell cultures:involvement of muscarinic receptors and protein kinase C. J Neuroimmunol. 2002 Dec;133 (1−2):20−9. Calabresi P, Picconi B, Saulle E, Centonze D, Hainsworth AH, Bernardi G. Is pharmacological neuroprotection dependent on reduced glutamate release? Stroke. 2000 Mar;31 (3):766−72;discussion 773)。ムスカリンレセプターは、脳幹におけるNMDAレセプターのmRNA発現及びグルタメートの放出を調節する。発作、癲癇、及び外傷における興奮毒性神経細胞死を媒介するグルタメートレセプターの中心的役割は、非常に確立されている。カルシウムイオンが、興奮毒性の主要調節因子と考えられているが、新たな証拠により、全体のCa2+負荷よりもむしろ、特異的セカンドメッセンジャー経路が、神経変性を媒介するのに関与しているのではないかと示唆されている。一酸化窒素及びPARP−1などのグルタメートレセプターの下流シグナルを阻害することにより、興奮毒性傷害を低減できることを示す証拠が存在する(Aarts MM, Tymianski M. Molecular mechanisms underlying specificity of excitotoxic signaling in neurons. Curr Mol Med. 2004 Mar;4 (2):137−47)。
【0010】
ポリ(ADP−リボシル)化は、DNA損傷への急速な細胞応答であり、ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP−1)により触媒される。DNA崩壊により直接刺激されると、PARP−1は、様々な生理学的及び病態生理学的現象に関与する。生理学的には、PARP−1はゲノム安定性を維持するのに重要である。病態生理学的には、PARP−1過活性は、細胞ストレスと関連する多くの病気の一因となる。PARPのタンパク質分解は、アポトーシスの特徴の一つであるDNAの断片化を伴う。PARPは、通常はDNA修復に機能するが、DNA損傷により広範に活性化されると細胞死を促進する、DNA損傷センサー酵素であり、主にNAD(PARP−1の基質)及びATPの減少に起因して、細胞機能障害及び細胞死を導く。PARPの過活性化は、血管発作、及び壊死性の神経細胞死をもたらす他の神経変性疾患で顕著であるようだ。従って、PARP阻害剤、特にPARP−1阻害剤は、広範囲にわたる治療可能性を有する、潜在的な細胞/神経保護リード構造として、近年強い関心を呼んでいる(例えば、Cosi C, Guerin K, Marien M, Koek W, Rollet K. The PARP inhibitor benzamide protects against kainate and NMDA but not AMPA lesioning of the mouse striatum in vivo. Brain Res. 2004 Jan 16;996 (1):1−8. Suh SW, Aoyama K, Chen Y, Garnier P, Matsumori Y, Gum E, Liu J, Swanson RA. Hypoglycemic neuronal death and cognitive impairment are prevented by poly(ADP−ribose) polymerase inhibitors administered after hypoglycemia. J Neurosci. 2003, 23:10681−90. Pogrebniak A, Schemainda I, Pelka−Fleischer R, Nussler V, Hasmann M. Poly ADP−ribose polymerase (PARP) inhibitors transiently protect leukemia cells from alkylating agent induced cell death by three different effects. Eur J Med Res. 2003 Oct 22;8 (10):438−50. 前臨床試験が様々な企業から開始されている: INOTEK PHARMACEUTICALS, USA, http://www.inotekcorp.com/news/index.htm;Guilford Pharmaceuticals Inc. http://www.guilfordpharm.com/など)。
【0011】
いくつかのさらなる証拠により、神経保護作用及び修復だけでなく、記憶形成におけるPARP−1の重要な役割が指摘されている。PARP−1ノックアウトマウス由来の皮質培養物、又はPARP−1阻害剤で処理された培養物は、低血糖性神経細胞死に対して大いに耐性を示す。ごく最近の発見により、さらに、長期記憶の形成におけるPARP−1の役割が示されている(Suh et al., J. Neurosci. 23 (2003), 10681−10690;Ghen−Ammon et al., Science 304 (2004), 1820−1822)。
【0012】
現在、10未満のPARP−1阻害剤が開発中であるが、臨床段階に入っているものはまだ一つもない。このクラスは、その大部分が満たされていない市場である様々な重篤な疾患に影響を及ぼすので、PJ34などの分子のさらなる開発により、かなりの臨床的かつ経済的保証が提供される(http://www.bioportfolio.com/LeadDiscovery/PubMed-030215.htm;Faro R, Toyoda Y, McCully JD, Jagtap P, Szabo E, Virag L, Bianchi C, Levitsky S, Szabo C, Sellke FW. Myocardial protection by PJ34, a novel potent poly(ADP−ribose) synthetase inhibitor. Ann Thorac Surg. 2002. 73:575−81)。
【0013】
しかし、エンドヌクレアーゼ的DNA分解の活性化を阻害し、細胞ブレブ形成(cell blebbing)及び個別のPARP阻害剤の毒性プロフィールを妨げるために、細胞内エネルギー代謝を独立して維持できるその能力により媒介される、PARP阻害剤の細胞死予防効果の重要なバランスが存在するようである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
神経保護作用の機能的細胞モデルと一連の神経細胞バイオマーカーを用いて、新規の神経保護作用機序についての試験化合物のスクリーニングを行った。驚くべきことに、ピレンゼピン及び関連化合物が、PARP阻害剤又はPARP結合分子として、以前には知られていなかった作用機序を有することが発見された。これらの以前には知られていなかった神経保護効果によって、これらの化合物は、細胞保護薬、特に神経保護薬として適しており、かつ一般的には細胞保護のための、特に神経変性疾患の治療のための、二重、すなわちM1/PARP1作用機序を有する関連化合物の開発及び最適化のための新規リード構造として適している。
【0015】
SIR2は、酵母及び顕微的な虫であるCaenorhabditis elegansにおける寿命の増加に関連するタンパク質であり、疾患のある神経細胞分枝の変性を潜在的に遅らせ、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリック病)、様々な種類のニューロパシー、及び多発性硬化症を含む広範囲にわたる神経変性疾患の新規治療に関連する。マウスの神経細胞において、SIR2グループとして知られるタンパク質ファミリーに属するSIRT1タンパク質が、機械的に細胞体から切り離されたか、又は化学療法薬に暴露された神経細胞における軸索の破壊を遅らせることが示されている。軸索変性のこのプロセスは、特定の条件下でニューロンにより活性化される活性自己破壊プロセスであり得ることが以前の証拠により発見された。SIRT1の活性化の増加は、これらの自己破壊プロセスの一部又は全てを阻害するようである。さらに、SIR2タンパク質の活性化を増加させる薬剤を介したガン予防の可能性も検討されている(Araki T, Sasaki Y, Milbrandt J. R. Increased nuclear NAD biosynthesis and SIRT1 activation prevent axonal degeneration. Science. 2004, 305:1010−3)。
【0016】
PARP1とSIR2タンパク質との潜在的クロストークに多大な関心が寄せられている:PARP−1は、姉妹染色分体交換を制限することによりゲノム安定性(integrity)を保護すると考えられており、広範なDNA損傷によるPARP−1の過度の刺激の結果として細胞死をもたらす。PARP−1活性化の延長は、基質であるNADを消耗させ、産物であるニコチンアミドを上昇させる。NADの減少とニコチンアミドの増加は、NAD−依存性デアセチラーゼであるSIR2の活性を下方制御し得る。なぜなら、SIR2による脱アセチル化は、高濃度のNADに依存し、生理学的レベルのニコチンアミドにより阻害されるからである。広範な生物活性を媒介するこの2つの従来経路の関連の可能性は、多細胞真核生物における保存されたPARP−1及びSIR2遺伝子ファミリーに対する深遠な進化的役割を意味し得る(Zhang, J. Bioessays, 25 (2003), 808−814)。
【0017】
驚くべきことに、ピレンゼピン及び関連化合物が、SIR2モジュレーターとして、例えばSIR2結合分子として、以前には知られていなかった作用機序を有することがさらに発見された。これらの以前には知られていなかった神経保護効果によって、これらの化合物は、細胞保護薬、特に神経保護薬として適しており、かつ一般的には細胞保護のための、特に神経変性疾患の治療のための、組み合わされた、すなわちM1/PARP1/SIR2作用機序を有する関連化合物の開発及び最適化のための新規リード構造として適している。
【0018】
総合すれば、上述の議論により、PARP活性が、細胞保護プロセス、特に神経保護プロセスに重要であることが示される。以下の実施例に示すとおり、ニューロンチャレンジの一般的特徴は、ピレンゼピン及びLS−75(PBD)など関連化合物の適用により予防又は遅延され得るアポトーシス細胞死を導く、最初のカルシウム過負荷である。我々はまた、3T3線維芽細胞のLPSチャレンジなどの、非ニューロン性炎症プロセスに対する実験モデルにおいて、これらの化合物が細胞保護効果を有することを示す。この効果は、PARP−1及びCox−2に対する抗体を用いてウエスタンブロットを染色することによりモニタリングされる、アポトーシスマーカー及び炎症マーカーの対応する変化を伴う。
【0019】
従って、本発明の第一の側面は、細胞保護剤、特に神経保護剤の製造のための、下記式I:
【0020】
【化1】

[式中、
A及びBは、N、S、及びOから選択される少なくとも1つのヘテロ原子を任意選択で含んでいてもよい5員又は6員環であって、前記環は、ハロ、例えば、F、Cl、Br、又はIなど、C1〜C4−(ハロ)−アルキル、C1〜C4−(ハロ)−アルコキシ、アミノ、C1〜C4−アルキル−アミノ、又はジ(C1〜C4−アルキル)アミノで任意選択で一置換又は多置換されていてもよく;
Wは、S、O、NR1、又はCHR1であり;
R1は、水素、Y、又はCOYであり;
R2は、水素又はC1〜C4−(ハロ)−アルキルであり;かつ
Yは、C1〜C6(ハロ)アルキル又はC3〜C8シクロ−(ハロ)−アルキルであって、ここで、前記アルキル又はシクロアルキル基は、N、S、及びOから選択される少なくとも1つのヘテロ原子を任意選択で含んでいてもよい5員又は6員環で任意選択で置換されていてもよく、前記環は、ハロ、C1〜C4−(ハロ)−アルキル、C1〜C4−(ハロ)−アルコキシ、アミノ、C1〜C4−アルキル−アミノ、ジ(C1〜C4−アルキル)アミノ、又はZで任意選択で一置換又は多置換されていてもよく;
Zは、N(R4)2基でω−置換されたC1〜C6−(ハロ)−アルキル基であって、ここで、R4は、それぞれ独立に、水素、C1〜C8アルキル、若しくはCO−C1〜C8−アルキルであるか、又は両方のR4が一緒になって、N、S、及びOから選択される少なくとも1つのさらなるヘテロ原子を任意選択で含んでいてもよい5員若しくは6員環を形成しており、前記環は、ハロ、C1〜C4−(ハロ)−アルキル、及びC1〜C4−(ハロ)−アルコキシで任意選択で一置換又は多置換されていてもよい]
の化合物、又はこれらの塩若しくは誘導体の使用に関する。
【0021】
本発明の「(ハロ)アルキル」という用語は、過ハロゲン化まで、少なくとも1種のハロ、例えば、F、Cl、Br、又はIなどの置換基を任意選択で含んでいてもよいアルキル基に関する。
【0022】
「塩」という用語は、好ましくは、適したカチオン及び/又はアニオンを有する、式Iの化合物の医薬として許容可能な塩を意味する。適したカチオンの例は、アルカリ金属カチオン、例えば、Li、Na、及びKなど、アルカリ土類金属カチオン、例えば、Mg及びCaなど、並びに適した有機カチオン、例えば、アンモニウム又は置換アンモニウムカチオンなどである。医薬として許容可能なアニオンの例は、無機アニオン、例えば、塩化物、硫酸塩、硫酸水素塩、リン酸塩など、又は有機カチオン、例えば、酢酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩などである。
【0023】
式Iの化合物の誘導体は、生理学的条件下で式Iの化合物に変換される任意の分子であり、例えば、式Iの化合物のエステル、アミドなど、又は式Iの化合物の代謝反応の産物である分子である。
【0024】
好ましくは、式Iの化合物は、神経系のPARP−1及び/又はSIR2−関連疾患、すなわち、PARP−1機能障害、特にPARP−1活性の機能障害性の増加によりもたらされるか及び/又はこれを伴う疾患、及び/又はSIR2機能障害、特にSIR2活性の機能障害性の増加によりもたらされるか及び/又はこれを伴う疾患の予防又は治療のために用いられる。例えば、これらの疾患は、例えば、認知症、パーキンソン病、アルツハイマー病、発作、統合失調症、癲癇などの疾患における神経変性状態又は神経炎症状態である。本発明の化合物は、中枢神経系の疾患、例えば、外傷性脳損傷を含む脳の疾患に特に有効であり、脳の対側領域に対してまでも特に有効であるので、二次的な神経変性を予防又は阻害する。本発明の化合物はまた、ニューロン修復剤としても有用であり、かつ例えば長期記憶の形成などの記憶形成の向上にも有用である。さらに、本発明の化合物は、胃腸系の潰瘍状態及び他の炎症状態の治療又は予防に適している。
【0025】
さらになお好ましい適応は、プロアポトーシスメカニズムが、様々な形態の慢性的な痛みの初期段階に関与することから(Malone S et al. Apoptotic genes expression in the lumbar dorsal horn in a model neuropathic pain in rat. Neuroreport 2002 Jan 21;13 (1):101−6)、例えば慢性的な神経障害性の痛みなどの痛みの予防又は治療のためのものである。
【0026】
さらになお好ましい適応は、神経系又はニューロン関連眼疾患の予防又は治療のためのものである。
【0027】
治療への応用のために、式Iの化合物は、単独で又は他の薬剤とともに、例えば、クロザピン、オランザピン、抗糖尿病薬、又は抗癌治療などと一緒に用いられてよい。
【0028】
式Iの化合物において、A及びB環式基は、好ましくは、下記式:
【0029】
【化2】

[式中、
Xは、N又はCR3であり;
V1、V2、又はV3は、−O−、−S−、及びNR6から選択され;
R3は、それぞれの場合において、独立に、ハロ、C1〜C4−(ハロ)−アルキル、C1〜C4−(ハロ)−アルキル、C1〜C4−(ハロ)−アルコキシ、アミノ、C1〜C4−アルキル−アミノ、又はジ(C1〜C4−アルキル)アミノであり;
mは、0〜2の整数であり;かつ
R6は、水素又はC1〜C4−(ハロ)アルキルである]
から選択される。
【0030】
より好ましくは、A環式基は、下記式:
【0031】
【化3】

[式中、
R3は、先に定義したとおりであり;
mは、0〜2の整数であり;
rは、0又は1であり;かつ
R6は、水素又はメチルである]
から選択される。
【0032】
より好ましくは、B環式基は、下記式:
【0033】
【化4】

[式中、X、R3、及びmは、先に定義したとおりである]
から選択される。1つの実施態様では、R1はYである。この場合、Yは、好ましくは、C3〜C8シクロ(ハロ)−アルキル、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、又はシクロペンチルなどである。
【0034】
さらなる実施態様では、R1はCOYであり、Yは、下記式:
【0035】
【化5】

[式中、
R7は、水素、ハロ、又はC1〜C4−(ハロ)アルキルであり;
qは、1〜4の整数であり、好ましくは1であり;かつ
R8は、少なくとも1つのヘテロ原子を任意選択で含んでいてもよい5員又は6員環であって、ここで、前記環は、C1〜C4(ハロ)アルキル又は先に定義したとおりのω−アミノ−置換アルキルZ基で任意選択で一置換又は多置換されていてもよい]
から選択される。
【0036】
この実施態様では、R8は、好ましくは、下記式:
【0037】
【化6】

[式中、R9は、水素又はC1〜C4(ハロ)アルキルであり、R10は、先に定義したとおりのω−アミノ−置換アルキルZ基である]
から選択される。
【0038】
R9は、好ましくはメチル基である。ω−アミノ−置換アルキルZ基は、好ましくは、少なくとも1種のC1〜C6アルキル基で置換された末端アミノ基、例えばジエチルアミノ基若しくはジイソブチルアミノ基を有するか、又はCO(C1〜C6)アルキル基、及び水素又はC1〜C2アルキル基で置換された末端アミノ基を有する、C1〜C4(ハロ)アルキル基である。
【0039】
式Iの化合物の特定の例は、仏国特許第1505795号、米国特許3406168号、同第3660380号、同第4021557号、同第4210648号、同第4213984号、同第4213985号、同第4277399号、同第4308206号、同第4317823号、同第4335250号、同第4424222号、同第4424226号、同第4724236号、同第4863920号、同第5324832号、同第5620978号、同第6316423号に開示されているとおりのピレンゼピン及び関連化合物;米国特許第3406168号、同第5324832号、及び同第5712269号に開示されているとおりのオテンゼパド及び関連化合物;米国特許第5716952号、同第5576436号、及び同第5324832号に開示されているとおりのAQ−RA741及び関連化合物;欧州特許出願公開第0429987号、並びに米国特許第5366972号及び同第5705499号に開示されているとおりのビラミューン(viramune)及び関連化合物;米国特許第6022683号及び同第5935781号に開示されているとおりのBIBN 99及び関連化合物;欧州特許出願公開第0035519号及び米国特許第4381301号に開示されているとおりのDIBD、テレンゼピン及び関連化合物;並びにこれらの塩又は誘導体である。上記文献は、参照として本明細書に援用される。
【0040】
さらに好ましい化合物は、米国特許第5817679号、同第6060473号、同第6077846号、同第6117889号、同第6255490号、同第6403584号、同第6410583号、同第6537524号、同第6579889号、同第6608055号、同第6627644号、同第6635658号、同第6693202号、同第6699866号、及び同第6756392号に開示されているとおりの、臭化チオトロピウムなどの7−アザビシクロ−[2.2.1]−ヘプタン及びヘプテン化合物;複素環式化合物、例えば、ピロリジノン、テトラヒドロピリジン、イソキサゾカロボキサミド(isoxazocarboxamide)、チエノピラン(thienopyrane)カルボキサミド、又はベンゾピラン、例えば、米国特許第6306861号、同第6365592号、同第6403594号、同第6486163号、同第6528529号、同第6680319号、同第6716857号、及び同第6759419号に開示されているとおりの酒石酸アルバメリン(alvameline tartrate)及び関連化合物、米国特許第3177252号に開示されているとおりのメトクロプロアミド(metocloproamide)及び関連化合物、米国特許第2648667号に開示されているとおりのQNB及び関連化合物、並びにこれらの塩及び誘導体である。上記文献は、参照として本明細書に援用される。
【0041】
さらに、本発明は、クロゼピン及びオレンゼピンなどの式Iのジアリールジアゼピノンを与えるために代謝される化合物を包含する。
【0042】
本発明のさらなる側面は、好ましくは先に示したとおりの疾患の予防又は治療用の、神経保護剤の製造のための、二重M1ムスカリンレセプター阻害剤及びPARP阻害剤である化合物の使用に関する。
【0043】
二重阻害剤化合物は、好ましくは、PARPに対するIC50値が、100〜10000μM、より好ましくは250〜1000μMである、中程度に強いPARP阻害剤である。IC50値の測定は、実施例に示すとおりに実施する。
【0044】
さらに、本発明のさらなる側面は、好ましくは先に示したとおりの疾患の予防又は治療用の、神経又は細胞保護剤の製造のための、二重M1ムスカリンレセプター阻害剤及びPARP阻害剤であり、さらにSIR2モジュレーター又は結合分子である化合物の使用に関する。この化合物は、好ましくは、先に示したとおりの中程度に強いPARP阻害剤である。さらに、この化合物は、好ましくは、SIR2に対するIC50値が、1〜10000μM、より好ましくは5〜5000μMである、SIR2阻害剤である。IC50値の測定は、実施例に示すとおりに実施する。
【0045】
好ましくは、先に示したとおりの化合物は、医薬として許容可能なキャリア、希釈剤、及び/又はアジュバントを含んでいてもよい医薬組成物として、それを必要とする対象に投与される。医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、溶液、懸濁液などの形態で投与されてよい。薬剤は、任意の公知手段に従って投与されてよく、経口及び静脈内投与が特に好ましい。活性成分の用量は、病気の種類及び多様性によって決まり、通常は、1〜2000mg/日の範囲である。
【0046】
本出願は、ヒト及び獣医薬、特にヒト用の薬における適用を有する。
【0047】
さらに、以下の図面及び実施例により本発明を説明する。
【0048】
[実施例]
[実施例1:PARP1阻害]
(1. 材料及び方法)
(1.1 生物学的試験系:化学的虚血及び神経保護のための細胞培養モデル)
全ての実験のために、129/svマウス由来のD3胚幹(ES)細胞[Okabe et al., 1996]を、以前に記載されたとおり[Sommer et al., 2004]、2、4、7、及び9日目に継代して、12日間培養した。傷害条件:細胞(24ウェルプレート)を、新鮮培地中、20 nMのEPOとともに、又はEPOを加えずに、37℃で24時間プレインキュベートした。細胞を、低K溶液(140 mM NaCl, 4.7 mM KCl, 1.2 mM KH2PO4, 2.5 mM CaCl2, 1.2 mM MgSO4, 11mM グルコース, 15 mM Hepes−NaOH, pH 7.35)で一回すすいだ。細胞(EPOでプレインキュベートしたものか、又はしてないもののいずれか)を、低K溶液、又は1 mMのKCNを補充したグルコース不含低K溶液(化学的虚血溶液[Kume et al., 2002])のいずれかで、最大で45分間(37℃)インキュベートした。生存ニューロン数を評価するためのバイタリティコントロールを、低用量のグルタメート(10μM)を用いた短時間の刺激により行った。その後、細胞を氷冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄し、ついでタンパク質を採取(harvest)した。細胞浮遊液を500×Gでペレット状にし、9 M尿素4%CHAPS中に溶解した。細胞溶解物をNAP−10カラム(Amersham Biosciences)で脱塩し、同一のバッファーで予め平衡化し、タンパク質含量を測定した。
【0049】
(1.2 カルシウムイメージング)
カルシウムイメージングによる機能試験を、基本的には記載されているとおりに実施した[Sommer et al., 2004]。簡単に述べると、細胞を、DMEM中2μMのfura−2 AMで、37℃、45分間、暗所で負荷した。[Ca2+]の相対的変動の測定を、Polychrom IV Monochromator(Xe−lamp, USHIO)を備えた倒立落射蛍光顕微鏡(Olympus IX70 S1F2)で行った。励起波長(λ1、λ2)及び発光波長は、それぞれ、340、380、及び510 nmであった。適切な刺激後のデータ収集及び分析は、MetaFluorソフトウェア(Universal Imaging Corporation)を用いて実施した。画像解像度は、168×129ピクセル(ビニング8×8、ピクセルサイズ6.8×6.8μm)であった。形態学的基準及び一時的(occasional)免疫染色(図示せず)により、またそのカルシウムレベルが、最初の刺激後に静止状態に戻ったものにより、ニューロンであると同定された細胞のみを考慮に入れた。コントロールには、名目上(nominal)ゼロのカルシウム(ネガティブ)及び5μMのイオノマイシン(ポジティブ)、10μMのグルタメート(ポジティブ)及びデポラリゼーション(55 mM K)(ポジティブ)を含めた。薬理作用のある物質を、かん流システムDAD−12を備えたマルチバルブのシングルアウトプットフォーカルドラッグアプリケーション装置(ALA Scientific)により適用した。比率イメージを、実験全体にわたる比較のためのバックグラウンド蛍光スケールを超える、蛍光の相対的変動のパーセンテージとして示した[Sommer et al., 2004に記載のとおり]。それぞれの刺激イベントの間、20の画像ペアを収集した。
【0050】
(1.3 化学プロテオミクス:ピレンゼピン−アフィニティタグの合成)
標的タンパク質に対する不可逆的な、すなわち共有結合した、アフィニティ試薬(Fishhook)の合成のための出発構造としてピレンゼピンを用いた。−SCN反応基を導入し、これは、化合物の結合部位内又はその近辺でリジンと結合する。ビオチン化リンカーは、結合タンパク質の濃縮に役立つ。合成を図1に示す。
【0051】
(1.3.1 2−ニトロ−N−(2−クロロ−ピリジン−3−イル)−ベンズアミド、(3)の合成)
100 mLトルエン中、2−ニトロベンゾイルクロリド(7.2 g)の溶液を、100 mLトルエン中、2−クロロ−3−アミノ−ピリジン(10.0 g)の撹拌溶液に滴下して加えた。全部の量を添加した後、混合物を120分間80℃に加熱した。反応混合物を冷ました後、得られた2−ニトロ−N−(2−クロロ−ピリジン−3−イル)−ベンズアミドをろ過により単離した。収率=10.0 g、mp=158〜161℃。
【0052】
(1.3.2 2−アミノ−N−(2−クロロ−ピリジン−3−イル)−ベンズアミド、(4)の合成)
塩化第一スズ(60.0 g、320 mmol)を、2−ニトロ−N−(2−クロロ−ピリジン−3−イル)−ベンズアミド(14.0 g)の無水エタノール(200 mL)溶液中に添加した。4時間還流した後、溶液を160 mLの濃HClで希釈し、冷蔵庫内に放置して結晶化させた。得られた生成物をろ過により単離した。単離した物質を、100 mLの沸騰水に溶解し、30%のNaOH(pH 8.5)でアルカリ性にした。得られた沈殿物をろ過により単離し、乾燥させた。収率=7.0 g、mp=172〜175℃。
【0053】
(1.3.3 5,11−ジヒドロ−ベンゾ[e]ピリド[3,2−b][1,4]ジアゼピン−6−オン、(5)の合成)
2.5 gの2−ニトロ−N−(2−クロロ−ピリジン−3−イル)−ベンズアミドを、撹拌しながら210℃に加熱し、塩化水素の蒸発開始後すぐに、加熱源を取り去り、撹拌しながら、融解物質(molten mass)を冷ました。冷却固化した物質を粉砕し、ついで、150 mLの沸騰エタノールに溶解して、これに、0.5 mLの30%水酸化ナトリウム水溶液を添加した。冷却後、生成物が晶出した。収率=1.2 g、mp=278〜280℃。
【0054】
(1.3.4 11−(2−クロロ−アセチル)−5,11−ジヒドロベンゾ[e]ピリド−[3,2−b][1,4]ジアゼピン−6−オン、(6)の合成)
5,11−ジヒドロ−ベンゾ[e]ピリド[3,2−b][1,4]ジアゼピン−6−オン(970 mg)を、15 mLの乾燥ジオキサンとともに、10分間還流した。その後、アセチルイルクロリド(565μL)及びトリエチルアミン(1.05 mL)を45分間にわたって、同時に添加(滴下)した。反応混合物を、撹拌しながらさらに8時間還流した。冷却後、これを真空ろ過した。ろ液を真空蒸発し、活性炭で処理後、残留物をアセトニトリルから再結晶化させた。収率=1.10 g。
【0055】
(1.3.5 4−[2−オキソ−2−(6−オキソ−5,6−ジヒドロ−ベンゾ[e]ピリド−[3,2−b][1,4]ジアゼピン−11−イル)−エチル]−ピペラジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル、(7)の合成)
11−(2−クロロ−アセチル)−5,11−ジヒドロ−ベンゾ[e]ピリド[3,2−b][1,4]ジアゼピン−6−オン(144 mg)を、93 mgのN−tBOC−ピペラジン及び70 mgのK2CO3を含む2 mLの乾燥DMF中で、50℃、12時間撹拌した。冷却後、反応混合物を真空ろ過した。ろ液を真空蒸発し、溶出系としてジクロロメタン/メタノール(97/3)を用いたフラッシュクロマトグラフィーにより残留物を精製した。
【0056】
(1.3.6 11−(2−ピペラジン−1−イル−アセチル)−5,11−ジヒドロ−ベンゾ[e]ピリド−[3,2−b][1,4]ジアゼピン−6−オンジヒドロクロリド、(8)の合成)
4−[2−オキソ−2−(6−オキソ−5,6−ジヒドロ−ベンゾ[e]ピリド[3,2−b][1,4]ジアゼピン−11−イル)−エチル]−ピペラジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(650 mg)を、15 mLのジオキサン及び1.5 mLの濃HCl中、室温で2時間撹拌した。反応混合物を真空蒸発し、残留物を、5 mL EtOH/10 mLトルエン中に再懸濁した。溶媒を再度真空除去した。さらなる精製を行うことなく残留物を用いた。収率=700 mg、mp=172〜177℃。
【0057】
(1.3.7 11−{2−[4−(tBoc−ビオシチニル)−ピペラジン−1−イル]−アセチル}−5,11−ジヒドロ−ベンゾ[e]ピリド[3,2−b][1,4]ジアゼピン−6−オン、(9)の合成)
11−(2−ピペラジン−1−イル−アセチル)−5,11−ジヒドロ−ベンゾ[e]ピリド[3,2−b][1,4]ジアゼピン−6−オンジヒドロクロリド(212 mg)を、10 mLのメタノール、235 mgのtBOC−ビオシチン、250μLのNMM、及び165 mgのDMT−MM中、室温で2時間撹拌した。反応混合物を真空蒸発し、ジクロロメタン中5% MeOHに残留物を再溶解した。ジクロロメタン/メタノール(95/5)を用いたフラッシュクロマトグラフィーによりこれを精製した。収率=430 mg。
【0058】
(1.3.8 11−[2−(4−ビオシチニル−ピペラジン−1−イル)−アセチル]−5,11−ジヒドロ−ベンゾ[e]ピリド[3,2−b][1,4]ジアゼピン−6−オン、(10)の合成)
11−{2−[4−(tBoc−ビオシチニル)−ピペラジン−1−イル]−アセチル}−5,11−ジヒドロ−ベンゾ[e]ピリド[3,2−b][1,4]ジアゼピン−6−オン(430 mg)を、3 mLのジクロロメタンと3 mLのTFAとの混合物中、室温で30分間撹拌した。反応混合物を真空蒸発し、残ったTFAを、EtOH/トルエン(1/2)の混合物を用いて共沸蒸発により除去した。さらなる精製を行うことなく生成物を用いた。
【0059】
(1.3.9 チオシアネート11−[2−(4−ビオシチニル−ピペラジン−1−イル)−アセチル]−5,11−ジヒドロ−ベンゾ[e]ピリド[3,2−b][1,4]ジアゼピン−6−オン、(11)の合成)
11−[2−(4−ビオシチニル−ピペラジン−1−イル)−アセチル]−5,11−ジヒドロ−ベンゾ[e]ピリド[3,2−b][1,4]ジアゼピン−6−オン(300 mg)を、2 mLのDMF、300 mLのNMM、及び150 mgのDPTとともに、室温で60分間撹拌した。反応混合物を真空蒸発し、残留物を50 mLの無水エーテルとともにすりつぶした。得られた生成物を、5%のイソプロパノールを含むジクロロメタンに再溶解し、ジクロロメタン/イソプロパノール(95/5)を用いた、シリカゲル上でのフラッシュクロマトグラフィーにより精製した。
【0060】
(1.4 ピレンゼピンの第二の結合部位の同定及び特徴付け)
アフィニティ試薬11を用いて、D3 ES細胞及び他の細胞系の粗細胞抽出物の分画からの標的に共有結合させ、その後、アフィニティ精製された物質を、1D PAGE、免疫染色、及び質量分析により分析した。
【0061】
(1.4.1 分画、単離、ウエスタンブロット、質量分析)
その後の分画、単離、及びさらなる分析は、出版されている標準手順(Sommer et al. 2004)に従って実施した。市販の抗PARP抗体を、ウエスタンブロット染色のために用いた。ピレンゼピン−タグタンパク質の独立した同定のための質量分析は、最近他の文献に記載されたとおり(Vogt et al., 2003, Cahill et al., 2003)に実施した。
【0062】
抗PARPモノクローナル抗体は、BD BioScience(カタログ番号556 362;クローンC2−10)から購入した。アルカリホスファターゼ結合抗マウス二次抗体は、Sigma(カタログ番号A9316)から購入した。NBT/BCIP−ウエスタンブロット検出試薬は、Roche Diagnostics(カタログ番号 1681451)のものであり、Western Lightening CDP−Starケミルミネッセンス検出キットは、Perkin Elmer(カタログ番号 NEL616001KT)により提供された。抗PARPウエスタンブロッティング実験のために、タンパク質を10%のポリアクリルアミドゲルで分離し、ニトロセルロース上にブロットした。ブロットを、0.1%のTween−20含有Tris緩衝生理食塩水(TBS−T)中、5%スキムミルク粉末でブロッキングした。抗PARP抗体を、ミルク粉末TBS−Tで1:1000に希釈し、4℃で一晩インキュベートした。その後、TBS−Tを用いてブロットを3回洗浄した。二次抗体は、NBT/BCIP検出のために1:1000に希釈して用い、CDP−Star検出のために1:5000に希釈して用いた。様々なSIR2含有フラクション由来のゲルをニトロセルロース膜上にブロットし、適宜可視化した。
【0063】
SIR−2染色のために、以下の抗体を用いた:一次抗体:A−SiR 2(Upstate, biomol 07−131;Lot:22073);5%BSA/1×TBST中1:5000;二次抗体:A−ウサギPE(A−0545);5%BSA/1×TBST中1:1000;Cox−2染色は、Alexisの抗体(ALX−210−711−1)抗COX−2(シクロオキシゲナーゼ−2)を用いることにより適宜得られた;ウサギ、ポリクローナル;1:1000希釈;二次抗体は、抗ウサギ−AP(Sigma, A3937, 1:1000)であった。
【0064】
iNOS染色は、抗iNOSポリクローナル抗体(Alexis, 1:1000)を用いることにより実施した。ブロットを、TBS/1.0%Tweenで洗浄し、適切な西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体(抗ウサギIgG, Sigma, 1:2000)でインキュベートした。
【0065】
(1.4.2 PARP阻害試験)
供給者の指示に従って、R&D SystemsのPARP阻害アッセイ(カタログ番号TA4669)を用いた。
【0066】
(1.4.3 SIR2活性アッセイ)
SIR2活性の測定のために、NAD−依存性ヒストンデアセチラーゼ活性CycLex(登録商標)SIR2アッセイキット(カタログ番号CY−1151)の定量試験キットを、製造者の指示(CycLex Co., Ltd. 1063−103 Ohara, Tera−Sawaoka Ina, Nagano 396−0002 Japan)に従って使用した。SIRアッセイにおいて試験される全ての物質を、リシル−エンドペプチドへの影響について照合した。このコントロールのために、すでに脱アセチル化された基質ペプチドを、リシル−エンドペプチダーゼ活性を直接測定するために用いた。
【0067】
(1.4.4 神経細胞及び非神経細胞における炎症についての実験モデル)
3T3線維芽細胞、A549細胞、V56胚幹細胞、及び神経分化V56胚幹細胞のLPSチャレンジは、ピレンゼピン及び関連化合物の存在又は不在下で、細胞を100 ng/mLのリポ多糖類(LPS, E.coli 0111:B4 LPS, Sigma)に60分間暴露することにより、同様に実施した。細胞ペレットを、1Dポリアクリルアミドゲルの抗Cox−2及び抗iNOS抗体を用いたウエスタンブロット染色によりさらに調べた。
【0068】
(2. 結果)
(2.1 化学的虚血におけるピレンゼピンの神経保護効果)
図2には、前記方法のセクションで概説した機能モデルにおけるピレンゼピン及びLS−75の神経保護効果を示す。
【0069】
コントロール細胞が、4.8±3.4%の生存率(第一の刺激における細胞数:189、及び化学的虚血後の第二の刺激における細胞数)を有する一方で、ピレンゼピン処理細胞は、72.1±4.4%の生存率(第一の刺激における細胞数:68、及び化学的虚血後の第二の刺激における細胞数:49)を有した(図2b)。下方部には(図2f)、以下の3種の異なる機能モデルにおけるピレンゼピン及びLS−75の神経保護効果についての概要を示す:上述のとおりの化学的虚血の導入、100 μMのNMDA(又はSommer et al. 2004に記載のとおりの100 μMのHCA)による興奮毒性細胞死の導入、及び10 μMのβ−アミロイド1−40(Bachem, Germany)による神経細胞死の導入;3種のチャレンジはすべて、最初のカルシウム過負荷を誘起し、これにより、明らかにプロアポトーシス性及び炎症誘発性イベントが開始され、最終的には、ニューロン機能障害及び細胞死が導かれる。アポトーシスマーカーPARP−1及び炎症マーカーCox−2に対して染色された、ピレンゼピン/LS−75を適用したか、又は適用していない細胞フラクションのウエスタンブロットにより、これを図2cに示す。これらの実験のさらなる統計情報を図2d及び2eに示す。
【0070】
(2.2 ピレンジピンの標的としてのPARPの同定)
ついで、我々は、図1に示すとおりの反応性ピレンゼピン誘導体の合成を進めた;標的タンパク質に対する不可逆的な、すなわち共有結合した、アフィニティ試薬の合成のための出発構造としてピレンゼピンを用いた。−SCN反応基は、化合物の結合部位内又はその近辺でリジンと結合する。ビオチン化リンカーは、結合タンパク質の濃縮に役立つ。最終的なアフィニティ試薬、チオシアネート−11−[2−(4−ビオシチニル−ピペラジン−1−イル)−アセチル]−5,11−ジヒドロ−ベンゾ[e]ピリド[3,2−b][1,4]ジアゼピン−6−オン(化合物(11)、図1)を用いて、D3胚幹細胞の粗細胞抽出物の分画からの標的に共有結合させ、それに続いて、アフィニティ精製された物質を、1D PAGE(図3a)、質量分析、及び免疫染色により分析した。銀染色したゲルのMALDI−TOF分析により、濃縮フラクションにおけるPARP−1及びSIR−2の存在が示され、これは、抗PARPモノクローナル抗体(113及び89 kDのバンド、図3b)及びSIR−2に対する特異抗体(110 kD、図3c)を用いた対応する1Dゲルのウエスタンブロット染色により独立して確認された。
【0071】
アフィニティタグインキュベーションにおいて、0.5 mLのNP 40幹細胞抽出物(2.3 mgのタンパク質)を、1μMのアフィニティタグとともに、37℃で60分間インキュベートした。余剰のアフィニティタグを、NAP10ゲル濾過により除去した。反応混合物を、ストレプトアビジンアガロースに結合させた。溶出は、溶出バッファー(2%SDS, 62.5 mM Tris−pH 6.8)を用いて、室温で10分間、及び95℃で10分間行った。PARPとの結合のために、マウスモノクローナル抗体(BD Biosciences, 1:2000)を用いた。検出抗体として、アルカリホスファターゼ結合抗マウス抗体(1:1000及びNBT/BCIP基質)を用いた。
【0072】
(2.3 PARP阻害試験)
図4aには、SIR−2及びPARP−1活性に対する酵素試験を示しており、これにより、アフィニティタグは両方のタンパク質と相互作用するけれども、ピレンゼピン及びLS−75は、それぞれ、200及び18μMのIC50値を有するPARP−1阻害剤であり、同様に、SIR−2を阻害するようではあるが、これはIC50値が1〜5 mMを超えるという非常に高濃度の場合に限られることが明らかとなっている。図4の表にはコントロールが含まれる:ニコチンアミドは、我々のアッセイにおいて、およそ55μMのSIR−2阻害に対するIC50値を有しており、フェナントリドン(phenanthridone)などの典型的なPARP−1阻害剤は、我々のアッセイにおいて、7μMのIC50値を有しており、これは、以前の報告と一致している(North, B.J., Verdin, E. Sirtuins:SIR2−related NAD−dependent protein deacetylases. Genome Biol. 5, 224f, 2004;Southan GJ, Szabo C. Poly(ADP−ribose) polymerase inhibitors. Curr Med Chem. 2003 Feb;10 (4):321−40)。
【0073】
本発明に適した、好ましい構造的に関連した化合物のさらなる例は、以下のものである:
・6H−ピリド[2,3−b][1,4]ベンゾジアゼピン−6−オン(PBD又はLS−75)(コア構造、PARP1阻害試験及び細胞系神経保護アッセイで用いられる);
・ダンフェナシンヒドロブロミド(Danfenacin hydrobromide)(Enablex(商標)、Novartis、M3ムスカリンアンタゴニスト、2004年に販売);
・酒石酸アルバメリン(Alvameline)(Lu 25−109T、Lundbeck、M1アゴニスト、M2及びM3アンタゴニスト、ADの治療に有効でないので、臨床研究の第三段階で中断されている);
・インパトロピウム(Impatropium)(M1、M2、及びM3アンタゴニスト、気管支拡張薬)
・臭化チオトロピウム(Spiriva、Boehringer、M1、M2、及びM3アンタゴニスト、気管支拡張薬、2001−2年から販売);
・メトクロプラミド、ムスカリンアンタゴニスト(非選択性のもの)、ドーパミンD2アンタゴニスト;
・テレンゼピンジヒドロクロリド、Sigma;
・クロゼピン;
・ビラミューン;
・ピペンゾレート、Sigma;
・QNB、Sigma。
【0074】
(2.4 炎症チャレンジ(LPS暴露)後の一般的な細胞保護効果)
我々は、3T3線維芽細胞(図5a)、A549細胞(図5b)、未分化V56胚幹細胞(図5c)、及び神経分化V56胚幹細胞(図5d)を、100 ng/mLのリポ多糖類(E.coli 0111:B4 LPS, Sigma)で60分間刺激した。炎症マーカーとして、我々は、1D PAゲルのウエスタンブロットの適切な抗体での染色により、Cox−2及びiNOS発現を再度定量化した。その結果、ピレンゼピン及びLS−75などの関連物質は、LPS−誘発性の死から細胞を保護し(図5a〜d)、(ii)この保護効果は、誘導性炎症マーカーiNOS及びCox−2の発現の減少を伴う(図2と同様、図示せず)ことが示される。細胞の生存を、トリパンブルー染色により評価した。
【0075】
(2.5 コレステロールに富む膜ドメイン集合に対する、ピレンゼピン及び関連物質の効果の影響/依存性)
PARP−1及びSIR−2に対する直接的効果の次に、前記物質は、様々な関連シグナリング経路において重要であると考えられている一過性(transient)の膜ドメインであるコレステロールに富む脂質ラフトを介して、その効果をもたらすようである(Cuschieri J. Implications of lipid raft disintegration:enhanced anti−inflammatory macrophage phenotype. Surgery. 2004 Aug;136 (2):169−75;Chu CL, Buczek−Thomas JA, Nugent MA. Heparan sulphate proteoglycans modulate fibroblast growth factor−2 binding through a lipid raft−mediated mechanism. Biochem J. 2004 Apr 15;379 (Pt2):331−41;Argyris EG, Acheampong E, Nunnari G, Mukhtar M, Williams KJ, Pomerantz RJ. Human immunodeficiency virus type 1 enters primary human brain microvascular endothelial cells by a mechanism involving cell surface proteoglycans independent of lipid rafts. J Virol. 2003 Nov;77 (22):12140−51;Nagy P, Vereb G, Sebestyen Z, Horvath G, Lockett SJ, Damjanovich S, Park JW, Jovin TM, Szollosi J. Lipid rafts and the local density of ErbB proteins influence the biological role of homo− and heteroassociations of ErbB2. J Cell Sci. 2002 Nov 15;115 (Pt 22):4251−6
2)。
【0076】
図6において、我々は、ピレンゼピン及びPBD/LS−75などの関連物質の神経保護効果は、「ラフト」−崩壊状態の存在下では起こらないことを示し(図6a;β−メチル−シクロデキストリン又はフィリピン)、そうする間、ピレンゼピン、及びPBD/LS−75などの関連物質は、少なくともある程度は、コレステロールに富む膜ラフトの存在を必要とすると結論づける。
【0077】
(2.6 細胞条件下でのPARP阻害)
ポリ−ADP−リボシル化タンパク質に対する特異抗体(一次抗体:抗−ポリ−(ADP−リボース)−抗原;マウス、Biomol;カタログ番号SA−216;二次抗体:抗マウス、AP;Sigma A9316)を用いて、細胞条件下、PARP阻害を測定するための半定量アッセイを実施した。図8に示すように、KCN/グルコース欠乏による神経細胞の虚血性傷害(前記方法のセクションで他に記載したとおり)は、この抗体を用いて染色されるもの、特に100〜250 kDの範囲にある多くのタンパク質のかなりの増加を誘起する。この効果は、神経保護濃度のLS−75の添加により逆転される;ここで、我々は、それぞれ、1及び10μMのLS−75の存在による、虚血性傷害の間のポリ−ADP−リボシル化タンパク質の減少を示す。これらの効果のIC50は、1μM未満(およそ0.3μM)である。
【0078】
総合すれば、R&Dアッセイにおいて、ヒストンミックス及びビオチン化NAD及び組み換え単量体PARP−1を用いる;IC50は〜20μMである。細胞条件下、PARP−1は、トポイソメラーゼ1、14−3−3g、及びPARP−1自身を含む多数の核タンパク質をポリ−ADP−リボシル化する。従って、細胞条件下、PARP−1の自己修飾及び二量化は、その活性を制御しており、さらに、PARG(ポリ−ADP−リボシル−グリコヒドロキシラーゼ)との緊密な相互作用が存在する。
【0079】
適切なウエスタンブロットによるポリ−ADP−リボシル化タンパク質の定量化は、in vitroにおける神経保護作用の用量反応関係及びタイムフレームと完全に一致する;従って、我々は、R&Dアッセイの条件は、PARP−1活性の細胞条件を部分的にのみ反映すると結論付ける。
【0080】
(2.7 ピレンゼピン及び関連化合物の血液脳関門の通過)
ピレンゼピン及びその代謝産物であるLS−75の血液脳関門(BBS)の通過を測定した。図6にすでに示したとおり、虚血の間の、例えばLS−75などの神経保護効果は、コレステロール除去剤(depleting agent)であるメチル−b−シクロデキストリンが神経保護作用を妨げたことから、(脂質ラフト形成)コレステロールの存在によって決まるようである。これは、これらのラフトが、根底にあるシグナル伝達において重要な役割を担うという考えと一致する(図7も参照されたい)。図9に示すとおり、我々は、標準HPLC検出(Dusci et al., (2002) J. Chromatogr. B, 773, 191 ff. and Huq et al., (2003) Simplified method development for the extraction of acidic, basic and neutral drugs with a single SPE sorbent−strata X;Phenomenex Inc. Torrance, CA, USA;Application note SPE/TN−004による)を用いて、試験動物の血清及び脳脊髄液(CSF)中のピレンゼピン及びその2種類の主要な代謝産物(dm−ピレンゼピン及びLS−75)を定量化した。これらの実験のために、それぞれ32匹のラットのセットに、屠殺後3時間又は6時間のいずれかにおいて、50 mg/kgのピレンゼピン又はLS−75を与え、ついでその血漿及びCSFを回収した(128頭の動物);これらの実験原理の基礎をなす、ピレンゼピンの薬物動態及びバイオアベイラビリティに関する入手可能な情報についての文献は、例えば:Jaup and Blomstrand, 1980, Scand. J. Gastroenterol. 66, 35ff.;Homon et al., 1987, Therapeutic Drug Monitoring 9, 236ffなどである。
【0081】
我々の結果により、約2〜3時間の血漿におけるピレンゼピン及びdm−ピレンゼピンのピーク濃度が示される;ラットにおいて、これら2種類の物質の脳への通過は、ほとんど起こらないようである(図10)。さらにもう1セットの動物実験において、我々は、同一セットの試験ラットを、50 mgのピレンゼピン及びLS−75の強制経口投与の前に、14日間、0.15 mg/日の濃度で、コレステロール生合成の律速酵素である3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムAレダクターゼの強力な阻害剤として作用する抗生物質であるメバスタチンで予め処理した。我々は、血漿中においては、約50%より高い濃度のピレンゼピン、dm−ピレンゼピン、及びLS−75を発見したが、CSFにおいてはLS−75がはるかに少なかった(データは示していない)。これは、ピレンゼピンが、膜のコレステロールに富む部分に分配され、これがLS−75のBBB通過と関連し得ることを示唆している。
【0082】
(2.8 in vitroにおける神経保護効果)
LS−75を直接適用した場合には、図11に示すとおり、BBBの実質的通過が起こる;重要なポイントは、ピレンゼピン適用後であっても、より長いピーク時間を伴うが、脳におけるLS−75代謝産物の量の増加が観察されることである。換言すれば、ピレンゼピンは、より活性のPARP−1阻害剤であるLS−75を脳へと輸送するためのビヒクルとして役立つ;これは、完全に新しい原理である:潜在的に、ピレンゼピンのムスカリン結合部位は、分子全体(末梢中ではあまり抗PARP−1活性ではない)をコレステロールに富むラフトに標的化し、その後、分子の活性部分(この場合は、代謝産物でありPARP−1阻害剤であるLS−75)を脳へとデリバリーするのにちょうど役に立つ。我々は、コレステロールに富むラフト、又はラフトタンパク質(ここでは、ムスカリンレセプター)と結合し、それに続いて、分子全体の活性部分のBBB通過を可能にし、この場合、脳におけるPARP−1阻害剤(LS−75)を豊富にする一部分を有する、二重態様の関連物質を請求する。
【0083】
in vivo実験において、外傷性脳損傷(TBI)に関連して、我々は、外傷対側のニューロンに対する神経保護効果を示すことができた。TBIにおいては、おそらくカルシウム/グルタメートにより促進されるプロアポトーシスメカニズムに起因して、損傷とは反対の部位での二次的な神経変性が非常に多くの場合に起こる。
【0084】
頭蓋穿孔を介して硬膜に直接的なショックを与える動物モデルを以下のスキームに従って処理した:ビヒクル、LS−75、研究を開始するグループごとに8頭の動物、2頭のスペア動物;損傷後44時間で動物を犠牲にし、評価項目は、生存、損傷後サイン、FLB(Fast Luxol Blue)及びEMAP(内皮、単球、活性化ペプチド)染色による損傷サイズである。投薬は、損傷2時間前に100 mg/kgを腹腔内投与;損傷2時間後に40 mg/kgを腹腔内投与;損傷8時間後に40 mg/kgを腹腔内投与;損傷17時間後に40 mg/kgを腹腔内投与;損傷25時間後に40 mg/kgを腹腔内投与;損傷34時間後に70 mg/kgを腹腔内投与;製剤化:LS−75を、乳鉢と乳棒で、DMSOスラリー(溶液ではない)として調製し、DMSOが4%の最終濃度に達するまで、すりつぶしながらゆっくりと生理食塩水を添加する。
【0085】
懸濁液を室温で保持し、調製物を研究の期間中使用する。用量を変えるために、注入される体積を変更してよい。100 mg/kgに対する体積は、4 mL/kgであった。
【0086】
図12及び13に、対応する結果を示す。実験動物モデルにおける外傷性脳損傷(TBI)の導入後44時間では、ビヒクルコントロールと比較して、LS−75処理動物においては、およそ50%まで二次損傷が低減した。EMAPは、44時間において、細胞の明確なラベリングを産生した。EMAPラベルは、損傷の直接領域と広範に関連していた。「盲検化(blinded)」神経生理学者が分析を行い、以下のように述べた:「1つのグループでは、EMAP染色は損傷部に限定されているようであるが、別のグループでは、この染色はより拡散し、脈管と関連している」。拡散染色が見られたのは、ビヒクルグループであった。
【0087】
HE及びLuxol Fast Blueによる形態学的染色は、対側脳半球の細胞における変化を示すのに共に有用であった。しかし、Luxol Fast Blueは、より急速に観察される染色を生じることから、ここではこちらに焦点を当てた。LFBによる染色の増加は、細胞が変形状態におり、おそらくリン脂質の動員(mobilization)を反映し、従って神経細胞損傷を反映することを示している。
【0088】
(2.9 結論)
我々の結果は、ピレンゼピン及び関連化合物、特にPBD/LS−75が、PARPと結合し、PARP阻害剤として作用することを明白に示している。
【0089】
ピレンゼピン、及びLS−75などの関連化合物のこの特性は、以前には知られておらず、ピレンゼピン及び関連化合物が、医学的応用のための細胞保護剤として用いられ得るという結論を可能にする。二重の作用機序(M1ムスカリンレセプター阻害及びPARP阻害)に起因して、これらの化合物は、純粋なPARP阻害剤を超える優れた特性を有するだろう。
【0090】
これらの化合物及び他の関連化合物の細胞保護特性は、むしろ、これまで知られていなかった二重の作用機序、すなわち、ムスカリン/PARP作用機序に起因する。この新規の混合活性タイプは、先に概説したとおりの様々な適応症の治療のための新規細胞保護剤の同定のために、存在する化学ライブラリーの新たな高処理能スクリーニングに用いることができる。
【0091】
一般的に、本発明は、神経系疾患の予防又は治療のための、二重M1/PARP1調節活性を有する化合物の細胞保護特性に関する。
【0092】
[実施例2:SIR2阻害又は相互作用]
(1. 材料及び方法)
(1.1 SIR2活性試験)
SIR2活性の測定のために、NAD−依存性ヒストンデアセチラーゼ活性CycLex(登録商標)SIR2アッセイキット(カタログ番号CY−1151)の定量試験キットを、製造者の指示(CycLex Co., Ltd. 1063−103 Ohara, Tera−Sawaoka Ina, Nagano 396−0002 Japan)に従って使用した。
【0093】
(1.2 ウエスタンブロット)
様々なSIR2含有フラクション由来のゲルを、標準手順に従って、ニトロセルロース膜にブロットした。タンパク質を、高感度ケミルミネッセンス(ECL)を用いて可視化し、その際、Sir 2染色のために以下の抗体を用いた:一次抗体:A−SiR 2(Upstate, biomol 07−131;Lot:22073);5%BSAr/1×TBST中1:5000;二次抗体:A−ウサギPE(A−0545);5%BSA/1×TBST中1:1000。
【0094】
(2. 結果)
(2.1 ペレンゼピンアフィニティタグとのSIR2の相互作用、ペレンジピン標的としてのSIR2の同定)
図3cは、V56細胞抽出物の1Dゲルを特異抗体で免疫染色することにより実証されるとおり、実施例1に従って調製されたピレンゼピンアフィニティタグは、SIR2と不可逆的に結合し、この追加標的の濃縮を提供することが示されている。詳細については、図3の説明に示す。
【0095】
(2.2 SIR2活性試験)
Sommer et al., (2004) に記載されたとおりのネズミ科の胚幹細胞由来の粗抽出物と、記載したとおりの市販のSIR2活性試験を用いて、薬剤で処理していない粗抽出物と比較して、以下の値を記録した。
【0096】
SIR−2活性試験の結果を図4に示す。ピレンゼピン及びPBD/LS−75は、明らかに、SIR−2と結合し、弱い阻害効果を有する。これは、関連化合物の新規の構造/活性関連研究のための対応するスクリーニングに途を開く。
【0097】
(2.3 結論)
我々の結果は、ピレンゼピン及び関連構造が、SIR−2と結合し、弱いSIR−2阻害剤として作用できること明白に示している。
【0098】
ピレンゼピン及び関連化合物のこの特性は、以前には知られていなかった。この作用機序に起因して、これらの化合物は、細胞保護剤として用いられ得るし、純粋なPARP阻害剤を超える優れた特性を有するだろう。
【0099】
従って、本発明はまた、一般的には、組み合わされたM1/PARP1/SIR−2調節活性を有する細胞保護特性にも関する。さらに、本発明の物質は、図6に示されるとおり、脂質ラフトと称されるコレステロールに富む膜ドメインを介してこの効果を媒介するようであり、従って、一般的には、これらの脂質ラフトと関連する以下のようなタンパク質の特別な集合を介して作用するか、又はこの特別な集合を標的とする:ニューレグリン、ヘパランサルフェート結合タンパク質、NMDAレセプター、ニコチン性レセプター、GABAAレセプター、ErbBレセプター、及び他のもの。脂質ラフト集合の概要を図7に示す。
【0100】
[実施例3:神経細胞及び非神経細胞のLPSチャレンジ及び化学的虚血における、Cox−2及びiNOSの発現]
本明細書に記載の様々な細胞傷害モデルにおいて、アポトーシス性及び炎症誘発性マーカー、例えばCox−2などの増加を伴うアポトーシス細胞死をその後に導く、細胞の最初のカルシウム過負荷が常に観察される(図2c及びLPS実験の対応する結果を参照されたい)。
【0101】
(結論)
ピレンゼピン、及びPBD/LS−75などの関連化合物の神経保護効果、より一般的にはその細胞保護効果は、一方では、PARP−1及びSIR−2結合及び阻害を介して媒介されているようであり、他方では、いわゆる脂質ラフトにおける膜関連タンパク質複合体の特別な集合を必要とするようである。
【0102】
前記物質に関連して本明細書で適用される、全ての異なる細胞チャレンジの共通の特徴は、最初の細胞毒性カルシウム過負荷であり、これは、その後、PARP−1/iNOS/cox−2染色により実証されるとおり、炎症性及びアポトーシス性イベントを進める。従って、本発明は、カルシウム過負荷及び炎症性/アポトーシス性イベントが、主要な役割を担うか、又は潜在的に重要であると考えられる全ての疾患適応症の治療としてのこれらの物質の使用を包含する。これには、神経系疾患及び神経系疾患と関連する炎症状態が含まれ、特に、アルツハイマー病及びパーキンソン病、外傷性脳損傷、ALS、多発性硬化症、片頭痛及び慢性疼痛症候群、並びに上述したとおりの他の病気が含まれる。
【0103】
従って、本発明は、一般的には、組み合わされたM1/PARP1/SIR2調節活性を有する細胞保護特性に関する。
【0104】
[参考文献]


【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】図1には、ピレンゼピン関連不可逆的アフィニティタグ(11)の合成を示す。
【図2】図2には、以下を示す:ピレンゼピン及びその代謝産物であるLS−75の化学構造(図2a);記載した条件下、化学的虚血から神経細胞死を防ぐ、1μMのピレンゼピンのin vitroにおける神経保護効果の例(図2b);虚血性傷害又はLS−75によるそれぞれの救助の経過の間、アポトーシス及び炎症マーカーであるPARP−1、Cox−2、及びiNOSの濃度を、対応するウエスタンブロットにより定量化した(図2c);KCN(45分間、3mM KCN)及びβ−アミロイド(10μM β−アミロイド 1−40)でのチャレンジ後、ピレンゼピン及びLS−75存在下でのニューロンの生存を示す(図2d及び2e);ピレンゼピン及びLS−75の神経保護EC50値に関して、3種類の異なるチャレンジ(興奮毒性、虚血、及びβ―アミロイド誘起)後のこれらの実験の概要を示す(図2f)。
【図3】図3には、以下を示す:アフィニティ濃縮後に得られたフラクションの1Dゲルの銀染色を図3aに示す;レーン1〜6、8〜17はコントロールであり、レーン7は、113及び89 kDの顕著なバンドと、110 kDの弱いバンドを有するピレンゼピンアフィニティタグ濃縮物質である;図3bには、特異的抗PARP−1抗体を用いた、V56細胞抽出物の1Dゲルの免疫染色を示す。レーン16はAll Blue Markerであり、17は尿素抽出物であり、18はNP−40抽出物である;レーン19〜22は、ピレンゼピンアフィニティカラムからの溶出液である;図3cには、方法のセクションに従って調製されたピレンゼピンアフィニティタグが、V56細胞抽出物の1Dゲルを特異的抗SIR−2抗体で免疫染色することにより実証されるとおり、SIR−2と不可逆的に結合し、タンパク質の濃縮を提供することが示されている。レーン28及び39は、分子量マーカーである;29及び38は、粗抽出物である;30/31は、不可逆的ピレンゼピンアフィニティタグとともに抽出物を一晩インキュベートした後の、溶出液1及びフロースルー1である;32/33は、不可逆的ピレンゼピンアフィニティタグでブロッキングされたストレプトアビジンアガロースビーズとともに粗抽出物を一晩インキュベートしたコントロールである;34/35は、5'−AMP−セファロースビーズ(Sigma, A3019)とともに粗抽出物を一晩インキュベートしたコントロールである;36/37は、不可逆的ピレンゼピンアフィニティタグと結合したストレプトアビジンアガロースビーズを加えずに、粗抽出物を一晩インキュベートしたコントロールである。
【図4】図4には、ピレンゼピン及びその誘導体であるLS−75によるSIR−2及びPARP−1の阻害を示す。上方部には、対応する酵素活性が、ピレンゼピン及びLS−75の濃度の増加に対してプロットされている。ネガティブコントロールとして、典型的なPARP−1阻害剤であるフェナントリドン及び典型的なSIR−2阻害剤であるニコチンアミドを用いた(図4a)。図の下方部の表は、全ての物質に対するそれぞれのIC50値を示しており、LS−75は、中程度に強いPARP−1阻害剤であるようだ。ピレンゼピンは、むしろ弱いPARP−1阻害剤である。両方の物質は、弱いSIR−2阻害剤である(図4b)。
【図5】図5には、ピレンゼピン及びLS−75(ここで示される)が、LPSチャレンジ(100 ng/mL、60分間)から保護することを示している:図5aは、3T3線維芽細胞の保護;図5bは、A549細胞の保護;図5cは、未分化V56胚幹細胞の保護;図5dは、神経分化V56胚幹細胞の保護を示す。
【図6】図6には、ピレンゼピン及びLS−75(ここで示される)の効果が、コレステロールに富む脂質ラフトの存在に依存することを示している。メチル−β−シクロデキストリンを添加することによってコレステロールを減少させる、これらのラフト崩壊の確立された方法により、神経保護効果が(図示していないが、一般的な細胞保護効果も)低減する。
【図7】図7には、神経系脂質ラフトの構成及び構成成分を示す。これらの機能的膜コンパートメントは、特異的な一連の膜タンパク質の集合及び活性を制御する、ニューレグリン(NRG)、ヘパランサルフェート結合タンパク質(HSPG)、及び二量体ErbBレセプター(ErbB)の活性依存性相互作用により組織化され、最も重要な神経生理学的/神経病理学的過程の一部に必須である。これらのうちのいくつかは、アルツハイマー病(ADと記す)及び/又は統合失調症(SCH)に対する遺伝的危険因子として最近同定された。nAChRa7はニコチン性アセチルコリンレセプターアイソフォーム(AD, SCH)であり、NMDARはイオンチャネル型グルタメートレセプターアイソフォームであり、NRGはニューレグリン(AD, SCH)であり、APPはアミロイド前駆体タンパク質(AD)であり、GABAARはγ−アミノ酪酸−ゲーティッドクロリドチャネルである;pTyrはホスホ−チロシンを表す;Choとは、コレステロール(ADに対する危険因子であるApoE4と関連する)及びスフィンゴ脂質を含有する脂質ラフトである;Exは細胞外を表す;Mは膜コンパートメントを表す;Inは細胞内を表す;脂質ラフトはまた、非神経細胞及び一般的には炎症及びアポトーシスに関連するメカニズムに影響を及ぼす。
【図8】図8には、細胞条件下、LS−75がポリ−ADP−リボシル化を妨げることを示す。KCN/グルコース欠乏による神経細胞の虚血性傷害は、この抗体を用いて染色されるもの、特に100〜250 kDの範囲にある多くのタンパク質のかなりの増加を誘起する。この効果は、神経保護濃度のLS−75の添加により逆転される;ここで、我々は、それぞれ、1及び10μMのLS−75の存在による、虚血性傷害の間のポリ−ADP−リボシル化タンパク質の減少を示す。これらの効果のIC50は、1μM未満(およそ0.3μM)である。
【図9】図9には、HPLC及び紫外線吸収検出による、血漿及び脳脊髄液(CSF)中のピレンゼピン及びその2種類の主要な代謝産物であるデスメチル−ピレンゼピン(dm−ピレンゼピン)及びLS−75(PBD)の濃度の測定を示す;AUは任意単位である;ピレンゼピン及びdm−ピレンゼピンは244 nmで検出される;LS−75(PBD)は330 nmで検出される;両方の波長で吸収されるクロザピンを、内部標準として常に使用する;それぞれの保持時間を、対応するピークの隣に分単位で示す。
【図10】図10には、50 mg ピレンゼピンの経口適用後約3時間で、ピレンゼピン及びdm−ピレンゼピンがピーク濃度に達することが示されており、グラフの左部分は、3時間後の試験ラットの血漿(PLS)及び脳脊髄液(CSF)における対応する濃度を示し、右部分は6時間後のものをそれぞれ示す。
【図11】図11には、試験動物の血漿及びCSF中のLS−75の検出により、物質が血液脳関門(BBB)を通過し、ピレンゼピン適用後、脳において富化されることが示されている。図11の左部分は、3及び6時間後の血漿(PLS)及びCSF中のLS−75濃度を示している;6時間後、CSF中のLS−75レベルがかなり増加する;右部分には、LS−75適用後(3及び6時間後)のLS−75濃度を示す:LS−75の25〜30%が血液脳関門を通過する。
【図12】図12には、組織崩壊に関連する制御された皮質衝撃損傷(cortical impact injury)(CCI)(開頭、硬膜に金属製ピストン)の外傷を、保護効果に関して評価した結果を示す:対側海馬において、細胞損傷に対するマーカー(fast luxol blue及びEMAP)は、コントロールと比較して、LS−75処理動物では40〜60%減少した。
【図13】図13には、組織崩壊に関連する制御された皮質衝撃損傷(cortical impact injury)(CCI)(開頭、硬膜に金属製ピストン)の外傷を、保護効果に関して評価した結果を示す:対側海馬において、細胞損傷に対するマーカー(fast luxol blue及びEMAP)は、コントロールと比較して、LS−75処理動物では40〜60%減少した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞保護剤、特に神経保護剤の製造のための、下記式I:
【化1】

[式中、
A及びBは、N、S、及びOから選択される少なくとも1つのヘテロ原子を任意選択で含んでいてもよい5員又は6員環であって、前記環は、ハロ、C1〜C4−(ハロ)−アルキル、C1〜C4−(ハロ)−アルコキシ、アミノ、C1〜C4−アルキル−アミノ、又はジ(C1〜C4−アルキル)アミノで任意選択で一置換又は多置換されていてもよく;
Wは、S、O、NR1、又はCHR1であり;
R1は、水素、Y、又はCOYであり;
R2は、水素又はC1〜C4−(ハロ)−アルキルであり;かつ
Yは、C1〜C6(ハロ)アルキル又はC3〜C8シクロ−(ハロ)−アルキルであって、ここで、前記アルキル又はシクロアルキル基は、N、S、及びOから選択される少なくとも1つのヘテロ原子を任意選択で含んでいてもよい5員又は6員環で任意選択で置換されていてもよく、前記環は、ハロ、C1〜C4−(ハロ)−アルキル、C1〜C4−(ハロ)−アルコキシ、アミノ、C1〜C4−アルキル−アミノ、ジ(C1〜C4−アルキル)アミノ、又はZで任意選択で一置換又は多置換されていてもよく;
Zは、N(R4)2基でω−置換されたC1〜C6−(ハロ)−アルキル基であって、ここで、R4は、それぞれ独立に、水素、C1〜C8アルキル、若しくはCO−C1〜C8−アルキルであるか、又は両方のR4が一緒になって、N、S、及びOから選択される少なくとも1つのさらなるヘテロ原子を任意選択で含んでいてもよい5員若しくは6員環を形成しており、前記環は、ハロ、C1〜C4−(ハロ)−アルキル、及びC1〜C4−(ハロ)−アルコキシで任意選択で一置換又は多置換されていてもよい]
の化合物、又はこれらの塩若しくは誘導体の使用。
【請求項2】
神経系のPARP−1関連疾患の予防又は治療用薬剤の製造のための、請求項1記載の使用。
【請求項3】
神経変性状態又は神経炎症状態の予防又は治療用薬剤の製造のための、請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
認知症、パーキンソン病、アルツハイマー病、発作、統合失調症、又は癲癇;痛み、又は眼疾患を伴う、神経変性状態又は神経炎症状態の予防又は治療用薬剤の製造のための、請求項1乃至3のいずれか一項記載の使用。
【請求項5】
胃腸系の潰瘍状態又は他の炎症状態の予防又は治療用薬剤の製造のための、請求項1記載の使用。
【請求項6】
前記A及びB環式基が、下記式:
【化2】

[式中、
Xは、N又はCR3であり;
V1、V2、又はV3は、−O−、−S−、及びNR6から選択され;
R3は、ハロ、C1〜C4−(ハロ)−アルキル、C1〜C4−(ハロ)−アルコキシ、アミノ、C1〜C4−アルキル−アミノ、又はジ(C1〜C4−アルキル)アミノであり;
mは、0〜2の整数であり;かつ
R6は、水素又はC1〜C4−(ハロ)アルキルである]
から選択される、請求項1乃至5のいずれか一項記載の使用。
【請求項7】
前記A及びB環式基が、下記式:
【化3】

[式中、
R3は、請求項6中で定義したとおりであり;
mは、0〜2の整数であり;
rは、0又は1であり;かつ
R6は、水素又はメチルである]
から選択される、請求項6記載の使用。
【請求項8】
R1がYであり、YがC3〜C8−シクロ(ハロ)アルキルである、請求項1乃至7のいずれか一項記載の使用。
【請求項9】
R1がCOYであり、Yが、下記式:
【化4】

[式中、
R7は、水素、ハロ、又はC1〜C4−(ハロ)アルキルであり;
qは、1〜4の整数であり、好ましくは1であり;かつ
R8は、少なくとも1つのヘテロ原子を任意選択で含んでいてもよい5員又は6員環であって、ここで、前記環は、C1〜C4(ハロ)アルキル又は請求項1中で定義したとおりのω−アミノ−置換アルキルZ基で任意選択で一置換又は多置換されていてもよい]
から選択される、請求項1乃至7のいずれか一項記載の使用。
【請求項10】
R8が、下記式:
【化5】

[式中、R9は、水素又はC1〜C4(ハロ)アルキルであり、R10は、請求項1中で定義したとおりのω−アミノ−置換アルキルZ基である]
から選択される、請求項9記載の使用。
【請求項11】
前記式Iの化合物が、ピレンゼピン、LS−75、オテンゼパド、AQ−RA741、ビラミューン、BIBN 99、DIBD、テレンゼピン、及びこれらの塩又は誘導体から選択される、請求項1乃至10のいずれか一項記載の使用。
【請求項12】
細胞保護剤、特に神経保護剤の製造のための、
(i)M1ムスカリンレセプター阻害剤であり、かつ
(ii)PARP阻害剤である、
化合物の使用。
【請求項13】
細胞保護剤、特に神経保護剤の製造のための、
(i)M1ムスカリンレセプター阻害剤であり、
(ii)PARP阻害剤であり、かつ
(iii)SIR2モジュレーターである、
化合物の使用。
【請求項14】
前記化合物が、中程度に強いPARP阻害剤である、請求項12又は13記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図2b】
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【図2d】
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【図2e】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2008−506660(P2008−506660A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520780(P2007−520780)
【出願日】平成17年7月18日(2005.7.18)
【国際出願番号】PCT/EP2005/007804
【国際公開番号】WO2006/008118
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(507014276)プロテオシス・アーゲー (2)
【Fターム(参考)】