説明

細胞培養用非孔質フィルム

本発明は、細胞培養用のコラーゲン性ポリペプチドフィルムに関する。詳しくは、本発明は、重度の火傷又は物理的若しくは化学的損傷などの創傷の治療に用いられる上記フィルムに関する。本発明はまた、上記フィルムの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養用フィルム又は細胞の培養が可能なフィルムを含むゼラチンに関する。詳しくは、本発明は、重度の火傷又は皮膚の物理的若しくは化学的損傷、又は疾病により生じた創傷などの創傷の治療に用いられる上記フィルムに関する。本発明はまた、上記フィルムの製造方法及び上記フィルムの使用に関する。本発明のさらなる態様においては、上記フィルム上で成長させたヒト人工皮膚、及びそれらの製造方法が提供される。
【背景技術】
【0002】
細胞培養用のフィルムは、例えば、重度の火傷又は機械的若しくは化学的損傷などにより生じた皮膚の創傷治療に、又は広範囲に及ぶ皮膚の喪失が生じた疾病に用いられている。広範囲に及ぶ皮膚の喪失が急性の場合、一般に、治療には2つの段階が伴う。第一段階では、フィルム材料の要件は、創傷からの水分流出の制御及び病原菌からの遮断などの短期的要件に向けられたものとなる。第二段階では、非抗原性及び皮膚の再生などの長期的作用が考慮される。
【0003】
そうした材料は、その開発の矛先が、例えば、欧州特許第0686402号明細書、国際公開第03/101501号パンフレットに記載されているように、より複雑化した多層材料に向けられている。多くの特許出願が、例えば、欧州特許第0177573号明細書、欧州特許第0403650号明細書、欧州特許第0403650号明細書、欧州特許第0411124号明細書、欧州特許第0702081号明細書、米国特許第4016877号明細書、米国特許第4294241号明細書にあるように、多孔質マトリックスの架橋を行う前に、例えば凍結乾燥によるコラーゲン原線維の形成及び多孔質膜の形成を必要とする、多孔質コラーゲン又はゼラチンマトリックス又は海綿体の使用について開示している。
【0004】
創傷治療への応用においては、線維芽細胞層及びケラチン生成細胞層は、コラーゲン又はゼラチンマトリックス上で培養される。そうした培養において、線維芽細胞及び/又はケラチン生成細胞は、コラーゲン又はゼラチンマトリックスの多孔性のため、通常は実際にマトリックス材料に包埋されている。欧州特許第0243132号明細書は、不溶性コラーゲンフィルム上での線維芽細胞の培養及びその後の線維芽細胞層の上でのケラチン生成細胞の培養について記載しているが、線維芽細胞層とケラチン生成細胞層とが接触していることが短所となっている。
【0005】
国際公開第80/01350号パンフレットは、線維芽細胞が包埋されたコラーゲン層上でケラチン生成細胞を培養することによる、生組織の製造について開示しているが、これは、線維芽細胞層とケラチン生成細胞層とが接触しているということも意味している。
【0006】
国際公開第91/16010号パンフレットは、ヨウ素で安定化され、線維芽細胞を含む多孔質コラーゲン海綿体の上に積層された非孔質コラーゲンゲルを基盤とする複合材料について記載している。ケラチン生成細胞は、安定化されたコラーゲンゲル上で培養される。生分解が速くなりすぎないように、多孔質コラーゲン海綿体は架橋されている。
【0007】
組換えコラーゲン又はゼラチンの使用は、例えば、国際公開00/09018号パンフレットに開示されているが、記載されているのは、コラーゲン原線維の架橋海綿体の形成についてである。国際公開04/78120号パンフレットも、組換えコラーゲン由来の多孔質構造について開示している。
【0008】
フィルムは、例えば、医療品、薬品、又は化粧品を含む局所塗布物に対するアレルギー反応のテストにも使用されている。
【0009】
上述した材料があるにも関わらず、皮膚の喪失を伴う創傷の治療に適した細胞培養用代替フィルムへの必要性は、依然として存在している。
【特許文献1】欧州特許第0686402号明細書
【特許文献2】国際公開第03/101501号パンフレット
【特許文献3】欧州特許第0177573号明細書
【特許文献4】欧州特許第0403650号明細書
【特許文献5】欧州特許第0411124号明細書
【特許文献6】欧州特許第0702081号明細書
【特許文献7】米国特許第4016877号明細書
【特許文献8】米国特許第4294241号明細書
【特許文献9】欧州特許第0243132号明細書
【特許文献10】国際公開第80/01350号パンフレット
【特許文献11】国際公開第91/16010号パンフレット
【特許文献12】国際公開第00/09018号パンフレット
【特許文献13】国際公開第04/78120号パンフレット
【発明の開示】
【0010】
本発明の目的は、ヒト人工皮膚の同等物を作製するのに適したフィルム及びそのような皮膚同等物を作製する方法を提供することにある。その表面上で自己細胞の速やかな増殖が可能となるフィルムであって、フィルムに対する細胞の付着(接着性)及び自己細胞の細胞間結合を増大させるフィルムを提供することを、特に目的としている。より詳しくは、ヒト皮膚の完全な同等物の提供を目的としている。本発明のさらなる目的は、そのようなフィルムを安価に、効率的に、速いスピードで製造する方法を提供することにある。
【0011】
このように、本発明の目的は、生分解性の調整が可能なヒト及び/又は哺乳動物細胞の培養に適した非抗原性フィルムを提供することにあり、特に、ポリペプチド及びタンパク質などの、25キロダルトンまでの分子に対して透過性のあるフィルムを提供することを目的としている。
【0012】
また、本発明の目的は、医療品、薬品、又は化粧品用の試験基質として適切なフィルムを提供することにある。特に、フィルム上に存在する生細胞又は生存細胞に接触している化合物の作用に関する試験が可能である。
【0013】
驚くべきことに、これらすべての目的が、少なくともその片面に生細胞又は生存細胞を含む層を有する非孔質フィルムであり、前記非孔質フィルムは少なくとも5つの連続したGXYトリプレットの長さをもつ少なくとも1つのGXYドメインを含むコラーゲン性ポリペプチドを含み、ここでX及びYはそれぞれ任意のアミノ酸を示し、前記コラーゲン性ポリペプチドのアミノ酸の少なくとも20%が、連続したGXYトリプレットの形態で存在する非孔質フィルムであって、摂氏37度の脱塩水中に24時間置かれた際のフィルムの厚さが、最大でも当初の厚さの10倍であることを特徴とする非孔質フィルムによって、達成されることがわかった。
【0014】
かかる非孔質フィルムは、好ましくは、少なくとも5つの連続したGXYトリプレットの長さをもつ少なくとも1つのGXYドメインを含むコラーゲン性ポリペプチドを含み、ここでX及びYはそれぞれ任意のアミノ酸を示し、前記コラーゲン性ポリペプチドのアミノ酸の少なくとも20%が、連続したGXYトリプレットの形態で存在するものであって、コラーゲン性ポリペプチド1グラム当たり0.02ミリモル〜5.0ミリモルの架橋化合物を添加することによって、前記フィルムが架橋されていることを特徴としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
広範囲に及ぶ皮膚の喪失が生じた場合、一般に創傷の治療は二段階で行われる。各治療段階の要件に特異的に適合させることが可能なフィルム、又は、より詳しくは、所望の生分解速度に特異的に適合させることが可能なフィルムであり、その一方で、フィルム上での細胞培養に関与する化合物、具体的にはフィルムの両面で細胞増殖を促進する化合物に対し、十分な透過性を有するフィルムへの必要性は、依然として存在している。
【0016】
本発明者らは、膨潤挙動と透過性を慎重に選択することにより、各治療段階の要件に適合するようなフィルムの作製が可能であることを見出した。膨潤挙動とは、液体中に置かれた場合に、非孔質コラーゲン性ポリペプチドフィルムの当初の厚さが増大することである。当該技術においては、特に線維芽細胞及びケラチン生成細胞が、あるマトリックス内又は異なる複数のマトリックス内に存在する場合、栄養素及び成長因子などの創傷治癒に関与する化合物に対する十分な透過性を提供するには、少なくとも1ミクロンの孔径が必要であると教示されている。例えば、欧州特許第0702081号明細書及びその中の第4カラム、44〜49行目の参考文献を参照のこと。しかし、本発明者らは、非孔質フィルム又は平均孔径が1ミクロン未満のフィルムが水分を取り込めること及び創傷治癒に関与する化合物に対する透過性を有していることを見出した。先行技術においては、生分解が速くなりすぎないようにするには架橋が必要であることは早くも1976年又はそれ以前に認識されていたが、架橋の程度を有利に利用して、膨潤性、引いては生分解性及び透過性を調節できることは、これまで認識されていなかった。したがって、創傷治療用組成物の調製における本発明のフィルムの使用は、本発明の一態様である。少なくともその片面に生細胞又は生存細胞を含む層を有する非孔質フィルムであり、摂氏37度の脱塩水中に置かれた際に非孔質フィルムの厚さが当初の厚さの10倍まで増大する非孔質フィルムを提供することによって、本発明のフィルムを用いて、特定の治療、特に、第一段階又は第二段階の治療に対応することができる。所望の透過性又は生分解性に応じて、フィルムは水中でその元の厚さの最大で8倍、又は最大で6倍、又は最大で4倍に膨潤する。フィルムが、水中でその元の厚さの少なくとも2倍に膨潤することが好ましい。特に、所望の架橋程度を有し、そのため所望の生分解速度及び透過性もインビボ(皮膚創傷との接触後、例えば、第一治療段階又は第二治療段階)で有している非孔質フィルムを製造するための方法が開発されている。本発明のある実施形態では、所望の、あらかじめ定められた架橋程度を有するフィルムは、少なくとも5つの連続したGXYトリプレットの長さをもつ少なくとも1つのGXYドメインを含むコラーゲン性ポリペプチドを含み、ここでX及びYはそれぞれ任意のアミノ酸を示し、前記コラーゲン性ポリペプチドのアミノ酸の少なくとも20%が、連続したGXYトリプレットの形態で存在している、(少なくともその片面で生細胞又は生存細胞を培養するのに適した)非孔質フィルムである。ある実施形態では、本発明のフィルムは、1以上の架橋化合物を、コラーゲン性ポリペプチド1グラム当たり0.02〜5.0ミリモルの量で、好ましくは、0.1〜1.0ミリモル/gの量で添加することによって、架橋されている。別の実施形態では、架橋化合物はまったく存在しないが、照射(radiation)によって(同等の)架橋程度が達成されている。さらに別の実施形態では、照射と1以上の架橋化合物の添加とを組み合わせることによって、架橋が達成されている。
【0017】
本発明の方法及びフィルムのさらなる利点としては、多孔質構造を構築する際には必要となる原線維を形成するステップが、もはや行われないことがある。また、多孔質材料を得る際に付随する凍結乾燥ステップも、もはや行われることはなく(両ステップとも、いまだに任意で実行されることもあるが)、そのため、人工皮膚の製造に伴う時間とエネルギーが減少し、本発明の非孔質フィルムの効率的かつ高速での製造が可能になる。
【0018】
「非孔質(non-porous)」との語は、例えば欧州特許第0177573号明細書、欧州特許第0403650号明細書、欧州特許第0403650号明細書、欧州特許第0411124号明細書、欧州特許第0702081号明細書、米国特許第4016877号明細書又は米国特許第4294241号明細書にあるように、基本的に微小孔が全く形成されていないことを意味する。「多孔質」又は「微多孔質」との語は、あいまいとも受けとめられる語であり、架橋コラーゲン又はゼラチン層を、ナノスケールにおいて「多孔質」であると定義してもよい。最も広い意味においては、この場合の非孔質は、例えば、Dagalakis et. al.(Design of an artificial skin Part III Control of pore structure - Journal of Biomedical Materials Research, Vol. 14, 519 (1980))に記載されている走査電子顕微鏡(SEM)による測定を行った場合に、平均孔径が1ミクロン未満であることを意味する。
【0019】
しかし、非孔質フィルムは、ポリペプチド及びタンパク質などの、5キロダルトンまでの、好ましくは10キロダルトンまでの、より好ましくは25キロダルトンまでの分子に対して透過性がある。球状タンパク質と比較して、例えばコラーゲンなどの線状タンパク質に対する透過性は、最大で30〜40キロダルトンまで高くなる場合がある。
【0020】
ある実施形態においては、コラーゲン性ポリペプチドの架橋が、1以上の架橋剤を添加することによって達成されている。これらは、コラーゲン性ポリペプチド溶液に添加した際に若しくは例えばpHを調節した後に、又は光開始若しくは他の活性化機構によって、自発的に架橋を開始する薬剤を含んでいる。この特定の実施形態においては、コラーゲン性ポリペプチド1グラム当たりの架橋のミリモル数が、コラーゲン性ポリペプチドと反応した架橋剤の量と同等であると定義されている。
【0021】
別の実施形態では、コラーゲン性ポリペプチドの架橋は、UV光線又は電子ビームなどの光線に暴露することによって達成される。本発明のこの特定の実施形態においては、架橋のミリモル数は、照射によって得られる架橋と同数の架橋を得るために添加する必要がある、架橋剤の量であると定義されている。すなわち、照射により、コラーゲン性ポリペプチド1グラム当たり約0.02ミリモル〜約5.0ミリモルの架橋化合物を添加した場合と同程度の架橋が結果的にもたらされる。ある数の架橋を得るために添加される架橋剤の量は、実験により算出又は確認できる。照射の場合、必要な照射時間及び強度は実験により確認されるべきであるが、これは、当業者であれば過度の負担を負うことなくできる範囲のことである。架橋程度は、数種類の方法で確認できる。ある方法では、フィルムを脱塩水に浸して、水分の取り込みによる厚さの増大(膨潤)又は重さの増大を測定することにより、架橋されたコラーゲン性ポリペプチドの膨潤程度を測定する。その後、照射した場合と、さまざまな量の架橋剤を添加した場合とを比較する。膨潤試験の結果を比較することにより、2つの架橋方法間の相関関係が提供される。コラーゲン性フィルムの膨潤を測定する方法は、例えば、Flynn and Levine (Photogr. Sci. Eng., 8, 275 (1964))により記載されている。
【0022】
適切な架橋剤としては、生分解中に放出された際に毒性作用又は抗原性作用を引き出さないものが好ましい。適切な架橋剤としては、例えば、グルタルアルデヒド、水溶性カルボジイミド、ビスエポキシ化合物、ホルマリン、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、N−ヒドロキシ−スクシンイミド、アルキレングリコールジグリシジルエーテル又はポリグリセロールポリグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル、ヘキサメチレンジイソシアネートなどのジイソシアネート、ジフェニルホスホリルアジド、D−リボースのうち、1以上の物質が挙げられる。架橋技術も、Weadock et. al.によって、Evaluation of collagen crosslinking techniques (Biomater. Med. Devices Artif. Organs, 1983-1984, 11 (4): 293-318)に記載されている。好ましい実施形態においては、水溶性1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドが用いられる。
【0023】
ある実施形態においては、フィルムは特に第一段階の治療に適しており、コラーゲン性ポリペプチド1グラム当たり0.02〜1.0ミリモルの架橋化合物を添加することによって架橋されている(又は照射により、それと同等の架橋が誘導されている)。したがって、架橋化合物は、約0.02、0.05、0.1、0.25、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9又は1.0ミリモル/グラム(ポリペプチド)という量で存在している可能性がある。
【0024】
別の実施形態においては、フィルムは特に第二段階の治療に適しており、コラーゲン性ポリペプチド1グラム当たり0.5〜5.0ミリモル、好ましくは約1.0〜2.5ミリモル/gの架橋化合物を添加することによって架橋されている(又は照射により、それと同等の架橋が誘導されている)。したがって、架橋化合物は、約0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、2.0、3.0、4.0及び5.0ミリモル/グラム(ポリペプチド)という量で存在している可能性がある。
【0025】
さらに別の実施形態では、フィルムは、第一段階の治療と第二段階の治療との間の中間体として使用することが可能であり、コラーゲン性ポリペプチド1グラム当たり0.25〜2.5ミリモルの架橋化合物を添加することによって架橋されている(又は照射により、それと同等の架橋が誘導されている)。
【0026】
架橋剤の量を表す別の方法として、ポリペプチド中のリジン残基とのモル比がある。特に組換えにより製造したコラーゲン性ポリペプチドの場合は、リジン残基の数を望み通りに増やすことができる。多くの架橋剤が、リジン残基及び/又はN末端アミンに結合する。天然ゼラチンはアミノ酸1000個当たり25〜27個のリジンを含んでいる。組換えコラーゲン又はコラーゲン性ポリペプチドでは、例えば、アミノ酸1000個当たり約20、15、10若しくは5個と同等、又はそれ未満にまでリジンの数を減少させること、又は、アミノ酸1000個当たり約30、40若しくは50個、又はそれ以上にまでリジンの数を増加させることができる。
【0027】
例えば、204個のアミノ酸からなる配列中に8個のリジンを含む、又は、アミノ酸1000個当たり39個のリジンを含む組換えコラーゲン様ポリペプチドモノマーが、欧州特許第1398324号明細書に記載されている。本発明の非孔質フィルムは、コラーゲン性ポリペプチド中に存在するリジンの量に応じて、リジン1ミリモル当たり0.01〜12.5ミリモル、又は、リジン1ミリモル当たり0.1〜10ミリモル、又はリジン1ミリモル当たり1〜5ミリモルの架橋化合物をコラーゲン性ポリペプチド中に含むことが好ましい。
【0028】
本発明のフィルムを製造するのに適したコラーゲン性ポリペプチドは、天然物、合成物若しくは組換え物、又はそれらの混合物に由来するコラーゲン又はゼラチンである。厳密にはコラーゲンとゼラチンには違いがあるが、こうした違いは本発明に関しては原則として重大なものではない。ただし、具体的な要件により、ある応用についてのコラーゲンかゼラチンかの選択が明白になる場合もある。この点では、「コラーゲン」を「ゼラチン」とも解釈してもよい場合、「コラーゲン性ポリペプチド」を「ゼラチン性ポリペプチド」とも解釈してもよい場合がある。よって、コラーゲン性又はゼラチン性ポリペプチドは、少なくとも5つの連続したGXYトリプレットの長さをもつ少なくとも1つのGXYドメインが存在し、コラーゲン性ポリペプチドのアミノ酸の少なくとも20%が、連続したGXYトリプレットの形態で存在し、GXYトリプレットが、グリシンを示すG、並びに任意のアミノ酸を示すX及びYからなる、ポリペプチドであると定義される。X及び/又はYの少なくとも5%がプロリンを示すことが可能であること、詳しくは、コラーゲン性ポリペプチドのGXY部分のアミノ酸の少なくとも5%、より詳しくは10〜33%がプロリンであることが適切である。天然ゼラチンから入手可能なコラーゲン性ポリペプチドは、例えば、アルカリ処理ゼラチン、酸処理ゼラチン、加水分解ゼラチン、又は酵素処理により解膠したゼラチンであってもよい。天然物としては、ウシやブタなどの哺乳動物の皮膚又は骨であってもよく、魚類などの冷血動物の皮膚又は骨であってもよい。
【0029】
コラーゲン性ポリペプチドは、その平均分子量が150キロダルトン未満であることが好ましく、100キロダルトン未満であることが好ましい。適切な範囲としては50〜100キロダルトンであり、又は50キロダルトン未満若しくは5〜40キロダルトンの加水分解コラーゲン性ポリペプチドを用いてもよい。コラーゲン性ポリペプチドの平均分子量が少なくとも5キロダルトンであることが好ましく、少なくとも10キロダルトンであることが好ましく、少なくとも30キロダルトンであることがより好ましい。平均分子量が少なければ少ないほど、ある一定の透過性を得るには、大きなポリペプチドの場合よりも多くの架橋化合物を添加しなくてはならない。しかし、例えば、分子量が少なければ粘度が低くなり、そのためコラーゲン性ポリペプチドの濃度をより高くすることが可能な非孔質フィルムの製造における場合など、分子量が少ないほうが好ましい場合がある。
【0030】
組換えコラーゲン性ポリペプチドの製造方法は、同じ出願人による特許出願である米国特許第6,150,081号明細書及び米国特許出願第2003/229205号明細書に詳しく記載されており、その内容はここに参照することにより組み込まれる。方法論については刊行物である'High yield secretion of recombinant gelatins by Pichia pastoris', M.W.T. Werten et al., Yeast 15, 1087-1096 (1999)に記載されている。
【0031】
組換えにより製造したコラーゲン性ポリペプチドは、動物由来のゼラチン又はコラーゲンの使用に伴う有害な影響、例えばBSEなどが回避されることから好ましい。また、粒度分布、アミノ酸配列又は特定のアミノ酸の発生といったパラメーターをよりよく制御することができる。そのような組換えコラーゲン性ポリペプチドは、天然ゼラチンよりも抗原性がさらに低いことが好ましい。
【0032】
ある実施形態においては、組換えコラーゲン性ポリペプチドは、具体的には摂氏5度を超えない温度では、又は、摂氏25度よりも高い温度では、安定した三重らせんを形成しない。そのようなコラーゲン性ポリペプチドは、哺乳動物起源のコラーゲン又は魚類などの冷血動物起源のコラーゲンに匹敵する量のプロリンをGXYトリプレット中に有していることが好ましい。安定した三重らせんの形成を防止するため、コラーゲン性ポリペプチドに存在するアミノ酸のうちでヒドロキシル化されるのは、2個数パーセント未満、好ましくは1個数パーセント未満である。プロリルヒドロキシラーゼを共発現しない微生物、又は、その機能を別の方法で実現する微生物での発現により、ヒドロキシプロリンの発生を、実質的にゼロにまで低下させることができる。実質的にゼロとは、例えば酵母菌の増殖培地におけるヒドロキシプロリンの存在によって、これらのアミノ酸のいくつかが結果的にコラーゲン性ポリペプチドに組み込まれる場合があることを意味する。ヒドロキシル化されておらず、アナフィラキシー性ショックの発生を回避するという利点を有する組換えコラーゲン様ポリペプチドが、欧州特許第1238675号明細書に記載されている。
【0033】
好ましい実施形態においては、アミノ酸総数に対するRGDモチーフのパーセンテージが少なくとも0.4というRGDに富んだコラーゲン性ポリペプチドの製造により、優れた細胞接着性を有し、健康関連の危険性を全く示さないコラーゲン性ポリペプチドが非孔質フィルムに含まれている。RGDに富んだコラーゲン性ポリペプチドが350個以上のアミノ酸を含んでいる場合、350個のアミノ酸からなる一続きの部分それぞれに、少なくとも1個のRGDモチーフが含まれていることになる。RGDモチーフのパーセンテージは、少なくとも0.6であることが好ましく、少なくとも0.8であることがより好ましく、少なくとも1.0であることがさらに好ましく、少なくとも1.2であることが一層好ましく、少なくとも1.5であることが最も好ましい。
【0034】
RGDモチーフのパーセンテージが0.4ということは、アミノ酸250個当たり少なくとも1つのRGD配列に相当する。RGDモチーフの数は整数であり、したがって、0.4%という特徴を満足させるには、251個のアミノ酸からなるコラーゲン性ポリペプチドは、少なくとも2つのRGD配列を含んでいなくてはならないことになる。RGDに富んだ組換えコラーゲン性ポリペプチドは、アミノ酸250個当たり少なくとも2つのRGD配列を含んでいることが好ましく、アミノ酸250個当たり少なくとも3つのRGD配列を含んでいることがより好ましく、アミノ酸250個当たり少なくとも4つのRGD配列を含んでいることが最も好ましい。さらなる実施形態では、RGDに富んだコラーゲン性ポリペプチドは、少なくとも4個、好ましくは6個、より好ましくは8個、さらに好ましくは12個以上16個以下のRGDモチーフを含んでいる。
【0035】
本発明の文脈における「RGDに富んだコラーゲン性ポリペプチド」とは、1分子当たりのアミノ酸総数のパーセンテージとして、及び天然ゼラチンとの比較におけるアミノ酸鎖中のRGD配列の分布均一性の高さとして計算される、ある程度のRGDモチーフを、コラーゲン性ポリペプチドが有していることを意味する。ヒトにおいては、タンパク質及びDNA配列情報に基づき、これまでに26個の識別可能なコラーゲン型が見出されている(K. Gelse et al, Collagens-structure, function and biosynthesis, Advanced Drug Delivery reviews 55 (2003) 1531-1546を参照のこと)。天然ゼラチンの配列は、ヒト起源のものも非ヒト起源のものも、Swiss-Protタンパク質データベースに記載されている。以下は、Swiss-Protタンパク質データベースにおけるエントリー名及び第一アクセッション番号で識別される適切なヒト未変性配列のリストであり、これらは、本発明の非孔質フィルムに含まれるRGDに富んだコラーゲン性ポリペプチドに含まれる天然配列の部分部分の供給源として役に立つ場合がある。
【0036】
CA11_HUMAN(P02452)コラーゲンアルファ1(I)鎖前駆体。{遺伝子:COL1A1}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA12_HUMAN(P02458)コラーゲンアルファ1(II)鎖前駆体[コンドロカルシンを含む]。{遺伝子:COL2A1}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA13_HUMAN(P02461)コラーゲンアルファ1(III)鎖前駆体。{遺伝子:COL3A1}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA14_HUMAN(P02462)コラーゲンアルファ1(IV)鎖前駆体。{遺伝子:COL4A1}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA15_HUMAN(P20908)コラーゲンアルファ1(V)鎖前駆体。{遺伝子:COL5A1}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA16_HUMAN(P12109)コラーゲンアルファ1(VI)鎖前駆体。{遺伝子:COL6A1}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA17_HUMAN(Q02388)コラーゲンアルファ1(VII)鎖前駆体(長鎖コラーゲン)(LCコラーゲン)。{遺伝子:COL7A1}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA18_HUMAN(P27658)コラーゲンアルファ1(VIII)鎖前駆体(内皮コラーゲン)。{遺伝子:COL8A1}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA19_HUMAN(P20849)コラーゲンアルファ1(IX)鎖前駆体。{遺伝子:COL9A1}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA1A_HUMAN(Q03692)コラーゲンアルファ1(X)鎖前駆体。{遺伝子:COL10A1}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA1B_HUMAN(P12107)コラーゲンアルファ1(XI)鎖前駆体。{遺伝子:COL11A1}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA1C_HUMAN(Q99715)コラーゲンアルファ1(XII)鎖前駆体。{遺伝子:COL12A1}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA1E_HUMAN(P39059)コラーゲンアルファ1(XV)鎖前駆体。{遺伝子:COL15A1}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA1F_HUMAN(Q07092)コラーゲンアルファ1(XVI)鎖前駆体。{遺伝子:COL16A1}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA1G_HUMAN(Q9UMD9)コラーゲンアルファ1(XVII)鎖(水疱性類天疱瘡抗原2)(180kDaの水疱性類天疱瘡抗原2)。{遺伝子:COL17A1又はBPAG2又はBP180}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA1H_HUMAN(P39060)コラーゲンアルファ1(XVIII)鎖前駆体[エンドスタチンを含む]。{遺伝子:COL18A1}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA1I_HUMAN(Q14993)コラーゲンアルファ1(XIX)鎖前駆体(コラーゲンアルファ1(Y)鎖)。{遺伝子:COL19A1}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA21_HUMAN(P08123)コラーゲンアルファ2(I)鎖前駆体。{遺伝子:COL1A2}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA24_HUMAN(P08572)コラーゲンアルファ2(IV)鎖前駆体。{遺伝子:COL4A2}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA25_HUMAN(P05997)コラーゲンアルファ2(V)鎖前駆体。{遺伝子:COL5A2}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA26_HUMAN(P12110)コラーゲンアルファ2(VI)鎖前駆体。{遺伝子:COL6A2}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA28_HUMAN(P25067)コラーゲンアルファ2(VIII)鎖前駆体(内皮コラーゲン)。{遺伝子:COL8A2}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA29_HUMAN(Q14055)コラーゲンアルファ2(IX)鎖前駆体。{遺伝子:COL9A2}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA2B_HUMAN(P13942)コラーゲンアルファ2(XI)鎖前駆体。{遺伝子:COL11A2}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA34_HUMAN(Q01955)コラーゲンアルファ3(IV)鎖前駆体(グッドパスチャー抗原)。{遺伝子:COL4A3}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA35_HUMAN(P25940)コラーゲンアルファ3(V)鎖前駆体。{遺伝子:COL5A3}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA36_HUMAN(P12111)コラーゲンアルファ3(VI)鎖前駆体。{遺伝子:COL6A3}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA39_HUMAN(Q14050)コラーゲンアルファ3(IX)鎖前駆体。{遺伝子:COL9A3}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA44_HUMAN(P53420)コラーゲンアルファ4(IV)鎖前駆体。{遺伝子:COL4A4}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA54_HUMAN(P29400)コラーゲンアルファ5(IV)鎖前駆体。{遺伝子:COL4A5}−ホモ・サピエンス(ヒト)
CA64_HUMAN(Q14031)コラーゲンアルファ6(IV)鎖前駆体。{遺伝子:COL4A6}−ホモ・サピエンス(ヒト)
EMD2_HUMAN(Q96A83)コラーゲンアルファ1(XXVI)鎖前駆体(EMIドメイン含有タンパク質2)(Emu2タンパク質)(エミリン及びマルチメリンドメイン(emilin and multimerin-domain)含有タンパク質2)。{遺伝子:EMID2又はCOL26A1又はEMU2}−ホモ・サピエンス(ヒト)
【0037】
天然ゼラチンにRGD配列が含まれていることは知られている。しかし重要なのは、RGDモチーフのない過度に大きな部分がコラーゲン性ポリペプチド分子に含まれていないことである。RGD配列のない過度に大きな部分は、そうしたコラーゲン性ポリペプチドが、例えば、人工皮膚などの組織工学的な応用に使用された際の細胞接着可能性を低下させるものである。コラーゲン性ポリペプチド中のすべてのRGD配列があらゆる状況下において細胞接着に利用できるとは限らないことは明らかである。350個を超えるアミノ酸からなり、RGD配列を備えていない一続きの部分をもつゼラチンと比較して、本発明のコラーゲン性ポリペプチドでは細胞接着が顕著に向上したことがわかった。350個未満のアミノ酸からなるコラーゲン性ポリペプチドについては、RGD配列のパーセンテージが少なくとも0.4であれば十分である。これは、251〜350個のアミノ酸からなるコラーゲン性ポリペプチドについては、少なくとも2個のRGDモチーフが存在するという意味であることに留意すべきである。
【0038】
したがって、RGDトリプレットに富んだいずれの断片も、天然のコラーゲン性タンパク質中で同定される場合があり、及び/又は、適切な数及び適切な分布状況のRGDトリプレットを備えたポリペプチドを作製するために、天然のコラーゲン性タンパク質を改変する場合がある。その後、適切なポリペプチドをコードする核酸配列を作製して、適切な宿主細胞又は生物内で発現させる場合がある。
【0039】
好ましい実施形態においては、RGDに富んだコラーゲン性ポリペプチドを組換えDNA技術により調製する。本発明の組換えコラーゲン性ポリペプチドは、コラーゲン配列に由来することが好ましい。コラーゲンをコードする核酸配列は、一般に、当該技術において記載されている。(例えば、Fuller and Boedtker (1981) Biochemistry 20: 996-1006; Sandell et al. (1984) J Biol Chem 259: 7826-34; Kohno et al. (1984) J Biol Chem 259: 13668-13673; French et al. (1985) Gene 39: 311-312; Metsaranta et al. (1991) J Biol Chem 266: 16862-16869; Metsaranta et al. (1991) Biochim Biophys Acta 1089: 241-243; Wood et al. (1987) Gene 61: 225-230; Glumoff et al. (1994) Biochim Biophys Acta 1217: 41-48 ; Shirai et al. (1998) Matrix Biology 17: 85-88; Tromp et al. (1988) Biochem J 253: 919-912; Kuivaniemi et al. (1988) Biochem J 252: 633640; and Ala-Kokko et al. (1989) Biochem J 260: 509-516.を参照のこと)。
【0040】
薬学的及び医学的用途に関しては、天然ヒトコラーゲンのアミノ酸配列と近似した又は全く同一のアミノ酸配列を備えた組換えコラーゲン性ポリペプチドが好ましい。ヒトコラーゲンと近似したアミノ酸配列(ヒトコラーゲンに「基本的に類似した」タンパク質とも称する)とは、ヒトコラーゲンタンパク質、例えば、先に列挙したタンパク質に対して、その全長にわたって、少なくとも約50、60、70、75、80、90、95、98、99%又はそれ以上のアミノ酸配列同一性を備えた配列のことである。配列同一性は、デフォルトパラメーターを用いたGAP又は「needle」(EmbossWIN v2.10.0にて提供されるGAPの同等物)などのプログラムを使って2つのペプチド配列を任意にアラインメントする、ペアワイズアラインメントを用いて確認される。GAP及び「needle」は、Needleman及びWunschのグローバルアラインメントアルゴリズムを用いて2つの配列をその全長にわたってアラインメントし、マッチ数を最大に、ギャップ数を最少にする。一般に、ギャップ開始ペナルティー=50(ヌクレオチド)/8(タンパク質)及びギャップ延長ペナルティー=3(ヌクレオチド)/2(タンパク質)で、ギャップデフォルトパラメーターを使用する。これには、少なくとも30、50、100、150、200、250、300、350、400、500、600、800、900、1000、又はそれ以上の連続したアミノ酸からなる断片などの、ヒトコラーゲンタンパク質の断片及び基本的に類似したタンパク質の断片も含まれる。以下に記載するように、そのような断片を用いて、その断片が2、3、4、5、10、15、20、30、50、70、80、90、100回又はそれ以上繰り返されるように、反復部分を作製する場合もある。そうした反復部分と反復部分との間には、任意でスペーサーが存在する場合がある。
【0041】
ヒトコラーゲンの選択したアミノ酸配列を繰り返し使用することにより、コラーゲン性ポリペプチドのアミノ酸配列が設計されていることがより好ましい。RGDモチーフを含む天然コラーゲン配列の一部を選択する。かかる選択した配列におけるRGDモチーフのパーセンテージは、選択した配列について選定した長さによって決まり、短い配列を選択した場合には、結果的にRGDのパーセンテージが高くなる。選択したアミノ酸配列を繰り返し使用すると、非抗原性で、(天然ゼラチン又はコラーゲンと比較して)RGDモチーフ数の多い、分子量の高いゼラチンが結果として得られる。
【0042】
したがって、好ましい実施形態においては、RGDに富んだコラーゲン性ポリペプチドは、未変性ヒトコラーゲン配列の一部を含んでいる。RGDに富んだコラーゲン性ポリペプチドは、1以上の未変性ヒトコラーゲン配列の1以上の部分の、少なくとも80%を構成することが好ましい。ヒトコラーゲン配列のそうした部分のそれぞれが、好ましくは少なくとも30個のアミノ酸からなる長さ、より好ましくは少なくとも45個のアミノ酸からなる長さ、最も好ましくは少なくとも60個のアミノ酸からなる長さであって、例えば240個までのアミノ酸からなる長さ、好ましくは150個までのアミノ酸からなる長さ、最も好ましくは120個までのアミノ酸からなる長さを有しており、それぞれの部分が、1以上のRGD配列を含んでいることが好ましい。RGDに富んだコラーゲン性ポリペプチドは、1以上の未変性ヒトコラーゲン配列の1以上の部分からなることが好ましい。
【0043】
本発明のフィルムを調製するためのコラーゲン性ポリペプチドの適切な供給源の例として、ヒトCOL1A1−1が挙げられる。1つのRGD配列を含む250個のアミノ酸からなる部分が、国際公開第04/85473号パンフレットに提示されている。
【0044】
コラーゲン性ポリペプチド中のRGD配列は、インテグリンと呼ばれる細胞壁上の特異的な受容体に付着することができる。こうしたインテグリンは、細胞結合アミノ酸配列の認識という点で、それぞれ異なる特異性を有している。天然ゼラチンと、例えばフィブロネクチンは、ともにRGD配列を含む場合があるが、ゼラチンは、フィブロネクチンに結合しない細胞を結合することが可能であり、その逆も同様である。したがって、細胞接着を目的とした、RGD配列を含むフィブロネクチンのゼラチンとの置換は、常に可能なわけではない。
【0045】
欧州特許出願公開第0926543号明細書、欧州特許出願公開第1014176号明細書又は国際公開第01/34646号パンフレットに開示されているように、RGDに富んだコラーゲン性ポリペプチドを、組換え法により製造することができる。本発明のフィルムの調製に適したコラーゲン性ポリペプチドの製造及び精製については、欧州特許出願公開第0926543号明細書及び欧州特許出願公開第1014176号明細書の実施例に述べられている。RGDに富んだコラーゲン性ポリペプチドの好ましい製造方法は、RGDアミノ酸配列を含むコラーゲンタンパク質の一部をコードする天然核酸配列から始めることである。この配列を繰り返すことにより、RGDに富んだコラーゲン性ポリペプチドが得られる。
【0046】
X−RGD−Yが天然コラーゲンアミノ酸配列の一部であれば、3つのRGDアミノ酸配列を備えたコラーゲン性ポリペプチド(の一部)は、以下の構造を有する:−X−RGD−Y−(GXYG)m−X−RGD−Y−(GXYG)n−X−RGD−Y−であって、m及びnは0から始まる整数である。nを変えることにより、全アミノ酸に対するRGD配列の数、RGDモチーフのパーセンテージを制御できる。この方法の明白な利点は、アミノ酸配列が最も天然に近い状態で維持されており、そのため、臨床応用の際に免疫応答を誘発するリスクが最も低いことにある。
【0047】
コラーゲン性ポリペプチド(の一部)をコードする天然核酸配列から始めると、RGD配列をコードする配列を生じさせるために、点突然変異も応用することができる。突然変異後のRGX配列によってRGD配列が生じるように、既知のコドンに基づいて点突然変異を起こすことができ、あるいは、YGD配列を変異させてRGD配列を生じさせることもできる。YGX配列によってRGD配列が生じるように、2つの突然変異を起こすことも可能である。1以上のヌクレオチドを挿入して、又は1以上のヌクレオチドを削除して、所望のRGD配列を生じさせることができる場合もある。
【0048】
また、グリコシル化の程度という観点から見た、フィルムの製造に用いるゼラチンの特質は、必要に応じてゼラチン中のRGDトリプレットの数と共同して、細胞増殖速度、フィルムに対する細胞接着性、及び自己細胞の細胞間接着性に影響を及ぼすことが可能であり、それにより、人工皮膚層の最終的な厚さ及び品質(細胞密度及び接着強度)に影響を与え、向上させることが可能だとわかった。使用したゼラチンのグリコシル化が低い又は皆無の場合、及び/又はフィルムの製造に使用したゼラチン中のRGDトリプレットの数が多い場合、表面での細胞(例えば線維芽細胞及びケラチン生成細胞)増殖速度に対する及び細胞接着性に対するプラスの効果が認められた。このようにして、グリコシル化とRGDトリプレットの数との比率を制御することにより、品質のよいフィルムの製造が可能となることがわかった。
【0049】
さらなる実施形態においては、フィルムの製造に使用したゼラチンはグリコシル化が低いものであり、また、フィルムの製造に使用する時点において実質的に純粋でもあることが好ましい。グリコシル化を確実に低くする又は皆無にするには、さまざまな方法がある。グリコシル化は翻訳後の修飾であり、それによって、タンパク質又はポリペプチドのある種のアミノ酸に、炭水化物が共有結合する。したがって、アミノ酸配列及びそのアミノ酸配列が作られる宿主細胞(及びその内部の酵素、特にグリコシルトランスフェラーゼ)の両方により、グリコシル化パターンが決定する。グリコシル化には2つの種類があり、N−グリコシル化は、アスパラギン(N又はAsn)のアミド基へのGlcNAc(N−アセチルグルコサミン)の結合によって始まり、O−グリコシル化では、通常、GalNAc(N−アセチルガラクトサミン)が、アミノ酸のセリン(S又はSer)又はスレオニン(T又はThr)のヒドロキシル基に結合する。
【0050】
したがって、適切な発現宿主を選定することにより、及び/又は、宿主のグリコシルトランスフェラーゼによって認識されるコンセンサス部位を欠失している配列を修飾する又は選定することにより、グリコシル化を制御すること、及び、特に減少させること又は防止することができる。タンパク質又はポリペプチドの化学合成が、結果として非グリコシル化タンパク質をもたらすことは明らかである。また、製造後にグリコシル化タンパク質に処理を施して、すべての又は大部分の炭水化物を除去してもよく、又は、既知の方法を用いて、非グリコシル化タンパク質をグリコシル化タンパク質から分離してもよい。
【0051】
酵母において、アスパラギンのN結合型グリコシル化は、Asn−X−Thr又はAsn−X−Serというコンセンサス部位で発生し、ここでのXは、アミノ酸を示している。酵母におけるグリコシル化では一般に、マンノースのN結合型及びO結合型オリゴ糖が得られる。したがって、酵母内での発現のためにコンセンサス部位が減少する又は好ましくは皆無になるように、核酸配列の修飾又は選択を行ってもよい。例えば突然変異誘発又はデノボ合成により、Asnコドン及び/又はThrコドンを修飾してもよい。Asn及び/又はThrは、他のアミノ酸に置換されることが好ましい。また、Aspも他のアミノ酸に置換されてもよい。ある実施形態においては、ポリペプチド配列にはSer及び/又はAsnが全く含まれない。
【0052】
翻訳後修飾の程度を分析するために、又はグリコシル化の量を測定するために、当該技術で周知のように、MALDI−TOF−MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法)などの質量分析法を実施することができる。
【0053】
あるいは、Michel Dubois et al, "Colorimetric Method for Determination of Sugars and Related Substances", Analytical Chemistry, vol 28, No.3, March 1956, 350 356に記載の滴定法を用いて、グリコシル化の量を測定することができる。この方法を用いて、単(モノ)糖類、オリゴ糖類、多糖類、及び、遊離状態又は潜在的に遊離状態にある還元基を備えたメチルエーテルを含むそれらの誘導体を測定することができる。したがって、これは定量的方法である。
【0054】
使用したコラーゲン性ポリペプチドのグリコシル化の量は、好ましくは約2(m/m)%と同等又はそれ未満、より好ましくは約1(m/m)%未満、最も好ましくは約0.5(m/m)%、0.2(m/m)%、又は0.1(m/m)%未満である。好ましい実施形態においては、グリコシル化の量(すなわち、グリコシル化の程度)はゼロである。グリコシル化の量とは、例えば、先に記したMALDI−TOF−MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法)、又は、好ましくは、Dubois et al.による滴定法によって測定されたコラーゲン性ポリペプチド1単位重量当たりの炭水化物の総重量を指す。「グリコシル化」という語は、単糖類だけではなく、二糖類、三糖類又は四糖類などの多糖類をも指すものである。
【0055】
別の実施形態においては、RGDトリプレットの数(コラーゲン性ポリペプチドのアミノ酸250個当たりのRGDトリプレットの数と定義される)は、好ましくは少なくとも2個であり、より好ましくは少なくとも3、4、5、6、7、8個又はそれ以上である。そのようなコラーゲン性ポリペプチドを、「RGDに富んだコラーゲン性ポリペプチド」と称する。
【0056】
したがって、ある実施形態においては、人工皮膚同等物の製造において有利な特質を有するフィルムの製造方法が提供される。ある実施形態においては、グリコシル化が低い又は皆無の、及び/又はRGDトリプレット数の多いコラーゲン性ポリペプチドを用いて、フィルムが製造される。上記RGDに富んだポリペプチド及び/又はグリコシル化の低いポリペプチド(グリコシル化がゼロのポリペプチドを含む)を用いて製造されたフィルムも提供される。かかるフィルムは、本明細書に記載されているように、適切に製造される。
【0057】
このように、コラーゲン性ポリペプチドは、そうしたポリペプチドをコードする核酸配列を適切な微生物によって発現させることで、製造が可能である。真菌細胞又は酵母菌細胞を用いて、このプロセスを適切に実施することができる。宿主細胞としては、ハンゼヌラ属(Hansenula)、トリコデルマ属(Trichoderma)、アスペルギルス属(Aspergillus)、ペニシリウム属(Penicillium)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、クリベロミセス属(Kluyveromyces)、ニューロスポラ属(Neurospora)又はピキア属(Pichia)などの高発現宿主細胞が適切である。真菌細胞及び酵母菌細胞は、反復配列の不適切な発現による影響を受けにくいことから、細菌よりも好ましい。発現したコラーゲン構造に攻撃を行う高レベルのプロテアーゼを宿主が持たないことが、最も好ましい。この点で、非常に好適な発現系の例として、ハンゼヌラ属及びピキア属が挙げられる。発現系としてのピキアパストリス(Pichia pastoris)の使用については、欧州特許出願公開第0926543号明細書及び欧州特許出願公開第1014176号明細書に開示されている。かかる微生物には、特にプロリンのヒドロキシル化及びリジンのヒドロキシル化といった、有効な翻訳後処理機構がなくてもよい。あるいは、宿主系は、コラーゲン性ポリペプチドを非常に効率的にヒドロキシル化する内在性プロリンヒドロキシル化活性を有していてもよい。コラーゲン性ポリペプチドは、宿主細胞及び発現させる配列に関する知識と組み合わせて用いることで、人工皮膚としての使用に適したものとなる。本明細書に記載の必要とされるパラメーターは、宿主細胞を、そうしたコラーゲン性ポリペプチドを発現させるのに適した状態にするものであり、そのパラメーターに基づいて、真菌宿主細胞特に酵母菌細胞を産生する既知の工業用酵素から適切な宿主細胞を選択することは、当業者であれば可能なことである。
【0058】
別の実施形態において、組換えコラーゲン性ポリペプチドは、ガラス転移温度が天然由来のゼラチンよりも高い。そのような配列は、国際公開第05/11740号パンフレットに記載されている。
【0059】
以下に記す方法を用いて得られるフィルムには、ヒト自己細胞、特に線維芽細胞及び/又はケラチン生成細胞を利用してヒト人工皮膚同等物を作製するためにこれを使用する場合、有利な特質がある。実施例に示すように、上記フィルムによって、グリコシル化が高く、及び/又はRGDトリプレットの数が少ないフィルム上での細胞増殖よりも良好な(最適化された、迅速な)細胞増殖が可能になる。これは、細胞とフィルムとの間及び/又は細胞間の接着性が向上し、それによってフィルム全体への細胞の拡散程度が向上したためかもしれない。フィルムの少なくとも片面で、好ましくはフィルムの両面で細胞を増殖させることにより、密度が高く、十分な厚さのある人工皮膚を得ることができる。皮膚同等物が好ましくは少なくとも10、15、20μm又はそれ以上の厚さになるまで、細胞を増殖させる。皮膚同等物は、「十分な厚さ」(全体で少なくとも15〜20μmの厚さ)であることが好ましい。細胞(例えば、線維芽細胞及び/又はケラチン生成細胞)の複数の層を、フィルムの少なくとも片面で増殖させることが好ましく、両面で増殖させることがより好ましい。これには、角質層の形成も含まれる。
【0060】
人工皮膚の製造方法は、以下のステップを含む:
――RGDに富んだコラーゲン性ポリペプチド及び/又はグリコシル化の程度が低い(例えば、全くグリコシル化されていない)ポリペプチドを含むフィルムを製造するステップ;
――フィルムの片面又は両面に、ヒト生細胞又は生存細胞、特にヒト自己細胞(例えば、線維芽細胞及び/又はケラチン生成細胞)を接触させるステップ;
――細胞を含むフィルムに対し、適切な期間、細胞増殖に適切な条件下でインキュベーションを行うステップ;
――並びに、接触ステップ及びインキュベーションステップを1回以上任意に繰り返すステップ。
【0061】
本発明の非孔質フィルムの少なくとも片面で増殖させることが可能な細胞は、どのような生細胞でも、遺伝子組換え生細胞でも、悪性生細胞でもよい。ヒトの真皮又は表皮で発生する細胞などの、正常(健常)細胞を、非孔質フィルム上で培養することが好ましい。線維芽細胞、ケラチン生成細胞、メラニン細胞、ランゲルハンス細胞などの、皮膚組織で発生するヒト(又は哺乳動物)細胞が好ましい。好ましい実施形態においては、細胞を治療対象から入手する(そうした細胞が「自己細胞」である)。ある実施形態では、本発明は、片面に線維芽細胞を含む非孔質フィルムを提供する。別の実施形態では、本発明は、片面にケラチン生成細胞を含む非孔質フィルムを提供する。角質層(horny layer)(角質層(stratum corneum))が空気と培養物との接触面で形成されるように、培養中にケラチン生成細胞が空気に暴露されていることが好ましい。
【0062】
好ましい実施形態においては、線維芽細胞によるケラチン生成細胞の増殖及び分化への干渉を回避するため、非孔質フィルムの片面に線維芽細胞を含む層があり、その反対側の面にはケラチン生成細胞を含む層があるものが提供される。ケラチン生成細胞培養物を空気に暴露することにより、角質組織、すなわち角質層が生じる。したがって、その片面に線維芽細胞を含む層を有し、線維芽細胞を含む層の反対側の面にケラチン生成細胞を含む層を有する本発明の非孔質フィルムを含む完全なヒト人工皮膚同等物が提供される。特に、ケラチン生成細胞を含む層は、非孔質フィルムとは接触していないその表面に、角質組織を有している。
【0063】
培養後の上記物質は、人工皮膚としての使用に適しており、又は医療品、薬品若しくは化粧品用化合物に対する試験基質として、例えば、医療品、薬品若しくは化粧品用化合物の、人工皮膚に対する透過性、及び/又は人工皮膚の非孔質コラーゲン性ポリペプチドのいずれかの面に存在する細胞に及ぼす影響、又は例えばUV吸収化合物などのテスティング性の査定時の使用に適している。非孔質フィルムの両面に細胞を、特に線維芽細胞及びケラチン生成細胞を有している実施形態の場合、非孔質架橋ゼラチンフィルムは天然皮膚に見られる基底膜に類似しており、そのため、天然皮膚に酷似した完全なヒト皮膚同等物が提供される。これは、例えば、特に試験基質の皮膚への影響及び創傷治療という点で、恩恵となる場合がある。
【0064】
フィルムの片面又は両面での生存細胞若しくは生細胞の培養又は増殖は、当該技術で周知の細胞培養法及び実施例に記載の細胞培養法を用いて行うことができる。栄養素及びその他の成分は、細胞とともに添加しても別々に添加してもよく、細胞を含むフィルムに対し、十分な期間、細胞増殖及び/又は細胞分化が生じるのに適切な条件下でインキュベーションが行われる。非孔質架橋ゼラチンフィルムは、両面での細胞培養に特に適している。というのは、かかるゼラチンフィルムは、培養中、特に第二の細胞層を培養するためにフィルムの上下を逆にするステップにおいて、最適な取扱いのために必要とされる物理的安定性、すなわち、機械的強度を備えているためである。
【0065】
非孔質フィルムは、ホルモン、成長促進剤、抗生物質、免疫抑制剤など、1以上の生物活性物質をさらに含んでいてもよい。また、非孔質フィルムは、創傷治癒プロセスを補助できる1以上の化合物を含んでいてもよい。「生物活性化合物」は、生物学的作用を他の細胞に及ぼすどのような化合物でも(天然化合物でも合成化合物でも)よい。かかる化合物は、当該技術分野においてさまざまな場所で入手可能である。フィルムの製造中に化合物をフィルムに組み込んでもよく、あるいは、後から化合物をフィルムの片面又は両面に添加してもよい。
【0066】
非孔質フィルムは、皮膚の喪失がさほど広範囲に及ぶものではないものの、それでも移植の必要性がある場合、例えば、慢性開放性創傷の場合又は例えば麻痺を伴って発生する褥瘡の場合にも使用できる。
【0067】
別の実施形態においては、本発明のフィルムの製造方法が提供される。この方法は、以下のステップを含むものである:
a)2〜30重量パーセントの含水コラーゲン性ポリペプチド溶液を提供するステップ、
b)適量の(1以上の)架橋化合物、好ましくは、コラーゲン性ポリペプチド1グラム当たり0.02〜5.0ミリモル(又は本明細書にて先に記した、適切とされる他の量)の(1以上の)架橋化合物を前記水溶液に添加するステップ、
c)最大でも1平方メートル当たり30ワット分の接着性向上処理を先に任意で施した基質に、前記コラーゲン性ポリペプチド溶液をコーティングするステップ、
d)前記コーティングを行った基質を乾燥させるステップ、及び任意で、
e)乾燥させた非孔質フィルムを基質から分離するステップ。
【0068】
また、少なくともその片面で生細胞又は生存細胞を培養するのに適した非孔質フィルムを製造する方法であって、以下のステップを含む方法も提供される:
a)2〜30重量パーセントの含水コラーゲン性ポリペプチド溶液を提供するステップ、
b)最大でも1平方メートル当たり30ワット分の接着性向上処理を先に任意で施した基質に、前記コラーゲン性ポリペプチド溶液をコーティングするステップ、
c)前記コーティングを行った基質を乾燥させるステップ、
d)前記コーティングを行い乾燥させた基質に(本明細書中で先に記したように)照射して、前記コラーゲン性ポリペプチド間に架橋を形成させるステップ、及び任意で、
e)乾燥させた非孔質フィルムを基質から分離するステップ。
【0069】
コラーゲン性ポリペプチド溶液を適切な基質にコーティングすることにより、本発明の非孔質フィルムを効率的に及び高速にて製造することができる。(2〜30重量パーセントの(1以上の)コラーゲン性ポリペプチドを水性溶媒に溶解することにより、コーティング液を調製する。コラーゲン性ポリペプチドの濃度は、5〜20重量パーセントであることが好ましく、10〜15重量パーセントであることがより好ましい。室温又は低温で安定した三重らせんを形成できない組換えコラーゲン性ポリペプチドを使用する場合には、天然ゼラチン又はコラーゲンを用いる場合よりも高濃度のものを用いることができる。水溶液は、少なくとも50重量パーセント、好ましくは少なくとも60重量パーセントの水分を含んでいる。
【0070】
コーティング性を高めるため、追加溶媒を添加してコーティング液の表面張力を低下させてもよい。適切な溶媒とは、水よりも表面張力が小さいもの、及び原則として、乾燥によって完全に除去できるものである。適切な溶媒としては、例えば、エタノールなどの低級アルキルアルコール類、アセトンなどのケトン類、酢酸エチルなどの低級アルキルアセテート類などがある。追加溶媒として好ましいのは、メタノール、エタノール、(イソ)プロパノールなどの低級アルキルアルコール類である。エタノールを用いることが好ましい。低級アルキルとは、アルキル鎖が1〜約6個の炭素原子を有していることを意味する。
【0071】
その後、コーティング液を固体の基質にコーティングする。コーティング装置としては、スライドビードコーティング、カーテンコーティング、バーコーティング、キャストコーティングなど、当該技術分野で周知のいかなる方法も使用可能である。
【0072】
適した基質としては、ポリオレフィン層などの樹脂製の表面を備えた基質がある。樹脂層はポリエチレン(PE)又はポリプロピレン(PP)を含んでいることが好ましく、そうしたPE若しくはPPは、高密度、低密度、直鎖状低密度であっても、メタロセンPE若しくはPPであっても、又はそれらの混合物であってもよい。基質は、紙を基材として樹脂層でコーティングされたものであってもよい。
【0073】
コーティングの前に、樹脂の表面に火炎処理、コロナ処理、プラズマ処理などの接着促進処理を任意で施す。これは、少なくとも1平方メートル当たり1.5ワット分、好ましくは少なくとも1平方メートル当たり2.5ワット分、及び多くとも1平方メートル当たり30ワット分、好ましくは多くとも1平方メートル当たり25、20、15、10、又は5ワット分の処理でなくてはならない。接着促進処理の目的は、非孔質フィルムを剥離させることなく、材料をコーティングし、乾燥させ、巻き上げ及び切断などのプロセスにかけられるように、十分な接着性を提供することにある。一方、接着性は、細胞増殖又は細胞培養に使用する前に、基質から容易に分離させられる程度には弱いものでなくてはならない。
【0074】
コーティング液を基質にコーティングする直前に、架橋化合物を添加してもよい。所望の生分解性の程度により、架橋化合物の添加量は、例えばコラーゲン性ポリペプチド1グラム当たり0.02〜5.0ミリモルの架橋化合物、コラーゲン性ポリペプチド1グラム当たり0.05〜1ミリモル、0.1〜2.0ミリモル、0.25〜2.5ミリモル又は1.0〜5.0ミリモルの架橋化合物となる可能性がある。
【0075】
「コーティングの直前」又は「コーティングのすぐ前」に添加するとは、架橋化合物の添加後、粘度が高くなりすぎる前にコーティング液を基質にコーティングすることを意味する。架橋の反応速度、及びそれによる粘度の増大は、他の要素の中でも、架橋化合物及びコラーゲン性ポリペプチドの両方の濃度に依存する。実際の状況では、架橋化合物を溶液に添加してから遅くとも2時間以内に、好ましくは遅くとも60分以内に、より好ましくは遅くとも30分以内に、コーティング液をコーティングする。
【0076】
乾燥は、当該技術で周知のいかなる方法によって行ってもよい。必要以上に速く乾燥させてフィルムのひび割れ又は破損が生じるような事態を予防するため、湿度及び温度などの乾燥条件を制御することが好ましい。
【0077】
フィルムに1以上の細胞を接種する又は接触させる前に、例えば、ガンマ線に暴露するなどして、フィルムを任意で滅菌してもよい。この処理は、基質からフィルムを剥離(分離)する前又は後に行うことができる。あるいは、生細胞又は生存細胞と接触させる前にフィルムが滅菌されているように、滅菌状態で、及び滅菌成分を用いて、全プロセスが実施される。フィルムがまだ基質に接着しているうちに、所望の細胞を片面に接触させてもよい。
【0078】
別の実施形態においては、フィルム中のコラーゲン性ポリペプチドは、コーティング後にUV光線又は電子ビームなどの光線に暴露することによって架橋される。この処理は架橋化合物の添加と置き換えること、又は、架橋化合物の添加と組み合わせて使用することができる。
【0079】
本明細書に記載した方法のいずれかで得ることが可能なフィルムも、本発明の実施形態である。
【0080】
本発明のフィルムを、その後、フィルムの片面及び/又は両面で、生細胞又は生存細胞と接触させてもよい。これは、例えば、(液状又は半固体状の)懸濁液を表面に注ぐ若しくはピペットで添加することによって、又は、細胞懸濁液中にフィルムを浸す若しくは細胞懸濁液上にフィルムを置くことによって、その表面に細胞懸濁液を接種するなどの、周知の方法を用いて行うことが可能である。ストリーキングその他の方法によって、細胞をフィルム表面上にさらに分布させてもよい。また、栄養素その他の成分を細胞に供給してもよく、フィルムのインキュベーションは、十分な期間、細胞増殖及び/又は細胞分裂が可能な条件下で行われる。
[実施例]
【0081】
非孔質フィルム又は本発明のフィルムの調製:
天然ゼラチン又は、例えば欧州特許出願公開第1398324号明細書に記載されているような組換えにより作製したコラーゲン性ポリペプチドであって、分子量が最大で100キロダルトンのものを、40℃の脱塩水に溶解する。ポリペプチドの溶解後、30分間にわたって温度を摂氏60度に上げ、ゼラチン又はコラーゲン鎖を完全にほどき、その後、温度を再び摂氏40度に下げる。湿潤性を向上させるため、純度96%のEtOHを15〜30%(重量/重量)添加して、最終濃度が15〜25%(重量/重量)のコラーゲン性ポリペプチドを得る。
架橋化合物に応じて、1MのNaHO又は1MのHClでpHを調整する。グルタルアルデヒド(GTA:25%溶液(重量/重量))を用いた場合は5〜6に調整し、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドHCl(EDC:25%溶液(重量/重量))を用いた場合は、7〜8に調整する。コーティングの直前、すなわち、架橋により粘度が高くなりすぎる前に、架橋化合物をゼラチン溶液に添加する。
【0082】
コラーゲン性ポリペプチド溶液を架橋化合物溶液とよく混ぜ合わせ、混合直後にポリエチレンの基質にコーティングする。厚さ100〜400μmのウェットコーティングを塗布すると、乾燥後には厚さ10〜100μmの乾燥膜が得られる。乾燥については、例えば、周囲条件で少なくとも24時間にわたって、行ってもよい。
乾燥後、フィルムを切断し、滅菌ゼラチンフィルムとするために少なくとも25kGyの線量でガンマ線を照射する。
【0083】
ケラチン生成細胞及び線維芽細胞の培養:
胸部手術により入手した正常なヒト皮膚から、ケラチン生成細胞及び線維芽細胞を単離した。Dulbecco改変Eagles培地(DMEM)とHamのF12培地を3:1で使用し、5%の血清(ウシ胎仔)及び、例えば100マイクログラム/mlのストレプトマイシン、100I.U./mlのペニシリンなど、その他の各種添加物を補充したケラチン生成細胞用培地でケラチン生成細胞を増殖させた。ヒト皮膚同等物を確立させるため、2代継代のケラチン生成細胞を用いた。5%のウシ血清を補充したDMEM培地で線維芽細胞を増殖させた。皮膚同等物を製造するため、2〜9代継代の線維芽細胞を用いた。プラスチック製の組織培養皿にて、ケラチン生成細胞及び線維芽細胞をコンフルエントな状態になるまで増殖させた。
【0084】
ヒト皮膚同等物の調製方法
コラーゲン性ポリペプチドフィルムを、24時間、室温の食塩緩衝液に入れておき、その間に洗浄した。1時間後及び2時間後に、食塩緩衝液を補給した。洗浄後、線維芽細胞をフィルム上に播種し、以下のいずれかの処理を行った:
a.5%の血清、1ナノグラム/mlの上皮成長因子(EGF)及びその他の各種添加物を含む線維芽細胞用培地で3日間インキュベートした。
b.1%の血清、1ナノグラム/mlのEGF及びその他の各種添加物を含む線維芽細胞用培地で3日間インキュベートした。この培養期間中、2日目に、ケラチン生成細胞をコラーゲン性ポリペプチドフィルムの裏側に播種した。
ヒト皮膚同等物を、金属グリッド支持体上で増殖させた。
3日後、結合させたケラチン生成細胞/線維芽細胞培養物を気液界面まで持ち上げて、1ナノグラム/mlのEGFを補充したDMEM/HamのF12培地で、血清の非存在下で培養した。細胞をさらに10日間増殖させ、コンフルエントな状態にした。
【実施例1】
【0085】
欧州特許出願公開第1398324号明細書に記載の組換えにより製造した72.6キロダルトンのテトラマーからの、非孔質フィルムの調製
全量で11.4gのテトラマーを、摂氏40度の34.2gの脱塩水に溶解した。溶解後、30分間にわたって温度を摂氏60度に上げ、その後、温度を再び摂氏40度に下げた。さらに11.4gのEtOH(純度96%)を添加した。1MのNaOHで、溶液のpHを7.5に調整した。
1gのEDCを3gの脱塩水に溶解して、25%のEDC(N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドHCl)溶液を調製した。
表1にしたがい、架橋化合物溶液をコラーゲン性ポリペプチド溶液に添加した。添加後、混合液をよく攪拌し、最上層がポリエチレンからなる未処理の印画紙に塗布した。スパイラル巻きの「Large K Hand Coater Bar」No.125を用いて、ウェット膜厚が125μmの沈殿物をA4サイズの基質上にコーティングした。コーティングを行ったフィルムを室温にて少なくとも24時間放置して、乾燥させた。
Lorentzen & Wettreの221型マイクロメーターを用いて、乾燥時の厚さを測定した。膨潤の測定は、Flynn and Levine(Photogr. Sci. Eng., 8, 275 (1964))に記載の方法にて行うことができる。フィルムを手で取り扱うことにより、物理的強度を定性的に確認した。「−」との表記は弱すぎることを意味し、「+」は通常の取扱では破断しなかったこと、「+/−」は、テストの50パーセントにおいてフィルムが破断したこと、「++」は必要以上の力を加えた後でも破断しなかったことを意味する。フィルムを屈曲させることにより、脆弱性についても同様の方法で定性的にテストした。乾燥時の厚さ、水分による膨潤(縦方向)、及び物性に関する結果も、表1に示す。
【0086】
【表1】



【0087】
膨潤データのグラフィック処理については、図1を参照のこと。
【0088】
得られたフィルムを切断して直径27ミリメートルの円形膜とし、少なくとも25kGyの線量でガンマ線を照射するという方法により滅菌した。
【0089】
完全なヒト皮膚同等物の調製方法:
――ゼラチン膜をペトリ皿の中に置いた(ピンセット使用);
――膜の洗浄のため、ペトリ皿にリン酸緩衝生理食塩水を添加した(室温)。2時間後、ピペットでPBS溶液を除去し、新鮮なPBS溶液を膜に添加した;
――1日後、(ピペットで)PBS溶液を除去し、追加洗浄ステップ用に線維芽細胞培養培地を添加した;
――2時間後、培養培地溶液をピペットで除去し、線維芽細胞を膜上に播種した;
――最長1時間にわたって、細胞が膜に付着できるようにしておいた;
――線維芽細胞の増殖は湿潤条件下で行わなければならないため、膜が空気に接触しないような量の線維芽細胞培養培地を添加した;
――1週間にわたって培養を行い、週に2回培養培地を新鮮なものと交換した(ピペットでの除去);
――Milliporeフィルター(TETP02500、8μm)を使って、線維芽細胞を含む膜の上下を逆にした。ピンセットで膜を持ち上げ、上下を逆にして金属製グリッド上に置いた;
――先に記載したように、培地をケラチン生成細胞用培地に変えた;
――(細胞の分散を防止するため)ゼラチン膜の裏側の金属リング中にケラチン生成細胞を播種した。ケラチン生成細胞の接着後、金属リングを除去して培養をさらに7日間続けた;
――7日後、培養物を空気界面に露出させ、さらに14日間培養した;週に2回培養培地を新鮮なものと交換した;ケラチン生成細胞がそのまま液面よりも上の位置にとどまるように培地の量を減らしたため、追加的処理の必要はなかった。
【0090】
完全なヒト皮膚同等物の評価:
――皮膚同等物を回収して、4%のパラホルムアルデヒドで固定し、脱水してパラフィンに包埋した;その後、包埋組織を切断してスライス片とし、ヘマトキシリン/エオシンで染色した;
――染色したスライス片を光学顕微鏡で視覚化した;
――空気への露出面に角質組織(角質層)を有する、数層(多層)のケラチン生成細胞が、はっきりと認められた;線維芽細胞は、ゼラチン膜によってケラチン生成細胞から隔てられていた。
【実施例2】
【0091】
架橋膜のインビトロでの分解
コラーゲンに対するその特異性のため、クロストリジウム ヒストリチカム(Clostridium histolyticum)(Sigma-Aldrich社製、EC3.4.24.3)由来の細菌コラゲナーゼ(>125CDU/mgの活性(1コラーゲン消化単位とは、カルシウムイオンの存在下、pH7.4、37℃にて、ニンヒドリンが5時間で1.0μモルのロイシンを変色させるのと同程度に、コラーゲンからペプチドを遊離させるものである)を分解研究用の酵素として選択した。こうしたコラゲナーゼ調製物には、三重らせん構造のペプチド結合を開裂させることが可能であり、XとGlyとの間で分断されているPro−X−Gly−Pro−Y領域に特異性を有する、少なくとも6種類の異なるコラゲナーゼが含まれている。
【0092】
典型的な分解実験においては、GTA又はEDCを含む架橋コラーゲン性ポリペプチドの試料10ミリグラムを、0.005MのCaCl及び0.05mg/mlのアジ化ナトリウムを含む0.1MのTris−HCl緩衝液(pH7.4)0.5mlに浸して、37℃にてインキュベートする。1時間後、0.5mlのコラゲナーゼ溶液を含むTris−HCl緩衝液(37℃)を添加して、コラゲナーゼの最終濃度及び絶対量を所望のものにした(100CDU/ml(コラーゲン性ポリペプチド)又は10CDU/mg(コラーゲン性ポリペプチド))。
0.25MのEDTA(Titriplex III)を0.1ml添加し、かつシステムを冷却することにより、所望の時間間隔で分解を中断した。
分解中の架橋コラーゲン性ポリペプチド試料の重量減少を、重量法により確認した。
試料を真空下にてKOHで一晩乾燥させ、重量を測定した。その後、先に記したように試料を分解した。あらかじめ定めた分解期間の後、EDTAを添加して管を600Gで10分間の遠心分離にかけ、残った溶液を廃棄した。結果として得られたペレットを蒸留水で洗浄し、遠心分離にかけた。この洗浄手順を合計3回行った。最後の洗浄ステップの後、残ったペレットを凍結乾燥させ、重量を測定して、コラーゲン性ポリペプチド試料の重量減少を確認した。
【0093】
データのグラフィック表示については、図2を参照のこと。
【実施例3】
【0094】
透過性及び分解程度と架橋密度との関係
調製した膜の透過性を確認するため、拡散実験を開始した。5mlの生理食塩水に、14.3kDaの球状タンパク質であるリゾチームを193mg溶解させ、濃度が38.6mg/mlのリゾチーム(ドナー溶液)を得た。
架橋密度が0.4、0.6、1.0、及び1.5EDC/リジン(モル/モル)のEDC架橋ゼラチン膜を拡散セルに載置し(図3を参照のこと)、300μlのドナー溶液を、載置した膜の上に入れた。
レセプター液(これも生理食塩水)の流速は1ml/時であった。実験全体を通じて、システムの温度を37℃に維持した。
5mlの第一画分及び希釈したドナー溶液を、波長280nmのGPCで分析した。
その結果を25時間後の分解程度(重量残存%)と比較した。透過性及び分解という両方のパラメーターを架橋密度によって制御できることを示すデータのグラフィック表示については、図4を参照のこと。
【実施例4】
【0095】
RGDトリプレット及び/又はコラーゲン性ポリペプチドのグリコシル化が細胞増殖に及ぼす作用
方法:
ヒトの細胞増殖について、グリコシル化及び/又はRGDトリプレット数のテストを行うため、各種ポリペプチドを作製した。
【0096】
結果:
【0097】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】非孔質フィルムの当初の厚さ及び膨潤に対する架橋の作用。本グラフは、乾燥時の厚さ(μm)及び膨潤(μm、HO、37℃)とEDC/リジン比(テトラマー例1、72.6kDa)との対応を示すものである。
【図2】非孔質フィルムの分解速度に対する架橋の作用。本グラフは、10CDU/mg(ゼラチン)の細菌コラゲナーゼ溶液に対するEDC架橋テトラマー(72.6kDa)の分解速度を示すものである。
【図3】非孔質フィルムの透過性をテストするための拡散セルである。図中の数字は以下の通りである:1=ドナー化合物、2=レセプター区画、3=レセプターの投入、4=分析用の化合物及びレセプターの排出、5=1/8”(外径)×1/32”(管壁)。
【図4】非孔質フィルムの透過性及び分解に対する架橋の作用。本グラフは、リゾチーム(14.3kDa、第一画分)に対する透過性、及び10CDU/mg(ゼラチン)のコラゲナーゼ溶液に対するEDC架橋テトラマー(72.6kDa)の25時間後の分解(重量残存)を示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の面に生細胞又は生存細胞を含む層を有する非孔質フィルムであり、少なくとも5つの連続したGXYトリプレットの長さをもつ少なくとも1つのGXYドメインを含むコラーゲン性ポリペプチドを含み、ここでX及びYはそれぞれ任意のアミノ酸を示し、前記コラーゲン性ポリペプチドのアミノ酸の少なくとも20%が、連続したGXYトリプレットの形態で存在する非孔質フィルムであって、摂氏37度の脱塩水中に24時間置かれた際のフィルムの厚さが、最大でも当初の厚さの10倍であることを特徴とする非孔質フィルム。
【請求項2】
コラーゲン性ポリペプチド1グラム当たり0.02ミリモル〜5.0ミリモルの架橋化合物を添加することによって、フィルムが架橋されていることを特徴とする請求項1記載の非孔質フィルム。
【請求項3】
コラーゲン性ポリペプチド1グラム当たり0.02ミリモル〜5.0ミリモルの架橋化合物を添加する場合と同等の架橋程度となるように照射することによって、フィルムが架橋されていることを特徴とする請求項1記載の非孔質フィルム。
【請求項4】
コラーゲン性ポリペプチドが、コラーゲンポリペプチド、変性コラーゲンポリペプチド、合成コラーゲンポリペプチド、組換えコラーゲンポリペプチド及び組換えコラーゲン様ポリペプチドからなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の非孔質フィルム。
【請求項5】
コラーゲン性ポリペプチドが、少なくとも0.4パーセントのRGDモチーフを有していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の非孔質フィルム。
【請求項6】
コラーゲン性ポリペプチドのグリコシル化量が、2(m/m)%と同等又はそれ未満であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の非孔質フィルム。
【請求項7】
コラーゲン性ポリペプチド1グラム当たり0.5ミリモル〜2.0ミリモルの架橋化合物を添加することによって、又は、コラーゲン性ポリペプチド1グラム当たり0.5ミリモル〜2.0ミリモルの架橋化合物を添加する場合と同等の架橋程度となるように照射することによって、架橋が形成されることを特徴とする請求項2〜6のいずれか記載の非孔質フィルム。
【請求項8】
架橋化合物が、グルタルアルデヒド、水溶性カルボジイミド、ビスエポキシ化合物、ホルマリン、及び1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドからなる群から選択されることを特徴とする請求項2〜7のいずれか記載の非孔質フィルム。
【請求項9】
フィルムが、さらに1以上の生物活性化合物を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載の非孔質フィルム。
【請求項10】
1以上の生物活性化合物が、ホルモン、成長促進剤、抗生物質、及び免疫抑制剤からなる群から選択されることを特徴とする請求項9記載の非孔質フィルム。
【請求項11】
フィルムが、片面に線維芽細胞を含む層を、その反対側の面にケラチン生成細胞を含む層を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか記載の非孔質フィルム。
【請求項12】
非孔質フィルムが完全なヒト皮膚の同等物であって、ケラチン生成細胞を含む層が、前記非孔質フィルムとは接触していない表面に角質組織を含むことを特徴とする請求項11記載の非孔質フィルム。
【請求項13】
少なくともその片面で生細胞又は生存細胞を培養するのに適した非孔質フィルムを製造する方法であって、
a)2〜30重量パーセントの含水コラーゲン性ポリペプチド溶液を提供するステップ、
b)コラーゲン性ポリペプチド1グラム当たり0.02〜5.0ミリモルの架橋化合物を前記水溶液に添加するステップ、
c)最大でも1平方メートル当たり30ワット分の接着性向上処理を先に施した基質に、前記コラーゲン性ポリペプチド溶液をコーティングするステップ、
d)前記コーティングを行った基質を乾燥させるステップ、及び任意で、
e)乾燥させた非孔質フィルムを基質から分離するステップ
を含む方法。
【請求項14】
少なくともその片面で生細胞又は生存細胞を培養するのに適した非孔質フィルムを製造する方法であって、
a)2〜30重量パーセントの含水コラーゲン性ポリペプチド溶液を提供するステップ、
b)最大でも1平方メートル当たり30ワット分の接着性向上処理を先に施した基質に、前記コラーゲン性ポリペプチド溶液をコーティングするステップ、
c)前記コーティングを行った基質を乾燥させるステップ、
d)前記コーティングを行い乾燥させた基質を照射して、前記コラーゲン性ポリペプチド間に架橋を形成させるステップ、及び任意で、
e)乾燥させた非孔質フィルムを基質から分離するステップ
を含む方法。
【請求項15】
コラーゲン性ポリペプチドが、少なくとも5つの連続したGXYトリプレットの長さをもつ少なくとも1つのGXYドメインを含み、ここでX及びYはそれぞれ任意のアミノ酸を示し、前記コラーゲン性ポリペプチドのアミノ酸の少なくとも20%が、連続したGXYトリプレットの形態で存在することを特徴とする請求項13又は14記載の方法。
【請求項16】
フィルムの少なくとも片面で生細胞又は生存細胞を培養するステップをさらに含むことを特徴とする請求項13〜15のいずれか記載の方法。
【請求項17】
請求項13〜16のいずれか記載の方法により得られる非孔質フィルム。
【請求項18】
創傷治療用物質又は試験基質としての物質を製造する方法であって、
a)請求項1〜12及び17のいずれか記載の非孔質フィルムを提供するステップ、及び、
b)前記フィルムの片面で線維芽細胞の層を培養するステップ、及び/又は、
c)前記フィルムの反対側の面でケラチン生成細胞の層を培養するステップ
を含む方法。
【請求項19】
創傷治療用組成物を調製するための、請求項1〜12及び17のいずれか記載の非孔質フィルムの使用。
【請求項20】
請求項1〜12及び17のいずれか記載の非孔質フィルム、又は請求項18記載の方法により製造された物質の試験基質としての使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−538707(P2008−538707A)
【公表日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−505250(P2008−505250)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際出願番号】PCT/NL2006/050075
【国際公開番号】WO2006/107207
【国際公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(505232782)フジフィルム マニュファクチャリング ユーロプ ビー.ブイ. (50)
【Fターム(参考)】