説明

細胞表面に連結され得る物質を連結するためのアダプター

本発明は、細胞表面に連結され得る物質を連結するアダプターに関する。特に本発明は、細胞表面にアデノウイルスファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質を連結させるためのアダプター、並びにそのアダプターをコードする核酸類、ウイルス類、およびそれらの使用方法に関する。さらに本発明は、コクサッキーアデノウイルス受容体を全くまたはわずかしか含有しない細胞表面への、アデノウイルス粒子のような物質類の連結の媒介法および/または改善法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞表面に連結され得る物質を連結するためのアダプターに関する。細胞表面での通常の連結、即ちアダプター類が存在しない場合の連結では、細胞表面の特別な表面構造(通常は受容体)を必要とするが、本発明はそのような物質類の連結も可能にする。特に本発明は、細胞表面にアデノウイルス線維瘤(ファイバーノブ:Fiberknob)蛋白質類を連結させるためのアダプター、並びにそのアダプターをコードする核酸類およびウイルス類、並びにそれらの使用法に関する。本発明は、コクサッキーアデノウイルス受容体をわずかしかまたは全く含まない細胞表面へのアデノウイルス粒子の連結のような、物質類の連結を媒介および/または改善するための物質類およびその方法類にも関する。
【背景技術】
【0002】
真核細胞類内、特に哺乳類細胞内に非相同の核酸類を転移させるためには、遺伝子導入用アデノウイルス類がしばしば用いられている。それらはそのウイルス粒子表面にファイバーノブ(Fiberknob)と命名された蛋白質を搬送し、その結果、処理される細胞(標的細胞)の表面の一部に配置されたコクサッキーアデノウイルス受容体(CAR(Coxsackie Adenovirus Rezeptor);バージェルソン(Bergelson),J.M.ら、Isolation of a common receptor for Coxsackie B viruses and adenoviruses 2 and5;サイエンス(Science),275巻(1997)、p.1320−1323)と呼ばれる受容体蛋白質を認識し、結合することができる。CARにおけるこの線維瘤蛋白質の結合は、アデノウイルスの感染プロセスの律速段階とみなされている。このファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質へのコクサッキーアデノウイルス受容体の結合、およびそれに伴うその細胞表面でのウイルス粒子の連結後に、別のアデノウイルス外被蛋白質、即ちペントン蛋白質が細胞表面成分類、詳しくは一種または複数のインテグリン類に結合し、それによって標的細胞中へのウイルス粒子のエンドサイトーシスが誘発されると推察される。
【0003】
標的細胞表面でのコクサッキーアデノウイルス受容体の存在によるアデノウイルス類の依存性は、真核細胞類における非相同核酸類の転移へのアデノウイルス類の有用性を限定するものである(キム(Kim),M.ら、癌遺伝子治療用アデノウイルスベクター類の治療効果は、腫瘍細胞類表面の低レベルの一次アデノウイルス受容体類で制限される(The therapeutic efficacy of adenoviral vectors for cancer gene therapy is limited by a low level of primary adenovirus receptors on tumor cells);Eur.J.Cancer,38巻(2002)、p.1917−1926)。さらにCARの発現が細胞の分化度に依存することはすでに判明していた(ウォルターズ(Walters),R.Adenovirus fiber disrupts CAR mediated intracellular adhesion allowing virus escape;セル(Cell),110巻(2002),p.789−799)。それに応じて、腫瘍細胞類における非相同核酸類の、これまで達成され得たアデノウイルス類を用いる転移率は、満足できないほど小さいものである。
【0004】
したがって、ファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質のCAR認識に決定的な部位を変化させて単なるコクサッキーアデノウイルス受容体類とは異なる細胞表面成分にそのウイルス類を連結させることを可能にし、それによってそのウイルス類の親和性を変えることが試みられている。しかしながら、そのためのコストが極めて高いため、ウイルスゲノムの改変が必須となる。さらに遺伝子改変のためのそのファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質の生産能は極めて制限されている(スズキ(Suzuki),K.ら、A conditionally replicative adenovirus with enhanced infectivity shows improved oncolytic activity;Clin.Cancer Res.,7巻(2001),p.120−126)。
【0005】
同様に、ファイバーノブ(Fiberknob)の認識任務を担うコクサッキーアデノウイルス受容体の細胞外ドメイン、およびその標的細胞表面に発現した受容体(標的受容体)によって認識されるリガンド部位を有する融合蛋白質類の調製も試みられている(ペレボエフ(Pereboev),A.V.ら、Coxsackievirus−adenovirus receptor genetically fused to anti−human CD40 scFv enhances adenoviral transduction of dendtitic cells;Gene Ther.,9巻(2002),p.1189−1193)。これらの使用によって、コクサッキーアデノウイルス受容体を全くまたはわずかしか発現しないが少なくとも一種の別の受容体を発現するアデノウイルス類で、細胞類を感染させることが可能になる。しかしながら、標的受容体ごとにそれらを用いて新規の融合蛋白質を生産しなければならないこと、および標的受容体を発現するような標的細胞類における感染が依然として限定されたままであることは、不都合なことである(クリエル(Curiel),D.T.,Considerations and challenges for the achievement of targeted gene delivery;Gene Ther.,6巻(1999)、p.1497−1498)。このため特に感染および腫瘍類の治療では、この融合蛋白質類の有用性が制限されてしまう。融合蛋白質類の産生の時間推移とともに、腫瘍細胞類は遺伝子上の不安定性が増大し、それらによって発現した受容体類の原型を変え、それに応じて各々の腫瘍群類は、細胞表面受容体における特有のスペクトルを任意に持つことが可能になる。したがって腫瘍の治療には、全ての腫瘍細胞類によって発現した受容体類を決定してから対応する融合蛋白質を製造することが最小限、必要になるであろう。
【0006】
Grattonらの刊行物、Nature Medicine,2003,p.357−362から、アデノウイルスが介在した遺伝子転移の改善方法が知られている。それによると、アデノウイルス類を高濃度域(0.05−5mM)のAntpホメオドメインの第3α−ヘリックスと予め培養し、次に希釈して形質導入予定の細胞類に加える。尚、この処理の際に改善された形質導入は、CAR不含のCOS−7細胞類によって観察された。COS−7細胞類をAntpホメオドメインの第3α−ヘリックスと予め培養し、次にアデノウイルスを加える場合でも、またCOS−7細胞類をアデノウイルスと予め培養し、次にAntpホメオドメインの第3α−ヘリックスを加える場合でも、形質導入率の著しい改善は観察されなかった。Grattonらによる記載の処理方法で不都合なのは、予め形質導入用に用意したアデノウイルス類を、極めて高濃度域のAntpホメオドメインの第3α−ヘリックスで予め処理しなければならないことである。そのことにより、使用されたアデノウイルス類の形質導入率の改善は持続的に達成されないが、そのかわりに予め処理したウイルス類の場合でのみ形質導入率が改善される。特に遺伝子治療で不都合なことは、Grattonらによる予備処理アデノウイルス類で感染させた細胞類が、比較が可能な改善された形質導入能率を有するアデノウイルス類を産生できないことである。さらにその細胞類は、Grattonらによる記載の高濃度域でAntpホメオドメインの第3α−ヘリックスも発現することができるが、生理学的条件では起こり得ない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、したがって刊行物にある諸欠点を排除すること、およびアデノウイルス類に感染する細胞類(標的細胞類)の範囲を簡単な方法で拡大することを可能にする薬剤と方法とを主張することである。好適な場合、細胞表面にコクサッキーアデノウイルス受容体を全くまたはわずかしか発現しないような標的細胞類の感染も、妥当なまたは良好な率で可能になるであろう。その薬剤および方法は本研究の枠内のみならず、好ましくはさらに治療、特にたとえば腫瘍の治療を目的にするような遺伝子治療上および/または特に細胞培養物類の感染を目的とする非医療分野でも使用することができる。
【0008】
そのほかに、可能な限り広い範囲の種々の細胞型から当然選択可能である標的細胞表面に、ある物質をできるだけ簡単な方法で連結させることができることも一般的に必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって本発明は、ある細胞表面に連結され得る物質を連結させるためのアダプターが主張し、そのアダプターは、
・連結され得る物質を認識して結合するための部位a、および
・一種または複数の負に荷電している細胞表面構造体類に親和性を有し、細胞表面にそのアダプターを配置するための組換え部位b
を含むものである。
【0010】
本発明によるあるアダプターは、同じく連結され得る物質を認識してそれに結合することができ、所望により細胞表面の別の構造体類およびエレメント類、特に別に分布した受容体類を介して、その細胞表面に配列可能である。したがって、選択された標的細胞の細胞型の各々に対して、それに特異的な受容体−発現型に適合した融合蛋白質をいちいち産生させなくともうまく済ませることができる。
【0011】
本発明の枠内で「認識」とは、連結し得る物質(特にアデノウイルス線維瘤蛋白質)に対して、偶然別の蛋白質よりも平均して高い親和性で結合することに関するアダプターの能力と理解される。連結し得る物質への本発明のアダプターの認識および結合は、一般にはリガンド−受容体の相互作用とみなすことができるが、そのような機序に限定されるものではない。
【0012】
本発明のアダプターの部位bは、このアダプターを標的細胞表面に配置させることができる。さらに標的細胞表面へのこのアダプターの配置は、細胞外面のアダプターとの単なる偶然および一時的ではない結合であると理解できる。本発明によるアダプターは、そのかわりに細胞表面、特に細胞表面外にも存在する蛋白質および炭水化物のような数種の細胞表面エレメント類に対して高い親和性を有するものである。また本アダプタ−は、すぐには標的細胞内には取り込まれず、細胞表面の外側に長時間配置されるか、および/または、本アダプターは細胞外空間において、連結され得る物質の認識および結合を任意に行うことができる。本アダプターは、細胞の取り込み速度が5pmolアダプター/時間以下、好ましくは3pmolアダプター/時間以下(3mlDMEM/10%FCS中、1×106標的細胞でのアッセイ条件下)になるような、媒体非依存性の長い半減期を有するものが好ましい。
【0013】
細胞表面での配置については、本発明によるアダプターが、種々の細胞型において分布するかまたは汎存する細胞表面エレメント類に連結することによってもたらされるものである。特にその細胞表面エレメント類は受容体類であり得る。初期の諸研究によって本発明によるアダプターの結合が推察され、細胞表面の負に荷電しているそれらエレメント類にはシグナル転送機能がないことが分かった。
【0014】
好ましい実施形態では部位bは、全体で塩基性の特性を有し、および/または好ましくは正に荷電しているものである。塩基性の特性を有するペプチド類および正に荷電しているペプチド類は、細胞膜類での持続的な配置に特に好適であり、この配置にとっては細胞型に特異的な細胞表面エレメント類は必要ではない。さらに正に荷電しているペプチド類は、負に荷電している細胞表面構造体類によく付加する。
【0015】
アダプターの部位aおよびbは、所望により結合性のある別の部位を介してともに共有結合しているものが好ましい。
【0016】
好ましい実施形態ではアダプターは、部位aによって、ウイルスまたは別の物質、好ましくはウイルス様物質、特にアデノウイルスを認識して結合するように調整され、さらにそのつど適する別の部位aを用いてサイトメガロウイルス(CMV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、レオウイルスおよび小水疱性口内炎ウイルス(VSV)を認識して結合するように調整されている。好ましくはアダプターは、特にその部位a)によって、結合され得る物質、特にウイルスごとに特異的な表面構造体(リンカー)を認識して結合するように調整されており、それによってそれぞれの表面構造体(リンカー)を含むウイルスまたはそれ以外の連結し得る物質を、選択的に標的細胞表面に配置させることが可能になる。これに関連して「特異的」という用語は、そのリンカーが連結され得る物質をそれ以外の別の物質と識別するという意味を有するものであって、通常は標的細胞に連結され得る物質を加える際に、共存する別の物質類と充分に識別することができるという意味であり、その諸条件下でアダプターは連結され得る物質を主として認識して結合し、それ以外の物質類を認識して結合することはほとんどないという意味である。
【0017】
特に好ましい実施形態類では部位aが、アデノウイルスのファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質を認識して結合する部位を含む。適合するアダプターは、同じく従来のアデノウイルスファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質に連結することができ、細胞表面の別の構造体およびエレメント類、または特に広く分布した受容体類、あるいは細胞表面の別のエレメント類を介することなく細胞表面に配置される。したがってアデノウイルス感染性細胞の範囲を拡大するために、アデノウイルス類自体を遺伝子改変しなければならないことはうまく避けられ、そのかわりに従来のアデノウイルス類を、これまで感染させることができないかまたは困難な標的細胞類の感染にも使用できるようになる。さらに本発明は、本発明による(組換え)アダプターを主張することで、多くの細胞型にとって必須なこと、即ち感染性細胞の各々の型に対してその天然型受容体−発現型に適合した融合蛋白質をいちいち生産しなければならないことが回避される。
【0018】
特に好ましいのは、部位aがコクサッキーアデノウイルス受容体(CAR)の細胞外ドメインの、ファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質を認識するための機能性部分を含む場合、またはそれと機能が同一である部分を含む場合である。
【0019】
そのようなアダプター部位aは、コクサッキーアデノウイルス受容体の細胞外ドメインの一部(所望により完全な細胞外ドメインでも良い)またはそれと機能が同一である部分を含むものである。さらに部位aと機能が同一であるものとは、アデノウイルスファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質を認識して結合し、それによって本発明によるアダプターをファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質に連結させることができるものである。部位aの選択には、当業者はコクサッキーアデノウイルス受容体の構造および機能に関係する既知文献類を用いれば、アダプターをファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質に連結させるのに適したアミノ酸配列を容易に見出すことができる。部位aとして特に好ましいものは、コクサッキーアデノウイルス受容体(Pubmedアクセッション番号:NM001338;尚、以下の受け入れ番号は全て同じくPubmed起源のものである)の1−235位のアミノ酸類である。
【0020】
さらに当業者は、コクサッキーアデノウイルス受容体の細胞外ドメインの一部と併用して、またはその代替として、ファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質に本発明によるアダプターを連結でき、コクサッキーアデノウイルス受容体の細胞外ドメイン中のものとしては不含の部分を部位a中に想定することができる。特に当業者は、部位aの機能を保ちつつ、しかも本発明によるアダプターをファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質に連結させることが可能なように、コクサッキーアデノウイルス受容体の細胞外ドメインの個々のアミノ酸を省略、追加および/または別のアミノ酸に置換することができる。
【0021】
したがって本発明によるアダプターを用いると、詳細な予備知識がなくとも、標的細胞類によって発現した受容体類を介して、アデノウイルスのファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質に高親和性を有するアダプターを標的細胞表面に配置し、それによってその標的細胞類へのアデノウイルス粒子の連結を高感度化させることが始めて可能になる。本発明によるアダプターによれば、好ましい方法によって、広範囲の上皮細胞類、繊維芽細胞類、ニューロン細胞類、樹状細胞類、骨芽細胞類および筋細胞類、並びにそれらの細胞型類由来の変性細胞類を、アデノウイルス類に感染させることができる。
【0022】
アダプターの部位bは好ましくは、
・構成アミノ酸の少なくとも半分がグアニジノ側鎖および/またはアミジノ側鎖を有するアミノ酸長が6またはそれ以上のペプチド、
・少なくとも6個のアルギニン側鎖を有するオリゴペプチド、
・HIV tat蛋白質の塩基性領域に対応するアミノ酸配列のペプチド、
・ホメオボックス蛋白質の第3ヘリックス、および
・細胞表面への固定に介在する単純ヘルペスウイルスVP22蛋白質部位
から選択されるものである。
【0023】
特に好ましくは、このようなアダプターの部位bはさらに、
・HIV tat蛋白質の塩基性領域に対応するアミノ酸配列のペプチド、および
・細胞表面への固定に介在する単純ヘルペスウイルスVP22蛋白質部位
から選択されるものである。
【0024】
これらのアダプター類は、多くの特に適した細胞型では、連結され得る物質の連結、特にアデノウイルスの連結のためには、上記以外に言及される部位bを有するアダプター類よりも優れていることが明確に証明された(この場合、アダプターの部位aは、コクサッキーアデノウイルス受容体(CAR)の細胞外ドメインのファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質認識機能部分またはその機能が同一である部分を含むのが好ましい)。
【0025】
典型的な好ましい種類のペプチド類が真核細胞類の表面に配置するのに適しているかどうかについては、確かにこれまで研究されている。しかしながら連結され得る物質、特にアデノウイルスファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質を認識して結合するための部位を有するペプチド類の提供は知られていない。さらにこの言及したペプチド類は、細胞類における巨大分子の輸送に適しているばかりでなく、アデノウイルス粒子を認識して結合する部位aとの連合にも適しており、アデノウイルス類による感染を目的とする本発明によるアダプターを標的細胞類表面へ充分持続的に付加させておくことが可能であることが分かった。
【0026】
米国特許第6495663号では、少なくとも50%がグアニジノ側鎖またはアミジノ側鎖を有するサブユニット6−25個から成る輸送ポリマーが開示されている。その輸送ポリマーは、それに付加した薬剤を、その薬剤単独の場合よりも高い割合で生物学的膜を通過させて輸送するのに適している。本発明によるアダプターをアレンジするためには、当業者は言及された米国特許明細書を見て、好ましい実施形態として明らかにされたのものが、特に本発明の枠内でも好ましいことを目的に合わせて知る。特に有用なものとしては、部位bが線状であってアミノ酸長が7−20のものであり、そのアミノ酸類の各々には最大限1個のグアニジノ側鎖またはアミジノ側鎖が存在するものであることが判明した。
【0027】
さらに米国特許第6316003号では、HIV tat蛋白質あるいは一種または複数のそれらの断片類を用いた「運搬分子類」の細胞外供給のための輸送ポリペプチドが開示されている。その中で特に有用なものとしては、tat蛋白質の塩基性領域、特にアミノ酸数49−57の断片類と理解されるものが記載されている。当業者は、本発明によるアダプターをアレンジするために、所望によりこの特許明細書を確認する。その中で好ましいものとして挙げられた実施例は、本発明によるアダプターの部位bをアレンジするのに、本発明にもかなった特に好ましいものである。それには特にRKKRRQRRRのアミノ酸配列を有するペプチドがある。
【0028】
さらに米国特許第5888762号では、生きている細胞内に巨大分子を導入するためのホメオボックスペプチドの第3ヘリックスの使用が開示されている。このため、当業者が当該特許に開示された4番目の形態をふまえ本発明によるアダプターを製造しようとする際は、上記特許明細書が役に立つ。米国特許第588762号において好ましいものとして記載されている実施形態も、特に本発明にかなった好ましいものである。本発明に特に好適なものとしては、ホメオドメインの43−58のアミノ酸類を有するホメオボックス蛋白質断片、特にアンテナペディアのホメオボックス蛋白質由来のものが挙げられており、同じくそれらに対応するホメオボックス蛋白質の断片類、エングレイルド−1、エングレイルド−2,hoxa−5、hoxc−8およびフシ−タラズ(fushi tarazu)も好ましい。特に好ましくは、本発明によるアダプターの部位bがRQIKIWFQNRRMKWKKのアミノ酸配列を有するペプチド、即ち、ユープリマ・スコロペス(Eupryma scolopes)のアンテナペディアのホメオドメイン蛋白質(アクセッション番号:AY052758)のアミノ酸43−58位のアミノ酸配列を含むものが挙げられる。
【0029】
最後に、米国特許第6184038号では、輸送蛋白質としての単純ヘルペスウイルスVP22およびその相同体類の使用が開示されている。このため、当業者が当該特許に開示された最後の形態をふまえて本発明によるアダプターを製造しようとする際は、この特許明細書の開示を引用する。本発明にかない、本アダプターの部位bとして特に好ましいものとしては、VP22蛋白質の34個のC末端部のアミノ酸類および対応する類似ペプチド類および/または相同ペプチド類であって、細胞表面に蛋白質を配置することができるように媒介するものが挙げられる。
【0030】
そのようなアダプター類としては、特に部位bにおいてHIV tat蛋白質の塩基性領域および/または細胞表面での固定に介在する単純ヘルペスウイルスのVP22蛋白質断片、あるいはそれらのペプチド類の一部分を含み、由来が異なる細胞類の負に荷電しているエレメント類に付加することができるものが好適に挙げられる。特に上皮起源の細胞類の表面に付加すると、良好な成果が得られる。従来の諸研究に従って、細胞接着傾向が高い細胞類の表面に付加しても良好な成果が得られる。従って本発明にかなうものは、上皮起源の腫瘍類の抑制および/または細胞接着傾向が高い腫瘍類の抑制のための薬剤の製造に好適なアダプター類が特に好ましい。それは特に上皮性癌腫類、肉腫類、グリア芽腫類および星状細胞腫類に対して有効である。
【0031】
本発明によるアダプター類に特に好適なものは、部位bにおいてHIV tat蛋白質の塩基性領域および/または細胞表面での固定を媒介する単純ヘルペスウイルスVP22蛋白質の断片またはそれらのペプチド類の一部を含み、それによって多数の細胞型に対する、たとえばアデノウイルスの形質導入率を、比較的低濃度域でも明らかに改善することができるアダプターである。従って特に好ましくは、連結され得る物質に対するリンカーのモル濃度に関して、連結され得る物質よりもわずか5000倍高い濃度で、本発明によるアダプターを用いることである。たとえば、アデノウイルス(または表面にファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質を有する物質に相応して)を連結させるためには、このアダプターを用いることでアダプターとアデノウイルスとは、ファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質に対するアダプター分子のモル比が5000(アダプター):1(ファイバーノブ蛋白質)以下で、混合する。背景技術から知られた方法に従うと、さらにかなり過剰量の補助物質類が必要になる。このため、たとえばGrattonらによると、使用するAntP蛋白質を、ファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質に対するAntPの比率が少なくとも2.5×107(AntP):1(ファイバーノブ蛋白質)になるように用いることではっきりしたわずかな効果が得られ、Grattonらによる方法においては、2.5×109:1の比率で最高の効果が得られる。
【0032】
通常、連結され得る物質類は、リンカー、つまりアダプターの部位aによって認識される表面の構成成分(たとえば繊維瘤蛋白質のような)を有する。その場合、特に好ましくは、リンカーに対するアダプター比が少なくとも10:1から1500:1までであり、特に100:1から500:1が好ましい。たとえば、アデノウイルスは、本発明によるアダプターにおける濃度が、好ましくは0.1−100nM、特に好ましくは0.5−50nMおよびさらに好ましくは1−10nMnになるように標的細胞類表面に配置される必要がある(尚、あるアダプターでは、部位bにHIV tat蛋白質の塩基性領域および/または単純ヘルペスウイルスのVP22蛋白質の細胞表面での固定を媒介する断片類またはそれらのペプチド類の一部を含む)。多数のCAR不含細胞型における、アデノウイルスの形質導入率の明らかな改善を達成するには、本発明のアダプターの低濃度域でほぼ充分である。
【0033】
本発明によるアダプターが、その二量体、三量体および/またはオリゴマー類の形成のためにオリゴマー化部位もさらに含む場合も有益であることが判明した。このオリゴマー化部位を想定することによって、アデノウイルスのファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質または連結され得る物質に対する本発明によるアダプターの親和性は、簡単に持続的に増大させることができる。オリゴマー化部位としては、特にGCN4蛋白質のオリゴマー化ドメイン類および/またはロイシンジッパードメイン類が好ましい。
【0034】
本発明によるアダプターの製造については、粗面小胞体内および好ましくは細胞外空間でもアダプターの合成を引き起こすリーダー配列をさらに含む場合に特に良好な結果となった。このようにすれば、本発明によるアダプター類を製造する真核細胞類から当該アダプターを容易に導出させることができる。リーダー配列としては、コクサッキーアデノウイルス受容体の天然型リーダー配列が特に好ましい。合目的的には、本発明によるアダプター類は、コクサッキーアデノウイルス受容体の膜貫通ドメイン類を持たないものが良い。これらの膜貫通ドメイン類がないことによって、本発明によるアダプターの、発現性真核細胞類から細胞外空間への放出がさらに簡略化される。
【0035】
本明細書に記載の考え方には、アダプターをコードする核酸類も本発明に従い、その一部として主張されている。そのような核酸は、宿主細胞類または生産細胞類におけるアダプターの製造を簡略化する。
【0036】
そのアダプターをコードする核酸は、特にウイルスゲノムの一部であり得、その中でも発現ユニットの形で存在するものが好ましい。それに応じて、真核細胞類、特にヒトおよび/または動物の細胞類の培養において、野生型よりも改善された分布拡大諸特性を有する組換えウイルスも、本発明で主張されている。そのウイルスは、野生型のものよりも改善された腫瘍溶解諸特性も有する可能性がある。
【0037】
本明細書に記載の考え方では、アダプターを発現させるためのウイルスは、好ましい実施形態では、少なくともウイルスの増殖段階でウイルス外殻(Virus-Hulle)を有するものであり、そのウイルスは、
・直前に記載したような核酸、および
・アダプターの部位aに連結可能なウイルス外殻蛋白質発現のための核酸断片
を含むものである。
【0038】
さらにウイルスについては、その核酸が宿主細胞内で増殖可能であって、その際、その核酸が所望により複数のユニットから構成される粒子(ウイルス粒子)の中に被包化され得、さらに所望によりウイルス粒子内に被包化された核酸が(たとえばその宿主細胞類が死んだ場合に)別の宿主細胞内にも侵入するために、その宿主細胞類から遊離可能である核酸含有ユニットであると解釈されるものである。本発明によるウイルスの例としては、部位aがアデノウイルスファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質を認識して結合する部分を含む本発明によるアダプターを発現するための核酸を有し、2型および5型のアデノウイルスから誘導されたウイルス類が挙げられる。
【0039】
アデノウイルス粒子(本明細書の記載では時には「ウイルス粒子」とも略語化される)については、核酸を包み込むかまたは別な方法でそれに連結しており、その核酸が発現すると自身の産生を引き起こし、少なくとも1個のアデノウイルスファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質を有する各本体であると解釈されるものである。特に従来のアデノウイルス類のウイルス粒子は、本発明の諸目的におけるアデノウイルス粒子である。さらに特に好ましくは、そのアデノウイルス粒子が直前に記載したような本発明によるウイルスのウイルス粒子である場合である。
【0040】
本発明によるウイルス粒子は、宿主細胞内での本発明によるアダプターの製造も、あるいは本発明によるアダプターによって認識され結合され得るウイルス外殻またはウイルス粒子の産生も、容易に可能にするものである。さらに本発明によるウイルスは、標的細胞類の培養において、標的細胞類にウイルスを連結させるための特別な受容体類をわざわざ使用しなくとも拡がることができる。最初の標的細胞類が、そのウイルスに感染して本発明によるアダプターの産生が開始されると、すぐにアダプターはその最初の標的細胞類から遊離して別の標的細胞類の表面に配置される。最初の標的細胞類から遊離した本発明によるウイルス類は、次に上記のようにして変化を受けた別の標的細胞類に、本発明によるアダプターを介して連結し、別の標的細胞類に感染することができる。
【0041】
特に好適には、組織特異的に増殖が調節されるウイルスが挙げられる。この場合、本発明によるウイルス類の拡がりは、指定された組織類(標的組織類)、たとえば腫瘍組織類に主として限られる。好ましくは、ウイルス増殖を組織特異的に調節するために使用可能なプロモーター類、たとえばAFP−(α−フェトプロテイン)腫瘍マーカー用プロモーター類、前立腺特異性抗原(PSA)用プロモーター類、テロメラーゼ(hTERT)蛋白サブユニット用プロモーター類および転写因子類によって調節されるプロモーター類、特にmyc、myb、E2Fなどの、マイトジェンシグナルの結果、活性化および/または増強される転写因子類によって調節されるプロモーター類、が挙げられる。
【0042】
それと同様にまたは代替としては、本発明によるアダプター類をコードする核酸部位が組織特異的に調節されるウイルスが好ましい。この場合、本発明によるアダプターの発現は、主として標的組織に限定され得る。組織特異的に調節するためには、前段落に記載のプロモーター類も用いることができる。
【0043】
同じく好ましいものとしては、細胞死誘発性物質をコードする核酸をさらに含むようなウイルス類が挙げられ、特に好ましくはその核酸が備わると細胞死誘発性物質が組織特異的に発現するものが挙げられる。それにふさわしい核酸には、特に本発明によるアダプターをコードする部位を含む核酸断片があり得る。本発明による核酸がコード化可能な好ましい細胞死誘発性物質としては、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼおよびシトシンデアミナーゼが挙げられる。特に好ましくは、そのウイルスが腫瘍溶解性である場合のものである。
【0044】
本発明によるアダプターが細胞表面よりも、または細胞表面へのアダプター配置を媒介し得る細胞表面エレメント類よりも、ウイルス粒子、特にファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質に対して高い親和性を有する場合、ウイルス粒子は、細胞表面に付加される前に多数の本発明にアダプターで通常、すぐに被覆される。
【0045】
さらに本発明によると、ある物質、特にアデノウイルス粒子の細胞表面への連結を、非医療領域で、媒介および/または改善するために、本発明によるアダプターを用いることも明示される。本開示に記載されているように、本発明によるアダプターは、本質的に天然型の受容体類に依存せずに、あるいは宿主細胞の広く分布した細胞表面エレメント類の媒介のもとで、アデノウイルス粒子で感染させるかまたは別の連結され得る物質を連結させるのを容易にできる。このようにして、たとえば真核細胞培養物の感染におけるような、形質転換効率は、好適に容易に改善され得る。
【0046】
本発明によるアダプター類は、特にアデノウイルス類による固形腫瘍類の感染率を高めるのに好適である。このようにすると、感染に必要とされるウイルス力価を低下させることができ、それによって動物モデル、またはヒトにおいても、アデノウイルス含有の医薬品または製剤の肝毒性を低下させることができる。
【0047】
本発明によると、ある物質、特にアデノウイルス粒子を、細胞表面に非医療分野で、連結させるための方法も主張されており、以下の諸工程を含むものである。
a)連結し得る物質(特にアデノウイルス粒子)を、本発明によるアダプターに曝露してその物質をアダプターに備え付ける工程、および
b)アダプターを備えたその連結され得る物質に細胞表面を曝露する工程。
【0048】
工程aにおいては、特にアデノウイルス粒子を本発明によるアダプターに備えることができる。この場合、ウイルス粒子を多くの本発明によるアダプターにあてがってウイルス粒子を本発明によるアダプターで被覆するのが好ましい。第二の工程では、そのように処理されたアデノウイルス粒子類の一用量分(すくなくとも1粒子)に標的細胞類をあてがって本発明によるアダプターを介して細胞表面に少なくとも1個の粒子の連結を可能にする。このようにすると、その細胞表面ではコクサッキーアデノウイルス受容体は全くまたはごくわずかな量しか発現せず、これまでアデノウイルス類で感染させるには不適であった標的細胞類に、アデノウイルス類を効果的に連結させることがはじめて可能になる。本発明による方法を用いると、たとえばストローマ線維芽細胞類を満足すべき効率で感染させることがはじめて可能になる。
【0049】
同じく、ある治療方法では、本発明によるあるアダプターを用いて、ある物質、特にアデノウイルス粒子、のある細胞表面への連結を仲介および/または改善することができる。最終的には、アデノウイルス類および/またはそれから導出されるウイルス類を用いる遺伝子治療類、たとえば腫瘍治療、の枠内で特に有利であることが挙げられる。ある治療法においても、最初に本発明によるアダプターにウイルス粒子を備え付け(特に被覆させ)、つづいてそのように処理されたウイルス粒子に標的細胞を曝露するのが好ましい。
【0050】
従って、ある物質、特にアデノウイルス粒子をある細胞表面に連結させることを媒介および/または改善する薬剤を製造するために、本発明による核酸および/または本発明によるウイルスを用いることは好ましいことであり、特に好ましくは本発明によるウイルスを用いることである。そのような薬剤を用いると、直前に記載してある本発明によるアダプター類およびウイルス類の医療上の使用が、達成しやすく、特に容易に実現され得る。特に、これまでアデノウイルス類に感染させることができないかまたは困難な細胞類、特に腫瘍細胞類およびストローマ線維芽細胞類でも、適切な薬剤を用いることで、医療上の諸目的に充分な程度に感染させることがはじめて可能になる。線維芽細胞類には、増殖性の腫瘍類に栄養を供給するための本質的な役割があり、従ってこの易感染性を改善することは、腫瘍治療における著しい進歩を意味するものである。
【0051】
ある細胞表面へのある物質(特にアデノウイルス粒子)の連結を仲介および/または改善するための本発明による薬剤は、従って
・本発明によるあるアダプターおよび/または本発明によるウイルス、および
・医薬適合性のある担体
を含むものである。
【0052】
実用的には、その薬剤については、一方の部分が本発明によるアダプターを含み、もう一方の部分が本発明によるウイルスを含む、2個の分離した部分から成る製剤が重要であり得る。この製剤は、アデノウイルス粒子の連結を媒介および/または改善するのに当然有用なものであり、従って患者に投与する前にその製剤の両方の部分を混合してアデノウイルスファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質を、本発明によるアダプターに連結するのが好ましく、そのような適切なアダプター装填性ウイルス類は、本質的に任意の組織類、特にコクサッキーアデノウイルス受容体を全くまたはわずかな量しか発現しないような組織類においても、感染させるのに特に適している。
【0053】
本開示に記載されている本発明による方法類および諸使用は、特にヒト起源の細胞類に関連して、用いることができるものである。しかしながらアダプターを標的細胞類の表面に配置できるようにアダプターの部位bを選択することで、本発明によるアダプター類は、そのほかの起源の標的細胞類表面へ、アデノウイルスファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質(この蛋白質を含有するウイルス粒子を含めて)のような物質を配置させるのにも適するものとなる。そのほかの起源の標的細胞類には、特にサルまたはイヌ由来の、またはその体内の、標的細胞類とすることができる。
【0054】
本発明によるアダプター類およびウイルス類は、完全な組織類および少なくとも特殊な完全生物体類、特に動物類の形質導入にも好適である。従ってそれらはヒトまたは動物、特にマウス、ラット、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウサギでの遺伝子治療法において、および生殖系列に登録可能な遺伝子改変動物、特にマウス、ラット、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウサギの製造に好ましく、有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
図1は、4種類の本発明によるアダプター蛋白質類の1次構造における構造を図によって示すものである。全てのアダプター類は、N−末端部にコクサッキーアデノウイルス受容体のリーダー配列を有する。そのリーダー配列は、そのアダプターを発現する宿主細胞類の小胞体中で、本発明によるアダプターの合成を引き起こす。そのリーダー配列には、コクサッキーアデノウイルス受容体の細胞外ドメイン類が接続しており、それは本発明による部位a)に相当する。その細胞外ドメイン類の後に、本発明によるアダプターの部位b)が、C末端方向に続いている。このことは4種の標示アダプター類(上から下へ)において、単純ヘルペスウイルスVP22蛋白質、HIV tat蛋白質の塩基性領域、9個のアルギニン残基類含有オリゴアルギニンペプチドおよびホメオボックス第3ヘリックスの、細胞表面への固定に介在する部位として各々、示してある。部位a)とb)との間には、図示されているように、二量化支援ドメイン(ここではGCN4由来のロイシンジッパー)を配置することができ、それはファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質に対する本発明によるアダプターの親和性を高めることができるものである。
【0056】
図2は、本発明によるベクター類を使用してアデノウイルス類に感染したNIH3T3細胞類の細胞培養物の写真を示すものである。対照(左上に示す)としては、本発明によるベクターを用いずにアデノウイルスに曝露したNIH3T3細胞類の培養物を用いた。NIH3T3細胞類の感染前に、本発明によるアダプター類は293−細胞内で発現され、細胞上清中に分泌した。本発明によるアダプター類を各々コード化する核酸で293−細胞類をトランスフェクトし、36時間後にその細胞上清を取り出し、LacZをコードしているアデノウイルス類と混合した。本発明による各々のアダプターをそのように装備しているアデノウイルス類を、NIH3T3細胞類培養物に加えて感染させた。感染多重度(MOI)は10であった。48時間後に細胞培養物類を、Xgal青染色によってβ−ガラクトシダーゼ発現について試験した。その際、アデノウイルスに感染した細胞類は青く着色した。感染については、HIV tat蛋白質の塩基性領域(右上に示す“CAR−Tat”)、あるいは単純ヘルペスウイルスVP22蛋白質の細胞表面への結合を仲介する部位(右下に示す“CAT−VP22”)のいずれかを部位b)に有するような本発明によるアダプターで最高の状態であった。しかしながら、部位b)にAntP−ホメオボックス蛋白質第3ヘリックスを有する本発明によるアダプターでも、対照例に対してわずかに改善された感染率に至った(左下に示す“CAR−AntP”)。
【0057】
図3は、本発明によるアダプター類の作用方式を図示するものである。アデノウイルス粒子類は、CAR不含細胞類に全くまたはわずかしか感染できない(左上に示す)。感染率については、感染され得る細胞類がその表面にコクサッキーアデノウイルス受容体を発現する場合に、明らかに増大する(左下に示す)。本発明によるあるアダプターは、CAR不含細胞類へのアデノウイルス粒子の停留を仲介する(右中央に示す)。さらに本発明によるアダプターは、その部位aでアデノウイルスの線維瘤蛋白質に結合する。その部位bは、標的細胞類の細胞表面、特に細胞型において細胞表面に広く分布したエレメント類、に対する高い親和性を有する。本発明によるアダプターは、高い親和性を有する細胞表面または細胞表面エレメント類とアデノウイルス粒子との接触を仲介する。その接触の成立後、アデノウイルスは内部化され、標的細胞類の感染が起こる。
【0058】
図4は、本発明によるあるアダプターをコードしているアデノウイルス類に部分的に感染している細胞培養物を図示するものである(左外側および右中央の細胞)。その感染細胞類は、本発明によるアダプター類も発現し、それらを細胞外空間に遊離させる。しかしながらその感染細胞類は、新たなウイルス粒子類も産生し、それらは細胞溶解の際(中央下に示す)に遊離し、細胞外空間に存在する本発明によるアダプター類によって部分的に被覆される。そのように(少なくとも部分的に)被覆されたアデノウイルスはさらに別の細胞に感染することができ(中央左、中央上および右下に示す)、本発明によるアダプター類も新たなアデノウイルス粒子もそこで製造することができる。細胞培養物の感染はそのように自己拡大する。
【0059】
図5は、異なる細胞型類に対するいくつかの、一部は本発明によるアダプター類の形質導入能率の改善の比較を示すものである。その際、293−細胞は、分割図類に各々挙げているアダプター蛋白質類をコード化する発現ベクター類でトランスフェクトされた。293−細胞のトランスフェクト36時間後、この細胞培養上清をアデノウイルス類(Ad−LacZ)と混合し、分割図類に各々挙げている細胞培養物類を培養培地中に加えた。4時間後にその培地をウイルス不含培地と交換した。細胞培養物類を、通常の培養諸条件下でさらに48時間培養した。形質導入率および感染度については、β−Galアッセイによって測定した。レポーター遺伝子の発現が、アダプターを伴わない感染と比較して少なくとも5倍増大するため、本発明によるアダプター類、CARex−VP22またはCARex−Tatの使用による、試験した全ての細胞型類(RT−101、RKO、BNL、T36274、MCF−7、HT−1080、SAOS−2およびSKLU 1)における形質導入能率は改善されることが分かる。適した細胞型類(SAOS−2およびSKLU 1)では、CARex−AntPの使用によっても、アダプター不含の感染に対する形質導入能率の改善が達成される。それ以外の試験したアダプター類は無効であった。
【0060】
図6は、いくつかの、一部は本発明によるアダプター類の形質導入の別な比較を示すものである。hCARの全外部ドメインと塩基性ドメイン類とから成り、Tat、VP22およびAntPによって導出した組換え型の可溶性アダプター蛋白質類は、CAR不含のSKLU−1細胞類のアデノウイルス感染を可能にする。この結果判定を確かめるために、凡例に示すようにアダプター蛋白質類および対照の蛋白質類に対する発現ベクター類で293−細胞をトランスフェクトした。産生細胞類の全細胞抽出物類(上)および対応する培地上清類(下)の試料類を、ウエスタンブロット法によってアダプターの発現に関して分析した。上清の分析が示すように(分割図A)、CARex−9XArgは、CARex−Tatまたは−VP22および−AntPとは異なり、上清中に検出できなかった。
【0061】
分割図Bは、アダプター発現性293−細胞類の平衡化容量の上清で処理したSKLU−1細胞類の試験結果類を示すものである(図5の対応する記載を参照)。AdLacZは10のMOIで加え、感染は4時間実施した。48時間後に感染細胞類をX−gal染色法によって検出した。CARex−VP22または−Tatは、これらのCAR不含株化細胞類の効率的なアデノウイルス感染を可能にした。CARex−AntPの場合では、わずかな上昇を認めるにすぎなかった。そのほかの全ての対照蛋白質類は、pBluescriptでトランスフェクトした産生細胞類の上清を用いる陰性対照と同様に、細胞類の感染は起こらなかった。
【0062】
図7は、上皮起源の腫瘍細胞類に対する、いくつかの本発明によるアダプター類の形質導入率の比較を示すものである。分割図Aに結果類が示される試験では、異なる細胞型類には、アダプターの最終濃度2nMで、CARex−VP22またはCARex−Tatを含有する培地を供給した。すぐにAdLacZ(MOI 10)を加え、感染を4時間実施した。さらに培養48時間後に、X−gal染色法によって感染効率を評価した。アダプターで支援した感染類における形質導入率は、アダプター不含のそれぞれの対照類の場合よりも平均して少なくとも20倍高いことが分かる。
【0063】
分割図Bは、1μgの組換え型CARex−VP22またはCARex−Tatを培地で希釈(各々、約4nMまたは8nMに相当)し、Ad−GFP(MOI 30)と混合し、掲げる標的細胞類に加えた試験結果を示すものである。感染は4時間行なった。48時間培養後に、顕鏡して蛍光を観察し、FACS分析法によって感染効率を算出した。それらの結果類から、取り上げたアダプター類が低濃度では非許容または弱許容細胞類を100%近い効率で感染させることが示された。
【0064】
図8では、非上皮起源の細胞類に対するいくつかの本発明によるアダプター類の形質導入率の比較が示されている。非上皮起源の細胞類(たとえば免疫細胞類、および神経系由来の細胞類)においても、CARex−VP22または−Tatの適用によってアデノウイルス感染が増大することが分かる。
【0065】
分割図Aは、RAW264.7マクロファージ類およびP388D.1モノサイト類−マクロファージ類を、培地含有の2nM組換え型CARex−VP22またはCARex−Tat、並びにAdLacZ(MOI 10、感染時間4時間)で処理した試験結果類を示すものである。感染効率は、β−GalアッセイおよびX−gal染色法で測定した。本発明によるアダプター類を用いることで、形質導入効率が25倍上昇することが可能であることが分かる。
【0066】
分割図Bを導く試験では、AdGFPを(MOI 30)、CARex−VP22またはCARex−Tat(各々、最終濃度が4nMまたは8nM)と共にRAW264.7およびp388D.1標的細胞類に加えた。感染効率を蛍光顕鏡およびFACSによって測定した。本発明によるアダプター類を用いることで、細胞培養物の細胞類の88%またはそれ以上が形質導入され、一方、アダプターを用いない対照では細胞類の1%のみが形質導入されたことが分かる。
【0067】
分割図Cは、2nMのCARex−VP22またはCARex−Tatと共にAdLacZでDC2.4樹状細胞類をMOI 50で処理し、感染時間を30分とした試験結果類を示すものである。その定量は、β−GalアッセイおよびFACS分析類(AdGFPを比較可能なように用いた)によって行なった。また本発明によるアダプター類を用いると、発現率は対照と比較して少なくとも5倍になることが分かる。
【0068】
分割図Dにおいては、不死化シュワン細胞類(ISC)を、分割図Aの説明の項の記載と同様に処理した。その感染度をX−Gal染色法によって視覚化した。本発明によるアダプター類を用いると、使用した細胞培養物の充分な移入が達成できたことが分かる。
【0069】
図9は、適する細胞類の形質導入のために条件複製性のウイルス類を用いる可能性を検証する試験の結果類を示すものである。この図からは、条件複製性の、および構成的複製性のアデノウイルスベクター類による主要細胞類のウイルス溶解が増大する受容体非依存性感染を、CARex−VP22または−Tatが仲介したと読み取ることができる。腫瘍細胞の被膜類を、hTert−Ad(条件複製性ベクター)、Ad−wt(構成的複製性ベクター)およびAdGFP(非複製性対照ベクター)で、凡例に記載されているようなMOIで感染させた。さらに細胞類を、非複製性発現ベクター類、AdCARex−VP22、AdCARex−TatおよびAdGFP(対照)で、MOI 25(低許容細胞類、SAOS−2、HT1080およびMCF−7に有効、Aに参照されるように)またはMOI 2(許容株化細胞類、Huh7およびHepG2に有効、Bを参照)で処理した。複製6日後に、ウイルスの複製と溶解との結果としての細胞被膜の破壊を、クリスタルバイオレット染色法によって視覚化した。
【0070】
図10は、いくつかの本発明によるアダプター類を伴う、アデノウイルス類の装填持続性を測定するための試験結果を示す。AdGFPをDMEMに対して透析し、AdGFPの提供されたアデノウイルス−ファイバーノブ(Fiberknob)分子類に対して10倍の過剰な分子数の組換え型CARex−VP22またはCARex−Tatで処理した。対照としては、非処理AdGFPを使用した。このように処理したウイルス調製物をCsCl密度勾配類上に装填し、超遠心処理して蛋白質の過剰分を分離した。観察されたウイルスの帯域類をそのグラジエントから抽出し、DMEMに対して透析し、OD260の測定によって定量した。次にSKLU−1細胞類をMOI 50で4時間感染させた。高い感染率を証明することができた。それらの結果類から、CARex−VP22または−Tatはアデノウイルスベクター類と安定な複合体類を形成することが示される。
【0071】
図11は、いくつかの、一部は本発明によるアダプター類の形質導入効率に対する培地のpH値の影響の比較を示すものである。アダプター蛋白質類を、図5に記載してあるように製造し、対応する上清のpH値を4.8−7.3に調節した。次に上清類を、各々に適した濃度類のAd−LacZと混合し、それをNIH3T3細胞類の感染に用いた(ウイルス含有上清類に細胞類を30分曝露させ、次にその媒体を培地と交換する)。48時間培養後、全細胞類の溶解物類のβ−ガラクトシダーゼアッセイによって感染効率を試験した。pH値が低いほどβ−ガラクトシダーゼの発現が高くなることが分かる。このことから、本発明によるアダプター類が腫瘍瘤類内部での細胞類のトランスフェクションも、通常酸性媒体中で有利に改善するのに好適であるという結論が認められる。
【0072】
図12は、本発明によるアダプターの添加に対して好ましい、異なる標的細胞類に連結する物質の添加の影響を示すものである。CARex−VP22を、図5に記載しているように製造した。アダプター含有の上清は、標的細胞類(SAOS−2およびSKLU−1)を培養して得た。X軸に挙げた時間の後に、Ad−LacZを添加した。細胞培養物を30分培養し、次に媒体を、ウイルスおよびアダプター不含の通常の培地と交換した。48時間培養後に、全細胞類の溶解物類のβ−ガラクトシダーゼアッセイによって感染効率を試験した。SKLU−1細胞類のβ−ガラクトシダーゼの発現は、アデノウイルスの添加が約30分遅れると約半分になり、SAOS−2細胞類ではアデノウイルスの添加が1.5時間以上遅れると初めて半分になることが分かる。本発明によるCARex−VP22アダプターは、細胞表面にアデノウイルスを連結させるのに培地内で長く使用するの適し得るものである。
【0073】
実施例類および図面類をもとにして、本発明をさらに詳しく説明するが、図面類および実施例類は、本発明の対象を限定すべきものではない。以下に示す。
【実施例1】
【0074】
ポリヌクレオチド類の製造
CAR1-235VP22融合蛋白質(本発明によるアダプター)を生成するのに必要なcDNAをPCRによって生成した。鋳型としては、LXSN−hCARプラスミド(DeGregori博士、米国、デンバー市、の好意による譲渡)内に含まれるヒト・コクサッキーウイルスとアデノウイルス受容体とのcDNA(hCAR)を用いた。5’−プライマーとしては、
【0075】

【0076】
オリゴヌクレオチド(イタリック体はkpn I断片部分、太字はhCARの本来の開始コドン)を用い、3’−プライマーとしては、
【0077】

【0078】
オリゴヌクレオチド(イタリック体部分はNotI断片部分、太字はhCAR(Entrez Pubmet 受け入れ番号NM 001338)の776−807位の塩基類の相補体)を用いた。この含有断片には、hCARのリーダー配列およびその細胞外ドメインが含まれる。PCRは、Pfuポリメラーゼを用いて、49℃で5サイクルおよび55℃で30サイクルで行なった。そのPCR産物をアガロースゲル電気泳動で精製し、KpnIおよびNotIで消化して両末端部分を平滑化した。次にこの断片をpVP22mycHisベクター(Invitrogen社製)の対応する制限断片部位に挿入し、pCAR(ex)−VP22プラスミドを得た。HIV−TAT、AntPおよび9Xアルギニン配列(9XArg)の細胞接着ドメイン類を有するhCARの細胞外ドメイン融合蛋白質用のプラスミド類は、以下のようにクローニングした。
【0079】
pCAR(ex)−TAT48-57を生成するために、
【0080】

【0081】
オリゴヌクレオチド(センスオリゴヌクレオチド、太字はTAT蛋白質の48−57位のアミノ酸類(配列:GRKKRRQRRR)をコード化するHIVゲノム(アクセッション番号:NC 001802)の5518−5547位の塩基類に相当し、イタリック体はNotI/XbaI断片部位に相当する)および対応する相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチド(5’−TTTCTAGACCTCTTCGTCGCTGTCTCCGCTTCTTCCTGCCTCCTCCTCCTCCACTTCCTCCTCCGCGGCCGCTTT−3’)をハイブリダイズさせ、NotIとXbaIとで消化し、pCAR(ex)−VP22プラスミドの対応する制限サイトに挿入した。尚、これは予め制限酵素類、NotIとXbaIとで切断し、アガロースゲル電気泳動によってVP22をコード化するcDNAを分離したものである。
【0082】
AntPおよび9XArgの変異体類の生成は、同様な工程によって実施した。
【0083】
9XArgをコード化するDNAには、
【0084】

【0085】
オリゴヌクレオチド(センスオリゴヌクレオチド、太字はRRRRRRRRRのアミノ酸配列をコード化するDNAに相当し、イタリック体はNotI/XbaI断片部位に相当する)および対応する相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチド(5’−TTTCTAGACCTCTACGTCTCCTTCTCCGTCGGCGACGTCCTCCTCCTCCACTTCCTCCTCCGCGGCCGCTTT−3’)を用いた。得られたプラスミドの名前はpCAR(ex)−9XArgである。
【0086】
Anpをコード化するDNAには、
【0087】

【0088】
オリゴヌクレオチド(センスオリゴヌクレオチド、太字はユープリムナ・スコロペス(Euprymna scolopes)のアンテナペディアのホメオドメイン蛋白質(アクセッション番号:AY0522758)に対する部分的cdsの184−231位の塩基類に相当し、62−77位のアミノ酸類、即ちRQIKIWFQNRRMKWKKの配列、をコード化するものであり、イタリック体はNot I/Xba I断片部位に相当する)および対応する相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチド(5’−TTTCTAGACCTTTCTTCCATTTCATGCGCCGGTTTTGGAACCATATTTTGATCTGTCTTCCTCCTCCTCCGCGGCCGCTT−3’)を用いた。得られたプラスミドの名前は、pCAR(ex)−AntP62-77である。
【0089】
用いた全てのオリゴヌクレオチド類は、さらに細胞接着ドメインの5’−方向で、複数のグリシン/セリン残基類を任意に有することができ、そのドメインをCARドメインから空間的に分離する。
【0090】
これらの開示したプラスミド類の配列を決定し、Qiagen Endofree Plasmid Maxi Prep キットを用いて調製した。CAR融合蛋白質の分析に必要な量の製造は、カルシウム沈殿法またはリポソーム形成によって293−細胞にトランスフェクトして行った。トランスフェクト後24−48時間に、細胞培養物上清中に含有する融合蛋白質類を分析のためにさらに用いることができた。
【実施例2】
【0091】
感染細胞培養物類から蛋白質の調製を行なうための、CAR(ex)融合蛋白質類をコード化するアデノウイルス類の製造
CAR1-235に対する発現ユニットを含むアデノウイルスの生成は、MizoguchiおよびKayによるクローニング系(Hum.Gene Ther.1998,9(17),p.2577−2583)を用いて行なった。シャトルベクターのための起点のベクターとしては、pHM3のMCSの中にpBK−CMVベクター(Stratagene社製)の完全発現カセット(CMV−プロモーター/MCS/SV40−ポリアデニル化シグナル)を含むpHM3ベクター改変体(pHM3/pBK−CMV)を用いた。CAR1-235−VP22用のcDNAは、pCAR(eX)−VP22プラスミドをもとに、Hind IIIで消化し、Klenow断片で処理し、次にPme Iで消化して調製し、pHM3/pBK−CMVベクターのSmaIサイトに挿入した。得られた構成体(p4622)の正しい方向性は、KpnIによる消化によって検査した。アデノウイルス性プラスミドのクローニングは、p4622由来のPI−Sce/I−Ceu断片を単離し、それをpAdHM4アデノウイルスベクターの対応する断片位内に連結して行なった。その連結によってpAd4679構成体を得た。そのベクターのPacIで線状化した調製物を、293−細胞に感染させて感染粒子体を生成させた。細胞変性効果の出現後に細胞類を収集し、3回の凍結・解凍処理によって感染粒子体を遊離させた。細胞の死骸を遠心法で分離し、上清を高力価ウイルス調製物の製造に用いた(得られたアデノウイルスをAd4679と表示する)。高力価の組換えウイルス類の獲得は、同じく293−細胞類で行ない、CsCl濃度勾配超遠心法によってウイルス含有溶解物をさらに精製した。
【0092】
CAR1-235−TAT48-57用の発現カセットを有するアデノウイルスの生成は、HeおよびVogelsteinの組換え系(Heら、Proc.Natil.Acad.Sci.USA,1998,vol.95,p.2509−2514)を用いて行なった。CAR1-235−TAT48-57をコード化するcDNAを、Hind IIIとPmeIとの消化によってpCAR(ex)−TATプラスミドから単離し、pShuttle−CMVベクターのHind III/EcoRVサイトに配置した。連結してp4923構成体を得た。この構成体p4923をPmeIで線状化し、次にAdEasy 1アデノウイルス性ベクターと混合した。この沈降物で組換え大腸菌BJ5183株を電気穿孔処理した。それによって生成した組換えアデノウイルスプラスミドを、p5091と呼んだ。Pac Iで消化したこのベクター調製物を用いて、293個の細胞の移入処理を行ない感染性粒子を生成させた。細胞変性効果の出現後に、その細胞類を収集し、3回の凍結・解凍処理によって感染性粒子を遊離させた。細胞の死骸を遠心法で除去し、その上清を高力価ウイルス調製物類の製造に用いた(得られたアデノウイルスはAd5091と呼ぶ)。
【実施例3】
【0093】
アデノウイルス感染細胞類の上清類からの組換えCAR融合蛋白質の製造
その組換えCAR(ex)融合蛋白質類は、C末端で任意の6Xヒスチジンの動きを取ることができ、プラスに荷電したNiイオン類と複合体を形成することができる。このようにして、固相結合化ニッケルイオン類を用いて複合性蛋白質混合物類から融合蛋白質類を精製することができる。
【0094】
前述のアデノウイルス類Ad4679およびAd5091を、CAR融合蛋白質類の生産用のベクター類として感染宿主細胞類に用いた。
【0095】
組換え蛋白質類の生産用の株化細胞類としては、COS−1、HepG2、Huh 7等のような全ての接着化し、アデノウイルスに感染可能な細胞型類が原則として適している。感染したCOS−1細胞類は、その上清で大量の活性化CAR融合蛋白質類を産生したため、使用に好適であった。COS−1細胞類は、DMEM(2%ウシ胎児血清補充)中、10−50のMOI(感染多重度)でAd4676またはAd5091と80−90%の融合率で感染させ、37℃で48時間、5%CO2中で培養した。48時間後に感染細胞を、1/10容量の10×被覆緩衝液(500mM NaH2PO4、3M NaCl、100mM イミダゾール)と混合し、インキュベータ中でさらに1分間培養した。その後、細胞上清を採取して以下のカラムクロマトグラフィーによる精製を行なった(尚、感染細胞類は、培養期間中にさらに培地と混合して再度48時間培養した)。得られた上清を集め、所望により紛れ込んだ細胞類を1000×gで10分間遠心分離し、孔径0.22μmのフィルターで無菌ろ過して取り除いた。その後、カラムクロマトグラフィーを実施した。そのために、Ni−NTA−アガロース(Qiagen社製)を被覆緩衝液(50mM NaH2PO4、300mM NaCl、10mMイミダゾール)で平衡化し、前述の細胞培養上清を適用した。次に洗浄緩衝液(50mM NaH2PO4、300mM NaCl.20mMイミダゾール)でカラムを洗浄した。CAR融合蛋白質類の溶離は、溶離緩衝液(50mM NaH2PO4、300mM NaCl、50mM L−ヒスチジン)を用いて行なった。溶離液中のCAR融合蛋白質類の濃度および機能については、BioRad Protein Assay、Sypro−Orange染色SDSゲル電気泳動類、および感染発現類によって確認した。充分に濃縮された溶離液類を25%グリセリン含有DMEM培養液に対して透析し、液体窒素中で急速凍結させ、−80℃で貯蔵した。
【0096】
ウイルス会合化した線維瘤の量に対する、用いられるアダプター蛋白質の関係の決定については、以下に記載する。
【0097】
ウイルス含有度は通常の力価測定法類で算出した。その実施は、たとえばウイルス粒子類に関する全含有度の確認のためのOD260測定、1ODは1×1012アデノウイルス粒子類/mlに相当、による分光光学的なものが挙げられる。感染性粒子の含有度は、プラークアッセイ法、Rapid Titer Assay(BD Biosciences社製)によるか、または限界希釈およびその後の統計学的計算によって確認した。
【0098】
アフィニティクロマトグラフィーによる調製物類中のアダプター蛋白質濃度の確認については、CARex−VP22の分子量が約68kDaであり、CARex−Tatの分子量が約38kDaであることを考慮して、通常の蛋白質測定法類(BioRad Protein Microassay、Lowryら、OD230/260)によって行なった。以下の計算は、アデノウイルス中、100%がインタクトの線維瘤蛋白質であるという仮定に簡略化して基づくものである。
【0099】
約250ngのCAR−Tatまたは500ngのCAR−VP22(約2nMの濃度に相当する以下の算定において)は、Ad−LacZを有する1X106の非許容標的細胞類(たとえばSKLU−1またはNIH3T3)の、MOI(感染多重度)25、感染容量3mlでのほぼ100%の感染を仲介するのに充分な量である。
【0100】
25のMOIとは、2.5×107の感染性粒子数に相当する。従って、AdLacZ調製物類においては通常、各々、約1/10の粒子類が感染性であり、それは2.5×108の全粒子数に相当する。アデノウイルス粒子は、各々で12個の線維瘤分子を有し、それは1×109/mlないし1×1012/mlの線維瘤濃度に相当する。アダプター蛋白質は2nM、即ち1.2×1015/mlの濃度で使用した。理論的線維瘤数に対するアダプター蛋白質(100%の機能性蛋白質と仮定して)の望ましいモル比は、従って特に1200である。1200という分子過剰は、解離平衡のような因子類の調整、標的細胞類によるアダプターの受け入れ、および非機能的アダプター蛋白質への関与に役立つ。より少ない予備培養容量域または感染容量域では、より少ない過剰分、たとえば100−150程度でも充分であると予想される。これはインビボでの感染類(マウス、尾静脈内投与)でも、アダプター/線維瘤の関係は、300μlの感染容量中の計算されたアダプター量に必要なウイルス量(たとえばマウス体重20g当り、1×1010)の予備培養において充分である。非結合のアダプターの量は、密度勾配遠心法(CsClグラジエント)によって予め分離することができる。
【0101】
Grattonは、著しい形質導入の改善の達成のためには、連結され得るアデノウイルスの1×106個の感染性粒子類を用いて、溶液量100μl中、濃度域が50μMから5mMであることを言及している。
【0102】
この点においては50μMが、3×1015個のAntP分子類の量に対応して、5nmolのAntPの絶対使用量に相当する。この場合、リンカー分子類(線維瘤)の数は1.2×108であり、また用いられたウイルスの各々10個の粒子が実際に感染性があって1個のアデノウイルス粒子が12個の線維瘤分子類を有するとここでは想定されるものである。従って、リンカー(線維瘤)に対するアダプター(AntP)の計算された関係は、3×1015/1.2×108=2.5×107、ないしはGrattonによる好ましい全使用領域では50μM−5mM、即ち2.5×107−2.5×109個と計算されるのに類似している。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明によるアダプターの図解による構成を示す。
【図2】本発明によるアダプターで被覆されたアデノウイルスに感染した細胞培養物の写真である。
【図3】本発明によるアダプターの作用方式の図説を示す。
【図4】本発明によるアダプターの作用方式の別の図説を示す。
【図5】異なる細胞型に対するいくつかの、一部は本発明によるアダプターの形質導入能率の改善の比較を示す。
【図6】いくつかの、一部は本発明によるアダプター類の形質導入能率の別な比較を示す。
【図7】上皮細胞起源の腫瘍細胞類に対するいくつかの本発明によるアダプター類の形質導入率の比較を示す。
【図8】非上皮細胞起源の細胞類に対するいくつかの本発明によるアダプター類の形質導入率の比較を示す。
【図9】形質導入に適する細胞類に対して条件複製性ウイルス類を用いる可能性を証明するための研究結果を示す。
【図10】いくつかの本発明によるアダプター類を用いるアデノウイルス装填の持続性を決定するための研究結果を示す。
【図11】いくつかの、一部は本発明によるアダプター類の形質導入効率に対する培地pH値の影響の比較を示す。
【図12】本発明によるアダプターの添加に対して遅らせた、異なる標的細胞類への連結され得る物質の添加の影響の図示である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞表面に連結され得る物質を連結するためのアダプターであって、
・前記細胞表面に連結し得る物質を認識してそれに結合するための部位a、および
・一または複数の負に荷電している細胞表面構造体に親和性を有し、前記細胞表面にアダプターを配置するための組換え部位b
を含む前記アダプター。
【請求項2】
部位aとして、コクサッキーアデノウイルス受容体(CAR)の細胞外ドメインの一部または機能的に同一の部分を含み、アデノウイルスファイバーノブ(Fiberknob)蛋白質を認識してそれに結合する部位を含む、請求項1に記載のアダプター。
【請求項3】
部位bが、
・構成アミノ酸の少なくとも半分がグアジニノ側鎖および/またはアミジノ側鎖を有する、アミノ酸長が6またはそれ以上のペプチド、
・少なくとも6個のアルギニン側鎖を有するオリゴペプチド、
・HIV tat蛋白質の塩基性領域に対応するアミノ酸配列のペプチド
・ホメオボックス蛋白質の第3ヘリックス、および
・細胞表面への固定に介在する単純ヘルペスウイルスVP22蛋白質部位
から選択される、請求項1または2に記載のアダプター。
【請求項4】
アダプターの二量体、三量体および/またはオリゴマーを形成するためのオリゴマー化部位をさらに有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアダプター。
【請求項5】
粗面小胞体内でアダプターを合成させるためのリーダー配列をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアダプター。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のアダプターをコードする部位を有する核酸。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のアダプターを発現するためのウイルスであって、
・請求項6に記載の核酸、および
・アダプターの部位aに連結可能なウイルス外殻蛋白質を発現させるための核酸部位
を有し、増殖期にウイルス外殻を有する前記ウイルス。
【請求項8】
細胞表面への物質の連結を非医療分野で媒介および/または改善することへの、請求項1〜5のいずれか1項に記載のアダプターの使用。
【請求項9】
非医療分野における、細胞表面への物質の連結方法であって、
a)連結され得る物質を請求項1〜5のいずれか1項に記載のアダプターに供給するために、前記アダプターに前記物質を曝露させる工程、および
b)連結され得る物質が供給された前記アダプターに対して前記細胞表面を曝露させる工程
を含む、前記連結方法。
【請求項10】
細胞表面への物質の連結を媒介および/または改善する医薬品の製造への、請求項1〜5のいずれか1項に記載のアダプターの使用。
【請求項11】
細胞表面への物質の連結を媒介および/または改善する医薬品の製造への、請求項7に記載のウイルスの使用。
【請求項12】
・請求項1〜5のいずれか1項に記載のアダプターおよび/または請求項7に記載のウイルス、および
・医薬適合性のある担体
を含む、細胞表面への物質の連結を媒介および/または改善する医薬品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2007−514429(P2007−514429A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544360(P2006−544360)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2004/014419
【国際公開番号】WO2005/059129
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(506210266)
【Fターム(参考)】