説明

細菌胞子の中和

本発明は細菌学の分野に関する。特に、本発明は、組成物(例えば、ランチビオティックを基にした胞子除染剤(例えば、ナイシンを含む))、および細菌(例えば、細胞および胞子)を中和する(例えば、死滅させる、またはその増殖もしくはその発芽を阻止する)方法を提供する。例えば、本発明は、ナイシンを基にした化合物(例えば、細菌胞子除染のための)、ならびにそれを研究、治療、および薬物スクリーニングの用途に用いる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、2006年2月8日に提出された米国仮特許出願第60/771,322号に対する優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は細菌学の分野に関する。特に、本発明は、組成物(例えば、ランチビオティックを基にした胞子除染剤(lantibiotic-based spore decontaminant)(例えば、ナイシンを含む))、および細菌(例えば、細胞および胞子)を中和する(例えば、死滅させる、またはその増殖もしくはその発芽を阻止する)方法を提供する。例えば、本発明は、ナイシンを基にした化合物(例えば、細菌胞子除染のための)、ならびにそれを研究、治療、および薬物スクリーニングの用途に用いる方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
炭疽菌(Bacillus anthracis)の胞子を用いた攻撃またはテロリストの事件は、差し迫った脅威であり続けている。このような攻撃の事件では、ヒトの皮膚を含む多くの表面が、ばらまかれた胞子によって汚染される。ヒトの皮膚上に保持される胞子は、皮膚炭疽を発症するという脅威を与えるだけでなく、攻撃現場から離れた他の場所に運ばれてさらなる胞子の播種を招く。これは、胞子に汚染した個人が、皮膚から落ちた胞子が衰弱した個人を罹病させる恐れのある病院のような場所に運ばれた場合には特に問題となる。
【0004】
2001年の攻撃から学んだ教訓は、炭疽菌胞子の感染量は元々考えられていたよりもはるかに少なく、ヒト皮膚から落ちた胞子は最初の攻撃場所をはるかに越えて疾患を蔓延させるということである。
【0005】
現在のところ、ヒト皮膚または他のヒト表面(例えば、肺または毛)上の炭疽菌胞子を除染する(例えば、それらを中和する、および/またはそれらの増殖もしくは発芽を防止する)ための処置は得られていない。このため、炭疽菌の胞子の発芽後成長(outgrowth)を中和および阻止することができる組成物および方法に対しては需要がある。そのような薬剤は、理想的には、容易に散布され、ヒト表面(例えば、皮膚または肺)に対して有害でなく、胞子の発芽および増殖の能力を変化させる(例えば、阻止する)こと(例えば、それによって胞子を不活性および非感染性のままにしておくこと)ができる。
【発明の開示】
【0006】
定義
本明細書で用いる場合、「対象」という用語は、本発明の方法または組成物によって処置しようとする個体(例えば、ヒト、動物または他の生物)を指す。対象には、哺乳動物(例えば、ネズミ科動物、サル、ウマ科動物、ウシ科動物、ブタ、イヌ科動物、ネコ科動物など)が非限定的に含まれ、最も好ましくはヒトが含まれる。本発明の文脈において、「対象」という用語は一般に、細菌(例えば、炭疽菌(例えば、その発育環の任意の段階にあるもの))の存在を特徴とする病状に対する処置を受けるか受けた個体、または細菌に対する曝露の可能性が予期される個体を指す。本明細書で用いる場合、「対象」および「患者」という用語は、別に注記する場合を除き、互換的に用いられる。
【0007】
「診断された」という用語は、本明細書で用いる場合、その徴候および症状(例えば、従来の治療法に対する抵抗性)または遺伝子解析、病理学的分析、組織学的分析などによる、疾患(例えば、病原細菌によって引き起こされる)の認識を指す。
【0008】
本明細書で用いる場合、「インビトロ」という用語は、人工的な環境、および人工的な環境内で起こるプロセスまたは反応を指す。インビトロ環境には、試験管および細胞培養物が非限定的に含まれる。「インビボ」という用語は、自然な環境(例えば、動物または細胞)、および自然な環境内で起こるプロセスまたは反応を指す。
【0009】
本明細書で用いる場合、細菌細胞または細菌細胞の集団の特徴(例えば、増殖)に言及して用いられる「減弱させる」および「減弱化」という用語は、その特徴の低下、阻止もしくは除去、またはその特徴の影響を低下させることを指す。例えば、病原体(例えば、炭疽菌)に言及して用いられる場合、減弱化は一般に、病原体の毒力の低下を指す。病原体の減弱化は、いかなる特定の毒力低下機序にも限定されない。いくつかの態様において、毒力低下は、病原体の中和(例えば、胞子の増殖能力を阻害すること)によって達成されうる。いくつかの態様において、減弱化は、特徴(例えば、細胞または胞子の集団の毒力)を指す。例えば、本発明のいくつかの態様においては、病原体細胞または胞子の集団を、集団の毒力が低下するように(例えば、本発明の方法および組成物を用いて)処置する。
【0010】
本明細書で用いる場合、「毒力」という用語は、微生物の病原性の度合い(例えば、生じる疾患の徴候および症状の重症度、または対象の組織に侵入するその能力によって示されるもの)を指す。これは一般に、半数致死量(LD50)または半数感染量(ID50)によって実験的に測定される。この用語はまた、任意の感染性因子が病的影響をもたらす能力を指すためにも用いられる。
【0011】
本明細書で用いる場合、「中和する」および「中和」という用語は、細菌細胞または胞子(例えば、炭疽菌細胞および胞子)に言及して用いられる場合、胞子が発芽する能力および/または細胞が増殖する能力の阻害を指す(しかしながら、例えば、機序の理解は、本発明の実施のために必ずしも必要ではなく、本発明はいかなる特定の作用機序にも限定されず、いくつかの態様において、中和は胞子の発芽の停止に起因し、また別の態様において、中和は細胞および/または胞子の死滅に起因する)。本発明の好ましい態様においては、ナイシンを含む組成物が、細菌細胞または胞子(例えば、炭疽菌細胞および胞子)を中和する(例えば、その発芽および発芽後成長の能力を阻害する)ために用いられる。
【0012】
本明細書で用いる場合、「ランチビオティックを基にした胞子除染剤」とは、対象(例えば、ヒト対象)の表面上または内部に存在する細菌胞子(例えば、炭疽菌胞子)を中和するように構成されたランチビオティックを含む組成物を指す。したがって、ランチビオティックを基にした胞子除染剤とは、対象(例えば、ヒト対象)に対する投与(例えば、局所的、粘膜的、または内部経路)のために特別に構成された薬剤のことであり、除染剤は対象に害を及ぼさない(例えば、刺激性でなく、損傷も与えない)ことが好ましい。本発明は、用いるランチビオティックによって限定されない。いくつかの好ましい態様において、ランチビオティックはナイシンであるか、またはナイシン系のランチビオティックである。ランチビオティックを基にした胞子除染剤のさまざまな例および配合物が本明細書で提供される。
【0013】
本明細書で用いる場合、「有効量」という用語は、有益なまたは所望の結果(例えば、細菌細胞の死滅または中和(例えば、炭疽菌胞子の中和)をもたらすのに十分な、組成物(例えば、ランチビオティックを基にした胞子除染剤)の量を指す。有効量は、1回または複数回の投与、適用、または投薬の形で投与することができ、特定の配合物または投与経路に限定されない。
【0014】
本明細書で用いる場合、「投与」という用語は、生理的系(例えば、対象、またはインビボ、インビトロ、もしくはエクスビボの細胞、組織、および臓器)に対して、薬物、プロドラッグ、または他の薬剤、または治療的処置(例えば、本発明の組成物)を与える行為を指す。ヒト身体に対する例示的な投与経路は、眼(眼科的)、口(経口的)、皮膚(経皮的または局所的)、鼻(経鼻的)、肺(吸入)、粘膜的(例えば、口腔粘膜または口腔)、直腸、耳、注射(例えば、静脈内、皮下、腫瘍内、腹腔内など)などを介することができる。
【0015】
本明細書で用いる場合、「表面を処置すること」という用語は、表面を本発明の1つまたは複数の組成物に対して曝露させる行為を指す。表面を処置する方法には、噴霧、ミスティング、浸漬、拭き取り、および塗布が非限定的に含まれる。表面には、有機表面(例えば、食品、動物の体表など)および無機表面(例えば、医療デバイス、カウンター上面、計器、商品、衣類など)が含まれる。
【0016】
本明細書で用いる場合、「同時投与」という用語は、対象に対する少なくとも2つの薬剤または治療法の投与を指す。いくつかの態様において、2つまたはそれ以上の薬剤または治療法の同時投与は同時発生的に起こる。他の態様において、第1の薬剤/治療法は、第2の薬剤/治療法の前に投与される。当業者は、用いるさまざまな薬剤または治療法において配合物および/または投与経路が多様であってよいことを理解している。同時投与のための適切な投与量は、当業者によって直ちに決定可能である。いくつかの態様において、薬剤または治療法が同時投与される場合、各々の薬剤または治療法は、それらの単独での投与のために適切であるよりも低い投与量で投与される。このため、同時投与は、薬剤または治療法の同時投与によって有害(例えば、有毒)な可能性のある薬剤の必要投与量が減るような態様において、特に望ましい。
【0017】
本明細書で用いる場合、「接触」または「接触させること」という用語は、本発明の組成物(例えば、本発明のランチビオティックを基にした胞子除染剤を含む溶液またはクリーム)が、細菌細胞および/または胞子の発芽および/または増殖を媒介または改変(例えば、阻止)しうる位置に置かれる、任意の様式を指す。例えば、「接触させること」は、投与の方法または本明細書で述べる表面を処置する方法のうち任意のものを含みうる。
【0018】
本明細書で用いる場合、「炭疽菌感染症の徴候および症状」および「炭疽の徴候および症状」という用語は、炭疽菌に感染した対象(例えば、ヒト対象または他の哺乳動物)によって呈示されるさまざまな特徴のうちいずれか1つを指す。徴候および症状には、例えば、風邪または流感様の症状(例えば、数日間にわたる)、呼吸困難(例えば、軽症から重症まで)、痂皮形成のような皮膚症状、および、炭疽菌感染症を有する対象によって呈示されるもののような、医療従事者(例えば、医師、看護師など)によって認識される他の特徴が含まれうる。
【0019】
本明細書で用いる場合、「薬学的組成物」という用語は、活性薬剤(例えば、ランチビオティックを基にした胞子除染剤および/または中和剤を含む組成物)と、組成物をインビトロ、インビボ、またはエクスビボでの診断的または治療的な使用のために特に適したものとする不活性または活性の担体との組み合わせを指す。
【0020】
「薬学的に許容される」または「薬理学的に許容される」という用語は、本明細書で用いる場合、対象に投与した時に有害反応(例えば、毒性、アレルギー性または免疫学的な反応)を実質的にもらたさない組成物を指す。
【0021】
本明細書で用いる場合、「局所的に」という用語は、皮膚または粘膜細胞および組織(例えば、肺胞、口腔、舌、咀嚼器、または鼻の粘膜、ならびに中空臓器または体腔の内層をなす他の組織および細胞)の表面に対する本発明の組成物の適用を指す。
【0022】
本明細書で用いる場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、リン酸緩衝食塩液、水、乳剤(例えば、水中油型または油中水型乳剤)、およびさまざまなタイプの湿潤剤、任意およびすべての溶媒、分散媒、コーティング剤、ラウリル硫酸ナトリウム、等張剤および吸収遅延剤、崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプンまたはデンプングリコール酸ナトリウム)などを非限定的に含む、標準的な薬学的担体の任意のものを指す。組成物はまた、安定化剤および保存料を含んでもよい。担体、安定化剤および補助剤の例は当技術分野で記載されている(例えば、Martin, Remington's Pharmaceutical Sciences, 15th Ed., Mack Publ. Co., Easton, Pa. (1975)を参照、これは参照により本明細書に組み入れられる)。
【0023】
本明細書で用いる場合、「薬学的に許容される塩」という用語は、標的対象(例えば、哺乳動物対象、および/またはインビボもしくはエクスビボの細胞、組織または臓器)において生理的な忍容性のある、本発明の化合物の任意の塩(例えば、酸または塩基との反応によって得られるもの)を指す。本発明の化合物の「塩」は、無機性または有機性の酸および塩基に由来するものでよい。酸の例には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、フマル酸、マレイン酸、リン酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、コハク酸、トルエン-p-スルホン酸、酒石酸、酢酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ギ酸、安息香酸、マロン酸、スルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ベンゼンスルホン酸などが非限定的に含まれる。シュウ酸などのその他の酸は、それら自体は薬学的に許容されないが、本発明の化合物およびそれらの薬学的に許容される酸付加塩を入手する上で有用な中間体として有用な塩の調製に用いることはできる。
【0024】
塩基の例には、アルカリ金属(例えば、ナトリウム)の水酸化物、アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム)の水酸化物、アンモニア、およびWがC1-4アルキルである式NW4の化合物などが非限定的に含まれる。
【0025】
塩の例には、以下のものが非限定的に含まれる:酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、ショウノウ酸塩(camphorate)、カンファースルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、フルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、シュウ酸塩、パルモエート(palmoate)、ペクチン酸塩、過硫酸塩、フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トシル酸塩、ウンデカン酸塩など。塩のその他の例には、Na+、NH4+、およびNW4+(式中、WはC1-4アルキル基である)などの適した陽イオンと化合した、本発明の化合物の陰イオンが含まれる。治療的用途に関して、本発明の化合物の塩は薬学的に許容されると想定される。しかし、薬学的に許容されない酸および塩基の塩も、例えば、薬学的に許容される化合物の調製または精製に用途を見出す可能性がある。
【0026】
治療的用途に関して、本発明の化合物の塩は薬学的に許容されると想定される。しかし、薬学的に許容されない酸および塩基の塩も、例えば、薬学的に許容される化合物の調製または精製に用途を見出す可能性がある。
【0027】
本明細書で用いる場合、(例えば、ランチビオティックを基にした胞子除染剤または中和剤を含む組成物の)「治療的有効量」とは、対象における炭疽菌感染(例えば、発芽、増殖、毒素産生など)に伴う病的状態(例えば、疾患の徴候および症状)を処置または予防するのに有効な量(例えば、ナイシンを含む組成物の有効な量)を指す。
【0028】
本明細書で用いる場合、「医療用デバイス」という用語には、例えば、医療(例えば、疾患または傷害に対する)の過程で、対象または患者の身体の表面上で、内部で、またはそれを通して用いられる、任意の材料またはデバイスが含まれる。医療デバイスには、医療用インプラント、創傷ケアデバイス、薬物送達デバイス、および体腔および個人防護デバイスなどの品目が非限定的に含まれる。医療用インプラントには、尿路カテーテル、血管内カテーテル、透析用シャント、創傷排液チューブ、皮膚縫合糸、代用血管、埋込みメッシュ、眼内デバイス、心臓弁などが非限定的に含まれる。創傷ケアデバイスには、一般的な創傷ドレッシング材、生体移植材料、閉鎖用テープ、およびドレッシング材、ならびに外科用インサイズドレープが非限定的に含まれる。薬物送達デバイスには、針、薬物送達用皮膚パッチ、薬物送達用粘膜パッチ、および医療用スポンジが非限定的に含まれる。体腔および個人防護デバイスには、綿球、スポンジ、外科用および検査用手袋、ならびに歯ブラシが非限定的に含まれる。
【0029】
本明細書で用いる場合、「治療薬」という用語は、病原性微生物と接触した対象における感染性、病的状態もしくは死亡発生を低下させる、または病原性微生物と接触した宿主における感染性、病的状態もしくは死亡発生を予防する、組成物を指す。治療薬には、病原体に対する将来の曝露の可能性を考慮して予防的に(例えば、病原体の非存在下で)用いられる薬剤が含まれる。そのような薬剤はさらに、薬学的に許容される化合物(例えば、補助剤、添加剤、安定化剤、希釈剤、補助因子など)を含んでもよい。いくつかの態様において、本発明の治療薬は、局所用組成物、注射用組成物、摂取用組成物、吸入用化合物などの形態で投与される。経路が局所的である場合には、形態は例えば、溶液、クリーム、軟膏、膏薬、または噴霧剤の形態であってよい。
【0030】
本明細書で用いる場合、「補助因子」という用語は、その補助因子の添加によって望ましいアウトカムが向上するように、組成物(例えば、ナイシン)の所望の活性を増大させる化合物のことである。「補助因子」には、界面活性剤(例えば、Tween-20またはカルバコール(carvacol))、カオトロピック剤、精油(例えば、ティーツリーオイル)、キレート剤(例えば、EDTA)、溶解促進剤(例えば、キトサン)、および吸収促進剤が非限定的に含まれる。組成物に対するそのような補助因子の添加は、組成物の有効性をさらに高める。
【0031】
本明細書で用いる場合、「病原体」という用語は、宿主における疾病状態(例えば、感染、敗血症など)を引き起こす生物学的因子を指す。「病原体」には、ウイルス、細菌(例えば、炭疽菌)、古細菌、真菌、原生動物、マイコプラズマ、プリオン、および寄生生物が非限定的に含まれる。
【0032】
「細菌(bacteria)」および「細菌(bacterium)」という用語は、原核生物界における門のすべてに属するものを含む、すべての原核生物を指す。この用語は、マイコプラズマ、クラミジア、アクチノミセス、ストレプトミセス、およびリケッチアを含む、細菌であると考えられるすべての微生物を包含するものとする。球菌、桿菌、スピロヘータ、スフェロプラスト、プロトプラストなどを含む、細菌のすべての形態がこの定義に含まれる。いくつかの態様において、細菌は連続培養される。いくつかの態様において、細菌は培養されず、その自然な環境内に(例えば、創傷または感染の部位に)存在するか、または患者組織から(例えば、生検によって)得られる。細菌は病的な増殖または繁殖を示してもよい。本明細書で用いる場合、「微生物」という用語は、細菌、古細菌、真菌、原生動物、マイコプラズマ、および寄生生物を非限定的に含む、微生物のあらゆる種またはタイプを指す。
【0033】
本明細書で用いる場合、「非ヒト動物」という用語は、齧歯動物、非ヒト霊長動物、ヒツジ、ウシ科動物、反芻動物、ウサギ目動物、ブタ、ヤギ、ウマ科動物、イヌ科動物、ネコ科動物、鳥類などの脊椎動物を非限定的に含む、すべての非ヒト動物を指す。
【0034】
本明細書で用いる場合、「キット」という用語は、材料を送達するための任意の送達システムを指す。治療薬(例えば、ナイシンを含む組成物)の文脈において、そのような送達システムには、1つの場所から別の場所への、治療薬および/または補助材料(例えば、材料を用いるための書面による説明書など)の保存、輸送、または送達を可能にするシステムが含まれる。例えば、キットは、該当する治療薬および/または補助材料を含む、1つまたは複数の密閉容器(例えば、箱)を含む。本明細書で用いる場合、「細分化されたキット」という用語は、それぞれがキット全体の構成要素のサブポーションを含んだ2つまたはそれ以上の別々の容器を含む送達システムを指す。容器は意図したレシピエントに対して一緒に、または別々に送達することができる。例えば、第1の容器が特定の用途のためのナイシンを含む組成物を含み、一方、第2の容器が第2の作用物(例えば、抗生物質または噴霧アプリケーター)を含んでもよい。実際に、それぞれがキット全体の構成要素のサブポーションを含んだ2つまたはそれ以上の別々の容器を含む任意の送達システムが、「細分化されたキット」の用語に含まれる。これに対して、「組み合わされたキット」とは、特定の用途のための治療薬の構成要素のすべてを、単一の容器(例えば、所望の構成要素のそれぞれを収容する単一の箱)の中に含む送達システムを指す。「キット」という用語は、細分化されたキットおよび組み合わされたキットの両方を含む。
【0035】
発明の詳細な説明
炭疽は未だに、バイオテロリズム/生物戦争の最大の脅威であり続けている。炭疽菌の胞子は生産してばらまくのが比較的容易であり、「兵器化」のプロセスにより、これらの胞子はさらにより効果的なバイオテロリズム用の病原体となる。2001年の事件から学んだ教訓の1つは、炭疽菌胞子、特に兵器化された胞子の感染量は、元々考えられていたよりもはるかに少ないということである。胞子の感染量は〜10,000個であると考えられており(例えば、Frist et al., Rowman & Littlefield Publishers (2002)を参照)、それは胞子が肺の奥深くに侵入して肺胞を通り抜け、そこで胞子が肺胞マクロファージによって取り込まれることを可能にすると考えられる(例えば、Dixon et al., Science 2:453-463 (2000)を参照)。2001年に、周囲に胞子が検出されることなく、肺炭疽のために2人の犠牲者が死亡したことは、炭疽菌の感染量が以前に推測されていたよりも少ないことを示唆する。例えば、これらの2件の死亡に関する1つの説明は、これらの2人の犠牲者が、手紙に付着した汚染物質であった微量の胞子と接触し、これらの胞子が奥深くの肺胞に効率よく到達したというものである。
【0036】
エアロゾル化を介した炭疽菌胞子の曝露の場合には、胞子はヒト皮膚を含む多くの表面から回収可能であり、罹患者は最初の攻撃場所を越えて他の場所に胞子を運ぶ者として作用して、二次的な感染者を招く恐れがある。この影響は、元の犠牲者が病院などのように衰弱した人がいる環境に運ばれた場合には、特に破壊的となる恐れがある。
【0037】
皮膚上の胞子はまた、皮膚炭疽の原因ともなり(例えば、Mock et al., Annu. Rev. Microbiol. 55:647-671 (2001)を参照)、それは処置されなければ、発熱および倦怠感を伴う重症の局所浮腫、時には全身性炭疽を引き起こす恐れがある。皮膚汚染はまた、胃腸炭疽または口咽頭炭疽を招く、経口経路を介した自己感染の可能性も高める(例えば、Mock et al., Annu. Rev. Microbiol. 55:647-671 (2001)を参照)。このため、炭疽菌胞子を用いた攻撃の事件では、最初の曝露にかかわった人々に対する直接的な脅威がある上、罹患した人々の皮膚上に保持された胞子が他の場所にさらに播種されるという二次的な脅威もある。攻撃の現場で除染シャワーを単に用いることは、感染性胞子をさらに広げる働きをするだけであり(例えば、水中への流出)、胞子を中和することはない。皮膚上に胞子を保持している人々を病院に搬送することは、ことによると数百人にも上る人々が二次曝露によって感染する恐れのある環境に感染性胞子を導入することになる可能性がある。このため、炭疽菌胞子の攻撃の犠牲者を搬送する前に、(例えば、皮膚、毛、または他の非ヒト表面の上に)保持されている可能性のあるあらゆる胞子を中和することが肝要であると考えられる。
【0038】
現在、ヒト皮膚上の胞子を中和するために特別に設計された製品はない(例えば、Sagripanti et al., Appl. Environ. Microbiol. 65:4255-4260 (1999)を参照)。中和手順では、表面を除染するために少なくとも10%の漂白剤溶液を用いることが推奨されているが、米国環境保護庁(Environmental Protection Agency)は、毒性の理由から皮膚に対する漂白剤の使用を推奨していない。さらに、漂白剤は幼児の皮膚ならびに成人の粘膜および眼に対して深刻な毒性危害を及ぼす。市販の手指消毒剤を用いた手指衛生に関する最近の研究では、胞子汚染を2 log10を超えて低下させる介入作用は見いだされなかった(例えば、Weber et al., JAMA, 289:1274-1277 (2003)を参照)。加えて、無水でぬぐうことは胞子に対して無効であることが見いだされた。
【0039】
1つの研究で、いくつかの市販の製品が枯草菌(B. subtilis)の胞子を中和する能力が報告されている(例えば、Sagripanti et al., AOAC Int. 80:1198-1207 (1997)を参照)。この研究では、グルテルアルデヒド(gluteraldehyde)、ホルムアルデヒド、過酸化水素、過酢酸、過酸化水素を伴うアスコルビン酸第二銅、次亜塩素酸ナトリウム、およびフェノールの調製物を分析したところ、30分間の曝露後に枯草菌の胞子の99%を上回る失活を達成したのは次亜塩素酸塩、過酢酸、およびアスコルビン酸第二銅のみであり、他の調製物に対する曝露は10%〜0%の胞子中和をもたらしたのみであった。同様の種類の研究により、これらの試薬(グルテルアルデヒドを例外として)の殺胞子活性は、1%という低い血清レベルでの存在下では90〜100%低下することが示されている(例えば、Sagripanti et al., AOAC Int. 80:1198-1207 (1997)を参照)。さらに、市販の家庭用製品を製造元の指示に従って用いたところ、LYSOLおよびCLOROXは、有機汚染物質の非存在下で胞子数のそれぞれ90%および99%の減少を示した(例えば、Sagripanti et al., Appl. Environ. Microbiol. 65:4255-4260 (1999)を参照)。試験したうちで最も有効であった製品の1つはRENALIN(20% H2O2および4%過酢酸)であり、これは胞子数の4〜5 log10の減少を達成したものの、11時間の曝露時間を必要とした。さらに、過酢酸は爆発性であり、皮膚に対して刺激性である。
【0040】
皮膚に対して苛酷である除染剤は、胞子のすべてが中和されるに至らなかった場合に皮膚炭疽の発症につながる恐れのある、皮膚の裂け目の原因になるというさらなる害を及ぼす可能性がある。溶菌性ファージ酵素および高エネルギー微粒子乳剤のように胞子を直接処置するためのより最近のアプローチのいくつかにも、これらの処置が有効であるためには胞子をあらかじめ発芽させる必要があるといった固有の制約がある。
【0041】
このため、胞子の(例えば、テロリスト攻撃に故意に用いられた炭疽菌胞子の)播種に対処するためには、これまで述べてきたものよりもはるかに優れた組成物および方法が必要であると考えられる。したがって、(例えば、皮膚、毛、創傷などのヒト表面上の)炭疽菌胞子を中和するために特別に設計された薬剤に対しては、差し迫った需要が存在する。そのような薬剤は、皮膚に対して非刺激性であって、さまざまな手法での処方(例えば、炭疽菌胞子の曝露が疑われる状況において現場で用いうる、さらなる防護の層(例えば、抗生物質の使用および曝露後ワクチン接種の範囲を超える)としてのワイプ材、噴霧剤、フォーム(foam)など)に適しているべきである。
【0042】
胞子が吸入された後に、それらは気管支肺胞に進み、肺胞マクロファージによって貪食される。胞子が発芽して栄養増殖性細胞(vegetative cell)としての増殖を始めるのは、これらのマクロファージの内部においてである。処置においては、吸入された胞子を、マクロファージによる貪食の前に、またはマクロファージがまだ肺の内部にあって胞子が発芽する前に中和することが有利であると考えられる。本発明は、吸入後および貪食後の胞子を中和する実証された能力を通じて、胞子の栄養増殖性細胞への病原性の進行を途絶させるための、そのような機会を提供する。
【0043】
したがって、本発明は、ランチビオティック(例えば、ナイシン)を基にした組成物、ならびにそれを細菌細胞および胞子(例えば、炭疽菌細胞および胞子)を中和する(例えば、死滅させる、またはその増殖を阻止する、またはその発芽を阻止する)ために用いる方法を提供する。例えば、本発明は、治療薬(例えば、ランチビオティックを基にした胞子除染剤または中和剤)、ならびにそれを研究、予防、治療、および薬物スクリーニングの用途に用いる方法を提供する。
【0044】
ナイシンは、ラクトコッカス-ラクティス(Lactococcus lactis)によって産生される抗菌物質である。これはランチビオティックと呼ばれる一群の類似した物質のメンバーであり、それにはサブティリン、エピデルミン、ガリデルミン、pep 5、シンナマイシン、ラクチシン481、デュラマイシン、およびアンコベニンが含まれる。ナイシンは34個のアミノ酸残基で構成されるペプチドであり、ランチオニンまたはβ-メチルランチオニンを形成する、チオエーテル架橋によって架橋結合した5つの環構造を含む。ナイシンの配合物は米国特許第5,135,0910号および第5,753,614号に記載されており、これらはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。ナイシンの変異体は米国特許第6,448,034号に記載されており、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。ナイシンに類似したそのほかのランチビオティックは米国特許第5,594,103号および第5,928,146号に記載されており、これらはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。ランチビオティックは、複数のファミリーにさらに細分することができる(例えば、ナイシンはA型(I)ランチビオティックファミリーに属し、これにはサブティリン、エピデルミン、ガリデルミン、ミュータシン、pep5 エピシジンおよびエピランシンも含まれる)。
【0045】
ナイシンはグラム陽性菌に対して広域スペクトルの活性を有し、グラム陰性菌に対してもある程度の活性を有する。Blackburnら(米国特許第5,866,539号、その内容は全体が参照により組み入れられる)は、皮膚感染症を処置するための、抗菌薬を伴ったナイシンの使用法を全般的に記載している。さらに、すべての目的に関してその全体が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許出願第20040192581号も、ナイシンの局所投与を記載している。
【0046】
ナイシンは食品保存料として用いられており(例えば、Hansen et al., Crit. Rev. Food Sci., Nutr. 31:69-93 (1994)を参照)、米国食品医薬品局(Food and Drug Administration)による「安全認定合格(Generally Recognized As Safe)」(GRAS)指定を受けている(例えば、Food and Drug Administration, Code of Federal Regulations 21:524 2001;Food and Drug Administration, Fed. Regist. 53:11247-11251 1998を参照)。食品加工業による商業的利用では、〜2.5%のナイシンを含むナイシン調製物を用いている。
【0047】
ナイシンの1つの標的は細菌の細胞質膜であり、これは細胞質膜中の孔の形成を通じてプロトン駆動力を散逸させるように作用する(例えば、McAuliffe et al., FEMS Microbiol. Rev. 25:285-308 (2001)を参照)。ナイシンは、栄養増殖性細菌において二通りの方法で孔を形成すると考えられている。人工膜では、十分な濃度のナイシンは均質なナイシン孔を形成するが、細菌の細胞質膜では、ナイシンは脂質II(例えば、ウンデカプレニル-ピロホスホリル-MurNAc(ペンタペプチド)-GlcNAc)と相互作用して異質な孔を形成する(例えば、McAuliffe et al., FEMS Microbiol. Rev. 25:285-308 (2001);Wiedemann et al., Biolog. Chem. 276:1772-1779 (2001)を参照)。より低い濃度では、ナイシンは脂質IIに対する結合によって細胞壁の生合成も阻害し、ペプチドグリカンネットワークへのその組み込みも阻害する(例えば;Wiedemann et al., Biolog. Chem. 276:1772-1779 (2001)を参照)。ナイシンはクロストリジウム種およびバシラス種の胞子と相互作用する。ナイシンと胞子との相互作用は、5位のDHA残基および胞子上のスルフヒドラル(sulfhydral)基における反応性二重結合に関与するように思われる(例えば、Chan et al., Appl. Environ. Microbiol. 62:2966-2969 (1996);Delves-Broughton et al., Antonie van Leeuwenhoek 69:202 (1996);Morris et al., Biolog. Chem. 259:13590-13594 (1984);Pol et al, Appl. Environ. Microbiol. 67:1693-1699 (2001)を参照)。他のランチビオティック(例えば、サブティリン)も抗胞子活性を有する。この相互作用は発芽プロセスの終結をもたらし、この際、位相差顕微鏡で観察すると、水分を帯びるにつれて胞子が明位相から暗位相に変化することが観察され(例えば、Setlow et al., Curr. Opinion Microbiol. 6:550-556 (2003)を参照)、続いて止まり、暗位相で浮遊状態に無期限に保たれる。しかし、ランチビオティック(例えば、ナイシン)が細菌胞子に対する既存の曝露を処置しうるか否か(例えば、ランチビオティックがインビボまたは皮膚上もしくは粘膜表面上の炭疽菌胞子を首尾良く処置しうるか(例えば、その発芽または増殖を阻止しうるか)に関しては、これまで不明であるか試験されていないままである。
【0048】
炭疽菌胞子とヒト宿主との間の初期相互作用は、侵入箇所で局所マクロファージによって(例えば、吸入曝露の場合には肺の内部で肺胞マクロファージによって)胞子が貪食された時に起こる(例えば、Dixon et al., Science 2:453-463 (2000)を参照)。貪食された胞子は、局所リンパ節への途上にあるマクロファージの内部で発芽を始める(例えば、Guidi-Rontani et al., Trends Microbiol. 10:405-409 (2002)を参照)。この発芽は、低分子を含むシグナルが膜結合型タンパク質受容体と結合して、栄養増殖に復帰するように休眠胞子を誘導した時に起こる(例えば、Ireland et al., Bacteriol. 184:1296-1303 (2002)を参照)。細菌が栄養増殖性細胞として増殖し始めるにつれて、それらはマクロファージを脱出して全身性となり、そこでそれらは血液1ml当たり〜108個というレベルに近づきうる(例えば、Mock et al., Annu. Rev. Microbiol. 55:647-671 (2001)を参照)。炭疽毒素は細菌の栄養増殖中に高レベルで発現される(例えば、Abrami et al., Trends Microbiol. 13:72-78 (2005)を参照)。したがって、好ましい態様において、本発明の治療薬または医薬品(例えば、ヒト使用のためのランチビオティックを基にした胞子除染剤)は、発芽プロセスを遮断する(例えば、炭疽菌の病原性を、胞子発芽、栄養増殖性細胞の発芽後成長および毒素の発現の前というサイクルにおける最も早期の箇所で停止させる)。これは皮膚上、創傷内または肺内で起こりうる。他の好ましい態様において、ヒト使用のためのランチビオティックを基にした胞子除染剤は、炭疽菌によって引き起こされる疾患の徴候および症状を予防する。いくつかの態様において、治療薬または医薬品(例えば、ヒト使用のためのランチビオティックを基にした胞子除染剤)は、炭疽菌の栄養増殖形態を死滅させる(実施例3、5、および6を参照)。
【0049】
ナイシンの安全性プロフィールは、販売されている3つの局所用動物用製品でそれが用いられているため、局所的安全性を含めて広範に検討されている(例えば、Sears et al., Dairy Sci. 75:3185-3190 (1992)を参照)。これらの製品は、乳牛の乳首を消毒するため、および変敗原因菌が乳の供給路に入るのを防ぐために酪農業で用いられている。ナイシンを基にした局所処置の使用はまた、ウシ乳腺の感染症(乳腺炎)も予防する。酪農業における使用のためのナイシンは、即効性の乳首浸漬溶液、過酷な湿度および寒冷の条件下で病原体感染に対する防御を与えるように設計されたバリアゲル(barrier gel)、ならびに抗菌性の湿式紙製ワイプ材として処方されている。ナイシンを基にした局所消毒用製品は、酪農業に対してほぼ15年にわたって販売されており、乳牛の乳首および作業者の手指の両方に対して非刺激性であること、および種々の他の病原体に対しても有効であることが示されている(例えば、大腸菌(E. coli)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)、肺炎桿菌(K. pneumoniae)、ストレプトコッカス-アガラクティエ(S. agalactiae)およびストレプトコッカス-ウベリス(S. uberis)(例えば、Sears et al., Dairy Sci. 75:3185-3190 (1992)を参照)。ナイシンのGRASの状況もナイシンの局所使用に関して関連があるが、これは人々が半固体剤形の薬物を摂取することが知られており、顔面に用いた場合にナイシンの局所適用物の偶発的摂取が懸念とならないようにするためである。ナイシンの静脈内への使用に関する安全性はまた、適度な投与量で安全であることが示されている(例えば、Goldstein et al., Antimicro. Chemother. 42:277-278 (1998)を参照)。
【0050】
好ましい態様において、ヒト使用のためのナイシンを基にした胞子除染剤に対する耐性は発生しない。その機序の理解は本発明の実施のために必ずしも必要ではなく、本発明はいかなる特定の作用機序にも限定されないものの、いくつかの態様において、ナイシンは複製中の細胞に投与する必要がないため(例えば、ナイシンは複製中でない細胞または胞子(例えば、活動性の代謝を行っていないもの)を中和する効果がある)、ナイシンで処置された胞子に関してナイシン耐性の積極的な選択の機序はない。さらに、疾患としての炭疽はヒトからヒトへ伝わることはないため、ナイシンに耐性のある胞子のランダム突然変異が、ナイシン処置によって選択される可能性は非常に低い(例えば、生じる可能性のあるいかなるナイシン耐性胞子変異体も、一次宿主では単離され続けるが、二次宿主には伝播しないと考えられる)。
【0051】
本発明は、本発明の治療薬(例えば、ランチビオティック(例えば、ナイシン)を基にした胞子除染剤または中和剤(例えば、ヒト使用のための))の特定の配合物によって限定されない。実際には、本発明の治療薬(例えば、ヒト使用のためのランチビオティックを基にした胞子除染剤)は、ランチビオティック(例えば、ナイシン)に加えて、1つまたは複数の異なる薬剤を含みうる。これらの薬剤または補助因子には、表面活性剤、添加物、緩衝液、可溶化剤、キレート剤、油、塩、抗菌薬、および他のランチビオティックまたは抗菌ペプチドの組み合わせを含む他の薬剤が非限定的に含まれる。好ましい態様において、本発明の治療薬(例えば、ランチビオティックを基にした胞子除染剤(例えば、ヒト使用のための))は、ランチビオティック(例えば、ナイシン)の胞子中和活性を高める薬剤および/または補助因子の組み合わせを含む。いくつかの好ましい態様において、1つまたは複数の補助因子または薬剤の存在は、有効な胞子(炭疽菌胞子)中和のために必要な量を減少させる(例えば、MICを減少させる)。いくつかの好ましい態様において、キレート剤はEDTAを含む。いくつかの態様において、表面活性剤は、界面活性剤ポリソルベート(例えば、PEG(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、Tween-20、Tween-80、または他のTween試薬)またはカルバコールのような精油を含む。いくつかの態様において、緩衝液はクエン酸ナトリウム緩衝液である、またはZnClを含む。しかし、本発明は、本発明の治療薬中に用いられる補助因子または薬剤のタイプによって限定されない。
【0052】
薬学的組成物を処方する方法は当業者に周知である(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18.sup.th Edition, Gennaro, ed. (Mack Publishing Company: 1990)を参照)。いくつかの態様において、本発明のランチビオティックを基にした胞子除染剤(例えば、ヒト使用のための)は、薬学的に許容される希釈剤、保存料、可溶化剤、乳化剤、補助剤、および/または担体を含みうる。このような組成物は、さまざまな緩衝剤内容物(例えば、Tris-HCl、酢酸塩、リン酸塩)、pHおよびイオン強度の希釈剤;界面活性剤および可溶化剤などの添加物(例えば、Tween 80、ポリソルベート80)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、保存料(例えば、チメルソール(Thimersol)、ベンジルアルコール)、溶解促進剤(例えば、キトサン)、および増量剤(例えば、ラクトース、マンニトール);ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのようなポリマー性化合物の微粒子調製物またはリポソームへの材料の組み込みを含む。ヒアルロン酸を用いることもでき(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. (1990, Mack Publishing Co., Easton, Pa. 18042) pages 1435-1712を参照。これは参照により本明細書に組み入れられる)。
【0053】
いくつかの態様において、本発明のランチビオティックを基にした胞子除染剤はTween-20を含む。いくつかの態様において、Tween-20は0.05%〜1.0%の最終濃度で用いられる。いくつかの態様において、Tween-20は1%を上回る濃度で用いられる。いくつかの態様において、Tween-20は0.05%未満の濃度で用いられる。同様に、いくつかの態様において、本発明の胞子中和治療薬は、カルバコールを0.5〜5.0%の最終濃度で含む。いくつかの態様において、カルバコールは0.5%未満で用いられる。いくつかの態様において、カルバコールは5.0%を上回って用いられる。いくつかの態様において、本発明の胞子中和治療薬はキトサンを含む。いくつかにおいて、キトサンは0.01 mg/mlまたはそれ以上(例えば、0.1mg/ml、0.2 mg/ml、0.5 mg/mlまたはそれ以上)の濃度で用いられる。
【0054】
他の好ましい態様において、本発明は、ナイシンを含む、ランチビオティックを基にした胞子除染剤を提供する。いくつかの態様において、除染剤は、ナイシンに加えて、1つまたは複数のランチビオティック(例えば、サブティリン)を含む。本発明は、用いるランチビオティックのタイプによって限定されない。実際には、エピデルミン、ガリデルミン、ミュータシン-1140、mut.-III、mut.-B-Ny266、ミュータシンI、エリシン-A、エリシン-S、サブティリン、ナイシン、アクタガルジン、メルサシジン、プランタリシン-c、サリバリシン-a、バリアシン、ラクチシン-481、ミュータシン-II、SA-FF22、ltcA1、pln-w-α、アネオベニン、デュラマイシン-C、シンナマイシン、デュラマイシン、デュラマイシン-B、サブランシン、pep-5、エピシジン-280、エピランシン-k7、lcnA1、pln-W-β、ラクトシン-S、sapB、およびシペマイシンを非限定的に含む、種々のランチビオティックが本発明において有用であると想定している(例えば、Rink et al., 2005 Biochemistry 44, 8873-8882を参照)。いくつかの態様において、ランチビオティックを基にした胞子除染剤は、修飾型のランチビオティック(例えば、修飾ナイシン(例えば、PEG化ナイシン(例えば、直鎖型または分枝型のポリエチレングリコールを含むナイシン)))を含む。いくつかの態様において、ランチビオティックを基にした胞子除染剤は、細菌胞子が中和される(例えば、死滅する、発芽が防止される、または栄養増殖性の細胞発芽後成長が阻止される)ような条件下で対象に投与される。本発明は、中和される細菌胞子のタイプによって限定されない。いくつかの好ましい態様において、胞子はバシラス胞子である。さらに好ましい態様において、バシラス胞子は炭疽菌胞子である。炭疽菌胞子は天然に存在する胞子でもよく、または遺伝的もしくは機械的に操作された形態(例えば、「兵器化された」胞子)であってもよい。胞子はまた、炭疽菌の抗生物質耐性株(例えば、シプロフロキサシン耐性)からのものであってもよい。いくつかの態様において、ランチビオティックを基にした胞子除染剤は、胞子の発芽または増殖が制止および/または減弱化されるような条件下で対象に投与される。いくつかの態様においては、細菌胞子の90%超(例えば、95%超、98%超、99%超、すべて検出可能)が中和される(例えば、死滅する)。いくつかの態様においては、2 logを上回る(例えば、3 log、4 log、5 log...を上回る)細菌胞子の発芽後成長の低下がみられる。いくつかの態様において、低下は最初の処置後2日またはそれ未満(例えば、20時間、18時間...)で観察される。いくつかの態様において、低下は3日もしくはそれ未満、4日もしくはそれ未満、または5日もしくはそれ未満で観察される。いくつかの好ましい態様において、胞子の発芽後成長の低下は、数時間以内(例えば、1時間(例えば、20〜40分またはそれ未満)、2時間以内、3時間以内、6時間以内、または12時間以内)に起こる。本発明のいくつかの好ましい態様において、胞子の中和(例えば、胞子が発芽できないこと)は、少なくとも3日間、少なくとも7日間、少なくとも14日間、少なくとも21日間、少なくとも28日間、または少なくとも56日間持続する。
【0055】
本発明は、ナイシンを含むランチビオティックを基にした胞子除染剤が、対象のマクロファージにおける胞子の発芽を阻止することを実証している(例えば、実施例5参照)。さらに、本発明は、ナイシンを含むランチビオティックを基にした胞子除染剤が、炭疽菌感染、炭疽の徴候および症状、ならびにそれによって引き起こされる死亡から対象を防護することを実証している(例えば、実施例6参照)。さらに、本発明は、ナイシンを含むランチビオティックを基にした胞子除染剤が、抗生物質耐性型の炭疽菌を効果的に中和することを実証している(例えば、実施例8参照)。したがって、いくつかの態様において、本発明は、炭疽菌胞子に曝露された対象を、感染症から(例えば、炭疽菌によって引き起こされる疾患(例えば、炭疽)の徴候および症状を呈することから)防護する方法であって、炭疽菌胞子が中和される(例えば、発芽して栄養増殖性細胞として増殖することを防止する)ような条件下において、ナイシンを含むランチビオティックを基にした胞子除染剤を前記対象に投与する段階を含む方法を提供する。
【0056】
本発明の(例えば、ナイシンを含む)ランチビオティックを基にした胞子除染剤は、対象に対して(例えば、対象の皮膚または他の表面(例えば、毛、粘膜表面、気道、または創傷に対して)、細菌胞子の発芽または増殖を防止するための治療薬として、または予防薬として投与することができる。ランチビオティックを基にした胞子除染剤は、さまざまな送達経路を介して対象に投与しうることを想定している。
【0057】
例えば、本発明の組成物は、対象に対して(例えば、皮膚、毛、気道、または皮膚熱傷もしくは創傷表面に対して)、以下のものを非限定的に含む、複数の方法によって投与することができる:溶液(例えば、コロイド溶液)中に懸濁させて、表面に適用する;溶液中に懸濁させて、噴霧剤アプリケーターを用いて表面に噴霧する;フィブリン糊と混合して、表面(例えば、皮膚)に適用する(例えば、噴霧する);創傷ドレッシング材または包帯に含浸させて、包帯を表面(例えば、感染部または創傷)に適用する;本発明の治療薬(例えば、ランチビオティックを基にした胞子除染剤)に浸したワイプ材によって適用する;制御放出機構によって適用する;無細胞生体マトリックスの一方または両方の面に含浸させて、続いて表面(例えば、皮膚)に置き、それによって創傷およびグラフト境界面の両方を防護する;リポソームとして適用する;またはポリマー上にて適用する。
【0058】
いくつかの態様において、ランチビオティックを基にした胞子除染剤は、ランチビオティックを基にした胞子除染剤を含む溶液中に浸漬させること(例えば、浴槽内で)を介して対象に投与される。いくつかの態様において、ランチビオティックを基にした胞子除染剤は、シャワー(例えば、ランチビオティックを基にした胞子除染剤を含む溶液のシャワー)を介して対象に投与される。例えば、いくつかの態様において、本発明のランチビオティックを基にした胞子除染剤は、単一の場所でそれを多数の人々(例えば、10人、100人、500人、1000人、5000人、10,000人またはそれ以上)に投与しうるように処方される。いくつかの態様において、本発明のランチビオティックを基にした胞子除染剤は、任意の所定の場所(例えば、炭疽菌胞子への曝露の現場(例えば、テロリスト攻撃の現場))で溶解または希釈を行えるように、濃縮されて(例えば、濃縮された固体または液体の形態(例えば、輸送が容易なように)で)処方される。いくつかの態様において、本発明のランチビオティックを基にした胞子除染剤は、除染装置、例えば、米国特許第4,989,279号;第5,544,369号;第4,883,512号;第5,061,235号;第4,858,256号;第5,607,652号;第4,687,686号;および米国特許出願第20040238007号に記載されたものとともに用いることができ、これらのそれぞれは参照により本明細書に組み入れられる。
【0059】
いくつかの態様において、ランチビオティックを基にした胞子除染剤が投与される対象はすべて、除染剤を同じ場所で(例えば、移動式除染装置(例えば、本発明の除染剤を定量分配する(例えば、噴霧する)ように構成された可搬式シャワー)を用いて)投与される。いくつかの態様において、除染剤は、曝露の現場で(例えば、テロリスト攻撃または事件の現場で)投与される。いくつかの態様において、除染剤は病院で(例えば、生物学的因子の除染のために指定された場所で)投与される。本発明のランチビオティックを基にした胞子除染剤はまた、研究の状況でも用途がある。例えば、いくつかの態様において、除染剤は、研究所で(例えば、ヒトまたは動物の表面(例えば、皮膚、毛など)を除染するために)用いられる。
【0060】
機序の理解は本発明の実施のために必ずしも必要ではなく、本発明はいかなる特定の作用機序にも限定されないが、いくつかの態様において、細菌胞子(例えば、炭疽菌の胞子)を含む部位(例えば、皮膚、毛など)にひとたび投与されれば、本発明のランチビオティックを基にした胞子除染剤は胞子と接触し、それによってそれらを中和する。
【0061】
他の態様において、本発明の組成物および方法は、表面の、その上の胞子(例えば、炭疽菌胞子)を中和するための処置における用途がある。本発明の方法および組成物は、細菌(例えば、炭疽菌)胞子に曝露されたさまざまな表面、物体、材料など(例えば、医療用または応急処置用の装置、保育および調理用の装置および表面)を、胞子を中和する目的、ならびに細菌曝露の広がりを抑制および/または防止する目的で、処置するために用いることができる。
【0062】
他の態様において、細菌(例えば、炭疽菌)胞子を有する可能性のある部位に組成物を送達するために(例えば、胞子を中和するために)、組成物を、縫合糸、包帯、およびガーゼ、ワイプ材などの吸収性材料に含浸させてもよく、または外科用ステープラー、ジッパー、およびカテーテルなどの固相材料の表面に塗布してもよい。いくつかの態様において、本発明のランチビオティックを基にした胞子除染剤は、湿式紙製ワイプ材またはゲル(例えば、バリアゲル)として処方される。このタイプの他の送達システムは当業者には明らかであると考えられる。
【0063】
細菌(例えば、炭疽菌)胞子に曝露された可能性があり、そのために本発明の組成物および方法を用いる処置の候補となる対象は、好ましくはヒトである。いくつかの態様において、ヒト対象は、細菌(例えば、炭疽菌)胞子に曝露された、あらゆる年齢(例えば、成人、小児、幼児など)の者である。いくつかの態様において、ヒト対象は、細菌(例えば、炭疽菌)胞子に対する直接的な曝露(例えば、胞子の源(例えば、汚染された一通の郵便物)に触れることを介して、または胞子(例えば、大気中に故意に放出された胞子)を吸入することによって)を受けた対象である。いくつかの態様において、ヒト対象は、一次的な源以外の源からの細菌(例えば、炭疽菌)胞子に対する曝露を受けた対象(例えば、1つまたは複数の一次的に曝露された対象との接触を介して(例えば、テロリスト攻撃の場に到着した救急隊員)である。さらに、対象は、対象の身体の任意の部分に対して、本発明の組成物を用いる処置による恩恵を受けうる。例えば、噴霧剤を、対象の曝露された任意の表面(例えば、皮膚)の処置(例えば、塗布)のために用いることができる。または、対象の全身を処置してもよい(例えば、全身に本発明のランチビオティックを基にした胞子除染剤を塗布する(例えば、本明細書に記載のシャワーまたは浴槽を用いて))。本発明はヒト対象に限定されない。実際には、細菌(例えば、炭疽菌)胞子に曝露されたあらゆる動物対象(例えば、イヌ、ネコ、ウマなど)が、本発明の組成物を用いた処置による恩恵を受けうる。
【0064】
本発明のランチビオティックを基にした胞子除染剤は、経口、局所、吸入、または非経口的といった任意の経路による投与のために処方することができる。組成物は、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、ロゼンジ、フォーム、クリーム、または液体調製物の形態にあってよい。
【0065】
本発明の局所用配合物は、例えば、軟膏、クリームまたはローション、フォーム、眼軟膏および点眼剤または点耳剤、含浸させたドレッシング材ならびにエアロゾルとして提示することができ、保存料、溶媒(例えば、薬物の浸透を補助するため)、ならびに軟膏およびクリーム中の皮膚軟化剤といった適切な従来の添加物を含んでもよい。
【0066】
局所用配合物はまた、皮膚を通しての有効成分の浸透を向上させる薬剤を含んでもよい。例示的な薬剤には、2成分の組み合わせである、N-(ヒドロキシエチル)ピロリドンおよび細胞エンベロープを乱す化合物、スルホキシドまたはホスフィンオキシドと組み合わせた糖エステル、ならびにスクロースモノオレエート、デシルメチルスルホキシド、およびアルコールが含まれる。
【0067】
皮膚の浸透性を高める他の例示的な材料には、表面活性剤または湿潤剤が含まれ、これには以下のものが非限定的に含まれる:ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80);ソルビタンモノオレエート(Span 80);p-イソオクチルポリオキシエチレン-フェノールポリマー(Triton WR-1330);ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート(Tween 85);スルホコハク酸ジオクチルナトリウム;およびサルコシン酸ナトリウム(Sarcosyl NL-97);ならびに他の薬学的に許容される表面活性剤。
【0068】
本発明のある態様において、配合物がさらに、1つまたは複数のアルコール、亜鉛含有化合物、皮膚軟化剤、湿潤剤、増粘剤および/またはゲル化剤、中和剤、および表面活性剤を含んでもよい。配合物中に用いられる水は、好ましくは、中性pHの脱イオン水である。局所用配合物におけるそのほかの添加物には、シリコーン油、染料、香料、pH調整剤、およびビタミンが非限定的に含まれる。
【0069】
局所用配合物はまた、クリームまたは軟膏基剤、およびローション用のエタノールまたはオレイルアルコールといった適合性のある従来の担体を含んでもよい。このような担体は、配合物の約1%から最大約98%で存在しうる。軟膏基剤は、ワセリン、鉱油、セレシン、ラノリンアルコール、パンテノール、グリセリン、ビサボロール、カカオ脂などのうち1つまたは複数を含みうる。
【0070】
本発明のいくつかの態様において、薬学的組成物をフォームとして処方して用いることもできる。薬学的フォームには、乳剤、マイクロエマルション、クリーム、ゼリー、およびリポソームなどの配合物が非限定的に含まれる。性質については基本的に同様であるものの、これらの配合物は最終的製品の成分および粘稠性の点でさまざまである。
【0071】
本発明の組成物はさらに、薬学的組成物中に従来より認められる他の補助的成分を含んでもよい。すなわち、例えば組成物は、追加的で、適合性があり、薬学的活性のある材料、例えば鎮痒薬、収斂薬、局所麻酔薬、もしくは抗炎症薬を含んでもよく、または染料、香味剤、保存料、抗酸化剤、乳白剤、増粘剤、および安定化剤といった、本発明の組成物のさまざまな剤形を物理的に処方する上で有用な追加的な材料を含んでもよい。しかし、そのような材料は、添加される場合、本発明の組成物の成分の生物活性に過度に干渉しないことが好ましい。配合物を滅菌し、所望であれば、配合物のランチビオティックを基にした胞子除染と有害な相互作用を起こさない補助的薬剤(例えば、潤滑剤、保存料、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与えるための塩、緩衝液、着色料、香味剤、および/または芳香性物質など)と混合することができる。
【0072】
いくつかの態様において、本発明は、(a)ランチビオティックを基にした胞子除染剤;および(b)1つまたは複数の他の薬剤(例えば、抗生物質)を含む薬学的組成物を提供する。他のタイプの抗生物質の例には、以下のものが非限定的に含まれる:アルメシリン(almecillin)、アムジノシリン、アミカシン、アモキシシリン、アンホマイシン、アンホテリシンB、アンピシリン、アザシチジン、アザセリン、アジスロマイシン、アゾシリン、アズトレオナム、バカンピシリン、バシトラシン、ベンジルペニシロイル-ポリリジン、ブレオマイシン、カンジシジン、カプレオマイシン、カルベニシリン、セファクロール、セファドロキシル、セファマンドール、セファゾリン、セフジニル、セフェピム、セフィキシム、セフィネノキシム(cefinenoxime)、セフィネタゾール(cefinetazole)、セフォジジム、セフォニシド、セフォペラゾン、セフォラニド、セフォタキシム、セフォテタン、セフォチアム、セフォキシチン、セフピラミド、セフポドキシム、セフプロジル、セフスロジン、セフタジジム、セフリブテン(ceflibuten)、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフロキシム、セファセトリル、セファレキシン、セファログリシン、セファロリジン、セファロチン、セファピリン、セフラジン、クロラムフェニコール、クロルテトラサイクリン、シラスタチン、シンナマイシン、シプロフロキサシン、クラリスロマイシン、クラブラン酸、クリンダマイシン、クリオキノール、クロキサシリン、コリスチメテート、コリスチン、シクラシリン、サイクロセリン、シクロスポリン、シクロ-(Leu-Pro)、ダクチノマイシン、ダルババンシン、ダルフォプリスチン、ダプトマイシン、ダウノルビシン、デメクロサイクリン、デトルビシン、ジクロキサシリン、ジヒドロストレプトマイシン、ジリスロマイシン、ドキソルビシン、ドキシサイクリン、エピルビシン、エリスロマイシン、エベミノマイシン(eveminomycin)、フロキサシリン、ホスホマイシン、フシジン酸、ゲミフロキサシン、ゲンタマイシン、グラミシジン、グリセオフルビン、ヘタシリン、イダルビシン、イミペネム、イセガナン、イベルメクチン、カナマイシン、ラスパルトマイシン(laspartomycin)、リネゾリド、リノコマイシン、ロラカルベフ、マゲイニン、メクロサイクリン、メロペネム、メタサイクリン、メチシリン、メズロシリン、ミノサイクリン、マイトマイシン、モエノマイシン、モキサラクタム、モキシフロキサシン、ミコフェノール酸、ナフシリン、ナタマイシン、ネオマイシン、ネチルミシン、ニフィマイシン、ニトロフラントイン、ノボビオシン、オレアンドマイシン、オリタバンシン、オキサシリン、オキシテトラサイクリン、パロモマイシン、ペニシラミン、ペニシリンG、ペニシリンV、フェネチシリン、ピペラシリン、プリカマイシン、ポリミキシンB、プリスチナマイシン、キヌプリスチン、リファブチン、リファンピン、リファマイシン、ロリテトラサイクリン、シソマイシン、スペクトリノマイシン(spectrinomycin)、ストレプトマイシン、ストレプトゾシン、スルバクタム、スルタミシリン、タクロリムス、タゾバクタム、テイコプラニン、テリスロマイシン、テトラサイクリン、チカルシリン、チゲサイクリン、トブラマイシン、トロレアンドマイシン、ツニカマイシン、チルスリシン(tyrthricin)、バンコマイシン、ビダラビン、バイオマイシン、バージニアマイシン、BMS-284,756、L-749,345、ER-35,786、S-4661、L-786,392、MC-02479、Pep5、RP 59500、およびTD-6424。いくつかの態様において、2つまたはそれ以上の併用薬剤(例えば、ランチビオティックを基にした胞子除染剤およびもう1つの抗生物質を含む組成物)を一緒に、または逐次的に用いることもできる。いくつかの態様において、もう1つの抗生物質には、バクテリオシン、A型ランチビオティック、B型ランチビオティック、リポシドマイシン、ムレイドマイシン(mureidomycin)、アラノイルコリン(alanoylcholine)、キノリン、エベミノマイシン、グリシルサイクリン、カルバペネム、セファロスポリン、ストレプトグラミン、オキサゾリドノン(oxazolidonone)、テトラサイクリン、シクロチアリジン、バイオキサロマイシン(bioxalomycin)、陽イオン性ペプチド、および/またはプロテグリンが含まれうる。いくつかの態様において、ランチビオティックを基にした胞子除染剤はリゾスタフィンを含む。いくつかの態様において、ランチビオティックを基にした胞子除染剤はムピロシンを含む。いくつかの態様において、ランチビオティックを基にした胞子除染剤は、1つまたは複数の抗炭疽剤(例えば、炭疽菌を処置するために当技術分野で用いられる抗生物質(例えば、ペニシリン、シプロフロキサシン、ドキシサイクリン、エリスロマイシン、およびバンコマイシン))を含む。
【0073】
本発明はまた、ランチビオティックを基にした胞子除染剤と1つまたは複数の追加的な活性薬剤(例えば、抗生物質、抗酸化剤など)との同時投与を伴う方法も含む。実際には、ランチビオティックを基にした胞子除染剤を含む組成物を同時投与することによって、先行技術の治療法および/または薬学的組成物を強化するための方法を提供することは、本発明の1つのさらなる局面である。同時投与手順において、薬剤は同時発生的または逐次的に投与することができる。1つの態様において、本明細書に記載の化合物は、他の活性薬剤の前に投与される。薬学的配合物および投与の様式は、本明細書に記載した任意のものでよい。加えて、2つまたはそれ以上の同時投与される薬剤をそれぞれ異なる様式または異なる配合物を用いて投与することもできる。
【0074】
同時投与しようとする追加的な薬剤、例えば他の抗生物質などは、現在臨床的に用いられているものを非限定的に含む当技術分野周知の薬剤のうちの任意のものでありうる。
【0075】
いくつかの態様において、ランチビオティックを基にした胞子除染剤は、複数の経路を介して対象に投与される。例えば、細菌胞子(例えば、炭疽菌胞子)に曝露された対象は、局所投与(例えば、噴霧剤、ワイプ材、シャワー、入浴、または本明細書に記載した他の経路を介して)を受け、さらに肺投与(例えば、ネブライザー、吸入器、または本明細書に記載した他の方法を介して)を受けることによって恩恵を受ける可能性がある。いくつかの態様において、細菌胞子(例えば、炭疽菌胞子)に曝露された対象は、皮膚の上ならびに気道内に存在する胞子を有すると考えられる。このため、機序の理解は本発明の実施のために必ずしも必要ではなく、本発明はいかなる特定の作用機序にも限定されないものの、そのような対象は、複数の形態の処置(例えば、本発明のランチビオティックを基にした胞子除染剤の局所投与ならびに気道投与)による恩恵を受けると考えられる。
【0076】
いくつかの態様において、ランチビオティックを基にした胞子除染剤を含む薬学的調製物は、投与を容易にし、かつ投与量を均一にするために、投薬単位剤形(dosage unit form)として処方される。投薬単位剤形とは、本明細書で用いる場合、処置を受ける患者にとって適切な、薬学的調製物の物理的に分離した単位を指す。各投与量は、所望の抗菌または殺胞子(例えば、細菌胞子の死滅または増殖減弱化)効果を生じることが計算された、ランチビオティックを基にした胞子除染剤(例えば、ナイシン)を含む組成物の量を、選択された薬学的担体とともに含む。適切な投薬単位を決定するための手順は当業者に周知である。
【0077】
投薬単位は、いくつかの要因(例えば、曝露時間または細菌胞子曝露(例えば、炭疽菌胞子曝露)の規模、または対象の体重)に基づいて、それに見合うように増大または削減ができる。表面(例えば、皮膚または毛)の上の病原細菌胞子の駆除を達成するために適切な濃度は、当技術分野で周知であるような、投薬濃度曲線の計算によって決定することができる。
【0078】
いくつかの態様において、組成物は0.1〜2000μg/mLのランチビオティック(例えば、ナイシン)を含む。いくつかの態様において、組成物は2000〜5000μg/mLのランチビオティック(例えば、ナイシン)を含む。いくつかの態様において、本発明のランチビオティックを基にした胞子除染剤は600μg/mLのナイシンを含む。いくつかの態様において、組成物は、重量比にして0.01〜15%またはそれ以上(例えば、0.1〜10%、0.5〜5%、1〜3%、2%、6%、10%、15%またはそれ以上)のランチビオティック(例えば、ナイシン)を含む。いくつかの態様において、対象に送達されるランチビオティック(例えば、ナイシン)の量は、0.1〜1000mg/kg/日(例えば、1〜500mg/kg/日、5〜250mg/kg/日、10〜100mg/kg/日など)である。
【0079】
本発明の組成物および方法は、研究の状況を含む、さまざまな状況において用途があると想定している。例えば、本発明の組成物および方法は、抗生物質耐性の試験(例えば、抗生物質耐性を改変しうるタンパク質および医薬品の分析を介して)、および抗菌処置に対する細菌細胞または胞子の感受性を観察するためのインビボ試験における用途もある。本発明によって提供される組成物および方法の使用法は、ヒトおよび非ヒト対象ならびにそれらの対象からの試料を包含し、これらの対象を用いた研究用途も包含する。したがって、本発明は、いかなる特定の対象および/または用途の状況にも限定されないものとする。
【0080】
本発明のランチビオティックを基にした胞子除染剤は、存在する、または回避すべき感染性胞子の性質が公知である場合にも、ならびに感染性胞子の性質が不明である場合にも用途がある。例えば、本発明は、任意の胞子形成性細菌と関連のある感染症の処置または予防における本発明の組成物の使用を想定している。
【0081】
いくつかの態様において、本発明の薬学的組成物は、経口的(固体または液体)、非経口的(筋肉内、腹腔内、静脈内(IV)、または皮下注射)、経皮的(受動的に、またはイオントフォレシスもしくはエレクトロポレーションを用いて)、経粘膜的(鼻、膣、直腸、または舌下)もしくは吸入経路による投与のために、または生侵食性(bioerodible)挿入物を用いて処方することができ、それぞれの投与経路に適切な剤形にて処方することができる。
【0082】
本発明の1つのさらなる態様において、本発明の薬学的組成物は、糞便物質中または糞便で汚染された表面(例えば、ヒト皮膚)における細菌胞子(例えば、クロストリジウム-ディフィシレ菌(Clostridium difficile)の胞子)の感染の広がりを防止するために用いることができる。いくつかの態様において、本発明は、糞便中に流れた感染性胞子を中和するように設計された消毒用ワイプ材を提供する。
【0083】
1つの好ましい態様において、組成物は肺送達によって投与される。例えば、本発明の組成物は、哺乳動物(例えば、ヒト)の肺に送達すること(例えば、それによって肺上皮内層を越えて血流に移行させること)ができる(例えば、Adjei, et al. Pharmaceutical Research 1990; 7:565-569;Adjei, et al. Int. J. Pharmaceutics 1990; 63:135-144;Braquet, et al. J. Cardiovascular Pharmacology 1989 143-146;Hubbard, et al. (1989) Annals of Internal Medicine, Vol. III, pp. 206-212;Smith, et al. J. Clin. Invest. 1989;84:1145-1146;Oswein, et al. "Aerosolization of Proteins", 1990;Proceedings of Symposium on Respiratory Drug Delivery II Keystone, Colorado;Debs, et al. J. Immunol. 1988; 140:3482-3488;およびPlatzらに対する米国特許第5,284,656号を参照。全身効果を目的とする薬物の肺送達のための方法および組成物は、参照により本明細書に組み入れられる、Wongらに対する米国特許第5,451,569号に記載されている;参照により本明細書に組み入れられる、Licalsiらに対する米国特許第6,651,655号も参照のこと))。また、本発明の組成物を、貪食細胞による取り込みの前に、または局所的な貪食細胞の内部にある状態で、胞子を中和することまたは栄養増殖性細胞を死滅させることを意図して肺内に送達することもできる。
【0084】
本発明の実施において使用をさらに想定しているのは、そのすべてに当業者が精通している、ネブライザー、定量噴霧式吸入器(metered dose inhaler)および粉末吸入器を非限定的に含む、治療薬(例えば、ランチビオティックを基にした胞子除染剤)の肺送達のために設計された広範囲にわたる機械的デバイスである。本発明の実施に適した市販のデバイスのいくつかの具体的な例は、Ultraventネブライザー(Mallinckrodt Inc., St. Louis, Mo.);Acorn IIネブライザー(Marquest Medical Products, Englewood, Colo.);Ventolin定量噴霧式吸入器(Glaxo Inc., Research Triangle Park, N.C.);およびSpinhaler粉末吸入器(Fisons Corp., Bedford, Mass.)である。このようなデバイスはすべて、治療薬の定量分配に適した配合物の使用を必要とする。典型的には、それぞれの配合物は用いるデバイスのタイプに対して固有であり、治療法において有用な通常の希釈剤、補助剤、表面活性剤、および/または担体に加えて、適切な噴射剤材料の使用を伴う。同じく、リポソーム、マイクロカプセルもしくはミクロスフェア、包接複合体、または他のタイプの担体の使用も想定している。
【0085】
定量噴霧式吸入器デバイスとともに用いるための配合物は、一般に、表面活性剤の力を借りて噴射剤中に懸濁化された治療薬を含む微粉末を含むと考えられる。噴射剤は、トリクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタノール、および1,1,1,2-テトラフルオロエタン、またはそれらの組み合わせを含む、クロロフルオロカーボン、ヒドロクロロフルオロカーボン、ヒドロフルオロカーボン、またはヒドロカーボンといった、この目的に用いられる任意の従来の材料であってよい。適した表面活性剤には、ソルビタントリオレエートおよびダイズレシチンが含まれる。オレイン酸も表面活性剤として有用である。
【0086】
いくつかの態様において、粉末吸入器デバイスからの定量分配のための配合物は、治療薬を含む微粉化された乾燥粉末を含むと考えられ、さらにデバイスからの粉末の分散を容易にするラクトース、ソルビトール、スクロース、またはマンニトールなどの増量剤(例えば、配合物の重量比にして50〜90%)を含んでもよい。治療薬は、遠位肺に対する最も効果的な送達のために、平均粒径が10mm(またはミクロン)未満、最も好ましくは0.5〜5mmである粒子状形態に調製することが最も有益であると考えられる。
【0087】
治療薬の経鼻送達または他の粘膜送達も想定している。経鼻送達は、製品を肺内に沈着させる必要を伴うことなく、組成物を鼻に投与したすぐ後に血流への移行を可能にする。経鼻送達のための配合物には、デキストランまたはシクロデキストランおよびサポニンを補助剤として有するものが含まれる。経鼻送達には、鼻道内に存在する胞子を中和するというさらなる利点がある(例えば、実施例13参照)。また、鼻道への治療薬の送達には、鼻道内の胞子を、それらが局所感染を引き起こす前に、または肺に移行して広範な感染を引き起こす前に中和するという別の利点もある。
【0088】
本発明の組成物は1つまたは複数の追加的な有効成分、薬学的組成物、またはワクチンとともに投与することができる。
【0089】
実験
以下の実施例は、本発明のある種の好ましい態様および局面を実証するため、ならびにさらに例証するために提供されるものであり、その範囲を限定するものとみなされるべきではない。
【0090】
実施例1
栄養増殖性バシラスおよび他の微生物に対するナイシン活性
ナイシンは広範囲にわたるグラム陽性菌体に対して活性がある(例えば、図7に示されている表1を参照)。表1に列記した菌体に関する最小阻止濃度(MIC)および最小殺菌濃度(MBC)は、MBCの決定を容易にするためにより高度の初期接種物を用いた点を除き、標準的な方法によって決定した(例えば、National Committee for Clinical Laboratory Standards, 1997, Villanova, Pa, 4th Editionを参照)。
【0091】
栄養増殖性セレウス菌(B. cereus)および炭疽菌(スターン株(Sterne))細胞に関するナイシンのMICも、補助因子の可能性のある種々のもの(例えば、図8に示されている表2を参照)の非存在下または存在下においてBHI培地を用いる微量液体希釈アッセイによって決定した。これらの試験により、キレート剤、表面活性剤および精油を含む種々の因子の存在下におけるナイシンの抗菌活性の相乗的増強が実証された。
【0092】
実施例2
細菌胞子に対するナイシンの活性
ナイシンがバシラス胞子と結合してその発芽後成長を防止する能力をさまざまな条件下で調べた。ナイシンがセレウス菌および炭疽菌の胞子と結合することが実証された。セレウス菌および炭疽菌の胞子をTisaらの方法(例えば、Tisa et al., 1982 Appl. Environ. Microbiol. 6, 550-556を参照)によって調製し、パーコール勾配にて精製したところ、母細胞の混入を伴わない胞子が得られた。これらの高度に精製された胞子を600μg/mlナイシン+0.1% Tween 20とともに10分間インキュベートし、続いてスピン濾過によって洗浄した。続いて、ナイシンで処置した胞子または未処置の対照胞子を、Alexaflourで標識してアフィニティー精製したヒツジ抗ナイシン(Ambi, Purchase, NY)ともにインキュベートした。続いて胞子を洗浄し、蛍光を測定した。ナイシンはセレウス菌および炭疽菌の両方の胞子と結合し、十分な洗浄後も結合したままであった(例えば、図9に示されている表3を参照)。
【0093】
実施例3
ナイシンはインビトロでセレウス菌および炭疽菌の胞子の発芽を停止させる
セレウス菌の高度に精製された胞子を種々の濃度のナイシンで10分間処置し、続いてPBSで洗浄した。洗浄した胞子を連続希釈して、脳心臓浸出液寒天(BHI)平板培地上で一晩インキュベートした。図10に示された表4は、胞子のナイシン処置後における胞子の発芽および発芽後成長の5 log10の低下を示している。表面活性剤(例えば、Tween-20およびカルバコール(2-p-シメノール、オレガノおよびタイムから抽出された精油))の添加により、胞子の発芽および発芽後成長は2 log10だけさらに低下した。
【0094】
単離した胞子に対するナイシンの影響をさらに描出するために、炭疽菌(スターン株)の高度に精製された胞子を600μg/mlナイシンで10分間処置し、洗浄した後に、BHI+5%グリセロールブロス中でインキュベートした。さまざまな時点でBHI培養物から試料を採取し、胞子および/または栄養増殖性細胞を位相差顕微鏡で検査した。スターン株胞子の目視検査により、ナイシンによる処置の有無に関係なく、すべての胞子が明位相(5分の時点)から暗位相(1時間の時点)に進行したことが判明した。しかし、最も注目すべきであったのは、未処置の胞子では栄養増殖を2時間まで観察することができたが、ナイシンで処置した胞子では24時間の観察期間の全体にわたって暗位相の胞子のままであったという観察所見であった。
【0095】
炭疽菌のスターン株は、莢膜の産生をコードする遺伝子を含むpXO2プラスミドを持たない(例えば、Mock and Fouet, 2001, Anthrax Annu Rev Microbiol 55, 647-671を参照)。ナイシンが完全な毒力を持つ炭疽菌の菌株からの胞子に対しても同じ効果を有するか否かを明らかにするために、炭疽菌(エイムス株(Ames))胞子(350個/ml)を種々の濃度のナイシン水溶液に対して氷上で10分間曝露させた。続いて胞子を遠心によってペレット化し、水中に再懸濁させて、連続希釈した後に、トリプティックソイ寒天培地上にプレーティングした。図1に示されているように、ナイシンの濃度が上昇するに伴い、炭疽菌(エイムス株)胞子の発芽後成長の用量反応的な阻止がみられた。
【0096】
実施例4
ナイシンにより中和された胞子は時間が経過しても減弱化したままである
ナイシンで処置した胞子が、処置から長期間を経た後も不活性のままに保たれることは重要である。これがインビトロで起こるか否かを明らかにするために、胞子の試料(〜5×107個/ml)を、上記のようにナイシンにより、クエン酸ナトリウム緩衝液中で室温にて10分間処置した。試料のうち2つをスピン濾過によって洗浄して滅菌緩衝液中に再懸濁させ、2つは胞子の中和に関する陽性対照として用いるために緩衝液中のナイシンの中に残した。ナイシンで処置した胞子試料の一方は洗浄して一方は洗浄せず、緩衝液で処置した胞子の対照試料とともに、室温に、または37℃のインキュベーター内に置いた。第0日、3日、7日、14日、28日、および56日を含む、ナイシン処置後のさまざまな時点で、各試料のアリコートをチューブから採取して、スピン濾過によって洗浄し、胞子試料のそれぞれの発芽能力を上記のようにして決定した。
【0097】
表6、図12に示されているように、ナイシンで処置した胞子は第3日までを通じて37℃で完全に中和されたままであった(BHI培地の接種後24時間の時点で増殖がみられないことから判断される)。第7日以後は、BHI培地の24時間のインキュベーション後に何らかの混濁性増殖が認められた。視認しうる混濁性増殖のこの遅延は、洗浄したナイシン処置胞子の37℃での28日間のインキュベーション後には6時間へとさらに短縮した。しかし、37℃で56日間インキュベートしたナイシン処置胞子は遅延性増殖を示し続け(視認しうる増殖は6時間に対して1時間)、このことはナイシンが長期間を経ても胞子に影響を及ぼし続けることを示している。緩衝液で処置した対照胞子では、実験全体を通じて、視認しうる増殖がBHI培地の接種後1時間でみられたが、一方、胞子を500μg/mlナイシン溶液中に放置した陽性対照試料は、37℃での56日間のインキュベーション後でさえも発芽および増殖を行わなかった。このことは、ナイシンの比較的高い濃度がこの実験全体を通じて安定に保たれたことを示している。この実験を室温を行って実施した場合も同様の結果が認められた。
【0098】
実施例5
ナイシンで処置した胞子はマクロファージ内で発芽しない
炭疽菌胞子が吸入、摂取または創傷汚染によって体内に侵入した後に、胞子は局所マクロファージによって貪食され、胞子の発芽が始まる(例えば、Dixon et al., 2000 Cell Microbiol 2, 453-463;Guidi-Rontani 2002 Trends Microbiol 10, 405-409を参照)。ナイシンで処置した胞子がマクロファージ内での発芽に関して遮断されるか否かを明らかにするために、細胞培養物の感染系を開発した。手短に述べると、蛍光顕微鏡による描出を可能にするために、炭疽菌(スターン株)胞子にAlexaflourによる蛍光タグを付加した。胞子を600μg/mlナイシンの存在下または非存在下で15分間処置し、続いて洗浄した。ヒトマクロファージ細胞株RAW-264.7をチャンバースライド上で増殖させ、続いて、ナイシンで処置したまたは未処置の炭疽菌(スターン株)胞子とともにMOI 4にて2時間インキュベートした。インキュベーション期間の後に、遊離胞子を除去するために細胞単層を洗浄した。RAW264.7細胞による胞子の取り込みを、光学顕微鏡および蛍光顕微鏡の組み合わせにより、さまざまな時点で描出した。続いて、負荷を受けた(challenged)RAW-264.7細胞を感染後のさまざまな時点で観察した。炭疽菌(スターン株)細胞の栄養増殖は、未処置の胞子による負荷を受けたRAW-264.7細胞培養物では2時間以内に線維状ストランドとして明瞭に認められたが、一方、ナイシンで処置した胞子は最長7時間(この時点で実験を終了した)にわたって不活性胞子のままであった。
【0099】
実施例6
ナイシンによる胞子の前処置により、マウス肺内負荷モデルにおいてマウスは死亡から防護される
A/Jマウスは炭疽菌(スターン株)胞子の負荷に対する感受性がある(例えば、Friedlander et al., 1993 Infect Immun 61, 245-252を参照)。緩衝液中にある胞子の鼻内滴注を行うと胞子は肺胞に到達し、そこでそれらは肺胞マクロファージによって取り込まれ、発芽して、毒素を発現し、最終的には数日で動物を死亡させる(例えば、Mock and Fouet, Anthrax Annu Rev Microbiol 2001 55, 647-671を参照)。A/Jマウスに1.1×105個の炭疽菌(スターン株)胞子による負荷を加えたところ、その群の5匹のマウスはすべて、第5日までに感染症のために死亡した(図2参照)。しかし、ナイシン(600μg/ml)で15分間処置した後に洗浄した胞子による負荷をマウスに加えた場合には、1匹の死亡(第10日)のみが観察され、第20日までそれ以上の死亡は観察されなかった。
【0100】
実施例7
ナイシンで処置した胞子はインビボで長期間にわたって中和されたままである
2001年の炭疽菌攻撃の際には、人々に対して、貪食された胞子からの栄養増殖性炭疽菌の遅発性出現から彼らを確実に防護するために、60日間にわたって抗生物質が投与された。胞子がマクロファージ内部で長期間にわたって不活性に保たれる可能性があることを考慮すると、ナイシンで処置した胞子が長期間にわたって不活性に保たれるか否か、およびナイシンが発芽停止を招き、栄養増殖の開始を単に遅らせるのではないことを明らかにすることが重要であった。スターン株胞子および変異型Cipro-R胞子の処置により、A/Jマウス肺内負荷モデルにおいてこれらの胞子が大きく減弱化することが以前に示されている。A/Jマウスは、莢膜を持たない炭疽菌のスターン株による負荷に対する感受性があることが知られていることから、A/Jマウスを、ナイシンで処置した胞子による肺負荷に関するモデルとして用いた。
【0101】
炭疽菌(スターン株)を固形培地上で増殖させて胞子形成を行わせること(図6ではA型胞子と称している)、または炭疽菌(スターン株、固形培地上で増殖させたものとは異なる当初からの貯蔵物)を液体培地中で増殖させて胞子形成を行わせること(図6ではB型胞子と称している)のいずれかにより、胞子の別々の集団を作製した。両方の胞子調製物を、勾配遠心によって精製した。胞子を500μg/mlナイシンを含む緩衝液または緩衝液のみによって10分間処置した。処置後に胞子を2回洗浄し、続いて水中に再懸濁させた。A/Jマウスに麻酔を施し、続いてほぼ5×106個の処置したまたは未処置の胞子を含む容量50μlの鼻内負荷を行った。続いて数週間いわたってマウスを死亡に関してモニターした。図6に示されているように、ナイシンで処置したA型胞子による負荷を受けたマウスのすべて、およびナイシンで処置したB型胞子による負荷を受けたマウスの80%が55日間生存し、一方、緩衝液で処置した対照胞子調製物による負荷を受けたマウスの80%は10日以内に感染症のために死亡した。ナイシンで処置した胞子のために死亡した1匹のマウスは、ほぼ第20日までは死亡しなかった。
【0102】
したがって、本発明は、2種類の種貯蔵物から2種類の方法で生じさせた胞子がインビボでナイシンによって中和されること、ナイシンで処置した胞子は吸入された時に大きく減弱化/中和されていること、ナイシンで処置した胞子は肺への投与後に長期間にわたって減弱化/中和されたままであること、および胞子のナイシン処置は疾患の開始を単に遅らせるのではないことを提供する。
【0103】
実施例8
シプロフロキサシン耐性炭疽菌変異体の選択、ならびに胞子中和および毒力の減弱化に関するナイシンの検査
2001年の郵便物による炭疽菌攻撃の際に、炭疽を発症した者および胞子に曝露された可能性のある者に対して選択された抗生物質はシプロフロキサシン(Cipro)であった(例えば、Frist, 2002, When Every Moment Counts, What You Need to Know About Bioterrorism, Rowman and Littlefield Publishers, Inc. NYを参照)。曝露が疑われる程度であっても、多くの人々が60日間にわたり抗生物質の投与を受けた。炭疽菌において、Ciproに対する耐性は、細菌をその抗生物質の存在下で、その濃度を上昇させながら培養することによって選択することができる(例えば、Athamna et al., 2003 J Antimicrob Chemother 54, 424-428を参照)。本発明の開発および前記のプロセスの使用の過程において、8mg/LのCiproに対する耐性のある炭疽菌(スターン株)変異体が単離された。
【0104】
この耐性株の胞子を産生させた(Cipro-R)。Cipro-R炭疽菌の胞子も、Cipro感受性胞子と同じ様式で、ナイシンにより、インビトロでの発芽に関して遮断されることが明らかとなった。さらに、Cipro-R菌の胞子はマウス肺負荷モデルにおける病原性がより弱かったが(致死量はCipro-R胞子が〜107個であるのに対して、親株胞子は〜105個)、ナイシンはこのモデルにおいてCipro-R胞子も減弱化させた(例えば、10匹の対照マウスのうち8匹は感染症のために死亡したが、ナイシンで処置した胞子による負荷を受けた10匹のマウスのうち死亡したのは2匹であり、曝露から20日以上経った時点であった)。Cipro-R胞子を用いた攻撃による悪影響は、Ciproに対する耐性が判明するまでに数日間の遅れが考えられることから、恐るべきものである。本発明は代替的な防衛策を提供する。
【0105】
実施例9
炭疽菌(スターン株)胞子の創傷感染モデル
SKHマウス(例えば、ASM General Meeting Abstract. S. Walsh, A. Shah, J. Mond, Abstract # A-021. Meeting dates 18-22 May, 2003, Washington DCを参照)を用いて、無毛マウス皮膚汚染モデルを開発した。
【0106】
炭疽菌(スターン株)胞子を用いる場合、4匹のSKH無毛マウスの背部の皮膚を、滅菌した150グリットの紙やすりで擦過し、107個/mlの胞子を含む〜100μlの溶液を皮膚に綿棒で塗り広げた。負荷から4日後に、PBSで湿らせた綿棒を用いた拭き取りによって罹患部の皮膚の試料を採取した。綿棒上の細菌をPBS中に再懸濁させて、回収される細菌を算定するために、BHI寒天培地および血液寒天培地に対してプレーティングした。続いて、これらの同じ緩衝液に70℃、15分間の熱ショックを加えて、同じくプレーティングした。図11における表5は回収の結果を示している。
【0107】
血液寒天培地上での回収数はほぼ同一であり、いずれの寒天培地でも炭疽菌(スターン株)のみが回収された。これらの結果は、適用した胞子の大部分が創傷において発芽し、栄養増殖性細胞として増殖したが、マウスのうち2匹では胞子が創傷からも回収されたことを示している。
【0108】
実施例10
表面上での炭疽菌(スターン株)胞子のナイシンによる中和
80μl(〜107個)の炭疽菌(スターン株)またはCipro-Rスターン株胞子を、スライドグラス上にピペットで滴下した。胞子懸濁液を風乾させて、付着性胞子スポットを形成させた。150μlの0.6 mg/mlナイシン溶液または緩衝液対照を乾燥胞子スポットに対してピペットで滴下し、室温で15分間インキュベートした。溶液を除去してスポットを水で3回洗浄した。最後の洗浄液の除去後に、150μlのBHI培地を各胞子スポットに添加し、再懸濁させた胞子を、BHI培地を含む培養試験管に滅菌細胞スクレーパを用いて入れた。胞子を37℃で振盪させながらインキュベートした。胞子の発芽および栄養増殖の状態を決定するための顕微鏡観察のために、アリコートをさまざまな時点で採取した。
【0109】
図3は、最終時点(5時間)でのアリコートを示している。緩衝液で処置したスターン株(a)およびCipro-Rスターン株(c)胞子の栄養増殖は明瞭に視認することができ(例えば、増殖は20分の時点で最初に認められた)、ナイシンで前処置した両方のタイプの胞子(それぞれbおよびd)は実験全体を通じて不活性なままであった。
【0110】
実施例11
ナイシンを含浸させたワイプ材による表面上での胞子の中和
正方形の未処置の滅菌使い捨てワイプ材(25mm×25mm)に、0.6mg/mlナイシン溶液または緩衝液のみのいずれかを含浸させ、続いて過剰な緩衝液またはナイシン溶液を除去して、湿式ワイプ材を作製した。炭疽菌(スターン株)胞子の乾燥胞子スポットを、以上の実施例10に記載した通りにスライドグラス上に沈着させた。続いて、乾燥胞子スポットを、ナイシンを含浸させたワイプ材または緩衝液を含浸させたワイプ材のいずれかで強く拭いた(顕微鏡検査により、この処置によって胞子の大部分がスライドグラスから除去されたことが判明した)。続いてワイプ材全体を、滅菌水を含むチューブに移し、付着性胞子を遊離させるために超音波処置を短時間行い、その水のアリコートをBHI培地への接種に用いて、それを37℃で一晩振盪させながらインキュベートした。18時間のインキュベーション後に、BHI培養物を混濁度に基づいて栄養増殖に関して観察した。
【0111】
緩衝液を含浸させたワイプ材で拭き取った胞子は、栄養増殖性の炭疽菌(グラム染色および培養により確認)の混濁性増殖をもたらしたが、一方、ナイシンを含浸させたワイプ材で拭き取った胞子を接種した培養物は接種後18時間の時点でも清澄であった。したがって、本発明は、ナイシンを含浸させたワイプ材が、表面上の炭疽菌胞子を効果的に中和しうることを実証している。水中でのワイプ材の超音波処置およびそれに続いてBHI培地への接種に水を用いたプロセスによって、ナイシンの残留性の持ち越しは最小限に抑えられており、培地中に存在するナイシンの濃度は、接種後の胞子を効果的に中和するには低すぎる。したがって、機序の理解は本発明の実施のために必ずしも必要ではなく、本発明はいかなる特定の作用機序にも限定されないものの、いくつかの態様において、ナイシンを含浸させたワイプ材は、接触によって胞子を中和することができる。
【0112】
実施例12
ナイシンはマクロファージによって既に貪食された炭疽菌胞子を中和する
皮膚上の胞子のナイシンによる中和に加えて、胞子の取り込み後のナイシンの使用も有益であるか否かを明らかにするために、ナイシンがマクロファージに浸透して貪食後または吸入後の胞子を中和しうるか否かについて調べた。マクロファージ(RAW-264.7細胞)を、炭疽菌(スターン株)胞子により、MOIが胞子/細胞比として〜10にて、1.5時間にわたり前処置した。遊離スポットを除去するために細胞単層を2回洗浄し、マクロファージを培地のみまたは0.5mg/mlナイシンを含む培地で1時間処置した。このインキュベーション後に、過剰なナイシンを除去するために細胞を2回洗浄し、新たな培地を添加した。さまざまな時点で、マクロファージ細胞培養物を、胞子の取り込みおよびその後の炭疽菌の栄養増殖に関して顕微鏡観察した。
【0113】
対照細胞によって貪食された胞子からの炭疽菌の栄養増殖は観察されたが、一方、取り込みから5時間後にナイシンで処置した細胞では増殖は観察されなかった(図4参照)。したがって、本発明は、ランチビオティック(例えば、ナイシン)を、マクロファージによって既に貪食された胞子を中和するために用いうることを実証している(例えば、ランチビオティックはマクロファージに浸透することができる)。
【0114】
実施例13
ナイシンの鼻内適用による吸入後の胞子の中和
A/Jマウスに対して、5×105個の炭疽菌(スターン株)胞子(2群)またはナイシン(0.6mg/ml)で前処置した5×105個の胞子のいずれかを鼻内滴注した。滴注から4時間後に、胞子による負荷を加えたマウスの1つの群に0.6mg/mlナイシンを含む緩衝液50ulの鼻内滴注を行った。続いてマウスを死亡に関して追跡した。
【0115】
11日間にわたるマウスのモニタリングにより、胞子による負荷を受けたマウス5匹のうち3匹が負荷後第4日までに感染症のために死亡し、一方、ナイシンで処置した胞子による負荷を受けたマウスは5匹すべてが第11日まで生存したことが実証された。胞子の負荷から4時間後でのナイシン処置では、マウス5匹のうち4匹が第11日まで死亡から防護された(図5参照)。したがって、ランチビオティック(例えば、ナイシン)は、インビボで胞子を中和するために使用できること(例えば、ナイシンは真核細胞に浸透しうること(例えば、ナイシンは、吸入された炭疽菌胞子の曝露後処置として(例えば、皮膚上で中和されていない胞子を中和するために)使用できること))を本発明は実証している。
【0116】
以上の明細書において言及したすべての刊行物および特許は、参照により本明細書に組み入れられる。本発明の範囲および精神を逸脱することなく、記載した本発明の方法および系のさまざまな改変物および変形物が、当業者には明らかであると考えられる。本発明を特定の好ましい態様と関連づけて説明してきたが、特許請求される発明が、そのような特定の態様に過度に限定されるべきではないことが理解されるべきである。実際に、本発明を実施するための記載した様式に対するさまざまな改変が、関連分野の当業者には明らかであり、それらは添付の特許請求の範囲に含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】炭疽菌(エイムス株)胞子に対するナイシンの胞子中和活性を示す。
【図2】ナイシンで処置した胞子が、マウス肺負荷モデルにおいて減弱化されることを示す。
【図3】ナイシンが、プレート上で乾燥させた炭疽菌胞子を中和することを示す。緩衝液で処置した(a)スターン株および(c)Cipro-Rスターン株の胞子、ならびに(b)ナイシンで前処置したスターン株胞子および(d)ナイシンで前処置したCipro-Rスターン株胞子の栄養増殖。
【図4】ナイシンがマクロファージに浸透して、貪食された炭疽菌胞子を中和することを示す。これらの顕微鏡画像は(a)ナイシンで処置していない対照細胞、および(b)胞子の貪食の5時間後にナイシンで処置したマクロファージを示す。
【図5】ナイシンが、胞子をインビボで処置するための胞子曝露後処置として使用されうることを示す。
【図6】対照またはナイシンで処置した炭疽菌胞子による負荷を受けたマウスの生存率を示す。
【図7】実施例1で述べた表1を示す。
【図8】実施例1で述べた表2を示す。
【図9】実施例2で述べた表3を示す。
【図10】実施例3で述べた表4を示す。
【図11】実施例9で述べた表5を示す。
【図12】実施例4で述べた表6を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胞子が中和されるような条件下において、ランチビオティックを基にした胞子除染剤(lantibiotic-based spore decontaminant)を対象に投与する段階を含む、細菌胞子に曝露された対象を処置する方法。
【請求項2】
胞子が炭疽菌(Bacillus anthracis)の胞子である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
炭疽菌胞子が抗生物質耐性菌に由来する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
抗生物質耐性菌がシプロフロキサシン耐性である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
胞子がクロストリジウム-ディフィシレ菌(Clostridium difficile)の胞子である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
炭疽菌胞子がテロリスト攻撃時に放出される、請求項2記載の方法。
【請求項7】
炭疽菌胞子が実験室内で放出される、請求項2記載の方法。
【請求項8】
胞子がクロストリジウム-ディフィシレ菌性大腸炎の大流行に伴う汚染物質である、請求項5記載の方法。
【請求項9】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤が、デイケア施設、病院、養護施設、および学校からなる群より選択される環境で投与される、請求項5記載の方法。
【請求項10】
ランチビオティックを基にした除染剤がナイシンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤が噴霧剤を介して対象に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤がフォーム(foam)を介して対象に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項13】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤がクリームを介して対象に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項14】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤が、該ランチビオティックを含浸させた使い捨てのワイプ材(wipe)を介して対象に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項15】
使い捨てのワイプ材が、クロストリジウム-ディフィシレ菌胞子を含む糞便物質に曝露された皮膚を除染するために用いられる、請求項14記載の方法。
【請求項16】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤がシャワーを介して対象に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項17】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤が、該除染剤の溶液中における対象の浸漬によって対象に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項18】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤が肺投与を介して対象に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項19】
肺投与が、ランチビオティックを基にした胞子除染剤を対象が吸入することを含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
肺投与がネブライザーの使用を含む、請求項18記載の方法。
【請求項21】
肺投与が定量噴霧式吸入器(metered dose inhaler)の使用を含む、請求項18記載の方法。
【請求項22】
肺投与が粉末吸入器の使用を含む、請求項18記載の方法。
【請求項23】
肺投与が、胞子に対する曝露後48時間以内に対象に投与される、請求項18記載の方法。
【請求項24】
肺投与が、胞子に対する曝露後12時間以内に対象に投与される、請求項18記載の方法。
【請求項25】
肺投与が、胞子に対する曝露後4時間以内に対象に投与される、請求項18記載の方法。
【請求項26】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤が経鼻投与によって対象に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項27】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤が対象の粘膜表面に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項28】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤がインビボで投与される、請求項1記載の方法。
【請求項29】
対象がヒト対象である、請求項1記載の方法。
【請求項30】
対象が、炭疽菌胞子に曝露された対象の集団の1例である、請求項1記載の方法。
【請求項31】
集団が10〜10,000人のヒト対象を含む、請求項30記載の方法。
【請求項32】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤が、該除染剤で湿らせたワイプ材を用いて対象を拭くことによって対象に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項33】
胞子の中和により、該胞子の発芽後成長(outgrowth)が制止される、請求項1記載の方法。
【請求項34】
胞子の中和により、該胞子が死滅する、請求項1記載の方法。
【請求項35】
胞子の中和により、炭疽菌感染症の徴候または症状を経験することから対象が防護される、請求項1記載の方法。
【請求項36】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤が界面活性剤ポリソルベートを含む、請求項1記載の方法。
【請求項37】
界面活性剤ポリソルベートがTween-20である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
除染剤が、胞子に対する曝露後48時間以内に対象に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項39】
除染剤が、胞子に対する曝露後12時間以内に対象に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項40】
除染剤が、胞子に対する曝露後4時間以内に対象に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項41】
除染剤が、胞子に対する曝露後2時間以内に対象に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項42】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤を対象に投与する段階を含む、対象における炭疽菌感染症の徴候および症状を予防する方法であって、ランチビオティックを基にした胞子除染剤が、炭疽菌胞子を中和するように構成されている、方法。
【請求項43】
ランチビオティックを基にした除染剤がナイシンを含む、請求項42記載の方法。
【請求項44】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤が噴霧剤を介して対象に投与される、請求項42記載の方法。
【請求項45】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤がフォームを介して対象に投与される、請求項42記載の方法。
【請求項46】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤がクリームを介して対象に投与される、請求項42記載の方法。
【請求項47】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤が使い捨てのワイプ材を介して対象に投与される、請求項42記載の方法。
【請求項48】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤がシャワーを介して対象に投与される、請求項42記載の方法。
【請求項49】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤が、該除染剤の溶液中における対象の浸漬によって対象に投与される、請求項42記載の方法。
【請求項50】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤が肺投与を介して対象に投与される、請求項42記載の方法。
【請求項51】
肺投与が、ランチビオティックを基にした胞子除染剤を対象が吸入することを含む、請求項50記載の方法。
【請求項52】
肺投与がネブライザーの使用を含む、請求項50記載の方法。
【請求項53】
肺投与が定量噴霧式吸入器の使用を含む、請求項50記載の方法。
【請求項54】
肺投与が粉末吸入器の使用を含む、請求項50記載の方法。
【請求項55】
肺投与が、胞子に対する曝露後48時間以内に対象に投与される、請求項50記載の方法。
【請求項56】
肺投与が、胞子に対する曝露後12時間以内に対象に投与される、請求項50記載の方法。
【請求項57】
肺投与が、胞子に対する曝露後4時間以内に対象に投与される、請求項50記載の方法。
【請求項58】
肺投与が、胞子に対する曝露後2時間以内に対象に投与される、請求項50記載の方法。
【請求項59】
除染剤が、胞子に対する曝露後48時間以内に対象に投与される、請求項42記載の方法。
【請求項60】
除染剤が、胞子に対する曝露後12時間以内に対象に投与される、請求項42記載の方法。
【請求項61】
除染剤が、胞子に対する曝露後4時間以内に対象に投与される、請求項42記載の方法。
【請求項62】
除染剤が、胞子に対する曝露後2時間以内に対象に投与される、請求項42記載の方法。
【請求項63】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤が経鼻投与によって対象に投与される、請求項50記載の方法。
【請求項64】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤が対象の粘膜表面に投与される、請求項50記載の方法。
【請求項65】
ランチビオティックを基にした胞子除染剤がインビボで投与される、請求項50記載の方法。
【請求項66】
対象がヒト対象である、請求項50記載の方法。
【請求項67】
ナイシンを含む、肺投与のために構成されたデバイス。
【請求項68】
ネブライザーである、請求項67記載のデバイス。
【請求項69】
定量噴霧式吸入器である、請求項67記載のデバイス。
【請求項70】
吸入器である、請求項67記載のデバイス。
【請求項71】
吸入器が粉末吸入器である、請求項70記載のデバイス。
【請求項72】
炭疽を処置するために用いられる抗生物質およびナイシンを含む組成物であって、対象に対する内部投与のために構成された組成物。
【請求項73】
抗生物質がシプロフロキサシンである、請求項72記載の組成物。
【請求項74】
抗生物質がペニシリン、ドキシサイクリン、エリスロマイシン、およびバンコマイシンからなる群より選択される、請求項72記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2009−526069(P2009−526069A)
【公表日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−554351(P2008−554351)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際出願番号】PCT/US2007/003425
【国際公開番号】WO2007/092582
【国際公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(506260803)バイオシネクサス インコーポレーティッド (3)
【Fターム(参考)】