終末糖化産物受容体(RAGE)の連結を阻止するための方法
天然もしくは合成の硫酸化多糖、好ましくは2−O脱硫酸化ヘパリンを用いて、終末糖化産物受容体(RAGE)とそのリガンドの相互作用を処置および阻害するための方法及び薬物が提供される。薬物は、好ましくは、静脈内にエアロゾル化により、経鼻的に、関節内に、くも膜下腔内に、皮下に、局所にまたは経口的に投与される。薬物は、糖尿病、炎症、腎不全、老化、全身性アミロイドーシス、アルツハイマー病、炎症性関節炎、アテローム性動脈硬化症、および大腸炎を含む多様な状態を治療するために有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、終末糖化産物受容体(receptor for advanced glycation end−products:RAGE)の連結の阻害に関する。より具体的には、本発明は、硫酸化多糖、例えば2−O脱硫酸化ヘパリンなどの、RAGEの連結を阻害するための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
終末糖化産物受容体(RAGE)は、免疫グロブリンスーパーファミリーのマルチリガンド受容体である。この受容体は、免疫グロブリン様領域から構成され、リガンドが結合する末端の「V」型ドメイン、短い膜貫通ドメインである2つの「C」型ドメイン、およびシグナル伝達に必要な細胞質側末端を含む。RAGEは、DNA結合タンパク質アンフォテリン(HMGB1としても公知)による連結が神経の成長および発達に必要なように、発達的に重要な受容体である(Hori O,et al.,J Biol Chem 1995;270:25752−25761)。しかし、RAGEは発達に関連しない多くの生物学的経路においても役割も果たす。
【0003】
RAGEに結合することの分かっているリガンドの1つの種類は、糖のタンパク質および脂質への非酵素的結合による化学的生成物である、終末糖化産物(AGE)である。AGEはおびただしい量の生物学的環境で堆積し、いくつか例を挙げると、糖尿病、炎症、腎不全、老化、全身性アミロイドーシス、アルツハイマー型認知症、炎症性関節炎、アテローム性動脈硬化症および大腸炎をはじめとする、多様な数々の疾患の発病に重要な役割を果たすことが現在実証されている(Ramasamy R,et al.,Glycobiology 2005;15:16R−28R)。糖尿病患者において、AGEは慢性的に上昇したグルコースの直接的な結果として生じ、それはポリオール経路を経て進み、酵素アルドースレダクターゼによりソルビトールに還元される。ソルビトールは、順にフルクトースに変換され、その後フルクトース−3−リン酸塩、さらにその後3−デオキシグルコースに変換される。還元糖である3−デオキシグルコースは、そのアルデヒドカルボニルが、メイラード反応においてアミノ酸などの標的分子のアミノ基と反応してシッフ塩基を形成し得る。その後、シッフ塩基は分子間再配列を受けてアマドリ転移生成物を生じ得、それをさらに再配列および濃縮して、AGEを表す蛍光性の、黄褐色の生成物を生じ得る(Wautier J−L,et al.,Circ Res 2004;95:233−238)。これらのプロセスにより生じる幅広い種類の化学物質が特徴づけられ、それには、グリコキサル(glycoxal)由来リジン二量体などのアミノ酸架橋、メチルグリコキサルヒドロイミダゾロンなどのヒドロイミダゾロン、ならびにカルボキシメチル−リジン(CML)およびピラリンなどのモノリシル(monolysyl)付加物が含まれる。
【0004】
糖尿病におけるAGE生成物形成のレベルは、慢性的なグルコースの上昇およびそれによるAGE形成に苦しむコントロール不良の糖尿病患者において上昇する、天然に存在する微量のヒトヘモグロビンであるヘモグロビンAlcの濃度を追跡することにより便宜的にモニターすることができる。しかし、AGE生成物は、活性化した食細胞の放出した過酸化水素および次亜塩素酸などの酸化剤により生成される酸化反応の結果として、糖尿病にかかっていない状態でも形成され得、あるいは、AGEは、こってりと(heavily)調理された肉およびその他の動物性食品を食べることにより摂取され得る(Huebschmann AG,et al.,Diabetes Care 2006;29:1420−1432)。AGEは、たばこの煙の吸入およびその複雑な酸化剤の化学反応の結果として肺においてさえも形成され得る(Carami C,et al.,Proc Natl Acad Sci USA 1997;94:13915−13920)。
【0005】
RAGEは、単一のリガンドに特異的であるよりもむしろ、多数のその他のリガンドと結合するパターン認識受容体であり(Bierhaus A,et al.,J Mol Med 2005;83:876−886)、それには、アミロイド−βペプチド(アルツハイマー病において蓄積する)、アミロイドA(全身性アミロイドーシスにおいて蓄積する)、アンフォテリン(敗血症において壊死性マクロファージおよびその他の細胞によっても放出される)およびS100カルグラニュリン(慢性炎症部位において食細胞により放出されるカルシウム結合ポリペプチドのファミリー)が含まれる。ひとたび連結され活性化されると、RAGEは、p21ras、ERK1/2(p44/p42)マイトジェン活性化タンパク質(MAP)キナーゼ、p38およびストレス活性化/JNKキナーゼ、rho GTPアーゼ、ホスホイノシトール−3キナーゼ、JAK/STAT経路の活性化、ならびに転写因子核因子KB(NF−KB)およびCREBの活性化を含む、受容体後シグナル伝達を媒介する(Yan SF,et al.,Circ Res 2003;93:1159−1169)。これらの事象、特にNF−KBの活性化は、TNF−α、IL−1、IL−6、IL−8、GMCSF、接着分子および誘導型一酸化窒素合成酵素を含むサイトカインの宿主のアップレギュレートされた発現を伴う、深刻な炎症過程を導く。さらに、顕著なNF−KB応答性コンセンサス配列のそのプロモーター中での影響を通じて、RAGEの活性化は、さらに大規模なRAGE発現も導く。その上、RAGEは、循環から炎症範囲への食細胞の流出を媒介するインテグリン様内皮結合部位としての機能を果たし得る。RAGEは、白血球β2インテグリンのMac−1(CD11b/CD18)およびp150,95(CD11c/CD18)と相互作用して、食細胞の炎症性細胞動員を促進することが示されている(Chavakis T,et al.,J Exp Med 2003;198:1507−1515)。食細胞の炎症の範囲への誘引は、RAGEリガンドS100カルグラニュリンおよびアンフォテリンの相互作用によりさらに増大される(Orlova VV,et al.,EMBO J 2007;26:1129−1139)。従って、S100およびアンフォテリン(HMGB1)の局所放出によって、RAGEは、炎症の部位への白血球の誘引を伴って炎症性カスケードを増幅し得る。これは、活性化した白血球による酸化剤の放出、AGE生成物の生成、ならびに、さらなるRAGEが連結および活性化される時にさらなる炎症性誘発性のメディエーターの持続発現を導く。従って、RAGEは、炎症が活性化される場合に、疾患においてくすぶり続ける持続的な炎症の悪循環を媒介し得る。
【0006】
RAGEが疾患において重要であることから、RAGEの活性化を阻害するという試みがさらに活発化した。一つの方法は、RAGEに結合してRAGEを活性化させるAGE生成物の形成を阻止することであった(Goldin A,et al.,Circulation 2006;114:597−605)。ヒトでの研究においてAGE生成物の形成を阻止するための最も有望な薬剤はアミノグアニジンであった。ヒドラジン誘導体アミノグアニジンは、3−デオキシグルコースと反応し、カルボキシメチルリジンなどのAGE生成物の形成を阻止する。アミノグアニジンは、糖尿病ラットにおいてAGE産生ならびに腎症および網膜症の発症を低下させるが、ヒト第三相試験において糸球体腎炎を生じる(Bolton WK,et al.,Am J Nephrol 2004;24:32−40)。AGE形成を阻害するために実験的に用いたその他の薬剤には、ビタミン誘導体ピリドキサミン(ビタミンB6の形態)およびベンフォチアミン(チアミンの形態)、AGE架橋阻害剤N−2−アセトアミノドエチル(acetaminodoethyl))ヒドロジンカルボキシミドアミド(hydrozinecarboximidamide)塩酸塩(ALT−946)、4,5−ジメチル−3−フェニアシリチオゾリウム(phenyacylithiozolium)クロライド(ALT−711)、およびエパルレスタットなどのアルドース還元酵素阻害剤が含まれる。これまで、後期人体試験において効果的または安全と証明されたものは一つもない。
【0007】
実験的に、糖尿病または炎症の動物モデルにおいて、リガンド結合ドメインから構成されるが膜貫通ドメインまたは細胞質ドメインを欠く細胞外RAGEペプチドの組換え体を連日注射することにより、RAGE媒介性炎症が阻害された。このデコイ受容体(可溶性RAGEに対してsRAGEといわれる)は、アンフォテリン、AGE、S100タンパク質およびMac−1などの白血球インテグリンなどのリガンドを吸い取り、天然のRAGEとのそれらの相互作用と競合する。このようにして、sRAGEはRAGE媒介性炎症の効果的な競合阻害剤としての役割を果たす。sRAGEは、多数の動物モデルにおいてRAGEを阻害するために効果的であるが、とはいっても、sRAGEは伝統的な有機化合物系の薬剤と比較して製造するには比較的高価な組換えタンパク質であり、ヒトにおけるその安全性はまだ試験されていない。RAGE媒介性炎症の効果的な阻害剤は、幅広い種類の病原性状態の治療において治療上有用であることが証明されるものと予期される。しかし、ヒトにおける使用においても安全であると証明される阻害剤はまだ得られていない。
【0008】
一部の研究から、静電荷相互作用がリガンド−RAGE結合において重要な役割を果たすことが示唆されるが、多くの場合、その証拠は矛盾し、かつ分かりにくい。一部の研究において、アンフォテリン(Srikrishna G,et al.,J Neurochem 2002;80:998−1008)(高移動度ボックスグループタンパク質−1(HMGB−1)としても公知)またはS100カルグラニュリン(Srikrishna G,et al.,J Immunol 2001;166:4678−4688)などのリガンドによるRAGEとの相互作用は、非シアル酸カルボキシレート基を含有するアニオン性N−グリカンの存在に依存し、さらに、脱グリコシル化は単独でアンフォテリンおよびS100のRAGEとの結合を混乱させる。
【0009】
RAGE結合に関与するアンフォテリン中のCOOH−末端モチーフ(150〜183アミノ酸)は、最終的にカチオン性となる13のカチオン性アミノ酸とわずか4のアニオン性アミノ酸の、受容体分子中の負に帯電した配列と結合し得る、全体として正に帯電した配列を含む(Huttunen HJ,et al.,Cancer Res 2002;62:4804−4811)。このことは、RAGEリガンドの外面的トポグラフィー上のカチオン性の正に帯電したアミノ酸は、受容体のN−グリカン上のアニオン性の負に帯電したカルボキシレート基に結合することを示唆し得る。
【0010】
その他の研究は、リガンド上の正に帯電した基が、RAGE上の負に帯電したN−グリカンカルボキシレート基と相互作用するという仮説と直接的に矛盾する。原子間力顕微鏡および分子モデリングによる、可溶性sRAGEとアルツハイマー病β−アミロイドペプチドの相互作用の研究は、sRAGEが二量体化して、35Arg、30Lys、40Lysおよび75Argにより提供される正に帯電したカチオン性残基が多数を占める領域を含む、高度に親水性のポケットを形成することを示唆する(Chaney MO,et al.,Biochim Biophys Acta 2005;1741:199−205)。このモデルは、アルツハイマー病β−アミロイドペプチドのN末端上の負に帯電した領域が、RAGE二量体(dimmer)中のこのカチオン性ポケットに結合することを示唆する。このRAGE二量体中の正に帯電したポケットはまた、化学的に形成されたAGEの負に帯電したε−カルボキシメチル化リシル(CML)残基のカルボン酸塩のドッキングのためのイオントラップ(ionic trap)として役立つと仮定される。従って、先行技術は不明確であり、RAGE(RAGE上の正もしくは負電荷)とそのリガンド(アンフォテリン、S100、アルツハイマー病β−アミロイドペプチド、CMLおよびその他のリガンド上の正もしくは負電荷)との間の電荷−電荷相互作用の性質に関して矛盾する。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、リガンドのRAGEとの相互作用の安全かつ効果的な阻害のための方法および薬物に関する。RAGEリガンド、例えばアンフォテリン、S100カルグラニュリン、AGE、アルツハイマー病β−アミロイドペプチド、およびMac−1(CD11b/CD18)は、タンパク質上またはそれぞれの表面グリカン上のカチオン性(正の)電荷とアニオン性(負の)電荷との間の静電相互作用によってRAGEに結合すると考えられる。しかし、上に指摘したように、該技術は、どの電荷が重要であるかに関して明白でない。さらに、重要なカチオン性およびアニオン性電荷がそれぞれRAGEの結合表面またはその結合リガンド上に存在するかどうかが曖昧である。
【0012】
ヘパリンは、ポリアニオン性分子である。一般に、脱硫酸化によるヘパリンからのアニオン性電荷の除去は、完全硫酸化もしくは過硫酸化ヘパリンと比較して脱硫酸化ヘパリンのそれぞれのカチオン性タンパク質に結合する能力を低下させる。例として、ヘパリンの進行性のN−およびO−脱硫酸化は、ヘパリン誘導体がウイルス結合およびヒト細胞への感染を阻害する能力を除去する(Walker SJ,et al.,J Virol 2002;76:6909−6918)。
【0013】
本発明は、抗凝固活性が、ヘパリンまたはヘパリン誘導体によるRAGE−リガンド相互作用の阻害に必要でないことを示す。本発明はまた、RAGE−リガンド相互作用を阻害するための活性をなお保持する、低い抗凝固活性を有する数個の脱硫酸化ヘパリン誘導体を記載する。抗凝固活性の低下した、様々なヘパリン類似体が合成され、それには、数ある中で、O−過硫酸化(over−O−sulfated)ヘパリン(すなわち、全てのヒドロキシル基が硫酸基で置換されているヘパリン);2−O脱硫酸化ヘパリン;2−O、3−O脱硫酸化ヘパリン;N−脱硫酸化/N−アセチル化ヘパリン;6−O脱硫酸化ヘパリン;およびカルボキシル還元ヘパリンが挙げられる。これらは、記載され、かつ、RAGE−リガンド相互作用の阻止とは無関係の、ヘパリンのその他の抗炎症効果の調査において使用されている。RAGE−リガンド相互作用を阻害するその他の硫酸化多糖には、硫酸デキストランおよびペントサンポリサルフェートが含まれる。
【0014】
ヘパリン、還元抗凝固性ヘパリンおよび硫酸デキストランはまた、1,000未満から15,000ダルトン以上の範囲の一連の分子ポリマーサイズで製造することができる。完全な抗凝固活性を有する、化学的に合成された五糖はまた、フォンダパリヌクスナトリウムとして商業的に入手可能である(ARIXTRA(登録商標)として商業的に入手可能)。非抗凝固薬誘導体は、過ヨウ素酸酸化に続いて水素化ホウ素ナトリウム(sodium borohyride)還元により製造することができる(Frank RD,et al.,Thromb Haemostasis 2006;96:802−806)。2−O脱硫酸化、6−O脱硫酸化、カルボキシル還元、N−脱硫酸化、またはこれらの化学修飾を伴うデノボ合成により製造された、この非抗凝固性フォンダパリヌクス誘導体、ならびにその他のフォンダパリヌクス誘導体も、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達を阻害する。
【0015】
還元された抗凝固性ヘパリンの中で、ヒトおよびその他の哺乳類種におけるRAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達を阻止するために好ましい原体(drug substance)は、2−O脱硫酸化ヘパリンである。以下の実施例に示されるように、2−O脱硫酸化ヘパリンは、ヘパリンと比較して抗凝固活性を大いに低下させ、そのために低い出血リスクを包含するだけでなく、ヘパリン誘発性血小板減少症の、稀であるが可能性のある致命的副作用を誘発するリスクも低い。
【0016】
一実施形態では、本発明は、リガンドとRAGEとの間の相互作用およびシグナル伝達を阻害する方法を提供する。好ましくは、該方法は、RAGEを硫酸化多糖に接触させることを含む。最も好ましくは、該硫酸化多糖は2−O脱硫酸化ヘパリンを含む。さらにより好ましくは、2−O脱硫酸化ヘパリンは3−O脱硫酸化されてもいる。特定の実施形態では、RAGEは2−O脱硫酸化ヘパリンにインビボで接触される。従って、本発明のこの態様によれば、該方法は、2−O脱硫酸化ヘパリンを患者、例えば哺乳類、好ましくはヒトに投与することを含み得る。投与は、インビボで2−O脱硫酸化ヘパリンによるRAGEの接触を達成するために効果的ないずれの経路によるものであってもよい。
【0017】
その他の実施形態によれば、本発明は、リガンドとRAGEとの間の相互作用およびシグナル伝達に媒介される状態を有する被験体を治療する方法を提供する。該方法は、好ましくは、被験体に硫酸化多糖、優先的には2−O脱硫酸化ヘパリンを投与することを含む。さらにより優先的には、2−O脱硫酸化ヘパリンは3−O脱硫酸化されてもいる。本発明のこの実施形態によれば、治療される状態は、複数の状態におけるRAGEの広範な関与を考慮に入れると幅広い種類の状態を包含する可能性がある。本発明に従って治療することのできる状態の限定されない例としては、糖尿病、炎症、腎不全、老化、全身性アミロイドーシス、アルツハイマー病、炎症性関節炎、アテローム性動脈硬化症、大腸炎、歯周病、乾癬、アトピー性皮膚炎、酒さ、多発性硬化症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、皮膚の光老化、加齢性黄斑変性、および急性肺傷害が挙げられる。
【0018】
本発明に従う幅広い種類の状態を治療する能力は、RAGEと相互作用するかまたはRAGEにシグナル伝達するリガンドの種類によってさらに特徴づけられる。例えば、ある種の実施形態では、本発明は、終末糖化産物(AGE)、アルツハイマー病βペプチド、アミロイドタンパク質、S100カルグラニュリン、HMGB−1(アンフォテリン)、およびMac−1インテグリンからなる群から選択される、RAGEおよびリガンドの相互作用またはシグナル伝達により媒介される状態の治療を提供する。
【0019】
本発明に従う幅広い種類の状態を治療する能力は、RAGEおよびそのリガンドの相互作用またはシグナル伝達により活性化されるかまたは発現される酵素または経路の種類によって、なおさらに特徴づけられる。例えば、ある種の実施形態では、本発明は、p21ras、ERK1/2MAPキナーゼ、JNKキナーゼ、rho GTPアーゼ、ホスホイノシトール−3キナーゼ、JAK/STAT経路、NF−KB、CREB、TNF−α、IL−1、IL−6、IL−8、GMCSF、iNOS、ICAM−1、E−セレクチン、VCAM−1、およびVEGFからなる群から選択される1以上の酵素または経路の活性化または発現により特徴づけられる状態の治療を提供する。
【0020】
このように本発明を一般用語で説明したが、以下に、必ずしも縮尺通りに描かれていない、添付される図面について言及する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】未分画ヘパリンの五糖結合配列および2−O、3−O脱硫酸化ヘパリン(ODSヘパリンまたはODSH)の同程度の配列の化学式を示す図である。
【図2】ODSヘパリンを製造した親ブタ腸ヘパリンと比較した、高速サイズ排除クロマトグラフィーと併用した多角度レーザー光散乱により決定された、ODSヘパリンの示差的な分子量分布プロットを示す図である。
【図3A】本発明のヘパリンおよびODSヘパリンの二糖分析を示す図である。
【図3B】本発明のヘパリンおよびODSヘパリンの二糖分析を示す図である。
【図4】ヘパリンの五糖結合配列中のα−L−イズロン酸の2−O位置を脱硫酸化するための、提案される反応スキームを示す図である。
【図5】セロトニン放出アッセイにより決定される、本発明の2−O脱硫酸化ヘパリンのヘパリン抗体との交差反応を示す図である。
【図6】フローサイトメトリーにより定量化される血小板表面のP−セレクチン(CD62)の発現により決定される、本発明の2−O、3−O脱硫酸化ヘパリンのヘパリン抗体との交差反応を示す図である。
【図7】漸増濃度の2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化されてもいる)が、HIT症候群患者からの血清に0.1または0.5U/mlヘパリンを添加することに応答する血小板セロトニンの放出により示される、HITに媒介される血小板活性化を抑制したことを示すグラフである。
【図8】4名のHIT患者からの血清の存在下で0.1U/mlヘパリン(UFH)により誘導されるセロトニン放出に示される、2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)が血小板活性化を抑制した、実験結果の平均を示すグラフである。
【図9】4名のHIT患者からの血清の存在下で0.5U/mlヘパリン(UFH)により誘導されるセロトニン放出に示される、2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)が血小板活性化を抑制した、実験結果の平均を示すグラフである。
【図10】HIT患者の血清を0.1U/mlまたは0.5U/mlヘパリンと混合した場合に、2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)が血小板微粒子形成を抑制したことを示すグラフである。
【図11】4名のHIT患者のそれぞれの血清を0.1U/mlヘパリンと混合した場合に、2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)が血小板微粒子形成を抑制した、実験結果の平均を示すグラフである。
【図12】4名のHIT患者のそれぞれの血清を0.5U/mlヘパリンと混合した場合に、2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)が血小板微粒子形成を抑制した、実験結果の平均を示すグラフである。
【図13】2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)が、P−セレクチン(CD62)の血小板表面発現により測定されるHIT誘導性血小板活性化を抑制したこと、を示すグラフである。
【図14】2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)が、0.1U/mlの未分画ヘパリンの存在下、4名のHIT患者のそれぞれのHIT血清により誘導される、P−セレクチン(CD62)の血小板表面発現を抑制した、実験結果の平均を示すグラフである。
【図15】2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)が、0.5U/mlの未分画ヘパリンの存在下、4名のHIT患者のそれぞれのHIT血清により誘導される、P−セレクチン(CD62)の血小板表面発現を抑制した、実験結果の平均を示すグラフである。
【図16】雄ビーグル犬に6時間ごとに4mg/kg(16mg/kg/日)、6時間ごとに12mg/kg(48mg/kg/日)、および6時間ごとに24mg/kg(96mg/kg/日)の用量で10日間の最後の注射の後の、好ましい2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている、ODSHと称される)の血中濃度を示すグラフである。
【図17】未分画ヘパリンによる、U937ヒト単球と固定化されたRAGE−FcキメラとのMac−1(CD11b/CD18)媒介性結合の阻害を示す図である。
【図18】3−O脱硫酸化されてもいる(ODSH)2−O脱硫酸化ヘパリンによる、U937ヒト単球と固定化されたRAGE−FcキメラとのMac−1(CD11b/CD18)媒介性結合の阻害を示す図である。
【図19】6−O脱硫酸化ヘパリンによる、U937ヒト単球と固定化されたRAGE−FcキメラとのMac−1(CD11b/CD18)媒介性結合の阻害を示す図である。
【図20】N−脱硫酸化ヘパリンによる、U937ヒト単球と固定化されたRAGE−FcキメラとのMac−1(CD11b/CD18)媒介性結合の阻害を示す図である。
【図21】カルボキシル還元ヘパリンによる、U937ヒト単球と固定化されたRAGE−FcキメラとのMac−1(CD11b/CD18)媒介性結合の阻害を示す図である。
【図22】完全なO−脱硫酸化ヘパリンによる、U937ヒト単球と固定化されたRAGE−FcキメラとのMac−1(CD11b/CD18)媒介性結合の阻害を示す図である。
【図23】低分子量ヘパリン(平均分子量5,000ダルトン)による、U937ヒト単球と固定化されたRAGE−FcキメラとのMac−1(CD11b/CD18)媒介性結合の阻害を示す図である。
【図24】ヘパラン硫酸による、U937ヒト単球と固定化されたRAGE−FcキメラとのMac−1(CD11b/CD18)媒介性結合の阻害を示す図である。
【図25】3−O脱硫酸化されてもいる(ODSH)2−O脱硫酸化ヘパリンによる、AMJ2C−11肺胞マクロファージと固定化されたRAGE−FcキメラとのMac−1(CD11b/CD18)媒介性結合の阻害を示す図である。
【図26】3−O脱硫酸化されてもいる(ODSH)2−O脱硫酸化ヘパリンによる、固定化されたRAGE−Fcキメラとのカルボキシメチル−リジンウシ血清アルブミン(CML−BSA)結合の阻害を示す図である。
【図27】3−O脱硫酸化されてもいる(ODSH)2−O脱硫酸化ヘパリンによる、固定化されたRAGE−FcキメラとのヒトS100bカルグラニュリン結合の阻害を示す図である。
【図28】3−O脱硫酸化されてもいる(ODSH)2−O脱硫酸化ヘパリンによる、固定化されたRAGE−Fcキメラとのヒト高移動度ボックスグループタンパク質−1(HMGB−1、またはアンフォテリン)結合の阻害を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下において様々な実施形態に言及することにより本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施形態は、この開示が徹底的かつ完全となり、本発明の範囲を完全に当業者に伝えるように提供される。実際に、本発明は多くの異なる形態で具体化することができ、本明細書において説明される実施形態に限定されないと解釈されるべきである;むしろ、これらの実施形態は、この開示が適用される法的必要条件を満たすように提供される。本明細書において、および添付される特許請求の範囲において使用される、単数形の「a」、「an」、「the」は、文脈上明らかに指示されている場合を除いて、複数形の言及も含む。
【0023】
本発明は、リガンドと終末糖化産物受容体(RAGE)の連結を阻害するための安全かつ効果的な経路を提供する。具体的には、これは、硫酸化多糖、例えば2−O脱硫酸化ヘパリンの使用によって可能となる。RAGEと本発明に従う硫酸化多糖を接触させることにより、受容体が効果的に阻止され、多くの望ましくない状態、例えば糖尿病、炎症、腎不全、老化、全身性アミロイドーシス、アルツハイマー病、炎症性関節炎、アテローム性動脈硬化症、大腸炎、歯周病、乾癬、アトピー性皮膚炎、酒さ、多発性硬化症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、皮膚の光老化、加齢性黄斑変性、および急性肺傷害に関係のあるリガンドを含む、多様なリガンドとの連結が阻害される。
【0024】
上に指摘したように、静電荷相互作用は、リガンド−RAGE結合において役割を果たし得る。しかし、RAGE連結に関係するイオン電荷相互作用の種類についての矛盾した分かりにくい研究が、幅広い種類のリガンドとのRAGE連結阻害物質(inhibiter)として有用な化合物の特定を阻止した。
【0025】
アンフォテリンはヘパリンに結合することが示されている(Salmivirta M,et al.,Exp Cell Res 1992;200:444−451;Rauvala H,et al.,J Cell Biol 1988;107:2293−2305;およびMilev P,et al.,J Biol Chem 1998;273:6998−7005)。その他のRAGEリガンドもヘパリンに結合し、それには、S100カルグラニュリン(Robinson MJ,et al,J Biol Chem 2002;277:3658−3665)およびアルツハイマー病アミロイド−βペプチド(Watson DJ,et al.,J Biol Chem 1997;272:31617−31624;およびMcLaurin J,et al.,Eur J Biochem 2000;267:6353−6361)が含まれる。また、ヘパリンは、Mac−1(CD11b/CD18)白血球インテグリンの接着性リガンドおよび阻害剤である(Diamond MS,et al.,J Cell Biol 1995;130:1473−1482;およびPeter K,et al.,Circulation 1999;100:1533−1539)。ダルテパリン、完全抗凝固性の低分子量ヘパリンは、インビトロでのAGEとRAGEの結合を阻害し、AGEに刺激される内皮細胞におけるシグナル伝達を低下させ、血管内皮増殖因子およびインテグリンVCAM−1のmRNAの発現をもたらす(Myint K−M,et al.,Diabetes 2006;55:2510−2522)。従って、負に帯電したヘパリンがRAGEのあらゆる種類のそのリガンド(アンフォテリン、S100カルグラニュリン、アルツハイマー病β−アミロイドペプチド、白血球Mac−1(CD11b/CD18)インテグリン、およびAGEを含む)との相互作用を低下させる能力は、RAGEリガンドの3次元トポグラフィー上のカチオン性配列と、RAGE受容体表面に共役したことが見出されるグリカンの負に帯電したカルボキシレート基との間の電荷−電荷相互作用の崩壊に一致する。
【0026】
ヘパリンが効果的なRAGE連結阻害剤であるはずであるという証拠にもかかわらず、当分野では、抗凝固が望ましくない適応に関して、ヒトにおける使用に安全な、効果的なRAGE連結阻害剤を提供することができないでいる。例えば、RAGE−リガンド相互作用を阻止することが示されているのは、未分画ヘパリンおよび低分子量ヘパリンだけである。とはいえ、未分画および低分子量ヘパリンは、完全な抗凝固活性を保持する。そのために、未分画および低分子量ヘパリンをRAGE連結阻害剤として使用すると、出血という重大なリスクを提示することが明らかである。非抗凝固性ヘパリン誘導体は、安全であり、そのために、RAGE−リガンド相互作用を阻害し、RAGEシグナル伝達の病原作用を低下させるために、臨床上より望ましい。
【0027】
RAGE−リガンド相互作用およびRAGEシグナル伝達の阻害剤としての修飾ヘパリンの活性に関して、具体的なヘパリン修飾の影響に関する情報は存在しない。さらに、その抗凝固活性を低下させる多くのヘパリンの修飾もまた、修飾ヘパリンが具体的な生体分子にイオン結合し、それらの作用を阻害または刺激する能力を低下させる。しかし、ヘパリンと特定のタンパク質との具体的な生物学的相互作用を支えるためにどのヘパリン側基が必要とされるかを予測するための一貫したテーマはない。
【0028】
例として、ヘパリンは、多様なウイルスのヒト宿主細胞との結合および内部移行に匹敵する。様々な多糖側基の選択的除去(図1)は、この阻害活性を修正するが、ウイルス結合の阻害にどの側基が重要であるかはウイルスによって異なり得る。コクサッキーウイルス(coxackievirus)の場合、未修飾の2−O脱硫酸化ヘパリンは、コクサッキーウイルスの(coxackieviral)細胞変性活性を阻害するが、抗ウイルス活性は、N−または6−O脱硫酸化により著しく低下する(Zautner AE,et al.,J Virol 2006;80:6629−6636)。単純ヘルペスウイルス(HSV)の場合、N−脱硫酸化またはカルボキシル還元はHSV−1およびHSV−2の両方に対するヘパリンの抗ウイルス活性を低下させ、2−O、3−Oまたは6−O硫酸塩の除去は、HSV−1に対する抗ウイルス活性を有意に低下させるが、HSV−2に対する抗ウイルス活性にはあまり影響を及ぼさない(Herold BC,et al.,J Virol 1996;70:3461−3469)。仮性狂犬病ウイルスの場合、ウイルス結合/感染性アッセイにおいて、異なるウイルス変異株は、選択的にN−、2−O、または6−O脱硫酸化されたヘパリンによる阻害に対して異なるパターンの感受性を提示する(Trybala E,et al.,J Biol Chem 1998;273:5047−5052)。
【0029】
ヘパリンはまた、線維芽細胞増殖因子(FGF)およびその他の増殖因子のファミリーに結合し、多様な細胞種においてERK1/2リン酸化および増殖を刺激することによる創傷治癒の促進においてそれらの活性を強化する。FGFファミリーメンバーは、双方向性の支持増殖性活性に必要とされるヘパリン硫酸基の点で大いに異なる。FGF2は2−O硫酸塩を必要とするが6−O硫酸塩は必要としない;FGF10は6−O硫酸塩を必要とするが2−O硫酸塩は必要としない;FGF18および肝細胞増殖因子は2−O硫酸塩と6−O硫酸塩の両方に親和性を有するが、2−O硫酸塩が好ましい;かつ、FGF4およびFGF7は2−Oと6−O硫酸塩の両方を必要とする(Ashikari−Hada S,et al.,J Biol Chem 2004;279:12346−12354)。
【0030】
ヘパリンは、カチオン性白血球プロテアーゼを阻止するその能力に一部分依存し、かつ、血小板および白血球の血管内皮細胞表面への初期結合を決定し、白血球ローリングを媒介するP−およびL−セレクチン、インテグリンを阻害するその能力に一部分依存する、強力な抗炎症活性を有する。ヒト白血球エラスターゼ(HLE)の場合、N−硫酸塩が阻害に必要とされ、N−脱硫酸化ヘパリンは機能性HLE阻害活性をほとんど示さない(Fryer A,et al.,J Pharmacol Exp Ther 1997;282:208−219)。それに対して、P−およびL−セレクチンのヘパリン阻害は、6−O硫酸化を必要とし、6−O脱硫酸化ヘパリンは、炎症の範囲の中への白血球遊走を阻害するその能力の多くを失う(Wang L,et al.,J Clin Invest 2002;110:127−136)。
【0031】
サイズも、生物学的機能に重要であるが予測可能な方法でないタンパク質−タンパク質相互作用に影響を及ぼすヘパリンの能力において重要である。FGF8bの場合、14を超える単糖からなるヘパリンは最適活性に必要とされるが、FGF1またはFGF2で刺激された細胞では、たった6〜8の単糖からなる短いヘパリンが増殖を支持する(Loo B−M,et al.,J Biol Chem 2002;277:32616−32623)。未分画ヘパリンは、治療上の抗凝固中の血液に通常存在する濃度でP−およびL−セレクチンの効率的な阻害剤であるが、現在利用可能な低分子量ヘパリンは、同様の抗凝固レベルを生じる濃度でP−およびL−セレクチンを効果的に阻止しない(Koenig A,et al.,J Clin Invest 1998;101:877−889)。RAGEの場合、より大きい未分画ヘパリンはあまり効果的でないことが報告されているが、低分子量ヘパリンのダルテパリンは、AGE−RAGE相互作用の強力な阻害剤である。
【0032】
これらの例から、側基修飾およびサイズ修飾が、様々なタンパク質に結合し、そのタンパク質の作用を促進または阻害するヘパリンの能力に大きな影響を及ぼすことが説明される。しかし、具体的な硫酸塩の除去またはそのカルボキシルの還元は、予測可能な方法でヘパリンの活性に影響を及ぼさない。ヘパリンと具体的なタンパク質の各々の相互作用は独特である。
【0033】
RAGE−リガンド相互作用を阻害することに関して、特定の硫酸塩またはカルボキシルを除去して抗凝固活性を低下させることも、疾患において脱硫酸化もしくはカルボキシル還元ヘパリンのRAGE−リガンド活性を阻害する能力に悪影響を及ぼすかどうかを決定することには先例がない。しかし、RAGEリガンド結合におけるイオン相互作用の周辺技術を考慮に入れると、あらゆる脱硫酸化は、RAGE−リガンド結合において重要であると思われる電荷−電荷静電相互作用を阻害するヘパリンの活性を大いに低下させるために役立ち得ると予測される。本発明は、驚くことに、特定の非抗凝固性ヘパリンが、RAGEとそのあらゆる種類のリガンドとの連結を阻害するために効果的であることを示す。これは、パラダイムRAGE−リガンド相互作用としてU937ヒト単球と固定化されたRAGEのMac−1(CD11b/CD18)媒介性結合を用いて、RAGE−リガンド活性を阻害するそれらの能力を決定するための多様な脱硫酸化およびカルボキシル還元ヘパリンを用いる経験的実験を示す、下の実施例において例証される。さらなる例により、その他のリガンド、例えばCML−BSA、HMGB−1、およびS100bカルグラニュリンなどに関して、それらの結合の低下が示される。それらの例は、リガンド−RAGE相互作用の阻害のための様々なヘパリン側基およびヘパリンサイズの要件において、広範な、かつ驚くべき差異を示す。
【0034】
RAGE−リガンド相互作用を細胞膜レベルで阻止することに加えて、2−O脱硫酸化ヘパリンはsRAGEにも結合し、その半減期を延長させる。このことは、細胞外マトリックス中でsRAGEの存在をより長く維持することに役立ち、それにより細胞膜RAGEに反してリガンドの効果的なデコイとして作用することができ、バッファーとして作用して有害なリガンド−RAGE相互作用を停止させることができる。
【0035】
既に言及したように、完全な抗凝固性低分子量ヘパリンのダルテパリンだけが、RAGE−リガンド相互作用の効果的な阻害剤であることが既に見出された。ダルテパリンナトリウム(商業的にはFRAGMIN(登録商標)として公知)は、未分画のブタ腸ヘパリンの制御された亜硝酸解重合によって製造される、注射用の低分子量ヘパリンである。平均分子量は5,000ダルトンであり、その多糖のたった14〜26%が8,000ダルトンを超える分子量を有する(Physician’s Desk Reference,61st edition.Medical Economics Co,Inc.,Montvale,NJ.2007,p1097−1101に記載される通り)。ダルテパリンは、156U/mgの抗Xa活性を有する、血液凝固カスケード中の第Xa因子に対する完全な抗凝固薬である。ヒトに投与する場合、ダルテパリンに対する主な有害反応は、その完全な抗凝固活性の結果としての過剰出血である。
【0036】
10U/mg未満の抗Xa活性を伴う、2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)は、ダルテパリンまたはその他の完全抗凝固性の未分画もしくは低分子量ヘパリンよりも有害な出血のリスクがはるかに低い。抗血液凝固は、RAGE−リガンド相互作用を治療または予防する際に望ましい治療目的ではないので、2−O脱硫酸化ヘパリンは、RAGE−リガンド相互作用の阻害剤として、ダルテパリンまたはその他の完全な抗凝固性ヘパリンと比較して、優れた治療安全性を提供する。
【0037】
2−O脱硫酸化ヘパリンなどの低抗凝固性ヘパリンが、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達を阻害し得ることは、これまで低分子量ヘパリン(例えばダルテパリンなど)だけがRAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達を阻害するために効果的であることが示されていたので、驚くべきことである。ヘパリンの抗凝固活性が、主に血液セリンプロテイナーゼ阻害薬タンパク質抗トロンビンIII(ATIII)に結合するその能力に基づいて、トロンビンおよび血液凝固第Xa因子の阻害剤としてのATIIIの能力を大いに増大させるので、これは特に重要である。ATIII結合活性は未分画および低分子量ヘパリンの抗凝固活性の主な原因であると同時に、ATIII結合は、ヘパリンのその他の非抗凝固機能にも重要である。例として、ヘパリンは、線維芽細胞増殖因子(FGF)とそれらのそれぞれの受容体キナーゼ(FGFR)の結合を刺激して、創傷治癒に重要な細胞増殖を刺激する。ATIIIに結合するヘパリンの画分および肝臓由来ヘパラン硫酸だけが、活性FGF−FGFR複合体の形成を促進する(McKeehan ML,et al.,J Biol Chem 1999;274:21511−21514)。先行技術は、ダルテパリンまたはヘパリンによるATIII結合がRAGE−リガンド相互作用を阻害するために不必要であることを示すことができなかった。従って、ATIII結合活性の低下した(そしてそのために抗凝固活性の低い)ヘパリン化合物、例えば2−O脱硫酸化ヘパリンなどが、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の効果的な阻害剤であることは驚くべきことである。
【0038】
完全な抗凝固性ヘパリンと比較してその硫酸化の程度は低いが、本発明によれば、2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)が、完全な抗凝固性低分子量ヘパリンよりもRAGE−リガンド相互作用のさらにより強力な阻害剤であることは、さらにより驚くべきことである。また、2−O脱硫酸化ヘパリンが、6−O脱硫酸化ヘパリン、N−脱硫酸化ヘパリン、カルボキシル−還元ヘパリン、または完全脱硫酸化ヘパリンを含む、脱硫酸化またはカルボン酸塩の還元により抗凝固活性の低下したヘパリンのその他の修飾形態よりもまた、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達のより強力な阻害剤であることも驚くべきことである。さらに、3−O脱硫酸化もされている、天然の未分画ヘパリンと比較してその硫酸化の程度およびアニオン電荷の低下した2−O脱硫酸化ヘパリンが、やはりRAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の阻害剤である、天然に存在する低抗凝固性硫酸化多糖であるヘパラン硫酸よりも、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の阻害剤として一層強力であることは驚くべきことである。これらの驚くべき結果は、下の実施例においてより十分に説明される。
【0039】
完全抗凝固性ヘパリンをRAGE連結阻害剤として使用することは、関連するヘパリン誘発性血小板減少症(HIT)2型のためにさらに望ましくない。HITは、ヘパリンと血小板因子4(PF4)の結合がPF4のコンホメーション変化を誘発し、それにより少数の患者に存在する既に静止状態の抗体がヘパリン−PF4複合体に結合し得る、ヘパリン治療の恐ろしい合併症である。HIT抗体が血小板の表面のヘパリン−PF4複合体に結合すると、該血小板は活性化されて凝集体となる(Levy JH,et al.,Hematol Oncol Clinics North America 2007;21:65−88)。全ての現在利用可能な抗凝固性ヘパリン(ダルテパリンおよび未分画ヘパリンを含む)、ならびに非抗凝固性ヘパリンは、感受性の高い個体において2型HITを生じ得る。分かっている唯一の例外は、2−O脱硫酸化ヘパリンである。本発明は、従って、感受性の高い個体においてHITを活性化させる怖れなくRAGE−リガンド相互作用の阻害剤として2−O脱硫酸化ヘパリンを使用することができるという点で、さらにより有利である。この特性はまた、2−O脱硫酸化ヘパリンを、患者においてRAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達を阻害するための、より安全な治療アプローチとする。
【0040】
2−O脱硫酸化ヘパリンが本発明に従って特に好ましいが、その他の種類の硫酸化多糖を使用してもよく、それには、ヘパリン、様々な形態の還元された抗凝固性ヘパリン(N−脱硫酸化;2−O、3−Oまたは6−O脱硫酸化;N−脱硫酸化および再アセチル化;O−脱炭酸化;ならびにO−過硫酸化ヘパリン)、ヘパリン硫酸、ヘパラン硫酸、ペントサンポリサルフェート、硫酸デキストランおよび五糖フォンダパリヌクスが含まれる。これらの化合物の概要は、例えば、Wang L,et al.,J Clin Invest 2002;110:127−136に見出すことができる。本発明は本明細書中において2−O脱硫酸化ヘパリンまたは2−O、3−O脱硫酸化ヘパリンに関して記載されるが、かかる説明は必ずしも本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、むしろ本発明の一実施形態の説明として提供される。
【0041】
本発明は、本発明がRAGEとそのリガンド(数ある中で、HMGB−1(アンフォテリン)、S100カルグラニュリン、AGE、アルツハイマー病β−アミロイドペプチド、その他のアミロイドタンパク質、およびMac−1(CD11b/CD18)白血球インテグリンを含む)との相互作用を阻害するための方法および薬物を提供し、多様な組織、臓器系および疾患の状態においてRAGE受容体を活性化させるこれらのリガンドの能力を阻止する点で特に有益である。
【0042】
本発明の特に好ましい実施形態では、RAGE連結阻害剤は、3−O脱硫酸化もされている、2−O脱硫酸化ヘパリンである。3−O脱硫酸化もされている2−O脱硫酸化ヘパリンは、アニオン電荷がその選択的脱硫酸化により減少したヘパリン類似体である。驚くことに、本発明は、2−O脱硫酸化ヘパリンが、ヘパリンまたは低分子量ヘパリンよりもいっそう、より強力なRAGE−リガンド相互作用の阻害剤であることを示す。2−O脱硫酸化ヘパリンのアニオン電荷の低さ(そのRAGE−リガンド阻害活性を低下させると予測される)を考慮に入れると、これは予想外であった。
【0043】
2−O脱硫酸化ヘパリンは、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の阻害と無関係な活性のためにさらに有益である。例えば、2−O脱硫酸化ヘパリンは、ヒト白血球エラスターゼ(HLE)の気管に注入された場合の肺における破壊性作用の阻害などのその他の機構により、抗炎症性である。同様に、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の阻害に関係なく、2−O脱硫酸化ヘパリンは、炎症細胞、例えば多形核白血球および単球と、内皮および血小板との結合を、L−およびP−セレクチンを阻止することにより阻害する。本発明の2−O脱硫酸化ヘパリンは、RAGE−リガンド相互作用を阻害する利点を有すると同時に低下した抗凝固活性も有し、それにより同等用量の未修飾ヘパリンに起因する過剰な抗凝固の副作用を除去する。さらに、既に指摘したように、その他のヘパリンおよび硫酸化多糖は多くの場合哺乳類生物中に存在するヘパリン抗体と反応して、血小板活性化およびHIT2型血栓症候群を誘発する能力があるグリコサミノグリカン−血小板第4因子(PF4)−HIT反応性抗体複合体を形成する。本発明の2−O脱硫酸化ヘパリンはまた、HIT−2型血栓症候群の副作用なくRAGE−リガンド相互作用を阻害する利点を有する。
【0044】
本発明で使用される2−O脱硫酸化ヘパリンは、異なる程度の脱硫酸化を有してよい。さらに、2−O脱硫酸化ヘパリンが3−O脱硫酸化もされている場合、2−Oおよび3−O位置における脱硫酸化の程度も様々であり得る。好ましい実施形態では、O−脱硫酸化ヘパリンは、独立に、2−O位置および3−O位置の各々で少なくとも約10%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、または少なくとも約98%である。具体的な実施形態では、O−脱硫酸化ヘパリンは、2−Oおよび3−O位置の一方または両方で100%脱硫酸化されている。O−脱硫酸化の程度は各O−位置で同じである必要はない。例えば、ヘパリンは、2−O位置で主に(または完全に)脱硫酸化されてよく、3−O位置でそれより低い程度の脱硫酸化を有してよい。一実施形態では、ヘパリンは、2−Oおよび3−O位置の両方で少なくとも約90%脱硫酸化されている。O−脱硫酸化またはN−脱硫酸化の程度は、公知の方法、例えば二糖分析などにより決定することができる。
【0045】
O−脱硫酸化ヘパリンを調製する一方法が、参照によりその全文が本明細書に組み込まれる米国特許第5,990,097号に提供される。その中に開示される方法では、ブタ腸管粘膜ナトリウムヘパリンの5%水溶液が、500gmのヘパリンを10Lの脱イオン水に添加することにより作成される。水素化ホウ素ナトリウムを添加して1%終濃度とし、混合物をインキュベートする。次に、水酸化ナトリウムを添加して0.4M終濃度(少なくともpH13)とし、混合物を凍らせ、凍結乾燥して乾固させる。過剰な水素化ホウ素ナトリウムおよび水酸化ナトリウムは限外濾過により除去することができる。最終生成物をpH調製し、冷エタノールで沈殿させ、乾燥させた。この手順により製造されるO−脱硫酸化ヘパリンは、10USP単位/mg未満の抗凝固活性および10U/mg未満の抗Xa抗凝固活性を有する、微結晶性のわずかに灰白色の粉末である。
【0046】
上記のようなO−脱硫酸化ヘパリンの合成はまた、様々な修飾を含むことができる。例えば、出発ヘパリンを、例えば、溶液が高アルカリ性でない限り水またはその他の溶媒の中に入れてよい。ヘパリン溶液の典型的な濃度は、ヘパリンの1〜10重量%であってよい。反応で用いられるヘパリンは、当分野で公知の多数の供給源、例えばブタ腸またはウシ肺から入手することができる。ヘパリンはまた、修飾されたヘパリン、例えば本明細書に記載される類似体および誘導体であってよい。
【0047】
ヘパリンは、還元剤、例えば水素化ホウ素ナトリウム、触媒水素、または水素化リチウムアルミニウムとともにインキュベートすることにより還元することができる。好ましいヘパリンの還元は、ヘパリンを水素化ホウ素ナトリウムとともにインキュベートすることにより実行される。一般に、約10グラムのNaBH4を溶液1リットルあたりに使用することができるが、この量はヘパリンの還元が起こりさえすれば変更することができる。加えて、治療効果のあるO−脱硫酸化ヘパリンを製造するために必要でないその他の公知の還元剤を活用することができる。インキュベーションは、広い範囲の温度にわたって達成することができ、ヘパリンがカラメル化するほど温度が高くならないように注意する。例示的な温度範囲は、約15〜30℃または約20〜25℃である。インキュベーションの長さも、還元が起こるのに十分でありさえすれば、広い範囲で変動し得る。例えば、数時間から一晩まで(すなわち約4〜12時間)で十分であり得る。しかし、時間は数日間にわたって、例えば、約60時間を上回って延長することもできる。
【0048】
そのうえ、pHを13またはそれ以上に上昇させることのできる塩基を還元ヘパリン溶液に添加することによって還元溶液のpHを13またはそれ以上に上昇させることにより、合成の方法を適合させることができる。pHは、水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは水酸化バリウムなどを含む多数の薬剤のいずれかを添加することにより上昇させることができる。好ましい薬剤は水酸化ナトリウム(NaOH)である。一度でも13またはそれ以上のpHが達成されると、さらに塩基の濃度を増加させることは有益であり得る。例えば、NaOHを添加して約0.25M〜約0.5M NaOHの濃度にすることが好ましい。このアルカリ性溶液を次に乾燥させ、凍結乾燥させるかまたは減圧蒸留させる。
【0049】
具体的な実施形態では、アルカリ性溶液は、ヘパリンと塩基を規定された比率で含んでよい。例えば、NaOHを塩基として用いる場合、NaOH対ヘパリンの比(NaOH:ヘパリン(g))は、約0.5:1、好ましくは約0.6:0.95、より好ましくは約0.7:0.9であってよい。当然、より高濃度の塩基を必要に応じて添加して、溶液のpHが少なくとも13であることを確保してもよい。
【0050】
3−O脱硫酸化もされている2−O脱硫酸化非抗凝固性ヘパリンの調製のさらなる例は、例えば、その全てが参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,668,188号;同第5,912,237号;および同第6,489,311号に見出すことができる。還元された抗凝固性ヘパリンの様々な形態を調製する、なおさらなる例は、参照により本明細書に組み込まれるWang L,et al.,J Clin Invest 2002;110:127−136に見出される。ブタ腸またはウシ肺のいずれかから調製されたヘパリンは、米国薬局方医薬品として、Scientific Protein Labs,Wanaukee,WI.を含む、多数の製造業者から入手可能である。アルカリ解重合、過ヨウ素酸酸化、亜硝酸解重合および細菌性ヘパリナーゼでの処理を含む、6,000から1,000ダルトンと同程度まで低下させる、未分画ヘパリンの平均分子量サイズをヘパリン断片の平均分子量サイズに低下させるための多数の方法が当業者に周知である。多様な分子量および硫酸化の程度を有し、サイズが5,000から1,000,000を超えるダルトンであり、RAGEとそのリガンドとの相互作用の阻害剤としての使用に適した硫酸デキストランは、Polydex Pharmaceuticals,Ltd,Nassau,Bahamas.を含む、多数の製造業者から入手可能である。ペントサンポリサルフェートはIVAX Pharmaceuticals,Miami,FL.から得ることができる。
【0051】
RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の小分子量合成阻害剤も、合成五糖フォンダパリヌクスナトリウムから出発して製造することができる。フォンダパリヌクスは、文献から容易に利用可能な方法により合成することができる(Choay J,et al.,Biochem Biophys Res Comm 1983;116:492−499;およびPetitous M,et al.,Carbohydrate Res 1986;147:221−326)。得られる完全な抗凝固性の五糖を、次に、当分野で広く公知または2−O脱硫酸化に関して上に詳細に記載される化学的手法を用いる、N−脱硫酸化、カルボキシル還元、6−O脱硫酸化または2−O脱硫酸化により誘導体化して、低抗凝固活性を有するがRAGE−リガンド相互作用に対する阻害活性を温存した五糖とする。あるいは(Alternately)、フォンダパリヌクスのN−脱硫酸化誘導体、6−O脱硫酸化誘導体、カルボキシル還元誘導体または2−O、3−O脱硫酸化誘導体は、詳細に示される方法の明白な修飾を用いてデノボで合成することができる。
【0052】
効果的なRAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の阻害剤を製造するその他の方法は、大腸菌(Escherichia coli)から精製された生合成のK5莢膜多糖から出発し、進行性のN−硫酸化、N−脱アセチル化、C5エピマー化、過−O−硫酸化、選択的O−脱硫酸化および6−O−再硫酸化によってヘパリン様多糖を製造するように修飾された、ヘパリンの生合成による製造に基づき、合成ヘパリン様多糖を製造する(Lindahl U,et al.,J Med Chem 2005;48:349−352;およびRusnati M,et al.,Current Pharmaceutical Design 2005;11:2489−2499)。この完全な抗凝固性の生合成ヘパリンを、その後、3−O脱硫酸化もなされる、上に概説される2−O脱硫酸化法により修飾して、抗凝固活性が低く出血のリスクのあるRAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の阻害剤を製造することができる。あるいは(Alternately)、6−O硫酸化工程を排除してもよいし、または生合成ヘパリンを当分野で周知のN−脱硫酸化またはカルボキシル還元をもたらす方法によって処理して、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の低抗凝固性阻害剤の製造をもたらしてもよい。
【0053】
特定の条件下、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の低分子量阻害剤は、急速な吸収、持続的な血液レベルおよび皮下注射後のほとんど独占的な腎クリアランスを可能にする、それらの有利な薬物動態のために有用であることが分かる。腎クリアランスはまた、腎臓においてRAGE−リガンド相互作用を標的とする際に有用であると証明され得る。上に考察される硫酸化多糖の低分子量形は、β脱離、アルカリ性解重合、過ヨウ素酸酸化体、亜硝酸解重合または細菌性ヘパリナーゼでの処理を用いて容易に製造することができる。3つの方法は、豊富な文献とともに全て当分野で周知である。
【0054】
ヘパリンは、D−グルコサミンと、L−イズロン酸かまたはD−グルクロン酸のいずれかの反復単位から構成される、不定に硫酸化された多糖鎖の不均一な混合物である。ヘパリンの平均分子量は、一般に約6,000Da〜約30,000Daの範囲であるが、未変更のヘパリンの特定の画分は、約1,000Da程度の低い分子量を有し得る。本発明のある種の実施形態によれば、ヘパリンの分子量は、約1,000Da〜約30,000Da、約3,000Da〜約25,000Da、約8,000Da〜約20,000Da、または約10,000Da〜約18,000Daの範囲であり得る。別に記述のない限り、分子量は本明細書において重量平均分子量(Mw)として表され、それは下の式(I)により定義される
【化1】
(式中、niは、分子量Miを有するポリマー分子の数(またはそれらの分子のモル数)である)。
【0055】
本発明に従って用いられるO−脱硫酸化ヘパリンはまた、本明細書に記載されるような有用な活性を保持する限り、低い分子量を有してもよい。低分子量ヘパリンは、ヘパリンを小さい断片に切断するためにヘパリナーゼ酵素を利用することで酵素によって、または亜硝酸を用いる解重合により作成することができる。かかる低い分子量のO−脱硫酸化ヘパリンは、一般に、約100Da〜約8,000Daの範囲の分子量を有し得る。具体的な実施形態では、本発明で使用されるヘパリンの分子量は、約100Da〜約30,000Da、約100Da〜約20,000Da、約100Da〜約10,000Da、約100〜約8,000Da、約1,000Da〜約8,000Da、約2,000Da〜約8,000Da、または約2,500Da〜約8,000Daの範囲内である。
【0056】
大部分が3−O脱硫酸化されている2−O脱硫酸化ヘパリンの一実施形態を図1に図解する。具体的な実施形態では、そのような2−O、3−O脱硫酸化ヘパリンは、11,500Daの平均分子量を有する未分画のブタヘパリンから調製することができる。次に、これを水素化ホウ素ナトリウムを用いて還元した後凍結乾燥してよく、得られる生成物の平均分子量は約10,500Daである。
【0057】
ある種の実施形態では、本発明は、リガンドおよびRAGEの相互作用またはシグナル伝達を阻害するために有用な硫酸化多糖を含む医薬組成物を提供する。好ましくは、組成物は、2−O脱硫酸化ヘパリン、より好ましくは2−O、3−O脱硫酸化ヘパリンを含む。
【0058】
既に指摘したように、本発明は、未分画ヘパリンおよび低分子量ヘパリンと比較して血液凝固を阻害する能力の低下した非抗凝固性硫酸化多糖、特に2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)が、RAGEとそのリガンドとの相互作用を阻止するために使用され得るということを示すという点で特に驚くべきことである。本発明は、このようにして幅広い種類の被験体、特にヒト被験体に影響を及ぼしている多数の状態を治療するための方法を提供するので、これは特に有益である。
【0059】
多くの状態の治療を提供する本発明の能力は、RAGEと多くのリガンドとの広範な相互作用から生じる。具体的には、RAGEは、広い範囲の疾患および治療が求められる望ましくない状態に関与するリガンドと相互作用する。したがって、本発明は、RAGEに結合する化合物を提供し、従って、一般に、RAGEがその他のリガンドと相互作用することを防ぐので、本発明はこれらの阻止されるリガンドに関係する多くの状態を治療するために有用である。
【0060】
特定の実施形態では、本発明の方法は、RAGEおよび1以上のリガンドとの間の相互作用またはシグナル伝達を阻害する際に有用であり、リガンドには、限定されるものではないが、数ある中で、終末糖化産物(AGE)、アンフォテリン(高移動度グループボックスタンパク質1、すなわちHMGB−1としても公知)、S100カルグラニュリン、アルツハイマー病β−アミロイドペプチド、および食細胞のMac−1(CD11b/CD18)インテグリンが含まれる。
【0061】
AGEとRAGEとの相互作用は、多くの細胞種で活性を調節することが示されている。例えば、内皮細胞では、AGE−RAGE相互作用は、接着分子の発現および炎症誘発性/血栓形成促進性分子、例えばVCAM−1の発現を調節する。線維芽細胞では、AGE−RAGE相互作用は、コラーゲンの製造を調節する。平滑筋細胞では、AGE−RAGE相互作用は、マトリックス変更分子の遊走、増殖、および発現を調節する。単核食細胞では、AGE−RAGE相互作用は、走化性および走触性ならびに炎症誘発性/血栓形成促進性分子の発現を調節する。リンパ球では、AGE−RAGE相互作用は、インターロイキン−2の増殖および生成を刺激する。
【0062】
AGE−RAGE相互作用は、老化、炎症、神経変性、および糖尿病性合併症に対する影響を伴う、細胞摂動および組織傷害の悪循環を媒介することができる。AGE蓄積の具体的な結果は、RAGE自体のアップレギュレーション、ならびに炎症細胞、例えば多形核白血球、単核食細胞、およびリンパ球などの誘引である。そのような炎症細胞は、通常、恒常性維持機構を媒介するが(感染物質または壊死組織片の除去など)、この炎症性カスケードにおいて新しい役割を持つ。例えば、そのような細胞からのS100カルグラニュリンおよび/またはアンフォテリンの放出は、炎症性反応および細胞ストレス反応の新しい波を誘発する。自己分泌および/またはパラ分泌様式において、これらの種とRAGEとの結合(engagement)は、細胞摂動物質(cell perturbing substances)の別の波を生成する。リガンド−RAGE相互作用の一つの結果は、活性酸素種(ROS)のさらなる生成であり、それはさらなるAGE生成、炎症、およびROS産生を引き起こし得る。これは、広い範囲の細胞種においてストレスのサイクルを維持するために戻ってくる可能性があり、従って最終的に組織機能不全および回復不能な損傷を引き起こす。
【0063】
進行する神経突起の先端におけるRAGEとアンフォテリンの共局在は、細胞遊走に対する、かつ腫瘍浸潤などの病態における潜在的な寄与を示す。この点で、RAGE−アンフォテリンの阻止が、移植腫瘍と自発的発達腫瘍の両方の増殖および転移を減少させることが示されている。RAGE−アンフォテリン相互作用の阻害は、特にp44/p42、p38およびSAP/JNK MAPキナーゼ、ならびに、腫瘍増殖、浸潤およびマトリックスメタロプロテイナーゼの発現と重要な関係のある分子エフェクター機構の活性化を抑制することが示されている。
【0064】
S100カルグラニュリンとRAGEの結合は、特に細胞外シグナル伝達経路を誘発することに関与し、それにより炎症を増幅させる。S100カルグラニュリンは関節炎患者の関節において豊富であり、それらのRAGEとの結合は関節リウマチに強く関係する。RAGE−S100カルグラニュリン相互作用は、関節炎および骨損傷の重篤度を増大させることが示されている。さらに、関節炎マウスモデルにおけるRAGE−S100カルグラニュリン結合の阻止により、そのように処置された関節において、対照と比較して炎症性分子の産生が低下し、膨潤が小さく変形が少なくなり、かつ、骨および軟骨破壊の苦痛が低下したことが示されている。
【0065】
本明細書に記載されるRAGEおよび様々なリガンドの相互作用またはシグナル伝達を阻害する能力によって、本発明は、様々な酵素および経路の活性化または発現を阻害することにより、複数の状態の治療を可能にする(その発現または活性化は望ましくない状態に関係していることが分かっている)。例えば、2−O脱硫酸化ヘパリンによるRAGE−リガンド相互作用の阻止は、RAGE受容体による炎症促進性シグナル伝達を防ぐ。リガンド−RAGE相互作用により活性化されるシグナル伝達カスケードには、例えばp21ras、ERK1/2(p44/p42)MAPキナーゼ、p38およびSAPK/JNK MAPキナーゼ、rho GTPアーゼ、ホスホイノシトール−3キナーゼ、およびJAK/STATなどの経路、ならびに転写因子NF−KBおよびcAmp応答配列結合タンパク質(CREB)の活性化が含まれる。2−O脱硫酸化ヘパリンによるRAGE−リガンド相互作用の阻止はまた、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、インターロイキン−1(IL−1)、IL−6、IL−8、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GMCSF)、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)などの炎症促進性サイトカインのRAGE媒介性の産生を防ぎ、ICAM−1、E−セレクチンおよびVCAM−1などのインテグリンのRAGE媒介性発現を低下させ、かつ、血管内皮増殖因子(VEGF)などの血管形成促進性タンパク質のRAGE媒介性発現を低下させる。RAGE−リガンド相互作用をMac−1(CD11b/CD18)を用いて阻止することにより、2−O脱硫酸化ヘパリンは、多形核好中球(PMN)および単球などの炎症細胞の炎症組織への流入を低下させ、それによりこれらの細胞種による炎症の二次拡大を低下させる。RAGE−リガンド相互作用をMac−1(CD11b/CD18)を用いて阻止することにより、2−O脱硫酸化ヘパリンは、PMN、循環する単球、および、肺胞マクロファージなどの組織単球マクロファージのRAGE媒介性活性化も防ぎ、これらの細胞種の炎症促進性および線維化促進性(pro−fibrotic)活性を低下させて、組織傷害、組織線維症ならびにRAGEが活性化されている炎症および線維化器官の不全を媒介する。
【0066】
RAGEおよびそのあらゆる種類のリガンドの相互作用またはシグナル伝達を一般に阻止する能力を踏まえて、本発明の方法は、明らかに幅広い種類の疾患および状態の治療を提供することができる。実際に、RAGEおよびそのリガンドの相互作用またはシグナル伝達に関連するどの疾患または状態も本発明に従って治療することができる。特に、本発明は、糖尿病、炎症、腎不全、老化、全身性アミロイドーシス、アルツハイマー病、炎症性関節炎、アテローム性動脈硬化症、大腸炎、歯周病、乾癬、アトピー性皮膚炎、酒さ、多発性硬化症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、皮膚の光老化、加齢性黄斑変性、および急性肺傷害などの状態の治療を提供する。
【0067】
細胞外マトリックスタンパク質におけるAGEの蓄積は、一般に老化の生理学的過程の一部である;しかし、この蓄積は、真性糖尿病においては糖尿病でない個体におけるよりも早期に加速された速度で起こる。ヒト糖尿病性動脈硬化性プラーク(diabetic atherosclerotic plaques)におけるRAGE発現の増大は、COX−2、1型/2型ミクロソームプロスタグランジンE2、およびマトリックスメタロプロテイナーゼと、特に動脈硬化性プラークの脆弱な領域のマクロファージにおいて共局在することが示されている。AGEのRAGEとの相互作用の、例えば2−O脱硫酸化ヘパリンによる阻止は、一般に糖尿病に関係する多くの合併症を治療するために効果的であり得る。例えば、AGEによるRAGE連結の阻止は、糖尿病に関連する腎不全を媒介する増殖因子トランスフォーミング増殖因子−β1のRAGE−関連発現のシグナル伝達を防ぐことができる(Ceol M,et al.J Am Soc Nephrol 2000;11:2324−2326)。糖尿病に関連するAGE産物によるRAGE連結の阻害もまた、RAGEに関連する血管内皮増殖因子(VEGF)の産生を低下させることができ、それにより増殖性糖尿病性網膜症および失明を併発する糖尿病を引き起こす内皮の異常増殖の発生を防ぐ。糖尿病に関連するAGE産物とRAGEの相互作用を阻害することにより、2−O脱硫酸化ヘパリンも、糖尿病に関連する神経障害を引き起こすRAGE関連糖尿病性神経障害の変化を減少させることができる。
【0068】
RAGEとその他のリガンドとの間の相互作用を阻止することは、その他の望ましくない健康状態の治療にも効果的である。例えば、RAGEは、アルツハイマー病およびβシートフィブリル(fibrils)に蓄積するβ−アミロイド前駆タンパク質の切断生成物である、アミロイドβペプチド(Aβ)の細胞表面受容体の役割を果たす。RAGEは、アルツハイマー病患者の脳の細胞において増加したレベルで発現され、それにはニューロンおよび脳血管(内皮細胞および平滑筋細胞)が含まれる。AβのフィブリルがRAGEを有する細胞に結合する場合、それらの機能特性は歪む可能性がある。そのような変更された機能は、脳血流の低下およびシナプス可塑性の減少を含む複数の結果を有し得、最終的に認知症の基礎をなすニューロン機能不全を引き起こす。アルツハイマー病では、アルツハイマー病βペプチドによるRAGE連結は、アルツハイマー型認知症過程の特徴である神経細胞死の過程を特異的に開始させることができる。
【0069】
RAGE阻止も、全身性アミロイドーシス過程に影響を及ぼし得る。アミロイドの組織への堆積は正常な構造を置き換え、高濃度で、膜の完全性を阻止することにより非特異的な有毒作用を細胞に与えることができる。アミロイド沈着物および低分子量アミロイド断片は、アミロイド負荷が少ない時に、おそらく新生アミロイドに対する応答を増幅することにより疾患過程の早期に作用すると思われる特異的な細胞表面受容体とのそれらの相互作用によって、生物活性があると考えられる。RAGEは、サブユニットの組成(数ある中で、アミロイド−βペプチド、Aβ、アミリン、血清アミロイドA、およびプリオン由来ペプチド)にかかわらずβシート原線維材料に結合し、アミロイドの沈着の結果、RAGEの発現の強化がもたらされる。例えば、アルツハイマー病の患者の脳内において、ニューロンおよびグリアにおけるRAGE発現が増加する。RAGEのAβ連結の結果はニューロンとミクログリアとでは全く異なるように見える。ミクログリアは、増加した運動性およびサイトカインの発現に反映されるように、Aβ−RAGE相互作用の結果として活性化するが、初期のRAGE媒介性ニューロン活性化は、後になって細胞毒性に取って代わられる。Aβ誘導性の脳血管収縮の阻害および受容体阻止の後のアミロイドペプチドの血液脳関門を通過する移動の減少は、細胞のAβとの相互作用におけるRAGEの役割のさらなる証拠を提供する。
【0070】
アミロイドタンパク質によるRAGEの連結は、臓器不全につながる炎症性変化を開始させるが、それには、全身性アミロイドーシスの特徴である神経障害、腎不全、肺不全および肝不全が含まれる。インビボでの、全身性アミロイドーシスのネズミモデルにおけるRAGEの阻止は、アミロイド誘導性のNF−kBの核移行および細胞活性化を抑制した(Yan,SD,et al.,Nature Medicine,2000,6,643−651)。
【0071】
RAGEは、炎症性サイトカインのS100カルグラニュリンファミリーのメンバーに対するシグナル伝達受容体でもある(ENRAGEを含む)。このファミリーは、活性化した炎症細胞から放出される近縁のポリペプチドから構成され、それには、多形核白血球、末梢血由来単核食細胞およびリンパ球が含まれる。これらの炎症性サイトカインは、慢性炎症、例えば乾癬皮膚疾患、嚢胞性線維症、炎症性腸疾患、および関節リウマチなどの部位に蓄積することが知られている。ENRAGEによるRAGEの連結は、内皮細胞(endothelial ells)、マクロファージ、およびリンパ球の活性化を媒介することが示されている。RAGE連結はまた、さらなる炎症促進性の状態、例えば炎症性関節炎、アテローム性動脈硬化症、大腸炎、乾癬、アトピー性皮膚炎にも関連し得、さらに、食細胞の酸化的効果により形成されたAGE生成物による連結から生じ得る。これらの状態では、RAGE連結は、元の炎症を拡大し、炎症応答を開始させ、炎症状態を作り出した元の病態生理学的過程を永続化させる、二次的な炎症の波を生成する。インビボでは、RAGEの阻止は、遅延型過敏症および炎症性腸疾患のネズミモデルにおいて炎症を抑制することが示されている。炎症性の表現型の抑制に並行して、RAGE−S100カルグラニュリン相互作用の阻害は、組織における炎症性サイトカインのNF−kB活性化および発現を低下させることが示され、受容体の阻止が炎症応答の経過を変化させたことを示す。
【0072】
RAGEおよびそのリガンドの蓄積および発現の増加により特徴付けられる状態、例えば糖尿病性動脈硬化病変および歯周組織、関節リウマチなどの慢性疾患および炎症性腸疾患、およびアルツハイマー病において、炎症応答の増強は、進行中の細胞摂動と関係している。リガンド−RAGE媒介性活性化MAPキナーゼおよびNF−kBの一つの結果は、血管細胞接着分子(VCAM−1)の転写および翻訳の増加である。細胞表面では、一連のメディエーター、例えばエンドトキシン、腫瘍壊死因子α(TNFα)、およびAGEなどにより刺激された内皮は、VCAM−1を介する炎症誘発性単核細胞の接着の増加を示す。証拠はまた、内皮細胞系統および初代培養におけるリガンドとVCAM−1の結合が、内皮のNADPHオキシダーゼの活性化(刺激を受けた細胞を経由するリンパ球遊走に不可欠であることが示される過程である)を誘導したので、VCAM−1の炎症誘発性作用は細胞接着事象に限定されないことを示す。これは、細胞表面におけるRAGEの活性化が、NADPHオキシダーゼおよび一連の炎症誘発性メディエーター、例えばVCAM−1の活性化を含むイベントのカスケードを開始させ得ることを示す。
【0073】
RAGEは、中枢神経系および末梢神経系のニューロンの発生の際に神経突起成長と関係のある分子であるアンフォテリンの受容体として示されているので、アンフォテリン−RAGE相互作用は、細胞遊走および侵襲性と関係があり得る。例えば、アンフォテリンおよびRAGEの発現は、腫瘍において増加することが示されている。従って、インビボでのRAGEの阻止は、内因的に生じた腫瘍の局所増殖および遠位での拡散を抑制することができる。さらに、ある種のS100、例えばS100Bは、神経系のストレスに関係があり、もう一方、例えばS100Pは、癌に関係がある。この文脈において、S100PのRAGE依存性連結は、インビトロで癌細胞の増殖および生存を増加させることが示されている。さらなる関連において、アンフォテリンでコーティングされたマトリックスにおけるRAGEシグナル伝達の阻止は、p44/42、p38、およびSAPK/JNKキナーゼの活性化を抑制することができる。
【0074】
本発明の一つの驚くべき態様は、RAGE連結に関連する多様な状態において治療を達成することのできる単一の化合物を提供する能力である。既に指摘したように、RAGEおよびそのリガンドとの間の相互作用の機序に関して当分野で多くの混乱がある。イオン電荷、分子サイズ、分子の形状、および結合した側基は全て、RAGE連結において役割を果たすとされてきた。しかし、本発明は、あらゆる種類のRAGEリガンドを阻害するための単一の化合物、例えば2−O、3−O脱硫酸化ヘパリンなどの使用を可能にする。言い換えれば、本発明の化合物は、RAGEと相互作用するそれらの具体的な電荷、具体的な形状、または具体的な側基の存在により制限されない。むしろ、本発明の化合物は、RAGEと相互作用して、あらゆる種類の既知のRAGEリガンドとともにそのさらなる相互作用またはシグナル伝達を阻止する。
【0075】
この能力は、パラダイムRAGE−リガンド相互作用としてU937ヒト単球と固定化されたRAGEのMac−1(CD11b/CD18)媒介結合を用いて、RAGE−リガンド活性を阻害するそれらの能力を決定する、多様な脱硫酸化およびカルボキシル還元ヘパリンを用いる経験的実験を示す実施例中で下文に例証されている。それらの例は、リガンド−RAGE相互作用の阻害のための様々なヘパリン側基およびヘパリンサイズの要件の広範かつ驚くべき相違を示す。
【0076】
2−O脱硫酸化ヘパリンの生物活性変異体は、特に同様に本発明に包含される。そのような変異体は、元の化合物のRAGE連結阻害剤としての活性を保持するべきである;しかし、さらなる活性の存在は、必ずしも本発明においてその使用を制限しない。
【0077】
本発明の一実施形態によれば、適した生物活性変異体は、本明細書に記載される化合物の類似体および誘導体を含む。実際に、単一の化合物、例えば本明細書に記載される化合物は、類似の活性を有する(そのために、本発明に従う有用性を有する)類似体または誘導体の全ファミリーを生じることができる。同様に、単一の化合物、例えば本明細書に記載される化合物は、本発明に従って有用な化合物のより大きなクラスの単一のファミリーメンバーを表し得る。したがって、本発明は、本明細書に記載される化合物だけでなく、そのような化合物の類似体および誘導体、特に当分野で一般に公知であり、当業者に理解できる方法により特定できる類似体および誘導体を完全に包含する。類似体は、通常は類似の特性を有する、異なる原子または官能基を有するヘパリン分子中の原子または官能基の置換として定義される。誘導体は、それに結合した別の分子または原子を有するO−脱硫酸化ヘパリンとして定義される。
【0078】
ある種の実施形態では、本明細書に記載される、2−O脱硫酸化ヘパリンの類似体には、本発明の方法で用いるための2−O脱硫酸化ヘパリンと同じ機能を有する化合物が含まれ(最低限の抗凝固活性を含む)、さらに特に、これらの機能を保持する同族体が含まれる。例えば、ヘパリンポリマー上の様々な置換基は、当業者に公知の多くの手段、例えばアセチル化、脱アセチル化、脱炭酸、酸化などのいずれかによって、そのような変更または除去が2−O脱硫酸化ヘパリンの低い抗凝固活性を実質的に増大させない限り、除去または変更することができる。どのような類似体も、本明細書において教示がもたらされる既知方法により、これらの活性について容易に評価することができる。
【0079】
本発明の2−O脱硫酸化ヘパリンは、特に、修飾、例えば分子量の低下またはアセチル化、脱アセチル化、酸化、および脱炭酸などを有する2−O脱硫酸化ヘパリンを、本発明の方法に従って機能するその能力を保持する限り、含んでよい。そのような修飾は部分的な脱硫酸化の前または後に行うことができ、修飾の方法は当分野で標準的である。上に記したように、2−O脱硫酸化ヘパリンは特に分子量を低下させるように修飾されてよく、いくつかのヘパリンの低子量修飾が開発されている(581頁,Table 27.1 Heparin,Lane & Lindall参照)。
【0080】
過ヨウ素酸酸化(米国特許第5,250,519号、参照により本明細書に組み込まれる)は、抗凝固活性の低下した酸化ヘパリンを製造する既知の酸化方法の一例である。これもまた当分野で周知である、その他の酸化方法を用いてもよい。さらに、例えば、ヘパリンの脱炭酸も抗凝固活性を低下させることが知られているが、そのような方法は当分野で標準的である。さらに、一部の低分子量ヘパリンは、低下した抗凝固活性を有するとして当分野で公知であり、それには、亜硝酸解重合とそれに続く過ヨウ素酸酸化により製造される低分子量ヘパリンである、Vasofluxが含まれる(Weitz JI,Young E,Johnston M,Stafford AR,Fredenburgh JC,Hirsh J.Circulation.99:682−689,1999)。従って、本発明での使用が企図される、修飾されたO−脱硫酸化ヘパリン(またはヘパリン類似体もしくは誘導体)には、例えば、過ヨウ素酸酸化2−O脱硫酸化ヘパリン、脱炭酸化2−O脱硫酸化ヘパリン、アセチル化2−O脱硫酸化ヘパリン、脱アセチル化2−O脱硫酸化ヘパリン、脱アセチル化した、酸化2−O脱硫酸化ヘパリン、および低分子量2−O脱硫酸化ヘパリンが含まれ得る。
【0081】
本発明に従って用いられる2−O脱硫酸化ヘパリンは、2−O脱硫酸化ヘパリンが本発明の方法において有用な活性、特に2−O脱硫酸化ヘパリンの低抗凝固活性を維持するという条件で、患者に送達するために有用ないずれの形態であってもよい。本発明に包含される2−O脱硫酸化ヘパリンがとり得るさらなる形態の限定されない例としては、エステル、アミド、塩、溶媒和物、プロドラッグ、または代謝産物が挙げられる。そのようなさらなる形態は、一般に当分野で公知の方法、例えば、参照により本明細書に組み込まれる、J.March,Advanced Organic Chemistry:Reactions,Mechanisms and Structure,4th Ed.(New York:Wiley−Interscience,1992)に記載される方法に従って調製されてよい。
【0082】
固体組成物の場合、本発明の方法で用いられる化合物はさまざまな形態で存在し得ることは当然理解される。例えば、化合物は、安定性および準安定性の結晶形ならびに等方性および非結晶性形態で存在してよく、その全ては本発明の範囲内にあることが意図される。
【0083】
本発明の方法で用いられる硫酸化多糖(2−O脱硫酸化ヘパリンなど)は未加工の化学形態で投与することが可能であるが、化合物は医薬組成物として送達されるのが好ましい。したがって、本発明により2−O脱硫酸化ヘパリンまたはその他の硫酸化多糖を含む医薬組成物が提供される。そのようなものとして、本発明の方法で使用される組成物は、硫酸化多糖またはその製薬上許容される変異体を含む。
【0084】
硫酸化多糖は、1以上の製薬上許容される担体、従って、かつ所望によりその他の治療成分とともに、調製かつ送達されてよい。担体は、それらが組成物の任意のその他の成分と相溶性であり、かつ、そのレシピエントに対して有害でないという点で許容可能であるべきである。そのような担体は当分野で公知である。参照によりその全文が本明細書に組み込まれる、Wang et al.(1980)J.Parent.Drug Assn.34(6):452−462、を参照のこと。
【0085】
組成物には、組成物が本明細書に記載される化合物の投与を達成するという条件で、短期、急速作用発現、急速消失、制御放出、持続放出、遅延放出、およびパルス放出組成物が含まれてよい。参照によりその全文が本明細書に組み込まれるRemington’s Pharmaceutical Sciences(18th ed.;Mack Publishing Company,Eaton,Pennsylvania,1990)を参照のこと。
【0086】
本発明の方法で用いられる医薬組成物は、経口、非経口、および局所(経皮、口内、および舌下を含む)投与を含む、様々な送達様式に適している。投与はまた、鼻腔スプレー、手術移植、外科的な体内塗布(internal surgical paint)、輸液ポンプ、またはその他の送達装置を介するものであってもよい。最も有用かつ/または有益な投与様式は、特にレシピエントの状態によって変動し得る。好ましい実施形態では、本発明の組成物は静脈内に、皮下に、または吸入により投与される。肺内送達用の吸入エアゾールとして提供される場合、微粒子化された粒子は、好ましくは直径10ミクロン(マイクロメートル)未満、最も好ましくは5ミクロン未満である。気道または肺の中への送達のためには、硫酸化多糖は、微粒子化した粉末として送達されてもよいし、市販のネブライザー装置を用いて溶液として吸入されてもよい。鼻腔粘膜への送達のためには、硫酸化多糖を、市販の霧吹きもしくはスプレー装置によりエアロゾル化された溶液として投与してよいし、経鼻的に投与される微粒子化した乾燥粉末として送達されてもよい。
【0087】
医薬組成物は、単位投与形で便宜的に提供することができ、それによりそのような組成物は一般に医薬品分野で公知の方法のいずれかにより調製することができる。一般に言えば、そのような調製方法は、(様々な方法により)硫酸化多糖を適した担体または1以上の成分からなってよいその他のアジュバントと合することを含む。硫酸化多糖と1以上のアジュバントの組合せは、次に物理的に処理されて、送達に適した形態の組成物が提示される(例えば、錠剤への成形または水性懸濁液の形成)。
【0088】
経口投薬に適した医薬組成物は、様々な形態、例えば錠剤、カプセル剤、カプレット、およびウエハー(急速溶解または起沸を含む)の形態をとってよく、各々が所定量の硫酸化多糖を含む。組成物はまた、粉末または顆粒、水性もしくは非水性液中の溶液または懸濁液の形態、および液体乳濁液(水中油型および油中水型)であってもよい。硫酸化多糖はまた、ボーラス、舐剤、またはペースト剤として送達されてもよい。上記の投薬形態の調製の方法は一般に当分野で公知であり、任意のそのような方法は、本発明に従う組成物の送達に用いるそれぞれの投薬形態の調製に適し得ることは、一般に理解される。
【0089】
一実施形態では、硫酸化多糖は、不活性希釈剤または食用担体などの製薬上許容される媒体と組み合わせて経口投与され得る。経口組成物は、硬もしくは軟シェルゼラチンカプセル内に封入してもよいし、錠剤に圧縮してもよいし、患者の食事の食品の中に直接組み込んでもよい。組成物および調製物の割合は変動し得る;しかし、そのような治療上有用な組成物中の物質の量は、効果的な投薬レベルが得られるような量であることが好ましい。経口的な浸透および消化管吸収を促進するため、硫酸化多糖は、オリーブ油、胆汁酸塩、またはナトリウムN−[8−(2−ヒドロキシベンゾイル)アミノ]カプリラート(SNAC)の混合物を用いて処方してよい。好ましい比である約2.25gのSNAC対200〜1,000mgの2−O脱硫酸化ヘパリンが用いられる。消化管吸収を促進するさらなる処方物は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,153,217号;同第5,994,318号および同第5,840,707号に記載されるような方法を用いて、2−O脱硫酸化ヘパリンとホスホチジルセリンおよびカルシウムの、リン脂質−カチオン−沈殿の渦巻き形の(cochleate)送達小胞を処方することにより作成することができる。
【0090】
硫酸化多糖を含有する硬カプセルは、生理学的に分解可能な組成物、例えばゼラチンなどを用いて作成することができる。そのような硬カプセル剤は硫酸化多糖を含み、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、またはカオリンなどの不活性固体希釈剤を含む、付加的な成分をさらに含んでよい。化合物を含有する軟ゼラチンカプセルは、生理学的に分解可能な組成物、例えばゼラチンなどを用いて作成することができる。そのような軟カプセル剤は化合物を含み、該化合物は水、あるいは、ピーナッツ油、流動パラフィン、またはオリーブ油などの油性媒体と混合されてよい。
【0091】
舌下錠は、非常に急速に溶解するよう設計されている。そのような組成物の例としては、酒石酸エルゴタミン、硝酸イソソルビド、およびイソプロテレノール塩酸塩が含まれる。これらの錠剤の組成物は、薬剤に加えて、様々な可溶性賦形剤、例えばラクトース、粉末化スクロース、デキストロース、およびマンニトールを含む。本発明の固体投薬形態は、所望によりコーティングされてよく、適したコーティング材料の例としては、限定されるものではないが、セルロースポリマー(例えば酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、および酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)、ポリビニルアセテートフタレート、アクリル酸ポリマーおよび共重合体、ならびにメタクリル樹脂(EUDRAGIT(登録商標)の商標名で市販されているものなど)、ゼイン、セラック、ならびに多糖が挙げられる。
【0092】
医薬品の粉末および顆粒状の組成物は、公知の方法を用いて調製されてよい。そのような組成物は、患者に直接投与されるか、またはさらなる投薬形態の調製物中に使用して、例えば錠剤を形成するか、カプセル剤を充填するか、あるいは水性もしくは油性媒体をそれに添加することにより、水性もしくは油性の懸濁液または溶液を調製してよい。これらの組成物の各々は、1以上の添加剤、例えば分散剤または湿潤剤、沈殿防止剤、および防腐剤をさらに含んでよい。さらなる賦形剤(例えば、増量剤、甘味料、香味料、または着色剤)をこれらの組成物中に含めてもよい。
【0093】
経口投与に適した医薬組成物の液体組成物を調製し、包装し、液体形態、あるいは、使用前に水または別の適した媒体で再構成することを目的とする乾燥製品の形態のいずれかで販売してよい。
【0094】
硫酸化多糖を含有する錠剤は、当業者に容易に公知の任意の標準的な方法により、例えば、所望により1以上のアジュバントまたは副成分とともに、圧縮または成形によるなどによって製造されてよい。錠剤は所望によりコーティングするかまたは刻み目をつけてよく、硫酸化多糖の遅延もしくは制御放出をもたらすように処方されてよい。
【0095】
組成物中で使用するためのアジュバントまたは副成分には、一般に当分野で許容されると見なされるあらゆる医薬品成分、例えば、結合剤、増量剤、滑沢剤、崩壊剤、希釈剤、界面活性剤、安定剤、防腐剤、香味料および着色剤などを含んでよい。結合剤は、一般に錠剤の凝集性を促進し、かつ、圧縮後も確実に錠剤が原形を保ったままにするために使用される。適した結合剤としては、限定されるものではないが:デンプン、多糖、ゼラチン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、蝋、ならびに天然および合成ゴムが挙げられる。許容される増量剤としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、アルミナ、タルク、カオリン、粉末セルロース、および微晶質セルロース、ならびに可溶性材料、例えば、マンニトール、尿素、スクロース、ラクトース、デキストロース、塩化ナトリウム、およびソルビトールなどが挙げられる。滑沢剤は、錠剤の製造を促進するために有用であり、植物油、グリセリン、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、およびステアリン酸が挙げられる。錠剤の崩壊を促進するために有用である崩壊剤としては、一般に、デンプン、クレー、セルロース、アルギン、ゴム、および架橋ポリマーが挙げられる。一般に錠剤に嵩をもたらすために含められる希釈剤は、第二リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、ラクトース、セルロース、カオリン、マンニトール、塩化ナトリウム、乾燥デンプン、および粉糖を挙げることができる。本発明に従う組成物中の使用に適した界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、両性、または非イオン性の界面活性剤であってよい。安定剤は、硫酸化多糖の分解につながる反応、例えば酸化反応を阻害するかまたは減らすために組成物中に含めてよい。
【0096】
固体投薬形態は、例えばコーティングの適用によるなど、硫酸化多糖の遅延放出をもたらすように処方されてよい。遅延放出コーティングは当分野で公知であり、そのようなものを含む投薬形態は、任意の公知の適した方法により調製され得る。そのような方法には、一般に、固体投薬形態(例えば、錠剤またはカプレット)の調製の後に、遅延放出コーティング組成物を適用することが含まれる。適用は、例えば、エアレススプレー、流動床コーティング、コーティングパンの使用などの方法によるものであってよい。遅延放出コーティングとして用いるための材料は、本来、高分子材料、例えば、セルロース系材料(例えば、酪酸フタル酸セルロール、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびカルボキシメチルエチルセルロース)、ならびにアクリル酸、メタクリル酸、およびそれらのエステルのポリマーおよび共重合体であってよい。
【0097】
本発明に従う固体投薬形態はまた、持続放出されてよく(すなわち、硫酸化多糖を長時間にわたって放出すること)、かつ、遅延放出もされても、遅延放出されなくてもよい。持続放出組成物は当分野で公知であり、一般に、徐々に分解可能または加水分解性材料、例えば不溶性プラスチック、親水性ポリマー、または脂肪族化合物などからなるマトリックス内に薬剤を分散させることにより調製される。あるいは、固体投薬形態を、そのような材料でコーティングしてもよい。
【0098】
非経口投与のための組成物には、水性および非水性滅菌注射液が含まれ、それは付加的な薬剤、例えば抗酸化薬、バッファー、制菌剤、および溶質(組成物を対象とするレシピエントの血液と等張にする)などをさらに含んでよい。組成物には、沈殿防止剤および増粘剤を含む、水性および非水性の滅菌懸濁液が含まれてよい。そのような非経口投与のための組成物は、単位用量または多用量の容器、例えば、密封されたアンプルおよびバイアル中に提示されてよく、さらに、使用直前に滅菌液体担体、例えば、水(注射用)の添加だけを必要とする、フリーズドライした(凍結乾燥した)状態で保存されてよい。即時注射液および懸濁液は、既に記載された種類の滅菌粉末、顆粒、および錠剤から調製されてよい。
【0099】
本発明の方法で使用するための組成物はまた、経皮的に投与されてよく、この際、硫酸化多糖は、長時間レシピエントの表皮と密接に接着したままとなるように適合された積層構造(一般に「パッチ」と呼ばれる)の中に組み込まれる。一般に、そのようなパッチは、単一層の「薬剤含有粘着剤(drug−in−adhesive)」パッチとして、または、活性薬剤が粘着剤層とは別の層に含まれる多層パッチとして利用可能である。両方の種類のパッチはまた、一般に、支持層およびレシピエントの皮膚に付着する前に取り外されるライナーを含む。経皮薬物送達パッチはまた、半透性膜および粘着剤層によりレシピエントの皮膚から隔てられている支持層の底にあるリザーバからも構成されている。経皮薬物送達は、受動拡散によって起こってよく、または電気輸送またはイオン導入法を用いて促進されてよい。
【0100】
直腸送達のための組成物には、直腸坐剤、クリーム、軟膏、および液剤が含まれる。坐剤は、一般に当分野で公知の担体、例えばポリエチレングリコールなどと組み合わせた硫酸化多糖として提示され得る。そのような投薬形態は、急速に、または長時間にわたって崩壊するように設計されてよく、崩壊を完了する時間は、短時間、例えば約10分などから、長時間、例えば約6時間まで変動し得る。
【0101】
局所組成物は、活性薬剤を身体表面に送達するために(経皮に、口内に、および舌下に送達することを含む)適したあらゆる形態であってよく、当分野で容易に公知である。局所組成物の典型的な例としては、軟膏、クリーム、ゲル、ペースト、および溶液が挙げられる。口内の局所投与のための組成物にはトローチ剤も含まれる。
【0102】
ある種の実施形態では、本明細書に開示される化合物および組成物は、医療用具を介して送達することができる。そのような送達は、一般に任意の挿入可能なまたは埋め込み可能な医療用具を介するものであってよく、それには、限定されるものではないが、ステント、カテーテル、バルーンカテーテル、シャント、またはコイルが含まれる。一実施形態では、本発明は、その表面が本明細書に記載される化合物または組成物でコーティングされている医療用具、例えばステントを提供する。本発明の医療用具は、例えば、例えば本明細書に開示されるような疾患または状態を治療する、予防する、またあるいはその経過に影響を及ぼす、あらゆる用途で使用され得る。
【0103】
本発明のもう一つの実施形態では、硫酸化多糖を含む医薬組成物は、間欠的に投与される。治療上有効量の投与は、例えば持続放出組成物を用いることで連続的な方法で達成されてよいし、所望の一日投与量計画に従って、例えば1日に1回、2回、3回、またはそれより多い回数での投与を達成してよい。「中断時間(time period of discontinuance)」は、組成物の連続持続放出または連日投与の中断を意図する。中断時間は、連続持続放出または連日投与の時間よりも長くても短くてもよい。中断時間の間、当該組織における組成物の成分のレベルは、治療の間に得られる最大レベルよりも実質的に低い。中断期間の好ましい長さは、有効量の濃度および用いる組成物の形態によって決まる。中断期間は、少なくとも2日、少なくとも4日または少なくとも1週間であり得る。その他の実施形態では、中断の期間は、少なくとも1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月またはそれ以上である。持続放出組成物を用いる場合、身体における組成物のより長い滞留時間をもたらすために、中断期間は延長されなければならない。あるいは、持続放出組成物の有効量の投与の頻度は、それに応じて減少する可能性がある。本発明の組成物の間欠的な投与スケジュールは、所望の治療効果、および最終的に疾患または障害の治療が達成されるまで継続してよい。
【0104】
組成物の投与は、硫酸化多糖を、1以上のさらなる薬学的に活性な薬剤と組み合わせて投与すること(すなわち同時投与)を含む。したがって、本明細書に記載される薬学的に活性な薬剤は、固定した組合せ(すなわち両方の活性薬剤を含む単一の医薬組成物)で投与され得ると理解される。あるいは、薬学的に活性な薬剤は、同時に投与されてもよい(すなわち、同時に投与される別々の組成物)。もう一つの実施形態では、薬学的に活性な薬剤は順次に投与される(すなわち、1以上の薬学的に活性な薬剤の投与に続いて1以上の薬学的に活性な薬剤の別個の投与)。当業者は、最も好ましい投与方法は、所望の治療効果を可能にする方法であることを理解する。
【0105】
本発明に従う組成物の治療上有効な量の送達は、治療上有効量の組成物の投与によって得ることができる。したがって、一実施形態では、治療上有効な量は、1以上のリガンドによるRAGEの連結を阻害するために効果的な量であり、ある種の実施形態では、該阻害のレベルは、状態の生物学的な負の要素を減少または排除する(例えば状態に関連する症状の重篤度を低下させること、または該症状の排除によるなど)のに十分である。
【0106】
組成物中の硫酸化多糖の濃度は、硫酸化多糖の吸収、不活性化、および排出速度、ならびに当業者に公知のその他の因子によって決まる。投薬量の値も軽減しようとする状態の重篤度に伴って変動することに留意されたい。任意の特定の被験体に関して、具体的な投与計画は、個々の必要性、および、組成物の投与を行っているかまたは監督している人物の専門的な判断に従って時間とともに調節するべきであり、本明細書に示される投薬量の範囲はほんの一例であって、特許請求される組成物の範囲または慣習を制限することを意図しないことは、さらに理解される。有効成分は、一度に投与してもよいし、または様々な時間間隔で投与される、多数のより少ない用量に分割されてもよい。
【0107】
本明細書に記載される1以上の活性薬剤を含む本発明の組成物は、哺乳類、好ましくはヒトに治療上有効な量で投与されることが企図される。本明細書に記載される状態または疾患のいずれかの治療のための化合物または組成物の有効量は、従来の技法を用いて、かつ、同じような状況下で得られた結果を観察することにより、容易に決定することができる。組成物の有効量は、被験体の体重、性別、年齢、および病歴によって変化することが予期される。当然、その他の因子が送達される組成物の有効量に影響を及ぼすこともあり得、それには、限定されるものではないが、関連する具体的な疾患、疾患の関与または重篤度の程度、個々の患者の応答、投与される特定の化合物、投与様式、投与される調製物のバイオアベイラビリティの特徴、選択した用量計画、および併用薬の使用が含まれる。化合物は、望ましくない症状および治療される状態に関係する臨床徴候を軽減するのに十分な時間、優先的に投与される。有効性および投薬量を決定する方法は、当業者に公知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Isselbacher et al.(1996)Harrison’s Principles of Internal Medicine 13ed.,1814−1882を参照のこと。
【0108】
ある種の実施形態では、本発明に従って提供される2−O脱硫酸化ヘパリンは、好ましくは患者の体重1kgあたり約0.1mg〜約100mg/kgの用量を含む。さらなる実施形態では、薬物は、患者の体重あたり約0.2mg/kg〜約90mg/k
g、約0.3mg/kg〜約80mg/kg、約0.4mg/kg〜約70mg/kg、約0.5mg/kg〜約60mg/kg、約0.5mg/kg〜約50mg/kg、約1mg/kg〜約50mg/kg、約2mg/kg〜約50mg/kg、または約3mg/kg〜約25mg/kgの用量を含む。
【0109】
実施例
本発明を、説明のみを意図する以下の実施例においてより詳しく説明する。その多数の変更および変形は当業者に明白である。
【実施例1】
【0110】
非抗凝固性2−O脱硫酸化ヘパリンの製造
部分的に脱硫酸化された2−O脱硫酸化ヘパリン(ODSヘパリン)を、米国特許第5,668,188号;同第5,912,237号;および同第6,489,311号に記載される方法により商業的に実際的な量で製造した。ロットEM3037991から500gmのブタ腸管粘膜ヘパリンナトリウムを10L(リットル)の脱イオン水(最終ヘパリン濃度5重量%)に添加することによりODSヘパリンに対する修飾を行った。水素化ホウ素ナトリウムを添加して1%の終濃度を達成し、混合物を25℃にて一晩インキュベートした。次に、水酸化ナトリウムを添加して0.4Mの終濃度を達成し(13より高いpH)、混合物を凍結乾燥して乾固させた。過剰な水素化ホウ素ナトリウムおよび水酸化ナトリウムを限外濾過により除去した。最終生成物をpH7.0に調整し、3容量の冷エタノールの添加により沈殿させ、その後乾燥させた。この手順により作成した2−O脱硫酸化ヘパリンは、10USP単位/mg未満の抗凝固活性および10抗Xa単位/mg未満の抗凝固活性を有する、微結晶性のわずかに灰白色の粉末であった。このヘパリンの構造を図1に示す。分子量は、690nm(ナノメートル)で動作するminiDAWN検出器(Wyatt Technology Corporation,Santa Barbara,CA)を用いて、多角度レーザー光散乱を併用した高性能サイズ排除クロマトグラフィーにより測定した。出発物質の平均分子量の13.1kDと比較して、ODSヘパリンの平均分子量は11.8kDであった。
【0111】
図2には、親分子およびODSヘパリンの分子量分布の差が提供される。GuoおよびConradの方法により二糖分析を行った(Anal Biochem 1988;178:54−62)。図3Aに示される出発物質と比較して、ODSヘパリンは、ISM[L−イズロン酸(2−硫酸)−2,5−アンヒドロマンニトール]のIM[L−イズロン酸−2,5−アンヒドロマンニトール]への変換と、ISMS[L−イズロン酸(2−硫酸)−2,5アンヒドロマンニトール(6−硫酸)]のIMS L−イズロン酸−2,5−アンヒドロマンニトール(6−硫酸)への変換(いずれも2−O脱硫酸化を示す)を特徴とする、2−O脱硫酸化ヘパリンであった(図3Bに示される)。2−O脱硫酸化の提案される順序を図4に示す。ODSヘパリンは、GMS2[D47グルクロン酸−2,5−アンヒドロマンニトール(3,6−二硫酸)]のGMS[D−グルクロン酸−2,5−アンヒドロマンニトール(6−硫酸)]への変換(3−O脱硫酸化を示す)を特徴とする、3−O脱硫酸化ヘパリンでもあった。
【0112】
この2−O、3−O脱硫酸化ヘパリン(ODSH)がHIT抗体および活性血小板と相互作用する可能性を、HIT−2と臨床的に診断された3名の異なる患者のドナー血小板および血清を用いて、ヘパリン曝露に関連する血小板減少症、ヘパリンの除去による血小板減少症の補正、および血栓症を有するまたは有さない場合の血小板活性化試験陽性を明らかにすることにより調査した。2つの技法を用いて、HIT反応性の血清の存在下、ヘパリンまたは2−O脱硫酸化ヘパリンに応答する血小板の活性化を測定した。
【0113】
第1の技法は、HITに関して最も基準となる臨床検査であると考えられるセロトニン放出アッセイ(SRA)であり、Sheridan D,et al.,Blood 1986;67:27−30に記載されるように実施した。洗浄した血小板に14Cセロトニン(14C−ヒドロキシ−トリプタミン−クレアチン硫酸塩、Amersham)を添加し、次いで抗体源として既知のHIT陽性患者の血清の存在下、様々な濃度の試験ヘパリンまたはヘパリン類似体とともにインキュベートした。活性化の間の血小板からの14Cセロトニン放出として活性化を評価し、14Cセロトニンを液体シンチレーションカウンターを用いて定量した。ヘパリン−PF4−HIT抗体複合体の形成により、血小板の活性化および緩衝培地への同位体放出が起こった。活性化した血小板は、20%以上の同位体放出%として定義される。
【0114】
具体的には、2シリンジ法を用いて、ボランティアドナーから、1部の抗凝固剤対9部の全血という比率でクエン酸ナトリウム(0.109M)に全血を採取した。第1のシリンジ中の最初の全血3ml(ミリリットル)を廃棄した。抗凝固処置された血液を遠心して(80×g(重力)、15分、室温)、血小板に富む血漿(PRP)を得た。PRPを0.1μCuries14C−セロトニン/mlで標識し(45分、37℃)、次いで洗浄し、アルブミンを含まないタイロード液中で再懸濁して、血小板数300,000/μl(マイクロリットル)とした。HIT血清(20μl)を、70μlの血小板懸濁液、および5μlの2−O脱硫酸化ヘパリン(終濃度0、0.78、1.56、3.13、6.25、12.5、25、50および100μg(マイクログラム)/ml)とともにインキュベートした(室温にて1時間)。系対照として、10μlの未分画ヘパリン(UFH;終濃度0.1または0.5U/ml、それぞれ抗血栓または完全抗凝固用量で患者において見出された血漿中の濃度に対応)を、このアッセイにおいて2−O脱硫酸化ヘパリンの代わりとした。EDTAを加えて反応を停止させ、混合物を遠心して血小板をペレット化した。上清中に放出された14Cセロトニンをシンチレーションカウンターで測定した。10%TritonX−100(Sigma Chemicals,St.Louis,MO)を用いる血小板溶解の後に最大放出を測定した。試験は、0.1および0.5U/ml UFH(2−O脱硫酸化ヘパリンを加えない)でセロトニン放出が20%以上である場合、ならびに、100U/ml UFHでセロトニン放出が20%未満である場合に陽性であった。20%以上のセロトニン放出が起こる場合は、試験はHIT抗体と2−O脱硫酸化ヘパリンの交差反応のためであった。
【0115】
第2の技法は、フローサイトメトリーによる血小板分析であった。この機能試験では、全血中の血小板は、HITと臨床的に診断された患者の血清中のヘパリン抗体の存在下、ヘパリンまたはヘパリン類似体により活性化される。フローサイトメトリーを用いて、血小板の活性化を2つの方法:血小板微粒子の形成および血小板表面結合P−セレクチンの増加により決定した。通常、血小板は非活性化状態ではCD62をその表面に発現せず、血小板微粒子はほとんど検出できない。陽性応答は、生理食塩水対照の応答よりも有意に大きいあらゆる応答と定義される。
【0116】
具体的には、ダブルシリンジ法により注意深く採取した全血をヒルジン(終濃度10μg/ml)で抗凝固処置した。全血(50μl)のアリコートを1mlの1%パラホルムアルデヒド(ゲート制御)で直ちに固定した。HIT血清(160μl)および2−O脱硫酸化ヘパリン(50μl;終濃度0、0.78、1.56、3.13、6.25、12.5、25、50および100μg/ml)を全血(290μl)に添加し、インキュベートした(600rpmにて攪拌しながら37℃、15分)。アリコート(50μl)を取り出し、1mlパラホルムアルデヒド中で固定した(30分、4℃)。サンプルを遠心し(350g、10分)、上清のパラホルムアルデヒドを除去した。細胞を、カルシウムを含まないタイロード液中(500μl、pH7.4±0.1)に再懸濁した。150μlの細胞懸濁液を、6.5μlフルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識抗CD61抗体(Becton−Dickinson;San Jose,CA;全ての血小板でGPIIIaに特異的)に添加した。サンプルを暗所でインキュベートした(30分、室温)。飽和濃度を評価する実験に先立ち、全ての抗体をそれらの特異的抗原を発現している細胞に対して容量設定した。サンプルをEPICS(登録商標)XLフローサイトメーター(Beckman−Couter;Hialeah,FL)で、前角(FALS)および側角光散乱について、さらにFITCおよびPE(フィコエリトリン)蛍光について解析した。サンプルを毎日流すよりも前に、既知サイズの蛍光標識ビーズ(Flow−Check;Coulter)を流し、1.0μmビーズが4−ディケード・ログFALS光散乱スケールの第2ディケードの初めに落下するように増幅度を調整することによりサイズ較正を行った。FITCシグナルで設定した閾値弁別器を用いて、抗CD61抗体で標識されていない事象(非血小板)を排除した。
【0117】
ゲート制御サンプルを用いて、単一血小板および血小板微粒子を含むように無定形領域を取り出した。血小板微粒子を、細胞サイズ(FALS)のそれらの特徴的なフローサイトメトリープロフィールおよびFITC蛍光(CD61血小板マーカー)に基づいて血小板と区別した。血小板微粒子は、単一の非凝集血小板集団(<約1μm)よりも小さいCD61陽性事象として定義された。各サンプルに対して20,000の全CD61陽性事象(血小板)を採取した。データは、解析したCD61陽性事象の合計数の割合として報告した。ヘパリン依存性HIT抗体との交差反応性に関する試験において、UFH対照(2−O脱硫酸化ヘパリンを含まない)は、陽性応答を示すはずである(0.1U/mlおよび0.5U/ml UFHの血小板微粒子領域においてCD61陽性事象の割合は増加するが、100U/ml UFHでは増加しない)。血小板微粒子形成の増加が生じるならば、HIT抗体と2−O脱硫酸化ヘパリンの交差反応に対して、試験は陽性であった。
【0118】
HITに関連する血小板活性化による血小板の表面で誘導されるP−セレクチン発現の定量化を以下の通り測定した。P−セレクチン(P−selection)の血小板表面発現を定量化するため、多血小板血漿を採取し、血小板を上記のように標識したが、さらに6.5μlのフィコエリトリン(PE)標識抗体(Becton−Dickinson;活性化血小板で発現したP−セレクチンに特異的)で標識した。ゲート制御サンプルを用いて、FALSおよびCD61−FITC蛍光に基づいて、単一の血小板および血小板微粒子の領域を確立した。PE蛍光(P−セレクチン発現)のヒストグラムをゲート制御して、血小板凝集体を排除した。全ピークを包含するマーカーを設定して、P−セレクチン蛍光の中央値を決定した。結果を、非凝集血小板集団におけるCD62の平均蛍光強度単位(MFI)で報告した。ヘパリン依存性HIT抗体との交差反応性に関する試験では、UFH対照は、0.1U/mlおよび0.5U/ml UFHで陽性応答を示す(P−セレクチン蛍光の中央値が増加する)はずであるが、100U/ml UFHでは示さないはずである。血小板P−セレクチン発現の増加が生じるならば、HIT抗体と2−O脱硫酸化ヘパリンの交差反応性に対して、試験は陽性であった。
【0119】
図5は、未分画ヘパリンが、0.4μg/mlの通常の治療用抗凝固薬濃度で、この系の全放射性標識セロトニンの>80%の放出を誘発することを示している。対照的に、一連の0.78〜100μg/mlの濃度で調査した、2−O脱硫酸化ヘパリン(ODSH)は、実質的な14Cセロトニン放出を誘発できなかった。このことは、この2−O脱硫酸化ヘパリンが、血小板活性化を引き起こす、予め形成されたHIT抗体と相互作用しないことを示す。通常のヘパリンとHIT抗体の相互作用は血小板活性化を引き起こした。ODSHをヘパリンとともにHIT抗体に添加すると、ODSHはヘパリンが血小板活性化を引き起こすことを防いだ。
【0120】
図6は、0.4μg/mlの通常の治療用抗凝固濃度の未分画ヘパリンを、血小板およびHIT抗体陽性血清とともにインキュベートした場合、血小板のおよそ20%の表面で顕著なCD62発現があったことを示す。生理食塩水対照のインキュベーションは、CD62の低発現を特徴とした(血小板の<2%)。対照的に、0.78〜100μg/mlで調査した、2−O脱硫酸化ヘパリンは、生理食塩水対照のインキュベーションで観察されるCD62発現レベルを上回ってCD62発現レベルを増加させなかった。さらに、0.4μg/mlの未分画ヘパリンは実質的な血小板微粒子形成を生じたが、0.78〜100μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンは、生理食塩水対照のインキュベーションの血小板微粒子形成レベル(<5%活性)を上回る血小板微粒子形成レベルを刺激しなかった。
【0121】
分子量が11.8kD、硫酸化の程度が約1.0であるODSヘパリンは、セロトニン放出および血小板微粒子形成アッセイにおいてHIT様血小板活性化応答を誘発すると予測され得る。従って、2−O脱硫酸化ヘパリンが、血小板を活性化するHIT抗体およびPF4と反応せず、HIT症候群を生じるはずがないことは意外であり、先行技術から予測できなかったかまたは明白でなかった。このことは、2−O脱硫酸化ヘパリンは重篤かつ生命を脅かすHIT−2症候群を生じるはずがないため、2−O脱硫酸化ヘパリンが、ヘパリンまたはヘパリン類似体治療を必要とする炎症状態およびその他の状態の治療のために患者に投与するためのより安全な治療用ヘパリン類似体であることを示す。
【0122】
さらに驚くべきことに、2−O脱硫酸化ヘパリンは、HIT抗体および未分画ヘパリンに誘導される血小板活性化を実際に抑制する。これらの改善実験のため、用いた2−O脱硫酸化ヘパリンを実施例3に詳述される商業的工程により製造した。上記の内容をわずかに変更したSRAおよびフローサイトメトリー技法を用いて、2−O脱硫酸化ヘパリンのこの特有の効果を実証した。
【0123】
SRA多血小板血漿を、既に記載したように採取し、調製し、かつ標識した。試験系混合物は、5μlの2−O脱硫酸化ヘパリン(終濃度0、0.78、1.56、3.13、6.25、12.5、25、50および100μg/ml)および5μlの未分画ヘパリン(終濃度0.1または0.5U/mlのいずれか)の両方を組み込んだ。SRAは、UFH応答が2−O脱硫酸化ヘパリンの存在下で阻害された場合、2−O脱硫酸化ヘパリンによる未分画ヘパリン誘発性血小板活性化の改善に対して陽性であった。UFHおよび2−O脱硫酸化ヘパリンの存在下、セロトニン放出<20%は完全な改善と考えられる。
【0124】
フローサイトメトリー分析のため、既に記載したように全血を採取し、調製した。試験系混合物は、25μlの2−O脱硫酸化ヘパリン(終濃度0、0.78、1.56、3.13、6.25、12.5、25、50および100μg/ml)および25μlの未分画ヘパリン(終濃度0.1または0.5U/mlのいずれか)の両方を組み込んだ。2−O脱硫酸化ヘパリンを含まないヘパリンを対照として用いた(終濃度0、0.1、0.5および100U/ml UFH)。あらゆる試験薬剤、例えば2−O脱硫酸化ヘパリンなどは、0.1および0.5U/ml UFHの応答が阻害される場合に、改善に対して陽性であると考えられる。完全な改善は、血小板活性化応答が100U/ml UFH対照(試験薬剤、例えば2−O脱硫酸化ヘパリンが存在しない)の応答と同等である場合に起こった。
【0125】
SRAでは、改善は、3.13μg/mlと同程度に低い2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)濃度で観察することができた。0.5U/ml UFH系において改善を開始させるためには、0.1U/ml UFH系において必要な濃度と比較して、より高濃度の2−O脱硫酸化ヘパリン(平均して、3.13μg/mlに対して6.25μg/ml)が必要であった。HIT抗体/未分画ヘパリン誘発性血小板活性化の完全な阻止は常に得られたが、2−O脱硫酸化ヘパリンの濃度はHIT抗体の強さによって異なった。図7は、典型的なHIT患者の血清を用いるSRAの改善の結果を示す。大部分の患者血清では、完全な改善(<20%セロトニン放出として定義される)が12.5μg/ml以上の濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンで観察された。4名の異なるHIT患者の血清を用いるSRA阻害の調査において得たデータの複合グラフを、0.1U/ml UFH系(図8)および0.5U/ml UFH系(図9)を用いて示す。改善は6.25μg/mlで開始され、SRA応答の完全な改善は25μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンで達成されたことが示され得る。50μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンの存在下では血小板活性化は観察されなかった。データの一貫性により、エラーバー(平均の標準誤差;SEM)は示していない。
【0126】
HIT抗体/未分画ヘパリンにより誘導される血小板活性化の改善に関する2−O脱硫酸化ヘパリンの、血小板活性化の指標として血小板微粒子形成および細胞表面P−セレクチン発現のフローサイトメトリー分析を用いる評価は、全ての試験系において改善効果を示した(2−O脱硫酸化ヘパリンが存在しない場合の0.1および0.5U/ml UFH応答を用いて得られる応答の阻害として定義される)。血小板微粒子形成に関して、6.25μg/mlと同程度の低い濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンで改善が観察された。0.1U/mlと0.5U/ml UFH系で観察された改善応答に顕著な相違はなかった。平均して、6.25μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンで改善が開始された。血小板活性化の完全な阻止は常に得られたが、2−O脱硫酸化ヘパリンの濃度はHIT抗体の強さによって異なった。図10は、典型的なHIT患者の血清を用いるHIT/未分画ヘパリン誘発性血小板微粒子形成の改善の結果を示す。4名の異なるHIT患者の血清を用いる血小板微粒子形成の阻害の調査において得たデータの複合グラフを、0.1U/ml UFH系(図11)および0.5U/ml UFH系(図12)を用いて示す。完全な改善(血小板活性化応答が、試験薬剤2−O脱硫酸化ヘパリンが存在しない場合の100U/ml UFH対照の応答と同等であると定義される)は、6.25μg/ml以上の濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンから観察された。平均して、50μg/mlの濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンが血小板微粒子形成の完全な緩解を達成するために必要であった。
【0127】
P−セレクチン(CD62)発現に関して、改善は、1.56μg/mlと同程度の低い濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンで観察することができた。0.1U/mlと0.5U/ml UFH系で観察された改善応答に顕著な相違はなかった。平均して、6.25μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンで改善が開始された。血小板活性化の完全な阻止は常に得られたが、2−O脱硫酸化ヘパリンの濃度はHIT抗体の強さによって異なった。図13は、典型的なHIT患者の血清を用いるHIT/未分画ヘパリン誘発性血小板CD62発現の改善の結果を示す。完全な改善は、6.25μg/ml以上の濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンから観察された。平均して、>25μg/mlの濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンが血小板活性化の完全な改善または抑制を達成するために必要であった。4名の異なるHIT患者の血清を用いる血小板CD62発現の阻害の調査において得たデータの複合グラフを、0.1U/ml UFH系(図14)および0.5U/ml UFH系(図15)を用いて示す。改善は6.25μg/mlで開始され、CD62発現により測定される血小板活性化応答の完全な改善は、50μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンで達成された。
【実施例2】
【0128】
血流中のRAGE−リガンド阻害濃度を実現するための2−O脱硫酸化ヘパリンの静脈注射
2−O脱硫酸化ヘパリンのレベルがインビボでRAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達を抑制するために十分な濃度に達するかどうかを判定するため、3群のビーグル犬(各群n=4)に実施例3のように製造した2−O脱硫酸化ヘパリン(ODSH)を注射した。注射は、0mg/kg(生理食塩水対照、群1)、4mg/kg(群2)、12mg/kg(群3)および24mg/kg(群4)の用量で2分間かけて行った。注射は毎日4回、10日間行った。一日に投与した総ODSH用量は、0mg/kg、16mg/kg、48mg/kgおよび96mg/kgであった。調査の1日目、2日目、4日目、6日目および8日目に、その当日の1回目の注射の15分後および6時間後に全血を採取した。また、最後のODSH注射の後、15分、1時間、2時間、4時間、6時間および8時間の時点でもサンプルを採取した。全てのサンプルは、抗凝固薬としてクエン酸ナトリウムを含有するバキュテナー管に収集した。
【0129】
ODSHの濃度は、生体液中の硫酸化多糖の測定のために開発された電位差測定法により測定した(Ramamurthy N,et al.,Anal Biochem 1999;266:116−124を参照のこと)。円筒型のポリカチオン感応電極を、既に記載したように調製した(Ramamurthy N,et al.,Clin Chem 1998;44:606−661を参照のこと)。1%(w/w)ジノイルナフタレン(dinoylnaphthalene)スルホン酸、49.5%(w/w)ニトロフェニルオクチルエーテル、および49.5%(w/w)ポリウレタンM48の組成物を含むカクテルを、蒸留(THF)テトラヒドロフラン(200mg/ml)に成分を溶解することにより調製する。得られる溶液を、1インチ片のタイゴンチューブ(内径=1.3〜1.5mm)から少し突き出した、密封したガラス毛細管の丸くなった先端に浸漬被覆した。その溶液を15分間隔で12回浸漬被覆した後、センサー本体をドラフトチャンバーで一晩乾燥させた。使用当日、そのセンサー本体をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)に少なくとも1時間浸漬し、ガラス毛細管を慎重に取り出した。次に、センサー本体にPBSを充填し、Ag/AgClワイヤを挿入して、センサーを完成させた。センサーは1度使用し、その後廃棄した。2つのセンサーとAg/AgCl基準ワイヤを、Mac IIcxコンピュータのNB−MIOアナログ/デジタル入力/出力ボード(National Instruments)とインターフェースで接続されたVF−4増幅器モジュール(World Precision Instruments)に接続した。データは3秒間隔でサンプリングし、Lab View 2.0ソフトウェアを用いて記録した。PBS中の1mg/ml硫酸プロタミン(クルペイン型、Sigma)の滴定薬溶液を調製し、滴定薬をシリンジポンプ(Bioanalytical Systems)を介して連続的に送達した。滴定終了点を、Kolthoff法を用いてコンピュータ計算し(Sergeant EP,Chemical Analysis,Kolthoff IM,Elwing PJ,eds.69:362−364,1985を参照のこと)、その後、較正曲線の終点に達するために必要なプロタミン濃度に相当する減算補正係数を適用した。
【0130】
図16は、3つの用量群と対照に関する、決まった時刻の採取間隔での血漿中のODSH濃度を示す。様々な時点での平均濃度を表1に示す。
【0131】
【表1】
【0132】
WinNonlinバージョン4.1を用いてコンパートメントモデリングを行った。表2および3は、それぞれ、各群に関する薬物動態パラメータAUC(曲線下面積)、K10−HL(最終半減期)、Cmax(最高血中濃度)、CL(クリアランス)、AUMC(1次モーメント曲線下面積)、MRT(平均滞留時間)、およびVss(定常状態での分布容積)を示す。
【0133】
【表2】
【0134】
【表3】
【0135】
RAGE−リガンド相互作用を阻害し、あらゆる局面のHIT血小板活性化を改善させシグナル伝達する2−O脱硫酸化ヘパリンのレベルは、4mg/kg(16mg/kg/日)以上の注射用量で達成された。毎時の負荷量のおよそ5分の1の負荷および注入速度をもって、定常状態レベルはあらゆる場合で成し遂げられる可能性が高い。
【実施例3】
【0136】
非抗凝固性であり、かつ、ヒト白血球エラスターゼ抑制性である2−O脱硫酸化ヘパリンの製造
USPブタ腸ヘパリンを、商業的ベンダー[Scientific Protein Laboratories(SPL),Wanaukee,WI]より購入した。それを室温にて(20±5℃)溶解させて脱イオン水中5%(重量/容積)溶液を作成した。還元段階として、1%(重量/容積)水素化ホウ素ナトリウムを添加し、2時間かき混ぜた。次に、溶液を室温にて15時間放置した。次に、50%水酸化ナトリウムを添加することにより溶液のpHを13より高いアルカリ性にした。アルカリ性となった溶液を2〜3時間かき混ぜた。このアルカリ性溶液を、次に、市販の凍結乾燥機のトレイに入れ、−40℃まで冷却して凍結させた。凍結乾燥機に真空を適用し、凍結した溶液を凍結乾燥して乾固させた。凍結乾燥した生成物を冷(<10℃)水に溶かして5%溶液を達成した。塩酸を攪拌しながらゆっくり添加してpHを約6.0に調整し、溶液温度を<15℃に維持するよう気をつけた。次に、溶液を少なくとも10容積の水で透析するか、または限外濾過に付して過剰な塩および還元剤を除去した。透析した溶液に、2%塩化ナトリウム(重量/容積)の量を添加した。次に、1容積のハイソール(変性エタノール)を用いて2−O脱硫酸化ヘパリン生成物を沈殿させた。
【0137】
沈殿を約16時間静置した後、上清を吸い上げた。沈殿物を水中に再び溶解して10%(重量/容積)溶液とした。塩酸または水酸化ナトリウムを用いてpHを5〜6に調整し、溶液を0.2μmフィルターカプセルを通して洗浄容器に濾過する。次に、濾過した溶液を凍結乾固させた。この方法により作成される、得られた生成物の収量は最大1.5kgであった。
【0138】
最終生成物は、pHが6.4、USP抗凝固活性が約6U/mgかつ抗Xa抗凝固活性が1.9U/mgの2−O脱硫酸化ヘパリンであった。該生成物は微生物およびエンドトキシン汚染がなく、ICP−AESにより測定されるホウ素含量は<5ppmであった。このようにして製造されたこの2−O脱硫酸化ヘパリンを、ラットおよびイヌにおいて160mg/kg(動物重量)程度の高い用量で毎日最大10日間試験したが、実質的な毒性はなかった。
【0139】
得られた2−O脱硫酸化ヘパリンは、ヒト白血球エラスターゼの酵素活性を阻害するために有用であった。これは、米国特許第5,668,188号;同第5,912,237号;および同第6,489,311号に詳述される方法により試験された。ヒト白血球エラスターゼ(HLE)の阻害を、一定量のHLE(100pmol)を等モル量の2−O脱硫酸化ヘパリンとともに(I/E比1:1)、最終容積900μLに希釈した500μLのHepesバッファー(0.125M、0.125% Triton X−100、pH7.5)中で25℃にて30分間インキュベートすることにより測定した。残った酵素活性を、100μLの3mM N−Suc−Ala−Ala−Val−ニトロアナリド(nitroanalide)(Sigma Chemical,St.Louis,MO、ジメチルスルホキシド中で作成)を添加することにより測定した。タンパク質分解により放出される色素原4−ニトロアンリン(nitroanline)の吸光度の変化の速度を405nm(ナノメートル)にてモニターした。阻害率を、阻害剤を含まない酵素活性に基づいて計算した。上記の方法により製造された2−O脱硫酸化ヘパリンは、1:1の酵素対阻害剤のモル比で90%を上回るHLEを阻害した。
【0140】
大量の生成物は、50mg/mlの便宜的な単位用量バイアルに処方した。これは、2−O脱硫酸化ヘパリンをUSP注射用滅菌水に添加して6.5%(重量/重量)溶液を作成することにより達成された。塩化ナトリウムおよび注射用滅菌水を添加して最終重量モル浸透圧濃度を280〜300mOsmに調整し、必要に応じて1N塩酸または水酸化ナトリウムを用いてpHを7.1〜7.3に調整した。溶液を濾過し、無菌充填クラス100の区域に移し、そこで単位用量のガラスバイアル各々に21mlの溶液を充填し、密封し、圧着し、ラベルを貼った。
【実施例4】
【0141】
2−O脱硫酸化ヘパリンおよびその他の硫酸化多糖による、ヒトU937単球と固定化されたRAGEの結合の減少
ヒト単球細胞系U937と固定化されたRAGEの結合を用いて、ヘパリン、低分子量ヘパラン硫酸および低抗凝固活性を有するヘパリンの修飾体の、RAGEとそのリガンドとの相互作用への効果を調べた。U937細胞はMac−1(CD11b/CD18)インテグリンをRAGEに対するカウンターリガンドとして利用する(Chavakis T,同書)。固定化されたヒトRAGEに対するU937細胞の混乱(Disruption)は、そのために特異的なRAGE−リガンド相互作用のモデルとして役立ち得る。
【0142】
高結合性96ウェルマイクロタイタープレートを、0.2M炭酸−重炭酸バッファー中の8μg/mlプロテインA、pH9.4(100μl/ウェル)でコーティングした。プレートを、1%ウシ血清アルブミンを含有するPBS(PBS−BSA)で洗浄した。次に、Fc免疫グロブリン鎖(R&D Systems,Minneapolis,MN)と共役したヒトRAGEから構成されるキメラ(20μg/ml)を含有する50μlのPBSで各ウェルをコーティングし、プレートを4℃にて一晩インキュベートしてRAGE−Fcを付着させた。そのような方法で構築されたキメラは、Fcがプレートに結合するように指向し、RAGEは各ウェル内でバッファーへ最もよく(superior−most)指向した。
【0143】
インキュベーションに続いて、ウェルをPBS−BSAで2回洗浄し、カルシウム、マグネシウムおよびヘパリン、ヘパラン硫酸または修飾されたヘパリンの段階希釈(0〜1000μg/ml)を含有する50μlのPBS−BSAをそれぞれのウェルに加えた。選択された一組のウェルに、50μlの10mM EDTAを陰性対照として加えた。ウェルを室温にて15分間インキュベートした。その後、50μlのカルセイン標識U937細胞(105細胞/ウェル)を、ヘパリン、ヘパラン硫酸、または修飾されたヘパリンを含有するウェルに加え、さらに30分室温にてウェルをインキュベートした。次に、ウェルをPBSで3回洗浄した。結合した細胞をTris−TritonX−100バッファーに溶解し、494nmの励起および517nmの放出を用いて各ウェルの蛍光を測定した。相対蛍光単位(RFU)を、グリコサミノグリカンの濃度に対して片対数目盛でプロットした。結果を図17から図24に示す。各グリコサミノグリカンのRAGE−リガンド結合に対する50%阻害濃度(IC50)を下の表4に示す。
【0144】
【表4】
【0145】
RAGEに結合するU937細胞の最も強力な阻害剤は、3−O脱硫酸化もされている2−O脱硫酸化ヘパリン(ODSH)であった。2−O脱硫酸化ヘパリンは、たった0.09μg/mlのIC50濃度でRAGE−リガンド相互作用を阻害した。2−O脱硫酸化ヘパリンは、RAGE−リガンド相互作用の阻害剤として完全抗凝固性低分子量ヘパリン(IC50=0.481μg/ml)よりもより一層強力(5倍を超えて強力)であった。2−O脱硫酸化ヘパリンは、完全に硫酸化した未分画ヘパリン(IC50=0.107μg/ml)よりもさらにより強力なRAGE−リガンド相互作用の阻害剤であった。2−O脱硫酸化ヘパリンが同等の(even)ヘパリンよりも一層強力であったことは、完全O−脱硫酸化ヘパリン(IC50=14.75μg/ml)が、RAGE−リガンド相互作用の阻害剤として実質的に活性を低下させたことを実証したという事実を考慮に入れると、驚くべきことである。RAGE−リガンド相互作用の阻害剤として2−O脱硫酸化ヘパリンを使用することは、安全の点から考えると臨床上有利である。未分画および低分子量ヘパリンは完全な抗凝固活性を有し、そのために出血という有害かつ望ましくないリスクを伴い得るが、2−O脱硫酸化ヘパリンは低抗凝固活性を有するので、臨床療法として用いた場合に有害な出血のリスクが実質的に低い。未分画ヘパリン、その他の脱硫酸化もしくはカルボキシル還元ヘパリン誘導体、ヘパラン硫酸または同等の(even)低分子量ヘパリンとは違って、2−O脱硫酸化ヘパリンは、グリコサミノグリカンを用いるヒト治療の、稀であるが致死性となり得る臨床的合併症であるヘパリン誘発性血小板減少症を生じる活性も持っていない。従って、2−O脱硫酸化ヘパリンおよび2−O脱硫酸化低分子量ヘパリンおよび五糖は、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の阻害のための臨床における薬物療法として優れた安全性および有効性を提供する。
【実施例5】
【0146】
2−O脱硫酸化ヘパリンによる、AMJ2C−11肺胞マクロファージと固定化されたRAGEの結合の低下
マウス肺胞マクロファージ細胞系AMJ2C−11と固定化されたRAGEの結合を用いて、2−O脱硫酸化ヘパリンの、RAGEとそのリガンドとの相互作用への効果を調査した。AMJ2C−11細胞も、Mac−1(CD11b/CD18)インテグリンをRAGEに対するカウンターリガンドとして利用する。固定化されたヒトRAGEに対するAMJ2C−11細胞の混乱も、そのために特異的なRAGE−リガンド相互作用のモデルとして役立ち得る。
【0147】
高結合性96ウェルマイクロタイタープレートを、0.2M炭酸−重炭酸バッファー中の8μg/mlプロテインA、pH9.4(100μl/ウェル)でコーティングした。プレートを、1%ウシ血清アルブミンを含有するPBS(PBS−BSA)で洗浄した。次に、Fc免疫グロブリン鎖(R&D Systems,Minneapolis,MN)と共役したヒトRAGEから構成されるキメラ(20μg/ml)を含有する50μlのPBSで各ウェルをコーティングし、プレートを4℃にて一晩インキュベートしてRAGE−Fcを付着させた。そのような方法で構築されたキメラは、Fcがプレートに結合するように指向し、RAGEは各ウェル内でバッファーへ最もよく(superior−most)指向した。
【0148】
インキュベーションに続いて、ウェルをPBS−BSAで2回洗浄し、カルシウム、マグネシウムおよび2−O脱硫酸化ヘパリンの段階希釈(0〜1000μg/ml)を含有する50μlのPBS−BSAをそれぞれのウェルに加えた。選択された一組のウェルに、50μlの10mM EDTAを陰性対照として加えた。ウェルを室温にて15分間インキュベートした。その後、50μlのカルセイン標識AMJ2C−11細胞(105細胞/ウェル)を、2−O脱硫酸化ヘパリンを含有するウェルに加え、さらに30分室温にてウェルをインキュベートした。次に、ウェルをPBSで3回洗浄した。結合した細胞をTris−TritonX−100バッファーに溶解し、494nmの励起および517nmの放出を用いて各ウェルの蛍光を測定した。相対蛍光単位(RFU)を、グリコサミノグリカンの濃度に対して片対数目盛でプロットした。結果を図25に示す。2−O脱硫酸化ヘパリンのRAGE−リガンド結合に対する50%阻害濃度(IC50)を図25に0.45μg/mlと示す。
【0149】
肺胞マクロファージを伴うRAGE−リガンド相互作用の阻害剤として2−O脱硫酸化ヘパリンを使用することは、安全の点から考えると臨床上有利である。未分画および低分子量ヘパリンは完全な抗凝固活性を有し、そのために出血という有害かつ望ましくないリスクを伴い得るが、2−O脱硫酸化ヘパリンは低抗凝固活性を有するので、臨床療法として用いた場合に有害な出血のリスクが実質的に低い。未分画ヘパリン、その他の脱硫酸化もしくはカルボキシル還元ヘパリン誘導体、ヘパラン硫酸または同等の(even)低分子量ヘパリンとは違って、2−O脱硫酸化ヘパリンは、グリコサミノグリカンを用いるヒト治療の、稀であるが致死性となり得る臨床的合併症であるヘパリン誘発性血小板減少症を生じる活性も持っていない。従って、2−O脱硫酸化ヘパリンおよび2−O脱硫酸化低分子量ヘパリンおよび五糖は、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の阻害のための臨床における薬物療法として優れた安全性および有効性を提供する。
【実施例6】
【0150】
2−O脱硫酸化ヘパリンによる、RAGEリガンドと固定化されたRAGEの結合の減少
固相結合アッセイを用いて2−O脱硫酸化ヘパリンがRAGEとそのリガンドの結合を阻害する能力を調査した。ヘパリン類似物質のRAGEとそのリガンドの結合への影響の調査のため、ポリビニル製96ウェルプレートを5μg/ウェルの特異的リガンド(CML−BSA、HMGB−1またはS100bカルグラニュリン)でコーティングした。プレートを4℃にて一晩インキュベートし、PBS−0.05% Tween−20(PBST)で3回洗浄した。別々に、RAGE−Fcキメラ(PBST−0.1%BSA中に0.5μg/mlを含む100μL)を、等しい容積の段階的に希釈したODSH(PBST−BSA中0.001〜1,000μg/ml)とともに4℃にて一晩インキュベートした。翌日、50μLのRAGE−ODSH混合物を各々のそれぞれリガンドでコーティングしたウェルに移し、37℃にて2時間インキュベートした。次に、ウェルをPBSTで4回洗浄した。結合したRAGEを検出するため、50μLの抗RAGE抗体(0.5μg/ml)を各ウェルに添加し、混合物を室温にて1時間インキュベートし、ウェルを再びPBSTで4回洗浄した。西洋ワサビペルオキシダーゼ共役二次抗体(ウェルあたり50μL)を添加し、ウェルを室温にて1時間インキュベートし、次いでPBSTで1回洗浄した。比色分析反応を50μLのTMBの添加により開始させ、15分後に50μLの1N HClを添加して終了させた。マイクロプレート用自動吸光度計を用いて450nmでの吸光度を読み取った。
【0151】
2−O脱硫酸化ヘパリンは、AGE生成物カルボキシメチル−リジン−BSA(図26、IC50=8.6μg/ml)との、S100bカルグラニュリンとの(図27、IC50=4.2μg/ml)およびHMGB−1もしくはアンフォテリンとの(図28、IC50=2.5μg/ml)RAGEの相互作用を効果的に阻害した。このことは、この非抗凝固性ヘパリン誘導体が、この非常に重要な炎症促進性受容体を標的とする全範囲のリガンドとのRAGEの相互作用を阻止することを示す。
【0152】
2−O脱硫酸化ヘパリンを、AGE生成物、S100カルグラニュリンまたはHMGB−1というリガンドとのRAGEの相互作用の阻害剤として使用することは、安全の点から考えると臨床上有利である。未分画および低分子量ヘパリンは完全な抗凝固活性を有し、そのために出血という有害かつ望ましくないリスクを伴い得るが、2−O脱硫酸化ヘパリンは低抗凝固活性を有するので、臨床療法として用いた場合に有害な出血のリスクが実質的に低い。未分画ヘパリン、その他の脱硫酸化もしくはカルボキシル還元ヘパリン誘導体、ヘパラン硫酸または同等の(even)低分子量ヘパリンとは違って、2−O脱硫酸化ヘパリンは、グリコサミノグリカンを用いるヒト治療の、稀であるが致死性となり得る臨床的合併症であるヘパリン誘発性血小板減少症を生じる活性も持っていない。従って、2−O脱硫酸化ヘパリンおよび2−O脱硫酸化低分子量ヘパリンおよび五糖は、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の阻害のための臨床における薬物療法として優れた安全性および有効性を提供する。
【0153】
本明細書において示される本発明の多くの修飾およびその他の実施形態は、前述の説明に提示される教示の利益を受ける、これらの発明に関する分野の当業者に思い浮かぶものである。そのため、本発明が開示される具体的な実施形態に限定されるものではなく、修飾およびその他の実施形態が添付される特許請求の範囲内に含められるものであることは当然理解される。本明細書において具体的な用語が用いられているが、それらは一般的な説明の意味でのみ用いられているものであり、限定のためではない。特に断りのない限り、全ての部および割合は重量によるものであり、全ての温度は摂氏温度で表される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、終末糖化産物受容体(receptor for advanced glycation end−products:RAGE)の連結の阻害に関する。より具体的には、本発明は、硫酸化多糖、例えば2−O脱硫酸化ヘパリンなどの、RAGEの連結を阻害するための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
終末糖化産物受容体(RAGE)は、免疫グロブリンスーパーファミリーのマルチリガンド受容体である。この受容体は、免疫グロブリン様領域から構成され、リガンドが結合する末端の「V」型ドメイン、短い膜貫通ドメインである2つの「C」型ドメイン、およびシグナル伝達に必要な細胞質側末端を含む。RAGEは、DNA結合タンパク質アンフォテリン(HMGB1としても公知)による連結が神経の成長および発達に必要なように、発達的に重要な受容体である(Hori O,et al.,J Biol Chem 1995;270:25752−25761)。しかし、RAGEは発達に関連しない多くの生物学的経路においても役割も果たす。
【0003】
RAGEに結合することの分かっているリガンドの1つの種類は、糖のタンパク質および脂質への非酵素的結合による化学的生成物である、終末糖化産物(AGE)である。AGEはおびただしい量の生物学的環境で堆積し、いくつか例を挙げると、糖尿病、炎症、腎不全、老化、全身性アミロイドーシス、アルツハイマー型認知症、炎症性関節炎、アテローム性動脈硬化症および大腸炎をはじめとする、多様な数々の疾患の発病に重要な役割を果たすことが現在実証されている(Ramasamy R,et al.,Glycobiology 2005;15:16R−28R)。糖尿病患者において、AGEは慢性的に上昇したグルコースの直接的な結果として生じ、それはポリオール経路を経て進み、酵素アルドースレダクターゼによりソルビトールに還元される。ソルビトールは、順にフルクトースに変換され、その後フルクトース−3−リン酸塩、さらにその後3−デオキシグルコースに変換される。還元糖である3−デオキシグルコースは、そのアルデヒドカルボニルが、メイラード反応においてアミノ酸などの標的分子のアミノ基と反応してシッフ塩基を形成し得る。その後、シッフ塩基は分子間再配列を受けてアマドリ転移生成物を生じ得、それをさらに再配列および濃縮して、AGEを表す蛍光性の、黄褐色の生成物を生じ得る(Wautier J−L,et al.,Circ Res 2004;95:233−238)。これらのプロセスにより生じる幅広い種類の化学物質が特徴づけられ、それには、グリコキサル(glycoxal)由来リジン二量体などのアミノ酸架橋、メチルグリコキサルヒドロイミダゾロンなどのヒドロイミダゾロン、ならびにカルボキシメチル−リジン(CML)およびピラリンなどのモノリシル(monolysyl)付加物が含まれる。
【0004】
糖尿病におけるAGE生成物形成のレベルは、慢性的なグルコースの上昇およびそれによるAGE形成に苦しむコントロール不良の糖尿病患者において上昇する、天然に存在する微量のヒトヘモグロビンであるヘモグロビンAlcの濃度を追跡することにより便宜的にモニターすることができる。しかし、AGE生成物は、活性化した食細胞の放出した過酸化水素および次亜塩素酸などの酸化剤により生成される酸化反応の結果として、糖尿病にかかっていない状態でも形成され得、あるいは、AGEは、こってりと(heavily)調理された肉およびその他の動物性食品を食べることにより摂取され得る(Huebschmann AG,et al.,Diabetes Care 2006;29:1420−1432)。AGEは、たばこの煙の吸入およびその複雑な酸化剤の化学反応の結果として肺においてさえも形成され得る(Carami C,et al.,Proc Natl Acad Sci USA 1997;94:13915−13920)。
【0005】
RAGEは、単一のリガンドに特異的であるよりもむしろ、多数のその他のリガンドと結合するパターン認識受容体であり(Bierhaus A,et al.,J Mol Med 2005;83:876−886)、それには、アミロイド−βペプチド(アルツハイマー病において蓄積する)、アミロイドA(全身性アミロイドーシスにおいて蓄積する)、アンフォテリン(敗血症において壊死性マクロファージおよびその他の細胞によっても放出される)およびS100カルグラニュリン(慢性炎症部位において食細胞により放出されるカルシウム結合ポリペプチドのファミリー)が含まれる。ひとたび連結され活性化されると、RAGEは、p21ras、ERK1/2(p44/p42)マイトジェン活性化タンパク質(MAP)キナーゼ、p38およびストレス活性化/JNKキナーゼ、rho GTPアーゼ、ホスホイノシトール−3キナーゼ、JAK/STAT経路の活性化、ならびに転写因子核因子KB(NF−KB)およびCREBの活性化を含む、受容体後シグナル伝達を媒介する(Yan SF,et al.,Circ Res 2003;93:1159−1169)。これらの事象、特にNF−KBの活性化は、TNF−α、IL−1、IL−6、IL−8、GMCSF、接着分子および誘導型一酸化窒素合成酵素を含むサイトカインの宿主のアップレギュレートされた発現を伴う、深刻な炎症過程を導く。さらに、顕著なNF−KB応答性コンセンサス配列のそのプロモーター中での影響を通じて、RAGEの活性化は、さらに大規模なRAGE発現も導く。その上、RAGEは、循環から炎症範囲への食細胞の流出を媒介するインテグリン様内皮結合部位としての機能を果たし得る。RAGEは、白血球β2インテグリンのMac−1(CD11b/CD18)およびp150,95(CD11c/CD18)と相互作用して、食細胞の炎症性細胞動員を促進することが示されている(Chavakis T,et al.,J Exp Med 2003;198:1507−1515)。食細胞の炎症の範囲への誘引は、RAGEリガンドS100カルグラニュリンおよびアンフォテリンの相互作用によりさらに増大される(Orlova VV,et al.,EMBO J 2007;26:1129−1139)。従って、S100およびアンフォテリン(HMGB1)の局所放出によって、RAGEは、炎症の部位への白血球の誘引を伴って炎症性カスケードを増幅し得る。これは、活性化した白血球による酸化剤の放出、AGE生成物の生成、ならびに、さらなるRAGEが連結および活性化される時にさらなる炎症性誘発性のメディエーターの持続発現を導く。従って、RAGEは、炎症が活性化される場合に、疾患においてくすぶり続ける持続的な炎症の悪循環を媒介し得る。
【0006】
RAGEが疾患において重要であることから、RAGEの活性化を阻害するという試みがさらに活発化した。一つの方法は、RAGEに結合してRAGEを活性化させるAGE生成物の形成を阻止することであった(Goldin A,et al.,Circulation 2006;114:597−605)。ヒトでの研究においてAGE生成物の形成を阻止するための最も有望な薬剤はアミノグアニジンであった。ヒドラジン誘導体アミノグアニジンは、3−デオキシグルコースと反応し、カルボキシメチルリジンなどのAGE生成物の形成を阻止する。アミノグアニジンは、糖尿病ラットにおいてAGE産生ならびに腎症および網膜症の発症を低下させるが、ヒト第三相試験において糸球体腎炎を生じる(Bolton WK,et al.,Am J Nephrol 2004;24:32−40)。AGE形成を阻害するために実験的に用いたその他の薬剤には、ビタミン誘導体ピリドキサミン(ビタミンB6の形態)およびベンフォチアミン(チアミンの形態)、AGE架橋阻害剤N−2−アセトアミノドエチル(acetaminodoethyl))ヒドロジンカルボキシミドアミド(hydrozinecarboximidamide)塩酸塩(ALT−946)、4,5−ジメチル−3−フェニアシリチオゾリウム(phenyacylithiozolium)クロライド(ALT−711)、およびエパルレスタットなどのアルドース還元酵素阻害剤が含まれる。これまで、後期人体試験において効果的または安全と証明されたものは一つもない。
【0007】
実験的に、糖尿病または炎症の動物モデルにおいて、リガンド結合ドメインから構成されるが膜貫通ドメインまたは細胞質ドメインを欠く細胞外RAGEペプチドの組換え体を連日注射することにより、RAGE媒介性炎症が阻害された。このデコイ受容体(可溶性RAGEに対してsRAGEといわれる)は、アンフォテリン、AGE、S100タンパク質およびMac−1などの白血球インテグリンなどのリガンドを吸い取り、天然のRAGEとのそれらの相互作用と競合する。このようにして、sRAGEはRAGE媒介性炎症の効果的な競合阻害剤としての役割を果たす。sRAGEは、多数の動物モデルにおいてRAGEを阻害するために効果的であるが、とはいっても、sRAGEは伝統的な有機化合物系の薬剤と比較して製造するには比較的高価な組換えタンパク質であり、ヒトにおけるその安全性はまだ試験されていない。RAGE媒介性炎症の効果的な阻害剤は、幅広い種類の病原性状態の治療において治療上有用であることが証明されるものと予期される。しかし、ヒトにおける使用においても安全であると証明される阻害剤はまだ得られていない。
【0008】
一部の研究から、静電荷相互作用がリガンド−RAGE結合において重要な役割を果たすことが示唆されるが、多くの場合、その証拠は矛盾し、かつ分かりにくい。一部の研究において、アンフォテリン(Srikrishna G,et al.,J Neurochem 2002;80:998−1008)(高移動度ボックスグループタンパク質−1(HMGB−1)としても公知)またはS100カルグラニュリン(Srikrishna G,et al.,J Immunol 2001;166:4678−4688)などのリガンドによるRAGEとの相互作用は、非シアル酸カルボキシレート基を含有するアニオン性N−グリカンの存在に依存し、さらに、脱グリコシル化は単独でアンフォテリンおよびS100のRAGEとの結合を混乱させる。
【0009】
RAGE結合に関与するアンフォテリン中のCOOH−末端モチーフ(150〜183アミノ酸)は、最終的にカチオン性となる13のカチオン性アミノ酸とわずか4のアニオン性アミノ酸の、受容体分子中の負に帯電した配列と結合し得る、全体として正に帯電した配列を含む(Huttunen HJ,et al.,Cancer Res 2002;62:4804−4811)。このことは、RAGEリガンドの外面的トポグラフィー上のカチオン性の正に帯電したアミノ酸は、受容体のN−グリカン上のアニオン性の負に帯電したカルボキシレート基に結合することを示唆し得る。
【0010】
その他の研究は、リガンド上の正に帯電した基が、RAGE上の負に帯電したN−グリカンカルボキシレート基と相互作用するという仮説と直接的に矛盾する。原子間力顕微鏡および分子モデリングによる、可溶性sRAGEとアルツハイマー病β−アミロイドペプチドの相互作用の研究は、sRAGEが二量体化して、35Arg、30Lys、40Lysおよび75Argにより提供される正に帯電したカチオン性残基が多数を占める領域を含む、高度に親水性のポケットを形成することを示唆する(Chaney MO,et al.,Biochim Biophys Acta 2005;1741:199−205)。このモデルは、アルツハイマー病β−アミロイドペプチドのN末端上の負に帯電した領域が、RAGE二量体(dimmer)中のこのカチオン性ポケットに結合することを示唆する。このRAGE二量体中の正に帯電したポケットはまた、化学的に形成されたAGEの負に帯電したε−カルボキシメチル化リシル(CML)残基のカルボン酸塩のドッキングのためのイオントラップ(ionic trap)として役立つと仮定される。従って、先行技術は不明確であり、RAGE(RAGE上の正もしくは負電荷)とそのリガンド(アンフォテリン、S100、アルツハイマー病β−アミロイドペプチド、CMLおよびその他のリガンド上の正もしくは負電荷)との間の電荷−電荷相互作用の性質に関して矛盾する。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、リガンドのRAGEとの相互作用の安全かつ効果的な阻害のための方法および薬物に関する。RAGEリガンド、例えばアンフォテリン、S100カルグラニュリン、AGE、アルツハイマー病β−アミロイドペプチド、およびMac−1(CD11b/CD18)は、タンパク質上またはそれぞれの表面グリカン上のカチオン性(正の)電荷とアニオン性(負の)電荷との間の静電相互作用によってRAGEに結合すると考えられる。しかし、上に指摘したように、該技術は、どの電荷が重要であるかに関して明白でない。さらに、重要なカチオン性およびアニオン性電荷がそれぞれRAGEの結合表面またはその結合リガンド上に存在するかどうかが曖昧である。
【0012】
ヘパリンは、ポリアニオン性分子である。一般に、脱硫酸化によるヘパリンからのアニオン性電荷の除去は、完全硫酸化もしくは過硫酸化ヘパリンと比較して脱硫酸化ヘパリンのそれぞれのカチオン性タンパク質に結合する能力を低下させる。例として、ヘパリンの進行性のN−およびO−脱硫酸化は、ヘパリン誘導体がウイルス結合およびヒト細胞への感染を阻害する能力を除去する(Walker SJ,et al.,J Virol 2002;76:6909−6918)。
【0013】
本発明は、抗凝固活性が、ヘパリンまたはヘパリン誘導体によるRAGE−リガンド相互作用の阻害に必要でないことを示す。本発明はまた、RAGE−リガンド相互作用を阻害するための活性をなお保持する、低い抗凝固活性を有する数個の脱硫酸化ヘパリン誘導体を記載する。抗凝固活性の低下した、様々なヘパリン類似体が合成され、それには、数ある中で、O−過硫酸化(over−O−sulfated)ヘパリン(すなわち、全てのヒドロキシル基が硫酸基で置換されているヘパリン);2−O脱硫酸化ヘパリン;2−O、3−O脱硫酸化ヘパリン;N−脱硫酸化/N−アセチル化ヘパリン;6−O脱硫酸化ヘパリン;およびカルボキシル還元ヘパリンが挙げられる。これらは、記載され、かつ、RAGE−リガンド相互作用の阻止とは無関係の、ヘパリンのその他の抗炎症効果の調査において使用されている。RAGE−リガンド相互作用を阻害するその他の硫酸化多糖には、硫酸デキストランおよびペントサンポリサルフェートが含まれる。
【0014】
ヘパリン、還元抗凝固性ヘパリンおよび硫酸デキストランはまた、1,000未満から15,000ダルトン以上の範囲の一連の分子ポリマーサイズで製造することができる。完全な抗凝固活性を有する、化学的に合成された五糖はまた、フォンダパリヌクスナトリウムとして商業的に入手可能である(ARIXTRA(登録商標)として商業的に入手可能)。非抗凝固薬誘導体は、過ヨウ素酸酸化に続いて水素化ホウ素ナトリウム(sodium borohyride)還元により製造することができる(Frank RD,et al.,Thromb Haemostasis 2006;96:802−806)。2−O脱硫酸化、6−O脱硫酸化、カルボキシル還元、N−脱硫酸化、またはこれらの化学修飾を伴うデノボ合成により製造された、この非抗凝固性フォンダパリヌクス誘導体、ならびにその他のフォンダパリヌクス誘導体も、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達を阻害する。
【0015】
還元された抗凝固性ヘパリンの中で、ヒトおよびその他の哺乳類種におけるRAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達を阻止するために好ましい原体(drug substance)は、2−O脱硫酸化ヘパリンである。以下の実施例に示されるように、2−O脱硫酸化ヘパリンは、ヘパリンと比較して抗凝固活性を大いに低下させ、そのために低い出血リスクを包含するだけでなく、ヘパリン誘発性血小板減少症の、稀であるが可能性のある致命的副作用を誘発するリスクも低い。
【0016】
一実施形態では、本発明は、リガンドとRAGEとの間の相互作用およびシグナル伝達を阻害する方法を提供する。好ましくは、該方法は、RAGEを硫酸化多糖に接触させることを含む。最も好ましくは、該硫酸化多糖は2−O脱硫酸化ヘパリンを含む。さらにより好ましくは、2−O脱硫酸化ヘパリンは3−O脱硫酸化されてもいる。特定の実施形態では、RAGEは2−O脱硫酸化ヘパリンにインビボで接触される。従って、本発明のこの態様によれば、該方法は、2−O脱硫酸化ヘパリンを患者、例えば哺乳類、好ましくはヒトに投与することを含み得る。投与は、インビボで2−O脱硫酸化ヘパリンによるRAGEの接触を達成するために効果的ないずれの経路によるものであってもよい。
【0017】
その他の実施形態によれば、本発明は、リガンドとRAGEとの間の相互作用およびシグナル伝達に媒介される状態を有する被験体を治療する方法を提供する。該方法は、好ましくは、被験体に硫酸化多糖、優先的には2−O脱硫酸化ヘパリンを投与することを含む。さらにより優先的には、2−O脱硫酸化ヘパリンは3−O脱硫酸化されてもいる。本発明のこの実施形態によれば、治療される状態は、複数の状態におけるRAGEの広範な関与を考慮に入れると幅広い種類の状態を包含する可能性がある。本発明に従って治療することのできる状態の限定されない例としては、糖尿病、炎症、腎不全、老化、全身性アミロイドーシス、アルツハイマー病、炎症性関節炎、アテローム性動脈硬化症、大腸炎、歯周病、乾癬、アトピー性皮膚炎、酒さ、多発性硬化症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、皮膚の光老化、加齢性黄斑変性、および急性肺傷害が挙げられる。
【0018】
本発明に従う幅広い種類の状態を治療する能力は、RAGEと相互作用するかまたはRAGEにシグナル伝達するリガンドの種類によってさらに特徴づけられる。例えば、ある種の実施形態では、本発明は、終末糖化産物(AGE)、アルツハイマー病βペプチド、アミロイドタンパク質、S100カルグラニュリン、HMGB−1(アンフォテリン)、およびMac−1インテグリンからなる群から選択される、RAGEおよびリガンドの相互作用またはシグナル伝達により媒介される状態の治療を提供する。
【0019】
本発明に従う幅広い種類の状態を治療する能力は、RAGEおよびそのリガンドの相互作用またはシグナル伝達により活性化されるかまたは発現される酵素または経路の種類によって、なおさらに特徴づけられる。例えば、ある種の実施形態では、本発明は、p21ras、ERK1/2MAPキナーゼ、JNKキナーゼ、rho GTPアーゼ、ホスホイノシトール−3キナーゼ、JAK/STAT経路、NF−KB、CREB、TNF−α、IL−1、IL−6、IL−8、GMCSF、iNOS、ICAM−1、E−セレクチン、VCAM−1、およびVEGFからなる群から選択される1以上の酵素または経路の活性化または発現により特徴づけられる状態の治療を提供する。
【0020】
このように本発明を一般用語で説明したが、以下に、必ずしも縮尺通りに描かれていない、添付される図面について言及する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】未分画ヘパリンの五糖結合配列および2−O、3−O脱硫酸化ヘパリン(ODSヘパリンまたはODSH)の同程度の配列の化学式を示す図である。
【図2】ODSヘパリンを製造した親ブタ腸ヘパリンと比較した、高速サイズ排除クロマトグラフィーと併用した多角度レーザー光散乱により決定された、ODSヘパリンの示差的な分子量分布プロットを示す図である。
【図3A】本発明のヘパリンおよびODSヘパリンの二糖分析を示す図である。
【図3B】本発明のヘパリンおよびODSヘパリンの二糖分析を示す図である。
【図4】ヘパリンの五糖結合配列中のα−L−イズロン酸の2−O位置を脱硫酸化するための、提案される反応スキームを示す図である。
【図5】セロトニン放出アッセイにより決定される、本発明の2−O脱硫酸化ヘパリンのヘパリン抗体との交差反応を示す図である。
【図6】フローサイトメトリーにより定量化される血小板表面のP−セレクチン(CD62)の発現により決定される、本発明の2−O、3−O脱硫酸化ヘパリンのヘパリン抗体との交差反応を示す図である。
【図7】漸増濃度の2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化されてもいる)が、HIT症候群患者からの血清に0.1または0.5U/mlヘパリンを添加することに応答する血小板セロトニンの放出により示される、HITに媒介される血小板活性化を抑制したことを示すグラフである。
【図8】4名のHIT患者からの血清の存在下で0.1U/mlヘパリン(UFH)により誘導されるセロトニン放出に示される、2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)が血小板活性化を抑制した、実験結果の平均を示すグラフである。
【図9】4名のHIT患者からの血清の存在下で0.5U/mlヘパリン(UFH)により誘導されるセロトニン放出に示される、2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)が血小板活性化を抑制した、実験結果の平均を示すグラフである。
【図10】HIT患者の血清を0.1U/mlまたは0.5U/mlヘパリンと混合した場合に、2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)が血小板微粒子形成を抑制したことを示すグラフである。
【図11】4名のHIT患者のそれぞれの血清を0.1U/mlヘパリンと混合した場合に、2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)が血小板微粒子形成を抑制した、実験結果の平均を示すグラフである。
【図12】4名のHIT患者のそれぞれの血清を0.5U/mlヘパリンと混合した場合に、2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)が血小板微粒子形成を抑制した、実験結果の平均を示すグラフである。
【図13】2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)が、P−セレクチン(CD62)の血小板表面発現により測定されるHIT誘導性血小板活性化を抑制したこと、を示すグラフである。
【図14】2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)が、0.1U/mlの未分画ヘパリンの存在下、4名のHIT患者のそれぞれのHIT血清により誘導される、P−セレクチン(CD62)の血小板表面発現を抑制した、実験結果の平均を示すグラフである。
【図15】2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)が、0.5U/mlの未分画ヘパリンの存在下、4名のHIT患者のそれぞれのHIT血清により誘導される、P−セレクチン(CD62)の血小板表面発現を抑制した、実験結果の平均を示すグラフである。
【図16】雄ビーグル犬に6時間ごとに4mg/kg(16mg/kg/日)、6時間ごとに12mg/kg(48mg/kg/日)、および6時間ごとに24mg/kg(96mg/kg/日)の用量で10日間の最後の注射の後の、好ましい2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている、ODSHと称される)の血中濃度を示すグラフである。
【図17】未分画ヘパリンによる、U937ヒト単球と固定化されたRAGE−FcキメラとのMac−1(CD11b/CD18)媒介性結合の阻害を示す図である。
【図18】3−O脱硫酸化されてもいる(ODSH)2−O脱硫酸化ヘパリンによる、U937ヒト単球と固定化されたRAGE−FcキメラとのMac−1(CD11b/CD18)媒介性結合の阻害を示す図である。
【図19】6−O脱硫酸化ヘパリンによる、U937ヒト単球と固定化されたRAGE−FcキメラとのMac−1(CD11b/CD18)媒介性結合の阻害を示す図である。
【図20】N−脱硫酸化ヘパリンによる、U937ヒト単球と固定化されたRAGE−FcキメラとのMac−1(CD11b/CD18)媒介性結合の阻害を示す図である。
【図21】カルボキシル還元ヘパリンによる、U937ヒト単球と固定化されたRAGE−FcキメラとのMac−1(CD11b/CD18)媒介性結合の阻害を示す図である。
【図22】完全なO−脱硫酸化ヘパリンによる、U937ヒト単球と固定化されたRAGE−FcキメラとのMac−1(CD11b/CD18)媒介性結合の阻害を示す図である。
【図23】低分子量ヘパリン(平均分子量5,000ダルトン)による、U937ヒト単球と固定化されたRAGE−FcキメラとのMac−1(CD11b/CD18)媒介性結合の阻害を示す図である。
【図24】ヘパラン硫酸による、U937ヒト単球と固定化されたRAGE−FcキメラとのMac−1(CD11b/CD18)媒介性結合の阻害を示す図である。
【図25】3−O脱硫酸化されてもいる(ODSH)2−O脱硫酸化ヘパリンによる、AMJ2C−11肺胞マクロファージと固定化されたRAGE−FcキメラとのMac−1(CD11b/CD18)媒介性結合の阻害を示す図である。
【図26】3−O脱硫酸化されてもいる(ODSH)2−O脱硫酸化ヘパリンによる、固定化されたRAGE−Fcキメラとのカルボキシメチル−リジンウシ血清アルブミン(CML−BSA)結合の阻害を示す図である。
【図27】3−O脱硫酸化されてもいる(ODSH)2−O脱硫酸化ヘパリンによる、固定化されたRAGE−FcキメラとのヒトS100bカルグラニュリン結合の阻害を示す図である。
【図28】3−O脱硫酸化されてもいる(ODSH)2−O脱硫酸化ヘパリンによる、固定化されたRAGE−Fcキメラとのヒト高移動度ボックスグループタンパク質−1(HMGB−1、またはアンフォテリン)結合の阻害を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下において様々な実施形態に言及することにより本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施形態は、この開示が徹底的かつ完全となり、本発明の範囲を完全に当業者に伝えるように提供される。実際に、本発明は多くの異なる形態で具体化することができ、本明細書において説明される実施形態に限定されないと解釈されるべきである;むしろ、これらの実施形態は、この開示が適用される法的必要条件を満たすように提供される。本明細書において、および添付される特許請求の範囲において使用される、単数形の「a」、「an」、「the」は、文脈上明らかに指示されている場合を除いて、複数形の言及も含む。
【0023】
本発明は、リガンドと終末糖化産物受容体(RAGE)の連結を阻害するための安全かつ効果的な経路を提供する。具体的には、これは、硫酸化多糖、例えば2−O脱硫酸化ヘパリンの使用によって可能となる。RAGEと本発明に従う硫酸化多糖を接触させることにより、受容体が効果的に阻止され、多くの望ましくない状態、例えば糖尿病、炎症、腎不全、老化、全身性アミロイドーシス、アルツハイマー病、炎症性関節炎、アテローム性動脈硬化症、大腸炎、歯周病、乾癬、アトピー性皮膚炎、酒さ、多発性硬化症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、皮膚の光老化、加齢性黄斑変性、および急性肺傷害に関係のあるリガンドを含む、多様なリガンドとの連結が阻害される。
【0024】
上に指摘したように、静電荷相互作用は、リガンド−RAGE結合において役割を果たし得る。しかし、RAGE連結に関係するイオン電荷相互作用の種類についての矛盾した分かりにくい研究が、幅広い種類のリガンドとのRAGE連結阻害物質(inhibiter)として有用な化合物の特定を阻止した。
【0025】
アンフォテリンはヘパリンに結合することが示されている(Salmivirta M,et al.,Exp Cell Res 1992;200:444−451;Rauvala H,et al.,J Cell Biol 1988;107:2293−2305;およびMilev P,et al.,J Biol Chem 1998;273:6998−7005)。その他のRAGEリガンドもヘパリンに結合し、それには、S100カルグラニュリン(Robinson MJ,et al,J Biol Chem 2002;277:3658−3665)およびアルツハイマー病アミロイド−βペプチド(Watson DJ,et al.,J Biol Chem 1997;272:31617−31624;およびMcLaurin J,et al.,Eur J Biochem 2000;267:6353−6361)が含まれる。また、ヘパリンは、Mac−1(CD11b/CD18)白血球インテグリンの接着性リガンドおよび阻害剤である(Diamond MS,et al.,J Cell Biol 1995;130:1473−1482;およびPeter K,et al.,Circulation 1999;100:1533−1539)。ダルテパリン、完全抗凝固性の低分子量ヘパリンは、インビトロでのAGEとRAGEの結合を阻害し、AGEに刺激される内皮細胞におけるシグナル伝達を低下させ、血管内皮増殖因子およびインテグリンVCAM−1のmRNAの発現をもたらす(Myint K−M,et al.,Diabetes 2006;55:2510−2522)。従って、負に帯電したヘパリンがRAGEのあらゆる種類のそのリガンド(アンフォテリン、S100カルグラニュリン、アルツハイマー病β−アミロイドペプチド、白血球Mac−1(CD11b/CD18)インテグリン、およびAGEを含む)との相互作用を低下させる能力は、RAGEリガンドの3次元トポグラフィー上のカチオン性配列と、RAGE受容体表面に共役したことが見出されるグリカンの負に帯電したカルボキシレート基との間の電荷−電荷相互作用の崩壊に一致する。
【0026】
ヘパリンが効果的なRAGE連結阻害剤であるはずであるという証拠にもかかわらず、当分野では、抗凝固が望ましくない適応に関して、ヒトにおける使用に安全な、効果的なRAGE連結阻害剤を提供することができないでいる。例えば、RAGE−リガンド相互作用を阻止することが示されているのは、未分画ヘパリンおよび低分子量ヘパリンだけである。とはいえ、未分画および低分子量ヘパリンは、完全な抗凝固活性を保持する。そのために、未分画および低分子量ヘパリンをRAGE連結阻害剤として使用すると、出血という重大なリスクを提示することが明らかである。非抗凝固性ヘパリン誘導体は、安全であり、そのために、RAGE−リガンド相互作用を阻害し、RAGEシグナル伝達の病原作用を低下させるために、臨床上より望ましい。
【0027】
RAGE−リガンド相互作用およびRAGEシグナル伝達の阻害剤としての修飾ヘパリンの活性に関して、具体的なヘパリン修飾の影響に関する情報は存在しない。さらに、その抗凝固活性を低下させる多くのヘパリンの修飾もまた、修飾ヘパリンが具体的な生体分子にイオン結合し、それらの作用を阻害または刺激する能力を低下させる。しかし、ヘパリンと特定のタンパク質との具体的な生物学的相互作用を支えるためにどのヘパリン側基が必要とされるかを予測するための一貫したテーマはない。
【0028】
例として、ヘパリンは、多様なウイルスのヒト宿主細胞との結合および内部移行に匹敵する。様々な多糖側基の選択的除去(図1)は、この阻害活性を修正するが、ウイルス結合の阻害にどの側基が重要であるかはウイルスによって異なり得る。コクサッキーウイルス(coxackievirus)の場合、未修飾の2−O脱硫酸化ヘパリンは、コクサッキーウイルスの(coxackieviral)細胞変性活性を阻害するが、抗ウイルス活性は、N−または6−O脱硫酸化により著しく低下する(Zautner AE,et al.,J Virol 2006;80:6629−6636)。単純ヘルペスウイルス(HSV)の場合、N−脱硫酸化またはカルボキシル還元はHSV−1およびHSV−2の両方に対するヘパリンの抗ウイルス活性を低下させ、2−O、3−Oまたは6−O硫酸塩の除去は、HSV−1に対する抗ウイルス活性を有意に低下させるが、HSV−2に対する抗ウイルス活性にはあまり影響を及ぼさない(Herold BC,et al.,J Virol 1996;70:3461−3469)。仮性狂犬病ウイルスの場合、ウイルス結合/感染性アッセイにおいて、異なるウイルス変異株は、選択的にN−、2−O、または6−O脱硫酸化されたヘパリンによる阻害に対して異なるパターンの感受性を提示する(Trybala E,et al.,J Biol Chem 1998;273:5047−5052)。
【0029】
ヘパリンはまた、線維芽細胞増殖因子(FGF)およびその他の増殖因子のファミリーに結合し、多様な細胞種においてERK1/2リン酸化および増殖を刺激することによる創傷治癒の促進においてそれらの活性を強化する。FGFファミリーメンバーは、双方向性の支持増殖性活性に必要とされるヘパリン硫酸基の点で大いに異なる。FGF2は2−O硫酸塩を必要とするが6−O硫酸塩は必要としない;FGF10は6−O硫酸塩を必要とするが2−O硫酸塩は必要としない;FGF18および肝細胞増殖因子は2−O硫酸塩と6−O硫酸塩の両方に親和性を有するが、2−O硫酸塩が好ましい;かつ、FGF4およびFGF7は2−Oと6−O硫酸塩の両方を必要とする(Ashikari−Hada S,et al.,J Biol Chem 2004;279:12346−12354)。
【0030】
ヘパリンは、カチオン性白血球プロテアーゼを阻止するその能力に一部分依存し、かつ、血小板および白血球の血管内皮細胞表面への初期結合を決定し、白血球ローリングを媒介するP−およびL−セレクチン、インテグリンを阻害するその能力に一部分依存する、強力な抗炎症活性を有する。ヒト白血球エラスターゼ(HLE)の場合、N−硫酸塩が阻害に必要とされ、N−脱硫酸化ヘパリンは機能性HLE阻害活性をほとんど示さない(Fryer A,et al.,J Pharmacol Exp Ther 1997;282:208−219)。それに対して、P−およびL−セレクチンのヘパリン阻害は、6−O硫酸化を必要とし、6−O脱硫酸化ヘパリンは、炎症の範囲の中への白血球遊走を阻害するその能力の多くを失う(Wang L,et al.,J Clin Invest 2002;110:127−136)。
【0031】
サイズも、生物学的機能に重要であるが予測可能な方法でないタンパク質−タンパク質相互作用に影響を及ぼすヘパリンの能力において重要である。FGF8bの場合、14を超える単糖からなるヘパリンは最適活性に必要とされるが、FGF1またはFGF2で刺激された細胞では、たった6〜8の単糖からなる短いヘパリンが増殖を支持する(Loo B−M,et al.,J Biol Chem 2002;277:32616−32623)。未分画ヘパリンは、治療上の抗凝固中の血液に通常存在する濃度でP−およびL−セレクチンの効率的な阻害剤であるが、現在利用可能な低分子量ヘパリンは、同様の抗凝固レベルを生じる濃度でP−およびL−セレクチンを効果的に阻止しない(Koenig A,et al.,J Clin Invest 1998;101:877−889)。RAGEの場合、より大きい未分画ヘパリンはあまり効果的でないことが報告されているが、低分子量ヘパリンのダルテパリンは、AGE−RAGE相互作用の強力な阻害剤である。
【0032】
これらの例から、側基修飾およびサイズ修飾が、様々なタンパク質に結合し、そのタンパク質の作用を促進または阻害するヘパリンの能力に大きな影響を及ぼすことが説明される。しかし、具体的な硫酸塩の除去またはそのカルボキシルの還元は、予測可能な方法でヘパリンの活性に影響を及ぼさない。ヘパリンと具体的なタンパク質の各々の相互作用は独特である。
【0033】
RAGE−リガンド相互作用を阻害することに関して、特定の硫酸塩またはカルボキシルを除去して抗凝固活性を低下させることも、疾患において脱硫酸化もしくはカルボキシル還元ヘパリンのRAGE−リガンド活性を阻害する能力に悪影響を及ぼすかどうかを決定することには先例がない。しかし、RAGEリガンド結合におけるイオン相互作用の周辺技術を考慮に入れると、あらゆる脱硫酸化は、RAGE−リガンド結合において重要であると思われる電荷−電荷静電相互作用を阻害するヘパリンの活性を大いに低下させるために役立ち得ると予測される。本発明は、驚くことに、特定の非抗凝固性ヘパリンが、RAGEとそのあらゆる種類のリガンドとの連結を阻害するために効果的であることを示す。これは、パラダイムRAGE−リガンド相互作用としてU937ヒト単球と固定化されたRAGEのMac−1(CD11b/CD18)媒介性結合を用いて、RAGE−リガンド活性を阻害するそれらの能力を決定するための多様な脱硫酸化およびカルボキシル還元ヘパリンを用いる経験的実験を示す、下の実施例において例証される。さらなる例により、その他のリガンド、例えばCML−BSA、HMGB−1、およびS100bカルグラニュリンなどに関して、それらの結合の低下が示される。それらの例は、リガンド−RAGE相互作用の阻害のための様々なヘパリン側基およびヘパリンサイズの要件において、広範な、かつ驚くべき差異を示す。
【0034】
RAGE−リガンド相互作用を細胞膜レベルで阻止することに加えて、2−O脱硫酸化ヘパリンはsRAGEにも結合し、その半減期を延長させる。このことは、細胞外マトリックス中でsRAGEの存在をより長く維持することに役立ち、それにより細胞膜RAGEに反してリガンドの効果的なデコイとして作用することができ、バッファーとして作用して有害なリガンド−RAGE相互作用を停止させることができる。
【0035】
既に言及したように、完全な抗凝固性低分子量ヘパリンのダルテパリンだけが、RAGE−リガンド相互作用の効果的な阻害剤であることが既に見出された。ダルテパリンナトリウム(商業的にはFRAGMIN(登録商標)として公知)は、未分画のブタ腸ヘパリンの制御された亜硝酸解重合によって製造される、注射用の低分子量ヘパリンである。平均分子量は5,000ダルトンであり、その多糖のたった14〜26%が8,000ダルトンを超える分子量を有する(Physician’s Desk Reference,61st edition.Medical Economics Co,Inc.,Montvale,NJ.2007,p1097−1101に記載される通り)。ダルテパリンは、156U/mgの抗Xa活性を有する、血液凝固カスケード中の第Xa因子に対する完全な抗凝固薬である。ヒトに投与する場合、ダルテパリンに対する主な有害反応は、その完全な抗凝固活性の結果としての過剰出血である。
【0036】
10U/mg未満の抗Xa活性を伴う、2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)は、ダルテパリンまたはその他の完全抗凝固性の未分画もしくは低分子量ヘパリンよりも有害な出血のリスクがはるかに低い。抗血液凝固は、RAGE−リガンド相互作用を治療または予防する際に望ましい治療目的ではないので、2−O脱硫酸化ヘパリンは、RAGE−リガンド相互作用の阻害剤として、ダルテパリンまたはその他の完全な抗凝固性ヘパリンと比較して、優れた治療安全性を提供する。
【0037】
2−O脱硫酸化ヘパリンなどの低抗凝固性ヘパリンが、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達を阻害し得ることは、これまで低分子量ヘパリン(例えばダルテパリンなど)だけがRAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達を阻害するために効果的であることが示されていたので、驚くべきことである。ヘパリンの抗凝固活性が、主に血液セリンプロテイナーゼ阻害薬タンパク質抗トロンビンIII(ATIII)に結合するその能力に基づいて、トロンビンおよび血液凝固第Xa因子の阻害剤としてのATIIIの能力を大いに増大させるので、これは特に重要である。ATIII結合活性は未分画および低分子量ヘパリンの抗凝固活性の主な原因であると同時に、ATIII結合は、ヘパリンのその他の非抗凝固機能にも重要である。例として、ヘパリンは、線維芽細胞増殖因子(FGF)とそれらのそれぞれの受容体キナーゼ(FGFR)の結合を刺激して、創傷治癒に重要な細胞増殖を刺激する。ATIIIに結合するヘパリンの画分および肝臓由来ヘパラン硫酸だけが、活性FGF−FGFR複合体の形成を促進する(McKeehan ML,et al.,J Biol Chem 1999;274:21511−21514)。先行技術は、ダルテパリンまたはヘパリンによるATIII結合がRAGE−リガンド相互作用を阻害するために不必要であることを示すことができなかった。従って、ATIII結合活性の低下した(そしてそのために抗凝固活性の低い)ヘパリン化合物、例えば2−O脱硫酸化ヘパリンなどが、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の効果的な阻害剤であることは驚くべきことである。
【0038】
完全な抗凝固性ヘパリンと比較してその硫酸化の程度は低いが、本発明によれば、2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)が、完全な抗凝固性低分子量ヘパリンよりもRAGE−リガンド相互作用のさらにより強力な阻害剤であることは、さらにより驚くべきことである。また、2−O脱硫酸化ヘパリンが、6−O脱硫酸化ヘパリン、N−脱硫酸化ヘパリン、カルボキシル−還元ヘパリン、または完全脱硫酸化ヘパリンを含む、脱硫酸化またはカルボン酸塩の還元により抗凝固活性の低下したヘパリンのその他の修飾形態よりもまた、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達のより強力な阻害剤であることも驚くべきことである。さらに、3−O脱硫酸化もされている、天然の未分画ヘパリンと比較してその硫酸化の程度およびアニオン電荷の低下した2−O脱硫酸化ヘパリンが、やはりRAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の阻害剤である、天然に存在する低抗凝固性硫酸化多糖であるヘパラン硫酸よりも、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の阻害剤として一層強力であることは驚くべきことである。これらの驚くべき結果は、下の実施例においてより十分に説明される。
【0039】
完全抗凝固性ヘパリンをRAGE連結阻害剤として使用することは、関連するヘパリン誘発性血小板減少症(HIT)2型のためにさらに望ましくない。HITは、ヘパリンと血小板因子4(PF4)の結合がPF4のコンホメーション変化を誘発し、それにより少数の患者に存在する既に静止状態の抗体がヘパリン−PF4複合体に結合し得る、ヘパリン治療の恐ろしい合併症である。HIT抗体が血小板の表面のヘパリン−PF4複合体に結合すると、該血小板は活性化されて凝集体となる(Levy JH,et al.,Hematol Oncol Clinics North America 2007;21:65−88)。全ての現在利用可能な抗凝固性ヘパリン(ダルテパリンおよび未分画ヘパリンを含む)、ならびに非抗凝固性ヘパリンは、感受性の高い個体において2型HITを生じ得る。分かっている唯一の例外は、2−O脱硫酸化ヘパリンである。本発明は、従って、感受性の高い個体においてHITを活性化させる怖れなくRAGE−リガンド相互作用の阻害剤として2−O脱硫酸化ヘパリンを使用することができるという点で、さらにより有利である。この特性はまた、2−O脱硫酸化ヘパリンを、患者においてRAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達を阻害するための、より安全な治療アプローチとする。
【0040】
2−O脱硫酸化ヘパリンが本発明に従って特に好ましいが、その他の種類の硫酸化多糖を使用してもよく、それには、ヘパリン、様々な形態の還元された抗凝固性ヘパリン(N−脱硫酸化;2−O、3−Oまたは6−O脱硫酸化;N−脱硫酸化および再アセチル化;O−脱炭酸化;ならびにO−過硫酸化ヘパリン)、ヘパリン硫酸、ヘパラン硫酸、ペントサンポリサルフェート、硫酸デキストランおよび五糖フォンダパリヌクスが含まれる。これらの化合物の概要は、例えば、Wang L,et al.,J Clin Invest 2002;110:127−136に見出すことができる。本発明は本明細書中において2−O脱硫酸化ヘパリンまたは2−O、3−O脱硫酸化ヘパリンに関して記載されるが、かかる説明は必ずしも本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、むしろ本発明の一実施形態の説明として提供される。
【0041】
本発明は、本発明がRAGEとそのリガンド(数ある中で、HMGB−1(アンフォテリン)、S100カルグラニュリン、AGE、アルツハイマー病β−アミロイドペプチド、その他のアミロイドタンパク質、およびMac−1(CD11b/CD18)白血球インテグリンを含む)との相互作用を阻害するための方法および薬物を提供し、多様な組織、臓器系および疾患の状態においてRAGE受容体を活性化させるこれらのリガンドの能力を阻止する点で特に有益である。
【0042】
本発明の特に好ましい実施形態では、RAGE連結阻害剤は、3−O脱硫酸化もされている、2−O脱硫酸化ヘパリンである。3−O脱硫酸化もされている2−O脱硫酸化ヘパリンは、アニオン電荷がその選択的脱硫酸化により減少したヘパリン類似体である。驚くことに、本発明は、2−O脱硫酸化ヘパリンが、ヘパリンまたは低分子量ヘパリンよりもいっそう、より強力なRAGE−リガンド相互作用の阻害剤であることを示す。2−O脱硫酸化ヘパリンのアニオン電荷の低さ(そのRAGE−リガンド阻害活性を低下させると予測される)を考慮に入れると、これは予想外であった。
【0043】
2−O脱硫酸化ヘパリンは、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の阻害と無関係な活性のためにさらに有益である。例えば、2−O脱硫酸化ヘパリンは、ヒト白血球エラスターゼ(HLE)の気管に注入された場合の肺における破壊性作用の阻害などのその他の機構により、抗炎症性である。同様に、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の阻害に関係なく、2−O脱硫酸化ヘパリンは、炎症細胞、例えば多形核白血球および単球と、内皮および血小板との結合を、L−およびP−セレクチンを阻止することにより阻害する。本発明の2−O脱硫酸化ヘパリンは、RAGE−リガンド相互作用を阻害する利点を有すると同時に低下した抗凝固活性も有し、それにより同等用量の未修飾ヘパリンに起因する過剰な抗凝固の副作用を除去する。さらに、既に指摘したように、その他のヘパリンおよび硫酸化多糖は多くの場合哺乳類生物中に存在するヘパリン抗体と反応して、血小板活性化およびHIT2型血栓症候群を誘発する能力があるグリコサミノグリカン−血小板第4因子(PF4)−HIT反応性抗体複合体を形成する。本発明の2−O脱硫酸化ヘパリンはまた、HIT−2型血栓症候群の副作用なくRAGE−リガンド相互作用を阻害する利点を有する。
【0044】
本発明で使用される2−O脱硫酸化ヘパリンは、異なる程度の脱硫酸化を有してよい。さらに、2−O脱硫酸化ヘパリンが3−O脱硫酸化もされている場合、2−Oおよび3−O位置における脱硫酸化の程度も様々であり得る。好ましい実施形態では、O−脱硫酸化ヘパリンは、独立に、2−O位置および3−O位置の各々で少なくとも約10%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、または少なくとも約98%である。具体的な実施形態では、O−脱硫酸化ヘパリンは、2−Oおよび3−O位置の一方または両方で100%脱硫酸化されている。O−脱硫酸化の程度は各O−位置で同じである必要はない。例えば、ヘパリンは、2−O位置で主に(または完全に)脱硫酸化されてよく、3−O位置でそれより低い程度の脱硫酸化を有してよい。一実施形態では、ヘパリンは、2−Oおよび3−O位置の両方で少なくとも約90%脱硫酸化されている。O−脱硫酸化またはN−脱硫酸化の程度は、公知の方法、例えば二糖分析などにより決定することができる。
【0045】
O−脱硫酸化ヘパリンを調製する一方法が、参照によりその全文が本明細書に組み込まれる米国特許第5,990,097号に提供される。その中に開示される方法では、ブタ腸管粘膜ナトリウムヘパリンの5%水溶液が、500gmのヘパリンを10Lの脱イオン水に添加することにより作成される。水素化ホウ素ナトリウムを添加して1%終濃度とし、混合物をインキュベートする。次に、水酸化ナトリウムを添加して0.4M終濃度(少なくともpH13)とし、混合物を凍らせ、凍結乾燥して乾固させる。過剰な水素化ホウ素ナトリウムおよび水酸化ナトリウムは限外濾過により除去することができる。最終生成物をpH調製し、冷エタノールで沈殿させ、乾燥させた。この手順により製造されるO−脱硫酸化ヘパリンは、10USP単位/mg未満の抗凝固活性および10U/mg未満の抗Xa抗凝固活性を有する、微結晶性のわずかに灰白色の粉末である。
【0046】
上記のようなO−脱硫酸化ヘパリンの合成はまた、様々な修飾を含むことができる。例えば、出発ヘパリンを、例えば、溶液が高アルカリ性でない限り水またはその他の溶媒の中に入れてよい。ヘパリン溶液の典型的な濃度は、ヘパリンの1〜10重量%であってよい。反応で用いられるヘパリンは、当分野で公知の多数の供給源、例えばブタ腸またはウシ肺から入手することができる。ヘパリンはまた、修飾されたヘパリン、例えば本明細書に記載される類似体および誘導体であってよい。
【0047】
ヘパリンは、還元剤、例えば水素化ホウ素ナトリウム、触媒水素、または水素化リチウムアルミニウムとともにインキュベートすることにより還元することができる。好ましいヘパリンの還元は、ヘパリンを水素化ホウ素ナトリウムとともにインキュベートすることにより実行される。一般に、約10グラムのNaBH4を溶液1リットルあたりに使用することができるが、この量はヘパリンの還元が起こりさえすれば変更することができる。加えて、治療効果のあるO−脱硫酸化ヘパリンを製造するために必要でないその他の公知の還元剤を活用することができる。インキュベーションは、広い範囲の温度にわたって達成することができ、ヘパリンがカラメル化するほど温度が高くならないように注意する。例示的な温度範囲は、約15〜30℃または約20〜25℃である。インキュベーションの長さも、還元が起こるのに十分でありさえすれば、広い範囲で変動し得る。例えば、数時間から一晩まで(すなわち約4〜12時間)で十分であり得る。しかし、時間は数日間にわたって、例えば、約60時間を上回って延長することもできる。
【0048】
そのうえ、pHを13またはそれ以上に上昇させることのできる塩基を還元ヘパリン溶液に添加することによって還元溶液のpHを13またはそれ以上に上昇させることにより、合成の方法を適合させることができる。pHは、水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは水酸化バリウムなどを含む多数の薬剤のいずれかを添加することにより上昇させることができる。好ましい薬剤は水酸化ナトリウム(NaOH)である。一度でも13またはそれ以上のpHが達成されると、さらに塩基の濃度を増加させることは有益であり得る。例えば、NaOHを添加して約0.25M〜約0.5M NaOHの濃度にすることが好ましい。このアルカリ性溶液を次に乾燥させ、凍結乾燥させるかまたは減圧蒸留させる。
【0049】
具体的な実施形態では、アルカリ性溶液は、ヘパリンと塩基を規定された比率で含んでよい。例えば、NaOHを塩基として用いる場合、NaOH対ヘパリンの比(NaOH:ヘパリン(g))は、約0.5:1、好ましくは約0.6:0.95、より好ましくは約0.7:0.9であってよい。当然、より高濃度の塩基を必要に応じて添加して、溶液のpHが少なくとも13であることを確保してもよい。
【0050】
3−O脱硫酸化もされている2−O脱硫酸化非抗凝固性ヘパリンの調製のさらなる例は、例えば、その全てが参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,668,188号;同第5,912,237号;および同第6,489,311号に見出すことができる。還元された抗凝固性ヘパリンの様々な形態を調製する、なおさらなる例は、参照により本明細書に組み込まれるWang L,et al.,J Clin Invest 2002;110:127−136に見出される。ブタ腸またはウシ肺のいずれかから調製されたヘパリンは、米国薬局方医薬品として、Scientific Protein Labs,Wanaukee,WI.を含む、多数の製造業者から入手可能である。アルカリ解重合、過ヨウ素酸酸化、亜硝酸解重合および細菌性ヘパリナーゼでの処理を含む、6,000から1,000ダルトンと同程度まで低下させる、未分画ヘパリンの平均分子量サイズをヘパリン断片の平均分子量サイズに低下させるための多数の方法が当業者に周知である。多様な分子量および硫酸化の程度を有し、サイズが5,000から1,000,000を超えるダルトンであり、RAGEとそのリガンドとの相互作用の阻害剤としての使用に適した硫酸デキストランは、Polydex Pharmaceuticals,Ltd,Nassau,Bahamas.を含む、多数の製造業者から入手可能である。ペントサンポリサルフェートはIVAX Pharmaceuticals,Miami,FL.から得ることができる。
【0051】
RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の小分子量合成阻害剤も、合成五糖フォンダパリヌクスナトリウムから出発して製造することができる。フォンダパリヌクスは、文献から容易に利用可能な方法により合成することができる(Choay J,et al.,Biochem Biophys Res Comm 1983;116:492−499;およびPetitous M,et al.,Carbohydrate Res 1986;147:221−326)。得られる完全な抗凝固性の五糖を、次に、当分野で広く公知または2−O脱硫酸化に関して上に詳細に記載される化学的手法を用いる、N−脱硫酸化、カルボキシル還元、6−O脱硫酸化または2−O脱硫酸化により誘導体化して、低抗凝固活性を有するがRAGE−リガンド相互作用に対する阻害活性を温存した五糖とする。あるいは(Alternately)、フォンダパリヌクスのN−脱硫酸化誘導体、6−O脱硫酸化誘導体、カルボキシル還元誘導体または2−O、3−O脱硫酸化誘導体は、詳細に示される方法の明白な修飾を用いてデノボで合成することができる。
【0052】
効果的なRAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の阻害剤を製造するその他の方法は、大腸菌(Escherichia coli)から精製された生合成のK5莢膜多糖から出発し、進行性のN−硫酸化、N−脱アセチル化、C5エピマー化、過−O−硫酸化、選択的O−脱硫酸化および6−O−再硫酸化によってヘパリン様多糖を製造するように修飾された、ヘパリンの生合成による製造に基づき、合成ヘパリン様多糖を製造する(Lindahl U,et al.,J Med Chem 2005;48:349−352;およびRusnati M,et al.,Current Pharmaceutical Design 2005;11:2489−2499)。この完全な抗凝固性の生合成ヘパリンを、その後、3−O脱硫酸化もなされる、上に概説される2−O脱硫酸化法により修飾して、抗凝固活性が低く出血のリスクのあるRAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の阻害剤を製造することができる。あるいは(Alternately)、6−O硫酸化工程を排除してもよいし、または生合成ヘパリンを当分野で周知のN−脱硫酸化またはカルボキシル還元をもたらす方法によって処理して、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の低抗凝固性阻害剤の製造をもたらしてもよい。
【0053】
特定の条件下、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の低分子量阻害剤は、急速な吸収、持続的な血液レベルおよび皮下注射後のほとんど独占的な腎クリアランスを可能にする、それらの有利な薬物動態のために有用であることが分かる。腎クリアランスはまた、腎臓においてRAGE−リガンド相互作用を標的とする際に有用であると証明され得る。上に考察される硫酸化多糖の低分子量形は、β脱離、アルカリ性解重合、過ヨウ素酸酸化体、亜硝酸解重合または細菌性ヘパリナーゼでの処理を用いて容易に製造することができる。3つの方法は、豊富な文献とともに全て当分野で周知である。
【0054】
ヘパリンは、D−グルコサミンと、L−イズロン酸かまたはD−グルクロン酸のいずれかの反復単位から構成される、不定に硫酸化された多糖鎖の不均一な混合物である。ヘパリンの平均分子量は、一般に約6,000Da〜約30,000Daの範囲であるが、未変更のヘパリンの特定の画分は、約1,000Da程度の低い分子量を有し得る。本発明のある種の実施形態によれば、ヘパリンの分子量は、約1,000Da〜約30,000Da、約3,000Da〜約25,000Da、約8,000Da〜約20,000Da、または約10,000Da〜約18,000Daの範囲であり得る。別に記述のない限り、分子量は本明細書において重量平均分子量(Mw)として表され、それは下の式(I)により定義される
【化1】
(式中、niは、分子量Miを有するポリマー分子の数(またはそれらの分子のモル数)である)。
【0055】
本発明に従って用いられるO−脱硫酸化ヘパリンはまた、本明細書に記載されるような有用な活性を保持する限り、低い分子量を有してもよい。低分子量ヘパリンは、ヘパリンを小さい断片に切断するためにヘパリナーゼ酵素を利用することで酵素によって、または亜硝酸を用いる解重合により作成することができる。かかる低い分子量のO−脱硫酸化ヘパリンは、一般に、約100Da〜約8,000Daの範囲の分子量を有し得る。具体的な実施形態では、本発明で使用されるヘパリンの分子量は、約100Da〜約30,000Da、約100Da〜約20,000Da、約100Da〜約10,000Da、約100〜約8,000Da、約1,000Da〜約8,000Da、約2,000Da〜約8,000Da、または約2,500Da〜約8,000Daの範囲内である。
【0056】
大部分が3−O脱硫酸化されている2−O脱硫酸化ヘパリンの一実施形態を図1に図解する。具体的な実施形態では、そのような2−O、3−O脱硫酸化ヘパリンは、11,500Daの平均分子量を有する未分画のブタヘパリンから調製することができる。次に、これを水素化ホウ素ナトリウムを用いて還元した後凍結乾燥してよく、得られる生成物の平均分子量は約10,500Daである。
【0057】
ある種の実施形態では、本発明は、リガンドおよびRAGEの相互作用またはシグナル伝達を阻害するために有用な硫酸化多糖を含む医薬組成物を提供する。好ましくは、組成物は、2−O脱硫酸化ヘパリン、より好ましくは2−O、3−O脱硫酸化ヘパリンを含む。
【0058】
既に指摘したように、本発明は、未分画ヘパリンおよび低分子量ヘパリンと比較して血液凝固を阻害する能力の低下した非抗凝固性硫酸化多糖、特に2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)が、RAGEとそのリガンドとの相互作用を阻止するために使用され得るということを示すという点で特に驚くべきことである。本発明は、このようにして幅広い種類の被験体、特にヒト被験体に影響を及ぼしている多数の状態を治療するための方法を提供するので、これは特に有益である。
【0059】
多くの状態の治療を提供する本発明の能力は、RAGEと多くのリガンドとの広範な相互作用から生じる。具体的には、RAGEは、広い範囲の疾患および治療が求められる望ましくない状態に関与するリガンドと相互作用する。したがって、本発明は、RAGEに結合する化合物を提供し、従って、一般に、RAGEがその他のリガンドと相互作用することを防ぐので、本発明はこれらの阻止されるリガンドに関係する多くの状態を治療するために有用である。
【0060】
特定の実施形態では、本発明の方法は、RAGEおよび1以上のリガンドとの間の相互作用またはシグナル伝達を阻害する際に有用であり、リガンドには、限定されるものではないが、数ある中で、終末糖化産物(AGE)、アンフォテリン(高移動度グループボックスタンパク質1、すなわちHMGB−1としても公知)、S100カルグラニュリン、アルツハイマー病β−アミロイドペプチド、および食細胞のMac−1(CD11b/CD18)インテグリンが含まれる。
【0061】
AGEとRAGEとの相互作用は、多くの細胞種で活性を調節することが示されている。例えば、内皮細胞では、AGE−RAGE相互作用は、接着分子の発現および炎症誘発性/血栓形成促進性分子、例えばVCAM−1の発現を調節する。線維芽細胞では、AGE−RAGE相互作用は、コラーゲンの製造を調節する。平滑筋細胞では、AGE−RAGE相互作用は、マトリックス変更分子の遊走、増殖、および発現を調節する。単核食細胞では、AGE−RAGE相互作用は、走化性および走触性ならびに炎症誘発性/血栓形成促進性分子の発現を調節する。リンパ球では、AGE−RAGE相互作用は、インターロイキン−2の増殖および生成を刺激する。
【0062】
AGE−RAGE相互作用は、老化、炎症、神経変性、および糖尿病性合併症に対する影響を伴う、細胞摂動および組織傷害の悪循環を媒介することができる。AGE蓄積の具体的な結果は、RAGE自体のアップレギュレーション、ならびに炎症細胞、例えば多形核白血球、単核食細胞、およびリンパ球などの誘引である。そのような炎症細胞は、通常、恒常性維持機構を媒介するが(感染物質または壊死組織片の除去など)、この炎症性カスケードにおいて新しい役割を持つ。例えば、そのような細胞からのS100カルグラニュリンおよび/またはアンフォテリンの放出は、炎症性反応および細胞ストレス反応の新しい波を誘発する。自己分泌および/またはパラ分泌様式において、これらの種とRAGEとの結合(engagement)は、細胞摂動物質(cell perturbing substances)の別の波を生成する。リガンド−RAGE相互作用の一つの結果は、活性酸素種(ROS)のさらなる生成であり、それはさらなるAGE生成、炎症、およびROS産生を引き起こし得る。これは、広い範囲の細胞種においてストレスのサイクルを維持するために戻ってくる可能性があり、従って最終的に組織機能不全および回復不能な損傷を引き起こす。
【0063】
進行する神経突起の先端におけるRAGEとアンフォテリンの共局在は、細胞遊走に対する、かつ腫瘍浸潤などの病態における潜在的な寄与を示す。この点で、RAGE−アンフォテリンの阻止が、移植腫瘍と自発的発達腫瘍の両方の増殖および転移を減少させることが示されている。RAGE−アンフォテリン相互作用の阻害は、特にp44/p42、p38およびSAP/JNK MAPキナーゼ、ならびに、腫瘍増殖、浸潤およびマトリックスメタロプロテイナーゼの発現と重要な関係のある分子エフェクター機構の活性化を抑制することが示されている。
【0064】
S100カルグラニュリンとRAGEの結合は、特に細胞外シグナル伝達経路を誘発することに関与し、それにより炎症を増幅させる。S100カルグラニュリンは関節炎患者の関節において豊富であり、それらのRAGEとの結合は関節リウマチに強く関係する。RAGE−S100カルグラニュリン相互作用は、関節炎および骨損傷の重篤度を増大させることが示されている。さらに、関節炎マウスモデルにおけるRAGE−S100カルグラニュリン結合の阻止により、そのように処置された関節において、対照と比較して炎症性分子の産生が低下し、膨潤が小さく変形が少なくなり、かつ、骨および軟骨破壊の苦痛が低下したことが示されている。
【0065】
本明細書に記載されるRAGEおよび様々なリガンドの相互作用またはシグナル伝達を阻害する能力によって、本発明は、様々な酵素および経路の活性化または発現を阻害することにより、複数の状態の治療を可能にする(その発現または活性化は望ましくない状態に関係していることが分かっている)。例えば、2−O脱硫酸化ヘパリンによるRAGE−リガンド相互作用の阻止は、RAGE受容体による炎症促進性シグナル伝達を防ぐ。リガンド−RAGE相互作用により活性化されるシグナル伝達カスケードには、例えばp21ras、ERK1/2(p44/p42)MAPキナーゼ、p38およびSAPK/JNK MAPキナーゼ、rho GTPアーゼ、ホスホイノシトール−3キナーゼ、およびJAK/STATなどの経路、ならびに転写因子NF−KBおよびcAmp応答配列結合タンパク質(CREB)の活性化が含まれる。2−O脱硫酸化ヘパリンによるRAGE−リガンド相互作用の阻止はまた、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、インターロイキン−1(IL−1)、IL−6、IL−8、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GMCSF)、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)などの炎症促進性サイトカインのRAGE媒介性の産生を防ぎ、ICAM−1、E−セレクチンおよびVCAM−1などのインテグリンのRAGE媒介性発現を低下させ、かつ、血管内皮増殖因子(VEGF)などの血管形成促進性タンパク質のRAGE媒介性発現を低下させる。RAGE−リガンド相互作用をMac−1(CD11b/CD18)を用いて阻止することにより、2−O脱硫酸化ヘパリンは、多形核好中球(PMN)および単球などの炎症細胞の炎症組織への流入を低下させ、それによりこれらの細胞種による炎症の二次拡大を低下させる。RAGE−リガンド相互作用をMac−1(CD11b/CD18)を用いて阻止することにより、2−O脱硫酸化ヘパリンは、PMN、循環する単球、および、肺胞マクロファージなどの組織単球マクロファージのRAGE媒介性活性化も防ぎ、これらの細胞種の炎症促進性および線維化促進性(pro−fibrotic)活性を低下させて、組織傷害、組織線維症ならびにRAGEが活性化されている炎症および線維化器官の不全を媒介する。
【0066】
RAGEおよびそのあらゆる種類のリガンドの相互作用またはシグナル伝達を一般に阻止する能力を踏まえて、本発明の方法は、明らかに幅広い種類の疾患および状態の治療を提供することができる。実際に、RAGEおよびそのリガンドの相互作用またはシグナル伝達に関連するどの疾患または状態も本発明に従って治療することができる。特に、本発明は、糖尿病、炎症、腎不全、老化、全身性アミロイドーシス、アルツハイマー病、炎症性関節炎、アテローム性動脈硬化症、大腸炎、歯周病、乾癬、アトピー性皮膚炎、酒さ、多発性硬化症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、皮膚の光老化、加齢性黄斑変性、および急性肺傷害などの状態の治療を提供する。
【0067】
細胞外マトリックスタンパク質におけるAGEの蓄積は、一般に老化の生理学的過程の一部である;しかし、この蓄積は、真性糖尿病においては糖尿病でない個体におけるよりも早期に加速された速度で起こる。ヒト糖尿病性動脈硬化性プラーク(diabetic atherosclerotic plaques)におけるRAGE発現の増大は、COX−2、1型/2型ミクロソームプロスタグランジンE2、およびマトリックスメタロプロテイナーゼと、特に動脈硬化性プラークの脆弱な領域のマクロファージにおいて共局在することが示されている。AGEのRAGEとの相互作用の、例えば2−O脱硫酸化ヘパリンによる阻止は、一般に糖尿病に関係する多くの合併症を治療するために効果的であり得る。例えば、AGEによるRAGE連結の阻止は、糖尿病に関連する腎不全を媒介する増殖因子トランスフォーミング増殖因子−β1のRAGE−関連発現のシグナル伝達を防ぐことができる(Ceol M,et al.J Am Soc Nephrol 2000;11:2324−2326)。糖尿病に関連するAGE産物によるRAGE連結の阻害もまた、RAGEに関連する血管内皮増殖因子(VEGF)の産生を低下させることができ、それにより増殖性糖尿病性網膜症および失明を併発する糖尿病を引き起こす内皮の異常増殖の発生を防ぐ。糖尿病に関連するAGE産物とRAGEの相互作用を阻害することにより、2−O脱硫酸化ヘパリンも、糖尿病に関連する神経障害を引き起こすRAGE関連糖尿病性神経障害の変化を減少させることができる。
【0068】
RAGEとその他のリガンドとの間の相互作用を阻止することは、その他の望ましくない健康状態の治療にも効果的である。例えば、RAGEは、アルツハイマー病およびβシートフィブリル(fibrils)に蓄積するβ−アミロイド前駆タンパク質の切断生成物である、アミロイドβペプチド(Aβ)の細胞表面受容体の役割を果たす。RAGEは、アルツハイマー病患者の脳の細胞において増加したレベルで発現され、それにはニューロンおよび脳血管(内皮細胞および平滑筋細胞)が含まれる。AβのフィブリルがRAGEを有する細胞に結合する場合、それらの機能特性は歪む可能性がある。そのような変更された機能は、脳血流の低下およびシナプス可塑性の減少を含む複数の結果を有し得、最終的に認知症の基礎をなすニューロン機能不全を引き起こす。アルツハイマー病では、アルツハイマー病βペプチドによるRAGE連結は、アルツハイマー型認知症過程の特徴である神経細胞死の過程を特異的に開始させることができる。
【0069】
RAGE阻止も、全身性アミロイドーシス過程に影響を及ぼし得る。アミロイドの組織への堆積は正常な構造を置き換え、高濃度で、膜の完全性を阻止することにより非特異的な有毒作用を細胞に与えることができる。アミロイド沈着物および低分子量アミロイド断片は、アミロイド負荷が少ない時に、おそらく新生アミロイドに対する応答を増幅することにより疾患過程の早期に作用すると思われる特異的な細胞表面受容体とのそれらの相互作用によって、生物活性があると考えられる。RAGEは、サブユニットの組成(数ある中で、アミロイド−βペプチド、Aβ、アミリン、血清アミロイドA、およびプリオン由来ペプチド)にかかわらずβシート原線維材料に結合し、アミロイドの沈着の結果、RAGEの発現の強化がもたらされる。例えば、アルツハイマー病の患者の脳内において、ニューロンおよびグリアにおけるRAGE発現が増加する。RAGEのAβ連結の結果はニューロンとミクログリアとでは全く異なるように見える。ミクログリアは、増加した運動性およびサイトカインの発現に反映されるように、Aβ−RAGE相互作用の結果として活性化するが、初期のRAGE媒介性ニューロン活性化は、後になって細胞毒性に取って代わられる。Aβ誘導性の脳血管収縮の阻害および受容体阻止の後のアミロイドペプチドの血液脳関門を通過する移動の減少は、細胞のAβとの相互作用におけるRAGEの役割のさらなる証拠を提供する。
【0070】
アミロイドタンパク質によるRAGEの連結は、臓器不全につながる炎症性変化を開始させるが、それには、全身性アミロイドーシスの特徴である神経障害、腎不全、肺不全および肝不全が含まれる。インビボでの、全身性アミロイドーシスのネズミモデルにおけるRAGEの阻止は、アミロイド誘導性のNF−kBの核移行および細胞活性化を抑制した(Yan,SD,et al.,Nature Medicine,2000,6,643−651)。
【0071】
RAGEは、炎症性サイトカインのS100カルグラニュリンファミリーのメンバーに対するシグナル伝達受容体でもある(ENRAGEを含む)。このファミリーは、活性化した炎症細胞から放出される近縁のポリペプチドから構成され、それには、多形核白血球、末梢血由来単核食細胞およびリンパ球が含まれる。これらの炎症性サイトカインは、慢性炎症、例えば乾癬皮膚疾患、嚢胞性線維症、炎症性腸疾患、および関節リウマチなどの部位に蓄積することが知られている。ENRAGEによるRAGEの連結は、内皮細胞(endothelial ells)、マクロファージ、およびリンパ球の活性化を媒介することが示されている。RAGE連結はまた、さらなる炎症促進性の状態、例えば炎症性関節炎、アテローム性動脈硬化症、大腸炎、乾癬、アトピー性皮膚炎にも関連し得、さらに、食細胞の酸化的効果により形成されたAGE生成物による連結から生じ得る。これらの状態では、RAGE連結は、元の炎症を拡大し、炎症応答を開始させ、炎症状態を作り出した元の病態生理学的過程を永続化させる、二次的な炎症の波を生成する。インビボでは、RAGEの阻止は、遅延型過敏症および炎症性腸疾患のネズミモデルにおいて炎症を抑制することが示されている。炎症性の表現型の抑制に並行して、RAGE−S100カルグラニュリン相互作用の阻害は、組織における炎症性サイトカインのNF−kB活性化および発現を低下させることが示され、受容体の阻止が炎症応答の経過を変化させたことを示す。
【0072】
RAGEおよびそのリガンドの蓄積および発現の増加により特徴付けられる状態、例えば糖尿病性動脈硬化病変および歯周組織、関節リウマチなどの慢性疾患および炎症性腸疾患、およびアルツハイマー病において、炎症応答の増強は、進行中の細胞摂動と関係している。リガンド−RAGE媒介性活性化MAPキナーゼおよびNF−kBの一つの結果は、血管細胞接着分子(VCAM−1)の転写および翻訳の増加である。細胞表面では、一連のメディエーター、例えばエンドトキシン、腫瘍壊死因子α(TNFα)、およびAGEなどにより刺激された内皮は、VCAM−1を介する炎症誘発性単核細胞の接着の増加を示す。証拠はまた、内皮細胞系統および初代培養におけるリガンドとVCAM−1の結合が、内皮のNADPHオキシダーゼの活性化(刺激を受けた細胞を経由するリンパ球遊走に不可欠であることが示される過程である)を誘導したので、VCAM−1の炎症誘発性作用は細胞接着事象に限定されないことを示す。これは、細胞表面におけるRAGEの活性化が、NADPHオキシダーゼおよび一連の炎症誘発性メディエーター、例えばVCAM−1の活性化を含むイベントのカスケードを開始させ得ることを示す。
【0073】
RAGEは、中枢神経系および末梢神経系のニューロンの発生の際に神経突起成長と関係のある分子であるアンフォテリンの受容体として示されているので、アンフォテリン−RAGE相互作用は、細胞遊走および侵襲性と関係があり得る。例えば、アンフォテリンおよびRAGEの発現は、腫瘍において増加することが示されている。従って、インビボでのRAGEの阻止は、内因的に生じた腫瘍の局所増殖および遠位での拡散を抑制することができる。さらに、ある種のS100、例えばS100Bは、神経系のストレスに関係があり、もう一方、例えばS100Pは、癌に関係がある。この文脈において、S100PのRAGE依存性連結は、インビトロで癌細胞の増殖および生存を増加させることが示されている。さらなる関連において、アンフォテリンでコーティングされたマトリックスにおけるRAGEシグナル伝達の阻止は、p44/42、p38、およびSAPK/JNKキナーゼの活性化を抑制することができる。
【0074】
本発明の一つの驚くべき態様は、RAGE連結に関連する多様な状態において治療を達成することのできる単一の化合物を提供する能力である。既に指摘したように、RAGEおよびそのリガンドとの間の相互作用の機序に関して当分野で多くの混乱がある。イオン電荷、分子サイズ、分子の形状、および結合した側基は全て、RAGE連結において役割を果たすとされてきた。しかし、本発明は、あらゆる種類のRAGEリガンドを阻害するための単一の化合物、例えば2−O、3−O脱硫酸化ヘパリンなどの使用を可能にする。言い換えれば、本発明の化合物は、RAGEと相互作用するそれらの具体的な電荷、具体的な形状、または具体的な側基の存在により制限されない。むしろ、本発明の化合物は、RAGEと相互作用して、あらゆる種類の既知のRAGEリガンドとともにそのさらなる相互作用またはシグナル伝達を阻止する。
【0075】
この能力は、パラダイムRAGE−リガンド相互作用としてU937ヒト単球と固定化されたRAGEのMac−1(CD11b/CD18)媒介結合を用いて、RAGE−リガンド活性を阻害するそれらの能力を決定する、多様な脱硫酸化およびカルボキシル還元ヘパリンを用いる経験的実験を示す実施例中で下文に例証されている。それらの例は、リガンド−RAGE相互作用の阻害のための様々なヘパリン側基およびヘパリンサイズの要件の広範かつ驚くべき相違を示す。
【0076】
2−O脱硫酸化ヘパリンの生物活性変異体は、特に同様に本発明に包含される。そのような変異体は、元の化合物のRAGE連結阻害剤としての活性を保持するべきである;しかし、さらなる活性の存在は、必ずしも本発明においてその使用を制限しない。
【0077】
本発明の一実施形態によれば、適した生物活性変異体は、本明細書に記載される化合物の類似体および誘導体を含む。実際に、単一の化合物、例えば本明細書に記載される化合物は、類似の活性を有する(そのために、本発明に従う有用性を有する)類似体または誘導体の全ファミリーを生じることができる。同様に、単一の化合物、例えば本明細書に記載される化合物は、本発明に従って有用な化合物のより大きなクラスの単一のファミリーメンバーを表し得る。したがって、本発明は、本明細書に記載される化合物だけでなく、そのような化合物の類似体および誘導体、特に当分野で一般に公知であり、当業者に理解できる方法により特定できる類似体および誘導体を完全に包含する。類似体は、通常は類似の特性を有する、異なる原子または官能基を有するヘパリン分子中の原子または官能基の置換として定義される。誘導体は、それに結合した別の分子または原子を有するO−脱硫酸化ヘパリンとして定義される。
【0078】
ある種の実施形態では、本明細書に記載される、2−O脱硫酸化ヘパリンの類似体には、本発明の方法で用いるための2−O脱硫酸化ヘパリンと同じ機能を有する化合物が含まれ(最低限の抗凝固活性を含む)、さらに特に、これらの機能を保持する同族体が含まれる。例えば、ヘパリンポリマー上の様々な置換基は、当業者に公知の多くの手段、例えばアセチル化、脱アセチル化、脱炭酸、酸化などのいずれかによって、そのような変更または除去が2−O脱硫酸化ヘパリンの低い抗凝固活性を実質的に増大させない限り、除去または変更することができる。どのような類似体も、本明細書において教示がもたらされる既知方法により、これらの活性について容易に評価することができる。
【0079】
本発明の2−O脱硫酸化ヘパリンは、特に、修飾、例えば分子量の低下またはアセチル化、脱アセチル化、酸化、および脱炭酸などを有する2−O脱硫酸化ヘパリンを、本発明の方法に従って機能するその能力を保持する限り、含んでよい。そのような修飾は部分的な脱硫酸化の前または後に行うことができ、修飾の方法は当分野で標準的である。上に記したように、2−O脱硫酸化ヘパリンは特に分子量を低下させるように修飾されてよく、いくつかのヘパリンの低子量修飾が開発されている(581頁,Table 27.1 Heparin,Lane & Lindall参照)。
【0080】
過ヨウ素酸酸化(米国特許第5,250,519号、参照により本明細書に組み込まれる)は、抗凝固活性の低下した酸化ヘパリンを製造する既知の酸化方法の一例である。これもまた当分野で周知である、その他の酸化方法を用いてもよい。さらに、例えば、ヘパリンの脱炭酸も抗凝固活性を低下させることが知られているが、そのような方法は当分野で標準的である。さらに、一部の低分子量ヘパリンは、低下した抗凝固活性を有するとして当分野で公知であり、それには、亜硝酸解重合とそれに続く過ヨウ素酸酸化により製造される低分子量ヘパリンである、Vasofluxが含まれる(Weitz JI,Young E,Johnston M,Stafford AR,Fredenburgh JC,Hirsh J.Circulation.99:682−689,1999)。従って、本発明での使用が企図される、修飾されたO−脱硫酸化ヘパリン(またはヘパリン類似体もしくは誘導体)には、例えば、過ヨウ素酸酸化2−O脱硫酸化ヘパリン、脱炭酸化2−O脱硫酸化ヘパリン、アセチル化2−O脱硫酸化ヘパリン、脱アセチル化2−O脱硫酸化ヘパリン、脱アセチル化した、酸化2−O脱硫酸化ヘパリン、および低分子量2−O脱硫酸化ヘパリンが含まれ得る。
【0081】
本発明に従って用いられる2−O脱硫酸化ヘパリンは、2−O脱硫酸化ヘパリンが本発明の方法において有用な活性、特に2−O脱硫酸化ヘパリンの低抗凝固活性を維持するという条件で、患者に送達するために有用ないずれの形態であってもよい。本発明に包含される2−O脱硫酸化ヘパリンがとり得るさらなる形態の限定されない例としては、エステル、アミド、塩、溶媒和物、プロドラッグ、または代謝産物が挙げられる。そのようなさらなる形態は、一般に当分野で公知の方法、例えば、参照により本明細書に組み込まれる、J.March,Advanced Organic Chemistry:Reactions,Mechanisms and Structure,4th Ed.(New York:Wiley−Interscience,1992)に記載される方法に従って調製されてよい。
【0082】
固体組成物の場合、本発明の方法で用いられる化合物はさまざまな形態で存在し得ることは当然理解される。例えば、化合物は、安定性および準安定性の結晶形ならびに等方性および非結晶性形態で存在してよく、その全ては本発明の範囲内にあることが意図される。
【0083】
本発明の方法で用いられる硫酸化多糖(2−O脱硫酸化ヘパリンなど)は未加工の化学形態で投与することが可能であるが、化合物は医薬組成物として送達されるのが好ましい。したがって、本発明により2−O脱硫酸化ヘパリンまたはその他の硫酸化多糖を含む医薬組成物が提供される。そのようなものとして、本発明の方法で使用される組成物は、硫酸化多糖またはその製薬上許容される変異体を含む。
【0084】
硫酸化多糖は、1以上の製薬上許容される担体、従って、かつ所望によりその他の治療成分とともに、調製かつ送達されてよい。担体は、それらが組成物の任意のその他の成分と相溶性であり、かつ、そのレシピエントに対して有害でないという点で許容可能であるべきである。そのような担体は当分野で公知である。参照によりその全文が本明細書に組み込まれる、Wang et al.(1980)J.Parent.Drug Assn.34(6):452−462、を参照のこと。
【0085】
組成物には、組成物が本明細書に記載される化合物の投与を達成するという条件で、短期、急速作用発現、急速消失、制御放出、持続放出、遅延放出、およびパルス放出組成物が含まれてよい。参照によりその全文が本明細書に組み込まれるRemington’s Pharmaceutical Sciences(18th ed.;Mack Publishing Company,Eaton,Pennsylvania,1990)を参照のこと。
【0086】
本発明の方法で用いられる医薬組成物は、経口、非経口、および局所(経皮、口内、および舌下を含む)投与を含む、様々な送達様式に適している。投与はまた、鼻腔スプレー、手術移植、外科的な体内塗布(internal surgical paint)、輸液ポンプ、またはその他の送達装置を介するものであってもよい。最も有用かつ/または有益な投与様式は、特にレシピエントの状態によって変動し得る。好ましい実施形態では、本発明の組成物は静脈内に、皮下に、または吸入により投与される。肺内送達用の吸入エアゾールとして提供される場合、微粒子化された粒子は、好ましくは直径10ミクロン(マイクロメートル)未満、最も好ましくは5ミクロン未満である。気道または肺の中への送達のためには、硫酸化多糖は、微粒子化した粉末として送達されてもよいし、市販のネブライザー装置を用いて溶液として吸入されてもよい。鼻腔粘膜への送達のためには、硫酸化多糖を、市販の霧吹きもしくはスプレー装置によりエアロゾル化された溶液として投与してよいし、経鼻的に投与される微粒子化した乾燥粉末として送達されてもよい。
【0087】
医薬組成物は、単位投与形で便宜的に提供することができ、それによりそのような組成物は一般に医薬品分野で公知の方法のいずれかにより調製することができる。一般に言えば、そのような調製方法は、(様々な方法により)硫酸化多糖を適した担体または1以上の成分からなってよいその他のアジュバントと合することを含む。硫酸化多糖と1以上のアジュバントの組合せは、次に物理的に処理されて、送達に適した形態の組成物が提示される(例えば、錠剤への成形または水性懸濁液の形成)。
【0088】
経口投薬に適した医薬組成物は、様々な形態、例えば錠剤、カプセル剤、カプレット、およびウエハー(急速溶解または起沸を含む)の形態をとってよく、各々が所定量の硫酸化多糖を含む。組成物はまた、粉末または顆粒、水性もしくは非水性液中の溶液または懸濁液の形態、および液体乳濁液(水中油型および油中水型)であってもよい。硫酸化多糖はまた、ボーラス、舐剤、またはペースト剤として送達されてもよい。上記の投薬形態の調製の方法は一般に当分野で公知であり、任意のそのような方法は、本発明に従う組成物の送達に用いるそれぞれの投薬形態の調製に適し得ることは、一般に理解される。
【0089】
一実施形態では、硫酸化多糖は、不活性希釈剤または食用担体などの製薬上許容される媒体と組み合わせて経口投与され得る。経口組成物は、硬もしくは軟シェルゼラチンカプセル内に封入してもよいし、錠剤に圧縮してもよいし、患者の食事の食品の中に直接組み込んでもよい。組成物および調製物の割合は変動し得る;しかし、そのような治療上有用な組成物中の物質の量は、効果的な投薬レベルが得られるような量であることが好ましい。経口的な浸透および消化管吸収を促進するため、硫酸化多糖は、オリーブ油、胆汁酸塩、またはナトリウムN−[8−(2−ヒドロキシベンゾイル)アミノ]カプリラート(SNAC)の混合物を用いて処方してよい。好ましい比である約2.25gのSNAC対200〜1,000mgの2−O脱硫酸化ヘパリンが用いられる。消化管吸収を促進するさらなる処方物は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,153,217号;同第5,994,318号および同第5,840,707号に記載されるような方法を用いて、2−O脱硫酸化ヘパリンとホスホチジルセリンおよびカルシウムの、リン脂質−カチオン−沈殿の渦巻き形の(cochleate)送達小胞を処方することにより作成することができる。
【0090】
硫酸化多糖を含有する硬カプセルは、生理学的に分解可能な組成物、例えばゼラチンなどを用いて作成することができる。そのような硬カプセル剤は硫酸化多糖を含み、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、またはカオリンなどの不活性固体希釈剤を含む、付加的な成分をさらに含んでよい。化合物を含有する軟ゼラチンカプセルは、生理学的に分解可能な組成物、例えばゼラチンなどを用いて作成することができる。そのような軟カプセル剤は化合物を含み、該化合物は水、あるいは、ピーナッツ油、流動パラフィン、またはオリーブ油などの油性媒体と混合されてよい。
【0091】
舌下錠は、非常に急速に溶解するよう設計されている。そのような組成物の例としては、酒石酸エルゴタミン、硝酸イソソルビド、およびイソプロテレノール塩酸塩が含まれる。これらの錠剤の組成物は、薬剤に加えて、様々な可溶性賦形剤、例えばラクトース、粉末化スクロース、デキストロース、およびマンニトールを含む。本発明の固体投薬形態は、所望によりコーティングされてよく、適したコーティング材料の例としては、限定されるものではないが、セルロースポリマー(例えば酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、および酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)、ポリビニルアセテートフタレート、アクリル酸ポリマーおよび共重合体、ならびにメタクリル樹脂(EUDRAGIT(登録商標)の商標名で市販されているものなど)、ゼイン、セラック、ならびに多糖が挙げられる。
【0092】
医薬品の粉末および顆粒状の組成物は、公知の方法を用いて調製されてよい。そのような組成物は、患者に直接投与されるか、またはさらなる投薬形態の調製物中に使用して、例えば錠剤を形成するか、カプセル剤を充填するか、あるいは水性もしくは油性媒体をそれに添加することにより、水性もしくは油性の懸濁液または溶液を調製してよい。これらの組成物の各々は、1以上の添加剤、例えば分散剤または湿潤剤、沈殿防止剤、および防腐剤をさらに含んでよい。さらなる賦形剤(例えば、増量剤、甘味料、香味料、または着色剤)をこれらの組成物中に含めてもよい。
【0093】
経口投与に適した医薬組成物の液体組成物を調製し、包装し、液体形態、あるいは、使用前に水または別の適した媒体で再構成することを目的とする乾燥製品の形態のいずれかで販売してよい。
【0094】
硫酸化多糖を含有する錠剤は、当業者に容易に公知の任意の標準的な方法により、例えば、所望により1以上のアジュバントまたは副成分とともに、圧縮または成形によるなどによって製造されてよい。錠剤は所望によりコーティングするかまたは刻み目をつけてよく、硫酸化多糖の遅延もしくは制御放出をもたらすように処方されてよい。
【0095】
組成物中で使用するためのアジュバントまたは副成分には、一般に当分野で許容されると見なされるあらゆる医薬品成分、例えば、結合剤、増量剤、滑沢剤、崩壊剤、希釈剤、界面活性剤、安定剤、防腐剤、香味料および着色剤などを含んでよい。結合剤は、一般に錠剤の凝集性を促進し、かつ、圧縮後も確実に錠剤が原形を保ったままにするために使用される。適した結合剤としては、限定されるものではないが:デンプン、多糖、ゼラチン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、蝋、ならびに天然および合成ゴムが挙げられる。許容される増量剤としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、アルミナ、タルク、カオリン、粉末セルロース、および微晶質セルロース、ならびに可溶性材料、例えば、マンニトール、尿素、スクロース、ラクトース、デキストロース、塩化ナトリウム、およびソルビトールなどが挙げられる。滑沢剤は、錠剤の製造を促進するために有用であり、植物油、グリセリン、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、およびステアリン酸が挙げられる。錠剤の崩壊を促進するために有用である崩壊剤としては、一般に、デンプン、クレー、セルロース、アルギン、ゴム、および架橋ポリマーが挙げられる。一般に錠剤に嵩をもたらすために含められる希釈剤は、第二リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、ラクトース、セルロース、カオリン、マンニトール、塩化ナトリウム、乾燥デンプン、および粉糖を挙げることができる。本発明に従う組成物中の使用に適した界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、両性、または非イオン性の界面活性剤であってよい。安定剤は、硫酸化多糖の分解につながる反応、例えば酸化反応を阻害するかまたは減らすために組成物中に含めてよい。
【0096】
固体投薬形態は、例えばコーティングの適用によるなど、硫酸化多糖の遅延放出をもたらすように処方されてよい。遅延放出コーティングは当分野で公知であり、そのようなものを含む投薬形態は、任意の公知の適した方法により調製され得る。そのような方法には、一般に、固体投薬形態(例えば、錠剤またはカプレット)の調製の後に、遅延放出コーティング組成物を適用することが含まれる。適用は、例えば、エアレススプレー、流動床コーティング、コーティングパンの使用などの方法によるものであってよい。遅延放出コーティングとして用いるための材料は、本来、高分子材料、例えば、セルロース系材料(例えば、酪酸フタル酸セルロール、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびカルボキシメチルエチルセルロース)、ならびにアクリル酸、メタクリル酸、およびそれらのエステルのポリマーおよび共重合体であってよい。
【0097】
本発明に従う固体投薬形態はまた、持続放出されてよく(すなわち、硫酸化多糖を長時間にわたって放出すること)、かつ、遅延放出もされても、遅延放出されなくてもよい。持続放出組成物は当分野で公知であり、一般に、徐々に分解可能または加水分解性材料、例えば不溶性プラスチック、親水性ポリマー、または脂肪族化合物などからなるマトリックス内に薬剤を分散させることにより調製される。あるいは、固体投薬形態を、そのような材料でコーティングしてもよい。
【0098】
非経口投与のための組成物には、水性および非水性滅菌注射液が含まれ、それは付加的な薬剤、例えば抗酸化薬、バッファー、制菌剤、および溶質(組成物を対象とするレシピエントの血液と等張にする)などをさらに含んでよい。組成物には、沈殿防止剤および増粘剤を含む、水性および非水性の滅菌懸濁液が含まれてよい。そのような非経口投与のための組成物は、単位用量または多用量の容器、例えば、密封されたアンプルおよびバイアル中に提示されてよく、さらに、使用直前に滅菌液体担体、例えば、水(注射用)の添加だけを必要とする、フリーズドライした(凍結乾燥した)状態で保存されてよい。即時注射液および懸濁液は、既に記載された種類の滅菌粉末、顆粒、および錠剤から調製されてよい。
【0099】
本発明の方法で使用するための組成物はまた、経皮的に投与されてよく、この際、硫酸化多糖は、長時間レシピエントの表皮と密接に接着したままとなるように適合された積層構造(一般に「パッチ」と呼ばれる)の中に組み込まれる。一般に、そのようなパッチは、単一層の「薬剤含有粘着剤(drug−in−adhesive)」パッチとして、または、活性薬剤が粘着剤層とは別の層に含まれる多層パッチとして利用可能である。両方の種類のパッチはまた、一般に、支持層およびレシピエントの皮膚に付着する前に取り外されるライナーを含む。経皮薬物送達パッチはまた、半透性膜および粘着剤層によりレシピエントの皮膚から隔てられている支持層の底にあるリザーバからも構成されている。経皮薬物送達は、受動拡散によって起こってよく、または電気輸送またはイオン導入法を用いて促進されてよい。
【0100】
直腸送達のための組成物には、直腸坐剤、クリーム、軟膏、および液剤が含まれる。坐剤は、一般に当分野で公知の担体、例えばポリエチレングリコールなどと組み合わせた硫酸化多糖として提示され得る。そのような投薬形態は、急速に、または長時間にわたって崩壊するように設計されてよく、崩壊を完了する時間は、短時間、例えば約10分などから、長時間、例えば約6時間まで変動し得る。
【0101】
局所組成物は、活性薬剤を身体表面に送達するために(経皮に、口内に、および舌下に送達することを含む)適したあらゆる形態であってよく、当分野で容易に公知である。局所組成物の典型的な例としては、軟膏、クリーム、ゲル、ペースト、および溶液が挙げられる。口内の局所投与のための組成物にはトローチ剤も含まれる。
【0102】
ある種の実施形態では、本明細書に開示される化合物および組成物は、医療用具を介して送達することができる。そのような送達は、一般に任意の挿入可能なまたは埋め込み可能な医療用具を介するものであってよく、それには、限定されるものではないが、ステント、カテーテル、バルーンカテーテル、シャント、またはコイルが含まれる。一実施形態では、本発明は、その表面が本明細書に記載される化合物または組成物でコーティングされている医療用具、例えばステントを提供する。本発明の医療用具は、例えば、例えば本明細書に開示されるような疾患または状態を治療する、予防する、またあるいはその経過に影響を及ぼす、あらゆる用途で使用され得る。
【0103】
本発明のもう一つの実施形態では、硫酸化多糖を含む医薬組成物は、間欠的に投与される。治療上有効量の投与は、例えば持続放出組成物を用いることで連続的な方法で達成されてよいし、所望の一日投与量計画に従って、例えば1日に1回、2回、3回、またはそれより多い回数での投与を達成してよい。「中断時間(time period of discontinuance)」は、組成物の連続持続放出または連日投与の中断を意図する。中断時間は、連続持続放出または連日投与の時間よりも長くても短くてもよい。中断時間の間、当該組織における組成物の成分のレベルは、治療の間に得られる最大レベルよりも実質的に低い。中断期間の好ましい長さは、有効量の濃度および用いる組成物の形態によって決まる。中断期間は、少なくとも2日、少なくとも4日または少なくとも1週間であり得る。その他の実施形態では、中断の期間は、少なくとも1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月またはそれ以上である。持続放出組成物を用いる場合、身体における組成物のより長い滞留時間をもたらすために、中断期間は延長されなければならない。あるいは、持続放出組成物の有効量の投与の頻度は、それに応じて減少する可能性がある。本発明の組成物の間欠的な投与スケジュールは、所望の治療効果、および最終的に疾患または障害の治療が達成されるまで継続してよい。
【0104】
組成物の投与は、硫酸化多糖を、1以上のさらなる薬学的に活性な薬剤と組み合わせて投与すること(すなわち同時投与)を含む。したがって、本明細書に記載される薬学的に活性な薬剤は、固定した組合せ(すなわち両方の活性薬剤を含む単一の医薬組成物)で投与され得ると理解される。あるいは、薬学的に活性な薬剤は、同時に投与されてもよい(すなわち、同時に投与される別々の組成物)。もう一つの実施形態では、薬学的に活性な薬剤は順次に投与される(すなわち、1以上の薬学的に活性な薬剤の投与に続いて1以上の薬学的に活性な薬剤の別個の投与)。当業者は、最も好ましい投与方法は、所望の治療効果を可能にする方法であることを理解する。
【0105】
本発明に従う組成物の治療上有効な量の送達は、治療上有効量の組成物の投与によって得ることができる。したがって、一実施形態では、治療上有効な量は、1以上のリガンドによるRAGEの連結を阻害するために効果的な量であり、ある種の実施形態では、該阻害のレベルは、状態の生物学的な負の要素を減少または排除する(例えば状態に関連する症状の重篤度を低下させること、または該症状の排除によるなど)のに十分である。
【0106】
組成物中の硫酸化多糖の濃度は、硫酸化多糖の吸収、不活性化、および排出速度、ならびに当業者に公知のその他の因子によって決まる。投薬量の値も軽減しようとする状態の重篤度に伴って変動することに留意されたい。任意の特定の被験体に関して、具体的な投与計画は、個々の必要性、および、組成物の投与を行っているかまたは監督している人物の専門的な判断に従って時間とともに調節するべきであり、本明細書に示される投薬量の範囲はほんの一例であって、特許請求される組成物の範囲または慣習を制限することを意図しないことは、さらに理解される。有効成分は、一度に投与してもよいし、または様々な時間間隔で投与される、多数のより少ない用量に分割されてもよい。
【0107】
本明細書に記載される1以上の活性薬剤を含む本発明の組成物は、哺乳類、好ましくはヒトに治療上有効な量で投与されることが企図される。本明細書に記載される状態または疾患のいずれかの治療のための化合物または組成物の有効量は、従来の技法を用いて、かつ、同じような状況下で得られた結果を観察することにより、容易に決定することができる。組成物の有効量は、被験体の体重、性別、年齢、および病歴によって変化することが予期される。当然、その他の因子が送達される組成物の有効量に影響を及ぼすこともあり得、それには、限定されるものではないが、関連する具体的な疾患、疾患の関与または重篤度の程度、個々の患者の応答、投与される特定の化合物、投与様式、投与される調製物のバイオアベイラビリティの特徴、選択した用量計画、および併用薬の使用が含まれる。化合物は、望ましくない症状および治療される状態に関係する臨床徴候を軽減するのに十分な時間、優先的に投与される。有効性および投薬量を決定する方法は、当業者に公知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Isselbacher et al.(1996)Harrison’s Principles of Internal Medicine 13ed.,1814−1882を参照のこと。
【0108】
ある種の実施形態では、本発明に従って提供される2−O脱硫酸化ヘパリンは、好ましくは患者の体重1kgあたり約0.1mg〜約100mg/kgの用量を含む。さらなる実施形態では、薬物は、患者の体重あたり約0.2mg/kg〜約90mg/k
g、約0.3mg/kg〜約80mg/kg、約0.4mg/kg〜約70mg/kg、約0.5mg/kg〜約60mg/kg、約0.5mg/kg〜約50mg/kg、約1mg/kg〜約50mg/kg、約2mg/kg〜約50mg/kg、または約3mg/kg〜約25mg/kgの用量を含む。
【0109】
実施例
本発明を、説明のみを意図する以下の実施例においてより詳しく説明する。その多数の変更および変形は当業者に明白である。
【実施例1】
【0110】
非抗凝固性2−O脱硫酸化ヘパリンの製造
部分的に脱硫酸化された2−O脱硫酸化ヘパリン(ODSヘパリン)を、米国特許第5,668,188号;同第5,912,237号;および同第6,489,311号に記載される方法により商業的に実際的な量で製造した。ロットEM3037991から500gmのブタ腸管粘膜ヘパリンナトリウムを10L(リットル)の脱イオン水(最終ヘパリン濃度5重量%)に添加することによりODSヘパリンに対する修飾を行った。水素化ホウ素ナトリウムを添加して1%の終濃度を達成し、混合物を25℃にて一晩インキュベートした。次に、水酸化ナトリウムを添加して0.4Mの終濃度を達成し(13より高いpH)、混合物を凍結乾燥して乾固させた。過剰な水素化ホウ素ナトリウムおよび水酸化ナトリウムを限外濾過により除去した。最終生成物をpH7.0に調整し、3容量の冷エタノールの添加により沈殿させ、その後乾燥させた。この手順により作成した2−O脱硫酸化ヘパリンは、10USP単位/mg未満の抗凝固活性および10抗Xa単位/mg未満の抗凝固活性を有する、微結晶性のわずかに灰白色の粉末であった。このヘパリンの構造を図1に示す。分子量は、690nm(ナノメートル)で動作するminiDAWN検出器(Wyatt Technology Corporation,Santa Barbara,CA)を用いて、多角度レーザー光散乱を併用した高性能サイズ排除クロマトグラフィーにより測定した。出発物質の平均分子量の13.1kDと比較して、ODSヘパリンの平均分子量は11.8kDであった。
【0111】
図2には、親分子およびODSヘパリンの分子量分布の差が提供される。GuoおよびConradの方法により二糖分析を行った(Anal Biochem 1988;178:54−62)。図3Aに示される出発物質と比較して、ODSヘパリンは、ISM[L−イズロン酸(2−硫酸)−2,5−アンヒドロマンニトール]のIM[L−イズロン酸−2,5−アンヒドロマンニトール]への変換と、ISMS[L−イズロン酸(2−硫酸)−2,5アンヒドロマンニトール(6−硫酸)]のIMS L−イズロン酸−2,5−アンヒドロマンニトール(6−硫酸)への変換(いずれも2−O脱硫酸化を示す)を特徴とする、2−O脱硫酸化ヘパリンであった(図3Bに示される)。2−O脱硫酸化の提案される順序を図4に示す。ODSヘパリンは、GMS2[D47グルクロン酸−2,5−アンヒドロマンニトール(3,6−二硫酸)]のGMS[D−グルクロン酸−2,5−アンヒドロマンニトール(6−硫酸)]への変換(3−O脱硫酸化を示す)を特徴とする、3−O脱硫酸化ヘパリンでもあった。
【0112】
この2−O、3−O脱硫酸化ヘパリン(ODSH)がHIT抗体および活性血小板と相互作用する可能性を、HIT−2と臨床的に診断された3名の異なる患者のドナー血小板および血清を用いて、ヘパリン曝露に関連する血小板減少症、ヘパリンの除去による血小板減少症の補正、および血栓症を有するまたは有さない場合の血小板活性化試験陽性を明らかにすることにより調査した。2つの技法を用いて、HIT反応性の血清の存在下、ヘパリンまたは2−O脱硫酸化ヘパリンに応答する血小板の活性化を測定した。
【0113】
第1の技法は、HITに関して最も基準となる臨床検査であると考えられるセロトニン放出アッセイ(SRA)であり、Sheridan D,et al.,Blood 1986;67:27−30に記載されるように実施した。洗浄した血小板に14Cセロトニン(14C−ヒドロキシ−トリプタミン−クレアチン硫酸塩、Amersham)を添加し、次いで抗体源として既知のHIT陽性患者の血清の存在下、様々な濃度の試験ヘパリンまたはヘパリン類似体とともにインキュベートした。活性化の間の血小板からの14Cセロトニン放出として活性化を評価し、14Cセロトニンを液体シンチレーションカウンターを用いて定量した。ヘパリン−PF4−HIT抗体複合体の形成により、血小板の活性化および緩衝培地への同位体放出が起こった。活性化した血小板は、20%以上の同位体放出%として定義される。
【0114】
具体的には、2シリンジ法を用いて、ボランティアドナーから、1部の抗凝固剤対9部の全血という比率でクエン酸ナトリウム(0.109M)に全血を採取した。第1のシリンジ中の最初の全血3ml(ミリリットル)を廃棄した。抗凝固処置された血液を遠心して(80×g(重力)、15分、室温)、血小板に富む血漿(PRP)を得た。PRPを0.1μCuries14C−セロトニン/mlで標識し(45分、37℃)、次いで洗浄し、アルブミンを含まないタイロード液中で再懸濁して、血小板数300,000/μl(マイクロリットル)とした。HIT血清(20μl)を、70μlの血小板懸濁液、および5μlの2−O脱硫酸化ヘパリン(終濃度0、0.78、1.56、3.13、6.25、12.5、25、50および100μg(マイクログラム)/ml)とともにインキュベートした(室温にて1時間)。系対照として、10μlの未分画ヘパリン(UFH;終濃度0.1または0.5U/ml、それぞれ抗血栓または完全抗凝固用量で患者において見出された血漿中の濃度に対応)を、このアッセイにおいて2−O脱硫酸化ヘパリンの代わりとした。EDTAを加えて反応を停止させ、混合物を遠心して血小板をペレット化した。上清中に放出された14Cセロトニンをシンチレーションカウンターで測定した。10%TritonX−100(Sigma Chemicals,St.Louis,MO)を用いる血小板溶解の後に最大放出を測定した。試験は、0.1および0.5U/ml UFH(2−O脱硫酸化ヘパリンを加えない)でセロトニン放出が20%以上である場合、ならびに、100U/ml UFHでセロトニン放出が20%未満である場合に陽性であった。20%以上のセロトニン放出が起こる場合は、試験はHIT抗体と2−O脱硫酸化ヘパリンの交差反応のためであった。
【0115】
第2の技法は、フローサイトメトリーによる血小板分析であった。この機能試験では、全血中の血小板は、HITと臨床的に診断された患者の血清中のヘパリン抗体の存在下、ヘパリンまたはヘパリン類似体により活性化される。フローサイトメトリーを用いて、血小板の活性化を2つの方法:血小板微粒子の形成および血小板表面結合P−セレクチンの増加により決定した。通常、血小板は非活性化状態ではCD62をその表面に発現せず、血小板微粒子はほとんど検出できない。陽性応答は、生理食塩水対照の応答よりも有意に大きいあらゆる応答と定義される。
【0116】
具体的には、ダブルシリンジ法により注意深く採取した全血をヒルジン(終濃度10μg/ml)で抗凝固処置した。全血(50μl)のアリコートを1mlの1%パラホルムアルデヒド(ゲート制御)で直ちに固定した。HIT血清(160μl)および2−O脱硫酸化ヘパリン(50μl;終濃度0、0.78、1.56、3.13、6.25、12.5、25、50および100μg/ml)を全血(290μl)に添加し、インキュベートした(600rpmにて攪拌しながら37℃、15分)。アリコート(50μl)を取り出し、1mlパラホルムアルデヒド中で固定した(30分、4℃)。サンプルを遠心し(350g、10分)、上清のパラホルムアルデヒドを除去した。細胞を、カルシウムを含まないタイロード液中(500μl、pH7.4±0.1)に再懸濁した。150μlの細胞懸濁液を、6.5μlフルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識抗CD61抗体(Becton−Dickinson;San Jose,CA;全ての血小板でGPIIIaに特異的)に添加した。サンプルを暗所でインキュベートした(30分、室温)。飽和濃度を評価する実験に先立ち、全ての抗体をそれらの特異的抗原を発現している細胞に対して容量設定した。サンプルをEPICS(登録商標)XLフローサイトメーター(Beckman−Couter;Hialeah,FL)で、前角(FALS)および側角光散乱について、さらにFITCおよびPE(フィコエリトリン)蛍光について解析した。サンプルを毎日流すよりも前に、既知サイズの蛍光標識ビーズ(Flow−Check;Coulter)を流し、1.0μmビーズが4−ディケード・ログFALS光散乱スケールの第2ディケードの初めに落下するように増幅度を調整することによりサイズ較正を行った。FITCシグナルで設定した閾値弁別器を用いて、抗CD61抗体で標識されていない事象(非血小板)を排除した。
【0117】
ゲート制御サンプルを用いて、単一血小板および血小板微粒子を含むように無定形領域を取り出した。血小板微粒子を、細胞サイズ(FALS)のそれらの特徴的なフローサイトメトリープロフィールおよびFITC蛍光(CD61血小板マーカー)に基づいて血小板と区別した。血小板微粒子は、単一の非凝集血小板集団(<約1μm)よりも小さいCD61陽性事象として定義された。各サンプルに対して20,000の全CD61陽性事象(血小板)を採取した。データは、解析したCD61陽性事象の合計数の割合として報告した。ヘパリン依存性HIT抗体との交差反応性に関する試験において、UFH対照(2−O脱硫酸化ヘパリンを含まない)は、陽性応答を示すはずである(0.1U/mlおよび0.5U/ml UFHの血小板微粒子領域においてCD61陽性事象の割合は増加するが、100U/ml UFHでは増加しない)。血小板微粒子形成の増加が生じるならば、HIT抗体と2−O脱硫酸化ヘパリンの交差反応に対して、試験は陽性であった。
【0118】
HITに関連する血小板活性化による血小板の表面で誘導されるP−セレクチン発現の定量化を以下の通り測定した。P−セレクチン(P−selection)の血小板表面発現を定量化するため、多血小板血漿を採取し、血小板を上記のように標識したが、さらに6.5μlのフィコエリトリン(PE)標識抗体(Becton−Dickinson;活性化血小板で発現したP−セレクチンに特異的)で標識した。ゲート制御サンプルを用いて、FALSおよびCD61−FITC蛍光に基づいて、単一の血小板および血小板微粒子の領域を確立した。PE蛍光(P−セレクチン発現)のヒストグラムをゲート制御して、血小板凝集体を排除した。全ピークを包含するマーカーを設定して、P−セレクチン蛍光の中央値を決定した。結果を、非凝集血小板集団におけるCD62の平均蛍光強度単位(MFI)で報告した。ヘパリン依存性HIT抗体との交差反応性に関する試験では、UFH対照は、0.1U/mlおよび0.5U/ml UFHで陽性応答を示す(P−セレクチン蛍光の中央値が増加する)はずであるが、100U/ml UFHでは示さないはずである。血小板P−セレクチン発現の増加が生じるならば、HIT抗体と2−O脱硫酸化ヘパリンの交差反応性に対して、試験は陽性であった。
【0119】
図5は、未分画ヘパリンが、0.4μg/mlの通常の治療用抗凝固薬濃度で、この系の全放射性標識セロトニンの>80%の放出を誘発することを示している。対照的に、一連の0.78〜100μg/mlの濃度で調査した、2−O脱硫酸化ヘパリン(ODSH)は、実質的な14Cセロトニン放出を誘発できなかった。このことは、この2−O脱硫酸化ヘパリンが、血小板活性化を引き起こす、予め形成されたHIT抗体と相互作用しないことを示す。通常のヘパリンとHIT抗体の相互作用は血小板活性化を引き起こした。ODSHをヘパリンとともにHIT抗体に添加すると、ODSHはヘパリンが血小板活性化を引き起こすことを防いだ。
【0120】
図6は、0.4μg/mlの通常の治療用抗凝固濃度の未分画ヘパリンを、血小板およびHIT抗体陽性血清とともにインキュベートした場合、血小板のおよそ20%の表面で顕著なCD62発現があったことを示す。生理食塩水対照のインキュベーションは、CD62の低発現を特徴とした(血小板の<2%)。対照的に、0.78〜100μg/mlで調査した、2−O脱硫酸化ヘパリンは、生理食塩水対照のインキュベーションで観察されるCD62発現レベルを上回ってCD62発現レベルを増加させなかった。さらに、0.4μg/mlの未分画ヘパリンは実質的な血小板微粒子形成を生じたが、0.78〜100μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンは、生理食塩水対照のインキュベーションの血小板微粒子形成レベル(<5%活性)を上回る血小板微粒子形成レベルを刺激しなかった。
【0121】
分子量が11.8kD、硫酸化の程度が約1.0であるODSヘパリンは、セロトニン放出および血小板微粒子形成アッセイにおいてHIT様血小板活性化応答を誘発すると予測され得る。従って、2−O脱硫酸化ヘパリンが、血小板を活性化するHIT抗体およびPF4と反応せず、HIT症候群を生じるはずがないことは意外であり、先行技術から予測できなかったかまたは明白でなかった。このことは、2−O脱硫酸化ヘパリンは重篤かつ生命を脅かすHIT−2症候群を生じるはずがないため、2−O脱硫酸化ヘパリンが、ヘパリンまたはヘパリン類似体治療を必要とする炎症状態およびその他の状態の治療のために患者に投与するためのより安全な治療用ヘパリン類似体であることを示す。
【0122】
さらに驚くべきことに、2−O脱硫酸化ヘパリンは、HIT抗体および未分画ヘパリンに誘導される血小板活性化を実際に抑制する。これらの改善実験のため、用いた2−O脱硫酸化ヘパリンを実施例3に詳述される商業的工程により製造した。上記の内容をわずかに変更したSRAおよびフローサイトメトリー技法を用いて、2−O脱硫酸化ヘパリンのこの特有の効果を実証した。
【0123】
SRA多血小板血漿を、既に記載したように採取し、調製し、かつ標識した。試験系混合物は、5μlの2−O脱硫酸化ヘパリン(終濃度0、0.78、1.56、3.13、6.25、12.5、25、50および100μg/ml)および5μlの未分画ヘパリン(終濃度0.1または0.5U/mlのいずれか)の両方を組み込んだ。SRAは、UFH応答が2−O脱硫酸化ヘパリンの存在下で阻害された場合、2−O脱硫酸化ヘパリンによる未分画ヘパリン誘発性血小板活性化の改善に対して陽性であった。UFHおよび2−O脱硫酸化ヘパリンの存在下、セロトニン放出<20%は完全な改善と考えられる。
【0124】
フローサイトメトリー分析のため、既に記載したように全血を採取し、調製した。試験系混合物は、25μlの2−O脱硫酸化ヘパリン(終濃度0、0.78、1.56、3.13、6.25、12.5、25、50および100μg/ml)および25μlの未分画ヘパリン(終濃度0.1または0.5U/mlのいずれか)の両方を組み込んだ。2−O脱硫酸化ヘパリンを含まないヘパリンを対照として用いた(終濃度0、0.1、0.5および100U/ml UFH)。あらゆる試験薬剤、例えば2−O脱硫酸化ヘパリンなどは、0.1および0.5U/ml UFHの応答が阻害される場合に、改善に対して陽性であると考えられる。完全な改善は、血小板活性化応答が100U/ml UFH対照(試験薬剤、例えば2−O脱硫酸化ヘパリンが存在しない)の応答と同等である場合に起こった。
【0125】
SRAでは、改善は、3.13μg/mlと同程度に低い2−O脱硫酸化ヘパリン(3−O脱硫酸化もされている)濃度で観察することができた。0.5U/ml UFH系において改善を開始させるためには、0.1U/ml UFH系において必要な濃度と比較して、より高濃度の2−O脱硫酸化ヘパリン(平均して、3.13μg/mlに対して6.25μg/ml)が必要であった。HIT抗体/未分画ヘパリン誘発性血小板活性化の完全な阻止は常に得られたが、2−O脱硫酸化ヘパリンの濃度はHIT抗体の強さによって異なった。図7は、典型的なHIT患者の血清を用いるSRAの改善の結果を示す。大部分の患者血清では、完全な改善(<20%セロトニン放出として定義される)が12.5μg/ml以上の濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンで観察された。4名の異なるHIT患者の血清を用いるSRA阻害の調査において得たデータの複合グラフを、0.1U/ml UFH系(図8)および0.5U/ml UFH系(図9)を用いて示す。改善は6.25μg/mlで開始され、SRA応答の完全な改善は25μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンで達成されたことが示され得る。50μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンの存在下では血小板活性化は観察されなかった。データの一貫性により、エラーバー(平均の標準誤差;SEM)は示していない。
【0126】
HIT抗体/未分画ヘパリンにより誘導される血小板活性化の改善に関する2−O脱硫酸化ヘパリンの、血小板活性化の指標として血小板微粒子形成および細胞表面P−セレクチン発現のフローサイトメトリー分析を用いる評価は、全ての試験系において改善効果を示した(2−O脱硫酸化ヘパリンが存在しない場合の0.1および0.5U/ml UFH応答を用いて得られる応答の阻害として定義される)。血小板微粒子形成に関して、6.25μg/mlと同程度の低い濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンで改善が観察された。0.1U/mlと0.5U/ml UFH系で観察された改善応答に顕著な相違はなかった。平均して、6.25μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンで改善が開始された。血小板活性化の完全な阻止は常に得られたが、2−O脱硫酸化ヘパリンの濃度はHIT抗体の強さによって異なった。図10は、典型的なHIT患者の血清を用いるHIT/未分画ヘパリン誘発性血小板微粒子形成の改善の結果を示す。4名の異なるHIT患者の血清を用いる血小板微粒子形成の阻害の調査において得たデータの複合グラフを、0.1U/ml UFH系(図11)および0.5U/ml UFH系(図12)を用いて示す。完全な改善(血小板活性化応答が、試験薬剤2−O脱硫酸化ヘパリンが存在しない場合の100U/ml UFH対照の応答と同等であると定義される)は、6.25μg/ml以上の濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンから観察された。平均して、50μg/mlの濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンが血小板微粒子形成の完全な緩解を達成するために必要であった。
【0127】
P−セレクチン(CD62)発現に関して、改善は、1.56μg/mlと同程度の低い濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンで観察することができた。0.1U/mlと0.5U/ml UFH系で観察された改善応答に顕著な相違はなかった。平均して、6.25μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンで改善が開始された。血小板活性化の完全な阻止は常に得られたが、2−O脱硫酸化ヘパリンの濃度はHIT抗体の強さによって異なった。図13は、典型的なHIT患者の血清を用いるHIT/未分画ヘパリン誘発性血小板CD62発現の改善の結果を示す。完全な改善は、6.25μg/ml以上の濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンから観察された。平均して、>25μg/mlの濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンが血小板活性化の完全な改善または抑制を達成するために必要であった。4名の異なるHIT患者の血清を用いる血小板CD62発現の阻害の調査において得たデータの複合グラフを、0.1U/ml UFH系(図14)および0.5U/ml UFH系(図15)を用いて示す。改善は6.25μg/mlで開始され、CD62発現により測定される血小板活性化応答の完全な改善は、50μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンで達成された。
【実施例2】
【0128】
血流中のRAGE−リガンド阻害濃度を実現するための2−O脱硫酸化ヘパリンの静脈注射
2−O脱硫酸化ヘパリンのレベルがインビボでRAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達を抑制するために十分な濃度に達するかどうかを判定するため、3群のビーグル犬(各群n=4)に実施例3のように製造した2−O脱硫酸化ヘパリン(ODSH)を注射した。注射は、0mg/kg(生理食塩水対照、群1)、4mg/kg(群2)、12mg/kg(群3)および24mg/kg(群4)の用量で2分間かけて行った。注射は毎日4回、10日間行った。一日に投与した総ODSH用量は、0mg/kg、16mg/kg、48mg/kgおよび96mg/kgであった。調査の1日目、2日目、4日目、6日目および8日目に、その当日の1回目の注射の15分後および6時間後に全血を採取した。また、最後のODSH注射の後、15分、1時間、2時間、4時間、6時間および8時間の時点でもサンプルを採取した。全てのサンプルは、抗凝固薬としてクエン酸ナトリウムを含有するバキュテナー管に収集した。
【0129】
ODSHの濃度は、生体液中の硫酸化多糖の測定のために開発された電位差測定法により測定した(Ramamurthy N,et al.,Anal Biochem 1999;266:116−124を参照のこと)。円筒型のポリカチオン感応電極を、既に記載したように調製した(Ramamurthy N,et al.,Clin Chem 1998;44:606−661を参照のこと)。1%(w/w)ジノイルナフタレン(dinoylnaphthalene)スルホン酸、49.5%(w/w)ニトロフェニルオクチルエーテル、および49.5%(w/w)ポリウレタンM48の組成物を含むカクテルを、蒸留(THF)テトラヒドロフラン(200mg/ml)に成分を溶解することにより調製する。得られる溶液を、1インチ片のタイゴンチューブ(内径=1.3〜1.5mm)から少し突き出した、密封したガラス毛細管の丸くなった先端に浸漬被覆した。その溶液を15分間隔で12回浸漬被覆した後、センサー本体をドラフトチャンバーで一晩乾燥させた。使用当日、そのセンサー本体をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)に少なくとも1時間浸漬し、ガラス毛細管を慎重に取り出した。次に、センサー本体にPBSを充填し、Ag/AgClワイヤを挿入して、センサーを完成させた。センサーは1度使用し、その後廃棄した。2つのセンサーとAg/AgCl基準ワイヤを、Mac IIcxコンピュータのNB−MIOアナログ/デジタル入力/出力ボード(National Instruments)とインターフェースで接続されたVF−4増幅器モジュール(World Precision Instruments)に接続した。データは3秒間隔でサンプリングし、Lab View 2.0ソフトウェアを用いて記録した。PBS中の1mg/ml硫酸プロタミン(クルペイン型、Sigma)の滴定薬溶液を調製し、滴定薬をシリンジポンプ(Bioanalytical Systems)を介して連続的に送達した。滴定終了点を、Kolthoff法を用いてコンピュータ計算し(Sergeant EP,Chemical Analysis,Kolthoff IM,Elwing PJ,eds.69:362−364,1985を参照のこと)、その後、較正曲線の終点に達するために必要なプロタミン濃度に相当する減算補正係数を適用した。
【0130】
図16は、3つの用量群と対照に関する、決まった時刻の採取間隔での血漿中のODSH濃度を示す。様々な時点での平均濃度を表1に示す。
【0131】
【表1】
【0132】
WinNonlinバージョン4.1を用いてコンパートメントモデリングを行った。表2および3は、それぞれ、各群に関する薬物動態パラメータAUC(曲線下面積)、K10−HL(最終半減期)、Cmax(最高血中濃度)、CL(クリアランス)、AUMC(1次モーメント曲線下面積)、MRT(平均滞留時間)、およびVss(定常状態での分布容積)を示す。
【0133】
【表2】
【0134】
【表3】
【0135】
RAGE−リガンド相互作用を阻害し、あらゆる局面のHIT血小板活性化を改善させシグナル伝達する2−O脱硫酸化ヘパリンのレベルは、4mg/kg(16mg/kg/日)以上の注射用量で達成された。毎時の負荷量のおよそ5分の1の負荷および注入速度をもって、定常状態レベルはあらゆる場合で成し遂げられる可能性が高い。
【実施例3】
【0136】
非抗凝固性であり、かつ、ヒト白血球エラスターゼ抑制性である2−O脱硫酸化ヘパリンの製造
USPブタ腸ヘパリンを、商業的ベンダー[Scientific Protein Laboratories(SPL),Wanaukee,WI]より購入した。それを室温にて(20±5℃)溶解させて脱イオン水中5%(重量/容積)溶液を作成した。還元段階として、1%(重量/容積)水素化ホウ素ナトリウムを添加し、2時間かき混ぜた。次に、溶液を室温にて15時間放置した。次に、50%水酸化ナトリウムを添加することにより溶液のpHを13より高いアルカリ性にした。アルカリ性となった溶液を2〜3時間かき混ぜた。このアルカリ性溶液を、次に、市販の凍結乾燥機のトレイに入れ、−40℃まで冷却して凍結させた。凍結乾燥機に真空を適用し、凍結した溶液を凍結乾燥して乾固させた。凍結乾燥した生成物を冷(<10℃)水に溶かして5%溶液を達成した。塩酸を攪拌しながらゆっくり添加してpHを約6.0に調整し、溶液温度を<15℃に維持するよう気をつけた。次に、溶液を少なくとも10容積の水で透析するか、または限外濾過に付して過剰な塩および還元剤を除去した。透析した溶液に、2%塩化ナトリウム(重量/容積)の量を添加した。次に、1容積のハイソール(変性エタノール)を用いて2−O脱硫酸化ヘパリン生成物を沈殿させた。
【0137】
沈殿を約16時間静置した後、上清を吸い上げた。沈殿物を水中に再び溶解して10%(重量/容積)溶液とした。塩酸または水酸化ナトリウムを用いてpHを5〜6に調整し、溶液を0.2μmフィルターカプセルを通して洗浄容器に濾過する。次に、濾過した溶液を凍結乾固させた。この方法により作成される、得られた生成物の収量は最大1.5kgであった。
【0138】
最終生成物は、pHが6.4、USP抗凝固活性が約6U/mgかつ抗Xa抗凝固活性が1.9U/mgの2−O脱硫酸化ヘパリンであった。該生成物は微生物およびエンドトキシン汚染がなく、ICP−AESにより測定されるホウ素含量は<5ppmであった。このようにして製造されたこの2−O脱硫酸化ヘパリンを、ラットおよびイヌにおいて160mg/kg(動物重量)程度の高い用量で毎日最大10日間試験したが、実質的な毒性はなかった。
【0139】
得られた2−O脱硫酸化ヘパリンは、ヒト白血球エラスターゼの酵素活性を阻害するために有用であった。これは、米国特許第5,668,188号;同第5,912,237号;および同第6,489,311号に詳述される方法により試験された。ヒト白血球エラスターゼ(HLE)の阻害を、一定量のHLE(100pmol)を等モル量の2−O脱硫酸化ヘパリンとともに(I/E比1:1)、最終容積900μLに希釈した500μLのHepesバッファー(0.125M、0.125% Triton X−100、pH7.5)中で25℃にて30分間インキュベートすることにより測定した。残った酵素活性を、100μLの3mM N−Suc−Ala−Ala−Val−ニトロアナリド(nitroanalide)(Sigma Chemical,St.Louis,MO、ジメチルスルホキシド中で作成)を添加することにより測定した。タンパク質分解により放出される色素原4−ニトロアンリン(nitroanline)の吸光度の変化の速度を405nm(ナノメートル)にてモニターした。阻害率を、阻害剤を含まない酵素活性に基づいて計算した。上記の方法により製造された2−O脱硫酸化ヘパリンは、1:1の酵素対阻害剤のモル比で90%を上回るHLEを阻害した。
【0140】
大量の生成物は、50mg/mlの便宜的な単位用量バイアルに処方した。これは、2−O脱硫酸化ヘパリンをUSP注射用滅菌水に添加して6.5%(重量/重量)溶液を作成することにより達成された。塩化ナトリウムおよび注射用滅菌水を添加して最終重量モル浸透圧濃度を280〜300mOsmに調整し、必要に応じて1N塩酸または水酸化ナトリウムを用いてpHを7.1〜7.3に調整した。溶液を濾過し、無菌充填クラス100の区域に移し、そこで単位用量のガラスバイアル各々に21mlの溶液を充填し、密封し、圧着し、ラベルを貼った。
【実施例4】
【0141】
2−O脱硫酸化ヘパリンおよびその他の硫酸化多糖による、ヒトU937単球と固定化されたRAGEの結合の減少
ヒト単球細胞系U937と固定化されたRAGEの結合を用いて、ヘパリン、低分子量ヘパラン硫酸および低抗凝固活性を有するヘパリンの修飾体の、RAGEとそのリガンドとの相互作用への効果を調べた。U937細胞はMac−1(CD11b/CD18)インテグリンをRAGEに対するカウンターリガンドとして利用する(Chavakis T,同書)。固定化されたヒトRAGEに対するU937細胞の混乱(Disruption)は、そのために特異的なRAGE−リガンド相互作用のモデルとして役立ち得る。
【0142】
高結合性96ウェルマイクロタイタープレートを、0.2M炭酸−重炭酸バッファー中の8μg/mlプロテインA、pH9.4(100μl/ウェル)でコーティングした。プレートを、1%ウシ血清アルブミンを含有するPBS(PBS−BSA)で洗浄した。次に、Fc免疫グロブリン鎖(R&D Systems,Minneapolis,MN)と共役したヒトRAGEから構成されるキメラ(20μg/ml)を含有する50μlのPBSで各ウェルをコーティングし、プレートを4℃にて一晩インキュベートしてRAGE−Fcを付着させた。そのような方法で構築されたキメラは、Fcがプレートに結合するように指向し、RAGEは各ウェル内でバッファーへ最もよく(superior−most)指向した。
【0143】
インキュベーションに続いて、ウェルをPBS−BSAで2回洗浄し、カルシウム、マグネシウムおよびヘパリン、ヘパラン硫酸または修飾されたヘパリンの段階希釈(0〜1000μg/ml)を含有する50μlのPBS−BSAをそれぞれのウェルに加えた。選択された一組のウェルに、50μlの10mM EDTAを陰性対照として加えた。ウェルを室温にて15分間インキュベートした。その後、50μlのカルセイン標識U937細胞(105細胞/ウェル)を、ヘパリン、ヘパラン硫酸、または修飾されたヘパリンを含有するウェルに加え、さらに30分室温にてウェルをインキュベートした。次に、ウェルをPBSで3回洗浄した。結合した細胞をTris−TritonX−100バッファーに溶解し、494nmの励起および517nmの放出を用いて各ウェルの蛍光を測定した。相対蛍光単位(RFU)を、グリコサミノグリカンの濃度に対して片対数目盛でプロットした。結果を図17から図24に示す。各グリコサミノグリカンのRAGE−リガンド結合に対する50%阻害濃度(IC50)を下の表4に示す。
【0144】
【表4】
【0145】
RAGEに結合するU937細胞の最も強力な阻害剤は、3−O脱硫酸化もされている2−O脱硫酸化ヘパリン(ODSH)であった。2−O脱硫酸化ヘパリンは、たった0.09μg/mlのIC50濃度でRAGE−リガンド相互作用を阻害した。2−O脱硫酸化ヘパリンは、RAGE−リガンド相互作用の阻害剤として完全抗凝固性低分子量ヘパリン(IC50=0.481μg/ml)よりもより一層強力(5倍を超えて強力)であった。2−O脱硫酸化ヘパリンは、完全に硫酸化した未分画ヘパリン(IC50=0.107μg/ml)よりもさらにより強力なRAGE−リガンド相互作用の阻害剤であった。2−O脱硫酸化ヘパリンが同等の(even)ヘパリンよりも一層強力であったことは、完全O−脱硫酸化ヘパリン(IC50=14.75μg/ml)が、RAGE−リガンド相互作用の阻害剤として実質的に活性を低下させたことを実証したという事実を考慮に入れると、驚くべきことである。RAGE−リガンド相互作用の阻害剤として2−O脱硫酸化ヘパリンを使用することは、安全の点から考えると臨床上有利である。未分画および低分子量ヘパリンは完全な抗凝固活性を有し、そのために出血という有害かつ望ましくないリスクを伴い得るが、2−O脱硫酸化ヘパリンは低抗凝固活性を有するので、臨床療法として用いた場合に有害な出血のリスクが実質的に低い。未分画ヘパリン、その他の脱硫酸化もしくはカルボキシル還元ヘパリン誘導体、ヘパラン硫酸または同等の(even)低分子量ヘパリンとは違って、2−O脱硫酸化ヘパリンは、グリコサミノグリカンを用いるヒト治療の、稀であるが致死性となり得る臨床的合併症であるヘパリン誘発性血小板減少症を生じる活性も持っていない。従って、2−O脱硫酸化ヘパリンおよび2−O脱硫酸化低分子量ヘパリンおよび五糖は、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の阻害のための臨床における薬物療法として優れた安全性および有効性を提供する。
【実施例5】
【0146】
2−O脱硫酸化ヘパリンによる、AMJ2C−11肺胞マクロファージと固定化されたRAGEの結合の低下
マウス肺胞マクロファージ細胞系AMJ2C−11と固定化されたRAGEの結合を用いて、2−O脱硫酸化ヘパリンの、RAGEとそのリガンドとの相互作用への効果を調査した。AMJ2C−11細胞も、Mac−1(CD11b/CD18)インテグリンをRAGEに対するカウンターリガンドとして利用する。固定化されたヒトRAGEに対するAMJ2C−11細胞の混乱も、そのために特異的なRAGE−リガンド相互作用のモデルとして役立ち得る。
【0147】
高結合性96ウェルマイクロタイタープレートを、0.2M炭酸−重炭酸バッファー中の8μg/mlプロテインA、pH9.4(100μl/ウェル)でコーティングした。プレートを、1%ウシ血清アルブミンを含有するPBS(PBS−BSA)で洗浄した。次に、Fc免疫グロブリン鎖(R&D Systems,Minneapolis,MN)と共役したヒトRAGEから構成されるキメラ(20μg/ml)を含有する50μlのPBSで各ウェルをコーティングし、プレートを4℃にて一晩インキュベートしてRAGE−Fcを付着させた。そのような方法で構築されたキメラは、Fcがプレートに結合するように指向し、RAGEは各ウェル内でバッファーへ最もよく(superior−most)指向した。
【0148】
インキュベーションに続いて、ウェルをPBS−BSAで2回洗浄し、カルシウム、マグネシウムおよび2−O脱硫酸化ヘパリンの段階希釈(0〜1000μg/ml)を含有する50μlのPBS−BSAをそれぞれのウェルに加えた。選択された一組のウェルに、50μlの10mM EDTAを陰性対照として加えた。ウェルを室温にて15分間インキュベートした。その後、50μlのカルセイン標識AMJ2C−11細胞(105細胞/ウェル)を、2−O脱硫酸化ヘパリンを含有するウェルに加え、さらに30分室温にてウェルをインキュベートした。次に、ウェルをPBSで3回洗浄した。結合した細胞をTris−TritonX−100バッファーに溶解し、494nmの励起および517nmの放出を用いて各ウェルの蛍光を測定した。相対蛍光単位(RFU)を、グリコサミノグリカンの濃度に対して片対数目盛でプロットした。結果を図25に示す。2−O脱硫酸化ヘパリンのRAGE−リガンド結合に対する50%阻害濃度(IC50)を図25に0.45μg/mlと示す。
【0149】
肺胞マクロファージを伴うRAGE−リガンド相互作用の阻害剤として2−O脱硫酸化ヘパリンを使用することは、安全の点から考えると臨床上有利である。未分画および低分子量ヘパリンは完全な抗凝固活性を有し、そのために出血という有害かつ望ましくないリスクを伴い得るが、2−O脱硫酸化ヘパリンは低抗凝固活性を有するので、臨床療法として用いた場合に有害な出血のリスクが実質的に低い。未分画ヘパリン、その他の脱硫酸化もしくはカルボキシル還元ヘパリン誘導体、ヘパラン硫酸または同等の(even)低分子量ヘパリンとは違って、2−O脱硫酸化ヘパリンは、グリコサミノグリカンを用いるヒト治療の、稀であるが致死性となり得る臨床的合併症であるヘパリン誘発性血小板減少症を生じる活性も持っていない。従って、2−O脱硫酸化ヘパリンおよび2−O脱硫酸化低分子量ヘパリンおよび五糖は、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の阻害のための臨床における薬物療法として優れた安全性および有効性を提供する。
【実施例6】
【0150】
2−O脱硫酸化ヘパリンによる、RAGEリガンドと固定化されたRAGEの結合の減少
固相結合アッセイを用いて2−O脱硫酸化ヘパリンがRAGEとそのリガンドの結合を阻害する能力を調査した。ヘパリン類似物質のRAGEとそのリガンドの結合への影響の調査のため、ポリビニル製96ウェルプレートを5μg/ウェルの特異的リガンド(CML−BSA、HMGB−1またはS100bカルグラニュリン)でコーティングした。プレートを4℃にて一晩インキュベートし、PBS−0.05% Tween−20(PBST)で3回洗浄した。別々に、RAGE−Fcキメラ(PBST−0.1%BSA中に0.5μg/mlを含む100μL)を、等しい容積の段階的に希釈したODSH(PBST−BSA中0.001〜1,000μg/ml)とともに4℃にて一晩インキュベートした。翌日、50μLのRAGE−ODSH混合物を各々のそれぞれリガンドでコーティングしたウェルに移し、37℃にて2時間インキュベートした。次に、ウェルをPBSTで4回洗浄した。結合したRAGEを検出するため、50μLの抗RAGE抗体(0.5μg/ml)を各ウェルに添加し、混合物を室温にて1時間インキュベートし、ウェルを再びPBSTで4回洗浄した。西洋ワサビペルオキシダーゼ共役二次抗体(ウェルあたり50μL)を添加し、ウェルを室温にて1時間インキュベートし、次いでPBSTで1回洗浄した。比色分析反応を50μLのTMBの添加により開始させ、15分後に50μLの1N HClを添加して終了させた。マイクロプレート用自動吸光度計を用いて450nmでの吸光度を読み取った。
【0151】
2−O脱硫酸化ヘパリンは、AGE生成物カルボキシメチル−リジン−BSA(図26、IC50=8.6μg/ml)との、S100bカルグラニュリンとの(図27、IC50=4.2μg/ml)およびHMGB−1もしくはアンフォテリンとの(図28、IC50=2.5μg/ml)RAGEの相互作用を効果的に阻害した。このことは、この非抗凝固性ヘパリン誘導体が、この非常に重要な炎症促進性受容体を標的とする全範囲のリガンドとのRAGEの相互作用を阻止することを示す。
【0152】
2−O脱硫酸化ヘパリンを、AGE生成物、S100カルグラニュリンまたはHMGB−1というリガンドとのRAGEの相互作用の阻害剤として使用することは、安全の点から考えると臨床上有利である。未分画および低分子量ヘパリンは完全な抗凝固活性を有し、そのために出血という有害かつ望ましくないリスクを伴い得るが、2−O脱硫酸化ヘパリンは低抗凝固活性を有するので、臨床療法として用いた場合に有害な出血のリスクが実質的に低い。未分画ヘパリン、その他の脱硫酸化もしくはカルボキシル還元ヘパリン誘導体、ヘパラン硫酸または同等の(even)低分子量ヘパリンとは違って、2−O脱硫酸化ヘパリンは、グリコサミノグリカンを用いるヒト治療の、稀であるが致死性となり得る臨床的合併症であるヘパリン誘発性血小板減少症を生じる活性も持っていない。従って、2−O脱硫酸化ヘパリンおよび2−O脱硫酸化低分子量ヘパリンおよび五糖は、RAGE−リガンド相互作用およびシグナル伝達の阻害のための臨床における薬物療法として優れた安全性および有効性を提供する。
【0153】
本明細書において示される本発明の多くの修飾およびその他の実施形態は、前述の説明に提示される教示の利益を受ける、これらの発明に関する分野の当業者に思い浮かぶものである。そのため、本発明が開示される具体的な実施形態に限定されるものではなく、修飾およびその他の実施形態が添付される特許請求の範囲内に含められるものであることは当然理解される。本明細書において具体的な用語が用いられているが、それらは一般的な説明の意味でのみ用いられているものであり、限定のためではない。特に断りのない限り、全ての部および割合は重量によるものであり、全ての温度は摂氏温度で表される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
終末糖化産物受容体を2−O脱硫酸化ヘパリンに接触させることを含む、リガンドと終末糖化産物受容体との相互作用またはシグナル伝達を阻害する方法。
【請求項2】
前記受容体を2−O、3−O脱硫酸化ヘパリンに接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リガンドが、終末糖化産物、アルツハイマー病βペプチド、アミロイドタンパク質、S100カルグラニュリン、HMGB−1、およびMac−1インテグリンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
RAGEを2−O脱硫酸化ヘパリンに接触させることによりAGEとRAGEの相互作用またはシグナル伝達を阻害することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
RAGEを2−O脱硫酸化ヘパリンに接触させることによりS100カルグラニュリンとRAGEの相互作用またはシグナル伝達を阻害することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
RAGEを2−O脱硫酸化ヘパリンに接触させることによりHMGB−1とRAGEの相互作用またはシグナル伝達を阻害することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
RAGEを2−O脱硫酸化ヘパリンに接触させることによりMac−1インテグリンとRAGEの相互作用またはシグナル伝達を阻害することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
リガンドによる前記受容体の連結を阻害するために有効な量で被験体に2−O脱硫酸化ヘパリンを投与することを含む、終末糖化産物受容体(RAGE)の連結により媒介される疾患を有する被験体を治療する方法。
【請求項9】
被験体に2−O、3−O脱硫酸化ヘパリンを投与することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記疾患が、糖尿病、炎症、腎不全、老化、全身性アミロイドーシス、アルツハイマー病、炎症性関節炎、アテローム性動脈硬化症、大腸炎、歯周病、乾癬、アトピー性皮膚炎、酒さ、多発性硬化症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、皮膚の光老化、加齢性黄斑変性、および急性肺傷害からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記リガンドが、終末糖化産物(AGE)、アルツハイマー病βペプチド、アミロイドタンパク質、S100カルグラニュリン、HMGB−1(アンフォテリン)、およびMac−1インテグリンからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記状態が、p21ras、ERK1/2MAPキナーゼ、JNKキナーゼ、rho GTPアーゼ、ホスホイノシトール−3キナーゼ、JAK/STAT経路、NF−KB、CREB、TNF−α、IL−1、IL−6、IL−8、GMCSF、iNOS、ICAM−1、E−セレクチン、VCAM−1、およびVEGFからなる群から選択される1または複数の酵素または経路の活性化または発現により特徴づけられる、請求項8に記載の方法。
【請求項1】
終末糖化産物受容体を2−O脱硫酸化ヘパリンに接触させることを含む、リガンドと終末糖化産物受容体との相互作用またはシグナル伝達を阻害する方法。
【請求項2】
前記受容体を2−O、3−O脱硫酸化ヘパリンに接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リガンドが、終末糖化産物、アルツハイマー病βペプチド、アミロイドタンパク質、S100カルグラニュリン、HMGB−1、およびMac−1インテグリンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
RAGEを2−O脱硫酸化ヘパリンに接触させることによりAGEとRAGEの相互作用またはシグナル伝達を阻害することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
RAGEを2−O脱硫酸化ヘパリンに接触させることによりS100カルグラニュリンとRAGEの相互作用またはシグナル伝達を阻害することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
RAGEを2−O脱硫酸化ヘパリンに接触させることによりHMGB−1とRAGEの相互作用またはシグナル伝達を阻害することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
RAGEを2−O脱硫酸化ヘパリンに接触させることによりMac−1インテグリンとRAGEの相互作用またはシグナル伝達を阻害することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
リガンドによる前記受容体の連結を阻害するために有効な量で被験体に2−O脱硫酸化ヘパリンを投与することを含む、終末糖化産物受容体(RAGE)の連結により媒介される疾患を有する被験体を治療する方法。
【請求項9】
被験体に2−O、3−O脱硫酸化ヘパリンを投与することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記疾患が、糖尿病、炎症、腎不全、老化、全身性アミロイドーシス、アルツハイマー病、炎症性関節炎、アテローム性動脈硬化症、大腸炎、歯周病、乾癬、アトピー性皮膚炎、酒さ、多発性硬化症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、皮膚の光老化、加齢性黄斑変性、および急性肺傷害からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記リガンドが、終末糖化産物(AGE)、アルツハイマー病βペプチド、アミロイドタンパク質、S100カルグラニュリン、HMGB−1(アンフォテリン)、およびMac−1インテグリンからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記状態が、p21ras、ERK1/2MAPキナーゼ、JNKキナーゼ、rho GTPアーゼ、ホスホイノシトール−3キナーゼ、JAK/STAT経路、NF−KB、CREB、TNF−α、IL−1、IL−6、IL−8、GMCSF、iNOS、ICAM−1、E−セレクチン、VCAM−1、およびVEGFからなる群から選択される1または複数の酵素または経路の活性化または発現により特徴づけられる、請求項8に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公表番号】特表2010−534672(P2010−534672A)
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518347(P2010−518347)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【国際出願番号】PCT/US2008/070836
【国際公開番号】WO2009/015183
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(506051429)ユニバーシティ オブ ユタ リサーチ ファウンデーション (25)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【国際出願番号】PCT/US2008/070836
【国際公開番号】WO2009/015183
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(506051429)ユニバーシティ オブ ユタ リサーチ ファウンデーション (25)
【Fターム(参考)】
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