説明

組み換え中活性熱安定性タンパク質ならびにその設計および生合成のプロセス

本発明は、ベータシートに基づくタンパク質構造の表面の一部または全体の、とりわけ酵素に重点を置いた改変についての研究に関する。構造改変は、基質/リガンド結合および触媒作用に関与する表面の領域のみを改変するためにベータシートの構造的特徴を利用することによって1つのタンパク質の表面の一部または全部を、重ね合せ可能なポリペプチド主鎖の相同タンパク質の表面上に置き換えること(supplanting)/移植することによって行われる。本発明はまた、最適機能pHおよび温度の中活性機能特徴を備えた熱安定性タンパク質を生成するための、中温菌ホモログの活性表面が移植される好熱菌酵素の熱安定性足場の大半を保持する新規なタンパク質の生成などの、自然の進化によっては通常組み合わされない生物の異なるドメインからの酵素/タンパク質の特徴を選択的に組み合せるための本表面操作方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好熱菌タンパク質の構造安定性特徴および中温菌タンパク質の活性特徴を含む組み換え中活性熱安定性タンパク質ならびにその設計および生合成工程を提供し、組み換え中活性熱安定性タンパク質では好熱菌タンパク質の基質結合および触媒活性表面を備えた主に非隣接のアミノ酸のセットが、構造的に相同の中温菌タンパク質において構造的に同等の位置に発生する別の非隣接のアミノ酸のセットによって置換されている。
【0002】
さらに詳細には、本発明は、タンパク質分子表面の1つ(または複数)の部分の理論的残基置換に基づく改変、すなわち「概念上の移植」を介した、構造安定性、および物理的活性の点で明確に異なる特徴を有するが、同じ化学的特徴を有する別の、独立して進化した構造的に相同なタンパク質中に1つ(または複数)の機能的に同等な表面を備えた残基のセットによる、タンパク質分子の機能的挙動の計画的改変のための一般に適用可能な手法について記載する。相同タンパク質内の同等の位置で使用された残基による、改変されるタンパク質における多くの各種の非隣接配置残基の理論的な置換は、他の(相同)タンパク質の活性特徴(たとえば最適活性の温度)ではなく、同じタンパク質の未改変形の元の構造安定性特徴を備えた三次元構造への改変タンパク質の折り畳みを意図的にもたらす。このことは、各種の生物形、および各種の生物ドメインを源とする酵素の所望の特徴を併せ持つ酵素の生成を促進する。
【背景技術】
【0003】
タンパク質配列−構造の関係:一般的な知識:タンパク質は、ペプチド結合により共に結合されたアミノ酸の天然ポリマーであり、合成時にある生物活性を有する三次元構造へ折り畳まれる。タンパク質の三次元構造は、そのアミノ酸配列によって指示される(Anfinsen,1973.Science 181,223)。アミノ酸配列は、タンパク質鎖による三次元構造の形成の指示に必要なすべての関連情報を含有する。タンパク質配列の変化は、進化の間の自然な変異導入を通じて、または遺伝子工学技法によって行われ、タンパク質構造に変化をもたらす。このような変化は小規模か、あるいは広範囲に及ぶ場合もある。変化が小さい場合、変化は一般にタンパク質の特定の領域の微細構造にごくわずかな改変を含み、改変された残基の付近で(タンパク質中に埋没しているか、またはその表面に位置しているかのどちらかである)局所的な残基のクラスタの形状の変化として現れ、タンパク質の全体的な形状または機能、あるいはそのペプチド主鎖がその三次元構造を通じて得る軌道のどちらかに重大なまたは目に見える影響を一切伴わない。しかし変化が広範囲に及ぶ場合、それらはタンパク質の形状全体はもちろんのこと、タンパク質の構造を通じて主鎖が取る軌道も改変させる。時には、変異によって引き起こされた広範囲に及ぶ変化は、鎖が特定の三次元構造へ安定して折り畳まれる(凝集、および沈殿を生じさせる)能力さえ失わせることがある。タンパク質構造に対する変異の影響は、必ずしもその配列になされた変化と関連付けられるわけではなく、またはその変化で較正できるわけではない。非常に限定された変化の影響は今日、コンピュータによってモデル化することができるが、これらの変化の影響を判定することに関与するすべてのパラメータはもちろんのこと、物理的な力がまだモデル化できないため、配列変化の影響の実験的探求はすべての例において不可欠になっている(これらの変化が小規模か、または広範囲であるかにかかわらず)。今日非常によく知られていることは、配列の重大および微妙な改変の両方が、予測性に反する方法での構造の重大または微妙な改変のどちらかをもたらす可能性があるということである。
【0004】
それゆえ進化的に関連していない2つの別の生物からの2つのタンパク質は場合により
、たとえその2つのタンパク質が類似性のない、全く異なるアミノ酸配列を有するとしても、その全体的な形状および折り畳み構造がほぼ同一であるペプチド主鎖(アミノ酸残基側鎖ではないが)を有するように思われる。しかしこれは例外で、慣例を超えている;一般に、同様の大きさのタンパク質は、それらが多少類似しているアミノ酸配列を有する場合(すべての残基の少なくとも20%の同一性を含む)、実質的に類似した主鎖構造を採る傾向があるのみである。しかしこのようなタンパク質の外形の特徴は全く異なっており、このことはタンパク質に特有な相互作用残基(側鎖)の特定の群による、その特定のアミノ酸配列によって決定された方式での各タンパク質の主鎖の特異的な「装飾」が原因となっている。主鎖構造の保存はそれゆえ、機能の広範な保存と相関している;機能性の精密な熱力学的および動力学的パラメータは、タンパク質表面に存在する側鎖によって決定される、タンパク質の外形の特徴によってほぼ完全に支配される。
【0005】
これまでの記載事項を要約すると、アミノ酸配列とタンパク質構造との間の正確な関係はきわめて希薄である;この関係の側面すべてが未だに理解または認識されているわけではなく、必要な実験を行わずに、または特定の構造上の状況への参照なしに、構造内またはタンパク質構造に特定の変化を加えることの影響を予測することはなお不可能である。この点で、そして配列変化を通じてのいずれかのタンパク質の表面の再操作に特に関連して、折り畳みおよび安定性の考慮事項は、タンパク質表面の全部または一部の操作がその構造形成能力、およびその構造安定性に影響する限り、重要な役割を果たす。一般に、タンパク質を、その表面に対してであろうとその内面に対してであろうと、操作することを目指して2つの異なる手法を採ることができ、これらは:(i)構造機能解析、および特異的変異の計画的導入に基づく理論的な操作手法と、(ii)遺伝子シャッフリング、またはランダムに産生された変種の集合を提示するファージのスクリーニングと、続いての結合形質に基づく選択などのランダム工程により依存する、非合理的(組み合せ論に基づくおよび定方向進化に基づく)手法である。タンパク質操作の分野では、理論的手法が採用された最初の手法であった。しかし行われた変化の影響の予測不能性のために、それは満足なものでないことが判明した。次に新たに利用可能な組換えDNA技法は、組み合せベース(コンビナトリアル)手法も実行可能にした。理論的手法の満足のいかない結果は最初にコンビナトリアル手法への切替をもたらした。しかし最終的に、完全ランダム手法によっておそらく行われうる配列変化(残基n個の鎖では20の変化)の著しく少ない部分さえ研究するのが実行不可能であることが、両方の手法の最良のものを組み合せようと試みるハイブリッド手法の採用をもたらした。これらのハイブリッド手法は、変化を受けるタンパク質中の残基または構造部位の理論的選択、およびこのような部位において変異をもたらすことの影響の非理論的(コンビナトリアルサーチベースの)研究を含む。以下で本発明者は、先の研究者らが理論的、非理論的またはハイブリッド手法をどのように採用してきたかを少し論じ、これら従来の手法と、我々が本発明で採用したアプローチとの区別を容易にする。
【0006】
純粋な理論的タンパク質操作の例:Rutterと共同研究者らは、トリプシンの活性部位内の2つの位置に部位特異的変異を導入して(その活性部位の構造解析後に)、触媒反応速度を低下させたが、その天然基質に対する酵素の基質特異性を向上させた(Craik et al.,1985.Science 228,291−297)。多くの他のグループが続いて、タンパク質構造の理論的に解析に基づいて制限された変異を導入し、改変された速度および/または親和性特徴を備えた変種を作製した。Estellと共同研究者らは、別のプロテアーゼであるサブチリシンを酵素の活性部位付近の静電気に関して操作して、その静電特徴が異なる基質の結合に対する優先度を改変した(Wells
et al.,1987.Proc.natl.Acad.Sci.USA 84,1219−1223)。Perhamと共同研究者らはグルタチオンレダクターゼにおいて理論的変異を行い、その基質特異性は未改変のままにしたのに対して、その補酵素特異性をNADPからNADへ変化させた(Scrutton et al.,199
0.nature 343,38−43)。90年代の10年の間に続くこのような研究のいくつかの例では、そのすべてにおいて制限された合理的に選択された変異が導入されて、活性部位付近でのタンパク質−リガンド相互作用に関する酵素活性が改変された。続いて後述する、より大胆な操作の試みが行われてきた。Benkovicと共同研究者は、核移行因子2の構造的に相同のタンパク質骨格を使用して、シタロンデヒドラターゼ様酵素をうまく設計して、骨格タンパク質の主要部分を再設計することによって新たな実体の開発での理論的操作手法の有効性を証明した(Nixon et al.,1999.Proctnatl Acad Sci.96,3568−3571)。同様に、Hellingaと共同研究者らは、リボース結合タンパク質の構造を解析して、トリオースリン酸イソメラーゼ(TIM)活性を本タンパク質に付与することが期待された18〜22個の部位特異的変異のための部位を理論的に選択して、これがその場合に当てはまることを実験的に証明した(Dwyer et al.,2004.Science 304,1967−1971)。次にコンビナトリアル手法も成功を収めた。
【0007】
純粋な非理論的(コンビナトリアル)タンパク質操作の例:定方向進化は、興味のある遺伝子でのランダムに分布した変異の低頻度の導入と、続いての所望の特性を有する変異(変種)タンパク質の選択より成る(Roberto et al.,2005.Current Opinion in biotechnology.16,378−384)。定方向進化は、タンパク質修飾の強力なツールであることが判明しており、今や広範に使用される手法となっている。しかしそれは、主に変異をタンパク質配列にランダムに導入するために、誤りがちなPCRを使用して温度感受性およびそのような突然変異体を探索する際に、そして(コードDNA内への縮重オリゴヌクレオチド包含によってランダム化されたタンパク質の分泌を含むファージディスプレイコンビナトリアル手法を通じて)新規な結合試薬を開発する際に使用されてきた。コンビナトリアルスペースの完全な探索が不可能である(産生されうる変種があまりに多い)ので、おそらく変異をランダムに導入するために使用される機構が通常、部位の一部の理論的選択なしでタンパク質表面の特定の領域に制御および制限できないため、酵素活性を改変するために使用されてきた純粋に非理論的な手法の例は非常にわずかである。ヒトエストロゲン受容体アルファリガンド結合ドメインでは、Zhaoと共同研究者らは、ランダム突然変異誘発および試験管内定方向進化を使用して、新規のコルチコステロン活性を進化させた(Chen et al.,2005.J.mol.Biol.348,1273−1282)。
【0008】
純粋にランダムな(しかしながらランダム化のための半理論的選択に基づく)操作手法を使用したもう1つの注目すべき例を挙げると、カルシウムを含まないサブチリシンの安定性および触媒活性を改変するために定方向共進化を使用したBryanと共同研究者らの例であった(Strausberg et al.,2005.Biochemistry 44,3272−3279)。活性ではなく、熱安定性を大いに改変する定方向進化の使用の一例は、本手法を使用して高安定性リパーゼを開発したRaoと共同研究者らの例である(Acharya et al.,2004.J.mol.Biol.341,1271−1281)。概して昨今の傾向は、理論的および非理論的手法を混合することであり、その2、3の例を以下に引用する。
【0009】
純粋なハイブリッド(理論的−コンビナトリアル)タンパク質操作の例:一部のグループは、Kimと共同研究者によるグリオキサラーゼIIのαβ/βαメタロヒドロラーゼ足場に対する新たな触媒活性(β−ラクタマーゼ活性)の開発によって例示されるような、理論的およびコンビナトリアル構成成分を好都合な結果へと組み合せるハイブリッド手法を使用してきた(Park et al.,2006.Science.311,535−538)。この手法の第2の成功例は、D−Ala D−Alaトランスペプチダーゼ折り畳みに対するベータラクタマーゼ活性を開発したPeimbertおよびSegoviaの例である(Peimbert and Segovia,2003.Prote
in Engg.16,27−35)。なお別の例は、天然リガンド17ベータ−エストラジオールと比較して、合成リガンド4,4’−ジヒドロキシベンジルに有利なNHRヒトエストロゲン受容体の特異性を改変するための本手法の使用である(Chockalingam et al.,2005.Proc.natl.Acad.Sci.USA 102,5691−5696)。
【0010】
塩橋またはジスルフィドの修飾によるタンパク質構造安定性操作の例:加えて、本態様は詳細に論じられてこなかったが、たとえば特異的静電相互作用、またはジスルフィド結合などの他のさらなる結合の導入による特定のタンパク質の構造安定化を達成するために、理論的手法を含むタンパク質操作を行う努力も同時になされてきたことは注目してよい。このような試みは、表面塩橋(Anderson et al.,1990.Biochemistry 29,2403−2408)はもちろんのこと、ジスルフィド結合(Creighton,1986.methods.Enzymol.131,83−106)がタンパク質にさらなる安定性を与えるという知識に基づいてきた。しかしながら、その安定性を試験および改善するためにグルタチオンレダクターゼ内にジスルフィド結合を意図的に導入して、意図するジスルフィド結合を形成した活性酵素を産出したものの、これまで以上の構造安定性を示すことはなく、Perhamと共同研究者らの研究によって例示されるように、このような理論的試みは殆ど成功を収めていない(Scrutton et al.,1988.FEBS Letters 241,46−50)。
【0011】
1つのタンパク質の構造安定性を別の(関連)タンパク質の活性の温度領域と何とか組み合せることを試みているタンパク質構築物の、本発明者が見出すことができたわずかな以前の例は、2つの異なる相同タンパク質を源とする隣接する一連の残基より成るドメイン全体が組み換えられてキメラタンパク質を産生する試行錯誤手法を含んでいる。このようなキメラタンパク質を作製する4つの例を見出すことができ、2例はHayashiや共同研究者らの研究によるベータグルコシダーゼを含み(Singh and Hayashi,1995.J.Biol.Chem.270,21928−21933;Goyal et al.,2001.J.mol.Catalysis.B:Enzymatic 16,43−51)、1例はDansonや共同研究者らの研究によるクエン酸シンターゼを含み(Arnott et al.,2000.J.mol.Biol.304,657−668)、1例はアビジンを含む(Hytonen et al.,2007.United states patent 7,268,216)。第1の例において、Agrobacterium tumefaciensおよびCellvibrio gilvus(〜37%配列同一性;40%配列類似性)からの相同β−グルコシダーゼのキメラが作製された(Singh et al.,1995.op.cit.)。第2の例では、Agrobacterium tumefaciensおよびThermotogamaritimaからの相同β−グルコシダーゼのキメラが作製された(Goyal et al.,2001.op.cit.)。第3の例では、サーモプラズマ・アシドフィルムおよびパイロコッカス・フリオサスからの相同シトレートシンターゼのキメラが作製された(Arnott et al.,2000.op.cit.)。これらの3つの例すべてにおいて、目的は、改善された酵素安定性ならびに改変された最適機能の温度およびpHの酵素特性を備えたキメラを得ることであった。特許文献(Hytonen et al.,2007.op.cit.)で見出された第4の例において、ニワトリアビジンタンパク質の熱安定性は、ベータ4という名称のその構造ドメインの1つを、別のアビジン関連(AVR)タンパク質のベータ4ドメイン全体で置換することにより改善された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、好熱菌タンパク質の構造安定性特徴および中温菌タンパク質の活性特
徴を含む組み換え中活性熱安定性タンパク質ならびにその合成工程を提供することであり、組み換え中活性熱安定性タンパク質では主に非隣接のアミノ酸のセットが、構造的に相同のタンパク質の構造的に同等の位置に発生する別の非隣接のアミノ酸のセットによって置換されている。
・その上、本発明は、主にベータ構造で構成されたいずれのタンパク質の機能挙動の系統的改変方法を提供する。
・本発明の別の目的は、1つのタンパク質の表面全体、または表面の一部を高度の主鎖重ね合せ可能性を備えた相同タンパク質の表面上に置き換えること(supplant)/移植することである。
・なお別の目的は、組み換え熱安定性タンパク質を産生するために、中温菌による活性表面を好熱菌タンパク質へ移植することである。
・さらに別の目的は、好熱菌の安定性特徴と、中温菌の活性特性を示す組み換え熱安定性タンパク質を産生して、それゆえ自然の進化によっては通常組み合わされない構造的および機能的属性を組み合せるための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ベータシートに基づくタンパク質構造を扱い、特に酵素に焦点を当てて、タンパク質表面の改変性に関する。これは1つのタンパク質の表面全体を、重複する主鎖軌道の相同タンパク質の表面上へ置き換えること(supplanting)/移植すること(すなわち全表面移植)または触媒作用および/または基質/リガンド結合に関与する表面の領域のみを改変させること(すなわち活性表面移植)によって行われる。本発明は、ベータシート構造からのベータストランドおよび/または介在ループを含む表面の移植を達成するための、非隣接および/または隣接残基の選択的混合および整合も扱う。本発明は、好熱菌タンパク質の機能的特徴を維持しながら、好熱性機能特徴のタンパク質の中温性機能特徴のタンパク質への転換を含む表面操作を実施することも扱う。
【0014】
したがって本発明は、好熱菌タンパク質の構造安定性特徴および中温菌タンパク質の活性特徴を備えた組み換え中活性熱安定性タンパク質を提供する。
【0015】
本発明の実施形態において、組み換え中活性熱安定性タンパク質は、主に非隣接のアミノ酸のセットが構造的に相同なタンパク質の構造的に同等の部分に生じる別の非隣接のアミノ酸のセットによって置換されている単一の構造ドメインを備えたタンパク質を含む。
【0016】
本発明の実施形態において、「ゲスト」または「ドナー」前駆タンパク質の方面の一部あるいは全部が「ホスト」または「レシピエント」前駆タンパク質構造コアへ名目上移植される。
【0017】
なお本発明の別の実施形態において、ゲストおよびホスト前駆タンパク質は、相同構造および同一の機能を有する。
【0018】
なお本発明の別の実施形態において、ゲスト前駆タンパク質は中温菌タンパク質であり、ホスト前駆タンパク質は好熱菌タンパク質である。
【0019】
本発明の実施形態において、相同のゲストおよびホスト前駆タンパク質の機能活性表面領域は、ベータシートに基づく2次構造より成る。
【0020】
本発明の実施形態において、使用した好熱菌ホスト前駆タンパク質および中熱菌ゲスト前駆体は、それぞれ配列番号:1および配列番号:2で表されるアミノ酸配列を有し、組み換え中活性熱安定性タンパク質は配列番号:3で表されるアミノ酸配列を含む。
【0021】
本発明の別の実施形態において、組み換え中活性熱安定性タンパク質は次の特徴を有する:
1. 分子量:20〜30キロダルトン;
2. 残基数:約200〜300;
3. 等電点:4〜8;
4. 最適活性のpH:4〜8;
5. 融解温度(T):80〜95℃、および
6. 最適活性の温度(TOA):30〜60℃。
【0022】
本発明のなお別の実施形態において、前記タンパク質およびその前駆体はヒドロラーゼの群に属する単一ドメインベータシートタンパク質の構造クラスの酵素であり、セルラーゼ、キシラナーゼ、アミラーゼおよびプロテアーゼから成る群より選択され、好ましくはセルラーゼである。
【0023】
本発明のなお別の実施形態において、組み換え中活性熱安定性タンパク質は生体触媒としても機能しうる。
【0024】
本発明のなお別の実施形態において、組み換え中活性熱安定性タンパク質の設計工程は、ホスト前駆タンパク質の構造安定性特徴と、このホスト前駆タンパク質とは異なりかつ構造的に相同なゲスト前駆タンパク質の活性特徴とを含む。
【0025】
本発明の実施形態において、構造的に相同のホストおよびゲスト前駆タンパク質は、基質結合および触媒機能がベータシートに基づく2次構造に位置する残基によって供給される構造を含む。
【0026】
本発明の実施形態において、組み換え中活性熱安定性タンパク質の設計工程は:
a. ゲストおよびホスト前駆タンパク質の構造を重ね合せて、好ましくは基質結合および触媒機能を含む構造の領域において、ポリペプチド主鎖のレベルでその構造の重ね合せ可能性の程度を概算するステップと、
b. ステップ(a)の情報を使用して、ホストおよびゲスト前駆タンパク質のタンパク質配列およびコードDNA配列の構造類似性に基づく配列アラインメントを生成するステップと、
c. ベータシートに基づく「活性表面」を構成するホスト前駆タンパク質の配列内の特定のアミノ酸残基を同定し、ステップ(b)より得た整列配列を使用して、ゲスト前駆体タンパク質における対応する類似非隣接残基および残基の群を同定するステップと、
d. 2つのタンパク質の活性表面を構成するホストおよびゲスト前駆タンパク質からの対応する2組のアミノ酸残基において同一である特定の残基を決定し、同一残基を除去して2つのタンパク質内の構造的に同等の位置で生じる対応する同一でない残基のセットを得るステップと、
e. ゲスト前駆タンパク質内の対応する残基と同一でない、そのベータシートに基づく「活性表面」における位置にてホスト前駆タンパク質を変異させるステップと、
f. ホスト前駆タンパク質内に存在する残基をゲスト前駆タンパク質内に存在する残基と置き換えて、新規な中活性熱安定性タンパク質の構成を引き起こすステップと、
g. 新規な中活性熱安定性タンパク質を公知の組み換えDNA法で生合成して、公知の方法による単離および精製を続けるステップと、
h. 活性測定によって、所望の中活性熱安定性タンパク質におけるホスト前駆タンパク質の構造安定性特徴ならびにゲスト前駆タンパク質内の物理および化学活性特徴を確認するステップと、
を含む。
【0027】
本発明の実施形態において、生成物の中活性熱安定性タンパク質の構造コアを構成するアミノ酸残基は2つの前駆タンパク質の一方から得られるが、これに対して生成物のタンパク質の表面の一部または全部を構成する残基は他方の前駆タンパク質から得られる。
【0028】
本発明の実施形態において、2つの前駆タンパク質は、0.5〜2.5オングストロームの平均平方根偏差(RMSD)まで重ね合せ可能であるその主鎖原子の座標と構造的に相同である。
【0029】
本発明の実施形態において、使用したホストおよびゲスト前駆タンパク質内での最適機能および構造的溶融の温度はそれぞれ5℃以内である。
【0030】
なお本発明の実施形態において、2つの前駆タンパク質の構造的に相同の「活性表面」領域は主に、ベータシートに基づく2次構造より成る。
【0031】
なお本発明の実施形態において、使用したゲスト前駆体は配列番号:1の好熱菌タンパク質RM Cel12Aであり、使用したホスト前駆体は配列番号:2の中温菌タンパク質TR Cel12Aである。
【0032】
本発明の実施形態において、生成物タンパク質の構造コアを構成するアミノ酸残基はRM Cel12Aより得られるが、これに対して生成物タンパク質の表面の一部を構成する残基はTR Cel12Aより得られる。
【0033】
本発明の実施形態において、RM Cel12AおよびTR Cel12Aタンパク質は、0.5〜2.5オングストロームの平均平方根偏差(RMSD)まで重ね合せ可能であるその主鎖原子の座標と構造的に相同である。
【0034】
本発明の実施形態において、RM Cel12AおよびTR Cel12A内での最適機能および構造的溶融の温度はそれぞれ5℃以内である。
【0035】
本発明の実施形態において、RM Cel12AおよびTR Cel12Aの構造的に相同の「活性表面」領域は主に、ベータシートに基づく2次構造より成る。
【0036】
本発明の実施形態において、配列番号:3の生成物MT Cel12Aは、ホスト前駆体の活性表面を含む残基を、ゲスト前駆体の活性表面を含む構造的に類似した残基で置き換えることによってホスト前駆体から得られる。
【0037】
本発明のなお別の実施形態において、得られた新規な中活性熱安定性(MT Cel2A)生成物は、中温菌ゲスト前駆体TR Cel12Aの活性の最適温度および相同の好熱菌ホスト前駆体RM Cel12Aの構造安定性を有する。
【0038】
本発明のなお別の実施形態において、中活性熱安定性タンパク質(MT Cel2A)は次の特徴を有する:
1. 分子量:20〜30キロダルトン;
2. 残基数:約200〜300;
3. 等電点:4〜8;
4. 最適活性のpH:4〜8;
5. 融解温度(T):80〜95℃、および
6. 最適活性の温度(TOA):30〜60℃。
【0039】
本発明のなお別の実施形態において、この工程は、酵素活性の化学的特徴および基質の
化学的定義を改変することなく、酵素の物理的機能特徴を調節するのに有用である。
【0040】
本発明のなお別の実施形態において、この工程は、酵素の構造安定性を生物の2つの大きく異なるドメインからのタンパク質安定性および活性特徴と組み換えるのに有用である。
【0041】
本発明の実施形態において、中活性熱安定性タンパク質は、デニム繊維のストーンウォッシュなどの織物産業での用途に有用である。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、好熱菌タンパク質の構造安定性特徴および中温菌タンパク質の活性特徴を含む組み換え中活性熱安定性タンパク質ならびにその合成工程を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】RM(赤)およびTR(青)Cel12A間の構造類似点および相違点。パネルAは、1.1ÅのRMSDで重ね合されたポリペプチド主鎖を示す。挟まれた上シートおよび下シートと、セルロース結合「活性表面」を構成する上シートによって作製された凹形溝に注目する。パネルBおよびCはそれぞれTR Cel12AおよびRM Cel12A表面の上面図を示し、19〜21Åの長さのセルロース結合溝を強調している。2つの溝の微小構造特徴の相違点に注目する。
【図2】RM(赤)、TR(青)、およびモデル化MT(赤−青)Cel12の構造に基づく配列アラインメントおよび表面表示。パネルA。緑色ボックスは、保存(3列)または非保存(2列)のどちらかであって、配列番号:1によって表されるRM Cel12A(1H0B)および配列番号:2によって表されるTR Cel12A (1OA2) 内の「活性表面」を強調している。上の列よりも上の単一の残基は、予想配列と得られた配列との間の相違を示し、文献で1H0Bについて報告された残基は、クローンの配列決定を通じて得られた残基の上に示されている(配列番号:1)。真ん中の列に示す配列は、MT Cel12A(配列番号:3)の配列である。ベータストランドからの改変「活性表面」残基のクラスタに注目する。パネルB。RM(赤)、TR(青)、およびモデル化MT(赤−青)Cel12Aの表面の側面図。MT Cel12Aモデルは、RMおよびTR前駆体から残基を示差的に標識する(differential sourcing)ために色分けされている。
【図3】pH8.0およびpH5.0におけるRMおよびMT Cel12Aの4次および2次構造。100mMnaClの非存在(黒線)および存在(赤線)下での溶離のSuperdex−75のクロマトグラフをMT Cel12AについてパネルA(pH8.0)およびパネルB(pH5.0)に、そしてRM Cel12AについてはパネルC(pH8.0)およびパネルD(pH5.0)に示す。塩の非存在下では1.23ml(モノマー)における溶離、そして、塩の存在下では体積がより大きくpHが低いMTおよびRM Cel12Aの溶離に注目する。pH8.0(黒線)およびpH5.0(赤線)における100mMnaClの存在下での酵素の遠UVのCDスペクトルをパネルE(MT Cel12A)およびパネルF(RM Cel12A)に示す。塩の非存在下では同じスペクトルが得られた(図示せず)。
【図4】pH8.0およびpH5.0におけるRMおよびMT Cel12Aの熱安定性。218nmにおける平均残基楕円率の温度依存性変化をパネルA(RM Cel12A、pH5.0)、パネルB(MT Cel12A、pH5.0)、パネルC(RM Cel12A、pH8.0)およびパネルD(MT Cel12A、pH8.0)に示す。すべての状況における85℃超のみでの構造変化の発生、ならびにpH8.0およびpH5.0の両方でのMT Cel12AのRM Cel12A様熱安定性に注目する。
【図5】MTおよびRM Cel12Aの活性の温度およびpH依存性。パネルA:pH5.0にて温度の関数として測定したMT(白三角)およびRM(黒正方形)Cel12A活性の変動。パネルB:50℃にてpHの関数として測定したMT(白三角)およびRM(黒正方形)Cel12A活性の変動。平均値および標準誤差バーは、それぞれ5回の実験に基づいている。MT Cel12Aは、RM Cel12A(図4)に匹敵する構造安定性を有するにもかかわらず、TR Cel12A(本図)に近い最適温度およびpHを有することに注目する。
【図6】各種の温度およびpH値におけるRM Cel12AおよびMT Cel12A活性の比較。縦座標は、DNSA反応還元糖の550nmにおける光学密度を示す。RM Cel12Aデータのスケール(0〜8)は、より良好な目視比較を可能にするために、MT Cel12Aのスケール(0〜1.5)とは異なって表示されている。
【図7】MT Cel12A(3B7M)の決定された構造と、RM Cel12A(1H0B)およびTR Cel12A(1OA2)の公知の構造との比較。パネルA:MT Cel12A(青)、RM Cel12A(赤)およびTR Cel12A(緑)Cel12 Aの主鎖の重ね合せ。パネルB:アミノ酸極性によって色分けされた、RM Cel12A(左上)、TR Cel12A(右上)およびMT Cel12A(下中央)の活性表面溝の図。パネルC:その主鎖(細いリボンとして表示)に重ね合されたMT Cel12A(緑)およびTR Cel12A(青)の活性表面側鎖。パネルD:(明瞭にするために)主鎖なしの、パネルCに示したのと同じ活性表面側鎖。パネルE:MT Cel12Aの両方の親酵素との類似性を示す、MT Cel12A(緑)、RM Cel12A(赤)およびTR Cel12A(青)の側面図の全原子表面の表示。
【図8】ベータシート形成に関与するストランド内の残基の交互幾何配置、およびシートにて隣接するストランドからの側鎖による表面の形成。ソフトウェアPYMOLを使用して作成した、RM Cel12Aからの3つのストランドの概略図。パネルA:ベータシートの一部であるストランド内の交互残基は、シートの面から反対方向へ外向きになっている。パネルB:シートから同じ方向へ外向きになっているベータシートにおける隣接ストランドからの側鎖は、相互に隣接して位置している。パネルC:パネルBに示す側鎖のこれらの原子は相互作用している。パネルD:パネルCに示す側鎖の原子は、十分に相互作用して表面を形成している。
【図9】RMおよびTR Cel12Aとの間の構造相同性の、そして両方の酵素の活性表面を構成するベータシートの視覚的描写。パネルA:主鎖の重ね合せ。RM Cel12AとTR Cel12Aとの間のわずか〜28%の配列同一性の存在にもかかわらず、構造は高度に相同性であり、1.1ÅのRMSDで重ね合せることができる。どちらのタンパク質もベータゼリーロール内に挟まれた2枚の湾曲したベータシートより成り、セルロース結合溝は上シートの凹形表面内に位置する。RM Cel12A主鎖は黄色で示されている。その活性表面は青色で示されている。TM Cel12A主鎖は赤色で示されている。パネルB:RM Cel12Aの活性表面。2つのタンパク質の重ね合せた主鎖の上を覆って、セルロース結合溝を構成する上ベータシートからの残基より成る、RM Cel12Aの活性表面が示されている。RM Cel12主鎖は赤色で、TR Cel12Aは青色で示されている。パネルC:TR Cel12Aの活性表面。2つのタンパク質の重ね合せた主鎖の上を覆って、セルロース結合溝を構成する上ベータシートからの残基より成る、TR Cel12Aの活性表面が示されている。RM Cel12主鎖は赤色で、TR Cel12Aは青色で示されている。この中温菌活性表面と好熱菌ホモログの活性表面との目視比較は、本研究で試みた表面操作の奥行きを概念的に切り取って示される。
【図10】TR Cel12Aの「温度対活性」、「pH対活性」および「温度対構造含有量」特性。パネルAおよびB:Karlsson,J.,Siika−aho,m.,Tenkanen,m.& Tjerneld,F.によって報告された、Variations of TR Cel12A activity with temperature and pH(温度およびpHによるTR Cel12A活性の変動)(2002).J.Biotechnol.99,63−78。パネルC:Sandgren,m.,Gualfetti,P.J.,Shaw,A.,Gross,L.S.,Saldajeno,m.,Day,A.G.,Jones,T.A.& Mitchinson,C.によって報告された、Variation of TR Cel12A CD signal(structural content)with temperature(温度によるTR Cel12A CDシグナル(構造含有量)の変動)(2003).Protein Science 12,848−860。この図に示したパネルは上で引用した論文によるものである。
【図11】RM Cel12AおよびMT Cel12AのDNAおよびタンパク質配列。最上列−MT Cel12Aタンパク質配列。第2列−RM Cel12A DNA配列。第3列−MT Cel12A DNA配列。第4列−MT Cel12Aタンパク質配列。注記:残基番号のみ示されている。塩基番号は示されていない。図示した残基番号は、ギャップを無視した、元の参考文献の実際の配列による残基番号である。RM配列はタグの後で、図示されていないMet(残基1)から開始する。
【図12】RM Cel12A(ゲノムDNAからPCRによる)およびMT Cel12A(変異プライマーを使用してSOE−PCRによる)をコードする遺伝子の合成の概略図。番号は割り当てられたプライマー番号を示す(表4を参照)。アスタリスクマークは、プライマーが変異原性であったことを示す。変異プライマーは、(i)RM残基を構造的に類似したTR残基に変化させるために、(ii)RM中に類似体のないTRからのループを含めるために、(iii)サイレント変異を作製して、代わりの(望ましくない)プライマー−鋳型結合の可能性を無効にすることによりPCRの実行可能性を最適化するために、そして(iv)サイレント変異を作製して、遺伝子発現中にmRNAレベルでの翻訳効率に影響を及ぼす可能性があると見なされる2次構造を破壊するために設計されたDNA塩基変化を含む。注記:RM Cel12Aの遺伝子は、プライマー1Nおよび12を使用して、R.marinusゲノムDNAから増幅した。MT Cel12Aの遺伝子は、変異プライマー1〜11、および変異を含有しないプライマー12を使用して、RM Cel12Aをコードする遺伝子の適切に変異された部分のスプライシングによって作製した。
【図13−A】PCRおよびSOE−PCR反応からの増幅を示すゲル。a)R.marinus ゲノムDNAからのPCRによるRM Cel12Aをコードする遺伝子(反応番号1)、およびb)RM Cel12Aをコードする遺伝子からの領域の変異誘発PCR増幅、およびスプライシング・バイ・オーバーラップ・エクステンション(splicing−by−overlap−extension,SOE)PCRによるこのような領域の組み立てを含む、MT Cel12Aをコードする遺伝子の合成に関与するステップ(反応番号2〜3)の産生を示すゲル。
【図13−B】PCRおよびSOE−PCR反応からの増幅を示すゲル。RM Cel12Aをコードする遺伝子からの領域の変異誘発PCR増幅、およびスプライシング・バイ・オーバーラップ・エクステンション(splicing−by−overlap−extension,SOE)PCRによるこのような領域の組み立てを含む、MT Cel12Aをコードする遺伝子の合成に関与するステップ(反応番号4〜9)の産生を示すゲル。
【図13−C】PCRおよびSOE−PCR反応からの増幅を示すゲル。RM Cel12Aをコードする遺伝子からの領域の変異誘発PCR増幅、およびスプライシング・バイ・オーバーラップ・エクステンション(splicing−by−overlap−extension,SOE)PCRによるこのような領域の組み立てを含む、MT Cel12Aをコードする遺伝子の合成に関与するステップ(反応番号10〜11)の産生を示すゲル。
【図14】MT Cel12Aをコードする遺伝子の正確な構成を確認する塩基配列決定電気泳動図。
【図15】MT Cel12A(パネルAおよびB)およびRM Cel12A(パネルCおよびD)の非変性精製を示すゲル。パネルA:レーン1−ペレット。レーン2−溶解液(10mMイミダゾール中)。レーン3−貫流。レーン4−洗浄(20mMイミダゾール中)。レーン5−分子量マーカー(上から下へ:それぞれ116、66、45、35、25、18.4、14.4kDa)。レーン6〜9−1Mイミダゾール中の溶離されたMT Cel12A画分。パネルB:レーン10〜15−1Mイミダゾール中の溶離されたMT Cel12A画分。レーン16−分子量マーカー(上から下へ:それぞれ116、66、45、35、25、18.4kDa)。パネルC:レーン1−ペレット。レーン2−溶解液(10mMイミダゾール中)。レーン3−貫流。レーン4−洗浄(20mMイミダゾール中)。レーン5−分子量マーカー(上から下へ:それぞれ116、66、45、35、25、18.4、14.4kDa)。レーン6〜9−1Mイミダゾール中の溶離されたMT Cel12A画分。パネルD:レーン10〜15−1Mイミダゾール中の溶離されたMT Cel12A画分。レーン16−分子量マーカー(上から下へ:それぞれ116、66、45、35、25、18.4kDa)。
【図16】RM Cel12AおよびMT Cel12AのMSキャラクタリゼーション。精度>100ppmでリニアモードにてIgGで較正されたABI Voyager DE−STRmALDI−TOF質量分析計で収集されたデータ。RM Cel12Aの予想質量は26215.93Daであった。MT Cel12Aの予想質量は25037.01Daであった。注記1:観測された質量はこれらの質量の予想誤差範囲内である。注記2:m/zピークは、m=1、z=2およびm=1、z=1およびm=2、z=1およびm=3のm値で見られる。
【図17】ゲル濾過較正および各種濃度でのMT Cel12Aの流下。図は、挿入データに示した値までタンパク質濃度を希釈した後に注入された、それぞれ体積50μlのMT Cel12Aサンプルの積層ゲル濾過溶離クロマトグラムを示す。吸収値範囲は4つのサンプルで明らかに異なっていたので、溶離体積の変化がある場合にその変化を見やすくするために、サンプルを正規化の後に積層化して示している。サンプルおよびSMART Superdex−75カラムは、50mM Tris pH8.0によって平衡にした。観測された結果は、MT Cel12Aの希釈がゲル濾過溶離体積(分子の流体力学的体積に相関していることが公知)にいかなる変化も生じないことである。希釈時に結合、または解離が一切ないことは、上の較正プロットへのその溶離体積(1.23ml)の内挿と共に、MT Cel12Aが〜25kDaの安定したモノマーであることを示唆している。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の開示、本発明の新規性、および「キメラ」手法と本発明で提案された手法との相違:
本発明において、(タンパク質の進化的比較から得た)タンパク質表面に対する配列改変のミクロ構造およびマクロ構造効果について、(非理論的コンビナトリアル手法を通じてではなく)1つのタンパク質の構造的特徴と、別の生物を源とする別の(相同)タンパク質の機能的特徴とを組み合わせた新規タンパク質を意図的に作製するために、このような改変を使用することに特に関連して調査してきた。したがって本発明における重点は、タンパク質酵素活性および/または他の機能(たとえばタンパク質間相互作用)を制限する物理的パラメータの操作に特に関連して、タンパク質表面の再操作にある。
【0045】
本発明の開示
セルラーゼとして公知のセルロース分解酵素である、2つのベータシートに基づくベータゼリーロール折り畳みタンパク質であるRM Cel12A(配列番号:1)およびTR Cel12A(配列番号:2)の構造を重ね合せる。2つの酵素のポリペプチド主鎖原子が1.1オングストロームの二乗平均平方根偏差に重ね合せ可能であることを確認している。次に、その活性表面を含む両方の酵素における約60個の類似残基の対応するセットを作製する。活性表面は、本明細書では、基質(セルロース)結合溝を含有する2つの酵素内の捻れた/湾曲した構造的に相同のベータシートの溶媒曝露表面全体として定義
される。配列番号:1がホスト酵素であり、そのアミノ酸配列のほとんどを保持していると考え、次に、折り畳まれた酵素構造の活性表面上にある位置にて本配列に変異を組み入れて、このような残基すべてを、配列番号:2によって表されるアミノ酸配列を有する他の(ゲスト)酵素構造内の構造的に類似した位置で使用された残基によって置換する。本置換の目的は、その活性部位を構成する(ホスト酵素のポリペプチド鎖全体から得た)60個の主に非隣接の残基のセット全体を、ゲスト酵素の活性表面を構成する構造的に同等の残基によって置換することである。本置換は、配列番号:3によって表されるホスト酵素の変異形の形成をもたらす。配列番号:3が折り畳まれてRM Cel12Aの構造安定性特徴およびTR Cel12Aの活性特徴を示すように、置換はホスト酵素の変異形の折り畳まれた構造上でのゲスト酵素の活性表面の模倣を生じさせる。RM Cel12Aは好熱菌セルラーゼであり、TR Cel12Aは中温菌セルラーゼであるため、RM
Cel12Aの変異形(TR Cel12Aの活性表面を含む)を中活性熱安定性セルラーゼMT Cel12Aと呼ぶ。MT Cel12Aは、X線結晶学、円偏光二色性分光法、質量分析法、ゲル濾過クロマトグラフィーおよびゲル電気泳動、ならびにセルラーゼ活性アッセイを使用して、構造的にも機能的にもキャラクタリゼーションされる。MT
Cel12Aが真に、TR Cel12Aの活性表面およびRM Cel12Aの構造安定性特徴の大半を兼ね備えた中活性熱安定性酵素であることが証明されている。
【0046】
本発明で提案した手法の新規性
要約すれば、従来技術および背景において上述した操作手法の奏功する用途はすべて:(a)基質、または他のリガンド(たとえば補酵素)の結合への優先度に関するタンパク質/酵素活性部位の化学的特異性、あるいは(b)基質、またはリガンドの結合の熱力学的および動力学的パラメータのどちらかを改変するために(理論的手法またはコンビナトリアル手法のどちらかを利用して)タンパク質工学を使用する試みに関する。対照的に本発明において、たとえば特定の化学構造の基質、またはリガンドの優先的結合に関する機能の化学的特徴ではなく、酵素/タンパク質機能の物理的特徴(たとえば最適結合、または活性の温度)に関してタンパク質/酵素表面を改変することを提案する。コンビナトリアル、すなわちハイブリッド手法ではなく理論的な操作手法であるが、タンパク質の機能部分(すなわちその活性表面、または活性ドメイン、またはサブドメイン)が特定の種類の2次構造であるベータシート構造によって支配される、すべてのタンパク質に対して高い作用確率を有するために十分に系統的である手法を採用することを提案する。β−シートへの(シートの溶媒に面する側全体での)変異の導入が、タンパク質の表面上にあるα−らせんへの変異の導入よりも、シートを乱さずにはるかに容易に行えるのは、β−シートにおいて残基が交互に反対方向を向いており、「隣接する」残基が互いに相互作用、または干渉しないためである。他方、a−らせんにおいては、「隣接する」残基がらせんの
同じ側に存在する、または面しており、互いに大きく影響して、そのために直に隣接する残基における付随(代償)変異を作製せずに行われた単一の変異さえ、構造形成および安定性を大きく乱すことがある。記載する事例は、変異の効果の予測不可能性がシート構造よりもはるかにらせん構造に当てはまるということである。理論的手法がどの程度まで利用されうるかを探るために、全ベータ構造の構造/機能関係に関する詳細な知識を理論的に使用して設計された、ベータシート表面上の変異を提案する。この性質の例はなく、そのため本明細書ではいずれも引用されていないことに注目できる。
【0047】
「キメラ」手法と本発明との相違
すでに述べたように、本発明の目的の1つは、好熱菌(熱安定性)類似物質の構造安定性特徴と、同じ基質に作用する中温菌類似物質の機能特徴とを合わせ持つ新規なタンパク質/酵素を作製することである。また(従来技術および背景で)すでに述べたように、本方向での(すなわち同様の全体的な目的を持つ)、以前の取り組みの唯一の種類は、キメラタンパク質を産生するための、隣接する一連の残基を含むドメイン全体の交換を含む。キメラタンパク質では、個々の2次構造要素、または超2次構造要素(たとえばベータシ
ート)すべてのレベルでのタンパク質表面の再モデル化はなく、むしろ同様の機能を果たす2つの異なる多ドメインタンパク質からの完全に自律的に折り畳まれたドメインの混合がある。タンパク質においては一般に、ドメイン間の相互作用のレベルが、ドメイン内の構造要素間の相互作用の、あるいは単一の2次または超2次構造要素内の残基間の相互作用のレベルよりも(関与する残基間接触の数の点で)常時はるかに低いことは周知である。実際に、2つの自律的に折り畳まれたドメインは構造的観点から直接でも相互作用しないことが多いのに対して、ドメイン内の2次または超2次構造要素内の残基は広範で密接な相互作用に関与している。結果として、異なるタンパク質からのドメインを同じペプチド鎖へと併合して、両方のドメインの機能を維持させようとすることが一般に簡単でありふれた作業であるのは、ドメイン間相互作用に関する懸案事項がはるかに少ないためである。
【0048】
隣接する一連の配列のこのように簡単な(キメラ型)組み合せが単一ドメインタンパク質を再モデル化するためにうまく行えないのは、このようなキメラにおいて、2つのタンパク質から得た配列が表面と内部の両方に位置するからであろう。2つの異なるタンパク質にて事前に進化した2次構造要素からの残基は、いずれのタンパク質の内部でも2つの構造の界面にて接触と結合を強制できないので、界面の形成は高度の形状相補性および化学的適合性を必要とするであろう。簡単なキメラは、その内部での構造間界面での形状相補性および化学的不適合性のこのような矛盾を回避することはできない。おそらくこの結果として、隣接する一連のアミノ酸が別のタンパク質からの同等の一連のアミノ酸によって置き換えられている(supplanted)単一ドメインタンパク質を包含するいずれかのキメラの構築の公知の成功例はない。
【0049】
本発明は、上述の問題を回避して、表面残基のみを操作することによって、ベータシートに基づく構造内のみで2つの単一ドメインタンパク質の特徴をうまく組み合せている。本明細書記載の手法は、次の理由で作用している:(i)相互に隣接して位置する表面残基は、溶媒と、そして残基相互に、タンパク質表面の定義された領域内で相互作用することのみが必要であり、その領域内ではすべての残基が同じタンパク質から得られ、それゆえ表面を作製するための相互作用に関与する事前に進化したスキームを有する。キメラ内とは異なり、これらの残基は異なるタンパク質から得た別の残基のセットと埋没した内部位置で接する必要がなく、それゆえ形状相補性および化学的不適合性の問題を回避する。(ii)いずれかの構造要素の一部ではなく、構造要素(2次または超2次構造要素)の表面全体、たとえばベータシートの溶媒曝露表面全体を活用する。このことは構造要素の表面内での形状相補性および化学的不適合性の問題を回避し、構造要素が異なる構造要素表面の別の一部と接触して、いずれの場合においても溶媒への暴露が故、より高度の可撓性および適応性が存在する表面の端部にのみ、このような問題を限定する。
【0050】
したがって要約すると、従来技術で挙げられたキメラ手法は、本発明で提案した手法と次の点で異なる:
・同様の酵素のその選択は、公知の配列の酵素間の配列類似性に基づいていた。これに対しての選択は、公知の構造の酵素間での構造(主鎖)の重ね合せ可能性に基づく。
・安定性、最適温度および最適pHを改善するその試みは、このような特徴が実際には別個のドメイン様構造によって定義されるという仮定を裏付けるための証拠を与えることなく、これらの特徴が配列全体内の隣接した一連の配列によって定義された個々のドメイン内で既定の状態にあるという仮定に基づいている。これに対して本明細書記載の手法は、特性が隣接する一連の残基に帰するものと見なさない。むしろ、最適pHおよび温度特徴が活性表面のみを構成する溶媒に曝露された残基(鎖折り畳みによって3次元にまとめられた明らかに非隣接の残基のセット)の相互作用および可撓性の関数であると考える。構造安定性が主として、タンパク質の疎水性核を構成している埋もれた残基の関数であると考える。したがって新規タンパク質の構成は、構造内に共に存在する(そして配列内には
存在しない!)非隣接残基の変異を含む。文献で最初に解明されている構造上の原理および知識に基づいて、熱安定性酵素の活性表面のみを相同中温菌酵素の活性表面で移植する変異を作製する。
・上で詳説した手法における基本的相違の結果として、Hayashiと共同研究者(Singh and Hayashi,1995.J.Biol.Chem.270, 21928−21933;;Goyal et al.,2001.J.mol.Catalysis.B:Enzymatic 16,43−51)はもちろんのこと、Dansonと共同研究者(Arnott et al.,2000.J.mol.Biol. 304,657−668)も、キメラを作製するために配列を得た2つの酵素の特徴の中間であるか、または2つの親配列とは全く異なっているかのどちらかである安定性および機能特徴を備えたキメラを、完全に予測不能な方法でなんとか作製することだけはできた。これに対して本明細書記載の手法は、一方の親の機能特徴(すなわち正確な最適pHおよび温度)を、他方の安定性特徴に対して理論的かつ予測可能に組み合せて、これらの特徴をほぼ保持するタンパク質を得ることを提案している。
・キメラにおいては、タンパク質内部またはタンパク質表面のどちらかにおける残基の位置に基づくどちらかの前駆酵素からの残基の選択はできない。このことは、本手法を多ドメインタンパク質からのドメインコード配列の単なる混合のためのみに有用としている。これに対して本明細書記載の手法は、溶媒に曝露された残基の構造に基づく選択に焦点を当てている。
【0051】
本発明は、好熱菌タンパク質の構造安定性特徴および中温菌タンパク質の活性特徴を含む組み換え中活性熱安定性タンパク質ならびにその合成工程を提供し、組み換え中活性熱安定性タンパク質では好熱菌タンパク質の表面の基質結合および触媒活性領域を備えた主に非隣接のアミノ酸のセットが、構造的に相同の中温菌タンパク質において構造的に同等の位置に発生する別の非隣接のアミノ酸のセットによって置換されている。
【0052】
本発明の目的は、酵素「活性表面」を再モデル化することを提案する。酵素の活性表面は、酵素反応のいずれの段階においても、触媒作用に直接関与する活性部位を備えたすべての残基はもちろんのこと、基質の結合、または基質原子の接触に関与する残基も含むと考えることができる。注目に値するのは、基質類似体に結合した酵素の構造の原子的な詳細がたとえばX線結晶学的技法を通じて公知である場合でも、多くの酵素は構造を変化させると考えられているので、(結晶構造内で基質に接触しているのが実際に見られる残基以外の)他のどの残基が酵素処理中に基質にまた接触するかについては決して確信を持てないということである。それゆえ実際面で、いずれの酵素の表面全体の完全な範囲を最終的に知る方法がまだないという事実を考えると、「活性表面」を、基質結合または触媒作用に関与する酵素内の特定の2次構造(または超2次構造)要素の溶媒接触残基のセット全体として定義するものとする。それゆえたとえば、基質結合および触媒残基がベータシートに基づく構造の溶媒曝露面にある場合、「活性表面」におけるその特定のベータシートの溶媒曝露面全体を示すものとする。
【0053】
本発明は、酵素活性表面の「表面再モデル化」または「表面再操作」の理論的方法を提案および証明する。再モデル化は、広範に重ね合せ可能な主鎖を備えた2つの構造的に相同の酵素による残基使用の比較を含む(「広範に重ね合せ可能な」は、0.5〜2.5オングストロームの平均平方根偏差を持つ主鎖原子重ね合せ可能性として定義される)。比較が完了したら、1つの酵素内の1つの活性表面を構成するすべての残基の、他の酵素の活性表面全体による、残基ごとの変異に基づく置換、すなわちその置換が1つの酵素から別の酵素への活性表面の効果的移植をもたらすので、「表面移植」と呼ぶ手法が続く。2つの酵素がその構造安定性および機能性のための最適条件に関して異なるような方法で2つの酵素が選択される場合、このような「移植」行為は、「ホスト」酵素の構造安定性特徴および「ゲスト」酵素の活性特徴を併せ持つ新規な酵素的生体触媒の折り畳みに基づく
作製を引き起こし、このホストおよびゲストは構造相同性比較が実施された2つの酵素である。それゆえホスト酵素およびゲスト酵素が効果的に新規な酵素的生体触媒の前駆体酵素となるのは、ゲスト酵素が活性表面を与え、ホスト酵素が他のすべての残基および新規酵素の構造の大半を与えるためである。
【0054】
酵素の3次元構造全体の形成の結果として活性部位が生成すること、すなわち活性部位が酵素の折り畳みに依存していることは周知である。活性部位は活性表面のサブセットを構成するので、活性表面も折り畳みの結果として生成するということになる。しかし、折り畳みによるほぼ正確な3次元構造の単なる形成がいずれの酵素の活性部位、または「活性表面」の正確な形成および機能を意味するものでないことを理解するのは重要である。このことは、一般に全体的な非折り畳みに不活性化が先行するように思われるいくつかの酵素の非折り畳みおよび折り畳み挙動に関してTsouと共同研究者によって証明されたように、活性部位が、酵素の構造全体をいずれの認識可能な方式でも妨害することなく、構造的に十分に分散されて機能を停止できるためであり、活性部位が分子の残りの部分よりも高次構造的によって可撓性を有していることを示唆している(Tsou,1993.Science 262,380−381;Tsou,1995.Biochim.Biophys.Acta 1253,151−162;Yang and Tsou,1995.Biochem J.305,379−384)。同じことが活性表面にも当てはまるということになり、すなわち活性表面の形成および機能もその表面を示す酵素の折り畳みから多少の自律性を示すことができる。本発明は、活性表面が複数の(主に)非隣接残基の置換によって生じる「移植」によって酵素の間で容易に模倣可能である方法を示すことによって、酵素の3次構造全体の支持足場からの活性表面の自律性を検証および利用する理論的方法を提案および証明する。
【0055】
本発明は、βゼリーロール折り畳み構造を持つ酵素を使用した活性表面移植の実行可能性を証明する;しかし本発明は、本発明で開発および開示された特定の理論的方法が、0.5〜2.5オングストロームのRMSDに重ね合せ可能な主鎖原子を使用するベータシートに基づく活性表面を利用するいずれかの2つの構造的に相同の酵素を用いて、このような活性表面移植を実行するために使用できることを提案する。
【0056】
ベータシート構造の溶媒曝露面の再モデル化
βゼリーロール折り畳み酵素などのベータシートに基づくタンパク質において、活性表面はβシートによって形成される。本発明の要点の1つは、βストランド表面上の交互残基が反対方向を向いているという事実を考慮すると、酵素のベータシートに基づく表面全体を変異させることが可能であることである。シートから溶媒のほうを向いているこれらの残基は一般に活性表面を形成するが、内側を向いている残基は別のシートの残基と疎水的に相互作用し、これらの2つの残基のセットの間に相互作用はない。したがって本発明の場合は、溶媒のほうを向いている残基のセットをベータシートから除去して、その残基を構造的に類似した(相同)酵素からの同等の、溶媒のほうを向いている残基のセットで置換することが、すなわち言い換えれば、本明細書で行うことを提案しているようにβゼリーロール折り畳み酵素において、または実際に、タンパク質表面に曝露されて、タンパク質表面の機能に関係する残基からの酵素の全体的な折り畳みおよび構造安定性を決定することに主に関与する埋没した残基を個別に処理する機会を与える、他のいずれかのベータシートに基づく表面のどちらかにおいて、1つの酵素の「活性表面全体」を別の酵素に「名目上」移植することが実行可能であるということである。
【0057】
移植の実行可能性の構造解析
本明細書記載の移植手法は、ベータシートに基づくタンパク質構造のみに適用される。ベータシートにおける伸長構造でのペプチド結合のトランス配置のために、ストランド内のいずれの残基の側鎖も、両側のその2つの直接隣接する側鎖とちょうど反対方向にシー
トから外向きになっている。それゆえシート内の交互の残基の組は反対方向に外向きになっており、その側鎖に対して完全に独立した充填スキームを展開し、2つの面が相互に影響し合う範囲はほとんどない。完全平面シートでは、同じ面上の残基は場合によっては、離れすぎていて表面を作製するために効果的に相互作用できない;それゆえ多シート構造において、残基は、面している側鎖のセットの間での相互作用を許容する剛性構造を、シートを共に積層することによって達成する。しかし長いストランドより成るベータシートは、完全な平面状であることはまれであり、大半は自然に湾曲している。このような湾曲シートも積層可能であるが(たとえばCel12A酵素の上シートと下シートのとの間で行われるように)、積層されたシートのセットにおける上シートの凹状の溶媒曝露面上の残基は潜在的に相互作用して、自律充填スキーム(図1A〜1C)および積層中の他のシートから効果的に隔離されている表面を作製できる。このことは上シートの凹状面の選択的再モデル化の可能性を生じる(図1A、2B)。後で詳述するようにRM Cel12Aの活性表面を形成する上シートの再モデル化を開始した。
【0058】
RM Cel12AおよびTR Cel12Aは、約28%のアミノ酸配列同一性を共有している。2つの構造の詳細な調査により、2つのタンパク質における類似した残基位置の同定が可能となった。両方のタンパク質の類似残基の各対について、セルロース結合溝を構成する、またはセルロース結合溝に隣接しているストランドに関与する主鎖原子を備えた残基を同定して、次に残基を、(a)溝内へ上向きになっている、(b)下ベータシートのほうへ(溝から離れて)下向きになっている、または(c)ストランドを分離するループ領域内へ落ち込んでいる、側鎖を有するものとして別々に示した。次に、溝形成に関与する側鎖を有さないループ構造内に存在する残基と同様、下方を向いている残基をリストから除いた。残りの残基は、他方のタンパク質中に対応する残基のない、両方のタンパク質中のある溝構成残基と共に表2に示し、表2には保存される残基位置、および同一でない構造的に類似した残基対を構成する位置に関する詳細もまとめてある。表2では、表面を構成する残基がタンパク質配列全体から得られるけれども(図2A)、交互残基位置からのいくつかの側鎖のセットが、これらの側鎖が同じベータストランドに由来する独立した「ブロック」内で発生することがわかる。
【0059】
要約すれば、溝自体および溝に隣接する高くなった領域は、RM Cel12A内の合計66個の残基によって、そしてTR Cel12A内の構造的に類似した位置における57個の残基によって形成されていることがわかる。TR Cel12Aの活性表面の形成に関与する29個の残基のみが、RM Cel12A内の同一でない構造的に類似した対応残基のセットによって表されている。さらにRM Cel12A内の残基12個(Cys66−Leu77)および残基4個(Ser115−Gly118)の2つのループはそれぞれ、TR Cel12A内でそれぞれ残基3個の構造的に類似していないループ[(Ile67−Gln69)および(His107−Thr110)]によって置換される。またRM Cel12A内のAsp160およびTrp161に対応するTR Cel12A内の類似位置の間には、残基挿入がある(Ala153)。したがって(表2を参照)、RM Cel12AおよびTR Cel12Aの活性表面間の相違は、TR Cel12Aからの合計36個の残基[29(類似)+3(1つのループから)+3(別のループから)+1(挿入から)]によって定義される。
【0060】
それゆえ操作の目的は、これらの36位置において、RM Cel12A残基をTR Cel12A残基で置換することであった。2つの酵素の配列を、「中活性熱安定性」Cel12A、すなわちMT Cel12Aという名称を与えられた、これらの残基36個の変化を含む再設計されたR.marinus酵素の配列と共に図2Aに示す。MT Cel12Aをコードする遺伝子の合成は、複数の変異を含むポリメラーゼ連鎖反応(PCR)ステップと、その後のオーバーラップ・エクステンションPCR(SOE−PCR)手順による段階的スプライシングを通じて得られた単位複製配列の連結によって達成され
た。6xHisn末端親和性タグを包含した遺伝子構築物を、対照としての未修飾RM Cel12Aの同様のクローニング、過剰発現および精製と共にクローニング、過剰発現、および精製して、MALDI−TOF質量分析法によってタンパク質質量を確認した。
【0061】
MT Cel12Aの合成
MT Cel12Aをコードする遺伝子の合成は、複数の変異を含むポリメラーゼ連鎖反応(PCR)手順と、続いての、オーバーラップ・エクステンションPCR(SOE−PCR)手順による段階的スプライシングを通じて得られた単位複製配列の組み立てによって達成された[図12(SOE PCRスキーム)、表3(SOE組み立ての詳細)、表4(使用したプライマーの詳細)、図13(PCR結果)、図14(DNA配列電気泳動図)および表5の配列における一連の不一致を参照]。6xHis親和性タグを包含する遺伝子構築物は、対照分子としての未修飾R.marinus Cel12A(RM Cel12A)の同様のクローニング、過剰発現および精製と共にクローニング、過剰発現、および精製した(図15)。2つのタンパク質の質量はMALDI−TOF質量分析法によって確認した(図16)。
【0062】
MT Cel12AはRM Cel12Aと同様に折り畳まれる。
非変性条件下で同じ手順によって精製したMT Cel12A(図3A)およびRM Cel12A(図3C)は、pH8.0でのゲル濾過クロマトグラフィーの間に、モノマー状態を示唆する、同一の溶離体積を示す。塩(100mMNaCl)の存在下でpH5.0にて、MT Cel12Aは溶離で同一の遅延を示し(図3A、3B)、カラムマトリクスと相互作用する疎水性残基クラスタの曝露の可能性を示唆している;このような溶離遅延は、RM Cel12Aの場合も同様、塩の存在下で、pH5.0のとき見られる(図3C、3D)。3桁に及ぶ4つの異なるサンプル濃度でクロマトグラフィーにかけられたMT Cel12Aは、全く同じ溶離体積で溶離され、MT Cel12Aがモノマーであることと、濃度が上昇したときにMT Cel12Aは会合を起こさないことをさらに確認した。
【0063】
MT Cel12A(図3E)およびRM Cel12A(図3F)の遠UV円偏光二色性スペクトルは、相互に類似して、β型(ベータシート)2次構造に特有であり、216nmに匹敵する信号強度の特徴的な最大の負のバンドを持つ。どちらの酵素も、酸性pHから塩基性pHへの移行時に構造の改変を一切起こさない(図3E、3F)。RM Cel12Aスペクトルは、MT Cel12Aのスペクトルではあまり明瞭に見えない追加の負のバンドを〜225−235nmの領域に示し、構造に多少のわずかな相違点があるかもしれないことを示唆している。
【0064】
MT Cel12AはRM Cel12AからそのTを受け継ぐ。
MT Cel12AおよびRM Cel12Aの熱安定性は、平均残基楕円率(MRE)の低下を、25〜98℃で上昇する温度の関数として監視することによって評価した。MT Cel12Aは、pH5.0における構造の完全な溶融(図4B)と、pH8.0における不完全な溶融(図4D)を示す〜93℃のTを示し、それゆえMT Cel12Aが、pH8.0におけるほぼ完全な溶融(図4C)と、pH5.0における不完全な溶融(図4A)を示す96℃のTを示したRM Cel12Aの構造(熱)安定性レベルに匹敵する構造(熱)安定性レベルを持つことを証明している。MT Cel12Aの極度の熱安定性は明らかに、その残基の大部分、すなわちその疎水性コア全体およびその表面の大半が、熱安定性であるRM Cel12Aに由来していることに恩恵を受けている。2つの酵素が2つの異なるpH値での加熱時に完全に非折り畳みを起こすという事実は、おそらく次のように理論的に説明できる。pH5.0にてRM Cel12Aが得られる高い安定性が、このpHにてMT Cel12Aには得られないのは、MT Cel12AがpH5.0にてその最も活性な(そしておそらく、したがって最も構造的に可撓
的である)状態まで進化した活性表面を持つためである;pH5.0における、この活性表面の熱不安定化はおそらく、完了まで進行する溶融工程を開始させる。同じ論拠はおそらくRM Cel12Aにも当てはまり、RM Cel12Aは、pH7.0にて最適活性に進化して、pH8.0またはpH6.0にて匹敵する活性を備えているが、pH5.0のときはるかに低い活性を備える活性表面を有する。それゆえ各酵素は、各酵素が有する活性表面の最適活性のpHにおける(またはその付近の)熱溶融をより受けやすいように見える。
【0065】
MT Cel12AはTR Cel12AそのToaを受け継ぐ。
pH値が0.5で一定している温度の関数として(図5A);50℃の一定温度でpHの関数として(図5B);ならびにpHおよび温度の各種の組み合せに対して(図6)測定した、基質カルボキシメチルセルロース(CMC)上のRM Cel12AおよびMT
Cel12Aによって示される活性は集合的に、いくつかの興味深い洞察を示している。
【0066】
第1に、(a)RM Cel12Aによって示された90℃のToaと比較して、MT
Cel12Aは、TR Cel12Aによって示された50℃の公知のToaに近い、著しく低下した55℃のToaを有する(図5A)。このことは、TR Cel12Aの活性表面が(MT Cel12Aにおいて)RM Cel12Aの構造足場への移植後にさえ、その元の特性を用いて機能しており、Toaが上昇しないことは、42℃高いT(すなわち54℃の代わりに96℃;表6を参照)を備えた足場の利用可能性によって引き起こされたことを証明している。
【0067】
第2に、(b)MT Cel12Aによって示された55℃のToaにもかかわらず、温度特性に対するその活性(図5A)は、TR Cel12Aの公知の対応する特性よりも著しく広範である(図10)。TR Cel12Aが54℃でのその構造の溶融のために活性を示さないことが公知である高温においてさえ、実質的な活性保持がある(たとえば70℃にて最大活性の70%、および90℃にて7〜8%の活性)。したがって、活性表面のToaがほぼ未改変のままであっても、MT Cel12A内で機能する移入TR
Cel12A活性表面に追加の安定性が明らかに付与される。
【0068】
第3に、(c)MT Cel12Aは、RM Cel12Aの最適活性pHよりも1.0単位低い最適活性pH、すなわち7.0の代わりにpH6.0を有し(図5)、MT Cel12A内で機能するTR Cel12Aの自律性をさらに確立して、その移植可能性の基礎を成す原理への裏付けを与える。
【0069】
最後に、(d)pH5.0で50℃のとき、MT Cel12Aは、RM Cel12Aの活性の5分の1を示す(図6)。値はおそらく、突然変異誘発によってさらに改善することができる、その新たな構造的状況での移植活性表面の「脆弱性」のために、他の温度およびpH値にてより低い。これにもかかわらず、MT Cel12AがpH5.0で50℃のときRM Cel12Aのほぼ5分の1の活性であるという事実は、構造構成成分の折り畳みおよび組み立てが、定量的および定性的観点から、新たな酵素内でほぼ完全に生じたことを示唆する。この結果は、改変された足場の(活性に対する)微小構造効果が、導入された変化の奥行きと比較して極めて小さいことも証明する。
【0070】
MT Cel12Aは、TR Cel12A活性表面ならびにRM Cel12A足場および(残存)表面を受け継ぐ。
X線結晶学によってMT Cel12Aの構造を決定した。構造は、識別コード(PDB ID)3B7Mでタンパク質データバンク(PDB)に預託してある。タンパク質はテトラマーとして結晶化する。テトラマーの形状は、各サブユニットが他の2つのサブユ
ニットと相互作用するようになっている。しかし溶解で使用したpHおよびイオン強度条件の下では、すでに言及したように、分子はモノマーであり、貯蔵時にダイマー集団も見られ(データは示さず)、結晶化条件がこのダイマー形のダイマーの析出に好都合であったかもしれないことを示している。モノマー構造の詳細図を、RM Cel12A(赤)およびTR Cel12A(緑)の公知のポリペプチド主鎖構造に対して重ね合されたMT Cel12A(青)の決定された主鎖構造のリボンの概略図が示されている図7のパネルAに示す。図は、MT Cel12Aの主鎖構造の大部分がRM Cel12A、およびTR Cel12Aの主鎖構造に似ていることを明らかにしている。図7のパネルBでは、MT Cel12Aの溝がTR Cel12Aの溝と特徴を共有していることを示すために、残基極性に関してコードされた3つのタンパク質すべての溝の表面図が示されている。図7のパネルCでは、MT Cel12A(緑)およびTR Cel12A(青)の主鎖リボンに重ね合された、活性表面(スティック形)を構成する側鎖の大部分が示され、パネルDは、やや拡大された形で、(明瞭にするため)リボンなしの同じ側鎖を示している。MT Cel12Aの活性表面はTR Cel12Aの活性表面に似ており、移植された残基がどちらの場合でも同じ形状を取ることがただちに明らかとなる。図7のパネルEでは、MT Cel12A(緑)、RM Cel12A(赤)およびTR Cel12A(青)の表面の側面図がすべて同じ角度から示されている。MT Cel12Aの残基の大半およびMT Cel12Aの表面のすべて(活性表面溝を除く)がRM Cel12Aに由来しているので、MT Cel12Aの表面はたいてい、特徴をRM Cel12Aと共有することがわかる。要約すると、36の非隣接変異の導入にもかかわらず、TR Cel12Aに非常に似ている表面(ループ領域における一部のわずかな逸脱は除く)を有する、RM Cel12Aに非常に似た折り畳み構造をMT Cel12Aが取り入れたことを、構造上の詳細は証明している。このことは、MT Cel12AがRM Cel12Aの構造安定性およびTR Cel12Aの物理活性特徴を有することを示す、本発明ですでに紹介された実験的観察に対してさらなる裏付けを与える。
【0071】
結びの考察
MT Cel12Aは、中温菌から非隣接の残基のセット(基質結合に関与する湾曲ベータシートの溶媒曝露表面を構成する)を得て、その残基を使用して好熱菌内の構造的に類似した残基のセットを置き換える(supplant)ことによって、中温菌親の機能特徴に好熱菌親の構造特徴を組み合せる新規な酵素である。もちろん、安定な構造足場の供給は、TR Cel12Aの元のToaがMT Cel12Aへ持ち越されるにもかかわらず、高温における移植活性表面の機能性をかなりの程度まで著しく向上させる。試みられた「活性表面移植」の成功は、酵素におけるToaとTの関連が必須ではないことを証明して、タンパク質操作が酵素の熱安定性および機能性を分析し、独立して組み合せるためにどのように使用できるかを示す。このように完全に再操作された酵素の、結晶化および構造決定を受けやすい形への注目に値する折り畳みおよび機能は、その3次元構造全体のより広範な状況における酵素の活性表面の作用の自律性を証明するだけでなく、生物における酵素の機能性および安定性の自然な同時進化を手っ取り早く実現するための、より広範な酵素で使用できる新規な論理的手法の「概念実証」証明も、自然が通常生じさせないであろう特徴を備えた分子を産生する目標と共に提供する。
【0072】
本発明は、次のステップを使用して実施されるすべてのベータタンパク質の機能挙動の改変に関連付けられている:
1)異なる物理的機能特徴(たとえば酵素機能の最適温度)の、しかし同じ化学的機能特徴(すなわち同じ基質に作用すること)の2つのタンパク質、すなわちAおよびBの同定。
2)所望の操作形質転換の性質の決定、さらにAおよびBのどちらのタンパク質が「ゲスト」またはドナー構造、「ホスト」またはアクセプタ構造であると見なされるかについての決定[たとえばホストタンパク質はその構造安定性が保持されることが望ましいタンパ
ク質、たとえば好熱菌タンパク質であり、ゲストタンパク質はその機能挙動が特異的な残基変化を含む表面移植(下のステップ3〜6に記載するように決定された)を通じてホスト上に移入されることが望ましいタンパク質、たとえば中温菌タンパク質である]。
3)AおよびBのポリペプチド主鎖の重ね合せ。
4)AおよびBにおける類似の表面位置での残基対の同定。
5)基質結合に関与しているAおよびBにおける類似の位置での残基対のサブセットの同定。
6)引き起こされる残基変更(ストランドおよびループ領域からの、隣接、または非隣接である置換、挿入および欠失を含む)の表の決定。
7)変異タンパク質を産生するために、ホスト遺伝子からの適切な変異プライマーおよび野生種鋳型領域を使用して、オーバーラップ・エクステンション(SOE)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるスプライシングによって合成される(不変、および変化残基を含む)標的ポリペプチドアミノ酸配列の作製。
8)正しい遺伝子合成を確認するためのDNA塩基配列決定。
9)親和性タグ(たとえば固定化金属アフィニティクロマトグラフィーでは6xHisタグ)を使用する、酵素のミュータントおよび他の変形のクローニング、過剰発現および精製。
10)生化学および生物物理学的キャラクタリゼーションのための酵素の精製。
11)標準アッセイを使用する、活性の温度に対するプロファイリング。
12)標準アッセイを使用する、活性のpHに対するプロファイリング。
13)2次構造を決定するための遠UV CD分光法。
14)遠UV範囲における円偏光二色性(CD)シグナルの監視による熱溶融特性。
15)無処置酵素の分子量を決定するための質量分析法。
16)タンパク質の4次構造状態(すなわちモノマー、またはマルチマーのどちらか)を決定するためのゲル濾過クロマトグラフィー。
17)酵素の3次元構造を決定して、目的とする変化が起こったかどうかを確認するためのX線結晶学。
次の実施例は本発明の例証のために与えられ、したがって本発明の範囲を制限すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0073】
(実施例1)
中活性熱安定性(MT)Cel12Aの設計
主鎖の重ね合せを計算するために、ソフトウェアLSQMANを使用して、RM Cel12AとTR Cel12Aとの間の構造相同性について研究した。同じソフトウェアを使用して、主鎖重ね合せ可能性のレベルを定量し(図1、パネルA)、2つのタンパク質の表面特徴が著しく異なっているが、主鎖が1.1ÅのRMSDで重ね合せできると判断した(図1、パネルB)。重ね合された主鎖を使用して、2つの酵素内の類似の位置での残基数を決定した(表1)。本情報を使用して、2つの酵素のタンパク質(図2)およびDNA(図11)の構造類似性に基づく配列アラインメントを生成した。次にRM Cel12A酵素の構造の目視検査を実施して、セルロース結合溝および溝周囲の関連する領域を構成する残基を同定した。これらの残基は、タンパク質における湾曲した上ベータシートを構成するベータストランドおよび介在ループに位置することが判明した。湾曲したベータシートを形成する鎖の領域は、RM Cel12A鎖の位置8−29、53−77、100−140、159−167、200−210それぞれに当たる一連の残基によって定義される。RM Cel12Aの上述の一連の残基内の各残基について、側鎖が上のセルロース結合溝内を向いているか、または側面上の溝を裏打ちしている(すなわちセルロース性基質と相互作用する可能性を伴う)か、または溝を裏打ちする壁の外面上に位置する(基質と相互作用する可能性なし)かどうかを決定した。側鎖は表2の1列目に示したRM Cel12Aの活性表面を構成する残基のサブセットを構成した。次に、TR
Cel12Aの配列/構造内の対応する類似残基を調査して、RM Cel12A内の各残基について、TR Cel12A内の類似残基もセルロース結合表面の形成に関与するかどうかを判断した。ストランド内に位置するすべての残基について、そしてループ内の大半の残基について、構造類似残基の各対の両方の構成成分が全く同じ構造配置を有すること、すなわち両方が上方のセルロース結合表面(活性表面)のほうに向くか、または下方の下ベータシートのほうを向くか、または側面のほうを向くかのいずれかであることを見出した。それゆえ、RM Cel12Aの活性表面を構成することが特定された同定残基のサブセットは、表2の2列目に示す、TR Cel1Aの類似体を有する。しかし、類似残基対は残基位置すべてについて存在したわけではないことに注目してよい。ある領域において、ループは重ね合せできなかった。したがって残基の置換および挿入の最終的な定義は、表2に示すように、残基の非類似ループも含んでいた。一部の残基が2つの酵素内に保存されたことに注目してよい。これらの残基は、表面移植中に変異される必要がなかった。RM Cel12A、MT Cel12A、およびTR Cel12Aのタンパク質配列について、構造に基づく複数配列アラインメントを図2、パネルAに示す。
表1:LSQMAN重ね合せプログラムによって生成された(RMSDデータとの)類似残基の対。表は、構造重ね合せがあった残基対のみ示す。重ね合せができないループは上に示していない。
表2:活性表面移植の詳細。表は、RM Cel12AおよびTR Cel12Aの各活性表面溝に側鎖を与える構造類似残基のすべての対を示す。ベータストランドを構成する残基は緑色で強調されたブロックに示す。移植によって保存された残基は黄色で示す。他の残基はストランドを連結するループからであり、側鎖は溶媒のほうを向いている。重要な注記:上の表には、下シートのほうへ下向きになっている、上シート上の残基ではなく、溶媒のほうを向いている、上シートおよび表面ループ上に存在する残基のみを挙げている。
【表1】

【表2】

【0074】
(実施例2)
MT Cel12Aの構造のモデル化
移植タンパク質(MT Cel12A)のモデル生成は、RM Cel12Aの残基の座標をTR Cel12Aの構造類似残基の座標にコンピュータで置換することにより、MT Cel12Aの座標ファイルを最初に作成することによって行われた。原子の隆起および結合角の異常は、AMBER8.0(DRMS0.01;最急降下および共役勾配法を使用)を使用したエネルギー最小化によって除去した。モデルは図2Bに全原子表面
の表示で、RM Cel12AおよびTR Cel12Aの同様の表示と共に示す。
【0075】
(実施例3)
遺伝子合成、クローニングおよびDNA塩基配列決定
天然発生型RM Cel12A酵素の組み換え形と、組み換え非天然発生型中活性熱安定性酵素MT Cel12Aとをコードする2つの遺伝子を作製した。遺伝子合成に使用したスキームの詳細、PCRおよびスプライシング・バイ・オーバーラップ・エクステンション(SOE)PCRに使用したプライマーおよび条件、ならびに合成された遺伝子の全配列およびコードされたアミノ酸配列をそれぞれ、図11、表3および4ならびに図12、および図13に示す。遺伝子合成が(i)RM Cel12AおよびMT Cel12Aの両方をコードする遺伝子内の開始N末端残基(トレオニン)をコードするコドンの直前に先行するBam HI制限部位(消化を促進するために、その5’端にて12塩基対オーバーハングに隣接した)、(ii)最後のC末端残基(グルタミン)をコードするコドンに続く停止コドン、および(iii)停止コドンの直後に続くHind III制限部位(消化を促進するために、その3’端にて12塩基対オーバーハングに隣接した)を含んでいたことに注目できる。Bam HIおよびHind III制限部位は消化されて、pQ
E−30(クイアゲン)ベクター内への遺伝子の挿入および結合を可能にする。選択マーカー(アンピシリン耐性)に加えて、ベクターは誘導プロモータ、転写開始部位、翻訳開始部位、およびN末端アフィニティタグ(N−MRGSHHHHHGS−C)を与える。タグの最後の2残基、すなわちGおよびSをコードするためにベクターで使用された塩基は共にBam HI部位を構成して、合成された遺伝子の挿入を可能にする。ベクターはHind III部位の後で停止コドンも与えるが、すでに言及したように、C末端グルタ
ミンの直後のHind III部位の前に停止コドンを使用することを選んだ。結合された
ベクターの形質転換は、遺伝子型hsdR17recA1lacF’[proAB + lacI lacZ D15 Tn10 (tet)]を担持するコンピテント大腸
菌XL−I Blue細胞内で行った。クローンの選択は、テトラサイクリンとアンピシリンを含有するLBプレート上で行った。クローンの自動DNA塩基配列決定を実施するために、Applied Biosystems DNAシーケンサ(3130XLアナライザ)を使用した。プラスミドは、ABIminiPrepキットを使用してXL−I
Blue細胞から精製した。熱−(サイクル)−塩基配列決定反応は、タンパク質のN末端をコードする遺伝子領域によって解読するために使用した、配列5’−CGGATAACAATTTCACACAG−3’を持つベクター特異的フォワードプライマー、またはタンパク質のC末端をコードする領域によって解読するために使用した、配列5’−GTTCTGAGGTCATTACTGG−3’を持つベクター特異的リバースプライマーのいずれかを用いて実施した。反応はABIレディ反応ミックス(Big Dye Terminator v3.1サイクル塩基配列決定RR−100)を、96℃での変性(5分間)と、続く30サイクルの96℃での変性(1分間)、50℃でのアニーリング(1分間)、および60℃での伸長(2分間)で使用した。分析装置に注入する前に、EDTAによる洗浄を含む標準手順によって、反応後精製を実施した。MT Cel12Aをコードする遺伝子の配列を示す電気泳動図を図14に記載する。
表3:遺伝子断片合成および組み立ての配列(PCR and SOE−PCR条件)
表4:遺伝子合成に使用したプライマーの配列
表5:配列情報の不一致を示す表
【表3】

【表4】

【表5】

【0076】
(実施例4)
タンパク質の発現と精製
小規模精製:振盪フラスコ内に総体積2リットルで調製したXL−I blue細胞の2次生成物を37℃にて〜0.6のO.D600まで培養して、0.4mM IPTGを用いて誘発した。RM Cel12Aの産生のために、細胞を誘発の4時間後に収集したが、MT Cel12Aでは、高い収率を得るためには、12時間後に収集するほうがよいことを発見した。収集した細胞は溶解させ、容離を1Mイミダゾールで実施したこと以外に、非変性条件下での標準Ni−NTAベースのアフィニティ精製(クイアゲン)を受けさせた。純粋な折り畳みタンパク質を得るために、イミダゾールは後で透析した。MT
Cel12Aの非変性精製PAGE特性を図15Aおよび15Bに、RM Cel12Aの非変性精製PAGE特性を図15Cおよび15Dに示す。
【0077】
大規模精製:超音波処理またはdynamillによる溶解を、誘発の12時間後に培養物から収集した細菌細胞に使用して、50mM NaHPO、300mM NaCl、pH8.0に再懸濁させた。遠心分離による細胞片除去の後に、上清への硫酸アンモニウムの80%飽和レベルまでの添加が続き、この後には沈殿したタンパク質の遠心分離による収集が続いた。沈殿したタンパク質をpH5.0の10mMクエン酸緩衝液に溶解させて、微量の硫酸アンモニウムを除去するために透析を実施した。存在するRM Cel12A、またはMT Cel12A酵素以外の(これらのタンパク質のどちらが精製されるかによって)、溶解液中の細菌細胞質タンパク質すべてを熱変性および熱沈殿させるために、65℃にてクエン酸緩衝液に15〜30分間にわたって再溶解させたタンパク質の加熱を実施した。この後に遠心分離を続けて、熱で沈殿したタンパク質を除去して、クマシー染色SDS−PAGEで1本のバンドとして区別可能である、純粋なRM Cel12AまたはMT Cel12Aを上清中に残した。
【0078】
(実施例5)
質量分析法
精製したRM Cel12AおよびMT Cel12Aは、Voyager DE−STRmALDI−TOF質量分析計によって質量決定を行った。得られた質量値は十分に、これらの質量範囲の質量精度を決定する際の予想誤差範囲内であった。さらなる詳細は図16の凡例に示す。
【0079】
(実施例6)
遠UV CD分光法
波長走査および温度(構造溶融)走査のためにJasco J−810分光偏光計で、0.1〜0.3mg/mlの範囲のタンパク質濃度を使用し、路長0.1または0.2 cmのキュベットを使用して、Nガスを1分間に6〜9リットルで流しながら250〜195nmの範囲で生楕円率(θ)を走査して、CDスペクトル測定を行った。固定波長(218nm)でのpH依存性走査では、25℃における218nmのθ値を完全折り畳み状態とみなし、そしてθがゼロの時を完全非折り畳み状態に相当すると見なすことによって、生の観察された楕円率値を部分非折り畳み値に変換した。標準波長走査では、式[θ]={θobs×100×平均残基重量}/{濃度(mg/ml)×路長(cm)}を使用して、生θ値を平均残基楕円率値に変換した。CD結果を図3および4に記載する。
【0080】
(実施例7)
ゲル濾過クロマトグラフィー
SMARTクロマトグラフィックワークステーション(Pharmacia)に連結されている、事前に較正され、事前に適切に平衡にされた微量分析Superdex−75ゲル濾過カラム(床容積2.4ml)を使用して、pH5.0またはpH8.0の緩衝液中の通常条件下の、各種濃度の塩の存在下にて、各種のタンパク質濃度を使用して、RM
Cel12AおよびMT Cel12Aの流体力学的容積および溶離挙動を調査した。較正データを図17、パネルAに、MT Cel12Aへの解離が一切ないことを示す対照(モノマー状態をさらに裏付ける)を図17、パネルBに示す。
【0081】
(実施例8)
エンドグルカナーゼ酵素活性アッセイ
標準DNSストッピングベース法(stopping−based method)(Miller et al.,1960.Anal.Biochem.2,127−132)によって、MT Cel12AおよびRM Cel12Aの酵素活性をアッセイした。多様な温度(固定pH)での、または多様なpH(固定温度)における総酵素活性には、下に詳説する条件を使用した。温度走査(図5A)−各温度でのインキュベーションのために、pH5.0クエン酸緩衝液(最終濃度35mM)中、0.1mg/mlのMT Cel12A最終濃度および100mM、pH5.0のNaCl濃度を使用した。各実験について反応体積は水を用いて1mlにして、これに1.8% CMC(カルボキシメチルセルロース)1mlを添加して、溶液を1時間インキュベートした。各温度で合計5回のこのような実験を実施した。RM Cel12Aでは、pH5.0クエン酸緩衝液(最終濃度35mM)において、0.04mg/mlの酵素最終濃度および100mM、pH5.0のNaCl濃度を使用した。反応体積は同様に1mlにして、これに1.8%CMC1mlを添加して、溶液を20分間インキュベートした。各温度で合計5回のこのような実験を実施した。それぞれ2mlを含有する各の試験管を次の温度:10、20、30、40、50、60、70、80、および90℃でインキュベートした。RM Cel12Aについては、100℃でも測定を行った。インキュベーション後にDNS(ジニトロサリチル酸)試薬3mlを各試験管に添加して、試験管を15分間沸騰させて、CMC基質に対するセルラーゼの作用によって遊離された還元糖とDNSとの反応によって色を発生させた。対照反応物も、酵素なしでインキュベートした。発色は550nmにおける吸
収測定によって概算して、対照による値(〜0.03)を減算した。還元糖を概算するためにグルコースによる標準較正プロットも作成したが、監視されていた関連パラメータが相対活性であったため、これらは報告されていない。得られた最高活性は100%であると見なし、残りの活性は観測された最大活性のパーセンテージ値に変換した。pH走査(図5B)−各pHでのインキュベーションのために、適切な緩衝液(最終濃度35mM)中、0.1mg/mlのMT Cel12A最終濃度および100mMのNaCl濃度を使用した。反応体積を1mlにして、これに1.8%CMC1mlを添加し、溶液を50℃にて1時間インキュベートした。各pHで合計5回のこのような実験を実施した。RM
Ce11Aでは、適切な緩衝液(最終濃度35mM)中、0.01mg/mlの酵素最終濃度および100mMのNaCl濃度を使用して、1mlにし、これに1.8%CMC1mlを添加して、溶液を50℃にて20分間インキュベートした。各pHで合計5回のこのような実験を実施した。3、4、5、6、7、8、9、および10の範囲のpH値で上の混合物をそれぞれ2ml含有する各種の試験管。3.0〜6.0の範囲のpHでは、クエン酸緩衝液を使用した。pH7.0〜9.0では、トリス緩衝液を使用した。pH10.0では、炭酸塩/重炭酸塩緩衝液を使用した。DNSを用いた発色反応は、上の温度走査と全く同様に実施した。得られた最高活性は100%であると見なし、残りの活性は観測された最大活性のパーセンテージ値に変換した。同一条件下でのRMおよびMT Cel12A活性の比較(図6)−比較のために、RMおよびMT Cel12Aの両方に、次の絶対同一条件下で活性アッセイ処理した:同じ最終濃度(0.1mg/ml)の両方の酵素を100mMnaClの存在下で45mMクエン酸緩衝液(pH5.0での比較のために)または45mMトリス緩衝液(pH8.0での比較のために)中に取り、1mlとし、1.8%CMC1.0mlに添加して総体積を2mlとした。インキュベーションを3通りずつ、50℃および90℃の2つの異なる温度にてそれぞれ1時間にわたって、両方のpH値にて、両方の酵素を使用して実施した。DNSを用いた発色反応は、上の温度およびpH走査と全く同様に実施した。
【0082】
(実施例9)
タンパク質パラメータ
RM Cel12A。長さ:236残基(12残基長N末端アフィニティタグを配列N−MRGSHHHHHHGS−Cと共に含む)。分子量:26215.93Da。吸光係数(280nm):92940。280nmにおける1O.Dは0.28mg/mlに等しい。等電点(pI):5.53。 MT Ce112A。長さ:227残基(12残基
長N末端アフィニティタグを配列N−MRGSHHHHHHGS−Cと共に含む)。分子量:25037.01Da。吸光係数(280nm):56,000。280nmにおける1O.Dは0.45mg/mlに等しい。等電点(pI):5.39
表6:タンパク質の構造−生化学および物理化学特性。中活性熱安定性酵素(MT Cel12A)について測定した特性を、文献から公知の中温菌(TR Cel12A)および好熱菌(RM Cel12A)前駆体の特性と共に、比較チャートに示す。
【表6】

RM Cel12AおよびMT Cel12Aに存在するN−MRGSHHHH
HHGS−Cタグの長さを除く。
RM Cel12AおよびMT Cel12Aに存在するN−MRGSHHHH
HHGS−Cタグの質量を除く。
本発明者のRM Cel12Aクローンは、N末端メチオニンを除去したため、
タグの後にわずか224の残基しかない。
TR Cel12AおよびRM Cel12Aの詳細は公開されている文献、ま
たは本発明者のデータによるものである。TR Cel12Aの詳細は、Sandgren et al.,2003.Protein Science 12,848−860;Simmons,1977,Second Intl.mycol.Congress,Tampa,Fla.pp.618;Karlsson et al.,2002.J.Biotechnol.99,63−78による。RM Cel12Aの詳細は、Crennel et al.,2002.J.mol.Biol.320,883−897;Bjornsdottir et al.,2006.Extremophiles 10,1−16;Hallorsdottir et al.,1998.Appl.microbiol.Biotechnol.49,277−284による。
【0083】
(実施例10)
構造決定
タンパク質は、約10mg/mlの開始タンパク質濃度を次の条件下:0.2M NaHPO−HO、20% PEG3350、pH4.5で、ハンギングドロップ蒸気拡散法を使用して結晶化させた。結晶は20℃にて2〜3日で、0.5×0.4×0.8mmの大きさまで成長した。データは、回転アノードX線発生装置(Rigaku UltraX、日本)と画像プレート検出装置(MARresearch、ドイツ)を使用して収集した。結晶は2.3Å解像度まで回折させた。データは、HKLのプログラム一式(Denzo and Scalepack)を使用して、換算およびスケーリングした。構造は、モデルとしてのRM Cel12Aと、CCP4に実装したようなMOLREPプログラムを使用して、分子置換方法によって決定した。精緻はCNSとCCP4を使用して実施した。モデルはグラフィックワークステーションで、Cootプログラムを使用してフーリエおよび差フーリエマップを計算することによって点検した。誤差がないか点検するために、PROCHECKプログラムとWHATCHECKプログラムを使用してモデルを検証した。モデルと構造因子は、タンパク質データバンク(PDB IDNo.3B7M)に預託している。
【0084】
利点
・本発明で解明された設計原理は、配列同一性のレベルとは無関係であるが、しかし、特に移植に関与する2つの酵素の類似領域において、ドナー(ゲスト)酵素とアクセプタ(
ホスト)酵素の主鎖の、重ね合せ可能性のレベルに大きく依存する方式で、いずれのタンパク質/酵素からのベータシート構造に基づくいずれの活性表面の、構造的に相同のタンパク質/酵素への「移植」を容易にする。
・本発明によって証明されたような、酵素活性表面の移植の成功は、ホスト構造が活性表面機能を支えるすべての条件下で保持される限り、酵素活性表面がそのホスト構造の支持構造足場の構造および安定性とはほぼ無関係に作用することが可能である酵素微細構造および機能の自律単位であることを明らかにしている;そのようなものとして、この発見(および関連する手法)により、研究者らは本発明で示すように、酵素の構造安定性を生物の2つの全く異なるドメインからのタンパク質活性特徴と組み換えることができる。
・本発明は、酵素の物理的機能特徴、たとえばその最適活性の温度を調節するための正確な理論的手法の使用を初めて証明する。
・本発明は、酵素内の活性部位の機能特徴の相違が、触媒作用に直接関与する残基のみではなく、基質分子に結合する表面の特徴(構造/安定性/可撓性/化学的性質)の相違に大きく恩恵を受けていることを証明する。
・本発明はベータシート構造の使用によって原理を示しているが、概念と手法を慎重な構造解析によって、らせん構造と他の構造も含む表面の移植に適用することができる。
・本発明は小型分子基質に対する結合および触媒作用を含む活性表面の移植を示しているが、この概念および手法は触媒化学活性を一切含まないタンパク質−タンパク質間相互作用およびタンパク質−小型分子間に適用することができる。
・本発明は酵素の表面の一部のみの移植を示しているが、この概念および手法は、1つの酵素のコアの構造安定性と別の相同の酵素の表面の特徴および機能性とを、自然が普通は促進しない方法で組み合せるために、酵素間、または非酵素タンパク質間の表面全体の移植に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
好熱菌タンパク質の構造安定性特徴および中温菌タンパク質の活性特徴を備えた組み換え中活性熱安定性タンパク質。
【請求項2】
主に非隣接のアミノ酸のセットが、構造的に相同なタンパク質の構造的に同等の位置に生じる別の非隣接のアミノ酸のセットによって置換されている単一の構造ドメインを備えたタンパク質を含む、請求項1に記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質。
【請求項3】
「ゲスト」または「ドナー」前駆タンパク質の表面の一部または全部が「ホスト」または「レシピエント」前駆タンパク質の構造コアへ効果的に移植される、請求項1または2に記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質。
【請求項4】
ゲストおよびホスト前駆タンパク質が相同構造および同じ機能を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質。
【請求項5】
ゲスト前駆タンパク質が中温菌タンパク質であり、ホスト前駆タンパク質が好熱菌タンパク質である、請求項1〜4のいずれかに記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質。
【請求項6】
相同のゲストおよびホスト前駆タンパク質の機能活性表面領域がベータシートに基づく2次構造より成る、請求項1〜5のいずれかに記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質。
【請求項7】
使用した好熱菌ホスト前駆タンパク質および中温菌ゲスト前駆タンパク質が配列番号:1および配列番号:2によってそれぞれ表されるアミノ酸配列を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質。
【請求項8】
配列番号:1によって表される前記ホストタンパク質の構造安定性特徴(熱安定性)および配列番号:2によって表される前記ゲストタンパク質の活性特徴(中活性)を有する、配列番号:3によって表されるアミノ酸配列を含む、請求項1〜7のいずれかに記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質。
【請求項9】
次の特徴:
i. 分子量:20〜30キロダルトン;
ii. 残基数:約200〜300;
iii. 等電点:4〜8;
iv. 最適活性のpH:4〜8;
v. 溶融温度(T)によって定義された熱安定性:80〜95℃;
vi. 最適活性の温度(TOA)によって定義される中活性:30〜60℃;
を有する、請求項1〜8のいずれかに記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質。
【請求項10】
前記タンパク質およびその前駆体がヒドロラーゼの群に属する単一ドメインベータシートタンパク質の構造クラスの酵素であり、セルラーゼ、キシラナーゼ、アミラーゼおよびプロテアーゼから成る群より選択され、好ましくはセルラーゼである、請求項1〜9のいずれかに記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質。
【請求項11】
生体触媒としても機能することができる、請求項1に記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質。
【請求項12】
ホスト前駆タンパク質の構造安定性特徴と、ホスト前駆タンパク質とは異なりかつ構造
的に相同のゲスト前駆タンパク質の活性特徴とを含む組み換え中活性熱安定性タンパク質の設計方法。
【請求項13】
構造的に相同のホストおよびゲスト前駆タンパク質が、ベータシートに基づく2次構造に位置する残基によって基質結合および触媒機能が供給される構造を含む、請求項12に記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質の設計方法。
【請求項14】
a. ゲストおよびホスト前駆タンパク質の構造を重ね合せて、好ましくは基質結合および触媒機能を含む構造の領域において、ポリペプチド主鎖のレベルでその構造の重ね合せ可能性の程度を概算するステップと、
b. ステップ(a)の情報を使用して、ホストおよびゲスト前駆タンパク質のタンパク質配列およびコードDNA配列の構造類似性に基づく配列アラインメントを生成するステップと、
c. ベータシートに基づく「活性表面」を構成するホスト前駆タンパク質の配列内の特定のアミノ酸残基を同定し、ステップ(b)より得た整列配列を使用して、ゲスト前駆体タンパク質における対応する類似非隣接残基および残基の群を同定するステップと、
d. 2つのタンパク質の活性表面を構成するホストおよびゲスト前駆タンパク質からの対応する2組のアミノ酸残基において同一である特定の残基を決定し、同一残基を除去して2つのタンパク質内の構造的に同等の位置で発生する、対応する同一でない残基のセットを得るステップと、
e. ゲスト前駆タンパク質内の対応する残基と同一でない前記ホスト前駆タンパク質の「活性表面」内の残基を、後者のタンパク質内の残基で置き換えて、それにより新規な中活性熱安定性タンパク質を構成するステップと、
f. 新規な中活性熱安定性タンパク質を公知の組み換えDNA法で生合成して、公知の方法によるタンパク質の単離および精製を続けるステップと、
g. 活性測定によって、所望の中活性熱安定性タンパク質におけるホスト前駆タンパク質の構造安定性特徴ならびにゲスト前駆タンパク質内の物理および化学活性特徴を確認するステップと、
を含む、組み換え中活性熱安定性タンパク質の設計方法。
【請求項15】
生成物の前記中活性熱安定性タンパク質の構造コアを構成するアミノ酸は残基2つの前駆タンパク質の一方から得られるが、前記生成物タンパク質の表面の一部または全部を構成する残基は他方の前駆タンパク質から得られる、請求項12〜14のいずれかに記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質の設計方法。
【請求項16】
前記2つの前駆タンパク質が、0.5〜2.5オングストロームの平均平方根偏差(RMSD)まで重ね合せ可能であるその主鎖原子の座標と構造的に相同である、請求項12〜15のいずれかに記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質の設計方法。
【請求項17】
使用した前記ホストおよびゲスト前駆タンパク質の両方での最適機能および構造的溶融の温度が5℃以内である、請求項12〜16のいずれかに記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質の設計方法。
【請求項18】
前記2つの前駆タンパク質の前記構造的に相同の「活性表面」領域が主に、ベータシートに基づく2次構造より成る、請求項12〜17のいずれかに記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質の設計方法。
【請求項19】
使用した前記ゲスト前駆体が配列番号:1の好熱菌タンパク質RM Cel12Aである、請求項12〜18のいずれかに記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質の設計方法。
【請求項20】
使用した前記ゲスト前駆体が配列番号:2の好熱菌タンパク質TR Cel12Aである、請求項12〜19のいずれかに記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質の設計方法。
【請求項21】
生成物の前記タンパク質の構造コアを構成するアミノ酸残基はRM Cell2Aより得られるが、前記生成物タンパク質の表面の一部を構成する残基はTR Cell2Aより得られる、請求項12〜20のいずれかに記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質の設計方法。
【請求項22】
RM Cel12AおよびTR Cel12A前駆タンパク質が、0.5〜2.5オングストロームの平均平方根偏差(RMSD)まで重ね合せ可能であるその主鎖原子の座標と構造的に相同である、請求項12〜21のいずれかに記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質の設計方法。
【請求項23】
RM Cel12AおよびTR Cel12Aの両方での最適機能および構造的溶融の温度が5℃以内である、請求項12〜22のいずれかに記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質の設計方法。
【請求項24】
RM Cel12AおよびTR Cel12Aにおける構造的に相同の「活性表面」領域が主に、ベータシートに基づく2次構造より成る、請求項12〜23に記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質の設計方法。
【請求項25】
配列番号:3の生成物MT Cel12Aが、ホスト前駆体の活性表面を含む残基を、ゲスト前駆体の活性表面を含む構造的に類似した残基で置き換えることによってホスト前駆体から得られる、請求項12〜24のいずれかに記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質の設計方法。
【請求項26】
得られた新規の中活性熱安定性(MT Cel2A)生成物が、前記中温菌ゲスト前駆体TR Cell2Aの活性の最適温度および相同の前記好熱菌ホスト前駆体RM Cell2Aの構造安定性を持つ、請求項12〜25のいずれかに記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質の設計方法。
【請求項27】
前記中活性熱安定性タンパク質(MT Cel2A)が次の特徴:
i. 分子量:20〜30キロダルトン;
ii. 残基数:約200〜300;
iii. 等電点:4〜8;
iv. 最適活性のpH:4〜8;
v. 溶融温度(T)によって定義された熱安定性:80〜95℃;
vi. 最適活性の温度(TOA)によって定義される中活性:30〜60℃;
を有する、請求項12〜26のいずれかに記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質の設計方法。
【請求項28】
酵素活性の化学的特徴および基質の化学的定義を改変することなく、酵素の物理的機能特徴を調節するのに有用である、請求項12〜18のいずれかに記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質の設計方法。
【請求項29】
酵素の構造安定性を生物の2つの大きく異なるドメインタンパク質安定性および活性特徴で組み換えるのに有用である、請求項12〜19のいずれかに記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質の設計方法。
【請求項30】
前記中活性熱安定性タンパク質が、デニム繊維のストーンウォッシュなどの織物産業での用途に有用である、請求項12〜19のいずれかに記載の組み換え中活性熱安定性タンパク質の設計方法。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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【図16】
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【図17】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図13−A】
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【図13−B】
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【図13−C】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2010−509206(P2010−509206A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535190(P2009−535190)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【国際出願番号】PCT/IN2007/000521
【国際公開番号】WO2008/056376
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(596020691)カウンスィル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ (42)
【氏名又は名称原語表記】COUNCIL OF SCIENTIFIC & INDUSTRIAL RESEARCH
【Fターム(参考)】