説明

組み立て式ハウス用構造体および組み立て式ハウス

【課題】梁および柱を用いることなく任意の形状のハウスを組み立てることができる組み立て式ハウス用構造体およびこの構造体を用いた組み立て式ハウスの提供を目的とする。
【解決手段】板状発泡体2の表面に、線状発熱体により形成され、板状発泡体の平面視直線状であるスリット3を設け、このスリットが板状発泡体の厚さ方向断面視直線状であるか、または曲線状であり、また、このスリットが形成された面と反対側の面にプラスチックフィルム4が貼着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梁および柱を用いることなく複数の板状体を相互に接合して組み立てられる組み立て式ハウス、この組み立て式ハウスに使用できる板状発泡体からなる組み立て式ハウス用構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜や花などを栽培するために多用されている温室は、梁や柱で枠体を組み立て、この枠体の外周をビニールシートで覆った形式のハウスが多い。また、保温性を高めるためにビニールシートの代わりに発泡体を用いる例も知られている。特に、切り花、果物、各種野菜等の青果物を所望期間鮮度を維持しつつ保存するためのドーム形冷温倉庫として、波形鋼材を用いて構成されたドーム形建築構造体の周囲に、断熱層としてプラスチック発泡体を組み合わせたドーム形冷温倉庫が知られている(特許文献1)。
発泡スチロールを用いた例としては、発泡スチロールを構成材とする複数のドーム片を集合し、内部に半球状の空間を形成した組み立て式発泡スチロールドームが知られている(特許文献2)。また、組み立て式発泡スチロール家屋を組み立てるための分割片の製造方法として、骨格形状の補強部材を金型に組み込む工程と、金型内に発泡スチロールの原料を封入し、金型および補強材を貫通して設けた加熱孔から高圧蒸気を吹き込んで加熱し、成形体を得る工程と、成型体の表面に塗料を吹き付ける工程とを有する製造方法が知られている(特許文献3)。
しかしながら、上記ドーム形冷温倉庫、組み立て式発泡スチロールドームまたは組み立て家屋は、波形鋼材などの補強剤を必要とするものであった。また、組み立て式発泡スチロール家屋を組み立てるための分割片にしても、所定の形状に成形するための比較的価格の高い金型を必要としている。このため、分割片ひいては組み立て家屋自体の形状が特定され組み立て家屋等を使用する顧客の要望を満足できないのが実情である。さらに、分割片が積み重ねできない大きな形状となる場合も多く、工場から組み立て現場までの梱包コスト、搬送コストが過大になるという問題があった。
【0003】
製造現場などで、湾曲した壁面へ断熱施工を容易に行なうことができる硬質合成樹脂発泡板断熱材として、一方の面に不織布を貼着した硬質合成樹脂発泡板の他方の面に溝加工を施してなる発泡板断熱材が知られている(特許文献4)。また、容易にかつ確実に出隅部の型枠施工を行なうことができる出隅用型枠パネルとして、発泡プラスチックからなる断熱層の片面に面材が積層され、断熱層を湾曲させる領域に複数本の平行なスリットが形成されているパネルが知られている(特許文献5)。
しかしながら、これらの発泡板断熱材は、壁面や型枠等に設置されるもので、この合成樹脂発泡板断熱材自身を構造材で使用するものではなく、構造体の付属品となるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−329444
【特許文献2】特開2007−63987
【特許文献3】特許3905843号
【特許文献4】特開平7−229213
【特許文献5】特開平10−159223
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、所定形状に成形するための特定の新規金型を使用することなく、汎用されている従来の平板状金型および切削加工で成形することができ、かつ梁および柱を用いることなく任意の形状のハウスを組み立てることができる組み立て式ハウス用構造体およびこの構造体を用いた組み立て式ハウスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の組み立て式ハウス用構造体は、板状発泡体の表面にスリットを設け、このスリットが形成された面と反対側の面にプラスチックフィルムが貼着されていることを特徴とする。
また、上記スリットが線状発熱体により形成され、板状発泡体の平面視直線状であることを特徴とする。
また、上記スリットが板状発泡体の厚さ方向断面視直線状であるか、または曲線状であることを特徴とする。
【0007】
本発明の組み立て式ハウスは、梁および柱を用いることなく複数の板状体を相互に接合して組み立てられる組み立て式ハウスであって、その板状発泡体が本発明の組み立て式ハウス用構造体を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の組み立て式ハウス用構造体は、板状発泡体の表面にスリットを設け、このスリットが形成された面と反対側の面にプラスチックフィルムが貼着されているので、スリット部分で内側に任意に折り曲げることができる。そのため、施工主が希望するオリジナルな形状の組み立て式ハウスを容易に製造できる。また、プラスチックフィルムが貼着されているので、機械的強度がより向上する。
本発明の組み立て式ハウス用構造体は、汎用されている従来の平板状金型で成形することができるので、所定形状に成形するための特定の新規金型を必要としない。そのため、製造工程が容易で製造コストを低減できる。さらに、組み立て式ハウス用構造体が板状であり、また、ハウス製造現場で組み立てることができるので、仕掛中の製品保管時、製品搬送時のスペースを確保することができ、保管および搬送費を軽減することができる。
【0009】
本発明の組み立て式ハウスは、上記本発明の構造体を使用するので、梁および柱を用いることなく複数の板状体を相互に接合して組み立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】組み立て式ハウス用構造体の斜視図である。
【図2】板状発泡体に形成されるV字状スリットである。
【図3】板状発泡体に形成される隣接V字状スリットである。
【図4】板状発泡体に形成されるV字状と円弧状とを組み合わせたスリットである。
【図5】台形の組み立て式ハウス用構造体である。
【図6】ドーム型形状の屋根である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の組み立て式ハウス用構造体を図1により説明する。図1は組み立て式ハウス用構造体の斜視図である。
組み立て式ハウス用構造体1は、板状発泡体2の一方の面にスリット3が設けられ、このスリット3が設けられた面と反対側の面にプラスチックフィルム4が貼着されている。
【0012】
板状発泡体2は、有機樹脂に発泡剤を添加して加熱時に発生するガスを利用して成形したり、反応性樹脂が反応時に発生するガスを利用して成形したりする発泡成形法により製造できる。成形方法は板状発泡体を製造するための従来の金型を用いて発泡成形される。板状発泡体は、板厚さを比較的厚く成形して、この成形体を面方向にスライスして板状体としてもよく、また薄板状の金型を用いて発泡成形させてもよい。
【0013】
板状発泡体2を構成する発泡体は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などの樹脂の種類、分解型発泡剤や蒸発型発泡剤などの発泡手段、射出発泡法や押出し発泡法などの成形方法、発泡倍率10〜20倍以下の低発泡や40〜80倍の高発泡などの発泡倍率、独立または連続気泡などの気泡構造等は、建築用パネル等の種類や用途により種々選択することができる。
たとえば、特に耐水性を必要とする場合には独立気泡構造が好ましい。本発明にあっては、発泡ポリスチレン、ポリスチレンとポリオレフィンとの共重合体からなる発泡変性ポリスチレン、発泡ポリエチレンや発泡ポリプロピレンなどの発泡ポリオレフィン、発泡ウレタンが好ましく、特に発泡倍率10〜50倍程度の発泡ポリスチレンおよび/または発泡変性ポリスチレンが組み立て式ハウス用構造体やこれらを用いた複合板としての強度や軽量化を図る上で好適である。また、特に強度を必要とする場合、発泡倍率15〜30倍が好適である。
【0014】
板状発泡体2の板厚さtは特に制限がないが、野菜や花などを栽培するためのビニールハウスに代わる温室の場合、50〜200mm、好ましくは50〜100mmの板厚さである。50mm未満ではハウスを組み立てたときの機械的強度が弱くなり、また、200mmをこえると組み立て作業性が低下する。
【0015】
板状発泡体2に貼付けされるプラスチックフィルム4は、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム等のポリエステルフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等のポリオレフィンフィルム、ポリ塩化ビニルポリプロピレン等が挙げられる。ハウスを組み立てたときの機械的強度が高く、取り扱いが容易なポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
プラスチックフィルム4のフィルム厚さt'としては、0.5〜2.0mm、好ましくは0.5〜1.0mmである。0.5mm未満では強度不足であり、また2.0mmをこえると組み立て作業性に劣る。
【0016】
プラスチックフィルム4と板状発泡体2との貼着は、熱圧着であっても、あるいは接着剤を用いる貼着であってもよい。本発明にあっては、剥離防止および強度確保するとの理由でボンド塗布による熱圧着の方法が好ましい。
また、プラスチックフィルム4の貼着は、板状発泡体2のスリット3形成面の反対側の全面に貼着することが好ましい。全面に貼着することにより、ハウスを組み立てたときの機械的強度を維持できる。なお、後述する線状発熱体でスリットが容易に形成できる場合には、板状発泡体2の両面にプラスチックフィルム4を貼着することができる。
【0017】
板状発泡体2に形成されるスリット3は線状発熱体により形成される。この線状発熱体はニクロム線など断面形状が円形の発熱線であり、通電により発熱する。例えば、板状発泡体2の長辺または短辺に平行に、板状発泡体2の上方から板状発泡体2に接触させ上下および前後に移動させることにより図1に示すスリット3を形成できる。線状発熱体の上下および前後移動の距離、移動速度、角度等は予め数値制御で設定することができる。このため、スリット3の厚さ方向断面に任意の断面形状のスリットを形成できる。
【0018】
板状発泡体2に形成されるスリットの厚さ方向断面形状は、直線状、曲線状、またはこれらの組み合わせであることが好ましい。具体的には厚さ方向断面視V字状、U字状、I字状、円弧状など任意に形成できる。また、これらを組み合わせてもよい。スリットを形成しやすいV字状が好ましい。また、スリット加工の方向はハウスを組み立て時に組み立て式ハウス用構造体1を曲げる方向に垂直な方向が好ましい。すなわち、組み立て式ハウス用構造体1の長辺または短辺に平行な方向にスリットを形成することが好ましい。なお、スリットは長辺および短辺に平行または斜め方向に交差して設けることができる。
【0019】
板状発泡体2に形成されるスリット3について、図2〜図4により説明する。図2はV字状スリットであり、図3はV字状スリットを隣接して設けた例であり、図4はV字状と円弧状とを組み合わせた例である。
図2に示すように、板状発泡体2に所定の間隔t1を有してV字状スリット3aが形成される。この間隔t1は等間隔であっても、あるいは折り曲げるときの曲率を考慮して不等間隔であってもよい。組み立て式ハウス用構造体1の汎用性を維持するためには等間隔であることが好ましい。
スリット3aの開いた距離t2は、上記t1と同等か、それよりも小さく、折り曲げるときの曲率を考慮して定められる。また、スリット3aの深さt3は組み立て式ハウス用構造体1が折り曲げできる範囲であれば特に制限はない。組み立て式ハウス用構造体1はプラスチックフィルム4が貼着されているので、スリット3aの深さt3が板状発泡体2の厚さt以下であればよい。
【0020】
図3に示すように、板状発泡体2にV字状スリット3bを隣接して連続に設けることができる。このV字状スリット3bを有する組み立て式ハウス用構造体1は、組み立て式ハウスの外形に円形を設ける場合に好ましく用いることができる。スリット3bの開いた距離t5を調節することで、楕円等の外形も形成できる。スリット3bの深さについては、スリット3aの深さと同様である。
【0021】
スリット3は線状発熱体により形成するので、図4の部分断面に示すように、板状発泡体2にV字状スリットと円弧状スリットを組み合わせたスリット3cを設けることができる。スリット3cは厚さ方向断面視においてスリットの一方側3c1がV字状であり、他方側3c2が円弧状である。
このスリット形状とすることにより、スリット3cの開いた距離t6を調節しやすくなる。すなわち、施工現場で円弧状側3c2の先端部分3c3の長さをナイフ等でスリットに平行に切断することにより、距離t6を拡げることができる。その結果、組み立て式ハウス用構造体1の折り曲げ角度を大きくできる。
【0022】
組み立て式ハウス用構造体1の平面視形状は正方形、長方形、多角形とすることができる。例えば、長方形の場合、カマボコ型形状の屋根を組み立てることができ、台形の場合、ドーム型形状の屋根を組み立てることができる。台形の組み立て式ハウス用構造体の例を図5に、この構造体を用いて組み立てたドーム型形状の屋根を図6に示す。
図5に示すように、台形の組み立て式ハウス用構造体1aは平面視形状が台形であり、台形の底面に平行にスリット3が形成されている。
スリット3に沿って構造体1aを折り曲げると共に、組み立て式ハウス用構造体1aの側面5を相互に接合することで、図6に示す、ドーム型形状の屋根を組み立て製造することができる。
【0023】
本発明の組み立て式ハウス用構造体は、金型または切削により板状発泡体を製造後に、その板状発泡体の一面にプラスチックフィルムを熱圧着または接着剤により貼着する。プラスチックフィルムが貼着された面と反対側の面にスリットを形成する。その後必要に応じて平面視長方形や台形に切り分けることで組み立て式ハウス用構造体が製造できる。
【0024】
本発明の組み立て式ハウスは梁および柱を用いることなく上記構造体の側面同士を相互に接合することで組み立てることができる。接合方法としては接着剤を好ましく使用することができる。組み立て時においては、上記組み立て式ハウス用構造体のみでもよく、あるいは、組み立て式ハウス用構造体とスリットを有しない板状発泡体を併用してもよい。
このようにして組み立てられた組み立て式ハウスは、野菜や花などを栽培するための温室として、小規模な家庭用としてベランダ等でも利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の組み立て式ハウス用構造体は板状であり、また、これを用いてハウス製造現場で梁および柱を用いることなく容易に組み立てることができる。このため、温室などの簡易な組み立てハウスに利用できる。
【符号の説明】
【0026】
1 組み立て式ハウス用構造体
2 板状発泡体
3 スリット
4 プラスチックフィルム
5 組み立て式ハウス用構造体の側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状発泡体の表面にスリットを設け、このスリットが形成された面と反対側の面にプラスチックフィルムが貼着されていることを特徴とする組み立て式ハウス用構造体。
【請求項2】
前記スリットが線状発熱体により形成され、前記板状発泡体の平面視直線状であることを特徴とする請求項1記載の組み立て式ハウス用構造体。
【請求項3】
前記スリットが前記板状発泡体の厚さ方向断面視直線状であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の組み立て式ハウス用構造体。
【請求項4】
前記スリットが前記板状発泡体の厚さ方向断面視曲線状であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の組み立て式ハウス用構造体。
【請求項5】
梁および柱を用いることなく複数の板状体を相互に接合して組み立てられる組み立て式ハウスであって、前記板状体が請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の組み立て式ハウス用構造体を含むことを特徴とする組み立て式ハウス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−136883(P2012−136883A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290626(P2010−290626)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(591080874)日本ケミカル工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】