説明

組成物と治療用抗腫瘍ワクチン

本発明は、宿主において、抗原を発現する細胞、特に腫瘍細胞に対する細胞障害性細胞応答を誘導し、かつ該抗原を含有する赤血球を含む組成物に関する。これらの赤血球は、樹状細胞による該赤血球の貪食を促進するように、赤血球の表面上のエピトープを認識する免疫グロブリン、特にIgGとの免疫複合体の形でもよく、及び/又は熱処理もしくは化学処理される。変更態様として、赤血球は異種赤血球でもよい。本発明はまた、治療薬、特にこのような組成物を含有する抗腫瘍ワクチンに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国仮特許出願第60/954,917号(2007年8月9日出願)、およびフランス国特許出願第FR0705767号(2007年8月8日出願)(いずれも参照することにより本明細書に組み込まれる)の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、宿主において抗腫瘍目的の細胞障害性応答を誘導する組成物に、及びまたこの組成物を含有する治療用抗腫瘍ワクチンに関する。
【背景技術】
【0003】
腫瘍抗原に対する自然の免疫応答は余り有効ではなく、腫瘍が抗腫瘍免疫応答を逃れる種々の機構が証明されている。通常のワクチンによるアプローチは体液性応答を発生するが、これは不充分であることが証明されている。
【0004】
抗原提示細胞(APC)に基づいて(特に樹状細胞に基づく)細胞障害性応答を発生させることを目的とする方法が研究されている。この原理は、患者自身の免疫防御機構を刺激して患者の癌細胞を特異的に破壊することである。
【0005】
樹状細胞は、腫瘍細胞に特異的な細胞障害性エフェクターを生成するのに非常に有効な抗原提示細胞(APC)である。これは、腫瘍細胞から生じるアポトーシス細胞又はアポトーシス小体を貪食し、次にMHCクラスI及びクラスII分子とともに腫瘍抗原をTリンパ球に提示することができる。すなわち樹状細胞は、特異的細胞障害性Tリンパ球のクローンの増殖と生成を開始させることができる。この反応の最後で、こうして分化したキラーリンパ球は、リンパ球コンパートメントから離れて、生体中を循環し、腫瘍中で結合する。次に腫瘍により発現される抗原の認識が、溶解シグナルを誘導し、腫瘍細胞の破壊をもたらす。
【0006】
樹状細胞を標的とするいくつかの抗癌ワクチン法が研究されている(Eymard JC, Bernard J, Bull Cancer, 2003, 90(8-9): 734-43)。これらのいくつかはインビトロで樹状細胞を操作することに基づき、別の方法は、インビボで樹状細胞を刺激することに基づく。最初のケースでは、患者から採取した血液細胞から樹状細胞を分化させる:これは培養され、成熟され、「パルス」され、すなわちエクスビボで腫瘍ペプチド、腫瘍溶解物、アポトーシス性腫瘍細胞、又は自己由来腫瘍から抽出した熱ショックタンパク質で刺激され、最後に患者に再注入される。第2のケースでは、樹状細胞を標的とするペプチド、タンパク質、放射線照射腫瘍細胞、又は抗原性ペプチドを含有するウイルスを患者に注入後、樹状細胞の刺激が行われる。しかし得られる細胞障害性応答は、あまり臨床的効力は無い。樹状細胞の活性化は、細胞障害性Tリンパ球を有効に活性化するその能力を「調整」する。樹状細胞の活性化レベルは、このワクチン法の難しい点である。
【0007】
抗腫瘍ワクチンを得るためのエクスビボの樹状細胞の使用には、いくつかの問題(2次リンパ器官に遊走し、有効な細胞障害性T応答を誘導できる樹状細胞を生成するための、樹状細胞の成熟状態、注入される細胞の数、注入経路、部位、及び頻度)が生じる(Banchereau J, Schuler-Thurner B, Palucka AK, Schuler G. [Dendritic cells as vectors for therapy] Cell. 2001, 10, 106(3): 271-4)。
【0008】
インビボでの樹状細胞の活性化は、腫瘍抗原の弱い免疫原性と、樹状細胞を充分なレベルに活性化する困難さにより限定される。
赤血球中に封入されているか又はその表面に結合してAPCに送られる抗原を運搬するための担体としての赤血球の使用は、いくつかの文献で企図されている。引き起こされた免疫応答は、インビトロとインビボで研究されている。
【0009】
Hamidiらは最近、ヒト赤血球中の抗原のモデルとしてBSA(ウシ血清アルブミン)の封入を記載した(Hamidi M et al., Drug Deliv., 2007;14(5): 295-300、及びInt J Pharm., 2007, 29, 338(1-2): 70-8)。著者らは、網内系(RES)APCへの抗原提示のためのベクターとして、赤血球の使用を示唆した。Hamidoらにより発表された別の総説(J. Control. Release, 2007, 118(2): 145-60)では、著者らは、RESのターゲティング(このターゲティングは、赤血球の老化により促進され、こうしてこれらを取り込み溶解する)を促進するために、いくつかの方法が研究されていることを示した。安定化剤(特に架橋剤)への赤血球の曝露、脾臓を標的とするIgG型の又は肝臓を標的とするIgM型の抗RH抗体による赤血球の被覆、熱ショック、又は酸化剤、酵素、もしくは抗生物質への曝露などの他の経路が言及されている。
【0010】
体液性免疫応答は、抗原装填赤血球で免疫後にインビボで得ることができる。Murrayらにより行われた試験は、以下の4つの抗原[KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)、BSA(ウシ血清アルブミン)、CTB(コレラ毒素bサブユニット)、及びADA(ウシアデノシンデアミナーゼ)]の1つを装填したマウス赤血球の静脈内注射後に、マウスでIgG免疫グロブリンを検出することを可能にした。IgG1とIgG3(これらは、Th2応答中の主要な免疫グロブリンイソタイプである)およびIgG2(Th1応答のマーカーである免疫グロブリンイソタイプ)の検出は、両方のタイプの免疫応答(体液性応答と細胞性応答)の関与を示唆するであろう(Murray AM et al., Vaccine., 2006 28, 24(35-36): 6129-39)。
【0011】
赤血球で使用される別の処方の抗原が、Dominiciらにより試験された。HIV−1ウイルスのTatタンパク質が、アビジン/ビオチン結合を用いてマウス赤血球の表面に固定された。樹状細胞によりインターナリゼーションされたこの処方の抗原を腹腔内注射してマウスを免疫すると、インビボで体液性免疫応答が誘発された。検出された免疫グロブリンのイソタイプの解析は、Th1応答とTh2応答の誘導を示す。抗原に結合した赤血球で処理したマウスについて、通常のクロム放出法により、インビトロで抗Tat細胞障害活性が証明された(Dominici S et al., Vaccine., 2003 16, 21(17-18): 2073-81)。
【0012】
同じ処方を用いてCorintiらによりインビトロで、細胞性応答が証明された。CD4+及びCD8+応答の誘導と同様に、ヒト単核細胞から得られた細胞死滅によりTatタンパク質と結合した赤血球の貪食が証明された。さらにインターフェロンガンマの存在下で樹状細胞を成熟させると、I型免疫応答が促進された(Corinti S. et al., Leukoc. Biol. 2002, 71(4): 652-8)。
【0013】
Bobergらは、アビジン/ビオチン系を用いてマウス赤血球の表面に固定したHIV−1プロテアーゼから得られたペプチドからなるワクチンを、マウスに腹腔内注射した。彼らは、APCによりその認識を促進する目的で、赤血球を化学的に修飾したが、弱い免疫応答が得られた。彼らは、抗原性ペプチドによる赤血球の限定された装填と注入された血液容量のために、供給された少量の抗原は、APCによる抗原認識を促進するはずの担体の化学的修飾により補償されなかったと、結論付けた(Boberg A. et al., Infect. Agents Cancer., 2007, 182: 9)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、免疫療法アプローチに従って、癌の治療に使用できる組成物とワクチンとを提供することを目的とする。
【0015】
従って本発明の目的は、宿主において腫瘍細胞に対する細胞障害性細胞応答を誘導し、かつ腫瘍抗原を含有する赤血球を含む組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】脾臓樹状細胞による、抗TER119抗体で処理された「抗原装填」赤血球の貪食のインビトロでの測定。
【図2】脾臓マクロファージ及び樹状細胞による、抗TER119抗体で処理されたか又は熱処理された「抗原装填」赤血球の貪食のインビボでの測定。
【図3】マウスに注射後3日目のオバルブミン特異的CD4 T細胞の増殖と活性化を示すグラフ。(A)細胞分裂はCFSE蛍光強度の低下を誘導する。各分裂により、OVA特異的CD4 T細胞はその蛍光物質の半分を失う。バッチ4で観察されるピークは、多量のCFSEを含有する非分裂細胞を示す。他のすべてのピークは、1、2、3、4、5、6、又は7回の細胞分裂を受けた細胞を示す。細胞が8回より多く分裂すると、細胞のCFSE含量は実質的にゼロになる。(B)CD44細胞活性化マーカーの発現は、分裂が起きる回数の関数として表される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
「宿主」という用語は、好ましくはヒトを示すが、動物、特にペット(特にイヌ又はネコ)やスポーツ用の動物(特にウマ)も示す。
本発明において赤血球は、抗原を含有すなわち封入し、これは、抗原が赤血球内にあるか又は基本的にあることを意味する。
【0018】
赤血球は好ましくは、APCによる、特に樹状細胞によるその貪食を促進するように設計、選択、又は修飾される。特に該赤血球は、脾臓及び肝臓中でその貪食を促進するように設計、選択、又は修飾され、基本的な目的は、脾臓のAPCを標的とすることである。
【0019】
好適な実施態様において本発明の組成物は、抗原を含有し脾臓を標的とする赤血球を含む。この組成物は、脾臓中のAPC、特に樹状細胞によるこれらの赤血球の貪食を促進する。
【0020】
第1の実施態様において赤血球は腫瘍抗原を含有し、かつ特に樹状細胞による該赤血球の貪食を促進するように、赤血球の表面のエピトープを認識する免疫グロブリンとの免疫複合体の形である。この組成物はまた、マクロファージによる貪食を促進することを可能にする。好ましくは免疫グロブリンは免疫グロブリンGである。
【0021】
免疫複合体の生成には、赤血球と少なくとも1つの抗体、好ましくはIgGサブタイプの抗体が関与する。樹状細胞はその表面に、免疫グロブリンG(IgG)の定常Fc領域の受容体を有する。これらの受容体は、こうして生成された抗原−IgG免疫複合体の貪食又はインターナリゼーションを開始することができ、かつMHCクラスI及びII分子による抗原提示を促進して、CD4+ヘルパーリンパ球及び特にCD8+細胞障害性リンパ球の生成を引き起こすことができる(A. Regnault et al., J. Exp. Med., Janvier 1999, 189(2): 371-80)。
【0022】
適切な抗体として、抗アカゲザル抗体、抗グリコホリンA抗体、及び抗CR1抗体(CR1=補体受容体I型)が言及される。抗グリコホリンA抗体(A. Bigbee et al., Mol. Immunol., December 1983, 20(12): 1353-62)が好適である。
【0023】
好ましくは免疫複合体を形成するのに使用されるヒト起源の赤血球は、ドナーに由来する異種赤血球である。
【0024】
第2の実施態様において、特に樹状細胞による赤血球の貪食を促進するように、赤血球は腫瘍抗原を含有しかつ熱もしくは化学修飾される。この組成物はまた、マクロファージによる貪食を促進することを可能にする。
【0025】
熱処理は特に以下の条件下で行われる:赤血球を、約42〜約55℃、好ましくは約47〜51℃の温度で、約15〜約90分、好ましくは約25〜約50分加熱。典型的には赤血球は、約48〜約50℃で、例えば約48℃で、約30分加熱される。
【0026】
化学処理は、赤血球の表面を修飾する物質を使用して、特にブリッジング剤もしくは架橋剤、例えばビス(スルホスクシニミジル)スベリン酸(BS3又はBS3)、グルタルアルデヒド、又はノイラミニダーゼを使用して行われる。
【0027】
具体的な実施態様において、少なくとも2つのターゲティング法が組合わされ、例えば組成物は、免疫複合体の形の抗原含有赤血球を含み、脾臓及び/又は肝臓、特に脾臓でのその取り込みと、APC特に樹状細胞による貪食を促進するように、熱処理又は化学処理される。
【0028】
第3の実施態様において、抗原含有赤血球は異種である。異種赤血球をヒトに注射すると、注射された赤血球に患者の自然の抗体が結合する。こうして形成された免疫複合体は、APC特に樹状細胞による貪食を促進する。好ましくは該赤血球はブタ起源である。
【0029】
具体的な実施態様において、異種赤血球は、その貪食を促進するように熱で又は化学的に修飾される。
【0030】
本発明の組成物は、1つ又はそれ以上の腫瘍抗原を含んでよい。数個の腫瘍抗原がある時、該腫瘍抗原は好ましくは、1つのタイプの腫瘍又は腫瘍細胞に対する免疫応答を誘導するように選択される。
【0031】
この組成物は好ましくは、処理される腫瘍を代表する少なくとも2つの腫瘍抗原を含む。この目的は、より有効な免疫応答を生成するように、それぞれが特異的抗原性ペプチドを認識する細胞障害性Tリンパ球の数個のクローンを生成することである。
【0032】
具体的な実施態様においてこの組成物は、それぞれが異なる抗原を封入している少なくとも2つの赤血球集団を含む。
【0033】
本明細書で使用可能な最も良く知られた抗原を、以下の表に分類して示す。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
Van der Bruggenらは、Tリンパ球により認識され、本発明の癌免疫療法アプローチで使用できるすべてのヒト腫瘍抗原を参照するデータベースを作成した:http://www.cancerimmunity.org/peptidedatabase/Tcellepitopes.htm。
【0039】
他の抗原が本発明で使用され、例えばガストリン17、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン、EGFRvIII、HER2、HER2/neu、P501、グアニリルシクラーゼC、PAPがある。
【0040】
抗原という用語は、抗原が適切な免疫応答を開始できる限り、天然のもしくは合成もしくは人工起源の抗原、治療される患者由来の抗原、抗原断片、誘導体もしくは変種を包含する。抗原は、例えば抽出されるか、化学合成されるか、又は遺伝子操作により産生される。
【0041】
有効な免疫応答を生成するために、樹状細胞は活性で成熟しており、サイトカイン及びケモカインを産生でき、Tリンパ球の動員と活性化に必要な共同刺激分子を発現できなければならない。
【0042】
APC特に樹状細胞を刺激するために、種々のタイプのアジュバントを使用することができる。細菌もしくはウイルスRNAもしくはDNA、熱ショックタンパク質(HSP)、糖、免疫複合体、及びサイトカインは、特異的受容体(Toll様受容体TLR、マンノース受容体)の刺激を介してAPC成熟特に樹状細胞成熟を誘導する種々の因子である。マクロファージ及び樹状細胞はすべてが、その表面上に同じ受容体を発現するわけではない。従ってアジュバントの選択は、ヒトで細胞障害性免疫応答を生成することができる分子であって、本発明の赤血球を取り込む細胞の表面(従って特に樹状細胞の表面)にその受容体が存在する分子に関する。
【0043】
ある実施態様においてアジュバントは、赤血球内に封入されているか、又は赤血球の表面に結合している分子である。これらは好ましくは、抗原を含有する赤血球である。
【0044】
あるいはアジュバントは、別に処理される他の赤血球内に封入されるか、又はその表面に結合する。これらの赤血球はまた、APC特に樹状細胞によるその貪食を促進するように修飾又は選択される。従ってこれらは、上記したように、免疫複合体の形であるか、又は熱でもしくは化学的に修飾されるか、又は異種である。
【0045】
別の実施態様においてアジュバントは、別のアジュバント組成物であり、これは、抗原を含有する赤血球と同時に又は別に投与することができる。
【0046】
言うまでもないが、アジュバントが別の組成物(赤血球組成物またはアジュバント組成物)中にある限り、アジュバントは、抗原を含有する赤血球と、別の投与として又は混合物の形で同時に投与されるか、又は別に、例えば抗原を含む赤血球の投与後に、特に数時間もしくは数日間離れて投与することができる。
【0047】
使用可能なアジュバントの中で、まず以下の好適なアジュバントが言及される。
− TLR(Toll様受容体)リガンド、特にイミダゾキノロン類、例えば好ましくは、イミダゾキノリン、例えばイミダゾキノリンCL097、イミキモド、レシキモド;CpGオリゴデオキシヌクレオチド;LPS(リポ多糖);ポリ(イノシン酸)−(ポリシチジル酸ポリ(I:C));
− サイトカイン、特にインターフェロンアルファ、IL−2(インターロイキン2)、IFNγ(インターフェロンガンマ)、GM−CSF(顆粒球モノサイト−コロニー刺激因子)、IL−12(インターロイキン12)、TNFα(腫瘍壊死因子アルファ)。
【0048】
使用可能な他のアジュバントの中で、特に以下のものが言及される:
− 細菌成分、特にBCG(バシルスカルメットゲラン)、MDP(ムラミルジペプチド)、TDM(トレハロースジミコレート)、LPS(リポ多糖)、MPL(モノホスホリル脂質A);
− ミネラルアジュバント、特に:水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸カリウム、及びリン酸カルシウム;
− 細菌毒素、特に:CT(ビブリオ・コレラ(Vibrio cholera)のコレラ毒素)、CTB(ビブリオ・コレラ(Vibrio cholera)のコレラ毒素)、PT(百日咳菌(Bordetella pertussis)の百日咳毒素)、LT(大腸菌(Escherichia coli)の熱不安定性リンホトキシン);
− KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)。
【0049】
赤血球中に活性成分を封入する技術は公知であり、本発明に好適な溶解−再封鎖による基本的方法は、当業者が参照する特許EP−A−101341号及びEP−A−679101号に記載されている。この方法では、透析要素の一次コンパートメント(例えば、透析チューブ又は透析カートリッジ)に赤血球懸濁物が連続的に供給され、一方2次コンパートメントは、赤血球を溶解するために赤血球懸濁物に対して低張である水溶液を含む;次に、再封鎖ユニットでは、浸透圧及び/又はコロイド浸透圧を上昇させることにより、腫瘍抗原の存在下で赤血球の再封鎖が誘導され、次に腫瘍抗原を含有する赤血球の懸濁物が採取される。
【0050】
現在までに記載されている変更態様の中では、フランス国特許出願第0408667号が好ましく、これは、腫瘍抗原を効率的に、再現性良く、安全かつ安定に封入することを可能にする。この方法は以下の工程を含む:
【0051】
1. 65%又はそれ以上のヘマトクリットレベルで、+1〜+8℃に冷却しながら、等張溶液中に赤血球ペレットを懸濁、
2. 該赤血球ペレットからの赤血球の試料を使用して、浸透圧脆弱性を測定するが、工程1と2は任意の順序で実施可能である(並行して行ってもよい)、
3. 65%又はそれ以上のヘマトクリットレベルの赤血球の懸濁液と、+1〜+8℃に冷却した低張溶解溶液とを、透析カートリッジ中を通過させることを含んでなる、+1〜+8℃で一定温度を維持した同じチャンバー内での腫瘍抗原の溶解とインターナリゼーションプロセス;溶解パラメータは、あらかじめ測定した浸透圧脆弱性に従って調整される;及び
4. 温度は+30〜+40℃で、かつ高張溶液の存在下で、第2のチャンバー中で再封鎖プロセスを行う。
【0052】
「インターナリゼーション」とは、赤血球内への腫瘍抗原の浸透を意味する。
特に透析において、赤血球ペレットは、65%又はそれ以上、好ましくは70%又はそれ以上の高いヘマトクリットレベルで、等張溶液に懸濁され、この懸濁物は+1〜+8℃、好ましくは+2〜6℃、典型的には+4℃の範囲に冷却される。具体例では、ヘマトクリットレベルは65%〜80%、好ましくは70%〜80%である。
【0053】
浸透圧脆弱性は有利には、溶解工程の直前に赤血球で測定する。赤血球又はこれらを含有する懸濁物は有利には、溶解のために選択された温度に近いか又はこれと同じ温度である。本発明の別の有利な特徴では、浸透圧脆弱性の測定は迅速に行われ、すなわち溶解工程は試料を採取後短時間で行われる。好ましくは、試料採取と溶解開始との間の時間は、30分又はそれ以下、さらに好ましくは25分又はそれ以下、さらには20分又はそれ以下である。
【0054】
浸透圧脆弱性が測定され考慮される溶解−再封鎖プロセスが行われる方法において、当業者は、さらなる詳細についてフランス国特許出願第0408667号を参照することができる。
【0055】
本発明の1つの特徴において本発明の組成物は、最終的に約40%〜約70%、好ましくは約45%〜約55%、さらには約50%のヘマトクリットレベルの赤血球懸濁液を含む。これは好ましくは、約10〜約250mlの容量でパッケージされる。パッケージングは好ましくは、輸血に適したタイプの血液バッグに行われる。処方に対応する封入腫瘍抗原の量は、好ましくは完全に血液バッグ内に含有される。
【0056】
本発明の目的はまた、本発明の1つ又はそれ以上の組成物の有効量を含む治療用抗腫瘍ワクチンである。すなわちこのワクチンは、封入もしくは非封入アジュバントの存在下もしくは非存在下で、1つ又はそれ以上の腫瘍抗原を封入する赤血球の集団を含む本発明の組成物を含むか、又は封入もしくは非封入アジュバントの存在下で、1つ又はそれ以上の腫瘍抗原を封入する赤血球の異なる集団を含む本発明の少なくとも2つの組成物を含む。
【0057】
本発明の目的はまた、患者で腫瘍細胞又は腫瘍に対する細胞障害性細胞応答を誘導する方法である。この方法は、本発明の組成物の有効量を、特に静脈内に、注射又は点滴により、好ましくは点滴により、投与することを含む。この方法は特に、患者の樹状細胞及びCD8+細胞障害性細胞応答の活性化を誘導することが目的である。上記したように、特異的CD4+ヘルパー及びCD8+細胞障害性応答が得られる。
【0058】
本発明の目的はまた、患者で、腫瘍細胞又は腫瘍に対して上記の細胞障害性細胞応答を誘導するための抗癌療法である。この方法は、患者に、本発明の抗腫瘍ワクチンの有効量を、特に静脈内に、注射又は点滴により、好ましくは点滴により、投与することを含む。
【0059】
本発明の1つの特徴では、ヘマトクリットレベルが約40%〜約70%、好ましくは約45%〜約55%、さらには約50%である、約10〜約250mlの赤血球懸濁液が投与される。
【0060】
本発明の目的はまた、治療用抗腫瘍ワクチンの製造のための、本発明の組成物の使用である。
本発明の目的はまた、樹状細胞により仲介され、腫瘍細胞又は腫瘍に対する細胞障害性細胞応答を宿主で誘導するための、本発明の組成物の使用である。
本発明の別の目的は、治療用抗腫瘍ワクチンとして使用される本発明の組成物である。
【0061】
本発明は、非限定例により及び添付図面を参照して、実施態様で詳細に説明される。
【実施例】
【0062】
実施例1.マウス及びヒト赤血球およびブタ赤血球へのオバルブミン封入法
変更態様1:
低張透析法により透析チューブで、オバルブミン(タンパク質45kDa、雌鳥卵のオバルブミン)をマウス赤血球(OF1マウス又はC57Bl/6マウス)に封入した。赤血球懸濁液を数回洗浄後、透析のためにヘマトクリットを70%とする。透析チューブ中で低浸透圧の溶解緩衝液中で、約1時間又は30分間透析を行い、ここで熱処理後に透析が起きる。次に赤血球を、高浸透圧溶液を用いて30分間再封鎖する。数回洗浄後、最終生成物を緩衝液(Sag−マンニトール)に取り、ヘマトクリットを50%にする。
【0063】
実施例1の変更態様2:
透析カラムで低張透析法により、マウス赤血球中にオバルブミンを封入する。赤血球懸濁液を数回洗浄後、透析のためにヘマトクリットを70%とする。透析カラム中で低浸透圧の溶解緩衝液中で約10分間、透析を行う。赤血球がカラムを出たら、高浸透圧溶液を用いて赤血球を37℃で30分間再封鎖する。数回洗浄後、最終生成物をグルコースSAGマンニトール又は脱補体血漿を含有するNaCl緩衝液に取り、ヘマトクリットを50%に戻す。
【0064】
実施例2.赤血球の熱処理
実施例1の変更態様1に従って封入を行う時、透析法の前に熱処理を行う。実施例1の変更態様2に従って封入を行う時、透析と再封鎖の後でかつ洗浄工程とNaClグルコース緩衝液の添加前に、熱処理が行われる。
【0065】
赤血球を数回洗浄後、ヘマトクリットを10%にする。次にこれらを48℃で30分間加熱する。
【0066】
実施例3.オバルブミンを含有する赤血球の抗体処理
オバルブミンを含有する赤血球の懸濁液を数回洗浄後、インビボ試験用に109細胞/mlに、インビトロ試験用に108細胞/mlにする。これを抗TER119抗体(インビトロ試験用に10μg/ml、インビボ試験用に23μg/ml又は5μg/ml)とともに4℃で30分間インキュベートする。数回洗浄後、注射可能な品質の緩衝液中に最終生成物を取り、ヘマトクリットを50%にする。
【0067】
実施例4.オバルブミンを含有する赤血球のビス(スルホスクシニミジル)スベリン酸(BS3)による化学処理
オバルブミンを含有する赤血球の懸濁液を数回洗浄後、PBSで1.7×106細胞/μlとし、1容量の2mM BS3(グルコースとリン酸緩衝液を含むBS3溶液、pH7.4)と混合し、1mMのBS3最終濃度を得る。細胞を室温で30分間インキュベートする。1容量の20mMトリス塩酸を加えて、反応をクエンチする。室温で5分間インキュベーション後、混合物を800gで4℃で5分間遠心分離する。次に細胞を、グルコースを含有するPBSで2回洗浄(800gで遠心分離)し、SAG−マンニトールで1回10分間洗浄(1000gで遠心分離)し、次に最終生成物を構成する。
【0068】
実施例5.樹状細胞によるオバルブミン含有赤血球の貪食のインビトロの測定
樹状細胞による、実施例1の変更態様1で得られた赤血球の貪食効率に対する種々の処理(熱及び抗体)の効果をインビトロで測定する。赤血球を蛍光標識物であるCFSE(カルボキシフルオレセインスクシニミジルエステル)で、4℃で20分間標識する。CFSEは、細胞膜中を拡散する非蛍光性染料である。いったん細胞内に入ると、この分子は細胞内エステラーゼにより切断されて蛍光性になる。
【0069】
樹状細胞は、磁性ビーズを使用してC57Bl/6マウスの脾臓から単離される。これらのビーズは、CD11cマーカーを認識する抗体を有し、こうしてCD11c+樹状細胞画分を単離することができる。
【0070】
次にCFSE標識又は非標識赤血球を樹状細胞(10×106細胞/ml)と20:1の比率で、丸底96ウェル培養プレートのウェル当たり200μlの容量で、37℃、5%CO2で4時間インキュベートする。4時間培養後、樹状細胞により摂取されなかった赤血球をNH4Clで溶解し、数回洗浄する。次に樹状細胞によるCFSE蛍光色素の捕捉をフローサイトメトリーにより測定する(R. Segura et al., J. Immunol., January 2006, 176(1): 441-50)。
【0071】
赤血球の3つの集団を試験した:
(A)オバルブミンが装填され、CFSE蛍光色素で標識していない赤血球、
(B)オバルブミンが装填され、CFSEで標識された赤血球、
(C)オバルブミンが装填され、抗TER119抗体で処理し、CFSEで標識した赤血球。
【0072】
結果
【0073】
【表5】

【0074】
オバルブミンが装填され抗TER119抗体で処理されたマウス赤血球は、4時間の同時培養後、脾臓から単離した樹状細胞により、インビトロで未処理赤血球より効率的に貪食された(図1、それぞれCとB)。樹状細胞の36%は、抗体を運搬する赤血球を貪食し、一方抗体の非存在下ではわずかに27%であった。CD11c樹状細胞マーカーを発現しない集団による抗体処理赤血球の貪食も観察された(10.9%;図1、C)。
【0075】
実施例6.マウスの脾臓及び肝臓のマクロファージ及び樹状細胞によるオバルブミン含有赤血球の貪食のインビボの測定
この試験は、オバルブミンを含有するOF1マウス赤血球が同族ではないC57Bl/6マウスに注射されるため、同種異系試験である。
【0076】
熱処理した、抗TER119抗体で処理した(それぞれ実施例2と3に記載されている)、又は処理されていない、オバルブミンを装填した(実施例1の変更態様1)、OF1マウスからの74×107個の赤血球の3つのバッチを調製した。これらのバッチを以下の方法で分割した:
【0077】
バッチ1:熱処理も抗体処理も無し(図2、AとD)
バッチ2:熱処理した(図2、BとE)
バッチ3:抗TER119抗体で処理した(図2、CとF)
【0078】
各バッチはCFSEで標識され、C57Bl/6マウスに静脈内注射される。注射の3時間後、マウスの血液、脾臓、及び肝臓を取り出す。マウスの血液中を循環している蛍光赤血球の割合をフローサイトメトリーにより測定する。F4/80マーカーを発現する脾臓マクロファージ中(図2、A、B、C)に、F4/80マーカーを発現する肝臓マクロファージ中に、そしてCD11cマーカーを発現する脾臓樹状細胞中(図2、D、E、F)に取り込まれた蛍光を、フローサイトメトリーにより測定する。
【0079】
結果
【0080】
【表6】

【0081】
オバルブミンを装填しかつ熱処理されたか又は抗TER119抗体で処理されたマウス赤血球は、注射の3時間後、マウスの血液中にほとんど存在せず(1.6%と1%)、一方、未処理のオバルブミン装填赤血球はマウスの血液中にまだ存在する(4.6%)。
【0082】
熱処理されたか又は抗TER119抗体で処理された赤血球は、脾臓のF4/80マクロファージおよびCD11c樹状細胞により貪食される(図2)。
【0083】
抗TER119抗体で処理された赤血球は、熱処理赤血球又は未処理赤血球より効率的に、脾臓のF4/80マクロファージにより貪食された(図2、A、B、C)。脾臓マクロファージの82%は抗体処理赤血球を貪食したが、熱処理赤血球を貪食したマクロファージは68%であり、未処理バッチ中ではわずかに28%であった(表2)。
【0084】
熱処理又は抗体処理赤血球もまた、未処理赤血球より効率的に、CD11c樹状細胞により貪食された(図2)。それぞれ22%と19%の樹状細胞は抗体処理赤血球及び熱処理赤血球を貪食し、未処理赤血球の場合はわずかに5%であった(表2)。
【0085】
CD11c樹状細胞マーカーもF4/80マクロファージマーカーも発現しない脾臓からの集団による抗体処理赤血球の貪食も観察された(11.9%と12.8%、図2)。
【0086】
【表7】

【0087】
熱処理赤血球又は抗TER119抗体で処理した赤血球は、肝臓のF4/80マクロファージにより貪食される。
【0088】
抗TER119抗体で処理された赤血球は、熱処理赤血球又は未処理赤血球より効率的に、肝臓のF4/80マクロファージにより貪食された。肝臓マクロファージの50%は抗体処理赤血球を貪食し、一方マクロファージの40%は熱処理赤血球を貪食し、未処理バッチ中ではわずかに24%であった(表3)。
【0089】
結論として、赤血球への抗体の結合及び熱処理は、脾臓や肝臓中の赤血球の効率的なターゲティングを可能にし、これらの赤血球を貪食できる樹状細胞やマクロファージの割合を大きく上昇させた。
【0090】
実施例7.骨髄マクロファージ及び樹状細胞による、蛍光性オバルブミンを含有するマウス赤血球の貪食のインビボの測定
OF1マウス赤血球がOF1マウスに注射されるため、この試験は自家試験である。
【0091】
実施例1の変更態様2を使用して調製した蛍光性オバルブミン(Serlabo Technologies, ref WO-LS003054)を装填した、抗TER119抗体で処理、熱処理、又はBS3で処理(それぞれ、実施例3、2、4に記載)したか、又は処理していない、4つのバッチの132×107個のOF1マウス赤血球を調製した。各バッチの赤血球を2匹のマウスに静脈内注射した。注射の1時間半後、マウスを屠殺し、マウスの大腿を取り出す。F4/80マクロファージもしくはCD11cマーカーを発現するマクロファージ中に、Gr1マーカーを発現する顆粒球中に、CD11cマーカーとCD11bマーカーを発現する骨髄樹状細胞中に、及びCD11cマーカーとCD8マーカーを発現する形質細胞様樹状細胞中に取り込まれた蛍光を、フローサイトメトリーにより測定する。
【0092】
バッチ1:オバルブミン装填赤血球、BS3で処理
バッチ2:オバルブミン装填赤血球、熱処理
バッチ3:オバルブミン装填赤血球、抗TER119抗体処理
バッチ4:オバルブミン装填赤血球
バッチ5:NaClグルコース
【0093】
結果
【0094】
【表8】

【0095】
注射の1時間半後、抗TER119抗体で処理されたオバルブミン装填赤血球は、骨髄のF4/80マクロファージ、顆粒球、及び樹状細胞により効率的に貪食された。骨髄樹状細胞は、抗TER119抗体で処理されたオバルブミン装填赤血球の貪食に最も関与している細胞である。
【0096】
結論として、抗TER119抗体で処理された赤血球の使用は、骨髄内の免疫細胞による赤血球の最適のターゲティングと貪食とを可能にする。
【0097】
実施例8.オバルブミン装填赤血球及びポリ(I:C)アジュバントの1回注射後のオバルブミン特異的CD4 T細胞応答の測定
OVA(オバルブミン)特異的CD4 T細胞応答の評価は、OVA特異的CD4 T細胞の割合、これらの細胞の増殖、これらの細胞の活性化レベル、及びIFNg(g=ガンマ)の産生を測定することからなる。
【0098】
CD4 T細胞応答の評価は、Russo V. et al., The Journal of Clinical Investigation, 2007, 117: 3087-3096;Stoitzner P. et al., The Journal of Immunology 2008, 180: 1991-1998に記載の方法を応用して行われる。OT−IIトランスジェニックマウス(Charles River, ref C57BL/6-Tg (TcraTcrb425Cbn/Crl))のCD4 T細胞を使用して、OVA特異的CD4 T細胞応答を測定する。OT−IIマウスは、主要組織適合遺伝子複合体クラスII分子に関連するオバルブミンペプチド323〜339を認識するCD4 T細胞のみを発現するマウスである。
【0099】
OT−IIトランスジェニックCD4 T細胞はOT−IIマウスの脾臓から単離され、CFSEで標識された後、Ly5.1マウスに静脈内注射される。OT−IIマウスとLy5.1マウスは同じ遺伝的背景を有するが、両方のタイプのマウスの細胞は、CD45マーカーにより区別することができる。これは、OT−IIマウスの細胞はCD45.2マーカーを発現し、一方Ly5.1マウスはCD45.1マーカーを発現するためである。
【0100】
トランスジェニックマウスCD4 T細胞の注射の20時間後、Ly5.1マウスに以下のバッチを静脈内注射する。3匹のマウスに、赤血球を含むバッチを注射し、2匹のマウスに遊離OVA又は対照を含むバッチを注射する。
【0101】
実施例1の変更態様2を使用して調製したオバルブミン(Serlabo Technologies, ref WO-LS003054)を装填した、抗TER119抗体で処理(実施例3に記載)したか又は処理していない2つのバッチの183×107個のC57Bl/6マウス赤血球を調製する。これらのバッチにならびにオバルブミンを含むバッチに、アジュバントであるポリ(I:C)(Invitrogen, ref tlrl-pic)を加える。マウス1匹に注入したポリ(I:C)の量は25μgである。マウスに注射したOVAの量を表5に示す。
【0102】
オバルブミン装填C57Bl/6マウス赤血球がLy5.1マウスに注射されるため、この試験は自家試験である。C57Bl/6、Ly5.1、及びOT−IIマウスは同じ遺伝的背景を有する。
【0103】
バッチ1:ポリ(I:C)及び抗TER119抗体で処理したオバルブミン装填赤血球
バッチ2:ポリ(I:C)及びオバルブミン装填赤血球
バッチ3:ポリ(I:C)及び遊離オバルブミン
バッチ4:血漿
【0104】
バッチ注射の3日後、マウスを屠殺し、マウスの脾臓を取り出す。マウスの脾臓中のOVA特異的CD4 T細胞の割合を、CD4マーカーとCD45.2マーカーを使用してフローサイトメトリーにより測定する(表5)。OVA特異的CD4 T細胞の数は、OVA特異的CD4 T細胞の割合とトリパンブルー(Invitrogen, ref 15250061)で計測した総リンパ球の数から計算する(表5)。
【0105】
マウスの脾臓中のOVA特異的CD4 T細胞の増殖と活性化は、CD4、CD44、及びCD45.2マーカーを使用して、かつCFSEを使用してフローサイトメトリーにより測定する(表6と7)。各細胞分裂で、OVA特異的CD4 T細胞中に含まれるCFSEの量を2で割ると、これはフローサイトメトリーにより細胞分裂の数を測定することを可能にする(図3)。
【0106】
マウス脾細胞によるIFNgの産生は、10μg/mlのオバルブミンペプチド323〜339(Neomps, ref)の存在下で3日間インビトロ刺激した培養上清で、ELISAアッセイにより測定する。
【0107】
結果
【0108】
【表9】

【0109】
バッチ注射の3日後、ポリ(I:C)と、抗TER119抗体で処理したか又は処理していないオバルブミン装填赤血球とを注射したマウスは、遊離OVAとポリ(I:C)とを注入したマウスより、有意に高い割合と数のOVA特異的CD4 T細胞を有する(スチューデント検定 *p=0.01、**p=0.02)。
【0110】
さらに抗TER119抗体で処理したオバルブミン装填赤血球を含有するバッチは、OVA特異的CD4 T細胞の数の上昇を誘導するのに、未処理のオバルブミン装填赤血球を含むバッチより有効である(スチューデント検定 p=0.04)。
【0111】
【表10】

【0112】
これらの観察結果は、インビボの細胞増殖結果により確認される(表6と図3)。細胞分裂はCFSE蛍光強度の低下を誘導する(各分裂で蛍光物質の半分の分離)(図3A)。OVA特異的CD4 T細胞は、ポリ(I:C)と抗TER119抗体で処理したオバルブミン装填赤血球とを注射したマウス(6〜7回分裂)では、遊離OVAとポリ(I:C)とを注射したマウス(3〜4回分裂)に比較して、より迅速に分裂する。さらに抗TER119抗体で処理したオバルブミン装填赤血球を含むバッチは、細胞増殖を誘導するのに、未処理のオバルブミン装填赤血球を含むバッチより、有効なようである。
【0113】
【表11】

【0114】
細胞活性化レベル(CD44マーカーの発現レベルにより解析される)の結果は、すべての分裂するOVA特異的CD4 T細胞が高い細胞活性化レベルを有することを示す(表7と図3)。さらにOVA特異的CD4 T細胞の活性化レベルはこれらの細胞の分裂回数に関連付けることができる:細胞が分裂すればするほどかつそのCFSEマーカー含量を失うほど、細胞は高レベルの活性化マーカーを発現する(図3B)。
【0115】
【表12】

【0116】
脾細胞によるIFNg産生の結果は、ポリ(I:C)と、抗TER119抗体で処理したか又は処理していないオバルブミン装填赤血球とを注入されたマウスの脾細胞によるIFNgの強い産生を示す。
【0117】
結論としてこれらの結果は、IFNgを産生できるOVA特異的CD4 T細胞の活性化と増殖に対する、抗TER119抗体で処理したか又は処理していないオバルブミン装填赤血球の優位性を証明する。
【0118】
実施例9.オバルブミン装填赤血球及びポリ(I:C)アジュバントの1回注射後のオバルブミン特異的CD8 T細胞応答の測定
OVA特異的CD8 T細胞応答の評価は、OVA特異的CD8 T細胞の割合、主要組織適合遺伝子複合体クラスI分子に関連するオバルブミンペプチド257〜264を提示する細胞のインビボでのIFNgの産生と細胞溶解を測定することからなる。OF1マウスからのオバルブミン装填赤血球が同族ではないC57Bl/6マウスに注射されるため、この試験は同種異系試験である。
【0119】
実施例1の変更態様2を使用して調製したオバルブミン装填した、抗TER119抗体(実施例3に記載)で処理したか又は処理していない2つのバッチの167×107個のオバルブミン装填OF1マウス赤血球を調製する。これらのバッチにアジュバントであるポリ(I:C)を加え、また遊離オバルブミンを含有するバッチにも加える。マウス1匹当たりに注射したポリ(I:C)の量は25μgである。マウスに注入されたOVAの量を表9に示す。
【0120】
バッチをC57Bl/6マウスに静脈内注射する。特定のバッチを少なくとも4匹のマウスに注射する。Hervas-Stubbs S. et al., Blood 2007, 109: 5318-5326に記載された方法を応用して、インビボの細胞溶解を測定する。主要組織適合遺伝子複合体クラスI分子に関連するオバルブミンペプチド257〜264を提示する細胞を、免疫マウスに注射する。簡単に説明すると、注射の6日後、オバルブミン257〜264ペプチド(Neomps, ref SC1302)を提示し適度な濃度のCFSEで標識した0.5×106個の脾細胞をマウスに注射し、ペプチドを提示せず高濃度のCFSEで標識した0.5×106個の脾細胞を注射する(細胞溶解対照)。
【0121】
オバルブミンペプチド257〜264(BOVAp)に結合したラテックスビーズとポリ(I:C)を陽性対照として使用して、オバルブミンに対するCD8 T免疫応答を誘導する。BOVApとポリ(I:C)の注射は、オバルブミン特異的CD8 T細胞の割合の上昇とインビボのOVA257−164ペプチドを提示する細胞の破壊を誘導することが証明されている(Herva-Stubbs)。
【0122】
バッチ1:ポリ(I:C)と、抗TER119抗体で処理したオバルブミン装填赤血球
バッチ2:ポリ(I:C)とオバルブミン装填赤血球
バッチ3:オバルブミンペプチド257〜264に結合したラテックスビーズ
バッチ4:ポリ(I:C)とオバルブミンペプチド257〜264に結合したラテックスビーズ
バッチ5:ポリ(I:C)と遊離オバルブミン
バッチ6:NaClグルコース+血漿
【0123】
脾細胞注射の16時間後、マウスを屠殺し、マウスの脾臓を取り出す。マウスの脾臓中のOVA特異的CD8 T細胞の割合を、テトラマーとCD8マーカーを使用してフローサイトメトリーにより測定する(表9)。0.1μg/mlのオバルブミンペプチド257〜264の存在下で4時間インビトロ刺激後、CD8 T細胞によるIFNg産生と脱顆粒に関連したマーカー(CD107)の発現をフローサイトメトリーにより測定した。インビボ細胞溶解は、CFSEを使用してフローサイトメトリーにより測定した(表11)。
【0124】
結果
【0125】
【表13】

【0126】
ポリ(I:C)と、抗TER119抗体で処理したか又は処理していないオバルブミン装填赤血球とを注射したマウスは、遊離OVAとポリ(I:C)とを注射したマウス、又はポリ(I:C)とBOVApとを注射したマウスより、OVA特異的CD8 T細胞の割合が有意に高かった(スチューデント検定: *p=0.001、**p=0.01)。
【0127】
【表14】

【0128】
作成されたCD8 T細胞は、オバルブミンペプチドによる刺激に応答してIFNgを産生しCD107マーカーを発現するため、有効であり細胞障害性である(表10)。IFNgを産生しCD107マーカーを発現するCD8 T細胞の割合は、遊離OVAとポリ(I:C)、又はポリ(I:C)とBOVApとを注射したマウスより、ポリ(I:C)と、抗TER119抗体で処理したか又は処理していないオバルブミン装填赤血球とを注射したマウスで、有意に高かった(スチューデント検定、p<0.008)。
【0129】
【表15】

【0130】
細胞溶解結果は、脱顆粒に関連するマーカーの発現と相関する(表10と11)。ポリ(I:C)と、抗TER119抗体で処理したか又は処理していないオバルブミン装填赤血球との注射は、ポリ(I:C)と遊離オバルブミンとの注射より有効に、オバルブミンペプチド257〜264を表示する細胞の溶解を誘導した(表10)。
【0131】
結論としてこれらの結果は、IFNgを産生し、脱顆粒し、かつオバルブミンペプチド257〜264を表示する細胞を溶解することができる細胞障害性CD8 T細胞の活性化と増殖において、抗TER119抗体で処理したか又は処理していないオバルブミン装填赤血球の優位性を証明する。
【0132】
実施例10.オバルブミン装填赤血球とアジュバントであるポリ(I:C)の1回注射後30日目のオバルブミン特異的CD8 T細胞応答の維持の測定
OVA特異的CD8 T細胞応答の維持の評価は、1回注射の34日後のOVA特異的CD8 T細胞の割合と細胞溶解を測定することからなった。
【0133】
OF1マウスオバルブミンを装填した赤血球が同族ではないC57Bl/6マウスに注射されるため、この試験は同種異系試験である。
【0134】
実施例1の変更態様2に従って得られた、抗TER119抗体(実施例3に記載)で処理したか又は処理していない150×107個のオバルブミン装填OF1マウス赤血球の2つのバッチを調製した。アジュバントであるポリ(I:C)を、これらのバッチに加え、また遊離オバルブミンもしくはBOVApを含有するバッチにも加えた。マウス1匹当たりに注射したポリ(I:C)の量は25μgである。マウスに注射したOVAの量を表12に示す。
【0135】
バッチをC57Bl/6マウスに静脈内注射する。特定のバッチを少なくとも3匹のマウスに注射する。インビボで細胞溶解を測定するために、主要組織適合遺伝子複合体クラスI分子に関連するオバルブミンペプチド257〜264を表示する細胞を、免疫マウスに注射する。注射の33日後、オバルブミン257〜264ペプチド(Neomps, ref SC1302)を表示し、適度な濃度のCFSEで標識した0.5×106個の脾細胞をマウスに注射し、ペプチドを表示せず高濃度のCFSEで標識した0.5×106個の脾細胞をマウス注射した(細胞溶解アッセイ)。
【0136】
バッチ1:ポリ(I:C)と、抗TER119抗体で処理したオバルブミン装填赤血球
バッチ2:ポリ(I:C)とオバルブミン装填赤血球
バッチ3:オバルブミンペプチド257〜264に結合したラテックスビーズ:BOVAp
バッチ4:ポリ(I:C)とBOVAp
バッチ5:ポリ(I:C)と遊離オバルブミン
バッチ6:NaClグルコース+血漿
【0137】
脾細胞注射の16時間後、マウスを安楽死させ、その脾臓を取り出した。マウスの脾臓中のOVA特異的CD8 T細胞の割合を、テトラマーとCD8マーカー(表12)を使用してフローサイトメトリーにより測定した(表9)。インビボ細胞溶解は、CFSEを使用してフローサイトメトリーにより測定した(表13)。
【0138】
【表16】

【0139】
バッチ注射の34日後に、OVA特異的CD8 T細胞の割合は各群で同等であった(表12)。ピークのCD8 T細胞増殖はほぼ7日目であり、その後収縮期が続いたため、この結果は驚くべきものではない(Hervas-Stubbs S. et al., Blood 2007, 109: 5318-5326)。
【0140】
【表17】

【0141】
注射の34日後に、OVA特異的CD8 T細胞はまだ、オバルブミンペプチド257〜264を表示する細胞を溶解することができた(表13)。ポリ(I:C)と、抗TER119抗体で処理したオバルブミン装填赤血球との注射は、ポリ(I:C)とBOVApの注射より有効に、細胞溶解を誘導した(スチューデント検定: p<0.04)。
【0142】
結論としてこれらの結果は、オバルブミン装填赤血球が、細胞障害性CD8+T細胞の活性化と増殖についてのみでなく、オバルブミンペプチド257〜264を表示する細胞を溶解することができるこれらのT細胞の維持/生存についても、オバルブミン装填赤血球が優れていることを証明する。
【0143】
実施例11.化学処理したオバルブミン装填赤血球とポリ(I:C)アジュバントの1回注射後のオボアルブミン特異的CD8 T細胞応答の測定
OF1マウスのオバルブミンを装填した赤血球が同族ではないC57Bl/6マウスに注射されるため、この試験は同種異系試験である。
【0144】
実施例1の変更態様2に使用して調製し、1mMのBS3(実施例4に記載)で化学処理した132×107個のオバルブミン装填OF1マウス赤血球のバッチを調製する。アジュバントであるポリ(I:C)をこのバッチと、及び遊離オバルブミンを含むバッチとに加える。マウス1匹当たりに注射したポリ(I:C)の量は25μgである。マウスに注射したOVAの量を表14に示す。
【0145】
バッチ1:ポリ(I:C)と、1mM BS3で処理したオバルブミン装填赤血球
バッチ2:ポリ(I:C)と遊離オバルブミン
バッチ3:ポリ(I:C)
バッチ4:グルコース含有NaCl
【0146】
バッチをC57Bl/6マウスに静脈内注射する。特定のバッチを少なくとも3匹のマウスに注射する。注射の7日後、マウスを屠殺し、マウスの脾臓を取り出す。マウスの脾臓中のOVA特異的CD8 T細胞の割合をテトラマーとCD8マーカーを使用してフローサイトメトリーにより測定する(表14)。
【0147】
【表18】

【0148】
ポリ(I:C)と、BS3で処理したオバルブミン装填赤血球とを注射したマウスは、遊離OVAとポリ(I:C)とを注射したマウスや、ポリ(I:C)を注射したマウスより、高い割合のOVA特異的CD8 T細胞を有する。これらの結果は統計的に差は無いが、注射した遊離OVAの量は、OVA装填赤血球を含むバッチで注入したOVAの量より3倍多いことに注意されたい。
【0149】
結論としてこれらの結果は、BS3で処理したオバルブミン装填赤血球はまた、OVA特異的CD8 T細胞を生成することができることを示す。
【0150】
実施例12.オバルブミン装填赤血球及びCL−097アジュバントの1回注射後のオバルブミン特異的CD8 T細胞応答の測定
OF1マウスのオバルブミン装填赤血球が同族ではないC57Bl/6マウスに注射されるため、この試験は同種異系試験である。
【0151】
実施例1の変更態様1を使用して調製し、抗TER119抗体(実施例3に記載)で処理したか又は処理しなかった119×107個のオバルブミン装填OF1マウス赤血球のバッチを調製する。アジュバントであるCL097(Invitrogen, ref tlrl-c97)をこれらのバッチに加えるか又は加えない。マウス1匹当たりに注射したCL097の量は0.15μgである。マウスに注射したOVAの量を表15に示す。
【0152】
バッチ1:CL097と、抗TER119抗体で処理したオバルブミン装填赤血球
バッチ2:抗TER119抗体で処理したオバルブミン装填赤血球
バッチ3:CL097と、オバルブミン装填赤血球
バッチ4:オバルブミン装填赤血球
バッチ5:グルコース含有NaCl
【0153】
バッチをC57Bl/6マウスに静脈内注射する。注射の4日後、マウスを屠殺し、マウスの脾臓を取り出す。種々のバッチを注射したマウスの脾臓によるIFNg産生を、0.1μg/mlのオバルブミンペプチド257〜264の存在下で3日間インビトロ刺激後の培養上清中で、ELISAアッセイにより測定する。
【0154】
結果
【0155】
【表19】

【0156】
脾細胞によるIFNg産生の結果は、CL097アジュバントと、抗TER119抗体で処理したか又は処理しなかったオバルブミン装填赤血球との両方をマウスに注射する時の、顕著なIFNg産生を示す。
【0157】
結論としてCL097アジュバントはまた、オバルブミン装填赤血球の注射により誘導されるIFNg応答を強化する。
【0158】
実施例13.アジュバントであるポリ(I:C)と処理又は未処理オバルブミン装填赤血球を1回注射後のマウスの腫瘍増殖の測定
この試験の目的は、ポリ(I:C)と処理又は未処理オバルブミン装填赤血球を1回注射後の、C57Bl/6マウス中のEG.7細胞株の腫瘍増殖の測定することである。EG.7腫瘍細胞はATCCから得た(ATCC−CRL−2113)。EG.7細胞はEL.4細胞株起源であり、これはOVAを構成性に合成し分泌する。
【0159】
OF1マウスのオバルブミン装填赤血球がC57Bl/6マウスに注射されるため、これは同種異系試験である。この実験のモデルは予防モデルである。
【0160】
OF1マウスからの165×107個の抗体処理又は未処理オバルブミン装填赤血球の2つのバッチを、実施例1の変更態様2に従って調製する。アジュバントであるポリ(I:C)をこれらのバッチに加える。1匹のマウス当たり25μgのポリ(I:C)を注射する。陰性対照は非装填赤血球の懸濁物である。マウスに注射したOVA量は表16に示す。
【0161】
バッチ1:ポリ(I:C)と抗体処理オバルブミン装填赤血球
バッチ2:ポリ(I:C)とオバルブミン装填赤血球
バッチ3:非装填赤血球
【0162】
バッチをC57Bl/6マウス(1群10匹)に静脈内注射する。バッチ注射の7日後、マウス1匹当たり2.2×106個のEG.7細胞を皮下注射する。腫瘍増殖についてマウスを追跡する。腫瘍増殖は、腫瘍の直径(cm)を測定することにより評価する(2つの直交する直径の測定値の平均として記録する)。腫瘍サイズは、2日の間隔を空けて週に3回で14日間測定する。直径が2.0cmより大きい腫瘍を有するマウスを屠殺する。
【0163】
【表20】

【0164】
【表21】

【0165】
EG.7注射の7日後、非装填赤血球をあらかじめ注射したマウスのわき腹で腫瘍のサイズは測定可能であり、試験の最後まで腫瘍は増殖を続ける。一方、ポリ(I:C)と、抗TER119抗体で処理したか又は処理していないオバルブミン装填赤血球とを注射したマウスのわき腹では、腫瘍は観察されない。マウスの観察はまた続いている。
【0166】
結論としてこれらの結果は、抗TER119抗体で処理したか又は処理しなかったオバルブミン装填赤血球は、OVA発現腫瘍細胞の増殖を阻止するのに効率的であることを示す。
【0167】
実施例14.マクロファージと樹状細胞によるブタ赤血球の貪食のインビボ測定
ブタ赤血球がC57Bl/6マウスに注射されるため、この試験は異種試験である。
【0168】
ブタ赤血球をグルコースを含有するNaClで3回洗浄後、上記したようにCFSEで標識する。赤血球を再度グルコース含有NaClで3回洗浄し、次にヘマトクリットを50%に戻す。142×107個のブタ赤血球のバッチを、3匹のC57Bl/6マウスに静脈内注射する。注射の1時間後、マウスを屠殺し、マウスの脾臓、肝臓、及び大腿を取り出す。F4/80マーカー又はCD11bマーカーを発現するマクロファージ、CD11c及びCD11bマーカーを発現する骨髄樹状細胞、ならびにCD11c及びCD8マーカーを発現する形質細胞様樹状細胞中に取り込まれた蛍光を、フローサイトメトリーにより測定する。
【0169】
バッチ1:ブタ赤血球
バッチ2:グルコース含有NaCl
【0170】
結果
【0171】
【表22】

【0172】
【表23】

【0173】
【表24】

【0174】
注射の1時間後にブタ赤血球は、脾臓のF4/80マクロファージと樹状細胞により効率的に貪食された(表18)。脾臓の形質細胞様樹状細胞は、ブタ赤血球の貪食に最も関与していた。骨髄と肝臓では、マクロファージと樹状細胞は蛍光性赤血球を貪食しなかった(表19と20)。
【0175】
結論としてブタ赤血球の使用は、免疫応答の発生に関与する脾臓細胞による赤血球のターゲティングと貪食とを可能にする(Lou Y., 2007, J of Immunol, 178: 1534-1541)。
【0176】
実施例15.オバルブミンを含有するブタ赤血球の性状解析
オバルブミン(実施例1の変更態様2に従って得られる)を装填したか又は装填していないブタ赤血球の2つのバッチを調製した。
【0177】
バッチ1:OVAを装填したブタ赤血球
バッチ2:OVAを装填していないブタ赤血球
【0178】
出発物質からのバッチを、作成の最後と作成の18時間後に解析した。平均球状容量、平均血球ヘモグロビン、及び赤血球の濃度を、ABXセルカウンターを使用して測定した。赤血球の50%溶血を誘導するNaClの濃度に対応する浸透圧脆弱性を、Osmocells装置(SD Medical)を使用して測定した。細胞外ヘモグロビンを分光光度計により測定した。オバルブミンの血球濃度、オバルブミンの細胞外濃度、及びオバルブミンの平均球状容量は、ELISA試験を使用して測定した。
【0179】
【表25】

【0180】
予測されるように、透析法は、球状容量と血球ヘモグロビンの低下を引き起こした。さらにバッチの浸透圧脆弱性は、初期血液の赤血球より低かった(表21)。オバルブミンを含むバッチ(バッチ1)と含まないバッチ(バッチ2)との間で大きな差は観察されなかった。
【0181】
バッチ1について細胞外オバルブミンの量は、封入オバルブミンの量と比較して比較的少なく、生成の18時間後に上昇しておらず、オバルブミンを封入した赤血球の安定性を示している。
【0182】
すなわちブタ赤血球にオバルブミンを封入することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
宿主において腫瘍細胞に対する細胞障害性細胞応答を誘導し、かつ腫瘍抗原を含有する赤血球を含む組成物。
【請求項2】
赤血球は、(1)抗原を含有し、かつ(2)樹状細胞による該赤血球の貪食を促進するように、該赤血球の表面のエピトープを認識する免疫グロブリンとの免疫複合体の形である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
赤血球は、抗アカゲザル抗体、抗グリコホリンA抗体、又は抗CR1抗体と免疫複合体を形成する、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
免疫グロブリンはIgGである、請求項2又は3に記載の組成物。
【請求項5】
赤血球は、(1)抗原を含有し、かつ(2)樹状細胞による該赤血球の貪食を促進するように、熱処理又は化学処理される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
免疫複合体の形の赤血球は熱処理又は化学処理される、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
赤血球は異種赤血球である、請求項1、2、5、又は6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
樹状細胞成熟を活性化するためのアジュバントをさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
アジュバントは赤血球中で、赤血球の表面及び/又はその外に存在する、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
アジュバントはTLR(Toll様受容体)リガンド又はサイトカインである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
TLRリガンドは、イミダゾキノリン、イミキモド、レシキモド、CpGオリゴデオキシヌクレオチド、LPS(リポ多糖)、又はポリ(イノシン酸)−(ポリシチジル酸)よりなる群に属する、イミダゾキノリン類から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
サイトカインは、インターフェロンアルファ、IL−2(インターロイキン2)、IFNγ(インターフェロンガンマ)、GM−CSF(顆粒球モノサイト−コロニー刺激因子)、IL−12(インターロイキン12)、又はTNFα(腫瘍壊死因子アルファ)よりなる群から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
治療される腫瘍を代表する少なくとも2つの腫瘍抗原を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
腫瘍抗原は、以下の抗原:アルファ−アクチニン−4;ARTC1;BCR−ABL融合タンパク質(b3a2);B−RAF;CASP−5;CASP−8;ベータ−カテニン;Cdc27;CDK4;CDKN2A;COA−1;dek−can融合タンパク質;EFTUD2;伸長因子2;ETV6−AML1融合タンパク質;FN1;GPNMB;LDLR−フコシルトランスフェラーゼAS融合タンパク質;HLA−A2d;HLA−A11d;hsp70−2;KIAAO205;MART2;ME1;MUM−1f;MUM−2;MUM−3;neo−PAP;ミオシンクラスI;NFYC;OGT;OS−9;pml−RARアルファ−融合タンパク質;PRDX5;PTPRK;K−ras;N−ras;RBAF600;SIRT2;SNRPD1;SYT−SSX1又は−SSX2融合タンパク質;トリオースホスフェートイソメラーゼ;BAGE−1;GAGE−1,2,8;GAGE−3,4,5,6,7;GnTVf;HERV−K−MEL;KK−LC−1;KM−HN−1;LAGE−1;MAGE−A1;MAGE−A2;MAGE−A3;MAGE−A4;MAGE−A6;MAGE−A9;MAGE−A10;MAGE−A12;MAGE−C2;ムチンk;NA−88;NY−ESO−1/LAGE−2;SAGE;Sp17;SSX−2;SSX−4;TRAG−3;TRP2−INT2g;CEA;gp100/Pmel17;カリクレイン4;ママグロビン−A;メラン−A/MART−1;NY−BR−1;OA1;PSA;RAB38/NY−MEL−1;TRP−1/gp75;TRP−2;チロシナーゼ;アジポフィリン;AIM−2;BING−4;CPSF;サイクリンD1;Ep−CAM;EphA3;FGF5;G250/MN/CAIX;HER−2/neu;IL13Ralpha2;小腸カルボキシルエステラーゼ;アルファフェトプロテイン;M−CSF;mdm−2;MMP−2;MUC1;p53;PBF;PRAME;PSMA;RAGE−1;RNF43;RU2AS;セセルニン1;SOX10;STEAP1;スルビビン;テロメラーゼ;WT1;FLT3−ITD;BCLX(L);DKK1;ENAH(hMena);MCSP;RGS5;ガストリン−17;ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン、EGFRvIII、HER2、HER2/neu、P501、グアニリルシクラーゼC、PAPよりなる群から選択される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項の組成物の有効量を含む、治療用抗腫瘍ワクチン。
【請求項16】
治療用抗腫瘍ワクチンの製造のための、請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項17】
治療用抗腫瘍ワクチンとして使用するための、請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物の有効量を患者に投与することを含んでなる、患者で腫瘍細胞又は腫瘍に対する細胞障害性細胞応答を誘導する方法。
【請求項19】
請求項15に記載の抗腫瘍ワクチンの有効量を患者に投与することを含んでなる、患者で腫瘍細胞又は腫瘍に対する細胞障害性細胞性免疫応答を誘導するための抗癌療法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−535744(P2010−535744A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519476(P2010−519476)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【国際出願番号】PCT/EP2008/060492
【国際公開番号】WO2009/019317
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(507035042)
【Fターム(参考)】