説明

組立型クランクスローの製造方法

【課題】クランクスローを鍛造により製造するに際し、被加工材に対する左右の曲げ角度不均衡の問題、折り曲げ外面の圧接疵や減肉等の問題、折り曲げ内面の皺状加工疵の問題などを解消する。
【解決手段】本発明の組立型クランクスローの製造方法は、被加工材Wを成形する凹部5を有し且つ凹部5内の対向面に第1、第2テーパ部6a,6bを備えた下部金型2と、下部金型2の凹部5内へ向けて進退する上部金型3とを準備し、下部金型2における第1テーパ部6aとこれより深い位置の第2テーパ部6bとの境の変角部11を上部金型3が通過する位置で2W/(W-W)が略1で且つ下部金型2の上端部幅より長尺である被加工材Wを、上部金型3により下部金型2の凹部5内へ圧下する。但し、W:被加工材の厚さ、W:上部金型の下端部幅、W:変角部での凹部内の対向幅である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組立型クランクスローの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶用エンジンなどに用いられるクランク軸は、ジャーナル軸の軸方向中間部に対し、板状に形成された一対のウエブと、これらウエブを互いに所定間隔で、且つ平行に保持させるピンとを有して形成されたクランクスローを備えた構成となっている。
従来、このようなクランクスローを鍛造により製造する方法として、互いに軸平行に設けられた2個の回転可能な支えロールと、これら両ロール間の上方から両ロール間へ向けて進退するポンチとを備えた特殊な鍛造装置を用いる方法が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示された製造方法では、帯板状で且つ長手方向中央部に下方へ突出する凸部を有したT字状素材を一旦、製作しておき、更に、このT字状素材に対し、その長手方向両端部がやや上方へ傾斜するような軽度の曲げを施して、この曲げ材(二次的な素材)を被加工材とする。そして、この被加工材を両ロール上へ跨らせるように(二点支持となるようにして)置き、ポンチの下降によって被加工材を両ロール間へ押し込んで180°折り曲げ、もって、所定のクランクスロー形状に形成させるというものであった。
【0004】
一方、クランクスローを鍛造により製造する他の方法としては、被加工材を成形するための溝型の凹部を有した下部金型と、この下部金型の上方から凹部内へ向けて進退する上部金型とを備えた型入れ鍛造装置を用いる方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
特許文献2に開示された製造方法では、下部金型に対して凹部内の浅い(金型上面の凹部入口に近い)位置に当初から入り込むような、軸方向長さの短い円柱状素材を被加工材とする。そして、この被加工材を下部金型の凹部内へ嵌め入れた後、上部金型の下降によって被加工材を圧下することで、被加工材を凹部内面に沿わせるように鍛圧変形させ、もって、所定のクランクスロー形状に形成させるというものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−179035号公報
【特許文献2】特開昭52−111863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で開示されたクランクスローの製造方法のように、長尺の被加工材を採用した場合、被加工材を折り曲げた際に発生する左右の曲げ角度又は曲げ長さの不均衡の問題をはじめ、被加工材の折り曲げ外面に発生する下部金型による圧接疵(転写疵)や減肉等の問題、更には、被加工材の折り曲げ内面に発生する皺状の加工疵の問題など、種々の問題が多発することが判明した(図5を参照)。そのため、被加工材には鍛造後の削り加工を見越した余剰の肉厚を要することとなって、材料面で歩留まりが悪くなるという新たな問題が確認されるところとなった。
【0007】
一方、特許文献1で開示されたクランクスローの製造方法では、前記したように、T字状素材を製作した後に、このT字状素材に軽度の曲げ(特許文献1の図2など参照)を施すことで被加工材とするものであるから、予備的な曲げ装置が別途必要であると共に工程数が多くなり、その結果、設備的及び生産効率的な面で大きな問題となっていた。また、2個の支えローラを必要とすることから必然的に装置が大型化している問題もあった。
【0008】
更に、鍛造中に2個の支えローラに回転角度差が生じると、被加工材を折り曲げたときに左右の曲げ角度等が不均衡になる問題が生じるが、装置構成上、両ロール間へ向けてポンチを圧下(下降)させる途中でポンチを停止させたり上昇させたりすることはできない。そのため、前記の曲げ角度不均衡の問題を解消することはできなかった。当然に、同じ理由から被加工材の折り曲げ外面に発生する圧接疵(転写疵)や減肉等の問題、及び、被加工材の折り曲げ内面に発生する皺状の加工疵の問題などを解消することもできないものであった。
【0009】
特許文献2で開示されたクランクスローの製造方法は、下部金型の凹部内に当初から嵌る被加工材を上部金型の圧下力のみによって凹部内面に沿わせるべく鍛圧変形させるのである故、上記問題を解決する技術を開示するものとはなっていない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、クランクスローを鍛造により製造するに際して、装置の大型化を抑制することができ、また被加工材に対する左右の曲げ角度不均衡の問題、折り曲げ外面の圧接疵(転写疵)や減肉等の問題、更には折り曲げ内面の皺状加工疵の問題など、種々の問題を解消できるようにした組立型クランクスローの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
即ち、本発明は、被加工材をV字状に折曲しクランクスローを製造する製造方法であって、前記被加工材を成形するための溝型の凹部を有し、且つこの凹部内の対向面に深さ方向で深い位置ほど傾斜角度が大きくなる少なくとも第1テーパ部及び第2テーパ部を備えた下部金型と、この下部金型の上方から凹部内へ向けて進退する上部金型と、を準備しておき、この下部金型における第1テーパ部とこの第1テーパ部よりも深い位置の第2テーパ部との境に生じた変角部を上部金型が通過する位置で、2W/(W-W)が略1となり、且つ、下部金型の上端部幅より長尺となっている被加工材を下部金型の上に置き、その後、上部金型により被加工材を下部金型の凹部内へ圧下することでクランクスローを製造することを特徴とする。
【0011】
但し、
:被加工材の厚さ
:上部金型の下端部幅
:変角部での凹部内の対向幅

また、前記上部金型により被加工材を下部金型の凹部内へ圧下するに際して、第1テーパ部では、被加工材の折り曲げ角度が60°より大きくなるように折り曲げを行い、第2テーパ部では、60°以下となるようにして折り曲げを行うのがよい。
【0012】
また、前記上部金型の下端部が下部金型の変角部を通過するまでの間に、前記上部金型の加圧位置を下式の範囲内で水平方向に変更しつつ圧下を行うのが好適である。

0≦加圧位置≦WPP/3
但し、WPP:上部金型の上端部幅

また更に、前記上部金型の下端部が下部金型の変角部を通過する直前に当該上部金型による圧下を一旦停止し、前記被加工材の折曲部の内側に対してデスケール処理を行い、その後、上部金型による圧下を再開させるようにするとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る組立型クランクスローの製造方法では、被加工材に対する左右の曲げ角度不均衡の問題、折り曲げ外面の圧接疵(転写疵)や減肉等の問題、更には折り曲げ内面の皺状加工疵の問題など、種々の問題を解消することができ、確実にクランクスローを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る組立型クランクスローの製造方法を経時的に説明した図である。
【図2】型入れ鍛造装置の下部金型を示した斜視図である。
【図3】型入れ鍛造装置と被加工材とを示した正面図である。
【図4】本発明に係る組立型クランクスローの製造方法を経時的により詳細に説明した図である。
【図5】組立型クランクスローの製造時に発生する種々の不良を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図2及び図3は、本発明に係る組立型クランクスローの製造方法に用いる型入れ鍛造装置1を示している。
この型入れ鍛造装置1は、床面等に設置される下部金型2と、この下部金型2の上方に設けられる上部金型3とを有している。
【0016】
なお、以下の説明では、図3の上下方向をこの型入れ鍛造装置1の上下方向(又は後述する凹部5の深さ方向)と言い、図3の左右方向をこの型入れ鍛造装置1の左右方向又は幅方向と言う。
まず、この型入れ鍛造装置1の構成及び動作について概略を説明する。
下部金型2は、上端部2aの幅方向中央部を開口させた状態でこの開口部を下方に窪ませた溝型の凹部5を有している。この凹部5は、溝長手方向に沿って下部金型2を通り抜けるように形成されている。これに対して上部金型3は、下部金型2の凹部5内へ入り込む大きさであって、且つ、上端部3aよりも下端部3bがやや幅狭となる逆台形状に形成されており、油圧による圧下装置(図示略)によって下部金型2の上方から凹部5内へ向けて進退(昇降)するようになっている。
【0017】
被加工材Wには、下部金型2の上端部幅(凹部5の上方を跨いだ金型全体の左右方向長さ)よりも長尺に形成されたものが採用される。この被加工材Wは、帯板状に形成され、その長手方向の中央部で下方(下部金型2の凹部内)へ向けて突出する凸部dが設けられている。この被加工材Wは、下方の凸部dを下部金型2の凹部5内へ臨ませるようにし、長手方向の両端部を下部金型2の左右両側方へ張り出させた状態で、下部金型2の上端部2aに置かれる。
【0018】
従って、図1、図4に示すように、下部金型2の上端部2aに被加工材Wを置いた状態で上部金型3を下降させると、被加工材Wは、長手方向両端寄りを下部金型2によって支持された状態で、長手方向中央部を上部金型3によって下方へ押し込まれるようになる。そのため、被加工材Wは、V字状に折り曲げられながら下部金型2の凹部5内へ圧下され、凹部5内の対向内面(左右両面)へ押し付けられるようになって鍛圧される。この鍛圧により、被加工材Wに対して所定のクランクスロー形状を付与させる。
【0019】
なお、図示は省略するが、下部金型2の凹部5には、その対向内面や溝底部に対し、クランクスロー形状に必要とされる各種形状を付与させるための凸部を設けることも当然に可能である。また、上部金型3においても、下端部3bから上方へ向けて窪むような凹部を設けることが可能である。
次に、型入れ鍛造装置1の細部構成を説明する。
【0020】
下部金型2において、凹部5には、互いに対向する内面に対して、深さ方向で深い位置ほど傾斜角度が大きくなるテーパ部6が設けられている。このテーパ部6は、少なくとも第1テーパ部6aと、この第1テーパ部6aよりも深い位置に配置された第2テーパ部6bとを備えている。
本実施形態では、下部金型2の上端部2aから凹部5内へ入る位置(即ち、深さ方向の最上位置)に第1テーパ部6aが配置され、この第1テーパ部6aと凹部5の底部との間を繋ぐように(即ち、深さ方向の最下位置に)第2テーパ部6bが配置されている。すなわち、下部金型2の凹部5は、2段傾斜状となっている。これに伴い、下部金型2の上端部2aと第1テーパ部6aとの境に第1変角部10が生じ、第1テーパ部6aと第2テーパ部6bとの境に第2変角部11が生じるようになっている。
【0021】
下部金型2において、第2テーパ部6bに付される傾斜角度β(水平面から第2テーパ部6bが立ち上がる鋭角側の角度)は、70°≦β≦85°とされている。傾斜角度βを70°に満たないものとすると、被加工材Wの最終的な折曲形状を60°より小さくすることが困難となる。最終的な折曲形状を60°より小さくできない場合(言い換えれば、折曲形状が60°より大きい場合)、折曲後の工程である仕上げ工程における作業時間が多くなるばかりか、仕上げ工程での作業において皺疵が発生するリスクが高くなるので、不適である。また傾斜角度βが85°を超えて90°に近づけば近づくほど、被加工材Wを折曲後に脱型できない(取り出せない)ものとなり、不適である。
【0022】
また、第1変角部10の角度φ1及び第2変角部11の角度φ2は、φ1が120°以上、φ2が140°以上を有しているものとされる。そのうえで、これら角度φ1と角度φ2との合計が、275°≦φ1+φ2≦290°を満たすようにする。
これらの条件を満たすようにすることで、被加工材Wの折り曲げ角度θを所定範囲内に抑制し(一気に強い曲げを行わせないようにし)、また第1テーパ部6aによる被加工材Wの初期曲げから第2テーパ部6bによる二次曲げへ移行する間、被加工材Wを第1テーパ部6aにより面接触状態でガイドできるようになる。これらのことにより、被加工材Wの折り曲げ外面に発生する下部金型2による圧接疵(転写疵)や減肉を防止することができ、結果として、被加工材Wに対する瑕疵のない60°以上の折り曲げが可能となっている。
【0023】
更に、下部金型2の凹部5の内部寸法と、上部金型3の外形寸法とは、被加工材Wの厚さとの関係において次のように関連付けてある。
すなわち、上部金型3が被加工材Wを圧下しながら第2変角部11を通過する位置で、2W/(W-W)が略1となっている。好ましくは、0.9≦2W/(W-W)≦1.1とする。この条件を満たすことで、被加工材Wが折り曲げられるに際して、被加工材Wの表面乃至は内部に発生する材料流れがスムーズなものとなり、被加工材Wの表面に皺のように現れる加工疵の発生を防止できるようになる。
【0024】
ここにおいて、2W/(W-W)が0.9未満であると、下降してきた上部金型3と第2テーパ部6bとの間の隙間部分が被加工材Wで満たされない状況、すなわち変形材料の不足状態が発生し、被加工材Wの曲げ内面などに発生する余肉や皺を押し潰すことができないことから、加工疵の発生を防止できない状況となる。また、2W/(W-W)が1.1を越えると、上部金型3と第2テーパ部6bとの間の隙間部分に対する変形材料の過多状態となり、下部金型2及び上部金型3に過大な圧下力が作用することとなり、装置の大型化などに繋がって不適となる。
【0025】
なお、第1変角部10や第2変角部11は、互いの隣接部にエッジが生じるように形成してもよいし、アール面や傾斜面による面取りを施して形成してもよい。
次に、型入れ鍛造装置1の使用態様、すなわち本発明に係る組立型クランクスローの製造方法を説明する。
まず、型入れ鍛造装置1の上部金型3を上昇待機させた状態で、下部金型2の上端部2a上に被加工材Wをその長手方向が左右方向を向く状態にして置く。この状態で上部金型3を下降させ、この上部金型3で被加工材WをV字状に折り曲げながら凹部5内へ圧下させる。
【0026】
圧下初期の段階において、被加工材Wは下部金型2の上端部2aと第1テーパ部6aとの境に生じる第1変角部10で支持されつつ、長手方向中央部が上部金型3の下端部3bで押圧されるようになるので、被加工材Wには第1テーパ部6aの傾斜角度αに沿うような折れ曲がりが生じる。これにより被加工材Wは、折り曲げ角度θが60°より大きくなる範囲内で折り曲げられる。
【0027】
被加工材Wが折り曲げられてゆく過程では、第1テーパ部6aに沿った被加工材Wの曲げ角度や曲げ長さに左右の不均衡が生じているか否かを確認する。このための確認作業は、作業者の目視によるものとしてもよいし、画像認識システムなどを用いた検出装置によるものとしてもよい。また、確認作業を行う際には、上部金型3による圧下(下降)を一旦停止させたり、場合によっては上部金型3を少し上昇させたりした状態で行うとよい。
【0028】
この確認作業により、被加工材Wの曲げ角度や曲げ長さに左右の不均衡が検出された場合には、上部金型3の下端部3b(被加工材Wを圧下している部分)が下部金型2の第2変角部11を通過するまでの間に、上部金型3の加圧位置を、不均衡を矯正すべき方向へ向けて水平方向(左右方向)に変更する。このようにして、引き続き上部金型3による圧下を行う。上部金型3の加圧位置の変更は、上部金型3における上端部3aの幅をWPPとおいて、下式を満たす範囲内とする。
【0029】
すなわち、
0≦加圧位置≦WPP/3

ここにおいて、「0」は位置変更を行わない(実質的な移動量が無い)ことを意味し、「WPP/3」は絶対値(右方及び左方への移動量)を意味する。上部金型3の加圧位置の変更は、上部金型3の圧下を停止させ、且つ上部金型3を少し上昇させた状態とし、上部金型3を水平方向へ移動させるか又は下部金型2を水平方向へ移動させることによって行うようにすればよい。
【0030】
また、上部金型3について加圧位置の変更を実行するのに先立ち、デスケール処理を行う。このデスケール処理は、高圧水や高圧エアを被加工材Wの折曲部内側へ吹き付けることで行うことができる。場合によっては、刷毛状やヘラ状をした摺接部材を被加工材Wの折曲部内側で摺動させ、スケールの掃きだし又は掻き取りを行わせるようにしてもよい。
このデスケール作業は、上部金型3の加圧位置の変更の後に行ってもよい。
【0031】
なお、このデスケール処理は、上部金型3の下端部3bが下部金型2の第2変角部11を通過する直前に行うものとし、このとき上部金型3による圧下(下降)を一旦停止させるものとする。ここにおいて「直前」とは、被加工材Wが第1テーパ部6aによる初期の折り曲げを受けている間であって、被加工材Wが第2変角部11を超える前、更に言えば、第2テーパ部6bによる二次的な折り曲げ作用を受ける前の状態を言う。
【0032】
このデスケール処理の実行後、上部金型3による圧下を再開させ、第2テーパ部6bでは、被加工材Wの折り曲げ角度θが90°以下となるようにして折り曲げを行う。これにより、被加工材Wに対してクランクスロー形状として必要な形状を付与させる。
以上詳説したところから明らかなように、本発明に係る組立型クランクスローの製造方法では、下部金型2の凹部5内に複数のテーパ部6を設けて、被加工材Wの折り曲げが段階的に行われるようにしているので、被加工材Wに対する左右の曲げ角度不均衡の問題、折り曲げ外面の圧接疵(転写疵)や減肉等の問題、更には折り曲げ内面の皺状加工疵の問題など、種々の問題を解消することができる。当然に、被加工材Wに対して予備的な曲げを加えるための装置は必要ないものであり、従って予備的な曲げに拘わる工程数の増加もない。その結果、設備的及び作業的な面で問題が発生することもない。
【実施例】
【0033】
型入れ鍛造装置1における下部金型2の凹部5の内部寸法及び上部金型3の外形寸法と被加工材Wの厚さとの関係「2W/(W-W)」と「不良の発生有無」について、縮小モデル実験(1/5モデルでの実験)を行った結果を以下に示す。
縮小モデル実験にて、図2、図3に示した下部金型2は、上端部2aの幅寸法(凹部5の上方を跨いだ金型全体の左右方向長さ)が650mm、金型全体の上下方向寸法(高さ)が550mmであった。参考までに、第1変角部φ1=128°とし、第1変角部10には半径100mmのアール面取りを施した。第2テーパ角度β=82°、第2変角部φ2=150°とし、第2変角部11には半径200mmのアール面取りを施した。
実験結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1において、「2段テーパ」とは、第1テーパ部6aと第2テーパ部6bとその間に形成された変角部を有するものであり、本発明の金型2のことである。「1段テーパ」とは、テーパ部が1つであり、変角部を備えない従来の金型である。
また、表1における「1段目テーパ曲げ角度」とは、第1テーパ部6aでの被加工材Wの折り曲げ角度θであり、「2段目テーパ曲げ角度」とは、第2テーパ部6bでの被加工材Wの折り曲げ角度θである。
【0036】
表1から明らかなように、皺状加工疵、圧接疵、左右曲げ不均衡などの不良が発生しないようにする(○とするため)には、0.90≦2W/(W-W)≦1.03とするのが好ましいことが確認された。ただ、上限的には、下部金型2に作用する許容最大主応力を500MPa以下とする場合であれば、1.1を目安にできることが実験により確かめられている。なお、皺状加工疵、圧接疵、左右曲げ不均衡の有無は目視による確認に基づく。2W/(W-W)=0.85のときの皺状加工疵(評価△)は、多大な手直しを経ることで製品として使用できる状況を意味し、可能であれば避けたい疵発生状態である。
【0037】
また、0.90≦2W/(W-W)≦1.03を満たすことで、作業時間(図4(a)から図4(e)までに要する時間)を大幅に短縮できることを本願発明者らは確認している。さらに、本願発明者らは、第1テーパ部6aが被加工材Wの不均一曲げを是正することに大きく寄与しており、第2テーパ部6bが被加工材Wで発生する皺の鍛圧、圧伸を行うことに大きく寄与していることを確認している。
【0038】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
例えば、下部金型2において、テーパ部6は、第1テーパ部6aと第2テーパ部6bとの間に、第1テーパ部6aよりも傾斜角度が大きく第2テーパ部6bよりも傾斜角度が小さくなる第3テーパ部、第4テーパ部・・・のような複数のテーパ部を備えるものとして構成することもできる。その場合、実施形態で説明した第2変角部は、テーパ部Aとそれに続くテーパ部Bとの境に形成され、且つテーパ部Bのテーパ角が70°以上となるような角部である。例えば、第1テーパ部6aに続くように第3テーパ部が形成され、第3テーパ部のテーパ部がテーパ角が70°以上の場合、第1テーパ部6aと第3テーパ部との境が上記実施形態で説明した第2変角部となる。
【0039】
また、被加工材Wを上部金型3によって圧下する際に、スケールの発生が認められないとき、又はスケールの発生量が加工疵の原因とならない程度に少ないときには、デスケール処理を省略することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 型入れ鍛造装置
2 下部金型
2a 上端部
3 上部金型
3a 上端部
3b 下端部
5 凹部
6 テーパ部
6a 第1テーパ部
6b 第2テーパ部
10 第1変角部
11 第2変角部
W 被加工材
d 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工材をV字状に折曲しクランクスローを製造する製造方法であって、
前記被加工材を成形するための溝型の凹部を有し、且つこの凹部内の対向面に深さ方向で深い位置ほど傾斜角度が大きくなる少なくとも第1テーパ部及び第2テーパ部を備えた下部金型と、この下部金型の上方から凹部内へ向けて進退する上部金型と、を準備しておき、
この下部金型における第1テーパ部とこの第1テーパ部よりも深い位置の第2テーパ部との境に生じた変角部を上部金型が通過する位置で、2W/(W-W)が略1となり、且つ、下部金型の上端部幅より長尺となっている被加工材を下部金型の上に置き、
その後、上部金型により被加工材を下部金型の凹部内へ圧下することでクランクスローを製造する
ことを特徴とする組立型クランクスローの製造方法。
但し、
:被加工材の厚さ
:上部金型の下端部幅
:変角部での凹部内の対向幅
【請求項2】
前記上部金型により被加工材を下部金型の凹部内へ圧下するに際して、
第1テーパ部では、被加工材の折り曲げ角度が60°より大きくなるように折り曲げを行い、第2テーパ部では、60°以下となるようにして折り曲げを行うことを特徴とする請求項1に記載の組立型クランクスローの製造方法。
【請求項3】
前記上部金型の下端部が下部金型の変角部を通過するまでの間に、前記上部金型の加圧位置を下式の範囲内で水平方向に変更しつつ圧下を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の組立型クランクスローの製造方法。

0≦加圧位置≦WPP/3
但し、WPP:上部金型の上端部幅

【請求項4】
前記上部金型の下端部が下部金型の変角部を通過する直前に当該上部金型による圧下を一旦停止し、
前記被加工材の折曲部の内側に対してデスケール処理を行い、
その後、上部金型による圧下を再開させる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の組立型クランクスローの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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