説明

組織のリモデリングに関連した状態のための非観血的酵素スクリーン

【課題】前立腺疾患及びその他の組織リモデリング関連状態の診断及び予後を非観血的に容易に観察することを可能とする。また、前立腺癌、乳がん、卵巣癌、脳腫瘍、関節炎状態、閉塞状態及び潰瘍状態などの疾患を診断することを目的とした、被験者及び患者の組織リモデリング関連状態を容易に検出することを可能とする。
【解決手段】生物学的試料中の酵素の存在が関与する、組織リモデリング関連状態の存在を診断し、かつその発生を予後するための方法及び器具を開示する。具体的には本方法は、癌、転移癌、及び閉塞性状態並びに変性状態の存在を診断し、又はその発生を予後することに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織のリモデリングに関連した状態のための非観血的酵素スクリーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
[組織のリモデリングに関連した状態のための非観血的酵素スクリーン発明の背景]
あるクラスの疾患は組織のリモデリングに関連した状態だと特徴付けてよく、癌、関節炎状態、閉塞性疾患、変性疾患、創傷治癒に問題がある場合や潰瘍性疾患がこれに当たる。これらの系列でも特徴的な疾患は、わが国の男性における新しい癌症例の第一位であり、癌による死亡原因で肺がんに続いて第二位である、前立腺癌(CaP)である。1995年には4万人を越えるアメリカ人がCaPで死亡したと算出されており、またおよそ24万4千人件の前立腺癌の新症例が見つかって(Cancer Facts and Figures-1995,American Cancer Society,Inc.,1995 非特許文献1)いるが、これらの数字は毎年、急速に増え続けている。さらに、アフリカ系アメリカ人男性の間での前立腺癌発病率は白人のそれに比べて37%高い(Jaroff,L.1996年4月1日)、タイム誌)。
【0003】
【非特許文献1】Cancer Facts and Figures-1995,American Cancer Society,Inc.,1995
【0004】
現在、前立腺疾患を診断する主な手段は、正常値が0から4ナノグラム/ミリリットルの範囲である血中の前立腺特異抗原(PSA)値を測定することである。良性の前立腺肥大症(BPH)の状態として知られる前立腺の肥大は45歳異常の男性の約半分に見られる。BPHがあると、PSA値は前立腺の大きさに比例して増加するため、CaPの診断を不明瞭にしていると考えられる。加えて、CaPのある男性のうち、その大部分がPSA値では正常である。また、CaPとBPHとを区別する上ではPSA検査はかなり非特異的であり、ある程度の偽陰性の結果を出す(Garnick,M.,(1993),Am.Inst.Med.,118:804-818 非特許文献2)。さらにPSA検査では被験者の採血が必要であるため幾分観血的であり、訓練を積んだ者に医師のオフィス又は診療所という設備で行ってもらわねばならない。このようにPSA検査はそれまでの方法に比べて大きな進歩ではあるが、要求も多い。
【0005】
【非特許文献2】Garnick,M.,(1993),Am.Inst.Med.,118:804-818
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
CaPは外科的手術、放射線治療、凍結療法又は放射性シードの移植や、これらの方法の組合せで治療されている。これらの治療のうちの一つを選択する際には、一時的又は長期的な失禁及びインポテンスといった、生活の質に対して良くない影響を与える続発症の可能性が考慮されている。さらに、外科的又は化学療法に続いて、テストステロンの生成をホルモン的に抑制して、そのCaP患者のにおける転移を抑えなければならない。ホルモン抑制は数年間は効果的であると判明しているが、最終的に転移した癌細胞はホルモン抑制薬に耐性を持ってしまう。その他の部位へのCaPの転移が致命的となるのは避けられない。顕微鏡で検出されるCaPの男性患者のうちごくわずかなパーセンテージが転移癌に進行し、この病気がもとで実際に死に至る。現在の医学的アプローチ、特に高齢者に対するアプローチは、腫瘍に治療を施さずに進行を観察するといった「待機的観察」である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[発明の概要]
本発明は、前立腺疾患及びその他の組織リモデリング関連状態の診断及び予後を非観血的に観察するための生物学的マーカを提供するものである。また本発明は、前立腺癌、乳がん、卵巣癌、脳腫瘍、関節炎状態、閉塞状態及び潰瘍状態などの疾患を診断することを目的とした、被験者及び患者の組織リモデリング関連状態を検出するための非観血的手法を用いる方法及び器具を提供する。その一次スクリーンは生物学的体液試料を用いるが、この試料は訓練を積んでいないものが得てもよく、また診療所又は病院を訪れる必要もない。陽性結果と、組織リモデリング関連状態の発生との間にある統計学的関連性は、これらの状態の発現の初期診断に応用され、またこれらの状態の変化の予後にも応用される。
【0008】
本発明は組織リモデリング関連状態に関する被験者の診断を容易にするための非観血的方法を特徴とするものである。本方法には、被験者から生物学的試料を得るステップと、この試料中である酵素を検出して診断を容易にするステップとが含まれる。当該非観血的方法は、組織リモデリングのプロセスに通常関連のある、全長の活性無損傷酵素を、特定の病状のある患者から採った尿中で観察することに少なくとも一部基づいたものである。例えば、ゼラチンを分解するマトリックスメタロプロティナーゼ及びその他のプロテナーゼは癌患者の尿中に見つかっている。さらに、前立腺癌の存在と特定の酵素の尿中への出現との間、そして転移癌と尿中の特定の酵素との間で、高い統計学的関連性が見つかっている。
【0009】
本発明の方法で観察することのできる組織リモデリング状態には様々な種類の癌があり、さらに、当該酵素は、関節炎、変性状態及び閉塞状態など、その他の組織リモデリング状態の診断に適したものである。本発明は、生物学的体液中の酵素を測定することでこれらの状態を診断する非観血的方法を提供する。
【0010】
より好ましくは、本発明の方法を、癌、最も好ましくは前立腺癌の診断及び予後のために、尿中の酵素を検出することとして実現するとよい。本発明は更に、転移した前立腺癌の診断及び予後に関する。本発明の方法による診断に適した様々な癌の中には、とりわけ、上皮を起源とした癌、例えば、上皮を起源とした細胞で形成される神経系、乳房、網膜、肺、皮膚、腎臓、肝臓、膵臓、尿生殖路、卵巣、子宮の癌及び膣癌、並びに胃腸管の癌がある。ここで述べる方法を用いれば、さらに中胚葉性及び内胚葉性起源の癌、例えば骨細胞又は造血細胞中で生じる癌が診断される。
【0011】
ある好適な実施例では、検出される酵素はマトリックス分解酵素であるが、より好ましくはプロティナーゼである酵素、最も好ましくはメタロプロティナーゼである酵素であるとよい。別の態様では、本発明の方法は全長活性酵素である酵素に関連するものであり、これらはマトリックスメタロプロティナーゼである。
【0012】
また別の態様では、本方法は検出ステップの前に尿から低分子量の汚染物質を除去することを含むが、好ましくは検出前に尿を透析して低分子量の汚染物質を除去するとよい。
【0013】
本方法の別の態様は、ある被験者の前立腺疾患の診断を容易にするための完全に非観血的手段を特徴とするものである。尿試料を被験者から採取し、前立腺疾患に関連する酵素をこの尿試料中で検出すれば、この被験者の前立腺疾患を容易に行うことができる。より好ましくは、この前立腺疾患関連酵素はマトリックス分解酵素であるとよいが、最も好ましくはメタロプロティナーゼであるプロティナーゼであるとよい。前立腺の疾患には、良性の前立腺肥大症、「問題のある」前立腺肥大症、臓器限定性の前立腺癌、特に転移癌が疑われる場合に、従来外科的に又は化学的に治療が施されたこの癌が含まれる。本方法は、テストステロンを遮断する作用薬によりホルモン的に処置されている被験者の診断を含む。
【0014】
本発明は、ある被験者の尿試料を用い、そして一種又はそれ以上の前立腺癌関連酵素を検出することで、前立腺癌に関するこのような被験者の診断を容易とするものである。マトリックスプロティナーゼクラスの酵素は診断的なものであり、前立腺癌の場合、本方法は、ゼラチナーゼA、ゼラチナーゼB及び関連する活性の検出を含む。より好ましくは、検出されるメタロプロティナーゼ酵素は72kDaにほぼ等しい分子量、92kDa、又は、150kDa以上の分子量を有するとよい。本発明のさらなる特徴は、ある被験者から生物学的試料を採取し、この生物学的試料中で、転移前立腺癌の予後を容易とする転移前立腺癌関連酵素を検出することで転移前立腺癌の予後を行うための方法である。これらの酵素を検出する好適な実施例では、検出ステップ前に低分子量の汚染物質を除去するとよい。
【0015】
生物学的体液中での酵素の検出は電気泳動法によって行ってもよく、またエレクトロフォレトグラムの分析の好適な方法は、酵素の泳動移動度のパターンをザイモグラムに展開することである。ザイモグラムには、酵素種が泳動する不活性マトリックス中に酵素の基質を取り入れることが含まれる。適した基質の例はタイプIVコラーゲン、又はタイプIVコラーゲンの誘導体であるが、ここで用いられた実施例では、基質はコラーゲン誘導ゼラチンである。その他都合のよいたんぱく質基質、例えばカゼインも本発明の方法の包含するところである。その他の酵素検出法は免疫化学法と考えてもよく、例えば酵素を放射免疫検定又は酵素結合吸着法で検出してもよい。
【0016】
本発明は、組織リモデリング関連状態の診断及び予後を容易に行うための器具を特徴とするが、同器具は尿中の酵素を検出する試薬と注意書きとを備えた容器を有する。この器具の好適な実施例としては、検出しようとする組織リモデリング関連状態は、一種又はそれ以上の種類の癌、例えば臓器限定性の前立腺癌、転移癌や、前立腺癌患者の転移の予後である。異なる実施例では、組織リモデリング関連状態は関節炎、閉塞性又は変性状態である。
【0017】
すなわち、本発明のうち、請求項1に記載された発明の構成は、組織リモデリング関連状態に関する被験者の診断を容易にするための非観血的方法であって、被験者から尿試料を得るステップと、前記尿試料中である酵素を検出することで、前記組織リモデリング関連状態に関する前記被験者の診断を容易にするステップとを含む方法にある。
【0018】
請求項2に記載された発明の構成は、請求項1に記載された発明において、前記組織リモデリング関連状態が癌であることにある。
【0019】
請求項3に記載された発明の構成は、請求項1に記載された発明において、前記組織リモデリング関連状態が関節炎状態、閉塞状態、又は変性状態であることにある。
【0020】
請求項4に記載された発明の構成は、請求項2に記載された発明において、前記癌が臓器限定型前立腺癌であることにある。
【0021】
請求項5に記載された発明の構成は、請求項2に記載された発明において、前記癌が転移前立腺癌であることにある。
【0022】
請求項6に記載された発明の構成は、請求項2に記載された発明において、前記癌が上皮を起源とする細胞中にあることにある。
【0023】
請求項7に記載された発明の構成は、請求項6に記載された発明において、前記癌が、神経系の癌、乳癌、網膜の癌、肺癌、皮膚がん、腎がん、肝臓がん、膵臓がん、尿生殖路の癌、及び胃腸管の癌のいずれかから選択されることにある。
【0024】
請求項8に記載された発明の構成は、請求項2に記載された発明において、前記癌が中胚葉を起源とする細胞中に現れることにある。
【0025】
請求項9に記載された発明の構成は、請求項2に記載された発明において、前記癌が内胚葉を起源とする細胞中に現れることにある。
【0026】
請求項10に記載された発明の構成は、請求項2に記載された発明において、前記癌が、骨格の細胞又は造血系を起源とする細胞を侵すことにある。
【0027】
請求項11に記載された発明の構成は、請求項1に記載された発明において、前記酵素が組織リモデリング又は再形成の経路に関与していることにある。
【0028】
請求項12に記載された発明の構成は、請求項1に記載された発明において、前記酵素がマトリックス分解酵素であることにある。
【0029】
請求項13に記載された発明の構成は、請求項1に記載された発明において、前記酵素がプロテアーゼであることにある。
【0030】
請求項14に記載された発明の構成は、請求項1に記載された発明において、前記プロテアーゼがセリンプロテアーゼであることにある。
【0031】
請求項15に記載された発明の構成は、請求項1に記載された発明において、前記プロテアーゼがマトリックスメタロプロティナーゼであることにある。
【0032】
請求項16に記載された発明の構成は、請求項1に記載された発明において、前記酵素がプロ酵素であることにある。
【0033】
請求項17に記載された発明の構成は、請求項1に記載された発明において、検出ステップの前に尿から低分子量の汚染物質を取り除くステップをさらに含むことにある。
【0034】
請求項18に記載された発明の構成は、請求項17に記載された発明において、前記尿が透析されることにある。
【0035】
請求項19に記載された発明の構成は、前立腺の疾患に関する被験者の診断を容易にするための非観血的方法であって、被験者から尿試料を得るステップと、前記尿試料中で前立腺疾患関連酵素を検出することで、前立腺疾患に関する前記被験者の診断を容易にするステップとを含む方法にある。
【0036】
請求項20に記載された発明の構成は、請求項19に記載された発明において、前記前立腺疾患関連酵素がマトリックス分解酵素であることにある。
【0037】
請求項21に記載された発明の構成は、請求項19に記載された発明において、前記マトリックス分解酵素がプロテアーゼであることにある。
【0038】
請求項22に記載された発明の構成は、請求項21に記載された発明において、前記酵素がメタロプロティナーゼであることにある。
【0039】
請求項23に記載された発明の構成は、請求項19に記載された発明において、前記前立腺の疾患が良性前立腺肥大症であることにある。
【0040】
請求項24に記載された発明の構成は、請求項19に記載された発明において、前記前立腺の疾患が臓器限定型前立腺癌であることにある。
【0041】
請求項25に記載された発明の構成は、請求項19に記載された発明において、前記被験者が以前に外科的又はホルモンにより治療を受けたことのあることにある。
【0042】
請求項26に記載された発明の構成は、請求項25に記載された発明において、前記被験者がテストステロンを遮断する治療を受けたことがあることにある。
【0043】
請求項27に記載された発明の構成は、請求項19に記載された発明において、前記疾患が転移癌であることにある。
【0044】
請求項28に記載された発明の構成は、前立腺癌に関する被験者の診断を容易にするための方法であって、前立腺癌が疑われる被験者から尿試料を得るステップと、前記尿試料中に前立腺癌関連酵素を検出することで、前立腺癌に関する被験者の診断を容易にするステップとを含む方法にある。
【0045】
請求項29に記載された発明の構成は、請求項28に記載された発明において、前記前立腺癌関連酵素がプロテアーゼであることにある。
【0046】
請求項30に記載された発明の構成は、請求項29に記載された発明において、前記プロテアーゼがマトリックスメタロプロティナーゼであることにある。
【0047】
請求項31に記載された発明の構成は、請求項30に記載された発明において、前記マトリックスメタロプロティナーゼがゼラチナーゼA又はゼラチナーゼBであることにある。
【0048】
請求項32に記載された発明の構成は、請求項28に記載された発明において、前記被験者が良性前立腺肥大症であることにある。
【0049】
請求項33に記載された発明の構成は、請求項28に記載された発明において、前記被験者がテストステロンを遮断する治療を受けていることにある。
【0050】
請求項34に記載された発明の構成は、請求項28に記載された発明において、検出ステップの前に尿から低分子量の汚染物質を取り除くステップをさらに含むことにある。
【0051】
請求項35に記載された発明の構成は、被験者の前立腺癌の予後を容易にするための方法であって、被験者から生物学的試料を得るステップと、前立腺癌関連酵素を検出することで、被験者の前立腺癌の予後を容易にするステップとを含む方法にある。
【0052】
請求項36に記載された発明の構成は、請求項35に記載された発明において、前記生物学的試料が尿であることにある。
【0053】
請求項37に記載された発明の構成は、請求項35に記載された発明において、前記前立腺癌関連酵素が組織リモデリング関連酵素であることにある。
【0054】
請求項38に記載された発明の構成は、請求項37に記載された発明において、前記前立腺癌関連酵素がプロテアーゼであることにある。
【0055】
請求項39に記載された発明の構成は、請求項38に記載された発明において、前記プロテアーゼがタイプIVのコラゲナーゼであることにある。
【0056】
請求項40に記載された発明の構成は、請求項39に記載された発明において、前記メタロプロティナーゼの分子量が約82kDa又は92kDa以上であることにある。
【0057】
請求項41に記載された発明の構成は、請求項39に記載された発明において、前記メタロプロティナーゼの分子量が約72kDaであることにある。
【0058】
請求項42に記載された発明の構成は、請求項35に記載された発明において、前記被験者が良性前立腺肥大症であることにある。
【0059】
請求項43に記載された発明の構成は、被験者の問題のある前立腺肥大症の予後のための方法であって、被験者から生物学的試料を得るステップと、前記生物学的試料中に問題のある前立腺肥大症関連酵素を検出することで、被験者の問題のある前立腺肥大症の予後を容易にするステップとを含む方法にある。
【0060】
請求項44に記載された発明の構成は、請求項43に記載された発明において、前記前立腺肥大症関連酵素がメタロプロティナーゼであることにある。
【0061】
請求項45に記載された発明の構成は、請求項44に記載された発明において、前記メタロプロティナーゼの分子量が約92kDa以上であることにある。
【0062】
請求項46に記載された発明の構成は、転移前立腺癌の予後のための方法であって、被験者から生物学的試料を得るステップと、前記生物学的試料中に転移前立腺癌関連酵素を検出することで、被験者の転移前立腺癌の予後を容易にするステップとを含む方法にある。
【0063】
請求項47に記載された発明の構成は、請求項1に記載された発明において、前記酵素の分子量が約72kDa又は約92kDaであることにある。
【0064】
請求項48に記載された発明の構成は、請求項1に記載された発明において、前記酵素の分子量が約150kDa以上であることにある。
【0065】
請求項49に記載された発明の構成は、請求項43、または請求項46に記載された発明において、検出ステップの前に尿から低分子量の汚染物質を取り除くステップをさらに含むことにある。
【0066】
請求項50に記載された発明の構成は、請求項1に記載された発明において、前記酵素が電気泳動法により検出されることにある。
【0067】
請求項51に記載された発明の構成は、請求項50に記載された発明において、前記電気泳動パターンがザイモグラムであることにある。
【0068】
請求項52に記載された発明の構成は、請求項51に記載された発明において、前記ザイモグラムの基質がゼラチン、カゼイン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、プラスミン、プラスミノゲン、タイプIVのコラーゲン、又はタイプIVのコラーゲンの誘導体であることにある。
【0069】
請求項53に記載された発明の構成は、請求項1に記載された発明において、前記酵素が免疫化学的に検出されることにある。
【0070】
請求項54に記載された発明の構成は、請求項53に記載された発明において、前記酵素が放射免疫検定法により検出されることにある。
【0071】
請求項55に記載された発明の構成は、請求項53に記載された発明において、前記酵素が酵素結合免疫吸着検査法により検出されることにある。
【0072】
請求項56に記載された発明の構成は、組織リモデリング関連状態の診断及び予後を容易にする器具であって、尿試料中の酵素を検出するための試薬を有する容器と、組織リモデリング関連状態の診断及び予後を容易にするための、前記酵素を検出する前記試薬を使用する際の指示書とを含む器具にある。
【0073】
請求項57に記載された発明の構成は、請求項56に記載された発明において、前記組織リモデリング関連状態が癌であることにある。
【0074】
請求項58に記載された発明の構成は、請求項56に記載された発明において、前記組織リモデリング関連状態が、関節炎状態、閉塞状態、又は変性状態であることにある。
【0075】
請求項59に記載された発明の構成は、請求項57に記載された発明において、前記癌が臓器限定型前立腺癌であることにある。
【0076】
請求項60に記載された発明の構成は、請求項57に記載された発明において、前記癌が転移前立腺癌であることにある。
【0077】
請求項61に記載された発明の構成は、請求項56に記載された発明において、前記酵素がマトリックスメタロプロティナーゼであることにある。
【0078】
請求項62に記載された発明の構成は、請求項61に記載された発明において、前記マトリックスメタロプロティナーゼがゼラチナーゼであることにある。
【0079】
請求項63に記載された発明の構成は、請求項56に記載された発明において、低分子量の汚染物質を取り除くために尿試料を成分に分離する装置をさらに含むことにある。
【発明の効果】
【0080】
本発明によれば、前立腺疾患及びその他の組織リモデリング関連状態の診断及び予後を非観血的に容易に観察することが可能となる。また、前立腺癌、乳がん、卵巣癌、脳腫瘍、関節炎状態、閉塞状態及び潰瘍状態などの疾患を診断することを目的とした、被験者及び患者の組織リモデリング関連状態を容易に検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0081】
[発明の詳細な説明]
本発明は、生物学的体液中の酵素の存在と、組織リモデリング関連状態(TRAC)、特に癌、閉塞性及び変性状態、並びに関節炎状態の診断及び予後との間にある非観血的方法と、このような診断及び予後に使用する器具とを提供する。
【0082】
TRACの診断法及び予後法は、これらの状態と、生物学的体液中の酵素パターンの存在との間で観察される統計学的関連性に基づいて開発されてきた。便宜上、本明細書、実施例及び添付の請求の範囲で用いられる特定の用語をここに収集しておく。
【0083】
ここで用いられるときの「被験者」という用語は、ある状態、特に以下に説明する「組織リモデリング関連状態」について診断又は予後の必要のある、又は同状態の疑われる生きた動物又はヒトを言う。被験者は、何らかの環境下で成長因子などの組織リモデリングシグナルに反応することのできる生体であり、また被験者は癌及び関節炎に罹患可能性のあるものである。好適な実施例では、被験者は、ヒトや、イヌ、ネコ、豚、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ラット、及びマウスなどのヒト以外のほ乳類を含むほ乳類である。最も好適な実施例では、被験者はヒトである。「被験者」という用語は、組織リモデリング関連状態に関して完全に正常な、又はすべての点で正常な個人を除外するものではない。被験者は以前に外科的に又は化学療法により治療を受けていてもよく、またホルモン治療を受けていても、あるいは過去にホルモン治療を受けたことがあってもよい。
【0084】
ここで用いられるときの「患者」という用語は、臨床の場にあって、一つ又は複数の診断を示唆するある特定の一症状又は複数の症状を持ったヒトの被験者を言う。患者は、当業の医師に公知の臨床手続きによりさらに分類してもよい(あるいはその他に何ら疾患の徴候がなく、あらゆる点で正常と思われてもよい)。
【0085】
ある患者の診断は、例えば、自発的又は治療的養生又は治療の経過中に起きるさらなる疾病状態の出現や疾病の寛解など、疾患の進行の経過で変更されてもよい。ここで述べる本発明においては、実施例で説明する患者は医学的状態の最も最近の診断に基づいて他の患者とともにリストに挙げられているのであり、以前に異なる診断があれば、文中に説明されている。このように、「診断」とはいかなる特定の患者又は被験者に関して異なる先の又は後の診断を除外するものではない。「予後」という用語は、生物学的体液中、好ましくは尿中の一種又はそれ以上の酵素の存在と関連のある、又はその存在により示される状態の出現する確率を、ある被験者又は患者について評価することを言う。
【0086】
「生物学的試料」という用語には、被験者から採取した生物学的試料が含まれる。このような試料の例には、尿、指の突刺又は静脈等の源から採取した血液、血清及び血漿などの血液分留分、糞便及び糞尿物質並びに抽出物、唾液、脳脊髄液、羊水、粘液、及び頬側スミア、Papスミアなどの細胞及び組織材料、細針穿刺、胸骨穿刺、及びその他、標準的な医学的及び開放外科手術中に採取される生検材料が含まれる。
【0087】
転移癌に関してここで用いられるときの「浸潤性(原語:invasive)」という用語は(Darnell,J.(1990),Molecular Cell Biology,Third Ed.,W.H.Freeman,NY)は、ある医学的手続きを説明するときの「観血的(原語:invasive)」という用語の使用とは異なり、その違いはコンテクストの上での違いである。医学的手続きに関する「観血的」とはある特定の手続きが身体の一体性に干渉する程度に関する。「観血性」とは、尿又は唾液の採取など完全に非観血的なものから、例えば、Papスミア、頬側の摩擦又は血液検査など、臨床の場で訓練を積んだ者が行う必要がある中程度の観血性、胸骨骨髄の採取又は脊髄穿刺などのより観血的なもの、そして例えば腫瘍の大きさ及び性質を検出するために行われる開放手術、例えば脳外科手術中、肺手術中、又は前立腺癌の場合の経尿道的切除術中に採取された材料の生検など、かなり観血的なものまで、範囲に広がりがある。
【0088】
「浸潤的(原語:invasive)」という用語はさらに、腫瘍が、境界を越えて近接する組織に拡大するその傾向について、又は転移に関する腫瘍の特性についても用いられている(Darnell,J.,(1990),Molecular Cell Biology,Third Ed.,W.H.Freeman,NY)。例えば、皮膚の基底細胞癌は非浸潤的又はわずかに浸潤的な腫瘍であり、原発腫瘍の部位に限定されて大きさは拡大するが転移しないものである。対照的に、癌黒色腫は近接組織及び遠位組織への浸潤性が高い。ある腫瘍の浸潤特性は、腫瘍が莢膜の境界を越えて、そしてその腫瘍が位置している特定の組織の境界を越えて拡大できるようにする、マトリックス材料及び基底膜材料を分解するコラゲナーゼ等のたんぱく質分解酵素の生成が伴っていることが多い。このような酵素の生成は腫瘍細胞内の内因性の合成であったり、近接細胞から惹起されたり流血中の好中球により惹起されたりするものであるが、これらの場合では、腫瘍による惹起は、腫瘍の生成する化学的メッセンジャが原因であり、酵素の発現は腫瘍部位又は腫瘍近位で起きる。本発明の酵素は、内因性の腫瘍生成物としてのみ生成されるものだけではなく、TRACの予後又は診断の必要のある患者又は被験者の生物学的試料中に見つかるものも含むものとして意図されている。
【0089】
癌又は新生物は、調節のない細胞成長及び分割を特徴としている。内胚葉又は外胚葉を起源とする組織で生じる腫瘍は癌腫と呼ばれ、中胚葉を起源とする組織で生じるものは肉腫として知られる(Darnell,J.,(1990),Molecular Cell Biology,Third Ed.,W.H.Freeman,NY)。腫瘍の起源のメカニズムの現在のモデルは腫瘍遺伝子として知られる遺伝子の突然変異による、又は第二の腫瘍抑制遺伝子の不活化によるものである(Weinberg,R.A.,(1988年9月),Scientific Amer.,44・51)。このように、これまでに明らかになった腫瘍遺伝子は体細胞でのみ生じているため、それらの作用を宿主となった動物の生殖細胞系に伝えることはできていない。対照的に、腫瘍抑制遺伝子での突然変異は生殖細胞中に見ることができるため、動物の子孫に伝えられることが可能である。癌の例には神経系、乳房、網膜、肺、皮膚、腎臓、肝臓、膵臓、尿生殖路、胃腸管の癌、骨の癌、及び白血病やリンパ腫など、造血系が起源の癌がある。本発明の一実施例では、癌は膀胱の癌ではない。
【0090】
リウマチ性関節炎等の関節炎状態はTRACの一例であるが、それはなぜならこの疾患は慢性の場合には膠原構造の破壊を特徴とするからである(J.Orten et al.(1982),Human Biochemistry,Tenth Ed.,C.V.Mosby,St.Louis,MO)。過剰なコラゲナーゼが増殖中の滑膜の細胞により生成される。例えば潰瘍性疾患、閉塞性疾患及び変性疾患など、その他のTRAC状態も同様に、構造たんぱく質の代謝の酵素中の変化を特徴としている。
【0091】
ここで用いられるときの「前立腺癌」(CaP)という用語は、前立腺の触知可能な腫瘍の出現と、顕微鏡により検出可能な前立腺の新生細胞又は形質転換した細胞との両方を言う。後者の場合、患者も医師も癌細胞の存在を感知できないという点で、前記の細胞学的に検出可能な前立腺癌は無症状であるかも知れない。1000万人のアメリカ人男性が顕微鏡的なCaPを持っていると推定されている(M.Garnick,(1994年4月),Sci.Am.,78)。癌細胞は一般的には70代又は80代にさしかかる男性の前立腺に見つかるが、これらの男性のすべてに前立腺癌(CaP)が起きる訳ではない。検死の結果、その他の死因で死亡した男性の3分の一に、前立腺癌細胞の顕微鏡的集塊があることが判っている(Thayer,W.,(1996年3月19日),Nutr.Act.Newsletter,23(2):12で引用)。
【0092】
前立腺癌が原因の死亡率は55歳から上昇し、前立腺癌の新症例はこの死亡率よりも速い速度で増加している。CaPは男性の癌を原因とした死亡の第二位であり、1995年には40,000件を越える死亡がある。前立腺癌が前立腺から遠位の部位へさらに転移した場合には、状態は転移癌(MC)、又は、転移前立腺癌と呼ばれ、臓器限定型の前立腺癌からこの状態を区別している。CaPの致死性は、前立腺の腺癌細胞が遠い部位、多くの場合は中軸骨格で遠い部位へ内転移することから来ている。
【0093】
ここで用いられるときの「臓器限定的」という用語は、前立腺の境界を越えて転移していない、つまり当業者に公知の技術により前立腺以外の臓器又は組織では見つかっていない前立腺癌を言う。しかしながら、いくつかの細胞は転移していながら、当業者の用いる通常の技術では検出されない場合も度外視できない。
【0094】
ここで用いられるときの「転移」という用語は、癌がもともとの臓器から更にその患者の別の遠位部位へ広がった状態を言う。特に標的となる臓器は癌の種類に共通しており、例えばCaPは多くの場合、腰の痛みや急性の尿閉といった状態を伴って骨格へ転移し、死亡率も高い。本発明の目的のために例示する転移癌(MC)はCaPの骨格又は特定の臓器への広がりだけに限定されるものではなく、例えば腎臓(腎)、乳房及び胃腸管などのその他の癌がこれらの原発部位を越えて広がることも含む。
【0095】
ここで用いられるときの「良性前立腺肥大症」という用語は、年齢に関連する非癌性の前立腺拡大であって45歳以上の男性の50%以上が罹患するものも含む(上述のGarnick)。良性前立腺肥大症は、無症状、つまりその個人に対して良くない影響のないものでもよく、前立腺癌の発生があることをここでは必ずしも意味するものではない。BPHには、前立腺の成長の程度に比例した、たんぱく質前立腺特異抗原(下に説明するPSA)の生成が増加を伴う。これが理由で、BPH患者のCaPの診断は、PSA検査の利用のみでは、無症状のままさらに成長したことから判別することが難しい場合がある(下記を参照されたい)。
【0096】
BPHは、尿しぶり、頻尿、及び排尿ちゅうちょ並びに陰茎勃起困難を含む症状を伴った「問題のある」前立腺肥大症のように現れ、又はこれに進行することがある。これらの同じ症状がCaPにもあるために(M.Garnlck(1993)AnnalsInt.Med.,118(10):804-818)、臨床医はCaPと問題のある前立腺肥大症とを、症状が突然始まったか、や、さらに診断検査(上述)を行うことにより識別している。BPH及び問題のある前立腺肥大症もまたCaPへ移行するかも知れないが、正常な被験者と同じように、BPH患者集団についてもあらゆる診断上の可能性があるため、これらの用語は疾患の進行を除外したり含蓄したりするものとして意図された用語ではない。
【0097】
現在のところ、前立腺の疾患のための主たる診断ツールは前立腺特異抗原(PSA)値を測定する血液検査である。PSAの上昇はCaP及びBPHの両方に伴うが、PSA値はまた加齢によっても上昇する。CaPの場合、前立腺を除去するとPSAの読み取り値がゼロになるはずであるが、その後PSA値が血中陽性となれば、その癌が転移しており、不治かつ致命的な状態であることを示唆している。臓器に限定したCaPは主に、外科手術と、テストステロンを遮断するホルモン治療により治療されるが、これらの治療はしばしば様々な期間に渡る失禁及び性欲喪失を起こし、また腫瘍の成長又は転移を一時的に遮断するのみであることもある。
【0098】
CaPは性ホルモン依存性の癌である、つまり、この癌の成長が男性ホルモン(例えばテストステロン及びジヒドロテストステロンなどのアンドロゲン)により促進されるため、前立腺癌の再発及び転移のホルモン抑制が可能である(Smith,P.(1995),Cancer Surveys Vol.23.Preventing Prostate Cancer,Imper.Cancer ResearchFund)。精巣除去(性腺摘除)は長い間行われてきた、癌の成長を抑えるための、性腺による男性ホルモンの分泌を妨げる標準的方法であった。現在では、男性ホルモンの分泌は、男性ホルモンの合成を調節する黄体形成ホルモン(LH)の生成に干渉することで化学的手段により抑制されている。同じような考慮が、乳がん又は卵巣癌など、その他の性ホルモン依存性の癌にも適用可能である。
【0099】
PSA値の上昇を検出することに加えて、CaPを診断する方法は現在他にも当業者には公知であるが、その中には直腸内診、経直腸的超音波検査法又は磁気共鳴映像法(MRI)、骨格スキャン、X線、骨格探査、静脈性腎孟造影法、CATスキャン、及び生検が含まれる(Garnick,M.(1993),Annals of Internal Medicine,118:803-818;及びGarnick,M.(1994),Scientific American,270:72-81により評価)。これらの手続きは観血的かつ複雑であり、費用がかかり、また高度に訓練を積んだ人材を必要とする。
【0100】
CaPの段階は通常、A、B、C及びDに分けられた尺度で評価される。段階Aの腫瘍は顕微鏡的であり、段階A1は比較的小さな面積に限定され、またよく分化した組織から成る腫瘍を表し、段階A2の腫瘍はより散在して分化の程度も小さく、段階Bの腫瘍は直腸内診中に感じられる程大きく、そして段階Cの前立腺癌は前立腺全体に広がり、多くの場合、前立腺の境界を越えて周囲の構造まで押し広がったものである。段階Dの腫瘍は、例えばリンパ節、骨格、又はその他の臓器に転移したものである。あるいは、腫瘍はさらにTNM分類法によっても分類され、この分類法では腫瘍はT1aからT4bまで、疾患が進行して悪化する順の尺度に分類される(例えばT1cの腫瘍は触知不能かつ不可視であるが前立腺特異抗原の血中レベルが上昇していることで検出されたものである)。段階A2、B、又はCの段階として特徴づけられた腫瘍の25%から50%がその後の検査で転移腫瘍であることが判明する(上述のGarnick)。前立腺腫瘍組織を除去又は破壊する処置に関わる方法が、通常、転移していない癌に用いられる。
【0101】
例えば根治的前立腺切除術は、段階A、B及びいくつかの段階C腫瘍(つまり腫瘍の成長が前立腺の境界をあまり越えて広がっていない場合)や、段階T1cの腫瘍に用いることが好ましい。X線治療(例えば外部放射又は組織内放射)は好ましくは段階A、B又はCの腫瘍やT1cの腫瘍に用いる。様々な治療に適した症例を判別する上でその他の診断ツールが役に立つかも知れない。
【0102】
本発明においては、被験者から採取した生物学的試料中の酵素パターンの検出は、特定の状態との統計上の関連性を提供することでTRACの診断及び予後を容易にするために用いられる。「酵素」という用語は当業において公知であり、化学反応のたんぱく質触媒もこれに含まれる。本発明の目的のための酵素は無損傷の酵素全体でも、その一部又はフラグメントでもよい。ここで用いられるときの酵素という用語の好適な実施例は、触媒的にたんぱく質を分解する天然発生型の酵素、つまりプロテアーゼ又はプロティナーゼとして知られる酵素である。プロティナーゼとは、N端又はC端からアミノ酸残基を取り除くことでたんぱく質を分解すると共に、この反応の進行の結果大規模な分解を達成する進行性エキソペプチダーゼか、又は、様々な程度の残基特異性を呈しつつアミノ酸残基間のアミノ結合を破壊するエンドペプチダーゼを意味する。「プロテアーゼ」という用語には、さらに、あるたんぱく質のN端又はC端から単一のアミノ酸を除去する高特異的アミノ酸ペプチダーゼが含まれてもよい。その例は、それぞれアミノ端にアラニン又はロイシンを有していてもよいあるたんぱく質のアミノ端から、それぞれアラニン又はロイシンを除去するアラニンアミノペプチダーゼ(EC3.411.2)及びロイシンアミノペプチダーゼ(EC3.4.11.1)である。本発明の酵素の分子量は、約20kDaから約200kDaの範囲、より好ましくは50kDaから約150kDaの範囲の分子量に含まれるが、これらに限定されることはない。
【0103】
プロテアーゼという用語のより好適な実施例は、あるたんぱく質の分解を実際に引き起こすことができ、その結果、基質材料よりも分子量が著しく小さな生成物が生じるような酵素を意味する。「酵素」という用語には、ヒトの集団中に普通に見られる沈黙突然変異である多形変位体が含まれる。本発明の最適な実施例における酵素はプロテアーゼ又はプロティナーゼであるが、本発明をこれらの酵素に限定することは意図されていない。プロテアーゼ(及びその等価の用語であるプロティナーゼ)という用語は、基質の分子量を実質的に減じることができ、かつ、その基質の生物学的機能がマトリックス障壁の一構成成分である場合には特にその生物学的機能を破壊することができるようなエンドペプチダーゼ及び進行性エキソペプチダーゼを含むものとして意図されている。アラニンアミノペプチダーゼ及びロイシンアミノペプチダーゼなどのアミノ酸ペプチダーゼもまた広義ではプロテアーゼに含まれるが、基質たんぱく質の分子量を大きく減じる特性を共有してはいない。
【0104】
何千ものプロテアーゼは天然発生するが、それぞれはある生体の異なる発生時点で、かつ異なる位置に現れていてもよい。本発明はここではマトリックスメタロプロティナーゼ(MMP、クラスEC3.4.24)のクラスの酵素を特徴とする。これらの酵素は活性のためには二価の陽イオンを必要とし、通常は胚の発生の初期、例えば透明帯から接合体が生まれるとき、そして発生した胚が子宮壁内部に付着する過程で再び発現される。Nアセチルグルコサミニダーゼ(EC3.2.1.50)などの酵素活性が、例えば糖尿病を原因とした腎尿細管損傷の場合には尿中に現れる(Carr,M.,(1994),J.Urol.151(2):442;445;Jones,A.,et.al.,(1995),Annals.Clin.Biochem.,32:68-62)。腎細尿管の損傷の結果、尿中にこれらの活性が見られるということは、ここで説明するように本発明とは無関係である。
【0105】
「マトリックス分解酵素」という用語は、例えば、特定の種類の細胞が見られる組織中に層を成した、たんぱく質とプロテオグリカンとの混合物などのマトリックスを溶解又は分解することのできる酵素を言う。マトリックス分解酵素は、正常な胚形成、妊娠及びその他の組織リモデリングに関与する過程の段階で発現される。加えて、これらの酵素のいくつか、例えばいくつかのマトリックスメタロプロティナーゼ(MMP)は、腫瘍細胞の移行にとっての物理的障壁として働く、実質及び血管基底膜の大型の細胞外基質たんぱく質を分解する。これらのMMPはいくつかの癌で生成され、転移に関連づけられている(Liotta,L.A.,et al.,(1991),Cell,64,64:327.336)。MMPの例はタイプIVのコラゲナーゼ、例えばmmp−2(ゼラチナーゼA.EC3.4.24.24)及びmmp−9(ゼラチナーゼB、3.4.24.35)、及びストロメリシン(EC3.4.24.17及び3.4.24.22)である。いくつかのMMPはメタロプロティナーゼの組織阻害物質(TIMP,Woessner,J.F.,Jr.,(1995),Ann.New York Acad.Sci.732:11-21)と呼ばれる分子により特異的に阻害され、これはまた腫瘍細胞により過剰生成されることもあるが、特定の条件下では酵素活性がTIMPをモル超過する(Freeman,M.R.et al.,(1993),J.Urol.,149:659;Lu,X.et al.,(1991),Cancer Res.,51:6231-6235,;Kossakowska,A.E.et al.,(1991),Blood.77:2475-2481)。本発明の一実施例では、この酵素の阻害物質(TIMP、例えばTIMP−1又はTIMP−2)は酵素自体でなく生物学的試料中で(例えば錯体又は遊離形)検出される生物学的マーカであってもよい。阻害物質の検出は当業に公知の技術を用いて行うことができる。MMPの多くはプロ酵素として翻訳されているが、小型の形(45kDa、55kDa、62kDa)及び大型の形(72kDa、82kDa、92kDa、及びそれより高分子の150kDa以上の重合体)を含む分子量範囲で、様々な構造のものが見つかるかも知れない 「前立腺癌関連酵素」又は「前立腺疾患関連酵素」という用語は、ある被験者の生物学的試料中にそれを検出すると前立腺癌又は前立腺疾患の診断が容易となるような酵素を含むものとして意図されている。例には、約20kDaから200kDaの範囲、より好ましくは約50kDaから約150kDaの範囲、例えばより具体的には約72kDa、92kDa、又は150kDaのMMPがある。これらの大きさを紹介したことは、より大型の又は小型のその他の酵素を除外することとはならない。本発明の一実施例においては、酵素は約72kDa又は約44kDaの大きさの酵素ではない。いくつかの種類の癌ではMMPに加えてその他の種類のプロテアーゼが生成かつ活性化されているかも知れず、例えばプラスミノゲンが発現され、たんぱく質分解による開裂によりプロテアーゼプラスミン(EC3.4.21.7)に活性化されているかも知れない。
【0106】
「電気泳動法」という用語は、一般的には紙、でんぷんゲル、又は好ましくはポリアクリルアミドなどの不活性の担体系を用いて電界中で行われる分子の分離系を示すために用いている。ポリアクリルアミドゲルと、ドデシル硫酸ナトリウム変性界面活性剤とを用いた電気泳動法を以下の実施例で説明する。このプロトコルは当業者に公知の等価の手続きを除外するものとして意図されたのではない。当業者に公知のその他のSDSポリアクリルアミドによる手続きを用いてもよく、例えば10%などの単一のポリアクリルアミド濃度を分離ゲルの勾配に用いてもよい。電気泳動法のマトリックスのための物理的担体はガラス製のプレートではなく毛管であってもよい。SDS−ポリアクリルアミドゲルによるいくつかの電気泳動系の詳細が、多くの評価文献及び生物工学の手引きに解説されている(例えばManiatis,T.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.)。この方法はSDS及びその他の界面活性剤の利用に限定されない。さらに、界面活性剤の不存在下で電気泳動法を利用してもよい。たんぱく質は、非変性条件下、例えばポリアクリルアミドマトリックス上に尿素が存在する状態(上述のManiatis)で行ったり、又は、電荷により、例えば等電点電気泳動法の手続きにより分離してもよい。
【0107】
酵素の分離に電気泳動技術を用いる場合には、電気泳動図をザイモグラムに展開してもよい。ここで「ザイモグラフィ」とは、化学的に不活性の分離又は担体マトリックスを用いた分離系であって、電気泳動後、酵素活性及びその後の検出が可能なような条件にこの分離系のマトリックスを暴露することで酵素の検出が可能である系を含むものとして意図されている。より狭義では、ザイモグラフィという用語は、不活性のマトリックス中に目的の酵素のために適した基質を導入することで、このマトリックスを電気泳動停止後に活性条件に暴露すると活性酵素の精確な位置、ひいては移動度を視覚化できるような系を生じさせることを意味する。当業者に公知の技術を用いれば、たんぱく質の分子量はザイモグラムの位置から得られる移動度に基づいて計算される。このような技術には標準分子量との比較があるが、この標準分子量での移動度は、一般的なたんぱく質着色から、又はそれらの標準に特異的なブレ着色から判定される。また、ザイモグラムの技術により、つまり酵素活性により視覚化される、精製分離した目的の酵素の陽性対照との比較も、この技術に含まれる。
【0108】
特に、ザイモグラフィによるプロテアーゼの検出用の基質は電気泳動マトリックス中に含まれる。タイプIVのコラゲナーゼについては天然の基質はタイプIVのコラーゲン及びゼラチンであり、ここで説明する実施例のザイモグラフィの基質にはタイプIコラーゲン誘導体が用いられている。しかしながら、TRACの診断において目的のさらなるプロテアーゼを検出するのに適したその他のたんぱく質には、例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、タイプI乃至III及びV乃至XIIのコラーゲン、プロコラーゲン、エラスチン、ラミニン、プラスミン、プラスミノゲン、エンタクチン、ニドゲン(原語:nidogen)、サインデカン(原語:syndecan)、テネイシンや、ヒアルロン酸、コンドロイチン六硫酸、コンドロイチン四硫酸、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸及びデルマタン硫酸並びにヘパリンなどの糖と置換した硫酸化プロテオグリカンが含まれる。さらに、カゼインなど、目的のプロテアーゼの天然の標的ではないかも知れないが、技術的には適当である便利で安価な基質たんぱく質も、本発明のザイモグラフィ技術の適切な基質構成成分として含まれる。天然発生型のたんぱく質基質を化学合成した擬態もザイモグラフィの基質として考えることができ、また、酵素により開裂したときに色又は蛍光上の変化を生じる色素産生又は蛍光産生など、好ましい特性を持つよう設計することさえ可能かもしれない。
【0109】
ザイモグラフィは、生物学的試料中のプロテアーゼ阻害物質の検出に向けて適合させてもよい。TIMP−1及びTIMP−2など、多種の天然MMP阻害物質が生成されるため、またTRACの場合には調節不能となっていることが判明しているため、本発明には、酵素阻害物質だけでなく組織リモデリングの酵素の検出も含まれる。このように、例えば、ある阻害活性を測定しようとする「レポータ酵素」を、電気泳動法に先駆けて、被験者及び患者により採取された各生物学的試料と共に、一又はそれ以上のアリクォートの試料に対応する一又はそれ以上の量にしてインキュベートしてもよい。この酵素は生物学的試料の一アリクォートでは省かれる。試料中の阻害の存在は、展開されたザイモグラムからレポータ酵素の帯が消失又は減少していることで検出される。あるいは選択に応じ、反応混合液中に既知の量の活性酵素を含め、これに推定上の阻害活性を持つ実験試料を数アリクォート加える機能的酵素活性検定によっても阻害物質の存在を検出可能である。
【0110】
さらに、組織リモデリングの酵素はたんぱく質分解活性を越える酵素活性までその能力を延ばす。例えば、グリコシル、リン酸塩、硫酸塩、リピド及びヌクレオチド残基(例えばアデニル)などの残基と置換される酵素は当業者には公知である。これらの残基は次に他の酵素、例えばグリコシダーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、アデニルトランスフェラーゼ、等々により添加されたり除去されたりする。TRACの診断及び予後のためにこのような活性の存在を検出する便利な方法は当業者により容易に開発され、ここで説明する本発明の一部を成すものとして意図されている。
【0111】
腎細尿管の損傷を伴う尿中に活性が見つかれば、これらはここで説明する方法により検出されるかも知れず、その場合は本発明の方法を用いて得た陽性データは、原因となる状態として腎細尿管の損傷を含めて評価されねばならない。経過中、腎細尿管の損傷とTRACの診断、例えば腎癌、尿細管閉塞、腎潰瘍、等々とが重複することは存在する。本発明の実用性は重複の可能性により制限を受けたり、このような状態の知識により制限を受けるものとは考えられない。
【0112】
ここで説明する実施例のザイモグラムは、たんぱく質用の一般的染料、この場合はクーマシー青色染料を用いて展開されている。この展開は、一般的なたんぱく質染料、例えばアミド・ブラックダイ及びSYPROオレンジ染料(カリフォルニア州94537、ヘラクレスのバイオラド・ラボラトリーズ社製)を用いれば可能である。さらに、酵素活性は、例えば放射性標識を付けた基質を用いたときの放射活性域の不存在や、放射性標識付基質の移動度の変化や、又は蛍光帯の不存在又はその中の移動度の変化や、あるいは蛍光産生基質又は色素産生基質を用いた顕色など、染色したマトリックス中の透明域の分解という技術の他に、さらに別の技術を用いて検出してもよい。
【0113】
モラキュラー・ダイナミックス・ホスホイメージャ(カリフォルニア州94086、サニーベイル、イーストアークスアベニュー928、モラキュラー・ダイナミックス社製)の活性化プレート上にゲルを直接置いたり、8ビットのビデオカード及びマックイメージ(ゼロックス・イメージング・システムズ社製)を備えたマッキントッシュコンピュータに取り付けたデータコピーG8プレートスキャナを用いれば、ザイモグラムで定量デンシトメトリを行うことができる。バックグラウンドの測定、つまり試料列とは異なるゲルの領域も同様にスキャンすることができ、その値を酵素活性の読み取り値から減算することができる。
【0114】
特異たんぱく質の存在について生物学的試料を分析するためのもう一つの電気泳動法を基にした技術は、親和性を基にした移動度変更系(Lander,A.,(1991),Proc.Natl Acad.Sci U.S.,88(7):2768-2772)である。目的となるMMP又はその他の種類の酵素は、例えば酵素に基本的に非可逆的に結合する基質類似体を含めること、したがって移動度を減じることで検出できるかも知れない。この新和製材料は電気泳動中は存在し、マトリックス中に組み込まれているため、目的の酵素は、この材料の不存在下での移動度と比較したときの移動度の変化という結果により検出される。電気泳動法によるたんぱく質の分離のさらにもう一つの技術は、緩衝液のpHの関数としてたんぱく質に内在する電荷があり、従っていかなるたんぱく質種にも、そのたんぱく質がある電界中で移動しないpH、即ちpIで表される等電点というものが存在することに基づくものである。例えば尿試料など、生物学的試料のたんぱく質を等電点電気泳動により分離した後、例えば基質を持つ材料への移行により酵素活性について検定することで展開、すなわちザイモグラフィを行ってもよい。電気泳動法は免疫学的検出の根拠としてよく用いられるが、このときその分離ステップ後に、例えば紙又はナイロンなどの不活性の担体へたんぱく質を物理的又は電気泳動による移行させる(ブロットとして公知)ことが行われ、たんぱく質のこのブロットパターンは、ある抗体による特異的一次結合(ウェスタン・ブロット)を用い、次に、この結合した抗体を、西洋ワサビペルオキシダーゼなどの検出酵素に結合させた二次抗体により展開させることで検出することができる。TRAC酵素のためのさらなる免疫学的検出系を以下に詳述する。
【0115】
ここで用いられるときの「抗体」という用語は、本発明の方法及び器具の成分の一つに対してやはり特異的反応性を持つそのフラグメントを含むものとして意図されている。抗体は従来の技術を用いてフラグメントにすることができ、そのフラグメントは、抗体全体について上述したのと同じ態様で実用性に関してスクリーニングすることができる。例えば、F(ab)2フラグメントは、抗体をペプシンで処理することで生じさせることができる。その結果生じたF(ab)2フラグメントに、二硫化物の架橋を還元する処理を施せば、Fabフラグメントを生成させることができる。「抗体」という用語はさらに、一本鎖の、二重特異的かつキメラ様分子を含むものとして意図されている。「抗体」という用語には、適用時の要件に応じて、ある標的に向けた単クローン抗体及び多クローン抗体(Ab)の両方の利用が含まれる。
【0116】
多クローン抗体は、動物、例えばウサギ又はヤギを、目的の抗原の精製型、又は少なくとも一つの抗原部位を含む抗原のフラグメントに対して免疫化することで得ることができる。動物の免疫化を最適に行うための条件、例えば特定の免疫化計画の使用や、例えばフロイントアジュバントなどのアジュバントの使用、又は、キーホールリンペットホモシアニンなど、抗原に共有結合した免疫原生置換基の使用、などを通じて血清中で得られる抗体力価を向上させる条件は、当業者に公知である。単クローン抗体は当業者に公知の手続きにより作成されるが、それには、最小数の抗原決定基を含んだ抗原又は抗原フラグメントで免疫化させた動物、例えばマウスから、抗体生成リンパ球のクローン、すなわち単細胞系分離物から誘導した細胞株を得て、前記クローンを骨髄腫細胞系と接着して不動化した高収量細胞系を作成することが含まれる。数多くの単クローン及び多クローン抗体製剤が市販されており、また、抗原の精製、動物の免疫化、動物の飼育及び瀉血、血清及びIgG分留の精製、又は単クローン抗体を生成する細胞株の選択及び接着に関し、専門的意見を提供する商業的サービスを受けることができる。
【0117】
抗体の代わりに使用することのできる特異的高親和結合たんぱく質を当業者に公知の方法に基づいて作成することができる。例えば、特異的DNA配列に結合するたんぱく質を作り出すことができるかも知れず(Ladner,R.C.,et al.,米国特許第5,096,815号)、また多様なその他の標的に結合するたんぱく質、特にたんぱく質の標的(Ladner,R.C.,et al.,米国特許第5,233,409号Ladner,R.C.,etal.,米国特許第5,403,484号)を作り出し、本発明に利用してキレート分子に共有結合させ、放射性核種を持つ錯体を温和条件下で形成させてもよい。本発明の組成物を、例えばマルチウェルプレート検定の表面に固定したり、カラム精製用ビードに固定したりすることの必要な大規模診断又は検定プロトコルに、抗体及び結合たんぱく質を取り入れてもよい。
【0118】
様々な免疫学的検定を行う際に利用すべき一般的枝術は当業者に公知である。
【0119】
さらに、これらの手続きの概略的解説は、ここに参考文献として編入することとする米国特許第5,051,361号や、当業者に公知の手続きに提供され、また当業の手引きにも説かれている(Ishikawa,E.,et al.(1988),Enzyme Immunoassay Igaku-shoin,Tokyo,NY;Hallow,E andD.Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,CSH Press,NY)。いくつかの免疫学的検定の例を以下に述べる。
【0120】
放射性標識付リガンド、例えば3H、又は14C、あるいは125Iで直接標識付けした抗原を用いるラジオイムノアッセイ(RIA)は、抗原性材料としてMMPの存在を測定する。固定量の標識付MMP抗原を、試料から採った無標識抗原と、限られた数の抗体結合部位をめぐって競合させる。標識付抗原−抗体の結合錯体を未結合の(遊離した)抗原から分離した後、結合分留、又は遊離分留中又は両方の放射活性を適した放射線カウンタで計測する。結合した標識付抗原の濃度は、試料中に存在する無標識抗原の濃度に反比例する。MMPに対する抗体が溶液中にあってもよく、また遊離及び結合抗原MMPの分離は、木炭などの作用因子を用いたり、免疫グロブリンがMMPに対する抗体を含有する動物種に特異的な第二の抗体を用いて行うことができる。あるいは選択に応じ、MMPに対する抗体を不溶性材料の表面に付着させてもよく、この場合は結合MMPと遊離MMPとの分離は適切な洗浄で行われることとなる。
【0121】
免疫放射定量測定法(IRMA)は、抗体試薬に放射性の標識を付ける免疫検定法である。IRMAには多価MMP共役体の作成が必要であるが、その際の技術には例えばウサギ血清アルブミン(RSA)などのたんぱく質への接合がある。多価MMP共役体は一分子当り少なくとも2MMP残基を有していなければならず、またこのMMP残基は、MMPに対する少なくとも二つの抗体により結合が起きるよう、互いに充分な距離にあるものでなければならない。例えば、IRMAでは、多価MMP共役体はプラスチック球などの固体表面に付着させることができる。無標識「試料」MMPと、MMPに対する放射性標識付抗体とを、多価MMP共役体で被膜した球を入れた試験管内に加える。試料中のMMPは多価MMP共役体とMMP抗体結合部位をめぐって競合する。適した時間のインキュベーション後、未結合の反応体を洗浄して取り除き、固相の放射活性の量を判定する。結合した放射活性抗体の量は、試料中のMMP濃度に反比例する。
【0122】
その他の好適な免疫検定技術は、例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ、ウレアーゼ、及びB−ガラクトシダーゼなどの酵素標識を用いるものである。例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼに接合したMMPは遊離した試料MMPと、微量定量プレートなどの固体表面に付着させたMMPに対する抗体上に存在する限られた数の抗体結合部位をめぐって競合する。MMP抗体は微量定量プレートに直接付着させても、又は、この微量定量プレートをまず、例えばMMPをウサギ血清アルブミン(RSA)などの血清たんぱく質に接合して作成した多価MMP共役体(被膜抗原)で被膜してから付着させるなど、間接的に付着させてもよい。結合した標識付MMPを未結合の標識付MMPから分離した後、結合分留中の酵素活性を、例えば微量定量プレート読み取り器などの比色分析により、西洋ワサビペルオキシダーゼの色素産生基質を加えてから一定時間後の時点で判定する。
【0123】
あるいは選択に応じ、微量定量プレート又はポリスチレンビードなどの表面に付着させた抗体を一アリクォートの生物学的試料と共にインキュベートする。流体中に存在するMMPは、MMP濃度と、これら二つの間の会合定数に依存する態様で抗体により結合することとなる。洗浄後、抗体/MMP錯体を、MMP特異抗体結合部位から充分に遠位のMMP上の別のエピトープに特異的な第二の抗体と共にインキュベートして、二つの抗体がMMPに同時に結合することを妨げる立体障害が達成されるようにする。例えば、この第二の抗体はプロ酵素配列の一部分に特異的なものでもよい。第二抗体には、例えば放射性同位元素、蛍光化合物又は共有結合した酵素など、検出に適した態様で標識付けすることができる。未結合の第二抗体を洗い落とした後の結合した標識付第二抗体の量は、その生物学的試料中に存在するMMPの量に比例する。
【0124】
上述の好適な免疫検定法の例は放射性標識及び酵素標識を付けたトレーサの使用を説くものである。検定にはさらに、例えばフルオレセイン及びその類似体、5−ジメチルアミノナフタレン−1−スルホニル誘導体、ローダミン及びその類似体、クマリン類似体、並びにアロフィコシアニン及びR−フィコエリトリンなどのフィコビリプロテイン、エリスロシン及びユーロピウムなどのリン光性材料、ルミノール及びルシフェリンなどの蛍光材料、及び金及び有機染料などのゾルの使用を含めてもよい。本発明のある一実施例においては、生物学的試料を処理して低分子量の汚染物質を取り除く。
【0125】
本発明のある一実施例では、生物学的試料を、例えば透析により処理して低分子量の汚染物質を取り除く。「透析」という用語により、本発明は、試料中の酵素を低分子量の汚染物質から分離するすべての技術を含む。実施例では分子量カットオフ(MWCO)値が3,500のスペクトラ/ポル膜透析管材料を用いているが、異なるMWCO値のその他の製品も機能的には等価である。その他の製品には、例えば、大容量用の(MWCO値が6,000又は9,000の)再生セルロースファイバから成る中空ファイバ濃度システムや、1から5mlの大きさの試料用のマルチプル透析装置、及び、96ウェル・プレート中に試料がある場合に便利な、MWCOが5,000、8,000及び10,000のマルチプルマイクロ透析装置がある。これらの装置はメリーランド州20898、ゲイザーバーグのPGCサイエンティフィック社から入手可能である。当業者であればマルチプル透析装置の実用性、特に検査室及び診療所での器具に適していることを理解されよう。その他の等価の技術には、低分子量の材料を除去するのに適した樹脂又は樹脂の混合液を保持するカラム中の通過が含まれる。バイオゲル(カリフォルニア州ヘラクレス、バイオラド社製)及びセファロース(ニュージャージ州ピスカタウェイ、ファーマシア社製)などの樹脂並びにその他のものが当業者には公知である。透析の技術、又は同じ機能を持つ等価の技術は、生物学的流体から低分子量の汚染物質を除去することを意図したものである。本発明の重要な構成成分ではないが、このような汚染物質を取り除くステップにより、生物学的試料中の疾患関連酵素の検出が容易となる。
【実施例】
【0126】
本発明をさらに以下の実施例により説明するが、同実施例をさらに限定的なものとして捉えられてはならない。本出願を通じて引用されたすべての文献、係属中の特許出願、及び公開済みの特許の内容を参考文献として編入することをここに明示しておく。
【0127】
[実施例]
材料及び方法の章で説明する以下の方法が、下記の実施例全体に用いられた。
【0128】
[材料及び方法]
<患者群>
尿試料は、以下のタイプ:前立腺癌(13被験者、表1)、転移癌(9被験者、表2)、及び、様々な臓器に非転移性の悪性腫瘍があるその他(11被験者、表3)の、臨床的に判定された癌の被験者から得た。さらに、癌歴のない被験者(13被験者、表4)、良性前立腺肥大症の被験者(8被験者、表5)、疾患の証拠のない被験者(15被験者、表6)、及びホルモン抑制による処置を受けている被験者(4被験者、表7)からも尿試料を得た。乳がん患者の尿試料は、エイムズ・マルチスティックス7試薬片(インディアナ州エルクハート、マイルズ社製)を用いて経血の存在について検査し、血液を含んだものにはその後の分析は行わなかった。これらの標本をゼラチン・ザイモグラフィにより分析し、結果は、尿試料に対応する列で観察されたゼラチナーゼ活性を持つ核たんぱく質帯について陽性のときに記録した。
【0129】
<試料の調製>
尿試料は検定まで凍結状態で保管し、4℃で一晩かけて解凍し、10mlのアリクォートを45mmの透析管材料(テキサス州ヒューストン、スペクトラム社製スペクトラ/ポル膜、MWCOは3,500)中の再蒸留水で透析した。透析に続き、尿試料を4℃、4,000rpmで5分間遠心分離し、上澄み液を採取し、分析前に4℃で保管した。尿の酵素活性に関する分析は、酵素基質の存在下でゲル電気泳動を行い、その後インシチュー分解させるというステップから成るザイモグラフィにより行った。
【0130】
<電気泳動>
ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及び0.1%(w/v)のゼラチンの存在下でポリアクリルアミド・ゲル電気泳動をこの実施例では用いた。30マイクロタイタの透析済み尿を含む試料を、4%のSDS、0.15MのTris、pHは6.8、20%(v/v)のグリセロール、及び0.5%(w/v)のブロムフェノールブルーから成る試料緩衝液と混合した。試料をミニ−ゲルスラブ・ゲル装置(バイオラド社製ミニ−プロテインII)の10%のポリアクリルアミド分離ゲル上の4%の積層ゲルのスロットに加えた。
【0131】
<ザイモグラフィ>
電気泳動に続いて、ゲルを2.5%のトリトンX−100(v/v)中で30分間インキュベートしてSDSを取り除き、すすぎ、基質緩衝液(0.05MのTris、pHは8.5、5mMのCaCl2、0.02%のアジ化ナトリウム)中で37℃で一晩インキュベートした。活性酵素の帯を視覚化するために、酢酸:イソプロパノール:水(1:3:6)中0.5%(w/v)のクーマシーブルーR−250でゲル中のたんばく質を染色した後、酢酸エタノール水(1:3:6)で脱色した。酵素活性は、各試料の列に対応しながら、暗色のバックグラウンド中に対して透明な帯として現れた。各透明帯の電気泳動における移動度を、たんぱく質の標準分子量と、陽性対照(精製したmmp−2及びmmp−9たんぱく質)との相関関係から判定した。活性酵素の各帯の分子量は以下の基準に基づいて記録した。150kDaより大きい、92kDa、72kDa、及びその他の分子量(例えば100kDa及び20kDa)である。これらのMMPの同一性を、抗MMP抗体(マサチューセッツ州ケンブリッジ、オンコジーン・サイエンセズ社製)を用いたウェスタン・ブロット分析で確認した。
【0132】
ゲルは、ゲルのパターンの読み取り及び採点を各試料の同一性を知らない実験者に行ってもらう二重盲検法により分析された。酵素活性のある帯を下記の実施例の表では「有り」で示す。疾患が進行している可能性を考慮に入れて数回読み取りを行った患者は、最も最近の診断のグループにのみ含まれているため、記号
化された被験者はそれぞれ一つの表だけに示されている。
【0133】
ザイモグラフィで観察される検出された酵素活性が金属依存性プロテアーゼであることを裏付けるために、試料にはさらに、MMP阻害物質である1,10−フェナンスロリン(原語:phenanthroline)の存在下で基質緩衝液中のインキュベーションを行った。
【0134】
<正常な対照群>
13人の若く健康な男性被験者から採取した尿試料中では、可能性として考えられる52のメタロプロティナーゼ帯のうち8つが陽性であることが判明した(15%、表1)。このように、13人の健康な被験者の4人(31%)の尿中に検出可能なゼラチナーゼ活性があった。酵素活性の分布を分析すると、尿試料のいずれも72kDaの大きさの酵素活性は含んでいなかったことが判る。
【0135】
【表1】

【0136】
<実施例1>
・前立腺癌患者及びその他の癌患者の尿中の酵素活性
CaP患者の尿を分析した結果、13の試料中12にゼラチナーゼがあることが判明した(表2)。このように、CaP患者の尿の92%が92kDa又はそれより分子量の大きな帯を含んでおり、52のザイモグラム活性カテゴリのうち48%がCaP群については陽性であることが判明した。これらの頻度は、正常対照から採取した尿における相当する判明値よりも3倍高い。
【0137】
その他の癌患者の尿試料では11のうち5つがメタロプロティナーゼ活性を呈していた(表3)。膀胱癌患者では5つのうち3つの尿に酵素が見つかり、また腎癌患者では2つのうち一つの尿に、そしてリンパ腫患者では2つのうち一つの尿に酵素が見つかった。
【0138】
<実施例2>
・転移癌患者の尿中の酵素活性
MC患者群では8つの尿試料すべてがメタロプロティナーゼ活性を呈していた(表4)。記録された可能性として考えられる32の酵素帯カテゴリのうち、転移癌患者ではその66%が陽性であった。さらにMC患者の尿すべてが、92kDaの大きさの酵素、150kDaより大きな分子量の酵素、又はその両方、のいずれかを含んでいた。
【0139】
【表2】

【0140】
【表3】

【0141】
【表4】

【0142】
【表5】

【0143】
<実施例3>
・良性前立腺肥大症患者の尿中の酵素活性
8人のBPH患者を、尿中のメタロプロティナーゼ含有量について検定した(表5)。32の酵素パターン観察項目のうち、10が陽性(31%)であり、これら8人の患者のうち6人(75%)の尿に一種又はそれ以上の活性帯が含まれており、正常な被験者の数値及び疾患の証拠のない者の数値より高い頻度となっている。BPH被験者の尿のいずれも(0%)72kDaのメタロプロティナーゼ帯は呈していなかった。BPH被験者の時間関数としてのMMPパターンを用いて問題のあるBPH又はその他の状態が発生する傾向にある患者の予後を容易に行うことができる。
【0144】
<実施例4>
・疾患の証拠のない被験者の尿中の酵素活性
癌の治療歴があるが、最近では疾患の証拠がなく、定期的に臨床的観察を受けている15人の被験者を尿中のメタロプロティナーゼ含有量について検定した。
【0145】
被験者の尿のうちの三つ(20%)に酵素が含まれていることが判明した(青6)。これらの標本のうちいずれも72kDaのメタロプロティナーゼを含んでおらず、またこの群から得たデータの可能性のある帯項目のうち12%(60の帯記録項目のうち7つ)が陽性であった。これらの患者の大半は過去に癌の治療歴があり、最近及び尿試料の採取時の時点で何ら症状はなかった。陽性結果の頻度は正常な被験者のものと一致していた。
【0146】
<実施例5>
ホルモン抑制を受けている被験者の尿中の酵素活性 表7は、過去に前立腺癌と診断され、現在ホルモン抑制治療を受けている4人の患者の尿標本中のメタロプロティナーゼ活性パターンに関するデータを示すものである。16のデータ入力項目のうち一つが陽性であり(6%)、従って四人の患者のうちの一人が尿中にMMP活性を有することになる(25%)。前立腺癌の再発を防ぐ又は遅らせるために用いられるホルモン抑制を受けている患者の尿中酵素パターンは、癌の群に比較して、尿中の陽性メタロプロティナーゼ帯の頻度が減少していることを示している。
【0147】
【表6】

【0148】
【表7】

【0149】
【表8】

【0150】
【表9】

【0151】
上述の実施例1−5の被験者に関するこれらのデータを被験者の診断カテゴリにより表8に要約する。図8から、臓器限定型前立腺癌の患者の尿から得たメタロプロティナーゼ分子種のカテゴリの48%、及び、転移癌のものの66%が酵素活性の帯が陽性であったことが判る。正常な被験者からの尿の対照群、疾患の証拠のない被験者からの対照群、及び前立腺癌の過去があるホルモン抑制を受けている被験者からの対照群は、それぞれ15%、12%及び6%であった。
【0152】
【表10】

【0153】
尿中の72kDaのMMPの酵素活性は(表10)、唯一、癌群から採取した尿で見つかった。臓器限定型前立腺癌の被験者の38%(13人のうち5人)がこのメタロプロティナーゼを含んでおり、癌なし群のいずれの被験者でもゼロであったのとは対照的である。このデータから、全長メタロプロティナーゼmmp−2及びmmp−9プロ酵素の存在、及び高分子量のMMP(150kDaを越える)の存在を示すパターンは診断及び予後のためのツールであることが判る。
【0154】
<実施例6>
・尿中の尿MMP酵素パターンの癌マーカとしての統計学的分析
尿のMMPパターンデータを論理的回帰を用いた統計分析用に提供したが、前立腺癌及びその他の非転移癌の患者、対、正常及び疾患の証拠なし(NeD)群の組合せは2値の結果として考えられた。
【0155】
正常/NeDと癌とを比較すると、150kDaを越える大きさ、92kDa及び72kDaの大きさのMMPに関する分析の一変量結果は、これらのMMPカテゴリがそれぞれかけ離れて高い比率で癌患者に検出されたというものだった。「その他のMMP」カテゴリは癌群と正常/NeDとで大きな差はなかったため、注目すべき予測子とはならない。さらに、尿中で150kDa分子量より大型のMMPが検出される見込み率は、正常/NeDに比べて癌患者の方が大まかに言って5倍高い(その見込み率の比は5.38に等しく、95%の信頼区間は1.80から16.12、尤度比カイ二乗テストは9.80であり、確率は0.002に等しい)。92kDaのMMPを検出する見込み率は正常/NeDに比較して癌患者群の方が7倍高い(見込み率の比は7.09に等しく、95%の信頼区間は4.53から40.67であり、尤度比カイ二乗テストは13.57であり、確率は0.001未満)。72kDaを検出する見込み率は、正常/NeD群に比較してこれらの癌患者の方が無限大に高い(尤度比カイ二乗テストは14.07であり、確率は0.001未満)。
【0156】
多変量分析により最も重要なMMPマーカ及び対照群が確定される。この分析は92kDa及び72kDaのMMPが、両方とも、癌の優れた独立予測子であることを示唆している(確率はそれぞれについて0.01に等しい)。この二つの独立変量予測子を組み合わせた場合の、癌の確率の試算を表11に示す。この分析によれば、尿中に72kDaのMMP、又は92kDaのMMP及び72kDaのMMPの両方がある被験者の罹癌確率は大変高い。
【0157】
三つの一変量予測子の可能な8つの組合せについて予測した癌の確率を表12に示す。
【0158】
<実施例7>
・尿中MMP酵素パターンの転移癌マーカとしての統計学的分析
統計法を用いて、正常/NeD群の被験者、対、転移癌(MC)患者の尿中MMPパターンを比較した。95%の信頼限界がプラット法を用いて得られた(blyth,C.R.,1986,J.Am.Stat.Assoc.81:843.855)。一変量分析については、その結果はMC患者は正常/NeDに比較して尿中に各々のMMPが存在している確率が高いことを示すものである。MC患者は、正常/NeDに比較すると、その尿中に150分子量より大きいMMPが存在する確率が13倍高く(確率は0.002に等しい)、また92kDaのMMP(確率は0.005に等しい)及び72kDaのMMP(確率は0.002に等しい)を有する確率が10倍高い。正常/Ned群の被験者に比較して高い比率でMC患者はその他の尿中MMPを有していた(確率は0.014に等しい)。
【0159】
多変量分析を用いると、MCに関する結果は、92kDa及び72kDaのMMPは優れた独立予測子であることになる(確率は各々について0.05未満)。尿中で検出された92kDa及び72kDaの4つの多様な組合せに基づいて試算されたMCの確率をモデル化して、表13に示すデータを作成した。
【0160】
【表11】

【0161】
【表12】

【0162】
【表13】

【0163】
【表14】

【0164】
【表15】

【0165】
<実施例8>
・癌患者における疾患の進行と酵素パターンの変化
患者Meta−4(表4)は当初は臓器限定型のCaPであると診断されたが、その後転移が診断されたため、この患者に関するデータは表4のみに見られる。さらに、患者Meta−6から採取された尿は表に示すように92kDaのMMPを呈しているが、この表4の患者についてはデータの2カ月前にも検定が行われており、その時点ではすべてのMMPについて陰性であった。これらの個々の症例歴は、尿中MMPパターン検定の癌の進行を診断及び予後する上での価値を示唆している。これらのデータから、尿中の72kDaMMPの存在と癌の存在との間に高い相関関係(99%を越える)があることが判明した。
【0166】
<実施例9>
別の患者のデータ 合計68人の癌患者の尿を採集して本方法によりMMPについて分析した。これらは28人の前立腺患者、10人の腎癌患者、10人の膀胱がん患者、9人の乳がん患者、及び11人のその他の癌患者(卵巣、肺、子宮内膜/頸部、精巣、レロ(原語:lelo)筋肉腫、副腎髄質褐色細胞腫、腎臓の移行上皮癌、及びリンパ腫)を含む。臓器限定型癌患者から得たこれらの試料を、19人の転移癌患者、19人の疾患の証拠のない前に癌であった患者、及び22人の正常なボランティアのものと比較した。
【0167】
臓器限定型疾患患者及び転移癌患者の尿中で検出されるMMPを、正常/疾患の証拠なしの対照群と比較した。感受性及び特異性は標準的な公式を用いて計算し、パーセンテージで表した。尤度比は真の陽性の比を偽陽性の比で除算した分数として判定して(感受性/100−特異性)、各MMPに関する識別力の指標を得た(Weinstein,M.C.Ed.Clinical Decision Analysis.Philadelphia:Saunders,pp.84.108,1980)。段階的論理回帰法を用いて癌の独立予測子を確定し、また最終的な多変量モデルにおけるMMPマーカの組合せの確率を試算した(Breslow,N.E.Statistical methods in cancer research.Volume 1.Lyon France:Int.Agency for Res.on Cancer,pp.192-210,1980)。群中のクレアチニン値の差を評価するために、多項比較のためのボンフェローニを用いつつ一方方向の分散分析を行った。比率の比較にはフィッシャのエグザクト(原語:exact)テストを用いた。統計学的テストはすべて、0.05の両側アルファレベルで行った。データ分析はウィンドーズ統計パッケージバージョン6.11用のSAS(ニューロライナ州カリー、SASインスティテュート社製)を用いて行った。
表14及び15に示されたデータはより小型の試料を用いてここで提供した前のデータと一致している。例えば72kDaのMMP前立腺癌、すべての臓器限定型癌及びすべての癌における特異性が95%の信頼区間で100であることが判明した。すべての癌について、高分子量(≧150KDA)のMMP及び92kDaのMMPの陽性尤度比(真の陽性の偽陽性に対する比)はそれぞれ、8.4及び6.3である。これらの結果から、例えば組織リモデリング関連状態における癌の存在を検出する上で、治療中の癌患者を観察する上で、癌の経過の予後及び転移の発生を観察する上で、尿中MMPザイモグラムルーチン分析に価値があることが裏付けられる。
【0168】
<実施例10>
・転移乳がんのためのゼラチナーゼマーカ
約125kDaのゼラチナーゼが、転移乳がん患者から採取した9つの標本中5つの尿に検出された。この大きさのゼラチナーゼはその他の被験者の尿試料中では観察されなかった。
【0169】
[等価物]
当業者であれば、ここに説明した本発明の特定の実施例に対する数多くの等価物をごく通常の実験を行うことにより認識され、又は確認できるであろう。このような等価物は以下の請求の範囲の包含するところとして意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織リモデリング関連状態に関する被験者の診断を容易にするための非観血的方法であって、
被験者から尿試料を得るステップと、
前記尿試料中である酵素を検出することで、前記組織リモデリング関連状態に関する前記被験者の診断を容易にするステップとを含む方法。
【請求項2】
前記組織リモデリング関連状態が癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組織リモデリング関連状態が関節炎状態、閉塞状態、又は変性状態である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記癌が臓器限定型前立腺癌である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記癌が転移前立腺癌である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記癌が上皮を起源とする細胞中にある、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記癌が、神経系の癌、乳癌、網膜の癌、肺癌、皮膚がん、腎がん、肝臓がん、膵臓がん、尿生殖路の癌、及び胃腸管の癌のいずれかから選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記癌が中胚葉を起源とする細胞中に現れる、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記癌が内胚葉を起源とする細胞中に現れる、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記癌が、骨格の細胞又は造血系を起源とする細胞を侵す、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記酵素が組織リモデリング又は再形成の経路に関与している、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記酵素がマトリックス分解酵素である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記酵素がプロテアーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記プロテアーゼがセリンプロテアーゼである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記プロテアーゼがマトリックスメタロプロティナーゼである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記酵素がプロ酵素である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
検出ステップの前に尿から低分子量の汚染物質を取り除くステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記尿が透析される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前立腺の疾患に関する被験者の診断を容易にするための非観血的方法であって、
被験者から尿試料を得るステップと、
前記尿試料中で前立腺疾患関連酵素を検出することで、前立腺疾患に関する前記被験者の診断を容易にするステップとを含む方法。
【請求項20】
前記前立腺疾患関連酵素がマトリックス分解酵素である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記マトリックス分解酵素がプロテアーゼである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記酵素がメタロプロティナーゼである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記前立腺の疾患が良性前立腺肥大症である、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記前立腺の疾患が臓器限定型前立腺癌である、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記被験者が以前に外科的又はホルモンにより治療を受けたことのある、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記被験者がテストステロンを遮断する治療を受けたことがある、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記疾患が転移癌である、請求項19に記載の方法。
【請求項28】
前立腺癌に関する被験者の診断を容易にするための方法であって、
前立腺癌が疑われる被験者から尿試料を得るステップと、
前記尿試料中に前立腺癌関連酵素を検出することで、前立腺癌に関する被験者の診断を容易にするステップとを含む方法。
【請求項29】
前記前立腺癌関連酵素がプロテアーゼである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記プロテアーゼがマトリックスメタロプロティナーゼである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記マトリックスメタロプロティナーゼがゼラチナーゼA又はゼラチナーゼBである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記被験者が良性前立腺肥大症である、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記被験者がテストステロンを遮断する治療を受けている、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
検出ステップの前に尿から低分子量の汚染物質を取り除くステップをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
被験者の前立腺癌の予後を容易にするための方法であって、
被験者から生物学的試料を得るステップと、
前立腺癌関連酵素を検出することで、被験者の前立腺癌の予後を容易にするステップとを含む方法。
【請求項36】
前記生物学的試料が尿である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記前立腺癌関連酵素が組織リモデリング関連酵素である、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記前立腺癌関連酵素がプロテアーゼである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記プロテアーゼがタイプIVのコラゲナーゼである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記メタロプロティナーゼの分子量が約82kDa又は92kDa以上である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記メタロプロティナーゼの分子量が約72kDaである、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記被験者が良性前立腺肥大症である、請求項35に記載の方法。
【請求項43】
被験者の問題のある前立腺肥大症の予後のための方法であって、
被験者から生物学的試料を得るステップと、
前記生物学的試料中に問題のある前立腺肥大症関連酵素を検出することで、被験者の問題のある前立腺肥大症の予後を容易にするステップとを含む方法。
【請求項44】
前記前立腺肥大症関連酵素がメタロプロティナーゼである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記メタロプロティナーゼの分子量が約92kDa以上である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
転移前立腺癌の予後のための方法であって、
被験者から生物学的試料を得るステップと、
前記生物学的試料中に転移前立腺癌関連酵素を検出することで、被験者の転移前立腺癌の予後を容易にするステップとを含む方法。
【請求項47】
前記酵素の分子量が約72kDa又は約92kDaである、請求項1に記載の方法。
【請求項48】
前記酵素の分子量が約150kDa以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項49】
検出ステップの前に尿から低分子量の汚染物質を取り除くステップをさらに含む、請求項43又は46に記載の方法。
【請求項50】
前記酵素が電気泳動法により検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項51】
前記電気泳動パターンがザイモグラムである、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記ザイモグラムの基質がゼラチン、カゼイン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、プラスミン、プラスミノゲン、タイプIVのコラーゲン、又はタイプIVのコラーゲンの誘導体である、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記酵素が免疫化学的に検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項54】
前記酵素が放射免疫検定法により検出される、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記酵素が酵素結合免疫吸着検査法により検出される、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
組織リモデリング関連状態の診断及び予後を容易にする器具であって、
尿試料中の酵素を検出するための試薬を有する容器と、
組織リモデリング関連状態の診断及び予後を容易にするための、前記酵素を検出する前記試薬を使用する際の指示書とを含む器具。
【請求項57】
前記組織リモデリング関連状態が癌である、請求項56に記載の器具。
【請求項58】
前記組織リモデリング関連状態が、関節炎状態、閉塞状態、又は変性状態である、請求項56に記載の器具。
【請求項59】
前記癌が臓器限定型前立腺癌である、請求項57に記載の器具。
【請求項60】
前記癌が転移前立腺癌である、請求項57に記載の器具。
【請求項61】
前記酵素がマトリックスメタロプロティナーゼである、請求項56に記載の器具。
【請求項62】
前記マトリックスメタロプロティナーゼがゼラチナーゼである、請求項61に記載の器具。
【請求項63】
低分子量の汚染物質を取り除くために尿試料を成分に分離する装置をさらに含む、請求項56に記載の器具。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内皮細胞由来の癌について対象の診断を容易にする非観血的方法であって:
a.対象から尿試料を得るステップと、
b.前記尿試料中でほぼ72kDa及びほぼ92kDaのマトリックス・メタロプロティナーゼの存在又は非存在を検出するステップと
を含み、この場合前記ほぼ72kDa及び前記ほぼ92kDaのマトリックス・メタロプロティナーゼが存在することは、内皮細胞由来の癌の指標である、方法。
【請求項2】
内皮細胞由来の癌について対象の診断を容易にする非観血的方法であって:
a.対象から尿試料を得るステップと、
b.前記尿試料中でほぼ72kDa及びほぼ92kDaのマトリックス・メタロプロティナーゼの存在又は非存在を検出するステップと
を含み、この場合ほぼ92kDaのマトリックス・メタロプロティナーゼが存在し、ほぼ72kDaのマトリックス・メタロプロティナーゼが存在しないことは、乳癌の存在の指標である、方法。
【請求項3】
内皮細胞由来の癌について対象の診断を容易にする非観血的方法であって:
a.対象から尿試料を得るステップと、
b.前記尿試料中でほぼ72kDa及びほぼ92kDaのマトリックス・メタロプロティナーゼの存在又は非存在を検出するステップと
を含み、この場合前記ほぼ92kDaのマトリックス・メタロプロティナーゼが、ほぼ72kDaのマトリックス・メタロプロティナーゼよりも高い濃度で存在することは、前立腺癌又は膀胱癌の存在の指標である、方法。
【請求項4】
前記検出のステップの前に、前記尿から低分子量の混入物質を取り除くステップを更に含む、上記請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記尿が透析される、上記請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
対象が前に外科的治療又はホルモン治療を受けている、上記請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
対象がテストステロンを遮断する治療を受けている、上記請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記マトリックス・メタロプロティナーゼが電気泳動法により検出又は観察される、上記請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記電気泳動パターンがザイモグラムである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記マトリックス・メタロプロティナーゼが免疫化学法により検出又は観察される、上記請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記マトリックス・メタロプロティナーゼがラジオイムノ・アッセイにより検出又は観察される、上記請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記マトリックス・メタロプロティナーゼが酵素結合免疫吸着検定法により検出又は観察される、上記請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記内皮細胞由来の癌が、前立腺癌、神経系の癌、乳癌、網膜癌、肺がん、皮膚癌、腎臓癌、肝臓癌、膵臓癌、生殖器−泌尿器又は胃腸管の癌、及び膀胱癌からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
乳癌について対象の診断を容易にする非観血的方法であって:
a.対象から尿試料を得るステップと、
b.前記尿試料中でゲラチナーゼの存在又は非存在を検出するステップであって、前記尿試料中で前記マトリックス・メタロプロティナーゼが125kDaの分子量を有する、ステップと
を含み、前記ゲラチナーゼの存在又は非存在を、乳癌の存在又は非存在と相関させることにより、乳癌について対象の診断を容易にする、方法。
【請求項15】
前記ゲラチナーゼが、前記ゲラチナーゼの活性を観察することにより検出される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記活性が電気泳動パターンにより検出される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記電気泳動パターンがザイモグラムである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記マトリックス・メタロプロティナーゼが、前記マトリックス・メタロプロティナーゼの活性を観察することにより検出される、請求項1,2,3、又は14に記載の方法。

【公開番号】特開2006−311860(P2006−311860A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119595(P2006−119595)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【分割の表示】特願平9−539033の分割
【原出願日】平成9年4月25日(1997.4.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.マッキントッシュ
【出願人】(596115687)チルドレンズ メディカル センター コーポレーション (25)
【Fターム(参考)】