組織マイクロアレイ及び組織解析方法
【課題】患者個々人の包括的なタンパク質発現プロファイルを簡易に取得し、臨床の現場における個別化医療を可能とする組織マイクロアレイを提供する。
【解決手段】同一人の同一症例の同一組織の裁断された小薄切組織切片100をスライドプレート200に複数配置する組織マイクロアレイ。スライドプレート200上には、複数の裁断された小薄切組織切片100に加えて、陽性コントロール110、陰性コントロール120、及び正常組織130が配置されることが可能である。この組織マイクロアレイ900の裁断された小薄切組織切片100は、各々、複数の染色マーカーにて染色される。
【解決手段】同一人の同一症例の同一組織の裁断された小薄切組織切片100をスライドプレート200に複数配置する組織マイクロアレイ。スライドプレート200上には、複数の裁断された小薄切組織切片100に加えて、陽性コントロール110、陰性コントロール120、及び正常組織130が配置されることが可能である。この組織マイクロアレイ900の裁断された小薄切組織切片100は、各々、複数の染色マーカーにて染色される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療における研究及び病理診断等で使用される組織マイクロアレイ(Tissue Microarray:TMA)、並びにその組織マイクロアレイを使用する組織解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体関連物質を解析するための多くの手法が開発されている。生体関連物質を解析するための手法として、マイクロアレイの手法が良く用いられる。例えば、DNAマイクロアレイは、スライドグラス等の基板上に、数千個のDNAプローブを固定したものである。蛍光分子等で標識した試料を流し、DNAプローブとハイブリタイズさせて、蛍光発光の強弱を測定して、試料に含まれる遺伝子の発現量を推定する。
【0003】
免疫組織化学は、発現したタンパク質を認識する抗体を用い、特定の遺伝子発現タンパク質を解析する方法である。また、in situハイブリダイゼーションは、目的遺伝子の塩基配列に相補なプライマーを用い、組織上で遺伝子発現を解析する方法である。免疫組織化学及びinsituハイブリダイゼーションは、共にパラフィンブロックを用いた解析が可能である。
【0004】
組織マイクロアレイは、一つのスライドプレート上に多数の組織を載せたものである。スライドプレート上には例えば100〜1000個の小組織片が載っており、これらの組織を染色して、分析することが可能である。
【0005】
免疫組織化学やin situハイブリダイゼーションでは、1枚のスライドに1つの組織切片を載せるものであるが、組織マイクロアレイを使用することにより、1枚のスライドに多数の組織切片を載せることができ、省力化により迅速な分析及び研究が可能となる。
【0006】
例えば特許文献1には、異なる症例の被検組織をパラフィンブロックから直径0.6〜2mm大の円筒形状にくりぬき、その円筒形状のくりぬいた被検組織を多数集めて、新たなパラフィンブロックに埋め込み、その後薄切し、組織切片が配置されたシート状の薄片切片試料をスライドグラス上に載せて形成される組織マイクロアレイが記載されている。そして、スライドプレート上の多数の組織切片を単一のマーカーで染色することにより、包括的な解析を行う。
【0007】
また、例えば特許文献2には、異なる症例の臓器固定パラフィンブロックから筒状刃で被検組織を円筒形状にくりぬき、予め上記筒状刃とほぼ同径の中空穴を複数形成した合成樹脂製のティッシュブロックを用意しておき、くりぬいた被検組織をティッシュブロックの中空穴に埋め込み、包埋皿とティッシュブロックの間にパラフィン液を流し込んで充填・固化させて作製する組織マイクロアレイが記載されている。
【0008】
また、例えば特許文献3には、複数の孔部を形成したパラフィン支持ブロックを作製し、パラフィン包埋した異種症例の検体組織ブロックから前記孔部の形状に対応した形状の被検組織を採取し、前記支持ブロックの孔部に前記被検組織を挿入するとともに前記支持ブロックを加温してパラフィンを融解させ前記支持ブロックと前記被検組織とを一体になじませた組織マイクロアレイが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2005−530504号公報
【特許文献2】特開2004−258017号公報
【特許文献3】特開2006−162489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、従来の組織マイクロアレイは、異なる患者の異種症例の組織切片をスライドプレート上に多数配置したものであり、その組織マイクロアレイを使用する組織解析はスライドプレート上のこれら組織切片を単一マーカーにて染色するものである。そのため、患者個々人の包括的なタンパク質発現プロファイルは得られず、臨床の現場における個別化医療が極めて困難である。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、患者個々人の包括的なタンパク質発現プロファイルを簡易に取得し、臨床の現場における個別化医療を可能とする組織マイクロアレイ、及び、その組織マイクロアレイを使用する組織解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の観点に係る組織マイクロアレイは、同一人の同一症例の同一組織の小薄切組織切片をスライドプレートに複数配置することを特徴とする。
【0013】
また、複数の小薄切組織切片に加えて、各マーカーごと別々の陽性コントロールを前記スライドプレート上に配置することが好ましい。
【0014】
また、複数の小薄切組織切片に加えて、各マーカーごと別々の陰性コントロールを前記スライドプレート上に配置することが好ましい。
【0015】
また、複数の小薄切組織切片に加えて、目的組織に対する同一症例又は他症例の正常組織を前記スライドプレート上に配置することが好ましい。例えば乳癌組織の場合、同一症例の正常乳腺組織である。
【0016】
また、前記スライドプレート上に、前記小薄切組織切片が配置される部位を示す組織切片配置部位が記載されていることが好ましい。
【0017】
また、前記スライドプレートに、前記小薄切組織切片が染色される染色マーカー名が記載されていることが好ましい。
【0018】
また、前記スライドプレートに、前記小薄切組織切片が染色される染色マーカーに適した抗原賦活化液の名称が記載されていることが好ましい。
【0019】
また、前記スライドプレートに、前記小薄切組織切片が染色される染色マーカーの一次抗体に適した二次抗体の名称が記載されていることが好ましい。
【0020】
更に、前記組織切片配置部位、前記染色マーカー名、前記抗原賦活化液、又は前記二次抗体の名称の記載は、前記スライドプレートにレーザー刻印により記載されることが好ましい。
【0021】
本発明の第2の観点に係る組織解析方法は、同一人の同一症例の同一組織の小薄切組織切片をスライドプレートに複数配置し、それらの小薄切組織切片を複数の染色マーカーにて各々染色することを特徴とする。
【0022】
また、前記スライドプレート上に、基材に複数の貫通孔を設けた組織染色用シートを乗せ、前記組織染色用シートの複数の貫通孔に、各々の染色マーカーに適した抗原賦活化液、複数の染色マーカー、及び、各々の染色マーカーの一次抗体に適した二次抗体を各々注入して染色することが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の組織マイクロアレイは、同一人の同一症例の同一組織の小薄切組織切片がスライドプレートに複数配置されており、それらの小薄切組織切片を複数の染色マーカーで各々同時に染色する為、患者個々人の包括的なタンパク質発現プロファイルを簡易に取得でき、臨床の現場における個別化医療(Personalized Medicine)が可能となる。そのため、患者個人の持つ分子・遺伝情報と疾患原因や病態を形成する分子・遺伝子異常に関する情報に基づいて、主作用を最大化しかつ副作用を最小化することにより、患者のQOL(クオリティオブライフ)を最適化するような治療計画を立案及び実行することが可能となる。更に、本発明の組織マイクロアレイを多数の染色マーカーを使用して同時に染色することにより、細胞が外からの刺激を細胞表面のレセプターを介して受け細胞の機能が変化するまでの一連の情報伝達の過程(シグナルトランスダクション)について、臨床的に有効な知見を得ることもできる。更には、インキュベーションの際の抗体量が少量で済む上に、スライドプレートの数量も削減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態に係る組織マイクロアレイの斜視外観図である。
【図2】組織切片配置部位及び染色マーカー名が記載されているスライドプレートの斜視外観図である。
【図3】染色マーカー名が組織切片配置部位の中に記載されているスライドプレートの斜視外観図である。
【図4A】組織マイクロアレイの作成において、摘出検体組織を固定する固定工程を説明する図である。
【図4B】組織マイクロアレイの作成において、パラフィン包埋する包埋工程を説明する図である。
【図4C】組織マイクロアレイの作成において、薄切して薄切試料を得る薄切工程を説明する図である。
【図4D】組織マイクロアレイの作成において、40℃〜50℃程度の温水に浮かべ伸展する伸展工程を説明する図である。
【図4E】組織マイクロアレイの作成において、弾力を有する合成樹脂製のプレート上に薄切試料を掬い取る掬取工程を説明する図である。
【図4F】組織マイクロアレイの作成において、裁断して小薄切組織切片を得る裁断工程を説明する図である。
【図5】抗原賦活化処理、染色マーカー(一次抗体)、及び二次抗体によるインキュベーションの際に使用する組織染色用多孔シートの斜視外観図である。
【図6】小薄切組織切片に加えて陽性コントロールが配置されている組織マイクロアレイの斜視外観図である。
【図7】小薄切組織切片に加えて、陽性コントロール、陰性コントロール、及び正常組織が配置されている組織マイクロアレイの斜視外観図である。
【図8】21種類の染色マーカー名が記載されたスライドガラスを示す写真図である。
【図9】スライドガラス上にシリコン性の組織染色用多孔シートを重ねて載せた状態を示す写真図である。
【図10】組織染色用多孔シートとスライドガラスとの接着性テストの結果を示す写真図である。
【図11】21孔の組織染色用多孔シートを使用し、21個の小薄切組織切片及び陽性コントロールを21種類の染色マーカーで免疫染色した状態を示す写真図である。
【図12】targetの小薄切組織切片のbcl-2免疫染色、及び、bcl-2免疫染色の陽性コントロールを示す40倍拡大写真図である。
【図13】より多くの小薄切組織切片が配置されている組織マイクロアレイと、その上に載置される組織染色用多孔シートとを使用した免疫染色を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施形態1)
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0026】
図1は、本実施形態にかかる組織マイクロアレイ900の斜視外観図である。図1に示すように、組織マイクロアレイ900は、スライドプレート200の上に、同一人の同一症例の同一組織の裁断された小薄切組織切片100が複数配置されている。
【0027】
従来の組織マイクロアレイは、スライドプレート上に異なる患者の異なる症例の組織を多数配置したものであり、それらの組織を単一の染色マーカーにて染色するものであるが、本実施形態に係る組織マイクロアレイ900は、スライドプレート200上に同一人の同一症例の同一組織の裁断された小薄切組織切片100が複数配置されている新規構造の組織マイクロアレイであり、本発明の組織解析方法は、後述するように、それらの裁断された小薄切組織切片100を複数の染色マーカーにて染色する新規な組織解析方法である。
【0028】
スライドプレート200上の各裁断された小薄切組織切片100は、ホルマリン固定、パラフィン包埋された組織である。各裁断された小薄切組織切片100の形状は、特に限定されるものではないが、例えば略円形のスポットである。各裁断された小薄切組織切片100の形状が円形の場合、各スポットの大きさは、特に限定されるものではないが、例えば直径0.2mmから10.0mmであり、本実施形態では直径2.0mmである。
【0029】
また、各スポットの数は、検査対象組織、検査対象症例、ガンの進行ステージ、及び検査の精密度等の当業者から選択される種々の事項を適宜考慮して設定され、特に限定されるものではないが、例えば2から2000である。図1に示される一具体例としての組織マイクロアレイ900では、裁断された小薄切組織切片100は21個配置されている。
【0030】
図2は、各裁断された小薄切組織切片100が配置されるスライドプレート200の斜視外観図である。図2に示すように、スライドプレート200には、小薄切組織切片100が配置される組織切片配置部位101、及び、小薄切組織切片100が染色される染色マーカー名が記載される。組織切片配置部位101の形状は、例えば略円形である。染色マーカー名は、組織切片配置部位101の上部に記載されている。スライドプレート200は、ガラス又はプラスチック等により形成される。プラスチックにてスライドプレート200を形成することにより、ガラス担体のものに比べて安価で組織マイクロアレイ900を提供できる。プラスチック材料としては、表面処理の容易性及び量産性の観点から、熱可塑性樹脂を用いることができる。なお、図1、図2、及び下記図3に記載されている染色マーカー名は一具体例である。
【0031】
また、スライドプレート200に、裁断された小薄切組織切片100の染色される染色マーカーに適した抗原賦活化液の名称を記載することも可能である。ホルマリン等により固定された組織切片を免疫染色する場合、ホルムアルデヒドの架橋形成等のマスキングにより、抗原抗体反応が起こらない又は減弱する場合がある。このため、加熱処理等でアンマスキングすることにより、抗体が抗原を認識できるようにさせる操作が抗原賦活化処理である。染色マーカーが異なると抗原賦活化液も異なる場合がある。しかしながら、スライドプレート200に抗原賦活化液の名称を記載することにより、抗原賦活化液を取り間違えることなく、一次抗体によるインキュベーション前の抗原賦活化を適切に行うことが可能となる。
【0032】
また、スライドプレート200に、裁断された小薄切組織切片100の染色される染色マーカーの一次抗体に適した二次抗体の名称を記載することも可能である。一次抗体の種類が変わることにより、二次抗体も変わる場合、スライドプレート200に二次抗体の名称を記載することにより、二次抗体を取り間違えることなく適切に作用させることが可能となるからである。
【0033】
スライドプレート200への染色マーカー名の記載方式は、特に限定されるものではないが、例えば乾燥後耐水性、耐溶媒性をもつ水溶性顔料にて記載(印刷)することができる。また、染色マーカー名をスライドプレート200へ炭酸ガスレーザー等により、レーザー刻印にて記載することも可能である。同様に、組織切片配置部位101、抗原賦活化液の名称、及び二次抗体の名称を水溶性顔料又はレーザー刻印にて記載(印刷)することが可能である。
【0034】
そして、この組織切片配置部位101の上に、複数の裁断された小薄切組織切片100が配置されることにより、図1に示す組織マイクロアレイ900が形成される。なお、図3に示すように、染色マーカー名は、組織切片配置部位101の内部に記載されることも可能である。係る場合は、組織切片配置部位101に裁断された小薄切組織切片100を配置することにより染色マーカー名が多少見えにくくなるが、どの組織切片配置部位101にどの染色マーカーを使用するかが直接記載されているため、染色マーカーを間違うことなく適切な位置に注入できる。
【0035】
次に、組織マイクロアレイ900の作成工程を説明する。図4A〜図4Fは、組織マイクロアレイ900の作成工程の説明図である。図4Aは、摘出検体組織を固定する固定工程を説明する図であり、図4Bは、パラフィン包埋する包埋工程を説明する図であり、図4Cは、薄切して薄切試料を得る薄切工程を説明する図であり、図4Dは、40℃〜50℃程度の温水に浮かべ伸展する伸展工程を説明する図であり、図4Eは、弾力を有する合成樹脂製のプレート上に伸展した薄切試料を掬い取る掬取工程を説明する図であり、図4Fは、裁断して小薄切組織切片を得る裁断工程を説明する図である。
【0036】
組織マイクロアレイ900の作成工程は、(A)摘出検体組織を固定する固定工程、(B)固定した摘出検体組織を脱水し、パラフィン包埋する包埋工程、(C)包埋試料を薄切して薄切試料を得る薄切工程、(D)薄切試料を、40℃〜50℃程度の温水に浮かべ伸展する伸展工程、(E)伸展した薄切試料を、弾力を有する合成樹脂製のプレート上に掬い取る掬取工程、(F)プレート上の薄切試料を裁断用具にて裁断して、小薄切組織切片を得る裁断工程、及び、(G)裁断された小薄切組織切片をプレパラート上に配置する配置工程を含む。
【0037】
まず、固定工程では、図4Aに示すように、摘出検体組織300が固定される。即ち、摘出検体組織300を自己融解や変性による劣化から保護するための化学処理が行われる。固定に使用される試薬は、特に限定されるものではないが、例えば、ホルムアルデヒドやグルタルアルデヒド等を適宜使用することができる。摘出検体組織300は、生体から摘出された検体組織であり、特に限定されるものではないが、例えば肝臓ガン、大腸ガン、胃ガン等のガン組織である。
【0038】
そして、包埋工程では、摘出検体組織300に付着した固定液を十分に洗い流すために水洗し、その後水分を完全に除去するためにアルコールにて脱水する。アルコールは、低濃度からしだいに濃度を上げて無水アルコールまで順次移していき水分を完全に除去する。次にアルコールに溶けないパラフィンを組織に浸透させるため、キシロールやクロロホルム等の媒介剤を用い、更にアルコールをぬく。そして、図4Bに示すように、固定した摘出検体組織300を融解している液状パラフィンの中に入れて充分浸し、その後徐々に冷却して、パラフィン包埋する。バラフィンブロックの形状は、特に限定されるものではないが、例えば図4Bに示すように、角柱形状である。
【0039】
次に、薄切工程では、図4Cに示すように、パラフィン包埋した摘出検体組織300を薄切することにより、複数の薄切試料310を得る。薄切の手段は、特に限定されるものではないが、例えばミクロトーム等の公知の薄切手段を使用することができ、ミクロトームを用いた場合、マイクロメートルのオーダーから数十ナノメートルに至る薄さでの均質な切り出しを確実に行うことができる。薄切試料310の形状は、特に限定されるものではないが、例えば、パラフィンブロックの形状が角柱形状である場合、図4Cに示すように、長方形である。なお、薄切試料310には、後述する裁断工程にて得られる小薄切組織切片100の裁断部位が示される。
【0040】
ここで、組織マイクロアレイ900は、同一人の同一症例の同一組織の小薄切組織切片をスライドプレート200に複数配置するものであるが、「同一組織」とは、図4Cに示すように、同一ブロックにおいて、x座標及びy座標が同一部位の組織である。
【0041】
次に、伸展工程では、図4Dに示すように、薄切工程で得た薄切試料310を、40℃〜50℃程度の温水に浮かべ伸展する。水溶液は、試料を損傷させない溶液であれば、特に限定されないが、例えば、水、生理食塩水、及び、生物試料の取扱い分野で使用される一般的な緩衝液等を使用できる。この伸展工程において、薄切試料310を、40℃〜50℃程度の温水に浮かべ伸展することで、薄切試料310のしわを除き、また小薄切組織切片100のスライドガラスへの接着性を増すことができる。
【0042】
次に、掬取工程では、図4Eに示すように、水溶液に浮かべた薄切試料310を、弾力を有する合成樹脂製のプレート320上に掬い取る。ここで、弾力を有する合成樹脂製のプレート320は、ガラス状のような硬質素材ではない合成樹脂を素材とするプレートをいい、例えばカッティングマット等に使用されている材質のプレートを挙げることができ、具体的には、アクリル樹脂、発泡性フッ素樹脂、軟質塩化ビニルや塩化ビニルの他、ポリプロピレン等の軟質オレフィン系樹脂や硬質オレフィン系樹脂等の素材からなるプレートである。
【0043】
次に、裁断工程では、図4Fに示すように、合成樹脂製のプレート320上の薄切試料310を裁断用具にて裁断して、小薄切組織切片100を得る。弾力を有する合成樹脂製のプレート320上で薄切試料310を裁断することで、薄切試料310に損傷を与えず裁断できる。なお、裁断用具は、薄切試料310を裁断しうる用具であれば特に限定されるものではなく、例えば、皮膚検体採取用の円筒形のカッターや、通常の切り出しナイフ等を使用できる。
【0044】
最後に、配置工程で、裁断された小薄切組織切片100をスライドプレート200上に適宜所望の位置に配置し、図1に示したような所望の裁断された小薄切組織切片100を組み合わせた組織マイクロアレイ900が作成される。
【0045】
次に、このようにして作成した組織マイクロアレイ900を使用する組織解析方法を説明する。
【0046】
組織マイクロアレイ900は、通常の組織スライド標本と同様に、免疫組織化学染色やin-situハイブリダイゼーションにより実施する。免疫組織化学染色は、被検体である組織切片上の対象物(抗原)に対する特異抗体を反応させ、更に抗原抗体反応、或いは化学反応を組み合わせて特異抗体と標識酵素の免疫複合体を形成し、標識酵素の発色反応によって抗原の存在を可視化するものである。insituハイブリダイゼーションは、標識したDNAプローブ或いはRNAプローブを用いて、被検体組織中の目的遺伝子(mRNA)とハイブリッドを形成し、被検体の細胞や組織を染色し、遺伝子(mRNA)の細胞或いは組織での局在を可視化するものである。
【0047】
まず、染色に先立って、パラフィンで包埋された後、裁断された小薄切組織切片100から、キシレン等を用いてパラフィンを除去する。
【0048】
次に、複数種類の染色マーカーを使用して、各裁断された小薄切組織切片100を染色する。図5は、抗原賦活化処理、染色マーカー(一次抗体)、及び二次抗体によるインキュベーションの際に使用する組織染色用多孔シート400の斜視外観図である。図5に示すように、組織染色用多孔シート400は、基材420に複数の貫通孔410が形成されており、これらの貫通孔410は、組織マイクロアレイ900に配置された複数の裁断された小薄切組織切片100に各々対応している位置に設けられる。組織染色用多孔シート400は、透明又は半透明の材質で形成され、特に限定されるものではないが、例えばシリコン、ポリプロピレン、ポリスチレン等により形成される。
【0049】
抗原賦活化処理、染色マーカー(一次抗体)、及び二次抗体によるインキュベーションでは、各貫通孔410と各裁断された小薄切組織切片100とを対応させた状態で、組織マイクロアレイ900の上に組織染色用多孔シート400を載せる。そして、組織染色用多孔シート400を組織マイクロアレイ900の上に載せた状態にて、組織染色用多孔シート400の各貫通孔410に、複数種類の各染色マーカーに合った抗原賦活化液、一次抗体液、二次抗体液を各工程ごと順次、各々注入して染色をする。組織染色用多孔シート400とスライドプレート200との間には、例えば透明又は半透明の両面テープが介入され、スライドプレート200+両面テープ+組織染色用多孔シート400となり、両者間の密着性を担保する。なお、両面テープ等の粘着層を間に介在させないで、スライドプレート200と組織染色用多孔シート400との間を物理的応力により圧接し、両者間の密着性を担保することも可能である。
【0050】
インキュベーション中に染色マーカーが乾燥することを防止するために、染色マーカーの量を多くしすぎると、隣接するスポットにオーバーフローする場合がある。しかしながら、上記の組織染色用多孔シート400を使用することにより、染色マーカーの量を多くしたとしても、各貫通孔410は独立した区画を形成しているため、貫通孔410内に染色マーカーが溜まり、隣接するスポットにオーバーフローしない。自動化にて賦活化液、一次抗体液、二次抗体液を使用する為に、裁断された小薄切組織切片100近傍にノズルの先を配置し、インキュベーション中にゆっくりとピペッティングするシステムも可能である。
【0051】
また、組織染色用多孔シート400が透明又は半透明である為、その組織染色用多孔シート400を介して、スライドプレート200上に記載されている染色マーカー名等を認識することができる。そして、スライドプレート200には、各組織切片が配置される組織切片配置部位101及び各組織切片が染色される染色マーカー名が記載されている為、多数ある染色マーカーを間違うことなく、適切な位置に注入することができる。また、抗原賦活化液の名称や二次抗体の名称がスライドプレート200に記載されている場合は、組織染色用多孔シート400を介して、スライドプレート200上に記載されているそれらを認識できる。
【0052】
染色マーカーの量は、特に限定されるものではないが、裁断された小薄切組織切片100のスポットの大きさが例えば直径2.0mmの場合、例えば10μL〜40μLであり、本実施形態では20μLである。
【0053】
染色マーカーによる染色操作が終了すると、スライドプレート200から組織染色用多孔シート400を取り除くことも可能である。抗原賦活化液や二次抗体がマーカーにより異なる場合は本組織染色用多孔シート400を取り除かずに行う。このようにして組織解析を行うことにより、患者個々人の包括的なタンパク質発現プロファイルを簡易に取得することができ、臨床現場にて個別化医療が可能となる。そのため、本発明に係る組織マイクロアレイ900は、個別化医療用組織マイクロアレイ(Tissue simultaneous detection microarray:TSMA)と称される。
【0054】
(実施形態2)
本発明の組織マイクロアレイ900は、上述の実施形態に限定されるわけではない。図6は、複数の裁断された小薄切組織切片100に加えて、各マーカーごと別々の陽性コントロール110が配置されている組織マイクロアレイを示す斜視外観図である。図6に示すように、第2実施形態に係る組織マイクロアレイ900では、各々の組織切片配置部位101内に、裁断された小薄切組織切片100と陽性コントロール110とが隣り合って配置されている。
【0055】
第2実施形態に係る組織マイクロアレイ900では、上述の複数の裁断された小薄切組織切片100に加え、スライドプレート200上に陽性コントロール110が配置されているので、陽性コントロール110と全く同一の条件にて検査対象の各小薄切組織切片100の検査結果を検証することができ、正確なプロファイルを取得できる。
【0056】
また、図7に示すように、各々の組織切片配置部位101内に、裁断された小薄切組織切片100に加えて、陽性コントロール110、陰性コントロール120、及び正常組織130とが隣り合って配置されることも可能である。正常組織130は、目的組織に対する同一症例の正常組織であるが、同一症例の正常組織が得難い場合は、他人の正常組織(他症例の正常組織)を乗せることも可能である。複数の裁断された小薄切組織切片100に加え、スライドプレート200上に陽性コントロール110、陰性コントロール120、及び正常組織130が配置されているので、陽性コントロール110、陰性コントロール120及び正常組織130と全く同一の条件にて、検査対象の各小薄切組織切片100の検査結果を検証することができ、極めて正確なプロファイルを取得できる。
【実施例】
【0057】
〈スライドガラス〉
スライドプレートとして、長さ76.2mm×幅25.4mm×厚さ1.0mmのMASコートスライドグラス(松浪硝子工業株式会社)を使用した。水溶性顔料としてPX-Gインク(エプソン社)を使用し、円形の組織切片配置部位を、縦3個×横7個で合計21個の数だけスライドガラスに直接記載(印刷)した。また、スライドガラス上に記載したそれらの組織切片配置部位よりも上方位置に、染色マーカー名を21カ所に直接記載(印刷)した。スライドガラス上に記載した染色マーカー名は、EstrogenReceptor(ER)、Progesterone Receptor(PgR)、HER2 receptor(HER2)、Epithelial GrowthFactor Receptor(EGFR)、MIB-1、Cytokeratin5/6(CK5/6)、synaptophysin、chromograninA、 CD56、AndrogeneReceptor(AR)、p53、p21、BRCA1、cyclinD1、E-cadherin、Smad4、Rb、c-Myc、β-catenin、ALK1、及び、bcl-2の21種類であった。このようにして、図8に示すようなスライドガラスを準備した。
【0058】
〈組織マイクロアレイ〉
摘出検体組織としての乳ガン組織が、ホルムアルデヒドを使用して固定された。固定された乳ガン組織は十分に水洗され、その後、低濃度アルコールからしだいに濃度を上げて無水アルコールまで順次移していき、十分に脱水された。次にキシロールを用いてアルコールを抜き、固定した乳ガン組織を融解している液状パラフィンの中に入れて充分浸し、その後徐々に冷却して、パラフィン包埋した。次に、パラフィン包埋した乳ガン組織をミクロトームで薄切することにより、同一人の同一症例の同一組織の薄切試料を複数得た。ミクロトームで薄切した薄切試料の厚さは4μmであった。次に、それらの薄切試料を、40℃〜50℃程度の温水に浮かべ伸展した。次に、40℃〜50℃程度の温水に浮かべた薄切試料を、塩化ビニル製のカッティングマット上に掬い取った。次に、カッティングマット上に掬い取った薄切試料を円筒形のカッターにて裁断して、同一人の同一症例の同一組織の小薄切組織切片を21個得た。最後に、小薄切組織切片を、上述のスライドガラス上の組織切片配置部位に配置し、更に、組織切片配置部位に各々の陽性コントロール組織から上記同様の方法にて得た小薄切組織切片を配置して組織マイクロアレイを作成した。
【0059】
〈組織染色用多孔シート〉
インキュベーションの際に使用する組織染色用多孔シートは、スライドガラスとほぼ同じ形状及び大きさであり、スライドガラス上に記載された組織切片配置部位に対応する位置に縦3個×横7個の21個の貫通孔が形成されていた。図9は、スライドガラス上にシリコン性の組織染色用多孔シートを重ねて載せた状態の写真図である。図9に示すように、組織染色用多孔シートはシリコンで形成された透明材料であり、スライドガラス上に記載された各染色マーカー名は、組織染色用多孔シートを透過して認識することができた。また、図9に示すように、スライドガラス上に記載された21個の組織切片配置部位と、組織染色用多孔シートの21個の貫通孔とは完全に一致していた。
【0060】
この組織染色用多孔シートとスライドガラスとの間に橙色透明の両面テープを介在させて、両者間の密着性を試験した。組織染色用多孔シートの21個の貫通孔のうち、11個の貫通孔に着色色素としてのインジゴカルミン(Indigo carmine)を入れ、残りの10個の貫通孔にPBSを入れ、湿潤箱内にて37℃条件下にて40分間インキュベーションした。
【0061】
図10は、組織染色用多孔シートとスライドガラスとの接着性テストの結果を示す写真図である。濃青色液はインジゴカルミンであり、透明液はPBSである。図10に示すように、インキュベーション後において、インジゴカルミン及びPBSは漏出することなく、組織染色用多孔シートの貫通孔内に貯留されていた。なお、95℃、40分間のインキュベーションでも漏出することなく、また、over nightでも漏出することはなかった。
【0062】
〈免疫染色〉
次に、上記の組織染色用多孔シートを使用し、上記の〈組織マイクロアレイ〉で作成した組織マイクロアレイの上に載置して、下記に示すように、21種類の染色マーカーを使用して免疫染色を行った。即ち、tris-EDTA pH 10にて、121℃で15分抗原賦活化後、過酸化水素メタノール処理を15分間行い、10%ヤギ血清によるブロッキングを5分間施行した。両面テープの片面を付着させた21孔の組織染色用多孔シートを組織マイクロアレイの上に乗せて接着させ、貫通孔にPBSを満たした。その後、PBSを1個づつ除き、記載されている染色マーカー名と同一の一次抗体を20μlづつ注入した。使用した染色マーカーは、EstrogenReceptor(ER)、Progesterone Receptor(PgR)、HER2 receptor(HER2)、Epithelial GrowthFactor Receptor(EGFR)、MIB-1、Cytokeratin5/6(CK5/6)、synaptophysin、chromograninA、CD56、Androgene Receptor(AR)、p53、p21、BRCA1、cyclinD1、E-cadherin、Smad4、Rb、c-Myc、β-catenin、ALK1、及び、bcl-2の21種類であった。
【0063】
そして37℃40分間のインキュベーションを行った後、PBSにてリンスし、組織染色用多孔シートを外した。さらに、2次抗体で10分間インキュベーションを行った。次に、PBSにてリンスした後、HRPストレプトアビジン液で10分間処理を行い、次にPBSにてリンスした後、DABにて発色させた。ヘマトキシリンにてカウンターステインした後に、透徹して封入した。
【0064】
図11は、21孔の組織染色用多孔シートを使用し、21個の組織切片及び陽性コントロールを21種類の染色マーカーで免疫染色した状態を示す写真図である。図11において、右側に位置する濃い茶色の組織片が陽性コントロールであり、左側に位置する組織片がtargetである小薄切組織切片である。なお、記載された組織切片配置部位及び染色マーカー名は、脱パラフィン操作や、tris-EDTA溶液による121℃15分の抗原賦活化等、免疫染色の全てのステップにおいて剥げ落ちることはなかった。図11に示すように、本発明の組織マイクロアレイは、同一人の同一症例の同一組織の小薄切組織切片がスライドプレートに複数配置されており、それらの小薄切組織切片が複数の染色マーカーで各々同時に染色されている為、患者個々人の包括的なタンパク質発現プロファイルが取得でき、個別化医療が可能となる。
【0065】
図12は、targetの小薄切組織切片のbcl-2免疫染色、及び、bcl-2免疫染色の陽性コントロールを示す40倍拡大写真図である。図12において、右側の染色はbcl-2免疫染色の陽性コントロールであり、左側の染色はtargetの小薄切組織切片のbcl-2免疫染色である。図12に示されるように、targetの小薄切組織切片と陽性コントロールとが隣接して存在しており、しかも両者が同一条件で染色されている。そのため、左側目的組織(乳癌組織)のbcl-2陰性判定が極めて正確かつ容易である。
【0066】
図13は、他の実施例であり、より多くの小薄切組織切片が配置されている組織マイクロアレイと、その上に載置される組織染色用多孔シートを使用した免疫染色を示す写真図である。図13に示すように、組織マイクロアレイには、34個の小薄切組織切片が配置され、その上には、縦4個×横9個の36個の貫通孔が形成されている組織染色用多孔シートが載置された。そして、34種類の染色マーカーを使用して免疫染色をした。
【0067】
図13に示すように、同一人の同一症例の同一組織の小薄切組織切片をスライドプレート上により多数配置することにより、更に詳細な包括的タンパク質発現プロファイルを取得でき、個別化医療をより促進させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る組織マイクロアレイは、臨床現場並びに医療及び基礎医学研究等の分野において、個々人の包括的なタンパク質発現プロファイルを取得する際に使用され、特に臨床現場における個別化医療に多大な貢献をする。
【符号の説明】
【0069】
100:小薄切組織切片
101:組織切片配置部位
110:陽性コントロール
120:陰性コントロール
130:正常組織
200:スライドプレート
300:摘出検体組織
310:薄切試料
320:プレート
400:組織染色用多孔シート
410:貫通孔
420:基材
900:組織マイクロアレイ
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療における研究及び病理診断等で使用される組織マイクロアレイ(Tissue Microarray:TMA)、並びにその組織マイクロアレイを使用する組織解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体関連物質を解析するための多くの手法が開発されている。生体関連物質を解析するための手法として、マイクロアレイの手法が良く用いられる。例えば、DNAマイクロアレイは、スライドグラス等の基板上に、数千個のDNAプローブを固定したものである。蛍光分子等で標識した試料を流し、DNAプローブとハイブリタイズさせて、蛍光発光の強弱を測定して、試料に含まれる遺伝子の発現量を推定する。
【0003】
免疫組織化学は、発現したタンパク質を認識する抗体を用い、特定の遺伝子発現タンパク質を解析する方法である。また、in situハイブリダイゼーションは、目的遺伝子の塩基配列に相補なプライマーを用い、組織上で遺伝子発現を解析する方法である。免疫組織化学及びinsituハイブリダイゼーションは、共にパラフィンブロックを用いた解析が可能である。
【0004】
組織マイクロアレイは、一つのスライドプレート上に多数の組織を載せたものである。スライドプレート上には例えば100〜1000個の小組織片が載っており、これらの組織を染色して、分析することが可能である。
【0005】
免疫組織化学やin situハイブリダイゼーションでは、1枚のスライドに1つの組織切片を載せるものであるが、組織マイクロアレイを使用することにより、1枚のスライドに多数の組織切片を載せることができ、省力化により迅速な分析及び研究が可能となる。
【0006】
例えば特許文献1には、異なる症例の被検組織をパラフィンブロックから直径0.6〜2mm大の円筒形状にくりぬき、その円筒形状のくりぬいた被検組織を多数集めて、新たなパラフィンブロックに埋め込み、その後薄切し、組織切片が配置されたシート状の薄片切片試料をスライドグラス上に載せて形成される組織マイクロアレイが記載されている。そして、スライドプレート上の多数の組織切片を単一のマーカーで染色することにより、包括的な解析を行う。
【0007】
また、例えば特許文献2には、異なる症例の臓器固定パラフィンブロックから筒状刃で被検組織を円筒形状にくりぬき、予め上記筒状刃とほぼ同径の中空穴を複数形成した合成樹脂製のティッシュブロックを用意しておき、くりぬいた被検組織をティッシュブロックの中空穴に埋め込み、包埋皿とティッシュブロックの間にパラフィン液を流し込んで充填・固化させて作製する組織マイクロアレイが記載されている。
【0008】
また、例えば特許文献3には、複数の孔部を形成したパラフィン支持ブロックを作製し、パラフィン包埋した異種症例の検体組織ブロックから前記孔部の形状に対応した形状の被検組織を採取し、前記支持ブロックの孔部に前記被検組織を挿入するとともに前記支持ブロックを加温してパラフィンを融解させ前記支持ブロックと前記被検組織とを一体になじませた組織マイクロアレイが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2005−530504号公報
【特許文献2】特開2004−258017号公報
【特許文献3】特開2006−162489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、従来の組織マイクロアレイは、異なる患者の異種症例の組織切片をスライドプレート上に多数配置したものであり、その組織マイクロアレイを使用する組織解析はスライドプレート上のこれら組織切片を単一マーカーにて染色するものである。そのため、患者個々人の包括的なタンパク質発現プロファイルは得られず、臨床の現場における個別化医療が極めて困難である。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、患者個々人の包括的なタンパク質発現プロファイルを簡易に取得し、臨床の現場における個別化医療を可能とする組織マイクロアレイ、及び、その組織マイクロアレイを使用する組織解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の観点に係る組織マイクロアレイは、同一人の同一症例の同一組織の小薄切組織切片をスライドプレートに複数配置することを特徴とする。
【0013】
また、複数の小薄切組織切片に加えて、各マーカーごと別々の陽性コントロールを前記スライドプレート上に配置することが好ましい。
【0014】
また、複数の小薄切組織切片に加えて、各マーカーごと別々の陰性コントロールを前記スライドプレート上に配置することが好ましい。
【0015】
また、複数の小薄切組織切片に加えて、目的組織に対する同一症例又は他症例の正常組織を前記スライドプレート上に配置することが好ましい。例えば乳癌組織の場合、同一症例の正常乳腺組織である。
【0016】
また、前記スライドプレート上に、前記小薄切組織切片が配置される部位を示す組織切片配置部位が記載されていることが好ましい。
【0017】
また、前記スライドプレートに、前記小薄切組織切片が染色される染色マーカー名が記載されていることが好ましい。
【0018】
また、前記スライドプレートに、前記小薄切組織切片が染色される染色マーカーに適した抗原賦活化液の名称が記載されていることが好ましい。
【0019】
また、前記スライドプレートに、前記小薄切組織切片が染色される染色マーカーの一次抗体に適した二次抗体の名称が記載されていることが好ましい。
【0020】
更に、前記組織切片配置部位、前記染色マーカー名、前記抗原賦活化液、又は前記二次抗体の名称の記載は、前記スライドプレートにレーザー刻印により記載されることが好ましい。
【0021】
本発明の第2の観点に係る組織解析方法は、同一人の同一症例の同一組織の小薄切組織切片をスライドプレートに複数配置し、それらの小薄切組織切片を複数の染色マーカーにて各々染色することを特徴とする。
【0022】
また、前記スライドプレート上に、基材に複数の貫通孔を設けた組織染色用シートを乗せ、前記組織染色用シートの複数の貫通孔に、各々の染色マーカーに適した抗原賦活化液、複数の染色マーカー、及び、各々の染色マーカーの一次抗体に適した二次抗体を各々注入して染色することが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の組織マイクロアレイは、同一人の同一症例の同一組織の小薄切組織切片がスライドプレートに複数配置されており、それらの小薄切組織切片を複数の染色マーカーで各々同時に染色する為、患者個々人の包括的なタンパク質発現プロファイルを簡易に取得でき、臨床の現場における個別化医療(Personalized Medicine)が可能となる。そのため、患者個人の持つ分子・遺伝情報と疾患原因や病態を形成する分子・遺伝子異常に関する情報に基づいて、主作用を最大化しかつ副作用を最小化することにより、患者のQOL(クオリティオブライフ)を最適化するような治療計画を立案及び実行することが可能となる。更に、本発明の組織マイクロアレイを多数の染色マーカーを使用して同時に染色することにより、細胞が外からの刺激を細胞表面のレセプターを介して受け細胞の機能が変化するまでの一連の情報伝達の過程(シグナルトランスダクション)について、臨床的に有効な知見を得ることもできる。更には、インキュベーションの際の抗体量が少量で済む上に、スライドプレートの数量も削減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態に係る組織マイクロアレイの斜視外観図である。
【図2】組織切片配置部位及び染色マーカー名が記載されているスライドプレートの斜視外観図である。
【図3】染色マーカー名が組織切片配置部位の中に記載されているスライドプレートの斜視外観図である。
【図4A】組織マイクロアレイの作成において、摘出検体組織を固定する固定工程を説明する図である。
【図4B】組織マイクロアレイの作成において、パラフィン包埋する包埋工程を説明する図である。
【図4C】組織マイクロアレイの作成において、薄切して薄切試料を得る薄切工程を説明する図である。
【図4D】組織マイクロアレイの作成において、40℃〜50℃程度の温水に浮かべ伸展する伸展工程を説明する図である。
【図4E】組織マイクロアレイの作成において、弾力を有する合成樹脂製のプレート上に薄切試料を掬い取る掬取工程を説明する図である。
【図4F】組織マイクロアレイの作成において、裁断して小薄切組織切片を得る裁断工程を説明する図である。
【図5】抗原賦活化処理、染色マーカー(一次抗体)、及び二次抗体によるインキュベーションの際に使用する組織染色用多孔シートの斜視外観図である。
【図6】小薄切組織切片に加えて陽性コントロールが配置されている組織マイクロアレイの斜視外観図である。
【図7】小薄切組織切片に加えて、陽性コントロール、陰性コントロール、及び正常組織が配置されている組織マイクロアレイの斜視外観図である。
【図8】21種類の染色マーカー名が記載されたスライドガラスを示す写真図である。
【図9】スライドガラス上にシリコン性の組織染色用多孔シートを重ねて載せた状態を示す写真図である。
【図10】組織染色用多孔シートとスライドガラスとの接着性テストの結果を示す写真図である。
【図11】21孔の組織染色用多孔シートを使用し、21個の小薄切組織切片及び陽性コントロールを21種類の染色マーカーで免疫染色した状態を示す写真図である。
【図12】targetの小薄切組織切片のbcl-2免疫染色、及び、bcl-2免疫染色の陽性コントロールを示す40倍拡大写真図である。
【図13】より多くの小薄切組織切片が配置されている組織マイクロアレイと、その上に載置される組織染色用多孔シートとを使用した免疫染色を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施形態1)
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0026】
図1は、本実施形態にかかる組織マイクロアレイ900の斜視外観図である。図1に示すように、組織マイクロアレイ900は、スライドプレート200の上に、同一人の同一症例の同一組織の裁断された小薄切組織切片100が複数配置されている。
【0027】
従来の組織マイクロアレイは、スライドプレート上に異なる患者の異なる症例の組織を多数配置したものであり、それらの組織を単一の染色マーカーにて染色するものであるが、本実施形態に係る組織マイクロアレイ900は、スライドプレート200上に同一人の同一症例の同一組織の裁断された小薄切組織切片100が複数配置されている新規構造の組織マイクロアレイであり、本発明の組織解析方法は、後述するように、それらの裁断された小薄切組織切片100を複数の染色マーカーにて染色する新規な組織解析方法である。
【0028】
スライドプレート200上の各裁断された小薄切組織切片100は、ホルマリン固定、パラフィン包埋された組織である。各裁断された小薄切組織切片100の形状は、特に限定されるものではないが、例えば略円形のスポットである。各裁断された小薄切組織切片100の形状が円形の場合、各スポットの大きさは、特に限定されるものではないが、例えば直径0.2mmから10.0mmであり、本実施形態では直径2.0mmである。
【0029】
また、各スポットの数は、検査対象組織、検査対象症例、ガンの進行ステージ、及び検査の精密度等の当業者から選択される種々の事項を適宜考慮して設定され、特に限定されるものではないが、例えば2から2000である。図1に示される一具体例としての組織マイクロアレイ900では、裁断された小薄切組織切片100は21個配置されている。
【0030】
図2は、各裁断された小薄切組織切片100が配置されるスライドプレート200の斜視外観図である。図2に示すように、スライドプレート200には、小薄切組織切片100が配置される組織切片配置部位101、及び、小薄切組織切片100が染色される染色マーカー名が記載される。組織切片配置部位101の形状は、例えば略円形である。染色マーカー名は、組織切片配置部位101の上部に記載されている。スライドプレート200は、ガラス又はプラスチック等により形成される。プラスチックにてスライドプレート200を形成することにより、ガラス担体のものに比べて安価で組織マイクロアレイ900を提供できる。プラスチック材料としては、表面処理の容易性及び量産性の観点から、熱可塑性樹脂を用いることができる。なお、図1、図2、及び下記図3に記載されている染色マーカー名は一具体例である。
【0031】
また、スライドプレート200に、裁断された小薄切組織切片100の染色される染色マーカーに適した抗原賦活化液の名称を記載することも可能である。ホルマリン等により固定された組織切片を免疫染色する場合、ホルムアルデヒドの架橋形成等のマスキングにより、抗原抗体反応が起こらない又は減弱する場合がある。このため、加熱処理等でアンマスキングすることにより、抗体が抗原を認識できるようにさせる操作が抗原賦活化処理である。染色マーカーが異なると抗原賦活化液も異なる場合がある。しかしながら、スライドプレート200に抗原賦活化液の名称を記載することにより、抗原賦活化液を取り間違えることなく、一次抗体によるインキュベーション前の抗原賦活化を適切に行うことが可能となる。
【0032】
また、スライドプレート200に、裁断された小薄切組織切片100の染色される染色マーカーの一次抗体に適した二次抗体の名称を記載することも可能である。一次抗体の種類が変わることにより、二次抗体も変わる場合、スライドプレート200に二次抗体の名称を記載することにより、二次抗体を取り間違えることなく適切に作用させることが可能となるからである。
【0033】
スライドプレート200への染色マーカー名の記載方式は、特に限定されるものではないが、例えば乾燥後耐水性、耐溶媒性をもつ水溶性顔料にて記載(印刷)することができる。また、染色マーカー名をスライドプレート200へ炭酸ガスレーザー等により、レーザー刻印にて記載することも可能である。同様に、組織切片配置部位101、抗原賦活化液の名称、及び二次抗体の名称を水溶性顔料又はレーザー刻印にて記載(印刷)することが可能である。
【0034】
そして、この組織切片配置部位101の上に、複数の裁断された小薄切組織切片100が配置されることにより、図1に示す組織マイクロアレイ900が形成される。なお、図3に示すように、染色マーカー名は、組織切片配置部位101の内部に記載されることも可能である。係る場合は、組織切片配置部位101に裁断された小薄切組織切片100を配置することにより染色マーカー名が多少見えにくくなるが、どの組織切片配置部位101にどの染色マーカーを使用するかが直接記載されているため、染色マーカーを間違うことなく適切な位置に注入できる。
【0035】
次に、組織マイクロアレイ900の作成工程を説明する。図4A〜図4Fは、組織マイクロアレイ900の作成工程の説明図である。図4Aは、摘出検体組織を固定する固定工程を説明する図であり、図4Bは、パラフィン包埋する包埋工程を説明する図であり、図4Cは、薄切して薄切試料を得る薄切工程を説明する図であり、図4Dは、40℃〜50℃程度の温水に浮かべ伸展する伸展工程を説明する図であり、図4Eは、弾力を有する合成樹脂製のプレート上に伸展した薄切試料を掬い取る掬取工程を説明する図であり、図4Fは、裁断して小薄切組織切片を得る裁断工程を説明する図である。
【0036】
組織マイクロアレイ900の作成工程は、(A)摘出検体組織を固定する固定工程、(B)固定した摘出検体組織を脱水し、パラフィン包埋する包埋工程、(C)包埋試料を薄切して薄切試料を得る薄切工程、(D)薄切試料を、40℃〜50℃程度の温水に浮かべ伸展する伸展工程、(E)伸展した薄切試料を、弾力を有する合成樹脂製のプレート上に掬い取る掬取工程、(F)プレート上の薄切試料を裁断用具にて裁断して、小薄切組織切片を得る裁断工程、及び、(G)裁断された小薄切組織切片をプレパラート上に配置する配置工程を含む。
【0037】
まず、固定工程では、図4Aに示すように、摘出検体組織300が固定される。即ち、摘出検体組織300を自己融解や変性による劣化から保護するための化学処理が行われる。固定に使用される試薬は、特に限定されるものではないが、例えば、ホルムアルデヒドやグルタルアルデヒド等を適宜使用することができる。摘出検体組織300は、生体から摘出された検体組織であり、特に限定されるものではないが、例えば肝臓ガン、大腸ガン、胃ガン等のガン組織である。
【0038】
そして、包埋工程では、摘出検体組織300に付着した固定液を十分に洗い流すために水洗し、その後水分を完全に除去するためにアルコールにて脱水する。アルコールは、低濃度からしだいに濃度を上げて無水アルコールまで順次移していき水分を完全に除去する。次にアルコールに溶けないパラフィンを組織に浸透させるため、キシロールやクロロホルム等の媒介剤を用い、更にアルコールをぬく。そして、図4Bに示すように、固定した摘出検体組織300を融解している液状パラフィンの中に入れて充分浸し、その後徐々に冷却して、パラフィン包埋する。バラフィンブロックの形状は、特に限定されるものではないが、例えば図4Bに示すように、角柱形状である。
【0039】
次に、薄切工程では、図4Cに示すように、パラフィン包埋した摘出検体組織300を薄切することにより、複数の薄切試料310を得る。薄切の手段は、特に限定されるものではないが、例えばミクロトーム等の公知の薄切手段を使用することができ、ミクロトームを用いた場合、マイクロメートルのオーダーから数十ナノメートルに至る薄さでの均質な切り出しを確実に行うことができる。薄切試料310の形状は、特に限定されるものではないが、例えば、パラフィンブロックの形状が角柱形状である場合、図4Cに示すように、長方形である。なお、薄切試料310には、後述する裁断工程にて得られる小薄切組織切片100の裁断部位が示される。
【0040】
ここで、組織マイクロアレイ900は、同一人の同一症例の同一組織の小薄切組織切片をスライドプレート200に複数配置するものであるが、「同一組織」とは、図4Cに示すように、同一ブロックにおいて、x座標及びy座標が同一部位の組織である。
【0041】
次に、伸展工程では、図4Dに示すように、薄切工程で得た薄切試料310を、40℃〜50℃程度の温水に浮かべ伸展する。水溶液は、試料を損傷させない溶液であれば、特に限定されないが、例えば、水、生理食塩水、及び、生物試料の取扱い分野で使用される一般的な緩衝液等を使用できる。この伸展工程において、薄切試料310を、40℃〜50℃程度の温水に浮かべ伸展することで、薄切試料310のしわを除き、また小薄切組織切片100のスライドガラスへの接着性を増すことができる。
【0042】
次に、掬取工程では、図4Eに示すように、水溶液に浮かべた薄切試料310を、弾力を有する合成樹脂製のプレート320上に掬い取る。ここで、弾力を有する合成樹脂製のプレート320は、ガラス状のような硬質素材ではない合成樹脂を素材とするプレートをいい、例えばカッティングマット等に使用されている材質のプレートを挙げることができ、具体的には、アクリル樹脂、発泡性フッ素樹脂、軟質塩化ビニルや塩化ビニルの他、ポリプロピレン等の軟質オレフィン系樹脂や硬質オレフィン系樹脂等の素材からなるプレートである。
【0043】
次に、裁断工程では、図4Fに示すように、合成樹脂製のプレート320上の薄切試料310を裁断用具にて裁断して、小薄切組織切片100を得る。弾力を有する合成樹脂製のプレート320上で薄切試料310を裁断することで、薄切試料310に損傷を与えず裁断できる。なお、裁断用具は、薄切試料310を裁断しうる用具であれば特に限定されるものではなく、例えば、皮膚検体採取用の円筒形のカッターや、通常の切り出しナイフ等を使用できる。
【0044】
最後に、配置工程で、裁断された小薄切組織切片100をスライドプレート200上に適宜所望の位置に配置し、図1に示したような所望の裁断された小薄切組織切片100を組み合わせた組織マイクロアレイ900が作成される。
【0045】
次に、このようにして作成した組織マイクロアレイ900を使用する組織解析方法を説明する。
【0046】
組織マイクロアレイ900は、通常の組織スライド標本と同様に、免疫組織化学染色やin-situハイブリダイゼーションにより実施する。免疫組織化学染色は、被検体である組織切片上の対象物(抗原)に対する特異抗体を反応させ、更に抗原抗体反応、或いは化学反応を組み合わせて特異抗体と標識酵素の免疫複合体を形成し、標識酵素の発色反応によって抗原の存在を可視化するものである。insituハイブリダイゼーションは、標識したDNAプローブ或いはRNAプローブを用いて、被検体組織中の目的遺伝子(mRNA)とハイブリッドを形成し、被検体の細胞や組織を染色し、遺伝子(mRNA)の細胞或いは組織での局在を可視化するものである。
【0047】
まず、染色に先立って、パラフィンで包埋された後、裁断された小薄切組織切片100から、キシレン等を用いてパラフィンを除去する。
【0048】
次に、複数種類の染色マーカーを使用して、各裁断された小薄切組織切片100を染色する。図5は、抗原賦活化処理、染色マーカー(一次抗体)、及び二次抗体によるインキュベーションの際に使用する組織染色用多孔シート400の斜視外観図である。図5に示すように、組織染色用多孔シート400は、基材420に複数の貫通孔410が形成されており、これらの貫通孔410は、組織マイクロアレイ900に配置された複数の裁断された小薄切組織切片100に各々対応している位置に設けられる。組織染色用多孔シート400は、透明又は半透明の材質で形成され、特に限定されるものではないが、例えばシリコン、ポリプロピレン、ポリスチレン等により形成される。
【0049】
抗原賦活化処理、染色マーカー(一次抗体)、及び二次抗体によるインキュベーションでは、各貫通孔410と各裁断された小薄切組織切片100とを対応させた状態で、組織マイクロアレイ900の上に組織染色用多孔シート400を載せる。そして、組織染色用多孔シート400を組織マイクロアレイ900の上に載せた状態にて、組織染色用多孔シート400の各貫通孔410に、複数種類の各染色マーカーに合った抗原賦活化液、一次抗体液、二次抗体液を各工程ごと順次、各々注入して染色をする。組織染色用多孔シート400とスライドプレート200との間には、例えば透明又は半透明の両面テープが介入され、スライドプレート200+両面テープ+組織染色用多孔シート400となり、両者間の密着性を担保する。なお、両面テープ等の粘着層を間に介在させないで、スライドプレート200と組織染色用多孔シート400との間を物理的応力により圧接し、両者間の密着性を担保することも可能である。
【0050】
インキュベーション中に染色マーカーが乾燥することを防止するために、染色マーカーの量を多くしすぎると、隣接するスポットにオーバーフローする場合がある。しかしながら、上記の組織染色用多孔シート400を使用することにより、染色マーカーの量を多くしたとしても、各貫通孔410は独立した区画を形成しているため、貫通孔410内に染色マーカーが溜まり、隣接するスポットにオーバーフローしない。自動化にて賦活化液、一次抗体液、二次抗体液を使用する為に、裁断された小薄切組織切片100近傍にノズルの先を配置し、インキュベーション中にゆっくりとピペッティングするシステムも可能である。
【0051】
また、組織染色用多孔シート400が透明又は半透明である為、その組織染色用多孔シート400を介して、スライドプレート200上に記載されている染色マーカー名等を認識することができる。そして、スライドプレート200には、各組織切片が配置される組織切片配置部位101及び各組織切片が染色される染色マーカー名が記載されている為、多数ある染色マーカーを間違うことなく、適切な位置に注入することができる。また、抗原賦活化液の名称や二次抗体の名称がスライドプレート200に記載されている場合は、組織染色用多孔シート400を介して、スライドプレート200上に記載されているそれらを認識できる。
【0052】
染色マーカーの量は、特に限定されるものではないが、裁断された小薄切組織切片100のスポットの大きさが例えば直径2.0mmの場合、例えば10μL〜40μLであり、本実施形態では20μLである。
【0053】
染色マーカーによる染色操作が終了すると、スライドプレート200から組織染色用多孔シート400を取り除くことも可能である。抗原賦活化液や二次抗体がマーカーにより異なる場合は本組織染色用多孔シート400を取り除かずに行う。このようにして組織解析を行うことにより、患者個々人の包括的なタンパク質発現プロファイルを簡易に取得することができ、臨床現場にて個別化医療が可能となる。そのため、本発明に係る組織マイクロアレイ900は、個別化医療用組織マイクロアレイ(Tissue simultaneous detection microarray:TSMA)と称される。
【0054】
(実施形態2)
本発明の組織マイクロアレイ900は、上述の実施形態に限定されるわけではない。図6は、複数の裁断された小薄切組織切片100に加えて、各マーカーごと別々の陽性コントロール110が配置されている組織マイクロアレイを示す斜視外観図である。図6に示すように、第2実施形態に係る組織マイクロアレイ900では、各々の組織切片配置部位101内に、裁断された小薄切組織切片100と陽性コントロール110とが隣り合って配置されている。
【0055】
第2実施形態に係る組織マイクロアレイ900では、上述の複数の裁断された小薄切組織切片100に加え、スライドプレート200上に陽性コントロール110が配置されているので、陽性コントロール110と全く同一の条件にて検査対象の各小薄切組織切片100の検査結果を検証することができ、正確なプロファイルを取得できる。
【0056】
また、図7に示すように、各々の組織切片配置部位101内に、裁断された小薄切組織切片100に加えて、陽性コントロール110、陰性コントロール120、及び正常組織130とが隣り合って配置されることも可能である。正常組織130は、目的組織に対する同一症例の正常組織であるが、同一症例の正常組織が得難い場合は、他人の正常組織(他症例の正常組織)を乗せることも可能である。複数の裁断された小薄切組織切片100に加え、スライドプレート200上に陽性コントロール110、陰性コントロール120、及び正常組織130が配置されているので、陽性コントロール110、陰性コントロール120及び正常組織130と全く同一の条件にて、検査対象の各小薄切組織切片100の検査結果を検証することができ、極めて正確なプロファイルを取得できる。
【実施例】
【0057】
〈スライドガラス〉
スライドプレートとして、長さ76.2mm×幅25.4mm×厚さ1.0mmのMASコートスライドグラス(松浪硝子工業株式会社)を使用した。水溶性顔料としてPX-Gインク(エプソン社)を使用し、円形の組織切片配置部位を、縦3個×横7個で合計21個の数だけスライドガラスに直接記載(印刷)した。また、スライドガラス上に記載したそれらの組織切片配置部位よりも上方位置に、染色マーカー名を21カ所に直接記載(印刷)した。スライドガラス上に記載した染色マーカー名は、EstrogenReceptor(ER)、Progesterone Receptor(PgR)、HER2 receptor(HER2)、Epithelial GrowthFactor Receptor(EGFR)、MIB-1、Cytokeratin5/6(CK5/6)、synaptophysin、chromograninA、 CD56、AndrogeneReceptor(AR)、p53、p21、BRCA1、cyclinD1、E-cadherin、Smad4、Rb、c-Myc、β-catenin、ALK1、及び、bcl-2の21種類であった。このようにして、図8に示すようなスライドガラスを準備した。
【0058】
〈組織マイクロアレイ〉
摘出検体組織としての乳ガン組織が、ホルムアルデヒドを使用して固定された。固定された乳ガン組織は十分に水洗され、その後、低濃度アルコールからしだいに濃度を上げて無水アルコールまで順次移していき、十分に脱水された。次にキシロールを用いてアルコールを抜き、固定した乳ガン組織を融解している液状パラフィンの中に入れて充分浸し、その後徐々に冷却して、パラフィン包埋した。次に、パラフィン包埋した乳ガン組織をミクロトームで薄切することにより、同一人の同一症例の同一組織の薄切試料を複数得た。ミクロトームで薄切した薄切試料の厚さは4μmであった。次に、それらの薄切試料を、40℃〜50℃程度の温水に浮かべ伸展した。次に、40℃〜50℃程度の温水に浮かべた薄切試料を、塩化ビニル製のカッティングマット上に掬い取った。次に、カッティングマット上に掬い取った薄切試料を円筒形のカッターにて裁断して、同一人の同一症例の同一組織の小薄切組織切片を21個得た。最後に、小薄切組織切片を、上述のスライドガラス上の組織切片配置部位に配置し、更に、組織切片配置部位に各々の陽性コントロール組織から上記同様の方法にて得た小薄切組織切片を配置して組織マイクロアレイを作成した。
【0059】
〈組織染色用多孔シート〉
インキュベーションの際に使用する組織染色用多孔シートは、スライドガラスとほぼ同じ形状及び大きさであり、スライドガラス上に記載された組織切片配置部位に対応する位置に縦3個×横7個の21個の貫通孔が形成されていた。図9は、スライドガラス上にシリコン性の組織染色用多孔シートを重ねて載せた状態の写真図である。図9に示すように、組織染色用多孔シートはシリコンで形成された透明材料であり、スライドガラス上に記載された各染色マーカー名は、組織染色用多孔シートを透過して認識することができた。また、図9に示すように、スライドガラス上に記載された21個の組織切片配置部位と、組織染色用多孔シートの21個の貫通孔とは完全に一致していた。
【0060】
この組織染色用多孔シートとスライドガラスとの間に橙色透明の両面テープを介在させて、両者間の密着性を試験した。組織染色用多孔シートの21個の貫通孔のうち、11個の貫通孔に着色色素としてのインジゴカルミン(Indigo carmine)を入れ、残りの10個の貫通孔にPBSを入れ、湿潤箱内にて37℃条件下にて40分間インキュベーションした。
【0061】
図10は、組織染色用多孔シートとスライドガラスとの接着性テストの結果を示す写真図である。濃青色液はインジゴカルミンであり、透明液はPBSである。図10に示すように、インキュベーション後において、インジゴカルミン及びPBSは漏出することなく、組織染色用多孔シートの貫通孔内に貯留されていた。なお、95℃、40分間のインキュベーションでも漏出することなく、また、over nightでも漏出することはなかった。
【0062】
〈免疫染色〉
次に、上記の組織染色用多孔シートを使用し、上記の〈組織マイクロアレイ〉で作成した組織マイクロアレイの上に載置して、下記に示すように、21種類の染色マーカーを使用して免疫染色を行った。即ち、tris-EDTA pH 10にて、121℃で15分抗原賦活化後、過酸化水素メタノール処理を15分間行い、10%ヤギ血清によるブロッキングを5分間施行した。両面テープの片面を付着させた21孔の組織染色用多孔シートを組織マイクロアレイの上に乗せて接着させ、貫通孔にPBSを満たした。その後、PBSを1個づつ除き、記載されている染色マーカー名と同一の一次抗体を20μlづつ注入した。使用した染色マーカーは、EstrogenReceptor(ER)、Progesterone Receptor(PgR)、HER2 receptor(HER2)、Epithelial GrowthFactor Receptor(EGFR)、MIB-1、Cytokeratin5/6(CK5/6)、synaptophysin、chromograninA、CD56、Androgene Receptor(AR)、p53、p21、BRCA1、cyclinD1、E-cadherin、Smad4、Rb、c-Myc、β-catenin、ALK1、及び、bcl-2の21種類であった。
【0063】
そして37℃40分間のインキュベーションを行った後、PBSにてリンスし、組織染色用多孔シートを外した。さらに、2次抗体で10分間インキュベーションを行った。次に、PBSにてリンスした後、HRPストレプトアビジン液で10分間処理を行い、次にPBSにてリンスした後、DABにて発色させた。ヘマトキシリンにてカウンターステインした後に、透徹して封入した。
【0064】
図11は、21孔の組織染色用多孔シートを使用し、21個の組織切片及び陽性コントロールを21種類の染色マーカーで免疫染色した状態を示す写真図である。図11において、右側に位置する濃い茶色の組織片が陽性コントロールであり、左側に位置する組織片がtargetである小薄切組織切片である。なお、記載された組織切片配置部位及び染色マーカー名は、脱パラフィン操作や、tris-EDTA溶液による121℃15分の抗原賦活化等、免疫染色の全てのステップにおいて剥げ落ちることはなかった。図11に示すように、本発明の組織マイクロアレイは、同一人の同一症例の同一組織の小薄切組織切片がスライドプレートに複数配置されており、それらの小薄切組織切片が複数の染色マーカーで各々同時に染色されている為、患者個々人の包括的なタンパク質発現プロファイルが取得でき、個別化医療が可能となる。
【0065】
図12は、targetの小薄切組織切片のbcl-2免疫染色、及び、bcl-2免疫染色の陽性コントロールを示す40倍拡大写真図である。図12において、右側の染色はbcl-2免疫染色の陽性コントロールであり、左側の染色はtargetの小薄切組織切片のbcl-2免疫染色である。図12に示されるように、targetの小薄切組織切片と陽性コントロールとが隣接して存在しており、しかも両者が同一条件で染色されている。そのため、左側目的組織(乳癌組織)のbcl-2陰性判定が極めて正確かつ容易である。
【0066】
図13は、他の実施例であり、より多くの小薄切組織切片が配置されている組織マイクロアレイと、その上に載置される組織染色用多孔シートを使用した免疫染色を示す写真図である。図13に示すように、組織マイクロアレイには、34個の小薄切組織切片が配置され、その上には、縦4個×横9個の36個の貫通孔が形成されている組織染色用多孔シートが載置された。そして、34種類の染色マーカーを使用して免疫染色をした。
【0067】
図13に示すように、同一人の同一症例の同一組織の小薄切組織切片をスライドプレート上により多数配置することにより、更に詳細な包括的タンパク質発現プロファイルを取得でき、個別化医療をより促進させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る組織マイクロアレイは、臨床現場並びに医療及び基礎医学研究等の分野において、個々人の包括的なタンパク質発現プロファイルを取得する際に使用され、特に臨床現場における個別化医療に多大な貢献をする。
【符号の説明】
【0069】
100:小薄切組織切片
101:組織切片配置部位
110:陽性コントロール
120:陰性コントロール
130:正常組織
200:スライドプレート
300:摘出検体組織
310:薄切試料
320:プレート
400:組織染色用多孔シート
410:貫通孔
420:基材
900:組織マイクロアレイ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一人の同一症例の同一組織の小薄切組織切片をスライドプレートに複数配置することを特徴とする組織マイクロアレイ。
【請求項2】
複数の小薄切組織切片に加えて、各マーカーごと別々の陽性コントロールを前記スライドプレート上に配置することを特徴とする請求項1に記載の組織マイクロアレイ。
【請求項3】
複数の小薄切組織切片に加えて、各マーカーごと別々の陰性コントロールを前記スライドプレート上に配置することを特徴とする請求項1又は2に記載の組織マイクロアレイ。
【請求項4】
複数の小薄切組織切片に加えて、目的組織に対する同一症例又は他症例の正常組織を前記スライドプレート上に配置することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の組織マイクロアレイ。
【請求項5】
前記スライドプレート上に、前記小薄切組織切片の配置される部位を示す組織切片配置部位が記載されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の組織マイクロアレイ。
【請求項6】
前記スライドプレートに、前記小薄切組織切片の染色される染色マーカー名が記載されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の組織マイクロアレイ。
【請求項7】
前記スライドプレートに、前記小薄切組織切片の染色される染色マーカーに適した抗原賦活化液の名称が記載されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の組織マイクロアレイ。
【請求項8】
前記スライドプレートに、前記小薄切組織切片の染色される染色マーカーの一次抗体に適した二次抗体の名称が記載されていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の組織マイクロアレイ。
【請求項9】
前記組織切片配置部位、前記染色マーカー名、前記抗原賦活化液、又は前記二次抗体の名称の記載は、前記スライドプレートにレーザー刻印により記載されることを特徴とする請求項5乃至8の何れか1項に記載の組織マイクロアレイ。
【請求項10】
同一人の同一症例の同一組織の小薄切組織切片をスライドプレートに複数配置し、それらの小薄切組織切片を複数の染色マーカーにて各々染色することを特徴とする組織解析方法。
【請求項11】
前記スライドプレート上に、基材に複数の貫通孔を設けた組織染色用シートを乗せ、前記組織染色用シートの複数の貫通孔に、各々の染色マーカーに適した抗原賦活化液、複数の染色マーカー、及び、各々の染色マーカーの一次抗体に適した二次抗体を各々注入して染色することを特徴とする請求項10に記載の組織解析方法。
【請求項1】
同一人の同一症例の同一組織の小薄切組織切片をスライドプレートに複数配置することを特徴とする組織マイクロアレイ。
【請求項2】
複数の小薄切組織切片に加えて、各マーカーごと別々の陽性コントロールを前記スライドプレート上に配置することを特徴とする請求項1に記載の組織マイクロアレイ。
【請求項3】
複数の小薄切組織切片に加えて、各マーカーごと別々の陰性コントロールを前記スライドプレート上に配置することを特徴とする請求項1又は2に記載の組織マイクロアレイ。
【請求項4】
複数の小薄切組織切片に加えて、目的組織に対する同一症例又は他症例の正常組織を前記スライドプレート上に配置することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の組織マイクロアレイ。
【請求項5】
前記スライドプレート上に、前記小薄切組織切片の配置される部位を示す組織切片配置部位が記載されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の組織マイクロアレイ。
【請求項6】
前記スライドプレートに、前記小薄切組織切片の染色される染色マーカー名が記載されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の組織マイクロアレイ。
【請求項7】
前記スライドプレートに、前記小薄切組織切片の染色される染色マーカーに適した抗原賦活化液の名称が記載されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の組織マイクロアレイ。
【請求項8】
前記スライドプレートに、前記小薄切組織切片の染色される染色マーカーの一次抗体に適した二次抗体の名称が記載されていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の組織マイクロアレイ。
【請求項9】
前記組織切片配置部位、前記染色マーカー名、前記抗原賦活化液、又は前記二次抗体の名称の記載は、前記スライドプレートにレーザー刻印により記載されることを特徴とする請求項5乃至8の何れか1項に記載の組織マイクロアレイ。
【請求項10】
同一人の同一症例の同一組織の小薄切組織切片をスライドプレートに複数配置し、それらの小薄切組織切片を複数の染色マーカーにて各々染色することを特徴とする組織解析方法。
【請求項11】
前記スライドプレート上に、基材に複数の貫通孔を設けた組織染色用シートを乗せ、前記組織染色用シートの複数の貫通孔に、各々の染色マーカーに適した抗原賦活化液、複数の染色マーカー、及び、各々の染色マーカーの一次抗体に適した二次抗体を各々注入して染色することを特徴とする請求項10に記載の組織解析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−188835(P2011−188835A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59800(P2010−59800)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】
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