説明

組織壊死を低下させるためのフィブリンシーラントにより送達されるVEGF165

本願は、増殖因子を虚血性組織に局所的に送達するための、フィブリンシーラントの臨床能力を実証する。より具体的には、ヒドロゲル(例えば、フィブリンシーラント)が、VEGF165を送達して、低酸素症もしくは虚血によって引き起こされる組織壊死を予防するために使用され得ることを実証する。特に、齧歯類背側皮弁モデルおよび齧歯類上腹部皮弁モデルの両方において、フィブリンシーラント(FS)を用いて、VEGF165を送達して、組織壊死を処置した。(rh)VEGF165を添加したFSで処置した皮弁は、壊死組織をあまり発生させなかった。さらに、免疫組織化学的研究から、非常に多くの数の血管が現れた(新脈管形成)。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
組織虚血は、特に、糖尿病/末梢病状(例えば、アテローム動脈硬化症、妨げられた/遅延した創傷治癒)を被る患者において、徹底的な手術見直しをしばしばもたらす、多くの手術特質において重度の合併症である。不十分な動脈の流れ(流入)と、付随する低酸素/虚血性組織への低下した栄養供給は、潜在的に、治療的な新脈管形成によって克服され得る(Hockelら,Arch Surg,128:423−429(1993))。多くの脈管形成因子は、効力について研究されてきた(Pepper,Arterioscler Thromb Vasc Biol,17:605−619(1997);Vranckxら,Wound Repair Regen,13:51−60(2005);Zhangら,Microsurgery,24:162−167(2004))。脈管形成因子の投与様式はまた、研究されてきた。なぜなら、意図された臨床的使用および効力は、知られている有害反応が、全身投与で起こる場合の関心事であるからである(Epplerら,Clin Pharmacol Ther,72:20−32(2002);Krygerら,Br J Plast Surg,53:234−239(2000);Yangら,J Pharmacol Exp Ther,284:103−110(1998))。
【0002】
血管内皮増殖因子(VEGF)は、既存の血管構造から血管のデノボ形成を誘導する強力な能力を示す。インビボで、VEGFは、血管の増大した透過性および新脈管形成の両方の内因性誘導因子であり、従って、組織における新生血管形成の調節において重要な役割を果たす。
【0003】
皮弁壊死を低下することにおけるVEGFの部分的に有益な効果は、液体処方物中の組換えタンパク質を使用してか、または遺伝子送達技術によるかのいずれかで、種々の投与経路(経血管(transvascular)、皮内、筋膜下)について実証された(Krygerら,Br J Plast Surg,53:234−239(2000))。
【0004】
しかし、上記VEGFタンパク質は、インビボで短い半減期を有するので、長期間のタンパク質発現を高めるために、他のアプローチが使用されてきた(例えば、リポソーム(Liuら,Wound Repair Regen,12:80−85(2004))またはウイルス媒介性遺伝子送達(Deodatoら,Gene Ther,9:777−785(2002);Vranckxら,Wound Repair Regen,13:51−60(2005))。このようなアプローチの効力は、実験的皮弁生存において有益であることが示された(Giuntaら,J Gene Med,7:297−306(2005);Yangら,Br J Plast Surg,58:339−347(2005))。しかし、ウイルス遺伝子治療の安全性については、重大な懸念事項がある(Felgnerら,Nature,349:351−352(1991))。従って、非ウイルス手段によるVEGF165の持続性送達は、これらの診療を上回る顕著な利点を提供する。
【0005】
フィブリンシーラント(FS)は、その開いた多孔性の微小構造およびその特定の増殖因子を可逆的に結合する能力に起因して、生体活性物質の局所送達のための生分解性バイオマトリクスとして使用され得る(Helgersonら,Fibrin.New York:Marcel Dekker,Inc.,2004,pp 603−610)。例えば、研究から、フィブリノゲンは、VEGF165に対する特異的結合部位を有することが示された(Sahniら,Blood,96:3772−3778(2000))。
【0006】
新脈管形成の研究から、増殖因子は、FSから効率的に送達され得ることが示された(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。さらに、FS自体は、脈管形成促進効果を有することが示された(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Arkudasら,Mol Med,13:480−487(2007)
【非特許文献2】Panditら,Growth Factors,15:113−123(1998)
【非特許文献3】Wongら,Thromb Haemost,89:573−582(2003)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
持続性の脈管形成促進刺激および虚血性組織への集中した送達のための、FSを介する増殖因子の局所的かつ長期間の放出は、臨床的に有利である。従って、本研究は、天然に結合した増殖因子が組織壊死を低下させ、よって、組織皮弁の生存を高めるための、FSをスプレー送達バイオマトリクスとして使用する。それによって、FSに結合した(rh)VEGF165は、上記レシピエントの皮弁部位に局所投与される。
【0009】
よって、本発明は、組織移植片の部位において新血管形成を増大させるための方法に関し、上記方法は、新脈管形成を誘導する増殖因子を含むフィブリンシーラント組成物を、上記部位に局所的に適用する工程を包含する。このような方法において、上記組織移植片は、増殖因子を含むフィブリンシーラント組成物で処置されていない組織移植片と比較して、増大した生存率を有する。好ましくは、上記組織移植片は、増殖因子を含むフィブリンシーラント組成物で処置したことがない比較できる組織移植片より小さい収縮を示す。
【0010】
本発明の別の有利な用途は、創傷部位における組織壊死を低下させることに関し、この方法は、上記創傷部位と、新脈管形成を誘導する増殖因子を含むフィブリンシーラント組成物とを接触させる工程を包含し、ここで上記創傷部位における組織壊死は、上記増殖因子単独の投与と比較して、上記フィブリンシーラントの存在下で低下する。
【0011】
創傷修復を高めるための方法もまた企図され、上記方法は、上記創傷部位と、新脈管形成を誘導する増殖因子を含むフィブリンシーラント組成物とを接触させる工程を包含する。
【0012】
本発明の方法はまた、創傷部位もしくは組織移植片の部位における組織虚血を低下させるために使用され得、この方法は、上記創傷部位もしくは組織移植片と、新脈管形成を誘導する増殖因子を含むフィブリンシーラント組成物とを接触させる工程を包含し、ここで上記創傷部位における組織壊死は、上記増殖因子単独の投与と比較して、上記フィブリンシーラントの存在下で低下する。
【0013】
本明細書で企図される方法において、新脈管形成を誘導する増殖因子は、血管内皮増殖因子(VEGF)である。好ましくは、上記VEGFは、組換えヒトVEGF(rhVEGF)である。特定の実施形態において、上記VEGFは、好ましくは、VEGF121、VEGF145、VEGF165、VEGF183、VEGF189、VEGF206、VEGF−B、VEGF−C、VEGF−D、VEGF−E、胎盤増殖因子(PIGF)および内分泌腺由来VEGF(EG−VEGF)からなる群より選択される。特に好ましい実施形態において、上記rhVEGFは、rhVEGF165である。
【0014】
本明細書で使用されるフィブリンシーラントは、任意のフィブリンシーラントであり得る。代表的には、上記シーラントは、シーラータンパク質成分;およびCaCl中で再構成されたトロンビン成分を含むシーラントである。ここで上記フィブリンシーラントは、上記シーラータンパク質成分もしくは上記トロンビン成分のいずれかの中に上記VEGFを含む。必要に応じて、いくつかの実施形態において、上記組成物は、線維素溶解インヒビターをさらに含み得る。例示的な市販のシーラントとしては、TISSEEL VHTMおよびARTISSTMが挙げられる。好ましくは、上記シーラントは、シーラントスプレーとして構成される。
【0015】
上記シーラントにおいて、上記シーラント中の上記トロンビン成分は、上記シーラントをスプレー可能な様式として与える、0.5IU〜約1000IU/mlの間のトロンビンである。
【0016】
また、創傷治癒もしくは組織修復において使用するためのキットが記載され、上記キットは、組織シーラントのシーラータンパク質成分;線維素溶解インヒビター成分;CaCl中で再構成されたトロンビン成分およびVEGF成分を含む。
【0017】
皮膚移植片を癒合するための組成物もまた、企図され、上記組成物は、トロンビン、フィブリノゲン、線維素溶解インヒビターおよびVEGF165を含む。好ましくは、上記組成物は、液体もしくはスプレーとして適用直前に再構成される。上記組成物中のフィブリノゲンの濃度は、好ましくは、10〜250mg/mlの間である。上記組成物中のトロンビンの濃度は、好ましくは、約1.0U/ml〜約2.5U/mlの間である。あるいは、上記トロンビン成分は、この量より大きい桁であり得、例えば、500IUであり得る。上記組成物が、2IU、4IU、6IU、8IU、10IU、15IU、20IU、25IU、30IU、35IU、40IU、45IU、50IUのトロンビン、またはこの数字の倍数(multiples of this figure)(例えば、100IU、150IU、200IU、250IU、300IU、350IU、400IU、450IU、500IU、550IU、600IU、650IU、700IU、750IU、800IU、850IU、900IU、950IU、もしくは1000IUなどのトロンビン)を含み得ることが企図される。上記トロンビンの濃度は、好ましくは、約4IU/mlもしくは500IU/mlであり、上記フィブリノゲンの濃度は、好ましくは、約75〜約150mg/mlの間である。特定の実施形態において、上記線維素溶解インヒビターは、アプロチニンであり、これは、約1,000KIU/ml〜約10,000KIU/mlの間で存在し得る。特定の実施形態において、上記アプロチニンは、約3000KIU/mlである。
【0018】
上記組成物は、ポリペプチド増殖因子、サイトカイン、酵素、ホルモン、抗生物質、プロテアーゼインヒビター、および抗真菌剤、またはこれらの組み合わせからなる群より選択される1種以上の分子をさらに含み得る。
【0019】
本発明はまた、フィブリンシーラントを調製する工程を包含する、創傷を処置するための方法を記載し、上記方法は、a)等容積の、フィブリノゲンを含む第1の溶液、およびCaCl溶液中で再構成されたトロンビンを含む第2の溶液を混合する工程であって、ここで上記トロンビンの濃度は、好ましくは、約4IU/mlもしくは500IU/mlもしくはその間の整数であり;そしてここで上記第1の溶液および/もしくは上記溶液は、VEGF165をさらに含む、工程、b)上記混合物を、フィブリンシーラントが創傷上に形成されるように、該創傷表面へと分配する工程を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、面積測定分析を示す。(A)14日間にわたって面積測定によって評価した、生きている皮弁面積(総皮弁面積の%)。組換えヒト血管内皮増殖因子(rhVEGF165)処置群は、全ての時点で、他の群と比較して、生存している皮弁組織の広い面積を示しし、14日目においてコントロールに対して有意差を示した(p<0.01)。(B)低下した皮弁壊死が、観察期間全体にわたって上記コントロール群と、上記FS/VEGF群との間で認めら、14日目において統計的有意(p<0.05)が認められた。(C)14日目の皮弁収縮は、上記FS/VEGF群においてあまり顕著でなかったが、コントロールと比較して有意差はなかった。データは、平均値_平均値の標準偏差として示される。n.s.、有意でない;FS、フィブリンシーラント;VEGF、血管内皮増殖因子。
【図2】図2は、誘導された新脈管形成の評価を示す。内皮構造のマーカーであるフォンビルブラント因子が陽性に染色された血管を、200×倍率において上記皮膚皮弁の近位1/3、中央部1/3、および遠位1/3において計数した。平均値を、各スライドから計算し、平均血管密度を、サンプル毎に計算した。データは、平均値_平均値の標準偏差として示される。*コントロールとは有意差あり(p<0.05)。
【図3】図3は、手術後3日目および7日目での皮弁壊死のパーセンテージを示す。200ng/mLおよび400ng/mLのVEGF165を最終FSクロット(clot)に有する上記FS群は、コントロールと比較して、手術後3日目および7日目に、壊死の低下において統計的に有意な優れた有効性を示した。フィブリンシーラント自体はまた、コントロールと比較して、壊死組織の面積を低下させたが、統計的に有意ではなかった。最低のVEGF165濃度(20ng/mL 最終FSクロット)は、フィブリンシーラント単独と比較して、壊死を減少させることにおいてさらなる効果を示さなかった。上記コントロール群において、組織壊死はまた、3日目〜7日目の期間の間により顕著になった(皮弁全体の約25%)。データは、平均値±SEMとして示される。*FS+400ng VEGF165/mL 最終FSクロット(p<0.05);#FS+200ng VEGF165/mL 最終FSクロット(p<0.05)。
【図4】図4は、レーザードップラー画像化(LDI)システムで、相対灌流単位(PU)において評価した皮弁灌流を示す。ベースライン値(=OP前=100%)からのパーセント偏差を示す。下腹壁神経血管束(無作為化プロトコルに従って左もしくは右)のうちの一方の結紮および切開は、上記群間でいかなる差異もなく、全ての群において手術前値の約40%へと皮弁灌流の実質的低下を生じた。このことは、全ての群についての同じベースライン条件を示す。
【0021】
既に、手術後3日目に、200ng、400ng、および800ngのVEGF165を組み込んで有するFS群は、上記コントロール群と比較して、灌流において統計的に有意な改善を示した(*200ng、400ng、800ngのVEGF165 対 コントロール−p<0.05)。手術後7日目に、灌流においてさらなる改善が、全てのFS群において決定された。しかし、200ngおよび400ngのVEGF165を有するFS群のみが、上記コントロール群と比較して、有意に高い灌流を有した(‡ 200ngおよび400ngのVEGF165 対 コントロール p<0.05)。上記コントロール群は、7日目に、ベースラインのわずか約50% 皮弁灌流を示した。データは、平均値±SEMとして表される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(発明の詳細な説明)
上記のように、組織虚血は、創傷治癒において重度の合併症をもたらし、このような創傷治癒適用において治療的新脈管形成の有効な方法を提供する必要がある。本発明は、増殖因子を虚血性組織へと局所送達するためのフィブリンシーラントの臨床的能力を実証する。これら知見を使用して、治療的結果を達成するための方法および組成物が、本明細書に記載される。
【0023】
特に、フィブリンシーラント組成物が調製され、移植片、組織移植片もしくは創傷部位における虚血が低下するように、VEGFおよび他の脈管形成因子の投与のための局所送達デバイスとして使用される。上記フィブリンシーラント組成物は、トロンビンの存在下で、フィブリノゲンを含む血漿タンパク質の凝固によって形成される。この凝固は、主に、重合したフィブリンネットワークの形成の結果であり、このことは、血餅の形成を模倣する。このようなシーラントにおいて、トロンビンは、酵素による切断によってフィブリノゲンをフィブリンへと変換し、そしてまた、プロトランスグルタミナーゼ(第XIII因子)を活性なトランスグルタミナーゼ(第XIIIa因子)に変換する。カルシウムは、上記トロンビンのタンパク質分解活性を促進し、第XIII因子の補因子である。本発明における使用のためのフィブリンシーラントを形成するために、凝固は、スプレー可能なフィルムの形成をうながす条件下で行われる。
【0024】
上記フィブリンシーラントは、フィブリンマトリクスが形成されるように、血漿タンパク質(例えば、フィブリノゲン)の溶液と、CaClの存在下で調製されるトロンビンの溶液とを組み合わせることによって調製される。上記フィブリノゲン溶液もしくは上記トロンビン溶液のいずれかまたはその両方が、VEGFを含むことが企図される。上記トロンビン溶液は、トロンビンを含む溶液および任意の濃度のカルシウムを含む。しかし、いくつかの局面において、上記フィブリンシーラントが、カルシウムの非存在下ですら、フィブリノゲンとトロンビンとを接触させることによって生成され得ることが理解されるべきである。なぜなら上記カルシウムは、トロンビンのタンパク質分解活性を促進するに過ぎないからである。
【0025】
本明細書に記載の組織シーラントにおいて使用される上記フィブリノゲンは、(例えば、血液ドナーから得られる)ヒト血漿から得られ得るか、または組換えフィブリノゲンであり得る。上記フィブリノゲンは、液体形態もしくは凍結乾燥(freeze−dried)形態または凍結乾燥(lyophilized)形態のいずれかであり得る。固体形態(例えば、凍結乾燥(freeze−dried)または凍結乾燥(lyophilized))にある場合、上記フィブリノゲンは、例えば、等張性溶液中で再構成されるはずである。代表的には、このような等張性溶液は、塩化カルシウムを含む等張性塩化ナトリウムである。塩化ナトリウムの濃度は、約0.5%〜約5.0%の範囲、好ましくは、約1.0%〜約3.0%の範囲であり得る。そして塩化カルシウムの濃度は、約0.5mM〜約50mMの範囲、好ましくは、約1mM〜約10mMの範囲であり得る。他の好ましい実施形態において、上記塩化カルシウムは、約40mMで存在し、これは、上記組織シーラントに必要とされる塩化カルシウム濃度より過剰である。上記等張性溶液は、1種以上のプロテアーゼインヒビター、例えば、約1,000〜10,000KIU/ml(カリクレインインヒビター単位/ml)の濃度範囲、好ましくは、約3000KIU/mlの濃度において提供される多価プロテアーゼインヒビター(例えば、アプロチニン)をさらに含み得る。あるいは、溶液状態でこのようなプロテアーゼインヒビター(複数可)の上記フィブリノゲンへの直接添加により、該タンパク質を再構成し得る。上記フィブリノゲンの濃度は、通常、約1〜1000mg/ml、好ましくは、10〜250mg/ml、より好ましくは、50〜150mg/ml、および最も好ましくは、70〜110mg/mlである。しかし、特定の適用形態において(例えば、埋め込まれる細胞とともに)希釈処方物が、使用され得る(例えば、60mg/ml以下)。上記フィブリノゲン溶液は、他の血漿タンパク質(例えば、フィブロネクチン、第VIII因子および第XIII因子など)をさらに含み得る。
【0026】
上記トロンビンはまた、天然供給源に由来してもよいし、組換えもしくは合成であってもよい。固体形態にある場合、トロンビンは、好ましくは、必ずしも必要ではないが、カルシウムを含む等張性溶液(例えば、1mM 塩化カルシウムを含む1.1% NaCl)中で再構成される。上記トロンビン溶液の濃度は、通常、約0.1〜10U/ml、好ましくは、0.5〜5.0U/ml、さらにより好ましくは、1〜3U/mlおよび最も好ましくは、2.5U/mlである。トロンビンの単位は、NIH標準によって定義されるように、活性標準を指す。1 NIH単位は、1.15国際単位に対応する(例えば、Gaffneyら(1995)J.Thromb.Haemost.74:900−3を参照のこと)。トロンビンはまた、カルシウムの非存在下で、フィブリノゲンと合わされ得る。しかし、当業者は、カルシウムの存在が、トロンビンのタンパク質分解活性を促進するので、上記フィブリンシーラントのトロンビン成分中の塩化カルシウムの存在は、好ましいことを認識する。
【0027】
本発明において、上記VEGF165は、上記フィブリノゲン溶液もしくは上記トロンビン溶液のいずれかに添加される。VEGFは、最も強力でかつ遍在する公知の血管増殖因子であり、創傷部位および/もしくは皮膚移植部位において、組織中の虚血の有益な低下を誘導するために使用される好ましい増殖因子である。VEGFは、VEGF−Aとしても公知であり、同定される血小板由来増殖因子スーパーファミリーに属する構造的に関連したダイマーの糖タンパク質のVEGFファミリーの第1のメンバーであった。該最初の(founding)メンバーの他に、上記VEGFファミリーとしては、VEGF−B、VEGF−C、VEGF−D、VEGF−E、胎盤増殖因子(PIGF)および内分泌腺由来VEGF(EG−VEGF)が挙げられる。活性な形態のVEGFはホモダイマーとしてまたは、他のVEGFファミリーメンバーとともに、ヘテロダイマーとしてのいずれかで合成される。VEGF−Aは、選択的スプライシングによって生成される6つのアイソフォームで存在する;VEGF121、VEGF145、VEGF165、VEGF183、VEGF189およびVEGF206。これらアイソフォームは、主としてそれらのバイオアベイラビリティーにおいて異なり、VEGF165は、優勢なアイソフォームである(Podarら 2005 Blood 105(4):1383−1395)。本明細書で示される例は、フィブリンシーラントにおいて、創傷部位に送達される場合にVEGF165の有益な効果を示す一方で、上記フィブリンシーラントが、VEGF121、VEGF145、VEGF165、VEGF183、VEGF189、VEGF206、VEGF−B、VEGF−C、VEGF−D、VEGF−E、胎盤増殖因子(PIGF)および内分泌腺由来VEGF(EG−VEGF)のうちの1種以上を含み得ることが企図される。新脈管形成の調節に関与することが示された他の増殖因子としては、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、トランスホーミング増殖因子α(TGFα)、および肝細胞増殖因子(HGF)が挙げられる。総説については、例えば、Folkmanら,「Angiogenesis」,J.Biol.Chem.,1992 267 10931−10934を参照のこと。これら因子のうちのいずれかはまた、単独で、または本明細書に記載されるフィブリンシーラント中でVEGF165と組み合わせてのいずれかで使用され得る。
【0028】
上記フィブリノゲン溶液および上記トロンビン溶液は、好ましくは、上記創傷に適用する直前に(通常は、等容積で)組み合わされ、その後凝固が起こる。いったん凝固が起こると、上記VEGF165を含むフィブリンシーラントが形成される。あるいは、上記2種の溶液は、混合継ぎ手によって相互に連絡させた2つのシリンジを使用して同時に上記創傷部位に直接スプレーされ得る。一般に、上記トロンビン溶液および上記フィブリノゲン溶液の組み合わせによって形成される上記フィブリンシーラントは、透明である。使用されるフィブリノゲンおよびトロンビンを含む溶液の容積は、所望のフィブリンシーラントの厚みに依存する。代表的には、各溶液の約2.5mlが、およそ100cmの表面ごとに使用される。
【0029】
上記記載は、個々の成分部分(天然供給源(例えば、動物の血漿)または組換え生成からの成分である)からフィブリンシーラントの調製の教示を提供すると同時に、本発明は、有利なことには、市販のフィブリンシーラントを使用し得る。本発明の方法において使用され得る例示的なフィブリンシーラントとしては、例えば、ARTISSTM、TISSEELTM、TISSEEL VHTM、CrossealTM、CoStasisTM、EvicelTM、BIOSTAT BIOLOGXTM、CryoSeal(登録商標) フィブリンシーラント、Hemaseel(R)HMNTMなどが挙げられる。
【0030】
本発明に従うVEGF含有フィブリンシーラントはまた、細胞培養、特に、ケラチノサイト培養(例えば、ヒトケラチノサイト培養)のための細胞とともに播種され得る。これら細胞培養物は、1/15〜1/20希釈物において1〜6回の間のまたは6回を超える継代を受けた患者から得られた皮膚生検に由来する初代培養物、または液体窒素中にバンクの形態で保存された細胞のいずれかであり得る。細胞は、フィーダー細胞層(例えば、致死量を照射したヒト線維芽細胞の層)の存在下で培養され得る(Limatら,1986 J Invest Dermatol.October 1986;87(4):485−8を参照のこと)。このような細胞は、コンフルエントになるまで、もしくはさらにコンフルエント未満の密度に増殖し得、トリプシン処理し得、適切な培養培地中に懸濁させ得、上記フィブリンシーラントに添加して即座にフィブリンシーラントを形成し得るか、または代わりに、上記細胞が上記フィブリンシーラント内に埋め込まれるように、上記細胞は、凝固の前に、トロンビンおよびフィブリノゲンの混合物に添加され得る。
【0031】
上記VEGF165もしくは他の脈管形成薬剤を含むフィブリンシーラントの使用は、複数の方法に適合させられ得る。例えば、一使用法によれば、上記フィブリンシーラントは、その2種の成分(トロンビン、カルシウムを含むトロンビン(calcic thrombin)およびフィブリノゲン)を培養ディッシュ中で混合することによって、フィルムの形態で調製される。次いで、フィブリンシーラントの層は、一時的な支持物(例えば、ガーゼ)のありまたはなしで完全な層として上記創傷上に配置され得る。有利なことには、このフィブリンシーラント層はまた、細胞もしくは上記創傷もしくはヒト移植片の治癒を支援する他の物質とともに播種され得る。
【0032】
本発明のフィブリンシーラントを使用するための別の方法によれば、上記支持物の2種の成分は、上記VEGF165、および後に形成される上記シーラントマトリクス内で上記創傷部位に適用されるべき任意の他の物質を組み込むような方法で混合される。この方法はまた、上記VEGF165を含むフィブリンシーラントの混合物を、1〜2.5バールの圧力で媒介ガス(vector gas)(窒素)を使用して上記創傷にスプレーすることによって、または上記フィブリンシーラントのペーストを、上記創傷に適用することによって、移植片を受け入れるように準備をした患者の創傷部位上で直接行われ得る。
【0033】
本発明に従うフィブリンシーラントを使用するためのさらなる方法によれば、上記支持物の2種の成分は、創傷に接着するために粘性の発泡体を形成するように混合される。好ましくは、得られたペーストは、生分解性かつ生体適合性である。上記ペーストは、必要とされる場合、例えば、1週間に1回、上記創傷に適用され得る。この実施形態に従う上記細胞ペーストの適用は、肉芽組織の誘導および創傷閉鎖の刺激を促進する。
【0034】
本発明の特定の実施形態において、上記支持物は、1種以上の消毒薬(好ましくは、メチレンブルー)、ならびに/もしくは抗生物質、および生物学的応答改変剤(例えば、サイトカインおよび創傷修復促進剤)から選択される1種以上の薬物をさらに含む。好ましくは、これら化合物は、フィブリン+トロンビンの乾燥総重量に関して、最大1重量%までの量で含まれる。本明細書で使用される場合、用語「生物学的応答改変剤」とは、生物学的応答(例えば、創傷修復)を、上記フィブリンシーラントの望ましい治療効果を高める様式で改変することに関与する物質をいう。適切な生物学的応答改変剤の例としては、サイトカイン、増殖因子、創傷修復促進剤などが挙げられる。
【0035】
いくつかの例において、上記VEGF165含有フィブリンシーラント内に細胞を含めることは有用であり得る。
【0036】
上記シーラントは、スプレーすることによって適用され得る。上記スプレーは、媒介ガス(例えば、1〜2.5バールの圧力の窒素)または当業者に公知の任意の他の方法を使用して、行われ得る。このスプレーは、上記シーラントに損傷を与えず、上記ポリペプチドを変性させず、そして上記混合物がスプレーされる場合、非常に薄い層が創傷上に直接形成される。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
この研究において、本発明者らは、VEGF165を添加したFSが、血管増殖を刺激し、組織壊死を低下させる効力を背側皮弁ラットモデルにおいて評価した。
【0038】
350〜450gの間の体重の30匹の健康なSprague Dawleyラット(n=10匹/群)を、自由給水および自由給餌で、平均室温18±2℃における開放収容条件(open housing conditions)でステンレス鋼のケージ中で個々に飼育した。各ラットを、イソフルランを使用して閉じ込め(box−induced)、ケタミン(60mg/kg,IM)およびキシラジン(16mg/kg,IM)を使用して麻酔下に維持した。流体置換を、リンゲル溶液の皮下注射(1ml/時間)によって行った。全身麻酔の誘導後に、各動物の背部を剃毛し除毛した。上記動物の直腸温を測定し、手術の間中ずっと、36.0〜38.0℃の間で維持した。矩形の背側筋皮弁(約10×3cm)を、鈍的切開(blunt dissection)によって頭側から尾側まで採取し、尾部側の縁に沿って接着したままにした。上記手術縁を、解剖学的標識(頭側、下部肩甲骨角(caudal scapular angle);尾側、christae腸骨棘(christae spinae illiacae))に従って選択した。皮弁を持ち上げた後、上記動物を、3群のうちの1つに無作為に割り当てた。
【0039】
コントロール群の動物を、本来の解剖学的構造かつ配向へと単純に縫合し、さらに処置は行わなかった。FS群の動物は、スプレー化FSで処置した。FS/VEGF群の動物は、(rh)VEGF165を添加したスプレー化FSで処置した。FSおよびFS/VEGFを、以下のように調製した:2.0mlの2成分FS Tisseel VH(登録商標)(Baxter AG,Austria)をこの研究において使用した;上記シーラータンパク質成分(フィブリノゲン 75〜115mg/ml)を、線維素溶解インヒビター溶液(アプロチニン 3,000KIU/ml)で再構成し、(rh)VEGF165(200ng/ml)を添加した;上記トロンビン成分(500IU/ml)を、CaCl(40μmol/ml)で再構成し、4IU/mlへと希釈した。
【0040】
上記フィブリンシーラントヒドロゲルを、スプレーデバイス(TissomatTM,Baxter AG)を使用して、0.05ml/cmにおいて上記レシピエントベッド(recipient bed)に適用した。治療的介入の後、上記皮弁を、本来の解剖学的配向へとすぐに再配置した。同時に、軽い圧力を上記皮弁に適用し、上記FSの完全な重合を可能にした。皮弁を、単純な断続的パターンにおいて4/0 非吸収性ポリエステル縫合糸を使用して、上記レシピエントベッドに縫合した。ブプレノルフィン(2.0〜2.5mg/kg,SC)を、術後痛覚脱失のために投与した。0日目、3日目、7日目、および14日目に動物に麻酔をかけて、面積測定分析を行った。上記レシピエントベッドへの皮弁接着を、14日目に肉眼で評価し、1(皮弁接着なし)から3(完全な皮弁接着)までスコア付けした。動物を、14日目にペントバルビタールの過剰用量で安楽死させ、皮弁の長さ全体の全厚サンプルを、標準的な組織学的試験および免疫組織化学のために採取した。
【0041】
(引っぱり強度)
隣り合う正常組織とともに皮弁の標本を採取し、シアノアクリレート接着剤(Indermil,Auto Suture,USA)で、アルミニウムブロックにすぐに固定した。次いで、引っぱり強度を、5mm/分の引張り負荷速度でUniversal Materials Testing Machine(InstronTM Type 4301,UK)を使用して測定して、最大負荷(ピーク時負荷[N])を決定した。
【0042】
引っぱり強度は、上記FS/VEGF処置群については、皮弁組織および隣り合う正常組織の間の接合部で最大であった(8.5±0.6N)。上記FS群および上記コントロール群における引っぱり強度は、ほぼ同一の引っぱり強度結果を有し(それぞれ、7.5±0.5N、7.3±0.4N)、上記FS/VEGF群と比較して、分散力に対する抵抗は小さかった。
【0043】
上記FS群およびFS/VEGF群における全ての近位領域は、完全な接着を有した。そして上記FS群における1つの中心部領域を除いて全てが、上記FS群およびFS/VEGF群において完全な接着を有した。10個の近位領域のうちの7個および10個の中心部領域のうちの4個のみが、上記コントロール群において完全な接着を有した。
【0044】
この研究から、インビボでの(rh)VEGF165が、血管の数および組織皮弁の生存性を贈出させることが明らかにされた。
【0045】
上記結果は、スプレー化FSマトリクスからの(rh)VEGF165の有効な放出によって、虚血性組織の臨床的改善を明らかに示す。
【0046】
臨床的効力は、FS/VEGF処置群においてより増大した生存性の皮弁面積およびより小さな収縮と同時に、組織壊死を顕著に低下させることによって明らかに実証された。
【0047】
(実施例2)
この研究において、本発明者らは、齧歯類上腹部皮弁モデルにおける組織壊死に対し、VEGF165を種々の濃度で補充した局所スプレーしたフィブリンシーラントを調査した。組織壊死を低下する効力を、デジタル写真撮影によって1週間にわたって観察し、データを、面積測定評価ソフトウェアツールによって評価した。さらに、表面の皮弁灌流に対する、FSからVEGF165を局所送達した影響を、レーザートップラー画像化を使用して試験した。
【0048】
これは、前向き無作為化比較対照前臨床試験であった。VEGFアイソフォーム165の上昇する濃度を補充したFSの効力を試験するために、上腹部筋膜筋皮弁(fasciomyocutaneous flaps)を採取し、上記レシピエントの部位に局所スプレーしたFS±VEGF165で処置した。VEGF165の4種の投与量(=試験項目)を試験した:20ng/ml 最終FSクロット、200ng/ml 最終FSクロット、400ng/ml 最終FSクロット、および800ng/ml 最終FSクロット。いかなるVEGF165も含まないFSを、参照項目として供した。
【0049】
(試験項目:)
A.0.01 ml/cmにおいてスプレーしたFS(TISSEEL VH S/D, DUO4 2成分フィブリンシーラント、急速冷凍)、以下を含む:
i.20ng VEGF165/mL 最終FSクロット
ii.200ng VEGF165/mL 最終FSクロット
iii.400ng VEGF165/mL 最終FSクロット
iv.800ng VEGF165/mL 最終FSクロット
(参照項目:)
B.0.01 ml/cmにおいてスプレーしたFS(TISSEEL VH S/D, DUO4 2成分フィブリンシーラント,急速冷凍)
(コントロール:)
C.キルティング縫合糸;上記レシピエントベッドへの皮弁接着を得るために使用した。
【0050】
(実施例3)
(インビトロフィブリンマトリクスからの(rh)VEGF165放出)
2.0mlの2成分FS Tisseel VH(登録商標)(Baxter AG,Austria)を、この研究において使用した。上記シーラータンパク質成分(フィブリノゲン 75〜115mg/ml)を、線維素溶解インヒビター溶液(アプロチニン 3,000KIU/ml)で再構成し、(rh)VEGF165(200ng/ml)を添加した。上記トロンビン成分(500IU/ml)を、CaCl(40μmol/ml)で再構成し、4IU/mlに希釈した。(18) 5個のフィブリンマトリクスを、75μlの上記シーラータンパク質および(rh)VEGF165溶液と、75μlの上記トロンビン成分とを37℃で混合することによって作製した。得られた150μl フィブリンマトリクスは、200ng/mlの(rh)VEGF165を含んだ。各フィブリンマトリクスは、500IU/mlのアプロチニンを含むPBS 1mlで個々に覆い、振盪プレート上で、37℃においてインキュベートした。1時間、24時間、46時間、88時間および97時間で、上清を回収し、新鮮なPBSおよびアプロチニンを添加した。97時間で、フィブリンマトリクスをトリプシンで溶解して、上記フィブリンマトリクスの残りの(rh)VEGF165含有量を決定した。(rh)VEGF165を、ELISAを使用して測定し(Quantikine(登録商標) Immunoassay kit,R&D,MN)、450nmで読み取った。
【0051】
(rh)VEGF165は、インキュベーションの最初の1時間内に始まって上記FSマトリクスから迅速に放出され、最初の24時間の間に維持された(図2)。放出は、24〜88時間の間にゼロへと低下した。上記FSクロットから放出された(rh)VEGF165の累積測定量は、最初の(rh)VEGF165濃度のうちの約66%であった。残りのFSマトリクスの溶解物は、残存するVEGF165を示さなかった。
【0052】
(実施例4)
(VEGF−R2発現に対するインビボでの(rh)VEGF165放出の効果)
20匹のトランスジェニックFVB/N−Tg(Vegfr2−luc)Xenマウスを使用した。これらマウスは、ホタルルシフェラーゼレポータータンパク質の発現を駆動する4.5−kb マウスVEGF−R2プロモーターフラグメントを含む導入遺伝子を有する。各マウスを、イソフルランを使用して閉じ込め、ケタミン(60mg/kg,IP)およびキシラジン(7.5mg/kg,IP)を用いて麻酔下で維持した。マウスにルシフェリンを注射し(150mg/kg,IP)、インビボ画像化システム(VivoVision(登録商標) IVIS(登録商標),Xenogen,CA)で画像化して、バックグラウンド画像シグナルを獲得した。次いで、各動物の背部を剃毛して、消毒した。各側腹部への両側の皮下トンネルを、頚部の尾側面で1cm 切開を介して鈍的に作った。処置群に応じて、各トンネルを満たしたか、または空のままにした。処置群は、(1)トンネル形成に起因するVEFG−R2の内因性発現を測定するための未処置コントロール、(2)FSに起因するVEFG−R2の発現を測定するためのFS群、および(3)(rh)VEGF165放出に起因するVEGF−R2の発現を測定するための(rh)VEGF165(200ng/ml)を含むFSであった。FSインプラントを、1本の皮下吸収性縫合糸(Vicryl 5/0,Ethicon,New Jersey)で固定して、動かないようにした。4番目の群として、全ての頸部切開について、皮膚創傷治癒の間にVEGF−R2の内因性発現を測定した。手術を受けなかった5番目の群を、蒸留水中の(rh)VEGF165(200ng/ml)の(200μl)皮内注射後に、VEGF−R2の内因性発現を測定するために使用した。シーラータンパク質およびトロンビン溶液を、先に記載されるように調製した。FS移植片を、100μlのシーラータンパク質と、100μlのトロンビンとを混合することによって、完全に重合するまで37℃において0.8cm直径、0.4cm厚のディスクへと調製した。動物1匹あたり2カ所の移植部位を、1群あたり合計10部位についてある群に無作為に割り当てた。バイオルミネッセンスシグナルを、ルシフェリンの注射後15分間計算して、VEGF−R2発現を測定した。上記バイオルミネッセンスシグナルを、Living Image Software(Xenogen)を使用して、1秒あたりの放出光子数において測定されたインビボルシフェラーゼ活性から定量した。手術前活性を100%に設定し、後の測定値は、このベースラインを参照した。バイオルミネッセンス画像を、2時間で、ならびに1日目、2日目、5日目、7日目、10日目、13日目、16日目、19日目、および22日目に回収した。バイオルミネッセンスは、VEGF−R2活性のシグナルである。
【0053】
各側腹部への両側のクロット移植のためのアクセスポイントとして供する頸部切開は、同時のVEGF−R2発現とともに、個々の内因性創傷治癒応答を構成した。関連したバイオルミネッセンス画像化は、最初の創傷治癒相(最初の2日間)においてVEGF−R2発現における急速な増加を示した。その後、上記活性における連続的低下が、13日目まで観察された(図5)。比較すると、筋膜層における鈍的トンネル形成は、発現活性に対して影響を示さなかった。上記FSクロットは、5日目にVEGF−R2発現を穏やかに増大させた。しかし、上記FSマトリクスへの(rh)VEGF165の添加は、5〜13日目の間隔におけるレセプター発現の倍加(ベースラインから200%)を生じ、その後、ほぼベースライン値に戻った。対照的に、(rh)VEGF165の皮内注射は、内因性創傷治癒と比較して、穏やかに高いレセプター活性のみを引き起こした。さらに、上記VEGF皮内注射は、元々の適用部位の周りのさらに拡がったシグナルを示した。これは、FSマトリクス移植群においては観察されなかった。この群においてそのシグナルは、上記移植部位のすぐ近くに強く限定された。
【0054】
まとめると、本発明者らは、(rh)VEGF165がフィブリンマトリクスから放出されて、血管増殖をインビボで刺激し得、虚血にさらされる皮弁生存を高め得ることを示した。面積測定分析の結果は、増強した血管密度を実証した免疫組織化学と一致する。このことは、フィブリンシーラントが、その提唱された二重の機構(新脈管形成の強力な誘導因子として作用する増殖因子VEGFの持続性局所送達と組み合わせた層状で維持された皮弁固定)によってよりよい皮弁の結果に貢献することを示す。増殖因子の持続性局所送達を、上記トランスジェニックマウスにおけるVEGF−R2発現のインビボでのアップレギュレーションによって確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織移植片の部位において新生血管形成を増大させるための方法であって、該方法は、該部位に、新脈管形成を誘導する増殖因子を含むフィブリンシーラント組成物を局所適用する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記組織移植片は、増殖因子を含むフィブリンシーラント組成物で処置されていない組織移植片と比較して、増大した生存率を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組織移植片は、増殖因子を含むフィブリンシーラント組成物で処置したことがない比較できる組織移植片より小さい収縮を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
創傷部位における組織壊死を低下させるための方法であって、該方法は、該創傷部位を、新脈管形成を誘導する増殖因子を含むフィブリンシーラント組成物と接触させる工程を包含し、ここで該創傷部位における組織壊死は、該増殖因子単独の投与と比較して、該フィブリンシーラントの存在下で低下する、方法。
【請求項5】
創傷修復を高めるための方法であって、該方法は、該創傷部位を、新脈管形成を誘導する増殖因子を含むフィブリンシーラント組成物と接触させる工程を包含する、方法。
【請求項6】
創傷部位もしくは組織移植片の部位における組織虚血を低下させるための方法であって、該方法は、該創傷部位もしくは組織移植片を、新脈管形成を誘導する増殖因子を含むフィブリンシーラント組成物と接触させる工程を包含し、ここで該創傷部位における組織壊死は、該増殖因子単独の投与と比較して、該フィブリンシーラントの存在下で低下する、方法。
【請求項7】
前記新脈管形成を誘導する増殖因子は、血管内皮増殖因子(VEGF)である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記VEGFは、組換えヒトVEGF(rhVEGF)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記VEGFは、VEGF121、VEGF145、VEGF165、VEGF183、VEGF189、VEGF206、VEGF−B、VEGF−C、VEGF−D、VEGF−E、胎盤増殖因子(PIGF)および内分泌腺由来VEGF(EG−VEGF)からなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記rhVEGFは、rhVEGF165である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記フィブリンシーラントは、
a.シーラータンパク質成分;および
b.CaCl中で再構成されたトロンビン成分;
を含むシーラントであり、
ここで該フィブリンシーラントは、該シーラータンパク質成分中もしくは該トロンビン成分中のいずれかに、前記VEGFを含む、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記方法のシーラントは、線維素溶解インヒビターをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記フィブリンシーラントは、TISSEEL VHTMおよびARTISSTMからなる群より選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記フィブリンシーラントは、シーラントスプレーとして形成される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記シーラント中の前記トロンビン成分は、0.5IU〜約1000IU/ml トロンビンの間である、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
創傷治癒もしくは組織修復における使用のためのキットであって、該キットは、
a.組織シーラントのシーラータンパク質成分;
b.必要に応じて含有する、線維素溶解インヒビター成分;
c.CaCl中で再構成されたトロンビン成分;および
d.VEGF成分
を含む、キット。
【請求項17】
皮膚移植片を癒合するための組成物であって、トロンビン、フィブリノゲン、線維素溶解インヒビターおよびVEGF165を含む、組成物。
【請求項18】
前記フィブリノゲンの濃度は、10〜250mg/mlの間である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記トロンビンの濃度は、約1.0U/ml〜約1000U/mlの間である、請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
前記トロンビンの濃度は、4IU/mlもしくは500IUであり、前記フィブリノゲンの濃度は、約75〜約150mg/mlの間である、請求項17に記載の組成物。
【請求項21】
前記線維素溶解インヒビターは、アプロチニンである、請求項17に記載の組成物。
【請求項22】
前記アプロチニンの濃度は、約1,000KIU/ml〜約10,000KIU/mlの間である、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記アプロチニンの濃度は、約3000KIU/mlである、請求項21に記載の組成物。
【請求項24】
ポリペプチド増殖因子、サイトカイン、酵素、ホルモン、抗生物質、プロテアーゼインヒビター、および抗真菌剤、もしくはこれらの組み合わせからなる群より選択される1種以上の分子をさらに含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項25】
フィブリンシーラントを調製する工程を包含する創傷を処置するための方法であって、該方法は、a)等容積のフィブリノゲンを含む第1の溶液およびCaCl中で再構成されたトロンビンを含む第2の溶液を混合する工程であって、ここで該トロンビンの濃度は、約1.0U/ml〜約1000U/mlの間であり;そしてここで該第1の溶液および/もしくは該溶液は、VEGF165をさらに含む、工程、b)該混合物を創傷表面に分布させて、それによりフィブリンシーラントが該創傷上に形成される工程、を包含する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−520985(P2011−520985A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510723(P2011−510723)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/044986
【国際公開番号】WO2009/143429
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】