説明

組電池状態測定装置、組電池劣化判定方法および組電池劣化判定プログラム

【課題】非常用電源設備として用いられる組電池の劣化の判定精度を確保しつつ、組電池の劣化を簡易に判定できるようにする。
【解決手段】組電池状態測定装置7は、組電池3の放電検出後に所定時間ごとに組電池3を構成する各単位電池の電圧を周期的に計測し、放電時の組電池3の中の各単位電池の同時刻における最大電圧と最小電圧を検出し、各単位電池の最大電圧と最小電圧との差分に基づいて組電池3の劣化状態を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組電池状態測定装置、組電池劣化判定方法および組電池劣化判定プログラムに関し、特に、非常用電源設備として用いられる組電池の劣化判定方法に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は単位電池(セル)当たりの起電力が制限されることから所定の電圧が得られるように、例えば、24セルや48セル分の単位電池を組電池として構成して運用することが一般的に行われている。また、必要な容量が得られるようにするために、単位電池を並列に接続して用いられることもある。すなわち、組電池は、用途に応じた容量および電圧を確保するために、複数の単位電池を直並列に接続して構成される。
【0003】
その際、鉛蓄電池には寿命があることから組電池にも寿命があり、組電池の経済性および信頼性の面から組電池の寿命を正確に判定し、組電池の交換時期を的確に把握できるようにする方法が望まれている。
組電池の劣化形態としては、組電池全体でほぼ均一に劣化が進行する場合もあるが、組電池を構成する一部の単位電池の劣化に起因する場合もある。組電池を構成する一部の単位電池の劣化の原因としては、組電池を構成する単位電池間の製造バラツキに起因する初期からの特性差、あるいは運用中の温度差などの環境条件に起因する劣化の進行の違いなどが考えられる。さらに、この組電池を構成する単位電池間の劣化のバラツキは運用時間の延長とともに拡大していく。
【0004】
そして、組電池として運用される際には、これらの単位電池の特性の低下が組電池としての特性の低下を引き起こす。特に、劣化が進行した単位電池があると、その単位電池の放電時の電圧の低下が激しくなり、組電池の総電圧の低下を加速し、組電池に対する性能の要求を果たせなくなることから、組電池としての放電時間の短縮を招くようになる。
ここで、例えば、特許文献1には、車両走行時などの組電池の通常の使用中に組電池を構成する単位電池の異常を検出できるようにするため、所定電力放電時の電圧変化を測定し、この時の放電挙動を調べることにより、セルの異常を診断する方法が開示されている。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、鉛蓄電池の劣化状態の検知や容量の推定を精度よく行えるようにするために、1〜1000Hzのいずれかの周波数の交流電源にて鉛蓄電池の交流インピーダンスを測定する方法が開示されている。
また、例えば、特許文献3には、多数セルからなる組電池の1セルごとの電圧を計測し、計測した電圧の最大値と最小値の差分を所定値と比較することで、鉛蓄電池の寿命を判定する方法が開示されている。
【特許文献1】特許第3559900号公報
【特許文献2】特開平5−281310号公報
【特許文献3】実開昭59−158276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、電気自動車のように頻繁に充放電を繰り返すような用途に用いられるため、個々の単位電池の挙動を解析するための処理が煩雑化し、処理に時間を要するとともに装置が複雑化し、非常用電源設備のように定常時充電状態であるような組電池の劣化判定方法には適さないという問題があった。
また、特許文献2に開示された方法では、頻繁に充放電を繰り返すような運用条件では、鉛蓄電池の交流インピーダンスの変化が小さく、組電池の劣化を精度よく判定することができないという問題があった。特に、鉄道用非常用電源などのように計画的に停電が頻繁に繰り返されるような用途には組電池の劣化を正確に判定することができなかった。
【0007】
また、特許文献3に開示された方法では、1セルごとの電圧の測定時に鉛蓄電池が充電器から常に充電されるとともに、鉛蓄電池を放電させることなく1セルごとの電圧の測定が行われる。このため、単位電池に異常がある場合においても、個々の単位電池の電圧が充電器の出力電圧によって規定され、個々の単位電池の電圧異常を精度よく検出することができなくなることから、組電池の劣化を精度よく判定することができないという問題があった。
そこで、本発明の目的は、非常用電源設備として用いられる組電池の劣化の判定精度を確保しつつ、組電池の劣化を簡易に判定することが可能な組電池状態測定装置、組電池劣化判定方法および組電池劣化判定プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、請求項1記載の組電池状態測定装置によれば、非常用電源設備として用いられる組電池を構成する各単位電池の放電時の電圧の最大値と最小値を検出する最大値/最小値検出手段と、前記単位電池の電圧の最大値と最小値との差分を算出する差分算出手段と、前記単位電池の電圧の最大値と最小値との差分をしきい値と比較する比較手段と、前記比較手段による比較結果に基づいて前記組電池の劣化状態を判定する組電池状態判定手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
これにより、充電器の出力電圧の影響を受けることなく、各単位電池の放電時の電圧を検出することが可能となり、個々の単位電池の電圧異常を精度よく検出することが可能となるとともに、単位電池の電圧の最大値と最小値との差分を算出することで、非常用電源設備として用いられる組電池の劣化を判定することが可能となる。このため、非常用電源設備として用いられる組電池の劣化の判定精度を確保しつつ、組電池の劣化を簡易に判定することが可能となり、装置構成の簡略化を図りつつ、非常用電源設備のように定常時充電状態であるような組電池の劣化判定を有効に行うことが可能となる。
【0010】
また、請求項2記載の組電池劣化判定方法によれば、非常用電源設備として用いられる組電池を負荷に接続したまま前記組電池と充電器とを電気的に遮断するステップと、前記充電器と電気的に遮断された状態で前記組電池を構成する各単位電池の放電時の電圧の最大値と最小値を検出するステップと、前記単位電池の電圧の最大値と最小値との差分を算出するステップと、前記単位電池の電圧の最大値と最小値との差分をしきい値と比較するステップと、前記比較手段による比較結果に基づいて前記組電池の劣化状態を判定するステップとを備えることを特徴とする。
【0011】
これにより、組電池を負荷に接続したまま各単位電池の電圧を計測することが可能となり、組電池の実際の運用時における各単位電池の放電時の電圧を検出することが可能となるとともに、充電器の出力電圧の影響を受けることなく、各単位電池の放電時の電圧を検出することが可能となる。このため、個々の単位電池の電圧異常を精度よく検出することが可能となるとともに、単位電池の電圧の最大値と最小値との差分を算出することで、非常用電源設備として用いられる組電池の劣化を判定することが可能となり、非常用電源設備として用いられる組電池の劣化の判定精度を確保しつつ、組電池の劣化を簡易に判定することが可能となる。
【0012】
また、請求項3記載の組電池劣化判定方法によれば、前記組電池の劣化状態の判定基準となるしきい値を設備運転条件から設定することを特徴とする。
これにより、組電池の放電時間や負荷電流などに応じて組電池の劣化状態を判定することが可能となり、設備容量や運転条件に合わせながら組電池の交換時期を柔軟に設定することが可能となる。
【0013】
また、請求項4記載の組電池劣化判定方法によれば、前記最大値と最小値との差分がしきい値より大きな値を有する単位電池の個数に基づいて前記組電池の健全性を判定することを特徴とする。
これにより、組電池の劣化が組電池全体の平均的な劣化に起因するものであるのか、組電池を構成する個々の単位電池の劣化に起因するものであるのかを判断することができ、単位電池の部分交換や全数交換などの対策を決定する際の判断材料とすることが可能となる。
【0014】
また、請求項5記載の組電池劣化判定プログラムによれば、非常用電源設備として用いられる組電池を負荷に接続したまま前記組電池と充電器とを電気的に遮断させるステップと、前記充電器と電気的に遮断された状態で前記組電池を構成する各単位電池の放電時の電圧の最大値と最小値を検出するステップと、前記単位電池の電圧の最大値と最小値との差分を算出するステップと、前記単位電池の電圧の最大値と最小値との差分をしきい値と比較するステップと、前記比較手段による比較結果に基づいて前記組電池の劣化状態を判定するステップとをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0015】
これにより、組電池劣化判定プログラムをコンピュータに実行させることで、非常用電源設備として用いられる組電池の劣化の判定精度を確保しつつ、組電池の劣化を簡易に判定することが可能となる。このため、非常用電源設備が長期に渡って運用される場合においても、ハードウェア構成の簡略化を図りつつ、非常用電源設備のように定常時充電状態であるような組電池の劣化判定を有効に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、充電器の出力電圧の影響を受けることなく、各単位電池の放電時の電圧を検出することが可能となり、個々の単位電池の電圧異常を精度よく検出することが可能となるとともに、単位電池の電圧の最大値と最小値との差分を算出することで、非常用電源設備として用いられる組電池の劣化を判定することが可能となり、非常用電源設備として用いられる組電池の劣化の判定精度を確保しつつ、組電池の劣化を簡易に判定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る組電池状態測定装置および組電池劣化判定方法について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る組電池状態測定装置が用いられる組電池のシステムの概略構成を示すブロック図である。
図1において、電力系統1は、100Vまたは200Vの交流電圧を供給することができる。また、充電器2は、組電池3の充電時に組電池3に接続され、電力系統1から供給される交流電圧を直流電圧に変換してから組電池3に出力することができる。また、組電池3は、インバータ4を介して交流負荷5に接続されるとともに、直流負荷6に直接接続される。なお、組電池3は、鉄道用非常用電源などのように計画的に停電が頻繁に繰り返されるような非常用電源設備として用いることができる。
【0018】
ここで、組電池3は、組電池3の劣化状態を判定する組電池状態測定装置7に常時接続されている。そして、組電池状態測定装置7は、組電池3の放電検出後に組電池3を構成する各単位電池の電圧を所定時間ごとに周期的に計測し、放電時の組電池3の中の各単位電池の同時刻における最大電圧と最小電圧を検出することができる。そして、各単位電池の最大電圧と最小電圧との差分に基づいて組電池3の劣化状態を判定することができる。なお、組電池3の放電の検出方法としては、組電池3の電圧が設定値になったかどうかを検出する方法、あるいは放電電流を検出する方法などがある。
【0019】
図2は、図1の組電池状態測定装置7の概略構成を示すブロック図である。
図2において、組電池3には、単位電池3a〜3c・・・が設けられている。ここで、単位電池3a〜3c・・・は、組電池3の用途に応じた容量および電圧を確保するために、例えば、24セルや48セル分の単位電池3a〜3c・・・を直並列に接続して構成することができる。
【0020】
一方、組電池状態測定装置7には、組電池3を構成する各単位電池3a〜3c・・・の放電時の電圧を計測する電圧計Va、Vb・・・が設けられるとともに、各単位電池3a〜3c・・・の放電時の電圧を収集するデータ収集部11、データ収集部11にて収集された電圧を記憶する内部メモリ12および各単位電池3a〜3c・・・の放電時の電圧の計測結果に基づいて組電池3の劣化状態を判定する演算機能13が設けられている。
【0021】
ここで、演算機能13には、組電池3を構成する各単位電池3a〜3c・・・の放電時の電圧の最大値と最小値を検出する最大値/最小値算出手段13a、単位電池3a〜3c・・・の電圧の最大値と最小値との差分を算出する差分算出手段13b、単位電池3a〜3c・・・の電圧の最大値と最小値との差分をしきい値と比較する比較手段13cおよび比較手段13cによる比較結果に基づいて組電池3の劣化状態を判定する組電池状態判定手段13dが設けられている。
【0022】
そして、図1の電力系統1が正常に稼動している場合には、図1の交流負荷5または直流負荷6には電力系統1から電力が供給され、交流負荷5または直流負荷6の作動が行われる。そして、電力系統1が停電状態になると、組電池3と充電器2とが電気的に遮断されるとともに、交流負荷5または直流負荷6には組電池3から電力が供給されながら、交流負荷5または直流負荷6の作動が行われる。
【0023】
そして、組電池状態測定装置7は組電池3の放電を検出すると、データ収集部11は、各単位電池3a〜3c・・・の放電時の電圧を電圧計Va、Vb・・・を介して収集し、内部メモリ12に記憶する。そして、データ収集部11にて収集されたデータが内部メモリ12に記憶されると、各単位電池3a〜3c・・・の放電時の電圧の最大値と最小値が最大値/最小値算出手段13aにて検出される。そして、各単位電池3a〜3c・・・の放電時の電圧の最大値と最小値が検出されると、単位電池3a〜3c・・・の電圧の最大値と最小値との差分が差分算出手段13bにて算出される。そして、単位電池3a〜3c・・・の電圧の最大値と最小値との差分が差分算出手段13bにて算出されると、単位電池3a〜3c・・・の電圧の最大値と最小値との差分が比較手段13cにしきい値と比較され、組電池状態判定手段13dは、比較手段13cにおける比較結果に基づいて組電池3の劣化状態を判定する。
【0024】
これにより、充電器2の出力電圧の影響を受けることなく、各単位電池3a〜3c・・・の放電時の電圧を検出することが可能となり、個々の単位電池3a〜3c・・・の電圧異常を精度よく検出することが可能となるとともに、単位電池3a〜3c・・・の電圧の最大値と最小値との差分を算出することで、非常用電源設備として用いられる組電池3の劣化を判定することが可能となる。このため、非常用電源設備として用いられる組電池3の劣化の判定精度を確保しつつ、組電池3の劣化を簡易に判定することが可能となり、装置構成の簡略化を図りつつ、非常用電源設備のように定常時充電状態であるような組電池3の劣化判定を有効に行うことが可能となる。
【0025】
なお、最大値/最小値算出手段13a、差分算出手段13b、比較手段13cおよび組電池状態判定手段13dは、これらのブロックで行われる処理を遂行させる命令が記述されたプログラムをコンピュータに実行させることにより実現することができる。
そして、このプログラムをCD−ROMなどの記憶媒体に記憶しておけば、コンピュータに記憶媒体を装着し、そのプログラムをコンピュータにインストールすることにより、最大値/最小値算出手段13a、差分算出手段13b、比較手段13cおよび組電池状態判定手段13dで行われる処理を実現することができる。また、このプログラムをインターネットやLANなどの通信網を介してダウンロードすることにより、このプログラムを容易に普及させることができる。
【0026】
また、最大値/最小値算出手段13a、差分算出手段13b、比較手段13cおよび組電池状態判定手段13dで行われる処理を遂行させる命令が記述されたプログラムをコンピュータに実行させる場合、スタンドアロン型コンピュータで実行させるようにしてもよく、ネットワークに接続された複数のコンピュータに分散処理させるようにしてもよい。
【0027】
図3は、図1の組電池状態測定装置の組電池劣化判定方法を示す図である。
図3において、組電池3の放電開始後の放電時間Tの経過に伴って、組電池3を構成する各単位電池3a〜3c・・・間の電圧のバラツキ幅が拡大することが知られている。このため、各単位電池3a〜3c・・・間の電圧のバラツキ幅を比較することにより、組電池3の劣化状態を判定することができる。なお、各単位電池3a〜3c・・・間の電圧のバラツキ幅の許容値は、組電池3を構成する単位電池3a〜3c・・・の数や種類や容量などによって決定されるため、非常用電源設備に固有と値となる。
【0028】
具体的には、図2のデータ収集部11は、組電池3の放電検出後に所定時間ごとに組電池3を構成する各単位電池3a〜3c・・・のセル電圧Vを周期的に収集し、最大値/最小値算出手段13aは、放電時の組電池3の中の各単位電池3a〜3c・・・の設定時刻T1における最大電圧Vmaxと最小電圧Vminを検出する。そして、差分算出手段13bは、各単位電池3a〜3c・・・の最大電圧Vmaxと最小電圧Vminとの差分ΔVn=(Vmax−Vmin)を算出し、比較手段13cは、最大電圧Vmaxと最小電圧Vminとの差分ΔVnをしきい値Vsと比較する。そして、組電池状態判定手段13dは、ΔVn>Vsの関係をみたす場合、組電池3が劣化していると判定し、ΔVn≦の関係をみたす場合、組電池3は正常であると判定することができる。
【0029】
また、組電池状態判定手段13dは、最大値と最小値との差分ΔVがしきい値より大きな値を有する単位電池3a〜3c・・・の個数に基づいて組電池3の健全性を判定することができ、差分ΔVがしきい値より大きな値を有する単位電池3a〜3c・・・の個数の全体に占める割合が所定値以上になった場合、組電池3全体が劣化していると判定することもできる。これにより、組電池3の劣化が組電池3全体の平均的な劣化に起因するものであるのか、組電池3を構成する個々の単位電池3a〜3c・・・の劣化に起因するものであるのかを判断することができ、単位電池3a〜3c・・・の部分交換や全数交換などの対策を決定する際の判断材料とすることが可能となる。
なお、組電池3の劣化状態の判定基準となるしきい値は設備運転条件から設定することができる。これにより、組電池3の放電時間や負荷電流などに応じて組電池3の劣化状態を判定することが可能となり、設備容量や運転条件に合わせながら組電池3の交換時期を柔軟に設定することが可能となる。
【0030】
また、定期点検時などに行われる放電試験などの機会を活用し、組電池3の各放電ごとの差分ΔVnのみを内部メモリ12に保存し、次回の放電時に差分ΔVnをしきい値Vsと比較することにより、組電池3の劣化の進行状況を判定するようにしてもよい。また、必要に応じて各単位電池3a〜3c・・・のセル電圧Vの温度補正を行うようにしてもよい。また、各単位電池3a〜3c・・・の内部抵抗の計測と組み合わせ、各単位電池3a〜3c・・・の内部抵抗の変化と連動させて放電試験を自動的に行えるようにしてもよい。これにより、各単位電池3a〜3c・・・の内部抵抗の変化による組電池3の劣化の予兆検知と合わせてより精度の高い劣化判定を実現することができる。
【0031】
また、組電池3の劣化の判定結果を表示し、組電池3の劣化に対する対応策を指示することにより、組電池3の劣化に対処できるようにしてもよい。
このように、組電池3の放電時の各単位電池3a〜3c・・・間の電位差を活用することにより、制御弁式鉛蓄電池のように電解液量が限定される蓄電池の他、電解液量が豊富や液式鉛蓄電池やアルカリ蓄電池などのように抵抗値の変化が小さな蓄電池や、頻繁に放電を繰り返すような用途に用いられる蓄電池の劣化を精度よく検出することが可能となる。
【0032】
さらに、各単位電池3a〜3c・・・の最大電圧Vmaxと最小電圧Vminとの差分ΔVnのみを算出すればよく、少ないデータ数で組電池3の劣化を判定することが可能となることから、内部メモリ12の容量を小さくすることができ、組電池3の全寿命期間における長期間の運用においても、設備にかかるコストを抑制することが可能となるとともに、組電池3の劣化判定に必要な演算量も少なくすることができ、判定時間を短縮することができる。
【0033】
図4は、図1の組電池状態測定装置の組電池劣化判定方法を示すフローチャートである。
図4において、組電池状態測定装置7は組電池3の放電を検出すると(ステップS1)、データ収集部11は、各単位電池3a〜3c・・・の放電時の電圧を電圧計Va、Vb・・・を介して収集し、内部メモリ12に記憶する(ステップS2)。そして、最大値/最小値算出手段13aは所定時間の経過を待って(ステップS3)、各単位電池3a〜3c・・・の放電時の電圧を比較することにより、各単位電池3a〜3c・・・の同時刻における最大電圧Vmaxと最小電圧Vminを検出する(ステップS4)。なお、組電池3が非常用電源設備として用いられる場合、機器容量や負荷条件にはほとんど変動がないため、所定時間の経過後の値を最終的に比較値として用いることができる。そして、差分算出手段13bは、各単位電池3a〜3c・・・の最大電圧Vmaxと最小電圧Vminとの差分ΔVnを算出し(ステップS5)、比較手段13cは、最大電圧Vmaxと最小電圧Vminとの差分ΔVnをしきい値Vsと比較する(ステップS6)。そして、組電池状態判定手段13dは、ΔVn>Vsの関係をみたす場合、組電池3が劣化していると判定し(ステップS7)、ΔVn≦Vsの関係をみたす場合、ステップS1に戻って以上の処理を繰り返す。
【実施例】
【0034】
容量200Ah・2Vの液式鉛蓄電池24個を直列に接続し、48Vの直流電源装置を組電池として構成した。この直流電源装置は基本的には非常用電源として構成されるが、この直流電源装置が設置される環境では、他の設備の点検あるいは直流電源装置の点検のために頻繁に計画停電があり、放電回数が多い環境に設置される。
この直流電源装置を構成する各単位電池には電圧測定器が設置され、各単位電池のセル電圧が周期的に測定される。そして、この測定されたセル電圧がデータ収集装置に集積され、通常時は1日のうちの所定時刻に1日分のデータが平均化され、この平均値を当日の電圧データとして保存される。また、組電池の総電圧も同様に処理される。
【0035】
このデータ収集装置には電圧比較回路が内蔵され、電圧比較回路は、組電池の総電圧または各単位電池のセル電圧が設定値以下(例えば、2.1V/セル以下)となった段階で、直流電源装置の放電開始と判断することができる。また、放電開始後に組電池の総電圧または各単位電池のセル電圧が設定値以上(例えば、2.05V/セル以上)となった時点で放電完了と判断することができる。
【0036】
そして、データ収集装置は、直流電源装置の放電開始を検出した時点で、各単位電池の放電電圧を一定時間ごと(たとえば、1分ごと)に測定し、これら一連の測定値の中から最大値および最小値を検出し、最大値と最小値の差分を算出する。なお、この最大値と最小値の差分は、各測定時間に関連付けられて保存される。そして、直流電源装置の放電開始から10分後の放電電圧の差分を、直流電源装置の運用開始後の定期検査の時に測定した。この時の測定結果と運用開始後の経過年数との関係を図5に示す。
【0037】
図5において、5年目までは各単位電池の放電電圧の最大値と最小値の差分は10mV以下と小さく、組電池としての健全性が維持されていることが判る。また、この段階までに停電による非常用発電設備の作動もあったが、問題なく動作することも確認できた。
その後の時間の経過に伴って、各単位電池の放電電圧の最大値と最小値の差分の急速な増大が確認され、8年目には49mVまで増大した。この段階で、この設備のしきい値である50mVに近づいていることが確認されたため、実負荷試験運転を手動にて実施した。この結果、直流電源装置の放電持続時間が設計値の1時間に対して1時間2分程度あり、設計値とほぼ同じであることを確認した。ここで、各単位電池の放電電圧の最大値と最小値の差分がこれ以上拡大すると、直流電源装置の放電持続時間が設計値を満足できない状況となると判断されるため、直流電源装置の交換時期と判定した。
【0038】
また、この直流電源装置に内部抵抗測定装置も取り付け、各単位電池の内部抵抗も測定し、図6に示すように、直流電源装置の運用開始後の経過年数と内部抵抗の最大値および最小値の変化の関係を調べた。この結果、直流電源装置の運用年数が経過しても、内部抵抗の変化は非常に小さく、直流電源装置の劣化の予兆を検出できるレベルにないことが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態に係る組電池状態測定装置が用いられる組電池のシステムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1の組電池状態測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】図1の組電池状態測定装置の組電池劣化判定方法を示す図である。
【図4】図1の組電池状態測定装置の組電池劣化判定方法を示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態に係る組電池の経過年数と電圧バラツキとの関係を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る組電池の経過年数と内部抵抗の変化との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 電力系統
2 充電器
3 組電池
4 インバータ
5 交流負荷
6 直流負荷
7 組電池状態測定装置
3a〜3c 単位電池
Va、Vb 電圧計
11 データ収集部
12 内部メモリ
13 演算機能
13a 最大値/最小値検出手段
13b 差分算出手段
13c 比較手段
13d 組電池状態判定手段
14 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非常用電源設備として用いられる組電池を構成する各単位電池の放電時の電圧の最大値と最小値を検出する最大値/最小値検出手段と、
前記単位電池の電圧の最大値と最小値との差分を算出する差分算出手段と、
前記単位電池の電圧の最大値と最小値との差分をしきい値と比較する比較手段と、
前記比較手段による比較結果に基づいて前記組電池の劣化状態を判定する組電池状態判定手段とを備えることを特徴とする組電池状態測定装置。
【請求項2】
非常用電源設備として用いられる組電池を負荷に接続したまま前記組電池と充電器とを電気的に遮断するステップと、
前記充電器と電気的に遮断された状態で前記組電池を構成する各単位電池の放電時の電圧の最大値と最小値を検出するステップと、
前記単位電池の電圧の最大値と最小値との差分を算出するステップと、
前記単位電池の電圧の最大値と最小値との差分をしきい値と比較するステップと、
前記比較手段による比較結果に基づいて前記組電池の劣化状態を判定するステップとを備えることを特徴とする組電池劣化判定方法。
【請求項3】
前記組電池の劣化状態の判定基準となるしきい値を設備運転条件から設定することを特徴とする請求項2記載の組電池劣化判定方法。
【請求項4】
前記最大値と最小値との差分がしきい値より大きな値を有する単位電池の個数に基づいて前記組電池の健全性を判定することを特徴とする請求項2または3記載の組電池劣化判定方法。
【請求項5】
非常用電源設備として用いられる組電池を負荷に接続したまま前記組電池と充電器とを電気的に遮断させるステップと、
前記充電器と電気的に遮断された状態で前記組電池を構成する各単位電池の放電時の電圧の最大値と最小値を検出するステップと、
前記単位電池の電圧の最大値と最小値との差分を算出するステップと、
前記単位電池の電圧の最大値と最小値との差分をしきい値と比較するステップと、
前記比較手段による比較結果に基づいて前記組電池の劣化状態を判定するステップとをコンピュータに実行させることを特徴とする組電池劣化判定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−311255(P2007−311255A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140587(P2006−140587)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】