説明

経中隔針アセンブリ及び方法

本発明は、右心房(48)から心房中隔(50)を横通することにより左心房(52)に到達するための経中隔アクセスシステム及び方法に関する。特に本発明は、経中隔穿刺が要求される心臓学的な手技においてカテーテルアセンブリと共に使用される医療器具を対象とする。穿刺アセンブリ(例えば、10)は拡張器(例えば、16)内に可動穿刺器具(例えば、14)を有する。穿刺器具は格納位置に付勢されている。穿刺アセンブリの位置は正確に配置可能である。穿刺アセンブリは好ましくはその長さの大部分に沿って可撓性を有し、従って任意の所定形状の任意のカテーテルアセンブリと共に使用できる。穿刺器具は経中隔手技での使用に必要な場合には、拡張器内の位置から拡張器の端部を越えて伸展する位置まで調節可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2006年5月17日出願の米国仮特許出願第60/800,853号明細書(第‘853号出願)に対する優先権を主張する。本出願はまた、現在係属中の2006年12月29日出願の米国特許出願第11/647,312号明細書(第‘312号出願)に対する優先権も主張する。第‘853号出願及び第‘312号出願は、双方とも本明細書に完全に記載されたかのように本明細書によって全体として参照により援用される。
【0002】
(技術分野)
本発明は、体内組織を穿刺又は刺通するための針アセンブリ及び方法に関し、例えば、右心房から心房中隔を横通することにより左心房に到達するための経中隔的なアクセスシステム及び方法を含む。特に、本発明の実施形態は、経中隔穿刺が要求される心臓学的な手技においてカテーテルアセンブリと共に使用される医療器具を対象とする。穿刺アセンブリは、拡張器内で格納位置に付勢されている可動穿刺器具を有し、この器具の位置は正確に配置可能である。穿刺アセンブリは好ましくはアセンブリの長さの大部分に沿って可撓性を有し、従って任意の所定形状の任意のカテーテルアセンブリと共に使用でき、且つ経中隔手技での使用に必要な場合には、シャフト内の所定位置から拡張器の端部を越えて伸展する位置まで調節可能である。
【0003】
穿刺器具は好ましくは、拡張器のルーメン内に置かれるとき、軸方向には可撓性を有するが、長手方向には剛性である。安全機構、例えば、ばね付勢部材、クリップスペーサー、又は同様の係止機構がアセンブリの近位端、好ましくは操作可能ハンドル内に位置し、使用者の積極的行動があるときのみ、穿刺アセンブリを拡張器の遠位先端を越えて伸展させる。使用者のかけていた力が取り除かれると、穿刺アセンブリは自動的に後退して拡張器内の初期位置に戻る。従って、中隔を穿刺する目的で使用されていないとき、穿刺器具は拡張器内に維持され、ひいては経中隔手技の安全性が増す。
【背景技術】
【0004】
ヒト心臓は、右心室、右心房、左心室、及び左心房を含む。右心房は上大静脈及び下大静脈と流体連通している。三尖弁が右心房を右心室と隔てている。右心房は中隔により左心房と隔てられ、中隔は卵円窩として知られる薄い膜を含む。
【0005】
多種多様な診断用及び治療用手技が開発されており、そこではカテーテルがルーメンを介してガイドシース内を、又はガイドワイヤ越しに様々な室腔へと前進し、心臓弁を横通する。カテーテルで到達することが最も困難な心室腔は左心房である。肺動脈を通じては左心房に到達できない。左心室から接近するのは困難であり、不整脈を引き起こす恐れがあるとともに、安定したカテーテルの配置を得るうえで困難を呈し得る。結果として、許容可能な左心房への到達方法の1つは、大腿静脈又は左鎖骨下静脈を通じて右心房に至り、続いて心房中隔、卵円窩を貫通することにより左心房に侵入するカテーテル法を伴うものである。この手技は一般に経中隔カテーテル法と称される。
【0006】
左心房に到達する目的は、診断上のものであったり、又は治療上のものであったりし得る。一治療用途は電気生理学的介入、例えば左心房の切除である。カテーテルアブレーションは、カテーテルを通じた心臓の様々な部位へのエネルギー(典型的にはRF)の印加を伴い、心臓機能に影響を及ぼしている不適当な電気経路を根絶する。これらの部位が左心房にある場合、RFエネルギーを印加するためのカテーテルは典型的にはそれ自体が経中隔カテーテル法を通じて留置される。
【0007】
左心房に到達することが要求される多種多様な手技が臨床的に認められているにも関わらず、実際の到達技法には依然として大幅な改善の余地が残されている。通常の心臓カテーテル法に付随するリスクに加え、経中隔カテーテル法には数多くのリスクが内在している。例えば、存在する主なリスクは、典型的には拡張器の外部に露出した穿刺器具、例えば針及び/又はスタイレットを有する公知の経中隔器具の使用に起因する。穿刺器具が露出されているという性質から、挿入中にガイドシース内での予期せぬ穿刺のリスクが増加し、器具を中隔の然るべき箇所に至らせるための操縦性に悪影響が及ぶため、心内でのアセンブリの調節は困難となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
公知の穿刺アセンブリは典型的には、穿刺アセンブリの遠位部が拡張器の遠位部から露出している。この構成は上記で考察される穿刺リスクをもたらす。穿刺アセンブリを拡張器内に保持する機構を備える他のアセンブリは、アセンブリの遠位先端に付勢機構を配置する。この機構が遠位先端に配置されることにより、操作中の機構の可撓性及び操縦性に関してさらなる問題が提起される。従って、アセンブリが中隔の穿刺箇所に配置されるまで穿刺器具が拡張器内の実質的に固定された位置に安全に維持され、さらにアセンブリの近位端に位置する変位機構を有する穿刺アセンブリを提供する必要がある。かかる構造の改良により、経中隔医療器具の全体的な機能性及び安全性が大幅に向上する。この改良型構造及び関連する方法の実施形態の詳細は、以下でさらに詳しく記載される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、向上した安全性及び操縦性の特徴を有する経中隔医療器具及び方法を提供する。
【0010】
本発明の一実施形態に従えば、近位端及び遠位端を有する細長チューブ状部材、例えば拡張器と、拡張器内に配置される穿刺器具と、穿刺器具の近位端で穿刺器具と操作可能に連結される変位機構とを備える経中隔医療器具が提供され、ここで変位機構に力がかけられると、変位機構は穿刺器具の遠位部を拡張器内の初期位置から拡張器外部の位置まで前進させることができる。変位機構から力が取り除かれると、穿刺器具の遠位部は拡張器内の初期位置まで後退する。好ましくは、変位機構は穿刺器具又は拡張器と操作可能に連結され、従って変位機構を操作すると拡張器が変位機構の近位端の方向に動くか、又は穿刺器具がアセンブリの遠位端の方向に動く。
【0011】
穿刺器具の長さは拡張器の長さと実質的に同等か、又は拡張器の長さより実質的に短く、それでもなお拡張器外部の位置まで変位機構により伸展することが可能な長さであってもよい。
【0012】
穿刺器具は、可撓性ポリマー、可撓性金属、又は当業者に周知の任意の類似材料から構成されてもよい。本発明の穿刺アセンブリは大部分が可撓性であってもよく、針、又は湾曲した針から構成され得る。穿刺器具はさらに、穿刺アセンブリの遠位部及び/又は穿刺器具の近位部に位置する少なくとも1つの剛性部分を備えてもよく、さらにアセンブリの遠位部と近位部との中間に可撓性部分を有してもよい。
【0013】
医療器具の変位機構はさらに、穿刺アセンブリと操作可能に連結される安全機構、例えば、スプリング、クリップ、又は係止機構を備えてもよい。好ましくは安全機構は、機構が非付勢位置又は係止位置にあるとき、穿刺アセンブリを拡張器内に保持する。
【0014】
経中隔医療器具の拡張器はさらに拡張器遠位端と拡張器近位端とを含んでもよく、拡張器遠位端の断面積は拡張器近位端の断面積より小さい。
【0015】
本発明の実施形態はさらに患者の心臓の中隔を穿刺するための方法を企図し、以下のステップ、すなわち、拡張器内に収容されている穿刺アセンブリを中隔の標的領域に近接する心臓の領域内に導入するステップ、穿刺アセンブリを中隔の標的領域に近接する前記拡張器外部の位置に伸展させるステップ、中隔の標的領域を穿刺するステップ、及び穿刺アセンブリを拡張器内の位置に後退させるステップを含む。本方法は、穿刺アセンブリを後退させる前に中隔の標的領域を通じて拡張器を前進させるステップをさらに含んでもよく、穿刺アセンブリを後退させた後に中隔の標的領域を通じて拡張器を前進させるステップをさらに含んでもよい。
【0016】
さらに企図される方法としては、伸展可能な経中隔医療器具を作製するための方法が挙げられ、以下のステップ、すなわち、内部ルーメンを有する拡張器を提供するステップ、穿刺器具と拡張器の内部ルーメン内で穿刺器具に装着される可撓部とを有する穿刺アセンブリを提供するステップ、及び変位機構を穿刺アセンブリと操作可能に連結して、変位機構に力がかかると穿刺アセンブリが拡張器内の第1の位置から拡張器の遠位端外部の第2の位置まで伸展され、変位機構から力が取り除かれると穿刺アセンブリが第1の位置に自動的に後退するようにするステップを含む。
【0017】
本発明の前述された、及び他の態様、特徴、詳細、有用性、及び利点は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲を読み、添付の図面を検討することにより明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る経中隔医療器具を図示し、これは経中隔穿刺手技用に構成された外側シース、外側シース内に細長チューブ状部材、及び細長チューブ状部材内に穿刺器具を有する。本医療器具はさらに、器具の近位端に穿刺器具と操作可能に連結された変位機構を含む。
【図2】本発明の一実施形態に係る経中隔医療器具を図示し、器具の4つの構成要素、すなわち、(1)経中隔手技での使用向けに予成形されたシース、(2)可撓性の細長チューブ状部材、(3)可撓性の穿刺器具、及び(4)可撓性の穿刺器具に装着された変位機構が示されている。
【図3】本発明の一実施形態に係る可撓性の穿刺器具を図示し、これは変位機構と連結され、双方とも本発明の経中隔医療器具での使用向けである。
【図4】本発明の一実施形態に係る変位機構を図示し、これは穿刺器具と操作可能に連結され、さらに穿刺器具を収容するための内部ルーメンを有する拡張器と連結される。
【図5】本発明の一実施形態に係る経中隔医療器具の遠位端を図示し、シース、拡張器、及び穿刺器具を有する穿刺構成である。
【図6】本発明の一実施形態に係る経中隔医療器具の断面図であり、拡張器、そのなかに配置される可撓性の穿刺器具、及び変位機構を有する。
【図7】本発明の別の実施形態に係る経中隔医療器具の断面図であり、拡張器、そのなかに配置される可撓性の穿刺器具、及び変位機構を有する。この実施形態の穿刺器具は、遠位剛性部、近位剛性部、及び遠位剛性部と近位剛性部との間に介在する可撓性の針部分を有する。
【図8】経中隔穿刺手技を例示する概略図であり、ここでは本発明の一実施形態に係る経中隔医療器具が左鎖骨下静脈を通じて挿入され、右心房内まで送り込まれている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
概して本発明は、右心房から心房中隔を横通することにより左心房に到達するための経中隔アクセスシステム及び方法に関する。特に本発明は、経中隔穿刺が要求される心臓学的な手技においてカテーテルアセンブリと共に使用するための医療器具を対象とする。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に従い組み立てられた穿刺アセンブリ10を示し、その一部はシース12内に配置されている。穿刺アセンブリ10は、細長チューブ状部材内に、又は経中隔手技を目的とする場合は拡張器16内に配置される格納可能な穿刺器具14を有する。シース12には好ましくは、経中隔カテーテル手技での使用に望ましい角度の屈曲部18が予め構成される。穿刺アセンブリ10はさらに、穿刺器具14又は拡張器16のいずれか、好ましくは穿刺器具14と操作可能に連結される変位機構20を備える。動作時は変位機構20は穿刺器具14又は拡張器16と操作可能に連結され、そのため変位機構20が非付勢位置にあるとき、穿刺器具14の遠位端は拡張器16及びシース12内の所定の格納位置に維持される。変位機構20に対し力がかけられると、穿刺器具14は拡張器16内の初期位置から拡張器16外部の遠位位置まで伸張できる。この位置は好ましくは、体内組織の穿刺が所望される位置、例えば心房中隔である。
【0021】
図2は、可撓性穿刺アセンブリ10’及びシース12’の様々な構成要素を示す。可撓性穿刺アセンブリ10’は、可撓性の穿刺器具14’、穿刺器具14’と操作可能に連結される変位機構20’、及び拡張器16’を含む。シース12’はその遠位端に予め成形された屈曲部18’を有し、拡張器16’及び穿刺器具14’の双方を収納するよう構成される。図3は、変位機構20’と操作可能に連結された可撓性の穿刺器具14’を示す。図4は、拡張器16’と、拡張器内に収容され、変位機構20’の内部まで延在する可撓性の穿刺器具14’(図4には図示せず)との双方と操作可能に連結される変位機構20’を示す。安全部材又は付勢部材21、例えば、スプリング、クリップ、又は係止機構が変位機構20’内に配置される。あるいは、付勢機構21は変位機構20’の遠位端外部に置かれる可能性もある。加えて、バルブ22が穿刺器具14’と操作可能に連結され、それにより可撓性の穿刺器具14’内のルーメン24(図2及び3)を通じて流体を標的部位に送り込んだり、又は標的部位から取り除いたりできる。バルブ22はさらに、アブレーション電極などの所望の医療手技を行うための医療器具の挿入及び格納を可能にする。
【0022】
図5は穿刺アセンブリ10’の側面図を示し、シース12’内に配置された拡張器16’及び穿刺器具14’を含む。拡張器16’は一部分がシース12’の遠位端を越えて延在する。穿刺器具14’は拡張器16’内に配置される。好ましくは、穿刺器具14’の外径は拡張器16’の内径に極めて近く、従って穿刺器具14’に対し軸方向の剛性が提供される。この構成により穿刺器具14’は、ポリマー、プラスチック、又は可撓性金属構造など、任意の可撓性材料で作製できる。この構成は、穿刺器具14’の長手方向軸に対する穿刺器具14’の軸方向又は横方向の可撓性を考慮すると同時に、拡張器16’内で穿刺器具14’が前進したり、後退したりするために長手方向軸に沿って必要とされる構造的剛性を考慮するものである。
【0023】
図5は、伸展位置、すなわち、穿刺アセンブリ10’の近位端と動作可能に連結される変位機構20’(図5には図示せず)に対し使用者が力をかけることにより生じる位置にある穿刺器具14’を示す。この位置は、手技中に器具が組織を刺通できる位置にある場合に好ましい。変位機構20’に力が作用していない場合、穿刺器具14’は好ましくは拡張器16’内で初期の事前設定位置にある。この事前に設定された格納位置は、穿刺器具が実質的に常に拡張器の遠位端から露出したままである公知の穿刺アセンブリを凌駕する顕著な安全上の利益を提供する。
【0024】
図6は、本発明の別の実施形態に係る穿刺アセンブリ10’’の断面図である。穿刺アセンブリ10’’は近位端25と遠位端26とを有する拡張器16’’を備え、遠位端26の断面直径は近位端25の断面直径より小さい。拡張器16’’の内部ルーメン内には、近位端28と遠位端30とを有する可撓性の穿刺器具14’’が配置される。可撓性の穿刺器具14’’の遠位端30の断面直径は近位端28の断面直径より小さい。可撓性の穿刺器具14’’は好ましくは、スタイレット(図示せず)を収容するための内部ルーメン24’’を有する。スタイレットは内部ルーメンから取り出すことができる。内部ルーメン24’’はまた、体内の標的部位に流体を送り込んだり、又はそこから流体を取り除いたりするためにも使用され得る。
【0025】
拡張器16’’は好ましくは、可撓性材料、例えば、生体適合性ポリマー、プラスチック、編組ワイヤアセンブリ、及びこれらの組み合わせなど、又は当業者に周知の任意の他の好適な材料から構成される。この可撓性構造により、穿刺アセンブリ10’’を経中隔手技に使用される任意の公知のシース(図示せず)と共に使用することが可能となる。
【0026】
穿刺器具14’’は好ましくは、アセンブリ10’’の長さの大部分に沿って可撓性を有し、従って任意の所定形状の任意のカテーテルアセンブリと共に使用でき、且つ経中隔手技での使用に必要な場合には、拡張器16’’のシャフト内の所定位置から拡張器16’’の遠位端26を越えて伸展する位置まで調節可能である。穿刺器具14’’は任意の可撓性材料、例えば、ポリマー、プラスチック、可撓性金属コイル、又は当業者に周知の任意の他の可撓性材料で作製できる。穿刺器具14’’は好ましくは軸方向又は横方向に可撓性を有するが、拡張器16’’のルーメン内に置かれているときは長手方向に剛性を有する。この点で拡張器16’’のルーメンは、伸展したり、又は後退したりするため長手方向の力を受けやすい構成の穿刺器具14’’を、軸方向の可撓性を維持しながら収容する働きをする。
【0027】
穿刺アセンブリ10’’はさらに、拡張器16’’の近位端25及び/又は穿刺器具14’’と連結される変位機構20’’を備える。変位機構20’’は、使用者が力を印加するための近位ノブ32を備える。変位機構20’’はさらに、スプリングとして示される安全部材又は付勢部材34を備え、これは穿刺器具14’’を、穿刺器具14’’の遠位端30が拡張器16’’の遠位部26内にある初期位置に保持するよう構成される。変位機構20’’に力がかけられると、穿刺器具14’’の遠位端30は一部分が拡張器16’’の遠位端26を越えて伸展する。使用者によりかけられている力が取り除かれると、穿刺器具14’’は自動的に後退して拡張器16’’内の既定の付勢位置に戻る。従って、組織を穿刺する目的で使用されていないとき、穿刺器具14’’は拡張器16’’内に維持されるため、経中隔手技などの手技の安全性が高まる。
【0028】
付勢部材34はスプリングとして示されるが、格納式クリップ、係止機構、又はねじ機構などの他の構造を使用してもまた、使用者により力がかけられるまで穿刺器具14’’の遠位端30を拡張器16’’内の初期位置に安全に収容できることが企図される。好ましくは、機構20’’が復元力を提供することにより、ノブ32に作用する力が取り除かれると穿刺器具14’’は自動的に後退する。しかしながらこの後退は、手動でノブ32に対し遠位部26から離れる方向に力をかけることによっても行われ得ることが企図される。この場合、安全機構20’’を完全に取り外すか、及び/又は交換することにより、穿刺器具14’’が拡張器16’’の遠位部26外部の位置に不必要に伸展しないようにすることができる。
【0029】
図7は、本発明に係る穿刺アセンブリ10’’’の代替的実施形態の断面図を示す。本実施形態において、穿刺器具14’’’は遠位部分30’’’、近位部分28’’’、及び中間部分36を含む。遠位部分30’’’及び近位部分28’’’は本実施形態において、好ましくは可撓性の低下した剛性部分である。これらの部分は、任意のポリマー、金属、又は当業者に周知の類似材料で作製され得る。中間部分36は好ましくは、可撓性材料、例えば、ポリマー、プラスチック、可撓性金属コイル、又は当業者に周知の任意の他の可撓性材料から構成される。好ましくは、可撓性中間部分36は拡張器16’’及び/又はシース(図7には図示せず)の曲線に従う。本実施形態において、可撓性中間部分36は使用中の穿刺器具14’’’に可撓性の増加をもたらし、一方、剛性部分28’’’及び30’’’は、剛性のより高い穿刺先端が所望される場合、又は標的組織範囲を刺通するためにさらなる力が必要であると考えられる場合の適用について、穿刺器具14’’’の近位端及び遠位端に強度の増加をもたらす。この実施形態はまた、穿刺アセンブリ14’’’を正確に位置決定及び配置する能力の向上も提供し、より正確に経中隔を横通できる。各部は、当業者に周知のあらゆる手段によりまとめて結束又は装着されてもよい。図7に示される実施形態は穿刺器具14’’’について3つの別個の部分を示すが、これらの部分はより多い、又は少ない可能性もあることがさらに企図される。例えば、穿刺器具14’’’は遠位端30’’’に剛性材料で作製される一部分を有し、一方で残りの部分(28’’’及び36)は可撓性材料で作製されていてもよい。同様に、経中隔器具の可撓性と剛性との所望の組み合わせに応じて、可撓部と剛性部との任意の組み合わせが提供され得ることが企図される。
【0030】
図8は左鎖骨下静脈38を通じて左心房に到達するための経中隔穿刺手技の概略図を示す。この手技では、拡張器42、穿刺器具44、及び医療器具40の近位端に位置する変位機構(図8には図示せず)を有する本発明の一実施形態に係る経中隔医療器具40が提供される。医療器具40は左鎖骨下静脈38を通じて挿入され、右心房48内まで挿通され、ここで器具40はさらなる診断又は治療処置のため経中隔穿刺を実施でき、左心房52に到達可能となる。この実施形態に係る穿刺器具は拡張器42のルーメン内に可撓性コイルアセンブリ(図示せず)を含む。拡張器42は斜角のある遠位端54を有して作業を促進する。穿刺器具44は伸展位置で示されており、すなわち、変位機構に力がかけられている。従って、穿刺器具44は心房中隔50を穿刺できる位置にある。
【0031】
本明細書で考察される好ましい実施形態に加え、本発明は患者の心臓の中隔を穿刺するための方法を企図する。本方法は、図8に示される例示的実施形態と併せて説明される。本方法は好ましくは、以下のステップ、すなわち、(1)拡張器42内に収容されている穿刺器具44を中隔50の標的領域56に近接する心臓の領域に導入するステップ、(2)穿刺器具44を中隔50の標的領域56に近接する拡張器42外部の位置に伸展するステップ、(3)中隔50の標的領域56を穿刺するステップ、及び(4)穿刺器具44を拡張器42内の位置まで後退させるステップを含む。本方法はさらに、穿刺器具44を後退させる前に中隔50の標的領域56を通じて拡張器42を前進させるステップ、及び場合により、穿刺器具44を後退させた後に中隔50の標的領域56を通じて拡張器42を前進させるステップを含む。いずれの場合にも、本方法の結果として、左心房52内の任意の標的領域に対し流体又は医療器具を送達又は除去する経路が得られる。従ってこの方法は、医療手技、例えば、アブレーション、マッピング、又は他の既知の手技を行うための、到達が困難な左心房への安全なアクセスを提供する。
【0032】
加えて本発明は、高い安全性の特徴及び有利な操縦性を有する伸展可能な経中隔医療器具を作製するための方法を企図する。本方法は、以下のステップ、すなわち、(1)内部ルーメンを有する拡張器を提供するステップ、(2)拡張器の内部ルーメン内に可撓部を有する穿刺器具を提供するステップ、及び(3)変位機構を穿刺器具の近位端に操作可能に連結して、変位機構に力がかかると、穿刺器具が拡張器内の第1の位置から拡張器の遠位端外部の第2の位置まで伸展されるようにするステップを含む。本方法はさらに、変位機構から力が取り除かれると、穿刺器具が第1の位置に自動的に後退することを企図する。
【0033】
本発明の多くの実施形態がある程度の特異性を伴い上述されたが、当業者は本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本開示の実施形態に対し数多くの変更を加えることができるであろう。
【0034】
全ての向きについての言及(例えば、上部、下部、上向き、下向き、左、右、左向き、右向き、上部、底部、上方、下方、垂直、水平、時計回り、及び反時計回り)は、読み手の本発明への理解を補助するために特定する目的で使用されるに過ぎず、特に位置、向き、又は本発明の使用に関して限定を生じさせるものではない。結合についての言及(例えば、装着される、連結される、接続されるなど)は広く解釈されるべきであり、接続要素間の中間部材及び要素間の相対移動を含み得る。そのため、結合についての言及は必ずしも2つの要素が直接的に接続されて互いに固定された関係にあることを含意するものではない。上記の説明に含まれるか、又は添付の図面に示される全ての事項は例示に過ぎず、非限定的であると解釈されるものとすることが意図される。特許請求の範囲に定義されるとおりの本発明の趣旨から逸脱することなしに、詳細事項又は構造に変更が加えられてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経中隔医療器具であって、
近位端と遠位端とを有する拡張器、
前記拡張器内に配置される穿刺器具、及び
前記穿刺器具と前記穿刺器具の近位端で操作可能に連結される変位機構、
を備え、前記変位機構に力がかかると、前記変位機構が前記穿刺器具の遠位部を前記拡張器内の初期位置から前記拡張器外部の位置まで前進させることができるとともに、前記変位機構から前記力が取り除かれると、前記穿刺器具の前記遠位部が前記拡張器内の初期位置に後退する、経中隔医療器具。
【請求項2】
前記穿刺器具の長さが前記拡張器の長さと実質的に等しい、請求項1に記載の経中隔医療器具。
【請求項3】
前記穿刺器具の長さが前記拡張器の長さより実質的に短く、それでもなお前記変位機構により前記拡張器外部の位置に伸展することが可能である、請求項1に記載の経中隔医療器具。
【請求項4】
前記穿刺器具が、前記拡張器の前記遠位端に近接して位置する遠位端と可撓性の部分とをさらに備える、請求項1に記載の経中隔医療器具。
【請求項5】
前記穿刺器具が針を備える、請求項4に記載の経中隔医療器具。
【請求項6】
前記穿刺器具が湾曲した針を備える、請求項4に記載の経中隔医療器具。
【請求項7】
前記穿刺器具が、前記可撓性部分と前記変位機構との間にさらに剛性部分を備える、請求項4に記載の経中隔医療器具。
【請求項8】
前記拡張器が拡張器遠位端及び拡張器近位端をさらに備え、前記拡張器遠位端の断面積が前記拡張器近位端の断面積より小さい、請求項1に記載の経中隔医療器具。
【請求項9】
前記穿刺器具の少なくとも一部がさらに可撓性ポリマーから構成される、請求項1に記載の経中隔医療器具。
【請求項10】
前記穿刺器具の少なくとも一部がさらに可撓性金属から構成される、請求項1に記載の経中隔医療器具。
【請求項11】
前記穿刺器具の少なくとも一部がさらに、ポリマー、金属、又はこれらの組み合わせの可撓性コイルから構成される、請求項1に記載の経中隔医療器具。
【請求項12】
前記変位機構が前記拡張器と操作可能に連結され、その結果前記変位機構が操作されると前記拡張器が前記変位機構の近位端に向かって動く、請求項1に記載の経中隔医療器具。
【請求項13】
前記変位機構が前記穿刺器具と操作可能に連結されるばね機構をさらに備える、請求項1に記載の経中隔医療器具。
【請求項14】
前記ばね機構が非付勢位置にあるとき、前記穿刺アセンブリを前記拡張器内に保持する、請求項13に記載の経中隔医療器具。
【請求項15】
近位端と遠位端とを有する細長チューブ状部材、
前記細長チューブ状部材内に配置される穿刺器具、及び
前記穿刺器具と前記穿刺器具の近位端で操作可能に連結される変位機構、
を備える経中隔医療器具であって、前記変位機構に力がかかると、前記変位機構が前記穿刺器具の遠位部を前記細長チューブ状部材内の初期位置から前記細長チューブ状部材外部の位置まで前進させることが可能な、経中隔医療器具。
【請求項16】
前記変位機構に引込み力をかけ、それにより前記穿刺器具を前記細長チューブ状部材内部の位置に後退させるための機構をさらに備える、請求項15に記載の経中隔医療器具。
【請求項17】
心臓の中隔を穿刺するための方法であって、
拡張器内に収容されている穿刺器具を中隔の標的領域に近接する心臓の領域内に導入するステップ、
中隔の前記標的領域に近接する前記拡張器外部の位置に前記穿刺器具を伸展させるステップ、
中隔の前記標的領域を穿刺するステップ、及び
前記穿刺器具を前記拡張器内の位置に後退させるステップ、
を含む、方法。
【請求項18】
前記穿刺器具を後退させる前に前記拡張器を中隔の前記標的領域を通じて前進させるステップをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記穿刺器具を後退させた後に前記拡張器を中隔の前記標的領域を通じて前進させるステップをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記穿刺器具を後退させるステップが、中隔の前記標的領域を穿刺している間に使用者によりかけられている力が解放されると自動的に起こる、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
内部ルーメンを有する拡張器を提供するステップ、
前記拡張器の前記内部ルーメン内に可撓部を有する穿刺器具を提供するステップ、
変位機構を前記穿刺器具と操作可能に連結して、前記変位機構に力がかかると前記穿刺器具が前記拡張器内の第1の位置から前記拡張器の遠位端外部の第2の位置に伸展され、前記変位機構から前記力が取り除かれると、前記穿刺アセンブリが前記第1の位置に自動的に後退するようにするステップ、
を含む、伸展可能な経中隔医療器具を作製するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−537255(P2009−537255A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511240(P2009−511240)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際出願番号】PCT/US2007/069180
【国際公開番号】WO2007/137136
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(506257180)セント・ジュード・メディカル・エイトリアル・フィブリレーション・ディヴィジョン・インコーポレーテッド (57)
【Fターム(参考)】