説明

経口投与用医薬組成物

一般式I(式中、A及びA’は互いに独立して、NH基又は炭素数1〜18のアミノ基若しくはジアミノ基であり、B及びB’は互いに独立して、ハロゲン原子若しくはヒドロキシ基であるか、又は−O−C(O)−R基若しくは−O−C(O)−R’基(ここで、R及びR’は互いに独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアミノ基、若しくはアルコキシ基、又はこれらの基の機能的誘導体である)であり、X及びX’は互いに独立して、ハロゲン原子若しくは炭素数1〜20のモノカルボン酸基であるか、又はX及びX’は共に、炭素数2〜20のジカルボン酸基を形成する)の白金錯体を、少なくとも1つの薬学的に許容可能な植物、動物、鉱物、合成又は半合成の油、及び/又は少なくとも1つの薬学的に許容可能な植物、動物、鉱物、合成又は半合成の油状物質に懸濁させた液(懸濁液中の一般式Iの白金錯体の含量は、組成物の全重量に対して0.5重量%〜50重量%であり、且つ懸濁液は任意選択で少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤を含有する)から成ることを特徴とする、経口医薬組成物。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性物質として四価の白金錯体を含有し、且つ経口投与において活性物質の即時放出及び吸収改善を事実上可能にする、医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
白金錯体は多くの腫瘍疾患の治療で利用される広範な抗腫瘍効果を示すことが一般的に知られている。今のところ、治療行為では、二価の白金錯体のみ、とりわけ、シスプラチン、カルボプラチン、又はオキサリプラチンが使用されている。しかしながら、二価の白金錯体は、胃腸系で不安定であり、且つ/又は非常に吸収されにくい。このため、患者にとってより有利な経口剤形で二価の白金錯体を使用することができない。四価の白金錯体の中には、この欠点がなく、経口投与の場合でも抗腫瘍活性が保持されるものがあることが見出されている。こうした四価の白金錯体は、特許文献1、特許文献2、及び特許文献3で、経口投与用の新規化合物として開示されている。
【0003】
しかしながら、四価の白金錯体は、水への溶解性が非常に悪く(約0.03g/100ml)、かさ密度が低く(約0.2g/ml)、タップ密度が低く(約0.4g/ml)、帯電性が高い。当該物性は、固体経口剤形の調製には重大な問題となる。さらに、四価の白金錯体は、金属又は多くの現在使用されている賦形剤との接触に対して化学的に不安定である。これらの問題は、特許文献3において一部成功裏に解決されており、この特許文献には、特定の四価の白金錯体の固体剤形を、当該四価の白金錯体とのシクロデキストリン包摂錯体の形態で調製することについて記載されている。上記特許文献によれば、これらの包摂錯体は、有機溶媒中でシクロデキストリンと四価の白金錯体を反応させ、続いて凍結乾燥を行うことによって得られ、経口適用される。しかしながら、用いられるシクロデキストリン量により、経口剤形中に存在する四価の白金錯体含量が著しく制限されることが欠点である。したがって、得られる経口剤形は、比較的大きな容積を有し、嚥下することが難しいため、より高用量の四価の白金錯体を単回で経口適用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許第0328274号
【特許文献2】欧州特許第0423707号
【特許文献3】国際特許出願第PCT/CZ99/00015号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したことから、安定であり、且つ四価の白金錯体の含量が十分に高い、四価の白金錯体を含有する経口剤形が依然として必要であることは明らかである。本発明の目的は、かかる剤形を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一般式I:
【化1】

(式中、
A及びA’は互いに独立して、NH基又は炭素数1〜18のアミノ基若しくはジアミノ基であり、
B及びB’は互いに独立して、ハロゲン原子若しくはヒドロキシ基であるか、又は−O−C(O)−R基若しくは−O−C(O)−R’基(ここで、R及びR’は互いに独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアミノ基、若しくはアルコキシ基、又はこれらの基の機能的誘導体である)であり、
X及びX’は互いに独立して、ハロゲン原子若しくは炭素数1〜20のモノカルボン酸基であるか、又はX及びX’は共に、炭素数2〜20のジカルボン酸基を形成する)
の白金錯体を、少なくとも1つの薬学的に許容可能な植物、動物、鉱物、合成又は半合成の油、及び/又は少なくとも1つの薬学的に許容可能な植物、動物、鉱物、合成又は半合成の油状物質に懸濁させた液(懸濁液中の一般式Iの白金錯体の含量は、組成物の全重量に対して0.5重量%〜50重量%であり、且つ懸濁液は任意選択で少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤を含有する)から成ることを特徴とする、経口医薬組成物によって上記目標を達成した。
【発明を実施するための形態】
【0007】
好ましくは、医薬組成物中の一般式Iの白金錯体の含量は、組成物の全重量に対して10重量%〜40重量%となる。
【0008】
医薬組成物中の薬学的に許容可能な油は、好ましくは、ヒマワリ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ラッカセイ油、ピーナッツ油、ゴマ油、アマニ油、オリーブ油、ヒマシ油、及び/又は鉱油であってもよく、且つ/又は医薬組成物中の薬学的に許容可能な油状物質は、有利には合成又は半合成の油状物質、例えば、Akomed(商標)、Labrafac(商標)、Miglyol(商標)、及びSoftisan(商標)として知られている、グリセロールと高級脂肪族酸とのエステル、並びにLauroglycol(商標)として知られている、ラウリン酸プロピレングリコールであってもよい。
【0009】
好ましくは、医薬組成物中の一般式Iの白金錯体の粒子の100%が、100μmよりも小さい、好ましくは40μmよりも小さい、特に10μmよりも小さい粒径を有する。
【0010】
上記一般式Iの白金錯体の懸濁液は、有利には硬ゼラチンカプセル若しくはヒドロキシプロピルメチルセルロースカプセル中、又は軟ゼラチンカプセル若しくはパール(pearls)中に封入される。好ましくは、一カプセルは一般式Iの白金錯体を50mg〜350mg含有する。
【0011】
カプセル形態の医薬組成物は、有利には、一般式Iの白金錯体の懸濁液と接触する表面がこの懸濁液に対して不活性であるカプセル製造機で得られる。
【0012】
本発明は、腫瘍疾患治療薬としての上記医薬組成物にも関する。
【0013】
「油状物質」という用語は、本明細書中で使用される場合、学術的に明確には油として定義されないが油の特性を示す物質を指す。
【0014】
本発明の枠内において、驚くべきことに、一般式Iの白金錯体を所定の油及び/又は油状物質に懸濁させた液の形態で製剤化することによって、当該錯体の経口剤形に望まれる全ての性質を実現することが意外にも可能であることが見出された。白金錯体の懸濁液を形成することにより、その低密度及びその高帯電性が失われると共に、乾燥、未処理状態では実現することが事実上不可能である、任意選択の、生体への取り込みやすさ(biological accessibility)の観点から有利な白金錯体の湿式微粒化までもが可能となる。さらに、白金錯体の懸濁液の外液相を使用することにより、全体的に又は少なくとも部分的に懸濁液の外相を消化管の外部親水性相中へエマルション化する(emulgate)液体乳化剤の適用、及び任意選択で本発明による医薬組成物由来の白金錯体の生体接触性をさらに増大させる浸透促進剤の適用が可能となる。胃腸管の媒体で溶出することが非常に困難な一般式Iの白金錯体の場合は、これにより、界面張力が減少する結果、白金錯体の溶出及び吸収も高められる。油状相(一般式Iの白金錯体が懸濁しており、媒体中でこの錯体はかなりの程度吸収される)の親油的性質により、消化管の親水性胃液の侵襲作用から白金錯体が保護される。
【0015】
一般式Iの白金錯体の含量が0.5重量%〜50重量%に等しい場合、一般式Iの白金錯体の懸濁液は全くリスクなしに砕解及び充填され得る。
【0016】
任意選択で、一般式Iの白金錯体、並びに油及び/又は油状物質に加えて、本発明による医薬組成物は、この種の組成物で概して使用される薬学的に許容可能な賦形剤を含有し得る。かかる賦形剤としては、特に、界面活性剤、即ち、油/水型の系に対してエマルション形成性(emulgating properties)を有する物質、例えば、Tween(商標)として知られている、ソルビタンとポリオキシエチレンとのエステル、Span(商標)として知られている、ソルビタンと高級脂肪族酸とのエステル、Targat S(商標)及びTargat L(商標)として知られている、高級脂肪族酸のポリオキシエチレングリセロールエステル、Cremophor(商標)及びBrij(商標)として知られている、高級脂肪族アルコールのポリオキシエチレンエーテル、及びArlaton(商標)及びArlacel(商標)として知られている、ステアリン酸グリセロールを使用し得る。
【0017】
さらに、浸透促進剤、例えば、Capryol(商標)として知られている、モノカプリル酸プロピレングリコール、Gelucire(商標)として知られている、硬化植物油に基づく半合成グリセリド、Inwitor(商標)として知られている、モノステアアリン酸グリセロール、Labrafil(商標)として知られている、オレイン酸のポリオキシエチル化グリセリド、Plurol Oleique(商標)として知られている、オレイン酸のポリグリセロールエステル、Poloxamer(商標)及びSynperonic(商標)として知られている、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体、Softigen(商標)として知られている、ペグ化モノグリセリドとペグ化ジグリセリドとの混合物、及びPEG−32(商標)として知られている、カプリン酸ポリエチレングリコール、ラウリン酸ポリエチレングリコール、及びステアリン酸ポリエチレングリコール、並びにこれらの界面活性剤の任意比での混合物が挙げられ得る。
【0018】
安定化剤、例えば、トコフェロール、パルミチン酸アスコルビル、没食子酸プロピル、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、及びノルジヒドロキシグアヤレタン(nordihydroxyguaiarethane)系の一般的な酸化防止剤(通常濃度で用いられる)を導入することも可能である。
【0019】
以下の部において、例示的な意義しか有せず、且つ添付の特許請求の範囲によって明確に規定される本発明の範囲をいかなる方法によっても限定しない、特定の実施例(examples of execution)を使用して、本発明をより詳細に説明する。
【0020】
これらの実施例においては、一般式Iの白金錯体の特定の代表例として、コード名LA−12、構造式II:
【化2】

の(OC−6−43)−ビス(アセタト)−(1−アダマンチルアミン)−アンミン−ジクロロ白金(IV)錯体を用いる。
【0021】
本実施例においては、この特定の白金錯体をそのコード名によって示す。
【実施例1】
【0022】
硬ゼラチンカプセルの調製方法
白金錯体LA−12(1重量部)を、ラッカセイ油(oleum arachidis)(4重量部)中に懸濁する。得られた懸濁液をボールミルで粉砕することにより、白金錯体LA−12の粒子の100%が40μmよりも小さい粒径を有する懸濁液を得る。さらに、各カプセル中の白金錯体LA−12の含量が200mgとなるように、硬ゼラチンカプセル中に懸濁液を充填する。したがって、各カプセル中の懸濁液の量は1000mgである。
【実施例2】
【0023】
硬ゼラチンカプセルの調製方法
白金錯体LA−12(1重量部)を、ラッカセイ油(4重量部)及び乳化剤Tween 60(0.1重量部)の存在下、ボールミルで粉砕することにより、白金錯体LA−12の粒子の100%が40μmよりも小さい粒径を有する懸濁液が得られる。さらに、各カプセル中の白金錯体LA−12の含量が200mgとなるように、硬ゼラチンカプセル中に得られた懸濁液を充填する。したがって、各カプセル中の懸濁液の量は1020mgである。
【実施例3】
【0024】
硬ゼラチンカプセルの調製方法
白金錯体LA−12(1重量部)を、グリセロールエステルLabrafac(4重量部)、半合成のグリセリドGelucire 44/14(0.1重量部)、及び乳化剤Tween 60(0.1重量部)の混合物中に懸濁し、得られた懸濁液をボールミルで粉砕することにより、白金錯体LA−12の粒子の100%が40μmより小さい粒径を有する懸濁液が得られる。さらに、各カプセル中の白金錯体LA−12の含量が200mgとなるように、硬ゼラチンカプセル中に懸濁液を充填する。したがって、各カプセル中の懸濁液の量は1040mgである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造式II:
【化1】

の白金錯体を、少なくとも1つの薬学的に許容可能な植物、動物、鉱物、合成又は半合成の油、及び/又は少なくとも1つの薬学的に許容可能な植物、動物、鉱物、合成又は半合成の油状物質に懸濁させた液(懸濁液中の式IIの白金錯体の含量は、組成物の全重量に対して0.5重量%〜50重量%であり、且つ懸濁液は任意選択で少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤を含有する)から成ることを特徴とする、経口投与用医薬組成物。
【請求項2】
前記式IIの白金錯体の前記懸濁液中の該式IIの白金錯体の含量が、前記組成物の全重量に対して10重量%〜40重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
薬学的に許容可能な油として、ヒマワリ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ラッカセイ油、ピーナッツ油、ゴマ油、アマニ油、オリーブ油、ヒマシ油、及び/又は鉱油を含有し、且つ/又は薬学的に許容可能な油状物質として、合成又は半合成の油状物質、例えば、グリセロールと高級脂肪族酸とのエステル、及びラウリン酸プロピレングリコールを含有することを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記式IIの白金錯体の粒子の100%が、100μmよりも小さい粒径を有することを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記式IIの白金錯体の粒子の100%が、40μmよりも小さい粒径を有することを特徴とする、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記式IIの白金錯体の粒子の100%が、10μmよりも小さい粒径を有することを特徴とする、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
硬ゼラチンカプセル若しくはヒドロキシプロピルメチルセルロースカプセル中、又は軟ゼラチンカプセル若しくはパール中に封入されることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
一カプセルが、前記式IIの白金錯体を50mg〜350mg含有することを特徴とする、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
カプセル中に封入され、且つ前記式IIの白金錯体の前記懸濁液と接触する表面が該懸濁液に対して不活性であるカプセル製造機を使用して得られることを特徴とする、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
腫瘍疾患治療薬としての、請求項1〜9のいずれか一項に記載の医薬組成物。

【公表番号】特表2009−541227(P2009−541227A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515691(P2009−515691)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【国際出願番号】PCT/CZ2007/000058
【国際公開番号】WO2007/147371
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(500522390)プリヴァ−ラケマ,エー.エス. (10)
【Fターム(参考)】