説明

経口紫外線抵抗性向上剤

【課題】経口摂取により、皮膚の紫外線に対する抵抗力を高め、紫外線の暴露により生じる皮膚のダメージを軽減又は抑制できる、紫外線抵抗性向上剤の提供。
【解決手段】メチルヘスペリジンを有効成分とする経口紫外線抵抗性向上剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口摂取により、皮膚の紫外線抵抗性を向上させる経口紫外線抵抗性向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オゾン層の減少が一要因となり、紫外線による皮膚障害が問題になっている。例えば、慢性的な紫外線の暴露により、皮膚の紅斑や浮腫が発生したり、しわやたるみ、しみやそばかすの形成が顕著となったり、皮膚の弾力性の低下、皮膚の黒化、黄ばみの増加、角質水分量の減少等が誘導される。
【0003】
従来、紫外線による皮膚へのダメージを改善する手段としては、紫外線散乱剤や紫外線吸収剤を配合したいわゆる日焼け止めを用いることや、メラニン産生抑制作用等を有する美白剤を用いることが主に行われているが、これらのほとんどは皮膚外用剤として使用した際に得られる作用を期待したものである。
【0004】
しかしながら、近年、ホリスティック皮膚制御に基づくアプローチから、紫外線に強い身体をつくることが理想的であるとされ、経口摂取によって、皮膚の紫外線に対する抵抗力を向上させることが試みられている。例えば、ラクトバチルス属菌を経口摂取した場合に紫外線照射による皮膚バリア機能の損傷を抑制すること(特許文献1)、カロチノイドにエラスチンやセラミドを配合した組成物を経口摂取した場合に、紫外線に誘発される皮膚の紅斑を効果的に抑制し得ること(特許文献2)が報告されている。また、ビタミンC、E、B2等に紫外線吸収効果があることも知られている。
【0005】
一方、ヘスペリジンは、毛細血管の強化、出血予防、血圧調整などの生理作用を持つビタミンPとして、また、黄色着色剤、酸化防止剤等として、食品、医薬品、化粧品などに利用されている。メチルヘスペリジンは、斯かるヘスペリジンをメチル化し、水に可溶化したものであり、我が国では、医薬品添加物および食品添加物にも指定されている。また、ヘスペリジンメチルカルコンは、酸化防止剤などの目的で、化粧品に配合されている。また、最近では、メチルヘスペリジンとアスコルビン酸誘導体と有機酸塩を併用した皮膚化粧料が、紫外線による皮膚の炎症を予防効果と炎症性色素沈着の予防・抑制作用を有すること(特許文献3)、ヘスペリジン化合物とジイソプロピルアミンジクロロアセテートとを組み合わせて配合した化粧料に美白効果があること(特許文献4)が報告されている。また、α−グリコシルヘスペリジンには、これを経口投与した場合に、メラニン低下作用、皮膚明度低下抑制作用があることが報告されている(特許文献5)。
しかしながら、メチルヘスペリジンを経口摂取した場合に、皮膚の紫外線に対する抵抗性を改善する作用があることはこれまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−179601号公報
【特許文献2】特開2004−229611号公報
【特許文献3】特開平11−199468号公報
【特許文献4】特開平11−171756号公報
【特許文献5】特開2009−7336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、経口摂取により、皮膚の紫外線に対する抵抗力を高め、紫外線の暴露により生じる皮膚のダメージを軽減又は抑制できる、紫外線抵抗性向上剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、皮膚の紫外線抵抗性を向上させる経口摂取可能な素材について検討したところ、メチルヘスペリジンを経口摂取した場合に、紫外線暴露による皮膚紅斑の発症、色素沈着、表皮肥厚、角層水分量の減少等が有意に抑制でき、これが紫外線抵抗性向上剤として有用であることを見出した。
【0009】
すなわち本発明は、以下の1)〜4)に係るものである。
1)メチルヘスペリジンを有効成分とする経口紫外線抵抗性向上剤。
2)紫外線暴露により誘発される皮膚障害を軽減又は抑制する上記1)の経口紫外線抵抗性向上剤。
3)紫外線暴露により誘発される皮膚障害が、皮膚の炎症又は皮膚老化である上記2)の経口紫外線抵抗性向上剤。
4)紫外線暴露により誘発される皮膚障害が、皮膚の紅斑、皮膚弾力性の低下、色素沈着、皮膚バリア機能の低下及び角層機能の低下から選ばれる1種以上である上記2)の経口紫外線抵抗性向上剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の紫外線抵抗性向上剤は、例えば、皮膚への紫外線の暴露によって生じる、紅斑や浮腫等の皮膚の炎症、しわやたるみの形成、しみやそばかすの形成、皮膚の弾力性の低下、色素沈着、皮膚の黒化、黄ばみの増加、皮膚バリア機能の低下、角層機能の低下といった、いわゆる皮膚老化又は皮膚劣化等の種々の皮膚のダメージの軽減又は抑制に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の紫外線抵抗性向上剤において用いられるメチルヘスペリジンは、ヘスペリジンをメチル化し、水に可溶化したものである。斯かるメチルヘスペリジンには、主に、カルコン型化合物(A)及びフラバノン型化合物(B)が含まれることが知られており、その構成成分として、例えば以下に示す構造のものが挙げられる。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、Rは水素原子もしくはメチル基を表す。)
【0014】
ここで、医薬品添加物および食品添加物としてのメチルヘスペリジンは、主に、化合物(C)及び(D)の混合物として取り扱われている。
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、Glは、グルコース残基、Rhは、ラムノース残基を表す。また、Gl-2は、グルコース残基の2位(C-1の場合、3位も含む)、Rh-2は、ラムノース残基の2位を表す。)
【0017】
また、化粧品原料としてのヘスペリジンメチルカルコンは、(E)で示される化合物として取り扱われている。
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、Rは水素原子もしくはメチル基を表す。)
【0020】
本発明の紫外線抵抗性向上剤において用いられるメチルヘスペリジンは、上記で示したカルコン型化合物(A)とフラバノン型化合物(B)の両方を含むものでも良いし、また、それぞれの片方のみを含むものでも良い。
また、主にカルコン型化合物を多く含む組成の場合、ヘスペリジンメチルカルコンとも呼ばれることがあるが、これも同様である。
【0021】
本発明において、より好適なメチルヘスペリジンとしては、医薬品添加物および食品添加物として使用されているメチルヘスペリジン(主に化合物(C)および化合物(D)の混合物)および化粧品原料として使用されているヘスペリジンメチルカルコン(化合物(E))が挙げられる。
【0022】
メチルヘスペリジンは、公知の方法、例えば、柑橘類の果皮などから製造されたヘスペリジンを水酸化ナトリウム水溶液に溶かし、そのアルカリ溶液に対応量のジメチル硫酸を作用させ、反応液を硫酸で中和し、n-ブチルアルコールで抽出し、溶媒を留去したのち、イソプロピルアルコールで再結晶することにより製造できるが(崎浴、日本化學雑誌、79、733-6(1958))、その製造法はこれに限るものではない。
また、市販品(例えば、医薬品添加物、食品添加物、および化粧品原料として流通しているもの、または、「メチルヘスペリジン」(東京化成工業社)、「ヘスペリジンメチルカルコン」(Sigma社)等)を購入して使用することもできる。
【0023】
後記実施例に示すように、メチルヘスペリジンをマウスに経口摂取した後に、紫外線照射した場合、当該紫外線による皮膚紅斑の発症が有意に抑制され、しかもその効果は、糖転移ヘスペリジンよりも優れている。また、同様に、メチルヘスペリジンをマウス或いはモルモットに経口摂取した後に、紫外線照射した場合、当該紫外線により誘発される色素沈着、表皮肥厚、経皮水分蒸散量の上昇、角層水分量の減少が有意に抑制される。
すなわち、メチルヘスペリジンは、皮膚の紫外線に対する抵抗力を高める紫外線抵抗性向上剤として使用することができ、また、当該紫外線抵抗性向上剤を製造するために使用することができる。
従って、本発明の経口紫外線抵抗性向上剤は、紫外線暴露によって誘発される、皮膚の紅斑や浮腫等の皮膚の炎症、しわやたるみの形成、しみやそばかすの形成、皮膚の弾力性の低下、色素沈着、皮膚の黒化、黄ばみの増加、皮膚バリア機能の低下、角層機能の低下といった、皮膚老化又は皮膚劣化等の皮膚障害を軽減又は抑制するための経口医薬品、医薬部外品、サプリメント又は食品として、或いはこれらへ配合するための素材又は製剤として有用である。
尚、後記実施例2で示すように、メチルヘスペリジン投与群では、酸化ストレスマーカーである8-ヒドロキシ-2'-デオキシグアノシン(8−OHdG)の血中濃度が低下することから、メチルヘスペリジンはDNAの酸化損傷を抑制する作用を有するが、一方で血清中のトータル抗酸化能(PAO)は示さないことが明らかとなった。従って、メチルヘスペリジンにより奏される紫外線抵抗性向上作用は、ビタミンEやC等の抗酸化剤が示す作用とは異なると云える。
【0024】
本発明のメチルヘスペリジンを含む医薬品、医薬部外品或いはサプリメントの剤型は、固形製剤又は液体製剤の何れでもよく、具体的には、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、徐放性製剤、懸濁液、エマルジョン剤、内服液、糖衣錠、丸剤、細粒剤、シロップ剤、エリキシル剤等が挙げられる。
【0025】
上記製剤には、メチルヘスペリジンに、薬学的に許容される担体を配合することができる。斯かる担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、流動性促進剤、吸収助剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定化剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、湿潤剤、増粘剤、光沢剤、活性増強剤、抗炎症剤、殺菌剤、矯味剤、矯臭剤、増量剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、固着剤、香料、被膜剤等が挙げられる。また、当該製剤には公知の薬効成分を適宜配合することもできる。斯かる成分としては、例えば、各種ビタミン類、アミノ酸やペプチドおよびその誘導体、核酸およびその誘導体、糖類及びその誘導体、その他、カロチノイド、大豆イソフラボン、カテキン類、クロロゲン酸等の抗酸化剤等が挙げられる。
【0026】
上記製剤におけるメチルヘスペリジンの含有量は、通常、製剤全質量の0.001〜90質量%であり、0.01〜60質量%が好ましい。
【0027】
本発明のメチルヘスペリジンを含む各種食品には、一般飲食品のほか、紫外線によって生じる、皮膚の紅斑や浮腫、しわやたるみの形成、しみやそばかすの形成、皮膚の弾力性の低下、色素沈着、皮膚の黒化、黄ばみの増加、皮膚バリア機能の低下、角層機能の低下等の皮膚のダメージを軽減又は抑制することをコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した美容食品、病者用食品、栄養機能食品又は特定保健用食品等の機能性食品が包含される。
【0028】
食品の形態は、固形、半固形または液状であり得る。食品の例としては、パン類、麺類、クッキー等の菓子類、ゼリー類、乳製品、冷凍食品、インスタント食品、でんぷん加工製品、加工肉製品、その他加工食品、コーヒー飲料等の飲料、スープ類、調味料、栄養補助食品等、及びそれらの原料が挙げられる。また、上記の経口投与製剤と同様、錠剤形態、丸剤形態、カプセル形態、液剤形態、シロップ形態、粉末形態、顆粒形態等であってもよい。
【0029】
斯かる食品は、メチルヘスペリジンの他、他の飲食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、固着剤、分散剤、湿潤剤等を適宜組み合わせて配合し、調製することができる。
また、各種ビタミン類、アミノ酸やペプチドおよびその誘導体、核酸およびその誘導体、糖類及びその誘導体、その他、カロチノイド、大豆イソフラボン、カテキン類、クロロゲン酸等の抗酸化成分等も適宜配合することができる。
【0030】
また、飲食品中におけるメチルヘスペリジンの含有量は、その使用形態により異なるが、通常、0.0001〜50質量%であり、0.001〜10質量%が好ましい。
【0031】
本発明のメチルヘスペリジンを医薬品として、或いは医薬品に配合して使用する場合の投与量は、患者の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って変動し得るが、経口投与の場合の成人1人当たりの1日の投与量は、通常、メチルヘスペリジンとして0.001〜100gが好ましい。また、上記製剤は、任意の投与計画に従って投与され得るが、1日1回〜数回に分け、数週間〜数ヶ月間継続して投与することが好ましい。
【実施例】
【0032】
実施例1 メチルヘスペリジン経口摂取のUVB照射による紅斑抑制効果(1)
1)方法
ヘアレスマウスHR-1(雌性、9週齢)(日本SLC)を1週間予備飼育後、コントロール群、糖転移ヘスペリジン投与群(糖転移ヘスペリジン:「林原ヘスペリジンS(林原商事社)」)、メチルヘスペリジン投与群(メチルヘスペリジン:「ヘスペリジンメチルカルコン」(Sigma社))とに分けた。
※糖転移ヘスペリジン
【0033】
【化4】

【0034】
試験期間中、飼料および水は自由摂取させ、温度23±1℃、湿度50±1%、照明時間7:00−19:00の条件下で飼育した。糖転移ヘスペリジン投与群、および、メチルヘスペリジン投与群は、100mg/kg体重 を、投与量が0.1mL/10g体重 になるように調製し、エマルジョン形態で、1日2回、2週間、胃ゾンデを用いて強制経口投与した。コントロール群は、ヘスペリジン類を除いたものでエマルジョンとし、同様に経口投与した。経口投与2週後に、ペントバルビタール麻酔下にて、マウス背部に0.6cm×1.0cmの部位を近接して2列×3行=6ヶ所設定し、1mW/cm2のUVB照射線量で、0秒間(0mJ)と40秒間(40mJ)照射した(各3ヶ所)。照射48時間後の紅斑の程度を、目視による5段階評価(−;反応なし、±(最小紅斑);軽度または部分的紅斑、+;明らかな全面紅斑、++;紅斑と浮腫、+++;紅斑と浮腫と水疱)と、分光式色差計SE-6000(日本電色工業)を用いて皮膚色(a*値)測定を行った。a*値は皮膚色の赤味を表す指標であり、a*値が大きいほど皮膚が赤色に変化、すなわち紅斑が生じていることを示している。各群について、40mJ(照射部位)の部位3ヶ所の平均値から0mJ(未照射部位)の部位3ヶ所の平均値を差し引き、Δa*値で表した。
【0035】
2)結果
結果を表1 Δa*値)、表2 (目視による評価)に示した。コントロール群と比較して糖転移ヘスペリジン投与群、メチルヘスペリジン投与群において、UVB照射によるa*値の上昇を抑制する効果が見出され、メチルヘスペリジン投与群でその効果が特に強かった。さらに目視による評価においても、糖転移ヘスペリジン投与群と比較してメチルヘスペリジン投与群で、より紅斑を抑制することが明らかにされた。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
実施例2 メチルヘスペリジン経口摂取による血清中8-OHdG、および、血清中抗酸化能(Cu還元力)への影響
1)方法
ヘアレスマウスHR-1(雌性、9週齢)(日本SLC)を1週間予備飼育後、コントロール群、糖転移ヘスペリジン投与群(糖転移ヘスペリジン:「林原ヘスペリジンS(林原商事社)」)、メチルヘスペリジン投与群(メチルヘスペリジン:「ヘスペリジンメチルカルコン」(Sigma社))、大豆イソフラボン投与群(大豆イソフラボン:「イソフラボン-80(J-オイルミルズ社)」)、及びビタミンEとビタミンCの組み合わせ(ビタミンE:「(±)-α-トコフェロール(和光純薬工業社)」、ビタミンC:「L(+)-アスコルビン酸(和光純薬工業社)」)の投与群とに分けた。試験期間中、飼料および水は自由摂取させ、温度23±1℃、湿度50±1%、照明時間7:00−19:00の条件下で飼育した。糖転移ヘスペリジン投与群及びメチルヘスペリジン投与群は100mg/kg体重を、大豆イソフラボン投与群は2g/kg体重を、ビタミンEとビタミンCの組み合わせ(ビタミンE+ビタミンC)の投与群は、ビタミンEが200mg/kg体重、ビタミンCが600mg/kg体重を、投与量が0.1mL/10g体重になるように調製し、エマルジョン形態で、1日2回、2週間、胃ゾンデを用いて強制経口投与した。コントロール群は、サンプルを除いたものでエマルジョンとし、同様に経口投与した。経口投与2週後に、心採血し血清に調製し、ELISA kit(JaICA)を用いて血清中の酸化ストレスマーカーについてDNA酸化損傷マーカー8-OHdGを、銅イオンの還元反応を利用した抗酸化能測定キット「PAO」(JaICA)を用いて血清中のトータル抗酸化能(PAO)を、それぞれ定量した。
【0039】
2)結果
結果を表3(8-OHdG)、表4(抗酸化能)に示した。血清中の8-OHdGは、糖転移ヘスペリジン投与群、メチルヘスペリジン投与群において、コントロール群と比較して低下し、特にメチルヘスペリジン投与群においてその作用が強いことが明らかとなった。大豆イソフラボン投与群及びビタミンE+ビタミンC投与群においては、このような作用は認められなかった。一方、血清中のPAOは、糖転移ヘスペリジン投与群、メチルヘスペリジン投与群ともに、コントロール群と比較して顕著な差は認められなかった。抗酸化剤である大豆イソフラボン投与群及びビタミンE+ビタミンC投与群は、コントロール群と比較してPAOは高い値を示したが、それら抗酸化剤と比較してヘスペリジン類の血清中抗酸化能は強くないと示唆された。
以上より、ヘスペリジン類、特にメチルヘスペリジンの紫外線抵抗性向上の効果は、抗酸化能以外のメカニズムであることが明らかになった。
【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
実施例3 メチルヘスペリジン経口摂取による色素沈着の抑制効果
1)方法
Weiser-Maples系褐色モルモット(雌性、11週齢) を1週間予備飼育後、コントロール群、メチルヘスペリジン投与群(メチルヘスペリジン:「ヘスペリジンメチルカルコン」(Sigma社))とに分けた。試験期間中、飼料および水は自由摂取させ、温度23±1℃、湿度50±1%、照明時間7:00−19:00の条件下で飼育した。モルモットの背部をバリカンとシェーバーで傷付かないよう丁寧に毛刈りし、その毛刈りした背部に0.6cm×1.0cmの部位を近接して2列×5行=10ヶ所設定し、0mJ/cm2(未照射)部位と300mJ/cm2のUVBを隔日2回照射する部位を各5ヶ所設定し照射を行った。また、UVB照射部位以外の部分はアルミホイルで覆い、UVBが当たらないようにした。メチルヘスペリジン投与群は、100mg/kg体重 を、投与量が0.5mL/100g体重 になるように調製し、エマルジョン形態で、初回照射日から1日1回、3週間、胃ゾンデを用いて強制経口投与した。コントロール群は、メチルヘスペリジンを除いたものでエマルジョンとし、同様に経口投与した。経口投与(照射)前と経口投与(照射)1、2、3週間後に、UVB 未照射部位、および、UVB照射部位について、色彩色差計OFC-300A(日本電色工業)を用いて皮膚色(L*値)を測定した。L*値は皮膚色の明度を表す指標であり、L*値が低いほど皮膚が黒色に変化していることを示している。各群について、投与(照射)前の照射部位5ヶ所のL*値の平均値から投与(照射)3週後の照射部位5ヶ所のL*値の平均値を差し引き、ΔL*値で表した。
【0043】
2)結果
結果を表5に示した。メチルヘスペリジン投与群はコントロール群と比較して、有意にΔL*値の上昇を抑制する効果を見出した。すなわち、メチルヘスペリジンは色素沈着の形成過程において色素沈着を抑制する効果を有すると考えられた。
【0044】
【表5】

【0045】
実施例4 メチルヘスペリジン経口摂取のUVB照射による紅斑抑制効果(2)
1)方法
ヘアレスマウスHR-1(雌性、7週齢)(日本SLC)を1週間予備飼育後、コントロール群、メチルヘスペリジン投与群とに分けた。尚、メチルヘスペリジンはアルプス薬品工業株式会社製の食品添加物用のものを用いた。試験期間中、飼料および水は自由摂取させ、温度23±1℃、湿度50±1%、照明時間7:00−19:00の条件下で飼育した。メチルヘスペリジン投与群は、100mg/kg体重 を、投与量が0.1mL/10g体重 になるように調製し、エマルジョン形態で、1日2回、2週間、胃ゾンデを用いて強制経口投与した。コントロール群は、メチルヘスペリジンを除いたものでエマルジョンとし、同様に経口投与した。経口投与2週後に、ペントバルビタール麻酔下にて、マウス背部に0.6cm×1.0cmの部位を近接して2列×3行=6ヶ所設定し、1mW/cm2のUVB照射線量で、0秒間(0mJ)と40秒間(40mJ)照射した(各3ヶ所)。
照射48時間後の紅斑の程度を、目視による5段階評価(−;反応なし、±(最小紅斑);軽度または部分的紅斑、+;明らかな全面紅斑、++;紅斑と浮腫、+++;紅斑と浮腫と水疱)と、分光式色差計SE-6000(日本電色工業)を用いて皮膚色(a*値)測定を行った。a*値は皮膚色の赤味を表す指標であり、a*値が大きいほど皮膚が赤色に変化、すなわち紅斑が生じていることを示している。各群について、40mJ(照射部位)の部位3ヶ所の平均値から0mJ(未照射部位)の部位3ヶ所の平均値を差し引き、Δa*値で表した。
【0046】
2)結果
結果を表6(Δa*値)、表7(目視による評価)に示した。コントロール群と比較してメチルヘスペリジン(食品添加物用)投与群において、UVB照射によるa*値の上昇を抑制する効果が見出された。さらに目視による評価においても、メチルヘスペリジン投与群で紅斑を抑制することが明らかになった。
【0047】
【表6】

【0048】
【表7】

【0049】
実施例5 メチルヘスペリジン経口摂取のUVB照射による表皮肥厚抑制効果
1)方法
ヘアレスマウスHR-1(雌性、9週齢)(日本SLC)を1週間予備飼育後、コントロール群、メチルヘスペリジン投与群(メチルヘスペリジン:「ヘスペリジンメチルカルコン」(Sigma社))とに分けた。試験期間中、飼料および水は自由摂取させ、温度23±1℃、湿度50±1%、照明時間7:00−19:00の条件下で飼育した。メチルヘスペリジン投与群は、100mg/kg体重 を、投与量が0.1mL/10g体重 になるように調製し、エマルジョン形態で、1日2回、2週間、胃ゾンデを用いて強制経口投与した。コントロール群は、メチルヘスペリジンを除いたものでエマルジョンとし、同様に経口投与した。経口投与2週後に、ペントバルビタール麻酔下にて、マウス背部に0.6cm×1.0cmの部位を近接して2列×3行=6ヶ所設定し、1mW/cm2のUVB照射線量で、0秒間(0mJ)と40秒間(40mJ)照射した(各3ヶ所)。照射48時間後に心採血により屠殺後、UVB未照射部位および照射部位の皮膚を採取し、HE染色標本を作製し、表皮厚について顕微鏡で観察した。表皮厚は1組織当たり、任意の50ヶ所の表皮厚の平均値をその組織の表皮厚とした。
2)結果
結果を表8(Δ表皮厚)に示した。コントロール群と比較してメチルヘスペリジン投与群において、表皮肥厚を抑制していることが明らかとなった。
【0050】
【表8】

【0051】
実施例6 メチルヘスペリジン経口摂取のUVB照射による角層機能低下の抑制効果
1)方法
ヘアレスマウスHR-1(雄性、9週齢)(日本SLC)を1週間予備飼育後、コントロール群、メチルヘスペリジン投与群とに分けた。尚、メチルヘスペリジンはアルプス薬品工業株式会社製の食品添加物用のものを用いた。試験期間中、飼料および水は自由摂取させ、温度23±1℃、湿度50±1%、照明時間7:00−19:00の条件下で飼育した。メチルヘスペリジン投与群は、100mg/kg体重 を、投与量が0.1mL/10g体重 になるように調製し、エマルジョン形態で、1日2回、2週間、胃ゾンデを用いて強制経口投与した。コントロール群は、メチルヘスペリジンを除いたものでエマルジョンとし、同様に経口投与した。経口投与2週後に、ペントバルビタール麻酔下にて、マウス背部に1.5cm×1.0cmの部位を近接して1列×1行=2ヶ所設定し、1mW/cm2のUVB照射線量で、0秒間(0mJ)と40秒間(40mJ)照射した(各1ヶ所)。照射48時間後に、ペントバルビタール麻酔下にて、Tewameterを用いて皮膚バリア機能の指標である経皮水分蒸散量(TEWL)を、Corneometerを用いて角層水分量(Capacitance)を計測した。各群について、40mJ(照射部位)の部位の値から0mJ(未照射部位)の部位の値を差し引き、各々ΔTEWL値、ΔCapacitance値で表した。
2)結果
結果を表9(ΔTEWL値)、表10(ΔCapacitance値)に示した。コントロール群と比較してメチルヘスペリジン(食品添加物用)投与群において、UVB照射によるTEWL値の上昇、および、Capacitance値の低下を抑制する効果が見出された。以上より、メチルヘスペリジンはUVB照射による皮膚バリア機能の低下、角層機能の低下を抑制する作用を有すると考えられた。
【0052】
【表9】

【0053】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルヘスペリジンを有効成分とする経口紫外線抵抗性向上剤。
【請求項2】
紫外線暴露により誘発される皮膚障害を軽減又は抑制する請求項1記載の経口紫外線抵抗性向上剤。
【請求項3】
紫外線暴露により誘発される皮膚障害が皮膚の炎症又は皮膚老化である請求項2記載の経口紫外線抵抗性向上剤。
【請求項4】
紫外線暴露により誘発される皮膚障害が、皮膚の紅斑、皮膚弾力性の低下、色素沈着、皮膚バリア機能の低下及び角層機能の低下から選ばれる1種以上である請求項2記載の経口紫外線抵抗性向上剤。

【公開番号】特開2011−105714(P2011−105714A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236692(P2010−236692)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】