説明

経路生成装置と方法および経路生成装置を備える移動装置

【課題】移動経路の探索において、移動装置の設定進行方向変化速度を考慮することで、移動装置が、より確実に移動経路に沿って走行できるようにする。
【解決手段】自律移動する移動装置の移動経路を生成する経路生成装置10であって、移動開始位置から目標到達位置までの間に設定され移動経路の生成の指標となる複数の経由位置を記憶した記憶装置3と、移動装置の現在位置を検出する位置検出装置5と、移動装置の移動中において、現在位置に基づいて、複数の経由位置のうち移動装置が次に通過する経由位置に向かうための移動経路を所定の経路探索条件の下で探索し生成する経路探索装置9と、を備える。経路探索条件は、移動装置の設定進行方向変化速度が、移動経路の曲率と移動装置の移動速度とにより定まる必要進行方向変化速度以上であるという進行方向変化速度条件を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律移動する移動装置の移動経路を生成する経路生成装置と方法および経路生成装置を備える移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自律移動する移動装置は、舗装路、未舗装路(オフロード)または屋内において自律的に移動するロボットや車両である。
移動装置が自律移動・走行するために、移動装置は、既知の地図上に設定された移動経路に沿って移動するように制御される(例えば、下記特許文献1)。
【0003】
この制御を行うために移動装置は、例えば記憶装置、内界情報検出装置、障害物検出装置、経路探索装置、制御装置を有する。
【0004】
記憶装置は、移動装置の移動範囲を含む領域の地図(地図情報)と、移動開始位置から目標到達位置までの設定経路(経路情報)と、を記憶する。地図情報は、例えば2次元座標による座標系である。経路情報は、移動開始位置から目標到達位置までの間に設定される複数の経由位置である。これら経由位置は後述する上記移動経路の生成・設定の指標となる。なお、これら経由位置は、上記座標系における座標であってよい。
【0005】
内界情報検出装置は、移動装置の現在位置、移動装置の進行方向、移動速度などの移動装置自体に関する情報を検出する。
【0006】
障害物検出装置は、移動装置の周囲(例えば、移動装置の進行側の所定領域内)において停止車両、凹凸地、壁などの障害物の有無およびその位置・範囲を検出する。
【0007】
経路探索装置は、例えば所定の周期で、移動装置の現在位置、障害物の位置・範囲、上記経路情報に基づいて、次の経由位置に向かうための移動経路を探索して生成する。即ち、経路探索装置は、検出された障害物を回避して現在位置から次の経由位置へ移動するための移動経路を探索して生成する。生成された移動経路は、移動装置の走行制御に使用するために記憶装置に設定・記憶される。
【0008】
制御装置は、移動装置の現在位置に基づいて、上述のように設定された移動経路に沿って移動装置が走行するように、移動装置の進行方向や速度などを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−248820号公報 「不整地移動ロボットの自律走行システム」
【特許文献2】特開2009−110154号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】The International Journal Robotics Research Vol. 22, No. 7−8, July−August 2003, pp.583−601
【非特許文献2】Journal of Field Robotics 23(5), 311−331(2006), 2006 Wiley Periodicals, Inc. Published online in Wiley InterScience(www.interscience.wiley.com), DOI: 10.1002/rob.20118
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
障害物と次の経由位置との位置関係や障害物の大きさなどによっては、障害物を回避して次の経由位置へ移動するための経路を見出せない場合がある。このような場合には、移動装置の移動が継続できなくなってしまう。
【0012】
この問題を解決するために、本出願人は、先に、上記の特許文献2を出願している。この特許文献2では、所定の経路探索条件の下で移動経路を見出せなかった場合に、経路探索条件を変更し、該変更した経路探索条件の下で移動経路を再び探索することで、移動装置の移動を継続させられる可能性を高めている。
【0013】
しかし、特許文献2では、移動装置の設定進行方向変化速度を考慮していないため、見つかった移動経路に沿って走行できないことがあり得る。移動装置は、その性能として、設定進行方向変化速度を有するため、移動中に、この設定進行方向変化速度による制限を超えるような速度で進行方向を変化させなければならない移動経路に沿って走行することができない。
【0014】
そこで、本発明の目的は、移動経路の探索において、移動装置の設定進行方向変化速度を考慮することで、移動装置が、より確実に移動経路に沿って走行できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明によると、自律移動する移動装置の移動経路を生成する経路生成装置であって、
移動開始位置から目標到達位置までの間に設定され前記移動経路の生成の指標となる複数の経由位置を記憶した記憶装置と、
前記移動装置の現在位置を検出する位置検出装置と、
移動装置の移動中において、前記現在位置に基づいて、前記複数の経由位置のうち移動装置が次に通過する経由位置に向かうための移動経路を経路探索条件の下で探索し生成する経路探索装置と、を備え、
前記経路探索条件は、移動装置の設定進行方向変化速度が、前記移動経路の曲率と移動装置の移動速度とにより定まる必要進行方向変化速度以上であるという進行方向変化速度条件を含み、
移動装置の設定進行方向変化速度は、移動装置に定められている、移動装置の進行方向変化量の時間変化率であり、
必要進行方向変化速度は、移動経路から反れることなく移動経路上を基準速度値で走行するために要求される移動装置の進行方向変化量の時間変化率である、ことを特徴とする経路生成装置が提供される。
【0016】
本発明の好ましい実施形態によると、前記基準速度値は、予め定められた移動装置の最低移動速度値である。
【0017】
代わりに、移動装置は、移動装置に設けられた速度指令装置から出力された一定の指令速度値に基づいて速度制御されるようになっており、前記基準速度値は、前記一定の指令速度値であってもよい。
【0018】
また、本発明によると、上述の経路生成装置と、該経路生成装置により生成された移動経路に沿って移動するように移動装置を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする移動装置が提供される。
【0019】
さらに、本発明によると、自律移動する移動装置の移動経路を生成する経路生成方法であって、
移動開始位置から目標到達位置までの間に設定され前記移動経路の生成の指標となる複数の経由位置を記憶した記憶装置と、前記移動装置の現在位置を検出する位置検出装置と、を設け、
移動装置の移動中において、前記現在位置に基づいて、前記複数の経由位置のうち移動装置が次に通過する経由位置に向かうための移動経路を所定の経路探索条件の下で探索して生成し、
前記経路探索条件は、移動装置の設定進行方向変化速度が、前記移動経路の曲率と移動装置の移動速度とにより定まる必要進行方向変化速度以上であるという進行方向変化速度条件を含み、
移動装置の設定進行方向変化速度は、移動装置に定められている、移動装置の進行方向変化量の時間変化率であり、
必要進行方向変化速度は、移動経路から反れることなく移動経路上を基準速度値で走行するために要求される移動装置の進行方向変化量の時間変化率である、ことを特徴とする経路生成方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
上述した本発明によると、移動装置の設定進行方向変化速度が、前記移動経路の曲率と移動装置の移動速度とにより定まる必要進行方向変化速度以上であるという進行方向変化速度条件を含む経路探索条件の下で移動経路を探索する。このように、移動装置の設定進行方向変化速度を考慮した経路探索を行うことで、移動装置が、より確実に移動経路に沿って走行できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態による経路生成装置の構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態による経路生成方法を示すフローチャートである。
【図3】移動装置の設定進行方向変化速度を説明する図である。
【図4】経路探索装置が生成する局所地図である。
【図5】積算長の計算方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を実施するための実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
[第1実施形態]
本実施形態による経路生成装置10は、図1に示すように、記憶装置3、位置検出装置5、経路探索装置9、障害物検出装置7を備える。
【0024】
記憶装置3は、移動装置の移動範囲を含む地図に関する地図情報と、該地図における位置を示す経由位置情報(即ち、経由位置)と、を記憶する。地図情報は、2次元の地図に関する情報であってよく、この地図情報は例えばx−y座標系であってよく、与えられたx座標とy座標により地図上の位置が特定されるものであってよい。経由位置情報は、移動装置の移動開始位置から目標到達位置までの間に設定された複数の経由位置の位置情報(例えば、x座標とy座標)である。これら複数の経由位置は、移動経路の生成の指標として、経路探索装置9に使用される。なお、複数の経由位置は、移動開始位置と目標到達位置を含んでよい。
【0025】
位置検出装置5は、移動装置の現在位置を検出する。位置検出装置5は移動装置に設けられる。位置検出装置5は、例えば、GPSシステムを利用してGPSシステム(GPS衛星)から位置に関する情報を受信し、当該情報に基づいて移動装置の現在位置を検出するGPS装置であってよい。
代わりに、位置検出装置5は、移動装置の移動速度、進行方向を随時検出し、検出した移動速度と進行方向と移動装置の初期位置情報に基づいて、移動装置の現在位置を演算して検出するものであってもよい。
【0026】
障害物検出装置7は、移動装置に設けられ、移動装置の進行の妨げとなる障害物を検出する。移動装置は、移動装置の周囲(例えば、移動装置が進行する側における所定の領域内)において停止車両、凹凸地、壁などの障害物およびその位置・範囲を検出する。障害物検出装置7は、例えば、レーザ光を射出し、このレーザ光の反射光を検出することで障害物を検出するものであってよい。この場合、障害物検出装置7は、移動装置の進行方向に複数のレーザビームを射出するレーザ光源と、これら射出されたレーザビームの反射光を検出して障害物の有無およびその位置・範囲を検出する反射光検出装置と、を有する。レーザ光源は、移動装置の進行方向と垂直な水平方向に関して互いに傾いた角度で、かつ、鉛直下方側に傾けて、複数のレーザビームを射出する。反射光検出装置は、射出されたレーザビームの反射光を受光し、受光した反射光に基づいて障害物の有無およびその位置・範囲を検出する。
なお、障害物検出装置7は、上記のものに限定されず他の公知の装置であってもよい。例えば、レーザ光を用いた障害物検出装置以外に、CCDカメラなどを用いた装置を障害物検出装置7としてもよい。
【0027】
経路探索装置9は、移動装置の移動中において、位置検出装置5が検出した上記現在位置に基づいて、前記複数の経由位置のうち移動装置が次に通過する経由位置に向かうための移動経路を所定の経路探索条件の下で探索し生成する。経路探索装置9は、コンピュータにより構成されてよい。移動装置は、移動装置に設けられた速度指令装置から出力される指令速度値に基づいて速度制御されるようになっている。
【0028】
本実施形態によると、経路探索装置9は、前記経路探索条件の下で前記移動経路を見出せなかった場合に、前記経路探索条件を変更し、該変更した経路探索条件の下で前記移動経路を再び探索する。
【0029】
前記経路探索条件(即ち、初期状態の経路探索条件)は、移動装置の設定進行方向変化速度(進行方向変化量の時間変化率)が、移動経路の曲率と移動装置の移動速度とにより定まる必要進行方向変化速度以上であるという進行方向変化速度条件を含む。
移動装置の設定進行方向変化速度は、移動装置の性能であり、移動装置に定められている、移動装置の進行方向変化量の時間変化率である。必要進行方向変化速度は、移動経路から反れることなく移動経路上を基準速度値で移動装置が走行するために要求される移動装置の進行方向変化量の時間変化率である。すなわち、必要進行方向変化速度は、移動装置が、移動経路から反れることなく当該移動経路における曲率が最大となる部分を基準速度値で通過するために要求される移動装置の進行方向変化量の時間変化率である。
【0030】
前記経路探索条件(即ち、初期状態の経路探索条件)は、さらに、障害物検出装置7が検出した障害物と移動経路とが干渉しないという干渉条件と、移動装置が前記指令速度値に基づいて速度制御されている状態で障害物検出装置が障害物検出を行うという障害物検出条件と、を含む。この場合、前記経路探索装置9は、前記経路探索条件の下で前記移動経路を見出せなかった場合に、当該経路探索条件の障害物検出条件において前記速度制御に使用された前記指令速度値(前回の指令速度値ともいう)よりも低速度で移動装置が移動するように、速度指令装置から出力された指令速度値を調整し(即ち、現時点の指令速度値が前回の指令速度値より大きい場合には、減少させ)、これにより、移動装置が該調整された指令速度値に基づいて速度制御されている状態で障害物検出装置が障害物検出を行うことで、経路探索条件を変更し、該変更した経路探索条件の下で移動経路候補を再び探索する。
また、前記経路探索条件(即ち、初期状態の経路探索条件)は、前記移動経路の曲率が該移動経路の全範囲にわたって許容上限値以下になるという曲率条件と、を含んでよい。なお、上述の基準速度値が、移動装置の最低移動速度値として定められている場合には、上述の許容上限値は、例えば、移動装置が許容上限値以下の曲率の箇所をこの最低移動速度値の速度で進行する場合に、移動装置が横滑りおよび横転することなく、当該箇所を進行できるように設定される。上述の最低移動速度値は、移動装置が移動中に当該最低移動速度以上で移動するように設定されたものである。
【0031】
移動経路の曲率に関する速度制御について説明する。上記速度指令装置は、後述のように設定された移動経路における、移動装置が通過する直前の箇所の曲率に基づいて指令速度値を出力してもよい。具体的には、上記速度指令装置は、横滑りおよび横転することなく当該箇所を移動装置が進行できるように、当該曲率に応じた指令速度値(例えば、当該曲率が大きいほど小さい指令速度値)を出力する。出力された指令速度値は、速度制御装置に入力され、この速度制御装置は、入力された指令速度値(即ち、この値が示す速度)で移動装置が移動するように移動装置の速度を制御する。これにより、移動装置は、設定された移動経路において、曲率の小さい箇所を通過する時ほど、より高速で移動する。
【0032】
また、前記経路探索装置9は、前記経路探索条件を満足する移動経路を見出せるまで、前記経路探索条件を変更し該変更した経路探索条件の下で移動経路を再び探索する処理を繰り返す。
【0033】
次に、経路生成装置10による移動経路の探索・生成について詳しく説明する。なお、以下の説明は、経路探索条件が、進行方向変化速度条件、干渉条件、障害物検出条件および曲率条件を含む場合と、障害物検出条件を省き、経路探索条件が、進行方向変化速度条件、干渉条件および曲率条件を含む場合の両方に対応している。
【0034】
移動経路の曲率をκ(S)とする。このκ(S)は次の式(Eq1)で表すことができる(例えば、非特許文献1)。

κ(S)=a+aS+a+・・・+an+1 ・・・(Eq1)

この式(Eq1)において、
nは、1または2以上の整数であり、
Sは、移動装置の現在位置から前記移動経路上の任意位置までの前記移動経路に沿った経路長さを示し、該Sの上限値は、該現在位置から前記移動経路の終了位置までの移動経路に沿った移動経路長さであり、
〜an+1は、係数である。
【0035】
上記κ(S)の式(Eq1)により移動経路(移動経路候補)を特定できる。即ち、Sをパラメータとして、移動経路の方位角(即ち、移動経路の接線方向)と移動経路上の位置とを次の[数1]の(Eq2)、(Eq3)で求めることができる。
【0036】
【数1】

【0037】
図2は、経路生成装置10による経路生成方法を示すフローチャートである。
【0038】
ステップS1では、経路探索装置9は、(例えば、2次元の)局所地図を生成する。即ち、経路探索装置9は、位置検出装置5により検出された移動装置の現在位置と障害物検出装置7による障害物探索領域とを含む範囲の地図情報を記憶装置3から抽出し、当該範囲の局所地図を生成する。この局所地図には、次の経由位置への方向情報が組み込まれていてよい。方向情報は、例えば、直前に通過した経由位置と次の経由位置とを結ぶ直線の方向であってよく、または、移動装置の現在位置から見た次の経由位置の方向であってもよい。この局所地図には、次の経由位置自体が組み込まれていてもよい。
なお、ステップS1で使用される現在位置と、障害物検出装置7による障害物検出結果情報(障害物の位置と範囲)とは、ステップS1を開始する毎に、それぞれ位置検出装置5および障害物検出装置7により獲得され、局所地図に組み込まれる。
【0039】
ステップS2では、移動経路を探索する。具体的には、前記経路探索装置9は、上記κ(S)の式(Eq1)を用いて、次の処理(A)または(B)を行う。
(A)前記複数の係数a〜an+1および前記Sの上限値にそれぞれ所定の値を与えることで得られるκ(S)について、該κ(S)により定まる移動経路が前記経路探索条件(進行方向変化速度条件と干渉条件と曲率条件)を満たすかを判断する。
(B)前記(A)の処理を複数回行う場合に、前記(A)の処理を行うごとにa〜an+1のうち少なくとも1つの値を変更して前記(A)の処理を行う。なお、前記Sの上限値は一定にしたまま前記(A)の処理を複数回行ってよいし、複数の前記(A)の処理うち少なくとも1回の処理で前記Sの上限値を変更してもよい。
経路探索装置9が、前記(A)または(B)の処理により、前記経路探索条件を満たす移動経路を見出せなかった場合には、ステップS3に進み、経路探索条件を満たす移動経路を見出せた場合、ステップS4へ進む。
【0040】
ステップS3では、経路探索条件を変更してステップS1に戻る。具体的には、ステップS3で、経路探索装置9は、前記指令速度値を上述のように調整することで、経路探索条件を変更する。すなわち、この後、ステップS1を経由してステップS2に戻った時に、調整した前記指令速度値により、当該ステップS2の判断を上述のように行う。
【0041】
特に、ステップS3において、直前のステップS2で進行方向変化速度条件が満たされなかった場合に、前記指令速度値を上述のように調整することで、経路探索条件が変更される。
【0042】
また、好ましくは、ステップS3では、前記指令速度値を調整し、ステップS1で、移動装置が該調整した指令速度値に基づいて速度制御されている状態で障害物検出装置7が障害物検出を再び行い、この障害物検出結果に基づいて上記局所地図を生成する。この時、移動装置の現在位置も位置検出装置5により再び検出され、この現在位置と再度行われた障害物検出結果とに基づいて局所地図が生成されてよい。
【0043】
ステップS4では、ステップS2で見出した移動経路を設定して設定移動経路を更新する。即ち、移動装置の進行制御にこれまで使用していた設定移動経路を、ステップS2で新たに見出した移動経路に置き換えることで、設定移動経路を更新する。なお、設定移動経路は記憶装置3に記憶される。更新したらステップS5へ進む。
【0044】
ステップS5では、経路探索装置9は、ステップS1で、局所地図の生成を開始してから所定時間(例えば、100ms)経過したかを、経路探索装置9に内蔵されたタイマーの時間計測により判断する。所定時間経過したと判断した場合には、ステップS1に戻り、所定時間経過していないと判断した場合にはステップS5の判断を繰り返す。
これにより、所定時間経過毎に、局所地図の生成および経路探索を行う。これに対応して、位置検出装置5は、上記の所定時間経過毎に移動装置の現在位置を検出し、障害物検出装置7は、上記の所定時間経過毎に障害物の検出を行う。
ステップS5からステップS1に戻りステップS2へ戻った時、当該時点での設定移動経路が経路探索条件を変更して得られたものである場合には、このステップS2での経路探索は、障害物検出条件以外は初期の経路探索条件(例えば、初期の進行方向変化速度条件と干渉条件と曲率条件)に戻して行う。ステップS2へ戻った時点での設定移動経路が初期状態の曲率条件で移動経路が見出されたものである場合には、当該ステップS2で、障害物検出条件も初期状態に戻して経路探索を行う。
【0045】
なお、ステップS1〜S3、S5の処理の最中に、移動装置の制御装置は、記憶装置3に記憶された上記の設定移動経路に沿って移動装置が移動するように移動装置を制御する。
【0046】
[第1実施形態の作用効果]
上述した第1実施形態の経路生成装置と方法によると、移動装置の設定進行方向変化速度が、前記移動経路の曲率と移動装置の移動速度とにより定まる必要進行方向変化速度以上であるという進行方向変化速度条件を含む経路探索条件の下で移動経路を探索する。このように、移動装置の設定進行方向変化速度を考慮した経路探索を行うことで、移動装置が、より確実に移動経路に沿って走行できるようになる。
【0047】
また、前記経路探索装置9は、前記経路探索条件の下で前記移動経路を見出せなかった場合に、前記経路探索条件を変更し、該変更した経路探索条件の下で前記移動経路を再び探索するので、移動経路をより確実に見出し、移動装置の移動を継続させられる可能性を効果的に高めることができる。
【0048】
さらに、移動経路が見出せない原因として、移動装置が高速で移動することにより移動装置が揺動・振動することで、障害物を誤って検出してしまう場合がある。例えば、揺動・振動により障害物検出装置の検出方向が下方側に変更されてしまい路面自体を障害物として検出してしまう場合がある。
これに対し、第1実施形態では、移動経路を見出せなかった場合に、指令速度値を調整し、移動装置がより低速で移動している状態で障害物検出装置7が障害物検出を行うので、障害物の誤検出により移動経路が見出せない可能性を効果的に小さくできる。
【0049】
許容上限値は、例えば、移動装置が許容上限値以下の曲率の箇所を進行する場合に、移動装置が横滑りおよび横転することなく、当該箇所を進行できるように設定される。
【0050】
[第1実施形態の実施例]
次に、第1実施形態の実施例について説明する。この実施例では、移動装置は車両であってよい。
【0051】
経路探索装置9は、障害物検出装置7が実際に検出した障害物の範囲を所定の大きさだけ拡大して上記局所地図上で認識する。即ち、障害物検出装置7が実際に検出した障害物の範囲が、所定の大きさ(例えば、車両幅の半分の大きさ+局所地図上の1ピクセル)だけすべての方向において拡大されて、局所地図上で認識・設定される。
【0052】
本実施例によると、移動経路の曲率を上述のようにκ(S)とするが、κ(S)をSの3次多項式とする。即ち、κ(S)を次の式(Eq4)で表す。

κ(S)=a+aS+a+a ・・・(Eq4)

この式(Eq4)において、
Sは、移動装置の現在位置から前記移動経路上の任意位置までの前記移動経路に沿った経路長さを示し、該Sの上限値は、該現在位置から前記移動経路の終了位置までの移動経路に沿った移動経路長さであり、
〜aは、パラメータ(係数)である。
【0053】
上記κ(S)によって、移動経路を表すことができる。即ち、a〜aに所定の値を与えることにより、言い換えると、a〜aの値が定まると移動経路が定まる。本実施例では、次の3つの境界条件を与えることで、例えば、a、a、aをaの関数で表現できる。
【0054】
境界条件:
(1)移動経路の開始点、即ち、移動装置の現在位置における曲率についての境界条件(Eq5)

κ(0)=κ=a ・・・(Eq5)

(2)探索・生成対象の移動経路(移動経路候補)の終了点S(即ち、Sの上限値)における曲率についての境界条件(Eq6)

κ(S)=κ=a+a+a+a ・・・(Eq6)

(3)探索・生成対象の移動経路(移動経路候補)の終了点Sにおける移動経路方向(移動経路の接線方向)についての境界条件(Eq7)

θ(S)=θ=a+a/2+a/3+a/4
・・・(Eq7)


なお、κ,κ,θは、既知であるとする。また、好ましくは、κは、ゼロであり、θは、移動経路の終了点と次の経由地点を結ぶ直線と同じ方向である。
【0055】
上記境界条件(Eq5)、(Eq6)、(Eq7)から,

+a=κ−κ−a ・・・(Eq8)

/3+a/4=θ−κ−a/2 ・・・(Eq9)

が得られ、従って、上式(Eq8)、(Eq9)により、次の3式からなる関係式1が得られる。
[関係式1]

=κ

=(−3κ−9κ)/S−3a/S+12θ/S

=4(κ+2κ)/S+2a/S−12θ/S

【0056】
よって、aをパラメータとして移動経路(軌道)を一意に求めることができる。これら、a、aおよびaの各々とa、κ、κ、Sとの上記関係式1は記憶装置3に記憶され、経路探索時に使用される。なお、上記のような境界条件を設定することで、aの値を与えると、a、a、aを短時間の演算で求めることができる。その結果、κ(S)により移動経路候補を短時間で特定できる。
【0057】
この実施例では、経路探索条件は、移動装置の設定進行方向変化速度(進行方向変化の時間変化率)が、必要進行方向変化速度以上であるという進行方向変化速度条件と、障害物検出装置7が検出した障害物と移動経路とが干渉しないという干渉条件と、移動装置が前記指令速度値に基づいて速度制御されている状態で障害物検出装置が障害物検出を行うという障害物検出条件と、前記移動経路の曲率が該移動経路の全範囲にわたって許容上限値以下になるという曲率条件と、設定長さを有する1つ以上の移動経路候補から干渉条件を満たすものを生成用の移動経路として選択するという生成経路選択条件と、を含む。
【0058】
(進行方向変化速度条件について)
移動装置の設定進行方向変化速度について説明する。移動装置の設定進行方向変化速度は、移動装置が有する進行方向変化速度が一定である場合には、当該一定値であり、移動装置が有する進行方向変化速度が一定でない場合には、当該進行方向変化速度の最大値である。移動装置の設定進行方向変化速度ωは、次式(Eq10)で表される。

ω=dφ/dt ・・・(Eq10)

ここで、φは、一定の基準水平方向と、移動装置の進行方向とのなす角φであり、tは、時間であり、dは微分を示す。すなわち、ωは、前記なす角φの時間微分で表される。
【0059】
設定進行方向変化速度ωについて、移動装置が上述のように車両である場合を説明する。設定進行方向変化速度ωは、次式(Eq11)で表される。

ω=dφ/dt=d(V×α)/dt ・・・(Eq11)

ここで、Vは、上述した指令速度値である。すなわち、Vは、速度指令装置から出力された指令速度値である。αは、移動装置の旋回半径の逆数であり、次式(Eq12)で表わされる。
【0060】

α=tanβ/W ・・・(Eq12)

ここで、βは、図3に示すように、移動装置の車体の前後方向Dbに対す前輪の回転角である。言い換えると、βは、前後方向Dbと前輪の向くDfとのなす角である。図3は、移動装置である車両の左右2つの前輪と左右2つの後輪を示す平面図である。前輪と後輪が路面と接触しながら、前輪と後輪の少なくともいずれか一方が回転駆動されることで、移動装置が走行する。この例では、前輪は、その中心Cfを通る鉛直軸周りに回転可能であるが、後輪は、回転不能である。図3のように、鉛直上方から見た場合に、前輪の中心Cfと後輪の中心Cbとを結ぶ直線の方向が、前後方向Dbである。
Wは、ホイールベースである。すなわち、Wは、車体の前後方向Dbにおける、前輪の中心Cfと後輪の中心Cbとの距離である。
なお、図3において、点Ciと点Cfとの距離が、移動装置の旋回半径1/αとなる。点Ciは、図3の平面において、前輪の中心Crを通り方向Dfを向く直線と直交する直線と、後輪の中心Cbを通り方向Dbを向く直線と直交する直線との交点である。
【0061】
従って、ω=d(V×α)/dtに、α=tanβ/Wを代入すると、設定進行方向変化速度ωは、次式(Eq13)のようになる。

ω=d(V×tanβ/W)/dt

=(V/W)×d(tanβ)/dt

=(V/W)×{d(tanβ)/dβ}×dβ/dt ・・・(Eq13)

dβ/dtは、回転角βの時間変化率であり、移動装置の性能による値である。なお、dβ/dtは、一定である場合には、当該一定値であり、一定でない場合には、当該dβ/dtの最大値である。
【0062】
必要進行方向変化速度について説明する。必要進行方向変化速度は、移動経路上を移動経路から反れることなく基準速度値で仮想点が移動する場合に、当該移動経路上の各位置に仮想点が位置することになる各時点における仮想点の移動方向の変化速度のうち最大となる値である。具体的には、移動経路全体における各位置について、次の[数2]の(Eq14)で表わしたdθ(S)/dtの値を算出し、これら各値のうちの最大値が、必要進行方向変化速度となる。
【0063】
【数2】

【0064】
この式中の記号について説明する。式中の時間tの原点は、対象とする移動経路の始点に位置する時であってよい。また、式中のVは、上述の基準速度値である。従って、この式中のVtの各値が、移動経路上における仮想点の各位置に相当する。
【0065】
(干渉条件に関連したUnknown領域について)
経由位置が予め車両が走行可能な領域(例えば、舗装路)に設定されている場合に、雨上がり時の小さな水溜りや、穴などの小さな窪みなどが存在する領域に対して障害物検出装置7が障害物検出を行うと、レーザ光の反射光が障害物の有無を認識できるように障害物検出装置7に帰ってこない場合がある。従って、水溜りや穴などの窪みが、本来、移動装置が走行できるものであっても、当該領域は、障害物の有無が認識できない領域(以下、Unknown領域という)となる。
本実施例では、Unknown領域により実際には進行可能な領域が排除されないようにするため、移動経路候補上において、Unknown領域が占める割合が、所定の閾値以上になった場合に、移動経路候補が障害物と干渉すると判断し、この移動経路候補を排除する。当該所定の閾値は、車両が走行する領域の環境と生成する移動経路の長さに基づいて定めてよく、例えば数十パーセントまたは数パーセントであってよい。これにより、実際には車両が進行可能である移動経路候補が排除されてしまう可能性を適切に下げることができる。
【0066】
(障害物検出条件について)
上記のステップS3において、指令速度値を調整により減少させ、移動装置が調整させられた前記指令速度値に基づいて速度制御されている状態で障害物検出装置が障害物検出を行うようにすることで、障害物検出条件の変更を行ってよい。
【0067】
(曲率条件について)
移動装置が走行する装置(例えば、車両)である場合、曲率κ(S)の許容上限値は、例えば、次の、κturn、κslip、κrolloverのうちの最も小さいものである。
(1)車両の最小旋回可能半径を示す移動経路の曲率κturn。
(2)車両が横滑りを起こさない限界の曲率κslip。即ち、移動経路上における曲率κslipより大きい曲率κ(S)の箇所で車両が横滑りする。
(3)車両が横転を起こさない限界の曲率κrollover。即ち、移動経路上における曲率κrolloverより大きい曲率κ(S)の箇所で車両が横転する。
なお、通常は、曲率κslipおよび曲率κrolloverの値は、曲率κturnの値よりも小さい。また、曲率κslipおよび曲率κrolloverの値は、車両の速度により変化し、一般的に、車両の速度が大きいほど減少する。また、曲率κslipの値は、車両とその走行面との動摩擦係数にも依存する。
従って、κ(S)が次の大小関係を満足する場合には、曲率条件が満たされることになる。

κ(S)≦κturn、かつ、κ(S)≦κslip、かつ、κ(S)≦κrollover、

このような曲率κslipおよび曲率κrolloverは移動装置(例えば、車両)の特性などに基づいて求めることができる。参考のために述べると、曲率κslipは、例えば非特許文献2に記載された式(2)であってもよく、曲率κrolloverは、非特許文献2に記載された式(4)であってもよい。
【0068】
(生成経路選択条件について)
経路探索装置9は、上記κ(S)により定められる移動経路を探索する時に、Sの上限値Sを設定長さの値に固定して、上記パラメータaの値を与えることで、上記関係式1からa、a、aの値を定め、これにより、定まる移動経路候補が、進行方向変化速度条件と干渉条件と曲率条件を満たすかを判断する。
【0069】
(設定値について)
経路探索装置9は、経路探索に使用するパラメータ・係数などに所定の値を与えて経路探索を行う。そのために、記憶装置3は、予め設定されたこれらパラメータ・係数の値を記憶する。具体的には、記憶装置3は、経路長Sの上限値S、a、κ,κ,θなどの各設定値を記憶する。
また、複数の移動経路候補を生成するために、aの複数の値を設定しておく。例えば、aの最小値aminおよびaの最大値amaxと、この最小値からのaの増加量daとを設定しておき、経路探索装置9は、amin、amin+da、amin+2da、a+3da・・・、amaxのそれぞれついて移動経路候補が定まるようにしておく。これにより、複数(例えば、21本)の移動経路候補を生成できる。
記憶装置3は、曲率κ(S)の許容上限値を記憶する。
また、κslipやκrolloverが移動装置の速度(例えば、上述の最低移動速度値)などの変数に依存する場合には、これら変数とκslipとの関係式と、これら変数とκrolloverとの関係式も記憶装置3に記憶させる。これにより、経路探索装置9は、任意の時に、これら変数の値に基づいて当該関係式を用いてκslipとκrolloverを演算し、κturn、κslip、κrolloverの大小を比較し、これらのうち最小のものを許容上限値として特定する。なお、κturnは記憶装置3に記憶された固定値であってよい、
さらに、記憶装置3は、Unknown領域に関する上述の所定の閾値、後述する経路長増加量・増加率などを記憶する。
【0070】
次に、本実施例による移動経路探索方法について説明する。この方法は、図2に示すフローチャートと同じ方法であるが、この実施例では、図2の方法の一例としてより詳しく説明する。以下では、上述しなかった点を詳しく述べるが、以下で述べない点は、上述と同じ内容であってよい。
【0071】
ステップS1では、上述のように局所地図を生成する。
【0072】
ステップS2では、移動経路を探索する。具体的には、上述のように設定した複数のaのそれぞれをκ(S)の式(Eq4)に適用する。a、a、aの値は、aの各設定値ごとに関係式1のようにa、κ、κ、S、θを用いて得られる。このようにして、複数の移動経路候補が生成される。
これら移動経路候補が、進行方向変化速度条件、干渉条件および曲率条件を満足するかを判断する。具体的には、進行方向変化速度条件に関しては、各移動経路候補について、上述した移動装置の設定進行方向変化速度ωが、該移動経路候補の必要進行方向変化速度以上であるかを判断し、そうである場合には、当該条件が満たされる。なお、経路探索装置9は、各移動経路候補毎に、上述の必要進行方向変化速度を算出し、この算出値を設定進行方向変化速度ωと比較することで、進行方向変化速度条件が満たされるかを判断する。干渉条件に関して、移動経路候補上にUnknown領域が存在しない場合には、上述のように移動経路候補が干渉条件を満たすかを判断する。移動経路候補上にUnknown領域が存在する場合、移動経路候補上においてUnknown領域が占める割合が所定の閾値より小さいかの判断をしてよい。この割合が所定の閾値より小さくない場合には、干渉条件が満たされないと判断してよい。曲率条件については、各移動経路候補について、κ(S)が、0≦S≦Sの全範囲にわたって、上述したκ(S)の許容上限値以下であるかを判断する。許容上限値以下である場合には、曲率条件が満たされることになる。
【0073】
このようにして、進行方向変化速度条件、干渉条件および曲率条件を満たす移動経路候補が存在しない場合には、即ち、移動経路候補のいずれもが進行方向変化速度条件、干渉条件および曲率条件のすべてを満足しない場合には、移動経路が見出されなかったことになり、ステップS3へ進む。一方、進行方向変化速度条件、干渉条件および曲率条件を満たす移動経路候補が存在する場合には、移動経路が見出されたことになり、ステップS4へ進む。
【0074】
ステップS3では、経路探索条件を変更する。この実施例では、上述の指令速度値の調整(減少)に加えて、経路長さSの上限値Sの値も増加させることで、経路探索条件を変更する。なお、上限値Sの値の増加は、記憶装置3に記憶された経路長増加量・増加率に基づいて行う。経路探索条件を変更したら、ステップS2へ戻り、変更した経路探索条件の下で、経路探索を行う。この再度の経路探索処理は、経路探索条件を変更した以外は、前回、ステップS2で行った処理と同じである。
このようにすることで、前回の経路探索では、移動経路候補上に障害物が存在していた場合でも、Sを増加させることで、上記関係式1によりa、aの値も変化し、κ(S)により定まる移動経路候補の経路も前回と異なったものとなる。しかも、生成される移動経路候補の全長も大きくなる。これにより、例えば図4に模式的に示すように、障害物を回避するように延びる移動経路候補が生成される可能性が効果的に高まる。なお、図4において、複数の細い曲線は、前回生成された移動経路候補を示し、太い曲線は今回生成された移動経路候補(図4では、簡単のため1本のみ)を示す。
【0075】
ステップS4では、ステップS2で見出した進行方向変化速度条件、干渉条件および曲率条件を満たす移動経路候補を新たな移動経路として、上述と同様に設定移動経路を更新する。
なお、ステップS4において、ステップS2で見出した進行方向変化速度条件、干渉条件および曲率条件を満たす移動経路候補が複数存在する場合には、経路探索装置9は、直前に通過した前回の経由位置と次の経由位置とを結ぶ直線を基準直線とし、この基準直線からの距離の積算値を求める。経路探索装置9は、積算値が最も小さくなる移動経路候補を選択し、選択した移動経路候補を新たな移動経路として、上述と同様に設定移動経路を更新し、ステップS5へ進む。
上記積算値は、例えば図5に示すすべての長さdLの総和である。具体的には、図5において、基準直線と対象の移動経路候補上の位置(x(S),y(S))との距離dLを、移動経路候補の開始点から終了点までにわたって、この移動経路候補に沿った距離dSごとの各位置に関して求め、求めた値dLの総和が上記積算値である。この時、基準直線の一方側にある移動経路候補上の位置についてはdLを正の値とし、基準直線の他方側にある移動経路候補上の位置についてはdLを負の値として、積算値を求める。これにより、次の経由位置に向かうための最短の移動経路を選択することが可能になる。
【0076】
ステップS5では、上述のように局所地図の生成を開始してから所定時間(例えば、100ms)経過したかを判断する。所定時間経過したと判断した場合には、ステップS1に戻り、所定時間経過していないと判断した場合にはステップS5の判断を繰り返す。
【0077】
本実施例では、移動装置の制御装置(速度制御装置)は、移動装置に設けられた速度指令装置から出力される指令速度値と、移動装置に設けられた速度検出装置に検出された移動装置の速度値とに基づいて、移動装置の速度を制御する。これにより、移動装置が指令速度値で走行するように制御される。
【0078】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態による経路生成装置と方法は以下で述べる点で、第1実施形態と異なる。第2実施形態による経路生成装置と方法の他の内容は第1実施形態と同じであってよい。
【0079】
第2実施形態によると、前記経路探索装置9は、経路探索時に、次の(a),(b)の処理を行う。
(a)前記経路探索装置9は、前記1つ以上の移動経路候補が進行方向変化速度条件と干渉条件を満足するかを判断する。
(b)該移動経路候補のいずれも進行方向変化速度条件と干渉条件を満足しないと判断した場合に、前記1つ以上の移動経路候補を変更し、該変更された1つ以上の移動経路候補が前記進行方向変化速度条件と干渉条件を満足するかを判断する。
なお、ここでは、上記(a)、(b)において、曲率条件と障害物検出条件を考慮しない。
【0080】
前記1つ以上の移動経路候補の変更は、前記設定長さの増加と、変更した前記1つ以上の移動経路候補の各々における前記現在位置からその任意の途中位置までの経路が、変更前の前記1つ以上の移動経路候補のいずれとも異なることと、によりなされている。
【0081】
第2実施形態によると、第1実施形態で述べたステップS2の処理を、第1実施形態と異なり次のように行う。
即ち、前記経路探索装置9は、上記κ(S)=a+aS+a+・・・+an+1の式を用いて、次の処理(A)または(B)を行う。
(A)前記Sの上限値および前記複数の係数a〜an+1にそれぞれ所定の値を与えることで得られるκ(S)について、該κ(S)により定まる前記移動経路候補が進行方向変化速度条件と干渉条件を満たすかを判断する。
(B)前記(A)の処理を複数回行う場合に、前記(A)の処理を行うごとにa〜an+1のうち少なくとも1つの値を変更して前記(A)の処理を行い、これにより、複数回の処理で得られる複数の前記移動経路候補について進行方向変化速度条件と干渉条件を満たすかを判断する。
【0082】
また、第2実施形態によると、ステップS2において、前記(A)または(B)の処理において前記移動経路候補のいずれも進行方向変化速度条件と干渉条件を満足しないと判断した場合に、ステップS3へ進む。
第2実施形態では、ステップS3において、前記係数a〜an+1の少なくともいずれかの値を、対応する当該係数に前記(A)または(B)の処理で与えた値から変更することで、前記1つ以上の移動経路候補を変更し、前記(A)または(B)の処理を再び行う。
【0083】
[第2実施形態の作用効果]
上述した第2実施形態の経路生成装置と方法によると、移動装置の設定進行方向変化速度が、前記移動経路の曲率と移動装置の移動速度とにより定まる必要進行方向変化速度以上であるという進行方向変化速度条件を含む経路探索条件の下で移動経路を探索する。このように、移動装置の設定進行方向変化速度を考慮した経路探索を行うことで、移動装置が、より確実に移動経路に沿って走行できるようになる。
【0084】
また、前記経路探索装置9は、前記経路探索条件の下で前記移動経路を見出せなかった場合に、前記経路探索条件を変更し、該変更した経路探索条件の下で前記移動経路を再び探索するので、移動経路をより確実に見出し、移動装置の移動を継続させられる可能性を効果的に高めることができる
【0085】
さらに、障害物検出装置7が検出した障害物(例えば、停止車両、穴、岩、壁など)と移動経路とが干渉しないという干渉条件を含む経路探索条件の下では、該障害物により移動経路を見出せない場合がある。この場合、移動経路候補を変更することで、障害物と干渉しないように延びる移動経路候補を見出せる可能性が効果的に高まる。
【0086】
さらに、第1実施形態と同様に、前記経路探索装置9は、移動経路を見出せるまで、前記経路探索条件を変更し該変更した経路探索条件の下で移動経路を再び探索する処理を繰り返すので、移動装置が進行可能な移動経路をより確実に見出せる。
【0087】
[経路生成装置を備える移動装置]
また、自律移動する移動装置は、第1実施形態または第2実施形態の経路生成装置10と、該経路生成装置10により生成された移動経路に沿って移動するように移動装置を制御する制御装置と、を備える。
制御装置は、上述の速度指令装置から出力される指令速度値、移動装置の現在の速度などに基づいて移動装置の速度制御を行う上述の速度制御装置を有する。また、移動装置は、位置検出装置5により検出された現在位置、上記生成された移動経路、移動装置の現在の進行方向などに基づいて移動装置の進行方向制御を行う方向制御装置を有する。速度制御装置は、経路探索装置9が指令速度値を減少させる場合には、減少させられた指令速度値に基づいて移動装置の速度制御を行う。
この移動装置は、上述と同様に移動経路をより確実に見出せるので、移動装置の自律移動を継続して行える。
【0088】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【0089】
前記速度指令装置が一定の指令速度値を出力するようにしてもよい。この場合には、上述した基準速度値は、当該一定の指令速度値であってよい。なお、この場合、他の点は、上述と同じであってよい。
また、上述した基準速度値は、上述の最低移動速度値でもなく、上述の一定の指令速度値でもない所望の設定値であってもよい。この場合、移動装置は、当該設定値以上の速度で移動する場合には、精度よく移動経路に沿って移動することができる。なお、この場合、他の点は、上述と同じであってよい。
【0090】
例えば、障害物を検出した時、所定の時間間隔で、各経由位置を通過する毎に移動経路を探索生成してよい。
【0091】
移動装置は、上述した実施例では車両であったが、本発明はこれに限定されない。例えば、移動装置は、自律走行または自律歩行するロボットであってもよい。
【0092】
また、本発明によると、上述した干渉条件、曲率条件、障害物検出条件、生成経路選択条件のうち1つ以上を省略したものを経路探索条件としてもよい。例えば、干渉条件は、予め障害物が存在しないことが分かっている場合などには、省略されてよく、曲率条件は、この条件を満たす移動経路のみが移動経路候補となる場合などには、省略されてよく、障害物検出条件は、高精度な障害物検出が要求されない場合などには、省略されてよく、生成経路選択条件は、必要に応じて省略されてよい。
【符号の説明】
【0093】
3 記憶装置、5 位置検出装置、7 障害物検出装置
9 経路探索装置、10 経路生成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自律移動する移動装置の移動経路を生成する経路生成装置であって、
移動開始位置から目標到達位置までの間に設定され前記移動経路の生成の指標となる複数の経由位置を記憶した記憶装置と、
前記移動装置の現在位置を検出する位置検出装置と、
移動装置の移動中において、前記現在位置に基づいて、前記複数の経由位置のうち移動装置が次に通過する経由位置に向かうための移動経路を経路探索条件の下で探索し生成する経路探索装置と、を備え、
前記経路探索条件は、移動装置の設定進行方向変化速度が、前記移動経路の曲率と移動装置の移動速度とにより定まる必要進行方向変化速度以上であるという進行方向変化速度条件を含み、
設定進行方向変化速度は、移動装置に定められている、移動装置の進行方向変化量の時間変化率であり、
必要進行方向変化速度は、移動経路から反れることなく移動経路上を基準速度値で走行するために要求される移動装置の進行方向変化量の時間変化率である、ことを特徴とする経路生成装置。
【請求項2】
前記基準速度値は、予め定められた移動装置の最低移動速度値である、ことを特徴とする請求項1に記載の経路生成装置。
【請求項3】
移動装置は、移動装置に設けられた速度指令装置から出力された一定の指令速度値に基づいて速度制御されるようになっており、
前記基準速度値は、前記一定の指令速度値である、ことを特徴とする請求項1に記載の経路生成装置。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載の経路生成装置と、該経路生成装置により生成された移動経路に沿って移動するように移動装置を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする移動装置。
【請求項5】
自律移動する移動装置の移動経路を生成する経路生成方法であって、
移動開始位置から目標到達位置までの間に設定され前記移動経路の生成の指標となる複数の経由位置を記憶した記憶装置と、前記移動装置の現在位置を検出する位置検出装置と、を設け、
移動装置の移動中において、前記現在位置に基づいて、前記複数の経由位置のうち移動装置が次に通過する経由位置に向かうための移動経路を所定の経路探索条件の下で探索して生成し、
前記経路探索条件は、移動装置の設定進行方向変化速度が、前記移動経路の曲率と移動装置の移動速度とにより定まる必要進行方向変化速度以上であるという進行方向変化速度条件を含み、
設定進行方向変化速度は、移動装置に定められている、移動装置の進行方向変化量の時間変化率であり、
必要進行方向変化速度は、移動経路から反れることなく移動経路上を基準速度値で走行するために要求される移動装置の進行方向変化量の時間変化率である、ことを特徴とする経路生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−150540(P2011−150540A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11327(P2010−11327)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(500302552)株式会社IHIエアロスペース (298)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】