説明

結晶の製造方法、結晶の製造装置および結晶育成用治具

【課題】ボイドの発生が抑制された良質な結晶を効率よく製造し得る結晶の製造方法および結晶の製造装置、およびかかる結晶の製造装置に用いられる結晶育成用治具を提供すること。
【解決手段】本発明の結晶の製造装置は、水熱合成法により人工的に結晶を製造するための装置である。この結晶の製造装置は、溶解液、結晶原料および種子結晶を収納するチャンバー2を有している。また、チャンバー2内には、種子結晶ごとに設けられた結晶育成用治具13が収納されている。結晶育成用治具13は、種子結晶の主面の一方を覆うように設けられた第1の面と、第1の面と直交する第2の面と、を有している。そして、結晶育成用治具13は、チャンバー2の横断面の中心Oを囲むように環状に配置され、好ましくは多重の同心円の環状に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶の製造方法、結晶の製造装置および結晶育成用治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化ケイ素の単結晶である水晶は、圧電デバイスや光学デバイスの原材料として、電子機器、通信機器、光学機器等に大量に使用されている。
このようなデバイス用の水晶は、当初、天然水晶から切り出して製造されていたが、近年は、より良質な水晶を効率よく製造できることから、工業的に育成した人工水晶から切り出す方法が用いられている。特に、光学フィルター等の光学素子用途において、高品質の水晶に対する需要が伸びている。
【0003】
人工水晶を製造する方法としては、結晶の製造方法の一つである水熱合成法(水熱温度差法、水熱育成法ともいう。)が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
水熱合成法は、圧力容器(チャンバー)内において、容器下部で水晶原料を溶解液に溶解させるとともに熱対流で循環させ、容器上部に固定した種子結晶に溶解液を接触させることにより、種子結晶を育成して人工水晶を製造する方法である。
【0004】
水熱合成法では、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液を充填したオートクレーブと呼ばれる高圧容器内において、高温高圧下で育成する。この育成法の特徴は、高圧容器内の下部を高温部、上部を低温部として、高圧容器内に温度差を設けることにより、高圧容器下部の高温部でラスカ(屑水晶)と呼ばれる水晶原材料をアルカリ水溶液に溶解させるとともに、高温になったアルカリ水溶液に対流を生じさせることである。この対流により前記溶液は高圧容器上部の低温部に上昇し、ここで冷却されて過飽和溶液となる。その結果、予め高圧容器上部の低温部に吊しておいた水晶の種子結晶上に過飽和状態となった酸化ケイ素(SiO)の結晶が析出し、結晶が成長する。このようにして人工水晶が製造される。
【0005】
ところが、水熱合成法では、アルカリ水溶液の対流が円滑に行われないと、人工水晶中にボイドが発生する。このようなボイドが発生すると、人工水晶の品質が低下することとなる。
また、水熱合成法では、アルカリ水溶液中に浮遊するアクマイト等の不純物が成長過程の人工水晶中に取り込まれる不良が発生することも課題となっている。これらの不純物も人工水晶の品質を低下させる一因である。
【0006】
かかる問題を解決するため、特許文献1では、圧力容器内の種子結晶の収納領域よりも上方に、複数の貫通孔を備え、溶解液の対流量を制御するフィルター部材を設けることにより、フィルター部材より上方の空間における過飽和度を高めることが提案されている。これにより、フィルター部材の上方において不純物粒子の生成が促され、さらにはフィルター部材によって不純物粒子が捕捉されることにより、種子結晶に不純物粒子が付着するのを抑制している。
しかしながら、この装置では、上昇流と下降流との区分けが十分になされないため、溶解液の供給が不足してボイドが発生するおそれがある。また、フィルター部材を使用することによって、圧力容器内において種子結晶を配置し得る容積が少なくなるため、人工水晶の収率が低下するという問題もある。
【0007】
一方、特許文献1に対して、種子の育成方法において当該種子の配置方法が大きく異なる文献、すなわち、種子結晶のZ軸の方向が圧力容器(オートクレーブ)の鉛直方向と平行になるように種子結晶を配置して当該種子結晶を育成する方法が記載されている特許文献としては、特許文献2〜4が提案されている。
ところが、特許文献2〜4には、不純物が人工水晶に取り込まれるのを防止することを目的の1つとして、種子結晶の一面に沿うように、すなわちZ軸に対して直交するように結晶種子の一面に設けられる抑制板について開示されているものの、これらの抑制板を単に用いたとしても、ボイドの発生を十分に抑制することができない。
【0008】
また、特許文献1と同じように結晶種子を配置する例として、特許文献5には、やはり種子結晶の一面に沿い、Z軸に対して直交するように設けられる治具が開示されており、このような治具を用いることにより、製造後の人工水晶に対してランバード加工を施すことが容易になることが開示されている。しかしながら、特許文献5に記載の方法によっても、ボイドの発生や不純物粒子の取り込みといった不具合を解消することは難しいのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−31254号公報
【特許文献2】特開2002−114599号公報
【特許文献3】特開2002−145699号公報
【特許文献4】特開2004−115364号公報
【特許文献5】特開2009−161368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、ボイドの発生が抑制された良質な結晶を効率よく製造し得る結晶の製造方法および結晶の製造装置、およびかかる結晶の製造装置に用いられる結晶育成用治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本発明の結晶の製造方法は、水熱合成法により、上下方向に伸びた筒状の育成炉中において種子結晶を育成する結晶の製造方法であって、
前記種子結晶の一方の主面を覆うように密着させた第1の面を備える治具を複数枚用い、前記各第1の面が前記育成炉の上下方向に対して直交するように、かつ、前記複数の治具が前記育成炉の横断面の中心を囲むように配置されている状態で前記種子結晶を育成することを特徴とする。
これにより、溶解液の対流を制御することができ、ボイドの発生が抑制された良質な結晶を効率よく製造することができる。
【0012】
[適用例2]
本発明の結晶の製造方法では、前記治具は前記第1の面に対して直交する第2の面を備え、
前記第2の面を含む部分が前記育成炉の内壁面側に位置するように、かつ、前記第2の面が前記第1の面よりも下方に位置するように、前記治具を配置することが好ましい。
これにより、溶解液の上昇流を種子結晶近傍に進入し易くするとともに、下降流が種子結晶側に逆流するのを抑制することができる。その結果、ボイドの発生と不純物粒子の取り込みとを抑制することができる。
【0013】
[適用例3]
本発明の結晶の製造方法では、前記種子結晶は、前記主面が育成すべき結晶のZ軸と直交し、側面が育成すべき結晶のX軸と直交するものであり、
前記治具を、前記第2の面を前記種子結晶の前記X軸の+方向の面を覆うように密着させた状態で用いることが好ましい。
これにより、品質に優れた−方向の面を確実に成長させることができ、より高品質な結晶を製造することができる。
【0014】
[適用例4]
本発明の結晶の製造方法では、前記育成炉を前記中心軸に直交する面で見たとき、前記育成炉の内壁の断面は円形をなし、
前記治具の前記第2の面の法線が前記内壁の断面の前記円形の中心を通過するよう前記治具を配置することが好ましい。
これにより、横断面内における溶解液の対流の偏りが抑制され、結晶成長の偏りも抑制されることとなる。その結果、品質あるいは成長速度において均質な結晶を製造することができる。
【0015】
[適用例5]
本発明の結晶の製造方法では、前記複数の治具を、前記中心を囲む多重の同心円の環状に配置することが好ましい。
これにより、溶解液の流れを阻害することなく、より多数の結晶育成用治具を配置することができる。その結果、結晶の品質を下げることなく、収率を高めることができる。
【0016】
[適用例6]
本発明の結晶の製造方法では、前記育成炉中には、前記上下方向に沿って複数の棒状体が配置されており、
前記複数の治具を、それぞれ前記棒状体に固定している状態で用いることが好ましい。
これにより、溶解液の対流を維持しつつ、結晶育成用治具を確実に機能させることができる。
【0017】
[適用例7]
本発明の結晶の製造方法では、前記複数の治具は、前記上下方向に沿って所定の間隔で多段に配置されており、
前記所定の間隔を、
前記棒状体に固定されたスペーサーにより規制し、
かつ、前記種子結晶の育成量以上に設定することが好ましい。
これにより、結晶育成用治具の取り付けを容易かつ確実に行うことができるので、結晶製造の準備を効率よく行うことができる。
【0018】
[適用例8]
本発明の結晶の製造装置は、内部に溶解液、原料および種子結晶を収納し、上下方向に伸びた筒状をなす育成炉本体と、
前記種子結晶の一方の主面を覆うように密着した第1の面を備える複数の治具と、
を備え、
前記複数の治具は、前記各第1の面が前記育成炉本体の上下方向に対して直交するよう配置され、前記育成炉本体の横断面の中心を囲むように配置されていることを特徴とする。
これにより、溶解液の対流を制御することができ、ボイドの発生が抑制された良質な結晶を効率よく製造可能な結晶の製造装置が得られる。
【0019】
[適用例9]
本発明の結晶育成用治具は、水熱合成法により、上下方向に伸びた筒状の育成炉中において種子結晶を育成するのに用いられる結晶育成用治具であって、
前記種子結晶の一方の主面を覆い得る第1の面と、前記第1の面に対して直交する第2の面と、を含み、
複数個の当該結晶育成用治具が、前記各第1の面が前記育成炉の上下方向に対して直交するように、かつ、前記育成炉の横断面の中心を囲むように配置されたとき、隣り合う前記結晶育成用治具同士の間が実質的に密着し得るよう構成されていることを特徴とする。
これにより、溶解液の対流を制御することができ、ボイドの発生が抑制された良質な結晶を効率よく製造する際に好適に用いられる結晶育成用治具が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の結晶の製造装置の実施形態を示す概略図(縦断面図)である。
【図2】図1に示す結晶の製造装置のA−A線断面図(製造装置内に配置された結晶育成用治具の平面図)である。
【図3】図2に示す結晶育成用治具を固定するための枠の構成を示す正面図である。
【図4】図2に示す結晶育成用治具の1つの拡大図および2方向からの側面図である。
【図5】図4に示す結晶育成用治具に種子結晶を固定した状態を示す平面図である。
【図6】図1に示す結晶の製造装置内における溶解液の対流の向きを模式的に示す図である。
【図7】スペーサーの正面図および側面図である。
【図8】従来の結晶育成用治具の1つの拡大図および2方向からの側面図である。
【図9】図8に示す結晶育成用治具を用いた従来の結晶の製造装置を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の結晶の製造方法、結晶の製造装置および結晶育成用治具を、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
(結晶の製造装置および結晶育成用治具)
図1は、本発明の結晶の製造装置の実施形態を示す概略図(縦断面図)、図2は、図1に示す結晶の製造装置のA−A線断面図(製造装置内に配置された結晶育成用治具の平面図)、図3は、図2に示す結晶育成用治具を固定するための枠の構成を示す正面図、図4は、図2に示す結晶育成用治具の1つの拡大図および2方向からの側面図、図5は、図4に示す結晶育成用治具に種子結晶を固定した状態を示す平面図、図6は、図1に示す結晶の製造装置内における溶解液の対流の向きを模式的に示す図である。なお、以下の説明では、図1中の上側を「上」、下側を「下」という。
【0022】
図1に示す結晶の製造装置(オートクレーブ、育成炉)1は、水熱合成法により結晶を育成するための装置である。
この結晶の製造装置1は、結晶の原料を溶解する溶解液5、結晶原料11および種子結晶12を収納し、鉛直方向(上下方向)に長い形状をなす育成炉本体であるチャンバー2と、このチャンバー2の外周部に設けられ、チャンバー2を加熱することにより、チャンバー2内において溶解液5に熱対流を生じさせる加熱手段9と、を有している。なお、図1では、種子結晶12の図示を省略している。
【0023】
また、チャンバー2内には、種子結晶12ごとに設けられた結晶育成用治具(本発明の結晶育成用治具)13が複数個収納されている。結晶育成用治具13は、種子結晶12の主面の一方を覆うように設けられた第1の面131と、第1の面131と直交する第2の面132と、を有している。そして、種子結晶12が固定された複数個の結晶育成用治具13は、図2に示すように、チャンバー2の中心を囲むように環状に配置されている。
【0024】
このような結晶育成用治具13を備えた結晶の製造装置1を用いることにより、溶解液5の対流が円滑になるよう制御されるとともに、種子結晶12における不純物粒子の付着が防止されるよう制御される。その結果、ボイドの発生や不純物粒子の取り込みが抑制された良質な結晶を効率よく育成することができる。
ここで、水熱合成法により人工的に製造可能な結晶としては、酸化ケイ素の単結晶(水晶)、酸化鉄の単結晶(マグネタイト)、酸化アルミニウムの単結晶(コランダム)、酸化亜鉛の単結晶、硫化亜鉛の単結晶等が挙げられる。以下においては、水晶の製造装置および製造方法を例に説明するが、他の単結晶の製造装置および製造方法については、原料や溶解液、製造条件等が異なる以外、水晶の場合と同様である。以下、結晶の製造装置1の各部について詳述する。
【0025】
図1に示すチャンバー2は、有底筒状の本体部2aと、本体部2aの上部開口を密閉する蓋部2bとで構成されている。
本体部2aの全体形状は、特に限定されないが、断面形状がほぼ円形をなす円筒形状をなしているのが好ましい。これにより、内部に収納された溶解液5を鉛直方向に容易かつ確実に熱対流させることができる。また、後述するように、チャンバー2の内部を加圧する場合には、円筒形状であれば、チャンバー2に対して優れた耐圧性を付与できる。
本体部2aの寸法は、好ましくは内径300〜1000mm程度、高さ(長さ)5〜20m程度とされる。
【0026】
チャンバー2(本体部2aおよび蓋部2b)の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、高張力鋼、ステンレス鋼のような鉄系金属、チタン系金属、アルミ系金属、ニッケル系金属等が挙げられる。これらの中でも高張力鋼が好ましく用いられる。高張力鋼は、引張強度が特に高く、チャンバー2の耐圧力を特に高めることができる。
チャンバー2の耐圧力としては、特に限定されないが、50MPa以上であるのが好ましく、100MPa以上であるのがより好ましい。水熱合成法では、チャンバー2内に高い圧力を付与することで、溶解液5中により多量の酸化ケイ素(水晶、SiO)を溶解する必要があるが、上記耐圧力であれば、数ヶ月の長期間に渡って高い圧力が付与された場合にも、チャンバー2の破損を確実に防止することができる。
【0027】
また、チャンバー2(特に、本体部2a)の内壁は、溶解液5に対する耐食性がより高い材料で構成するようにしてもよい。このような材料としては、例えば、フッ素樹脂のような樹脂材料、金、白金のような貴金属材料等が挙げられる。
また、チャンバー2には、図示しない加圧手段が設けられている。この加圧手段は、チャンバー2内を加圧するものであり、チャンバー2内を加圧することにより、溶解液5に対する酸化ケイ素の溶解度を高めることができる。また、加圧力を調整することにより、溶解液5に対する酸化ケイ素の溶解度を変化させることもできる。
【0028】
また、チャンバー2の上部(蓋部2b)には、圧力計27、安全弁28が備えられている。圧力計27により、チャンバー2内の圧力をモニターすることで、チャンバー2内を所定の圧力に維持することができる。また、所定の圧力を超えた場合に安全弁28が自動的に圧力を解放することで、不要な圧力によるチャンバー2の破損を防止することができる。
【0029】
チャンバー2の内部には、対流制御板(バッフル板)3がチャンバー2内の空間を上下に仕切るように設けられている。これにより、チャンバー2内には、対流制御板3より下方の第1の空間21と、対流制御板3より上方の第2の空間22とが画成されている。
これらの空間のうち、第1の空間21には、結晶原料11が収納され、第2の空間22には、結晶育成用治具13とこれに固定された種子結晶12とが収納される。そして、第1の空間21および第2の空間22に溶解液5が満たされている。
ここで、水晶原料である結晶原料11は、水晶を製造するための酸化ケイ素を供給する供給源となるものである。
この結晶原料11には、例えば、天然水晶の小片であるラスカが用いられる。また、水晶以外の結晶を育成する場合には、各種子結晶の成分を含む鉱物等を用いればよい。
【0030】
第2の空間22に収納される種子結晶12は、結晶を再結晶・成長させるための核となるものである。
この種子結晶12が種子水晶(水晶種子)であるときには、例えば、Y軸方向に細長い棒状の「Y棒」、Y軸方向に長くX軸方向に幅を有する板状の「Z板」等の水晶片等が用いられるが、本発明では特にZ板が好ましく用いられる。Z板を用いることにより、特に光学特性に優れた人工水晶を育成することができる。
【0031】
溶解液5は、第1の空間21に収納された結晶原料11から溶解した酸化ケイ素を、第1の空間21から第2の空間22へと運搬する媒体として機能する。
この溶解液5には、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液、炭酸ナトリウム(NaCO)水溶液のようなアルカリ溶液、硝酸アンモニウム(NHNO)水溶液、硝酸ナトリウム(NaNO)水溶液、硝酸カルシウム(Ca(NO)水溶液のような溶液等が挙げられるが、アルカリ溶液が好ましい。アルカリ溶液は、酸化ケイ素に対して特に高い溶解度を有することから、酸化ケイ素を運搬する媒体として好適である。
【0032】
また、アルカリ溶液の中でも、特に水酸化ナトリウム水溶液または炭酸ナトリウム水溶液を用いるのが好ましい。これらのアルカリ溶液は、化学的な安定性が高く、比較的安価であるため、酸化ケイ素を運搬する媒体として特に好適である。
また、溶解液5としてアルカリ溶液を用いる場合、その溶質(アルカリ物質)の濃度は、1重量%以上10重量%以下程度であるのが好ましく、2重量%以上5重量%以下程度であるのがより好ましい。これにより、チャンバー2の腐食・劣化や、雑晶の生成を最小限に抑制しつつ、最大の水晶の析出速度を得ることができる。
【0033】
対流制御板3は、第1の空間21と第2の空間22との間で対流する溶解液5の対流量を、制御する機能を有するものである。
本実施形態に係る対流制御板3は、溶解液5の通過を許容する貫通孔が複数形成された板状体のもので構成されている。これにより、熱対流に伴って溶解液5が第1の空間21から第2の空間22へと上昇、および、第2の空間22から第1の空間21へと下降することができる。また、これにより、第1の空間21と第2の空間22との間に、前記対流量に応じた温度差を形成することができる。
なお、この対流制御板3では、貫通孔の大きさや数等を適宜設定することにより、溶解液5の対流量を制御することができる。
【0034】
対流制御板3の貫通孔の開口率は、目的とする溶解液5の対流量に応じて適宜設定され、特に限定されないが、3%以上50%以下程度であるのが好ましく、5%以上40%以下程度であるのがより好ましい。これにより、溶解液5の熱対流を適度に制御して、対流制御板3で仕切られる上下の各空間(第1の空間21と第2の空間22)の温度差を最適な範囲内に維持することができる。その結果、第1の空間21と第2の空間22との間で、溶解液5に対する酸化ケイ素の過飽和度に差が生じさせ、水晶の析出をより確実に制御することが可能となる。具体的には、第2の空間22における溶解液5に対する酸化ケイ素の過飽和度を、第1の空間21における溶解液5に対する酸化ケイ素の過飽和度より高くすることにより、過飽和状態となった酸化ケイ素を種子結晶12の表面に優先的に析出させることができる。
このような対流制御板3の構成材料としては、例えば、チャンバー2の構成材料で挙げた材料と同様の材料を用いることができる。
【0035】
一方、第2の空間22には結晶育成用治具13が収納されている。結晶育成用治具13は、図4(a)に示すように、平面視において細長い略六角形をなす第1の面131を有している。そして、6つの辺のうちの1つからは、図4(b)に示すように、第1の面131に対して直交する第2の面132が立ち上がっている。これらの第1の面131および第2の面132のそれぞれの側方から見たとき、結晶育成用治具13は、図4(c)に示すように、板状体をL字状に折り曲げたようになっている。また、結晶育成用治具13は、第2の面132を含む部分がチャンバー2の内壁面側に位置するよう配置されている。
【0036】
このような結晶育成用治具13には、図5(a)に示すように、種子結晶12の2つの主面のうちの一方が第1の面131によって覆われるように種子結晶12が配置される。そして、図5(a)では、結晶育成用治具13に設けられた固定用孔133に緊縛糸134を通すことにより、種子結晶12が緊縛固定されている。図5(a)では、平面視において長方形をなす種子結晶12の2つの短辺近傍が結晶育成用治具13に対して固定されている。
なお、種子結晶12の固定方法はこれに限定されず、例えば、図5(b)に示すように種子結晶12の4つの角部を緊縛糸134により固定してもよく、図5(c)に示すように種子結晶12の短辺全体を緊縛糸134により固定してもよい。
緊縛糸134としては、例えば、金属繊維、炭素繊維、樹脂繊維等が挙げられる。
【0037】
種子結晶12が固定された結晶育成用治具13は、図2に示すように、チャンバー2の横断面内に複数のものが配置され、その配置は、前記横断面の中心Oを囲むような環状に設定される。図2では、結晶育成用治具13が2重の同心円の環状に配置されており、このうち、内側の1重目では、3枚の結晶育成用治具13が環状に配置されている一方、外側の2重目では、6枚の結晶育成用治具13が環状に配置されている。その結果、図2に示す結晶の製造装置1では、1つの前記横断面内において9枚の結晶育成用治具13が配置されている。なお、図2では、結晶育成用治具13を固定するための枠体14およびチャンバー2は破線で図示されており、結晶育成用治具13および結晶育成用治具13を枠体14に固定するためのスペーサー15は実線で図示されている。
【0038】
図6は、図1に示す結晶の製造装置1において、溶解液5の対流の向きを矢印で模式的に示す図である。各結晶育成用治具13は、図6に示すように、第1の面131がそれぞれ下方に向き、第2の面132が第1の面131より下方に位置し、かつ第2の面132が前記横断面の中心Oを通過する中心軸に向くように、配置されている。
そして、種子結晶12は、各結晶育成用治具13の第1の面131および第2の面132に対して主面および側面がそれぞれ当接するように固定されている。例えば、種子結晶12がZ板の場合、主面であるZ面(育成すべき結晶のZ軸に直交する面)の一方が第1の面131に当接し、側面であるX面(育成すべき結晶のX軸に直交する面)の一方が第2の面132に当接するよう固定されるのが好ましい。これにより、成長速度が速く、高品質な結晶を生み易いZ面を効率よく成長させることができる。
【0039】
また、結晶育成用治具13は、図2に示すように、1つの前記横断面内において9枚が配置されており、かつ、図6に示すように、上下方向において所定の間隔で複数段に配置されている。各結晶育成用治具13は、それぞれ、図2に示すように枠体14に固定されている。枠体14は、図3に示すように、上下方向に伸びる複数の支柱(棒状体)141と、複数の支柱141を上端、下端および中間部においてそれぞれ固定する固定環142と、固定環142内において水平方向に設けられた複数の梁143と、で構成されている。このような枠体14は、表面積が小さいため、これに溶解液5の対流を阻害し難い。このため、枠体14に結晶育成用治具13を固定することによって、溶解液5の対流を維持しつつ、結晶育成用治具13を確実に機能させることができる。
【0040】
各結晶育成用治具13は、それぞれの長手方向の両端において支柱141に固定されている。結晶育成用治具13には、平面視において、この支柱141を嵌め込むための半円状の凹み135が形成されている。この凹み135に支柱141を嵌め込むことにより、隣り合う結晶育成用治具13は、支柱141を包み込むように配置されることとなる。その結果、隣り合う結晶育成用治具13同士の間は、図2に示すように実質的に密着することとなり、環状に配列した結晶育成用治具13は、第2の空間22を内側と外側とに確実に分割することができる。このように空間が分割されると、溶解液5には円滑な対流が生起される。
【0041】
具体的には、図6に示すように、前記横断面の中心Oを通過する中心軸に沿って、昇温した溶解液5により上昇流Rが生起される。そして、結晶育成用治具13の第2の面132を含む部分は、チャンバー2の内壁面側に位置するよう配置されているので、反対側(中心軸側)には比較的広い隙間が開くこととなる。このため、溶解液5はこの広い隙間から、所定の間隔で上下方向に並んだ結晶育成用治具13同士の間に円滑に進入することができる。結晶育成用治具13同士の上下間に進入した溶解液5は、第1の面131および第2の面132に当接するよう設けられた種子結晶12に接触し、酸化ケイ素を析出させて結晶育成に供される。その後、結晶育成に供された溶解液5は、第2の面132の下方に開いた隙間から、結晶育成用治具13とチャンバー2の内壁面との間に形成された空間に出る。この空間には、冷却された溶解液5により下降流Dが生起されており、隙間から出た溶解液5もこれに合流する。
【0042】
このような一連の流れに伴い、種子結晶12には常に過飽和度の高い溶解液5が円滑に供給され続けることになり、結晶成長中のボイドの発生が抑制される。特に、結晶育成用治具13が、中心Oを囲むように環状に配置されたことにより、その内側と外側とで溶解液5の対流を区分けすることができるため、溶解液5の対流を極めて円滑にすることができるのである。
【0043】
また、下降流Dには上昇流Rに比べて不純物粒子が比較的高い濃度で含まれるが、前述したように、第2の面132の下方に開いた隙間は比較的狭いこと、および、第1の面131との接続線から第2の面132が下方に伸びていることにより、下降流Dは種子結晶12側に逆流することが抑制される。その結果、種子結晶12に不純物粒子が取り込まれるのを抑制することができる。
なお、この不純物粒子としては、育成する結晶が水晶の場合、アクマイト、エメリューサイト、ペクトライト等が挙げられる。
【0044】
また、図2に示すチャンバー2の内壁面の横断面形状は円形であるから、第2の面132の法線がその円の中心を通過するように各結晶育成用治具13が配置されていることが好ましい。これにより、前記横断面内における溶解液5の対流の偏りが抑制され、結晶成長の偏りも抑制することができる。その結果、品質あるいは成長速度において均質な結晶を製造することができる。
【0045】
また、種子結晶12がZ板の場合、X面のうち、+方向の面が第2の面132に当接するよう、各結晶育成用治具13に対して種子結晶12を固定することが好ましい。X面においては、+方向に比べて−方向に成長させた方が結晶の品質が高いので、+方向の面が成長しないように第2の面132に当てておくことにより、品質に優れた−方向の面を確実に成長させることができるとともに、品質の高い結晶の生産性を高め収率を向上させることができる。その結果、より高品質な結晶の製造において、生産性を向上し収率を上げることができる。
【0046】
なお、種子結晶12の一方の主面が第1の面131に接していることから、種子結晶12は他方の主面側に成長することとなる。その結果、一方の主面は、育成終了後も種子結晶12の初期の面そのものであるから、育成後の結晶を加工する際の基準面として利用することができる。例えば水晶の場合、育成後の結晶に対してランバード加工を行うが、この基準面を利用することで、ランバード加工を容易かつ正確に行うことができる。
【0047】
また、結晶育成用治具13を、前述したように2重の同心円の環状に配置したことにより、前述したような溶解液5の流れを阻害することなく、より多数の結晶育成用治具13を配置することができる。その結果、結晶の品質を下げることなく、収率を高めることができる。
また、結晶育成用治具13は、第2の面132が上記のように中心O側を向き、かつ、第2の面132を含む部分がチャンバー2の内壁面側に位置するよう配置されるのが好ましいが、この配置は特に限定されず、例えば第2の面132が中心Oとは反対側を向いていてもよい。この場合でも、結晶育成用治具13が環状に配置されていれば、溶解液5の円滑な対流が確保される。
【0048】
また、上下方向において複数段に結晶育成用治具13を配置する際には、各結晶育成用治具13を枠体14に固定するのにスペーサー15が用いられる。このスペーサー15は、結晶育成用治具13を固定する機能と、結晶育成用治具13の上下方向の間隔を規制する機能と、を併せ持つものである。このため、スペーサー15を用いることで、結晶育成用治具13の取り付けを容易かつ確実に行うことができるので、結晶製造の準備を効率よく行うことができる。
【0049】
図7は、スペーサー15の正面図および側面図である。
図7に示すスペーサー15は、図7(a)および図7(b)に示すように、底面がU字状をなすような柱状体である。スペーサー15の側面には、支柱141を嵌め込むことが可能な凹部151が設けられている。凹部151を支柱141に嵌め込むことにより、スペーサー15の上面および下面がそれぞれ結晶育成用治具13に当接し、これにより結晶育成用治具13の上下方向の間隔を規制することができる。
【0050】
また、スペーサー15には、図7(c)に示すような切り欠き152が形成されている。支柱141に設けた突起部にこの切り欠き152を係合させることにより、スペーサー15を支柱141に対して容易に固定することができる。なお、支柱141に設けた突起部に代えて、ボルト等を切り欠き152に挿入し、支柱141に対して固定するようにしてもよい。
【0051】
また、結晶育成用治具13の平面視形状は、上述したような略六角形に限定されず、例えば長円、楕円等の円形、四角形、五角形、八角形等の多角形等であってもよいが、六角形や八角形のような多角形が好ましく用いられる。このような形状であれば、環状に配列したときに隣り合う結晶育成用治具13同士の間を実質的に密着させた状態で配置し易く、かつ、多重に同心円の環状に配置したときには内側や外側の結晶育成用治具13が相互に干渉し難く高密度に配置し易いという利点がある。なお、実質的に密着させた状態とは、結晶育成用治具13や枠体14の寸法のバラツキ等の原因により、不可避的に生じる隙間がなければ、理論上は結晶育成用治具13同士を密着させ得る構造であることをいう。また、図4に示す結晶育成用治具13の形状は、熱対流に対する抵抗が最小になる形状という点でも有用である。
【0052】
また、結晶育成用治具13を構成する材料は、種子結晶12を固定し得るとともに溶解液5に対して耐久性を有する材料であれば特に限定されないが、例えば、鉄、チタン、アルミニウム、ニッケル、またはこれらの合金のような各種金属系材料、アルミナ、ジルコニア等の各種セラミックス系材料、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂のような各種樹脂系材料等が挙げられ、これらの複合材料も用いられる。
このうち、鉄または鉄基合金が特に好ましく用いられる。これにより、結晶育成用治具13は、十分な機械的強度と化学的安定性とを併せ持つものとなり、長期にわたる結晶の育成期間中も、種子結晶12を固定し続けることができる。
【0053】
なお、スペーサー15および前述した枠体14の構成材料も、結晶育成用治具13の構成材料と同様である。
また、結晶育成用治具13の板厚は、特に限定されないが、0.2mm以上3mm以下程度であるのが好ましく、0.3mm以上2mm以下程度であるのがより好ましく、0.5mm以上2mm以下程度であるのがさらに好ましい。
なお、チャンバー2の横断面において、結晶育成用治具13が占める割合(遮蔽率)は、面積比で30%以上98%以下程度であるのが好ましく、40%以上95%以下程度であるのがより好ましく、40%以上80%以下程度であるのがさらに好ましい。これにより、溶解液5の円滑な熱対流を確保しつつ、十分な収率を確保することができる。
【0054】
また、結晶育成用治具13において、第1の面131からの第2の面132の立ち上がり高さh1(図6参照。)は、種子結晶12の大きさや育成量およびチャンバー2の大きさ等に応じて適宜設定されるが、一例として15mm以上60mm以下程度であるのが好ましく、20mm以上50mm以下程度であるのがより好ましい。
また、結晶育成用治具13を上下方向において複数段に配置する場合、上下に隣り合う第1の面131の間隔h2(図6参照。)は、前述した比較的広い隙間に相当するものであるが、種子結晶12の大きさや育成量およびチャンバー2の大きさ等に応じて適宜設定され、一例として、20mm以上100mm以下程度であるのが好ましく、30mm以上80mm以下程度であるのがより好ましい。
【0055】
さらに、結晶育成用治具13において、第2の面132を含む部分同士の間隔h3(図6参照。)は、前述した比較的狭い隙間に相当するものであり、一例として、5mm以上50mm以下程度であるのが好ましく、10mm以上30mm以下程度であるのがより好ましい。
そして、この間隔h3は、前述した間隔h2の20%以上50%以下程度であるのが好ましく、30%以上40%以下程度であるのがより好ましい。これにより、間隔h2と間隔h3とのバランスが最適化され、上昇流から間隔h2への流入量を十分に確保しつつ、下降流から間隔h3への逆流を確実に抑制することができる。その結果、ボイドの発生と不純物粒子の取り込みの双方を確実に抑制することができる。
【0056】
チャンバー2には、その長手方向に沿って加熱手段9が設けられている。
図1に示す加熱手段9は、第1の空間21に対応する部分に設けられたヒーター91と、第2の空間22に対応する部分に設けられたヒーター92と、で構成されている。
各ヒーター91、92は、それぞれ、チャンバー2の外周面に巻き付けられるように取り付けられている。これにより、第1の空間21および第2の空間22内の溶解液5を、それぞれチャンバー2の周方向においてムラなく加熱し、溶解液5に鉛直方向の熱対流を確実に生じさせることができる。
【0057】
このようなヒーター91、92は、例えば、シーズヒーター等で構成することができる。このシーズヒーターは、発熱線が金属管中に封入されてなるヒーターであるため、発熱線の酸化等による劣化を抑制し、長期間の連続加熱が可能である。
また、これらのヒーター91、92は、図示しない制御手段により、それぞれ独立して出力を制御するよう構成されている。すなわち、第1の空間21内の溶解液5の温度および第2の空間22内の溶解液5の温度が、それぞれ異なるように制御し得るよう構成されている。これにより、第1の空間21内の過飽和度および第2の空間22内の過飽和度が、それぞれ異なるように調整することができる。
なお、各ヒーター91、92は必要に応じて設ければよく、一部を省略してもよい。
【0058】
(結晶の製造方法)
次に、上述した結晶の製造装置1を用いた結晶の製造方法(本発明の結晶の製造方法)について説明する。
[1] まず、チャンバー2内の第1の空間21に結晶原料11を入れるとともに、第2の空間22に種子結晶12を固定した結晶育成用治具13を取り付ける。そして、チャンバー2内に溶解液5を所定量満たす。
このとき、溶解液5の量(チャンバー2の容積に対する充填率)としては、種子結晶12が浸される量であり、例えば60%以上95%以下程度であるのが好ましく、70%以上85%以下程度であるのがより好ましい。
【0059】
[2] 次に、チャンバー2の内部を加圧する。
チャンバー2内部を加圧する際の圧力としては、50MPa以上200MPa以下程度であるのが好ましく、90MPa以上150MPa以下程度であるのがより好ましい。チャンバー2内の圧力が前記範囲を超えると、チャンバー2の耐圧力を高めるために、チャンバー2の構成材料を引張強度のより高い高価な材料に変更したり、チャンバー2の肉厚を厚くする必要が生じ、製造コストの増大につながる。これに対し、チャンバー2内の圧力が前記範囲を下回ると、酸化ケイ素の溶解液5に対する溶解度が低下し、水晶の析出速度が低下するおそれがある。
【0060】
[3] 次に、ヒーター91、92を制御して、第1の空間21および第2の空間22をそれぞれ加熱する。これにより、チャンバー2内は、高温・高圧状態となり、酸化ケイ素の溶解液5に対する溶解度が増加する。その結果、結晶原料11中の酸化ケイ素が溶解液5中に多量に溶解する。
加熱の際には、チャンバー2内の第1の空間21および第2の空間22の溶解液5の温度が、それぞれ異なる温度になるように加熱するのが好ましい。
【0061】
具体的には、ヒーター91、92をそれぞれ制御して、第1の空間21内の溶解液5の温度より第2の空間22内の溶解液5の温度が低くなるように加熱するのが好ましい。これにより、チャンバー2内に温度差が生じ、この温度差に伴う熱対流によって、溶解液5に一定の流れが生起する。
すなわち、このような温度差を設けることだけで、第2の空間22内の過飽和度を第1の空間21内の過飽和度より高くすることができ、種子結晶12を成長させることができる。
【0062】
具体的な温度差としては、第2の空間22内の溶解液5の温度は、第1の空間21の溶解液5の温度より20℃以上60℃以下程度低くなるよう設定されるのが好ましく、30℃以上50℃以下程度低くなるよう設定されるのがより好ましい。これにより、第1の空間21と第2の空間22との間に適度な過飽和度の差が生じ、種子結晶12の成長速度が最適化される。
このような温度差を設けた場合、第1の空間21内の溶解液5の温度は、好ましくは360℃以上410℃以下程度、第2の空間22内の溶解液5の温度は、好ましくは320℃以上360℃以下程度とされる。
【0063】
[4] 前記工程[3]の状態で所定の期間放置することにより、種子結晶12の表面に水晶を連続的に析出・成長させる。
放置期間(成長期間)は、必要とする水晶(育成する結晶)のサイズや過飽和状態となった水晶(酸化ケイ素)が溶解液から析出する析出速度によっても異なるが、1ヶ月以上6ヶ月以下程度が好ましい。
以上のようにして、結晶が得られる。
【0064】
このような本発明によれば、ボイドの発生が抑制された良質な結晶を高い製造歩留まりで製造することができる。そして、結晶育成用治具13の配置を工夫することにより、不純物粒子の取り込みも抑制された、より良質な結晶を製造することができる。
育成により得られた結晶は、種々の分野で用いられる。例えば、水晶は、水晶発振器、水晶振動子のような水晶デバイス、光学フィルター、波長板のような光学デバイス、SAWフィルターのような弾性表面波素子等の各種デバイスの原材料として好適に用いられる。
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、本発明の結晶の製造装置および結晶育成用治具を構成する各部は、同様の機能を発揮する任意のものと置換、または、その他の構成を追加することもできる。
【実施例】
【0065】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.人工水晶の作製
(実施例)
図1および図2に示す人工水晶の製造装置を用いて人工水晶を作製した。作製時の条件を以下に示す。
【0066】
チャンバーの寸法 :内径650mm×高さ14m
チャンバーの構成材料 :高張力鋼
チャンバー内の圧力 :130MPa
溶解液の組成 :水酸化ナトリウム水溶液
溶解液の濃度 :4重量%
溶解液の充填率 :85%
種子結晶の種類 :Z板水晶
種子結晶のサイズ :長軸210mm、短軸85mm
対流制御板の開口率 :10%
結晶育成用治具の遮蔽率 :60%
第1の面に当接させる結晶面 :Z面
第2の面に当接させる結晶面 :X面の+方向
第2の面の立ち上がり高さh1 :40mm
第1の面の間隔h2 :50mm
第2の面を含む部分の間隔h3 :15mm
間隔h2に対する間隔h3の割合:30%
第1の空間内の溶解液の温度 :390℃
第2の空間内の溶解液の温度 :350℃
育成期間 :3ヶ月
人工結晶の作製個数 :1100個
なお、結晶育成用治具同士の間は実質的に密着していた。
【0067】
(比較例)
図8および図9に示す結晶育成用治具を用いるようにした以外は、前記実施例と同様にして人工水晶を作製した。なお、図8は、従来の結晶育成用治具の1つの拡大図および2方向からの側面図、図9は、図8に示す結晶育成用治具を用いた従来の結晶の製造装置を示す横断面図である。
【0068】
比較例1において用いた結晶育成用治具8は、細長い略八角形の主部81と、主部81の短辺に設けられた側部82と、を有している。主部81は、種子結晶12を固定し得るようになっている。
この結晶育成用治具8は、図9に示すように、チャンバーの横断面内において一定の間隔を保ちながら配置される。なお、図9においては、結晶育成用治具8を実線で、結晶育成用治具8を固定するための台座およびチャンバーの内壁面をそれぞれ破線にて示している。
【0069】
2.評価
2.1 ボイドの発生の評価
実施例および比較例で得られた各1100個の人工水晶について、それぞれ人工水晶中に含まれるボイドの発生率、すなわち全1100個中においてボイドが発生した人工水晶の個数の割合を算出した。その結果を表1に示す。
【0070】
2.2 不純物粒子取り込みの評価
実施例および比較例で得られた各1100個の人工水晶について、それぞれ人工水晶中に含まれる不純物粒子の含有密度(1cm当たりの不具合の個数)を算出した。そして、算出結果について、含有密度が低い方から、A級、B級、C級、D級の4段階で評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1から明らかなように、実施例で得られた人工水晶は、A級の割合が97%と高く、いわゆる良品率が高かった。また、光学素子の中でも特に不具合の許容度が小さい一眼レフカメラ用の光学素子にも適用可能な高品質の人工水晶が高い歩留まりで得られた。
一方、比較例で得られた人工水晶は、A級の割合が70%未満であり、実施例に比べて良品率が低かった。
以上のことから、本発明によれば、良質な結晶を高い歩留まりで効率よく製造できることが明らかとなった。
【0073】
3.結晶育成用治具の形状変更による品質比較
前述した実施例で使用した結晶育成用治具の一部の形状を変更したものを用いた以外、前記実施例と同様にして実施例A、実施例B、実施例C、実施例D、実施例Eにより人工水晶を製造した。
(実施例A)
結晶育成用治具の立ち上がり高さh1 :55mm
第2の面の間隔h2 :50mm
第2の面を含む部分の間隔h3 :5mm
間隔h2に対する間隔h3の割合 :10%
【0074】
(実施例B)
結晶育成用治具の立ち上がり高さh1 :45mm
第2の面の間隔h2 :50mm
第2の面を含む部分の間隔h3 :10mm
間隔h2に対する間隔h3の割合 :20%
【0075】
(実施例C)
結晶育成用治具の立ち上がり高さh1 :30mm
第2の面の間隔h2 :50mm
第2の面を含む部分の間隔h3 :20mm
間隔h2に対する間隔h3の割合 :40%
【0076】
(実施例D)
結晶育成用治具の立ち上がり高さh1 :15mm
第2の面の間隔h2 :50mm
第2の面を含む部分の間隔h3 :30mm
間隔h2に対する間隔h3の割合 :60%
【0077】
(実施例E)
結晶育成用治具の立ち上がり高さh1 :10mm
第2の面の間隔h2 :50mm
第2の面を含む部分の間隔h3 :40mm
間隔h2に対する間隔h3の割合 :80%
【0078】
次いで、前述した実施例で得られた人工水晶および上記実施例A〜Eで得られた人工水晶について、ボイドの発生率および不純物粒子の含有密度を比較した。その結果、前述した実施例の人工水晶と、実施例Bおよび実施例Cの人工水晶は、それぞれ同等の品質であった。また、これらに比べ、実施例Aの人工水晶はボイドの発生率がやや高く、実施例Dの人工水晶は不純物粒子の含有密度がやや高かった。さらに、実施例Eの人工水晶はボイドの発生率および不純物粒子の含有密度の双方が高かった。
以上の結果から、結晶育成用治具の形状を最適化することにより、ボイドの発生と不純物粒子の取り込みの双方を抑制し得ることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0079】
1……結晶の製造装置(オートクレーブ、育成炉) 2……チャンバー 2a……本体部 2b……蓋部 3……対流制御板 11……結晶原料(ラスカ) 12……種子結晶(水晶種子) 13……結晶育成用治具 131……第1の面 132……第2の面 133……固定用孔 134……緊縛糸 135……凹み 14……枠体 141……支柱 142……固定環 143……梁 15……スペーサー 151……凹部 152……切り欠き 21……第1の空間 22……第2の空間 27……圧力計 28……安全弁 5……溶解液 8……結晶育成用治具 81……主部 82……側部 9……加熱手段 91、92……ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水熱合成法により、上下方向に伸びた筒状の育成炉中において種子結晶を育成する結晶の製造方法であって、
前記種子結晶の一方の主面を覆うように密着させた第1の面を備える治具を複数枚用い、前記各第1の面が前記育成炉の上下方向に対して直交するように、かつ、前記複数の治具が前記育成炉の横断面の中心を囲むように配置されている状態で前記種子結晶を育成することを特徴とする結晶の製造方法。
【請求項2】
前記治具は前記第1の面に対して直交する第2の面を備え、
前記第2の面を含む部分が前記育成炉の内壁面側に位置するように、かつ、前記第2の面が前記第1の面よりも下方に位置するように、前記治具を配置する請求項1に記載の結晶の製造方法。
【請求項3】
前記種子結晶は、前記主面が育成すべき結晶のZ軸と直交し、側面が育成すべき結晶のX軸と直交するものであり、
前記治具を、前記第2の面を前記種子結晶の前記X軸の+方向の面を覆うように密着させた状態で用いる請求項2に記載の結晶の製造方法。
【請求項4】
前記育成炉を前記中心軸に直交する面で見たとき、前記育成炉の内壁の断面は円形をなし、
前記治具の前記第2の面の法線が前記内壁の断面の前記円形の中心を通過するよう前記治具を配置する請求項2または3に記載の結晶の製造方法。
【請求項5】
前記複数の治具を、前記中心を囲む多重の同心円の環状に配置する請求項1ないし4のいずれかに記載の結晶の製造方法。
【請求項6】
前記育成炉中には、前記上下方向に沿って複数の棒状体が配置されており、
前記複数の治具を、それぞれ前記棒状体に固定している状態で用いる請求項1ないし5のいずれかに記載の結晶の製造方法。
【請求項7】
前記複数の治具は、前記上下方向に沿って所定の間隔で多段に配置されており、
前記所定の間隔を、
前記棒状体に固定されたスペーサーにより規制し、
かつ、前記種子結晶の育成量以上に設定する請求項6に記載の結晶の製造方法。
【請求項8】
内部に溶解液、原料および種子結晶を収納し、上下方向に伸びた筒状をなす育成炉本体と、
前記種子結晶の一方の主面を覆うように密着した第1の面を備える複数の治具と、
を備え、
前記複数の治具は、前記各第1の面が前記育成炉本体の上下方向に対して直交するよう配置され、前記育成炉本体の横断面の中心を囲むように配置されていることを特徴とする結晶の製造装置。
【請求項9】
水熱合成法により、上下方向に伸びた筒状の育成炉中において種子結晶を育成するのに用いられる結晶育成用治具であって、
前記種子結晶の一方の主面を覆い得る第1の面と、前記第1の面に対して直交する第2の面と、を含み、
複数個の当該結晶育成用治具が、前記各第1の面が前記育成炉の上下方向に対して直交するように、かつ、前記育成炉の横断面の中心を囲むように配置されたとき、隣り合う前記結晶育成用治具同士の間が実質的に密着し得るよう構成されていることを特徴とする結晶育成用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−95643(P2013−95643A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241267(P2011−241267)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】