説明

結晶化ガラスはんだおよびその使用

本発明は、特に高温使用のために適した、結晶化ガラスはんだおよび複合物、および例えば燃料電池内でのその使用に関する。該結晶化ガラスはんだは、質量%で、25%ないし40%のSiO2、45%ないし60%のBaO、5%ないし15%のB23、0ないし<2%のAl23、並びにMgO、CaOおよびSrOの群からの少なくとも1つのアルカリ土類金属酸化物を含み、その際、CaOは0%ないし5%であり、且つ、温度範囲20℃〜300℃で8.0・10-6-1ないし13.0・10-6-1の熱膨張係数によって優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に高温使用のために適した、結晶化ガラスはんだおよび複合物、およびその使用に関する。
【0002】
ガラスはんだは、通常、ジョイント接合(Fuegeverbindung)を製造するために、殊にガラスおよび/またはセラミック部品を互いに、または金属製の部品と共に接合するために使用される。ガラスはんだの開発の際、その組成は、しばしば、持続的に安定なジョイント接合を得るためにガラスはんだの熱膨張係数が互いに接合される部品の熱膨張係数にほぼ適合するように選択される。他のジョイント接合、例えばプラスチックからのものに対して、ガラスはんだに基づくものは、それが密閉性に仕上げられ、且つ高温に耐えることができるという長所を有している。
【0003】
ガラスはんだは一般にしばしば、ガラス粉末から製造され、それがはんだ付け工程の際に溶融し、且つ、熱の作用下で接合される部品とのジョイント接合がもたらされる。はんだ付け温度は、通例、ほぼ、いわゆるガラスの半球温度の高さで選択されるか、または通常、±20Kだけそこから相違することがある。半球温度は、顕微鏡法において、ホットステージ顕微鏡を用いて測定できる。それは、最初の円筒状の試料体が共に溶融して半球形態の塊になるという特徴を示す温度である。相応する専門文献から得られる通り、約logη=4.6の粘度が半球温度に対応付けられる。ガラス粉末の形態での無結晶化ガラスが溶融され、且つ再度冷却されてそれが硬化すると、それは通常、同一の溶融温度で再度溶融される。それは、無結晶化ガラスはんだとのジョイント接合について、そのジョイント接合が持続的に晒されることがある運転温度がはんだ付け温度よりも高くてはならないことを意味する。実際には、運転温度は多くの使用の際にはんだ付け温度よりなお著しく下でなければならず、なぜなら、ガラスはんだの粘度は昇温の際に減少し、且つ、いわば流動性のガラスが高い温度および/または圧力の際、ジョイント接合から絞り出されることがあり、その機能を失することがあるからである。
【0004】
これに基づき、高温使用のための非結晶化ガラスはんだは通常、後の運転温度よりもさらに明らかに高いはんだ付け温度もしくは半球温度を有していなければならない。後の運転温度と比較すると明らかに高いはんだ付け温度により生じることがある1つの問題は、互いに接合する部品の損傷である。従って、可能な限り低いはんだ付け温度を有するが、しかしそれにもかかわらず可能な限り高い運転温度を可能にするガラスはんだが望ましい。これは、所望のガラスはんだが、第一のはんだ付け工程の後にはもう、はんだ付け温度よりも高い温度でしか再度溶融可能でないことを意味する。
【0005】
純粋な非結晶化ガラスはんだでは、それは簡単には達成されない。しかしながら、基礎ガラスがはんだ付け工程の際に少なくとも部分的に結晶化する(その際、該結晶相は明らかに基礎ガラスとは相違する、例えば熱膨張に関する特性を有することができるが、しかし殊に再度溶融するために必要な温度は通例、明らかに基礎ガラスのものを上回っている)場合、かかる要求を満たすガラスはんだを得ることができる。少なくとも部分的に結晶化したガラスはんだの特性は、最初の基礎ガラスの組成によって直接的に影響され得るが、しかし、通例、結晶性の構造を有し且つはんだガラスに添加される適した充填剤によっても影響される。ガラスはんだと充填剤との混合物は、この開示において複合物として示される。
【0006】
ガラスはんだおよび/または複合物の結晶化特性は、ジョイント接合の作製の際の加工性、並びにジョイント接合の耐久性のために際立って重要である。ジョイント工程は一般に、ジョイント温度への加熱、ジョイント温度でのジョイント部分へのガラスはんだの導入、および加工物およびガラスはんだがジョイント温度より低い結晶化温度に保たれる結晶化段階を含む。ガラスはんだは、最適には、加熱の際、まだ結晶化されないか、またはゆっくりとだけ結晶化されるべきであり、なぜなら、そうでなければ、ジョイントされる表面がよく濡れず、それは明らかにより高いジョイント温度によって補償されなければならないからである。高められたジョイント温度によって、ジョイント接合の金属成分は望ましくない酸化反応に至ることがある。生じる特定の厚さの酸化物層は、はんだ付け工程の際に既に剥がれ落ち、従って密な接合を妨げることがある。さらに、そのような高いはんだ付け温度の際には、しばしばジョイント接合部品の成分であるステンレスからのCrの蒸発が増加する。結晶化段階における温度冷却の際、可能な限り速く結晶化を行うべきであり、しかしながらその際、最適には、ガラスはんだは完全には結晶化されているのではなく、アモルファスのガラス質相が残っている。残留ガラス相は、ガラスはんだの脆い挙動を防ぎ、且つ、ジョイント内のひび割れの修復に寄与することすらある。
【0007】
かかるガラスはんだおよび/または複合物の使用分野は、例えば自動車内のエネルギー源として使用されることができる高温燃料電池内のジョイント接合である。重要な燃料電池の種類は、例えばいわゆるSOFC(固体酸化物型燃料電池)であり、それは約1000℃までの非常に高い運転温度を有することができる。その際、ガラスはんだを用いたジョイント接合は通常、積層型燃料電池の製造のために、即ち複数の個々の燃料電池を接合して積層物にするために使用される。かかる燃料電池は、既に公知であり、且つ、常に改良されている。殊に、最近の燃料電池開発における傾向は一般に、より低い運転温度に向かっている。いくつかの燃料電池は、既に800℃未満の運転温度に達しているので、はんだ付け温度の低下が可能であり、その際、はんだ付け工程の際のSOFC素子の低い温度負荷に基づき、望まれてもいる。
【0008】
ガラスはんだの高温耐性および加工性の他に、例えば高温燃料電池内では、ガラスはんだの低い導電性も不可欠であり、それにより一般に無アルカリのはんだが必要とされる。
【0009】
さらには、この分野において、物質、例えばPb、結晶化および加工性に大きな影響を有するガラスはんだ用の非常によくある成分のないはんだでなければならないという要求がある。
【0010】
DE19857057号C1は、10.0・10-6-1ないし12.4・10-6-1の熱膨張係数α(20-950)を有する無アルカリのガラスセラミックスはんだについて記載している。そこに記載されるはんだは、20ないし50mol%のMgOを含有している。高MgO含有ガラスは、実際には、強く結晶化感受性であり、これにより速く且つ強く結晶化する化合物をみちびく。かかる速く且つ強い結晶化の際、ガラスはんだによって相互接続材料の良好な濡れを確実にすることは困難である。しかしそのことは、その都度の要求を最適に満たすジョイント接合を提供できるようにするためには必要である。
【0011】
同様にガラスセラミックスはんだは、US6532769号B1およびUS6430966号B1内に記載されている。これらは約1150℃のはんだ付け温度用に設計されており、且つ、5ないし15mol%のAl23を含有する。かかる高いはんだ付け温度は、現代の燃料電池用には望ましくなく、なぜなら、それは金属基板材料および他の温度敏感な材料に強すぎる負担をかけるからである。
【0012】
DE102005002435号A1は、アモルファスのガラスマトリックスおよび結晶相からなる複合はんだを含んでいる。その際、ガラスマトリックスは高含有率のCaOを有し、しかしながらそれらは比較的高い粘度、非常に強い結晶化および高い誘電損失をみちびく。
【0013】
この開示の範囲内で、「結晶化ガラスはんだ」の概念は、はんだ付けプロセスまたは好ましくは引き続くプロセスの間に、少なくとも部分的に結晶化し、その際、まだアモルファスのガラス質相もガラスはんだ中に存在することがあるガラスはんだを含む。相応して、まだアモルファスのガラス質相がガラスはんだ中に存在していることがある場合でも、加工後のガラスはんだの状態が結晶化として示されている。
【0014】
従って、本発明の課題は、アルカリおよび鉛のないはんだガラスを提供すること、並びに、このはんだガラスを含む結晶化ガラスはんだもしくは複合物であって、最大約1100℃のはんだ付け温度で加工され、はんだ付けプロセス終了後のその粘度は、約850℃までの運転温度の際に、ジョイント接合から絞り出されないために、および/または流出しないためにまだ充分に高く、且つ、20℃ないし300℃の温度範囲内でのその熱膨張α(20-300)は、結晶化状態で8.0・10-6-1ないし13.0・10-6-1の範囲内であり、且つ、それにより適した鋼材に適合する、結晶化ガラスはんだもしくは複合物である。結晶化ガラスはんだは、ジョイント位置への導入のために溶融される際に結晶化するべきではなく、且つ、結晶化プロセス後、少なくとも20質量%且つ最高80質量%の結晶性部分を有するべきである。
【0015】
さらに、ガラス質状態において、および結晶化状態において、あまりに違いすぎない結晶化ガラスはんだの線形の熱膨張を有することが課題であり、なぜなら、そうでなければ、結晶化プロセスによって、安定性を危うくする機械的な張力が溶融物中で生じるからである。同様に、結晶化の際、ジョイント接合の機械的な破壊につながり得る、非常に相違する熱膨張を有する望ましくない結晶相が形成されてはならない。
【0016】
その課題は、独立請求項による結晶化ガラスはんだおよび/または複合物によって解決される。好ましい実施態様は、従属請求項からもたらされる。
【0017】
本発明によれば、結晶化ガラスはんだは(酸化物ベースに対する質量%で)45%ないし60%のBaO、25%ないし40%のSiO2、5%ないし15%のB23、0%ないし<2%のAl23、並びに、MgO、CaO、およびSrOの群からの少なくとも1つのアルカリ土類金属酸化物を含有し、その際、CaOは0ないし5%であり、且つ、アルカリ土類金属酸化物MgO、CaOおよびSrOの合計は0%ないし20%、好ましくは2%ないし15%である。さらなる添加物も可能である。結晶化ガラスはんだの概念は、本発明の意味において、はんだ付け工程の前にはんだガラスとして使用されるアモルファスの基礎ガラスのみならず、とりわけガラス質の、結晶化された、部分結晶化された、ガラスセラミックスの、またはそれ以外の形態で存在し得る、基礎ガラスからはんだ付け工程の際に生じる材料も含む。
【0018】
結晶化ガラスはんだは、本発明によれば(酸化物ベースに対する質量%で)45%ないし60%のBaOを含有する。バリウム酸化物の割合が60%より大きい場合、ガラスはんだはバリウムシリケート結晶を形成する傾向がある。バリウム酸化物の割合が45%よりも小さい場合、所望の熱膨張係数が達成されないことがある。さらなるガラス成分およびその原子量に応じて、本発明による熱膨張を有する結晶化安定なガラスが、50%ないし58%のバリウム酸化物含有率の際に得られる。従って、好ましくは、本発明による結晶化ガラスはんだは、45%ないし58%のBaOを含有する。
【0019】
結晶化ガラスはんだは、MgO、CaOおよびSrOの群からの少なくとも1つのアルカリ土類金属酸化物を含有する。これらの成分を用いて、ガラスはんだの結晶化挙動および熱膨張に影響を及ぼすことができる。驚くべきことに、本発明によるガラスはんだの場合、SiO2の代わりにMgOの添加によって、結晶化傾向を抑制できることが判明した。さらなる良い効果は、誘電損失をMgO含有ガラスによって低下できることである。さらには、網目構造変化アルカリ土類金属酸化物によって溶融温度およびガラス転移温度を下げることができる。Al23またはSiO2の代わりのMgOの供給は、さらに、熱膨張係数の上昇を生じさせ、且つ、それにより、ガラスはんだを溶融される部品に適応させることが容易になる。従って、本発明によるガラスはんだは、(酸化物ベースに対する質量%で)20%までのMgOおよび/またはCaOおよび/またはSrO、および好ましくは2%ないし15%のMgOおよび/またはCaOおよび/またはSrOを含有する。
【0020】
23含有率は、結晶化挙動の他に、溶かし込み挙動およびそれによりガラス溶融にも良い方向で影響する。そのため、B23含有率は、少なくとも5%である。これに対して、高すぎるB23含有率はガラスはんだの化学耐性に悪い結果をもたらすことがある。さらに、B23含有率が15%を上回る場合、ガラスはんだからのホウ素酸化物の蒸発が生じ、それは同様に望ましくない。従って、結晶化ガラスはんだは、好ましくは(酸化物ベースに対する質量%で)5%ないし15%のB23を含有する。
【0021】
本発明者らは、ガラスはんだの2%を上回るAl23含有率は、この特性に悪影響することを見出した。従って、Al23含有率は、本発明において2%のAl23(質量%)までに制限されている。本発明による結晶化ガラスはんだの低いAl23の割合により、望ましくない結晶相、例えばBaAl2Si28、いわゆるバリウム長石が形成し得なくなる。化合物BaAl2Si28について、非常に異なる熱膨張係数を有する2つの相: 2.2・10-6-1の熱膨張係数を有するセルシアン、および7.1・10-6-1の熱膨張係数を有するヘキサセルシアンが存在し、その際、ヘキサセルシアンはセルシアンより高温では安定である。ガラスはんだの冷却の際、例えば、燃料電池のジョイント接合において、300℃未満で、ヘキサセルシアン相のセルシアン相への転移が生じることがある。この転移は、約3%またはそれより多くの体積変化につながり、それにより、強い機械的張力が発生し、且つ、ジョイント接合が破壊されることがある。本発明によるガラスはんだはこれらの結晶相の発生を阻止し、且つ、それによってジョイント接合の破壊安全性を高める。
【0022】
さらに望ましくない結晶相は、コージライトとしても知られるMg2Al4Si518であり、それはAl23およびMgOの存在中で生じることがある。コージライトは、約1.5・10-6-1の非常に小さい熱膨張係数を有している。この結晶相も、その膨張挙動により、多くの高温使用、例えば燃料電池内のジョイント接合に合わない。本発明による結晶化ガラスはんだは、Al23の含有率が低いことによって、コージライト相の発生も阻止する。
【0023】
本発明者らは、さらには、殊にガラスはんだの高すぎるCaO含有率が、その特性に悪影響することを見出した。CaOは結晶化挙動に非常に強く影響し、なぜなら、それはより低い結晶化活性化エネルギーを有するガラスをみちびくからである。それによって、より高いCaO含有率で得られるガラスは、結晶化傾向が高すぎ、且つ、はんだ付け温度への加熱の際に既にほぼ完全に結晶化し、且つ、はんだもしくは複合物のはんだ付け位置への導入後に初めて結晶化するのではない。そのため、相応するはんだは、接合される部分を不完全に濡らし、且つ、ジョイント接合不全の危険が高まる。結晶化傾向は、わずかなPbO含有率によって抑制することができるのだが、しかしながら、本発明のはんだガラスは無鉛であるべきである。
【0024】
さらなる欠点は、5%を上回るCaO含有率の際、結晶化の際に、支配的な所望のバリウムシリケート結晶相の他に、さらなるCa含有結晶相が沈殿され得ることである。これは一方では不利であり、その理由は、いくつかの結晶相の形成は、はんだの長期安定性のために不利な場合があるからである。ここで、強い後結晶化の危険および/または結晶相の反応の危険があるので、はんだの熱機械特性が変更されることがある。温度>600℃の際、CaSiO3(ウォラストナイト)とCO2との間で反応してCaCO3とSiO2とが生じることがある。他方でカーボネート相は、900℃以上の温度で分解し、且つ、望ましくない気泡形成に寄与する。
【0025】
他方では、結晶相CaO・Al23・2SiO2が致命的であり、なぜなら、それはたった5.4・10-6/Kの低い熱膨張係数を有し、その膨張挙動のために高温使用に適合しないからである。従って、CaO含有率は、本ガラスはんだでは0〜5%である。
【0026】
上記に基づき、好ましくはCaO含有率は0%ないし3%である。この範囲において、良好な加工性および殊に良好な濡れ挙動によって優れ、且つ、結晶化プロセスの際、ジョイントプロセス後に主に結晶相Ba4Si616を形成するガラスはんだが得られる。
【0027】
ガラス形成物の全体が、本質的に結晶化挙動を決定する。安定なガラスは、本発明によるガラス系において、ガラス形成物SiO2とB23との割合の合計が(酸化物ベースに対する質量%で)30%ないし53%の際に生じる。結晶化特性は、さらなるガラス成分によって本質的に影響を及ぼされることができる。結晶化安定性ガラスは、さらなるガラス成分およびその原子量に応じて、SiO2とB23との合計が36%ないし51%の際に生じる。従って、好ましい実施態様において、結晶化ガラスはんだは(酸化物ベースに対する質量%で)36%ないし51%のSiO2とB23との合計を有する。
【0028】
好ましくは、本発明による結晶化ガラスはんだは、ガラス状態で6・10-6-1ないし11・10-6-1の線形の熱膨張係数α(20-300),Gを有し、その際、添字Gはアモルファスのガラス質の状態に関連する大きさを示す。これは、基礎ガラスの、および/またははんだ付け工程の際に結晶化しないガラスはんだの熱膨張係数が、上記のレンジを有することを意味する。結晶化状態において、即ちガラスはんだがはんだ付け工程の際に少なくとも部分的に結晶化する場合、好ましくは8・10-6-1ないし13・10-6-1の熱膨張係数α(20-300),Kを有し、その際、添字Kは結晶化状態に関連する大きさを示す。
【0029】
従って典型的には、結晶化プロセスは熱膨張係数のわずかな上昇と結びついている。しかしながら、結晶化前後での熱膨張におけるわずかな差に基づき、結晶化プロセスによって、安定性を脅かさないわずかな機械的張力のみが溶融物にもたらされる。
【0030】
結晶化ガラスはんだは、さらに(酸化物ベースに対する質量%で)0.5%までのV25および/またはSb23および/またはCoOを含有できる。これらの添加物は、ガラスはんだの、金属基材への明らかに高い接着強度をもたらす。
【0031】
さらなる好ましい任意の添加物は、(酸化物ベースに対する質量%で)5%までの量のZrO2である。ZrO2は、核形成剤として作用し、従ってそれを添加することによって結晶化挙動並びに結晶の大きさに影響を及ぼすことができる。その際、はんだガラスの組成は、好ましくはゆっくりと結晶化するように調整される。非常に強い結晶化が既にもたらされた場合、しばしば充分な濡れが得られない。殊に、はんだガラスはジョイント接合の製造の際に一般に、結晶化していないかまたは部分的に結晶化した形態ではんだ付けされる接合位置に導入できるべきであり、なぜなら、その際、溶融される部品の濡れのために必要とされる温度がより低いからである。
【0032】
結晶化ガラスはんだの熱膨張は殊にSiO2のBaOに対するモル比と相関する。従って、好ましい実施態様においては、SiO2のBaOに対するモル比が2.5より小さいこと、とりわけ好ましくは2.3より小さいことが想定されている。SiO2のBaOに対するモル比が2.5を上回る場合、一般に、熱膨張が小さすぎ、且つ、充填剤を用いても、熱膨張の目標範囲をもはや達成することができない。
【0033】
本発明による結晶化ガラスはんだは、好ましくは850℃ないし1080℃の半球温度を有し、且つ、相応して、ほぼこの温度の際にジョイント接合のために使用できる。
【0034】
本発明による結晶化ガラスはんだは一般に、はんだガラスが通常のガラス溶融物内で製造された後に、例えば小分けできるペースト形態で、または予備焼結された成形体の形態で、ジョイント接合に導入できるガラス粉末に粉砕されることによって製造される。溶融されたはんだガラスから製造された結晶化ガラスはんだは、はんだ付けプロセス前に好ましくはアモルファスの、結晶化していない状態を有する。
【0035】
粉末形態で存在する結晶化ガラスはんだを、上記のペーストまたは焼結体へのさらなる加工前またはその際に、本発明によれば、同様に粉末形態の好ましくは結晶性の充填剤の35%まで(ガラスはんだと充填剤との合計質量に関する酸化物ベースに対する質量%で)追加的に添加して、複合物を得ることができる。複合物の特性を、充填剤によって、充填剤のないガラスはんだの特性と比べて良い方向に変更し、且つ調整できる。従って、充填剤、その粒径分布および当然、その量の割合は、例えば熱膨張および結晶化速度に影響する。
【0036】
好ましくは、充填剤として、サンボーナイト(BaSiO3)、3YSZ(イットリウム安定化ジルコニウム酸化物)、ウォラストナイト(CaSiO3)またはエンスタタイト(Mg2Si26)またはそれらの物質の任意の組み合わせを使用できる。これらの充填剤の添加は、結晶化基礎ガラスの熱膨張係数α(20-300),Kの整合を、実施例B1の表2に示される通り、可能にする。結晶化複合物の温度範囲20℃ないし300℃での熱膨張係数α(20-300),Kは、8・10-6-1ないし12・10-6-1の範囲、温度範囲20℃ないし750℃でのα(20-750),Kは、9.5・10-6-1ないし14.5・10-6-1の範囲である。
【0037】
本発明による複合物は、好ましくは850℃ないし1100℃の半球温度を有する。
【0038】
ジョイント接合の最適な強度は、はんだが熱膨張において、溶融される材料に最適に適合されている場合に達成される。さらに、熱膨張係数の変更によっても、結晶化プロセスを通じて、はんだ中に大きすぎる張力は生じてはならない。本発明によるガラスはんだは、既に説明された通り、一方では望ましくない相の防止によってこれを保証し、他方では本発明によるガラスはんだ並びにそれから製造された複合物が、結晶化プロセス前後での熱膨張α(20-300)の差が2・10-6-1よりも小さく、好ましくは1・10-6-1よりも小さいことによって優れている。
【0039】
本発明による結晶化ガラスはんだおよびそれから得られる複合物は、アモルファス相の割合が結晶化状態において少なくとも10質量%であることによって優れている。結晶化後の複合物の少なくとも部分的な結晶状態は、無充填剤の結晶化ガラスはんだと類似して、まだアモルファスのガラス質相が存在していることがある場合にも、結晶化として示される。本ガラスはんだおよび複合物は、結晶化後にもかかるアモルファス相を有し、それははんだの脆性を減少し、従ってジョイント接合の強度を有利に高める。同様に、アモルファス相によって、はんだガラス接合内の小さなひび割れを自発的に修復できる。
【0040】
本発明による結晶化ガラスはんだは、その物理的特性に基づき、高温耐性ジョイント接合の製造に特に適している。高温耐性とは、本発明の意味において、継続使用温度として約650℃より高い温度範囲であると理解される。かかるジョイント接合は、特に有利には燃料電池、殊にSOFC内で使用できる。燃料電池内での使用例は、スタック型SOFCのための個々のSOFCの接合である。
【0041】
ただし、本発明による結晶化ガラスはんだおよび/または複合物を、高温耐性を有する焼結体の製造のためにも使用できる。焼結体の製造方法はよく知られている。その際、一般に、本発明によるガラスはんだの出発材料を粉末形態で互いに混合し、一般に有機結合剤と混合し、且つ、所望の形態へとプレスする。出発材料の粉末の代わりに、既に溶融された本発明によるガラスが粉砕され、且つ結合剤と混合されてもよい。その後で、プレスされたガラス−結合剤体を焼結温度にし、その際、結合剤は燃え尽きることができ、且つ、ガラス成分はその焼結温度の際に共に焼結されることができる。その後で、そのように得られた焼結体を、接合される部品と接触させ、そしてはんだ付け工程によってこれを接合し、および/またはこれと接合できる。
【0042】
はんだ付けの際の焼結体の使用は、焼結体が成形部品であり、且つほぼ任意の形状にできるという長所を有する。しばしば使用される形態の例は中空円筒であり、該中空円筒は、電気コンタクトピンと共に金属部品の碍子開口部(Durchfuehrungsoeffnung)に導入でき、その結果、電気絶縁されたコンタクトピンと共にはんだ付けすることによって好ましくは密閉性のガラス−金属の碍子が得られる。かかるガラス−金属の碍子は、多くの電気部品内で使用され、且つ、当業者に公知である。
【0043】
本発明による結晶化ガラスはんだおよび/または複合物のさらに好ましい使用は、ガラスはんだおよび/または複合物を含むシートの製造である。かかるシートは、先述の焼結体と類似しているが、しかし大幅に柔軟にできる。そこから型を打ち出し、且つ、平坦な部品を互いに接合するために有利に使用できる。
【0044】
本発明を、以下で、本発明による結晶化ガラスはんだの特性に基づき、並びに、比較例に基づき、さらに詳細に説明する。
【0045】
初めにはんだガラスを溶融ガラス中で溶融した。通例、ガラス塊、少なくとも塊状の形態で存在するはんだガラスについて、以下の特性を測定し、その際、添字Gははんだガラスについて測定された物理的特性を示す。
【0046】
α(20-300),G 20℃ないし300℃の線形の熱膨張係数
g,G ガラス転移温度または略して転移温度
EWG 軟化温度; この温度の場合、粘度の対数が7.6である
ρG 密度
【0047】
はんだガラスの組成、並びにその物理的特性を表1に要約する。
【0048】
はんだガラスの特性決定後、はんだガラスから粉砕プロセスによって一般に粉末形態のガラスはんだを製造する。本実施例においては、溶融したはんだガラスから、D(50)約10μmおよびD(99)<63μmの粒径分布を有する粉末を準備し、且つ、結合剤と共に、小分けできるペーストへと加工した。粉末および結合剤を、三段圧延機を用いて均質化した。結合剤とは、一般に有機物質、例えばニトロセルロース、エチルセルロースまたはアクリル結合剤のことである。それは一般に、結晶化ガラスはんだの特性へのさらなる影響はないが、しかしながら加熱工程の際、完全に燃え尽きることができるように選択されるべきである。
【0049】
引き続き、ホットステージ顕微鏡を用いてガラスはんだの熱特性決定を行った。そのために、特性決定される粉末形態のはんだガラスもしくは複合物から、円筒形態の試験体をプレスし、それをセラミックのベースプレート上で10K/分で加熱する。試験体の形態変化を観察し、その際、昇温で結晶化しない試料について通例、以下の特徴的な点がもたらされ、所定の粘度がそれに対応付けられる:
焼結開始: この温度の際に粉末の粒子が溶融し始める。それによって試験体の高さが低くなる。粘度の対数は約10±0.3である。
【0050】
軟化温度EWK: この温度EWKは試験円筒の角が丸まり始めることを特徴とする。粘度の対数は約8.2である。
【0051】
球温度: 粘度の対数が約6.1となる温度。
【0052】
半球温度: 試験体は、この温度の際にほぼ半球の形態を有する。粘度の対数は約4.6±0.1である。
【0053】
流動温度: この温度の際、試験体の高さは初めの高さの約1/3である。粘度の対数は約4.1±0.1である。
【0054】
しかしながら、この挙動からの明らかな相違が、試験体のゆっくりとした加熱の間に既に結晶化が始まる場合に観察される。この場合、試験体は、ベースとなる基礎ガラスよりも明らかに高い温度まで安定なままであり、その際、結晶性の固体の挙動に相応して、ガラスとは対照的に液相へ突然の転移が生じる、ある種の融点を有する。この場合、球温度または半球温度は測定されない。
【0055】
結晶化プロセス終了後、結晶化ガラスはんだについて同様に、転移温度Tg,K並びに熱膨張α(20-300),Kを、膨張法による膨張曲線から、20ないし300℃の温度範囲で測定し、その際、結晶化ガラスはんだについて測定された特性は添字Kによって記している。Tg,Kの測定は、まだアモルファス残留相が結晶化ガラスはんだ中に存在する場合にのみ可能である。完全に結晶化した試料では、もはやTg,Kを検出できない。
【0056】
ホットステージ顕微鏡を用いて調査されたガラスはんだの熱特性並びに結晶化後の特性を、同様に表1に要約する。
【0057】
【表1】

【0058】
熱膨張曲線からTg,Kが測定できるという事実は、残留ガラス相の存在を示す。アモルファスのはんだガラスと比較してわずかに低いTg,Kは、ガラス相中のSiO2の減損によって説明でき、なぜなら、バリウムシリケート(例えばBa5Si821)が形成されているからである。本発明による系のアモルファスの残留ガラス相は、ガラスはんだのより低い脆性をもたらし、そのことは機械的強度に良い影響を与える。従って、本発明による系は、結晶化後に、好ましくは20%ないし80%の結晶化部分と、相応して20%ないし80%(質量%)の残留ガラス相を有する。結晶化しないことと同様、完全な結晶化も望ましくない。
【0059】
比較例C1、C2およびC3のガラスはんだは、本発明による望ましい挙動を有さない。極度に高い、C1およびC2のEWKは、非常に早く始まる結晶化を示し、つまり強い結晶化傾向を示す。比較例C1の強い結晶化傾向は、わずか3.2%の低すぎるB23含有率に起因し得る。比較例C2の強い結晶化傾向は、実施例B1およびB2と比較して、高いバリウム割合と、同様に低いB23含有率を有する化合物中での、CaO、MgOおよびSrOの群のさらなるアルカリ土類金属の不在に起因し得る。比較例C3の強い結晶化傾向も同様に、さらなるアルカリ土類金属の不在に起因し得る。
【0060】
実施例B1ないしB5は、これに対して、本発明による望ましい挙動を有する。これらは、明らかに1100℃未満の半球温度を達成する。
【0061】
その結果、実施例B1からのはんだガラスは複合物の製造のための基礎ガラスとして使用され、その際、基礎ガラスの粉末に10%ないし25%の充填剤が添加された。得られた複合物について、充填剤のないはんだガラスと類似して同一の特性を測定し、且つ、充填剤のないはんだガラスと横の比較をして表2に要約した。表2においては、さらに線形の熱膨張係数α(20-750),Kが記載され、それは20℃ないし750℃の温度範囲での複合物の温度−膨張特性を特性決定したものである。この値は、熱膨張が、加工に関わる温度範囲の全体にわたって目標範囲内であることを裏付ける。さらに、その値は、試料が結晶化していることを示す。充填剤のない実施例5からの基礎ガラスについて、値は測定され得ず、なぜなら、これは730℃のEWGを有し、従って750℃に達する前に軟化するからである。殊に、材料の熱サイクル可能性の評価の際、熱膨張係数α(20-750),Kは、α(20-300),Kよりも重要である。
【0062】
【表2】

【0063】
B1との比較は、10%の3YSZまたは25%のBaSiO3(サンボーナイト)を添加した場合に、複合物の熱膨張係数α(20-300),Kが結晶化ガラスはんだ単独のものよりも大きく、一方、15%のBaSiO3の添加の場合、その値はより小さいことを示す。これは、充填剤の選択によって、およびその量によって、熱膨張係数の整合をプラスにもマイナスにも達成できることを裏付ける。
【0064】
半球温度ひいてははんだ付け温度も、表2に示される複合物の場合、実施例B1の場合よりも高い。ただし、流動温度は、複合物の場合、実施例B1のものよりも高い。
【0065】
本発明による複合物を用いて、金属の相互接続材料を用いたジョイント接合を正しく製造できる。初めに、ジョイント接合を、5K/分の加熱速度で450℃に加熱し、そして30分間、450℃で保持した。引き続き、ジョイント接合を2K/分でさらに950℃に加熱し、そして30分間保持した。引き続き、ジョイント接合を2K/分で860℃に冷却し、そして10時間保持した。同様に、室温への冷却を2K/分で行う。ジョイント工程の間、ジョイント接合に一定の重量がかけられた(約15g/cm2)。
【0066】
本発明による結晶化ガラスはんだおよび複合物は、本発明の課題による全ての良い特性を互いに兼ね備える。前駆生成物としてのはんだガラスを、従来の溶融法を用いて、良好な溶かし込み挙動および高すぎない溶融温度により製造できる。それは、目的とされる範囲内の熱膨張を有し、並びに、殊に強すぎる結晶化傾向もしくは自発的な結晶化を有さない。組成によって、望ましくない結晶相の形成が効果的に阻止され、そのことは、持続的に安定な、張力の少ないジョイント接合を可能にする。
【0067】
本発明による複合物は、種々の充填剤を介して、広い範囲にわたって相互接続材料の熱膨張係数に適合できる。
【0068】
本発明による結晶化ガラスはんだおよび複合物を用いて、最大約1000℃の、低い加工温度でジョイント接合が得られ、それは約850℃の高い運転温度を可能にする。さらに、はんだの導入後に初めて生じるゆっくりとした結晶化による相互接続材料の良好な濡れが、持続的に安定なジョイント接合を可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温使用のための結晶化ガラスはんだであって、(酸化物ベースに対する質量%で)45%ないし60%のBaO、25%ないし40%のSiO2、5%ないし15%のB23、0%ないし<2%のAl23、並びに、MgO、CaO、およびSrOの群からの少なくとも1つのアルカリ土類金属酸化物を含有し、その際、CaOが>0%ないし5%であり、アルカリ土類金属酸化物MgO、CaOおよびSrOの合計が0%ないし20%、好ましくは2%ないし15%であり、前記結晶化ガラスはんだは好ましくはTeO2とPbOを含まない、高温使用のための結晶化ガラスはんだ。
【請求項2】
(酸化物ベースに対する質量%で)0%ないし3%のCaOを含有する、請求項1記載の結晶化ガラスはんだ。
【請求項3】
SiO2とB23との合計が、(酸化物ベースに対する質量%で)30%ないし53%であり、好ましくは36%ないし51%である、請求項1または2記載の結晶化ガラスはんだ。
【請求項4】
ガラス状態での熱膨張係数α(20-300),Gが、6・10-6-1ないし11・10-6-1であり、および/または結晶化状態でのα(20-300),Kが、8・10-6-1ないし13・10-6-1である、請求項1から3までのいずれか1項記載の結晶化ガラスはんだ。
【請求項5】
付加的に、それぞれ(酸化物ベースに対する質量%で)0.5%までのV25および/またはSb23および/またはCoOを含有する、請求項1から4までのいずれか1項記載の結晶化ガラスはんだ。
【請求項6】
付加的に、(酸化物ベースに対する質量%で)5%までのZrO2を含有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の結晶化ガラスはんだ。
【請求項7】
SiO2のBaOに対するモル比が、2.5よりも小さく、好ましくは2.3よりも小さい、請求項1から6までのいずれか1項記載の結晶化ガラスはんだ。
【請求項8】
半球温度が850℃ないし1080℃である、請求項1から7までのいずれか1項記載の結晶化ガラスはんだ。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項記載の結晶化ガラスはんだと、付加的に、(酸化物ベースに対する質量%で)35%までの結晶性の充填剤とを含む複合物。
【請求項10】
結晶性の充填剤が、サンボーナイトおよび/または3YSZおよび/またはウォラストナイトおよび/またはエンスタタイトを含む、請求項9記載の複合物。
【請求項11】
結晶相中での熱膨張係数α(20-750),Kが、9.5・10-6-1ないし14.5・10-6-1である、請求項9または10記載の複合物。
【請求項12】
半球温度が850℃ないし1100℃である、請求項9から11までのいずれか1項記載の複合物。
【請求項13】
結晶化プロセス前後での熱膨張係数α(20-300)における差が、2・10-6-1よりも小さく、好ましくは1・10-6-1よりも小さいことを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項記載の結晶化ガラスはんだまたは複合物。
【請求項14】
結晶化状態におけるアモルファス相の割合が、少なくとも10質量%である、請求項1から13までのいずれか1項記載の結晶化ガラスはんだまたは複合物。
【請求項15】
請求項1から14までのいずれか1項記載の結晶化ガラスはんだまたは複合物を、殊に燃料電池用の高温ジョイント接合の製造のために用いる使用。
【請求項16】
請求項1から14までのいずれか1項記載の結晶化ガラスはんだまたは複合物を、高温耐性を有する焼結体中で用いる使用。
【請求項17】
請求項1から14までのいずれか1項記載の結晶化ガラスはんだまたは複合物を、高温耐性を有するシートの製造のために用いる使用。

【公表番号】特表2012−519149(P2012−519149A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552361(P2011−552361)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001301
【国際公開番号】WO2010/099939
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany
【Fターム(参考)】