説明

給水・給湯用ホース

【課題】水や湯中に存在する塩素による劣化を防ぎ、かつ、匂いや色のつくことを防止した内管構造を有するホ−スを提供することを目的とした。
【解決手段】内面層チュ−ブと補強層からなる給水・給湯用ホ−スであり、前記内面層チュ−ブはその内層がテトラフルオロエチレンとビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとからなる共重合フッ素系樹脂であり、外層がポリオレフイン系エラストマ−又はスチレン系エラストマーからなり、当該内層と外層の間にグリシジルメタクリレートを含有するエチレン共重合樹脂を、ポリエチレン又はポリプロピレンに配合した中間樹脂層を配した内管構造を有する給水・給湯用ホ−ス。1‥内面層チュ−ブ、1A‥共重合フッ素系樹脂層、1B‥外層、1C‥中間樹脂層、2、2A、2B‥補強層、3‥外被。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給水・給湯用の配管に使用されるホ−スに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、台所や洗面台及びトイレの貯水タンク、その他給水・給湯用の配管に使用されるホースには、内面層をゴム又は熱可塑性エラストマーを主体とし、その外周をステンレス鋼線やナイロン、ポリエステル等の繊維で編組補強した可撓性を有するホースが用いられ、これに口金具を加締締結したホース型可撓伸縮継手として使用されている。
【0003】
しかるに、水道水には通常次亜塩素酸が殺菌用として注入されており、これによる塩素濃度が0.1ppm以上あることが殺菌効果を維持するため必要とされている。特に水道器材に用いる場合、前記の塩素濃度を有する水道水を器材の中に滞留させ、24時間経過後の塩素の残留分が初期の50%以上を保っていることが必要とされている。又、滞留した水に臭いや色がつかないことも必要である。
【0004】
しかし、上記した構造のホ−スを給水・給湯に用いた場合、長期間使用中に塩素の影響で侵されて内面層が劣化しやすいという問題があった。このため、一部には内管構造として内面層の内層にポリブテン或いは架橋ポリエチレンを配した2層構造を有するホ−スが使用され、塩素水による耐久性が格段に向上したが、塩素を含む温水をホ−ス内に循環させる試験を行うと最終的にはやはり塩素の影響により劣化することが分かっている。
【0005】
上記問題を克服するため、フッ素系樹脂を内面層に使用することが考えられた。かかるフッ素系樹脂は、耐薬品性、非粘着性、ガスバリヤー性、非溶出性、食品衛生性等に優れた特性を示すため、従来から、飲料用チュ−ブとして用いられてはいるが、フッ素系樹脂単層ではコストが高く、又樹脂自体が硬いのでホ−スの柔軟性に乏しくなるという欠点がある。
【0006】
そこで、内面層の内層に限定してポリブテン或いは架橋ポリエチレンよりも更に耐塩素性に優れるフッ素系樹脂層を設けることが考えられたが、熱可塑性エラストマ−等、他の樹脂と容易に接着しないため、ホ−スを座屈させた際に内面層と外層とが剥れてしまい内層のみが折れ曲がって潰れてしまうという欠点があった。ここで、フッ素樹脂層を内層にのみ使用して、外層に他の樹脂を積層するのは、フッ素樹脂は高価であるので、その使用量を少なくするためである(特許文献1)。
【0007】
【特許文献1】特開2003−343773号公報
【0008】
そして、比較的安価な樹脂をそのまま外層に利用しようとすると、共押出成型における接着力が弱くなり、フッ素樹脂層の内層と剥離してしまう。そのため、フッ素樹脂層の内層と比較的安価な樹脂等の外層との間に、新たに接着層を介在させる必要が生じ、コストダウンにつながらない。この接着性の確保のため、外層の樹脂としてポリウレタン樹脂、又はポリウレタン系エラストマーを介在させる技術があるが、これらは比較的高価であることから、更なるコストダウンには問題がある(特許文献2)。
【0009】
【特許文献2】特開平8−142151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこれらの欠点を解決するためのものであって、水や湯中に存在する塩素による劣化を防ぎ、かつ、匂いや色のつくことを防止した内管構造を有するホ−スを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の構造は、少なくとも内面層チュ−ブとこの外側を囲う補強層からなる給水・給湯用ホ−スであって、前記内面層チュ−ブはその内層がテトラフルオロエチレンとビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとからなる共重合フッ素系樹脂であり、外層がポリオレフイン系エラストマ−又はスチレン系エラストマーからなり、当該内層と外層の間にグリシジルメタクリレートを含有するエチレン共重合樹脂を、ポリエチレン又はポリプロピレンに配合した中間樹脂層を配した内管構造を有する給水・給湯用ホ−スである。
【0012】
そして、前記共重合フッ素系樹脂の融点が100〜200℃であり、前記内層の肉厚が0.01〜0.50mmであって、この内層、中間層、外層の内管構造を共押し出しすることによって内面層チユーブを形成した給水・給湯用ホースである。
【発明の効果】
【0013】
内面層の内層として特定の共重合フッ素樹脂を採用し、しかもこれに応じて中間層を更に特定したことにより、フッ素系樹脂の内層とエラストマ−の外層が強固に接着し、ホースを屈曲させても内層が剥がれることのなく、柔軟性があり、かつ、水道水に含まれる塩素による劣化を防ぎ、ホースの寿命を格段に長くすることを可能としたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
単に塩素水に対する劣化が少ないホースを提供するのであればフッ素系樹脂のみで内面層チューブを構成すればよいが、通常のフッ素系樹脂は硬いためホースとして必要な柔軟性を得ることができない。そこで、内面層の構成として内層にフッ素系樹脂を用い、その外側に外層として熱可塑性エラストマーを用いた2層の内面層チューブが考えられるが、フッ素系樹脂と熱可塑性エラストマーを強固に接着させるのは難しく、これらを単に共押出ししたのみではホースを屈曲させた際に内層が剥れて内面層チューブ内で折れ曲がってしまう。
【0015】
本発明はかかる知見に基づいて改良を重ねたものであり、上記したように内管構造の内面層を特定のフッ素系樹脂からなる内層とし、これと外層との接着を良好とするこれ又特定の樹脂よりなる中間層をもって構成したものであり、これによって得られたホ−スは柔軟性が保たれ、屈曲にあっても内面層内で剥離が生じないという特徴あるホ−スが得られたものである。
【0016】
(内面層を形成する内層)
内層はテトラフルオロエチレンとビニリデンフルオライドとへキサフルオロプロピレンとからなる共重合フッ素系樹脂であり、かかる共重合フッ素樹脂層は、耐薬品性、非粘着性、ガスバリヤー性、非溶出性、食品衛生性等に優れた特性を示すことから、飲料用、自動車燃料用等として特に好適なものとなる。その厚さは0.01〜0.50mm、好ましくは0.03〜0.20mmである。
【0017】
前記の共重合フッ素樹脂層の融点は、100〜200℃であることが好ましい。このような低融点の共重合フッ素樹脂層とすることにより、加工性が向上し、かつ、ポリエチレン等の低融点のものとの多層化ができるようになるからである。
【0018】
前記の共重合フッ素樹脂層を構成するものは3成分系であり、その一つであるテトラフルオロエチレンを成分に有するフッ素樹脂は、耐薬品性、非粘着性、ガスバリヤー性、非溶出性、食品衛生性等に優れた特性を示す。
【0019】
第二の成分であるビニリデンフルオライドは、食品衛生上の問題がなく、摩擦係数が低く、匂いの吸着が少ないので、特に、飲料用のチューブに使用して好適なものである。ところが、ビニリデンフルオライドを使用したチューブは硬度が高く、破断引張伸度が小さいため、タケノコ状の管継手等に接続するには差し込みにくく、差し込んだ後でビニリデンフルオライドが白化することがある。そして、チューブを折り曲げた際に、折り曲げ部が白化してしまうこともある。
【0020】
そのため、硬度を低くし、柔軟性を増加させるため、第三の成分であるヘキサフルオロプロピレンを使用する。かかる成分を加えると、破断引張強度が増し、曲げ弾性率が小さくなる。又、共重合フッ素樹脂層におけるフッ素含有量が増大するため、表面疎水性、耐バクテリア性、耐汚染性、耐酸性、耐アルカリ性が向上することになる。
【0021】
(内面層を形成する外層)
外層はポリオレフィン系エラストマー又はスチレン系エラストマーであり、この外層樹脂の厚さは0.5〜5.0mm、好ましくは、1.0〜2.0mmである。
【0022】
(内面層を形成する中間層)
この中間層は上記した内層と外層間の接着を目的としたものであり、グリシジルメタクリレートを含有するエチレン共重合樹脂を、ポリエチレン又はポリプロピレンに配合した層であり、場合によっては、エチレン酢酸ビニール、や前記の化合物を主成分とするオレフィン系エラストマー、又はポリスチレン、又はポリエステル系エラストマーに配合したものでもよい。この中間樹脂層はできるだけ薄いほうが望ましい。
【0023】
この接着のための中間層については、ポリエチレン或いはポリプロピレン単体ではフッ素系樹脂との接着は得られないが、これにグリシジルメタクリレートを含有するエチレン共重合樹脂を混合することによりフッ素系樹脂と接着し、かつ、外層のポリオレフイン系エラストマ−との接着も得られることを知見し本発明に至ったものである。
【0024】
ここで、特にグリシジルメタクリレートを使用するのは、共重合フッ素樹脂層との接着のためである。又、グリシジルメタクリレートを含有するエチレン共重合樹脂を使用するのは、ポリエチレンが高分子の基本構造を持つことから、これにグリシジルメタクリレートを含有させることで、他の様々な樹脂と接着可能な接着性ポリマーを得るためである。尚、エチレン共重合樹脂に対するグリシジルメタクリレートの配合割合は、2〜30重量%が好ましく、それより少ない場合は必要な接着力か得られず、それより多くても接着力の向上は望めず、最適には8〜12重量%が最も強力な接着力が得られる。逆に、エチレン共重合樹脂単体では熱可塑性エラストマーとの接着は得られない。
【0025】
そして、接着性を有するグリシジルメタクリレート含有エチレン共重合樹脂を使用することで、単体では共重合フッ素樹脂層と接着しない樹脂を利用することが可能となる。即ち、ポリエチレン、ポリプロピレン、或いはエチレン酢酸ビニール、又はこれらを主成分とするオレフィン系エラストマー、ポリスチレン、ポリエステル系エラストマーに配合することで、これらの樹脂層を共重合フッ素樹脂層と接着させることができるようになったものである。
【0026】
その結果、ポリウレタン樹脂等に対して安価なこれらの樹脂を、別に接着層を介在させることなく利用することが可能となり、ポリウレタン樹脂等を使用する場合に比べ、コストダウンが図れる。
【0027】
特に好ましくは、前記内層、中間層、外層の内管構造を共押し出しすることによって内面層チユーフを形成するものであって、前記したように共重合フッ素系樹脂に融点が100〜200℃のものを使用すると、3層を共押し出しすることにより強固な接着力を得ることができる。
【0028】
補強層としては、φ0.2〜0.4mmの太さの軟質又は硬質のステンレス細線、或いは合成繊維を用いた編組層又はスパイラル状の巻回層、或いは、合成繊維上にステンレス細線の編組層であるのがよい。
【0029】
尚、この補強層の上にこれを保護する外面層、例えば熱可塑性樹脂層を設けたものであれば更によい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の給水・給湯用ホ−スについて図面をもって説明する。
図1は本発明のホ−スの実施例1を示す切り欠き斜視図であり、内管構造として、1は内面層チュ−ブであり、その内層1Aがテトラフルオロエチレンとビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとからなる共重合フッ素系樹脂(厚さ0.1mm)であり、外層1Bがポリオレフイン系エラストマ−(厚さ1.5mm)である。又、当該内層1Aと外層1Bの間に、グリシジルメタクリレートを含有するエチレン共重合樹脂をポリエチレンに10%配合した中間樹脂層1Cを介在させたものである。内管構造はいずれも共押し出し成形によって内面層チュ−ブを形成した。尚、ここでの共重合フッ素樹脂は融点範囲が110〜130℃のものを使用した。
【0031】
内管構造(外層1B)の表面には、第1の補強層2Aとして左右方向に静止角にてスパイラル状に巻かれたポリエステル繊維(1100デニ−ル・撚り数3回/10cm)が巻き付けられ、更にこの表面に押え糸(ポリエステル繊維)2aをこれ又スパイラル状に荒く巻き付けられている。そして、この上に第2の補強層2Bとして金属硬線(φ0.29)を編み込み、更に金属硬線2Bを保護する外被3としてスチレン系熱可塑性樹脂層を形成した。
【0032】
上記のホ−スは比較的小さい半径であっても容易に曲げることができ、キンクの発生もなく、しかも、各層間の剥離も見られない優れたホ−スであった。従って、狭い配管スペ−スでも施工ができるようになり、施工時の容易さと耐久性の向上とが確保されるものとなった。
【0033】
図2は本発明のホ−スの実施例1の内管構造(外層1B)の表面に、補強層2としてポリエステル繊維(1100デニ−ル)が編組され、更に外被3としてウレタン系熱可塑性樹脂層が形成されたものである。尚、補強層2の内外に夫々接着剤層4、5を介するのがよいがここでは特には言及しない。
【0034】
この例にあっても内管構造は共押し出しにて形成されたものであり、曲げ等に対して層間の剥離は見られなかった。
【0035】
以下、テストを単純化し、シ−トにおける接着評価を行った。
即ち、フッ素樹脂(THV)と熱可塑性エラストマ−(サントプレン)とを、PEにグリシジルメタクリレート含有エチレン共重合樹脂を配合したシ−トを積層し、これを加圧下に250℃に加熱して接着し、その後、両者の剥離試験を行った。
【0036】
試験結果を表1に示す。尚、比較例1として中間層がない場合、比較例2として中間層がPEである場合、比較例3として中間層がグリシジルメタクリレート含有エチレン共重合樹脂であった場合についてテストした。比較例1にあっては、柔軟性は良いものの層間剥離は頻繁に発生した。比較例2、比較例3の場合も同様であった。
【0037】
【表1】

【0038】
表1はPEに対するグリシジルメタクリレート含有エチレン共重合樹脂の含有量を変えて中間層とした場合のテスト結果である。この結果、含有量が10%の場合が最高値を示した。含有量が30%程度までは十分使用に供されることが分かった。尚、含有量が0%の場合は比較例2、100%の場合は比較例3である。又、いずれも柔軟は良かった。
【0039】
上記の実施例1、比較例1〜3における内管構造、及び実施例2〜3、参考例1〜3の内管構造の内容及び耐塩素水性、柔軟性、内面層及び外面層の層間剥離を表2に示す。
尚、試験方法の概略は以下の通りである。
*耐塩素水性:80℃、500ppmの塩素水に浸漬て変色の程度を判定
*柔軟性:内径9φのホ−スに加工して、曲げ半径60mmに曲げた際のホ−スの反発力を比較
*層間剥離:共押し出しした内管チュ−ブを切り開いてシ−ト状とし、内外層の剥離試験を実施
【0040】
【表2】

【0041】
内管構造の特性のうち、耐塩素水性について言えば、参考例1〜2は比較的早い時期に変色が発生し、これが劣化に通じることとなり、使用に耐えないことが分かる。
柔軟性の点で言えば、参考例3は耐塩素水性は優れているが柔軟性はなく、実際に使用することはできない。
【0042】
層間剥離については比較例1〜3については剥離が早い段階で発生し、使用に供することはできない。
【0043】
一方、本発明の実施例1〜3の内管構造にあっては、耐塩素水性、柔軟性、層間剥離の面でバランスのとれた性能を有するものであり、実際の使用に十分供することができることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は以上の通りであり、ホ−スの内管構造がフッ素系樹脂の内層とエラストマ−の外層が強固に接着し、ホースを屈曲させても内層が剥がれることのなく柔軟性があり、かつ、水道水に含まれる塩素による劣化を防ぎ、ホースの寿命を格段に長くすることを可能としたものであり、給水・給湯用ホ−スとして説明してきたが、技術的にはこれに限定されず、あらゆる分野のホ−スに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は本発明の第1例における切り欠き斜視図である。
【図2】図2は本発明の第2例における切り欠き斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
1‥内面層チュ−ブ、
1A‥共重合フッ素系樹脂層、
1B‥外層、
1C‥中間樹脂層、
2、2A、2B‥補強層、
3‥外被。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも内面層チュ−ブとこの外側を囲う補強層からなる給水・給湯用ホ−スであって、前記内面層チュ−ブはその内層がテトラフルオロエチレンとビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとからなる共重合フッ素系樹脂であり、外層がポリオレフイン系エラストマ−又はスチレン系エラストマーからなり、当該内層と外層の間にグリシジルメタクリレートを含有するエチレン共重合樹脂を、ポリエチレン又はポリプロピレンに配合した中間樹脂層を配した内管構造を有することを特徴とする給水・給湯用ホ−ス。
【請求項2】
前記共重合フッ素系樹脂の融点が100〜200℃である請求項1記載の給水・給湯用ホース。
【請求項3】
前記内層の肉厚が0.01〜0.50mmである請求項1又は2記載の給水・給湯用ホース。
【請求項4】
前記内管構造の内層、中間層、外層を共押し出しすることによって内面層チユーフを形成した請求項1乃至3いずれか1記載の給水・給湯用ホース。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−144875(P2006−144875A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−334298(P2004−334298)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】