説明

給水管のライニング方法及び該ライニングに使用される摺動部材

【課題】既設配管の内部を無溶剤型の二液性エポキシ樹脂塗料で一次塗装と二次塗装するライニング方法であって、既設配管の一端部側から他端部側まで塗膜厚さにバラツキが生じないようにして、ライニングを同日施工可能にする方法及び使用される摺動部材を提供する。
【解決手段】給水管のライニング方法は、建築物内に配管され複数の支管が分岐されている既設配管1の内部を研掃した後に、既設配管1の一端部側から他端部側までと各分岐された支管毎に塗装区間をA〜Dに区分し、各塗装区間毎に無溶剤型の二液性エポキシ樹脂塗料を配管の端部から供給し、吹き延ばしによる一次塗装と摺動部材を使用した押し延ばしによる二次塗装を行って管内面に所定厚さの塗膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンション等の集合住宅またはオフィスビル等の高層建造物に配設されている既設配管を更生させるために、配管内面を研掃して錆こぶ、スケール及び汚れ等の付着物を研掃除去した後に、無溶剤型の二液性エポキシ樹脂塗料を用いて一次塗装後に二次塗装するライニング方法及びライニングに使用される摺動部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来この種の既設給水管に関する更生方法として、配管の内面を研掃した後に、無溶剤型の二液性エポキシ樹脂塗料を用いて二回塗りまたは重ね塗りして多層ライニングする方法が従来技術として複数の発明が公知である。
【0003】
これら従来技術に係る第1の公知例としては、前工程(一次工程)でライニングして塗膜を指触によって硬化乾燥状態を判定し、その硬化乾燥状態がライニングのための送風でまだ流動の可能性を残している指触乾燥初期から中期の段階において次工程(二次工程)のライニングを行うようにしたことによって、前工程で塗布した塗膜がまだ滑面(略完全乾燥)になっていないことから、流動摩擦抵抗が比較的大であり、次工程での塗料の滑流動が抑制されて、特に、配管の継ぎ手部分において比較的厚手の塗膜が形成できるようになると共に、塗料に可溶性分子及び/または極性基が多く残っている段階で二次塗装がなされるので、一次塗装と二次塗装とで形成される塗膜同士が架橋反応によって一体化し、良質な塗膜を形成するものである。(特許文献1参照)
【0004】
また、従来技術に係る第2の公知例としては、既設配管の一端部側から他端部側までと各分岐された支管毎に塗装区間を区分し、各区間毎に全体の管の長さ及び内径に対応して予め設定された膜厚が形成できる量の塗料を一括して投入し、該塗料を所定圧の送気流体により変成スラグ流から順次環状流に吹き延ばして一次塗装の塗膜を形成した後に、各区分された塗装区間の第2継手部材の位置を基準として、その位置を超える位置まで塗装できる所定量の塗料を投入し、該塗料を送気流体または摺動部材(ピグ)により変成スラグ流の状態を維持できるところまで一気に流動させて二次塗装の塗膜を形成し、始端側の薄く形成された塗膜の上に二次塗装によって薄さを補正する塗膜を形成することで、全体としてバランスの良い厚さの塗膜を形成することができるというものである。(特許文献2参照)
【0005】
更に、気体を送気することで管内のライニング(一次塗装)を行い。一次塗装の塗料が硬化後に、塗料を再投入し、分岐管路の内径より大きい直径を有すると共に、合成樹脂で連続気泡を有する弾性発泡体を挿入し、この弾性体を空気圧で押してライニング(二次塗装)する方法であって、気流式塗布の弱点であるエルボ背面部の塗膜を弾性発泡体による摺動塗装により厚い塗膜を形成するというものである。(特許文献3参照)
【0006】
【特許文献1】特開平11ー276990号公報
【特許文献2】特開2006−231283号公報
【特許文献3】特開平4ー187269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1に開示された発明は、指触乾燥初期から中期の段階において次工程のライニングを遂行し、更に環境条件の影響を大きく受けないように加熱手段を付加して工程上の時間を大幅に短縮し、ライニングを同日施工で行うことを可能としたものであるが、乾燥工程に関しては依然として相応の時間を要し、特に環境条件が悪化する冬季或いは寒冷地においては相対的に乾燥時間が長くなり、作業効率が低下するとの問題点を有する。
また、区分した塗装区間の長さによっては、ライニングのための送気時間が長くなり、継ぎ手部分の膜厚、特に、始端部側近傍(第2エルボまで)の膜厚が薄くなるとの問題点を有する。
さらに、区間毎における管径及び長さなどを予め計算し、その管径及び長さにおいて、所定厚さの塗膜が形成される塗料の量を計算し、その量の塗料を一括して投入するようにし、塗料を一気に押し出してライニング区間の略中間付近まで吹き延ばし、その吹き延ばしの段階で塗料は変成スラグ流から環状流に変遷し、環状流の状態で管壁に塗料を塗布して塗膜を形成するものであるが、管内に形成される塗膜は区間終端側に相対的に多くの塗料が分布しており、二次塗装においても一次塗装と同様の塗料流動態様により塗膜を形成しているため、より一層終端側での塗料分布量が多くなり塗膜バランスが悪く塗料を無駄にするという問題点を有している。
【0008】
また、前記特許文献2に開示された発明は、塗膜厚さの薄い始端側について、始端側から略中間部近傍まで追い打ちライニングを行うに当たり、塗料を始端部側の近いところで環状流で流動させ、始端側から略中間部近傍まで先に形成された塗膜の上を重ね塗り状態にするものである。
しかしながら、塗料が二次塗装区間の略中間部までの少ない量であり、その流動態様は、ほぼ送気と同時に形成される環状流であって、既設配管の一般的な配設状態においては実質的に一次塗装と大きな差のない送気時間をかけて管内を流動させるため、形成された塗膜に送気波紋が残存し均一な塗膜が形成できないという問題点を有している。
【0009】
さらに、前記特許文献3に開示された発明は、一次塗装の塗料が硬化後に、塗料を再投入し、分岐管路の内径より大きい直径を有する弾性発泡体を挿入し、この弾性体を空気圧で押して二次塗装する方法であるため、一次塗装の塗膜が完全に硬化した後でないと二次塗装ができないので、一次塗装の塗膜が完全に硬化するまでの時間が長くかかり、ライニングを同日施工で行うことができないのであり、作業効率が著しく低下するばかりでなく施工コストが高くなるという問題点を有している。
また、二次塗装が分岐管路の内径より大きい直径を有する弾性発泡体により塗装するものであり、一次塗装の塗膜が完全乾燥した後に行うので、一次塗装による塗膜厚さのバラツキは修正できず、しかも、一次塗膜には可溶性分子が極めて少ない状態になっており、一次塗膜に対する二次塗膜の上塗り付着性(結合性)が弱く剥がれ易いという問題点を有する。
【0010】
従って、塗装しようとする配管の始端部側近傍の膜厚が薄くなるのを解消して始端部から終端部まで塗料分布量を略均等にして塗膜バランスを略均一にし、且つ使用塗料の無駄を無くすこと、一次塗装と二次塗装との作業時間を短縮してライニングを同日施工完了させること、及び一次塗装の塗膜厚さのバラツキを二次塗装により全面的に直して略均一塗膜にすることに解決課題を有する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決する具体的な手段として本発明の第1の発明は、建築物内に配管され複数の支管が分岐されている既設配管の内部を研掃した後に、既設配管の一端部側から他端部側までと各分岐された支管毎に塗装区間を区分し、各塗装区間毎に無溶剤型の二液性エポキシ樹脂塗料を配管の端部から供給し、吹き延ばしによる一次塗装と摺動部材を使用した押し延ばしによる二次塗装を行って管内面に所定厚さの塗膜を形成するライニング方法であって、使用する無溶剤型の二液性エポキシ樹脂塗料は、常温でポットライフが4分〜6分の範囲のものであり、前記二次塗装で使用される摺動部材は、シリコンを材料として表面が滑面の球形に成形したものであり、その直径は塗装しようとする配管の内径に対して−0.4〜−1mmの範囲で小径に形成したものであり、前記区分された各区間毎に吹き延ばしによる一次塗装の塗膜を形成した後に、各区間の塗膜がゲル化する前に所要量の塗料を供給して摺動部材による二次塗装を行い、一次塗装で薄く形成されている塗膜部分には二次塗装で重ね塗りし、厚く形成されている塗膜部分は押し延ばして全体的に均一の塗膜厚さに形成することを最も主要な特徴とするライニング方法である。
【0012】
また、上記第1の発明において、前記ポットライフが4分〜6分の無溶剤型の二液性エポキシ樹脂塗料は、粘度が12000〜16000(mPa・s)の範囲であり、チクソトロピック特性がTi値3〜4程度で、H硬度に達する時間が2.5時間〜3.5時間のものであること;及び一次塗装時の塗料投入量は、各塗装区間毎に計算した量の10%程度多めに供給すること;を付加的な要件として含むものである。
【0013】
本発明に係る第2の発明は、配管内面の塗装用として塗料を押し延ばして塗装する摺動部材(ピグ)であって、塗料が付着し難いシリコン材でその硬度が30±5範囲のものを球形に且つ表面を滑面に成形し、その直径は塗装しようとする配管の内径に対して−0.4〜−1mm程度の小径に形成したものであることを最も主要な特徴とする給水管のライニングに使用される摺動部材である。
【発明の効果】
【0014】
第1本発明に係る給水管のライニング方法は、使用する無溶剤型の二液性エポキシ樹脂塗料は、常温でポットライフが4分〜6分の範囲のものであり、前記二次塗装で使用される摺動部材は、シリコンを材料として表面が滑面の球形に成形したものであり、その直径は塗装しようとする配管の内径に対して−0.4〜−1mmの範囲で小径に形成したものであり、前記区分された各区間毎に吹き延ばしによる一次塗装の塗膜を形成した後に、各区間の塗膜がゲル化する前に所要量の塗料を供給して摺動部材による二次塗装を行い、一次塗装で薄く形成されている塗膜部分には二次塗装で重ね塗りし、厚く形成されている塗膜部分は押し延ばして全体的に均一の塗膜厚さに形成するようにしたことにより、各区分された区間における一次塗装による始端側が薄く終端側で厚くなってアンバランスに形成された塗膜に対して、始端側の薄く形成された塗膜を二次塗装によって薄さを補正し、また、余剰の塗料は必要としないで厚く形成されている塗膜部分は押し延ばして全体的に予定された均一の塗膜厚さに形成できるという優れた効果を奏する。
【0015】
また、ポットライフの比較的短い塗料を使用し、一次塗装の塗膜がゲル化する前に塗料が付着しない表面が滑面の球形の摺動部材で二次塗装を行うため、無駄な塗料を必要とせず、しかも、送気波紋やバラツキのある一次塗装の塗膜を表面が滑面で滑りやすい摺動部材により均一な塗膜にすると共に、塗膜表面を平滑に形成でき作業時間も著しく短縮されてライニングの同日施工完了が可能であるという利点も有する。
【0016】
更に、第2の発明に係るライニングに使用される摺動部材は、塗料が付着し難いシリコン材でその硬度が30±5範囲のものを球形に且つ表面を滑面に成形し、その直径は塗装しようとする配管の内径に対して−0.4〜−1mm程度の小径に形成したことにより、塗料が付着しないで押し延ばした塗膜表面を平滑に形成できると共に、摺動部材自体の変形が少ないので配管内面に対して全面的に略均一な塗膜を形成できるし、余剰の塗料を必要としないので無駄を無くすことができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施の形態に係るライニング方法について、図面を参照して説明する。図1はマンション等の集合住宅における給水管等の既設配管の一部の状況を略示的に示したものであり、図2は同ライニング方法に使用される塗料の混合供給装置を略示的に示したものであり、図3は同ライニング方法の実施において一次塗装の状況を説明するための説明図であり、図4は同一次塗装により塗布された支管の立ち上がり継手(エルボ)部分近傍をを略示的に且つ一部を拡大して示した断面図であり、図5は一次塗装で形成された塗膜を二次塗装により押し延ばす状況を略示的に示した断面図である。
【0018】
まず、図1において、ライニングを施工しようとする既設配管1は、適宜の継手部材を介して複数の支管1a、1b、1c、……が分岐連結してあり、各支管の自由端部側には一般的に第1の継手部材(エルボ)2a、2b、2c、……を介して蛇口等の吐出部材が取り付けられている。また、各支管1a、1b、1c、……の立ち上がり部分には、第2の継手部材(エルボ)3a、3b、3c、……が設けられ、末端側の支管1aを除く各分岐連結部分には第3の継手部材(チース)4b、4c、……を介して連結され、既設配管1の基端側はメータ取付端部1fとしている。なお、分岐した支管が複数回屈曲する場合には、その途中の屈曲部分に当然のこととして第4乃至第5のエルボが介在することは当然のことである。
【0019】
そして、このような既設配管1において、再生のためにライニングを行う場合には、図示したように、蛇口等の吐出部材を取り外した後に、第1の継手部材2a、2b、2c、……乃至第3の継手部材4b、4c、……及び支管1a、1b、1c、……を含めて既設配管1の全内部は、予め適宜の研掃手段により錆こぶ、スケール等の汚れが除去され、内部を乾燥させて清掃した状態にしてからライニングを行う。
【0020】
ライニングの一つの方法としては、内部が清掃された状態の既設配管1において、支管1aの末端側(一端部側という)からメータが取り付けられるメータ取付端部1fの基端側(他端部側という)までその内部にライニングを行う。この場合に、分岐されている支管毎に一応区分した状態でライニングを行うものであり、例えば、末端側の支管1aの場合は、基端側のメータ取付端部1fまでを区間Aとする。そして、支管1bは分岐点の第3の継手部材4bまでを区間Bとし、以下順次それに倣って区間C、D、……として区分し、各区分した区間毎に塗料の混合供給装置からそれぞれ一括して塗料を供給し、所定圧のエアーで吹き延ばす一次塗装と摺動部材を移動させ塗料を押し延ばす二次塗装とによりライニングするものである。
【0021】
投入される塗料の量は、その区間毎における管径及び長さ等を予め計算し、その管径及び長さにおいて、所定厚さの塗膜が形成される塗料の量を計算し、その計算された量に所要量増量した量の塗料を一括して投入するようにする。使用される二液性エポキシ樹脂塗料は、比較的硬化時間の早い塗料であり、その一例としては、例えば、商品名「エポライナー3000」(登録商標)(関西ペイント株式会社製)で、基剤と硬化剤との混合後の塗料としてのポットライフが、常温(環境温度25±3℃範囲)で塗料温度30±3℃の時に、4〜6分程度、好ましくは4分30秒〜5分30秒程度で、粘度が12000〜16000(mPa・s)の範囲であり、チクソトロピック特性がTi値3〜4程度で、H硬度に達する時間が2.5時間〜3.5時間のものである。
【0022】
また、二次塗装で使用される押し延ばし用ピグ、即ち、摺動部材としては、例えば、塗料が付着し難いシリコン材でその硬度が30±5程度のものを球形に且つ表面を滑面に成形したものであり、その直径は塗装しようとする配管の内径に対して−0.4〜−1mm程度の小径に形成したものであり、−0.4mmの場合は、配管内において摺動部材の球形の周囲に0.2mmの空隙が生じ、−1mmの場合には、球形の周囲に0.5mmの空隙が生ずることになる。
【0023】
そして、実際のライニングにおいては、各支管1a、1b、1c……の開放端部側に予め所要量の塗料が収容できる作業管をそれぞれ取り付けておき、その作業管に図示していないが所定の気体を送気する手段が連結されるものである。そして、その作業管に所定量の塗料が一括して収容され、その後に一次塗装においては送気流体により塗料を送出または吹き延ばすようにして塗膜を形成し、二次塗装においては球状の摺動部材を投入し、送気手段からの送気流体により摺動部材を移動させ塗料を押し延ばして均一な塗膜を形成して配管全体をライニングするものである。
【0024】
本発明のライニング方法に使用される塗料の混合供給装置5は、図2に供給原理を略示的に示してあり、二液性のエポキシ樹脂塗料の基剤と硬化剤とは別々のタンク6、7にそれぞれ所要量を投入し、該タンク6、7から供給パイプ8、9およびポンプ10、11とを介して混合手段12に供給し、該混合手段12で混合された塗料を各塗装すべき各区間の端部に設けた作業管に予め計算された量をそれぞれ投入してライニングを行う。この場合に、各タンク6、7には基剤と硬化剤とを攪拌するための攪拌手段13、14と、圧力計15、16とが設けられると共に、加圧用の不活性ガス供給パイプ17、18がそれぞれバルブ19、20を介して接続され、また、供給パイプ8、9にはタンク6、7とポンプ10、11との間にバルブ21、22が設けられると共に、供給パイプ8、9の一部を利用してタンク6、7内の基剤と硬化剤とをそれぞれ循環させる循環パイプ23、24がバルブ25、26を介して設けられている。
【0025】
混合手段12は、供給パイプ8、9から供給された基剤と硬化剤とを攪拌して混合する攪拌部材27と攪拌混合室28と吐出用バルブ29とから構成されている。なお、供給パイプ8、9から三方切り換え用のバルブ30、31を介して基剤と硬化剤と供給されるようになっている。また、供給パイプ8、9には、その他に温度センサー32、33、圧力センサー34、35やバルブ36、37等が設けられ、さらに、各タンク6、7や混合手段12のバルブ30、31に至る経路等は仮想線で示したように二重構造になっていて、外気温度に影響されないように一定の温度(30℃程度)に保つために保温流体を循環させるためのパイプ38、39が設けられると共に、バルブ30、31には攪拌混合室28を洗浄するための洗浄用パイプ40、41が連結されている。なお、攪拌混合室28は、混合によって発熱する温度を抑制するために、外周面をベルチェ素子を使用した冷却手段42によって覆ってある。
【0026】
そこで、二液性のエポキシ樹脂塗料の基剤と硬化剤との混合については、まず、タンク6、7内にそれぞれ所要量の基剤と硬化剤とを投入し、該タンク6、7に連通するパイプのバルブの内、バルブ19、20を除き全てのバルブを閉状態にし、バルブ19、20を大気開放側に切り換え、該大気開放側口にそれぞれ真空ポンプのホースを接続し、タンク6、7内の空気を抜いて減圧状態にし、基剤と硬化剤中に含まれる気泡を約1時間かけて排出し、その後バルブ19、20を不活性ガス側に切り換えてタンク6、7内に窒素ガスなどの不活性ガスを導入し加圧状態に維持している。
【0027】
塗装しようとする各区間の支管1a、1b。1c……にはそれぞれ作業管が予め接続されている。例えば、図3に示したように、区間Bにおける支管1bには、その第1の継手部材2bにL字状の作業管43が予め接続されている。この作業管43は、第1の継手部材2bの蛇口取付管2b−1に螺着されたレジューサ44に対し、雄・雌型のカムロック45を介して簡単に着脱できるように取り付けられている。また、作業管43の他端部側には送気流体、即ちエアーを吹き込むための送気用パイプ又はホースが簡単に接続できる雄型のカムロック46が取り付けられている。
【0028】
このように準備が整ってから一次塗装を行う。この一次塗装においては、区間Bからライニングを開始する。この場合に、予め算出された区間Bを塗装できる量の基剤と硬化剤とを供給パイプ8、9とポンプ10、11とを介して混合手段12に供給し、攪拌部材27により攪拌混合室28で混合させながら順次吐出用バルブ29を開いて取り出し、所定の容器に入れて区間Bの塗装位置、即ち、支管1bの位置まで搬送(持ち運ぶ)する。
【0029】
このカムロック46側から持ち運んで来た塗料を作業管43内に投入し、続いて送気用パイプ又はホースを接続して所要圧のエアー(送気流体)を吹き込むことにより、塗料を流動または吹き伸ばして蛇口取付管2b−1から第3の継手部材4bに至る区間Bの支管1bの全体を塗装するのである。
【0030】
吹き延ばしの初期段階では、塗料は変成スラグ流で流動しその後に環状流に変遷して管壁に塗料を塗布しながら支管1bの分岐点の第3の継手部材4bに達し、その第3の継手部材を僅かに越える位置まで塗布するようになる。なお、区間Bのライニング中は、他の支管1a、1c、1dの端部は封止状態にし、メータ取付端部1fだけが開放状態になっているのであり、他の区間をライニングする場合も同様に、そのライニングする区間以外の他の支管の端部はそれぞれ封止状態にしメータ取付端部1fだけを開放状態にして行うものである。
【0031】
次に、区間Cをライニングする。この場合も、前記同様に支管1cの端部には予め作業管43が取り付けられており、該作業管43から塗料を投入してエアー(送気流体)により吹き延ばし、変成スラグ流から環状流に変遷させて管壁に塗料を塗布しながら分岐点の第3の継手部材4cまで至らせ、その第3の継手部材を僅かに越える位置まで塗布する。
【0032】
さらに、区間Dも前記同様にしてライニングする。このように既設配管1の一端部側から他端部側に至る中間部分で分岐した支管1b、1c、……について、全て分岐点の第3の継手部材4b、4c、……まで塗料を塗布した後に、区間Aをライニングする。即ち、支管1aの端部にも予め作業管43が接続されており、該作業管43内に一括して塗料を投入し、他端部側のメータ取付端部1fまで塗料を送気流体により吹き延ばし、途中で変成スラグ流から環状流に変遷させて管壁に塗料を塗装する。この場合に、区間Aの配管の長さが比較的長いので、その分計算された量の塗料が投入されると共に、吹き延ばしの送気時間もそれに伴って長くなる。
【0033】
前記いずれの区間においても、送気流体による塗料の吹き延ばし塗装は、各区間における略中間付近までは投入した塗料が変成スラグ流として流動し、その後に環状流として流動するのであり、変成スラグ流でも環状流でも管壁に対して押し付けられるように流動して塗装がなされるのである。
【0034】
この一次塗装における送気流体での吹き延ばし塗装は、各区間において投入される塗料の量が、計算された量の略5〜10%程度増量させた量であり、吹き延ばしによって変成スラグ流から環状流になって塗装されるが、塗装された塗料(塗膜)は各塗装区間の管長方向において必然的に始端側が薄く終端側が厚くなると共に、一部においては波紋状が残るという不均一な塗装分布になる。
【0035】
この場合の不均一な塗装分布というのは、一次塗装で形成された塗膜48が、図4に示したように、各支管1a、1b、1c、……における第1の継手部材2a、2b、2c、……側において第2の継手部材3a、3b、3c、……に至るまでが薄く、その第2の継手部材3a、3b、3c、……を越えた辺りから徐々に厚くなって、始端側と終端側とに塗膜厚さにバラツキが生ずるのである。その理由は、送気流体によって一部に波紋状が残ると共に始端側の塗料が流動してしまうからである。
【0036】
一次塗装が終了した後に、一次塗装と同じ手順(順番)で二次塗装を行う。即ち、区間Bの支管1bから順次二次塗装を行う。この二次塗装は、支管1bの端部に接続してある作業管43に所要量の塗料を投入し、続いて滑りが良くて塗料が付着しない弾球(ピグ)の摺動部材47を投入し、作業管43の端部に送気用パイプまたはホースを接続し所要圧の送気流体により摺動部材47を押し出して分岐点の第3の継手部材4bまで至らせると共に、さらに送気流体を送気し続けることによって摺動部材47だけがメータ取付端部1fから排出され、その排出が確認された時点で直ちに送気を停止する。
【0037】
この区間Bの二次塗装において、作業管43から摺動部材47によって押し出される二次塗装用の塗料は、支管1bの端部から内壁面全周に渡ってほぼ均等な厚みをもって押し延ばされ、第2の継手部材3bに至ったところでほぼ無くなってしまうか、または、少し残っている場合もあるが、第2の継手部材3bの内部においてほぼ無くなってしまう。
【0038】
それでも、摺動部材47はその第2の継手部材3bを越えて連続的に移動する。この場合に、図5に示したように、第2の継手部材3b以降においては、摺動部材47が先の一次塗装で形成された不均一で波紋が残る塗膜48を押し延ばして均一化しながら移動し、分岐点の第3の継手部材4bまで至るのであり、滑りが良くて塗料が付着しない摺動部材47で押し延ばされることにより塗膜内部の気泡も潰されて排除され全体的に均一化した塗膜48aとなり、その表面は滑面になるのである。
【0039】
また、摺動部材47が区間Bの分岐点である第3の継手部材4bに達しても、それで終了ではなく、引き続き第3の継手部材4b以降のメータ取付端部1fまで摺動部材47が移動し、先に区間Aで一次塗装した塗膜48を押し延ばし均一化して平滑な塗膜48aにするのである。なお、余剰になった塗料はその後の第3の継手部材4c、4d内において順次無くなるのである。
【0040】
更に、区間Cおよび区間Dにおいても区間Bと同様に、所要量の塗料と摺動部材47とを使用して二次塗装を行う。この二次塗装においても、摺動部材47は各第3の継手部材4c、4dを越えてメータ取付端部1fまでスムーズに移動することになり、先の区間Bの二次塗装によって平滑化した区間Aの一次塗装部分を、一部において繰り返し摺動部材47が通過するようになるが、2回目以降は少ない抵抗で速やかに通過する。
【0041】
そして、最後に区間Aを前記と同様に所要量の塗料と摺動部材47とを使用して二次塗装する。この場合には、区間B、C,Dよりも若干多めの塗料を投入し、該塗料を摺動部材47によって押し延ばし第1の継手部材2aと支管1a内及び第2の継手部材3a内に所要の厚みの塗膜を形成させ、続いて第2の継手部材3aから区間Bの分岐点である第3の継手部材4bまでの間においては、摺動部材47は一次塗装で形成された厚手の塗膜部分を押し延ばして移動し均一厚さの平滑な塗膜48aを形成するのであり、第3の継手部材4bを過ぎたところからは、既に、均一厚さで平滑に形成されているメータ取付端部1fまで少ない抵抗で速やかに通過するのである。
【0042】
これらの二次塗装の場合には、所要量の塗料を供給し摺動部材47により押し延ばして均一厚さで平滑な塗膜48aを形成するのであるが、吹き延ばしによる一次塗装の不均一な塗膜48を均一化するものであって、二次塗装で供給される塗料は、主として始端側の薄く形成されている塗膜に上塗りをして予定した厚さを確保するためであり、ほとんどの場合に各区間における第1の継手部材から第2の継手部材の間で消費され、特に、各継手部材の広い内部において摺動部材47が通過するスペースを残して全体的に厚く上塗りされるようになるのである。従って、第1の継手部材2a……乃至第3の継手部材4b……の各継手部材の内部は比較的厚手の安定した塗膜が形成されるのである。
【0043】
なお、使用される塗料としては、前記したように、比較的硬化時間の早い塗料であり、集合住宅における一戸の給水配管に、例えば、5個の蛇口部分が有っても、1区間の吹き延ばし作業の時間は4〜10秒程度で、摺動部材47による押し延ばしも略同じ時間であって、塗料の持ち運びや投入時間を考慮しても一次塗装と二次塗装に要する時間は10〜15分以内で終了する。特に、二次塗装は、一次塗装で供給した塗料のポットライフ時間内又は形成された塗膜がゲル化する前に行うことで上塗りと押し延ばしとが全体的に均一に行われるので、均一な塗膜が形成できるのである。そして、塗装作業の終了後に3時間程度経過すれば塗膜がH硬度に達するので当日通水ができるのである。
【0044】
また、二次塗装で使用される押し延ばし用ピグである摺動部材47としては、前記したように、塗料が付着し難い硬度が30程度のシリコンを材料として表面が滑面の球形に成形したものであり、その直径は塗装しようとする配管の内径に対して−0.4〜−1mm程度の小径に形成したものであり、例えば、既設配管の内径が18.6mmであるとすれば、摺動部材47の直径が最大で18.2mmで、最少で17.6mmのものが使用される。特に、実験で使用された内径が18.6mmの配管内において、該配管内周面と球体(ピグ)の外周面との間に0.3mmの空間が生じるように、直径が18.00mmの球体を使用し、塗料を投入して該球体を摺動させたところ配管内壁面に0.3mm厚さの平滑で均一な塗膜が形成されたのである。従って、形成しようとする塗膜厚さに対応して摺動部材の大きさを選択すれば良いのである。
【0045】
摺動部材47を使用した二次塗装において、要するに、摺動部材47を低圧の送気流体によって所定の速度で移動させるのであり、一次塗装の吹き延ばしとは異なり、送気流体で配管内の内圧を高めることで摺動部材が塗膜を均一厚さに押し延ばしながら移動するのであり、送気流体をそれ程強く吹き込む必要はなく、また送気時間は摺動部材47がメータ取付端部1fから外部に排出されるまでの時間であって、最長の区間Aでも10秒程度で充分である。そして、滑りが良くて塗料がほとんど付着しない摺動部材47がメータ取付端部1fから排出されると、配管内の内圧が下がるので、それを検出して直ちに送気を中止するようになっている。従って、摺動部材47を移送する送気流体は形成された塗膜48aを吹き延ばす作用は全くしないのである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
建築物内に配管されている給水管等の既設配管の内部を無溶剤型の二液性エポキシ樹脂塗料を塗装するライニング方法であって、既設配管の一端部側から他端部側までの間で各分岐された支管毎に塗装区間を区分し、各区間毎にそれぞれ設定された膜厚が形成できる量の塗料を一括して投入し、それぞれ所定圧の送気流体により吹き延ばして一次塗装の塗膜を形成する工程と、各区間の一端部側の塗膜を形成できる量の塗料を各区間毎に投入して摺動部材により押し延ばして均一化する二次塗装工程とからなるものであり、使用する塗料は常温でポットライフが4分〜6分の範囲のものであり、前記二次塗装で使用される摺動部材は、シリコンを材料として表面が滑面の球形に成形したものであり、その直径は塗装しようとする配管の内径に対して−0.4〜−1mmの範囲で小径に形成したものであって、一次塗装による塗膜厚さにバラツキがあるのを二次塗装による摺動部材で全面的に均一厚さにすることができ、それによって材料無駄を無くすことができるばかりでなく工期を早めることができるのであり、既設配管として給水管に限らず、例えば、給湯管または工場などに配設したその他の配管などの管更生においても当然のこととして本発明のライニング方法を利用することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る実施例のライニング方法が適用できる集合住宅における給水管の状況を略示的に示した説明図である。
【図2】同ライニング方法の実施において使用される塗料混合機を略示的に示した要部の配置図である。
【図3】同ライニング方法に使用される作業管の一実施例を示す側面図である。
【図4】同ライニング方法の実施において、一次塗装した一端部側(始端部側)の塗膜の状況を略示的に示した要部の断面図である。
【図5】同ライニング方法の実施において、二次塗装による摺動部材での塗膜の形成状況を略示的に拡大して示した要部の断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1…既設配管
1a、1b、1c、1d…支管
1f…メーター取付端部
2a、2b、2c、2d…第1の継手部材
3a、3b、3c、3d…第2の継手部材
4b、4c、4d…第3の継手部材
5…塗料の混合供給装置
6、7…タンク
8,9…供給パイプ
10、11…ポンプ
12…混合手段
13、14…攪拌手段
15、16…圧力計
17、18…不活性ガス供給パイプ
19、20、21、22、25、26、30、31、36、37…バルブ
23、24…循環パイプ
27…攪拌部材
28…攪拌混合室
29…吐出用バルブ
32、33…温度センサー
34、35…圧力センサー
38、39、40、41…パイプ
42…冷却手段
43…作業管
44…レジューサ
45、46…カムロック
47…摺動部材
48…一次塗装の塗膜
48a…二次塗装の塗膜
A、B、C、D…一応区分した区間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物内に配管され複数の支管が分岐されている既設配管の内部を研掃した後に、既設配管の一端部側から他端部側までと各分岐された支管毎に塗装区間を区分し、各塗装区間毎に無溶剤型の二液性エポキシ樹脂塗料を配管の端部から供給し、吹き延ばしによる一次塗装と摺動部材を使用した押し延ばしによる二次塗装を行って管内面に所定厚さの塗膜を形成するライニング方法であって、
使用する無溶剤型の二液性エポキシ樹脂塗料は、常温でポットライフが4分〜6分の範囲のものであり、
前記二次塗装で使用される摺動部材は、シリコンを材料として表面が滑面の球形に成形したものであり、その直径は塗装しようとする配管の内径に対して−0.4〜−1mmの範囲で小径に形成したものであり、
前記区分された各区間毎に吹き延ばしによる一次塗装の塗膜を形成した後に、各区間の塗膜がゲル化する前に所要量の塗料を供給して摺動部材による二次塗装を行い、一次塗装で薄く形成されている塗膜部分には二次塗装で重ね塗りし、厚く形成されている塗膜部分は押し延ばして全体的に均一の塗膜厚さに形成すること
を特徴とする給水管のライニング方法。
【請求項2】
前記ポットライフが4分〜6分の無溶剤型の二液性エポキシ樹脂塗料は、
粘度が12000〜16000(mPa・s)の範囲であり、チクソトロピック特性がTi値3〜4程度で、H硬度に達する時間が2.5時間〜3.5時間のものであること
を特徴とする請求項1に記載の給水管のライニング方法。
【請求項3】
一次塗装時の塗料投入量は、各塗装区間毎に計算した量の10%程度多めに供給すること
を特徴とする請求項1に記載の給水管のライニング方法。
【請求項4】
配管内面の塗装用として塗料を押し延ばして塗装する摺動部材(ピグ)であって、
塗料が付着し難いシリコン材でその硬度が30±5範囲のものを球形に且つ表面を滑面に成形し、その直径は塗装しようとする配管の内径に対して−0.4〜−1mm程度の小径に形成したものであること
を特徴とする給水管のライニングに使用される摺動部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−142707(P2010−142707A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320873(P2008−320873)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(393011407)日本設備工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】