説明

絶縁不良診断装置

【課題】高電圧バッテリ10に複数の電力変換回路(インバータ30,34,38,42,46)が接続される場合、絶縁不良箇所を特定するために必要となる時間の伸長を招いたり、絶縁不良箇所を特定することが非常に困難となったりすること。
【解決手段】インバータ30,34と、インバータ38,42と、インバータ46とは、各別の部類に区分され、これら各部類と高電圧バッテリ10との間や、部類同士は、リレーRm,Ra,Rbによって電気的に遮断可能とされる。そして、各部類毎に、各別の絶縁不良診断手段(「出力部60、抵抗体62、コンデンサ64および診断部66」、「出力部70、抵抗体72、コンデンサ74および診断部76」「出力部80、抵抗体82、コンデンサ84および診断部86」)を備え、各部類の絶縁不良の有無を診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載主機に電気エネルギを供給する高電圧電源に電気的に接続される複数の負荷を備えるシステムに適用され、該システムと車体との絶縁不良の有無を診断する絶縁不良診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の絶縁不良診断装置としては、たとえば下記特許文献1に見られるように、複数の負荷のそれぞれの電力変換回路の操作状態を切り替えたり、高電圧電源と電力変換回路との間を開閉するリレーの状態を切り替えたりしつつ、絶縁不良箇所を特定するものも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−223841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ただし、上記装置の場合、電力変換回路の操作状態やリレーの状態を様々に設定することで絶縁不良箇所を特定するため、電力変換回路が増加するにつれて絶縁不良箇所を特定するために必要となる時間の伸長を招くおそれがある。また、絶縁不良箇所が複数となる場合、絶縁不良箇所を特定することが非常に困難となるおそれもある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決する過程でなされたものであり、その目的は、車載主機に電気エネルギを供給する高電圧電源に電気的に接続される複数の負荷を備えるシステムに適用され、該システムと車体との絶縁不良の有無を診断する新たな絶縁不良診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、およびその作用効果について記載する。
【0007】
請求項1記載の発明は、車載主機に電気エネルギを供給する高電圧電源に電気的に接続される複数の負荷を備えるシステムに適用され、該システムと車体との絶縁不良の有無を診断する絶縁不良診断装置において、前記複数の負荷を複数の部類に区分けし、該複数の部類のそれぞれ毎に、該部類に最も近接する各別の絶縁不良診断手段を備えることを特徴とする。
【0008】
上記発明では、各部類毎に各別の絶縁不良診断手段を備えるために、いずれの部類に絶縁不良が生じたかを特定することが容易となる。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記各別の絶縁不良診断手段は、対応する負荷側に交流信号を出力する交流信号出力手段を備え、前記高電圧電源側と前記車体側との間に接続されるコンデンサおよび抵抗体の直列接続体と、前記交流信号出力手段によって前記交流信号が出力されることに伴う前記抵抗体の電気的な状態量を検出する手段と、をさらに備えることを特徴とする。
【0010】
交流信号出力手段によって交流信号を出力する場合、負荷に絶縁不良が生じているなら、これによる仮想絶縁不良抵抗と上記抵抗体とコンデンサとを備えるループ経路に交流信号が伝播する。そしてこの際の抵抗体の電気的な状態量は、仮想絶縁不良抵抗が存在しない場合(その抵抗値が十分に大きい場合)と相違する。上記発明では、この点に鑑み、交流信号出力手段と、コンデンサおよび抵抗体との直列接続体を用いて絶縁不良の有無を診断する。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記各部類毎に、該部類内の負荷に前記高電圧電源の電力を供給する電源回路を備え、該電源回路は、前記高電圧電源および前記電源回路間の配線よりもインピーダンスの高い高インピーダンス部材をさらに備え、前記電源回路と前記負荷との間には、各負荷毎に電力変換回路が設けられており、前記各別の絶縁不良診断手段は、対応する部類の高インピーダンス部材および前記電力変換回路間と車体との間を接続するコンデンサおよび抵抗体の直列接続体をさらに備えることを特徴とする。
【0012】
上記発明では、コンデンサおよび抵抗体の直列接続体を部類毎に備えるために、各部類の交流信号出力手段から交流信号が出力される際に、同部類に絶縁不良が生じているなら、同部類のコンデンサおよび抵抗体の直列接続体と、絶縁不良による仮想絶縁不良抵抗とによって構成されるループ経路に交流信号を伝播させることができる。このため、上記ループ経路から高インピーダンス部材を排除することができる。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項2または3記載の発明において、前記各負荷には、該負荷の端子に接続される出力端子と正極側入力端子および負極側入力端子のそれぞれとの間を開閉するスイッチング素子を備えて構成される電力変換回路が接続されており、前記交流信号出力手段は、前記正極側入力端子および前記出力端子間に接続されるスイッチング素子と前記負極側入力端子および前記出力端子間に接続されるスイッチング素子とを交互にオン状態とする手段であることを特徴とする。
【0014】
上記発明では、診断のための交流信号出力手段として別途ハードウェア手段を設ける必要がない。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、前記高電圧電源と前記複数の部類のそれぞれとの電気的な接続のうち特定の部類との電気的な接続を選択的に遮断する選択遮断手段を備えることを特徴とする。
【0016】
上記発明では、選択遮断手段を備えることで、絶縁不良診断手段の診断対象箇所を適切に限定することや、絶縁不良と特定された箇所と高電圧電源との電気的な接続を遮断することなどができる。
【0017】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発明において、前記負荷のうち車両内の特定部位の温度調節手段とそれ以外とのそれぞれが各別の部類に分割され、前記温度調節手段を備える部類以外の部類について前記高電圧電源との接続を保持した状態で、前記温度調節手段を備える部類と前記高電圧電源との電気的な接続を遮断する選択遮断手段を備え、前記温度調節手段の部類において絶縁不良が生じていると診断される場合、前記選択遮断手段を操作することで該部類と前記高電圧電源との接続を遮断することを特徴とする。
【0018】
温度調節手段に対する電気エネルギの供給を停止したとしても、車両の走行自体は可能であることが多い。上記発明では、この点に鑑み、温度調節手段の部類において絶縁不良が生じていると診断される場合、この部類と高電圧電源との接続を遮断することで、他の負荷への電気エネルギの供給を継続可能とする。
【0019】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明において、前記車両内の特定部位の温度調節手段は、車室内の温度調節手段であることを特徴とする。
【0020】
車室内の温度調節手段は、車両の走行機能と直接関係しない。上記発明では、この点に鑑み、この手段のみ高電圧電源との接続を遮断することで、他の負荷への電気エネルギの供給を継続可能とする。
【0021】
請求項8記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記各部類毎に、該部類内の負荷に前記高電圧電源の電力を供給する電源回路を備え、該電源回路は、前記高電圧電源および前記電源回路間の配線よりもインピーダンスの高い高インピーダンス部材をさらに備え、前記コンデンサおよび前記抵抗体の直列接続体は、各部類の高インピーダンス部材よりも負荷側に接続されるものであり、前記交流信号出力手段は、前記コンデンサの一方の端子に、前記交流信号を出力するものであり、前記交流信号出力手段のそれぞれから前記交流信号を出力した際の該それぞれの前記抵抗体の電気的な状態量に基づき、前記絶縁不良の生じている箇所を絞り込む絞込み手段を備えることを特徴とする。
【0022】
上記発明では、高インピーダンス部材よりも負荷側で絶縁不良が生じる場合と、逆側で絶縁不良が生じる場合とで、絶縁不良によって生じるループ経路のインピーダンスに差異が生じる。そして、インピーダンスの差異が生じると、上記抵抗体の電気的な状態量にも差異が生じる。上記発明では、この点に鑑み、この差異を、絶縁不良箇所を絞り込むための情報として利用する。
【0023】
請求項9記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記高電圧電源と前記複数の部類のそれぞれとの電気的な接続のうち特定の部類との電気的な接続を選択的に遮断する選択遮断手段を備え、前記選択遮断手段によって遮断状態を生成した際における前記絶縁不良診断手段による診断結果に基づき、前記絶縁不良の生じている箇所を絞り込む絞込み手段を備えることを特徴とする。
【0024】
選択遮断手段によって遮断状態を生成する場合、絶縁不良診断手段の診断対象箇所を適切に限定することができる。このため、絶縁不良の生じている箇所を絞り込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態にかかる絶縁不良の診断処理手順を示す流れ図。
【図3】第2の実施形態にかかるシステム構成図。
【図4】同実施形態にかかる絶縁不良の診断処理手順を示す流れ図。
【図5】第3の実施形態にかかるシステム構成図。
【図6】第4の実施形態にかかるシステム構成図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第1の実施形態>
以下、本発明にかかる絶縁不良診断装置をハイブリッド車に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
図1に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。
【0028】
図示される高電圧バッテリ10は、端子電圧がたとえば百V程度となる2次電池である。高電圧バッテリ10の負極電位は、車体から絶縁されている。詳しくは、たとえば高電圧バッテリ10の両端に一対のコンデンサを接続し、それらの接続点を車体に接続するなどすることで、高電圧バッテリ10の正極電位および負極電位の中央値が車体電位と等しくなるような設定がなされている。
【0029】
高電圧バッテリ10は、一対の電源ラインLp,Lnに接続されており、電源ラインLp,Lnは、一対のリレーRmによって開閉される。電源ラインLp,Lnは、電源回路20に接続されている。電源回路20は、電源ラインLp,Lnのそれぞれに接続されるノーマルモードチョークコイル22,26と平滑コンデンサ24とを備えて構成されている。
【0030】
電源回路20には、一対のリレーRaを介して、インバータ30およびインバータ34が並列接続されている。ここで、インバータ30は、車載内燃機関のシリンダブロック内の冷却水を冷却させるウォータポンプに搭載される電動機32に、3相交流電圧を印加するためのものである。一方、インバータ34は、ディファレンシャルギア等、駆動系に供給される潤滑油を循環させるためのオイルポンプに搭載される電動機36に、3相交流電圧を印加するためのものである。
【0031】
電源回路20には、さらに、一対のリレーRbを介して、インバータ38およびインバータ42が並列接続されている。ここで、インバータ38は、車載空調装置に搭載されるブロアファンの電動機40に、3相交流電圧を印加するためのものである。一方、インバータ42は、車載空調装置に搭載されるヒータ44に3相交流を印加するためのものである。なお、ヒータ44は、電熱器であるが、本実施形態では、上記インバータ30,34,38と同様の3相インバータによって駆動可能に設計されている。
【0032】
このように、電源回路20は、インバータ30,34,38,42によって共有されている。これは、各インバータ毎に電源回路を搭載する場合の各電源回路(平滑コンデンサ)に必要な静電容量よりも、電源回路を共有した場合に必要な静電容量の方が小さくなるとの知見に基づくものである。ただし、必要な静電容量を低減するためには、インバータ30,34,38,42のそれぞれのスイッチング周波数を互いに相違させる必要がある。
【0033】
なお、上記インバータ30,34,38,42や電源回路20は、単一のケースCAに搭載されており、車載負荷(電動機32,36,40やヒータ44)は、ケースCAに対して外付けされている。これは、ケースCAを小型化し、車両衝突時等においても損傷を受けにくいところに配置することを1つの目的としてなされた設定である。
【0034】
上記電源ラインLp,Lnには、さらに、車載主機としてのモータジェネレータ48に3相交流電圧を印加するインバータ46が接続されている。
【0035】
上記インバータ30やインバータ34は、エンジン用電子制御装置(EGECU50)によって操作される。また、上記インバータ38やインバータ42は、空調用電子制御装置(ACECU52)によって操作される。さらに、上記インバータ46は、MG用電子制御装置(MGEECU54)によって操作される。これらEGECU50、ACECU52、およびMGECU54は、CAN通信を介して上位のハイブリッド電子制御装置(HVECU56)と通信が可能とされている。ちなみに、実際には、電動機36は内燃機関との関連が低いため、これを制御するための制御装置は、電動機32の制御のための制御装置とは別であってもよい。
【0036】
なお、これらEGECU50、ACECU52、MGECU54およびHVECU56は、上記高電圧バッテリ10を備える車載高電圧システムとは絶縁された車載低電圧システムを構成するものであり、基準電位が車体電位とされるものである。このため、実際には、EGECU50がインバータ30,34を操作する際や、ACECU52がインバータ38,42を操作する際、さらにはMGECU54がインバータ46を操作する際には、フォトカプラ等の絶縁手段を介して操作信号を出力する。
【0037】
次に、本実施形態にかかる絶縁不良診断手段について説明する。
【0038】
本実施形態では、車両の駆動系の車載補機である電動機32,36と、車載空調装置のための車載補機である電動機40およびヒータ44と、車載主機であるモータジェネレータ48とを各別の部類とする区分けを行う。そして、これら各部類毎に、絶縁不良の有無を診断するためのハードウェア手段を、対応する部類に最近接するようにそれぞれ接続する。
【0039】
すなわち、インバータ34の正極側(リレーRaよりもインバータ34側)の配線には、コンデンサ64および抵抗体62の直列接続体を介して交流電圧信号(診断信号ds1)を出力する出力部60が接続されており、また、抵抗体62およびコンデンサ64の接続点には、診断部66が接続されている。これら出力部60、抵抗体62、コンデンサ64および診断部66は、電動機32,36の部類のための絶縁不良診断手段である。すなわち、出力部60では、EGECU50からの指令信号に応じて診断信号ds1を出力し、診断部66では、抵抗体62およびコンデンサ64の接続点の電位として診断信号ds1を受信する。ここで、電動機32や電動機36と車体との間に絶縁不良が生じている場合、診断信号ds1は、絶縁不良に対応して電動機32,36と車体との間に生じる抵抗(以下、仮想絶縁不良抵抗)と抵抗体62とによって分圧される。このため、診断部66では、受信する診断信号ds1の波高値が小さいことに基づき、診断対象とする部類において絶縁不良が生じていると診断することができる。なお、出力部60および診断部66の構成は、たとえば特開平8−70503号公報に記載されているものとすればよい。
【0040】
同様に、インバータ42の正極側(リレーRbよりもインバータ42側)の配線には、コンデンサ74および抵抗体72の直列接続体を介して交流電圧信号(診断信号ds2)を出力する出力部70が接続されており、また、抵抗体72およびコンデンサ74の接続点には、診断部76が接続されている。これら出力部70、抵抗体72、コンデンサ74および診断部76は、電動機40やヒータ44の部類のための絶縁不良診断手段である。すなわち、出力部70では、ACECU52からの指令信号に応じて診断信号ds2を出力し、診断部76では、抵抗体72およびコンデンサ74の接続点の電位として診断信号ds2を受信する。
【0041】
また同様に、インバータ46の正極側(リレーRmよりもインバータ46側)の配線には、コンデンサ84および抵抗体82の直列接続体を介して交流電圧信号(診断信号ds3)を出力する出力部80が接続されており、また、抵抗体82およびコンデンサ84の接続点には、診断部86が接続されている。これら出力部80、抵抗体82、コンデンサ84および診断部86は、モータジェネレータ48の部類のための絶縁不良診断手段である。すなわち、出力部80では、MGECU54からの指令信号に応じて診断信号ds3を出力し、診断部86では、抵抗体82およびコンデンサ84の接続点の電位として診断信号ds3を受信する。
【0042】
図2に、本実施形態にかかる絶縁不良の診断処理の手順を示す。この処理は、HVECU56によって、たとえば所定周期でくり返し実行される。
【0043】
この一連の処理では、まずステップS10において、インバータ30,34,38,42,46の停止指令を出力する。これにより、EGECU50、ACECU52およびMGECU54では、対象となるインバータの操作を停止する。続くステップS12においては、リレーRm,Ra,Rbを全て開操作する。この処理は、上記各絶縁不良診断手段が、対象とする部類に限って絶縁不良の有無を診断することができるようにするためのものである。すなわちたとえば、リレーRaを開状態とすることで、診断対象となる部類((電動機32,36)と、診断対象外の部類(電動機40、ヒータ44、モータジェネレータ48)との電気的な接続を遮断し、診断信号ds1が伝播しうる範囲を診断対象とする部類に限定する。
【0044】
続くステップS14では、診断信号ds1、ds2、ds3の出力指令を出す。これにより、EGECU50、ACECU52およびMGECU54のそれぞれは、出力部60,70,80のそれぞれに診断信号ds1,ds2,ds3のそれぞれを出力するように指令する。これにより、診断部66,76,86のそれぞれは、CAN通信を介して診断結果を出力する。これにより、ステップS18において絶縁不良が生じている旨の異常診断が少なくとも1つの部類でなされているか否かを判断する。そしてなされている場合、ステップS20において、その旨をユーザに通知する。これは、車両内の表示手段を通じて行ってもよく、またアラーム等を用いて行ってもよい。
【0045】
続くステップS22では、絶縁不良箇所が空調にかかる部類で生じたか否かを判断する。そして、空調にかかる部類で絶縁不良が生じていると判断される場合、ステップS24において、リレーRbが閉状態となることを禁止する。
【0046】
なお、上記ステップS24の処理が完了する場合や、ステップS18,S22において否定判断される場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0047】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0048】
(1)車載負荷を複数の部類に区分けし、区分けされた部類のそれぞれ毎に、各別の絶縁不良診断手段(「出力部60、抵抗体62、コンデンサ64および診断部66」、「出力部70、抵抗体72、コンデンサ74および診断部76」「出力部80、抵抗体82、コンデンサ84および診断部86」)を備えた。これにより、いずれの部類に絶縁不良が生じたかを特定することが容易となる。
【0049】
(2)各部類間を絶縁するためリレーRa,Rbを備えた。これにより、絶縁不良の生じている箇所を絞り込むことができる。
【0050】
(3)車載空調装置の部類に絶縁不良が生じている場合、リレーRbが閉状態となることを禁止した。これにより、車両の走行に影響を与えることなく、絶縁不良に起因した問題を回避することができる。
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0051】
図3に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図3において、先の図1に示した部材に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0052】
図示されるように、本実施形態では、駆動系の車載補機の部類に属するインバータ30,34等を1つのケースCA1に収納し、空調装置の部類に属するインバータ38,42等を1つのケースCA2に収納する。そして、これら各ケースCA1,CA2には、電源回路20a,20bがそれぞれ収容されている。これら電源回路20a,20bは、先の図1に示した電源回路20と同様のものである。
【0053】
本実施形態では、さらに、診断部66,76,86のそれぞれが、抵抗体62,72,82を通過する前の出力部60,70,80の診断信号ds1〜ds3を取得する機能を有する。
【0054】
図4に、本実施形態にかかる絶縁不良の有無の診断処理の手順を示す。この処理は、HVECU56によって、たとえば所定周期でくり返し実行される。なお、図4において、先の図2に示した処理に対応するものについては、便宜上同一のステップ番号を付している。
【0055】
図示されるように、本実施形態では、診断に際してインバータは停止状態とされるものの、リレーRm,Ra,Rbについては特に開操作されることなく、診断信号ds1〜ds3の出力指令がだされる。そして、HVECU56では、ステップS16において、各診断部66,76,86から診断結果を取得する。
【0056】
ここで、診断部66では、診断結果として、抵抗体62およびコンデンサ64の接続点の電位として受信される診断信号ds1についての波高値が規定値以下であるか否かについての情報に加えて、出力部60の出力する診断信号ds1と、上記接続点の電位として受信される診断信号ds1との位相差に関する情報をも併せて出力する。同様に、診断部76では、診断結果として、抵抗体72およびコンデンサ74の接続点の電位として受信される診断信号ds2についての波高値が規定値以下であるか否かについての情報に加えて、出力部70の出力する診断信号ds2と、上記接続点の電位として受信される診断信号ds2との位相差に関する情報をも併せて出力する。また、診断部86でも、診断結果として、抵抗体82およびコンデンサ84の接続点の電位として受信される診断信号ds3についての波高値が規定値以下であるか否かについての情報に加えて、出力部80の出力する診断信号ds3と、上記接続点の電位として受信される診断信号ds3との位相差に関する情報をも併せて出力する。
【0057】
HVECU56では、これら診断結果に基づき、まず波高値が規定値以下のものがある場合には、ステップS18において異常があると判断する。そしてこの場合、ステップS30において、上記位相差の情報に基づき、異常箇所を特定する。すなわち、たとえば先の図3の電動機32とインバータ30との間の配線に絶縁不良が生じている場合、抵抗体62およびコンデンサ64間の電位は、仮想絶縁不良抵抗と抵抗体62との分圧となるため、波高値が小さくなるものの、この場合、大きな位相差は生じないと考えられる。これに対し、たとえば電動機40およびインバータ38間の配線に絶縁不良が生じている場合、抵抗体62およびコンデンサ64間の電位は、仮想絶縁不良抵抗と抵抗体62とノーマルモードチョークコイル22a,22bとの直列接続体における抵抗体62とノーマルモードチョークコイル22aとの間の電位となる。そして、ノーマルモードチョークコイル22a,22bは、交流信号である診断信号ds1の位相をずらす効果を有するため、位相差が生じる。したがって、診断部66の受信する診断信号ds1の波高値が小さくなっているものの位相差が生じていない場合には、内燃機関の補機の部類に絶縁不良が生じていると判断することができる。ちなみに、この場合、診断部76,86によって受信される診断信号ds2、ds3は、波高値が小さく位相差が生じたものとなっていると考えられる。
【0058】
このため、ある単一の部類用の絶縁不良診断手段によって波高値が小さく且つ位相差のない診断信号が受信され、残りの部類用の絶縁不良診断手段のそれぞれによって波高値が小さく且つ位相差を生じている診断信号が受信される場合には、上記単一の部類に絶縁不良が生じていると判断することができる。なお、2つの部類において絶縁不良が生じている場合、全ての絶縁不良診断手段によって波高値が小さく且つ位相差を生じている診断信号が受信されると考えられるため、この場合には、リレーRm,Ra,Rbを操作することで第1の実施形態の要領で絶縁不良箇所を特定することが望ましい。
<第3の実施形態>
以下、第3の実施形態について、先の第2の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0059】
図5に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図5において、先の図1に示した部材に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0060】
図示されるように、本実施形態では、出力部60,70,80を削除する。そして、コンデンサ64および抵抗体62によってインバータ34および接地間を接続し、コンデンサ74および抵抗体72によってインバータ42および接地間を接続し、コンデンサ84および抵抗体82によってインバータ46および接地間を接続する。
【0061】
ここで、本実施形態では、出力部60,70,80に代えて、インバータ30,34,38,42,46を、交流信号出力手段とし、上側アームおよび下側アームを交互にオン操作する(相補駆動する)。これにより、たとえばインバータ30の上側アームおよび下側アームを相補駆動する場合、電動機32に絶縁不良が生じていないなら、コンデンサ64および抵抗体62間の電位は、上記相補駆動によってはほとんど変動しない。これに対し、電動機32に絶縁不良が生じている場合、その仮想絶縁不良抵抗と抵抗体62とコンデンサ64とで形成されるループ経路に交流電流が流れるために、コンデンサ64bおよび抵抗体62間の電位は上記相補駆動に同期して変動する。
【0062】
なお、各インバータ30,34,38,42,46の上側アームと下側アームとの相補駆動は、全相(全出力端子)について行うことが望ましい。これにより、いずれの出力端子と負荷との間に絶縁不良が生じている場合であっても、負荷の巻線等の影響を受けることを回避することができる。
【0063】
ちなみに、本実施形態において高電圧システムと接地との間をコンデンサと抵抗体との直列接続体によって接続している点は、上記第1の実施形態と同等である。すなわち、第1の実施形態では、たとえばコンデンサ64、抵抗体62および出力部60を介して高電圧システムと接地とが接続されている。
<第4の実施形態>
以下、第4の実施形態について、先の第3の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0064】
図6に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図6において、先の図5に示した部材に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0065】
本実施形態では、診断部66,76,86を高圧系で動作する回路とする。すなわち、インバータ34の低電位側の入力端子に抵抗体62を接続し、接地側にコンデンサ64を接続し、これらの接続点の電位を診断部66が取り込むようにする。また、インバータ42の低電位側の入力端子に抵抗体72を接続し、接地側にコンデンサ74を接続し、これらの接続点の電位を診断部76が取り込むようにする。さらに、インバータ46の低電位側の入力端子に抵抗体82を接続し、接地側にコンデンサ84を接続し、これらの接続点の電位を診断部86が取り込むようにする。ちなみに、診断部66,76,86では、診断結果信号を、フォトカプラ等を介して出力する。
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0066】
「高インピーダンス部材について」
高インピーダンス部材としては、ノーマルモードチョークコイルに限らない。たとえばコモンモードチョークコイルであってもよい。この場合、高電位側および低電位側の一対の配線に同一位相且つ同一の大きさの診断信号を印加することで、コモンモードチョークコイルの下流側に診断信号が出力されることを回避することができるため、コモンモードチョークコイルの上流側のみを診断対象とすることができる。
【0067】
なお、高インピーダンス経路としては、インダクタを備えるものに限らず、たとえば線形素子としての抵抗体を用いても抵抗体の上流側と下流側とで絶縁不良が生じた場合の診断信号の波高値に識別可能な相違を生じさせることが可能である。
【0068】
「診断条件について」
インバータの操作を停止する条件を設けなくてもよい。この場合、診断部76に、インバータのスイッチング周波数の信号を減衰させるフィルタ回路を備えることが望ましい。
【0069】
「絞り込み手段について」
上記第2の実施形態において、診断部66,76において受信される診断信号ds1,ds2と、出力部60,70によって出力される診断信号ds1,ds2との波高値に基づき、絞込みを行ってもよい。すなわち、たとえば電動機36に絶縁不良が生じる場合には、診断部66と診断部76とのそれぞれが受信する診断信号ds1,ds2の波高値に相違が生じると考えられる。これは、診断部76の受信する信号は、抵抗体72、ノーマルモードチョークコイル22b,22a、および仮想絶縁不良抵抗によって分圧されるからである。
【0070】
「複数の負荷について」
上記実施形態において例示したものに限らない。たとえば車載空調装置の電動コンプレッサのアクチュエータ(電動機)であってもよい。また、車載内燃機関の冷却水が循環するラジエータ用の冷却ファンであってもよい。さらに、モータジェネレータ48に接続されるインバータ46のスイッチング素子を冷却する冷却水を循環させるポンプに搭載される電動機であってもよい。さらに、車両の操舵をアシストする電動パワーステアリング等のアシスト手段に搭載されるアクチュエータ(電動機)であってもよい。
【0071】
「部類分けについて」
上記実施形態において例示したものに限らない。たとえば、車室内の温度を調節する温度調節手段(空調装置)と、車両の駆動系の温度を調節する温度調節手段(ウォータポンプ、ラジエータの冷却ファン等)とを同一の部類としてもよい。この場合、駆動系の温度を調節する手段の電源供給を遮断する場合には、車両を駆動するための動力が制限されるものの走行は可能である。このため、この部類と高電圧バッテリ10との間を遮断しつつリンプホーム処理を行ってもよい。
【0072】
「選択遮断手段について」
各部類毎に備えるものに限らない。たとえば、上記第2の実施形態において、リレーRaを備えなくてもよい。
【0073】
「電気的な状態量について」
抵抗体とコンデンサとの接続点の電位(電圧の波高値や位相)に限らない。たとえば、抵抗体62,72,82の両端の電圧降下量や電流値であってもよい。
【0074】
「絶縁不良診断手段について」
上記第3、第4の実施形態において、診断部66,76,86を、各部類毎に個別に設けられる手段とする代わりに、部類間で共有してもよい。同様に、抵抗体62およびコンデンサ64と、抵抗体72およびコンデンサ74と、抵抗体82およびコンデンサ84とを、各部類毎に個別に設けられる手段とする代わりに、部類間で共有してもよい。ただし、この場合、いずれの部類に絶縁不良が生じているかに応じて、仮想絶縁不良抵抗と抵抗体およびコンデンサとを備えるループ経路に、ノーマルモードチョークコイルが含まれるか含まれないかの相違が生じるため、その影響を考慮することが望ましい。
【0075】
なお、上記第3、第4の実施形態において、モータジェネレータ48の部類に限って、交流信号出力手段として、先の図1に示した出力部80を採用してもよい。これは、主機に接続されるインバータ46が特に大電力を扱うものであることに鑑みた設定である。
【0076】
上記各実施形態において例示したものに限らない。たとえば、特開平8−70503号公報において従来技術として記載されているものであってもよい。
【0077】
「そのほか」
・高電圧電源としては、高電圧バッテリ10に限らず、たとえば燃料電池であってもよい。
【0078】
・ハイブリッドシステムに適用されるものに限らない。たとえば車載主機のエネルギ蓄積手段として電気エネルギを蓄える手段のみを備える電気自動車や燃料電池車のシステムに適用されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0079】
56…HVECU(絞り込み手段の一実施形態)、60,70,80…出力部、66,76,86…診断部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載主機に電気エネルギを供給する高電圧電源に電気的に接続される複数の負荷を備えるシステムに適用され、該システムと車体との絶縁不良の有無を診断する絶縁不良診断装置において、
前記複数の負荷を複数の部類に区分けし、該複数の部類のそれぞれ毎に、該部類に最も近接する各別の絶縁不良診断手段を備えることを特徴とする絶縁不良診断装置。
【請求項2】
前記各別の絶縁不良診断手段は、対応する負荷側に交流信号を出力する交流信号出力手段を備え、
前記高電圧電源側と前記車体側との間に接続されるコンデンサおよび抵抗体の直列接続体と、
前記交流信号出力手段によって前記交流信号が出力されることに伴う前記抵抗体の電気的な状態量を検出する手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の絶縁不良診断装置。
【請求項3】
前記各部類毎に、該部類内の負荷に前記高電圧電源の電力を供給する電源回路を備え、
該電源回路は、前記高電圧電源および前記電源回路間の配線よりもインピーダンスの高い高インピーダンス部材をさらに備え、
前記電源回路と前記負荷との間には、各負荷毎に電力変換回路が設けられており、
前記各別の絶縁不良診断手段は、対応する部類の高インピーダンス部材および前記電力変換回路間と車体との間を接続するコンデンサおよび抵抗体の直列接続体をさらに備えることを特徴とする請求項2記載の絶縁不良診断装置。
【請求項4】
前記各負荷には、該負荷の端子に接続される出力端子と正極側入力端子および負極側入力端子のそれぞれとの間を開閉するスイッチング素子を備えて構成される電力変換回路が接続されており、
前記交流信号出力手段は、前記正極側入力端子および前記出力端子間に接続されるスイッチング素子と前記負極側入力端子および前記出力端子間に接続されるスイッチング素子とを交互にオン状態とする手段であることを特徴とする請求項2または3記載の絶縁不良診断装置。
【請求項5】
前記高電圧電源と前記複数の部類のそれぞれとの電気的な接続のうち特定の部類との電気的な接続を選択的に遮断する選択遮断手段を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の絶縁不良診断装置。
【請求項6】
前記負荷のうち車両内の特定部位の温度調節手段とそれ以外とのそれぞれが各別の部類に分割され、
前記温度調節手段を備える部類以外の部類について前記高電圧電源との接続を保持した状態で、前記温度調節手段を備える部類と前記高電圧電源との電気的な接続を遮断する選択遮断手段を備え、
前記温度調節手段の部類において絶縁不良が生じていると診断される場合、前記選択遮断手段を操作することで該部類と前記高電圧電源との接続を遮断することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の絶縁不良診断装置。
【請求項7】
前記車両内の特定部位の温度調節手段は、車室内の温度調節手段であることを特徴とする請求項6記載の絶縁不良診断装置。
【請求項8】
前記各部類毎に、該部類内の負荷に前記高電圧電源の電力を供給する電源回路を備え、
該電源回路は、前記高電圧電源および前記電源回路間の配線よりもインピーダンスの高い高インピーダンス部材をさらに備え、
前記コンデンサおよび前記抵抗体の直列接続体は、各部類の高インピーダンス部材よりも負荷側に接続されるものであり、
前記交流信号出力手段は、前記コンデンサの一方の端子に、前記交流信号を出力するものであり、
前記交流信号出力手段のそれぞれから前記交流信号を出力した際の該それぞれの前記抵抗体の電気的な状態量に基づき、前記絶縁不良の生じている箇所を絞り込む絞込み手段を備えることを特徴とする請求項2記載の絶縁不良診断装置。
【請求項9】
前記高電圧電源と前記複数の部類のそれぞれとの電気的な接続のうち特定の部類との電気的な接続を選択的に遮断する選択遮断手段を備え、
前記選択遮断手段によって遮断状態を生成した際における前記絶縁不良診断手段による診断結果に基づき、前記絶縁不良の生じている箇所を絞り込む絞込み手段を備えることを特徴とする請求項1または2記載の絶縁不良診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−13270(P2013−13270A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145231(P2011−145231)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】