説明

絶縁型DC−DCコンバータ

【課題】信号伝達用トランスの2次側に生じるノイズの問題を解消して安定性の高い絶縁型DC−DCコンバータを提供する。
【解決手段】主脚部6bに巻回した電力伝達用の巻線Aおよび副脚部6a,6cに巻回した信号伝達用の巻線Bを備えたトランスTを用い、巻線Aに発生する磁束により巻線Bに発生する電圧の極性が、パルス信号発生回路21により主スイッチ素子Q1の駆動電圧が印加された時に巻線Bへ出力される電圧の極性と同じになるように2つの副脚部6a,6cの断面積を異ならせる。または巻線の巻回数を異ならせる。その上で、パルス信号発生回路21の電源端(VDD)と巻線Bとの間に第1のクランプ用ダイオードD1を設け、巻線Bの両端に、カソードが該パルス信号発生回路21に接続されるように、第2のクランプ用ダイオードD2を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、絶縁型DC−DCコンバータに関するものであり、特に電力伝達用トランスと信号伝達用トランスとを兼ねるトランスを用いた絶縁型DC−DCコンバータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一組のコアを備え、電力伝達用トランスおよび信号伝達用トランスを兼ねる単一のトランスと、それを用いた絶縁型DC−DCコンバータが特許文献1に開示されている。
【0003】
ここで、特許文献1に示されているトランスの構成について図1〜図3を参照して説明する。
【0004】
図1・図2は特許文献1に係るトランスの構成例を示す図である。図2は多層基板の各層パターンを示す図、図1は図2に示すX1−X1,X2−X2,X3−X3,X4−X4部分でのトランスの側面図である。このトランスは、図1・図2に示すように、第1プリントコイル基板11、第2プリントコイル基板12、第3プリントコイル基板13、第4プリントコイル基板14、およびこれらのコイルの戻り線を形成する層と合わせて8層の多層基板を備えている。
【0005】
この8層の多層基板には、E−E型、またはE−I型の3本脚コアの2本の副脚部6a,6cと1本の主脚部6bが貫通する2個の外孔11a,11cと1個の中孔11bを一直線状に配置形成している。前記3本脚の1対のコアで前記多層基板を挟んで嵌め合わせて閉磁路を構成している。
【0006】
前記3本脚コアにおいて、2本の副脚部の断面積および主脚部と副脚部の距離は均等であり、主脚部と各々の副脚部が形成する2個の磁路は、その磁気抵抗が等しい。第1プリントコイル基板11、第3プリントコイル基板13には、中孔11bの周囲すなわち主脚部の周囲に渦状にコイルを巻回し、電力伝達用トランス部の1次コイルと2次コイルを構成している。第2プリントコイル基板12、第4プリントコイル基板14には、一方の外孔11aの周囲すなわち第1副脚部6aの周囲の周囲に時計方向のコイルを巻回し、他方の外孔11cの周囲すなわち第2副脚部6cの周囲に反時計方向のコイルをそれぞれ同数巻回し、それらを直列接続して信号伝達用トランス部の1次コイルと2次コイルを構成している。
【0007】
図3は前記E−E型コアによって構成されるトランスの磁路を表している。図中のループ状の矢印Ba,Bbは前記電力伝達用トランス部よる磁束の経路、Bcは前記信号伝達用トランス部による磁束の経路である。このように信号伝達用トランス部において、電力伝達用トランス部の動作によって第1副脚部6aの周囲に巻回されたコイルに誘起される電圧は、第2副脚部6bの周囲に巻回されたコイルに誘起される逆方向で絶対値が等しい電圧で打ち消されるので、ゼロボルトになる。信号伝達用トランス部の動作によって第1副脚部に発生する磁束と第2副脚部に発生する磁束とは、主脚部では打ち消しあうので、信号伝達用トランス部の動作は電力伝達用トランス部に影響を与えない。この原理によって、電力伝達用トランス部と信号伝達用トランス部は1個のコアを共用しつつ、互いに独立に動作する。
【0008】
前記特許文献1のような構造のトランスは、例えば図4に示すような絶縁型DC−DCコンバータの電力伝達用トランスT1および信号伝達用トランスT2として用いることができる。図4において、トランスT1は電力伝達用トランス、トランスT2は信号伝達用トランスである。電力伝達用トランスT1の巻線Aには直列に主スイッチ素子Q1を接続し、この直列回路を入力端子+Vin・−Vinの間に接続している。電力伝達用トランスT1の巻線Cには整流スイッチ素子Q2、転流スイッチ素子Q3、チョークコイルL1およびコンデンサC2からなる同期整流回路を接続している。同期整流器駆動回路23は整流スイッチ素子Q2および転流スイッチ素子Q3をオン・オフ制御する。信号伝達用トランスT2の巻線Bには、主スイッチ素子Q1のゲートおよび信号伝達用トランスT2の巻線Bに対して与えるパルス信号を発生するパルス信号発生回路21を設けている。また、この巻線BにはコンデンサC1を直列に接続して、Q1へ与えられるパルス信号の微分信号を供給するように構成している。さらに巻線BにはダイオードD2を並列に接続して、信号伝達用トランスT2の巻線DにQ1の立ち上がりタイミングのパルス信号のみが発生するように構成している。
【0009】
信号伝達用トランスT2の巻線Dにはパルス信号再生回路22を接続している。このパルス信号再生回路22は信号伝達用トランスT2の巻線Dの起電圧を入力してパルス信号発生回路21の立ち上がりタイミングの信号を同期整流器駆動回路23へ与える。
【0010】
図5は図4に示した各部の電圧波形図である。(a)はパルス信号発生回路21の出力信号、(b)は電力伝達用トランスT1の巻線電圧、(c)はトランスの第1副脚部(図1・図2に示した6a)に巻回した信号伝達用巻線の電圧、(d)はトランスの第2副脚部(図1・図2に示した6c)に巻回した信号伝達用巻線の電圧、(e)は信号伝達用トランスT2の巻線Dの電圧である。
【0011】
図4に示したパルス信号再生回路22は図5の(e)に示したパルス信号に応じてパルス信号発生回路21が発生するパルス信号と同様のパルス信号を発生する。
【特許文献1】特開2000−260639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが図5の(e)に示した波形は理想的な場合であって、実際にはトランスの第1・第2の副脚部のそれぞれの断面積や、ギャップ部分のばらつきがあるので、図5の(f)または(g)に示すような電圧が発生する。
【0013】
図3に示した電力伝達用巻線により第1副脚部6aを通る磁束Baが、第2の副脚部6cを通る磁束Bbより大きい場合、第1副脚部6aに巻回された信号伝達用巻線の電圧が第2副脚部6cの信号伝達用巻線電圧より相対的に大きくなるので、図5(f)に示すような電圧が表れる。
【0014】
逆に、図3に示した電力伝達用巻線により第1副脚部6aを通る磁束Baが、第2の副脚部6cを通る磁束Bbより小さい場合、第1副脚部6bに巻回された信号伝達用巻線の電圧が第2副脚部6cの信号伝達用巻線電圧より相対的に大きくなるので、図5(g)に示すような電圧が表れる。
【0015】
図5(f)の場合、出力信号電圧が低下し、パルス信号が必要のない期間で信号と同方向にノイズN12が発生する。また図5(g)の場合、出力信号電圧がV2′分上昇し、パルス信号電圧が上昇している期間がノイズN21により伸びる。
【0016】
なお、N11,N22で示すマイナス方向のノイズは図4に示したダイオードD2によってクランプされ、それよりマイナス方向には増大しない。
【0017】
ここで特に問題となるのは図5の(f)に示した状態である。パルス信号が必要でない期間にノイズN12が発生して同期整流器駆動回路23による整流スイッチ素子Q2および転流スイッチ素子Q3の制御が誤動作するおそれがある。また図5の(g)に示した状態ではパルス信号の増大分V2′が大きすぎるとパルス信号再生回路22が誤動作する恐れがある。
【0018】
そこで、この発明の目的は、信号伝達用トランスの2次側に生じるノイズの問題を解消して安定性の高い絶縁型DC−DCコンバータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この発明の絶縁型DC−DCコンバータは次のように構成する。
(1)コアとこのコアに結合する電力伝達用巻線および信号伝達用巻線を備え、前記電力伝達用巻線が前記コアの主脚部に結合する電力伝達用1次側巻線および電力伝達用2次側巻線からなり、前記信号伝達用巻線が前記コアの少なくとも2つの副脚部に結合して、前記電力伝達用巻線が発生する磁束を受けて発生する起電力を打ち消すようにそれぞれ結線した信号伝達用1次側巻線および信号伝達用2次側巻線からなるトランスと、
前記電力伝達用1次側巻線に直列に接続した主スイッチ素子(Q1)と、
前記主スイッチ素子(Q1)をパルス信号で制御するとともに前記信号伝達用1次側巻線(B)に前記主スイッチ素子の駆動電圧の立ち上がり信号を印加するパルス信号発生回路(21)と、
前記トランスの電力伝達用2次側巻線(C)に接続され、前記主スイッチ素子(Q1)のオン・オフに同期して整流する同期整流器(Q2,Q3)と、
前記信号伝達用2次側巻線の出力信号によって前記同期整流器を駆動する同期整流器駆動回路(23)と、
前記電力伝達用巻線が発生する磁束により前記信号伝達用1次側巻線(B)に発生する電圧の極性が、前記パルス信号発生回路(21)により前記主スイッチ素子(Q1)の駆動電圧が印加されたときの前記信号伝達用1次側巻線(B)への出力電圧の極性と同じになるように、前記信号伝達用巻線が結合する前記少なくとも2つの副脚部(6a,6c)の断面積を異ならせ、または前記信号伝達用巻線が結合する前記少なくとも2つの副脚部(6a,6c)に対する巻線の巻回数を異ならせ、
前記信号伝達用1次側巻線(B)に入力する前記主スイッチ素子(Q1)に対する駆動電圧を供給する前記パルス信号発生回路(21)の電源端(VDD)と前記信号伝達用1次側巻線(B)との間に逆バイアス方向に第1のクランプ用ダイオード(D1)を接続する。
【0020】
(2)両端が前記信号伝達用1次側巻線(B)の両端に接続され、カソードが前記パルス信号発生回路の出力端に接続された第2のクランプ用ダイオード(D2)を設ける。
【0021】
(3)前記信号伝達用1次側巻線(B)と前記パルス信号発生回路(21)のグランドとの間に容量負荷を設け、前記パルス信号発生回路(21)のグランドと前記信号伝達用1次側巻線(B)との間に、前記主スイッチ素子(Q1)の駆動電圧の立ち下がり信号を導通させる第3のクランプ用ダイオード(D3)を設ける。
【0022】
(4)前記主スイッチ素子(Q1)はMOS−FETであり、該MOS−FETのソースを前記グランドに接続し、ゲートを前記第1のクランプ用ダイオード(D1)と前記信号伝達用1次側巻線(B)との接続部に接続し、前記パルス信号発生回路(21)のグランドと前記信号伝達用1次側巻線(B)との間に、前記主スイッチ素子(Q1)の駆動電圧の立ち下がり信号を導通させる第3のクランプ用ダイオード(D3)を設ける。
【発明の効果】
【0023】
(1)電力伝達用巻線が発生する磁束により信号伝達用2次側巻線(D)に発生する電圧の極性が、パルス信号発生回路(21)により主スイッチ素子(Q1)の駆動電圧の立ち上がり信号が印加された時に信号伝達用2次側巻線(D)へ出力される電圧の極性と同じになるので、トランスの第1・第2の副脚部のそれぞれの断面積や、ギャップ部分のばらつきがあっても常に図5の(g)に示した状態とすることができる。
【0024】
また、信号伝達用1次側巻線(B)に入力する主スイッチ素子(Q1)に対する駆動電圧の立ち上がり信号の伝達と同電位の電圧源であるパルス信号発生回路(21)の電源端と信号伝達用1次側巻線(B)との間に逆バイアス方向に第1のクランプ用ダイオード(D1)を接続したことにより、上記第1のクランプ用ダイオード(D1)によって図5の(g)に示した電圧V2′の上昇がクランプ用ダイオードの順方向電圧に制限されて、それ以上には上昇しない。そのため、図5の(f),(g)で示したいずれの状態での誤動作をも防止できる。
【0025】
(2)両端が前記信号伝達用1次側巻線の両端に接続され、カソードが前記パルス信号発生回路の出力端に接続された第2のクランプ用ダイオード(D2)が設けられていることにより、信号伝達用1次巻線のマイナス方向の電圧が第2のクランプ用ダイオード(D2)の順方向降下電圧でクランプされ、信号伝達用1次巻線にマイナス方向の電圧が生じることによる誤動作が防止できる。
【0026】
(3)信号伝達用1次側巻線(B)とパルス信号発生回路(21)のグランドとの間に容量負荷(C1)が設けられていることにより、信号伝達用2次側巻線(D)にはパルス信号発生回路21が発生するパルス信号の微分波形電圧が発生する。そして、第3のクランプ用ダイオード(D3)は、パルス信号発生回路(21)のグランドと信号伝達用1次側巻線(B)との間で主スイッチ素子(Q1)の駆動電圧の立ち下がり電圧を導通させるので、主スイッチ素子(Q1)の駆動電圧の立ち下がり信号を伝達させる場合にもノイズを低減することができる。
【0027】
(4)主スイッチ素子(Q1)をMOSFETとし、MOSFETのソースをグランドに接続し、ゲートを第1のクランプ用ダイオード(D1)と信号伝達用1次側巻線(B)との接続部に接続することによって、MOSFETのゲート・ソース間の寄生容量が利用でき、前記信号伝達用1次側巻線(B)とパルス信号発生回路(21)のグランドとの間の容量負荷が不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
《第1の実施形態》
第1の実施形態に係る絶縁型DC−DCコンバータの構成および動作について図6〜図8を参照して説明する。
図6は第1の実施形態に係る絶縁型DC−DCコンバータの回路図である。図6において、トランスT1は電力伝達用トランス、トランスT2は信号伝達用トランスである。電力伝達用トランスT1の巻線A(この発明に係る電力伝達用1次側巻線)には直列に主スイッチ素子Q1を接続し、この直列回路を入力端子+Vin・−Vinの間に接続している。電力伝達用トランスT1の巻線C(この発明に係る電力伝達用2次側巻線)には整流スイッチ素子Q2、転流スイッチ素子Q3、チョークコイルL1およびコンデンサC2からなる同期整流回路を接続している。ここで、整流スイッチ素子Q2および転流スイッチ素子Q3が同期整流器である。同期整流器駆動回路23は整流スイッチ素子Q2および転流スイッチ素子Q3をオン・オフ制御する。信号伝達用トランスT2の巻線B(この発明に係る信号伝達用1次側巻線)には、主スイッチ素子Q1のゲートおよび信号伝達用トランスT2の巻線Bに対して与えるパルス信号を発生するパルス信号発生回路21を設けている。また、この巻線BにはコンデンサC1を直列に接続して、Q1へ与えられるパルス信号の微分信号を供給するように構成している。さらに巻線Bには第2のクランプ用ダイオードD2を並列に接続して、信号伝達用トランスT2の巻線D(この発明に係る信号伝達用2次側巻線)にQ1の立ち上がりタイミングのパルス信号のみが発生するように構成している。
【0029】
信号伝達用トランスT2の巻線Dにはパルス信号再生回路22を接続している。このパルス信号再生回路22は信号伝達用トランスT2の巻線Dの起電圧を入力してパルス信号発生回路21の立ち上がりタイミングの信号を同期整流器駆動回路23へ与える。
【0030】
図4に示した従来の絶縁型DC−DCコンバータの回路と異なり、パルス信号発生回路21の電源端(VDD)と巻線Bとの間に第1のクランプ用ダイオードD1を接続している。主スイッチ素子Q1のゲートに対する駆動電圧の電圧および巻線Bへの印加電圧はパルス信号発生回路21の電源端VDDへの電源電圧Vddに等しい。
【0031】
図7はこの第1の実施形態に係る絶縁型DC−DCコンバータで用いるトランスの構成および回路の主要部との関係を示す図である。
【0032】
図7(A)に示す例では、トランスTの第1副脚部6aの断面積Sxより第2副脚部6cの断面積Syが大きくなる関係としている。主脚部6bの巻線Aに接続している電源Eは図4に示した入力端子+Vin・−vinに接続される電源である。
【0033】
この構成により、巻線Aが発生する磁束により巻線Bに発生する電圧の極性が、パルス信号発生回路21により主スイッチ素子Q1の駆動電圧が印加された時に巻線Bへ出力される電圧と同極性となる。
【0034】
図7(B)に示す例では、第1副脚部6aに対する巻線の巻回数Nxが第2副脚部6cに対する巻線の巻回数Nyより少なくしている。この場合にも巻線Aが発生する磁束により巻線Bに発生する電圧の極性が、パルス信号発生回路21により主スイッチ素子Q1の駆動電圧が印加された時に巻線Bへ出力される電圧と同極性となる。
【0035】
図8は図6・図7に示した回路各部の電圧波形図である。(a)はパルス信号発生回路21の出力信号、(b)は巻線Aの両端電圧、(c)は巻線Bの両端電圧、(d)は巻線Dの電圧である。
【0036】
このように巻線Bの電圧には巻線Aが発生する磁束によるノイズ成分が重畳される。ただし正方向の電圧は、回路図中P1の電位がVdd+D1Vf(ダイオードD1の順方向降下電圧)を超えようとするときにダイオードD1が導通するので、その電圧を超えることはない。すなわちダイオードD1によってP1の電位はVdd+D1Vfにクランプされる。
【0037】
一方マイナス方向は、P1点の電位がダイオードD2の順方向降下電圧D2Vfより下がることはない。すなわちダイオードD2によってD2Vfにクランプされる。
【0038】
したがってこのような巻線Bの電圧が信号伝達用トランスT2に印加されることにより、巻線Dには図8の(d)に示すように巻線Bの微分電圧信号が発生する。この時に生じるノイズ電圧は前記ダイオードD1,D2によりクランプされた電圧を超えることはない。
【0039】
図6に示したパルス信号再生回路22は、パルス信号発生回路21が発生するパルス信号を正常に再生して、同期整流器駆動回路23は整流スイッチ素子Q2および転流スイッチ素子Q3を正しく駆動することができる。
【0040】
《第2の実施形態》
第2の実施形態に係る絶縁型DC−DCコンバータについて図9〜図11を参照して説明する。
図9は第2の実施形態に係る絶縁型DC−DCコンバータの回路図である。この例では、第1の実施形態として示した図6のダイオードD2を取り除き、ダイオードD1のアノード(巻線Bとの接続点)とパルス信号発生回路21のグランドGNDとの間にダイオードD3を設けている。
【0041】
図6に示した例では巻線Bに対して並列にダイオードD2を接続することによって、パルス信号発生回路21から出力されるパルス信号の負電圧がダイオードD2に対して順方向に掛かって巻線Bに印加されないように構成して、巻線Dの出力にマイナス方向のパルス信号が発生しないようにしたが、この第2の実施形態ではパルス信号発生回路21の出力信号の立ち下がりタイミング(主スイッチ素子Q1のターンオフタイミング)も2次側で利用するために上記ダイオードD2を取り除いている。
【0042】
図10はこの第2の実施形態に係る絶縁型DC−DCコンバータで用いるトランスの構成および回路の主要部との関係を示す図である。
【0043】
図10(A)に示す例では、トランスTの第1副脚部6aの断面積Sxより第2副脚部6cの断面積Syが大きくなる関係としている。主脚部6bの巻線Aに接続している電源Eは図4に示した入力端子+Vin・−vinに接続される電源である。
【0044】
この構成により、巻線Aが発生する磁束により巻線Bに発生する電圧の極性が、パルス信号発生回路21により主スイッチ素子Q1の駆動電圧が印加された時に巻線Bへ出力される電圧と同極性となる。
【0045】
図10(B)に示す例では、第1副脚部6aに対する巻線の巻回数Nxが第2副脚部6cに対する巻線の巻回数Nyより小さくしている。この場合にも巻線Aが発生する磁束により巻線Bに発生する電圧の極性が、パルス信号発生回路21により主スイッチ素子Q1の駆動電圧が印加された時に巻線Bへ出力される電圧と同極性となる。
【0046】
図11は図9・図10に示した回路各部の電圧波形図である。(a)はパルス信号発生回路21の出力信号、(b)は巻線Aの両端電圧、(c)は巻線Bの両端電圧、(d)は巻線Dの電圧である。
【0047】
パルス信号発生回路21の出力電圧が正の期間では第1の実施形態の場合と同様に、巻線Bの電圧には巻線Aが発生する磁束によるノイズ成分が重畳される。ただし正方向の電圧は、回路図中P1の電位がVdd+D1Vf(ダイオードD1の順方向降下電圧)を超えようとするときにダイオードD1が導通するので、その電圧を超えることはない。すなわちダイオードD1によってP1の電位はVdd+D1Vfにクランプされる。
【0048】
パルス信号発生回路21の出力電圧が0の時、巻線Bの両端電圧(P0に対するP1の電位)はマイナスとなるが、パルス信号発生回路21の出力端OUTがグランド電位となって、巻線Bのマイナス方向の印加電圧はダイオードD3の順方向降下電圧D3Vfよりマイナス側に大きくなることはない。すなわちダイオードD3によってクランプされる。
【0049】
そのため巻線Dの電圧は図11の(d)に示すように巻線Bの微分電圧信号が発生する。但し、パルス信号発生回路21の発生する出力電圧の立ち上がりタイミングと立ち下がりタイミング以外の期間での電圧レベルはダイオードD1,D3によりクランプされたノイズ電圧レベルとなる。
【0050】
これによりパルス信号再生回路22は誤動作することなく、パルス信号発生回路21が出力する信号を再生し、同期整流器駆動回路23は主スイッチ素子Q1のオン・オフに同期して整流スイッチ素子Q2および転流スイッチ素子Q3をスイッチングすることができる。
【0051】
《第3の実施形態》
図12は第3の実施形態に係る絶縁型DC−DCコンバータの回路図である。
第2の実施形態として図9に示した回路と異なるのは、コンデンサC1を備えていない点と、ダイオードD1,D3の接続関係である。すなわち、図12に示す例では、主スイッチ素子Q1のソースをグランドに接続し、ゲートを第1のクランプ用ダイオードD1と巻線Bとの接続部に接続している。また第3のクランプ用ダイオードD3を図9の場合と同様にダイオードD1と巻線Bとの接続部とグランドGNDとの間に設けている。
【0052】
このような構成により、主スイッチ素子Q1のゲート・ソース間の寄生容量がちょうど図9においてC1で示したコンデンサと同様に作用する。したがって個別部品としてのコンデンサC1を用いることなく第2の実施形態で示した回路と同様の作用効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】特許文献1に示されているトランスの構成を示す図である。
【図2】同トランスの多層基板の各層パターンを示す図である。
【図3】同トランスの電力伝達用巻線および信号伝達用巻線による磁束の関係を示す図である。
【図4】特許文献1に示されているトランスを用いた絶縁型DC−DCコンバータの回路例を示す図である。
【図5】同回路各部の電圧波形図である。
【図6】第1の実施形態に係る絶縁型DC−DCコンバータの回路図である。
【図7】同絶縁型DC−DCコンバータで用いるトランスおよび回路主要部の関係を示す図である。
【図8】図6各部の電圧波形図である。
【図9】第2の実施形態に係る絶縁型DC−DCコンバータの回路図である。
【図10】同絶縁型DC−DCコンバータで用いるトランスおよび回路主要部の関係を示す図である。
【図11】図9各部の電圧波形図である。
【図12】第3の実施形態に係る絶縁型DC−DCコンバータの回路図である。
【符号の説明】
【0054】
6a−第1副脚部
6b−主脚部
6c−第2副脚部
21−パルス信号発生回路
22,24−パルス信号再生回路
23−同期整流器駆動回路
Q1−主スイッチ素子
Q2−整流スイッチ素子
Q3−転流スイッチ素子
L1−チョークコイル
T−トランス
T1−電力伝達用トランス
T2−信号伝達用トランス
D1−第1のクランプ用ダイオード
D2−第2のクランプ用ダイオード
D3−第3のクランプ用ダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアとこのコアに結合する電力伝達用巻線および信号伝達用巻線を備え、前記電力伝達用巻線が前記コアの主脚部に結合する電力伝達用1次側巻線および電力伝達用2次側巻線からなり、前記信号伝達用巻線が前記コアの少なくとも2つの副脚部に結合して、前記電力伝達用巻線が発生する磁束を受けて発生する起電力を打ち消すようにそれぞれ結線した信号伝達用1次側巻線および信号伝達用2次側巻線からなるトランスと、
前記電力伝達用1次側巻線に直列に接続した主スイッチ素子と、
前記主スイッチ素子をパルス信号で制御するとともに前記信号伝達用1次側巻線に前記主スイッチ素子の駆動電圧の立ち上がり信号を印加するパルス信号発生回路と、
前記トランスの電力伝達用2次側巻線に接続され、前記主スイッチ素子のオン・オフに同期して整流する同期整流器と、
前記信号伝達用2次側巻線の出力信号によって前記同期整流器を駆動する同期整流器駆動回路と、
前記電力伝達用巻線が発生する磁束により前記信号伝達用1次側巻線に発生する電圧の極性が、前記パルス信号発生回路により前記主スイッチ素子の駆動電圧が印加されたときの前記信号伝達用1次側巻線への出力電圧の極性と同じになるように、前記信号伝達用巻線が結合する前記少なくとも2つの副脚部の断面積を異ならせ、または前記信号伝達用巻線が結合する前記少なくとも2つの副脚部に対する巻線の巻回数を異ならせ、
前記信号伝達用1次側巻線に入力する前記主スイッチ素子に対する駆動電圧を供給する前記パルス信号発生回路の電源端と前記信号伝達用1次側巻線との間に逆バイアス方向に第1のクランプ用ダイオードを接続したことを特徴とする絶縁型DC−DCコンバータ。
【請求項2】
両端が前記信号伝達用1次側巻線の両端に接続され、カソードが前記パルス信号発生回路の出力端に接続された第2のクランプ用ダイオードを設けたことを特徴とする請求項1に記載の絶縁型DC−DCコンバータ。
【請求項3】
前記信号伝達用1次側巻線と前記パルス信号発生回路のグランドとの間に容量負荷を設け、前記パルス信号発生回路のグランドと前記信号伝達用1次側巻線との間に、前記主スイッチ素子の駆動電圧の立ち下がり信号を導通させる第3のクランプ用ダイオードを設けたことを特徴とする請求項1に記載の絶縁型DC−DCコンバータ。
【請求項4】
前記主スイッチ素子はMOS−FETであり、該MOS−FETのソースを前記グランドに接続し、ゲートを前記第1のクランプ用ダイオードと前記信号伝達用1次側巻線との接続部に接続し、前記パルス信号発生回路のグランドと前記信号伝達用1次側巻線との間に、前記主スイッチ素子の駆動電圧の立ち下がり信号を導通させる第3のクランプ用ダイオードを設けたことを特徴とする請求項1に記載の絶縁型DC−DCコンバータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−178170(P2008−178170A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−7359(P2007−7359)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】